JP5694866B2 - 超電導線材 - Google Patents

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Description

本発明は、超電導線材に関する。
近年になって発見されたRE−123系酸化物超電導体(REBaCu7−X:REは希土類元素)は、液体窒素温度以上で超電導性を示すことから実用上極めて有望な素材とされており、これを線材に加工して電力供給用の導体として用いることが強く要望されている。中でも、Y系酸化物超電導体(YBaCu7−X)やGd系酸化物超電導体(GdBaCu7−X)を用いた超電導線材は、外部磁界に対して強く、強磁界内でも高い電流密度を維持することができるため、超電導コイル用導体としての利用、あるいは電力供給用ケーブルとしての利用の他、超電導線材への通電時に発生するおそれのある故障電流の遮断を目的とした超電導限流器用の導体としての研究開発も進められている。
この種のRE−123系酸化物超電導線材の一構造例として、図7に示す如くテープ状の金属基材101上に、IBAD(Ion-Beam-Assisted Deposition;イオンビームアシスト蒸着)法によって成膜された中間層102と、その上に成膜されたキャップ層103と、酸化物超電導層104とを積層形成した超電導線材100が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
前記構造においてキャップ層103の結晶面内配向性が高い方が、更にその上に成膜される酸化物超電導層104も高い結晶配向性となり、この酸化物超電導層104の結晶面内配向性が高くなる程、臨界電流値等の超電導特性が優れた超電導線材100を得ることができる。
IBAD法は、スパッタリング法によりターゲットから叩き出した構成粒子を基材上に堆積させる際に、イオンガンから発生された希ガスイオンと酸素イオンとの混合イオンを同時に斜め方向(例えば45度)から照射しながら堆積させるもので、この方法によれば、基材上に厚さ数〜数十nmという薄膜の中間層102を良好な結晶配向性で形成することができる。
図7に示す構造の超電導線材100において、中間層102及びキャップ層103は、酸化物超電導層104の結晶配向性を整え、成膜時の加熱処理に伴う元素の不要拡散を抑制するとともに、金属基材101と酸化物超電導層104の中間の膨張係数を有して熱ストレスを緩和するなどの複合的な効果を得るための層であって、これらの層を順序に積層することで始めて単結晶に近い結晶配向性であって、超電導特性の優れた酸化物超電導層104を得ることができる。
特開2004−71359号公報
上述のように金属基材上に中間層やキャップ層を介して酸化物超電導層が積層された超電導線材は、線材の製造工程や超電導コイルへの加工工程などにおいて、線材に対して応力や衝撃が負荷された場合に、酸化物超電導層がその下のキャップ層から剥離する場合がある。酸化物超電導層に剥離が生じると、線材の幅方向全体に亘って剥離が伝搬しやすい傾向がある。
本発明は、以上のような従来の実情に鑑みなされたものであり、超電導層に部分的に剥離が発生した場合であっても、剥離が超電導層全体に伝搬することを抑制できる超電導線材を提供することを目的とする。
上記課題を解決するため、本発明の超電導線材は、基材と、該基材の上方に設けられた中間層と、該中間層の上方に設けられた酸化物超電導層と、を備えて超電導積層体が構成され、該超電導積層体の前記酸化物超電導層の表面側または前記基材側から、少なくとも前記酸化物超電導層とその下の層との界面まで貫通するように該超電導積層体の幅方向および長さ方向に分散形成された複数の貫通孔と、前記酸化物超電導層とその下の層との界面における前記貫通孔の近傍に、酸素雰囲気で800〜900℃で加熱処理を行うことにより形成された界面反応部と、を備えることを特徴とする。
本発明の超電導線材は、酸化物超電導層とキャップ層との界面に界面反応部が形成されている。このような界面反応部を備えることにより、酸化物超電導層はキャップ層に局所的にピン止めされ、所謂アンカー効果により、酸化物超電導層がキャップ層から剥離しにくくなる。従って、本発明の超電導線材は、万が一酸化物超電導層の剥離が部分的に発生した場合であっても、上述した界面反応部によるアンカー効果により、酸化物超電導層全体に剥離が伝搬することを抑制できる。
本発明の超電導線材において、前記酸化物超電導層が、前記中間層の上に設けられたキャップ層上に設けられており、前記界面反応部が、前記酸化物超電導層を構成する元素と前記キャップ層を構成する元素の反応物よりなることが好ましい。
この場合、前記酸化物超電導層が、REBaCu(式中、REは希土類元素を表し、6.5<y<7.1を満たす。)の組成式で表される酸化物超電導体からなり、前記キャップ層がCeOからなり、前記界面反応部がBaCeOを含むことがより好ましい。
本発明の超電導線材において、前記貫通孔の内部が充填材により充填されていることもできる。
この場合、貫通溝に充填材が充填されて貫通部が構成されることにより、貫通部を介して酸化物超電導層に水分が浸入することを抑制でき、水分により酸化物超電導層が劣化し難いので、良好な特性の超電導線材となる。
本発明によれば、仮に超電導層に剥離が部分的に発生した場合にも、剥離が超電導層全体に伝搬することを抑制できる超電導線材を提供できる。
本発明に係る超電導線材の第1実施形態を示す概略斜視図である。 図1に示す超電導線材の部分拡大断面図である。 図1に示す超電導線材の積層構造を示す概略構成図である。 図1に示す超電導線材の製造方法の一実施形態を示す工程説明図である。 本発明に係る超電導線材の第2実施形態を示す部分拡大断面図である。 図5に示す超電導線材の製造方法の一実施形態を示す工程説明図である。 従来の超電導線材の一構造例を示す概略構成図である。
以下、本発明に係る超電導線材およびその製造方法の実施形態について図面に基づいて説明する。なお、図1〜図6において、超電導線材の構成がわかりやすくなるように一部の構成要素を大きく示しており、各構成要素の寸法関係は実際の超電導線材の寸法関係とは異なっている。
[第1実施形態]
図1は本発明に係る超電導線材の第1実施形態の概略斜視図であり、図2は図1に示す超電導線材の部分拡大断面図であり、図3は図1に示す超電導線材の積層構造を示す概略構成図である。
図1〜図3に示す超電導線材10は、テープ状の基材11の一方の面上に中間層15とキャップ層16と酸化物超電導層17と安定化層18が順次積層されて超電導積層体S2が構成され、この超電導積層体S2の酸化物超電導層17の上面A側から酸化物超電導層17とキャップ層16との界面Aを貫通してキャップ層16の上部まで貫通する複数の貫通孔5を備えてなる。貫通孔5は超電導積層体S2の幅方向および長さ方向に分散形成されており、貫通孔5の内部には安定化層18と同じ材質の充填材6が充填されて、貫通部8を成している。キャップ層16と酸化物超電導層17との界面Aにおける貫通孔5の近傍(周囲)には界面反応部7が形成されており、この界面反応部7は図1に示す如く超電導積層体S2の幅方向および長さ方向に複数個、ランダムに形成されている。
超電導線材10は、より詳細には図3に示す如く、基材11の上面側に、拡散防止層とベッド層の少なくとも一方を備えた下地層12と、結晶を2軸配向制御した配向層13とを備えてなる中間層15が積層され、この中間層15の上にキャップ層16が積層され、さらに、その上に酸化物超電導層17と安定化層18を積層して構成されている。なお、下地層12は必須の構成要素ではなく、場合によっては略しても良い。
基材11は、通常の超電導線材の基材として使用し得るものであれば良く、長尺のプレート状、シート状又はテープ状であることが好ましく、耐熱性の金属からなるものが好ましい。耐熱性の金属の中でも、合金が好ましく、ニッケル合金又は銅合金がより好ましい。中でも、市販品であればハステロイ(商品名、米国ヘインズ社製)が好適であり、モリブデン、クロム、鉄、コバルト等の成分量が異なる、ハステロイB、C、G、N、W等のいずれの種類も使用できる。また、基材11としてニッケル合金などに集合組織を導入した配向Ni−W基板のような配向金属基板を用いてもよい。
基材11の厚さは、目的に応じて適宜調整すれば良く、通常は、10〜500μmの範囲とすることができる。
下地層12は、通常は拡散防止層とベッド層の複層構造とされるが、どちらか一方からなる層構造でも良く、更に、以下に説明する拡散防止層やベッド層の構成材料を組み合わせた3層以上の複層構造であっても良い。
拡散防止層は、基材11の構成元素拡散を防止する目的で形成されたもので、窒化ケイ素(Si)、酸化アルミニウム(Al、「アルミナ」とも呼ぶ)、あるいは、GZO(GdZr)等から構成され、例えばスパッタリング法等の成膜法により形成され、その厚さは例えば10〜400nmである。
ベッド層は、耐熱性が高く、界面反応性を低減するためのものであり、その上に配される膜の配向性を得るために用いる。このようなベッド層は、例えば、イットリア(Y)などの希土類酸化物であり、組成式(α2x(β(1−x)で示されるものが例示できる。より具体的には、Er、CeO、Dy3、Er、Eu、Ho、La等を例示することができる。このベッド層12は、例えばスパッタリング法等の成膜法により形成され、その厚さは例えば10〜100nmである。
配向層13は、単層構造あるいは複層構造のいずれでも良く、その上に積層されるキャップ層16の結晶配向性を制御するために2軸配向する物質から選択される。配向層13の好ましい材質として具体的には、GdZr、MgO、ZrO−Y(YSZ)、SrTiO、CeO、Y、Al、Gd、Zr、Ho、Nd等の金属酸化物を例示することができる。
この配向層13をIBAD(Ion-Beam-Assisted Deposition)法により良好な結晶配向性(例えば結晶配向度15゜以下)で成膜するならば、その上に形成するキャップ層16の結晶配向性を良好な値(例えば結晶配向度5゜前後)とすることができ、これによりキャップ層16の上に成膜する酸化物超電導層17の結晶配向性を良好なものとして優れた超電導特性を発揮できる酸化物超電導層17を得ることができる。
例えば、GdZr、MgO又はZrO−Y(YSZ)からなる配向層13は、IBAD法における結晶配向度を表す指標であるΔφ(FWHM:半値全幅)の値を小さくできるため、特に好適である。
下地層12と配向層13から構成される中間層15の厚さは、目的に応じて適宜調整すれば良いが、通常は、0.1〜5μmである。
キャップ層16は、上述のように面内結晶軸が配向した配向層13の表面に成膜されることによってエピタキシャル成長し、その後、横方向に粒成長して、結晶粒が面内方向に自己配向し得る材料であれば特に限定されないが、好ましいものとして具体的には、CeO、ZrO、HfO、Y、Al、Gd、Ho、Nd、LaMnO等が例示できる。キャップ層16の材質がCeOである場合、キャップ層16は、Ceの一部が他の金属原子又は金属イオンで置換されたCe−M−O系酸化物を含んでいても良い。
例えばCeOによって構成されるキャップ層16は、上述のように自己配向していることにより、配向層13よりも更に高い面内配向度、例えばΔφ=4〜6゜程度を得ることができる。
キャップ層16は、PLD法(パルスレーザ蒸着法)、スパッタリング法等で成膜することができ、大きな成膜速度を得られる点でPLD法を用いることが好ましい。キャップ層16の膜厚は、十分な配向性を得るには100nm以上が好ましいが、厚すぎると結晶配向性が悪くなるので、50〜5000nmの範囲とすることができる。
酸化物超電導層17は通常知られている組成の酸化物超電導体からなるものを広く適用することができ、REBaCu(RE123系の酸化物超電導体;REはY、La、Nd、Sm、Er、Gd等の希土類元素を表し、6.5<y<7.1を満たす。)なる材質のもの、具体的には、Y123(YBaCu)又はGd123(GdBaCu)を例示することができる。
酸化物超電導層17は、スパッタ法、真空蒸着法、レーザ蒸着法、電子ビーム蒸着法等の物理的蒸着法;化学気相成長法(CVD法);塗布熱分解法(MOD法)等で積層でき、なかでもレーザ蒸着法が好ましい。
酸化物超電導層17の厚みは、0.5〜5μm程度であって、均一な厚みであることが好ましい。
酸化物超電導層17の上に積層される安定化層18は、酸化物超電導層17の一部領域が常電導状態に遷移しようとした場合に、電流のバイパス路として機能することで、酸化物超電導層17を安定化させて焼損に至らないようにする、主たる構成要素である。
安定化層18は、導電性が良好な金属からなるものが好ましく、具体的には、銀又は銀合金、銅などからなるものが例示できる。安定化層18は1層構造でも良いし、2層以上の積層構造であってもよい。
安定化層18は、公知の方法で積層できる。安定化層18が1層構造の場合は、銀層をメッキやスパッタ法で形成する方法が挙げられる。また、安定化層18が2層構造の場合は、銀層をメッキやスパッタ法で形成し、その上に銅テープなどを貼り合わせるなどの方法を採用できる。安定化層18の厚さは、3〜300μmの範囲とすることができる。
図1〜図3に示す超電導線材10は、安定化層18が銀層の1層構造の場合の例を示している。
貫通孔5および貫通部8は、図2および図3に示すように酸化物超電導層17の表面17Aから酸化物超電導層17とキャップ層16との界面Aを貫通してキャップ層16の上部まで達している。貫通部8は、その上の安定化層18と一体形成されており、貫通孔5の内部に、Agなどの安定化層14と同一の材質が充填材6として充填されている。貫通孔5にAgなどの充填材6が充填されて貫通部8が構成されることにより、貫通孔5を介して酸化物超電導層17に水分が浸入することを抑制でき、水分により酸化物超電導層17が劣化し難いので、良好な特性の超電導線材10となる。なお、図2に示す例では、安定化層18と同一の材質が充填材6として貫通孔5に充填されている例を示しているが、本発明はこの例に限定されず、貫通孔5に安定化層14とは異なる材質の充填材6が充填されて貫通部8が構成されていてもよい。
充填材6としては、貫通孔5を埋めることができるものであれば特に制限されず、導電性および非導電性のものを適用できる。充填材6として、具体的には、エポキシ樹脂、銀ペースト、カーボンペースト等が挙げられる。
貫通孔5および貫通部8の寸法は、貫通孔5および貫通部8の底部が酸化物超電導層17とキャップ層16との界面Aまで達していれば特に限定されず、適宜調整可能であるが、貫通孔5および貫通部8が大き過ぎると酸化物超電導層17の体積が減少して超電導特性が低下するため、貫通孔5および貫通部8の外径を5μm〜800μmとすることが好ましい。貫通孔5および貫通部8の外径が5μm未満の場合は、レーザなどによる加工が難しくなる。また、貫通孔5および貫通部8は、隣接する貫通孔5および貫通部8同士の距離が当該貫通孔5および貫通部8の外径以上となるような密度で形成されていることが好ましい。このような寸法および密度で貫通孔5および貫通部8を備えることにより、後述する界面反応部7を好適な寸法および密度で形成することができ、良好な超電導特性を保持しつつ、仮に酸化物超電導層17の剥離が部分的に生じた場合であっても、酸化物超電導層17全体への剥離の伝搬を抑制できる。
酸化物超電導層17とキャップ層16との界面Aにおいて、貫通孔5および貫通部8の近傍(周囲)には、界面反応部7が形成されている。界面反応部7は、酸化物超電導層17を構成する元素とキャップ層16を構成する元素の反応物よりなり、後述の如く、貫通孔5が形成された超電導積層体S1をアニール処理(加熱処理)することにより、貫通孔5により直接処理雰囲気に曝されながら加熱されて、貫通孔5付近の界面Aに、貫通孔5を取り囲むように形成される。
本実施形態の超電導線材10は、酸化物超電導層17とキャップ層16との界面Aに、複数個、ランダムに界面反応部7が形成されている。このような界面反応部7を備えることにより、酸化物超電導層17はキャップ層16に局所的にピン止めされ、所謂アンカー効果により、酸化物超電導層17がキャップ層16から剥離しにくくなる。従って、本実施形態の超電導線材10は、万が一酸化物超電導層17の剥離が部分的に発生した場合であっても、上述した界面反応部7によるアンカー効果により、酸化物超電導層17全体に剥離が伝搬することを抑制できる。
なお、通常、酸化物超電導層17の剥離は、超電導線材10の端部側から発生する場合が多い。そのため、貫通孔5および界面反応部7を超電導線材10の幅方向中央部よりも幅方向端部側に多く形成しておくことにより、超電導線材10の端部で発生した剥離を端部側に形成した界面反応部7でせき止め、中央部側へと剥離が伝搬することを抑制でき、好ましい。
界面反応部7は、具体的には、REBaCu(RE123系の酸化物超電導体;REはY、La、Nd、Sm、Er、Gd等の希土類元素を表し、6.5<y<7.1を満たす。)の組成式で表される酸化物超電導体からなる酸化物超電導層17を構成する元素と、CeO、ZrO、HfO、Y、Al、Gd、Ho、Nd、LaMnO等からなるキャップ層16を構成する元素の反応物よりなる。
より詳細には、例えば、キャップ層16がCeOよりなる場合、界面反応部7はBaCeOを含む。また、キャップ層16がZrOよりなる場合の界面反応部7はBaZrOを含み、キャップ層16がHfOよりなる場合の界面反応部7はBaHfOを含む。中でも、高い面内配向度のキャップ層16となり、その上に積層される酸化物超電導層17の結晶配向性が高くなるため、キャップ層16がCeOで、界面反応部7がBaCeOを含んでなることが特に好ましい。
界面反応部7は、界面Aにおける貫通孔5の周囲に形成されており、その寸法は貫通孔5の寸法により異なるが、貫通孔5の外径よりも10〜800nm程度大きな略円形または楕円形の外形を有する。界面反応部7が大き過ぎると酸化物超電導層17の体積が減少して超電導特性が低下するため、界面反応部7の外径を5〜800μm、厚さを10〜100nmの範囲とし、酸化物超電導層17の体積当り0.1〜20%の密度で界面反応部7が形成されていることが好ましい。このような寸法および密度で界面反応部7を備えることにより、良好な超電導特性を保持しつつ、酸化物超電導層17とキャップ層16との界面Aにおけるアンカー効果を発現させて、万が一酸化物超電導層17の剥離が部分的に生じた場合であっても、酸化物超電導層17全体への剥離の伝搬を抑制できる。
なお、界面反応部7の外形は、円形状、楕円形状に限定されず、貫通孔5の形状を調整することにより適宜変更可能である。
次に、本発明に係る超電導線材10の製造方法の一実施形態について図面に基づいて説明する。
図4は、図1〜図3に示す超電導線材10の製造方法の一実施形態を示す工程説明図である。
まず、第1工程では、図4(a)に示す如く、基材11の一方の面上に中間層15とキャップ層16と酸化物超電導層17とを順次積層した超電導積層体S1を準備する。一例として、基材11上にスパッタ法で拡散防止層とベッド層を形成した後、このベッド層の上にIBAD法によりMgO等の金属酸化物層を積層して中間層15を形成し、さらにPLD法でキャップ層16を形成し、次いで、キャップ層16の上にPLD法によりRE123系の酸化物超電導層17を形成することにより超電導積層体S1を得ることができる。
次に、第2工程では、図4(b)に示す如く、超電導積層体S1の酸化物超電導層17の表面17Aから酸化物超電導層17を貫通してキャップ層16の上部まで達する複数の貫通孔5を形成する。貫通孔5は、従来公知の方法により形成すればよく、レーザ加工、間欠式スリット加工、突起付きロールを酸化物超電導層17側から押し付けることによる加工などにより形成することができる。本工程により形成する貫通孔5の寸法および密度は前述の通りである。
次いで、第3工程では、図4(c)に示す如く、貫通孔5を形成した超電導積層体S1をアニール処理(加熱処理)して、酸化物超電導層17とキャップ層16の界面Aにおいて、貫通孔5の近傍(周囲)に位置する酸化物超電導層17とキャップ層16とを反応させて界面反応部7を形成する。
第3工程におけるアニール処理は、酸素雰囲気下で、800〜900℃、1〜10分間の条件で行うことが好ましい。このような条件でアニール処理を行うことにより、アニール処理の熱により酸化物超電導層17が劣化することを抑制し、また、形成される界面反応部7が大きくなり過ぎることを防止できる。なお、第2工程においてレーザ加工により貫通孔5を形成する場合は、レーザのエネルギーで貫通孔5の周囲に位置する酸化物超電導層17とキャップ層16とが反応して、第3工程のアニール処理により形成される界面反応部7と同等の反応物が形成される場合もある。その場合は第3工程のアニール処理を行わなくてもよい。
次に、第4工程では、図4(d)に示す如く、貫通孔5および界面反応部7が形成された超電導積層体S1に対して、酸化物超電導層17および貫通孔5の上に、スパッタ法などの成膜法によりAgなどの安定化層18を形成する。安定化層18形成時、Agなどのスパッタ粒子は貫通溝5の内部にも堆積し、これにより、貫通孔5の内部にAgなどの安定化層18と同一の材質が充填材6として充填されて貫通部8が形成される。
以上の工程により、本実施形態の超電導線材10を製造できる。
なお、図4(d)に示す如く安定化層18を形成した後に、安定化層18の上にCuの金属テープを半田を介して積層してもよい。また、図4(c)に示す超電導積層体S1の貫通孔7を充填材6で充填して貫通部8を形成した後、酸化物超電導層17と貫通部8の上に、安定化層18を形成してもよい。
本実施形態の超電導線材の製造方法によれば、酸化物超電導層17の表面17A側から酸化物超電導層17とキャップ層16との界面Aに達する貫通孔5と、酸化物超電導層17とキャップ層16の界面Aにおける貫通孔5の近傍に形成された界面反応部7を備えた超電導線材10を製造できる。本実施形態の超電導線材の製造方法により製造される超電導線材10は、酸化物超電導層17とキャップ層16との界面Aに複数個、ランダムに形成された界面反応部7を備える構成であるため、万が一酸化物超電導層17で剥離が部分的に発生した場合であっても、この界面反応部7によるアンカー効果により、酸化物超電導層17全体に剥離が伝搬することを抑制できる。
本実施形態の超電導線材の製造方法において、貫通孔5を充填材6で充填して貫通部8を形成することにより、貫通孔5から酸化物超電導層17へと水分が浸入することを抑制できるので、良好な超電導特性の超電導線材10を提供できる。
[第2実施形態]
図5は本発明に係る超電導線材の第2実施形態の部分拡大断面図であり、図6は図5に示す超電導線材20の製造方法の一実施形態を示す工程説明図である。
なお、図5および図6において、上記第1実施形態の超電導線材10と同一の構成要素には同一の符号を付し、同一要素の説明は省略する。
図5に示す超電導線材20は、テープ状の基材11の一方の面上に中間層15とキャップ層16と酸化物超電導層17と安定化層18が順次積層されて超電導積層体S2が構成され、この超電導積層体S2の基材11の裏面11A側から基材11と中間層15とキャップ層16を貫通して酸化物超電導層17の下部まで貫通する複数の貫通孔5Bを備えてなる。貫通孔5Bは超電導積層体S2の幅方向および長さ方向に分散形成されており、貫通孔5Bの内部には充填材6Bが充填されて、貫通部8Bを成している。キャップ層16と酸化物超電導層17との界面Aにおける貫通孔5Bの近傍には界面反応部7Bが形成されており、この界面反応部7Bは図1に示す上記第1実施形態の超電導線材10と同様に、超電導線材20の幅方向および長さ方向に複数個、ランダムに形成されている。
貫通孔5Bおよび貫通部8Bの寸法および密度は、その上端が酸化物超電導層17とキャップ層16との界面Aまで達していれば特に限定されず適宜調整可能であるが、貫通孔5Bおよび貫通部8Bが大き過ぎると酸化物超電導層17の体積が減少して超電導特性が低下するため、上記第1実施形態の超電導線材10の貫通孔5Bおよび貫通部8Bと同様とすることが好ましい。
貫通孔5Bに充填される充填材6Bも、特に限定されず、導電性または非導電性の充填材を適用でき、具体的には、上記第1実施形態の超電導線材10における貫通孔5の充填材6と同様の材質が挙げられる。
界面反応部7Bは、酸化物超電導層17とキャップ層16との界面Aにおいて、貫通孔5Bおよび貫通部8Bの近傍(周囲)に形成されている。界面反応部7Bは、上記第1実施形態の超電導線材10の界面反応部7と同様、酸化物超電導層17を構成する元素とキャップ層16を構成する元素の反応物よりなり、後述の如く、貫通孔5Bが形成された超電導積層体S1をアニール処理(加熱処理)することにより、貫通孔5Bにより直接処理雰囲気に曝されながら加熱されて、貫通孔5B付近の界面Aに、貫通孔5Bを取り囲むように形成される。
本実施形態の超電導線材20における界面反応部7Bを構成する材料は、上記第1実施形態の超電導線材10における界面反応部7と同様である。
また、本実施形態の超電導線材20における界面反応部7Bの形状、寸法および密度も、上記第1実施形態の超電導線材10における界面反応部7と同様である。
本実施形態の超電導線材20は、酸化物超電導層17とキャップ層16との界面Aに、複数個、ランダムに界面反応部7Bが形成されている。このような界面反応部7Bを備えることにより、酸化物超電導層17はキャップ層16に局所的にピン止めされ、所謂アンカー効果により、酸化物超電導層17がキャップ層16から剥離しにくくなる。従って、本実施形態の超電導線材20は、万が一酸化物超電導層17の剥離が部分的に発生した場合であっても、上述した界面反応部7Bによるアンカー効果により、酸化物超電導層17全体に剥離が伝搬することを抑制できる。
また、基材11の裏面11A側から酸化物超電導層17の下部まで貫通する貫通孔5が形成されている構成であるため、上記第1実施形態の超電導線材10と比較して貫通孔5により失われる酸化物超電導層17の体積が小さくなる。そのため、上記第1実施形態の超電導線材10の効果に加え、さらに、良好な超電導特性が保持される。
次に、本発明に係る超電導線材20の製造方法の一実施形態について説明する。
まず、第1工程では、上記第1実施形態の超電導線材10の製造方法と同様に、図4(a)に示す超電導積層体S1を準備する。
次いで、第2工程では、基材11側が上になるように超電導積層体S1を配置して、レーザ加工などにより、基材11の裏面11Aから基材11と中間層15とキャップ層16を貫通して酸化物超電導層17の下部まで達する貫通孔5Bを形成して、図6(a)に示す状態とする。
その後、第3工程では、図6(b)に示す如く、貫通孔5Bを形成した超電導積層体S1をアニール処理して、酸化物超電導層17とキャップ層16の界面Aにおいて、貫通孔5Bの近傍(周囲)に位置する酸化物超電導層17とキャップ層16とを反応させて界面反応部7Bを形成する。
第3工程におけるアニール処理の条件は、上記第1実施形態の超電導線材10の製造方法と同様である。
次に、第4工程では、図6(c)に示す如く、貫通孔5Bおよび界面反応部7Bが形成された超電導積層体S1に対して、貫通孔5Bを充填材6Bで充填して貫通部8Bを形成した後、酸化物超電導層17上に安定化層18を形成する。安定化層18はスパッタ法などの成膜法により形成した銀層の1層構造でもよく、銀層上にCuなどの金属テープを半田を介して積層した2層構造でもよい。
以上の工程により、本実施形態の超電導線材20を製造できる。
本実施形態の超電導線材20の製造方法も、上記第1実施形態の超電導線材10の製造方法と同様に、酸化物超電導層17とキャップ層16の界面Aにおける貫通孔5Bの近傍に界面反応部7Bが形成された超電導線材を製造できる。そのため、万が一酸化物超電導層17の剥離が部分的に発生した場合であっても、この界面反応部7Bによるアンカー効果により、酸化物超電導層17全体に剥離が伝搬することを抑制できる。
以上、本発明の超電導線材およびその製造方法について説明したが、上記実施形態において、超電導線材の各部は一例であって、本発明の範囲を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
以下、実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
「実施例1」
ハステロイC276(米国ヘインズ社商品名)からなる幅10mm、厚さ0.1mmのテープ状の基材を用意し、このテープ状基材の表面にAlからなる厚さ100nmの拡散防止層を形成し、更にその上にイオンビームスパッタ法を用いてYからなる厚さ30nmのベッド層を形成した。次に、イオンビームアシスト蒸着法によりベッド層上に厚さ10nmのMgOの配向層を形成した。この場合、アシストイオンビームの入射角度は、テープ状基材成膜面の法線に対し、45゜とした。
続いてパルスレーザー蒸着法(PLD法)を用いてMgOの配向層上にCeOの厚さ500nmのキャップ層を形成した。更に、このキャップ層上にパルスレーザー蒸着法によりGdBaCuの厚さ1μmの酸化物超電導層を形成することにより図4(a)に示す構成の超電導積層体を作製した。
作製した超電導積層体の酸化物超電導層側からレーザ加工を行い、図4(b)に示すように、酸化物超電導層を貫通してキャップ層の上部まで達する貫通孔を、10mm×10mmあたり25個作製した。形成された貫通孔の幅は10μm、深さ1μmであった。
次に、貫通孔を形成した超電導積層体を、酸素雰囲気下、800℃、2分間のアニール処理を行い、図4(c)に示すように貫通孔の周囲の酸化物超電導層とキャップ層をそれらの界面で反応させて界面反応部を形成した。形成された界面反応部の幅は10.1μm、厚さは0.1μmであった。
次いで、スパッタ法により酸化物超電導層および貫通孔の上に厚さ10μmのAgの安定化層を形成し、酸素アニールを500℃で行った。以上の工程により、図4(d)に示す構造の超電導線材を作製した。
「比較例1」
実施例1と同様の手順で超電導積層体を作製した後、この超電導積層体の酸化物超電導層の上にスパッタ法により厚さ10μmのAgの安定化層を形成し、酸素アニールを500℃で行うことにより、超電導線材を作製した。
実施例1および比較例1の超電導線材について、スタッドプル剥離試験により、酸化物超電導層とキャップ層との間の剥離強度を測定した。測定は、各超電導線材の成膜面(Agの安定化層の表面)に直径2.7mmのスタッドピンの先端部をエポキシ樹脂で接着固定(ピン先端部の接着面積5.72mm)し、このスタッドピンを線材の成膜面に対して垂直方向に引張り、応力が低下した瞬間の引張荷重を剥離応力(剥離強度)として行った。
その結果、実施例1の超電導線材における酸化物超電導層の剥離強度は58MPaであり、比較例1の超電導線材における酸化物超電導層の剥離強度は15MPaであった。この結果より、酸化物超電導層とキャップ層との間に界面反応部を備える本発明に係る実施例1の超電導線材は、酸化物超電導層がキャップ層から剥離しにくくなっていることがわかる。
本発明は、例えば超電導モータ、限流器など、各種超電導機器に用いられる酸化物超電導線材に利用することができる。
5、5B…貫通孔、6、6B…充填材、7、7B…界面反応部、8、8B…貫通部、10、20…超電導線材、11…基材、12…下地層、13…配向層、15…中間層、16…キャップ層、17…酸化物超電導層、18…安定化層、101…金属基材、102…中間層、103…キャップ層、104…酸化物超電導層、A…酸化物超電導層とキャップ層との界面、S1、S2…超電導積層体。

Claims (4)

  1. 基材と、該基材の上方に設けられた中間層と、該中間層の上方に設けられた酸化物超電導層と、を備えて超電導積層体が構成され、
    該超電導積層体の前記酸化物超電導層の表面側または前記基材側から、少なくとも前記酸化物超電導層とその下の層との界面まで貫通するように該超電導積層体の幅方向および長さ方向に分散形成された複数の貫通孔と、
    前記酸化物超電導層とその下の層との界面における前記貫通孔の近傍に、酸素雰囲気で800〜900℃で加熱処理を行うことにより形成された界面反応部と、
    を備えることを特徴とする超電導線材。
  2. 前記酸化物超電導層が、前記中間層の上に設けられたキャップ層上に設けられており、前記界面反応部が、前記酸化物超電導層を構成する元素と前記キャップ層を構成する元素の反応物よりなることを特徴とする請求項1に記載の超電導線材。
  3. 前記酸化物超電導層が、REBaCu(式中、REは希土類元素を表し、6.5<y<7.1を満たす。)の組成式で表される酸化物超電導体からなり、前記キャップ層がCeOからなり、前記界面反応部がBaCeOを含むことを特徴とする請求項2に記載の超電導線材。
  4. 前記貫通孔の内部が充填材により充填されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の超電導線材。
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