以下、本発明の実施の形態について、その実施例を図面に基づき説明する。図1は本発明の一実施例としての高圧ガスタンク10の構成をその外観と断面図にて示す説明図である。
図示するように、高圧ガスタンク10は、ライナー20と、タンク検査用信号ライン30と、拡散層36と、繊維強化樹脂層40と、口金装着体50とを備える。ライナー20は、中空のタンク容器であり、タンク長手方向の中央で2分割されたライナーパーツの接合品である。2分割のライナーパーツは、それぞれナイロン系樹脂等の適宜な樹脂にて型成型され、その型成型品のライナーパーツを接合してその接合箇所をレーザー融着することで、ライナー20が形成される。このパーツ接合を経て、ライナー20は、円筒状のシリンダー部22の両側に球面形状のドーム部24を備えることになる。このライナー20は、ドーム部24の頂上箇所、即ちライナー20のタンク長手方向端部に金属製のタンク口金12、14を備える。上記した両タンク口金は、繊維強化樹脂層40等の形成のための繊維巻回の際の回転軸挿入に用いられ、一方のタンク口金12は、後述の口金装着体50の装着の他、配管接続用の後述のバルブ60(図5参照)の接続用にも用いられる。
繊維強化樹脂層40は、熱硬化性樹脂を含浸した繊維強化樹脂層をフィラメントワインディング法(以下、FW法)によりライナー外周に巻回させることで形成され、ライナー20における円筒状のシリンダー部22の外周範囲に亘るフープ巻きによる繊維巻回と、ドーム部24の外周範囲に亘る低角度・高角度のヘリカル巻きによる繊維巻回を経て形成される。こうした繊維強化樹脂層40の形成には、熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を用いることが一般的であるが、ポリエステル樹脂やポリアミド樹脂等の熱硬化性樹脂を用いることができる。また、FW法によりライナー外周に巻回させる補強用の繊維(スライバー繊維)としては、ガラス繊維やカーボン繊維、アラミド繊維等が用いられる他、複数種類(例えば、ガラス繊維とカーボン繊維)のFW法による巻回を順次行うことで、繊維強化樹脂層40を異なる繊維からなる樹脂層を積層させて形成することもできる。本実施例では、この手法を採って繊維強化樹脂層40を2層構造とし、その内周層を、熱硬化性樹脂を含浸したカーボン繊維をFW法にて巻回したカーボン繊維強化樹脂層42とし、外周層を、熱硬化性樹脂を含浸したガラス繊維をFW法にて巻回したガラス繊維強化樹脂層44とした。
タンク口金12は、その中央にバルブ接続孔12aを備え、当該接続孔を高圧シール仕様のテーパネジとし、タンク外に位置する部位を6角形状の装着部12bとする。口金装着体50は、樹脂成形品であり、タンク口金12の装着部12bに合致した6角形状の装着孔52を備える。また、この口金装着体50は、外周部位の連結部54を中心に第1パーツ部位51aと第2パーツ部位51bとをヒンジ状に開き、タンク口金12に装着される。タンク口金12への装着に際しては、装着孔52に装着部12bが嵌合され、この嵌合により、口金装着体50は、高圧ガスタンク10に対してタンク軸回りに位置決めされる。装着部12bおよび装着孔52が6角形状であることから、口金装着体50は、60度のピッチで高圧ガスタンク10に対してタンク軸回りに位置決め可能である。この場合、装着部12bと装着孔52を8角形状や12角形状とすれば、より細かいピッチで口金装着体50を高圧ガスタンク10に対してタンク軸回りに位置決めできる。
このように口金装着体50を位置決めすることにより、口金装着体50と後述のバルブ60とを、高圧ガスタンク10に対してタンク軸回りに位置決めできる。バルブ60は、タンク口金12への接続に際して、バルブ接続孔12aのテーパネジに締め付けられるが、テーパネジの螺合である都合上、高圧ガスタンク10に対するタンク軸回りのバルブ60の回転終期位置は一律にはなるとは限らない。ところが、バルブ60の接続が完了すれば、バルブ60は、高圧ガスタンク10に対するタンク軸回り位置が規定される。このため、接続後のバルブ60の回転終期位置に合わせて、口金装着体50を上記のピッチで調整してタンク口金12に位置決め装着すれば、口金装着体50とバルブ60とは、高圧ガスタンク10に対してタンク軸回りに位置決めされることになる。なお、バルブ60の接続シール性を確保した上でバルブ60の回転終期位置を管理すれば、口金装着体50をバルブ60の接続前にタンク口金12に装着しても、口金装着体50とバルブ60とは、高圧ガスタンク10に対してタンク軸回りに位置決めできる。
この他、口金装着体50は、第1パーツ部位51aに凹所56を備え、第2パーツ部位51bには内部接続端子58と外部接続端子59とを有する。凹所56は、高圧ガスタンク10におけるドーム部24の側で開口しており、後述のタンク検査用信号ライン30のタンク外表延在ライン部30Eを収容する。このタンク外表延在ライン部30Eは、タンク口金12の周囲からタンク外表より外側に延びており、上記の凹所56に収容されて、第2パーツ部位51bの内部接続端子58と接続される。つまり、タンク外表延在ライン部30Eは、タンク口金12の周囲からタンク外表より外側に延びたほぼ全域で口金装着体50の凹所56に収容されて内部接続端子58と接続される。その上で、このタンク外表延在ライン部30Eは、内部接続端子58と接続された外部接続端子59および外部の図示しないタンク検査機器から延びたタンク検査用配線KCの外部端子KTを介して、この外部のタンク検査機器と導通される。なお、口金装着体50の外部接続端子59と、タンク検査用配線KC先端の外部端子KTとは、いわゆる雄雌コネクター構造とされ、着脱自在である。
次に、タンク検査用信号ライン30と拡散層36、および口金装着体50の装着について、高圧ガスタンク10の製造工程と併せて説明する。図2はタンク製造手順の前半を説明する説明図、図3はタンク製造手順の後半を説明する説明図である。
図2に示すように、まず、ライナー20を準備する(図2(A)参照)。準備されたライナー20は、タンク口金12、14を型成型の際にドーム部24に組み込み済みである。この両口金は、タンク中心軸AXの軸線上に位置し、後述の繊維巻回、熱処理の際のライナー20の軸受けとして機能する。
ライナー20の準備に続いて、タンク検査用信号ライン30をタンク周壁に亘って延在させる(図2(B)参照)。タンク検査用信号ライン30は、導電性を有する長尺の信号線(例えば、細線状の導線や導電性のスライバー繊維)であり、ライナー20の一方のドーム部から他方のドーム部までに亘り、ライナー20の外周を螺旋状に巻回する。この巻回に際しては、タンク両側のタンク口金12とタンク口金14を図示しない巻き付け装置の回転軸に係合させ、ライナー20をタンク中心軸AXの回りに回転するよう軸支する。そして、ライナー20をタンク中心軸AXの回りに回転させながら、リール130からのタンク検査用信号ライン30の送り出しとリール移動を行う。この際、ライナー20の外周表面へのタンク検査用信号ライン30の接着を図るため、繊維送り出しに先立ってライナー20の外周表面に接着剤を塗布したり、リール130からのタンク検査用信号ライン30の送り出しの際に、タンク検査用信号ライン30に接着剤を予め含浸させる。なお、上記の巻き付け装置にあっては、FW装置のライナー軸支機構を代用できる。
タンク検査用信号ライン30は、ライナー20の外周を螺旋状に取り囲む導電性の長尺の信号線であることから、ライナー20の膨張や収縮、或いは損傷の影響を受けて張力を受けたり断線したりする。張力の大小や断線は、タンク検査用信号ライン30の抵抗値に変化を来すので、外部のタンク検査機器からの通電を経てタンク検査用信号ライン30の抵抗値を測定することで、ライナーの状態を検査できる。こうした検査に際して外部のタンク検査機器との電気的な接続を図るため、タンク検査用信号ライン30は、タンク口金12の周囲からタンク外表より外側に延びるタンク外表延在ライン部30Eを残して形成される。タンク検査用信号ライン30は、種々の構成を取り得るので、その構成を考慮して、次のようにしてタンク検査用信号ライン30をライナー20に巻き付ける。
タンク検査用信号ライン30を絶縁被覆済みの単線の導電性信号線とする場合には、図2(B)に示すように、タンク口金12における巻き付け開始時に、タンク外表延在ライン部30Eに相当する長さの未巻き取り部位をタンク口金12の周囲に残存させた上で、タンク検査用信号ライン30を、タンク口金12の側のライナー20のドーム部24から巻き始める。そして、このタンク口金12の側からタンク口金14の側のドーム部24までに亘り、ライナー20の外周を螺旋状に巻回(以下、往路巻回)して、タンク口金14の側からタンク口金12の側にリール移動を折り返して巻回(以下、復路巻回)する。この往路巻回と復路巻回により、タンク検査用信号ライン30は、折り返しの螺旋状にライナー20の外周に亘って延びることになる。タンク検査用信号ライン30は絶縁被覆済みの信号線であることから、復路巻回の際、螺旋状の巻き取り軌跡が重なっても短絡はないが、リール移動速度とライナー回転速度を調整することで、復路巻回の螺旋軌跡を往路巻回の螺旋軌跡と重ならないようにすることもできる。
復路巻回が済むと、タンク外表延在ライン部30Eに相当する長さの未巻き取り部位をタンク口金12の周囲に残存させて、タンク検査用信号ライン30を切断する。そして、往路巻回の開始時と復路巻回の完了時とで残存させたタンク口金12の周囲の未巻き取り部位をタンク外表延在ライン部30Eとする。このタンク外表延在ライン部30Eは、タンク口金12の周囲からタンク外表より外側に延びることになる。タンク検査用信号ライン30を絶縁被覆のない単線の導電性の信号線(いわゆる裸信号線)とすることもでき、この場合には、既述したように往路と復路で螺旋軌跡が重ならないようにしたり、折り返しの際に軌跡が重なる箇所において、局所的な絶縁を図ればよい。
タンク検査用信号ライン30を2本の導電性信号線を絶縁被覆した複線タイプの信号線とする場合には、タンク口金12における巻き付け開始時に、タンク外表延在ライン部30Eに相当する長さの未巻き取り部位をタンク口金12の周囲に残存させる。その上で、タンク検査用信号ライン30をタンク口金12の側のライナー20のドーム部24から巻き始め、タンク口金14の側のドーム部24で巻き取り完了とする。そして、この巻き取り完了の際、信号線末端にて、2本の導電性信号線を絶縁被覆を破って短絡させ、その短絡箇所を絶縁すればよい。こうしても、タンク検査用信号ライン30を螺旋状にライナー20の外周に亘って延ばした上で、巻き取り開始時に残存させた未巻き取り部位を、タンク口金12の周囲からタンク外表より外側に延びたタンク外表延在ライン部30Eとできる。
ライナー20は、その外周壁に亘って上記のタンク検査用信号ライン30を延ばした上で、タンク外表延在ライン部30Eをタンク口金12の周囲からタンク外側に延ばした状態で、拡散層36や繊維強化樹脂層40の形成に処される。つまり、タンク検査用信号ライン30は、その後に形成される繊維強化樹脂層40の最内周側壁より内層側に位置することになる。なお、タンク検査用信号ライン30は、タンクの損傷等の検査用であることから、ライナー20の外周に繊維強化樹脂層40のように多層に巻く必要はない。
タンク検査用信号ライン30の巻き付けに続いては、巻き付けたタンク検査用信号ライン30を覆うように拡散層36を形成する(図2(C)参照)。この拡散層36は、ライナー20を透過したガス(透過ガス:本実施例では水素ガス)を排出するためのガス通気性を備え、例えば、合成樹脂繊維やガラス繊維を用いた不織布をライナー20の外周に貼り付け接着することで形成される。この場合、拡散層36は、繊維強化樹脂層40で覆われることから、透過ガスを拡散層範囲においてタンク口金12或いはタンク口金14の側に導き、口金周囲から透過ガスを大気放出する。
拡散層36の形成に続いては、FW法による繊維巻回を実施して、ライナー20の外周に繊維強化樹脂層40を形成する(図3(D)参照)。本実施例では、既述したように繊維強化樹脂層40をカーボン繊維強化樹脂層42とガラス繊維強化樹脂層44の積層構造としたので、まず、カーボン繊維強化樹脂層42を形成する。つまり、タンク両側のタンク口金12とタンク口金14を図示しないFW装置の回転軸に係合させ、ライナー20をタンク中心軸AXの回りに回転するよう軸支する。そして、ライナー20をタンク中心軸AXの回りに回転させながら、FW法による繊維巻回を行う(図3(D):D−1参照)。このFW法では、カーボン繊維41を巻き取ったリール140からカーボン繊維41を送り出す際にエポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂をカーボン繊維41に予め含浸させ、その上で、リール140をタンク軸方向に移動させるリール移動と上記したライナー回転とを行い、カーボン繊維41をリール140から送り出しつつライナー外周に巻回する。本実施例では、リール移動速度とライナー回転速度とを調整することで、シリンダー部22の外周範囲に亘ってFW法によりフープ巻きによる繊維巻回を繰り返し実行する。この場合の上記した速度調整は、シリンダー部22のタンク中心軸AXと巻き付け繊維のなす角度がほぼ垂直な巻き角度となるよう、調整される。なお、上記した「巻き角度」は、カーボン繊維41の巻き付け方向(リール140の移動方向)に対するカーボン繊維41の繊維方向の角度を意味する。
次いで、改めてリール移動速度とライナー回転速度とを調整することで、シリンダー部22の両端のドーム部24にカーボン繊維41を掛け渡すようFW法により高角度・低角度のヘリカル巻きによる繊維巻回を繰り返し実行する。この場合にあっても、ヘリカル巻きの巻き角度が一定となるよう調整され、カーボン繊維41は、ドーム部24の外表において、巻き付け方向を折り返して螺旋状に巻き付けられる。これにより、カーボン繊維強化樹脂層42がライナー20に形成済みの拡散層36の外周に形成される。この場合、カーボン繊維強化樹脂層42は、タンク検査用信号ライン30の上記のタンク外表延在ライン部30Eがタンク口金12の周囲からタンク外表より外側に延びた状態で、上記のFW法にて形成される。つまり、タンク外表延在ライン部30Eは、タンク口金12の周囲までがカーボン繊維41にてドーム部24の側に押し付けられ、タンク口金12の周囲からタンク外表より外側に延びることになる。
カーボン繊維強化樹脂層42の形成に続いては、FW法による繊維巻回を実施して、カーボン繊維強化樹脂層42に重ねてガラス繊維強化樹脂層44を形成する。つまり、FW装置における繊維送り出し関連機構をガラス繊維43についてのものに変更し、ライナー20をタンク中心軸AXの回りに回転させながら、FW法による繊維巻回を行う(図3(D):D−2参照)。このFW法では、ガラス繊維43を巻き取ったリール150からカーボン繊維41を送り出す際にエポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂をカーボン繊維41に予め含浸させ、その上で、既述したリール移動とライナー回転とを行い、ガラス繊維43をリール150から送り出しつつライナー外周に巻回する。ガラス繊維43によるガラス繊維強化樹脂層44の形成にあっても、既述したリール移動速度とライナー回転速度の調整を経て、フープ巻きによる繊維巻回とヘリカル巻きによる繊維巻回とを繰り返し実行する。これにより、ガラス繊維強化樹脂層44がライナー20に形成済みのカーボン繊維強化樹脂層42に重ねて形成され、ライナー20は、カーボン繊維強化樹脂層42とガラス繊維強化樹脂層44とからなる未硬化の繊維強化樹脂層40にて覆われることになる。この場合、ガラス繊維強化樹脂層44は、タンク検査用信号ライン30の上記のタンク外表延在ライン部30Eがタンク口金12の周囲からタンク外表より外側に延びた状態で、上記のFW法にて形成される。また、ガラス繊維強化樹脂層44は、カーボン繊維強化樹脂層42に比して薄層でよいので、繊維の巻回数は少なくなる。
次いで、FW法による上記の繊維強化樹脂層40の形成済みのライナー20を、図示しない熱硬化装置にセットして、熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂を加熱した後に硬化させ、養生に付す。この硬化・養生が済むと、カーボン繊維強化樹脂層42とガラス繊維強化樹脂層44とからなる繊維強化樹脂層40にて樹脂製のライナー20を補強した高圧ガスタンク10が得られることになる。なお、熱硬化装置は、温風吹き付けや電熱ヒーターによる加熱式硬化装置の他、誘導加熱コイルを用いてエポキシ樹脂の高周波誘導加熱を誘起する誘導加熱式硬化装置とできる。
図4は本実施例の高圧ガスタンク10の最終製造工程の様子を示す説明図、図5はバルブ60を接続した状態でタンク端部を断面視して示す説明図である。図4に示すように、繊維強化樹脂層40の形成後の高圧ガスタンク10は、タンク外表延在ライン部30Eをタンク口金12の周囲からタンク外表より外側に延ばしている。最終工程では、このタンク外表延在ライン部30Eをその先端で内部接続端子58に接続し、口金装着体50をタンク口金12に装着する。口金装着体50の装着に際しては、図1にも示すように、内部接続端子58は、タンク外表延在ライン部30Eと接続された状態で、口金装着体50における第2パーツ部位51bの端子収納凹所58aに嵌め込まれる。内部接続端子58からタンク外表までのタンク外表延在ライン部30Eは、口金装着体50における凹所56に、図1および図4〜図5に示すように、そのほぼ全域において収容される。そして、口金装着体50は、その有する装着孔52にタンク口金12の装着部12bを嵌合することで、タンク口金12、延いては、高圧ガスタンク10に対してタンク軸回りに位置決めされる。また、この最終工程では、図5に示すように、バルブ60をタンク口金12に接続でき、口金装着体50の上記位置決め装着は、バルブ60の接続前後において可能である。この場合、口金装着体50の装着孔52を、バルブ60の外郭形状に合致するようにすることで、口金装着体50をバルブ60に対してタンク軸回りに位置決めできる。
以上説明したように、本実施例の高圧ガスタンク10では、タンク検査の際に外部の検査機器と導通して使用されるタンク検査用信号ライン30を、高圧ガスタンク10の外表より内層側でタンク周壁に亘って延ばす。詳しくは、タンク検査用信号ライン30を、繊維強化樹脂層40より内層側のライナー20の外周を螺旋状に取り囲むよう、ライナー外周壁に亘って延ばして、拡散層36および繊維強化樹脂層40にて被覆する。その上で、タンク検査用信号ライン30のタンク外表延在ライン部30Eを、タンク口金12の周囲からタンク外表より外側に延ばして、このタンク外表延在ライン部30Eのほぼ全域を口金装着体50の凹所56に収容する。タンク外表延在ライン部30Eの先端についても、内部接続端子58と共に口金装着体50に収容する。このため、本実施例の高圧ガスタンク10によれば、タンク外表延在ライン部30Eを含めタンク検査用信号ライン30の殆どをタンク外表に露出させない。これにより、搭載済み高圧ガスタンク10の周辺機器や車両走行中の路面、路面上の異物、走行中の飛び石等とタンク外表延在ライン部30Eとの接触、或いは路面上の汚泥や水をタンク外表延在ライン部30Eが被ること等を高い実効性で回避できる。この結果、タンク外表延在ライン部30Eを含むタンク検査用信号ライン30の損傷回避や短絡回避のための特段の対処が不要となり、簡便となる。
また、本実施例の高圧ガスタンク10は、口金装着体50へのタンク外表延在ライン部30Eの収容に加え、タンク口金12に装着した口金装着体50を、高圧ガスタンク10に対して、バルブ60と共にタンク軸回りの位置決めする。このため、次の利点がある。
図4〜図5に示したように、最終工程にてバルブ60をタンク口金12に接続すると、高圧ガスタンク10を、バルブ接続済みの状態で、例えば燃料電池搭載車両や燃料電池発電システム等に設置できる。今、図4〜図5において、タンク口金12に高圧シール性確保して接続済みのバルブ60が、その有する接続ポート62を紙面の手前側、即ち、高圧ガスタンク10をその端部側から見た場合のタンク軸回りにおいて右側方側に位置させるとする。そして、高圧ガスタンク10の貯蔵した水素ガスの消費機器である図示しない燃料電池から高圧ガスタンク10までは、上記位置にある接続ポート62とガス配管先端が接続されるよう、ガス配管が規定の経路で延びているとする。以下、接続ポート62がタンク軸回りに上記位置を取る際のバルブ60の位置を接続完了位置と称し、この接続完了位置のバルブ60の接続ポート62に接続されるガス配管の経路を接続規定経路と称する。
バルブ60を装着済みの高圧ガスタンク10を燃料電池搭載車両に搭載するには、作業者は、バルブ60が接続完了位置となるように高圧ガスタンク10の姿勢をタンク軸回りに調整して、その高圧ガスタンク10をタンク搭載箇所に搭載して締結する。そうすると、バルブ60は、その接続ポート62を接続規定経路で延びるガス配管の先端に接続可能に向かわせる。よって、作業者は、上記の姿勢調整後のタンク締結に続いて、速やかにガス配管をバルブ60の接続ポート62に接続でき、タンク軸回りのバルブ60と高圧ガスタンク10の位置関係は、タンク取り外しまで不変となる。
その一方、本実施例の高圧ガスタンク10は、口金装着体50にタンク口金12の周囲からタンク外表より外側に延びたタンク外表延在ライン部30Eを収容した上で、この口金装着体50を、タンク口金12への装着に際して高圧ガスタンク10に対して60度のピッチでタンク軸回りに位置決めする。つまり、図1や図4〜図5に示すように、本実施例の高圧ガスタンク10は、口金装着体50をその収容した外部接続端子59が高圧ガスタンク10をその端部側から見た場合のタンク軸回りの右斜め下方側に位置するよう、位置決めする。この場合、バルブ60はタンク軸回りに高圧ガスタンク10との位置関係が既述したように規定済みであることから、高圧ガスタンク10は、口金装着体50およびこれに収容の外部接続端子59についても、バルブ60と共に、高圧ガスタンク10に対してタンク軸回りに位置決めすることになる。そして、外部接続端子59の上記した右斜め下方位置は、装着孔52への装着部12bの嵌合によりタンク搭載の都度に再現され、この外部接続端子59に接続される外部端子KTとの位置関係についても、タンク搭載の都度に再現される。このため、外部のタンク検査機器から延びるタンク検査用配線KCについては、口金装着体50の外部接続端子59が上記の右斜め下方位置に再現されることを想定して、その配線経路を予め決めおくことができると共に、その経路を大きく変える必要性を低くできる。この結果、本実施例の高圧ガスタンク10によれば、タンク搭載に際してタンク検査用配線KCの経路変更や経路変更後のタンク検査用配線KCの弛み対処の必要性を低くでき、タンク搭載作業の簡便化や作業性の向上を図ることができる。そして、タンク検査用配線KCの経路変更の必要性が低いことから、このタンク検査用配線KCおよびその先端の外部端子KTをカバー等で容易に覆うことができ、これにより、タンク検査用配線KCと車両走行中の路面や路面上の異物との接触、走行中の飛び石との接触等による配線の損傷、或いは路面上の汚泥や水を被ることでの配線短絡を、容易に回避できる。
また、本実施例の高圧ガスタンク10は、タンク検査用信号ライン30を繊維強化樹脂層40の内層側、詳しくはライナー20の外周壁に接触させて当該外周壁に亘って延びるようにした。繊維強化樹脂層40、本実施例では、カーボン繊維強化樹脂層42を形成するカーボン繊維41やガラス繊維強化樹脂層44を形成するガラス繊維43は、ライナー20の補強用途の繊維である。その一方、タンク検査用信号ライン30は、外部のタンク検査機器との導電が確保されれば済む信号線である。よって、タンク検査用信号ライン30は、カーボン繊維41およびガラス繊維43とその性状および仕様用途が大きく相違し、上記の両繊維よりその強度が劣る。カーボン繊維強化樹脂層42やガラス繊維強化樹脂層44は、いわゆる複合材である都合上、その強度は、含有するフィラーであるカーボン繊維41やガラス繊維43の強度に依存し、低強度のタンク検査用信号ライン30をその樹脂中にフィラーとして含有すると低下する。本実施例の高圧ガスタンク10は、既述したように低強度のタンク検査用信号ライン30を、最外層のガラス繊維強化樹脂層44は元よりその内層側のカーボン繊維強化樹脂層42にも含ませない。よって、本実施例の高圧ガスタンク10によれば、ライナー補強用の繊維強化樹脂層40(詳しくは、カーボン繊維強化樹脂層42とガラス繊維強化樹脂層44)の強度低下を回避した上で、タンク搭載の際の上記の作業性の向上等を図ることができる。
また、本実施例の高圧ガスタンク10は、タンク検査用信号ライン30をライナー20の外周壁に接触させて当該外周壁に亘って延びるようにした上で、このタンク検査用信号ライン30を拡散層36にて被覆する。この拡散層36は、既述したようにライナー20を透過した透過ガスを排出するためのガス通気性を備え、タンク検査用信号ライン30は、拡散層36とライナー20との境界面において、螺旋状に延びることになる。このため、透過ガスは、図5に矢印で示すように、タンク検査用信号ライン30の螺旋軌跡に沿って案内されつつ、当該信号ライン周囲の拡散層36を通過して、タンク口金12の側に進み易くなる。そして、タンク口金12の周囲では、タンク外表延在ライン部30Eがタンク外表に延びているので、タンク口金12の側に進んだ透過ガスは、タンク外表延在ライン部30Eのタンク外表側基部から大気に放出されることになる。このため、本実施例の高圧ガスタンク10では、拡散層36を透過してカーボン繊維強化樹脂層42やガラス繊維強化樹脂層44の側に進んでこれら樹脂層を透過するガス量を低減できる。通常、カーボン繊維強化樹脂層42やガラス繊維強化樹脂層44といった繊維強化樹脂層をガスが透過すると、その樹脂層の強度低下を来しやすい。そうすると、本実施例の高圧ガスタンク10によれば、カーボン繊維強化樹脂層42やガラス繊維強化樹脂層44の強度低下を抑制した上で、透過ガスをタンク口金12の側から大気放出できる。
本実施例では、タンク検査用信号ライン30をタンク検査のためと上記の透過ガスの大気放出に用いるが、透過ガスの大気放出に特化することもできる。この場合には、長尺の樹脂繊維を、タンク検査用信号ライン30と同様に、或いは異なる軌跡でタンク口金12の外周に螺旋状に巻回し、タンク口金12の側のみならず、タンク口金14の側でも、長尺樹脂繊維の先端部をタンク外表から延ばす。こうすれば、長尺の樹脂繊維による案内により、タンク両端側で透過ガスの大気放出を図ることができる。こうした長尺の樹脂繊維のみを有する高圧ガスタンクは、既存の高圧ガスタンクに対して、口金の側での透過ガスの大気放出により、上記したカーボン繊維強化樹脂層42やガラス繊維強化樹脂層44の強度低下の抑制の点で、有益となる。
次に、他の実施例について説明する。上記の実施例では、導電性のタンク検査用信号ライン30を用いたが、光ファイバーを用いることもできる。図6は第2実施例の高圧ガスタンク10Aをタンク口金12の側から斜視して示す説明図、図7は高圧ガスタンク10Aをタンク口金12の側から正対して示す説明図である。
高圧ガスタンク10Aは、タンク検査用信号ライン30に代わって光ファイバー30Aを用いるものの、図2〜図3で説明した製造工程を経て製造される。つまり、図2(B)において、リール130を光ファイバー30Aを巻回したリールとし、タンク検査用信号ライン30に代わって光ファイバー30Aを送り出す。これにより、光ファイバー30Aは、ライナー20の外周に亘って螺旋状に延びることになり、タンク口金12の周囲からタンク外表延在ライン部30AEをタンク外表より外側に延ばす。
光ファイバー30Aは、その軌跡において光導波路を形成することから、単線の光ファイバー30Aを、絶縁被覆済みの単線のタンク検査用信号ライン30と同様に扱い、ライナー20の外周に既述した往路巻回と復路巻回に処する。こうすれば、タンク口金12の周囲からタンク外表より外側に延びたタンク外表延在ライン部30AEは、往路巻回の際の延在ファイバー末端と復路巻回の際の延在ファイバー末端の2本となる。よって、一本のタンク外表延在ライン部30AEの端面を光の入射端とし、他方のタンク外表延在ライン部30AEの端面を光の出射端とできる。このタンク外表延在ライン部30AEは、光ファイバー接続が可能な内部接続端子58と光接続されて、タンク検査用信号ライン30のタンク外表延在ライン部30Eと同様、口金装着体50の凹所56および端子収納凹所58aに収容される。
口金装着体50は、外部接続端子59から内部接続端子58に到る間に、照射部158と受光部159を備え、照射部158を、内部接続端子58の入射端側のタンク外表延在ライン部30AEの端面に光ファイバーにて光接続する。受光部159については、これを、内部接続端子58の出射端側のタンク外表延在ライン部30AEの端面に光ファイバーにて光接続する。照射部158は、光電変換機能を有する光電素子であり、入力した電気信号に基づいた光量の光を照射する。受光部159は、光電変換機能を有する光電素子であり、入射した光の強度や波形に応じた電気信号を生成して、これを出力する。
図示しない外部のタンク検査機器は、タンク検査用配線KCを介して電気信号を出力し、この電気信号は、外部端子KTおよび口金装着体50の外部接続端子59を経て照射部158に達する。照射部158は、既述したように入力した電気信号に基づいた光量の光を照射し、この照射光は、内部接続端子58を経てタンク外表延在ライン部30AEの端面から光ファイバー30Aを進む。ライナー20の外周に螺旋状に延びた光ファイバー30Aを進んだ光(照射光)は、タンク外表延在ライン部30AEの端面から内部接続端子58に達し、受光部159に入射する。受光部159は、その入射した光に応じた電気信号を出力するので、外部のタンク検査機器は、ライナー20の外周に螺旋状に延びた光ファイバー30Aを進んだ光に応じた電気信号を入力する。
光ファイバー30Aにあっても、タンク検査用信号ライン30と同様、ライナー20の外周を螺旋状に取り囲む長尺の信号線であることから、ライナー20の膨張や収縮、或いは損傷の影響を受けて張力を受けたり断線したりする。張力の大小や断線は、光ファイバー30Aを通過する光の光量や強度、波形等に変化を来すので、外部のタンク検査機器は、既述した出力電気信号と入力電気信号との対比により、ライナーの状態を検査できる。
この第2実施例の高圧ガスタンク10Aでは、図6に示すように、バルブ60を、接続ポート62が紙面の手前側(高圧ガスタンク10をその端部側から見た場合のタンク軸回りにおいて右側方側)に位置する既述した接続完了位置とできる。よって、作業者は、既述したように、この接続完了位置のバルブ60の接続ポート62に、接続規定経路で延びるガス配管を容易に接続できる。
光ファイバー30Aのタンク外表延在ライン部30AEを収容した本実施例の口金装着体50にあっても、タンク検査用信号ライン30を収容した口金装着体50と同様、装着孔52への装着部12bの嵌合を経て、高圧ガスタンク10Aに対して、上記の接続完了位置のバルブ60と共にタンク軸回りの位置決めされる。図6では、口金装着体50の位置決め位置は、その収容した外部接続端子59が高圧ガスタンク10Aをその端部側から見た場合のタンク軸回りの左斜め下方側であり、この位置決めは、既述したように、60度のピッチでタンク軸回りになされる。そして、外部接続端子59の上記した左斜め下方位置は、装着孔52への装着部12bの嵌合によりタンク搭載の都度に再現され、この外部接続端子59に接続される外部端子KTとの位置関係についても、タンク搭載の都度に再現される。このため、第2実施例の高圧ガスタンク10Aにあっても、先の実施例の高圧ガスタンク10と同様の効果を奏することができる。なお、口金装着体50の位置決め位置を、先の実施例の高圧ガスタンク10と同様、外部接続端子59が高圧ガスタンク10Aをその端部側から見た場合のタンク軸回りの右斜め下方側とすることも、60度のピッチでのタンク軸回りの位置決めにより、可能である。
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこのような実施の形態になんら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において種々なる態様での実施が可能である。例えば、上記の実施例では、ライナー20にタンク検査用信号ライン30を螺旋状に巻回した上で、拡散層36を形成したが、この拡散層36を有しない形態、つまり、タンク検査用信号ライン30の螺旋状巻回の後に、カーボン繊維41によるカーボン繊維強化樹脂層42のFW法による形成、ガラス繊維43によるガラス繊維強化樹脂層44の形成を行うようにすることもできる。
また、拡散層36にあっては、タンク検査用信号ライン30を覆うよう一層とするほか、ライナー20の外周に一層の拡散層36を形成した後に、その拡散層36にタンク検査用信号ライン30を螺旋状に巻回し、再度、これに拡散層36を形成することもできる。つまり、タンク検査用信号ライン30をその上下の拡散層36でサンドイッチ状に挟んだ形態の高圧ガスタンク10とすることもできる。
また、タンク検査用信号ライン30の形成位置については、図2〜図3で説明した製造工程に倣ったライナー20の外周表面の他、ライナー20にタンク検査用信号ライン30を形成することもできる。図8はライナー20におけるタンク検査用信号ライン30の形成の様子を示す説明図である。
ライナー20は、図8(A)に示すように、その外周壁面にタンク検査用信号ライン30を埋設して備える他、図8(B)に示すように、その内周壁面にタンク検査用信号ライン30を埋設して備えるようにできる。図8(A)では、タンク長手方向の中央で2分割されたライナーパーツの型成型に際して、ライナー外周壁を形成する側の金型のキャビティー表面に予めタンク検査用信号ライン30を組み込んで、ライナーパーツを型成型する。図8(B)では、ライナー内周壁を形成する側の金型のキャビティー表面に予めタンク検査用信号ライン30を組み込んで、ライナーパーツを型成型する。図8(C)に示すライナー20は、タンク検査用信号ライン30をライナー壁内部に備える。このライナー20とするには、ライナーパーツ形成用のキャビティーにタンク検査用信号ライン30を予め組み込んだ上で、樹脂射出圧等を調整しつつキャビティーに樹脂を射出する。こうして、2分割されたライナーパーツを型成型した後に、当該パーツの接合の際に、2分割のライナーパーツのそれぞれのタンク検査用信号ライン30を短絡させる。次いで、ライナーパーツを接合して、その接合箇所をレーザー融着すればよい。
この他、タンク検査用信号ライン30を、繊維強化樹脂層40の層内部に位置するよう、形成できる。このようにするには、FW法によるカーボン繊維41の巻回を経たカーボン繊維強化樹脂層42の形成の途中で、一旦、カーボン繊維41の送り出しを止める。そして、この間にタンク検査用信号ライン30を、既に巻回形成済みのカーボン繊維強化樹脂層42の外周に螺旋状に巻き付け、FW法によるカーボン繊維41の巻回を経たカーボン繊維強化樹脂層42の形成を再開すればよい。
また、ライナー20の外周壁に亘ってタンク検査用信号ライン30を延ばす際のその軌跡は、上記の螺旋状の軌跡の他、次のようにすることもできる。図9はタンク検査用信号ライン30の軌跡の変形例をライナー20の側面視方向と端面視方向から見て示す説明図である。図示するように、この変形例では、タンク検査用信号ライン30は、タンク外表延在ライン部30Eに繋がるタンク検査用信号ライン30を、タンク口金12の側のドーム部24からタンク口金14の側のドーム部24に掛けて、タンク軸方向に連続的に折り返す軌跡とする。この折り返しの軌跡についても、曲線状の軌跡としたり(図9(A))、屈曲直線状の軌跡とできる(図9(B))。このような軌跡のタンク検査用信号ライン30をライナー20の外周に形成するには、ライナー20をタンク中心軸周りに低速で回転させたり、一旦回転を停止させたりしつつ、タンク検査用信号ライン30を送り出すリール130をタンク軸方向に沿って往復動させればよい。
或いは、不織布状の拡散層36の一面に、上記の軌跡のタンク検査用信号ライン30を予め形成し、このタンク検査用信号ライン30の形成済みの拡散層36を、ライナー20の外周に貼り付け装着するようにもできる。
また、口金装着体50のタンク軸回りに位置決めについては、上記の実施例では、嵌合し合う口金装着体50の装着孔52とタンク口金12の装着部12bとを、6角形状等のものとしたが、装着孔52と装着部12bを円形とすることもできる。図10は円形状の装着孔52を有する変形例の口金装着体50Aを示す説明図である。図示するように、この変形例では、口金装着体50Aは、その第2パーツ部位51bに、止めネジ51cと当該ネジが螺合される雌ネジ51dとを有する。この変形例の口金装着体50Aでは、止めネジ51cを締め付けることで、高圧ガスタンク10に対するタンク軸回りの位置決めができ、その位置決め位置の自由度が高まる。