JP5687414B2 - 多型の識別方法 - Google Patents

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Description

本発明は、従来よりも、高感度かつ高精度に多型を識別する方法に関する。
近年の遺伝子操作技術や遺伝子組換え技術等の進歩に伴い、核酸分析による遺伝子検査は、医療、研究、産業への応用に広く用いられている。このような検査は試料中の標的塩基配列を有するDNAの存在の検出を行うものであり、疾患の診断、治療だけでなく、食品検査等の様々な分野において応用されている。特に、SNP(一塩基多型)等の遺伝子多型は、癌等の特定の疾患に対する罹り易さや、薬物代謝能等の個体差の主要な一因と考えられており、学術研究においてのみならず、実際の臨床検査においても、遺伝子多型解析が広く行われている。このため、高精度かつ迅速に遺伝子多型を検出し得る方法の開発が盛んである。
遺伝子多型を検出・識別する方法として、プローブやプライマー等の人工合成したポリヌクレオチドを用いて核酸の塩基配列を調べる方法が多数報告されている。例えば、SNP等の多型を含む領域をPCR(Polymerase Chain Reaction、ポリメラーゼ連鎖反応)により増幅して検出する方法や、検出対象であるSNPを3’末端に有するプローブと、該SNPの5’側の隣の塩基を5’末端に有するプローブを用いて、ライゲーション反応を行い、2つのプローブが結合された一のポリヌクレオチドが得られるか否かによりSNPを検出する方法等のように、分子生物学的な酵素反応を用いて、解析対象であるSNP及びその近傍の塩基配列を解析する方法等がある。
特に、SNP解析においては、特定の塩基配列やアレル等に特異的に結合し得るプライマーを用いてPCRを行い、PCR産物の有無によりSNPを検出するSSP−PCR(Sequence Specific Primers−PCR)法やASP−PCR(Allele Specific Primers−PCR)法が汎用されている。SSP/ASP−PCR法による多型の検出は、塩基配列(遺伝子多型)の検出及び識別とシグナルの増幅を同時に行うことができるため、臨床検査における検体等のように、検体が微量である場合や試料中の核酸濃度が非常に低い場合であってもSNPを検出することができ、非常に利便性が高いためである。
SSP−PCR法やASP−PCR法とは異なり、増幅反応を用いないSNP解析法も多数報告されている。例えば、(1)(a)検出対象とする核酸分子と相補的な単鎖核酸分子と、(b)(a)の単鎖核酸分子の一部分とハイブリダイズする1又は2の単鎖核酸分子とからなる部分二重鎖型核酸分子であり、当該部分二重鎖型核酸分子の単鎖構造をとっている領域が、当該検出対象とする核酸分子における識別部位を含む領域と相補的であることを特徴とする核酸分子を用いて、SNPを検出する方法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。当該部分二重鎖型核酸分子を、検出対象とする核酸分子と共存させると、鎖交換反応によって本発明の核酸分子の短鎖と標的核酸分子が交換し、本発明の核酸分子の長鎖と標的核酸分子との二重鎖構造が形成され、これを検出することにより、標的核酸分子を検出することができる。
国際公開第05/012571号パンフレット
SSP−PCR法やASP−PCR法は、プライマーの塩基配列の設計自由度が低いため、識別対象である遺伝子多型の塩基配列によっては、十分な感度が得られない、という問題がある。
一方、上記(1)の方法は、ハイブリダイゼーションを用いる検出方法であり、鎖伸長反応を使用しないため、シグナルの増幅ができない。このため、臨床検体等のように、元々核酸含有量が微量である試料からは、十分な感度で遺伝子多型を検出することは困難である。また、鎖交換反応を用いているため、識別対象である遺伝子多型の塩基配列によっては、遺伝子多型を識別する場合には、前記部分二重鎖型核酸分子の検出対象とする型以外の型の塩基配列をからなる核酸分子とも比較的安定してハイブリダイズし、鎖交換反応が生じる可能性が高く、識別の精度も十分ではない。
本発明は、SSP−PCR法又はASP−PCR法を用いて、高感度かつ高精度に多型を識別する方法を提供することを目的とする。
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、SSP−PCR法又はASP−PCR法において、多型のいずれかのアレルと特異的にハイブリダイズするプライマーと、鋳型となる核酸とをハイブリダイズさせて核酸伸長反応を行う際に、この反応溶液に、当該プライマーの多型検出部位よりも5’側の領域で当該プライマーとハイブリダイズするオリゴヌクレオチドを添加することにより、非特異的な核酸伸長反応を抑制することができ、多型の識別精度を改善できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、
(1) 多型部位を有する核酸の多型を識別する方法であって、被検核酸試料中の核酸を鋳型とし、第1型検出用プライマー及びポリメラーゼを用いて、阻害用オリゴヌクレオチドの存在下で、核酸鎖伸長反応を行い、多型部位の塩基配列が第1の塩基配列である核酸のみが伸長される伸長工程と、前記伸長工程において、前記第1型検出用プライマーが伸長されたか否かにより、前記被検核酸試料中に含まれている核酸の多型を識別する識別工程と、を有し、前記第1型検出用プライマーは、多型部位の塩基配列が第1の塩基配列である核酸と、当該多型部位を含む領域においてハイブリダイズするプライマーであり、前記阻害用オリゴヌクレオチドは、前記第1型検出用プライマーとハイブリダイズするオリゴヌクレオチドであり、前記第1型検出用プライマーにおいて、前記阻害用オリゴヌクレオチドとハイブリダイズする領域は、前記多型部位とハイブリダイズする多型検出部位よりも5’側の領域であり、前記第1型検出用プライマー中の前記多型検出部位が、前記第1の塩基配列中の前記多型部位と相補的であることを特徴とする多型の識別方法、
(2) 前記阻害用オリゴヌクレオチド中の、前記第1型検出用プライマーとハイブリダイズする領域の塩基配列は、前記第1型検出用プライマー中の阻害用オリゴヌクレオチドとハイブリダイズする領域の塩基配列と、少なくとも1塩基のミスマッチを含む配列であることを特徴とする前記(1)記載の多型の識別方法、
(3) 前記阻害用オリゴヌクレオチドの3’末端の塩基が、プライマーとして動作しないようにブロッキングされていることを特徴とする前記(1)又は(2)記載の多型の識別方法、
(4) 前記第1型検出用プライマー中の、前記阻害用オリゴヌクレオチドとハイブリダイズする領域よりも3’側の領域の長さが、5塩基以上であることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれか記載の多型の識別方法、
(5) 前記第1型検出用プライマー中の、前記阻害用オリゴヌクレオチドとハイブリダイズする領域の長さが、10塩基以上であることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれか記載の多型の識別方法、
(6) 前記核酸鎖伸長反応が、被検核酸試料中の核酸を一本鎖化する変性ステップ、一本鎖化された核酸と、前記第1型検出用プライマー又は前記阻害用オリゴヌクレオチドとをハイブリダイズさせるアニーリングステップ、前記第1型検出用プライマーを起点として核酸鎖を伸長させる伸長ステップとからなり、前記第1型検出用プライマーと前記阻害用オリゴヌクレオチドとからなる会合体のTm値が、前記アニーリングステップの温度よりも高く、前記伸長ステップの温度よりも低いことを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれか記載の多型の識別方法、
(7) 前記第1型検出用プライマーの、前記多型部位とハイブリダイズする多型検出部位が、3’末端にあることを特徴とする前記(1)〜(5)のいずれか記載の多型の識別方法、
(8) 前記核酸鎖伸長反応が、前記変性ステップ、前記アニーリングステップ、及び前記伸長ステップとからなるサイクルを、2回以上繰り返すことを特徴とする前記(6)又は(7)記載の多型の識別方法、
(9) 前記多型部位の塩基配列が、前記第1の塩基配列とは異なる塩基配列である核酸と、当該多型部位を含む領域においてハイブリダイズする検出用プライマーの存在下で、前記核酸鎖伸長反応を行うことを特徴とする前記(1)〜(8)のいずれか記載の多型の識別方法、
(10) 多型部位を有する核酸の多型の識別に用いられるキットであって、第1型検出用プライマー及び阻害用オリゴヌクレオチドを含み、前記第1型検出用プライマーは、多型部位の塩基配列が第1の塩基配列である核酸と、当該多型部位を含む領域においてハイブリダイズするプライマーであり、前記阻害用オリゴヌクレオチドは、前記第1型検出用プライマーとハイブリダイズするオリゴヌクレオチドであり、前記第1型検出用プライマーにおいて、前記阻害用オリゴヌクレオチドとハイブリダイズする領域は、前記多型部位とハイブリダイズする多型検出部位よりも5’側の領域であり、前記第1型検出用プライマー中の前記多型検出部位が、前記第1の塩基配列中の前記多型部位と相補的であり、前記第1型検出用プライマーを用いて、前記阻害用オリゴヌクレオチドの存在下で核酸鎖伸長反応を行った場合に、多型部位の塩基配列が第1の塩基配列である核酸のみが伸長されることを特徴とする、多型識別用キット、
を提供するものである。
本発明の多型の識別方法を用いることにより、多型の検出用プライマーの設計の自由度が低いSSP−PCR法及びASP−PCR法において、効果的に非特異的な核酸伸長反応を抑制することができ、多型を高精度かつ高感度に識別することができる。中でも、体細胞変異等の、従来のSSP−PCR法等では検出や識別が非常に困難であった多型も、感度よく検出・識別することができる。
第1型検出用プライマー(1)と阻害用オリゴヌクレオチド(2)とからなる会合体を、模式的に示した図である。 第1型核酸、第2型核酸、第1型検出用プライマー、及び阻害用オリゴヌクレオチドが存在する溶液中において形成される会合体を模式的に示した図である。 図2に示した各種会合体の安定性の望ましい関係を模式的に示した図である。 実施例1において、EGFR遺伝子の、野生型(Wt)及び変異型(Mt)における当該多型部位の周囲の塩基配列のアラインメントを示した図である。 実施例1において、1st PCRの産物の塩基配列を示した図である。 実施例1において、測定された変異型検出用プライマーの消費率(K2%)を、変異型核酸の含有割合ごとに示した図である。
本発明において、多型とは、ある生物種の個体間若しくは同一個体中の細胞間において、同じ遺伝子の塩基配列に相違部分があることを意味する。具体的には、同じ遺伝子において、一の細胞由来の特定の遺伝子の塩基配列に対して、同じ生物種の別個体由来の、又は同一個体の他の細胞由来の当該遺伝子の塩基配列が、1又は複数の塩基が置換、欠損、若しくは挿入されている場合に、当該遺伝子は多型であるといい、両者の塩基配列で相違する部位を多型部位という。なお、ゲノムDNA上における多型であってもよく、ミトコンドリアDNAにおける多型であってもよい。
本発明において多型部位とは、各多型において、遺伝子の塩基配列が異なる部位を意味する。例えば、置換型の遺伝子多型においては、一の型(第1型)における塩基配列がgggaaaであり、第1型とは異なる型(第2型)における塩基配列がggcaaaである場合に、第1型においてgであり、第2型においてcである5’側から3番目の塩基が多型部位である。一方、挿入・欠損型の遺伝子多型においては、一の型(第1型)における塩基配列がgggcccaaaであり、第1型とは異なる型(第2型)における塩基配列がgggaaaである場合に、第1型の5’側から4〜6番目の塩基(ccc)が多型部位であり、同じく第2型の5’側から3〜4番目の塩基間が多型部位である。
また、本発明において、多型を識別するとは、ある被検核酸試料に含有されている核酸の多型部位が、いずれの多型と同じ塩基配列を有しているかを識別することを意味する。したがって、本発明の多型の識別方法の対象となる多型は、識別が可能である程度に塩基配列が明らかになっているものである。
本発明において識別対象とする多型としては、上記多型であって、遺伝子組換え技術等により検出が可能な程度に塩基配列が明らかになっているものであれば、特に限定されるものではない。また、先天的な多型であってもよく、腫瘍細胞等において多くみられる後天的な多型であってもよい。該多型として、例えば、一塩基多型(SNP)、マイクロサテライト、体細胞変異等がある。
本発明における被検核酸試料は、多型を識別すべき核酸が含まれている試料であれば、特に限定されるものではない。該被検核酸試料は、動物等から採取した生体試料であってもよく、培養細胞溶液等から調製した試料であってもよく、生体試料等から抽出・精製した核酸溶液であってもよい。特に臨床検査等に用いられるヒト由来の生体試料や、ヒト由来の生体試料から抽出・精製した核酸試料であることが好ましい。ヒト由来の生体試料として、例えば、血液、骨髄液、リンパ液、尿、喀痰、腹水、滲出液、羊膜液、腸管洗浄液、肺洗浄液、気管支洗浄液、膀胱洗浄液、膵液、唾液、精液、胆汁、又は大便等がある。また、該被検核酸試料は、生物から採取された状態の試料であってもよく、調製した試料であってもよい。該調製の方法は、該生体試料中に含有されているDNAやRNA等の核酸を損なわない方法であれば、特に限定されるものではなく、通常、生体試料に対してなされている調製方法を行うことができる。その他、生体試料から抽出・精製したDNAをPCR等により増幅処理して得られたものであってもよく、生体試料中に含有されるRNAから逆転写酵素を用いて合成されたcDNAであってもよい。生体試料から抽出・精製したDNA等を用いる場合には、含有する多型部位を含む核酸をPCR反応により増幅させ、得られた増幅産物を被検核酸試料とすることが好ましい。
本発明の多型の識別方法は、多型部位を有する核酸の多型を識別する方法であって、多型のうちの一の型(第1型)と特異的にハイブリダイズする第1型検出用プライマーを用いた核酸鎖伸長反応を、当該第1型検出用プライマーと、多型検出部位よりも5’側の領域でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドの存在下で行う方法である。なお、「多型検出部位」とは、検出用プライマー中の部分領域であって、核酸中の多型部位とハイブリダイズする部位を意味する。
本発明において、第1型検出用プライマーとは、識別対象である多型の多型部位の塩基配列が第1の塩基配列である核酸(以下、「第1型核酸」ということがある。)と、当該多型部位を含む領域においてハイブリダイズするプライマーである。第1型検出用プライマーは、第1型核酸中の当該多型部位を含む部分領域とハイブリダイズし得るものであればよく、第1型核酸の塩基配列と完全に相補的な塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであってもよく、1又は数塩基のミスマッチを有する塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであってもよい。より高い識別精度を達成可能であることから、本発明においては、第1型検出用プライマーは、第1型核酸の塩基配列と完全に相補的な塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであることが好ましい。
その他、第1型検出用プライマーは、第1型核酸とハイブリダイズする領域以外にも、5’側に付加的な塩基配列を有するものであってもよい。該付加的な配列として、例えば、制限酵素認識配列や、核酸の標識に供される配列等がある。
また、第1型検出用プライマーは、当該プライマーを起点として得られる伸長産物の検出を容易にするために、標識されたものであってもよい。該標識をするための物質は、核酸の標識に用いることができるものであれば、特に限定されるものではなく、放射性同位体、蛍光物質、化学発光物質、ビオチン等がある。
第1型検出用プライマーは、第1核酸の多型部位とハイブリダイズする多型検出部位が、プライマーの5’側よりも3’側に存在するように設計されることが好ましい。中でも、多型検出部位は、第1型検出用プライマーの3’末端から5塩基以内に存在するように設計することが好ましく、3’末端から2塩基以内に存在するように設計することがより好ましく、3’末端にあるように設計することが特に好ましい。
本発明において、阻害用オリゴヌクレオチドとは、第1型検出用プライマーとハイブリダイズするものであって、第1型検出用プライマーにおいて、当該阻害用オリゴヌクレオチドとハイブリダイズする領域が、多型部位とハイブリダイズする多型検出部位よりも5’側の領域となるオリゴヌクレオチドである。
つまり、第1型検出用プライマーは、3’側に多型検出部位を有し、当該多型検出部位よりも5’側の領域において、阻害用オリゴヌクレオチドとハイブリダイズする。以下、第1型検出用プライマー中の、阻害用オリゴヌクレオチドとハイブリダイズする領域を「共通領域」といい、この共通領域の3’側の領域を「多型検出領域」という。第1型検出用プライマーの多型検出部位は、多型検出領域に存在する。図1は、第1型検出用プライマー(1)と阻害用オリゴヌクレオチド(2)とからなる会合体を、模式的に示した図である。図1中、領域1aが多型検出領域であり、領域1bが共通領域である。
第1型検出用プライマーは、低温環境下、例えば核酸鎖伸長反応のアニーリングステップにおいては、第1型核酸に対してと同様に、多型部位の塩基配列が第2の塩基配列である核酸(以下、「第2型核酸」ということがある。)ともハイブリダイズする。このように、第1型検出用プライマーが第2型核酸とハイブリダイズし、非特異的な核酸鎖伸長反応が起こることにより、多型の識別精度が低下する。
なお、「第2の塩基配列」とは、識別対象である多型の多型部位の塩基配列であって、前記第1の塩基配列とは異なる配列を意味する。例えば、識別対象である多型が、野生型と変異型の2種類の多型を有するSNPである場合に、第1の塩基配列を変異型の塩基配列とし、第2の塩基配列を野生型の塩基配列とする。また、識別対象である多型が、体細胞変異である場合に、第1の塩基配列を変異型とし、第2の塩基配列を正常型の塩基配列とする。なお、多型部位の塩基配列が3種類以上ある多型の場合には、第2の塩基配列は、第1の塩基配列以外のいずれの塩基配列を選択してもよい。
図2は、第1型核酸、第2型核酸、第1型検出用プライマー、及び阻害用オリゴヌクレオチドが存在する溶液中において形成される会合体を模式的に示した図である。第1型検出用プライマー(1)は、第1型核酸(3)とのみならず、多型部位以外の領域において、第2型核酸(4)ともハイブリダイズし得る。一方、溶液中には、第1型検出用プライマー(1)と阻害用オリゴヌクレオチド(2)との会合体も存在する。そして、第1型検出用プライマー(1)と阻害用オリゴヌクレオチド(2)との会合体は、第1型検出用プライマー(1)と第1型核酸(3)との会合体と、これら三者の会合体を介した動的な平衡状態にあると想定される。一方、第1型検出用プライマー(1)と阻害用オリゴヌクレオチド(2)との会合体は、第1型検出用プライマー(1)と第2型核酸(4)との会合体とも動的な平衡状態にある。
本発明の多型の識別方法は、第1型検出用プライマーとハイブリダイズする阻害用オリゴヌクレオチドを用いることにより、図2に示すような平衡状態を形成し、アニーリングステップ等の低温環境下での核酸鎖伸長を抑制し、かつ、第1型以外の他の型の核酸と第1型検出用プライマーとの会合体の不安定化することにより、第1型検出用プライマーを起点とする非特異的な核酸鎖伸長反応を効果的に抑制する結果、多型の識別精度が改善されると推定される。
従来のSSP−PCRでは、多型部位の周辺配列の種類によっては多型の識別が非常に困難な場合もあった。本発明の多型の識別方法は、阻害用オリゴヌクレオチドが、第1型検出用プライマーの多型検出部位以外の部位とハイブリダイズすることにより、識別精度を向上させているため、このような場合であっても効果を発揮することができる。
第1型検出用プライマーの多型検出領域及び共通領域の長さは、図2に示すような第1型検出用プライマー(1)と阻害用オリゴヌクレオチド(2)と第1型核酸(3)との会合体の安定性のほうが、第1型検出用プライマー(1)と阻害用オリゴヌクレオチド(2)との会合体の安定性よりも高くなる長さであれば、特に限定されるものではなく、これら三者の塩基配列、核酸鎖伸長反応の反応条件等を考慮して、適宜決定することができる。具体的には、一般的な反応条件で行う場合には、第1型検出用プライマーの多型検出領域の長さを5塩基以上とし、共通領域の長さを10塩基以上とすることが好ましい。
第1型検出用プライマーと阻害用オリゴヌクレオチドは、非特異的な核酸鎖伸長反応を抑制しつつ、特異的な核酸鎖伸長反応を促進するために、図2に示す各種会合体のうち、第1型検出用プライマーと第1型核酸との会合体の安定性が最も良好になるように、設計することが好ましい。図3は、図2に示した各種会合体の安定性の望ましい関係を模式的に示した図である。非特異的な反応である第1型検出用プライマーと第2型核酸との会合体が最も安定性が低く、目的の特異的反応である第1型検出用プライマーと第1型核酸との会合体が最も安定性を高くする。さらに、第1型検出用プライマーと阻害用オリゴヌクレオチドとの二者会合体と第1型核酸とが別個に存在している場合よりも、第1型検出用プライマーと阻害用オリゴヌクレオチドと第1型核酸との三者会合体のエネルギー準位が低くなり、かつ、この三者会合体よりも、第1型検出用プライマーと第1型核酸との会合体のエネルギー準位が低くなるように設計する。
阻害用オリゴヌクレオチド中の第1型検出用プライマーとハイブリダイズする領域の塩基配列は、第1型検出用プライマー中の共通領域(阻害用オリゴヌクレオチドとハイブリダイズする領域)の塩基配列と、少なくとも1塩基のミスマッチを含む配列であることが好ましい。阻害用オリゴヌクレオチドにミスマッチ塩基を導入することにより、第1型検出用プライマーと阻害用オリゴヌクレオチドと第1型核酸との三者会合体よりも、第1型検出用プライマーと第1型核酸との会合体の安定性をより高くすることができる。
なお、本発明及び本願明細書において、「ミスマッチ」とは、2のオリゴヌクレオチド(又は一本鎖核酸)が、互いにハイブリダイズし会合体を形成する場合に、水素結合による塩基対を形成しない(非相補的な塩基である)ことを意味する。
また、アニーリング条件下では、図2に示すように各種会合体が平衡状態にあり、かつ、核酸鎖伸長反応時には、阻害用オリゴヌクレオチドが第1型検出用プライマーから解離していることが好ましい。阻害用オリゴヌクレオチドを、このように設計することにより、第1型核酸を鋳型とし第1型検出用プライマーを起点とする目的の核酸鎖伸長反応を阻害することなく、非特異的な核酸鎖伸長反応のみを抑制することができるためである。
具体的には、核酸鎖伸長反応が、被検核酸試料中の核酸を一本鎖化する変性ステップ、一本鎖化された核酸と、前記第1型検出用プライマー又は前記阻害用オリゴヌクレオチドとをハイブリダイズさせるアニーリングステップとからなる場合に、前記第1型検出用プライマーと前記阻害用オリゴヌクレオチドとからなる会合体のTm値が、アニーリングステップの温度よりも高く、かつ伸長ステップの温度よりも低くなるように、阻害用オリゴヌクレオチドを設計することが好ましい。
なお、本発明において、検出用プライマーや阻害用オリゴヌクレオチドのTm値は、塩基配列に基づいて、常法により算出することができる。また、VisualOMP(DNA Software社製)等の市販のシミュレーションソフトウェアを用いて算出することもできる。
また、前記阻害用オリゴヌクレオチドは、プライマーとして動作しないオリゴヌクレオチドであることが好ましい。ここで、「プライマーとして動作しない」とは、ポリメラーゼによっても、オリゴヌクレオチドの3’末端の塩基に新たな塩基が結合せず、核酸鎖が伸長しないことを意味する。具体的には、3’末端の塩基をブロッキングすることにより、プライマーとして動作しないオリゴヌクレオチドとすることができる。3’末端の塩基のブロッキング方法は、当該技術分野において公知のいずれの手法を用いて行ってもよい。例えば、阻害用オリゴヌクレオチドの3’末端の3’位の水酸基を水酸基以外の官能基に置換する方法、3’末端の塩基をジデオキシヌクレオチドに置換する方法、3’末端の塩基の3’位に(必要に応じてリンカーを介して)、色素、蛍光物質分子、消光物質分子、又はアミノ基等を結合させる方法等がある。
具体的には、本発明の多型の識別方法は、まず、被検核酸試料中の核酸を鋳型とし、前記第1型検出用プライマー及びポリメラーゼを用いて、前記阻害用オリゴヌクレオチドの存在下で、核酸鎖伸長反応を行う(伸長工程)。
核酸鎖伸長反応は、1回のみ行うものであってもよく、複数回繰り返すものであってもよい。例えば、PCR法のように、変性ステップ、アニーリングステップ、及び伸長ステップとからなるサイクルを、2回以上繰り返すものであってもよい。なお、核酸鎖伸長反応を1回のみ行う場合であっても、蛍光物質等で標識したヌクレオチドを用いることにより、得られた核酸鎖伸長産物を検出するためのシグナルを増幅することができる。
また、核酸鎖伸長反応は、PCRのように、第1型検出用プライマーのような多型特異的なプライマーと、多型非特異的なプライマーとを要する反応であってもよく、SSPCE(Sequence−Specific Primer Cycle Elongation)法(例えば、Current Pharmaceutical Biotechnology、2003年、第4巻、477〜484ページ参照。)のように、第1型検出用プライマーのみを用いる反応であってもよい。
核酸鎖伸長反応の反応条件は、特に限定されるものではなく、使用するポリメラーゼの種類、第1型検出用プライマー、阻害用オリゴヌクレオチドのTm値等を考慮して、適宜決定することができる。
また、核酸鎖伸長反応に用いられるポリメラーゼ、ヌクレオチド、バッファー等の試薬は、特に限定されるものではなく、通常核酸鎖伸長反応を行う場合に用いられるものを、通常用いられる量で用いることができる。
本発明の核酸鎖伸長反応は、マルチプレックスPCRのように、さらに、前記多型部位の塩基配列が、前記第1の塩基配列とは異なる塩基配列である核酸と、当該多型部位を含む領域においてハイブリダイズする検出用プライマーの存在下で行ってもよい。この第1型検出用プライマー以外の検出用プライマーは、第2型核酸と多型部位を含む領域においてハイブリダイズする第2型検出用プライマーであることが好ましい。その他、多型部位の塩基配列が3種類以上ある多型の場合には、第2の塩基配列及び第1の塩基配列以外の塩基配列である核酸とハイブリダイズする検出用プライマーであってもよい。
なお、第2型検出用プライマーとしては、第1型検出用プライマーと同様、第2型核酸中の当該多型部位を含む部分領域とハイブリダイズし得るものであればよく、第2型核酸の塩基配列と完全に相補的な塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであってもよく、1又は数塩基のミスマッチを有する塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであってもよい。さらに、第2型核酸とハイブリダイズする領域以外にも、5’側に付加的な塩基配列を有するものであってもよく、標識されたものであってもよい。付加的な塩基配列や標識をするための物質は、第1型検出用プライマーと同様のものが挙げられる。
通常、第1型検出用プライマーと第2型検出用プライマーとは、多型識別部位以外の塩基配列の大部分の領域は共通する。このため、阻害用オリゴヌクレオチドは、第1型検出用プライマーと同様に第2型検出用プライマーともハイブリダイズする。つまり、阻害用オリゴヌクレオチドによって、第2型検出用プライマーを起点とする非特異的な核酸鎖伸長反応をも抑制することができる。
本発明において用いられる第1型検出用プライマー、第2型検出用プライマー、及び阻害用オリゴヌクレオチドは、識別対象である多型部位及びその近傍の塩基配列に応じて、常法により設計することができる。例えば、公知のゲノム配列データやSNPデータと、汎用されているプライマー設計ツールを用いて、簡便に設計することができる。公知のゲノム配列データは、通常、国際的な塩基配列データベースであるNCBI(National center for Biotechnology Information)やDDBJ(DNA Data Bank of Japan)等において入手することができる。該プライマー設計ツールとして、例えば、Web上で利用可能なPrimer3(Rozen, S., H.J. Skaletsky、1996年、http: //www−genome.wi.mit.edu/genome_software/other/primer3. html)や、Visual OMP(DNA Software社製)等がある。
このようにして設計したプライマー等は、当該技術分野においてよく知られている方法のいずれを用いても合成することができる。例えば、オリゴ合成メーカーに合成をされ依頼してもよく、市販の合成機を用いて独自に合成してもよい。
次いで、この伸長工程において、第1型検出用プライマーが伸長されたか否かにより、前記被検核酸試料中に含まれている核酸の多型を識別する(識別工程)。すなわち、第1型検出用プライマーを起点とする核酸鎖伸長産物が検出された場合には、被検核酸試料中には、第1型核酸が含まれている、と判断することができる。
例えば、識別対象である多型が、野生型と変異型の2種類の多型を有するSNPであり、第1の塩基配列を変異型の塩基配列とし、第2の塩基配列を野生型の塩基配列とした場合に、第1型検出用プライマーの核酸鎖伸長産物が検出された場合には、被検核酸試料中の核酸には、変異型アレルが含まれており、当該被検核酸試料が回収された個体は、変異型アレルのホモ型又はヘテロ型であると識別することができる。一方、識別対象である多型が体細胞変異であり、第1の塩基配列を変異型とし、第2の塩基配列を正常型の塩基配列とした場合に、第1型検出用プライマーの核酸鎖伸長産物が検出された場合には、被検核酸試料中の核酸には変異型核酸が含まれており、当該被検核酸試料が回収された個体は、体細胞変異が起こっていると判断できる。
識別工程における核酸鎖伸長産物の検出方法は、特に限定されるものではなく、核酸鎖伸長産物の定量的測定に用いられる公知の方法の中から、適宜選択して行うことができる。例えば、塩基長の差異を利用して、電気泳動法やカラムクロマトグラフィー法により分離して検出してもよく、TOF−MS等の質量分析法により検出してもよい。
検出用プライマーとして、予め標識物質で標識されたものを用いた場合には、当該標識物質から発されるシグナルを指標として検出することができる。例えば、検出用プライマーが、蛍光物質により標識されたプライマーである場合には、核酸鎖伸長産物量と未反応のプライマー量の比率を、蛍光相関分光法(Fluorescence Correlation Spectroscopy、以下、FCSという。)、蛍光強度分布解析法(Fluorescence Intensity Distributiion Analysis、以下、FIDAという。)、及び蛍光偏光解析法(FIDA−polarization、以下、FIDA−POという。)からなる群より選択される1以上を用いて測定することができる。そして、この核酸鎖伸長産物量と未反応のプライマー量の比率から、核酸鎖伸長産物を検出することができる。
さらに、本発明の多型の識別方法において用いられる第1型検出用プライマーと阻害用オリゴヌクレオチドとをキット化することにより、より簡便に本発明の多型の識別方法を行うことができる。なお、当該キットには、その他に、核酸鎖伸長反応に用いられる酵素、反応溶液を調製するためのバッファー、ヌクレオチド等の試薬を含めてもよい。
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
阻害用オリゴヌクレオチド存在下、又は非存在下で、SSP−PCRを行うことにより、本発明の多型の識別方法の多型の識別精度を検証した。
具体的には、腫瘍細胞において高頻度に検出される多型であるEGFR(epidermal growth factor receptor)遺伝子の746〜750番目のアミノ酸が欠損した変異(以下、「EGFR_Exon_19_Del」と表記する。)を、本発明の多型の識別方法を用いて識別し、その精度を調べた。図4に、EGFR遺伝子の、野生型(Wt)及び変異型(Mt)における当該多型部位の周囲の塩基配列のアラインメントを示す。変異型は、15塩基が欠損している。
<検出用プライマー及び阻害用オリゴヌクレオチドの作製>
図4に示す塩基配列に基づき、野生型核酸を検出するための野生型検出用プライマー、変異型核酸を検出するための変異型検出用プライマー、及び阻害用オリゴヌクレオチドを設計し作製した。表1にそれぞれの塩基配列を示す。なお、表中「Y」は、T(チミン)又はC(シトシン)を示す。
具体的には、3’末端から7〜8塩基目が多型検出部位(3’末端から7塩基目が野生型遺伝子の750番目のアミノ酸のコドンの第1塩基に相当する塩基と、3’末端から8塩基目が野生型遺伝子の746番目のアミノ酸のコドンの第3塩基に相当する塩基と、それぞれハイブリダイズする部位)となり、かつ、3’末端から8塩基目よりも5’側(9塩基目以降)が共通領域(阻害用オリゴヌクレオチドとハイブリダイズする領域)となるように変異型検出用プライマー(2nd PCR Primer Mt)を設計した。当該変異型検出用プライマーの5’末端の塩基には、蛍光物質ATTO647N(ATTO−TEC GmbH社製)を結合させ、蛍光標識プライマーとした(シグマジェノシス社製、HPLCグレード)。
また、3’末端から6〜22塩基目が多型検出部位となるように野生型検出用プライマー(2nd PCR Primer Wt)を設計した。当該野生型検出用プライマーの5’末端の塩基には、蛍光物質TAMRAを結合させた(シグマジェノシス社製、HPLCグレード)。
一方、変異型検出用プライマーの共通領域とハイブリダイズするように、阻害用オリゴヌクレオチドを設計し作製した。阻害用オリゴヌクレオチドは、変異型検出用プライマーの共通領域と完全に相補的なもの{Inhibitor Oligo(−)}と、1塩基のミスマッチを含むもの{Inhibitor Oligo(+)}の2種類を作成した。表1の「Inhibitor Oligo(+)」の配列中の下線を付した塩基がミスマッチ部位である。これらは、プライマーとして機能しないように、3’末端の塩基の水酸基をアミノ基で修飾した(シグマジェノシス社製、カートリッジ精製)。
Figure 0005687414
<標準被検核酸試料の調製>
本発明の多型の識別方法を用いた場合のEGFR_Exon_19_Delの識別精度を検証するため、変異型核酸と野生型核酸の含有割合が既知の標準挽被検核酸試料を調製した。
まず、変異型核酸と野生型核酸を、変異型核酸の含有割合(変異型核酸と野生型核酸の総量に対する変異型核酸量の割合)がそれぞれ、0%、4%、50%、及び100%となるようにそれぞれ混合し、変異型核酸含有割合が既知の標準被検核酸試料系列を調製した。なお、標準被検核酸試料の調製に用いた変異型核酸及び野生型核酸は、表2に示す2種類のプライマー(1stPCR−Primer1及び1stPCR−Primer2、いずれもシグマジェノシス社製、脱塩グレード)を用いて、図5に示す塩基配列(「Wtの1stPCR産物」及び「Mtの1stPCR産物」)をそれぞれ有する核酸を鋳型としてPCR増幅し、得られた増幅産物の塩基配列を確認した後、プラスミドに導入したものを、それぞれ用いた。
Figure 0005687414
図5の「Wtの1stPCR産物」及び「Mtの1stPCR産物」の両末端の下線部は、各PCR産物中の表2に示す2種類のプライマー由来の領域を示す。また、「Wtの1stPCR産物」中の四角で囲まれた領域は、野生型検出用プライマー(2nd PCR Primer Wt)がハイブリダイズする領域を示す。また、「Mtの1stPCR産物」中の四角で囲まれた領域は、変異型検出用プライマー(2nd PCR Primer Mt)がハイブリダイズする領域を、波線が付された領域が、阻害用オリゴヌクレオチド(Inhibitor Oligo)が変異型検出用プライマーとハイブリダイズする領域を、それぞれ示す。
<1stPCR>
一般的な遺伝子検査においては、テンプレート量を十分量とするため、多型部位を含むゲノム断片を予め増幅し、得られた増幅産物を鋳型としてSSP−PCR等の多型を識別するための核酸鎖伸長反応を行う。
本実施例においても同様にテンプレート量を十分量とするため、調製した標準被検核酸試料をテンプレートとし、1stPCR−Primer1及び1stPCR−Primer2を用いてPCRを行い、変異型核酸及び野生型核酸を増幅させた。なお、同じプライマーを用いているため、該増幅処理によっては、各試料中の変異型核酸の含有割合に影響はない。
具体的には、10μLの2×AmpliTaq Gold Master Mix(ABI社製)に、2μLの標準被検核酸試料(20ng/μL)をそれぞれ添加し、さらに、最終濃度が0.1μMとなるように1stPCR−Primer1と1stPCR−Primer2とをそれぞれ添加し、純水で最終容量が20μLとなるように調製したものを、反応溶液とした。該反応溶液を、95℃で10分間処理した後、95℃で30秒間、52℃で30秒間、72℃で30秒間を40サイクル行い、さらに72℃で10分間処理する工程からなる反応条件によりPCR増幅を行った。PCR反応後のPCR反応溶液を、増幅処理後の被検核酸試料(増幅後被検核酸試料)とした。
<2ndPCR(SSP−PCR)>
1stPCRにより増幅処理された増幅後被検核酸試料を鋳型とし、阻害用オリゴヌクレオチド存在下、又は非存在下で、SSP−PCRを行った。DNAポリメラーゼとして、Stoffel Fragment(Applied Biosystems社製)を用いた。
具体的には、阻害用オリゴヌクレオチド存在下における反応は、2μLの10×Buffer(Applied Biosystems社製)に、1μLの増幅後被検核酸試料をそれぞれ添加し、さらに、最終濃度がそれぞれ0.01μMとなるように変異型検出用プライマー、野生型検出用プライマー、及び阻害用オリゴヌクレオチドを添加し、さらに1.6μLのdNTP Blend(10mM、TaKaRa社製)、2μLの25mM MgCl及び0.8μLのStoffel Fragment(Applied Biosystems社製)を加え、純水で最終容量が20μLとなるように調製したものを反応溶液とした。これらの反応溶液を、95℃で2分間処理した後、95℃で30秒間、62℃で30秒間、72℃で30秒間を40サイクル行い、さらに72℃で10分間処理する工程からなる反応条件によりSSP−PCRを行った。
一方、上記反応溶液において、阻害用オリゴヌクレオチドに代えて等量の純水を添加したものを、阻害用オリゴヌクレオチド非存在下における反応の反応溶液とした。これらの反応溶液を、95℃で2分間処理した後、95℃で30秒間、62℃で30秒間、72℃で30秒間を40サイクル行い、さらに72℃で10分間処理する工程からなる反応条件によりSSP−PCRを行った。
<プライマー消費率の測定>
2ndPCRで得られたPCR産物を、10mM Tris−HClで10倍に希釈し、蛍光相関分光法(Fluorescence Correlation Spectroscopy、以下、FCSという。)により、2ndPCRによる変異型検出用プライマーと野生型検出用プライマーのそれぞれのプライマーの消費率(K2%)を測定した。
ここで、プライマー消費率は、下記の式により算出される値である。
プライマー消費率 =[核酸鎖伸長産物量]/[初期プライマー量]
=[核酸鎖伸長産物量]/([核酸鎖伸長産物量]+[未反応のプライマー量])
FCSの測定は、蛍光相関分光装置MF−20(Olympus社製)を用いて行った。なお、測定は、1試料につき15秒3回行い、平均値を測定結果とした。測定の結果得られた拡散時間の短い成分を未反応のプライマーとし、拡散時間の長い成分を核酸鎖伸長産物として、両者の比率を求めた後、該比率からプライマーの消費率(K2%)を算出した。
図6は、測定された変異型検出用プライマーの消費率(K2%)を、変異型核酸の含有割合ごとに示した図である。図中、「Pn%」は、鋳型として用いた標準被検核酸試料中の変異型核酸の含有割合がn%であることを意味する。また、「阻害オリゴなし」は、阻害用オリゴヌクレオチドを添加しなかった場合の結果を、「阻害オリゴ入り」は、ミスマッチのない阻害用オリゴヌクレオチド{Inhibitor Oligo(−)}を添加した場合の結果を、「阻害オリゴ入り+ミスマッチ」は、1塩基のミスマッチを含む阻害用オリゴヌクレオチド{Inhibitor Oligo(+)}を添加した場合の結果を、それぞれ示す。
この結果、野生型核酸のみを鋳型とした場合(P0%)においても、阻害用オリゴヌクレオチドを添加しなかった場合には、FCS測定により分子量の大きい分子のシグナルが検出され、変異型検出用プライマーの消費率が10%以上であり、核酸鎖伸長反応産物が生じたことが確認された。これに対して、阻害用オリゴヌクレオチドを添加した場合には、ミスマッチの有無に関わらず、変異型検出用プライマーの消費率は非常に小さかった。
一方、反応溶液中の変異型核酸の含有割合が高くなるにつれて、阻害用オリゴヌクレオチドを添加した場合には、無添加の場合と同様に変異型検出用プライマーの消費率が高くなり、変異型核酸が検出し得ることが確認された。
また、阻害用オリゴヌクレオチドを添加することにより、特異的な核酸鎖伸長反応によるシグナルが減少する傾向が観察されたが、ミスマッチを含む阻害用オリ後ヌクレオチドを用いた場合には、プライマー消費率が非常に高く、よって、阻害用オリ後ヌクレオチドにミスマッチを導入することにより、特異的な核酸鎖伸長反応によるシグナルの減少が低減できることがわかった。
本発明の多型の検出方法を用いることにより、体細胞変異等の非常に高い検出感度が要求される多型も良好に検出することができるため、SNP識別等の遺伝子検査や腫瘍関連の体細胞変異解析等の臨床検査の分野で、特に有用である。
1…第1型検出用プライマー、2…阻害用オリゴヌクレオチド、3…第1型核酸、3t…多型部位、4…第2型核、4t…多型部位、2m…ミスマッチ部位。

Claims (10)

  1. 多型部位を有する核酸の多型を識別する方法であって、
    被検核酸試料中の核酸を鋳型とし、第1型検出用プライマー及びポリメラーゼを用いて、阻害用オリゴヌクレオチドの存在下で、核酸鎖伸長反応を行い、多型部位の塩基配列が第1の塩基配列である核酸のみが伸長される伸長工程と、
    前記伸長工程において、前記第1型検出用プライマーが伸長されたか否かにより、前記被検核酸試料中に含まれている核酸の多型を識別する識別工程と、
    を有し、
    前記第1型検出用プライマーは、多型部位の塩基配列が第1の塩基配列である核酸と、当該多型部位を含む領域においてハイブリダイズするプライマーであり、
    前記阻害用オリゴヌクレオチドは、前記第1型検出用プライマーとハイブリダイズするオリゴヌクレオチドであり、
    前記第1型検出用プライマーにおいて、前記阻害用オリゴヌクレオチドとハイブリダイズする領域は、前記多型部位とハイブリダイズする多型検出部位よりも5’側の領域であり、
    前記第1型検出用プライマー中の前記多型検出部位が、前記第1の塩基配列中の前記多型部位と相補的であることを特徴とする多型の識別方法。
  2. 前記阻害用オリゴヌクレオチド中の、前記第1型検出用プライマーとハイブリダイズする領域の塩基配列は、前記第1型検出用プライマー中の阻害用オリゴヌクレオチドとハイブリダイズする領域の塩基配列と、少なくとも1塩基のミスマッチを含む配列であることを特徴とする請求項1記載の多型の識別方法。
  3. 前記阻害用オリゴヌクレオチドの3’末端の塩基が、プライマーとして動作しないようにブロッキングされていることを特徴とする請求項1又は2記載の多型の識別方法。
  4. 前記第1型検出用プライマー中の、前記阻害用オリゴヌクレオチドとハイブリダイズする領域よりも3’側の領域の長さが、5塩基以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の多型の識別方法。
  5. 前記第1型検出用プライマー中の、前記阻害用オリゴヌクレオチドとハイブリダイズする領域の長さが、10塩基以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載の多型の識別方法。
  6. 前記核酸鎖伸長反応が、被検核酸試料中の核酸を一本鎖化する変性ステップ、一本鎖化された核酸と、前記第1型検出用プライマー又は前記阻害用オリゴヌクレオチドとをハイブリダイズさせるアニーリングステップ、前記第1型検出用プライマーを起点として核酸鎖を伸長させる伸長ステップとからなり、
    前記第1型検出用プライマーと前記阻害用オリゴヌクレオチドとからなる会合体のTm値が、前記アニーリングステップの温度よりも高く、前記伸長ステップの温度よりも低いことを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載の多型の識別方法。
  7. 前記第1型検出用プライマーの、前記多型部位とハイブリダイズする多型検出部位が、3’末端にあることを特徴とする請求項1〜5のいずれか記載の多型の識別方法。
  8. 前記核酸鎖伸長反応が、前記変性ステップ、前記アニーリングステップ、及び前記伸長ステップとからなるサイクルを、2回以上繰り返すことを特徴とする請求項6又は7記載の多型の識別方法。
  9. 前記多型部位の塩基配列が、前記第1の塩基配列とは異なる塩基配列である核酸と、当該多型部位を含む領域においてハイブリダイズする検出用プライマーの存在下で、前記核酸鎖伸長反応を行うことを特徴とする請求項1〜8のいずれか記載の多型の識別方法。
  10. 多型部位を有する核酸の多型の識別に用いられるキットであって、第1型検出用プライマー及び阻害用オリゴヌクレオチドを含み、
    前記第1型検出用プライマーは、多型部位の塩基配列が第1の塩基配列である核酸と、当該多型部位を含む領域においてハイブリダイズするプライマーであり、
    前記阻害用オリゴヌクレオチドは、前記第1型検出用プライマーとハイブリダイズするオリゴヌクレオチドであり、
    前記第1型検出用プライマーにおいて、前記阻害用オリゴヌクレオチドとハイブリダイズする領域は、前記多型部位とハイブリダイズする多型検出部位よりも5’側の領域であり、
    前記第1型検出用プライマー中の前記多型検出部位が、前記第1の塩基配列中の前記多型部位と相補的であり、
    前記第1型検出用プライマーを用いて、前記阻害用オリゴヌクレオチドの存在下で核酸鎖伸長反応を行った場合に、多型部位の塩基配列が第1の塩基配列である核酸のみが伸長されることを特徴とする、多型識別用キット。
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