JP5684894B2 - 真空ポンプ、真空排気装置及び真空ポンプの運転方法 - Google Patents

真空ポンプ、真空排気装置及び真空ポンプの運転方法 Download PDF

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Description

本発明は、駆動力の伝達にマグネットカップリングが用いられる真空ポンプ、真空排気装置及び真空ポンプの運転方法に関する。
メカニカルブースタポンプは、ケーシング内に配置された二つのマユ型ロータを互いに反対方向に同期回転させることで吸気口から排気口へ気体を移送する、容積移送型の真空ポンプである。メカニカルブースタポンプは、両ロータ間および各ロータとケーシングとの間での接触がないため、機械的損失が非常に少なく、例えば油回転真空ポンプのような摩擦仕事の大きい真空ポンプに比べて、駆動に要するエネルギーを少なくできるという利点を有する。
メカニカルブースタポンプは、両ロータを収容するポンプ室内において潤滑油を必要としないため油による真空の汚染が少ない。一方、ポンプの運転上、両ロータの回転位相や各ロータの軸の中心を常に正確に維持するため、各ロータを同期回転させるためのギヤ、各ロータの回転軸を支持するベアリングなどに対して潤滑が必要となる。このため、上記ギヤを収容するギヤ室に潤滑油を溜めておき、運転時に各部の潤滑を行うようにしている。
ところが、排気口の圧力の上昇によりケーシングからモータを収容するモータ室へ空気漏れや軸シールの油漏れが生じるおそれがある。このような問題は、ポンプの駆動初期、特に真空チャンバを大気圧から真空排気する場合に起こりやすい。そこで、ケーシング内部とモータ室との間を区画し、モータとロータとをマグネットカップリングにより結合することで、ケーシング内部とモータ室との気密性を確保した真空ポンプが知られている(例えば下記特許文献1参照)。
特開平6−185483号公報
しかしながら、マグネットカップリング構造を有するメカニカルブースタポンプにおいては、モータの負荷トルクが過大になると、モータとロータとの磁気的結合が解除される現象(脱調)が生じる。脱調が生じると、もはや適正なポンプ動作は不可能となるため、ポンプの動作を一旦停止させた後、再起動させる必要がある。したがって、脱調が繰り返し発生すると、被排気系の排気操作に多大な時間を要することになる。
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、脱調を生じさせることなく安定した排気動作を実現することができる真空ポンプ、真空排気装置及び真空ポンプの運転方法を提供することにある。
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る真空ポンプは、ポンプ部と、駆動部と、マグネットカップリングと、コントローラとを具備する。
上記ポンプ部は、吸気口と排気口とを有するポンプ室と、上記ポンプ室に配置され、上記吸気口から上記排気口へ気体を移送するロータとを含む。
上記駆動部は、上記ポンプ室に隣接するモータ室と、上記モータ室に配置され上記ロータを回転させる駆動モータとを含む。
上記マグネットカップリングは、仕切り部材と、第1の磁石と、第2の磁石とを含む。上記仕切り部材は、上記ポンプ室と上記モータ室とを気密に区画する。上記第1の磁石は、上記ロータに取り付けられる。上記第2の磁石は、上記駆動モータに取り付けられ、上記仕切り部材を介して上記第1の磁石と磁気的に結合する。上記マグネットカップリングは、上記駆動モータの回転力を上記ロータへ第1の閾値以下の回転トルクで伝達するように構成される。
上記コントローラは、検出部と、回転制御部とを含む。上記検出部は、上記駆動モータの負荷トルクを検出する。上記回転制御部は、上記駆動モータの回転数を制御する。上記コントローラは、上記負荷トルクが上記第1の閾値よりも小さい第2の閾値以下のときは上記駆動モータの回転数を増加させ、上記負荷トルクが上記第2の閾値を超え上記第1の閾値以下のときは上記駆動モータの回転数を減少させる。
本発明の一形態に係る真空排気装置は、第1の真空ポンプと、第2の真空ポンプと、コントローラとを具備する。
上記第1の真空ポンプは、ポンプ室と、ロータと、駆動モータと、マグネットカップリングとを含む。上記ポンプ室は、吸気口及び排気口を有する。上記ロータは、上記ポンプ室内に配置され上記吸気口から上記排気口へ気体を移送する。上記マグネットカップリングは、上記駆動モータの回転力を上記ロータへ第1の閾値以下の回転トルクで伝達するように構成される。
上記第2の真空ポンプは、上記排気口に移送された気体を排気する。
上記コントローラは、検出部と、回転制御部とを含む。上記検出部は、上記駆動モータの負荷トルクを検出する。上記回転制御部は、上記駆動モータの回転数を制御する。上記コントローラは、上記負荷トルクが上記第1の閾値よりも小さい第2の閾値以下のときは上記駆動モータの回転数を増加させ、上記負荷トルクが上記第2の閾値を超え上記第1の閾値以下のときは上記駆動モータの回転数を減少させる。
本発明の一形態に係る真空ポンプの運転方法は、ロータと、駆動モータと、上記駆動モータの回転力を上記ロータへ第1の閾値以下の回転トルクで伝達するように構成されたマグネットカップリングとを含む真空ポンプの運転方法である。
上記運転方法は、上記モータの負荷トルクを検出することを含む。
上記負荷トルクが上記第1の閾値よりも小さい第2の閾値以下のときは、上記駆動モータの回転数が増加させられる。
上記負荷トルクが上記第2の閾値を超え上記第1の閾値以下のときは、上記駆動モータの回転数が減少させられる。
本発明の一実施形態に係る真空排気装置の概略構成図である。 本発明の一実施形態に係る真空ポンプの概略断面図である。 上記真空ポンプのポンプ部の詳細を示す断面図である。 上記真空ポンプの運転方法を説明するフローチャートである。 上記真空ポンプの負荷トルク及びモータ回転数の関係を示すタイミングチャートである。 上記真空ポンプの回転数変化、吸気側圧力及び排気側圧力の時間変化を示す一実験結果である。
本発明の一実施形態に係る真空ポンプは、ポンプ部と、駆動部と、マグネットカップリングと、コントローラとを具備する。
上記ポンプ部は、吸気口と排気口とを有するポンプ室と、上記ポンプ室に配置され、上記吸気口から上記排気口へ気体を移送するロータとを含む。
上記駆動部は、上記ポンプ室に隣接するモータ室と、上記モータ室に配置され上記ロータを回転させる駆動モータとを含む。
上記マグネットカップリングは、仕切り部材と、第1の磁石と、第2の磁石とを含む。上記仕切り部材は、上記ポンプ室と上記モータ室とを気密に区画する。上記第1の磁石は、上記ロータに取り付けられる。上記第2の磁石は、上記駆動モータに取り付けられ、上記仕切り部材を介して上記第1の磁石と磁気的に結合する。上記マグネットカップリングは、上記駆動モータの回転力を上記ロータへ第1の閾値以下の回転トルクで伝達するように構成される。
上記コントローラは、検出部と、回転制御部とを含む。上記検出部は、上記駆動モータの負荷トルクを検出する。上記回転制御部は、上記駆動モータの回転数を制御する。上記コントローラは、上記負荷トルクが上記第1の閾値よりも小さい第2の閾値以下のときは上記駆動モータの回転数を増加させ、上記負荷トルクが上記第2の閾値を超え上記第1の閾値以下のときは上記駆動モータの回転数を減少させる。
上記真空ポンプにおいて、駆動モータは、第1の閾値以下の回転トルクでロータへ回転力を伝達させる。第1の閾値は、マグネットカップリングが脱調することなく駆動モータとロータとを同期回転させることができる回転トルクに相当する。マグネットカップリングの脱調は、ロータの回転負荷が駆動モータの回転負荷を上回ることで発生し、例えば、ポンプの駆動初期時に排気口の圧力(背圧)が過度に上昇したときに起こり易い。上記真空ポンプは、駆動モータの負荷トルクに第1及び第2の閾値を設定し、検出された負荷トルクの大きさに応じて駆動モータの回転数を制御することで、マグネットカップリングの脱調を生じさせることなく安定した排気動作を実現するようにしている。これにより例えば大気圧から所定の減圧雰囲気まで安定した排気動作を実現することができる。
上記コントローラは、上記負荷トルクが上記第1の閾値を超えたときは上記駆動モータをフリーランの状態としてもよい。
検出された負荷トルクが第1の閾値を超えたとき、マグネットカップリングは脱調する可能性が高い。そこで上記真空ポンプにおいては、駆動モータの負荷トルクが第1の閾値を超えたときは、駆動モータの励磁を遮断し惰性で回転させるフリーランの状態とする。これによりマグネットカップリングの脱調状態を早期に解消することができる。
本発明の一実施形態に係る真空排気装置は、第1の真空ポンプと、第2の真空ポンプと、コントローラとを具備する。
上記第1の真空ポンプは、ポンプ室と、ロータと、駆動モータと、マグネットカップリングとを含む。上記ポンプ室は、吸気口及び排気口を有する。上記ロータは、上記ポンプ室内に配置され上記吸気口から上記排気口へ気体を移送する。上記マグネットカップリングは、上記駆動モータの回転力を上記ロータへ第1の閾値以下の回転トルクで伝達するように構成される。
上記第2の真空ポンプは、上記排気口に移送された気体を排気する。
上記コントローラは、検出部と、回転制御部とを含む。上記検出部は、上記駆動モータの負荷トルクを検出する。上記回転制御部は、上記駆動モータの回転数を制御する。上記コントローラは、上記負荷トルクが上記第1の閾値よりも小さい第2の閾値以下のときは上記駆動モータの回転数を増加させ、上記負荷トルクが上記第2の閾値を超え上記第1の閾値以下のときは上記駆動モータの回転数を減少させる。
上記真空排気装置において、第2の真空ポンプは、第1の真空ポンプの背圧を排気する補助ポンプとしての機能を有する。典型的には、第2の真空ポンプの排気量は、第1の真空ポンプの排気量よりも小さい。そこで第1の真空ポンプは、駆動モータの負荷トルクに第1及び第2の閾値を設定し、検出された負荷トルクの大きさに応じて駆動モータの回転数を制御する。これによりマグネットカップリングの脱調を生じさせることなく安定した排気動作を実現することができる。
本発明の一実施形態に係る真空ポンプの運転方法は、ロータと、駆動モータと、上記駆動モータの回転力を上記ロータへ第1の閾値以下の回転トルクで伝達するように構成されたマグネットカップリングとを含む真空ポンプの運転方法である。
上記運転方法は、上記モータの負荷トルクを検出することを含む。
上記負荷トルクが上記第1の閾値よりも小さい第2の閾値以下のときは、上記駆動モータの回転数が増加させられる。
上記負荷トルクが上記第2の閾値を超え上記第1の閾値以下のときは、上記駆動モータの回転数が減少させられる。
上記真空ポンプの運転方法においては、駆動モータの負荷トルクに第1及び第2の閾値が設定され、検出された負荷トルクの大きさに応じて駆動モータの回転数が制御される。これによりマグネットカップリングの脱調を生じさせることなく安定した排気動作を実現することができる。
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る真空排気装置を示す概略構成図である。本実施形態の真空排気装置10は、第1の真空ポンプ1と、第2の真空ポンプ11とを有する。
第1の真空ポンプ1の吸気口は、真空バルブVを介してチャンバCに接続され、第1の真空ポンプ1の排気口は、第2の真空ポンプ11の吸気口に接続されている。第1の真空ポンプ1は、チャンバCの内部空間を排気するメインポンプとして機能し、本実施形態ではメカニカルブースタポンプで構成されている。一方、第2の真空ポンプ11は、第1の真空ポンプ1の背圧を排気する補助ポンプとして機能する。第2の真空ポンプ11の種類は特に限定されず、例えば、ロータリポンプが用いられるが、これ以外にも、ダイアフラムポンプやスクロールポンプ等のドライポンプが用いられてもよい。
次に、第1の真空ポンプ1の詳細について説明する。
図2は、第1の真空ポンプ1を示す概略断面図である。図3は、ポンプ部の内部構成を示す断面図である。各図においてX軸方向およびY軸方向は相互に直交する水平方向をそれぞれ示しており、Z軸方向はこれらに直交する鉛直方向(重力方向)を示している。
第1の真空ポンプ1は、単段のメカニカルブースタポンプで構成されている。第1の真空ポンプ1は、ポンプ部2と、駆動部3と、回転伝達部4とを有する。
ポンプ部2は、ポンプ室23を形成する第1のケーシング20を有する。第1のケーシング20は、図示しない真空チャンバに連絡する吸気口201と、後段のポンプ装置(例えばロータリポンプ)に連絡する排気口202とを有する。吸気口201および排気口202はそれぞれポンプ室23と連通している。ポンプ室23は、第1のケーシング20と、第1のケーシング20の両側に気密に取り付けられた隔壁24,25とによって画定される。
ポンプ部2は、一対のロータ21,22を有する。ロータ21,22は、Y軸方向に平行に延びる回転軸210,220をそれぞれ有する。ロータ21,22はマユ(繭)型の断面を有し、図3に示すように相互に近接配置されてポンプ室23に収容されている。これらロータ21,22の間、ロータ21,22と第1のケーシング20との間、およびロータ21,22と隔壁24,25との間には、それぞれ僅かな隙間(例えば0.02〜0.04mm程度)が保たれている。
回転軸210,220は隔壁24,25をそれぞれ貫通しており、回転軸210,220の一方の端部は、駆動部3内のモータ室33に位置している。そして、回転軸210,220の他方の端部は、回転伝達部4内のギヤ室43に位置している。
駆動部3は、隔壁24に気密に取り付けられた第2のケーシング30を有し、モータ室33は第2のケーシング30の内部に形成される。隔壁24のモータ室33側には回転軸210,220を回転自在に支持するベアリング31および軸シール32がそれぞれ設置されている。
モータ室33は、第1の脱気通路P1を介してポンプ室23と連通している。これによりモータ室33は、第1の脱気通路P1を介して脱気可能とされ、真空ポンプ1の作動時、ポンプ室23の圧力と均一化される。本実施形態において第1の脱気通路P1は、隔壁24をY軸方向に貫通する通路で形成されている。
駆動部3は、ロータ21の回転軸210を回転させる駆動モータ35を有する。駆動モータ35は、第2のケーシング30に固定されているとともに、マグネットカップリング機構50を介して回転軸210と連結される駆動軸350を有する。駆動モータ35は、例えばDCブラシレスモータで構成され、後述するコントローラ60によって駆動軸350の回転数あるいは回転速度が制御される。
マグネットカップリング機構50は、回転軸210の周囲に固定された環状の内周側磁石51と、駆動軸350の周囲に固定された環状の外周側磁石52とを有し、これら磁石51,52の間の磁気結合によって、回転軸210と駆動軸350とを相互に連結する。
内周側磁石51は、回転軸210の先端に固定された支持部材53の外周部に配置され、外周側磁石52は、駆動軸350に固定された支持部材54の内周部に配置されている。内周側磁石51と外周側磁石52は、仕切り部材55を介して相互に対向している。仕切り部材55の周縁部は、第2のケーシング30の内周面に形成された環状凸部30aに気密に固定されている。内周側磁石51が配置されるモータ室33と、外周側磁石52が配置される大気室34とが、仕切り部材55によって隔離される。
回転伝達部4は、隔壁25に気密に取り付けられた第3のケーシング40を有し、ギヤ室43は第3のケーシング40の内部に形成される。隔壁25のギヤ室43側には回転軸210,220を回転自在に支持するベアリング45および軸シール46がそれぞれ設置されている。
第3のケーシング40は、ロータ21,22を相互に逆方向へ同期回転させるギヤ機構を収容するギヤ室43を形成する。上記ギヤ機構は、回転軸210の端部に固定された同期ギヤ41と、回転軸220の端部に固定された同期ギヤ42とを有する。これにより、モータ35の駆動により一方の回転軸210がその軸まわりに回転すると、同期ギヤ41,42を介して他方の回転軸220に回転力が伝達される。このとき回転軸220は、回転軸210とは逆の方向に回転される。
ギヤ室43には、ギヤ機構を潤滑するための潤滑油Gが貯留される。同期ギヤ41,42の先端には、潤滑油Gをかき上げるプレート47が固定されており、同期ギヤ41,42とともに回転することで潤滑油Gを同期ギヤ41,42、ベアリング45等へ供給する。これによりロータ21,22をその相対位置を維持しつつ適正に回転させることができる。第3のケーシング40には、ギヤ室43における潤滑油Gの貯留量を確認するための窓44が設けられている。そしてギヤ室43には、同期ギヤ41,42の回転による潤滑油Gの飛散を抑えるために、シールド48が設けられている。シールド48は、同期ギヤ41,42の上部を覆うように隔壁25に取り付けられた略平板形状を有する。
ギヤ室43は、第2の脱気通路P2を介してモータ室33と連通している。これによりギヤ室43は、第2の脱気通路P2を介して脱気可能とされ、真空ポンプ1の作動時、モータ室33およびポンプ室23の圧力と均一化される。
本実施形態において第2の脱気通路P2は、第3のケーシング40、隔壁25、第1のケーシング20および隔壁24を介してギヤ室43をモータ室33へ連通させる。第2の脱気通路P2は主として、第1のケーシング20、隔壁24,25をY軸方向に貫通する主通路部P21と、第3のケーシング40に形成された連絡通路部P22とにより形成される。なお第2のケーシング30にも同様な連絡通路部を形成することで、主通路部P21とモータ室33とを相互に接続してもよい。
第1の真空ポンプ1は、コントローラ60をさらに有する。コントローラ60は、駆動モータ35の負荷トルクを検出する検出部61と、駆動モータ35の回転数を制御する回転制御部62とを有する。コントローラ60は、典型的には、演算部、メモリ等を含むコンピュータによって構成されており、例えば駆動部3と一体的に組み込まれてもよい。
検出部61は、マグネットカップリング機構50を介してロータ21を回転させる駆動モータ35の負荷トルクを検出する。負荷トルクの検出方法は特に限定されず、公知の手法を採用することができる。例えば、駆動モータ35の固定子に巻回された励磁コイルに直列に接続された検出用コイルの両端電圧を測定することで、駆動モータ35の負荷トルクを検出することができる。
回転制御部62は、駆動モータ35の回転数を制御する。回転数の制御方式も特に限定されず、典型的には、モータの誘導起電力を制御することで回転数を制御する。本実施形態では、回転制御部62はインバータを含む。インバータの形式も特に限定されず、例えばPWM(パルス幅変調方式)が採用される。
コントローラ60は、検出部61の出力に基づいて、駆動モータ35の回転数を制御する。すなわちコントローラ60は、駆動モータ35の負荷トルクが第1の閾値(Th1)よりも小さい第2の閾値(Th2)以下のときは、駆動モータ35の回転数を増加させる。またコントローラ60は、駆動モータ35の負荷トルクが第2の閾値(Th2)を超え、かつ、第1の閾値(Th1)以下のときは、駆動モータ35の回転数を減少させる。
ここで、第1の閾値(Th1)は、マグネットカップリング機構50に脱調を生じさせずにロータ21を回転させることが可能な駆動モータ35の最大駆動トルクをいう。マグネットカップリング機構50の脱調とは、内周側磁石51と外周側磁石52との磁気結合が開放されることを意味し、駆動モータ35の駆動軸350とロータ21の回転軸210とを同期回転させることができない状態をいう。
第1の閾値(Th1)は、マグネットカップリング機構50の磁気結合力、第1の真空ポンプ1の排気量[Pa/m3/s]、第2の真空ポンプ11の排気量[Pa/m3/s]、第1の真空ポンプ1の動作圧力等を考慮して決定される。すなわち脱調が生じる負荷トルク(脱調トルク)は、モータの回転数、ポンプの背圧(排気口側の圧力)等によって変化するため、上記諸条件を考慮して、第1の閾値(Th1)が設定される。本実施形態では第1の閾値(Th1)は0.8N・mである。
第2の閾値(Th2)は、第1の閾値(Th1)よりも小さい適宜の値に設定される。コントローラ60は、駆動モータ35の負荷トルクが第2の閾値(Th2)以下のときは、駆動モータ35の回転数を増加させ、上記負荷トルクが第2の閾値(Th2)を超え第1の閾値(Th1)以下のときは駆動モータ35の回転数を減少させる。すなわち本実施形態では、第1の閾値(Th1)よりも小さい第2の閾値(Th2)を基準に駆動モータ35の回転数を減少させることで、マグネットカップリング機構50の脱調を確実に防止し、安定した排気動作を実現するようにしている。第2の閾値(Th2)は適宜設定可能であり、本実施形態では第2の閾値(Th2)は0.55N・mである。
第2の閾値(Th2)は、駆動モータ35の定格トルクとすることができる。これにより駆動モータ35を効率よく駆動することができ、消費電力の低減も図ることができる。なお第2の閾値(Th2)は、駆動モータ35の定格トルクと同一の値に設定される場合に限られず、例えば定格回転数での負荷トルクの変動を考慮して、上記定格トルクよりも若干大きな値に設定されてもよい。
コントローラ60はまた、駆動モータ35の負荷トルクが第1の閾値(Th1)を超えたときは駆動モータ35をフリーランの状態とする。検出された負荷トルクが第1の閾値を超えたとき、マグネットカップリングは脱調する可能性が高い。そこで上記真空ポンプにおいては、駆動モータの負荷トルクが第1の閾値を超えたときは、駆動モータの励磁を遮断し惰性で回転させるフリーランの状態とする。これによりマグネットカップリングの脱調状態を早期に解消することができる。
次に、本実施形態の真空排気装置10の動作について説明する。
図1を参照して、チャンバCの内部は大気圧であり、真空バルブVは開放されている。この状態で、第1の真空ポンプ1及び第2の真空ポンプ11は、同時に駆動される。
第1の真空ポンプ1においては、モータ35の作動により、マグネットカップリング機構50を介して駆動軸350と共に回転軸210が回転することで、ポンプ室23内においてロータ21が回転する。また回転軸210の回転力は、回転伝達部4においてロータ22の回転軸220に伝達され、これによりロータ22は、ロータ21と同期して、ロータ21とは逆方向に回転する。これらロータ21,22の回転により、ポンプ部2は、吸気口201より吸入されたガスを排気口202へ向けて排出する所定のポンプ作用を行う。
このときコントローラ60は、駆動モータ35を第1の閾値(Th1)以下の回転トルクで回転させ、マグネットカップリング機構50を介してロータ21へ回転力を伝達する。第1の閾値(Th1)は、マグネットカップリング機構50が脱調することなく駆動モータ35とロータ21とを同期回転させることができる回転トルクに相当する。
モータ室33およびギヤ室43は、ポンプ室23の圧力の低下に伴って、第1および第2の脱気通路P1,P2を介して減圧される。これによりポンプ室23と、ポンプ室23に隣接するモータ室33およびギヤ室43との間の差圧が小さくなるため、ポンプ室23のリークによるポンプ性能の低下が防止される。
第2の真空ポンプ11は、第1の真空ポンプ1の駆動時は常に駆動される。第2の真空ポンプ11は、第1の真空ポンプ1の背圧、すなわち排気口202に移送された気体を排気する。
真空排気装置10の起動初期時、第1の真空ポンプ1は、大気圧下のチャンバCを排気する。このため、第1の真空ポンプ1の排気口202には大気圧以上の圧力に達し得る。このときポンプ室23内の気体がモータ室33へ逆流するが、マグネットカップリング機構50の仕切り部材55がモータ室33側と駆動モータ35側とを気密に仕切っているため、軸シール等のための潤滑油が駆動モータ35側へ流出することなく、したがってポンプ外部への潤滑油の漏出が防止される。
一方、真空排気装置10の起動初期時においては、第1の真空ポンプ1の背圧が比較的大きいため、ロータ21の回転負荷が駆動モータ35の回転負荷を上回ることで、マグネットカップリング機構50の脱調が発生しやすい。そこでコントローラ60は、以下のようにして駆動モータ35の回転数を制御する。
図4は、コントローラ60による駆動モータ35の制御フローである。図5は、駆動モータ35の負荷トルクと回転数の時間変化の一例を示すタイミングチャートである。
コントローラ60は、検出部61の出力に基づいて駆動モータ35の負荷トルクを測定する(ステップ1)。次にコントローラ60は、測定された負荷トルクが第3の閾値(Th3)以上第2の閾値(Th2)以下である場合には、駆動モータ35の加速制御すなわち回転数の増加制御を実行する(ステップ2,3,4)。ここで、第3の閾値(Th3)は、第2の閾値(Th2)よりも小さく、マグネットカップリング機構50が脱調したときに検出される負荷トルクよりも大きい値に相当する。第3の閾値(Th3)の値は特に限定されず、例えば0.13N・mである。
駆動モータ35の負荷トルクが第3の閾値(Th3)以上第2の閾値(Th2)以下のときに回転数の増加制御を実行することで、マグネットカップリング機構50の脱調を防止しつつ第1の真空ポンプ1の排気量を上昇させることができる。本実施形態では、駆動モータ35の回転数を0〜3500rpmの範囲で制御する。
図5において区間D1,D2は、駆動モータ35の起動開始から最大回転数に達するまでの期間に相当する。この時点では駆動モータ35の負荷トルクは第2の閾値(Th2)に達していないため、駆動モータ35は最大回転数で駆動される。
一方、第2の真空ポンプ11は第1の真空ポンプ1よりも排気量が小さいため、第1の真空ポンプ1の背圧は徐々に上昇し、駆動モータ35の負荷トルクもこれに伴って上昇する。そして、駆動モータ35の負荷トルクが第2の閾値(Th2)を超え、第1の閾値(Th1)以下である場合は、駆動モータ35の回転数を減少させる制御を実行する(ステップ2,5,6、区間D3)。これにより、マグネットカップリング機構50の脱調を防止しつつ、ロータ21の回転による排気動作を安定に継続することができる。
なお、駆動モータ35の負荷トルクが第1の閾値(Th1)を超えたとき、コントローラ60は過負荷と判断し、必要に応じてエラー信号を報知し、駆動モータ35を停止させる(ステップ8)。
駆動モータ35の回転数減少制御によって負荷トルクが第2の閾値(Th2)以下になったとき、コントローラ60は再び回転数の上昇制御を実行する(ステップ2〜4、区間D4)。以後、上記と同様の制御が実行されることで、第1及び第2の真空ポンプ1,11によりチャンバ1が排気される(区間D5,D6)。
区間D7は、駆動モータ35の回転数減少制御時にマグネットカップリング機構50に脱調が生じた期間を示している。コントローラ60は、駆動モータ35の負荷トルクが第3の閾値(Th3)以下のとき脱調が生じたと判定して、駆動モータ35への電力の供給を停止して駆動軸350をフリーランの状態にする(ステップ3,7)。これにより、マグネットカップリング機構50の脱調状態が早期に解消される。その後、再び駆動モータ35の回転数増加制御を実行することで、チャンバ1の排気動作を再開する。チャンバCが目標圧力に達した後、コントローラ60は、チャンバCの圧力が目標圧力を維持するように駆動モータ35の駆動を継続する。なお、ポンプの運転を停止させる際は、コントローラ60は駆動モータ35への電力の供給を停止する(区間D8)。
以上のように本実施形態によれば、駆動モータ35の負荷トルクに応じて回転数を制御するようにしているため、マグネットカップリング機構50の脱調を防止しつつ、排気動作を継続することができる。これによりチャンバCを目標圧力に早期に到達させることができる。また、第1の真空ポンプ1によって大気圧から目標圧力にわたってチャンバCを真空排気することができる。
図6は、第1の真空ポンプ1の起動開始から目標到達圧力に到るまでの駆動モータ35の回転数変化を示す一測定結果である。吸気口201の圧力(P1)及び排気口202の圧力(P2)の時間変化も併せて示す。測定では、内容積20Lの真空チャンバCを用いた。図6に示すように、本実施形態によれば、マグネットカップリング機構50の脱調を生じさせることなく安定した排気動作を実現することができる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、本発明の技術的思想に基づいて種々の変形が可能である。
例えば以上の実施形態では、第1の真空ポンプ1における駆動モータ35の回転数を制御する際に駆動モータ35の負荷トルクに第1〜第3の閾値(Th1〜Th3)を設定したが、閾値の大きさ、設定される閾値の数は上述の例に限られず、適宜変更することが可能である。
また以上の実施形態では、第1の真空ポンプ1としてメカニカルブースタポンプを用いたが、これに限られず、多段ルーツ型ポンプやスクロールポンプ等の他のドライ真空ポンプにも本発明は適用可能である。
1…第1の真空ポンプ
2…ポンプ部
3…駆動部
10…真空排気装置
11…第2の真空ポンプ
21,22…ロータ
23…ポンプ室
35…駆動モータ
50…マグネットカップリング機構
51…内周側磁石
52…外周側磁石
55…仕切り部材
60…コントローラ
61…検出部
62…回転制御部
201…吸気口
202…排気口

Claims (5)

  1. 吸気口と排気口とを有するポンプ室と、前記ポンプ室に配置され前記吸気口から前記排気口へ気体を移送するロータとを含むポンプ部と、
    前記ポンプ室に隣接するモータ室と、前記モータ室に配置され前記ロータを回転させる駆動モータとを含む駆動部と、
    前記ポンプ室とモータ室とを気密に区画する仕切り部材と、前記ロータに取り付けられた第1の磁石と、前記駆動モータに取り付けられ前記仕切り部材を介して前記第1の磁石と磁気的に結合する第2の磁石とを含み、前記駆動モータの回転力を前記ロータへ第1の閾値以下の回転トルクで伝達するように構成されたマグネットカップリングと、
    前記駆動モータの負荷トルクを検出する検出部と、前記駆動モータの回転数を制御する回転制御部とを含み、前記負荷トルクが前記第1の閾値よりも小さい第2の閾値以下のときは、前記負荷トルクが前記第2の閾値よりも小さい第3の閾値以上の場合に限って前記駆動モータの回転数を増加させ、前記負荷トルクが前記第2の閾値を超え前記第1の閾値以下のときは前記駆動モータの回転数を減少させ、前記負荷トルクが前記第3の閾値未満のときは前記駆動モータをフリーランの状態とするコントローラと
    を具備する真空ポンプ。
  2. 請求項1に記載の真空ポンプであって、
    前記コントローラは、前記負荷トルクが前記第1の閾値を超えたときは前記駆動モータをフリーランの状態とする
    真空ポンプ。
  3. 請求項1又は請求項2に記載の真空ポンプであって、
    前記第2の閾値は、前記駆動モータの定格トルクである
    真空ポンプ。
  4. 吸気口及び排気口を有するポンプ室と、前記ポンプ室内に配置され前記吸気口から前記排気口へ気体を移送するロータと、駆動モータと、前記駆動モータの回転力を前記ロータへ第1の閾値以下の回転トルクで伝達するように構成されたマグネットカップリングとを含む第1の真空ポンプと、
    前記排気口に移送された気体を排気する第2の真空ポンプと、
    前記駆動モータの負荷トルクを検出する検出部と、前記駆動モータの回転数を制御する回転制御部とを含み、前記負荷トルクが前記第1の閾値よりも小さい第2の閾値以下のときは、前記負荷トルクが前記第2の閾値よりも小さい第3の閾値以上の場合に限って前記駆動モータの回転数を増加させ、前記負荷トルクが前記第2の閾値を超え前記第1の閾値以下のときは前記駆動モータの回転数を減少させ、前記負荷トルクが前記第3の閾値未満のときは前記駆動モータをフリーランの状態とするコントローラと
    を具備する真空排気装置。
  5. ロータと、駆動モータと、前記駆動モータの回転力を前記ロータへ第1の閾値以下の回転トルクで伝達するように構成されたマグネットカップリングとを含む真空ポンプの運転方法であって、
    前記モータの負荷トルクを検出し、
    前記負荷トルクが前記第1の閾値よりも小さい第2の閾値以下のときは、前記負荷トルクが前記第2の閾値よりも小さい第3の閾値以上の場合に限って前記駆動モータの回転数を増加させ、前記負荷トルクが前記第2の閾値を超え前記第1の閾値以下のときは前記駆動モータの回転数を減少させ、前記負荷トルクが前記第3の閾値未満のときは前記駆動モータをフリーランの状態とす
    真空ポンプの運転方法。
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