JP5681676B2 - セメント組成物、セメント系マトリックス、繊維補強セメント系混合物及びセメント混和材 - Google Patents

セメント組成物、セメント系マトリックス、繊維補強セメント系混合物及びセメント混和材 Download PDF

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Description

本発明は、常温養生で早期強度を発現させるためのセメント組成物、セメント系マトリックス、繊維補強セメント系混合物及びセメント混和材に関するものである。
コンクリートには、その使用目的に応じて土木・建築構造物に適用する通常のコンクリートから高流動コンクリート、高強度コンクリート、マスコンクリート、水中コンクリートなどがあるが、基本的には鉄筋による補強を前提とした材料である。しかし、近年、これらのコンクリートに、鉄筋補強の補助的役割、部材の角欠け防止、乾燥収縮によるひび割れ防止などの目的で短繊維を混入した、いわゆる繊維補強鉄筋コンクリート(Fiber Reinforced Concrete、以下、「FRC」と略す場合もある。)が適用される傾向にある。
これらのコンクリートの配合における骨材粒子は、細骨材と粗骨材とから構成されている。一般的なコンクリートでは、コンクリート単位体積中に含まれる骨材の単位重量が、粉体の単位重量(=セメントの単位重量+混和材の単位重量)に比べて大きい。例えば、骨材単位重量/粉体単位重量の比率で示すと、最も一般的に使用されるコンクリートでは、400−700%であり、粉体を多く含むとされる粉体系の高流動コンクリートでさえも250−300%程度である。
また、コンクリートに使用する粗骨材の最大粒径は、一般の構造物への適用では、20mmや25mmに限定される場合が最も多く、ダムなどの適用では40mmや80mmに限定される。従って、従来の繊維補強鉄筋コンクリートにおける繊維とコンクリートとの付着機構は、コンクリートに配合された骨材を介した機械的付着力に期待するものではなく、コンクリート水和物(セメントペースト)と繊維との化学的付着力や摩擦力に期待するものである。
これに対して、最大骨材粒径が1−2mmの骨材粒子にセメントとポゾラン反応粒子(ポゾラン材)とを混合したセメント系マトリックスに、金属繊維や有機繊維などの補強繊維を混入した超高強度繊維補強コンクリート(Ultra High Strength Fiber Reinforced Concrete、以下、「UFC」と略す場合もある。)が知られている(特許文献1−6など参照)。
UFCは、緻密で超高強度なセメント系マトリックスに引張強度の高い繊維を組み合わせることにより、ひび割れ発生後においても引張強度とじん性(ねばり強さ)をある程度確保できるという特性を有している。すなわち、材料に引張応力が作用してセメント系マトリックスにひび割れが発生した際に、セメント系マトリックスに代わって繊維が引張力を負担する、いわゆる架橋効果が発揮されるためと考えられている。
このためUFCは、通常の鉄筋コンクリートとは異なり、鉄筋による補強が不要となる。そして、UFCを使って構築されるコンクリート構造物は、部材を薄肉化、軽量化することができる。
一方、UFCは、80℃から90℃の高温熱養生することにより、セメント系マトリックスに含まれるセメントや、シリカフュームなどのポゾラン材などの結合材の水和反応を効率的、かつ短時間に終了させることができるため、多くの場合に熱養生される。
そして、セメント系マトリックスが熱養生される際の水和反応過程において常温養生される場合に比べて更なる緻密な水和組織が短時間に形成されるので、耐久性を大幅に向上させることができる。また熱養生後には乾燥収縮がほぼゼロになり、クリープ係数が大幅に減少するなどの特徴を有する(特許文献3−6など参照)。
例えばUFCを使って橋梁構造物を構築する場合、プレキャスト・セグメント工法を採用するのが経済的に有利となることが多い。すなわち、類似形状のプレキャスト・セグメントを多量に製作するために、型枠転用効率や運搬効率や製品の製造効率が向上するうえに、製品の品質管理が向上するので、現場打設工法より優位となる。この工法では、予めプレキャスト工場において、UFCを適用したプレキャスト・セグメントを製作し、熱養生を済ませたプレキャスト・セグメントを建設地点に運搬し、現地で接合して一体化する。
ここで、プレキャスト・セグメントを一体化するためには、セグメント相互間の隙間にUFCによる充填材を充填して接合する方法が、プレキャスト・セグメント本体と同一の材料を接合部にも適用することになるので構造の連続性の観点から優位となる。
しかしながら、UFCを接合部の充填材として適用する方法では、現地において熱養生する必要がある。例えば特許文献1では、現地において接合部に充填したUFCに対する熱養生方法が開示されている。この特許文献1に開示された熱養生方法をみれば、接合部に対する現地作業の煩雑さ、現地における多量の熱源の必要性、及び現地における作業期間が長期化する課題があることが理解できる。
さらにプレキャスト工法の場合には、コンクリート部材製品に成型された後に運搬されることになるため、流動体のままのコンクリート材料を運搬する場合に比べて運搬効率が低下する課題がある。すなわちコンクリート運搬効率は、建設現地までミキサー車で運搬する方法が最も効率がよく、製品にすることによる形状や寸法の制約ができると運搬効率を低下させることになる。このような状況であるため、現場で型枠を組んで打設でき、しかも常温養生で所定の強度を得ることができるUFCの開発が望まれている。
UFCは、上述したように鉄筋による補強をする必要がなく、しかも超高強度の圧縮、曲げ及び引張、並びに高いじん性の力学的特性を有するために、部材厚さを薄くできる特徴を有する。そのために、既設構造物の耐力を補強する場合や、耐震補強をする場合に、UFCを現場打設でき、しかも常温養生できれば、UFCの適用範囲を広げることができる。
特許文献2には、常温養生のみで早期に高いじん性、高い圧縮強度、高い引張強度を発現させることができる、高じん性・高強度モルタル組成物が開示されている。この特許文献2に開示されたUFCは、特定の鉱物組成及び粒度分布を有するセメントと特定の粒度分布を有する細骨材と、シリカフュームと、減水剤と、高張力繊維とを組み合わせることを特徴としている。
特許文献2の実施例においては、ゼロ打のフロー値が204−230 mmと示されているが、この範囲のフロー値では充填材が接合部の隅々にまで充填されるなどの施工性を確保することは困難である。また、明記されているわけではないが、特定の鉱物組成のセメントを使用していることから、充分な可使時間の確保が困難である可能性がある。さらに、唯一のポゾラン材としてシリカフュームのみを多量に使用し、多量の単位セメント量に依存した配合となっているために、初期の水和発熱量が多量になることが想定できる。
また、セメント鉱物組成を多量のC3S(エーライト)と少量のC3A(アルミネート相)としているために、材齢7日や28日といった中長期強度は期待できるが、24時間の早期強度は記載されていないものの、それほど期待できないものと思われる。その理由は、特許文献2に示されている特定の鉱物組成のセメントの種類は、耐硫酸塩ポルトランドセメントに属するものと考えられ、早強ポルトランドセメントや超早強ポルトランドセメントの鉱物組成とは異なるもので、耐硫酸塩ポルトランドセメントは、早強ポルトランドセメントに比べて早期強度の発現は遅くなるとされている。特許文献2は、熱養生の課題を解決するために常温養生を可能としたことを特徴としているが、早期強度に対する目標などは記載も示唆もされていない。
これに対して特許文献7には、CaO/Al2O3モル比0.75−1.5の非晶質カルシウムアルミネートと無水石膏とを含有する急硬材を適用することで、早期(材齢3時間)の圧縮強度で20N/mm2を実現できることが開示されている。しかしながら特許文献7が対象とするモルタルは、UFCとは異なり高じん性なFRC(繊維補強鉄筋コンクリート)に過ぎず、28日の圧縮強度はせいぜい50−60 N/mm2程度であり、UFCに求められる少なくとも150 N/mm2の圧縮強度を発現できるわけではない。さらに、3時間という非常に早期に強度を発現させるためにエトリンガイト系の急硬材を適用しているため、可使時間が短く、フレッシュ性状を示すゼロ打のフロー値も満足できる値にはならない。
特許文献8には、通常のコンクリートに高耐久性と早期強度発現性とを持たせるために、早強ポルトランドセメントに高炉スラグと石膏を配合することが開示されている。さらに、フライアッシュ、石炭ガス化スラグ微粉末、石灰石微粉末、シリカフュームより選ばれる混和材を混入することが開示されている。なお、特許文献8の材料は、60℃で6時間の蒸気養生を行うことを前提としている。そして、石灰石微粉末と高炉スラグ微粉末とを併用する効果として、高炉スラグの水和反応を促進する作用を生じることから強度発現性の向上に有効であることが記載されている。しかしながら、早強ポルトランドセメントと、高炉スラグ微粉末と、石灰石微粉末との配合割合に関する記載や示唆はない。また、石灰石微粉末を添加した実施例は、一例のみ(表2の実施例6)示されているが、石灰石微粉末を結合材の内割で10%添加しても、添加しないケースに比べて早期強度が大きくなっているとは言えない。しかも特許文献8では、石灰石微粉末の利用は、低いブレーン比表面積(粉末度)の高炉スラグを使用する場合の補助的な役割であると説明していて、早期強度への影響に関する示唆や説明はない。
同様に特許文献9においては、粗骨材が含まれる通常のコンクリートを対象に、普通又は早強ポルトランドセメントに石膏を添加し、さらに高炉スラグ微粉末、石灰石微粉末、シリカ質微粉末又はシリカフュームの少なくとも一つを添加することにより、低収縮性と強度の向上が図れることが開示されている。しかしながら特許文献9には、個々の混和材を添加することによる作用効果についての説明はなされておらず、材齢1日の圧縮強度が12N/mm2程度であり、UFCとして求められるような高い早期強度を実現しているとは言い難い。
一方、特許文献10,11には、グラウト材の急硬性や流動性を向上させるために石灰石微粉末や石膏を添加した実施例が開示されている。特許文献10には、鉱物組成のC3S(エーライト:3CaO/SiO2)を60%以上含有するセメント100重量部に、ブレーン比表面積3,500 cm2/g以上の石灰石微粉末50−90重量部を配合し、これに細骨材、ガス発泡物質及び流動化剤を添加してなる自己充填性モルタル(グラウト材)が開示されている。この特許文献10の実施例では、流動性の向上と水和熱低減の効果が記載されているが、石灰石微粉末の作用効果についての示唆や説明がなされているわけではない。
特許文献11には、特許文献7と同じ急硬材と、アルカリ金属アルミン酸塩と凝結調整剤とガス発泡物質とを含有してなる超速硬セメント組成物が開示されている。この超速硬セメント組成物をグラウト材に適用した場合、実施例によれば24時間の圧縮強度は、30−35 N/mm2程度であり、UFCとして求められる圧縮強度(150 N/mm2以上)には遠く及ばない。
特許文献12では、建築工事における左官職人がモルタル仕上げを行う左官材料に関して、可使時間、鏝塗り作業性及び早期強度発現性に優れた水硬性組成物を開示している。この水硬性組成物は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分と、高炉スラグ微粉末と石灰石微粉末とからなる無機微粉末と、樹脂成分とを含有している。この特許文献12には、無機微粉末の役割として、良好な鏝塗り作業性と優れた保形性とを挙げているが、無機微粉末による流動性向上や早期強度発現性に関する記述や示唆はされていない。そして、明細書に記載された実施例は、常温養生による7日の圧縮強度が25 N/mm2程度であり、UFCに求められる圧縮強度には達していない。
特開2009−79428号公報 特開2011−42534号公報 特開2006−298679号公報 特開2002−338323号公報 特表平9−500352号公報 特開2006−213550号公報 特開2010−13301号公報 特開2010−6662号公報 特開平11−157889号公報 特開2003−119066号公報 特開2007−297250号公報 特開2010−18496号公報
上述したようにUFC(超高強度繊維補強コンクリート)は、5日−7日程度(その内訳としては、i) 24時間から48時間の20℃の一次養生時間、ii) 48時間の90℃の二次養生時間、iii) 昇温と降温に要する時間、の累計である。)の80℃から90℃の高温養生をすることにより、必要とされる設計強度を発現させることができる。これに対して特許文献2に開示されているように、UFCであっても20℃の常温気中養生が可能な材料もある。
しかしながら特許文献2に開示されている配合では、上述したように充填材としての施工性、可使時間、シリカフュームの多量使用、水和反応熱量、早期強度発現性などの点で課題が残る。
さらに、プレキャスト・セグメント工法における接合部にプレストレスを導入する場合は、導入時に少なくとも65 N/mm2の圧縮強度に達していることが望まれている。これに対して上述したような熱養生を必要とするUFCを20℃の気中で24時間養生しても圧縮強度は、せいぜい20 N/mm2程度であり、この時点ではプレストレスを導入することができなくなる。
他方、特許文献7、特許文献11に開示されているように、急硬材を用いることで常温の24時間強度を向上させることは可能である。しかしながら、これらの文献の実施例にも24時間の常温養生で65 N/mm2の圧縮強度に達する配合は示されていないうえに、急硬材を用いることで可使時間が短くなるので、接合部の充填材として使用するには可使時間の制約が厳しすぎて適用することができない。
また、特許文献7,11に開示されたような急硬材を適用すると、材齢7日や28日の中長期強度を確保することが困難となる。急硬材を適用した無収縮モルタルやグラウト材料は既に実用化されているが、これらの材料の28日常温養生の圧縮強度を150 N/mm2以上にすることは、現時点では実現されていない。
さらに、既存の急硬材が含有された無収縮モルタル等は圧縮強度部材として使用されているに過ぎず、引張強度を向上させるために補強繊維を混入すれば、フレッシュ性状や材料分離抵抗性が保持できなくなる。そのために、無収縮モルタルやグラウト材料では所望する高い引張強度を得ることはできない。
そこで、本発明は、常温養生でプレストレスの導入が可能となるような早期強度の発現及び高い長期強度への到達が可能なうえに、充分な可使時間が確保できるセメント組成物、セメント系マトリックス、繊維補強セメント系混合物及びセメント混和材を提供することを目的としている。
前記目的を達成するために、本発明のセメント組成物は、早強ポルトランドセメント又は超早強ポルトランドセメント100重量部と、シリカフューム5−18重量部と、石灰石微粉末5−30重量部と、高炉スラグ微粉末25−69重量部とを含有することを特徴とする。
また、本発明のセメント系マトリックス、繊維補強セメント系混合物又はセメント混和材は、上記セメント組成物と同様の構成を有している。
このように構成された本発明のセメント組成物又はセメント混和材が適用されるセメント系マトリックス又は繊維補強セメント系混合物は、ゼロ打のフロー値が230 mmを超える状態を常温下で1.5時間以上、可使時間として保持することができる。このため、接合部の充填材として適用した場合にも、セメント系マトリックス又は繊維補強セメント系混合物が隅々にまで充填されるなど施工性に優れている。
また、24時間の常温気中養生で少なくとも65 N/mm2以上の圧縮強度(セメント系マトリックスによるφ5×10 cmの供試体を使った圧縮強度試験の測定結果)を発現させることができる。さらに、48時間の常温気中養生後の圧縮強度(同圧縮強度試験の測定結果)は、少なくとも117 N/mm2以上にすることができる。よって、常温養生で早期のプレストレスの導入が可能となる。
さらに、28日の常温気中養生後のセメント系マトリックスの供試体(φ5×10 cm)を使った圧縮強度試験で、少なくとも170 N/mm2以上の圧縮強度を発現させることができる。よって、所望する高い長期強度に到達させることができる。
また、本発明の繊維補強セメント系混合物は、長期の常温気中養生後の曲げ強度、及び曲げタフネス試験における曲げタフネスと曲げじん性係数について、所望する高い値を得ることができる。
実施例6で説明する骨材容積率と凝結始発時刻と24時間圧縮強度と28日圧縮強度との関係を示した図である。 実施例9で説明する打設からの経過時間と収縮ひずみとの関係を示した図である。
以下、本発明の実施の形態について説明する。本実施の形態のセメント組成物は、早強ポルトランドセメント又は超早強ポルトランドセメントと、シリカフュームと、石灰石微粉末と、高炉スラグ微粉末と、無水石膏とを含有する超高強度セメント組成物である。なお、無水石膏は省略することもできる。
また、本実施の形態のセメント系マトリックスは、上記超高強度セメント組成物と、骨材粒子と、水と、混和剤とを含有した超高強度セメント系マトリックスである。
さらに、本実施の形態の繊維補強セメント系混合物は、上記超高強度セメント系マトリックスに繊維を混入した超高強度繊維補強セメント系混合物である。
そして、本実施の形態のセメント混和材は、上記超高強度セメント組成物からセメントを除いた組成物である。このセメント混和材は、上記した超高強度セメント組成物、超高強度セメント系マトリックス又は超高強度繊維補強セメント系混合物を製造する際に使用される。
<ポルトランドセメント>
セメントは、早強ポルトランドセメント又は超早強ポルトランドセメントを使用するのが好ましい。早強ポルトランドセメント又は超早強ポルトランドセメントの鉱物組成は、C3S(けい酸三カルシウム:3CaO・SiO2)の組成比率が多く、C2S(けい酸二カルシウム:2CaO・SiO2)の組成比率が少ないのが特徴である。また、早強ポルトランドセメント又は超早強ポルトランドセメントは、C3A(アルミン酸三カルシウム:3CaO・Al2O3)やC4AF(鉄アルミン酸四カルシウム:4CaO・AlO・FeO)などの鉱物組成比率が普通ポルトランドセメントのそれらに近いのが特徴である。
これらのセメント種別の選択は、JIS規格(JIS R 5210)を満足していれば、セメントメーカーなどにより限定されるものではない。また、セメントのブレーン比表面積や粒度分布によって限定されるものでもない。
<シリカフューム>
シリカフュームは、シリコンメタル、フェロシリコン、シリコン合金、ジリコニュウムなどを製造する際に発生する排ガス中のダストを捕集することによって得られる球形の超微粒子である。
シリカフュームの化学組成の主成分は、非結晶質の二酸化珪素(SiO2)である。二酸化珪素(SiO2)の含有率が高いシリカフュームは、ポゾラン反応性が高まるために、超高強度繊維補強セメント系混合物等の強度性能の向上や耐久性の向上に寄与する。ポゾラン反応は時間をかけて反応するために、中期強度(例えば7日強度)や長期強度(例えば28日強度やそれ以降の強度)の増進や耐久性の向上に貢献する。
シリカフュームの粒径は、セメント粒子の1/40−1/100と非常に微細であるために、セメント硬化体の空隙を充填するマイクロフィラー効果を期待することができる。そのために、硬化体組織の大幅な緻密化の向上を図ることができる。高緻密な組織は、二酸化炭素や塩化物イオン、水、化学物質などの侵入を防止するので、通常の鉄筋コンクリートでは得られないような高耐久性を提供することができるようになる。
また、シリカフュームの粒径は微細であり、球形に近い形状をしているので、超高強度繊維補強セメント系混合物等を練り混ぜる際に、セメント粒子をはじめとする粉体が空隙に分散されるように配置されるために、粒子間のベアリング効果を期待することができる。このベアリング効果は、超高強度繊維補強セメント系混合物等の流動性の向上に大きく貢献する。
本実施の形態で使用するシリカフュームは、市場に流通している一般的な品質のもので充分である。シリカフュームのBET比表面積(BET法によって測定される比表面積)は、15 m2/g以上であることが望ましい。シリカフュームのBET比表面積が15 m2/g未満の場合には、ポゾラン反応性が低くなり強度性能を向上させる効果が低減する。また、シリカフュームの粒径も大きくなるために、マイクロフィラー効果やベアリング効果が低減し、流動性を向上させる効果が低下することになる。
また、シリカフュームの粒径が大きくなると、セメント粒子間の間隙にシリカフューム粒子の最密充填が充分に行われなくなるので、セメント系マトリックスの緻密性が低下して高耐久性をさらに向上させる効果が小さくなる。これに対して、BET比表面積が15 m2/g以上のシリカフュームの場合には、強度の向上、流動性の向上、高耐久性のさらなる向上などの効果が期待できる。
シリカフュームは、早強又は超早強ポルトランドセメント100重量部に対してシリカフューム5−18重量部が含有されるように配合する。シリカフュームが5重量部未満の場合には、流動性が低下するので、所定の流動性を得るためには水や高性能減水剤の含有量を増加させる必要がある。しかしながら水の増加は、強度低下や耐久性の低下を招くことになる。また、高性能減水剤を増やすと、早期強度が低下することになる。さらに、シリカフュームが5重量部未満の場合には、ポゾラン反応を充分に遂行させることができなくなるために、中期・長期強度を向上させることが困難となる。
他方、早強又は超早強ポルトランドセメント100重量部に対してシリカフュームが18重量部を超えると、24時間の常温気中養生の早期強度が低下することになる。ここで、熱養生をおこなう一般的な超高強度繊維補強コンクリートでは、セメント100重量部に対してシリカフュームの上限を30重量部に設定しても、流動性、緻密性及び強度などの特性に対して問題となることはなかった。しかしながら、常温気中養生によって24時間の早期強度を向上させるには問題となるため、本実施の形態ではシリカフュームの混入率を低下させている。より好ましいシリカフュームの配合は、早強又は超早強ポルトランドセメント100重量部に対して7−13重量部である。
<石灰石微粉末>
本実施の形態の超高強度繊維補強セメント系混合物等には、混和材として石灰石微粉末を使用する。石灰石微粉末は、早強又は超早強ポルトランドセメント100重量部に対して石灰石微粉末5−30重量部が含有されるように配合する。石灰石微粉末を含有させる一番の目的は、常温気中養生による24時間強度において所望する早期強度が得られるようにするためである。
すなわち、本実施の形態では、一般的に急硬材と呼ばれる材料を使用することなく、早強ポルトランドセメント又は超早強ポルトランドセメントと石灰石微粉末とを組み合わせることにより、所望する早期強度を発現させることができた。このように鉱物組成の構成重量部が規定された早強ポルトランドセメント又は超早強ポルトランドセメントと石灰石微粉末とを組み合わせることにより早期強度を向上させることができる詳細については後述する。
一方、石灰石微粉末は、シリカフュームやフライアッシュのようにポゾラン反応する材料ではなく、また、高炉スラグ微粉末のような自己水硬性の性質も有していない材料であるために、長期的に強度発現に寄与する性質を持たない。つまり、石灰石微粉末は、ポゾラン材料には分類されず、長期的な強度発現に寄与しない混和材である。そのため石灰石微粉末は、不活性ではないものの結合材としては考慮されない。
本実施の形態の超高強度セメント系マトリックスは、ポゾラン反応するシリカフューム及び自己水硬性を有する高炉スラグ微粉末のほかに、長期的に水和反応しない石灰石微粉末を配合することにより、早期強度や中・長期強度を低減させることなくポルトランドセメントの配合量と石灰石微粉末を置換することができる。この結果として、収縮量の低減が可能となり、さらには水和発熱量の低減が可能となる。
特に、収縮量の低減に関しては、石灰石微粉末を配合することにより、凝結終了から24時間の早期強度発現までの収縮量は大きくなるが、それ以降の収縮量は小さくなるのが特徴である。本実施の形態のセメント系マトリックス又は繊維補強セメント系混合物を材料に製作された部材に、ポストテンション方式でプレストレスを導入する際には、24時間養生後に緊張力を導入することになるために、早期強度発現以降の収縮量が小さくなることは、導入されたプレストレス応力の損失が小さくなるという効果に結び付く。
また、石灰石微粉末を混入することにより、ボールベアリング効果による流動性の向上や、マイクロフィラー効果による充填性の向上や、緻密性、耐久性の向上などが期待できる。これらの理由については後述する。
続いて、早強又は超早強ポルトランドセメント100重量部に対して石灰石微粉末5−30重量部を含有させる理由について説明する。
セメント100重量部に対して石灰石微粉末5重量部未満の場合には、セメント組成物であるC3S(けい酸三カルシウム)の初期水和を促進させることが困難となり、またC3A(アルミン酸三カルシウム)と初期に反応してモノカーボネートの水和物を必要十分に生成させることができなくなるために、常温で24時間気中養生後の早期強度が所望する強度とならない。また、石灰石微粉末5重量部未満の場合には、ボールベアリング効果が発揮されずに所望する流動性を得ることができなくなる。
一方、セメント100重量部に対して石灰石微粉末30重量部を超える場合には、シリカフュームや高炉スラグ微粉末との配合量のバランスが崩れやすくなって、7日強度(中期強度)や28日強度(長期強度)などの強度増進が少なくなるために、中・長期強度を所望する強度に到達させることが困難となる。早強ポルトランドセメント又は超早強ポルトランドセメント100重量部に対して石灰石微粉末7−25重量部とするのがより好ましい。
石灰石微粉末のブレーン比表面積は、5,000 cm2/g以上が好ましい。石灰石微粉末のブレーン比表面積が5,000 cm2/g未満の場合には、C3S(けい酸三カルシウム)の初期水和を促進させる働きが低くなるうえに、C3A(アルミン酸三カルシウム)と初期に反応してモノカーボネート(C3A・CaCO3・11H2O)の水和物が生成される量も少なくなるので、所望する早期強度を発現させることが困難となる。すなわち、ブレーン比表面積が大きいほど活性化するので、上記の組成鉱物との反応が活発化して早期強度の向上効果が発揮されることになる。ブレーン比表面積は、5,500 cm2/g以上がより好ましい。
<高炉スラグ微粉末>
本実施の形態の超高強度繊維補強セメント系混合物等には、混和材として高炉スラグ微粉末を使用する。高炉スラグ微粉末には、高炉水砕スラグ微粉末と高炉徐冷スラグ微粉末とがあるが、高炉水砕スラグ微粉末のほうが好ましい。そして、高炉スラグ微粉末は、早強又は超早強ポルトランドセメント100重量部に対して高炉スラグ微粉末25−69重量部が含有されるように配合する。
高炉スラグ微粉末を含有させることにより、石灰石微粉末による早期強度発現効果ほどではないが、早強ポルトランドセメントや超早強ポルトランドセメントに多く含まれているC3S(けい酸三カルシウム)の初期水和を促進させるので、早期強度の向上に寄与させることができる。
高炉スラグ微粉末を含有させる主目的は、セメントの水和反応で生成される水酸化カルシウムのアルカリ溶液の刺激により生ずる潜在水硬性を活用して、中期・長期強度の向上を図ることにある。前述したように石灰石微粉末は、C3S(けい酸三カルシウム)やC3A(アルミン酸三カルシウム)の初期水和促進には著しく関与するため、早期強度の発現であれば高炉スラグ微粉末よりも効率的に効果を発揮する。
しかしながら石灰石微粉末は、ポゾラン反応や潜在水硬性のような結合性の反応をしない混和材であるために、中期・長期の強度発現には寄与しない。そのために、高炉スラグ微粉末やシリカフュームを混入することで、石灰石微粉末を含有させたことによる中期・長期強度発現の欠如を補うことにする。
高炉スラグ微粉末の粒径は、石灰石微粉末と同様に微細であるので、セメント粒子をはじめとする粉体の空隙に分散されるように配置させることができる。このため、粒子間の充填性効果を期待することができる。すなわち、高炉スラグ微粉末を含有させることによって、超高強度繊維補強セメント系混合物等の流動性と充填性を向上させることができる。
続いて、早強又は超早強ポルトランドセメント100重量部に対して高炉スラグ微粉末25−69重量部を含有させる理由について説明する。
早強又は超早強ポルトランドセメント100重量部に対して高炉スラグ微粉末の混入を25重量部未満とした場合には、ポルトランドセメントによる水酸化カルシウムは充分に生成されるものの、高炉スラグ微粉末による潜在水硬性が充分なものにならず、中期・長期強度の増進が望めなくなる。
他方、高炉スラグ微粉末の混入が69重量部を超える場合には、そのほかの構成粉体との粒度分布バランスが崩れて、流動性が低下する。また、全体の配合バランスから単位セメント量を過剰に低減する必要性が生じて、強度性能が低下する結果となる。より好ましい高炉スラグ微粉末の配合は、早強又は超早強ポルトランドセメント100重量部に対して、高炉スラグ微粉末37−62重量部である。
高炉スラグ微粉末のブレーン比表面積は、4,000 cm2/g以上が好ましい。高炉スラグ微粉末のブレーン比表面積が4,000 cm2/g未満の場合には、高炉スラグ微粉末の水硬性の指標である活性度指数が低下して、高炉スラグ微粉末の重要な役割である中期・長期強度の増加が充分に期待できなくなる。さらにセメント組成物C3S(けい酸三カルシウム)の初期水和を促進する働きも低下して、早期強度の低下にもつながる。高炉スラグ微粉末の品質規格(JIS A 6206)によれば、高炉スラグ微粉末4000、6000、8000がある。ブレーン比表面積が8,000 cm2/gの高炉スラグ微粉末は、活性度指数が高く、中期・長期強度のみならず早期強度も向上させるにはより好ましい材料である。
<無水石膏>
本実施の形態の超高強度繊維補強セメント系混合物等には、混和材として無水石膏を使用してもよい。無水石膏は、早強又は超早強ポルトランドセメント100重量部に対して無水石膏20重量部以下を含有させる配合とすることが好ましい。本実施の形態の超高強度繊維補強セメント系混合物等には、無水石膏を混入させなくてもよいが、無水石膏を混入した場合でも所望する特性を得ることができるので、無水石膏の配合量についても説明を行う。
無水石膏を適用する目的は、早期強度を向上させるためである。急硬材であれば、非晶質カルシウムアルミネート−無水石膏系や、アウイン−無水石膏系の混和材が既に開発されている。本実施の形態においては、このような急硬材となったものを使用しないで、無水石膏のみを使用し、シリカフュームや石灰石微粉末、高炉スラグ微粉末等の配合粉体の中にこれを含有させて、配合バランスをとった。
すなわち、急硬材を使用する際の課題となる過剰な収縮や膨張、又は可使時間の短縮などの好ましくない要因を排除するために、急硬材ではなく無水石膏のみを使用する。
無水石膏を混入することにより、エトリンガイト水和物が生成されて早期強度を発現させることができるようになる。エトリンガイト水和物の生成は、水和初期に起こり、その組織は緻密であり、その結果、早期強度の発現に寄与することができる。
早強又は超早強ポルトランドセメント100重量部に対して無水石膏20重量部を超えるとした場合には、流動性の低下が著しくなる。また、早期強度をはじめ中期・長期強度の低下も発生するので、好ましくない。
より好ましい無水石膏の配合は、早強又は超早強ポルトランドセメント100重量部に対して無水石膏0.5−15重量部である。
<水>
本実施の形態の超高強度セメント系マトリックスは、超高強度セメント組成物に、水と、骨材粒子と、混和剤とを混入したものである。ここに配合される水は、水道水や地下水など不純物を含まない水であれば制限はない。使用する高性能減水剤や高性能AE減水剤、あるいは単位セメント量や結合材料の配合量に依存するが、水の使用量としては、セメント100重量部に対して21-27重量部であれば良好な流動性と強度特性を得ることができる。
<混和剤>
本実施の形態の超高強度セメント系マトリックスに配合される混和剤は、流動性や強度発現性の向上、凝結コントロール、耐久性の向上などの多くの目的で使用される添加剤で、少なくとも1種類を使用する。この混和剤としては、高性能減水剤、高性能AE減水剤、流動化剤、消泡剤、凝結促進剤、凝結遅延剤、増粘剤、収縮低減剤、急結剤、発泡剤、防錆剤などを単独で使用したり、複数の組み合せで使用したりすることができる。
少ない単位水量で流動性の向上を目指すためには、高性能減水剤又は高性能AE減水剤が使用される。高性能減水剤としては、ポリカルボン酸塩系高性能減水剤、ポリアルキルアリルスルホン酸塩系高性能減水剤、芳香族アミノスルホン酸塩系高性能減水剤、メラミンホルマリン樹脂スルホン酸塩系高性能減水剤などがある。高性能AE減水剤としては、アルキルアリルスルホン酸塩系高性能AE減水剤、芳香族アミノスルホン酸塩系高性能AE減水剤、メラミンホルマリン樹脂スルホン酸塩系高性能AE減水剤、ポリカルボン酸塩系高性能AE減水剤などがある。これらの高性能減水剤は限定されるものではないが、使用量としてはセメント100重量部に対して3−5重量部であれば良好な流動性を得ることができる。また、混練り時に連行した空気を消泡するために、消泡剤を高性能減水剤と組み合わせて使用してもよい。
<骨材粒子>
本実施の形態の超高強度セメント系マトリックスに配合される骨材粒子には、川砂、海砂、山砂、珪砂、砕砂、石灰岩を粉砕した砂、再生骨材の砂、焼成ボーキサイトを粉砕した砂、鉄鉱石を粉砕した砂、石英へん岩を粉砕した砂、高炉スラグを粉砕した砂、石英微粉末、硅石微粉末、岩石微粉末などを単独で使用したり、あるいは複数の組み合わせで使用したりすることができる。
本実施の形態の超高強度セメント系マトリックスに配合される骨材粒子の配合量は、超高強度セメント系マトリックス100容積部に対して骨材粒子8−45容積部であることが好ましい。ここで、超高強度セメント系マトリックス100容積部とは、超高強度セメント組成物と、水と、骨材粒子と、混和剤と、空気との合計容積のことである。
そして、以下では、超高強度セメント系マトリックス100容積部に対する骨材粒子の容積部の割合を、「骨材容積率(%)」として説明する。超高強度セメント系マトリックス100容積部に対して骨材粒子8容積部(骨材容積率8%)未満になった場合、相対的に粉体量が多くなりすぎるために、骨材粒子により形成されるセメント系マトリックスの骨格が減少することになる。セメント系マトリックスの骨材粒子による骨格には、粉体の水和反応に伴う収縮(自己収縮)を抑制する働きがある。したがって、骨材粒子の骨格が減少することは、セメント系マトリックスの収縮量を増大させる結果となる。
また、骨材粒子の配合量が減ると相対的に粉体が多くなりすぎて粘性が過剰に増大するという問題が発生する。そして、増大した粘性を低下させるためには過剰な高性能減水剤が必要となる。さらには、セメント水和熱が増大するという問題も生じる。また、骨材粒子の量が低下することによって、セメント系マトリックス相互間のせん断伝達力が低下するという問題も発生する。
そして、粉体のほとんどが結合材であるために、相対的に粉体量が多くなることは、結合材が多くなることに等しい。このため、24時間の早期強度を向上させることはできるが、長期強度の伸びは少なくなる。また、骨材粒子の配合量の低下によるセメント系マトリックス相互間のせん断伝達力の低下は、曲げ強度の低下と補強繊維との付着強度の低下を招くことになる。
これに対して、超高強度セメント系マトリックス100容積部に対して骨材粒子45容積部(骨材容積率45%)を超えることになった場合、相対的に骨材粒子の配合量が多くなるので、骨材粒子の骨格に起因する収縮を低減させる効果は充分になる。しかしながら結合材が減少することになるので、早期強度は減少することになる。また、粉体量が少なくなりすぎて、流動性の低下が生ずる。さらには、粉体の減少により粘性が過度に低下するので、補強のために混入させる繊維の分散が悪くなる。
そして、超高強度繊維補強セメント系混合物の引張強度は、補強繊維の空間的分散の度合いに依存するので、セメント系マトリックスの粘性の低下による補強繊維の空間的分散性の低下は、超高強度繊維補強セメント系混合物の引張強度のバラツキを増大させる結果を導くことになる。
超高強度セメント系マトリックスに配合される骨材粒子の配合量は、超高強度セメント系マトリックス100容積部に対して骨材粒子8−40容積部(骨材容積率8−40%)であることがより好ましい。
超高強度セメント系マトリックスに含有させる骨材粒子の最大粒径D100(又はDmax)は0.8−5.0 mmであり、平均粒径D50は0.2−0.8 mmであることが好ましい。ここで、骨材粒子の最大粒径D100とは、骨材粒子の粒径加積曲線において、通過重量百分率(あるいは通過率)の重量比が100%にあたる粒径の中で最も小さい粒径(直径)である。また、平均粒径D50とは、骨材粒子の粒径加積曲線において、通過重量百分率(あるいは通過率)の重量比が50%にあたる粒径(直径)である。
超高強度セメント系マトリックスに含有させる骨材粒子の最大粒径D100(あるいはDmax)が0.8 mm未満の場合、セメント系マトリックスの収縮を低減するための骨材粒子による骨格が充分に形成されず、収縮を抑制する効果が低減する。また、骨材粒子の骨格が充分に形成されないために、セメント系マトリックス相互間のせん断伝達力が低下して、補強繊維の付着力の低下につながる結果となる。
他方、最大粒径D100(あるいはDmax)が5.0 mmを超える場合には、骨材粒子の表面とセメント水和物との境界面積が大きくなり、この境界部における剥離強度が低下する割合が、セメント系マトリックス全体に占める割合に比較して著しく大きくなる。その結果、骨材粒子表面における剥離破壊が生じやすくなって、セメント系マトリックスの曲げ強度や引張強度の低下が著しくなる。骨材粒子のより好ましい最大粒径D100の範囲は、1.0−3.5 mmである。
一方、超高強度セメント系マトリックスに含有させる骨材粒子の平均粒径D50が0.2 mm未満となる場合、最大粒径の場合と同様に、セメント系マトリックスの収縮を低減させるための骨材粒子による骨格が充分に形成されず、収縮を抑制する効果が低減する。また、骨材粒子の骨格が充分に形成されないために、セメント系マトリックス相互間のせん断伝達力が低下して、補強繊維の付着力の低下につながる結果となる。
他方、骨材粒子の平均粒径D50が0.8 mmを超える場合は、やはり最大粒径の場合と同様に、骨材粒子とセメント水和物との境界面積が平均的に大きくなり、この境界部における剥離強度の低下割合が、セメント系マトリックス全体に占める割合に比較して著しく大きくなる。その結果、骨材粒子表面における剥離破壊が生じやすくなって、セメント系マトリックスの曲げ強度や引張強度、さらには早期強度までもが著しく低下することになる。骨材粒子のより好ましい平均粒径D50は、0.20−0.75 mmである。
<繊維>
本実施の形態の超高強度繊維補強セメント系混合物は、上述した本超高強度セメント系マトリックスに、金属繊維、有機繊維、無機繊維、又は金属繊維と有機繊維若しくは無機繊維とを混ぜ合わせた複合(ハイブリッド)繊維のいずれかを混入することにより得られる。すなわち、本実施の形態の超高強度繊維補強セメント系混合物は、混入する繊維の材質に依存することはない。
混入可能な金属繊維としては、鋼繊維、高張力鋼繊維、ステンレス繊維、チタン繊維、アルミニューム繊維などが挙げられる。また、有機繊維としては、ポリプロピレン(PP)繊維、ポリビニールアルコール(PVA)繊維、アラミド繊維、ポリエチレン繊維、超高強力ポリエチレン繊維、ポリエチレンテレフタラート(PET)繊維、レーヨン繊維、ナイロン繊維、ポリ塩化ビニール繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、耐アルカリガラス繊維などが使用できる。
また、無機繊維としては、炭素繊維、天然の玄武岩を溶融して紡糸したバサルト繊維、ガラス繊維、シリカ繊維などが使用できる。
さらに、金属繊維に有機繊維又は無機繊維を混入した複合繊維を使用することもできる。複合繊維を使用するメリットは、剛性と引張強度が高い金属繊維による引張補強により、引張ひずみの小さい領域(例えば、ひび割れ発生直後のひび割れ幅が小さい状態)において、金属繊維の補強効果が大きく期待できる。他方、ひび割れ幅が増大した、引張ひずみが大きい領域においては、有機繊維又は無機繊維による引張補強効果が大きく期待できる。このように、繊維を複合化することにより、引張ひずみの幅広い領域において、繊維補強効果を有効に期待することが可能となる。
混入させる繊維の断面形状は、円形、楕円形、長方形などのいずれの形状でもよく限定されるものではない。また、繊維の表面形状についても、表面を凹凸形状としたもの、波形の加工を施したもの、ねじれ形状にしたものなどいずれの形状でもよく、限定されるものではない。
また、混入する繊維の合計量(繊維混入量)は、超高強度繊維補強セメント系混合物の全容積に対する混入率(容積混入率)が0.1−5.0容積%となるように調整するのが好ましい。すなわち、0.1容積%の繊維の容積混入率があれば、超高強度繊維補強セメント系混合物として繊維の架橋効果は小さいものの期待できる量である。一方、容積混入率5.0容積%は繊維の架橋効果を充分に期待できる量であるが、これより多くの量の繊維をセメント系マトリックスに混入すると、練り上がりのフレッシュ性状が保てなくなって自己充填が難しくなり、実質的に構造材として適用することができないおそれがある。混入する繊維の合計量は、より好ましくは1.5−3.0容積%の容積混入率とすることができる。
繊維の長さ形状としては、繊維の長さLiの繊維の平均断面径dに対する比率(Li/d)が10-500となる繊維がよい。この比率(Li/d)はアスペクト比ARと呼ばれるもので、繊維と超高強度セメント系マトリックスとの付着性能を示すパラメータである。アスペクト比ARが10未満の場合には、セメント系マトリックスと繊維との付着を充分に得ることは困難となり、繊維による引張補強を保持することができなくなる。他方、アスペクト比ARが500より大きくなると、繊維の長さが長くなりすぎることにより、セメント系マトリックスに混入した際に、繊維同士が絡み合うようになって、ファイバーボールができやすくなる。また、繊維がセメント系マトリックスの中に均等に分散できなくなり、流動性も失われる。より好ましくは、アスペクト比ARを20-300にする。
次に、本実施の形態のセメント組成物、セメント系マトリックス、繊維補強セメント系混合物及びセメント混和材に対して行われた各特性の改善方法について説明する。
<所望する早期強度を実現するための方法>
早強ポルトランドセメント及び超早強ポルトランドセメントの鉱物組成は、C3S(けい酸三カルシウム)の組成が多く、C2S(けい酸二カルシウム)の組成が少ないために、他のポルトランドセメントに比べて早期強度の発現が早い。そして、超早強ポルトランドセメントは、基本的に早強ポルトランドセメントと似ているが、粉末度が高く水和反応効率が高くなるために、早期強度の発現がさらに早まる。
そこで、所望する早期強度を発現させる第一の方法として、急硬材を添加することなく、鉱物組成の組成割合が規定されている早強ポルトランドセメント又は超早強ポルトランドセメントというように使用するセメントの種類を限定することにより、24時間の常温気中養生における早期強度発現を実現している。
なお、早強ポルトランドセメントや超早強ポルトランドセメントは、C2S(けい酸二カルシウム)の組成が少ないために、中期・長期強度の伸展が低下する傾向にある。この対策として、早強又は超早強ポルトランドセメント100重量部に対して適正な重量部の高炉スラグ微粉末を混入することにより、中長期強度の伸展を実現している。
一般的には、急硬材を添加することにより、早期強度発現を早めることは可能である。急硬材としては、非晶質カルシウムアルミネート−無水石膏系やアウイン−無水石膏系の混和材が知られている。基本的には、エトリンガイト水和物を生成することにより急硬性を実現させることを意図している。しかし、急硬材を使用すると、i)数時間の早期強度発現を実現するために、早期に得られる水和反応生成物が特殊なものとなり、中期・長期の強度発現の向上が困難となる、ii)養生温度に対して強度発現や可使時間が敏感となるために、早期強度発現に対する施工管理が困難となる、iii)急硬材は早期強度発現を早めることが主目的であるために、流動性を保持できる可使時間を確保するのが困難となる、などの課題が生ずる。したがって、本実施の形態では、急硬材を使用することなく、早期強度の発現を実現させた。
早期強度を向上させる第二の方法は、早強又は超早強ポルトランドセメント100重量部に対して石灰石微粉末5−30重量部を混入することである。石灰石微粉末はC3S(けい酸三カルシウム)の早期水和を促進する働きがあり、早期強度の向上に著しく寄与する。さらに前述のようにC3S(けい酸三カルシウム)の組成が多い早強又は超早強ポルトランドセメントを使用するために、早期水和促進効果はさらに増大される。石灰石微粉末は、セメント鉱物組成中のC3A(アルミン酸三カルシウム)と早期に反応して、モノカーボネート(C3A・CaCO3・11H2O)の水和物を生成して、早期強度の発現に寄与する。但し、石灰石微粉末は、長期強度には寄与することがないので、別の混和材を配合して対処する必要がある。
早期強度を向上させるための第三の方法は、早強又は超早強ポルトランドセメント100重量部に対して高炉スラグ微粉末の25−69重量部を混入することである。高炉スラグ微粉末も、石灰石微粉末による早期強度発現効果ほどではないが、セメント組成物中のC3S(けい酸三カルシウム)の早期水和を促進する働きがあり、早期強度の向上に貢献する。
早期強度を向上させるための第四の方法は、早強又は超早強ポルトランドセメント100重量部に対して無水石膏20重量部以下を混入することである。無水石膏は、セメント鉱物組成中のC3A(アルミン酸三カルシウム)と反応して、エトリンガイト水和物を生成する。エトリンガイトは、針状形状の水和生成物で早期強度の発現を実現する。しかし、無水石膏は急硬材の構成要素のひとつであるために、本実施の形態では無水石膏を混入しない場合においても、早期強度の向上が実現できることも説明している。
早期強度を向上させるための第五の方法は、早強又は超早強ポルトランドセメント100重量部に対してシリカフュームの5−18重量部を混入することである。シリカフュームを添加すると、流動性の向上、中期・長期強度の向上、あるいは水和物の緻密性の向上に著しく貢献することがわかっている。これらの特性向上を期待するには、一般的にシリカフューム添加量をポルトランドセメント100重量部に対してシリカフューム20−30重量部とすることが多い。しかしながらこのように多量のシリカフュームを混入すると、早期強度の発現を低下させることを見つけだした。その結果、本実施の形態では、シリカフュームを5−18重量部の範囲に抑えた。これにより、早期強度の発現の向上と、中期・長期強度の発現の向上、流動性の向上、超高強度セメント系マトリックスの緻密性と耐久性の向上を実現することができた。
<所望する中期・長期強度を実現するための方法>
上述したように、本実施の形態では、24時間の常温気中養生で高い圧縮強度(早期強度)を発現できる配合にしている。一般的に知られている早期強度が発現できる無収縮モルタルやグラウト材などは、24時間強度などの早期強度発現以降の1週間強度(中期強度)や4週間強度(長期強度)の増進を期待することは困難である。その理由は、早期強度を発現させるために急硬材を適用する配合ケースが多いからである。これに対して本実施の形態では、所望する早期強度を発現させることができるだけでなく、常温気中養生条件下で所望する中期・長期の強度発現を実現できる配合について説明する。
所望する中期・長期強度を発現させるための第一の方法は、早強又は超早強ポルトランドセメント100重量部に対して高炉スラグ微粉末25−69重量部を混入することである。高炉スラグ微粉末は、潜在水硬性の性質を有するために、中期・長期の強度発現が期待できる。高炉スラグ微粉末は、溶融状態の高炉スラグを大量の水で急冷した後に、微粉砕して作られる。高炉スラグ微粉末は、急速冷却されるために非晶質のガラス質が主体の鉱物となり、ケイ素と酸素の網目状の構造を形成している。セメントの水和反応で生成される水酸化カルシウムのアルカリ溶液中で、OHの侵入が容易になり網目構造が破壊されて水和反応が生ずる。その結果、中期・長期の強度が発現すると考えられる。
中期・長期強度を向上させる第二の方法は、早強又は超早強ポルトランドセメント100重量部に対してシリカフューム5−18重量部を混入することである。シリカフュームの主成分は非結晶のシリカ質であることにより、フライアッシュなどと同様に水酸化カルシウムとのポゾラン反応により長期的にカルシウムサルフェート系水和物やカルシウムアルミネート系水和物を生成して、中期・長期の強度発現に寄与する。しかし、シリカフュームの多量添加は、早期強度の発現に悪い影響を与えるために、本実施の形態で説明する配合では、早強又は超早強ポルトランドセメント100重量部に対してシリカフューム18重量部を最大としている。
<流動性の向上と所望する可使時間を確保するための方法>
第一の方法は、早強又は超早強ポルトランドセメント100重量部に対して石灰石微粉末5−30重量部を混入することである。石灰石微粉末の平均粒径は、早強又は超早強ポルトランドセメントの平均粒径よりも小さくなる。そのために、石灰石微粉末がセメント粒子の隙間を充填するようなマイクロフィラー効果が発揮されて緻密な組織を形成することができるようになる。また、石灰石微粉末は球体形状をしているために、ボールベアリング効果を発揮し、セメント粒子間で流動性を向上させる。さらに、石灰石微粉末は、高性能AE減水剤の比表面積あたりの吸着量がセメントの約60%程度と少ない。つまり同量の高性能AE減水剤を使用した場合には、石灰石微粉末を混入することにより減水剤の効果が顕著となり、流動性を向上させることができる。
第二の方法は、早強又は超早強ポルトランドセメント100重量部に対してシリカフューム5−18重量部を混入することである。シリカフュームの平均粒径は、組成物の構成要素となる粉体中で一番小さく、球体の形状をしているために、マイクロフィラー効果及びベアリング効果が粉体中で最も効率的に実行される。このため、シリカフュームを混入することで大幅に流動性を向上させることができる。しかしシリカフュームの多量添加は、粘性の過大な増大を招くことになるために、本実施の形態では早強又は超早強ポルトランドセメント100重量部に対してシリカフューム18重量部を最大としている。
第三の方法は、早強又は超早強ポルトランドセメント100重量部に対して高炉スラグ微粉末25−69重量部を混入することである。高炉スラグ微粉末の平均粒径も早強又は超早強ポルトランドセメントの平均粒径よりも小さく、マイクロフィラー効果とボールベアリング効果を発揮して流動性を向上させることができる。
本実施の形態の超高強度繊維補強セメント系混合物等は、急硬材を使用していない。一般的な急硬材は、早期強度の発現を目的としているために、練り上がり後、早々に流動性を低下させる特性がある。練上がり温度にもよるが一般的には練り上がり後の可使時間は10分程度である。しかしながら施工性等を考慮すると1.5時間以上の可使時間が確保できるのが好ましい。そこで、本実施の形態の超高強度繊維補強セメント系混合物等では、急硬材を使用しないことで可使時間が短くなるのを防いだ。さらに、早強又は超早強ポルトランドセメント100重量部に対して高性能AE減水剤3.4−4.5重量部を混入することにより、1.5時間以上の可使時間を確保している。
以上において説明してきた本実施の形態の超高強度セメント組成物、超高強度セメント系マトリックス、超高強度繊維補強セメント系混合物及びセメント混和材を用いることにより、常温気中養生で早期、中期及び長期の各材齢で、所望する高い圧縮強度、曲げ強度、曲げタフネス及び曲げじん性係数を得ることができる。
このため、橋梁部材の接合部材をはじめ、土木建築構造物の補強部材、橋梁用構造部材、橋梁用付属物、地下構造物、ダム構造部材、海洋構造物、建築構造物、建築建材又は土木建築資材などの多方面にわたって有効に利用できる材料となる。
また、通常のコンクリート材料を使用したプレキャスト部材の接合に際して、プレキャスト部材から突出させた接合用の鉄筋を介して接合する場合がある。このような場合に、従来の方法では無収縮モルタルや通常のコンクリート材料などの充填材を打設して接合構造としていた。このような場合の接合部への充填材として本実施の形態の超高強度セメント組成物、超高強度セメント系マトリックス、超高強度繊維補強セメント系混合物又はセメント混和材を使用すると、接合用鉄筋に必要とされる付着長が従来の充填材と比較すると半分以下になるので、接合部の幅を縮小することができる。また、これにより接合部の充填材料の量の低減と、接合部の施工期間の短縮と、接合部の耐久性の向上などの効果が期待できる。
実施例1では、上記実施の形態で説明したセメント組成物、セメント系マトリックス、繊維補強セメント系混合物及びセメント混和材によって達成させる各特性について、数値を示しながら説明する。
まず、超高強度のセメント系マトリックス又は繊維補強セメント系混合物の練り上がり後のフレッシュ性状として、充分な流動性を確保する。例えば、セメント系マトリックスのゼロ打のフロー値が、230 mmを超える配合にする。
可使時間については、常温下で1.5時間以上保持できるようにする。具体的には、セメント系マトリックスのゼロ打のフロー値が230 mmを超える状態を常温下で1.5時間以上保持できる配合にする。
早期強度については、24時間の常温気中養生で高い圧縮強度が確保できるようにする。例えば、セメント系マトリックスによるφ5×10 cmの供試体を使った圧縮強度試験で、少なくとも65 N/mm2以上の圧縮強度が測定される配合とする。また、48時間の常温気中養生後の圧縮強度は、少なくとも117 N/mm2以上となるようにする。
中期強度については、7日の常温気中養生後のセメント系マトリックスの供試体(φ5×10 cm)を使った圧縮強度試験で、少なくとも151 N/mm2以上の圧縮強度が測定される配合とする。また、7日の常温気中養生後の曲げ強度は、セメント系マトリックスの供試体(口5×5×10cm)で少なくとも18.5 N/mm2以上が測定される配合にする。
長期強度については、28日の常温気中養生後のセメント系マトリックスの供試体(φ5×10 cm)を使った圧縮強度試験で、少なくとも170 N/mm2以上の圧縮強度が測定される配合とする。
そして、セメント系マトリックスに補強繊維を混入して得られる超高強度繊維補強セメント系混合物は、充分な流動性と可使時間が保持できる配合とする。また、28日の常温気中養生によって高い圧縮強度と、曲げ強度及び曲げタフネス試験において高い曲げ強度と曲げじん性係数が確保できる配合とする。
以下、この実施例2では、前記した実施の形態で説明した超高強度セメント系マトリックス等の特性を確認するためにおこなわれる試験について説明する。
[使用材料]
表1に、各試験で使用した材料の諸元を示す。
[試験項目と試験方法]
(1)フロー値:「JIS R 5201(セメントの物理試験方法)」に準じた方法で、15回の落下運動を行わないで、さらにフロー試験開始から90秒経過した状態で測定した静置フロー値(mm)である。「ゼロ(0)打のフロー値」ともいう。
(2)フロー時間:上記フロー値が200 mmに達するまでに要する時間(秒)である。
(3)圧縮強度:「JIS R 5201(セメントの物理試験方法)」に準じた方法で、φ5×10cmの円筒状の型枠内に混練り材料を打設し、温度20℃、湿度60%の恒温恒湿の養生室において所定の養生期間気中養生した後に、その硬化体の圧縮強度を試験したものである。なお、試験においては3体の供試体を作製し、強度試験の平均値を圧縮強度とした。
(4)曲げ強度:「JIS R 5201(セメントの物理試験方法)」に準じた方法で、口4×4×16cmの四角筒状の型枠内に混練り材料を打設し、温度20℃、湿度60%の恒温恒湿の養生室において所定の養生期間気中養生した後に、その硬化体の曲げ強度を試験したものである。なお、試験においては3体の供試体を作製し、曲げ試験の平均値を曲げ強度とした。
(5)曲げ強度及び曲げじん性係数:「JSCE-G 552-2010(繊維補強コンクリートの曲げ強度および曲げタフネス試験方法)」に準じた方法で、内空が口10×10×40cmの四角筒状の型枠内に繊維補強セメント系混合物の混練り材料を打設し、温度20℃、湿度60%の恒温恒湿の養生室において所定の養生期間気中養生した後に、その硬化体の曲げ強度を試験したものである。また、曲げじん性係数は、「荷重−中央点のたわみ」測定を行い、上記試験方法に準じて曲げじん性係数を求めたものである。
(6)セメント系マトリックスの凝結時間:「JIS A 1147(コンクリートの凝結時間試験方法)」に準じた方法で、円筒状の型枠内にセメント系マトリックスの混練り材料を打設し、温度20℃、湿度60%の恒温恒湿の養生室において、貫入抵抗試験装置を用いて貫入抵抗値が3.5 N/mm2になるまでの時間(始発時刻)と、貫入抵抗値が28.0N/mm2になるまでの時間(終結時刻)とを測定し、終結時刻から始発時刻を引いた時間を凝結時間とする。
(7)長さ変化:材料収縮時の型枠による拘束を避けるためのテフロンシート(登録商標)を内面に貼った内空が口10×10×40cmの四角筒状の型枠内において、型枠の中央部に標点距離100mmの埋め込み型ひずみ計(東京測器研究所製 KH-100HB)と熱電対を綿糸により宙づりに固定し、混練り材料を打設する。温度20℃、湿度60%の恒温恒湿の養生室において養生しながら、打設直後からひずみと温度の測定データをデータロガーにより記録し、材料の打設直後からのひずみ(長さ変化)を求める。なお、埋め込み型ひずみ計の測定データには、材料の温度変化(水和反応による熱や養生による熱)による長さ変化も含まれるので、温度記録から熱による長さ変化の値を補正して、20℃における長さ変化の値として求める。
[配合条件]
表2に、上記実施の形態で説明した超高強度セメント系マトリックスと比較例の合計11ケースの配合条件を示す。この実施例3で説明を行うのは、配合に使用するセメント材料の種類の影響についてである。詳細には、普通ポルトランドセメントを使用した場合と、早強又は超早強ポルトランドセメントを使用した場合の違いについて説明する。
この実施例で使用した高炉スラグ微粉末は、表1のスラグAでブレーン比表面積は4,590 cm2/g である。また、使用した骨材粒子の種類は、すべて表1の骨材Aで骨材容積率は30%である。
[試験結果]
表3には、表2に示した11ケースについて行ったフレッシュ性状と強度の試験結果を示す。
実験番号1-3と1-10の配合は、シリカフューム、高炉スラグ微粉末、石灰石微粉末及び無水石膏の重量部を同程度とし、セメントの種類のみを変更して比較したものである。両者の比較で決定的に異なるのは、普通ポルトランドセメントを使用した場合(実験番号1-10)には、24時間の圧縮強度と曲げ強度、及び48時間の圧縮強度が低下することである。
実験番号1-6と1-11の比較は、前述の実験番号1-3と1-10の比較と類似している。相違点は、実験番号1-6と1-11の比較では、実験番号1-3と1-10の配合で使用した無水石膏の5重量部を石灰石微粉末の重量部に変更した点である。この結果においても、普通ポルトランドセメントを使用した場合(実験番号1-11)には、24時間の圧縮強度と曲げ強度、及び48時間の圧縮強度が低下している。
これら2つの比較結果に対する考察を以下に示す。普通ポルトランドセメントでは、早期強度に影響を与えるC3S(けい酸三カルシウム)の鉱物組成が早強あるいは超早強ポルトランドセメントに比べて少ない。これが普通ポルトランドセメントを配合した場合に早期強度が低下する主要因であると考えられる。すなわち石灰石微粉末を添加することでC3S(けい酸三カルシウム)の初期水和を促進させようとしても、普通ポルトランドセメントではC3S(けい酸三カルシウム)の量が少ないために、所望する早期強度を得ることができなかった。
上述した以外に普通ポルトランドセメントを配合したケースは、実験番号1-7と1-8である。これらのケース(比較例)からも、早強ポルトランドセメントを適用したケース(実験番号1-1から1-6)に比べて、普通ポルトランドセメントを配合したケースは早期強度が低下する結果が得られた。
比較例として示した実験番号1-7,1-8,1-9の配合は、いずれも石灰石微粉末が0重量部である。これらの中で、実験番号1-9だけは早強ポルトランドセメントを適用しているので、早期強度が他の2ケースよりも高い結果を示しているが、いずれの3ケースともにフロー時間、フロー値などのフレッシュ性状が悪い結果となっている。この結果から、石灰石微粉末を配合することが、フレッシュ性状を向上させるために効果的であることがわかる。
[配合条件]
表4,5に、上記実施の形態で説明した超高強度セメント系マトリックスと比較例の合計40ケースの配合条件を示す。この実施例4で説明を行うのは、超高強度セメント組成物や超高強度セメント系マトリックスにおいて、早強又は超早強ポルトランドセメントの100重量部に対して、シリカフューム、高炉スラグ微粉末、石灰石微粉末及び無水石膏のそれぞれについて、配合材料としての適正な重量部についてである。
この実施例で使用するセメントは、すべて早強ポルトランドセメントとした。また、使用する骨材粒子は、すべて表1の骨材Aで骨材容積率は30%である。さらに、石灰石微粉末のブレーン比表面積として3種類、また高炉スラグ微粉末のブレーン比表面積として2種類の配合材料を選定して、これらを適用した比較実験を行った。
なお、以降の表には上記実施例で説明した配合条件及び実験結果を再度掲載することで、配合条件がより理解しやすくなるように配慮した。
[試験結果]
表6,7には、表4,5に示した40ケースについて行ったフレッシュ性状と強度の試験結果を示す。
上記実施の形態で説明したシリカフューム重量部の上限値は、実験番号2-1に示されている。また、シリカフューム重量部の上限値よりも過大に配合された比較例として、実験番号2-28や2-29があり、実験番号2-21、1-9及び2-23も参考となる。一方、シリカフューム重量部の下限値よりも過小に配合された比較例として、実験番号2-32がある。
これらの結果を考察すると、シリカフューム重量部が上限値よりも過大である場合には、24時間の圧縮強度という早期強度の向上が望めなくなる(実験番号2-28、2-29)。早期強度発現を期待しない場合の一般的なセメント系マトリックスの配合であれば、シリカフュームは30重量部程度であっても適用可能な配合である。しかしながら、上記実施の形態で説明したように早期強度の発現を目的に配合するためには、シリカフューム重量部の上限値を18重量部とする。
他方、シリカフューム重量部が下限値よりも過小である場合には、フレッシュ性状と長期強度の向上が望めなくなる(実験番号2-32)。シリカフューム重量部の下限値を過小にすると、充分なベアリング効果やマイクロフィラー効果が期待できなくなり流動性の低下を招く。また、長期的なポゾラン反応が減少して、長期強度の増進が望めなくなる。よって、シリカフューム重量部の下限値を、5重量部とする。
上記実施の形態で説明した高炉スラグ微粉末重量部の上限値と下限値は、実験番号3-11と実験番号2-19に基づいている。また、高炉スラグ微粉末重量部の上限値よりも過大に配合された比較例として、実験番号2-20や2-27がある。一方、高炉スラグ微粉末重量部の下限値よりも過小に配合された比較例として、実験番号2-33がある。
以下では、これらの結果を考察する。高炉スラグ微粉末重量部が上限値よりも過大である場合には、流動性及び長期強度が低下する。また、高炉スラグ微粉末重量部が下限値よりも過小である場合には、7日強度などの中期強度が低下する。これらの結果から、高炉スラグ微粉末を25−69重量部とする。
上記実施の形態で説明した石灰石微粉末重量部の上限値は、実験番号2-17に示され、下限値は、実験番号2-2、1-1、2-3、2-4、2-8、2-10、2-12に示されている。また、石灰石微粉末重量部の上限値よりも過大な比較例は実験番号2-31であり、下限値よりも過小な比較例は実験番号2-24、2-25、2-26である。
石灰石微粉末重量部が上限値よりも過大に配合された場合には、24時間の早期強度の発現は期待できるが、28日の長期強度の向上が困難となる。一方、石灰石微粉末重量部が下限値よりも過小に配合された場合には、24時間の圧縮強度である早期強度が低下する結果となる。これらの結果から、石灰石微粉末の配合を5−30重量部とする。
上記実施の形態で説明した無水石膏重量部の上限値は、実験番号2-13に示されている。また、実験番号1-4、2-16、2-17、2-18、2-19、1-5、1-6には、無水石膏を配合しないケースが示されている。無水石膏重量部の上限値よりも過大な比較例は、実験番号2-30である。
無水石膏重量部が上限値よりも過大に配合された場合には、流動性が低下し長期強度が低減することが示されている。無水石膏を適量添加すると、早期強度が向上することは実施例にも示されているが、比較例である実験番号2-30に示されるように無水石膏を過剰に添加すると、早期強度も低下することになる。無水石膏を添加しない場合についても、実施例に示されるように充分満足できる特性を得ることができるので、無水石膏が0重量部であってもよい。これらの結果から、無水石膏を配合する場合は、0.5−20重量部とする。
石灰石微粉末のブレーン比表面積を3種類変化させた実施例を、実験番号1-6、1-5、1-4に示す。これらの配合では、シリカフューム、高炉スラグ微粉末、石灰石微粉末及び無水石膏の重量部を同じにして、石灰石微粉末のブレーン比表面積を、それぞれ表1の石粉A、石粉B,石粉Cとした。その結果、いずれのケースでも所望する性能を示した実験結果が得られた。
続いて、高炉スラグ微粉末のブレーン比表面積を変化させて影響を調べた。高炉スラグ微粉末としては、スラグAとスラグBである。比較の組み合わせとしては、実験番号1-1(スラグA)と実験番号2-2(スラグB)の組み合せがある。同様に、実験番号2-4と2-3の組み合せ、実験番号2-6と2-5の組み合せでも比較できる。これらの配合では、シリカフューム、高炉スラグ微粉末、石灰石微粉末及び無水石膏の重量部を同じにした。その結果、いずれの組み合せにおいても、所望する性能を示した実験結果が得られた。
[配合条件]
表8に、上記実施の形態で説明した超高強度セメント系マトリックスと比較例の合計24ケースの配合条件を示す。この実施例5で説明を行うのは、シリカフューム、高炉スラグ微粉末、石灰石微粉末、無水石膏などの適正な重量部に対して、配合する骨材粒子の適正な骨材容積率及び骨材粒子の適正な粒径についてである。
この実施例で使用するセメントは、すべて早強ポルトランドセメントとした。また、使用する骨材粒子は、表1の骨材Aと骨材Bである。無水石膏については、すべて添加しない配合である。また、石灰石微粉末は、表1の石粉A,石粉B,石粉Cである。そして、高炉スラグ微粉末は、すべてスラグAを使用した。
[試験結果]
表9には、表8に示した24ケースについて行ったフレッシュ性状と強度の試験結果を示す。
上記実施の形態で説明した骨材粒子の骨材容積率の上限値と下限値は、実験番号3-5と実験番号3-11に基づいている。骨材容積率の上限値よりも過大に配合された比較例として、実験番号3-12があり、骨材容積率の下限値よりも過小に配合された比較例として、実験番号3-13がある。
これらの結果を考察する。骨材粒子が骨材容積率の上限値よりも過大に配合されると、流動性が大幅に低下し、早期強度も減少する。実験番号3-12の骨材容積率46.5%とは、セメント系マトリックスの全容積中の約半分近くが骨材粒子に占められることを示している。そのために、全体の粒度分布における粒径が大きい側に偏るために生じる流動性の低下と、セメント系マトリックスのバインダー成分が減少することに起因する早期強度の低下という結果となった。
これに対して、骨材粒子が骨材容積率の下限値よりも過小に配合されると、流動性は向上するが、早期曲げ強度が低下し、長期強度も低下する。これは、セメント系マトリックスのほとんどが粉体となるために流動性を得ることが容易になるものの、骨材粒子が少ないために骨材粒子によってマトリックスの骨格が形成されず、骨材粒子間で伝達するせん断伝達力が弱くなって、曲げ強度や長期の圧縮強度の低下を招いたと考えられる。これらの実験結果から、骨材容積率を8−45%とする。
実験番号3-2と実験番号3-1は、同じ骨材容積率であるが異なる粒径分布である骨材Aと骨材Bを使用して、さらに同じ粉体配合の条件で比較したものである。この結果から、いずれの組み合せにおいても所望する性能を示した実験結果が得られた。
[配合条件]
実施例6では、上記実施の形態で説明した超高強度セメント系マトリックスの早期強度発現のメカニズムを明らかにするために、凝結試験を実施した。表10に、上記実施の形態で説明した超高強度セメント系マトリックスと比較例の合計8ケースの配合条件を示す。ここで、実施例となる7ケースは、早強ポルトランドセメントを使用し、シリカフュームをはじめ、高炉スラグ微粉末、石灰石微粉末、無水石膏の重量部をほぼ同一とした配合とし、骨材容積率を変化させた。また、比較例として普通ポルトランドセメントを使用し、粉体配合を実施例とほぼ同一とした配合の実験もおこなった(実験番号1-11)。すなわち、実験番号2-18と実験番号1-11は同じ骨材容積率であるが、配合したセメントの種類が異なるため、セメントの種類が凝結に及ぼす影響を比べることができる。
[試験結果]
表11には、表10に示した8ケースについて行ったフレッシュ性状と強度と凝結時間の試験結果を示す。実施例の強度結果は、すべて所望する強度を満足するものである。
ここで、骨材容積率が、凝結始発時刻、24時間圧縮強度及び28日圧縮強度に与える影響を明らかにするために、表10,11に示した実施例のデータを用いて図1にこれらの関係を示した。
図1を見ると、骨材容積率が減少すると凝結始発時刻が早くなる傾向にあることがわかる。また、緩やかではあるが、24時間の早期圧縮強度を極大とするような最適な骨材容積率が存在することがわかる。さらに、28日の長期圧縮強度は、骨材容積率による依存性は少ないと考えられる。しかしながら、早期圧縮強度から長期圧縮強度への伸びは、骨材容積率が大きいほど伸びが大きくなる傾向がある。また、凝結始発時刻が早ければ24時間の早期圧縮強度が大きくなる傾向にあるが、その関係は線形ではなく骨材容積率の影響を受ける傾向にあるといえる。
表11をみると、実験番号1-11(普通ポルトランドセメント)と実験番号2-18(早強ポルトランドセメント)の凝結始発時刻は、約3時間、普通ポルトランドセメントの方が遅くなっていることがわかる。そのために、24時間の圧縮強度及び曲げ強度に大きな差が生ずることになる。しかしながら、28日の長期圧縮強度では、両者の差はなくなる。
以下では、これらの結果を考察する。骨材容積率が小さい場合には、セメント系マトリックスにおける水和反応に影響する粉体が多くなるために、早期に水和反応が行われ、凝結始発時刻が早まる。一方、骨材容積率が大きくなると、これとは逆に早期の水和反応が弱まり、凝結始発時刻が遅くなる。上記実施の形態で設定した骨材容積率の範囲では、凝結始発時刻が5時間から6時間程度となる。これに対して、低熱ポルトランドセメントや中庸熱ポルトランドセメントを使用したセメント系マトリックスを20℃の気中養生した場合、凝結始発時刻は早くても10時間から12時間程度になる。つまり、24時間の早期強度及び7日、28日の中期・長期強度が所望する性能となるような配合にした本実施の形態のセメント系マトリックスは、凝結始発時刻の挙動からも、早期の水和反応挙動が起きることが理解できる。
[配合条件]
上記実施の形態で説明した超高強度セメント系マトリックスの材料としての重要な評価基準に、プレキャスト・セグメント工法における接合部の充填材として適しているかという点がある。つまり狭い空間となる接合部においても、セメント系マトリックス材料の練り上がり後の施工時間中にわたって、充分な流動性を有していることが必要である。流動性を示すひとつの指標として、少なくともフロー値が230 mm以上であることが要求される。この流動性を保持できる時間を「可使時間」という。この可使時間を求めるために、実施例7では、フロー試験を実施した。表12に、上記実施の形態で説明した超高強度セメント系マトリックスの3ケースの配合条件を示す。これらの配合条件は、上述した実施例の同じ実験番号のものに対応しているが、フロー試験の結果と比較しやすくするために、再度、表に示した。
一方、表13は、本実施の形態で説明した超高強度繊維補強セメント系混合物の全容積に対して、表1の繊維Aを1.5容積%、混入した2ケースの配合条件を示す。
[試験結果]
表14には、表12に示した3ケースについて行ったフレッシュ性状と凝結時間の試験結果を示す。
表15には、表13に示した2ケースについて行ったフレッシュ性状の試験結果を示す。
表14,15に示した可使時間のフロー試験は、練り上がり後から温度20℃、湿度60%の恒温恒湿の養生室において行った。いずれの結果も、少なくとも可使時間として1.5時間を確保できることを示している。
一般的な配合では、早期強度を向上させるために急硬材を使用することが多い。本実施の形態では上述したように急硬材を使用することなく、早期強度の向上を図った。その結果、所定の流動性が保持される可使時間を、少なくとも1.5時間確保できることが判明した。
[配合条件]
上記実施の形態で説明した超高強度繊維補強セメント系混合物の各種特性を明らかにするために、適正な粉体配合の条件下において骨材容積率を変化させるとともに、2種類の繊維を使って実験を行った。ここで、実験番号F5-1、F5-2の鋼繊維は、表1の繊維A(直径0.16mm、長さ13mm、アスペクト比81)で、実験番号F6-1からF6-5の鋼繊維は、繊維B(直径0.22mm、長さ15mm、アスペクト比68)を使用している。また、セメントは、すべて早強ポルトランドセメントを使用している。
[試験結果]
表17には、表16に示した7ケースについて行ったフレッシュ性状と、早期、中期及び長期の圧縮又は曲げ強度と、長期の曲げタフネス強度及び曲げじん性係数の試験結果を示す。
繊維A(実験番号F5-1、F5-2)と繊維B(実験番号F6-1からF6-5)の28日曲げタフネスや28日曲げじん性係数の結果を比較すると、繊維Aの方が高い値を示している。両者の粉体配合は異なるものの、28日圧縮強度は近似した結果を示している。超高強度繊維補強セメント系混合物の曲げ強度や曲げタフネスの大きさは、繊維と超高強度セメント系マトリックスとの付着強度が影響する。繊維A(アスペクト比81)が繊維B(アスペクト比68)よりも大きな曲げタフネスと曲げじん性係数を示したのは、アスペクト比の差が大きく影響したものと考えられる。
実験番号F6-1からF6-5では、骨材容積率を変化させて強度特性を比較した。24時間圧縮強度と骨材容積率との関係は、図1に示した結果と類似していて、骨材容積率が20%よりも大きくなると、24時間の圧縮強度が低下する傾向にある。
一方、骨材容積率が大きくなると、曲げタフネスや曲げじん性係数が大きくなる傾向にある。これは、骨材容積率が増加するということは、超高強度セメント系マトリックス中における骨材粒子が占める割合が増加することになるので、骨材粒子が鋼繊維と接触する確率が増え、結果として付着力が増大するのではないかと考えられる。この場合の付着力は、骨材粒子の弾性係数が超高強度セメント系マトリックスの弾性係数よりも高いために、繊維に接触した硬度の高い骨材粒子が繊維に対して機械的付着力を発揮するものと考えられる。
[配合条件]
上記実施の形態で説明した超高強度繊維補強セメント系混合物について、型枠に打設した直後からの収縮特性を測定することにより、水和反応をはじめ早期強度の発現機構などを明らかにする。実施例9の収縮特性を測定するために行った長さ変化の試験に用いたのは、上記表16に示した実験番号F6-2からF6-5の超高強度繊維補強セメント系混合物である。
[試験結果]
長さ変化の試験結果を、図2に示す。長さ変化(収縮ひずみの変化)の結果は、材料の温度による影響を20℃における状態に補正して示している。
図2をみると、いずれの実験ケースにおいても、経過時間20時間から22時間までに急激に収縮して、その後、7日(168時間)まで緩やかに収縮している。このことは、本実施の形態の超高強度繊維補強セメント系混合物が、20℃の常温の養生条件下において24時間で所望する強度を発現できることを示していると考えられる。
経過時間24時間までの長さ変化は、骨材容積率が小さいほど、収縮ひずみ600μ付近まで早く収縮する傾向にある。このことは経過時間24時間での圧縮強度は、骨材容積率が小さいほど早く強度発現することを示唆している。そして、24時間以降の収縮ひずみは、緩やかに進行して、徐々に収縮が一定値に落ち着く傾向にある。
また、経過時間24時間までの収縮ひずみが大きく、その後の収縮ひずみが小さくなる現象には、石灰石微粉末の特徴である初期水和を有するがその後の長期水和への影響が少ない挙動が関与しているものと考えられる。
以上、本発明の実施の形態及び実施例を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態又は実施例に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。

Claims (9)

  1. 早強ポルトランドセメント又は超早強ポルトランドセメント100重量部と、
    シリカフューム7−18重量部と、
    石灰石微粉末5−30重量部と、
    高炉スラグ微粉末25−61.5重量部とを含有することを特徴とするセメント組成物。
  2. 無水石膏0.5−20重量部を含有することを特徴とする請求項1に記載のセメント組成物。
  3. 前記シリカフュームの含有量を7−13重量部とし、前記高炉スラグ微粉末の含有量を37−61.5重量部としたことを特徴とする請求項1又は2に記載のセメント組成物。
  4. 前記石灰石微粉末の含有量を7−25重量部としたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のセメント組成物。
  5. 前記無水石膏の含有量を0.5−15重量部としたことを特徴とする請求項2に記載のセメント組成物。
  6. 全容積が100容積部となるように、
    請求項1乃至5のいずれか一項に記載のセメント組成物と、
    骨材粒子8-45容積部と、
    水と、
    少なくとも一種類の混和剤とを含有することを特徴とするセメント系マトリックス。
  7. 前記骨材粒子は、最大粒径D100が0.8−5.0mmであり、平均粒径D50が0.2−0.8mmであることを特徴とする請求項6に記載のセメント系マトリックス。
  8. 前記石灰石微粉末のブレーン比表面積が5,000 cm2/g以上であり、前記高炉スラグ微粉末のブレーン比表面積が4,000 cm2/g以上であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載のセメント組成物。
  9. 請求項6又は7に記載のセメント系マトリックスと、
    全容積の0.1−5.0容積%の繊維とを含有することを特徴とする繊維補強セメント系混合物。
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