近年、耐震補強や液状化対策といった改築工事、ゲリラ豪雨による内水面洪水対策といった都市部における地下工事が増加しており、この地下工事において、工期を短縮し、コストを抑制しつつ、環境に配慮した工事が望まれている。
こういった地下工事において、汚染された土壌を浄化したり、所定強度の地盤を得るために土壌改良が必要となる場合があり、この土壌改良に、二重管高圧噴射撹拌工法、三重管高圧噴射撹拌工法、AMP(Air Mixing Pillar)工法等が採用されている。
二重管高圧噴射撹拌工法は、改良すべき深さまで二重管ロッドを貫入した後、圧縮空気を沿わせた注入材を高圧で噴射しながらロッドを回転させつつ引き上げ、余分なスライムを排出して円柱状の改良体を造成する工法である。また、三重管高圧噴射撹拌工法は、改良すべき深さまで三重管ロッドを貫入した後、圧縮空気を沿わせた水で切削するとともに、注入材を吐出しつつ回転させ、ロッドを引き上げることにより、余分なスライムを排出させるとともに硬化材を同時充填させ、円柱状の改良体を造成する工法である。これらの工法については、例えば特許文献1に、二重管高圧噴射撹拌工法をJSG工法、三重管高圧噴射撹拌工法をコラムジェットグラウト工法として説明されている。必要があれば、そちらを参照されたい。
AMP工法は、上記の二重管高圧噴射撹拌工法や三重管高圧噴射撹拌工法とは異なり、掘削時に、水に代えて高圧空気を潤滑材として用いることから、排泥が出ないという特徴を有している。また、このAMP工法で使用される掘削装置は、コンパクトであることから、狭い場所や上空制限のある場所にも適用できるという利点を有している。
ここで、図1を参照して、AMP工法で使用される掘削装置と、その掘削装置を用いた土壌改良方法について詳細に説明する。この掘削装置は、図1(a)に示す掘削部材を備えており、この掘削部材は、中空とされた軸体1の先端に、土壌を切削するための切削部材2が設けられ、軸体1の外壁には螺旋状の羽根3が周設され、その軸体1の内部に、土壌を浄化するための浄化剤や所定強度の地盤を作るための固化剤等が通る注入管4が挿設され、その注入管4が軸体1を貫通して羽根面に沿って配設され、掘削方向に対し垂直な方向へ浄化剤や固化剤等を噴射させることができるようになっている。
また、この掘削装置は、図1(b)に示すように、上記の軸体1、切削部材2、羽根3、注入管4、羽根面の上下に設けられる突出部材5を含んで構成される掘削部材が接続される中空で棒状のロッド6と、そのロッド6を回転可能に挟み支持する挟持手段7と、ロッド6の角度を変更可能にするアーム8と、ロッド6を昇降可能にする昇降手段9と、中空とされたロッド6および軸体1の内部を通り、軸体1の先端から噴射する高圧空気を供給するための圧縮空気供給手段10と、浄化剤や固化剤等の注入材を注入管4内へ供給するための注入材供給手段11と、所定の土壌位置に移動し、位置を変更するための走行手段12とをさらに含んで構成される。
上記の掘削装置を用いて土壌改良を行う場合、まず、走行手段12により浄化および地盤を強化すべき位置へ移動し、アーム8によりロッド6の角度を調整してロッド6が地面に対して垂直になるようにした後、挟持手段7によりロッド6の回転を開始して掘削部材を一方向へ回転させ、昇降手段9によりロッド6を降下させることにより、掘削部材を地盤に貫入させ、所定の深さまで土壌を掘削する。
このロッド6の降下により掘削部材を地盤に貫入させる際、ロッド6および軸体1の内部を通して圧縮空気供給手段10から高圧空気が供給され、軸体1の先端から噴射させる。このように高圧空気を噴射させつつ、掘削部材を回転させながら地盤に貫入させるのは、高圧空気が、主に掘削土をスムーズに流動させる潤滑材的効果を与えて掘削を容易にし、また、掘削中の地盤への衝撃を低減させ、掘削部材に揺動撹拌効果を与えてさらに掘削を容易にさせるためである。また、硬い地盤を掘削する際、その地盤と接触する切削部材2は、発熱して高温になるが、高圧空気の噴射により、その切削部材2の発熱を抑制する効果もある。
このようにして所定の深さまで掘削した後、掘削部材の回転方向を反対にし、昇降手段9によりロッド6を上昇させつつ、注入材供給手段11を起動させ、注入管4から注入材を噴射させる。注入材は、羽根面に沿って水平方向に延びる注入管内で加速し、周囲の土壌に向けて噴射され、土壌内を浸透する。羽根3が回転するため、注入材は、土壌と十分に撹拌混合され、土壌中に均一に分散した状態になる。掘削部材は、地面付近で注入材の噴射を停止した後、引き上げられる。このようにして、土壌中に円柱状の改良体が形成される。この改良体をオーバーラップするように形成することで、土壌全体を浄化し、所定の強度をもつ地盤へ改良することができる。
このAMP工法では、土壌の掘削時において、注入材を噴射させることも可能で、注入材として、セメントミルク、水ガラス系の薬剤、石膏、鉄粉や酸化鉄粉、過酸化水素等の酸化剤、これらの混合物を、水やガスに分散させた状態にして供給している。
関東ロームなどの粘性が高く、比較的締まった硬い地盤を掘削する場合、地盤が硬いことから掘削部材を揺動させることができない。すると、羽根3と掘削した孔の土壌壁面との間にほとんど隙間ができず、先端から噴射した高圧空気の逃げ道がなくなってしまう。掘削装置自体に十分な重量がある場合には、それでも掘削部材を昇降手段9により降下させ、掘削を継続することが可能であるが、AMP工法で使用される掘削装置は、コンパクトで、軽量であることを特徴としているため、自重を上回り、掘削部材を下方へ降下させることができなくなるという問題がある。
この問題に鑑み、従来、羽根3の外周に突起部や、羽根3に切欠き部を設け、羽根3と掘削した孔の土壌壁面との間に隙間を作り、その隙間から高圧空気を逃がし、硬い地盤にも対応できるようにした技術が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
図2は、本発明の掘削部材の構成を例示した図である。本発明の掘削部材20は、中空の軸体21と、軸体21に周設される螺旋状羽根22と、螺旋状羽根22の外周に突出するように設けられる突出部23とを備える。ここでは、図示していないが、後述する注入管も含んで構成される。
軸体21は、その長さ方向に沿った中央部において径が大きく、かつその両端部において径が小さくなるように形成されている。螺旋状羽根22は、軸体21の外側の面に螺旋状に取り付けられた羽根で、軸体21の両端部から中央部に向けてその羽根の径が大きくなるように形成されている。
突出部23は、螺旋状羽根22の外周に、その外周から径方向へ突出するように設けられ、また、軸体21の先端および螺旋状羽根22の下面にも、下方である掘削方向へ向けて突出するように設けられている。この突出部23は、その突出する先端に、掘削部材20が掘削時に回転する方向へ向けて先細とされた形状のチップ24が取り付けられている。
このチップ24は、溶接等により突出部23に取り付けられ、突出部23に比較してやわらかい材料により製造されている。これは、突出部23と同等あるいはそれより硬い材料であると、掘削時に硬い岩盤や石に接触した場合に突出部23が欠けてしまうおそれがからである。欠けてしまうと、適切に隙間を生じさせることができなくなり、軸体21の先端から掘削時に噴射される高圧空気の逃げ道がなくなってしまう。しかしながら、やわらかい材料のものにすれば、チップ24が摩耗していくので、欠けてしまうということがなくなり、チップ24が摩耗によりなくなってしまわない限り、掘削することができる。
掘削部材20は、突出部23およびチップ24が設けられる軸体21の先端とは反対側の末端が、後述するロッドに接続され、ロッドの回転に伴って掘削部材20も一定方向へ回転することができるようにされている。また、ロッドの降下により、掘削部材20に設けられたチップ24が土壌に食い込み、上下に存在する羽根の間へ土壌を送ることにより、土壌を掘削し、また、中空の軸体21の内部を通り、先端から噴射される高圧空気により、その羽根間にある掘削土を後方へスムーズに送り、掘削中の地盤への衝撃を低減させ、掘削部材20に揺動撹拌効果を与えて掘削を容易にするとともに、軸体21の先端に設けられるチップ24の発熱を抑制する。高圧空気は、掘削土を後方へスムーズに送る一方で、その役割を終えた高圧空気は、突出部23およびチップ24により形成される螺旋状羽根22と掘削してできた孔壁との間の隙間を通して、上方へ移動し、大気中へ放出される。なお、高圧空気は、例えば、0.5〜2MPaの圧力を有する圧縮空気とすることができる。
このように隙間といった高圧空気の逃げ道を作ることで、地面を押さえつける力が弱い軽量の装置であっても、スムーズに掘削を行うことができ、また、水を使用せず、高圧空気のみを使用し、羽根間を通して後方へスムーズに送ることができるため、排泥が発生することもなくなる。また、軸体21の先端のみならず、螺旋状羽根22の下面にも掘削方向へ向いて突出する突出部23が設けられ、チップ24が取り付けられているため、掘削をより容易にし、硬い地盤であっても、スムーズな掘削を実現することができる。
軸体21は、例えば、全体の長さを0.8〜1m、中央部の長さを0.16〜0.2mで、その中央部の径を0.4mで一定とすることができる。例えば、両端部の一方および他方の長さをそれぞれ0.32mの範囲において0.14mから0.4mの径に一定の割合で拡大する構造のものとすることができる。全体の長さ0.8m、中央部の長さ0.16m、両端部の長さをそれぞれ0.32mとした場合、一定の割合で拡大するテーパ角は約22°となる。なお、このときの螺旋状羽根22の最大の羽根径は、約1〜2.5mとすることができる。ちなみに、この羽根径は、羽根の一端から軸体21を通した他端までの直径である。
突出部23は、突出方向への長さを約0.1mとした略矩形の板状物とすることができ、その突出した先端に、チップ24が溶接する等して取り付けられる。この突出部23は、隣り合う突出部23を結ぶ直線が、螺旋状羽根22の外周に接触しないように、図3に示すように、複数取り付けられる。これは、突出部23の突出長さや、螺旋状羽根22の径を考慮して決められ、適当な数だけ設けられる。数が少なすぎると、掘削が難しくなり、多すぎると、高圧空気が逃げるための隙間が小さくなる等の不都合が生じるからである。
図3では、螺旋状羽根22の外周に6つの突出部23およびチップ24が設けられている。このように、隣り合う突出部23を結ぶ直線が、螺旋状羽根22の外周25に接触しないように、最小限の突出部23およびチップ24を設けることで、十分な隙間を生じさせ、掘削時において噴射された高圧空気を、その隙間を通して大気中へ放出させることができる。また、軸体21の先端から噴射される高圧空気により潤滑材的効果を与えるとともに、装置の自重を上回らないように高圧空気を放出させることができる。
軸体21、螺旋状羽根22は、土壌に挿入することができる強度を有するものであればいかなる材料であってもよく、例えば、炭素鋼、ステンレス鋼、超合金を用いることができる。この超合金としては、例えば、チタン、ジルコニウム、ハフコニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、トリウム等の炭化物、窒化物、ホウ化物、ケイ化物の粉体を、金属結合剤として鉄、コバルト、ニッケルのいずれかとともに、水素または窒素といった不活性ガス中で、1300℃〜1600℃といった高温で焼結した材料を用いることができる。突出部23は、JIS G0202のロックウェル試験で測定されたロックウェル硬さ(HRA)が87.5以上のJIS分類記号のE1〜E4で表されるタングステンカーバイド(WC)とコバルト(Co)とを含有する超硬合金により製造することができる。
一方、チップ24は、突出部23に使用される上記の超硬合金よりやわらかいJIS分類記号のE5で表されるHRA86.5以上のWC−Co系超硬合金から製造することができ、徐々に摩耗させることにより、硬い地盤や岩石等と接触しても欠けることを防止し、掘削を容易にすることができる。
このようなやわらかい材料を使用することにより、玉石を蹴飛ばして掘削しても、チップ24が飛ぶことはなく、岩盤に向けて掘削していってもチップ24の先端から徐々に減っていき、チップ24がなくなるまで掘削することができる。
チップ24は、図4(a)に示すように、突出部23の突出方向の先端に溶接する等して取り付けられ、このチップ24が外れてしまうと、突出部23自体が硬い地盤や岩石等と接触し、欠けてしまうおそれがあることから、その接合部分26を肉盛りして補強することが望ましい。
チップ24は、図4(a)に示すように、掘削部材20の回転方向(ここでは矢線Aに示す方向)に向けて、先細とされた形状とされ、突出部23の突出する先端に接合され、その接合部分26が肉盛りされている。
その形状は、図4(a)の矢線Xの方向から見ると、図4(b)に示すように、略矩形とされ、掘削部材20の回転方向に向いた先端が円弧状になっている。そして、肉盛りされた接合部分26が盛り上がっている。この形状は、図4(c)の矢線Yの方向から見た場合も同様である。
図4(a)および(b)に示すように、突出部23は、螺旋状羽根22の外周や下面に接合等される略矩形の上面30と、それに所定の傾斜角で連続する傾斜面31、32と、その傾斜面31と傾斜面32とを円弧状に接続する曲面33と、それらに連続する側面とを備えている。
傾斜面31と曲面33とが連続する先端部の傾斜面31側に、チップ24が取り付けられ、そのチップ24と突出部23との接合部分26が肉盛りされている。
例えば、突出部23の幅W0を32mmとし、チップ24の幅W1を30mmとし、チップ24を備える突出部23の奥行きLを63mmとし、水平方向に対する曲面33の傾斜角度θを5°とすることができる。このように傾斜角度を2°〜10°程度に設け、チップ24の先端が螺旋状羽根22の外周と平行な向きではなく、わずかに外側を向くようにすることで、より多くの土壌を取り込み、掘削孔の径を大きくするとともに、十分な隙間を生じさせて掘削を容易にさせることができる。
図4(a)および(b)に示すように、チップ24を取り付けた突出部23は、人間の指のような形をしており、一定の幅を有し、先細とされた形状のチップ24が土壌に食い込み、シャベルのようにすくい取り、傾斜面31に沿って、上下にある羽根間へ取り込まれ、その羽根間において後方へ送られることにより、土壌を削り取り、土壌をスムーズに掘削することができる。また、この傾斜面31に沿って後方へ送られると、傾斜面32側には隙間が生じ、これが拡大することにより十分な高圧空気の逃げ道を形成することができる。
高圧空気は、掘削時に、軸体21の先端から噴射され、上部が螺旋状羽根22により覆われた空間内に滞留することになるが、上記のようにして形成された隙間を通して上方へ抜けていき、大気中へ放出される。このため、連続して供給される高圧空気が、上記の空間に滞留し、掘削部材20を降下させることができないという問題がなくなる。
本発明の掘削部材20は、図5に示す断面図のように、掘削部材20の軸体21の内部に挿通し、軸体21の中央部の壁面を貫通して、螺旋状羽根22の最大径となる羽根の下側に沿って延びる注入管27を備える。この注入管27は、軸体21の内部に挿設され、軸体21の中央部の壁を貫通して螺旋状羽根22の下面に沿って突出部23の下側にまで延び、土壌を浄化するための土壌浄化剤や、所定強度の地盤を形成するために添加される固化剤等を、スラリーやガスに分散させた状態で注入材として噴射し、土壌と混合させることができる。なお、この注入材の噴射は、掘削部材20の回転方向を、掘削時とは反対方向へ回転しながら行われる。
注入管27は、螺旋状羽根22の最大径となる羽根の下側に沿って水平方向へ延びることから、その水平方向へ延びる長さを比較的長くとることができ、スラリーやガスを加速させ、より遠くまで噴射させることができる。例えば、最大の羽根径が約2.5mのものの場合、その長さは、約0.7mである。この水平方向へ延びる部分の管の口径を、その延びる方向へ向けて小さくしたものを採用することで、より噴射力を上昇させることができ、より遠くまで噴射させることができる。
この注入管27は、上記の浄化剤や固化剤といった注入材を四方八方へ噴射し、周囲の土壌と十分に混合して改良体を構築するために、複数設けられることが好ましい。注入管27は、例えば2本あるいは3本設けることができる。3本設ける場合には、図3に示すように、隣り合う注入管27により形成される角度が120°となるように配設することができる。なお、4本以上設けることも可能であるが、1つの注入管から噴射された後すぐに次の隣り合う注入管から噴射されることになるため、1度注入した箇所から非常に近隣した箇所に注入されることになり、注入材の無駄になる。このため、少ない注入量で、より広い範囲に効率的に噴射するには、上記の2本あるいは3本が望ましい。
また、注入管27は、単なる所定径の鋼管とすることもできるが、その内部に、スラリーやガスを、渦を巻くように供給し、噴射させることができる螺旋板を設け、コイル状にスラリーやガスを噴射させ、一定方向にのみ噴射させるのではなく、上下左右に広くスラリーやガスを噴射して行き渡らせ、少ない量で効果的に撹拌混合を行い、土壌改良を行うことも可能である。
なお、注入管27の先端は、突出部23およびチップ24の下側に配置され、その先端部も螺旋状羽根22の外周までとされるので、注入材が突出部23およびチップ24より上側へ噴射されることはない。
注入材を噴射させつつ掘削部材20を引き上げることにより円柱状の改良体が構築される。この構築される改良体は、その径が大きい方が、施工期間が短くなることから好ましい。しかしながら、掘削部材20の軸体21の長さを長くし、螺旋状羽根22の径を大きくすると、今まで使用してきた掘削部材を支持する装置本体が、大きくされた掘削部材を支持することができず、転倒してしまう。このため、支持する装置本体を大きくし、その重量を重くする必要があり、これではコストがかかり、容易に移動等させることもできなくなるので、パフォーマンスが悪化してしまう。そこで、注入材の噴射圧力を高くし、その噴射量も増加して、大きい改良体を構築するようにする。
注入材を噴射して改良体を構築する際、掘削時とは反対方向へ掘削部材20を回転させるが、このとき、掘削部材20の螺旋状羽根22の上には、ほぐした掘削土がのった状態となっており、排泥を発生させないためには、注入材を噴射させつつ掘削部材20を引き上げるとき、その上にのった掘削土を掘削部材20下部の掘削孔内へ取り込んでいく必要がある。掘削土を取り込むためには、回転数を上げることが考えられ、従来の上述した掘削部材では、その回転数が22〜26回転/分でなければ、螺旋状羽根22の上にのった掘削土が下側へスライドしなくなって、排泥が発生してしまう。
一方、本発明の掘削部材20を用いると、突出部23およびチップ24を備えることから、掘削時に適当な隙間が形成されており、その隙間を通して、上にのった掘削土を取り込むことができることから、掘削部材20の回転数を上昇させることなくスムーズに取り込むことができる。このため、20〜22回転/分といったように、それほど回転数を確保しなくてもスムーズに注入材の撹拌混合を行うことができる。これにより、安全に施工を行うことが可能となる。
なお、回転数を上げていくと、掘削土を掘削孔内へ取り込みすぎ、掘削部材20を支持する装置の前方が浮いた状態になってしまう。加えて、ロッドに注入管27に接続されるホースが絡み、横転するおそれがある。しかしながら、本発明のように、突出部23にチップ24を設ける構成を採用することで、20〜22回転/分という回転数で安定して土壌改良を行うことができる。
注入材を高圧で、多量に噴射すると、広い範囲の土壌に行き渡らせることができるが、掘削部材20の引き上げ速度が一定で、高い回転数であると、同じ位置を噴射する回数が増加し、孔壁が崩れやすくなる。このため、それほど高圧にすることができず、注入量も制限されることになる。
しかしながら、本発明の掘削部材20を用いれば、上述したように、20〜22回転/分から22〜26回転/分へ回転数を上昇させる必要がないことから、噴射圧力を上げ、その量も増加することが可能となる。本発明では、例えば注入材を、25〜29MPaの圧力で、0.28〜0.33m3/分で噴射させることができる。3つの注入管により噴射させる場合、1つの注入管から、約0.09〜0.11m3/分で噴射させることができる。
本発明では、螺旋状羽根22の上部に周辺土壌から転石があり、その転石を取り込むと、掘削に支障が生じる場合がある。しかしながら、羽根間にある掘削土に詰まりを生じ、後方へ送ることができなくなると、排泥が発生してしまう。このため、図6に示すように、螺旋状羽根22の上面に突起28が設けられるが、この突起28の羽根面からの突出長さが長いと、転石した石が孔内へ落下せず、螺旋状羽根22上に留まり、これが詰まりを生じさせる原因となる。
このため、突起28の羽根面からの突出長さを2〜5cm程度に短くするとともに、テーパを形成して、突起28上に石がのった場合でも、そのテーパに沿って適切に石が落下するように構成することができる。したがって、突起28は、軸体21、螺旋状羽根22、突出部23と同様の材料から製造され、台形の板状物とすることができる。
ここで、この掘削部材20を備える土壌改良システムを、図7を参照しながら詳細に説明する。土壌改良システム100は、上記の注入管27を備える掘削部材20を接続する中空のロッド110と、そのロッド110を回転可能に挟み支持する挟持手段120と、ロッド110の角度を変更可能にするアーム130と、ロッド110を昇降可能にする昇降手段140と、中空とされたロッド110および軸体21の内部を通り、軸体21の先端から噴射する高圧空気を供給するための圧縮空気供給手段150と、注入材を注入管27内へ供給するための注入材供給手段160と、所定の土壌位置に移動し、位置を変更するための走行手段170とを含んで構成される。
この土壌改良システム100を用いて土壌改良を行う場合、上記と同様、走行手段170により浄化および地盤を強化すべき位置へ移動し、アーム130によりロッド110の角度を調整してロッド110が地面に対して垂直になるようにした後、挟持手段120によりロッド110の回転を開始して掘削部材を一方向へ回転させ、昇降手段140によりロッド110を降下させることにより、掘削部材20を地盤に貫入させ、所定の深さまで土壌を掘削する。
このロッド110の降下により掘削部材20を地盤に貫入させる際、ロッド110および軸体21の内部を通して圧縮空気供給手段150から高圧空気が供給され、軸体21の先端から噴射させる。このように高圧空気を噴射させつつ、掘削部材20を回転させながら地盤に貫入させるのは、高圧空気が、主に掘削土をスムーズに流動させる潤滑材的効果を与えて掘削を容易にし、また、掘削中の地盤への衝撃を低減させ、掘削部材20に揺動撹拌効果を与えてさらに掘削を容易にさせるためである。また、硬い地盤を掘削する際、その地盤と接触するチップ24は、発熱して高温になるが、高圧空気の噴射により、そのチップ24の発熱を抑制する効果もある。
このようにして所定の深さまで掘削するが、その間、軸体21の先端から噴射された高圧空気は、チップ24により削り取られ、形成された隙間から適切に放出されるため、スムーズに掘削を行うことができる。このようにして掘削した後、掘削部材20の回転方向を反対にし、昇降手段140によりロッド110を上昇させつつ、注入材供給手段160を起動させ、注入管から注入材を噴射させる。注入材は、羽根面に沿って水平方向に延びる注入管内で加速し、周囲の土壌に向けて噴射され、土壌内を浸透する。螺旋状羽根22が回転するため、注入材は、土壌と十分に撹拌混合され、土壌中に均一に分散した状態になる。
このとき、螺旋状羽根の上にのった掘削土は、形成された隙間を通して掘削部材20下部の掘削孔内へ取り込まれるので、安定して、また、掘削部材20のより低い回転数で、高圧かつより多くの量の注入材を噴射させることができる。掘削部材20は、地面付近で注入材の噴射を停止した後、引き上げられる。このようにして、土壌中に、従来の掘削部材を使用した場合に比較して大きい円柱状の改良体が形成される。この改良体をオーバーラップするように形成することで、土壌全体を浄化し、所定の強度をもつ地盤へ改良することができる。
このシステムにおいて使用される注入材は、以下に説明するものを用いることができる。従来から有機塩素化合物により汚染された土壌を浄化する場合、酸化剤、鉄粉あるいは酸化鉄粉等が使用されている。これに加えて、重金属を固定化し、かつ所定強度の地盤を得るために、固化材として、セメントミルク、石灰、石膏等が使用されてきた。
セメントミルクや石灰は、強度の高い地盤を得ることができるものの、これらは強いアルカリ性を示すことから、アルカリ性土壌の問題が生じる。一方、石膏は、中性を示すことから、アルカリ性土壌の問題は生じないが、一定の強度を得ることができない。
そこで、石膏系固化材よりも高い地耐力を得ることができ、かつ安価で提供される中性固化剤を採用し、これらの問題を解決する。本発明では、この中性固化剤として、酸化カルシウム、三酸化硫黄、二酸化ケイ素を主成分とし、そのほかに、酸化アルミニウム、三酸化二鉄、酸化マグネシウムを含む固化剤を用いることができる。この固化剤は、嵩密度が1.2〜1.3、比表面積が約4cm2/gであり、酸化カルシウム、三酸化硫黄、二酸化ケイ素をそれぞれ、約40〜45%、約25〜30%、約15〜20%程度含有する。
この固化剤は、高い脱水機能をもち、石灰アルミニウムが硫酸カルシウムと反応し、鉱物組成をもつ3CaO・Al2O3・3CaSO4・32H2Oを生成する。このように、この化合物が多量の水を含有することから、この固化剤は、水和反応の過程で多量の水と化合し固定することができる。また、過剰に存在する硫化アルミン酸およびアルミニウムイオンがpHを中和安定させるため、土壌を中性に長期にわたって維持することができる。
また、酸化マグネシウム系の固化剤を用いることもできる。この酸化マグネシウムを主成分とした固化剤は、低pH固化剤であり、環境に与える負荷が小さいことを特徴とする。この固化剤による固化は、固化対象物の粒子間でMgOの炭酸塩化が進行し、MgCO3・3H2Oの結晶が成長することにより行われる。
この固化剤は、土壌中に含まれるフッ素やホウ素等を固定し不溶化する。具体的には、MgOの表面が水和してMg(OH)2となり、その表面のOH基がOH2 +となって正に帯電し、静電引力によりF−やH2BO3 −が吸着することにより不溶化される。
この固化剤とともに、熔リン、蛇紋岩、カンラン石、モンモリロナイト、ハロイサイト、ギブサイト、アロフェン等の微粒子の鉱物を添加することにより、重金属を不溶化し、土壌浄化を実現することができる。ここで、熔リンは、MgO:16質量%、Al2O3:1.9質量%、SiO2:28質量%、P2O5:19質量%、CaO:31質量%、Fe2O3:3.2質量%で、蛇紋岩は、MgO:44質量%、Al2O3:1.6質量%、SiO2:47質量%、CaO:1.6質量%、Fe2O3:5.3質量%で、カンラン石は、MgO:45質量%、Al2O3:1.2質量%、SiO2:47質量%、CaO:1.0質量%、Fe2O3:5.5質量%である。また、モンモリロナイトは、結晶性粘土鉱物で、化学式Na0.67Si8(Al3.33Mg0.67)O20(OH)4・nH2Oで表され、ハロイサイトは、結晶性粘土鉱物で、化学式Si2Al2O5(OH)4・2H2Oで表され、ギブサイトは、水酸化物で、化学式Al(OH)3で表され、アロフェンは、非晶質鉱物で、化学式(1〜2)SiO2・Al2O3・(2.5〜3)H2Oで表されるものである。
例えば、Pbを、上記の熔リンを添加して不溶化するとき、溶液中には、溶リンに含まれるカルシウムやマグネシウムがCa2+やMg2+として溶出し、溶液は弱アルカリ性を呈する。このため、溶液中にはOH−が存在し、これがPbと反応し、難溶性のPb(OH)2を生成する。このPb(OH)2は、鉱物粒子の表面に固着し、不溶化される。
同様にして、カドミウム、六価クロム、砒素、水銀、セレンといった重金属、上記のフッ素やほう素、水素イオン等を土壌環境基準以下に不溶化することができる。
モンモリロナイト等の層状ケイ酸塩粘土鉱物は、交換性陽イオン、例えばCa2+を置換して層間をマイナスに帯電させ、広いpHレンジで陽イオンを吸着する。アロフェン等の非晶質アルミノケイ酸塩鉱物は、溶液が酸性の場合、表面電荷が正に卓越しているため陰イオンを吸着し、溶液がアルカリ性の場合、表面電荷が負に卓越しているため陽イオンを吸着する。ギブサイト等の水酸化物や鉄酸化物も同様、溶液のpHが高いと、その表面電荷が負に卓越し、陽イオンを吸着し、溶液のpHが低いと、その表面電荷が正に卓越し、陰イオンを吸着する。
これらの固化剤を、必要に応じて鉱物を添加して、水や空気等に分散させ、スラリーやガスとして本発明の土壌改良システムへ供給し、土壌内へ噴射させ、土壌改良を行うことができる。
この安価で所望の強度を得ることができる固化剤を含むスラリーやガスを注入材として用い、この注入材を、25〜29MPaの高圧で噴射し、約0.3m3/分といった、これまでの注入量を大きく上回る注入量とすることで、安価で施工することができ、また、同じサイズの掘削部材20であっても、1回の施工で、より大きい改良体を構築することができ、改良体の数を減少させ、工期を短縮することができる。
上記において螺旋状羽根22の最大径は、1〜2.5mと記載したが、これに限られるものではなく、例えば0.35m〜3mのものを用いることができる。上記の25〜29MPaの圧力で、0.28〜0.33m3/分で噴射させた場合、螺旋状羽根22の最大の羽根径が0.35mのものを使用して改良体を構築すると、径が2.35mの円柱状の改良体を構築することができる。
ちなみに、径0.5mでは2.5m、径0.7mでは2.7m、径1.2mでは4.7m、径1.5mでは5m、径2mでは5.5m、径2.5mでは6m、径2.8mでは6.3mの円柱状の改良体を構築することができ、このことから、この圧力および注入量では、最大の羽根径の2〜8倍の径を有する改良体を構築することができる。
この注入圧力および注入量は、あくまで例示であり、これらの値に限定されるものではない。したがって、29MPa以上の圧力であってもよいし、0.33m3/分以上の注入量にすることも可能である。
これまで本発明のガス化処理装置および土壌処理システムについて図面に示した実施形態を参照しながら詳細に説明してきたが、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態や、追加、変更、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。