JP5669080B2 - 特定部位のアミノ酸を置換した緑色蛍光蛋白質またはそのホモログを用いたカルシウムセンサー蛋白質 - Google Patents

特定部位のアミノ酸を置換した緑色蛍光蛋白質またはそのホモログを用いたカルシウムセンサー蛋白質 Download PDF

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Description

本発明は、特定部位のアミノ酸を置換した緑色蛍光蛋白質(以下GFPとする)またはそのホモログを用いた、これまでのGFPまたはそのホモログを用いたカルシウムセンサー蛋白質よりも更に感度、反応量の優れたカルシウムセンサー蛋白質、および前記カルシウムセンサー蛋白質をコードするカルシウムセンサー遺伝子に関する。
カルシウムは生体にとって、構造の維持に必須である骨の主要な構成成分であると同時に、筋肉の収縮、神経興奮性やホルモン分泌、酵素活性の変化などの各種の細胞機能の調節因子として、生体機能の維持および調節に不可欠な役割を担っている。このため、生体内(細胞外および細胞内)のカルシウム変動を探知し、カルシウム濃度を測定するのに用いられるカルシウムセンサーの重要性が高まっている。
カルシウムセンサーは大きく分けて4種類のものがこれまでに開発されている。以下にその概要を示す。
1)カルシウム感受性の合成色素:カルシウムに感受性のある化学合成された色素であり、現在一般によく使用されている。細胞内において使用する場合は、外部から細胞に取り込ませる必要があるが、特定の細胞のみに色素を取り込ませることは難しく、ガラス針等により細胞に該色素を注入しなければならないという問題点を有する。
2)エクオリン:カルシウムに反応して発光する蛋白質であり、細胞に直接注入するか、該蛋白質を賛成する遺伝子を細胞に導入して使用する。細胞内で機能するためには細胞に補酵素を供給する必要があり、また発光が極めて微弱であるという問題点を有する。
3)蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)を応用したカルシウム感受性蛋白質:カルシウムに感受性のあるカルモジュリン(CaM)とそれに結合するミオシン軽鎖キナーゼの一部の配列、二つの色の異なるGFPまたはそのホモログを結合した蛋白質であり、カルシウムがCaMに結合するとその構造が変化し、FRETを起こして二つのGFPまたはそのホモログの発する蛍光強度が変化することを利用している。該蛋白質は、細胞に直接注入するか、該蛋白質をコードする遺伝子を細胞に取り込ませて使用する。FRETによる蛍光変化は軽微であり、さらに一般的に用いられているアルゴンレーザーを搭載したレーザー顕微鏡により測定することが出来ないという問題点がある。
4)一つのGFPからなるカルシウム感受性蛋白質:GFPのアミノ酸配列(配列番号2)の145番と147番の間にCaMを結合したカルシウム感受性蛋白質であり、カルシウムがCaMに結合すると蛋白質の構造が変化し、GFPの発する蛍光強度が変化することを利用している。該蛋白質も、細胞に直接注入するか、その他遺伝子を細胞に取り込ませて使用する。一般にカルシウムに対する感度が低く、実際の細胞では信号/雑音比が高いため、測定が困難であるという問題点を有する。
本発明者らは、上記4)の応用として、GFPの蛍光特性を制御することが可能なカルシウムセンサー蛋白質を作成する方法、並びに該方法により作成されるカルシウムセンサー蛋白質、および該カルシウムセンサー蛋白質をコードするカルシウムセンサー遺伝子を提供し(特許文献1)、カルシウムに対する感度が従来のカルシウムセンサーに比して高く、かつ特定細胞への取り込みが容易であり、更に測定に特別な装置及び補酵素等を必要としないカルシウムセンサー蛋白質の作成に成功している。
しかし、近年、生体内でのカルシウムの微少な変動を感知する必要性が以前にも増して高まっており、上記特許文献1のカルシウムセンサー蛋白質をもってしても、十分な成果が上げられない状況となっている。
特許第3650815号
上記事情に鑑み、本発明は、従来のカルシウムセンサーよりも、さらに、感度及び反応性に優れたカルシウムセンサー蛋白質、及び、該蛋白質をコードする遺伝子の提供を目的とする。
すなわち、本発明は以下に記載の手段[1]〜[5]を提供する。
[1] 下記(a)〜(h)の配列を、N末端から順に有することを特徴とするカルシウムセンサー蛋白質:
(a)3つのアミノ酸からなる配列 Met−Xaa1−Xaa2(ここでXaa1及びXaa2はそれぞれ独立して任意のアミノ酸である)(リンカーX)(配列番号1);
(b)ミオシン軽鎖キナーゼ蛋白質、またはカルモジュリン結合部位を含むその部分アミノ酸配列;
(c)前述の(b)の配列と後述の(d)の配列とを連結する、2つのアミノ酸からなる配列Xaa3−Xaa4(ここでXaa3はロイシン、トレオニン及びグリシンからなる群から選択される何れか一のアミノ酸であり、Xaa4は任意のアミノ酸である)(リンカーY);
(d)配列番号2で示される配列のX番目〜239番目までのアミノ酸配列または該アミノ酸配列であって第207番目のアミノ酸を他のアミノ酸に置換したもの(ここで、Xは149〜151の任意の位置である);
(e)前述の(d)の配列と後述の(f)の配列を連結する、6つのアミノ酸配列からなる配列Gly−Gly−Xaa5−Gly−Gly−Xaa6(ここでXaa5及びXaa6はそれぞれ独立して任意のアミノ酸である)(配列番号3);
(f)配列番号2で示される配列の1番目〜Y番目までのアミノ酸配列であって、第31番目及び/または40番目及び/または106番目のアミノ酸を他のアミノ酸に置換したアミノ酸配列(ここで、Yは141〜148の任意の位置である);
(g)前述の(f)の配列と後述の(h)の配列とを連結するアミノ酸配列Thr−Arg又はThr(リンカーZ);
(h)カルモジュリン蛋白質、そのCa2+イオン結合部位およびミオシン軽鎖キナーゼ蛋白質結合部位の両方を維持するように改変されたカルモジュリン蛋白質ミュータント、又はCa2+イオン結合部位及びミオシン軽鎖キナーゼ蛋白質結合部位の両方を含むその部分アミノ酸配列。
[2] 請求項1に記載のカルシウムセンサー蛋白質であって、前記(d)に記載の第207番目のアミノ酸を疎水性アミノ酸のいずれかに置換し、及び/又は前記(f)に記載の第31番目のアミノ酸を塩基性アミノ酸のいずれかに置換し、及び/又は第40番目のアミノ酸を官能基にアミド基を有するアミノ酸のいずれかに置換し、及び/又は第106番目のアミノ酸を官能基に水酸基を有するアミノ酸のいずれかに置換することを特徴とするカルシウムセンサー蛋白質。
[3] 下記(a)〜(h)の配列を、N末端から順に有することを特徴とするカルシウムセンサー蛋白質:
(a)配列番号4または配列番号5からなるアミノ酸配列(リンカーX);
(b)配列番号6からなるミオシン軽鎖キナーゼ蛋白質の一部のアミノ酸配列;
(c)Thr−Ser,Gly−Ser,Leu−Glu,Thr−Tyr,Thr−Asp,Thr−Cys,Thr−Phe,Thr−Met,Thr−Thr,Thr−Glu,Thr−His,およびThr−Leuからなる群より選択される何れか一のアミノ酸配列(リンカーY);
(d)配列番号2で示される配列の150番目〜239番目までのアミノ酸配列であって、第207番目のアミノ酸をValに置換したアミノ酸配列;
(e)配列番号7からなるアミノ酸配列:
(f)配列番号2で示される配列の1番目〜145番目までのアミノ酸配列であって、第31番目のアミノ酸をArgに置換し、40番目のアミノ酸をAsnに置換し、及び106番目のアミノ酸をThrに置換したアミノ酸配列;
(g)Thr−Arg又はThr(リンカーZ);
(h)ラットのカルモジュリン蛋白質のアミノ酸配列中、第2番目のアミノ酸〜第148番目のアミノ酸からなるアミノ酸配列(配列番号8)、またはカルモジュリン蛋白質ミュータントCaMCNの第2番目〜第148番目のアミノ酸配列からなるアミノ酸配列(配列番号9)。
[4] 下記(a)〜(h)の配列を、N末端から順に有することを特徴とするカルシウムセンサー蛋白質:
(a)配列番号4または配列番号5からなるアミノ酸配列(リンカーX);
(b)配列番号6からなるミオシン軽鎖キナーゼ蛋白質の一部のアミノ酸配列;
(c)Leu−Glu(リンカーY);
(d)配列番号2で示される配列の150番目〜239番目までのアミノ酸配列であって、第207番目のアミノ酸をValに置換したアミノ酸配列;
(e)配列番号7からなるアミノ酸配列;
(f)配列番号2で示される配列の1番目〜145番目までのアミノ酸配列であって、第31番目のアミノ酸をArgに置換し、40番目のアミノ酸をAsnに置換し、及び106番目のアミノ酸をThrに置換したアミノ酸配列;
(g)Thr−Arg又はThr(リンカーZ);
(h)ラットのカルモジュリン蛋白質のアミノ酸配列中、第2番目のアミノ酸〜第148番目のアミノ酸からなるアミノ酸配列(配列番号8)。
[5] 請求項1、2、3または4に記載のバイオセンサー蛋白質をコードするカルシウムセンサー遺伝子。
本発明により、従来のカルシウムセンサーに比べ、蛍光強度の変化量が、より安定に、かつ高感度なカルシウムセンサー蛋白質の提供が可能となる。
本発明のカルシウムセンサー蛋白質の模式図。 A)本発明におけるカルシウムセンサー蛋白質(G−CaMP4)及びB)従来のカルシウムセンサー蛋白質(G−CaMP2)のDNAをトランスフェクション法により導入し発現させたヒト胎児性腎細胞(HEK293細胞)の画像図。 A)G−CaMP4及びB)G−CaMP2を発現させたHEK293細胞のカルバコール処理に対する蛍光強度の時間経過を示す図。 100μMカルバコールに対するA)G−CaMP4及びB)G−CaMP2を発現させたHEK293細胞の蛍光強度の変化量を示す図。 精製したG−CaMP4のカルシウム濃度と蛍光量との関係を示すグラフ図。
本発明のカルシウムセンサー蛋白質は、下記(a)〜(h)の配列を、N末端から順に有することを特徴とする蛋白質である。すなわち、
(a)3つのアミノ酸からなる配列 Met−Xaa1−Xaa2(ここでXaa1及びXaa2はそれぞれ独立して任意のアミノ酸である)(リンカーX)(配列番号1);
(b)ミオシン軽鎖キナーゼ蛋白質、またはカルモジュリン結合部位を含むその部分アミノ酸配列;
(c)前述の(b)の配列と後述の(d)の配列とを連結する、2つのアミノ酸からなる配列Xaa3−Xaa4(ここでXaa3はロイシン、トレオニン及びグリシンからなる群から選択される何れか一のアミノ酸であり、Xaa4は任意のアミノ酸である)(リンカーY);
(d)配列番号2で示される配列のX番目〜239番目までのアミノ酸配列または該アミノ酸配列であって第207番目のアミノ酸を他のアミノ酸に置換したもの(ここで、Xは149〜151の任意の位置である);
(e)前述の(d)の配列と後述の(f)の配列を連結する、6つのアミノ酸配列からなる配列Gly−Gly−Xaa5−Gly−Gly−Xaa6(ここでXaa5及びXaa6はそれぞれ独立して任意のアミノ酸である)(配列番号3);
(f)配列番号2で示される配列の1番目〜Y番目までのアミノ酸配列であって、第31番目及び/または40番目及び/または106番目のアミノ酸を他のアミノ酸に置換したアミノ酸配列(ここで、Yは141〜148の任意の位置である);
(g)前述の(f)の配列と後述の(h)の配列とを連結するアミノ酸配列Thr−Arg又はThr(リンカーZ);
(h)カルモジュリン蛋白質、そのCa2+イオン結合部位およびミオシン軽鎖キナーゼ蛋白質結合部位の両方を維持するように改変されたカルモジュリン蛋白質ミュータント、又はCa2+イオン結合部位及びミオシン軽鎖キナーゼ蛋白質結合部位の両方を含むその部分アミノ酸配列;
という8つのドメインを図1に示すようにN末端から順に連結した蛋白質を指す。
上記のカルシウムセンサー蛋白質の8つの構成ドメインは、(1)改変GFP(d及びfが該当)、(2)機能性分子(b及びhが該当)、(3)リンカー(a、c、e及びgが該当)の何れかに属する。
改変GFPとは、蛍光特性に影響を及ぼすホットスポットアミノ酸残基の近傍でGFPのアミノ酸配列を切断して該蛋白質の構造を改変し、さらに特定部位のアミノ酸残基を置換したものである。
本発明のGFPは、配列番号2で示されるアミノ酸配列からなる蛋白質である。また、本発明のGFPのホモログとは、配列番号2で示されるアミノ酸と同一又は実質的に同一のアミノ酸配列を含む蛋白質のことである。ここで、「実質的に同一のアミノ酸配列を含む蛋白質」とは、配列番号2で示されるアミノ酸配列と約60%以上、好ましくは約70%以上、より好ましくは約80%,81%,82%,83%,84%,85%,86%,87%,88%,89%,90%,91%,92%,93%,94%,95%,96%,97%,98%,最も好ましくは約99%のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、蛍光を発する蛋白質のことであり、例えば、BFP、CFP、GFP、YFP,RFP等のGFP色変異体があげられる。
あるいは、配列番号2で示されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を含む蛋白質としては、配列番号2で表わされるアミノ酸配列中の1又は数個(好ましくは、1〜30個程度、より好ましくは1〜10個程度、さらに好ましくは1〜5個)のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、蛍光を発する蛋白質のことである。
本発明において、GFPの蛍光特性に影響を及ぼす「ホットスポットアミノ酸残基」とは、改変GFPを作成する際に、その改変位置の指標となるGFP上のアミノ酸残基であり、該アミノ酸残基の近傍でGFPの構造を改変することにより、所望の改変GFPを作成することを可能とするものである。本発明において推定されるGFPのホットスポットアミノ酸残基はGFPの第149番目のアミノ酸である。
GFPの構造を改変するとは、好ましくは、推定されるホットスポットアミノ酸残基の近傍(好ましくは、ホットスポットアミノ酸残基の前後5アミノ酸の範囲内の各位置)でGFPを切断し、さらに切断部位から適切な数のアミノ酸(好ましくは1−10個のアミノ酸)を除去し、必要に応じてGFP本来のN末端と本来のC末端とを適切なアミノ酸配列で連結することをいう。
特定部位のアミノ酸残基を置換した改変GFPとは、GFPにおける特定部位のアミノ酸残基(好ましくは第31番目及び/または第40番目及び/または第106番目及び/または第207番目のアミノ酸残基)をいずれかのアミノ酸に置換した(好ましくは、第31番目のアミノ酸を塩基性アミノ酸のいずれかに置換し、及び/又は第40番目のアミノ酸を官能基にアミド基を有するアミノ酸のいずれかに置換し、及び/又は第106番目のアミノ酸を官能基に水酸基を有するアミノ酸のいずれかに置換し、及び/または第207番目のアミノ酸を疎水性アミノ酸のいずれかに置換した、さらに好ましくは、第31番目においてはArgに置換し、及び/または第40番目においてはAspに置換し、及び/または第106番目においてはThrに置換し、及び/または第207番目においてはValに置換した)GFPを用いて、上記にあるように構造を改変したGFPをいう。
改変GFPの好ましい例としては、配列番号2で示される配列の150番目〜239番目までのアミノ酸配列であって、第207番目のアミノ酸をValに置換したアミノ酸配列をN末端側とし、配列番号2で示される配列の1番目〜145番目までのアミノ酸配列であって、第31番目のアミノ酸をArgに置換し、40番目のアミノ酸をAsnに置換し、及び106番目のアミノ酸をThrに置換したアミノ酸配列をC末端側として、適切なアミノ酸配列により連結したものが挙げられる。
機能性分子とは、機能性分子自身が、該分子に作用する因子の結合等の作用により、立体構造に変化を起こし得る分子であって、改変GFPに連結することで、自身の立体構造の変化を該改変GFPに伝え得る分子のことである。この際、該機能性分子は、自身の立体構造の変化を前記改変GFPに伝えることにより、前記改変GFPの立体構造を変化させ、蛍光特性を変化させるように機能する。
従って、機能性分子は、自身の立体構造の変化を改変GFPに伝達し改変GFPの構造に変化を及ぼし得る位置で、改変GFPに連結されている必要がある。従って機能性分子は、本来のGFP構造を改変した部分に近接して連結されていることが好ましい。具体的には、GFPを切断した位置にリンカー分子を介して連結されていることが好ましい。
このような機能性分子は、一分子であってもよいし、二分子以上であってもよい。二分子の場合、機能性分子に作用する因子は、まず一方の機能性分子の立体構造に変化を及ぼし、次いでその立体構造が改変GFPの立体構造に変化を起こさせる。本発明における機能性分子としては、カルモジュリン蛋白質とミオシン軽鎖キナーゼ蛋白質との組み合わせが挙げられる。
また、改変GFPに連結する機能性分子は、その機能性分子が生体内で発現している通りの全構造を有する必要はなく、機能性分子に作用する因子が結合する部位のみを有する一部構造であってもよい。本発明における好ましい例としては、カルモジュリン蛋白質、および配列番号6に示すカルモジュリン結合機能を有するミオシン軽鎖キナーゼの一部を機能性分子として挙げられる。このような機能性分子を改変GFPに適式に連結することで、該融合蛋白質はカルシウムセンサーとして機能し得る。
ここで機能性分子として使用したラットカルモジュリン蛋白質の第2番目のアミノ酸〜第148番目のアミノ酸配列を配列番号8に示す。また、同様に機能性分子として使用したカルモジュリン蛋白質ミュータントCaMCNの第2番目のアミノ酸〜第148番目のアミノ酸配列を配列番号9に示す。
リンカーとは、上記改変GFPの切断部位、該改変GFPと上記機能性分子間の連結部位および改変GFPと機能性分子を連結してなる蛋白質のN末端に位置する数残基のアミノ酸からなるペプチドである。各リンカー分子を区別するべく、以下のような名称を付している。
改変GFPと機能性分子からなる融合蛋白質全体のN末端に存在する開始コドン(Met)を含むリンカーはリンカーXと称し、Metを含む任意のアミノ酸配列であるが、好ましくは1〜10残基のアミノ酸ペプチドであり、より好ましくは、3つのアミノ酸からなる配列Met−Xaa1−Xaa2(ここでXaa1及びXaa2はそれぞれ独立して任意のアミノ酸である;配列番号1)、さらに好ましくは、Met−Gly−Thr(配列番号4)またはMet−Val−Asp(配列番号5)である。
改変GFPのN末端側と機能性分子を連結するリンカーはリンカーYと称し、任意のアミノ酸配列であるが、好ましくは0〜10残基のアミノ酸ペプチドであり、より好ましくは、2つのアミノ酸からなる配列Xaa3−Xaa4(ここでXaa3はロイシン、トレオニン及びグリシンからなる群から選択される何れか一のアミノ酸であり、Xaa4は任意のアミノ酸である)、さらに好ましくは、Thr−Ser,Gly−Ser,Leu−Glu,Thr−Tyr,Thr−Asp,Thr−Cys,Thr−Phe,Thr−Met,Thr−Thr,Thr−Glu,Thr−His,およびThr−Leuからなる群より選択される何れか一のアミノ酸配列であり、特に好ましくは、Leu−Gluである。
改変GFPのC末端側と機能性分子を連結するリンカーはリンカーZと称し、Thr−Arg又はThrであることを特徴とする。
なお、GFPの本来のN末端とC末端とを連結するアミノ酸ペプチドもリンカーであり、好ましくは、アミノ酸2〜10残基からなるペプチドであり、Glyを多く含むものが好ましく、さらに好ましくは、6つのアミノ酸配列からなる配列Gly−Gly−Xaa5−Gly−Gly−Xaa6(ここでXaa5及びXaa6はそれぞれ独立して任意のアミノ酸である;配列番号3)であり、特に好ましい例としては、Gly−Gly−Thr−Gly−Gly−Ser(配列番号7)が挙げられる。
本発明でのカルシウムセンサー蛋白質とは、当該蛋白質に含まれる機能性分子の立体構造に影響を及ぼす因子であるカルシウムを作用させることで該機能性分子の立体構造に影響を与え、該立体構造の変化がカルシウムセンサー蛋白質に含まれる改変GFPの立体構造に影響を与えることで、該改変GFPの蛍光特性を可逆的に変化させる蛋白質をいう。この変化は、蛍光顕微鏡もしくはレーザー顕微鏡等で捉えることが出来る程度の変化をいい、好ましくは肉眼で捉えることが出来る程度の変化をいう。蛍光特性の変化が蛍光強度の変化である場合、蛍光の変化量ΔF/Fが、好ましくは、少なくとも0.1以上変化すること、より好ましくは1以上の範囲で変化することをいう。
本発明において蛍光特性とは、蛍光強度、蛍光波長、蛍光強度比、吸光度、吸光波長などの蛍光特性を指す。本発明では蛍光特性の一例として、蛍光強度を使用する。
本発明において、蛍光特性が蛍光強度である場合、カルシウムセンサー蛋白質は、蛍光を発する状態と蛍光を発しない状態の臨界状態にある。この臨界状態においてカルシウムセンサー蛋白質は、蛍光を発しない状態にあってもよいし、蛍光強度の低い状態にあってもよい。あるいは蛍光強度の高い状態にあってもよい。ここで、蛍光を発しないとは、光学機器を使用して蛍光を確認できないことをいう。蛍光強度が低いとは、カルシウムの存在により、上記の変化量(ΔF/Fが少なくとも0.1以上変化する量)を示して、蛍光強度が高い状態に変化し得る程度に低いことをいう。同様に、蛍光強度が高いとは、カルシウムの存在により、上記の変化量(ΔF/Fが少なくとも0.1以上変化する量)を示して、蛍光強度が低い状態に変化し得る程度に高いことをいう。
本発明におけるカルシウムセンサー蛋白質は、従来の該蛋白質に比べ、上記のように改変GFPの特定部位のアミノ酸残基を置換し、上記のような特定のZリンカーを用いることにより、カルシウム作用時に、より大きな蛍光特性の変化を引き起こすことを特徴とする。ここでより大きな蛍光特性変化とは、蛍光特性の変化が蛍光強度の変化である場合、蛍光の変化量ΔF/Fが、従来のカルシウムセンサー蛋白質よりも大きく、好ましくは、2倍以上増強されることをいう(図4)。
融合蛋白質の作成は、公知の遺伝子工学的手法を用いて行うことができる。例えば、融合したい各蛋白質部分をコードする遺伝子(即ち、特定アミノ酸部位の弛緩を伴う改変GFP及び機能性分子をコードする遺伝子)の断片をそれぞれPCRにより作成し、これら断片を繋ぎ合わせることにより融合遺伝子を作成し、次いで、該融合遺伝子を含むプラスミドを所望の細胞に導入して発現させることにより、融合蛋白質は作られる。
また、本発明においてカルシウムセンサー遺伝子は、本発明のカルシウムセンサー蛋白質をコードする遺伝子のことをいう。該カルシウムセンサー遺伝子は、上記にあるように、作成したいカルシウムセンサー蛋白質を構成する各構成部分をコードする遺伝子断片をそれぞれPCRにより作成し、次いで、これら各遺伝子断片を連結させることにより、融合遺伝子の形で作成され得る。
本発明において作成されたカルシウムセンサー蛋白質は、細胞内および細胞外でカルシウム濃度をより安定に、かつ高感度に測定することが出来る。
例えば、本発明のカルシウムセンサー遺伝子を大腸菌などに導入して予め産生されたカルシウムセンサー蛋白質と検体とを混合することによりカルシウム濃度を測定することが可能である。また、大腸菌などを使用して産生させた蛋白質を、カルシウム濃度を測定したい細胞に直接注入することにより、細胞内のカルシウム濃度を測定することも可能である。あるいは、本発明のカルシウムセンサー遺伝子を、カルシウム濃度を測定したい細胞に導入して細胞に蛋白質を産生させることにより、細胞内のカルシウム濃度を測定することも可能である。
カルシウム濃度の測定は、ある特定の波長の光(例えば、488nmの励起光)をカルシウムセンサー蛋白質に当てることにより、該蛋白質の発する蛍光特性を光学機器(例えば、レーザー顕微鏡)で検出することにより行う。なお、濃度測定に使用するカルシウムセンサー蛋白質が、どのくらいのカルシウム濃度でどのような蛍光特性を示すのか、予め調べておくことが必要である。具体的には、例えば、大腸菌により産生したカルシウムセンサー蛋白質により、蛍光分光光度計を用いて種々のカルシウム濃度に対する蛍光強度変化を測定しておくことが必要である(例えば、図5を参照のこと)。本測定により、Kd133nM、Hill係数3.7、最大蛍光変化量5.5という結果を得た。
本発明のカルシウムセンサー蛋白質は、カルシウムセンサーとしての性能を実験的に確認しておくことが必要である。
以下に本発明の実施例を示すが、これらの実施例はあくまでも例示にすぎず、本発明の範囲を限定するものではない。
本発明において開発したカルシウムセンサー蛋白質(G−CaMP4)及び従来からあるカルシウムセンサー蛋白質(G−CaMP2)は、培養細胞human embrionic kidney(HEK)293細胞に該蛋白質にかかる遺伝子を導入して、カルシウムセンサーとしての性能評価を行った(図2)。
G−CaMP2及びG−CaMP4をそれぞれHEK293細胞内にて発現させ、次いで細胞内カルシウムイオン濃度を増大させることが既知である因子として、カルバコール(0.1mM)を作用させた。その時の反応例を図3に示す。従来のカルシウムセンサー蛋白質であるG−CaMP2よりも本発明のカルシウムセンサー蛋白質であるG−CaMP4の方が、より安定に蛍光強度が上昇することがわかる。
G−CaMP4を発現させたHEK293細胞でのカルバコールに対する蛍光強度の変化量は、G−CaMP2のそれに比して、2.7倍大きな蛍光変化を確認した(図4)。
このように本発明のカルシウムセンサー蛋白質は、従来のものに比して、より安定かつ高感度であることが証明されている。
カルシウムセンサー蛋白質の製法及び測定法
次に本発明を具体例によって説明するがこれらの例によって本発明が限定されるものではない。
(A)G−CaMP4の製法
(A−1)細菌発現用および哺乳動物発現用のプラスミド構築
G−CaMP4の細菌発現用であるpRSET−GCaMP4および哺乳動物発現用プラスミドであるpN1−GCaMP4は、参考文献1(Proc. Natl. Acad. U.S.A., 103, 4753−4758 (2006))に記載のpRSET−GCaMP2およびpN1−GCaMP2を後述のように改変することによって構築した。すなわち、配列番号2で示されるGCaMP2の配列においてSer−31→Arg、Tyr−40→Asn、Asn−106→Thr、およびLys−207→Valにアミノ酸置換されるよう、そのcDNA配列中でSer−31をコードしている5’−TCC−3’を5’−CGC−3’に、Tyr−40をコードしている5’−TAC−3’を5’−AAC−3’に、Asn−106をコードしている5’−AAC−3’を5’−ACC−3’に、およびLys−207をコードしている5’−AAA−3’を5’−GTA−3’に各々変異させて構築した。
まず、pN1−GCaMP2をテンプレートとして以下の合成プライマー(Operon)
5’−AAGTTCAGCGTGCGCGGCGAGGGTGAG−3’(EGFP−127;配列番号10)
5’−GGCGATGCCACCAACGGCAAGCTGAC−3’(EGFP−128;配列番号11)
5’−TGAGCACCCAGTCCGTACTTTCGAAAGACCC−3’(EGFP−129;配列番号12)
5’−AGGACGACGGCACCTACAAGACCCG−3’(EGFP−130;配列番号13)
を用いてPCRによる同時多点変異導入を後述の方法で行い、pN1−GCaMP2.2を作成した。
次に、pN1−GCaMP2.2をSalIMluIで消化後1%アガロースゲル電気泳動により分離し、MagExtractorにて回収した0.8kbの断片と、pRSET−GCaMP2をSalIMluIで消化後1%アガロースゲル電気泳動により分離し、MagExtractorにて回収した6.86kbの断片をDNA Ligation Kit(Takara)を用いて結合させて、pRSET−GCaMP2.2を作成した。
さらに、pRSET−GCaMP2.2をテンプレートとして以下の合成プライマー(Operon)
5’−CAACACGGACCAACTGACTGAAGAG−3’(EGFP−166;配列番号14)
5’−AGTTGGTCCGTGTTGTACTCCAGCTT−3’(EGFP−167;配列番号15)
を用いてPCRによる点変異導入を後述の方法で行い、pRSET−GCaMP4を作成した。
最後に、pRSET−GCaMP4をXhoIClaIで消化後1%アガロースゲル電気泳動により分離し、MagExtractorにて回収した1.12kbの断片と、pRSET−GCaMP2をXhoIClaIで消化後1%アガロースゲル電気泳動により分離し、MagExtractorにて回収した4.19kbの断片をDNA Ligation Kit(Takara)を用いて結合させて、pN1−GCaMP4を作成した。
PCRによる同時多点変異導入にはQuikChange Lightning Multi−Site Directed Mutagenesis Kit (Stratagene)を用い、操作はそのマニュアルに従って行った。詳細には、100ng/μlのpN1−GCaMP2プラスミドを1μl、10xバッファーを2.5μl、2.5mMのdNTPを1μl、各10μMのEGFP−127プライマー、EGFP−128プライマー、EGFP−129プライマー、およびEGFP−130プライマーを各0.6μlずつ、Pfu DNA polymeraseを1μl、水を17μlの混合液を下記の条件に付した。

ステップ1
摂氏95度 1分
ステップ2
摂氏95度 1分
摂氏55度 1分
摂氏65度 12分
上記を30サイクル
多点変異を含むプラスミドの上記混合液の全量に20U/μlのDpnI(Stratagene)を1μl加えて摂氏37度で1.5時間処理し、この処理後の多点変異を含むプラスミドは後述のようにXL−10Goldに形質転換して出現したカナマイシン耐性の大腸菌より回収した。
PCRによる点変異導入は、33ng/μlのpRSET−GCaMP2.2プラスミド0.6μlをテンプレートとして、10μMのEGFP−166プライマーと10μMのEGFP−167プライマーを各0.2μlずつ、PrimeSTAR Max Premix(Takara)を5μl、水を4μlの混合液を下記の条件に付した。

ステップ1
摂氏98度 10秒
ステップ2
摂氏98度 10秒
摂氏55度 10秒
摂氏72度 25秒
上記を30サイクル
ステップ3
摂氏72度 30秒
上記混合液に20U/μlのDpnI(Stratagene)を0.4μl加えて摂氏37度で1時間処理し、KRXに形質転換して出現したアンピシリン耐性の大腸菌より回収した。
制限酵素によるDNAの切断はSalIMluIXhoIClaI(NEB)のいずれか、および添付バッファーと添付Bovine Serum Albumin(100xBSA)を用いて行った。反応は、1〜2μgのDNAに添付バッファー(3μl)、添付100xBSA(0.3μl)および各制限酵素(10〜20ユニット)を加えて全量を30μlとした中で、摂氏37度で1〜3時間行った。
アガロースゲル(Agarose LE、ナカライテスク)は、TAEバッファー(4.98g/l Tris base(ナカライテスク)、1.142ml/l氷酢酸(ナカライテスク)、1mM EDTA(pH8)(Dojindo))にて加熱溶解し、1%または2%となるように調製した。λHindIII digest(Toyobo)または100bp DNA Ladder(Toyobo)をDNAサイズマーカーとして、DNA試料は制限酵素に添付されている10xサンプルバッファーを1/10量と、DMSO(Sigma)にて100倍希釈したSYBR GreenI(Invitrogen)を1/10量加えたものを、TAEバッファーを用いて100Vにて電気泳動を行い、Safe Imager(Invitrogen)を用いて検出した。
ゲルからのDNAの回収にはMagExtractor(Toyobo)を用い、操作はそのマニュアルに従って行った。詳細には、まずアガロースゲル電気泳動後Safe Imager上で目的のバンドをなるべく小さくなるようにメスで切り出し、吸着液を400μl加えて室温に放置してゲルを完全に溶解させた。次に磁性ビーズを30μl加えて時々撹拌しながら室温に2分放置した。DNAを吸着した磁性ビーズはマグネットスタンドを用いて吸着し、上清は捨てた。回収した磁気ビーズに洗浄液を600μl加えてボルテックスミキサーで10秒撹拌し、マグネットスタンドを用いてDNAを吸着した磁性ビーズを同様の手法で回収した。これに75%エタノールを1ml加えてボルテックスミキサーで10秒撹拌し、DNAを吸着した磁性ビーズはマグネットスタンドを用いて回収した。これをスピンダウンして完全に上清捨て、55度で2分間乾燥させた後、水またはTEを25〜100μl加えて時々撹拌しながら、室温で2分間放置した。DNAを解離させた後の磁性ビーズはマグネットスタンドを用いて分離し、DNAを含む上清を回収した。
Ligation反応にはDNA Ligation Kit Ver.2(Takara)を用い、操作はそのマニュアルに従って行った。詳細には、約25fmolのプラスミドベクターおよび約25〜250fmolのインサートDNAの混合溶液に等量のLigation Mixを添加して混和した後、摂氏16度℃で30分間反応させた。
形質転換はE.coliコンピテントセルDH5a(Takara)、XL−10Gold(Stratagene)、KRX(Takara)、またはBL21(DE3)pLysS(Takara)を用いて行った。詳細には、100μlのコンピテントセルを氷上にて溶解し、DNA溶液1μlまたはLigation反応液1μlを加えて氷上で30分間放置した後、摂氏42度で45秒間加熱した。その後さらに氷上で5分間放置し、LB培地500μlを加えて摂氏37度で1時間培養後、100μg/mlのアンピシリンまたは50μg/mlのカナマイシン(Wako Chemicals)を含む選択培地(LB培地)に植えて、摂氏37度にて一晩培養した。翌日、コロニーを100μg/mlのアンピシリンまたは50μg/mlのカナマイシンを含む1〜5mlの液体培地(LB培地)に植えつぎ、摂氏37度にて16時間培養した。
大腸菌からのプラスミドの回収にはQuickLyse Miniprep Kit(Qiagen)を用い、操作はそのマニュアルに従って行った。詳細には、まず1〜3mlの大腸菌培養液を約17000xg、1分の遠心に付し、上清をデカンテーションまたはピペティングで除去して大腸菌の沈殿を得た。これに氷冷したLysis solutionを400μl加えて激しく30秒ボルテックスで撹拌し、室温に3分放置して菌体を破砕した。その菌体破砕液をQuickLyse spin columnに移し、約17000xg、30秒〜1分の遠心に付してプラスミドをカラムに吸着させた。カラムを通り抜けたサンプルはデカンテーションまたはピペッティングにて除去した。次にカラムにQLWバッファーを400μl加えて約17000xg、30秒〜1分の遠心に付してカラムを洗浄した。カラムを通り抜けたバファーはデカンテーションにて除去した。さらにバッファーを加えずにもう一度約17000xg、30秒〜1分の遠心に付してカラムに残った液滴を完全に除去した。カラムを新しい回収用マイクロチューブにとりつけ、カラムにQLEバッファーを50μl加えて約17000xg、30秒〜1分の遠心に付してカラムからプラスミドを溶出し回収した。

LB培地の組成
10g/l Bacto−tryptone(ナカライテスク)、5g/l Bacto−yeast extract(ナカライテスク)、5g/l NaCl(ナカライテスク)、1g/l glucose(Wako Chemicals)。オートクレーブにて滅菌する。

LB寒天培地の組成
10g/l Bacto−tryptone(ナカライテスク)、5g/l Bacto−yeast extract(ナカライテスク)、5g/l NaCl(ナカライテスク)、1g/l glucose(Wako Chemicals)、15g/l Agar(ナカライテスク)。オートクレーブにて滅菌後、温度が45度程度まで下がったところで抗生物質(100μg/mlのアンピシリンまたは50μg/mlのカナマイシン(Wako Chemicals))を加え、プラスチックディシュに流し込む。

TE(pH8)(10mM Tris−HCl 1mM EDTA)(Wako Chemicals)
(A−2)蛋白質の精製
G−CaMP4蛋白質の精製にはこれらの蛋白質が6xHisタグを持っていることを利用して、6xHisタグに特異的に結合するNi−NTA agarose(Qiagen)を用い、操作はそのマニュアルに従って行った。詳細には、pRSET−GCaMP4をE.coliコンピテントセルBL21(DE3)pLysSに形質転換し、100μg/mlのアンピシリンを含むLB選択培地に植え、摂氏37度で一晩培養した。コロニーを100μg/mlのアンピシリンを含む10mlの液体培地(LB培地)に植えつぎ、摂氏37度にて16時間培養した。培養液10mlをさらに100μg/mlのアンピシリンを含む200mlの液体培地(LB培地)に植えつぎ、吸光度OD600で0.5〜1となるまで摂氏37度で培養した後、最終濃度が1mMになるようにIPTG(ナカライテスク)を加えて、摂氏27〜28度で4〜5時間さらに培養した。
3000回転15分遠心して(6200遠心機、Kubota)、大腸菌を回収した。1mlのLB培地で大腸菌を懸濁した。摂氏−20度で30分凍らせたのち、室温で30分解凍した。もう1度凍結、解凍を繰り返した。氷上で冷やした40mlのsuspension buffer(25mM Tris−HCl(pH8)(Sigma)、1mM 2−メルカプトエタノール(ナカライテスク)、1〜5μg/mlの蛋白分解酵素阻害剤(ペプスタチンA、アプロチニン(Wako Chemicals))を加え、よく混ぜて大腸菌を懸濁した。摂氏4度にて100,000xgで15分間遠心し、上清を得た。5M NaClを最終濃度が0.3Mとなるように加え、2mlの50% Ni−NTA agarose(Qiagen;蛋白質結合能5〜10mg/mlレジン)をさらに加えて1時間室温でおだやかに混ぜて反応させた。反応液を空のカラム(エコノカラム;カラムサイズ 〜20ml(Bio−Rad))に移し、余分の液がカラムから滴下してなくなるのを待った。10mlの洗浄液(50mM NaHPO(pH8)(ナカライテスク)、0.3M NaCl、20mM imidazole(ナカライテスク))で2回洗浄した後、3〜4mlの回収液(50mM NaHPO(pH8)(ナカライテスク)、0.3M NaCl、250mM imidazole(ナカライテスク))にて溶出し、Hisタグ付きの蛋白質をカラムから回収した。次に、回収した液を透析チューブ(Sankoujunyaku)に入れて125mlまたはそれ以上のKMバッファー(0.1M KCl(ナカライテスク)、20mM MOPS−Tris(pH7.5)(Dojindo))で摂氏4度にて透析した。KMバッファーは4〜5時間ごとに交換し、液交換を3回以上行った後、透析チューブから蛋白質の溶液を回収した。
蛋白質の濃度測定にはプロテインアッセイキット(Bio−Rad)を用い、操作はそのマニュアルに従ってBradford法(Bradford,M.M. Anal.Biochem.1976,72,248−254.)で測定した。まず、10〜200μg/mlとなるように水で希釈した蛋白質の溶液50μlにBradford試薬を1ml加えて30分後に595nmの吸光度を測定した。蛋白質の基準濃度は牛血清アルブミンを基準蛋白質として用いて測定して求めた。測定は室温にて行った。
(B)G−CaMP4を用いた測定法
(B−1)カルシウム結合能の測定
G−CaMP4蛋白質のカルシウム結合能はさまざまなカルシウム濃度溶液中における蛍光強度を測定して得られたカルシウム濃度―蛍光強度の容量反応曲線に基づいて算出した。既述のように精製したG−CaMP4蛋白質はKMバッファーで最終濃度が0.3μMとなるように希釈した。蛍光強度測定には、蛍光分光光度計F−2500(Hitachi)を用い470nmで励起し510nmで蛍光を記録した。まず測定標品に20mM BAPTA((Dojindo))を添加してカルシウム非存在下における測定を行った後、逐次CaClをさまざまな濃度になるように添加して測定した。測定は室温にて行った。
(B−2)HEK293細胞の培養とプラスミドの導入
炭酸ガス培養器を用いて、培地(DMEM(Gibco)、10% Fetal Bovine Serum(Gibco)、1xペニシリン・ストレプトマイシン(Gibco))にてHEK293細胞を摂氏37度で培養し、Lipofectamine 2000(Invitrogen)を用いて培養細胞にpN1−GCaMP4のプラスミドを導入した。導入操作は試薬のマニュアルに従って行った。まず、血清を含まないDMEM50μlでプラスミド0.8μgを希釈した。次に2μlのLipofectamine 2000を血清を含まないDMEM50μlに加え室温で5分放置した。その後両希釈液を混合して室温で20分放置した。この混合液の全量を24穴培養シャーレ中のHEK293細胞に投与してプラスミドを導入した。プラスミドを導入した後細胞は摂氏37度で1〜3日培養した。
(B−3)HEK293細胞での蛍光測定
蛍光測定にはコンピューターにて制御(アクアコスモス(浜松ホトニクス))されたCCDカメラ(ORCA−ER、浜松ホトニクス)を搭載した倒立蛍光顕微鏡(IX70(オリンパス)、NIBAフィルターセット(オリンパス)、対物レンズ20xまたは40x(オリンパス))を用いた。プラスミドを導入した細胞を顕微鏡にセットし、HBSバッファー(107mM NaCl、6mM KCl、1.2mM MgSO(ナカライテスク)、2mM CaCl、1.2mM KHPO(ナカライテスク)、11.5mM glucose、20mM HEPES(Dojindo)(pH7.4))を細胞外液として還流し、100μM Carbachol(Sigma)を細胞外に投与して細胞を刺激し、その際に起こる細胞内カルシウム濃度変化を蛍光強度変化として検出した。測定は室温にて行った。
本発明は、筋肉の収縮、神経興奮性やホルモン分泌、酵素活性の変化などの各種の細胞機能の調節因子として、生体機能の維持および調節に不可欠な役割を担っているカルシウム濃度の生体内での変動を、従来のものに比べ極めて高感度で測定するカルシウムセンサー蛋白質を提供するもので、その利用価値は高く、生体機序の解明や医学・創薬といった分野に大きく貢献するものである。

Claims (3)

  1. 下記(a)〜(h)の配列を、N末端から順に有することを特徴とするカルシウムセンサー蛋白質:
    (a)配列番号4または配列番号5からなるアミノ酸配列(リンカーX);
    (b)配列番号6からなるミオシン軽鎖キナーゼ蛋白質の一部のアミノ酸配列;
    (c)Thr−Ser,Gly−Ser,Leu−Glu,Thr−Tyr,Thr−Asp,Thr−Cys,Thr−Phe,Thr−Met,Thr−Thr,Thr−Glu,Thr−His,およびThr−Leuからなる群より選択される何れか一のアミノ酸配列(リンカーY);
    (d)配列番号2で示される配列の150番目〜239番目までのアミノ酸配列であって、第207番目のアミノ酸をValに置換したアミノ酸配列;
    (e)配列番号7からなるアミノ酸配列:
    (f)配列番号2で示される配列の1番目〜145番目までのアミノ酸配列であって、第31番目のアミノ酸をArgに置換し、40番目のアミノ酸をAsnに置換し、及び106番目のアミノ酸をThrに置換したアミノ酸配列;
    (g)Thr(リンカーZ);
    (h)ラットのカルモジュリン蛋白質のアミノ酸配列中第2番目のアミノ酸〜第148番目のアミノ酸からなるアミノ酸配列(配列番号8)、またはカルモジュリン蛋白質ミュータントCaMCNの第2番目〜第148番目のアミノ酸配列からなるアミノ酸配列(配列番号9)。
  2. 下記(a)〜(h)の配列を、N末端から順に有することを特徴とするカルシウムセンサー蛋白質:
    (a)配列番号4または配列番号5からなるアミノ酸配列(リンカーX);
    (b)配列番号6からなるミオシン軽鎖キナーゼ蛋白質の一部のアミノ酸配列;
    (c)Leu−Glu(リンカーY);
    (d)配列番号2で示される配列の150番目〜239番目までのアミノ酸配列であって、第207番目のアミノ酸をValに置換したアミノ酸配列;
    (e)配列番号7からなるアミノ酸配列;
    (f)配列番号2で示される配列の1番目〜145番目までのアミノ酸配列であって、第31番目のアミノ酸をArgに置換し、40番目のアミノ酸をAsnに置換し、及び106番目のアミノ酸をThrに置換したアミノ酸配列;
    (g)Thr(リンカーZ);
    (h)ラットのカルモジュリン蛋白質のアミノ酸配列中、第2番目のアミノ酸〜第148番目のアミノ酸からなるアミノ酸配列(配列番号8)。
  3. 請求項1または2に記載のカルシウムセンサー蛋白質をコードするカルシウムセンサー遺伝子。
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