(1)本発明に係る変異体HCVレプリコンRNA及びそれをコードする核酸
C型肝炎ウイルス(HCV)のゲノムは、約9600ヌクレオチドからなる(+)鎖の一本鎖RNAである。このゲノムRNAは、5'非翻訳領域(5'UTR又は5'NTRとも表記する)、構造領域と非構造領域とから構成される翻訳領域及び3'非翻訳領域(3'UTR又は3'NTRとも表記する)からなる。その構造領域にはHCVの構造タンパク質がコードされており、非構造領域には非構造タンパク質がコードされている。
HCVの構造タンパク質と非構造タンパク質は、翻訳領域から一続きの前駆体タンパク質(ポリプロテイン)として転写され翻訳された後、構造タンパク質は宿主細胞のプロテアーゼにより、また非構造タンパク質部分は自己触媒的に作用する2種のHCVプロテアーゼ活性により限定分解されることによって、それぞれ成熟タンパク質として遊離する。
HCVの構造タンパク質は、Core、E1、E2及びp7であり、これらはHCVのウイルス粒子部分を構成する。Coreはコアタンパク質であり、E1及びE2はエンベロープタンパク質であり、p7は宿主細胞の膜上で働くイオンチャネルを形成するタンパク質である。
HCVの非構造タンパク質は、NS2、NS3、NS4A、NS4B、NS5A及びNS5Bであり、これらはウイルスゲノムの複製やHCVタンパク質のプロセシングに関与する活性を有する酵素タンパク質である。HCVには各種遺伝子型が知られているが、各種遺伝子型のHCVのゲノムが同様の遺伝子構造を有することが知られている。
HCVの5'非翻訳領域(5'UTR又は5'NTR)は、タンパク質翻訳のための内部リボソーム結合部位(IRES)及び複製に必要なエレメントを提供している、全長HCVゲノムのN末端から約340ヌクレオチドの領域である。
HCVの3'非翻訳領域(3'UTR又は3'NTR)は、HCVの複製を補助する機能を有し、ポリU領域に加えて約100ヌクレオチドの追加領域を含んでいる。
本発明は、このようなHCVゲノムを利用して、自己複製能を高める変異が導入されたHCVサブゲノム配列又はHCVフルゲノム配列を含む高効率に自己複製可能なRNA又はそれをコードするDNAを提供するものである。
本発明において「レプリコンRNA」とは、細胞内で自己複製(自律複製)する能力を有するRNAをいう。細胞に導入されたレプリコンRNAは、自己複製し、そのRNAコピーが細胞分裂後に娘細胞に分配されるため、レプリコンRNAを用いれば細胞への安定的な導入が可能である。本発明において、HCVの「遺伝子型」とはSimmondsらによる国際分類に従って分類される遺伝子型を意味する。
本発明は、好ましい態様では、C型肝炎ウイルスゲノムの5'非翻訳領域、NS3タンパク質コード領域、NS4Aタンパク質コード領域、NS4Bタンパク質コード領域、NS5Aタンパク質コード領域、NS5Bタンパク質コード領域及び3'非翻訳領域を含む核酸であって、前記NS3タンパク質コード領域、前記NS5Aタンパク質コード領域又は前記NS5Bタンパク質コード領域に、配列表の配列番号6で示されるアミノ酸配列を基準配列とした場合におけるM(1205)K、F(1548)L、C(1615)W、T(1652)N、A(2196)T、A(2218)S、H(2223)Q、Q(2281)R、K(2520)N及びG(2374)Sからなる群から選択される1以上のアミノ酸置換を引き起こす塩基置換を有する核酸を提供する。この核酸は、典型的には、変異体HCVレプリコンRNA又はそれをコードするDNA等の核酸である。
この本発明に係る核酸は、C型肝炎ウイルスゲノムの5'非翻訳領域、NS3タンパク質コード領域、NS4Aタンパク質コード領域、NS4Bタンパク質コード領域、NS5Aタンパク質コード領域、NS5Bタンパク質コード領域及び3'非翻訳領域を含む核酸であって、配列表の配列番号6で示されるアミノ酸配列を基準配列とした場合におけるM(1205)K、F(1548)L、C(1615)W、T(1652)N、A(2196)T、A(2218)S、H(2223)Q、Q(2281)R、K(2520)N及びG(2374)Sからなる群から選択される1以上のアミノ酸置換が導入されたNS3タンパク質、NS5Aタンパク質又はNS5Bタンパク質を少なくとも含むアミノ酸配列をコードする核酸でもありうる。
本発明において「核酸」には、RNA、DNAの他、それらを結合したハイブリッド核酸も含むものとする。また本明細書では「タンパク質コード領域」とは、所定のタンパク質のアミノ酸配列をコードし、開始コドン及び終止コドンは含んでも含まなくてもよい塩基配列をいう。
本明細書において、「配列表の配列番号“X”で示されるアミノ酸配列を基準配列とした場合における」“a(Z)b”のアミノ酸置換とは、配列表の配列番号“X”で示されるアミノ酸配列を基準配列として、任意の(好ましくは相同な)アミノ酸配列Yをそのアミノ酸配列とアラインメントしたときに、配列番号“X”の配列中の“Z”番目に位置するアミノ酸aに対してアラインされる配列Y中のアミノ酸(限定されないが、好ましくは同一のアミノ酸a又はそれに類似のアミノ酸)が、アミノ酸bへ置換されることを意味する。ここでa及びbは任意のアミノ酸を表し、生物学分野で通常用いられるアミノ酸の1文字表記によって記載される。
すなわち、例えば「配列表の配列番号6で示されるアミノ酸配列を基準配列とした場合におけるA(2218)Sのアミノ酸置換」とは、配列番号6で示されるアミノ酸配列(HCV JFH-2.3株の前駆体タンパク質のアミノ酸配列)と任意のHCVの前駆体タンパク質のアミノ酸配列“Y”とをアラインメントしたときに、配列番号6の2218位のアミノ酸A(アラニン)に対してアラインされる配列Y中のアミノ酸が、S(セリン)に置換されることを意味する。従って、例えばあるHCVの全長前駆体タンパク質のアミノ酸配列中の2217番目(2217位)のアラニンが、配列番号6で示されるアミノ酸配列の2218位のアラニンに対してアラインメントされる場合には、当該アミノ酸配列中の2217位のアラニンからセリンへの置換は、「配列表の配列番号6で示されるアミノ酸配列を基準配列とした場合におけるA(2218)Sのアミノ酸置換」に相当する。
また、「配列表の配列番号“X”で示されるアミノ酸配列を基準配列とした場合における“Z”位のアミノ酸」というときは、配列番号“X”で示されるアミノ酸配列と任意の(好ましくは相同な)アミノ酸配列Yとをアラインメントしたときに、配列番号“X”の配列中の“Z”番目に位置するアミノ酸に対してアラインされる配列Y中のアミノ酸を指すものとする。「配列表の配列番号“X”で示される塩基配列を基準配列とした場合における“Z”位の塩基」についても、同様に解釈するものとする。
本明細書において、核酸がRNAである場合に配列表の配列番号を引用してRNAの塩基配列又は塩基を特定するときは、その配列番号で示される塩基配列中のT(チミン)はU(ウラシル)に読み替えるものとする。
配列番号“X”の配列と任意の配列Yとのアラインメントは、手作業で行うこともできるが、例えばClustal W マルチプルアラインメントプログラム(Thompson, J.D. et al, (1994) Nucleic Acids Res. 22, p.4673-4680)をデフォルト設定で用いることにより作成することができる。
本明細書において、HCVの各領域は、配列番号4で示される塩基配列(JFH-2.3株の全長ゲノム配列)を基準配列とした場合における各領域の5’末端及び3’末端の塩基位置によっても規定することができる。配列番号4で示される塩基配列において、5'UTRは塩基1位〜340位、Coreコード領域(Core領域)は341位〜913位、E1コード領域(E1領域)は914位〜1492位、E2コード領域(E2領域)は1493位〜2593位、p7コード領域(p7領域)は2594位〜2782位、NS2コード領域(NS2領域)は2783位〜3433位、NS3コード領域(NS3領域)は3434位〜5326位、NS4Aコード領域(NS4A領域)は5327位〜5488位、NS4Bコード領域(NS4B領域)は5489位〜6271位、NS5Aコード領域(NS5A領域)は6272位〜7669位、NS5Bコード領域(NS5B領域)は7670位〜9445位、3’UTRは9446位〜9686位である。
本明細書においてHCVの前駆体タンパク質中のアミノ酸は、前駆体タンパク質の翻訳開始メチオニン(M)を1番目として番号を振ったアミノ酸番号によって特定することができる。例えば、JFH-2.1株の前駆体タンパク質は、翻訳開始メチオニンから数えて3034番目のアルギニン(R)で終わる。JFH-2.1株の2218番目のアミノ酸はNS5A領域に含まれるアラニン(A)である。
本明細書においてアミノ酸置換は、例えば、A(2218)S、又は2218位 A→Sのような表記で表す。これはすなわち、原則として、2218位のA(アラニン)がS(セリン)に置換されることを意味する。本明細書においては、アミノ酸又はアミノ酸残基を、生物学分野で通常用いられるアミノ酸の1文字表記又は3文字表記(Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual Second Edition, 1989)で記載し、それは水酸化、糖鎖付加、硫酸化等の翻訳後修飾を受けたアミノ酸も包含するものとする。
本発明では、HCV前駆体タンパク質中のNS3タンパク質、NS5Aタンパク質、及びNS5Bタンパク質において、配列表の配列番号6で示されるアミノ酸配列を基準配列とした場合におけるM(1205)K、F(1548)L、C(1615)W、T(1652)N、A(2196)T、A(2218)S、H(2223)Q、Q(2281)R、K(2520)N及びG(2374)Sからなる群から選択される1以上のアミノ酸置換を導入することにより、そのHCV前駆体タンパク質をコードするレプリコンRNAの自己複製能を増加させることができる。このようなアミノ酸置換の導入は、当該アミノ酸置換を引き起こす塩基置換を、当業者に公知の遺伝子工学的技術を用いてHCVレプリコンRNAをコードするDNAに導入することによって行うことができる。
上記アミノ酸置換を引き起こす塩基置換は、生物学分野で周知の遺伝暗号表に基づいて置換先のアミノ酸のコドンと置換前のアミノ酸のコドンとを比較すれば、容易に特定することができる。
上記のような本発明に係る変異体HCVレプリコンRNA又はそれをコードするDNA等の核酸は、限定するものではないが、好ましくは、上記アミノ酸置換のうち少なくともA(2218)Sのアミノ酸置換を引き起こす塩基置換を有することが好ましい。このアミノ酸置換は自己複製の増強に特に効果的であるためである。例えば、A(2218)Sのアミノ酸置換を引き起こす塩基置換は、アミノ酸2218位のアラニンをコードするコドン(一般的にはGCT、GCC、GCA又はGCG)を、セリンをコードするコドンTCA、TCC、TCG、TCT、AGT又はAGCに変化させる塩基置換であることが好ましい。
本発明に係る変異体HCVレプリコンRNA又はそれをコードするDNA等の核酸は、5'非翻訳領域、NS3タンパク質コード領域、NS4Aタンパク質コード領域、NS4Bタンパク質コード領域、NS5Aタンパク質コード領域、NS5Bタンパク質コード領域及び3'非翻訳領域に加えて、C型肝炎ウイルスゲノムのCoreタンパク質コード領域、E1タンパク質コード領域、E2タンパク質コード領域、p7タンパク質コード領域をさらに含んでもよい。本発明に係る変異体HCVレプリコンRNA又はそれをコードする核酸は、C型肝炎ウイルスゲノムのNS2タンパク質コード領域をさらに含んでもよい。本発明に係る変異体HCVレプリコンRNA又はそれをコードする核酸は、特に、C型肝炎ウイルスゲノムのCoreタンパク質コード領域、E1タンパク質コード領域、E2タンパク質コード領域、p7タンパク質コード領域、NS2タンパク質コード領域を、より好ましくはこの順番で、さらに含むことが好ましい。
本発明に係る上記核酸の好適例としては、配列表の配列番号5又は6で示されるアミノ酸配列において、配列表の配列番号6で示されるアミノ酸配列を基準配列とした場合におけるM(1205)K、F(1548)L、C(1615)W、T(1652)N、A(2196)T、A(2218)S、H(2223)Q、Q(2281)R、K(2520)N及びG(2374)Sからなる群から選択される1以上のアミノ酸置換を有するアミノ酸配列をコードする核酸が挙げられる。これは劇症肝炎患者から単離されたJFH-2.1株(配列番号5)又はJFH-2.3株(配列番号6)の前駆体タンパク質の変異体をコードするものである。
本発明に係る上記核酸の別の好適な例は、配列表の配列番号12又は13に示される塩基配列を含む核酸である。
本発明に係る変異体HCVレプリコンRNA又はそれをコードするDNA等の核酸は、マーカー遺伝子等の外来遺伝子及び/又はIRES配列をさらに含むことも好ましい。マーカー遺伝子は、その遺伝子が発現された細胞だけが選択されるような選択性を細胞に付与することができる選択マーカー遺伝子と、その遺伝子発現の指標となる遺伝子産物をコードするリポーター遺伝子とを包含する。本発明において好適な選択マーカー遺伝子の例としては、限定するものではないが、ネオマイシン耐性遺伝子、チミジンキナーゼ遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、ピリチアミン耐性遺伝子、アデニリルトランスフェラーゼ遺伝子、ゼオシン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子等が挙げられる。本発明において好適なリポーター遺伝子の例としては、限定するものではないが、トランスポゾンTn9由来のクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ遺伝子、大腸菌由来のβグルクロニダーゼ若しくはβガラクトシダーゼ遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子、緑色蛍光タンパク質遺伝子、クラゲ由来のイクリオン遺伝子、分泌型胎盤アルカリフォスファターゼ(SEAP)遺伝子等が挙げられる。
本発明における「IRES配列」とは、RNAの内部にリボソームを結合させて翻訳を開始させることが可能な内部リボソーム結合部位を意味する。本発明におけるIRES配列の好適な例としては、以下に限定するものではないがEMCV IRES(脳心筋炎ウイルスの内部リボゾーム結合部位)、FMDV IRES、HCV IRES等が挙げられる。
本発明に係る変異体HCVレプリコンRNA又はそれをコードするDNA等の核酸は、HCV由来配列としては、C型肝炎ウイルスゲノムの5'非翻訳領域、NS3タンパク質コード領域、NS4Aタンパク質コード領域、NS4Bタンパク質コード領域、NS5Aタンパク質コード領域、NS5Bタンパク質コード領域、及び3'非翻訳領域のみを含む、HCVサブゲノムレプリコン配列を含む核酸であってもよい。本発明において、HCVサブゲノムとは、HCV全長ゲノムの一部の配列をいう。HCVサブゲノムレプリコンRNAとは、HCVサブゲノムを含有するが、HCV全長ゲノムの5'UTRから3'UTRまでの領域全部は含まないレプリコンRNAである。
HCVサブゲノムレプリコンレプリコン配列を含む核酸の例としては、例えば、5'から3'の方向に5’UTR、Coreコード領域の5'末端から36塩基までの配列、ルシフェラーゼ遺伝子(マーカー遺伝子)、脳心筋炎ウイルス由来のIRES配列、NS3領域、NS4A領域、NS4B領域、NS5A領域及びNS5B領域、並びに3'UTRがこの順に連結されたRNAが挙げられる。
本発明に係る変異体HCVレプリコンRNA又はそれをコードするDNA等の核酸は、HCVフルゲノムレプリコンRNAであってもよい。HCVフルゲノムレプリコンRNAとは、HCV全長ゲノムの5'UTRから3'UTRまでの領域、すなわち5'UTR、Coreタンパク質コード領域(Core領域)、E1タンパク質コード領域(E1領域)、E2タンパク質コード領域(E2領域)、p7タンパク質コード領域(p7領域)、NS2タンパク質コード領域(NS2領域)、NS3タンパク質コード領域(NS3領域)、NS4Aタンパク質コード領域(NS4A領域)、NS4Bタンパク質コード領域(NS4B領域)、NS5Aタンパク質コード領域(NS5A領域)、NS5Bタンパク質コード領域(NS5B領域)及び3’UTRを全て含むレプリコンRNAをいう。HCVフルゲノムレプリコンRNAは、HCV全長ゲノム配列からなるものであってよいが、さらに追加の配列を含みうる。本発明においてHCV全長ゲノム又は全長HCVゲノムとは、HCVゲノムの5'UTRから3'UTRまでの全長配列のRNA又はそれをコードするDNAをいう。
(2)本発明に係るレプリコンRNAの作製
本発明に係る変異体HCVレプリコンRNA、すなわち変異体HCVサブゲノムレプリコンRNA又は変異体HCVフルゲノムレプリコンRNAは、上記の変異体HCVレプリコンRNAをコードするDNAを用いて、当業者に公知である任意の遺伝子工学的手法を用いて、レプリコンRNA発現ベクターを作製して、それを鋳型として用いることにより作製することができる。本発明は、プロモーターの下流に作動可能に連結されている、変異体HCVレプリコンRNA又はそれをコードするDNA等の核酸(好ましくは、変異体HCVレプリコンRNAをコードするDNA)を含むベクター、特に発現ベクターも提供する。このような発現ベクターを用いれば、当該変異体HCVレプリコンRNAを効率よくin vitro合成することができる。本発明に係るレプリコンRNA発現ベクターの構築に関する基本技術は、Lohmannらの文献(Science, 285:110-113, 1999)及びKatoらの文献(Gastroenterology, 125:1808-1817, 2003)に記載されている。
本発明に係る上記核酸を作製する際に使用可能なHCV株としては、HCV感染患者から分離された任意の株又はその派生株を使用することができるが、劇症C型肝炎患者から分離されたHCV株を用いることがより好ましい。患者からHCVゲノムを分離する方法は、Katoらの文献(Gastroenterology, 125:1808-1817, 2003)に記載されている。本発明においてHCVの「派生株」とは、当該ウイルス株から誘導された株をいう。
本発明に係る上記核酸の作製においては、任意のC型肝炎ウイルス株のゲノムを用いることができるが、遺伝子2aのC型肝炎ウイルスのゲノムを少なくとも1つ用いることが好ましい。該NS3タンパク質、NS4Aタンパク質、NS4Bタンパク質、NS5Aタンパク質及びNS5Bタンパク質をコードする領域としては、任意のC型肝炎ウイルスゲノム由来であってよいが、遺伝子2aのC型肝炎ウイルスゲノム由来のものを用いることがより好ましく、HCV JFH-2.1若しくはHCV JFH-2.3株又はそれらの派生株、あるいはHCV JFH-1株のゲノム由来のものに上記アミノ酸置換を導入した配列を用いることがさらに好ましい。
本発明に係る上記核酸は、1又は2種以上の任意のC型肝炎ウイルスのゲノムに由来する、キメラであってもよい。本発明に係る上記核酸は、限定するものではないが、遺伝子2aのC型肝炎ウイルスのゲノムを少なくとも1つ用いるキメラであってよい。本発明に係る上記核酸の作製には、例えばHCV JFH-1株、J6CF株、HCV JFH-2.1株、若しくはHCV JFH-2.3株又はそれらの派生株のゲノムを用いることができる。
限定するものではないが、本発明に係る変異体HCVレプリコンRNAは、例えば以下のような方法で作製することができる。まず、上記の変異体HCVレプリコンRNAをコードするDNAを、常法によりベクター中のRNAプロモーターの下流に連結し、DNAクローンを作製する。RNAプロモーターとしては、限定するものではないが、T7プロモーター、SP6プロモーター、T3プロモーターなどが挙げられるが、T7プロモーターが特に好ましい。ベクターとしては、限定するものではないが、pUC19(TaKaRa社)、pBR322(TaKaRa社)、pGEM-3Z(Promega社)、pSP72(Promega社)、pCRII(Invitrogen社)、pT7Blue(Novagen社)などを使用することができる。
変異体HCVレプリコンRNAをコードするDNAを含む発現ベクターからの変異体HCVレプリコンRNAの作製(合成)は、例えば、MEGAscript T7キット(Ambion社)などを用いて行うことができる。さらに、ベクターを細胞内に導入して発現させる場合は、WO2007-037428(HCV#9) に記載のRNAポリメラーゼIプロモーターとターミネーターを持ったベクターが好ましい。
作製した変異体HCVレプリコンRNAは、当業者には周知のRNA抽出法や精製法等により抽出、精製してもよい。
(3)変異体HCVレプリコンRNAを自己複製する形質転換細胞の作製
上記のようにして作製される変異体HCVレプリコンRNA等のレプリコンRNAを、宿主細胞に導入することにより、レプリコンRNAが自己複製されている形質転換細胞を得ることができる。本発明は、変異体HCVレプリコンRNAを細胞に導入することにより得られる、レプリコンRNAが自己複製されている形質転換細胞も提供する。
レプリコンRNAを導入する細胞としては、HCVレプリコンの複製を許容する任意の細胞であれば良く、ヒト肝由来細胞、ヒト子宮頸由来細胞又はヒト胎児腎由来細胞であることがより好ましい。例えば、Huh7細胞、HepG2細胞、IMY-N9細胞、HeLa細胞、293細胞が挙げられ、さらに好適にはHuh7細胞の派生株であるHuh7.5細胞、Huh7.5.1細胞が挙げられる。また、Huh7細胞、HepG2細胞、IMY-N9細胞、HeLa細胞又は293細胞にCD81遺伝子及び/又はClaudin1遺伝子を発現させた細胞も挙げることができるが、中でもHuh7細胞又はHuh7細胞の派生株が好適に使用される。
レプリコンRNAの細胞内への導入は、当業者には公知の任意の技術を使用して行うことができる。例えば、リン酸カルシウム共沈殿法、DEAEデキストラン法、リポフェクション法、マイクロインジェクション法、エレクトロポレーション法が挙げられるが、好適にはリポフェクション法及びエレクトロポレーション法が、さらに好適にはエレクトロポレーション法による方法が特に好ましい。
レプリコンRNAは、目的のレプリコンRNAを単独で導入してもよいし、他の核酸と混合させたものを導入してもよい。導入するRNA量を一定にしてレプリコンRNAの量を変化させたい場合には、目的のレプリコンRNAを、導入する細胞から抽出したトータル細胞性RNAと混合して、細胞内導入に用いればよい。細胞内導入に用いるレプリコンRNAの量は、使用する導入法に応じて決めればよいが、好ましくは1ピコグラム〜100マイクログラム、より好ましくは10ピコグラム〜10マイクログラムの量を使用する。
マーカー遺伝子を含有するレプリコンRNAを用いる場合には、そのレプリコンRNAが導入され自己複製している細胞を、マーカー遺伝子の発現を利用して、選択することができる。
細胞導入後に培養して形成されたコロニーからは、常法により生存細胞をクローン化することができる。このようにして、レプリコンRNAが自己複製されている細胞クローンを樹立することができる。
樹立した細胞クローンについては、導入したレプリコンRNAから該細胞内で複製されているレプリコンRNAの検出、レプリコンRNA中のマーカー遺伝子の発現確認又はHCVタンパク質(例えばCore)の発現の確認等を行うことにより、実際にレプリコンRNAが自己複製されていることを確認することが好ましい。HCVタンパク質の発現の確認は、例えば、導入したレプリコンRNAから発現されるべきHCVタンパク質に対する抗体を、細胞クローンから抽出したタンパク質と反応させることによって行うことができる。この方法は、当業者には公知の任意のタンパク質検出法によって行うことができるが、具体的には例えば、細胞クローンから抽出したタンパク質試料をニトロセルロース膜にブロッティングし、それに対して抗HCVタンパク質抗体(例えば、抗Core特異的抗体又はC型肝炎患者から採取した抗血清)を反応させ、さらにその抗HCVタンパク質抗体を検出することによって行うことができる。細胞クローンから抽出したタンパク質中からHCVタンパク質が検出されれば、その細胞クローンは、HCV由来のレプリコンRNAが自己複製してHCVタンパク質を発現しているものと判断することができる。こうして樹立し、好ましくは確認を行った細胞クローンが、本発明に係るレプリコンRNAを導入して得られる、形質転換細胞である。
形質転換細胞中のレプリコンRNAの複製能を評価する方法として、HCVサブゲノムレプリコンRNA又はHCVフルゲノムレプリコンRNA中に連結された外来遺伝子の機能を測定することができる。外来遺伝子が薬剤耐性遺伝子の場合、薬剤を含有した選択培地で増殖する細胞数又は細胞のコロニー数を計測することで評価できる。また、外来遺伝子が酵素の場合はその酵素活性を計測することで複製能を評価できる。また別の方法として定量PCRにて複製したRNAの量を定量することでも複製能を評価することができる。
HCVゲノムの効率的な複製には、ゲノムの塩基配列に変異が起こることが必要であることが示されており(Lohmann, V. et al., J. Virol., 75:1437-1449, 2001)、複製を向上させる変異は適応変異(adaptive mutation)と呼ばれている。本発明に係る変異体HCVレプリコンRNAは、そのような自己複製が顕著に増強されたレプリコンRNAである。培養を続けることで、HCVレプリコンRNAに適応変異が起こり、複製が著しく向上することがある。配列表の配列番号6で示されるアミノ酸配列を基準配列とした場合におけるA(2218)Sのアミノ酸置換は、まさにそのような著しい複製能の増強をもたらすものである。
(4)感染性HCV粒子の産生
本発明では、C型肝炎ウイルスゲノムの5'非翻訳領域、NS3タンパク質、NS4Aタンパク質、NS4Bタンパク質、NS5Aタンパク質及びNS5Bタンパク質をそれぞれコードする配列、並びに3'非翻訳領域に加えて、HCVの構造領域をも含むレプリコンRNA、すなわち、C型肝炎ウイルスゲノムのCoreタンパク質コード領域、E1タンパク質コード領域、E2タンパク質コード領域、p7タンパク質コード領域をさらに含むものであるか、Coreタンパク質コード領域、E1タンパク質コード領域、E2タンパク質コード領域、p7タンパク質コード領域及びNS2タンパク質コード領域をさらに含むもの(HCVフルゲノムレプリコンRNA)であるか、又は配列表の配列番号12又は13に示される塩基配列を含むものであるか、あるいは配列表の配列番号5又は6に示されるアミノ酸配列において、配列表の配列番号6で示されるアミノ酸配列を基準配列とした場合におけるM(1205)K、F(1548)L、C(1615)W、T(1652)N、A(2195)T、A(2218)S、H(2223)Q、Q(2281)R、K(2520)N及びG(2374)Sからなる群から選択される1以上のアミノ酸置換を有するアミノ酸配列をコードする塩基配列を含む核酸である本発明に係るHCVレプリコンRNAを導入して得られる形質転換細胞を継代培養することにより、感染性HCV粒子を産生させ、好ましくは培地中に放出させることができる。
感染性HCV粒子を産生できる本発明に係る形質転換細胞の典型例としては、JFH-1株由来の5’非翻訳領域と、J6CF株のCoreタンパク質コード領域と、E1タンパク質コード領域と、E2タンパク質コード領域と、p7タンパク質コード領域と、JFH-1株のNS2タンパク質コード領域と、さらに、HCV JFH-2.1株若しくはHCV JFH-2.3株のNS3タンパク質コード領域、NS4Aタンパク質コード領域、NS4Bタンパク質コード領域、NS5Aタンパク質コード領域、NS5Bタンパク質コード領域及び3’非翻訳領域において上記アミノ酸置換の1以上、好ましくはいずれか1つを導入したアミノ酸配列をコードする塩基配列とからなる全長キメラレプリコンRNA及びその全長キメラレプリコンRNAが導入された形質転換細胞が、挙げられる。
このような形質転換細胞のウイルス粒子産生能は、培地(培養液)中に放出されたHCVウイルス粒子を構成するHCVタンパク質、例えば、Coreタンパク質、E1タンパク質又はE2タンパク質に対する抗体を用いて検出することもできる。また、培養液中のHCVウイルス粒子が含有するHCVレプリコンRNAを、特異的プライマーを用いたRT-PCR法により増幅して検出することによって、HCVウイルス粒子の存在を間接的に検出することもできる。
上記のような形質転換細胞が産生するHCV粒子は、細胞(好ましくはHCV感受性細胞)への感染能を有する。本発明において、HCV感受性細胞とは、HCVに対し感染性を有する細胞であり、好ましくは肝臓細胞又はリンパ球系細胞であるが、これらに限定されるものでは無い。具体的には、肝臓細胞としては初代肝臓細胞や、Huh7細胞、HepG2細胞、IMY-N9細胞、HeLa細胞、293細胞などが挙げられ、リンパ球系細胞としてはMolt4細胞や、HPB-Ma細胞、Daudi細胞などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
作製されたHCV粒子が感染能を有しているか否かは、上記のようなHCVレプリコンRNAを導入して得た形質転換細胞を培養して得られた培養上清を用いて、HCV許容性細胞(たとえばHuh-7)を処理し、一定時間後、例えば48時間後に細胞を抗Core抗体で免疫染色して感染細胞数を数えるか、又は細胞の抽出物をSDS-ポリアクリルアミドゲルにて電気泳動し、ウェスタンブロット法でCoreタンパク質を検出することにより感染細胞を検出することによって判断できる。
本発明は、感染性HCV粒子を産生できる上記の形質転換細胞を培養し、そして好ましくは培地(好ましくは培養液)中に放出されたHCV粒子を取得(例えば、培養上清を採取することにより)することにより、HCV粒子を作製する方法にも関する。本発明は、その方法によって得られるHCV粒子、好ましくは感染性HCV粒子も提供する。このHCV粒子は、チンパンジーなどのHCV感受性動物にも感染して、HCV由来の肝炎を引き起こすことができる。
(5)サブゲノムレプリコンRNAの利用
本発明に係るHCVサブゲノムレプリコンRNAを導入した形質転換細胞は、HCVサブゲノムレプリコンRNAの複製を阻害する化合物のスクリーニングに使用することができる。
より具体的には、例えば、5'から3'の方向に5’UTR、Coreコード領域の5'末端から36塩基までの配列、ルシフェラーゼ遺伝子(マーカー遺伝子)、脳心筋炎ウイルス由来のIRES配列、NS3領域、NS4A領域、NS4B領域、NS5A領域及びNS5B領域、並びに3'UTRがこの順に連結されたRNAをHuh7細胞に導入し、引き続いて、スクリーニング対象の化合物でその細胞を処理し、48〜72h時間後にルシフェラーゼの活性を測定する。化合物未処理群と比較して、ルシフェラーゼ活性を抑制する化合物は、そのHCVサブゲノムレプリコンRNAの複製を抑制する作用があると考えられる。そのことから、当該レプリコンRNAの特にNS3領域〜NS5B領域が由来するHCV株と同じ遺伝子型のHCV又はそのHCV株が分離されたHCV関連疾患の患者等において認められるHCVに対し、どの化合物は複製抑制活性を有する可能性があると判断することもできる。
(6)HCV粒子の用途
本発明のHCV粒子はHCV感染を阻害する抗体又は化合物のスクリーニングに使用することもできる。
本発明に係るHCV粒子はまた、ワクチンとしての用途、抗HCV抗体作製のための抗原としての用途にも好適である。
具体的には、本発明に係るHCV粒子をそのままワクチンとして使用することもできるが、当該分野で既知の方法により弱毒化又は不活化して用いることができる。ウイルスの不活化は、ホルマリン,β−プロピオラクトン,グルタルジアルデヒド等の不活化剤を,例えば、ウイルス浮遊液に添加混合し,ウイルスと反応させることにより達成することができる(Appaiahgari, M. B. & Vrati, S., Vaccine, 22:3669-3675, 2004)。
このワクチンは、溶液又は懸濁液のいずれかとして、投与可能に調製することができ、液体中の溶解又は懸濁に適した固形物の形態で調製することができる。この調製物は乳化してもよく又はリポソーム中にカプセル化してもよい。HCV粒子などの活性免疫原性成分には、薬学的に許容され、用いる活性成分に適合した賦形剤がしばしば混合される。そのような適切な賦形剤には、例えば、水、生理食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノールなど及びそれらの混合物が挙げられる。さらに、そのワクチンには、少量の助剤(例えば湿潤剤又は乳化剤)、pH緩衝剤及び/又はワクチンの効能を高めるアジュバントを含有し得る。有効なアジュバントの例は、限定されないが、水酸化アルミニウム、N−アセチル−ムラミル−L−トレオニル−D−イソグルタミン(thr−MDP)、N−アセチル−ノル−ムラミル−L−アラニル−D−イソグルタミン(CGP11637、nor−MDPとも称される)、N−アセチルムラミル−L−アラニル−D−イソグルタミニル−L−アラニン−2−(1’−2’−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ヒドロキシホスホリルオキシ)−エチルアミン(CGP19835A、MTP−PEと称せられる)及びRIBIなどが挙げられる。RIBIは、細菌から抽出した3つの成分、すなわちモノホスホリルリピドA、トレハロースジミコレート及び細胞壁骨格(HPL+TDM+CWS)を2%スクアレン/Tween(登録商標)80エマルジョン中に含有している。アジュバントの効果は、HCV粒子から構成されるワクチンを投与することにより生じる抗体の量を測定することにより決定され得る。
本ワクチンは、通常、経口的に、例えば皮下注射又は筋内注射などの注射により投与される。他の投与態様に適切な別の製剤としては、坐薬、経口製剤等も挙げられる。
アジュバント活性を有する1以上の化合物をHCVワクチンに加えてもよい。アジュバントは、該免疫系の非特異的刺激因子であり、HCVワクチンに対する宿主の免疫応答を増強する。当技術分野で公知のアジュバントの具体例としては、フロイント完全アジュバント及び不完全アジュバント、ビタミンE、非イオンブロック重合体、ムラミルジペプチド、サポニン、鉱油、植物油及びCarbopolが挙げられる。経粘膜投与に特に適したアジュバントとしては、例えば、大腸菌(E. coli)易熱性毒素(LT)又はコレラ(Cholera)毒素(CT)が挙げられる。他の適当なアジュバントとしては、例えば、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム又は酸化アルミニウム、油性乳剤(例えば、Bayol(登録商標)又はMarcol 52(登録商標)のもの)、サポニン又はビタミンEソリュビリゼートが挙げられる。従って好ましい実施形態においては、本発明のワクチンはアジュバントを含む。
例えば、皮下、皮内、筋肉内、静脈内に投与する注射剤において、本発明のHCVワクチンと薬学的に許容される担体又は希釈剤の他の具体例には、安定化剤、炭水化物(例えば、ソルビトール、マンニトール、デンプン、ショ糖、グルコース、デキストラン)、アルブミン又はカゼインなどのタンパク質、ウシ血清又は脱脂乳などのタンパク質含有物質及びバッファー(例えば、リン酸バッファー)などともに投与することができる。
坐薬に使用される従来の結合剤及び担体には、例えば、ポリアルキレングリコール又はトリグリセリドが含まれ得る。このような坐薬は、活性成分を0.5%から50%までの範囲で、好ましくは1%から20%までの範囲で含有する混合物から形成され得る。経口処方薬は、通常用いられる賦形剤を含有する。この賦形剤としては、例えば、薬学的なグレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウムなどが挙げられる。
本発明のワクチンは、溶液、懸濁液、錠剤、丸剤、カプセル剤、持続放出処方剤又は粉末剤の形態をとり、10%〜95%、好ましくは25%〜70%の活性成分(ウイルス粒子又はその一部分)を含有する。
本発明ワクチンは、投与剤形に適した方法で、また予防効果及び/又は治療効果があるような量で投与される。投与されるべき量は、通常投与当たり抗原を0.01μgから100,000μgまでの範囲であり、これは、処置される患者、その患者の免疫系での抗体合成能及び所望の防御の程度に依存し、経口、皮下、皮内、筋肉内、静脈内投与経路などの投与経路にも依存する。
本発明ワクチンは、単回投与スケジュールで、又は好ましくは複数回投与スケジュールで与えられ得る。複数回投与スケジュールでは、ワクチン接種の開始時期に1〜10回の個別の投与を行い、続いて免疫応答を維持するか又は強化するのに必要とされる時間間隔で、例えば2回目の投与として1〜4ヵ月後に、別の投与を行い得る。必要であれば、数ヶ月後に引続き投与を行い得る。投与計画もまた、少なくとも部分的には、個々の患者の必要性により決定され、医師の判断に依存する。
さらに、本発明のHCV粒子を含有するワクチンは、他の免疫学的薬剤(例えば、免疫グロブリン)と共に投与してもよい。
さらに本発明のHCV粒子ワクチンは、健常人に投与して、健常人にHCVに対する免疫応答を誘導することにより、新たなHCV感染に対して予防的に使用してもよい。更に、HCV感染した患者に投与し、生体内にHCVに対する強い免疫反応を誘導することにより、本発明のHCV粒子ワクチンには、HCVを排除する治療的ワクチンとしての使用方法がある。
本発明のHCV粒子は、抗HCV抗体作製のための抗原としても有用であり、抗原として使用するHCV粒子は純度が高い方が望ましい。HCV粒子を含む培養液は、遠心分離及び/又はフィルターなどを用いて細胞及び細胞の残渣が除去される。残渣が除去された溶液は、分画分子量100,000から500,000の限外濾過膜を用いて10〜100倍程度に濃縮することもできる。残渣が除去されたHCV粒子を含んだ溶液は、ゲル濾過クロマトグラフィ、イオン交換クロマトグラフィ、アフィニティクロマトグラフィなどのクロマトグラフィ及び密度勾配遠心を任意の順番に組み合わせて、あるいは単独で精製することができる。
(7)HCV粒子に対する抗体
本発明は、上記(4)で得られるHCV粒子に対する抗体も提供する。このような抗体の好ましい例としては、特に、JFH-2.1又はJFH-2.3株の構造タンパク質(Core、E1、E2、p7)を有するHCV粒子に対する抗体が挙げられる。より具体的には、JFH-2.3株の構造タンパク質(Core、E1、E2、p7)を有するHCV粒子に対する抗体は、例えば、配列表の配列番号6の1位〜191位のアミノ酸配列をCoreタンパク質として、192位〜384位のアミノ酸配列をE1タンパク質として、385位〜751位のアミノ酸配列をE2タンパク質として、752位〜814位のアミノ酸配列をp7タンパク質としてコードする上記HCVレプリコンRNAを導入して得られる形質転換細胞で産生されるHCV粒子に対する抗体である。
本発明のHCV粒子を哺乳類又は鳥類に投与することにより抗体を作製することができる。哺乳類動物として、マウス、ラット、ウサギ、ヤギ、ヒツジ、ウマ、ウシ、モルモット、ヒトコブラクダ、フタコブラクダ、ラマなどを挙げることができる。ヒトコブラクダ、フタコブラクダ及びラマはH鎖のみからなる抗体を作製するには好適である。鳥類動物としては、ニワトリ、ガチョウ、ダチョウなどを挙げることができる。本発明HCV粒子を投与された動物の血清を採取して、既知の方法に従って抗体を取得することができる。
本発明のHCV粒子を免疫した動物の細胞を用いてモノクローナル抗体産生細胞を産生するハイブリドーマを作製することができる。ハイブリドーマを製造する方法は周知であり、Antibodies: A Laboratory Manual(Cold Spring Harbor Laboratory, 1988)に記載された方法を用いることができる。
モノクローナル抗体産生細胞は、細胞融合により生成してもよく、また癌遺伝子DNAの導入やEpstein-Barrウイルスの感染によりBリンパ球を不死化させるような他の方法で生成してもよい。
より具体的には、マウスにHCV粒子を投与して、抗HCVモノクローナル抗体を作製する手順を以下に示す。通常4〜10週令のマウスに、HCV粒子を抗原として免疫するが、場合によっては、精製工程を省略してもよい。免疫は通常皮下又は腹腔内に、アジュバントとともに抗原を数回投与することにより行う。アジュバントとしては、フロインドの完全アジュバント、フロインドの不完全アジュバント、水酸化アルミニウムゲルと百日咳菌ワクチン、Titer Max Gold(Vaxel社)又はGERBUアジュバント(GERBU Biotechnik社)などがあげられるがこれに限定されるものではない。最終免疫はアジュバントを使用せず、静脈内又は腹腔内に投与し、HCV粒子の最終投与後3 〜10 日目、好適には4日目に、免疫したマウスより公知の方法(Antibodies: A Laboratory Manual Cold Spring Harbor Laboratory, 1988)に準じて脾臓を摘出する。
この脾臓より脾細胞を調製し、脾細胞と骨髄腫細胞を融合させてモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞を作製する方法が用いられる。細胞融合に使用する骨髄腫細胞としては、マウス由来の株化細胞である8-アザグアニン耐性マウス(BALB/c由来)骨髄腫細胞株P3-X63Ag8-U1(P3-U1)、SP2/0-Ag14(SP2/0)、P3-X63-Ag8653(653)、P3-X63-Ag8(X63)、P3/NS1/1-Ag4-1(NS1)など、in vitroで増殖可能な骨髄腫細胞であればいかなるものでもよい。これらの細胞株は理化学研究所バイオリソースセンター、ATCC(American Type Culture Collection)又はECACC(European Collection of Cell Cultures)から入手可能であり、培養及び継代については公知の方法(Antibodies: A Laboratory Manual Cold Spring Harbor Laboratory, 1988、Selected Methods in Cellular Immunology W.H. Freeman and Company, 1980)に従い培養する。
得られた脾細胞と骨髄腫細胞とを洗浄したのち、骨髄腫細胞1に対し脾細胞を1〜10の割合で混合し、細胞融合反応を行う。融合促進剤として、平均分子量 1000〜6000 のポリエチレングリコール、ポリビニールアルコール等を使用することができる。また、電気刺激(例えばエレクトロポレーション)を利用した市販の細胞融合装置を用いて融合させることもできる。
融合後、細胞を培地に懸濁させ洗浄する。細胞の洗浄には骨髄腫細胞の培養に使用した培地、例えばダルベッコの改変MEN培地又はRPMI-1640培地などを用いる。融合細胞の培養培地には、目的の融合細胞のみを選択的に得られるように、HATサプリメントを添加する。限界希釈法(103 〜107 細胞/ml となるよう希釈後、96ウェルの細胞培養用マイクロプレートに102 〜106 細胞/ ウェル蒔く)あるいはメチルセルロース培地中でのコロニー形成法によりクローニングを行う。
ハイブリドーマのスクリーニングは通常の方法によれば良く、特に限定はされない。例えば、培養上清の一部を採集し、固相化したHCVのタンパク質に該上清を添加した後、標識した二次抗体を加えてインキュベートし、その結合能を酵素免疫測定法(ELISA) 、放射線免疫測定法(RIA)によって測定しても良いし、ドットブロット分析、ウェスタンブロット分析などを行うことがもできる。目的抗原に反応する抗体を産生することが認められたものがモノクローナル抗体産生ハイブリドーマ株として選択される。
さらに、HCV感染阻害活性を有する抗HCVモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマの選択は、以下の例に述べる感染性HCV粒子を用いたHCV感染阻害活性の測定法により行うことができる。
まず、感染性HCV粒子(作製方法については上記に示した)と抗体サンプルとを混合し、37℃にて1時間反応させる。前日に96穴プレートに5X103個/ウェルで培養したHuh7細胞に上記サンプル50μlを加え、37℃にて、2.5時間培養する。培養後、サンプルを除去し、PBSにて細胞を洗浄後、新鮮培地を加え培養を続ける。48時間後、培養上清を除去し、PBSで1回洗浄後ISOGEN(ニッポンジーン社)を100μl加え、細胞からRNAを調製し、RNAを定量後、HCVゲノムRNA量の測定を行う。HCV RNAの定量的RT-PCRによる検出は、Takeuchiらの方法(Takeuchi T. et al., Gastroenterology, 116:636-642,1999)に従いHCV RNAの5'非翻訳領域のRNAを検出することにより行う。
またHCV感染阻害活性を評価する別の方法として次の方法がある。まず、抗体サンプルと感染性HCV粒子とを混合し37℃で1時間反応させる。次に、前日に96ウェルプレートに1 x 104 個/ウェルで培養したHuh-7細胞に、上記サンプル50μlを加え、37℃にて、2.5時間培養する。培養後、サンプルを除去し、PBSにて細胞を洗浄後、新鮮培地を加え培養を続ける。72時間後、培養上清を取り除いた後に、氷冷したメタノール中にプレートを入れ細胞を固定する。その後、メタノールを風乾により除き、0.3% Triton(登録商標)-X 100(GEヘルスケア社)を含んだブロックエース(登録商標)(大日本製薬社)で細胞の可溶化処置する。そして、clone 2H9抗HCV-core抗体(Nat Med. (2005) 11:p791-6.参照)及びgoat anti-mouse IgG-Alexa488(モレキュラープローブ社)を用いてHCV感染細胞を蛍光顕微鏡(オリンパス社製IX−70)下で計数し、HCVの感染が阻害されたウェルのサンプルを陽性クローンとすることにより、目的のハイブリドーマを選択することができる。上記の通り選択されるハイブリドーマが産生するモノクローナル抗体は、本発明の抗体の好ましい態様のひとつである。
これらの方法によって得られたモノクローナル抗体やポリクローナル抗体はHCVの診断や治療、予防に有用である。抗体が動物由来の抗体で有れば、ヒト抗体とのキメラ抗体を作製することができる。特に好適なキメラ抗体としては、例えば、マウス抗体の超可変部位の配列をヒト抗体に移植したヒト化抗体(ヒト型化抗体)等が挙げられる。HCVの治療や予防にはヒト化抗体が特に有用である。
本発明のHCV粒子を用いて作製された抗体は、医薬上許容される、溶解剤、添加剤、安定剤、バッファーなどとともに投与してもよい。投与経路はいずれの投与経路でもよいが、好ましくは、皮下、皮内、筋肉内投与であり、より好ましくは静脈内投与が好ましい。
本発明は、当該分野の通常の技術の範囲内にある分子生物学及び免疫学的手法を用いて実施することができる。このような技術は周知の実験書等の各種文献において十分に説明されており、例えば、Sambrookら、Molecular Cloning: A Laboratory Manual(第3版, 2001)、Ed Harlowら、Antibodies: A Laboratory Manual(1988)に詳細に記載されている。
(8)変異体HCV RNA複製細胞を用いたHCVウイルス粒子の短期間製造
本発明に係る変異体HCVレプリコンRNA又はそれをコードするDNA等の核酸、好ましくは2種以上のHCV株由来のキメラ変異体HCVレプリコンRNA又はそれをコードするDNA等の核酸は、アミノ酸置換を引き起こす塩基置換をさらに含んでもよい。
一実施形態では、HCV J6株とHCV JFH-2.1株とのキメラである変異体HCVレプリコンRNA又はそれをコードするDNA等の核酸、好ましくは配列番号12で示される塩基配列からなるキメラ変異体HCVレプリコンRNAであるJ6/JFH-2.1 A2217S RNA又はそれをコードするDNAは、1個又は2個以上、特に好ましくは7個以上のアミノ酸置換を引き起こす塩基置換を含んでもよい。このアミノ酸置換としては、限定するものではないが、J6/JFH-2.1 A2217S RNAによってコードされる前駆体タンパク質のアミノ酸配列(配列番号88)を基準配列とした場合における148位 A→T(Core領域)、356位 M→V(E1領域)、405位 M→K、417位 N→T及び626位 V→G(E2領域)、868位 M→T(NS2領域)、1642位 T→A(NS3領域)、1687位 I→V(NS4A領域)、1722位 I→V及び1767位 K→R(NS4B領域)、2204位 S→G及び2219位 C→S(NS5A領域)、2695位 T→I及び3016位 L→P(NS5B領域)からなる群から選択される、少なくとも1個、好ましくは2個以上、さらに好ましくは3又は4個以上、特に好ましくは7個又は8個のアミノ酸置換であってよい。例えば、J6/JFH-2.1 A2217S RNA又はそれをコードするDNAは、405位 M→K、417位 N→T、868位 M→T、1642位 T→A、1722位 I→V、2204位 S→G、及び2695位 T→Iからなる群より選択される2個以上(好ましくは3個又は4個以上)、例えば7個全てのアミノ酸置換を引き起こす塩基置換を有していてもよい。あるいはJ6/JFH-2.1 A2217S RNA又はそれをコードするDNAは、148位 A→T、356位 M→V、626位 V→G、1687位 I→V、1767位 K→R、2219位 C→S、2695位 T→I及び3016位 L→Pからなる群より選択される2個以上(好ましくは3個又は4個以上)、例えば8個全てのアミノ酸置換を引き起こす塩基置換を有していてもよい。このような追加のアミノ酸置換を引き起こす塩基置換を有する多重変異体レプリコン(例えば、HCV J6株とHCV JFH-2.1株又はJFH-2.3株とのキメラである変異体HCVレプリコン)のRNA又はそれをコードするDNAを導入した細胞においては、複製開始後は比較的すぐにウイルス粒子の産生が開始され、その後、数十日間(例えば40日間)はウイルス粒子を大量かつ安定的に産生することができる。従ってこのような変異体レプリコンを用いれば、複製開始から短期間のうちにウイルス粒子を多量に産生することができる。本発明は、このように有利な多重変異体HCVレプリコンRNA又はそれをコードするDNAも提供する。本発明は、当該多重変異体HCVレプリコンRNAをコードするDNAを含む発現ベクター及びそれを導入した組換え細胞も提供する。本発明はまた、当該多重変異体レプリコンRNAを導入した細胞も提供する。本発明に係る多重変異体レプリコンを導入する細胞としては、例えば肝臓細胞由来細胞又はリンパ球系細胞を用いることができ、例えば、肝臓細胞由来細胞として、Huh7細胞、Huh7細胞、HepG2細胞、IMY-N9細胞、HeLa細胞、293細胞などが挙げられ、リンパ球系細胞としてはMolt4細胞や、HPB-Ma細胞、Daudi細胞などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
この多重変異体レプリコンを導入した細胞を比較的短期間で培養することにより、ウイルス粒子を多量に効率よく製造することができる。培養期間としては、培養開始から例えば1日以上であってよく、2日以上がより好ましく、3日以上がなお好ましく、5日以上がさらに好ましく、10日以上がとりわけ好ましい。培養期間はまた、培養開始から60日以下であってよく、50日以下がより好ましく、40日以下がなお好ましく、30日以下がさらに好ましく、20日以下がとりわけ好ましい。HCVレプリコン導入細胞は複製開始初期〜中期にはウイルス粒子の産生量が一旦大幅に減少する傾向が知られているのに対し、本発明に係る多重変異体HCVレプリコンを導入した細胞は、短時間でウイルス粒子を安定的に大量に産生できる点で非常に有利である。本発明は、本発明に係る多重変異体レプリコンRNA又はそれをコードするDNAを導入した細胞を用いたHCVウイルス粒子の製造方法も提供する。
(9)配列の概要
なお、本願で配列番号により引用する配列の概要を以下にまとめた。
配列番号1:組換えプラスミドpSGR-JFH-2.1中のT7プロモーターから3'UTRまでを含む塩基配列
配列番号2:組換えプラスミドpSGR-JFH-2.3中のT7プロモーターから3'UTRまでを含む塩基配列
配列番号3:HCV JFH-2.1株の全長ゲノム配列(全長ゲノムRNAをコードする塩基配列)
配列番号4:HCV JFH-2.3株の全長ゲノム配列(全長ゲノムRNAをコードする塩基配列)
配列番号5:HCV JFH-2.1株の前駆体タンパク質のアミノ酸配列
配列番号6:HCV JFH-2.3株の前駆体タンパク質のアミノ酸配列
配列番号7:HCV J6CF株の構造領域(Core、E1、E2及びp7を含む)の塩基配列
配列番号8:HCV JFH-1株の5'UTRの塩基配列
配列番号9:HCV JFH-1株のNS2領域の塩基配列
配列番号10:HCV JFH-2.1株のNS3領域から3'UTRまでの配列(NS3、NS4A、NS4B、NS5A及びNS5B領域並びに3'UTRを含む)
配列番号11:キメラHCVゲノム配列J6/JFH-2.1の塩基配列
配列番号12:キメラHCVゲノム配列J6/JFH-2.1 A2217Sの塩基配列
配列番号13:変異体HCVゲノム配列JFH-2.1 A2218Sの塩基配列
配列番号14:HCV JFH-2.1株の前駆体タンパク質のNS3〜NS5B領域のアミノ酸配列
配列番号15:HCV JFH-2.3株の前駆体タンパク質のNS3〜NS5B領域のアミノ酸配列
配列番号16〜77:プライマー
配列番号78:変異体キメラHCVゲノム配列J6/JFH-2.1 A2217S (CS)の塩基配列
配列番号79:変異体キメラHCVゲノム配列J6/JFH-2.1 A2217S (LP)の塩基配列
配列番号80:変異体キメラHCVゲノム配列J6/JFH-2.1 A2217S (TI)の塩基配列
配列番号81:変異体キメラHCVゲノム配列J6/JFH-2.1 A2217S (CS/LP)の塩基配列
配列番号82:変異体キメラHCVゲノム配列J6/JFH-2.1 A2217S (CS/TI)の塩基配列
配列番号83:変異体キメラHCVゲノム配列J6/JFH-2.1 A2217S (TI/LP)の塩基配列
配列番号84:変異体キメラHCVゲノム配列J6/JFH-2.1 A2217S (CS/TI/LP)の塩基配列
配列番号85:変異体キメラHCVゲノム配列J6/JFH-2.1 A2217S (AT/CS/TI/LP)の塩基配列
配列番号86:変異体キメラHCVゲノム配列J6/JFH-2.1 A2217S (TI/MT/MK/NT/IV/SG/TA)の塩基配列
配列番号87:変異体キメラHCVゲノム配列J6/JFH-2.1 A2217S (AT/CS/TI/LP/MV/VG/IV/KR)の塩基配列
配列番号88:J6/JFH-2.1 A2217Sにコードされる前駆体タンパク質のアミノ酸配列
配列番号89:J6/JFH-2.1 A2217S (CS)にコードされる前駆体タンパク質のアミノ酸配列
配列番号90:J6/JFH-2.1 A2217S (LP)にコードされる前駆体タンパク質のアミノ酸配列
配列番号91:J6/JFH-2.1 A2217S (TI)にコードされる前駆体タンパク質のアミノ酸配列
配列番号92:J6/JFH-2.1 A2217S (CS/LP)にコードされる前駆体タンパク質のアミノ酸配列
配列番号93:J6/JFH-2.1 A2217S (CS/TI)にコードされる前駆体タンパク質のアミノ酸配列
配列番号94:J6/JFH-2.1 A2217S (TI/LP)にコードされる前駆体タンパク質のアミノ酸配列
配列番号95:J6/JFH-2.1 A2217S (CS/TI/LP)にコードされる前駆体タンパク質のアミノ酸配列
配列番号96:J6/JFH-2.1 A2217S (AT/CS/TI/LP)にコードされる前駆体タンパク質のアミノ酸配列
配列番号97:J6/JFH-2.1 A2217S (TI/MT/MK/NT/IV/SG/TA)にコードされる前駆体タンパク質のアミノ酸配列
配列番号98:J6/JFH-2.1 A2217S (AT/CS/TI/LP/MV/VG/IV/KR)にコードされる前駆体タンパク質のアミノ酸配列
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願はそのまま参照により本明細書にとり入れるものとする。
以下に実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。ただし、これらの実施例は説明のためのものであり、本発明の技術的範囲を制限するものではない。
(実施例1)JFH-2.1及びJFH-2.3株由来HCVサブゲノムレプリコンRNA発現ベクターの構築
劇症肝炎の患者から分離した遺伝子型2aのHCV JFH-2.1株及びJFH-2.3株の全長ゲノムクローンDNAの非構造領域を用いて、HCVサブゲノムレプリコンRNA発現ベクターであるプラスミドpSGR-JFH-2.1及びpSGR-JFH-2.3をそれぞれ構築した(図1)。図1Aは、HCV JFH-2.1株及びJFH-2.3株の全長ゲノムの構造を示している。
プラスミドpSGR-JFH-2.1及びpSGR-JFH-2.3は、Katoらの文献(Gastroenterology, 125:1808-1817, 2003)及びWO05028652A1に示した手順に従って構築した。具体的には、まず、HCV JFH-2.1株又はJFH-2.3株の全長ゲノムをコードするcDNAをプラスミドベクターpUC19中のT7プロモーターの制御下に挿入した組換えプラスミドpJFH-2.1、pJFH-2.3を用意した。次いで、組換えプラスミドpJFH-2.1、pJFH-2.3の構造領域と非構造領域の一部を、ネオマイシン耐性遺伝子(neo:ネオマイシンホスホトランフェラーゼ遺伝子とも称する)、及びEMCV-IRES(脳心筋炎ウイルスの内部リボゾーム結合部位)で置換することにより、制限酵素で切断して挿入断片を切り出し組換えベクター中にクローニングすることによりプラスミドpSGR-JFH-2.1、pSGR-JFH-2.3をそれぞれ構築した。
図1B及びCは、プラスミドベクターpSGR-JFH-2.1及びpSGR-JFH-2.3の構造を示している。図1B及びC中、「T7」はT7プロモーターを意味する。T7プロモーターは、それぞれのプラスミドベクターからT7 RNAポリメラーゼを用いてHCVサブゲノムレプリコンRNAを発現させるために必要な配列エレメントである。プラスミドベクターpSGR-JFH-2.1及びpSGR-JFH-2.3において5'UTR、NS3〜NS5Bコード領域、3'UTRが、HCV JFH-2.1又はJFH-2.3株に由来する配列である。neoはネオマイシン耐性遺伝子、EMCV IRESは脳心筋炎ウイルスの内部リボソーム結合部位を示す。これらのベクターから発現されるHCVサブゲノムレプリコンRNAは、図1Dに示すように、T7プロモーターより下流の領域が転写されたRNAである。
pSGR-JFH-2.1及びpSGR-JFH-2.3中のT7プロモーター及びその下流にHCVサブゲノムレプリコンRNAコード領域を連結した塩基配列は、それぞれ配列番号1及び2に示した。
なお、用いたHCV JFH-2.1株及びJFH-2.3株の全長ゲノム配列をそれぞれ配列番号3、4に示し、HCV JFH-2.1及びJFH-2.3株の全長ゲノム配列によってコードされるウイルス前駆体タンパク質(ポリタンパク質)のアミノ酸配列をそれぞれ配列番号5、6に示した。配列番号5に示されるアミノ酸配列は配列番号3の塩基配列の塩基341位〜9445位(終止コドンを含む)に、配列番号6に示されるアミノ酸配列は配列番号4の塩基配列の塩基341位〜9445位(終止コドンを含む)にコードされている。また、HCV JFH-2.1株及びJFH-2.3株の前駆体タンパク質中のNS3からNS5Bまでの領域のアミノ酸配列を、それぞれ配列番号14及び15に示した。この配列番号14のアミノ酸配列(NS3〜NS5B領域)は、配列番号5のアミノ酸1032位〜3034位に対応する。また配列番号15のアミノ酸配列(NS3〜NS5B領域)は、配列番号5のアミノ酸1032位〜3034位に対応する。ここで、図1B及びCに示す通り、HCV JFH-2.1株の前駆体タンパク質(配列番号5)のアミノ酸1205〜1206位(NS3領域中)は配列アラニン(A)−イソロイシン(I)であったのに対し、HCV JFH-2.3株の前駆体タンパク質(配列番号6)のアミノ酸1205〜1206位(NS3領域中)は配列メチオニン(M)−ロイシン(L)であった。
(実施例2)HCVサブゲノムレプリコンRNAの作製
HCVサブゲノムレプリコンRNAを作製するため、実施例1のようにして構築した発現ベクターpSGR-JFH-2.1及びpSGR-JFH-2.3を、それぞれ制限酵素XbaIで切断し、これをPCRの鋳型DNAとした。次いで、これらのXbaI切断断片のそれぞれについて、鋳型DNA 10〜20μgに、Mung Bean Nuclease 20 U(トータル反応液量 50μl)を加えて30℃で30分間インキュベートすることにより、さらに酵素処理した。なおMung Bean Nucleaseは、二本鎖DNA中の一本鎖部分を選択的に分解して平滑化する反応を触媒する酵素である。通常、上記XbaI切断断片をそのまま鋳型として用いてRNAポリメラーゼによるRNA転写を行うと、XbaIの認識配列の一部であるCUGAの4塩基が3'末端に余分に付加されたレプリコンRNAが合成されてしまう。そこで本実施例では、XbaI切断断片をMung Bean Nucleaseで処理することにより、XbaI切断断片からCUGAの4塩基を除去したものである。
次いで、XbaI切断断片を含むMung Bean Nuclease処理後溶液について、常法に従ったタンパク質除去処理を行うことにより、CUGAの4塩基が除去されたXbaI切断断片を精製し、これを次の反応で用いる鋳型DNAとした。この鋳型DNAから、Ambion社のMEGAscriptを用いて、T7プロモーターを利用した転写反応によりRNAをin vitro合成した。具体的には、鋳型DNAを0.5〜1.0μg含む反応液20μlを製造業者の使用説明書に基づいて調製し、37℃で3時間〜16時間反応させた。
RNA合成終了後、反応溶液にDNase(2U)を添加して37℃で15分間反応させることにより鋳型DNAを除去し、さらに酸性フェノールによるRNA抽出を行うことにより、pSGR-JFH-2.1及びpSGR-JFH-2.3から転写されたHCVサブゲノムレプリコンRNAを取得した。
(実施例3)HCVサブゲノムレプリコン複製細胞クローンの樹立
実施例2で作製したJFH-2.1株及びJFH-2.3株由来の合成HCVサブゲノムレプリコンRNAのそれぞれについて、そのレプリコンRNA 1μgを、Huh7細胞から常法により抽出したトータル細胞性RNAと混合して、RNA総量が10μgとなるように調整した。次いで、その混合RNAをエレクトロポレーション法によりHuh7細胞に導入した。エレクトロポレーション処理を行ったHuh7細胞を培養ディッシュに播種し、16時間〜24時間培養した後に、培養ディッシュにG418(ネオマイシン)を添加した。その後、週に2回培養液を交換しながら培養を継続した。播種時から21日間培養した後、クリスタルバイオレットで生存細胞を染色した。その結果、どちらの株由来のレプリコンRNAを導入した細胞についても、図2に示すように、コロニー形成が確認できた。コロニー形成は、その細胞においてHCVサブゲノムレプリコンRNAが複製されていることを示している。
コロニー形成が認められた上記レプリコンRNAトランスフェクション細胞については、上記の培養21日後の培養ディッシュから、生存細胞のコロニーをさらにクローン化し、培養を継続した。このようなコロニーのクローニングにより、細胞クローンを複数株樹立することができた。これらの細胞クローンを、JFH-2.1サブゲノムレプリコン細胞又はJFH-2.3サブゲノムレプリコン細胞と名付けた。こうして樹立された細胞クローンにおいては、導入されたJFH-2.1株由来サブゲノムレプリコンRNA又はJFH-2.3株由来サブゲノムレプリコンRNAが自律複製していると考えられる。
(実施例4)JFH-2.3サブゲノムレプリコン細胞内のレプリコンRNAの配列解析
実施例3で樹立したJFH-2.3サブゲノムレプリコン細胞内に存在するサブゲノムレプリコンRNAの配列解析を行った。まず、樹立した10クローンのJFH-2.3サブゲノムレプリコン細胞からトータルRNAを抽出し、この中に含まれるHCVサブゲノムレプリコンRNAをRT-PCR法を利用して増幅した。この増幅には、5’-TAATACGACTCACTATAG-3’(配列番号16)と5’-GCGGCTCACGGACCTTTCAC-3’(配列番号17)をプライマーとして使用した。増幅産物はシークエンス用クローニングベクター中にクローン化し、常法により配列解析を行った。
その結果、細胞内から得られたサブゲノムレプリコンRNAに、非構造領域であるNS3領域で4箇所(1205位 M→K、1548位 F→L、1615位 C→W、1652位 T→N)、NS5A領域で5箇所(2196位 A→T、2218位 A→S、2223位 H→Q、2281位 Q→R、2373位 G→S)、NS5B領域で1箇所(2519位 K→N)の、アミノ酸置換を引き起こす塩基置換が見出された(図3)。これらのアミノ酸置換は、上記の通り大部分がNS3領域又はNS5A領域内に存在していた。なお、これらのアミノ酸置換の位置は、JFH-2.3株の前駆体タンパク質の全長アミノ酸配列(配列番号6)に基づいて記載されている。さらに、クローン2の2218位及びクローン3の2223位におけるアミノ酸置換は、ISDR領域(インターフェロン感受性決定領域;interferon sensitivity determining region)内で起きていた(図3)。JFH-2.1/2.3株の前駆体タンパク質のアミノ酸配列(配列番号6)ではISDR領域は、2214位〜2249位に相当する。
(実施例5)JFH-2.3サブゲノムレプリコン細胞内のHCVサブゲノムの変異解析
実施例4で見出された塩基変異が細胞内での上記サブゲノムレプリコンRNAの複製に影響を与えるかどうかを調べるために、NS3領域内の3箇所(1548位 F→L、1615位 C→W、1652位 T→N)及びNS5A領域内の3箇所(2218位 A→S、2223位 H→Q、2281位 Q→R)の各アミノ酸置換を引き起こす塩基置換を、それぞれ、実施例1で作製したHCV JFH-2.1株由来サブゲノムレプリコンRNA発現プラスミドベクターに導入した(図4A)。
具体的には、まずpSGR-JFH-2.1を鋳型として、Phusion High-Fidelity DNA Polymeraseキット(FINNZYMES社)に添付されていた、10×緩衝液を10μl、2mM dNTP混合液を4μl、10μMのプライマー EcoT7-F(5’-CCGGAATTCTAATACGACTC-3’(配列番号18))及び1548FL-R(5’-GGGCGTGTTGAGATACGCTCTAAGCCTGAC-3’(配列番号19))をそれぞれ1μl加え、最終的に脱イオン水を加え全量を49.5μlとした。その後Phusion DNA Polymerase(FINNZYMES社)を0.5μl加えてから、PCR反応を行った。PCR反応は、98℃で10秒、55℃で15秒、72℃で30秒からなる工程を1サイクルとして30サイクルの条件で行った。得られたPCR産物をPCR産物no.1とした。次に、pSGR-JFH-2.1を鋳型として、Phusion High-Fidelity DNA Polymeraseキット(FINNZYMES社)に添付されていた、10×緩衝液を10μl、2mM dNTP混合液を4μl、10μMのプライマー 5563-R(5’-CTGCAGCAAGCCTTGGATCT-3’(配列番号20))及び1548FL-F(5’-TTAGAGCGTATCTCAACACGCCCGGCCTAC-3’(配列番号21))をそれぞれ1μl加え、最終的に脱イオン水を加え全量を49.5μlとした。その後Phusion DNA Polymerase(FINNZYMES社)を0.5μl加えてから、PCR反応を行った。PCR反応は、98℃で10秒、55℃で15秒、72℃で1分30秒からなる工程を1サイクルとして30サイクルの条件で行った。得られたPCR産物をPCR産物no.2とした。
それぞれのPCR産物を精製し、15μlのH2Oに溶かした。PCR産物no.1とPCR産物no.2のDNAを各1μlずつ混合した。これを鋳型として、Phusion High-Fidelity DNA Polymeraseキット(FINNZYMES社)に添付されていた、10×緩衝液を10μl、2mM dNTP混合液を4μl、10μMのプライマーEcoT7-F(5’-CCGGAATTCTAATACGACTC-3’(配列番号18))及び5563-R(5’-CTGCAGCAAGCCTTGGATCT-3’(配列番号20))をそれぞれ1μl加え、最終的に脱イオン水を加え全量を49.5μlとした。その後Phusion DNA Polymerase(FINNZYMES社)を0.5μl加えてから、PCR反応を行った。PCR反応は、98℃で10秒、55℃で15秒、72℃で2分からなる工程を1サイクルとして30サイクルの条件で行った。得られたPCR産物をPCR産物no.3とした。PCR産物を精製し、30μlのH2Oに溶かした。
pSGR-JFH-2.1及び精製したPCR産物no.3を制限酵素EcoRI及びEcoT22Iで消化し、各HCV cDNA断片をアガロースゲル電気泳動にて分画し、精製した。これら2つのDNA断片とLigation Mix(タカラバイオ社)を混合し、2つのDNA断片を連結した。こうして得られた組換え発現ベクター(アミノ酸置換1548位 F→Lを引き起こす塩基置換を有する)をpSGR-JFH-2.1 F1548Lと名付けた。
pSGR-JFH-2.1を鋳型として、Phusion High-Fidelity DNA Polymeraseキット(FINNZYMES社)に添付されていた、10×緩衝液を10μl、2mM dNTP混合液を4μl、10μMのプライマー EcoT7-F (5’-CCGGAATTCTAATACGACTC-3’(配列番号18))及び1615CW-R(5’-AGTCGGGCCAGCCACTTCCACATGGCGTCC-3’(配列番号22))をそれぞれ1μl加え、最終的に脱イオン水を加え全量を49.5μlとした。その後Phusion DNA Polymerase(FINNZYMES社)を0.5μl加えてから、PCR反応を行った。PCR反応は、98℃で10秒、55℃で15秒、72℃で30秒からなる工程を1サイクルとして30サイクルの条件で行った。得られたPCR産物をPCR産物no.4とした。次に、pSGR-JFH-2.1を鋳型として、Phusion High-Fidelity DNA Polymeraseキット(FINNZYMES社)に添付されていた、10×緩衝液を10μl、2mM dNTP混合液を4μl、10μMのプライマー5563-R(5’-CTGCAGCAAGCCTTGGATCT-3’(配列番号20))及び1615CW-F(5’-ATGTGGAAGTGGCTGGCCCGACTCAAGCCT-3’(配列番号23))をそれぞれ1μl加え、最終的に脱イオン水を加え全量を49.5μlとした。その後Phusion DNA Polymerase(FINNZYMES社)を0.5μl加えてから、PCR反応を行った。PCR反応は、98℃で10秒、55℃で15秒、72℃で1分30秒からなる工程を1サイクルとして30サイクルの条件で行った。得られたPCR産物をPCR産物no.5とした。
それぞれのPCR産物を精製し、15μlのH2Oに溶かした。PCR産物no.4とPCR産物no.5のDNAを各1μlずつ混合した。これを鋳型として、Phusion High-Fidelity DNA Polymeraseキット(FINNZYMES社)に添付されていた、10×緩衝液を10μl、2mM dNTP混合液を4μl、10μMのプライマーEcoT7-F(5’-CCGGAATTCTAATACGACTC-3’(配列番号18))及び5563-R(5’-CTGCAGCAAGCCTTGGATCT-3’(配列番号20))をそれぞれ1μl加え、最終的に脱イオン水を加え全量を49.5μlとした。その後Phusion DNA Polymerase(FINNZYMES社)を0.5μl加えてから、PCR反応を行った。PCR反応は、98℃で10秒、55℃で15秒、72℃で2分からなる工程を1サイクルとして30サイクルの条件で行った。得られたPCR産物をPCR産物no.6とした。PCR産物を精製し、30μlのH2Oに溶かした。
pSGR-JFH-2.1及び精製したPCR産物no.6を制限酵素EcoRI及びEcoT22Iで消化し、各HCV cDNA断片をアガロースゲル電気泳動にて分画し、精製した。これら2つのDNA断片とLigation Mix(タカラバイオ社)を混合し、2つのDNA断片を連結した。こうして得られた組換え発現ベクター(アミノ酸置換1615位 C→Wを引き起こす塩基置換を有する)をpSGR-JFH-2.1 C1615Wと名付けた。
pSGR-JFH-2.1を鋳型として、Phusion High-Fidelity DNA Polymeraseキット(FINNZYMES社)に添付されていた、10×緩衝液を10μl、2mM dNTP混合液を4μl、10μMのプライマー EcoT7-F(5’-CCGGAATTCTAATACGACTC-3’(配列番号18))及び1652TN-R(5’-CTTGCATGCAATTGGCGATGTACTTCGTCC-3’(配列番号24))をそれぞれ1μl加え、最終的に脱イオン水を加え全量を49.5μlとした。その後Phusion DNA Polymerase(FINNZYMES社)を0.5μl加えてから、PCR反応を行った。PCR反応は、98℃で10秒、55℃で15秒、72℃で30秒からなる工程を1サイクルとして30サイクルの条件で行った。得られたPCR産物をPCR産物no.7とした。次に、pSGR-JFH-2.1を鋳型として、Phusion High-Fidelity DNA Polymeraseキット(FINNZYMES社)に添付されていた、10×緩衝液を10μl、2mM dNTP混合液を4μl、10μMのプライマー 5563-R(5’-CTGCAGCAAGCCTTGGATCT-3’(配列番号20))及び1652TN-F(5’-GTACATCGCCAATTGCATGCAAGCTGACCT-3’(配列番号25))をそれぞれ1μl加え、最終的に脱イオン水を加え全量を49.5μlとした。その後Phusion DNA Polymerase(FINNZYMES社)を0.5μl加えてから、PCR反応を行った。PCR反応は、98℃で10秒、55℃で15秒、72℃で1分30秒からなる工程を1サイクルとして30サイクルの条件で行った。得られたPCR産物をPCR産物no.8とした。
それぞれのPCR産物を精製し、15μlのH2Oに溶かした。PCR産物no.7とPCR産物no.8のDNAを各1μlずつ混合した。これを鋳型として、Phusion High-Fidelity DNA Polymeraseキット(FINNZYMES社)に添付されていた、10×緩衝液を10μl、2mM dNTP混合液を4μl、10μMのプライマーEcoT7-F(5’-CCGGAATTCTAATACGACTC-3’(配列番号18))及び5563-R(5’-CTGCAGCAAGCCTTGGATCT-3’(配列番号20))をそれぞれ1μl加え、最終的に脱イオン水を加え全量を49.5μlとした。その後Phusion DNA Polymerase(FINNZYMES社)を0.5μl加えてから、PCR反応を行った。PCR反応は、98℃で10秒、55℃で15秒、72℃で2分からなる工程を1サイクルとして30サイクルの条件で行った。得られたPCR産物をPCR産物no.9とした。PCR産物を精製し、30μlのH2Oに溶かした。
pSGR-JFH-2.1及び精製したPCR産物no.9を制限酵素EcoRI及びEcoT22Iで消化し、各HCV cDNA断片をアガロースゲル電気泳動にて分画し、精製した。これら2つのDNA断片とLigation Mix(タカラバイオ社)を混合し、2つのDNA断片を連結した。こうして得られた組換え発現ベクター(アミノ酸置換1652位 T→Nを引き起こす塩基置換を有する)をpSGR-JFH-2.1 T1652Nと名付けた。
pSGR-JFH-2.1を鋳型として、Phusion High-Fidelity DNA Polymeraseキット(FINNZYMES社)に添付されていた、10×緩衝液を10μl、2mM dNTP混合液を4μl、10μMのプライマー 5162-F(5’-TGGGACGCCATGTGGAAGTG-3’(配列番号26))及び2196AT-R(5’-TGATCCCCGTGTCAAGCGCCGCGCCGCAGT-3’(配列番号27))をそれぞれ1μl加え、最終的に脱イオン水を加え全量を49.5μlとした。その後Phusion DNA Polymerase(FINNZYMES社)を0.5μl加えてから、PCR反応を行った。PCR反応は、98℃で10秒、55℃で15秒、72℃で30秒からなる工程を1サイクルとして30サイクルの条件で行った。得られたPCR産物をPCR産物no.10とした。次に、pSGR-JFH-2.1を鋳型として、Phusion High-Fidelity DNA Polymeraseキット(FINNZYMES社)に添付されていた、10×緩衝液を10μl、2mM dNTP混合液を4μl、10μMのプライマー 7827-R(5’-AAAGTTACCTTTTTAGCCCT-3’(配列番号28))及び2196AT-F(5’-CGCGGCGCTTGACACGGGGATCACCTCCAT-3’(配列番号29))をそれぞれ1μl加え、最終的に脱イオン水を加え全量を49.5μlとした。その後Phusion DNA Polymerase(FINNZYMES社)を0.5μl加えてから、PCR反応を行った。PCR反応は、98℃で10秒、55℃で15秒、72℃で1分30秒からなる工程を1サイクルとして30サイクルの条件で行った。得られたPCR産物をPCR産物no.11とした。
それぞれのPCR産物を精製し、15μlのH2Oに溶かした。PCR産物no.10とPCR産物no.11のDNAを各1μlずつ混合した。これを鋳型として、Phusion High-Fidelity DNA Polymeraseキット(FINNZYMES社)に添付されていた、10×緩衝液を10μl、2mM dNTP混合液を4μl、10μMのプライマー5162-F(5’-TGGGACGCCATGTGGAAGTG-3’(配列番号26))及び7827-R(5’-AAAGTTACCTTTTTAGCCCT-3’(配列番号28))をそれぞれ1μl加え、最終的に脱イオン水を加え全量を49.5μlとした。その後Phusion DNA Polymerase(FINNZYMES社)を0.5μl加えてから、PCR反応を行った。PCR反応は、98℃で10秒、55℃で15秒、72℃で2分からなる工程を1サイクルとして30サイクルの条件で行った。得られたPCR産物をPCR産物no.12とした。PCR産物を精製し、30μlのH2Oに溶かした。
pSGR-JFH-2.1及び精製したPCR産物no.12を制限酵素EcoT22I及びPsiIで消化し、各HCV cDNA断片をアガロースゲル電気泳動にて分画し、精製した。これら2つのDNA断片とLigation Mix(タカラバイオ社)を混合し、2つのDNA断片を連結した。こうして得られた組換え発現ベクター(アミノ酸置換2196位 A→Tを引き起こす塩基置換を有する)をpSGR-JFH-2.1 A2196Tと名付けた。
pSGR-JFH-2.1を鋳型として、Phusion High-Fidelity DNA Polymeraseキット(FINNZYMES社)に添付されていた、10×緩衝液を10μl、2mM dNTP混合液を4μl、10μMのプライマー 5162-F(5’-TGGGACGCCATGTGGAAGTG-3’(配列番号26))及び2218AS-R(5’-GGTGCAGGTGGACCGCAGCGACGGTGCTGA-3’(配列番号30))をそれぞれ1μl加え、最終的に脱イオン水を加え全量を49.5μlとした。その後Phusion DNA Polymerase(FINNZYMES社)を0.5μl加えてから、PCR反応を行った。PCR反応は、98℃で10秒、55℃で15秒、72℃で30秒からなる工程を1サイクルとして30サイクルの条件で行った。得られたPCR産物をPCR産物no.13とした。次に、pSGR-JFH-2.1を鋳型として、Phusion High-Fidelity DNA Polymeraseキット(FINNZYMES社)に添付されていた、10×緩衝液を10μl、2mM dNTP混合液を4μl、10μMのプライマー 7827-R(5’-AAAGTTACCTTTTTAGCCCT-3’(配列番号28))及び2218AS-F(5’-CCGTCGCTGCGGTCCACCTGCACCACCCAC-3’(配列番号31))をそれぞれ1μl加え、最終的に脱イオン水を加え全量を49.5μlとした。その後Phusion DNA Polymerase(FINNZYMES社)を0.5μl加えてから、PCR反応を行った。PCR反応は、98℃で10秒、55℃で15秒、72℃で1分30秒からなる工程を1サイクルとして30サイクルの条件で行った。得られたPCR産物をPCR産物no.14とした。
それぞれのPCR産物を精製し、15μlのH2Oに溶かした。PCR産物no.13とPCR産物no.14のDNAを各1μlずつ混合した。これを鋳型として、Phusion High-Fidelity DNA Polymeraseキット(FINNZYMES社)に添付されていた、10×緩衝液を10μl、2mM dNTP混合液を4μl、10μMのプライマー5162-F(5’-TGGGACGCCATGTGGAAGTG-3’(配列番号26))及び7827-R(5’-AAAGTTACCTTTTTAGCCCT-3’(配列番号28))をそれぞれ1μl加え、最終的に脱イオン水を加え全量を49.5μlとした。その後Phusion DNA Polymerase(FINNZYMES社)を0.5μl加えてから、PCR反応を行った。PCR反応は、98℃で10秒、55℃で15秒、72℃で2分からなる工程を1サイクルとして30サイクルの条件で行った。得られたPCR産物をPCR産物no.15とした。PCR産物を精製し、30μlのH2Oに溶かした。
pSGR-JFH-2.1及び精製したPCR産物no.15を制限酵素EcoT22I及びPsiIで消化し、各HCV cDNA断片をアガロースゲル電気泳動にて分画し、精製した。これら2つのDNA断片とLigation Mix(タカラバイオ社)を混合し、2つのDNA断片を連結した。こうして得られた組換え発現ベクター(アミノ酸置換2218位 A→Sを引き起こす塩基置換を有する)をpSGR-JFH-2.1 A2218Sと名付けた。
pSGR-JFH-2.1を鋳型として、Phusion High-Fidelity DNA Polymeraseキット(FINNZYMES社)に添付されていた、10×緩衝液を10μl、2mM dNTP混合液を4μl、10μMのプライマー 5162-F(5’-TGGGACGCCATGTGGAAGTG-3’(配列番号26))及び2223HQ-R(5’-TAGGTGTTGCTTTGGGTGGTGCAGGTGGCC-3’(配列番号32))をそれぞれ1μl加え、最終的に脱イオン水を加え全量を49.5μlとした。その後Phusion DNA Polymerase(FINNZYMES社)を0.5μl加えてから、PCR反応を行った。PCR反応は、98℃で10秒、55℃で15秒、72℃で30秒からなる工程を1サイクルとして30サイクルの条件で行った。得られたPCR産物をPCR産物no.16とした。次に、pSGR-JFH-2.1を鋳型として、Phusion High-Fidelity DNA Polymeraseキット(FINNZYMES社)に添付されていた、10×緩衝液を10μl、2mM dNTP混合液を4μl、10μMのプライマー 7827-R(5’-AAAGTTACCTTTTTAGCCCT-3’(配列番号28))及び2223HQ-F(5’-CTGCACCACCCAAAGCAACACCTATGACGT-3’(配列番号33))をそれぞれ1μl加え、最終的に脱イオン水を加え全量を49.5μlとした。その後Phusion DNA Polymerase(FINNZYMES社)を0.5μl加えてから、PCR反応を行った。PCR反応は、98℃で10秒、55℃で15秒、72℃で1分30秒からなる工程を1サイクルとして30サイクルの条件で行った。得られたPCR産物をPCR産物no.17とした。
それぞれのPCR産物を精製し、15μlのH2Oに溶かした。PCR産物no.16とPCR産物no.17のDNAを各1μlずつ混合した。これを鋳型として、Phusion High-Fidelity DNA Polymeraseキット(FINNZYMES社)に添付されていた、10×緩衝液を10μl、2mM dNTP混合液を4μl、10μMのプライマー5162-F(5’-TGGGACGCCATGTGGAAGTG-3’(配列番号26))及び7827-R(5’-AAAGTTACCTTTTTAGCCCT-3’(配列番号28))をそれぞれ1μl加え、最終的に脱イオン水を加え全量を49.5μlとした。その後Phusion DNA Polymerase(FINNZYMES社)を0.5μl加えてから、PCR反応を行った。PCR反応は、98℃で10秒、55℃で15秒、72℃で2分からなる工程を1サイクルとして30サイクルの条件で行った。得られたPCR産物をPCR産物no.18とした。PCR産物を精製し、30μlのH2Oに溶かした。
pSGR-JFH-2.1及び精製したPCR産物no.18を制限酵素EcoT22I及びPsiIで消化し、各HCV cDNA断片をアガロースゲル電気泳動にて分画し、精製した。これら2つのDNA断片とLigation Mix(タカラバイオ社)を混合し、2つのDNA断片を連結した。こうして得られた組換え発現ベクター(アミノ酸置換2223位 H→Qを引き起こす塩基置換を有する)をpSGR-JFH-2.1 H2223Qと名付けた。
さらに、pSGR-JFH-2.1を鋳型として、Phusion High-Fidelity DNA Polymeraseキット(FINNZYMES社)に添付されていた、10×緩衝液を10μl、2mM dNTP混合液を4μl、10μMのプライマー 5162-F(5’-TGGGACGCCATGTGGAAGTG-3’(配列番号26))及び2281QR-R(5’-TGGGAATTGTTTCTCGGGG-3’(配列番号35))をそれぞれ1μl加え、最終的に脱イオン水を加え全量を49.5μlとした。その後Phusion DNA Polymerase(FINNZYMES社)を0.5μl加えてから、PCR反応を行った。PCR反応は、98℃で10秒、55℃で15秒、72℃で30秒からなる工程を1サイクルとして30サイクルの条件で行った。得られたPCR産物をPCR産物no.Xとした。次に、pSGR-JFH-2.1を鋳型として、Phusion High-Fidelity DNA Polymeraseキット(FINNZYMES社)に添付されていた、10×緩衝液を10μl、2mM dNTP混合液を4μl、10μMのプライマー 7827-R(5’-AAAGTTACCTTTTTAGCCCT-3’(配列番号28))及び2281QR-F(5’-TACTTGATCCCCGAGAAAC -3’(配列番号34))をそれぞれ1μl加え、最終的に脱イオン水を加え全量を49.5μlとした。その後Phusion DNA Polymerase(FINNZYMES社)を0.5μl加えてから、PCR反応を行った。PCR反応は、98℃で10秒、55℃で15秒、72℃で1分30秒からなる工程を1サイクルとして30サイクルの条件で行った。得られたPCR産物をPCR産物no.Yとした。
それぞれのPCR産物を精製し、15μlのH2Oに溶かした。PCR産物no.XとPCR産物no.YのDNAを各1μlずつ混合した。これを鋳型として、Phusion High-Fidelity DNA Polymeraseキット(FINNZYMES社)に添付されていた、10×緩衝液を10μl、2mM dNTP混合液を4μl、10μMのプライマー5162-F(5’-TGGGACGCCATGTGGAAGTG-3’(配列番号26))及び7827-R(5’-AAAGTTACCTTTTTAGCCCT-3’(配列番号28))をそれぞれ1μl加え、最終的に脱イオン水を加え全量を49.5μlとした。その後Phusion DNA Polymerase(FINNZYMES社)を0.5μl加えてから、PCR反応を行った。PCR反応は、98℃で10秒、55℃で15秒、72℃で2分からなる工程を1サイクルとして30サイクルの条件で行った。得られたPCR産物をPCR産物no.Zとした。PCR産物を精製し、30μlのH2Oに溶かした。
pSGR-JFH-2.1及び精製したPCR産物no.Zを制限酵素EcoT22I及びPsiIで消化し、各HCV cDNA断片をアガロースゲル電気泳動にて分画し、精製した。これら2つのDNA断片とLigation Mix(タカラバイオ社)を混合し、2つのDNA断片を連結した。こうして得られた組換え発現ベクター(アミノ酸置換2281位 Q→Rを引き起こす塩基置換を有する)をpSGR-JFH-2.1 Q2281Rと名付けた。
これらのプラスミドをXba Iで切断し、フェノールクロロホルム抽出、エタノール沈殿を行った。この切断したプラスミドを鋳型にMEGAscript T7 kit(Ambion社)を用いて各HCV RNAの合成を行った。
以上のようにして得られた変異体JFH-2.1由来サブゲノムレプリコンRNA(3μg)を、エレクトロポレーション法によりHuh7細胞に導入した。このエレクトロポレーション処理後のHuh7細胞を培養ディッシュに播種し、16時間〜24時間培養した後に、培養ディッシュにG418(ネオマイシン)を添加した。その後、週に2回培養液を交換しながら培養を継続した。播種時から21日間培養した後、クリスタルバイオレットで生存細胞を染色した(図4B)。その結果、変異導入していないJFH-2.1由来サブゲノムレプリコンRNA(図4B、最上段)ではコロニー形成が認められなかったことと比較して、変異導入したサブゲノムレプリコンRNAを導入した細胞ではコロニー形成がはっきりと認められた。特に、2218位 A→S変異を導入したサブゲノムレプリコンRNAにおいては、コロニー形成能が顕著に上昇しており、高いレプリコン複製能を獲得したことが示された。このことから、これらのHCV前駆体タンパク質において上記の通り見出されたアミノ酸変異、特に2218位 A→Sアミノ酸変異(以下、A(2218)Sとも記載する)はHCVサブゲノムレプリコンRNAの複製を増強させる変異であることが見出された。
(実施例6)発現ベクターpJ6/JFH-2.1及びpJ6/JFH-2.1 A2218Sの構築
上記実施例で得られたJFH-2.1株由来変異体HCVゲノム配列を用いたレプリコンRNAにより、培養細胞内でHCV粒子の産生が可能であるかどうかを評価するため、全長HCVゲノム配列を有するレプリコンRNA(HCVフルゲノムレプリコンRNA)を発現するプラスミドベクターの構築を行った。
具体的には、効率的なHCV粒子産生能を有するというJ6/JFH-1キメラHCVゲノムについての報告(Lindenbach et al., Science (2005) 309, p 623-626)を参考にして、別のHCV株であるJFH-1株(遺伝子型2a)由来の5'UTR配列(配列番号8)、J6CF株(遺伝子型2a)由来の構造領域の配列(Core、E1、E2及びp7領域の配列を含む;配列番号7)、JFH-1株由来のNS2領域(配列番号9)、JFH-2.1株由来のNS3領域から3'UTRまでの配列(NS3、NS4A、NS4B、NS5A及びNS5B領域並びに3'UTRを含む;配列番号10)をこの順に連結したキメラHCVゲノム配列J6/JFH-2.1(配列番号11)(図5B)をプラスミドpUC19のT7プロモーターの制御下に組み込んで、組換え発現ベクターpJ6/JFH-2.1を構築した。さらに、実施例5でレプリコン複製効率を上昇させることが示されたNS5A領域内のA(2218)S変異をJ6/JFH-2.1に導入した変異体レプリコンJ6/JFH-2.1 A2217S(図5B)を発現するベクターpJ6/JFH-2.1 A2217Sを構築した。J6/JFH-2.1 A2217Sの塩基配列は配列番号12に示した。配列番号12の配列においては、J6/JFH-2.1(配列番号11)の塩基6989位のGをTに改変することにより2217位のAからSへのアミノ酸変異が導入されている。この構築手順は、既報(Wakita, T et al., Nat Med., 11:791-796,2005)に従った。J6/JFH-2.1 A2217Sの全長ゲノム配列によりコードされる前駆体タンパク質のアミノ酸配列は配列番号88に示した。なお配列番号5に示すJFH-2.1全長アミノ酸配列の2218位のアミノ酸はアラニン(A)であるが、当該位置のアラニンは、キメラHCVであるJ6/JFH2.1の全長アミノ酸配列では2217位のアラニンにアラインメントされる。すなわちJ6/JFH-2.1 A2217Sの全長ゲノム塩基配列(配列番号12)がコードするタンパク質では、2217位のアラニンがセリン(S)に置換されているが、この置換も配列番号6で示されるアミノ酸配列を基準配列とした場合におけるアミノ酸置換A(2218)Sに該当する。変異体レプリコンJ6/JFH-2.1 A2117Sの名称は、以前の名称J6/JFH-2.1 A2218Sから便宜上変更したものであり、同一のレプリコンである。当該変異体レプリコンをコードする発現ベクターpJ6/JFH-2.1 A2117Sの名称も同様に変更した。
具体的には、pJ6/JFH-2.1を鋳型として、Phusion High-Fidelity DNA Polymeraseキット(FINNZYMES社)に添付されていた、10×緩衝液を10μl、2mM dNTP混合液を4μl、10μMのプライマー 5162-F(5’-TGGGACGCCATGTGGAAGTG-3’(配列番号26))及び2218AS-R(5’-GGTGCAGGTGGACCGCAGCGACGGTGCTGA-3’(配列番号30))をそれぞれ1μl加え、最終的に脱イオン水を加え全量を49.5μlとした。その後Phusion DNA Polymerase(FINNZYMES社)を0.5μl加えてから、PCR反応を行った。PCR反応は、98℃で10秒、55℃で15秒、72℃で30秒からなる工程を1サイクルとして30サイクルの条件で行った。得られたPCR産物をPCR産物no.19とした。次に、pJ6/JFH-2.1を鋳型として、Phusion High-Fidelity DNA Polymeraseキット(FINNZYMES社)に添付されていた、10×緩衝液を10μl、2mM dNTP混合液を4μl、10μMのプライマー 7827-R(5’-AAAGTTACCTTTTTAGCCCT-3’(配列番号28))及び2218AS-F(5’-CCGTCGCTGCGGTCCACCTGCACCACCCAC-3’(配列番号31))をそれぞれ1μl加え、最終的に脱イオン水を加え全量を49.5μlとした。その後Phusion DNA Polymerase(FINNZYMES社)を0.5μl加えてから、PCR反応を行った。PCR反応は、98℃で10秒、55℃で15秒、72℃で1分30秒からなる工程を1サイクルとして30サイクルの条件で行った。得られたPCR産物をPCR産物no.20とした。
それぞれのPCR産物を精製し、15μlのH2Oに溶かした。PCR産物no.19とPCR産物no.20のDNAを各1μlずつ混合した。これを鋳型として、Phusion High-Fidelity DNA Polymeraseキット(FINNZYMES社)に添付されていた、10×緩衝液を10μl、2mM dNTP混合液を4μl、10μMのプライマー5162-F(5’-TGGGACGCCATGTGGAAGTG-3’(配列番号26))及び7827-R(5’-AAAGTTACCTTTTTAGCCCT-3’(配列番号28))をそれぞれ1μl加え、最終的に脱イオン水を加え全量を49.5μlとした。その後Phusion DNA Polymerase(FINNZYMES社)を0.5μl加えてから、PCR反応を行った。PCR反応は、98℃で10秒、55℃で15秒、72℃で2分からなる工程を1サイクルとして30サイクルの条件で行った。得られたPCR産物をPCR産物no.21とした。PCR産物を精製し、30μlのH2Oに溶かした。
pJ6/JFH-2.1及び精製したPCR産物no.21を制限酵素EcoT22I及びPsiIで消化し、各HCV cDNA断片をアガロースゲル電気泳動にて分画し、精製した。これら2つのDNA断片とLigation Mix(タカラバイオ社)を混合し、2つのDNA断片を連結した。こうして得られた組換え発現ベクター(アミノ酸置換2218位 A→Sを引き起こす塩基置換を有する)をpJ6/JFH-2.1 A2217Sと名付けた。
(実施例7)J6/JFH-2.1及びJ6/JFH-2.1 A2217S RNA導入細胞におけるHCVレプリコン複製能の評価
実施例6で構築した発現ベクターpJ6/JFH-2.1及びpJ6/JFH-2.1 A2217Sを用いて、実施例2と同様の手法でHCVレプリコンRNA(キメラHCVフルゲノムレプリコンRNA)を作製した。得られた各HCVレプリコンRNAであるJ6/JFH-2.1 HCV RNA及びJ6/JFH-2.1 A2217S HCV RNAを、それぞれ、エレクトロポレーション法によりHuh7細胞に導入した。導入後、4、12、24、48、72、96時間後の細胞を回収し、HCV抗原ELISAテストキット(オーソ社)を用いてその細胞内に含まれるHCV Coreタンパク質を定量することにより、細胞内でのHCVレプリコン複製能の評価を行った(図6)。
その結果、J6/JFH-2.1 A2217S HCV RNA導入細胞では、導入から48時間を経過後に細胞内のCoreタンパク質量が増加してきていることから、細胞内でのHCVレプリコンの複製が効率よく行われていることが示された。しかしながら、J6/JFH-2.1 HCV RNA導入細胞では、導入から96時間を経過してもCoreタンパク質量が増加していなかった。以上の結果から、これらのキメラHCVレプリコンRNAを細胞内で効率良く複製させるためにもNS5A領域での2218位 A→S変異(「2218位」は配列番号6のアミノ酸配列を基準とした場合の変異位置である。当該キメラHCVの全長アミノ酸配列中では2217位のA→Sの変異となる)が重要であることが示された。
(実施例8)J6/JFH-2.1 A2217S HCV RNA導入細胞におけるHCV粒子産生能の評価
実施例7と同様にしてJ6/JFH-2.1 A2217S HCV RNAを導入したHuh7細胞を、培地(Dulbecco’s modified Eagle medium (DMEM)-10% fetal bovine serum)において継代培養しながら、経時的に、HCV抗原ELISAテストキット(オーソ社)を用いて培養上清中に含まれるHCV Coreタンパク質を定量することにより、HCV粒子産生の確認を行った(図7)。
その結果、HCVレプリコンRNA導入から60日間は培養上清中にCoreタンパク質はほとんど確認できなかったが、60日経過後から80日経過までにCoreタンパク質量が増加していき、80日以降はほぼ一定のCoreタンパク質量が検出された。このことから、J6/JFH-2.1 A2217S HCV RNAは、細胞に導入後に継代を行うと、細胞外放出されるウイルス粒子の産生を可能にすることが示された。
(実施例9)J6/JFH-2.1 A2217S HCV粒子の感染性の評価
実施例8で産生が確認されたJ6/JFH-2.1 A2217S HCV RNA由来のHCV粒子(以下、J6/JFH-2.1 A2217S HCV粒子)が感染性を有しているかどうかについて確認を行った。まず、上記実施例と同様にJ6/JFH-2.1 A2217S HCV RNAをエレクトロポレーション法によりHuh7細胞に導入し、継代培養を行った。細胞導入から88日目の培養上清をナイーブなHuh7細胞に添加し、72時間後のHCV感染細胞数をフォーカス法により計測することにより感染力価を算出した(図8)。
その結果、感染力価は5.21×103 ffu/mlとなり、この値を培養上清中のHCV Core量(3.96×103 fmol/L)で割り、単位HCVタンパク質あたりの感染力価を算出すると1.32(感染力価/Core値)となった。
このことから、J6/JFH-2.1 A2217S HCV RNAの細胞導入により産生されたHCV粒子は、感染性を有することが示された。
(実施例10)JFH-2.1及びJFH-2.1 A2218S HCVフルゲノムレプリコンRNA発現ベクターの構築
実施例6〜9においてキメラHCVフルゲノムレプリコンであるJ6/JFH-2.1 A2217S HCV RNAが感染性HCV粒子の産生を可能にすることが示されたことに基づき、JFH-2.1株のHCVゲノムRNAを用いて培養細胞内でHCV粒子の産生が可能かどうかを評価するために、5'UTR領域、構造領域(Core、E1、E2及びp7領域)、非構造領域(NS2、NS3、NS4A、NS4B、NS5A及びNS5B領域)及び3'UTR領域からなる、JFH-2.1株の全長ゲノム配列を有するレプリコンRNA(HCVフルゲノムレプリコンRNA;図9A)を発現するプラスミドベクターpJFH-2.1を構築した。
また、実施例7〜9でJ6/JFH-2.1 A2217S キメラHCVレプリコンRNAの細胞内複製や感染性HCV粒子産生に重要であることが示されたNS5A領域内の2218位 A→Sの変異を実施例6と同様にしてJFH-2.1ゲノム配列に導入した変異体フルゲノムレプリコンJFH-2.1 A2218S(図9B)を発現するベクターpJFH-2.1 A2218Sを構築した。この構築手順は、既報(Wakita, T et al., Nat Med., (2005))に従った。JFH-2.1 A2218Sの塩基配列は配列番号13に示した。配列番号13の配列においては、JFH-2.1(配列番号3)の塩基6992位のGをTに改変することによりA2218Sアミノ酸変異が導入されている。
(実施例11)JFH-2.1 A2218S HCV RNA導入細胞におけるHCV粒子産生能の評価
実施例10で構築した発現ベクターpJFH-2.1 A2218Sを用いて、実施例2と同様の手法でHCVレプリコンRNA(変異体HCVフルゲノムレプリコンRNA)を作製した。得られた各HCVレプリコンRNAであるJFH-2.1 A2218S HCV RNAを、エレクトロポレーション法によりHuh7細胞に導入した。その後、培地(10%ウシ胎仔血清含有ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM))においてその細胞を継代培養しながら、経時的に、HCV抗原ELISAテストキット(オーソ社)を用いて培養上清中に含まれるHCV Coreタンパク質を定量することにより、HCV粒子産生の確認を行った(図10)。
その結果、HCVレプリコンRNA導入から40日間は培養上清中にCoreタンパク質はほとんど確認できなかったが、40日経過後から60日経過までにCoreタンパク質量が増加していき、60日以降はほぼ一定のCoreタンパク質量が検出された。このことから、JFH-2.1 A2218S HCV RNAは、細胞に導入後に継代を行うと、細胞外放出されるウイルス粒子の産生を可能にすることが示された。
(実施例12)JFH-2.1 A2218S HCV粒子の感染性の評価
実施例11で産生が確認されたJFH-2.1 A2218S HCV RNA由来のHCV粒子(以下、JFH-2.1 A2218S HCV粒子)が感染性を有しているかどうかについて確認を行った。まず、上記実施例と同様にJFH-2.1 A2218S HCV RNAをエレクトロポレーション法によりHuh7細胞に導入し、継代培養を行った。細胞導入から63日目の培養上清をナイーブなHuh7細胞に添加し、72時間後のHCV感染細胞数をフォーカス法により計測することにより感染力価を算出した(図11)。
その結果、感染力価は4.32×104 ffu/mlとなり、この値を培養上清中のHCV Core量(1.17×104 fmol/L)で割り、単位HCVタンパク質あたりの感染力価を算出すると3.69(感染力価/Core値)となった。このことから、JFH-2.1 A2218S HCV RNAの細胞導入により産生されたHCV粒子は、感染性を有することが示され、J6/JFH-2.1 A2217S HCV粒子よりも単位タンパク質あたりの感染力価は高くなることが示された。
(実施例13)J6/JFH-2.1 A2217S RNA複製細胞の継代培養による塩基配列の変異解析
実施例8で得られた感染力価の高いJ6/JFH-2.1 A2217S HCV粒子を含むHuh-7細胞(J6/JFH-2.1 A2217S HCV RNA導入Huh-7細胞)の培養上清を新たな未感染のHuh-7細胞にmoi(重複感染度:Multiplicity of infection)=0.03で感染させた。感染させた細胞を、培養上清中のコア蛋白質量及び感染力価が1,000 fmol/L及び1,000 ffu/ml以上になるまで継代培養した。ウイルスを含む培養上清の感染と、感染細胞の継代培養を3〜4回繰り返し、培養上清に含まれるHCV RNAの配列解析を行った。感染系列は2系列とし、各々4A及び4Bと命名した。まず、感染系列4A及び4BのJ6/JFH-2.1 A2217S HCV粒子を含むHuh-7細胞の培養上清からRNAをそれぞれ抽出し、この中に含まれるHCV RNAをRT-PCR法を利用して増幅した。この増幅には、Random Primer(6 mer、タカラバイオ社)を使用した。増幅産物はシークエンス用クローニングベクター中にクローン化し、常法により配列解析を行った。
その結果、感染系列4Aでは、構造領域であるE2領域で2箇所(405位 M→K、417位 N→T)、非構造領域であるNS2領域で1箇所(868位 M→T)、NS3領域で1箇所(1642位 T→A)、NS4B領域で1箇所(1722位 I→V)、NS5A領域で1箇所(2204位 S→G)、NS5B領域で1箇所(2695位 T→I)の、7箇所のアミノ酸置換を引き起こす塩基置換が見出された。また感染系列4Bでは、構造領域であるcore領域に1箇所(148位 A→T)、E1領域に1箇所(356位 M→V)、E2領域で1箇所(626位 V→G)、非構造領域であるNS4A領域で1箇所(1687位 I→V)、NS4B領域で1箇所(1767位 K→R)、NS5A領域で1箇所(2219位 C→S)、NS5B領域で2箇所(2695位 T→I、3016位 L→P)の、8箇所のアミノ酸置換を引き起こす塩基置換が見出された。なお本実施例及び以下の実施例で示すアミノ酸変異の位置は、当該変異体アミノ酸配列中での位置を表している。
(実施例14)J6/JFH-2.1 A2217S由来変異型HCVフルゲノムRNA発現ベクターの構築
実施例13で認められた変異が適応変異であるか否かを確認するために、プラスミドpJ6/JFH-2.1 A2217Sに実施例13で得られた変異を様々な組み合わせで導入したプラスミドを作製した。具体的には、pJ6/JFH-2.1 A2217Sを鋳型として、Phusion High-Fidelity DNA Polymeraseキット(FINNZYMES社)に添付されていた、10×緩衝液を10μl、2mM dNTP混合液を4μl、10μMのプライマー2219CS-S(5’-GCGTTCCACCAGTGCCACCCACGGCACGGC-3’(配列番号36))及び8035R-2a(5’-CCACACGGACTTGATGTGGT-3’(配列番号37))をそれぞれ1μl加え、最終的に脱イオン水を加え全量を49.5μlとした。その後Phusion DNA Polymerase(FINNZYMES社)を0.5μl加えてから、PCR反応を行った。PCR反応は、98℃で10秒、55℃で15秒、72℃で30秒からなる工程を1サイクルとして30サイクルの条件で行った。得られたPCR産物をPCR産物no.22とした。次に、pJ6/JFH-2.1を鋳型として、Phusion High-Fidelity DNA Polymeraseキット(FINNZYMES社)に添付されていた、10×緩衝液を10μl、2mM dNTP混合液を4μl、10μMのプライマー6586S-IH(5’-CAAGACCGCCATCTGGAGGGTGGCGGCCTC-3’(配列番号38))及び2219CS-R(5’-GGTGGCACTGGTGGAACGCAGCGACGGGGC-3’(配列番号39))をそれぞれ1μl加え、最終的に脱イオン水を加え全量を49.5μlとした。その後Phusion DNA Polymerase(FINNZYMES社)を0.5μl加えてから、PCR反応を行った。PCR反応は、98℃で10秒、55℃で15秒、72℃で1分30秒からなる工程を1サイクルとして25サイクルの条件で行った。得られたPCR産物をPCR産物no.23とした。
それぞれのPCR産物を精製し、15μlのH2Oに溶かした。PCR産物no.22とPCR産物no.23のDNAを各1μlずつ混合した。これを鋳型として、Phusion High-Fidelity DNA Polymeraseキット(FINNZYMES社)に添付されていた、10×緩衝液を10μl、2mM dNTP混合液を4μl、10μMのプライマー6586S-IH(5’-CAAGACCGCCATCTGGAGGGTGGCGGCCTC-3’(配列番号38))及び8035R-2a(5’-CCACACGGACTTGATGTGGT-3’(配列番号37))をそれぞれ1μl加え、最終的に脱イオン水を加え全量を49.5μlとした。その後Phusion DNA Polymerase(FINNZYMES社)を0.5μl加えてから、PCR反応を行った。PCR反応は、98℃で10秒、55℃で15秒、72℃で2分からなる工程を1サイクルとして25サイクルの条件で行った。得られたPCR産物をPCR産物no.24とした。PCR産物を精製し、30μlのH2Oに溶かした。
pJ6/JFH-2.1 A2217S及び精製したPCR産物no.24を制限酵素BlpI及びPsiIで消化し、各HCV cDNA断片をアガロースゲル電気泳動にて分画し、精製した。これら2つのDNA断片とLigation Mix(タカラバイオ社)を混合し、2つのDNA断片を連結した。こうして得られた組換え発現ベクター(アミノ酸置換2217位 A→S(配列番号6のアミノ酸配列を基準配列とした場合のアミノ酸置換2218位 A→Sに相当)、2219位 C→Sを引き起こす塩基置換を有する)をpJ6/JFH-2.1 A2217S (CS)と名付けた。pJ6/JFH-2.1 A2217S (CS)中にクローン化された変異体HCVフルゲノム配列J6/JFH-2.1 A2217S (CS)の塩基配列を配列番号78に、その塩基配列によってコードされるHCVウイルス前駆体タンパク質のアミノ酸配列を配列番号89に示した。
次に、pJ6/JFH-2.1 A2217Sを鋳型として、Phusion High-Fidelity DNA Polymeraseキット(FINNZYMES社)に添付されていた、10×緩衝液を10μl、2mM dNTP混合液を4μl、10μMのプライマー9124S-IH(5’-TTCAGCCCTCAGAAAACTTGGGGCGCCACC-3’(配列番号40))及び3016LR-R(5’-GGAGTAGGCTAgGGAGTAACAAGCGGGGTC-3’(配列番号41))をそれぞれ1μl加え、最終的に脱イオン水を加え全量を49.5μlとした。その後Phusion DNA Polymerase(FINNZYMES社)を0.5μl加えてから、PCR反応を行った。PCR反応は、98℃で10秒、55℃で15秒、72℃で30秒からなる工程を1サイクルとして25サイクルの条件で行った。得られたPCR産物をPCR産物no.25とした。次に、pJ6/JFH-2.1を鋳型として、Phusion High-Fidelity DNA Polymeraseキット(FINNZYMES社)に添付されていた、10×緩衝液を10μl、2mM dNTP混合液を4μl、10μMのプライマー3016LP-S(5’-TTGTTACTCCCTAGCCTACTCCTACTCTTT-3’(配列番号42))及びM13R(5’-AACAGCTATGACCATG-3’(配列番号43))をそれぞれ1μl加え、最終的に脱イオン水を加え全量を49.5μlとした。その後Phusion DNA Polymerase(FINNZYMES社)を0.5μl加えてから、PCR反応を行った。PCR反応は、98℃で10秒、55℃で15秒、72℃で1分30秒からなる工程を1サイクルとして25サイクルの条件で行った。得られたPCR産物をPCR産物no.26とした。
それぞれのPCR産物を精製し、15μlのH2Oに溶かした。PCR産物no.25とPCR産物no.26のDNAを各1μlずつ混合した。これを鋳型として、Phusion High-Fidelity DNA Polymeraseキット(FINNZYMES社)に添付されていた、10×緩衝液を10μl、2mM dNTP混合液を4μl、10μMのプライマー9124S-IH(5’-TTCAGCCCTCAGAAAACTTGGGGCGCCACC-3’(配列番号40))及びM13R(5’-AACAGCTATGACCATG-3’(配列番号43))をそれぞれ1μl加え、最終的に脱イオン水を加え全量を49.5μlとした。その後Phusion DNA Polymerase(FINNZYMES社)を0.5μl加えてから、PCR反応を行った。PCR反応は、98℃で10秒、55℃で15秒、72℃で2分からなる工程を1サイクルとして25サイクルの条件で行った。得られたPCR産物をPCR産物no.27とした。PCR産物を精製し、30μlのH2Oに溶かした。
pJ6/JFH-2.1 A2217S及び精製したPCR産物no.27を制限酵素EcoRV及びXbaIで消化し、各HCV cDNA断片をアガロースゲル電気泳動にて分画し、精製した。これら2つのDNA断片とLigation Mix(タカラバイオ社)を混合し、2つのDNA断片を連結した。こうして得られた組換え発現ベクター(アミノ酸置換2217位 A→S(配列番号6のアミノ酸配列を基準配列とした場合のアミノ酸置換2218位 A→Sに相当)、3016位 L→Pを引き起こす塩基置換を有する)をpJ6/JFH-2.1 A2217S (LP)と名付けた。pJ6/JFH-2.1 A2217S (LP)中にクローン化された変異体HCVフルゲノム配列J6/JFH-2.1 A2217S (LP)の塩基配列を配列番号79に、その塩基配列によってコードされるHCVウイルス前駆体タンパク質のアミノ酸配列を配列番号90に示した。
次に、実施例13で得られた感染系列4BのHCV RNAから逆転写して作製したcDNAを鋳型として、Phusion High-Fidelity DNA Polymeraseキット(FINNZYMES社)に添付されていた、10×緩衝液を10μl、2mM dNTP混合液を4μl、10μMのプライマー7993S-IH(5’-CAGCTTGTCCGGGAGGGC-3’(配列番号44))及び8892R-2a(5’-AGCCATGAATTGATAGGGGA-3’(配列番号45))をそれぞれ1μl加え、最終的に脱イオン水を加え全量を49.5μlとした。その後Phusion DNA Polymerase(FINNZYMES社)を0.5μl加えてから、PCR反応を行った。PCR反応は、98℃で10秒、55℃で15秒、72℃で30秒からなる工程を1サイクルとして30サイクルの条件で行った。得られたPCR産物をPCR産物no.28とした。
pJ6/JFH-2.1 A2217S及び精製したPCR産物no.28を制限酵素Bsu36I及びSrfIで消化し、各HCV cDNA断片をアガロースゲル電気泳動にて分画し、精製した。これら2つのDNA断片とLigation Mix(タカラバイオ社)を混合し、2つのDNA断片を連結した。こうして得られた組換え発現ベクター(アミノ酸置換2217位 A→S(配列番号6のアミノ酸配列を基準配列とした場合のアミノ酸置換2218位 A→Sに相当)、2695位 T→Iを引き起こす塩基置換を有する)をpJ6/JFH-2.1 A2217S (TI)と名付けた。pJ6/JFH-2.1 A2217S (TI)中にクローン化された変異体HCVフルゲノム配列J6/JFH-2.1 A2217S (TI)の塩基配列を配列番号80に、その塩基配列によってコードされるHCVウイルス前駆体タンパク質のアミノ酸配列を配列番号91に示した。
次に、pJ6/JFH-2.1 A2217Sを鋳型として、Phusion High-Fidelity DNA Polymeraseキット(FINNZYMES社)に添付されていた、10×緩衝液を10μl、2mM dNTP混合液を4μl、10μMのプライマー450S-IH(5’-TGCCGCGCAGGGGCCCCAGGTTGGGTGTGC-3’(配列番号46))及び148AT-S(5’-GAGAGCTCTGGtGACGCCGCCGAGCGGGGC-3’(配列番号47))をそれぞれ1μl加え、最終的に脱イオン水を加え全量を49.5μlとした。その後Phusion DNA Polymerase(FINNZYMES社)を0.5μl加えてから、PCR反応を行った。PCR反応は、98℃で10秒、55℃で15秒、72℃で30秒からなる工程を1サイクルとして25サイクルの条件で行った。得られたPCR産物をPCR産物no.29とした。次に、pJ6/JFH-2.1を鋳型として、Phusion High-Fidelity DNA Polymeraseキット(FINNZYMES社)に添付されていた、10×緩衝液を10μl、2mM dNTP混合液を4μl、10μMのプライマー148AT-R(5’-GGCGGCGTCaCCAGAGCTCTCGCGCATGGC-3’(配列番号48))及び1440R-IH(5’-GCTCCCTGCATAGAGAAGTA-3’(配列番号49))をそれぞれ1μl加え、最終的に脱イオン水を加え全量を49.5μlとした。その後Phusion DNA Polymerase(FINNZYMES社)を0.5μl加えてから、PCR反応を行った。PCR反応は、98℃で10秒、55℃で15秒、72℃で1分30秒からなる工程を1サイクルとして30サイクルの条件で行った。得られたPCR産物をPCR産物no.30とした。
それぞれのPCR産物を精製し、15μlのH2Oに溶かした。PCR産物no.29とPCR産物no.30のDNAを各1μlずつ混合した。これを鋳型として、Phusion High-Fidelity DNA Polymeraseキット(FINNZYMES社)に添付されていた、10×緩衝液を10μl、2mM dNTP混合液を4μl、10μMのプライマー450S-IH(5’-TGCCGCGCAGGGGCCCCAGGTTGGGTGTGC-3’(配列番号46))及び1440R-IH(5’-GCTCCCTGCATAGAGAAGTA-3’(配列番号49))をそれぞれ1μl加え、最終的に脱イオン水を加え全量を49.5μlとした。その後Phusion DNA Polymerase(FINNZYMES社)を0.5μl加えてから、PCR反応を行った。PCR反応は、98℃で10秒、55℃で15秒、72℃で2分からなる工程を1サイクルとして25サイクルの条件で行った。得られたPCR産物をPCR産物no.31とした。PCR産物を精製し、30μlのH2Oに溶かした。
pJ6/JFH-2.1 A2217S及び精製したPCR産物no.31を制限酵素ClaI及びBsiwIで消化し、各HCV cDNA断片をアガロースゲル電気泳動にて分画し、精製した。これら2つのDNA断片とLigation Mix(タカラバイオ社)を混合し、2つのDNA断片を連結した。こうして得られた組換え発現ベクター(アミノ酸置換2217位 A→S(配列番号6のアミノ酸配列を基準配列とした場合のアミノ酸置換2218位 A→Sに相当)、148位 A→Tを引き起こす塩基置換を有する)をpJ6/JFH-2.1 A2217S)(AT)と名付けた。
同様に、組換え発現ベクターpJ6/JFH-2.1 A2217S (CS/LP)、pJ6/JFH-2.1 A2217S (CS/TI)、pJ6/JFH-2.1 A2217S (TI/LP)、pJ6/JFH-2.1 A2217S (CS/TI/LP)及びpJ6/JFH-2.1 A2217S (AT/CS/TI/LP)を作製した。なおこれらはJ6/JFH-2.1 A2217Sの全長アミノ酸配列上記のアミノ酸変異を様々に組み合わせて導入したものである。ベクターpJ6/JFH-2.1 A2217S (CS/LP)、pJ6/JFH-2.1 A2217S (CS/TI)、pJ6/JFH-2.1 A2217S (TI/LP)、pJ6/JFH-2.1 A2217S (CS/TI/LP)及びpJ6/JFH-2.1 A2217S (AT/CS/TI/LP)中にクローン化された、変異体HCVフルゲノム配列J6/JFH-2.1 A2217S (CS/LP)、J6/JFH-2.1 A2217S (CS/TI)、J6/JFH-2.1 A2217S (TI/LP)、J6/JFH-2.1 A2217S (CS/TI/LP)及びJ6/JFH-2.1 A2217S (AT/CS/TI/LP)の塩基配列をそれぞれ配列番号81、82、83、84、85に、その塩基配列によってコードされるHCVウイルス前駆体タンパク質のアミノ酸配列をそれぞれ配列番号92、93、94、95、96に示した。
感染系列4Aの全変異導入ウイルスレプリコンは、下記のように作製した。まず、実施例13で得られた感染系列4AのHCV RNAから逆転写して作製したcDNAを鋳型として、Phusion High-Fidelity DNA Polymeraseキット(FINNZYMES社)に添付されていた、10×緩衝液を10μl、2mM dNTP混合液を4μl、10μMのプライマー2099S-2a(5’-ACGGACTGTTTTAGGAAGCA-3’(配列番号50))及び3509R-2a(5’-TCTTGTCGCGCCCCGTCA-3’(配列番号51))をそれぞれ1μl加え、最終的に脱イオン水を加え全量を49.5μlとした。その後Phusion DNA Polymerase(FINNZYMES社)を0.5μl加えてから、PCR反応を行った。PCR反応は、98℃で10秒、55℃で15秒、72℃で20秒からなる工程を1サイクルとして35サイクルの条件で行った。そのPCR産物を鋳型として、Phusion High-Fidelity DNA Polymeraseキット(FINNZYMES社)に添付されていた、10×緩衝液を10μl、2mM dNTP混合液を4μl、10μMのプライマー2285S-2a(5’-AATTTCACTCGTGGGGATCG-3’(配列番号52))及び3280R-IH(5’-TGACCTTCTTCTCCATCGGACTG-3’(配列番号53))をそれぞれ1μl加え、最終的に脱イオン水を加え全量を49.5μlとした。その後Phusion DNA Polymerase(FINNZYMES社)を0.5μl加えてから、PCR反応を行った。PCR反応は、98℃で10秒、55℃で15秒、72℃で20秒からなる工程を1サイクルとして30サイクルの条件で行い、得られたPCR産物をPCR産物no.32とした。pJ6/JFH-2.1 A2217S (TI)及び精製したPCR産物no.32を制限酵素KpnI及びAfIIIで消化し、各HCV cDNA断片をアガロースゲル電気泳動にて分画し、精製した。これら2つのDNA断片とLigation Mix(タカラバイオ社)を混合し、2つのDNA断片を連結した。こうして得られた組換え発現ベクター(アミノ酸置換2217位 A→S(配列番号6のアミノ酸配列を基準配列とした場合のアミノ酸置換2218位 A→Sに相当)、2695位 T→I、868位 M→Tを引き起こす塩基置換を有する)をpJ6/JFH-2.1 A2217S (TI/MT)と名付けた。
次に、実施例13で得られた感染系列4AのHCV RNAから逆転写して作製した405位 M→K、417位 N→Tの変異を引き起こす塩基置換を含むcDNAを鋳型として、Phusion High-Fidelity DNA Polymeraseキット(FINNZYMES社)に添付されていた、10×緩衝液を10μl、2mM dNTP混合液を4μl、10μMのプライマー2099S-2a(5’-ACGGACTGTTTTAGGAAGCA-3’(配列番号50))及び3509R-2a(5’-TCTTGTCGCGCCCCGTCA-3’(配列番号51))をそれぞれ1μl加え、最終的に脱イオン水を加え全量を49.5μlとした。その後Phusion DNA Polymerase(FINNZYMES社)を0.5μl加えてから、PCR反応を行った。PCR反応は、98℃で10秒、55℃で15秒、72℃で20秒からなる工程を1サイクルとして30サイクルの条件で行った。そのPCR産物を鋳型として、Phusion High-Fidelity DNA Polymeraseキット(FINNZYMES社)に添付されていた、10×緩衝液を10μl、2mM dNTP混合液を4μl、10μMのプライマー2285S-2a(5’-AATTTCACTCGTGGGGATCG-3’(配列番号52))及び3280R-IH(5’-TGACCTTCTTCTCCATCGGACTG-3’(配列番号53))をそれぞれ1μl加え、最終的に脱イオン水を加え全量を49.5μlとした。その後Phusion DNA Polymerase(FINNZYMES社)を0.5μl加えてから、PCR反応を行った。PCR反応は、98℃で10秒、55℃で15秒、72℃で20秒からなる工程を1サイクルとして40サイクルの条件で行い、得られたPCR産物をPCR産物no.33とした。pJ6/JFH-2.1 A2217S (TI/MT)及び精製したPCR産物no.33を制限酵素KpnIで消化し、各HCV cDNA断片をアガロースゲル電気泳動にて分画し、精製した。これら2つのDNA断片とLigation Mix(タカラバイオ社)を混合し、2つのDNA断片を連結した。こうして得られた組換え発現ベクター(アミノ酸置換2217位 A→S(配列番号6のアミノ酸配列を基準配列とした場合のアミノ酸置換2218位 A→Sに相当)、2695位 T→I、868位 M→T、405位 M→K、417位 N→Tを引き起こす塩基置換を有する)をpJ6/JFH-2.1 A2217S (TI/MT/MK/NT)と名付けた。
次に、実施例13で得られた感染系列4AのHCV RNAから逆転写して作製した1722位 I→Vの変異を引き起こす塩基置換を含むcDNAを鋳型として、LA-Taq DNA Polymeraseキット(タカラバイオ社)に添付されていた、10×緩衝液を10μl、2mM dNTP混合液を4μl、10μMのプライマー4547S-2a(5’-AAGTGTGACGAGCTCGCGG-3’(配列番号54))及び7677R-IH(5’-TATGACATGGAGCAGCACAC-3’(配列番号55))をそれぞれ1μl加え、最終的に脱イオン水を加え全量を49.5μlとした。その後LA-Taq DNA Polymerase(タカラバイオ社)を0.5μl加えてから、PCR反応を行った。PCR反応は、95℃で30秒、60℃で30秒、72℃で3分からなる工程を1サイクルとして30サイクルの条件で行った。そのPCR産物を鋳型として、LA-Taq DNA Polymeraseキット(タカラバイオ社)に添付されていた、10×緩衝液を10μl、2mM dNTP混合液を4μl、10μMのプライマー4607S-IH(5’-AGAGGGTTGGACGTCTCCATAATACCA-3’(配列番号56))及び7214R-NS(5’-CAGGCCGCGCCCAGGCCGGCAAGGCTGGTG-3’(配列番号57))をそれぞれ1μl加え、最終的に脱イオン水を加え全量を49.5μlとした。その後LA-Taq DNA Polymerase(タカラバイオ社)を0.5μl加えてから、PCR反応を行った。PCR反応は、95℃で30秒、60℃で30秒、72℃で2分30秒からなる工程を1サイクルとして30サイクルの条件で行い、得られたPCR産物をPCR産物no.34とした。pJ6/JFH-2.1 A2217S (TI/MT/MK/NT)及び精製したPCR産物no.34を制限酵素XhoI及びBlpIで消化し、各HCV cDNA断片をアガロースゲル電気泳動にて分画し、精製した。これら2つのDNA断片とLigation Mix(タカラバイオ社)を混合し、2つのDNA断片を連結した。こうして得られた組換え発現ベクター(アミノ酸置換2217位 A→S(配列番号6のアミノ酸配列を基準配列とした場合のアミノ酸置換2218位 A→Sに相当)、2695位 T→I、868位 M→T、405位 M→K、417位 N→T、1722位 I→Vを引き起こす塩基置換を有する)をpJ6/JFH-2.1 A2217S (TI/MT/MK/NT/IV)と名付けた。
次に、実施例13で得られた感染系列4AのHCV RNAから逆転写して作製した2204位 S→Gの変異を引き起こす塩基置換を含むcDNAを鋳型として、LA-Taq DNA Polymeraseキット(タカラバイオ社)に添付されていた、10×緩衝液を10μl、2mM dNTP混合液を4μl、10μMのプライマー6499S-NS(5’-TAAGACCTGCATGAACACCTGGCAGGGGAC-3’(配列番号58))及び3’X-8077R-IH(5’-ACATGATCTGCAGAGAGACCAGTTACGG-3’(配列番号59))をそれぞれ1μl加え、最終的に脱イオン水を加え全量を49.5μlとした。その後LA-Taq DNA Polymerase(タカラバイオ社)を0.5μl加えてから、PCR反応を行った。PCR反応は、95℃で30秒、60℃で30秒、72℃で3分からなる工程を1サイクルとして30サイクルの条件で行った。そのPCR産物を鋳型として、LA-Taq DNA Polymeraseキット(タカラバイオ社)に添付されていた、10×緩衝液を10μl、2mM dNTP混合液を4μl、10μMのプライマー6698S-NS(5’-ATACCATCTCCAGAGTTCTTTTCCTGGGTA-3’(配列番号60))及び3’X-75R-2a(5’-TACGGCACCTCTCTGCAGTCA-3’(配列番号61))をそれぞれ1μl加え、最終的に脱イオン水を加え全量を49.5μlとした。その後LA-Taq DNA Polymerase(タカラバイオ社)を0.5μl加えてから、PCR反応を行った。PCR反応は、95℃で30秒、60℃で30秒、72℃で2分30秒からなる工程を1サイクルとして30サイクルの条件で行い、得られたPCR産物をPCR産物no.35とした。pJ6/JFH-2.1 A2217S (TI/MT/MK/NT/IV)及び精製したPCR産物no.35を制限酵素BlpI及びPsilで消化し、各HCV cDNA断片をアガロースゲル電気泳動にて分画し、精製した。これら2つのDNA断片とLigation Mix(タカラバイオ社)を混合し、2つのDNA断片を連結した。こうして得られた組換え発現ベクター(アミノ酸置換2217位 A→S(配列番号6のアミノ酸配列を基準配列とした場合のアミノ酸置換2218位 A→Sに相当)、2695位 T→I、868位 M→T、405位 M→K、417位 N→T、1722位 I→V、2204位 S→Gを引き起こす塩基置換を有する)をpJ6/JFH-2.1 A2217S (TI/MT/MK/NT/IV/SG)と名付けた。
次に、実施例13で得られた感染系列4AのHCV RNAから逆転写して作製した1642位 T→Aの変異を引き起こす塩基置換を含むcDNAを鋳型として、LA-Taq DNA Polymeraseキット(タカラバイオ社)に添付されていた、10×緩衝液を10μl、2mM dNTP混合液を4μl、10μMのプライマー4547S-2a(5’-AAGTGTGACGAGCTCGCGG-3’(配列番号62))及び7677R-IH(5’-TATGACATGGAGCAGCACAC-3’(配列番号63))をそれぞれ1μl加え、最終的に脱イオン水を加え全量を49.5μlとした。その後LA-Taq DNA Polymerase(タカラバイオ社)を0.5μl加えてから、PCR反応を行った。PCR反応は、95℃で30秒、60℃で30秒、72℃で3分からなる工程を1サイクルとして30サイクルの条件で行った。そのPCR産物を鋳型として、LA-Taq DNA Polymeraseキット(タカラバイオ社)に添付されていた、10×緩衝液を10μl、2mM dNTP混合液を4μl、10μMのプライマー4607S-IH(5’-AGAGGGTTGGACGTCTCCATAATACCA-3’(配列番号64))及び7214R-NS(5’-CAGGCCGCGCCCAGGCCGGCAAGGCTGGTG-3’(配列番号65))をそれぞれ1μl加え、最終的に脱イオン水を加え全量を49.5μlとした。その後LA-Taq DNA Polymerase(タカラバイオ社)を0.5μl加えてから、PCR反応を行った。PCR反応は、95℃で30秒、60℃で30秒、72℃で2分30秒からなる工程を1サイクルとして30サイクルの条件で行い、得られたPCR産物をPCR産物no.36とした。pJ6/JFH-2.1 A2217S (TI/MT/MK/NT/IV/SG)及び精製したPCR産物no.36を制限酵素XhoIで消化し、各HCV cDNA断片をアガロースゲル電気泳動にて分画し、精製した。これら2つのDNA断片とLigation Mix(タカラバイオ社)を混合し、2つのDNA断片を連結した。こうして得られた組換え発現ベクター(アミノ酸置換2217位 A→S(配列番号6のアミノ酸配列を基準配列とした場合のアミノ酸置換2218位 A→Sに相当)、2695位 T→I、868位 M→T、405位 M→K、417位 N→T、1722位 I→V、2204位 S→G、1642位 T→Aを引き起こす塩基置換を有する)をpJ6/JFH-2.1 A2217S (TI/MT/MK/NT/IV/SG/TA)と名付けた。pJ6/JFH-2.1 A2217S (TI/MT/MK/NT/IV/SG/TA)中にクローン化された変異体HCVフルゲノム配列J6/JFH-2.1 A2217S (TI/MT/MK/NT/IV/SG/TA)の塩基配列を配列番号86に、その塩基配列によってコードされるHCVウイルス前駆体タンパク質のアミノ酸配列を配列番号97に示した。J6/JFH-2.1 A2217S (TI/MT/MK/NT/IV/SG/TA)がコードする変異前駆体タンパク質には、感染系列4Aで見出されたアミノ酸変異の全ての種類が導入されている。
4B全変異導入ウイルスは、下記のように作製した。まず、実施例13で得られた感染系列4BのHCV RNAから逆転写して作製した356位 M→V、626位 V→Gの変異を含むcDNAを鋳型として、LA-Taq DNA Polymeraseキット(タカラバイオ社)に添付されていた、10×緩衝液を10μl、2mM dNTP混合液を4μl、10μMのプライマー44S-IH(5’-CTGTGAGGAACTACTGTCTT-3’(配列番号66))及び3189R-IH(5’-CCAGTCCACCTGCCAAGG-3’(配列番号67))をそれぞれ1μl加え、最終的に脱イオン水を加え全量を49.5μlとした。その後LA-Taq DNA Polymerase(タカラバイオ社)を0.5μl加えてから、PCR反応を行った。PCR反応は、95℃で30秒、60℃で30秒、72℃で3分からなる工程を1サイクルとして30サイクルの条件で行った。そのPCR産物を鋳型として、LA-Taq DNA Polymeraseキット(タカラバイオ社)に添付されていた、10×緩衝液を10μl、2mM dNTP混合液を4μl、10μMのプライマー63S-Con.1(5’-TTCACGCAGAAAGCGTCTAG-3’(配列番号68))及び2445R-2a(5’-TCCACGATGTTTTGGTGGAG-3’(配列番号69))をそれぞれ1μl加え、最終的に脱イオン水を加え全量を49.5μlとした。その後LA-Taq DNA Polymerase(タカラバイオ社)を0.5μl加えてから、PCR反応を行った。PCR反応は、95℃で30秒、60℃で30秒、72℃で2分30秒からなる工程を1サイクルとして30サイクルの条件で行い、得られたPCR産物をPCR産物no.37とした。pJ6/JFH-2.1 A2217S (AT/CS/TI/LP)及び精製したPCR産物no.37を制限酵素BsiwI及びSphIで消化し、各HCV cDNA断片をアガロースゲル電気泳動にて分画し、精製した。これら2つのDNA断片とLigation Mix(タカラバイオ社)を混合し、2つのDNA断片を連結した。こうして得られた組換え発現ベクター(アミノ酸置換2217位 A→S(配列番号6のアミノ酸配列を基準配列とした場合のアミノ酸置換2218位 A→Sに相当)、148位 A→T、2219位 C→S、2695位 T→I、3016位 L→P、356位 M→V、626位 V→Gを引き起こす塩基置換を有する)をpJ6/JFH-2.1 A2217S (AT/CS/TI/LP/MV/VG)と名付けた。
次に、実施例13で得られた感染系列4BのHCV RNAから逆転写して作製した1687位 I→V、1767位K→Rの変異を引き起こす塩基置換を含むcDNAを鋳型として、Phusion High-Fidelity DNA Polymeraseキット(FINNZYMES社)に添付されていた、10×緩衝液を10μl、2mM dNTP混合液を4μl、10μMのプライマー4593S-2a(5’-CTGTGGCATACTACAGAGG-3’(配列番号70))及び5970R-2a(5’-TTCTCGCCAGACATGATCTT-3’(配列番号71))をそれぞれ1μl加え、最終的に脱イオン水を加え全量を49.5μlとした。その後Phusion DNA Polymerase(FINNZYMES社)を0.5μl加えてから、PCR反応を行った。PCR反応は、98℃で10秒、55℃で15秒、72℃で20秒からなる工程を1サイクルとして35サイクルの条件で行った。そのPCR産物を鋳型として、Phusion High-Fidelity DNA Polymeraseキット(FINNZYMES社)に添付されていた、10×緩衝液を10μl、2mM dNTP混合液を4μl、10μMのプライマー4607S-IH(5’-AGAGGGTTGGACGTCTCCATAATACCA-3’(配列番号72))及び5970R-2a(5’-TTCTCGCCAGACATGATCTT-3’(配列番号73))をそれぞれ1μl加え、最終的に脱イオン水を加え全量を49.5μlとした。その後Phusion DNA Polymerase(FINNZYMES社)を0.5μl加えてから、PCR反応を行った。PCR反応は、98℃で10秒、55℃で15秒、72℃で20秒からなる工程を1サイクルとして30サイクルの条件で行った。得られたPCR産物をpGEM-T Easyベクターに挿入した後、そのプラスミドを鋳型として、LA-Taq DNA Polymeraseキット(タカラバイオ社)に添付されていた、10×緩衝液を10μl、2mM dNTP混合液を4μl、10μMのプライマー4547S-2a(5’-AAGTGTGACGAGCTCGCGG-3’(配列番号74))及び7677R-IH(5’-TATGACATGGAGCAGCACAC-3’(配列番号75))をそれぞれ1μl加え、最終的に脱イオン水を加え全量を49.5μlとした。その後LA-Taq DNA Polymerase(タカラバイオ社)を0.5μl加えてから、PCR反応を行った。PCR反応は、95℃で30秒、60℃で30秒、72℃で3分からなる工程を1サイクルとして30サイクルの条件で行った。得られたPCR産物を鋳型として、LA-Taq DNA Polymeraseキット(タカラバイオ社)に添付されていた、10×緩衝液を10μl、2mM dNTP混合液を4μl、10μMのプライマー4607S-IH(5’-AGAGGGTTGGACGTCTCCATAATACCA-3’(配列番号76))及び7214R-NS(5’-CAGGCCGCGCCCAGGCCGGCAAGGCTGGTG-3’(配列番号77))をそれぞれ1μl加え、最終的に脱イオン水を加え全量を49.5μlとした。その後LA-Taq DNA Polymerase(タカラバイオ社)を0.5μl加えてから、PCR反応を行った。PCR反応は、95℃で30秒、60℃で30秒、72℃で2分30秒からなる工程を1サイクルとして30サイクルの条件で行い、得られたPCR産物をPCR産物no.38とした。pJ6/JFH-2.1 A2217S (AT/CS/TI/LP/MV/VG) 及び精製したPCR産物no.39を制限酵素XhoIで消化し、各HCV cDNA断片をアガロースゲル電気泳動にて分画し、精製した。これら2つのDNA断片とLigation Mix(タカラバイオ社)を混合し、2つのDNA断片を連結した。こうして得られた組換え発現ベクター(アミノ酸置換2217位 A→S(配列番号6のアミノ酸配列を基準配列とした場合のアミノ酸置換2218位 A→Sに相当)、148位 A→T、2219位 C→S、2695位 T→I、3016位 L→P、356位 M→V、626位 V→G、329位 T→S、1687位 I→V、1767位 K→Rを引き起こす塩基置換を有する)をpJ6/JFH-2.1 A2217S (AT/CS/TI/LP/MV/VG/IV/KR)と名付けた。pJ6/JFH-2.1 A2217S (AT/CS/TI/LP/MV/VG/IV/KR)中にクローン化された変異体HCVフルゲノム配列J6/JFH-2.1 A2217S (AT/CS/TI/LP/MV/VG/IV/KR)の塩基配列を配列番号87に、その塩基配列によってコードされるHCVウイルス前駆体タンパク質のアミノ酸配列を配列番号98に示した。J6/JFH-2.1 A2217S (AT/CS/TI/LP/MV/VG/IV/KR)がコードする変異前駆体タンパク質には、感染系列4Bで見出されたアミノ酸変異の全ての種類が導入されている。
(実施例15)JFH-2.1 A2218S RNA複製細胞の継代培養による塩基配列の変異解析
実施例8で得られた感染力価の高いJFH-2.1 A2218S HCV粒子を含むHuh-7細胞(JFH-2.1 A2218S HCV RNA導入Huh-7細胞)の培養上清を新たな未感染のHuh-7にmoi 0.03で感染させた。感染させた細胞を、培養上清中のコア蛋白質量及び感染力価が1,000 fmol/L及び1,000 ffu/ml以上になるまで継代培養した。ウイルスを含む培養上清の感染と、感染細胞の継代培養を3〜4回繰り返し、培養上清に含まれるHCV RNAの配列解析を行った。感染の系列は2系列とし、各々D3及びD4と命名した。まず、感染系列D3及びD4のJFH-2.1 A2218S HCV粒子を含むHuh-7細胞培養上清からRNAを抽出し、この中に含まれるHCV RNAをRT-PCR法を利用して増幅した。この増幅には、Random Primer (6 mer、タカラバイオ社)を使用した。増幅産物はシークエンス用クローニングベクター中にクローン化し、常法により配列解析を行った。
その結果、感染系列D3では、構造領域であるE2領域で1箇所(414位 I→T)、非構造領域であるNS3領域で2箇所(1510位 E→Q、1617位 R→Q)、NS5A領域で3箇所(2006位 K→Q、2233位 A→V、2234位 N→S)、NS5B領域で1箇所(2695位 T→I)の、7箇所のアミノ酸置換を引き起こす塩基置換が見出された。また感染系列D4では、構造領域であるE2領域で1箇所(387位 V→G)、非構造領域であるNS2領域で1箇所(828位 V→A)、NS3領域で2箇所(1225位 R→Q、1283位 R→G)、NS4B領域で1箇所(1883位 V→A)、NS5A領域で3箇所(2206位 S→A、2279位 K→N、2441位 C→R)、NS5B領域で2箇所(2695位 T→I)の、9箇所のアミノ酸置換を引き起こす塩基置換が見出された。
(実施例16)変異型J6/JFH-2.1 A2217S HCV RNA導入細胞におけるHCV粒子産生能の評価
実施例14で構築した発現ベクターpJ6/JFH-2.1 A2217S、pJ6/JFH-2.1 A2217S (CS)、pJ6/JFH-2.1 A2217S (LP)、pJ6/JFH-2.1 A2217S (TI)、pJ6/JFH-2.1 A2217S (AT)、pJ6/JFH-2.1 A2217S(CS/LP)、pJ6/JFH-2.1 A2217S (CS/TI)、pJ6/JFH-2.1 A2217S (TI/LP)、pJ6/JFH-2.1 A2217S(CS/TI/LP)、pJ6/JFH-2.1 A2217S(AT/CS/TI/LP)、pJ6/JFH-2.1 A2217S (TI/MT/MK/NT/IV/SG/TA)及びpJ6/JFH-2.1 A2217S (AT/CS/TI/LP/MV/VG/IV/KR)を用いて、実施例2と同様の手法でHCVフルゲノムRNA(変異体HCVフルゲノムRNA)を作製した。得られた各HCVフルゲノムRNAを、エレクトロポレーション法によりHuh-7細胞に導入した。その後、培地(10%ウシ胎仔血清含有ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM))においてその細胞を継代培養しながら、経時的に、HCV抗原ELISAテストキット(オーソ社)を用いて培養上清中に含まれるHCV Coreタンパク質を定量することにより、HCV粒子産生の確認を行った(図12)。
その結果、J6/JFH-2.1 A2217Sゲノム配列内に独立して7箇所又は8箇所の上記アミノ酸変異を導入することで、細胞内にRNAを導入すると自律的に効率良く複製し、複製開始後の短期間のうちに培養上清にウイルスが分泌されることが示された。