デジタル放送や無線LANなどに用いるマルチキャリヤ変調方式として、例えばOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing:直交周波数分割多重)がある。OFDMでは、マルチパスに対する耐性を得るために、GI(Guard Interval:ガードインターバル)またはCP(Cyclic Prefix:サイクリックプレフィックス)と呼ばれる期間を設けている。
一方、非特許文献1において、OFDMがトランスマルチプレクサの一種であることが指摘されている。図12は、一般的なトランスマルチプレクサの構成を示すブロック図である。このトランスマルチプレクサ100は、M個のインタポレータおよびM個の送信フィルタを備えた合成バンクと、M個の受信フィルタおよびM個のデシメータを備えた分析バンクとにより構成されている。合成バンクおよび分析バンクは、チャネル(伝送路)を介して接続される。
図13は、OFDMをトランスマルチプレクサとして表現したときの構成を示すブロック図である。図13からわかるように、OFDMは、フィルタ係数が全て1であり、かつフィルタ長がサブチャネル数と一致するプロトタイプフィルタのDFT変調トランスマルチプレクサである。このことは、OFDMのパルス形成フィルタが矩形窓関数を用いていることからも明らかである。
しかし、このOFDMにおけるプロトタイプフィルタは、第1サイドローブレベルが約−13dBであり、周波数特性が劣悪である。これに対応するため、GIを用いシンボル間干渉を抑制する必要がある。非特許文献1では、より理想的な直交周波数分割多重を行うことにより、チャネルの影響を軽減できることが指摘されている。
また、DFT変調フィルタバンク(DFT変調トランスマルチプレクサの分析バンクと合成バンクが双対になって構成されたシステム)は、分析および合成のために、FFT(Fast Fourier Transform:高速フーリエ変換)対を用いることができることから、実用面で有用であることが知られている。
非特許文献2には、DFT変調フィルタバンクにおいて、デシメーションを2段階にして修正を行うことにより、擬似的に完全再構成条件を満足することが記載されている。すなわち、出力信号が入力信号の時間遅れの定数倍とほぼ等しくなることが記載されている。
図14は、修正DFT変調合成バンクの構成を示すブロック図であり、図15は、修正DFT変調分析バンクの構成を示すブロック図である。図14において、修正DFT変調合成バンク101は、M個のサブチャネル信号を入力し、サブチャネル信号の実部成分および虚部成分を抽出してそれぞれ第1段階目のインタポレーションを行い、遅延させた実部成分と虚部成分とを合成する。そして、その合成信号に対して第2段階目のインタポレーションを行ってフィルタ処理を施し、全てのサブチャネル信号を合成して等価ベースバンド信号を出力する。図15において、修正DFT変調分析バンク102は、等価ベースバンド信号を入力し、M個の等価ベースバンド信号に分岐させ、それぞれフィルタ処理を施して第1段階目のデシメーションを行い、実部成分および遅延させた虚部成分に対して第2段階目のデシメーションを行い、実部成分と虚部成分とを合成してそれぞれM個のサブチャネル信号を出力する。
図14に示した修正DFT変調合成バンク101および図15に示した修正DFT変調分析バンク102をマルチキャリヤ変調方式の観点で見ると、修正DFT変調合成バンク101が変調器となり、修正DFT変調分析バンク102が復調器となる。すなわち、送受信端でそれぞれ修正DFT変調合成バンク101および修正DFT変調分析バンク102を用いることにより、マルチキャリヤ変調方式による信号伝送を実現することができる。この場合、サブチャネル数よりも長いフィルタ長のプロトタイプフィルタを用いることができるため、より良好な周波数特性を実現することができる。しかし、送受信間のチャネルにマルチパスなどによる歪みがある場合には、チャネル等化器が必要となる。
DFT変調トランスマルチプレクサに適用可能なチャネル等化器としては、例えば特許文献1に記載のものがある。このチャネル等化器は、パイロット信号を参照信号として最適化を行うことにより、等化係数を求めるものである。データが送られている間は等化係数の最適化を行うことができないため、伝搬路に変動がある場合には、伝送特性が劣化してしまうという問題がある。この問題を改善する手法として、等化後の信号をシンボル判定し、判定値を参照信号として用いる判定指向型等化器が知られている。しかし、判定指向型等化器には伝搬路に変動がある場合の伝送特性を改善できるという利点がある一方、等化係数が最適値へ収束しなかったり、シンボル判定における誤りの軽減が困難になったりすることで、伝送特性が著しく劣化してしまうことがあるという欠点がある。
このような判定指向型等化器の欠点を補うための手法として、例えば特許文献2に記載のものがある。この手法は、信号点のうち外郭のシンボルのみを用いて、等化後の信号をシンボル判定するものである。しかし、この手法では、等化係数の更新頻度が低くなってしまう他、外郭のシンボル以外が伝送されているときに、等化係数が最適値から乖離してしまうという問題がある。また、外郭のシンボルに限定するモードから限定をしないモードへ移行する必要があり、限定モードで十分に収束しない場合にはモード移行が困難となってしまうという問題もある。
また、判定指向モードに入る前に、判定値を用いることなく等化係数を最適化する定包絡線アルゴリズムを用いる手法が特許文献3に記載されている。しかし、この手法では、定包絡線アルゴリズムを多値QAM信号に適用した場合には、定常誤差がゼロにならないという問題がある。これに対し、定包絡線アルゴリズムを多値QAM信号に適用するためのアルゴリズムが非特許文献3に記載されている。しかし、この手法も、初期状態では定包絡線アルゴリズムを用い、ある程度等化係数が収束した段階で多値レベルモードへ移行する必要がある。したがって、この手法では、定包絡線アルゴリズムにて初期引き込みを行う際に等化係数が十分に収束しない場合に、モード移行が困難となってしまうという問題がある。
この他、定包絡線アルゴリズムを用いて、等化後の信号における振幅方向の値に基づいて位相方向のシンボル判定のみを行う手法が特許文献4に記載されている。しかし、前述のとおり、定包絡線アルゴリズムを多値QAM信号に適用した場合には、定常誤差をゼロにすることができないから、この手法においてもモード移行が必要になり、初期引き込みの問題を含んでいる。
さらに、前述の特許文献2,3,4および非特許文献3に記載されている、判定指向型等化器の欠点(等化係数が最適値へ収束しなかったり、シンボル判定における誤りの軽減が困難になったりするという欠点)を補う手法は、いずれもシングルキャリヤ変調信号に対するものである。マルチキャリヤ変調信号のシンボル長は、シングルキャリヤ変調信号のそれと比較すると非常に長いから、伝搬路の変動が同じである場合、マルチキャリヤ変調信号は、シングルキャリヤ変調信号と比較してシンボル間での変動が大きくなる。したがって、シングルキャリヤ変調信号に対する手法をマルチキャリヤ変調信号にそのまま適用しても、十分な特性が得られないという問題がある。
以下、本発明を実施するための形態について図面を用いて詳細に説明する。
〔マルチキャリヤ変調信号受信装置〕
図1は、本発明の実施形態によるマルチキャリヤ変調信号受信装置の構成を示すブロック図である。このマルチキャリヤ変調信号受信装置1は、周波数変換部2、A/D変換部3、直交復調部4、分析バンク(修正DFT変調分析バンク)5、線形等化器6、等化係数算出部7、デマッピング部8およびパラレルシリアル変換部9を備えている。
周波数変換部2は、マルチキャリヤ変調信号受信装置1が受信した信号を入力し、その入力信号をIF信号に周波数変換する。周波数変換部2の出力するIF信号はA/D変換部3へ入力される。A/D変換部3は、周波数変換部2から入力されるIF信号(アナログIF信号)をデジタルIF信号にA/D変換する。A/D変換部3の出力するデジタルIF信号は直交復調部4へ入力される。直交復調部4は、A/D変換部3から入力されるデジタルIF信号を等価ベースバンド信号に直交復調する。直交復調部4の出力する等価ベースバンド信号は分析バンク5へ入力される。
分析バンク5は、直交復調部4から入力される時間領域の等価ベースバンド信号を、実質的に最大間引き率の2倍のレートで周波数領域の信号に変換し、通常の分析バンクにおける出力信号の実部成分および虚部成分の他に、通常の出力信号と対となる虚部成分および実部成分も合わせて出力する。すなわち、分析バンク5は、2系統の実部成分および2系統の虚部成分により構成される、合わせて4系統の実数信号からなる実部サブチャネル信号ベクトル、および2系統の実部成分および2系統の虚部成分により構成される、合わせて4系統の実数信号からなる虚部サブチャネル信号ベクトルをそれぞれ出力する。分析バンク5の出力する実部サブチャネル信号ベクトルおよび虚部サブチャネル信号ベクトル(以下、総称してサブチャネル信号ベクトルという。)は2分配され、一方が線形等化器6へ、他方が等化係数算出部7へ入力される。
線形等化器6は、等化係数算出部7から入力される等化係数を用いて、分析バンク5から入力されるサブチャネル信号ベクトルを線形等化する。線形等化器6の出力する等化後の複素キャリヤシンボルは2分配され、一方がデマッピング部8へ、他方が等化係数算出部7へ入力される。
等化係数算出部7は、分析バンク5から入力されるサブチャネル信号ベクトルおよび線形等化器6から入力される等化後の複素キャリヤシンボルを用いて等化係数を算出する。等化係数算出部7の出力する等化係数は線形等化器6へ入力される。
デマッピング部8は、線形等化器6から入力される等化後の複素キャリヤシンボルをデマッピングし、パラレル信号に変換する。デマッピング部8の出力するパラレル信号はパラレルシリアル変換部9へ入力される。パラレルシリアル変換部9は、デマッピング部8から入力されるパラレル信号をシリアル信号に変換する。このように、マルチキャリヤ変調信号受信装置1は、受信信号を入力して周波数変換部2からパラレルシリアル変換部9までの各種処理を行い、出力ビット列の信号を外部へ出力する。
〔分析バンク(ポリフェーズ構成)〕
次に、図1に示した分析バンク5のポリフェーズ構成について説明する。図2は、分析バンク5の構成を示すブロック図である。この分析バンク5は、遅延器21、ポリフェーズ分析バンク22−1,22−2およびサブチャネル処理部23−0〜23−(M−1)を備えている。分析バンク5は、直交復調部4から等価ベースバンド信号が入力され、サブチャネル信号ベクトル0〜M−1(実部サブチャネル信号ベクトル0〜M−1および虚部サブチャネル信号ベクトル0〜M−1)を生成して出力する。
図1に示した直交復調部4から入力される等価ベースバンド信号は2分配され、一方が遅延器21へ、他方がポリフェーズ分析バンク22−1へ入力される。遅延器21は、直交復調部4から入力される等価ベースバンド信号をM/2サンプル遅延させる。遅延器21の出力する等価ベースバンド信号はポリフェーズ分析バンク22−2へ入力される。
ポリフェーズ分析バンク22−1は、直交復調部4から入力される等価ベースバンド信号をポリフェーズ分析し、第1のサブチャネル信号0〜M−1を生成する。ポリフェーズ分析バンク22−1の出力する第1のサブチャネル信号0〜M−1はサブチャネル処理部23−0〜23−(M−1)へ入力される。
ポリフェーズ分析バンク22−2は、遅延器21から入力される等価ベースバンド信号をポリフェーズ分析し、第2のサブチャネル信号0〜M−1を生成する。ポリフェーズ分析バンク22−2の出力する第2のサブチャネル信号0〜M−1はサブチャネル処理部23−0〜23−(M−1)へ入力される。
サブチャネル処理部23−0〜23−(M−1)は、ポリフェーズ分析バンク22−1,22−2から入力されるそれぞれのサブチャネル信号0〜M−1に、サブチャネル毎の処理を行い、サブチャネル信号ベクトル0〜M−1(実部サブチャネル信号ベクトル0〜M−1および虚部サブチャネル信号ベクトル0〜M−1)、すなわち実部サブチャネル信号ベクトルkおよび虚部サブチャネル信号ベクトルk(サブチャネル信号ベクトルk)を生成して出力する。
(ポリフェーズ分析バンク)
次に、図2に示したポリフェーズ分析バンク22−1,22−2(以下、総称してポリフェーズ分析バンク22という。)について説明する。図3は、ポリフェーズ分析バンク22の構成を示すブロック図である。このポリフェーズ分析バンク22は、遅延器24−1〜24−(M−1)、デシメータ25−0〜25−(M−1)、ポリフェーズフィルタ26−0〜26−(M−1)、FFT部27および乗算部28−0〜28−(M−1)を備えている。ポリフェーズ分析バンク22は、等価ベースバンド信号を入力し、サブチャネル信号0〜M−1を生成して出力する。
ポリフェーズ分析バンク22に入力される等価ベースバンド信号は2分配され、一方が遅延器24−1へ、他方がデシメータ25−0に入力される。遅延器24−1は、入力される等価ベースバンド信号を1サンプル遅延させる。遅延器24−1の出力する等価ベースバンド信号は2分配され、一方が遅延器24−2へ、他方がデシメータ25−1へ入力される。
同様に、遅延器24−k(2≦k<M−1)は、前段の遅延器24−(k−1)から入力される等価ベースバンド信号を1サンプル遅延させる。遅延器24−kの出力する等価ベースバンド信号は2分配され、一方が後段の遅延器24−(k+1)へ、他方がデシメータ25−kへ入力される。
遅延器24−(M−1)は、前段の遅延器24−(M−2)から入力される等価ベースバンド信号を1サンプル遅延させる。遅延器24−(M−1)の出力する等価ベースバンド信号はデシメータ25−(M−1)へ入力される。
デシメータ25−k(0≦k≦M−1)は、等価ベースバンド信号を入力し、等価ベースバンド信号に対し、比Mのデシメーション処理を行う。デシメータ25−kの出力するデシメーション後の等価ベースバンド信号はポリフェーズフィルタ26−kへ入力される。
ポリフェーズフィルタ26−k(0≦k≦M−1)は、デシメータ25−kから入力されるデシメーション後の等価ベースバンド信号にポリフェーズフィルタ処理を行う。ポリフェーズフィルタ26−kの出力するポリフェーズフィルタ処理後の等価ベースバンド信号はFFT部27へ入力される。
ポリフェーズフィルタE
k(z)は、プロトタイプフィルタp(n)のType1のポリフェーズ成分であり、以下の式で表される。
ここで、Nはプロトタイプフィルタのフィルタ長を、Mはサブチャネル数を示す自然数を、kは任意のサブチャネルをそれぞれ示す。
FFT部27は、ポリフェーズフィルタ26−kから入力されるポリフェーズフィルタ処理後のそれぞれの等価ベースバンド信号をFFT処理する。FFT部27の出力するM個のサブチャネル信号はそれぞれ乗算部28−kへ入力される。
乗算部28−k(0≦k≦M−1)は、FFT部27から入力されるサブチャネル信号にjM−kを乗算する。ただしjは虚数単位である。乗算部28−kの出力するサブチャネル信号kは、図2に示したサブチャネル処理部23−kへ入力される。
このように、ポリフェーズ分析バンク22は、等価ベースバンド信号を入力し、サブチャネル信号0〜M−1を生成してサブチャネル処理部23−0〜23−(M−1)に出力する。以下、ポリフェーズ分析バンク22−1の出力するサブチャネル信号をk1とし、ポリフェーズ分析バンク22−2の出力するサブチャネル信号をk2とする。
(サブチャネル処理部)
次に、図2に示したサブチャネル処理部23−0〜23−(M−1)について説明する。図4は、サブチャネル処理部23−k(0≦k≦M−1)の構成を示すブロック図である。このサブチャネル処理部23−kは、実部抽出部29−1,29−2、虚部抽出部30−1,30−2、遅延器31−1,31−2および乗算器32−1,32−2を備えている。サブチャネル処理部23−kは、ポリフェーズ分析バンク22−1からサブチャネル信号k1を入力すると共に、ポリフェーズ分析バンク22−2からサブチャネル信号k2を入力し、8個の要素からなるサブチャネル信号ベクトルk(4個の要素からなる実部サブチャネル信号ベクトルkおよび4個の要素からなる虚部サブチャネル信号ベクトルk)を生成して出力する。
図2に示したポリフェーズ分析バンク22−2から入力されるサブチャネル信号k2は2分配され、一方が実部抽出部29−1へ、他方が虚部抽出部30−1へ入力される。図2に示したポリフェーズ分析バンク22−1から入力されるサブチャネル信号k1は2分配され、一方が実部抽出部29−2へ、他方が虚部抽出部30−2へ入力される。
実部抽出部29−1は、ポリフェーズ分析バンク22−2から入力されるサブチャネル信号k2から実部を抽出し、実数サブチャネル信号を生成する。実部抽出部29−1の出力する実数サブチャネル信号は2分配され、一方が実部サブチャネル信号ベクトルkの1要素としてサブチャネル処理部23−kから出力され、他方が遅延器31−2へ入力される。
虚部抽出部30−1は、ポリフェーズ分析バンク22−2から入力されるサブチャネル信号k2から虚部を抽出し、実数サブチャネル信号を生成する。虚部抽出部30−1の出力する実数サブチャネル信号は2分配され、一方が実部サブチャネル信号ベクトルkの1要素としてサブチャネル処理部23−kから出力され、他方が遅延器31−1へ入力される。
虚部抽出部30−2は、ポリフェーズ分析バンク22−1から入力されるサブチャネル信号k1から虚部を抽出し、実数サブチャネル信号を生成する。虚部抽出部30−2の出力する実数サブチャネル信号は2分配され、一方が実部サブチャネル信号ベクトルkの1要素として、他方が虚部サブチャネル信号ベクトルkの1要素としてサブチャネル処理部23−kから出力される。
実部抽出部29−2は、ポリフェーズ分析バンク22−1から入力されるサブチャネル信号k1から実部を抽出し、実数サブチャネル信号を生成する。実部抽出部29−2の出力する実数サブチャネル信号は2分配され、一方が実部サブチャネル信号ベクトルkの1要素としてサブチャネル処理部23−kから出力され、他方が乗算器32−1へ入力される。
乗算器32−1は、実部抽出部29−2から入力される実数サブチャネル信号に−1を乗算し、符号を反転させる。乗算器32−1の出力する、符号が反転した実数サブチャネル信号は、虚部サブチャネル信号ベクトルkの1要素としてサブチャネル処理部23−kから出力される。
遅延器31−1は、虚部抽出部30−1から入力される実数サブチャネル信号を1サンプル遅延させる。遅延器31−1の出力する実数サブチャネル信号は、虚部サブチャネル信号ベクトルkの1要素としてサブチャネル処理部23−kから出力される。
遅延器31−2は、実部抽出部29−1から入力される実数サブチャネル信号を1サンプル遅延させる。遅延器31−2の出力する実数サブチャネル信号は乗算器32−2に入力される。乗算器32−2は、遅延器31−2から入力される実数サブチャネル信号に−1を乗算し、符号を反転させる。乗算器32−2の出力する、符号が反転した実数サブチャネル信号は、虚部サブチャネル信号ベクトルkの1要素としてサブチャネル処理部23−kから出力される。
なお、実部抽出部29−1により抽出される実数サブチャネル信号を
とし、虚部抽出部30−1により抽出される実数サブチャネル信号を
とし、虚部抽出部30−2により抽出される実数サブチャネル信号を
とし、実部抽出部29−2により抽出される実数サブチャネル信号を
とすると、実部サブチャネル信号ベクトルkは、以下のようになる。
ここで、上付きのTは転置を、下付きのkはサブチャネルを、上付きのRおよびIはそれぞれ実部および虚部を、z
Mは最大間引きレートであること、すなわちサンプル間隔がシンボル長の1/Mであることを示す。
一方、虚部サブチャネル信号ベクトルkは、以下のようになる。
図2、図3および図4において、デシメータ25−0〜25−(M−1)の前段に設けられた遅延器21,24−1,24−2は、最大間引きレート(サンプル間隔がシンボル長の1/Mとなるレート)のM倍で動作する。また、デシメータ25−0〜25−(M−1)の後段に設けられたポリフェーズフィルタ26−0〜26−(M−1)、FFT部27、乗算部28−0〜28−(M−1)、実部抽出部29−1,29−2、虚部抽出部30−1,30−2、遅延器31−1,31−2および乗算器32−1,32−2は、最大間引きレートで動作する。しかし、ポリフェーズ分析バンク22−1および22−2それぞれから最大間引きレートのサブチャネル信号k1,k2が入力され、間引きが行われることなく2個の信号に分岐し、分岐した2個のサブチャネル信号に対して同じサンプリングレート(最大間引きレート)で処理が行われる。そして、実部サブチャネル信号ベクトルkおよび虚部サブチャネル信号ベクトルkが出力されるため、サブチャネル処理部23−k全体として、実質的に最大間引き率の2倍のレートで動作する。
このように、分析バンク5によれば、実部サブチャネル信号ベクトルkを生成すると共に、この実部サブチャネル信号ベクトルkに基づいて虚部サブチャネル信号ベクトルkを生成するようにした。また、式(3)に示したように、実部サブチャネル信号ベクトルkから虚部サブチャネル信号ベクトルkへの変換は、定数である変換行列により行われる。これにより、後段の線形等化器6において、実部サブチャネル信号ベクトルkおよび虚部サブチャネル信号ベクトルkに対して異なる等化係数を用いることなく、両ベクトルにそれぞれ共通の等化係数を用いて線形等化を行うことができ好適である。
〔線形等化器〕
次に、図1に示した線形等化器6について説明する。図5は、線形等化器6の構成の一部を示すブロック図である。この線形等化器6の一部は、等化器41−1,41−2、乗算部42および加算部43を備えている。図1に示した線形等化器6は、図5に示す構成をM個備えている。線形等化器6は、図1に示した分析バンク5から実部サブチャネル信号ベクトルkおよび虚部サブチャネル信号ベクトルkが入力され、サブチャネル毎に、実部サブチャネル信号ベクトルkおよび虚部サブチャネル信号ベクトルkがそれぞれ等化器41−1,41−2により等化係数を用いて等化され、複素キャリヤシンボルを出力する。
図1に示した分析バンク5の出力する実部サブチャネル信号ベクトルkは等化器41−1へ入力され、虚部サブチャネル信号ベクトルkは等化器41−2へ入力される。また、図示していないが、図1に示した等化係数算出部7の出力する等化係数は等化器41−1,41−2へ入力される。等化器41−1は、分析バンク5から入力される実部サブチャネル信号ベクトルkを、等化係数算出部7から入力される等化係数で等化し、等化器41−2は、分析バンク5から入力される虚部サブチャネル信号ベクトルkを、等化係数算出部7から入力される等化係数で等化する。等化器41−1の出力する等化後の実部サブチャネル信号k(キャリヤシンボル)は加算部43へ入力され、等化器41−2の出力する等化後の虚部サブチャネル信号k(キャリヤシンボル)は乗算部42へ入力される。
乗算部42は、等化器41−2から入力された等化後のキャリヤシンボルに1jを乗算する。乗算部42の出力する、1jが乗算された等化後のキャリヤシンボルは加算部43へ入力される。
加算部43は、等化器41−1から入力された等化後のキャリヤシンボルと、乗算部42から入力された等化後のキャリヤシンボルとを加算し、複素キャリヤシンボルを生成する。加算部43の出力する複素キャリヤシンボルは、図1に示した等化係数算出部7およびデマッピング部8へ入力される。
(等化器)
次に、図5に示した等化器41−1,41−2(以下、総称して等化器41という。)について説明する。図6は、等化器41の構成を示すブロック図である。この等化器41は、適応フィルタ44−1〜44−4および加算部45を備えている。等化器41は、分析バンク5の出力する実部サブチャネル信号ベクトルkまたは虚部サブチャネル信号ベクトルkをサブチャネル毎に、等化係数算出部7の出力する等化係数で等化し、実部サブチャネル信号k(キャリヤシンボル)または虚部サブチャネル信号k(キャリヤシンボル)を出力する。
適応フィルタ44−1〜44−4は、分析バンク5から入力される実部サブチャネル信号ベクトルkである
の要素、または虚部サブチャネル信号ベクトルkである
の要素を、図1に示した等化係数算出部7から入力される等化係数によりフィルタ処理する。適応フィルタ44−1〜44−4の出力するフィルタ処理後の実部サブチャネル信号ベクトルkの要素または虚部サブチャネル信号ベクトルkの要素は加算部45へ入力される。
加算部45は、適応フィルタ44−1〜44−4から入力されるフィルタ処理後の実部サブチャネル信号ベクトルkの要素または虚部サブチャネル信号ベクトルkの要素を加算する。加算部45の出力する等化後の実部サブチャネル信号(キャリヤシンボル)は、図5に示した加算部43へ入力される。また、加算部45の出力する等化後の虚部サブチャネル信号(キャリヤシンボル)は、図5に示した乗算部42へ入力される。
〔等化係数算出部〕
次に、図1に示した等化係数算出部7について説明する。図7は、等化係数算出部7の構成を示すブロック図である。この等化係数算出部7は、判定器11、減算器(誤差算出部)12、評価部13、領域設定部14、比較器15、等化係数最適化部16、選択部17−1,17−2および遅延部18−1,18−2を備えている。評価部13は、振幅算出部131−1,131−2、加算部132−1,132−2および除算部133を備えている。前述のとおり、等化係数算出部7は、分析バンク5から入力されるサブチャネル信号ベクトルおよび線形等化器6から入力される等化後のサブチャネル信号(複素キャリヤシンボル)を用いて等化係数を算出する。
線形等化器6から入力される等化後の複素キャリヤシンボルは2分配され、一方が判定器11へ、他方が減算器12へ入力される。判定器11は、入力した複素キャリヤシンボルをシンボル判定し、判定値を出力する。判定器11の出力する判定値は3分配され、それぞれ減算器12、評価部13の振幅算出部131−1および等化係数最適化部16へ入力される。減算器12は、判定器11から入力される判定値から等化後の複素キャリヤシンボルを減じ、誤差を出力する。減算器12の出力する誤差は評価部13の振幅算出部131−2へ入力される。
評価部13の振幅算出部131−1は、判定器11から入力される判定値の振幅を求め出力する。振幅算出部131−1の出力する判定値の振幅は加算部132−1へ入力される。加算部132−1は、振幅算出部131−1から入力される判定値の振幅を全サブキャリヤに渡って加算し出力する。加算部132−1の出力する加算結果は除算部133へ入力される。振幅算出部131−2は、減算器12から入力される誤差の振幅を求め出力する。振幅算出部131−2の出力する誤差の振幅は2分配され、一方が比較器15へ、他方が加算部132−2へ入力される。加算部132−2は、振幅算出部131−2から入力される誤差の振幅を全サブキャリヤに渡って加算し出力する。加算部132−2の出力する加算結果は除算部133へ入力される。除算部133は、加算部132−1から入力される判定値の振幅の加算結果を、加算部132−2から入力される誤差の振幅の加算結果で除算し、MER(Modulation Error Ratio:変調誤差比)を出力する。除算部133の出力する変調誤差比は領域設定部14へ入力される。すなわち、評価部13は、線形等化器6の出力する等化後の複素キャリヤシンボルに対する信号品質の評価値として、変調誤差比を領域設定部14に出力する。この場合、変調誤差比が高い場合、信号品質は良いからその評価値は大きい値となり、変調誤差比が低い場合、信号品質が悪くその評価値は小さい値となる。
なお、評価部13は、等化後の複素キャリヤシンボルに対する信号品質の評価値として変調誤差比を出力するようにしたが、本発明は、評価値を変調誤差比に限定するものではない。例えば、評価値はSN比(Signal−to−Noise Ratio:信号対雑音比)であってもよい。要するに、評価値は、等化後の複素キャリヤシンボルに対する信号品質を数値化したものであればよく、等化後の複素キャリヤシンボルの誤差が小さい場合、評価値は大きくなり、誤差が大きい場合、評価値は小さくなる。
領域設定部14は、除算部133から入力される変調誤差比に基づいて、後述する図8および図9に示すように、サブキャリヤにおける信号点座標上の判定領域を設定し、その振幅を出力する。領域設定部14の出力する判定領域の振幅は比較器15へ入力される。具体的には、領域設定部14は、評価部13の除算部133から入力される変調誤差比である評価値が小さい値の場合(信号品質が悪い場合)、広い領域になるように判定領域を設定し、評価値が大きい値の場合(信号品質が良い場合)、狭い領域になるように判定領域を設定する。比較器15は、振幅算出部131−2から入力される誤差の振幅と、領域設定部14から入力される判定領域の振幅とを比較し、誤差の振幅が判定領域の振幅よりも小さいと判定した場合、真を示すブール値を出力し、誤差の振幅が判定領域の振幅以上であると判定した場合、偽を示すブール値を出力する。比較器15の出力するブール値は2分配され、選択部17−1,17−2へ入力される。
等化係数最適化部16は、分析バンク5からサブチャネル信号ベクトル0〜(M−1)が入力信号として入力され、判定器11から判定値が参照信号として入力され、遅延部18−1から係数更新前の等化係数が入力され、さらに遅延部18−2から係数更新前の相関逆行列が入力され、等化係数および相関逆行列を更新して出力する。等化係数最適化部16の出力する更新後の等化係数は選択部17−1へ入力され、更新後の相関逆行列は選択部17−2へ入力される。
選択部17−1は、等化係数最適化部16から更新後の等化係数が入力され、遅延部18−1から更新前の等化係数が入力され、比較器15からブール値が入力され、ブール値が真を示している場合、更新後の等化係数を選択し、ブール値が偽を示している場合、更新前の等化係数を選択する。選択部17−1の出力する等化係数は2分配され、一方が図1に示した線形等化器6へ、他方が遅延部18−1へ入力される。
選択部17−2は、等化係数最適化部16から更新後の相関逆行列が入力され、遅延部18−2から更新前の相関逆行列が入力され、比較器15からブール値が入力され、ブール値が真を示している場合、更新後の相関逆行列を選択し、ブール値が偽を示している場合、更新前の相関逆行列を選択する。選択部17−2の出力する相関逆行列は遅延部18−2へ入力される。
図8は、図7に示した領域設定部14が設定する判定領域を示す図であり、キャリヤ変調が64QAMの場合を例として示したものである。サブキャリヤであるキャリヤシンボルのIQ軸信号点座標上において、信号点を黒丸で、判定領域を白抜きで示している。通常の判定領域は、図8の右側に示すように、信号点を中心とした正方形の領域である。しかし、例えば、等化後のキャリヤシンボルが通常の判定領域の四隅付近に位置する場合には、そのキャリヤシンボルは、隣接する信号点が伝送されたものであるとも考えられ、判定器11により出力される判定値は、参照信号としての信頼性が乏しいといえる。したがって、マルチキャリヤ変調信号受信装置1では、等化後のキャリヤシンボルが、図8に示す斜線の領域に存在する場合、すなわち白抜きの判定領域の外側に存在する場合、等化係数算出部7において、シンボル判定の結果である参照信号は信頼性が乏しいとして、等化係数を更新しないこととした。一方、マルチキャリヤ変調信号受信装置1は、等化後のキャリヤシンボルが、図8に示す白抜きの判定領域の内側に存在する場合、等化係数算出部7において、参照信号は信頼性が高いとして、等化係数を更新することとした。
例えば、等化後のキャリヤシンボルが判定領域の外側に存在する場合(図8のα)、比較器15は、等化後のキャリヤシンボル(α)における誤差の振幅が判定領域の振幅以上であると判定し、偽を示すブール値を選択部17−1,17−2に出力する。そして、選択部17−1,17−2は、比較器15から入力するブール値が偽を示しているから、更新前の等化係数、相関逆行列をそれぞれ選択する。これにより、更新前の等化係数(前回と同じ等化係数)が等化係数算出部7から線形等化器6へ入力される。一方、等化後のキャリヤシンボルが判定領域の内側に存在する場合(図8のβ)、比較器15は、等化後のキャリヤシンボル(β)における誤差の振幅が判定領域の振幅よりも小さいと判定し、真を示すブール値を選択部17−1,17−2に出力する。そして、選択部17−1,17−2は、比較器15から入力するブール値が真を示しているから、更新後の等化係数、相関逆行列をそれぞれ選択する。これにより、更新された等化係数が等化係数算出部7から線形等化器6へ入力される。
前述の特許文献2と本発明の実施形態とを比較すると、前述の特許文献2に記載されている手法では、外郭の4個または12個の信号点を含む正方形の領域全体を判定領域としているのに対し、本発明の実施形態によるマルチキャリヤ変調信号受信装置1では、全ての信号点に対する正方形の領域において円形の判定領域を設定している点で相違する。これにより、全ての信号点に判定領域を設定するマルチキャリヤ変調信号受信装置1では、外郭の信号点のみに判定領域を設定する特許文献2の手法に比べ、等化係数の更新頻度を高めることができると共に、信頼性の高い判定値(参照信号)を用いて等化係数の更新を行うことができる。
図9は、評価部13により算出される変調誤差比と領域設定部14により設定される判定領域の大きさ(振幅)との関係を示す図である。図9に示すように、領域設定部14は、評価部13により算出された変調誤差比が第1の閾値(a1)よりも低い場合、判定領域の振幅が上限値(b1)になるように判定領域を設定し、変調誤差比が第1の閾値(a1)以上であり、かつ第2の閾値(a2)以下である場合、判定領域の振幅が変調誤差比に反比例するように判定領域を設定し、変調誤差比が第2の閾値(a2)よりも高い場合、判定領域の振幅が下限値(b2)になるように判定領域を設定する。
図10は、所定の信号点における等化後の複素キャリヤシンボルの度数分布を示す図である。横軸は信号点位置を示し、縦軸は度数を示す。図10(1)に示すように、等化後の複素キャリヤシンボルの信号品質が悪い場合、その度数分布は広範囲となり、信号点の基準位置を示す基準点を中心とした緩やかな特性となる。この場合、領域設定部14は、図9に示すように、判定領域の振幅が上限値(b1)になるように判定領域を設定する。また、図10(2)に示すように、等化後の複素キャリヤシンボルの信号品質が良い場合、その度数分布は狭範囲となり、信号点の基準位置を示す基準点を中心とした急峻な特性となる。この場合、領域設定部14は、図9に示すように、判定領域の振幅が下限値(b2)になるように判定領域を設定する。ここで、図10(1)に示す振幅b1の判定領域を示す斜線部の面積と、図10(2)に示す振幅b2の判定領域を示す斜線部の面積は同程度である。つまり、等化後の複素キャリヤシンボルの信号品質に応じてその度数分布の特性が変わり、信号品質が悪い場合は、緩やかな特性になって判定領域の振幅は大きくなり、信号品質が良い場合は、急峻な特性になって判定領域の振幅は小さくなる。
このように、動作開始時などのように等化後の信号品質が悪いときは、すなわち変調誤差比が低いときは、図9および図10(1)に示すように、領域設定部14は、判定領域の大きさを上限値(b1)に設定し、判定領域をある程度広くする。ここで、設定する判定領域は、信号点間のノルムよりも十分小さくする必要がある。これにより、信頼性の高い判定値のみを用いて等化係数の更新を行うことができる。また、信号品質が悪いときに判定領域を広げることにより、判定器11においてシンボル判定誤りが軽減困難となることを避けることができる。これは、信号品質が悪いときに、判定領域を狭めると、信頼性のある参照信号を用いて等化係数を更新することができる一方で、等化係数が更新される頻度が低くなり、等化係数の最適化がなされず、判定器11におけるシンボル判定誤りを軽減することが困難となり、減算器12の出力する等化後の複素キャリヤシンボルの誤差が収束しなくなるからである。したがって、信号品質が悪いときに判定領域をある程度広げることにより、等化係数の更新頻度を高くし、判定器11におけるシンボル判定誤りを軽減し、減算器12の出力する等化後の複素キャリヤシンボルの誤差を収束させるようにする。
等化係数の収束が進み、等化後の信号品質が良くなると、すなわち変調誤差比が高くなると、図9に示すように、領域設定部14は、判定領域を狭めていく。ここで、信号品質を全サブキャリヤの等化後の信号を用いて算出することにより、特定のサブキャリヤの等化係数の最適化においてシンボル判定誤りが軽減困難となることを避けることができる。さらに、等化係数が十分に収束し、等化後の信号品質が良い場合には、図9および図10(2)に示すように、領域設定部14は、判定領域の大きさを下限値(b2)に設定する。ここで、判定領域に下限値を設けることにより、十分に収束した等化係数が最適値から乖離してしまうことを避けることができる。
(評価部)
次に、図7に示した評価部13について説明する。評価部13は、等化後の複素キャリヤシンボルをY
k、シンボル判定後の判定値をZ
kとすると、以下の式により変調誤差比MERを求める。
ここで、Kは全サブキャリヤ数を示す。
変調誤差比MERは、全サブキャリヤの等化後の信号品質を定量的に評価することができる他、特定のサブキャリヤの等化係数が収束していなくても、全サブキャリヤの信号品質を総合的に評価することができる。これに対し、キャリヤ毎に変調誤差比MERを算出した場合には、信号品質の評価精度が十分でなくなり、キャリヤ毎に判定領域を適切に設定することが困難になり、結果として、適切な参照信号を求めることができなくなる。このため、前記式(4)に示した全サブキャリヤのデータを用いて求めた変調誤差比MERは信号品質の評価精度がより高く、領域設定部14により判定領域を設定するために用いる評価値として好適である。また、マルチキャリヤ変調信号のサブキャリヤ毎の等化係数を最適化する等化係数最適化部16において、特定のサブキャリヤが収束しないで誤り率特性に劣化をもたらすという状況を避けることができる。
(等化係数最適化部)
次に、図7に示した等化係数最適化部16について説明する。等化係数最適化部16による等化係数最適化処理は、公知手法が用いられる。ここでは、収束特性に優れたRLS(Recursive Least Squares)アルゴリズムを例に説明する。
等化係数最適化部16は、時刻nにおける等化係数をw(n)、入力信号の相関逆行列をP(n)とすると、以下の式により初期化処理を行う。
ここで、Iは単位行列を示す。
等化係数最適化部16は、入力信号ベクトルをu(n)とし、更新後の等化係数を
、更新後の相関逆行列を
とすると、以下の式により等化係数および相関逆行列を更新する。
ここで、λは、忘却係数と呼ばれる適応係数を示す。
ここで、ξ(n)は、減算器12の出力する誤差を示し、d(n)は、判定器11から減算器12へ入力される判定値を示し、
は、線形等化器6の出力する等化後の複素キャリヤシンボルの値を示す。
ここで、k(n)はゲインベクトルを、Tri{・}は対角要素を対称軸とする対称行列化演算子を示す。
(選択部)
次に、図7に示した選択部17−1,17−2について説明する。選択部17−1は、前述のとおり、比較器15から入力されるブール値が真を示している場合、等化係数最適化部16から入力される更新後の等化係数を選択し、ブール値が偽を示している場合、遅延部18−1から入力される更新前(単位更新時間前)の等化係数を選択する。また、選択部17−2は、前述のとおり、比較器15から入力されるブール値が真を示している場合、等化係数最適化部16から入力される更新後の相関逆行列を選択し、ブール値が偽を示している場合、遅延部18−2から入力される更新前(単位更新時間前)の相関逆行列を選択する。すなわち、等化係数および相関逆行列は、比較器15による比較結果であるブール値が真の場合のみ更新され、偽の場合は更新前(単位更新時間前)の値が保持される。選択部17−1は、以下の式(13)により等化係数w(n)を選択し、選択部17−2は、以下の式(14)により相関逆行列P(n)を選択する。
〔シミュレーション結果〕
次に、計算機シミュレーションにより求めた結果について説明する。図11は、計算機シミュレーションにより求めた伝搬路に変動がある場合のBER特性の例を示す図である。(1)は、従来のマルチキャリヤ変調信号装置のBER特性を示しており、(2)は、本発明の実施形態によるマルチキャリヤ変調信号受信装置1のBER特性を示している。また、伝搬路において、マルチパスのD/Uは10dB、遅延時間は150μs、変動周波数は1Hzとし、分割数Mは1024、シンボル長は126μs、クロック周波数は8.127MHzとする。縦軸は変調誤差比BERであり、横軸はC/N(dB)を示している。図11から、従来のマルチキャリヤ変調信号受信装置では、C/Nが高い場合に、所要BER(2×10−2)が得られるのに対し、本発明の実施形態によるマルチキャリヤ変調信号受信装置1では、C/Nが24dB程度で所要BERが得られることがわかる。
以上のように、本発明の実施形態によるマルチキャリヤ変調信号受信装置1によれば、実質的に最大間引き率の2倍のレートで動作し、サブチャネル信号ベクトルを生成する修正DFT変調分析バンクである分析バンク5、等化係数算出部7からの等化係数を用いて、分析バンク5からのサブチャネル信号ベクトルを線形等化する線形等化器6、および、分析バンク5からのサブチャネル信号ベクトルおよび線形等化器6からの等化後のサブチャネル信号を用いて等化係数を算出する等化係数算出部7を備え、等化係数算出部7が、等化後の複素キャリヤシンボルにおける全サブキャリヤの信号品質が悪いときに(変調誤差比が低いときに)広い範囲の判定領域を設定し、信号品質が良いときに(変調誤差比が高いときに)狭い範囲の判定領域を設定し、等化後の複素キャリヤシンボルの信号が判定領域内にある場合にのみ、判定器11の出力する判定値は正しいものであるとし、その正しい参照信号を用いて等化係数を最適化するようにした。これにより、判定指向型等化器である線形等化器6において軽減困難なシンボル判定誤りを克服することができる。したがって、GI等の冗長な情報を伝送することなく、マルチパスに対する耐性を得ることができると共に、伝搬路の変動に対する耐性も得ることができる。