機械的に可動する可動部を有する各種装置や機器などでは、当該可動部が加振源となって振動を生じる。当該振動は、騒音や各構成部材の疲労強度劣化などの要因となる。そこで、このような振動を抑制する種々の制振材が開発されている。例えば自動車の構成部材など、機械的強度が要求されると共に、高温雰囲気に晒されるような部材には金属製の制振材が使用されることが多い。中でも、鉄合金からなる制振材は、500℃程度の高温環境でも制振性が損なわれず、且つ安価であるというメリットがある。しかも、自動車部材の使用環境は1×10−5以下の低歪振幅域、且つ1,000Hz以上の高周波数域のため、このような領域において高い制振性が必要となる。しかし、鉄合金製の制振材は歪振幅依存性が強いので、特に低歪振幅域において高い制振性を発現させることは従来では困難であった。
そこで、このような課題を解決する制振材として、例えば本出願人が先に提案した下記特許文献1がある。特許文献1の制振材は、3.0〜5.5質量%のアルミニウム(Al)と、0.2〜6.0質量%のマンガン(Mn)とを含み、残部が鉄及び不可避的不純物からなる合金に、1.0〜8.0質量%のクロム(Cr)を添加したFe−Cr−Al−Mn系合金製となっている。当該鉄合金製制振材は、溶製により鋳塊を得る造塊工程と、該造塊工程により得られた鋳塊を、鉄合金の再結晶温度以上、具体的には850〜1150℃に加熱した状態で熱間圧延する熱間圧延工程と、該熱間圧延工程後に、圧延板を鉄合金の再結晶温度以上に加熱した後に徐冷する焼鈍工程を経て製造される。さらに、熱間圧延工程と焼鈍工程の間に、室温(常温)において冷間圧延することが好ましいとされている。ここでの制振材は、1×10−6〜1×10−5の低歪振幅域、1,000〜15,000Hzの高周波数域において、制振性を指標する損失係数(η)が0.01以上の優れた制振性を有する。
一方、この種の制振材は、各種構造部材として使用するため、プレス加工により最終形状に成形加工される。したがって、この種の制振材には、優れた加工性(延性)も要求される。制振材に限らず、鉄合金の延性を向上する方法は従来から種々開発されており、現在では大きく分けて3つのパターンに分類される。1つは、加工歪を付与したり、熱処理条件を最適化したり、鉄鋼材であればチタン(Ti)を添加するなどして結晶粒を微細化する方法である。他の1つは、合金中に介在物を均一に分散させて結晶粒を微細化させる方法である。さらに他の1つは、合金の相変態を利用して結晶粒を微細化させる方法である。
このような方法を利用して延性の向上を図った技術としては、例えば下記特許文献2〜特許文献4がある。特許文献2では、炭素(C)含有量を低減しつつ、チタンやマンガンを添加することで、延性を向上している。特許文献3では、炭素やケイ素(Si)などの添加元素の添加量の調整と、熱処理条件の最適化により延性を向上している。特許文献4では、粒内炭化物の低減と熱処理条件の最適化により延性を向上している。
鉄合金製の制振材は、基本的にはアルミニウムの添加によって制振性が向上する。したがって、ある程度アルミニウムの含有量が多いことが好ましい。そこで特許文献1では、確実に制振性を向上するために少なくともアルミニウムを3.0質量%以上添加している。その一方で、アルミニウムを多量に添加すると鉄合金が脆くなるので、圧延やプレス加工などの塑性加工時に割れが生じ易くなるなど加工性(延性)が低下する。これは、鉄合金にアルミニウムを添加すると、Fe3Alからなる金属間化合物が生成するが、当該金属間化合物は延性が乏しく加工性が非常に悪いからである。そのため、特許文献1ではアルミニウム含有量の上限を5.5質量%に抑えている。しかし、アルミニウムの含有量は3.0質量%以上で依然として比較的多いので、延性の問題は解消し切れていない。また、アルミニウムと共にマンガンやクロムを添加しているが、これらの含有量範囲は比較的広く、アルミニウムとの配合バランス、特にアルミニウムとマンガンとの比率については特に注目されていない。
また、特許文献1の制振材は鉄をベースとする組成からなるので、磁壁(磁界の境界)の移動により振動を吸収する強磁性型の制振メカニズムであると考えられる。この場合、常温における集合組織の配向性、特に磁化容易軸の配向性が制振性に大きく影響する。しかしながら、特許文献1では単に鉄合金の再結晶温度以上の850〜1150℃で熱間圧延しているだけであり、磁化容易軸の配向性については特に着目しておらず、この点における制振性の向上は図れていない。
一方、特許文献2〜特許文献4では延性の向上が図られているが、これらはいずれも炭素を含有する低炭素鋼に関するものであり、炭素レスのFe−Cr−Al−Mn系合金においても同じように延性を向上できるものではない。しかも、特許文献2〜特許文献4では延性について着目しているのみであり、制振性の向上については着目していない。そもそも炭素を含有する鉄鋼材料であるため、優れた制振性は見込めない。
そこで、本発明者らは上記課題に鑑みて鋭意検討の結果、Fe−Cr−Al−Mn系合金において、アルミニウムの含有量をできるだけ低減させながら、全体的な配合バランス、特にアルミニウムとマンガンとの比率を適切な範囲に調整したうえで、従来行われていた熱間圧延の処理条件を改良することで、優れた制振性を維持しながら延性にも富む制振材とすることができることを知見し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は上記課題を解決するものであって、低歪振幅域、高周波数域において制振性に優れると共に、加工性、特に延性にも富むFe−Cr−Al−Mn系合金からなる制振材の製造方法を提供することを目的とする。
そのための手段として本発明は、Fe−Cr−Al−Mn系の鉄合金製制振材の製造方法であって、前記鉄合金は、3.0〜8.0質量%のクロム(Cr)と、0.4〜1.0質量%のアルミニウム(Al)と、Alに対する質量比(Mn/Al)が0.75〜1.5のマンガン(Mn)とを含み、残部が鉄(Fe)及び不可避的不純物からなる。当然、各金属元素の含有量は合計で100質量%となる。そのうえで、当該組成の鉄合金からなる制振材は、鋳塊を得る造塊工程と、前記造塊工程により得られた鋳塊を1200〜1300℃に加熱した状態で熱間圧延し、その仕上げ温度を800℃以上とする熱間圧延工程と、前記熱間圧延工程後に、前記鉄合金の再結晶温度以上に加熱した後に空冷又は加熱炉内において1〜10℃/分の冷却速度で徐冷する焼鈍工程と、を含むことを特徴とする。なお、本発明において数値範囲を示す「○○〜××」とは、当該下限の数値(○○)及び上限の数値(××)を含む概念である。すなわち、正確に表現すれば、「○○以上××以下」となる。
これによれば、アルミニウムの含有量をできるだけ抑える一方、アルミニウムとマンガンとの配合比率を適切な範囲に調整することで、延性に富む制振材を得ることができる。しかし、その反面、アルミニウムによる制振性の向上効果も制限される。そこで、熱間圧延工程を、従来の処理温度よりも高い1200〜1300℃に加熱した状態で行い、且つその仕上げ温度を800℃以上とすることで、アルミニウムの含有量が本発明よりも多い特許文献1の制振材と同程度に優れた制振性を維持することができる。
その理由(原理)は必ずしも明確ではないが、次の理由が考えられる。まず、制振性は、振動エネルギーが制振材内部で部分的に吸収されるなどして低下し、振動の伝達が阻害される現象である。このとき吸収された振動エネルギーは、主として熱エネルギーに変換されて外部に放出される。このような振動エネルギーの低減メカニズム(制振メカニズム)としては、磁壁(磁界の境界)の移動により振動を吸収する強磁性型、金属結晶の転移の運動により振動を吸収する転位型、マルテンサイト変態などによって生成した双晶の運動により振動を吸収する双晶型、鉄などのマトリクスと黒鉛などの柔らかい分散粒子との界面近傍の粘性流動により振動を吸収する複合型がある。本発明の制振材は、これらの中でも、鉄をベースとする上記組成からして強磁性型が主となると考えられる。
そのうえで、1200〜1300℃に加熱した状態での圧延は、面心立方(fcc)構造を持つオーステナイト(γ相)が生成する温度範囲で熱間圧延することになる。これにより、室温(常温)における集合組織の配合が、主にND,RD,TD//{100}の立方配向となる。このとき、磁化容易軸//<100>であるため、磁化容易軸//ND,TD,RDとなって、主な振動方向であるxyz方向に対して効率良く磁壁が移動することができるため、制振性が向上する。その際、熱間圧延工程の仕上げ温度を800℃以上としていれば、上記作用効果を確実に得ることができる。また、最終工程として焼鈍工程を行えば、それまでの処理工程において導入された加工歪や転位が除去ないし低減されることで、より延性を向上することができる。
前記熱間圧延工程では、1パス当たりの圧下率{(加工後の厚さの変化分/加工前の厚さ)×100}を25〜40%とし、且つ最終的な合計圧下率を80〜90%とすることが好ましい。これにより、制振材の欠損等を避けながら、優れた制振性を有し且つ延性にも富む制振材を確実に得ることができる。
さらに、前記熱間圧延工程と焼鈍工程との間において、室温にて圧延する冷間圧延、又は200〜400℃に加熱した状態で温間圧延する、二次圧延工程を経ることが好ましい。これにより、最終的な製品(各種構造部材)への成形に有利となる。中でも、二次圧延工程を温間圧延とすれば、制振性の向上にも有利である。
この場合、前記二次圧延工程における最終的な合計圧下率は、20〜70%とすることが好ましい。これにより、制振材の欠損等を避けながら、優れた制振性を有し且つ延性にも富む制振材を確実に得ることができる。
上記製造方法によって得られた鉄合金製制振材は、1×10−6〜1×10−5の低歪振幅域、1,000〜10,000Hzの高周波数域において、制振性(振動減衰能)を指標する損失係数(η)が0.01以上となる。因みに、振動減衰能を示す指標として、本発明における損失係数(η)の他に、対数減衰率(δ)や比減衰能(W)がある。これらは相互に関係があり、δ=πη、W=2πηという関係式が成り立つ。
本発明によれば、アルミニウムの含有量を従来よりも低減する一方で、熱間圧延工程における処理温度を改良することで、低歪振幅域、高周波数域において制振性に優れると共に、加工性、特に延性にも富むFe−Cr−Al−Mn系合金からなる制振材を得ることができる。
以下に、本発明の実施の形態について具体的に説明する。先ず、本発明の制振材を構成する鉄合金について説明する。本発明の制振材は、Fe−Cr−Al−Mn系の鉄合金からなる。すなわち本発明の制振材は、主成分である鉄(Fe)に、添加元素としてクロム(Cr)、アルミニウム(Al)、及びマンガン(Mn)を特定のバランスで配合(添加)している。
クロムは磁気特性の高い元素であり、アルミニウム及びマンガンと共存することで制振性を飛躍的に向上する。本発明の制振材は、鉄をベースとしてクロムを含有することで、主として磁壁(磁界の境界)の移動により振動を吸収する強磁性型の制振材となる。当該クロムの含有量は、鉄合金(制振材)の全量基準で3.0〜8.0質量%、好ましくは4.0〜6.0質量%とする。クロムの含有量が3.0質量%未満では、磁気特性の向上効果が小さく優れた制振性が得られない。一方、クロムの含有量が8.0質量%を超えると、例えば750℃以上に加熱しても鉄合金中にオーステナイト(γ)相が生成せずフェライト(α)相が安定化する。そのため、熱間圧延時の高温環境下においてα相が粗大化することで、加工性、特に延性が低下してしまう。
アルミニウムは、制振性及び軟磁気特性の向上に有効である一方、鉄合金のα相を安定化させる元素である。当該アルミニウムの含有量は、従来の鉄合金製制振材よりも少量で足りる。後述のように、その他の添加元素との配合バランスと、特殊な条件の熱間圧延工程を経ることで、アルミニウムの含有量が従来より少量でも優れた制振性を担保することができるからである。具体的には、アルミニウムの含有量を、鉄合金の全量基準で0.4〜1.0質量%、好ましくは0.6〜0.9質量%とする。アルミニウムの含有量が0.4質量%未満では、優れた制振性が得られない。一方、アルミニウムの含有量が1.0質量%を超えると、α相が粗大化して延性が低下してしまう。
マンガンは鉄合金のγ相安定化元素として知られており、室温(常温)ではα相の他にCr2FeMn化合物からなるσ相が生成され、高温ではγ相が安定化する。これにより、アルミニウムに起因するα相の粗大化を抑制しながら鉄合金の凝固組織が微細化されて延性が向上する。このとき、凝固組織の微細化には金属組織に占めるα相とγ相tの面積比が影響する。したがって、アルミニウムの含有量が同じ鉄合金であっても、マンガンの含有量によって制振性が異なってくる。そこで、マンガンの含有量は、アルミニウムの含有量に対して質量比(Mn/Al)で0.75〜1.5、好ましくは1.0〜1.3とする。マンガンのアルミニウムに対する含有比率をこのようなバランスとしていることで、優れた制振性と加工性とを両立させることができる。すなわち、マンガンの含有量が多過
ぎると、鉄合金中の磁壁を移動し難くして振動の吸収能(減衰能)が低下する。一方、マンガンの含有量が少な過ぎると、延性が低下する。
なお、鉄合金中には、クロム、アルミニウム、マンガンの他に、極微量の不可避的不純物も含んでいる。当該不可避的不純物としては、元々各原料中に含まれている不純物や各処理工程時に混入する不純物もあり、コスト的又は技術的な理由等により除去困難な元素である。具体的には、炭素(C)、リン(P)、硫黄(S)などが挙げられる。
また、鉄合金には、本発明の作用効果を阻害しない範囲において、強度、靭性、高温安定性など、制振性や延性以外の特性の改善に有効なその他の改質元素をさらに添加することもできる。当該改質元素としては、例えば銅(Cu)やニッケル(Ni)などが挙げられる。
次に、上記鉄合金からなる制振材の製造方法について説明する。本発明の制振材は、少なくとも、上記配合バランスで各添加元素を含む鉄合金からなる鋳塊(インゴット)を得る造塊工程と、該造塊工程により得られた鋳塊を所定の条件で熱間圧延する熱間圧延工程と、該熱間圧延工程後の焼鈍工程とを経て製造される。
鋳塊は、代表的にはその名のごとく公知の方法でインゴット形状に鋳造溶製することができるが、溶製以外にも反応焼結により製造することもできる。溶製であれば、緻密で安定した品質の鋳塊を安価に得られる点で好ましい。なお、酸化物等の介在によって鉄合金の制振性や加工性が低下し得るので、不活性ガス雰囲気又は真空雰囲気下において溶製や焼結を行うことが好ましい。
鋳塊における結晶粒径はできるだけ小さいことが好ましい。結晶粒が微細であるほど延性に富むからである。したがって、鋳塊における結晶粒の平均粒径は200μm以下が好ましく、より好ましくは150μm以下である。その一方で、結晶粒径が大きい方が制振性には有利である。したがって、鋳塊における結晶粒の平均粒径は50μm以上が好ましく、より好ましくは100μm以上である。
熱間圧延工程は、鉄合金中において面心立方構造をもつγ相が生成する温度範囲で圧延により塑性加工を施す工程である。具体的には、1200〜1300℃に予熱した状態で圧延する。予熱時間は、0.75〜1時間程度でよい。熱間圧延工程をこのような温度範囲で行うことで、制振材の室温(常温)における集合組織の配向が立方配向となることで制振性が向上する。また、熱間圧延工程における仕上げ温度は少なくとも800℃以上とし、好ましくは900℃以上とする。当該仕上げ温度が800℃未満となると、面心立方構造をもつγ相が的確に生成されず、制振性が低下してしまう。
鋳塊は、圧延時の応力負荷により結晶粒が微細化すると共に、振動エネルギーを吸収する磁壁の移動性や転位密度が増加する。したがって、高温に加熱した状態で行う熱間圧延工程においては、できるだけ圧下率を大きくすることが好ましい。具体的には、最終的な圧下率{(加工前の厚さ−加工後の厚さ/加工前の厚さ)×100}を80〜90%とすることが好ましい。最終的な圧下率が80%未満では、結晶粒の微細化や、磁壁の移動性及び転位密度の増大が充分でなく、制振性や延性低下につながる。また、1パス当たりの圧下率は25〜40%とすることが好ましく、30〜40%とすることがより好ましい。1パス当りの圧下率が大きすぎると、1パス毎に導入される加工歪が過大となり、欠損や延性低下の要因となる。一方、1パス当りの圧下率が小さくても技術的な問題はないが、生産性が低下する。
焼鈍工程は、鉄合金の再結晶温度以上に加熱した後に徐冷する工程である。これにより、それまでの処理工程において導入された加工歪や転位が除去ないし低減されて組織が軟化することで、より延性を向上することができる。焼鈍工程における加熱温度は、少なくとも750℃以上とし、好ましくは800〜1200℃、より好ましくは850〜1100℃である。焼鈍工程では、このような加熱温度に0.5〜2時間程度保持した後に、徐冷すればよい。徐冷は、空冷又は加熱炉内における炉冷すればよい。その冷却速度としては、1〜10℃/分、好ましくは3〜6℃/分とすればよい。
本発明の制振材は、少なくとも上記工程を経ることで得ることができるが、必要に応じて、熱間圧延工程と焼鈍工程との間において二次圧延工程を経ることが好ましい。二次圧延工程は、鉄合金の再結晶温度未満の温度範囲において圧延により塑性加工を施す工程である。このような条件を満たす二次圧延としては、従来から一般的に行われている室温にて圧延する冷間圧延の他、所定温度に加熱した状態で圧延する温間圧延も挙げられる。当該二次圧延工程を経ることで、最終的な製品(各種構造部材)の形状に近づけることができ、最終的な製品形状へのプレス加工等において製品の欠損防止やコスト削減などに有利となる。但し、冷間圧延工程では、鉄合金(制振材)中に加工方向に伸びるファイバー状の組織が生成し、これにより制振性が低下するおそれがある。したがって、二次圧延工程は、温間圧延とすることが好ましい。
温間圧延は、予め200〜400℃に加熱した状態、すなわち200〜400℃に予熱した状態で圧延する。予熱時間は0.5〜1時間程度でよい。これにより、制振性低下の要因となり得るファイバー状組織の生成を避けながら、二次圧延することができる。予熱温度が200℃未満では、上記作用効果を充分に得られ難い。一方、予熱温度が400℃を超えると、酸化膜の生成による表面荒れなどの問題が生じる。
二次圧延工程における最終的な合計圧下率は20〜70%とすることが好ましい。二次圧延工程における最終的な合計圧下率が20%未満では、二次圧延を行うメッリットが小さく、工程が増す分の手間の方が大きくなるので好ましくない。一方、二次圧延工程における最終的な合計圧下率が70%を超えると、圧下率が大き過ぎて素材自体が割れてしまうという問題が生じる。そのため、最終的な合計圧下率は、20〜50%がより好ましく、20〜40%がさらに好ましい。また、1パス当りの圧下率は5〜25%が好ましく、より好ましくは10〜20%である。1パス当りの圧下率が大きすぎると、1パス毎に導入される加工歪が過大となり、欠損や延性低下の要因となる。一方、1パス当りの圧下率が小さくても技術的な問題はないが、生産性が低下する。
このような処理工程を経て得られた制振材は、優れた制振性を有すると共に、加工性(延性)に富む。特に、低歪振幅域、高周波数域において制振性に優れる。具体的には、1×10−6〜1×10−5の低歪振幅域、1,000〜10,000Hzの高周波数域において、制振性を指標する損失係数(η)が0.01以上である。また、耐熱性(高温安定性)にも優れており、500℃以下の使用環境であれば安定した制振性を有する。さらに、鉄を主体成分とするので、本来的に良好な剛性、機械的強度、靭性等も有する。このような特性を有する本発明の制振材は、機械的に可動する可動部を有する各種装置や機器用の制振材として広く使用することができる。中でも、1×10−5以下の低歪振幅域、且つ1,000Hz以上の高周波数域の使用環境に晒される自動車の構造部材用として好適である。さらには、優れた高温安定性により、内燃機関の構造部材用として特に好適である。
当該制振材の形状は特に制限されず、求められる最終製品(各種構造部材)形状への加工容易性に応じて、板状、バルク状、棒状などとすることができる。得られた制振材は、曲げ加工、深絞り加工、打ち抜き加工、半抜き加工などのプレス加工や、鍛造、更なる圧延などによって、各種構造部材として最終形状に加工される。なお、最終形状への加工は、室温において冷間加工する。
以下に、本発明の実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、これに限られることはない。
表1に示す組成で配合した純鉄、純クロム、純アルミニウム、純マンガンをアルミナ製坩堝に入れ、高周波真空溶解炉にて溶解した。溶解は、0.1〜0.5torr(13.322から66.661Pa)まで真空脱気した後、100torr(13332.2Pa)までアルゴンガスを導入した雰囲気で行った。溶解温度は1530℃とし、一度の溶解で5kgの溶湯を調製した。得られた鉄合金溶湯を、アルゴンガス雰囲気下で鋳鉄製の鋳型へ注湯し自然冷却により凝固させることで、実施例及び比較例用のφ70mm×130mmの円柱形の鋳塊を得た。
次に、得られた各鋳塊を表1に示す温度に1時間予熱した後、表1に示す圧下率及び仕上げ温度で熱間圧延した。続いて、実施例2及び比較例4においては、表1に示す圧下率で冷間圧延した。最後に、加熱炉内で850℃に1時間保持したあとに室温まで空冷し、10mm×160mm×3mmの板状の各実施例及び比較例の試験片を得た。
上記のようにして得られた各実施例及び比較例の試験片について、制振性の指標となる損失係数(η)と、引張試験により延性の指標となるr値及び破断伸びを求めた。その結果を表2に示す。なお、r値は、圧延方向に対して0°、すなわち圧延方向と平行な方向における値である。
なお、損失係数(η)は、中央加振法により測定した。具体的には、各試験片の中央を三角治具で支持して、その三角治具に所定の振動を付与し、試験片に伝達された振動の周波数を測定する方法である。ここでは、周波数1,000〜10,000Hz(ランダムノイズ)、歪振幅は5.5×10−6とした。周波数を変化させて上記周波数域内における周波数応答関数を求め、その周波数応答関数から半値幅法により損失係数を算出した。
r値はJIS Z 2241「金属材料引張試験方法」に準じた引張試験によって求めた。なお、r値は、幅方向の対数歪みεwと、板厚の対数歪みεtとの比で表され、r=εw/εtの関係式によって求められる。したがって、r値の高い材料は板厚の歪みよりも幅方向の歪みの方が大きいことを示している。すなわち、r値の高い部材は板面内方向での材料流動が板厚方向のそれよりも起こりやすいことを示し、プレス加工性等の延性に富むことを意味する。このr値は結晶方位の影響を強く受け、一般的に板面に垂直(板厚方向)に{111}方位粒が多くあるほど高い値を示す。破断伸びは、JISG 0567に準じて25℃において試験を行った。
表2の結果において、比較例1では、アルミニウムに対してマンガンの含有量が少なすぎるため、制振性は高いが延性が大きく低下していた。一方、比較例2では、アルミニウムに対してマンガンの含有量が多すぎるため、延性は高いが制振性が大きく低下していた。また、比較例3では、アルミニウムとマンガンとの配合バランスは良いが、アルミニウムの含有量自体が多いため、制振性は高いが延性が低下していた。さらに、比較例4では、熱間圧延工程における温度条件が低いため、延性は良好であるが、制振性が大きく低下していた。
これに対し実施例1,2では、各添加元素の配合バランス、特にアルミニウムに対するマンガンの比、及び熱間圧延工程における温度条件が好適であるため、優れた制振性を有すると共に、延性にも富む結果となっていた。特に、実施例2では熱間圧延後に冷間圧延も行っているが、配合バランスや処理条件が好適に設定されていることで、制振性及び延性の大幅は低下は見られなかった。