JP5644863B2 - イオンガイド及び質量分析装置 - Google Patents

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Description

本発明は、イオンを収束させつつ輸送するためのイオンガイド、及び、該イオンガイドを用いた質量分析装置に関する。
質量分析装置では、前段から送られて来るイオンを収束し、場合によっては加速して後段の例えば四重極マスフィルタ等の質量分析器に送り込むためにイオンガイドと呼ばれるイオン光学素子が用いられる。イオンガイドの一般的な構成は、4本或いは8本の円柱(又は円筒)状ロッド電極をイオン光軸を取り囲むように互いに平行に配置した多重極型の構成である。通常、四重極型又は八重極型のイオンガイドでは、イオン光軸を挟んで対向するロッド電極に同一の高周波電圧が印加され、これと周方向に隣接するロッド電極には先の高周波電圧と振幅が同一で位相が反転された高周波電圧が印加される。このように印加される高周波電圧によりロッド電極で囲まれる空間に高周波電場が形成され、イオンはこの高周波電場中で振動しつつ後段に輸送される。
特許文献1に記載のイオンガイドでは、ロッド電極の代わりに、イオン光軸方向に並べられた複数枚の電極板からなる仮想ロッド電極が用いられている。この構成では、イオン光軸方向に電位勾配を有する直流電場を形成することにより、イオンの収束性が良好であるという多重極型イオンガイドの利点を生かしつつ、イオンを加速したり逆に減速させたりすることも可能である。
前述したようにイオンガイドは、主としてイオン源で生成された各種イオンを質量分析器に輸送するために用いられるが、一般的に、イオンガイドには試料由来のイオンだけでなくイオン源でイオン化されなかった試料分子などの中性粒子も導入される。こうした中性粒子が質量分析器まで到達すると、測定ノイズの要因となるほか、質量分析器の汚染の原因ともなる。そこで、イオンガイドを通過する途中で中性粒子を除去するために、従来、湾曲状のロッド電極を用いた湾曲型イオンガイドが用いられている(特許文献2、3など参照)。
図8は湾曲型イオンガイドの一例の概略斜視図である。図示するように、このイオンガイド2は4本の湾曲状ロッド電極201、202、203、204を備え、試料由来のイオンは高周波電場の影響によりイオンガイド2の形状に沿って曲がりながら進む一方、電荷を持たない中性粒子は高周波電場の影響を受けないためイオンガイド2内部を直進し、途中でイオンガイド2の外側に排出されてしまったり湾曲状ロッド電極201〜204に接触してしまったりして除去される。
イオンガイド2に導入されるイオンは或る程度大きな運動エネルギを有しているため、高周波電場のみによってイオンを収束させつつ湾曲状経路に沿って曲げることは実際には難しい。そこで、特許文献3に記載の湾曲型イオンガイドでは、ロッド電極自体を湾曲形状とするだけでなく、湾曲状ロッド電極、又は湾曲状ロッド電極とは別に補助的に設けた電極に偏向用の直流電圧を印加することにより、イオンを湾曲状経路の内方(図8中の矢印Rの方向)に曲げるような力を作用させる直流電場を湾曲状ロッド電極で囲まれる空間に形成している。
図9及び図10は、特許文献3における湾曲状ロッド電極及び補助電極とそれら電極に電圧を印加する回路ブロックの構成図である。図9は補助電極を設けない構成であり、図中の白抜矢印はこの湾曲型イオンガイド2の湾曲状経路の内方(円弧の一部である湾曲状中心軸の半径方向且つ内周方向)を示している。電圧源501〜504は、4本の湾曲状ロッド電極201〜204のうちの対向する2本の湾曲状ロッド電極202、204には高周波電圧VRFを印加し、他の2本の湾曲状ロッド電極201、203には振幅が同一で極性が逆である高周波電圧−VRFを印加する。これにより、湾曲状ロッド電極201〜204で囲まれる空間には、上述したようにイオンを振動させつつ収束させる高周波電場が形成される。これに加えて、電圧源501〜504は、湾曲状経路内方側に位置する2本の湾曲状ロッド電極201、202には分析対象であるイオン(この例では正イオン)と逆極性である直流電圧−VDEFを印加し、湾曲状経路外方側に位置する2本の湾曲状ロッド電極203、204には分析対象であるイオンと同極性である直流電圧VDEFを印加している。これにより、湾曲状ロッド電極201〜204で囲まれる空間にはイオンを湾曲状経路の内方、つまり図中の白抜き矢印の方向へと誘引する直流電場が形成される。
図10は補助電極205、206を設けた構成であり、電圧源511、512は、4本の湾曲状ロッド電極201〜204のうちの対向する2本の湾曲状ロッド電極202、204に高周波電圧VRFを印加し、他の2本の湾曲状ロッド電極201、203に振幅が同一で極性が逆である高周波電圧−VRFを印加する。また、電圧源514は湾曲状経路内方側に位置する補助電極205に分析対象であるイオンと逆極性の直流電圧−VDEFを印加し、電圧源513は湾曲状経路外方側に位置する補助電極206に分析対象であるイオンと同極性の直流電圧VDEFを印加する。これにより、図9の構成と同様に、湾曲状ロッド電極201〜204で囲まれる空間に、イオンを収束させる高周波電場に重畳した状態で、イオンを湾曲状経路の内方へと誘引する直流電場が形成されることになる。
上述のように湾曲状ロッド電極又は補助電極に適当な偏向用直流電圧を印加することにより、イオンガイド2の湾曲状経路に沿ってイオンを曲げながら出口端まで導き、イオン通過効率を向上させることができる。しかしながら、こうした従来の構成では次のような問題がある。
即ち、上記のようにイオンガイド2内の空間においてその半径方向に作用する直流電場は、特定の運動エネルギ範囲内のイオンを透過させるエネルギフィルタとして機能する。そのため、イオンガイド2に導入されたイオンの運動エネルギのばらつきが相対的に大きいと、イオンの通過効率が低下してしまう。それを避けるためには、イオンガイド2に導入するイオンの運動エネルギを比較的大きくすることでエネルギばらつきを相対的に小さくする必要がある。特許文献3に記載のイオンガイドでは、100eVというかなり大きな運動エネルギを持つイオンについて、偏向用直流電場の有無に対するイオン透過率の差異が検討されている。しかしながら、本願発明者の検討によれば、このように大きな運動エネルギをイオンに与えて湾曲型イオンガイドに導入した場合、高周波電場だけでは十分にイオンを収束させることが難しくなり、それがイオンの通過効率を下げる一因となる。
特開2000−149865号公報 特許第3542918号公報 米国特許出願公開2009/0294663号明細書
本発明は上記課題を解決するために成されたものであり、湾曲型イオンガイドにおいて、導入されるイオンの運動エネルギが大きい場合であってもイオンの収束性を向上させ、高いイオン通過効率を達成することを目的としている。また、本発明に係る質量分析装置の目的は、イオン通過効率を改善した湾曲型イオンガイドを用いることで、検出感度の向上を図ることである。
上記課題を解決するために成された第1発明は、イオンを収束させつつ湾曲状経路に沿って輸送するイオンガイドにおいて、
a)湾曲状中心軸を取り囲むように配置された2n(nは2以上の整数)本の湾曲状ロッド電極と、
b)前記2n本の湾曲状ロッド電極にそれぞれ電圧を印加する電圧発生手段であって、該2n本の湾曲状ロッド電極の中で周方向に隣接する任意の2本の湾曲状ロッド電極に互いに極性が逆である高周波電圧を印加し、該2n本の湾曲状ロッド電極で囲まれる空間内のイオンを前記湾曲中心軸に直交する面内で該湾曲状中心軸の曲がりの内側方向に誘引するように、少なくとも1本の湾曲状ロッド電極に前記高周波電圧に加えて偏向用直流電圧を印加し、さらに、前記2n本の湾曲状ロッド電極で囲まれる空間内のイオンを前記湾曲状中心軸に直交する面内で前記偏向用直流電圧によるイオンの誘引方向と直交又は斜交する線上で両側からそれぞれ湾曲中心軸に向かって押すように、該偏向用直流電圧が印加されている湾曲状ロッド電極を除き、少なくとも湾曲状中心軸を挟んで対向する2本の湾曲状ロッド電極に前記高周波電圧に加えて収束用直流電圧を印加する電圧発生手段と、
を備えることを特徴としている。
第1発明において2以上の整数であるnには原理的な上限はないが、実用的にはnは2〜4程度の範囲、つまり湾曲状ロッド電極は四重極、六重極又は八重極の構成であることが好ましい。
第1発明に係るイオンガイドの一態様は、nが2である四重極型の構成であり、湾曲状中心軸を挟んで対向する2本の湾曲状ロッド電極の中心は前記湾曲状中心軸が載る平面上に位置し、他の2本の湾曲状ロッド電極の中心は前記平面に直交し且つ前記湾曲状中心軸を含む湾曲状曲面上に位置するように、4本の湾曲状ロッド電極が配置され、前記電圧発生手段は、中心が前記平面上に位置する2本の湾曲状ロッド電極の一方又は両方に偏向用直流電圧を印加し、他の2本の湾曲状ロッド電極には分析対象のイオンと同極性である収束用直流電圧を印加する構成とすることができる。
第1発明に係るイオンガイドによれば、2n本の湾曲状ロッド電極で囲まれる空間に導入されたイオンには高周波電場による収束作用に加えて、収束用直流電圧が印加された湾曲状ロッド電極により形成される直流電場により、イオンが徐々に曲がる半径方向と直交又は斜交する方向について該イオンを湾曲状中心軸付近に圧縮するような力が作用する。このため、或る程度大きな運動エネルギを有して導入されたイオンが偏向用直流電場の作用で湾曲状に進む場合でも、イオンの拡がりが抑えられ、高い効率でイオンガイド出口端に到達する。これにより、高いイオン通過効率を実現することができる。
また第1発明に係るイオンガイドの別の態様では、前記湾曲状ロッド電極はそれぞれ、湾曲状中心軸に沿って並べられた複数の電極板からなる仮想的湾曲状ロッド電極であり、前記電圧発生手段は前記収束用直流電圧として、1本の仮想的湾曲状ロッド電極を構成する複数の電極板に対し1枚毎交互に、分析対象のイオンと同極性である電圧と逆極性である電圧とを印加する構成とすることができる。
この構成では、イオンが湾曲状経路を進む際に、収束用直流電圧による直流電場は、仮想的湾曲状ロッド電極の電極板1枚おきにイオンを収束させる作用を有する。これにより、複数枚のイオンレンズを直列的に連ねた効果が得られ、イオンを効率良く輸送することができる。
また上記課題を解決するために成された第2発明は、イオンを収束させつつ湾曲状経路に沿って輸送するイオンガイドにおいて、
a)湾曲状中心軸を取り囲み、且つ該湾曲状中心軸が載る平面上に位置しないように配置された2n(nは2以上の整数)本の湾曲状ロッド電極と、
b)前記湾曲状中心軸が載る平面上で且つ周方向に隣接する湾曲状ロッド電極の間に配置された湾曲状である偏向用補助電極と、
c)前記平面に直交又は斜交し且つ前記湾曲状中心軸を含む湾曲状曲面上で且つ周方向に隣接する湾曲状ロッド電極の間に配置された湾曲状である収束用補助電極と、
d)前記2n本の湾曲状ロッド電極の中で周方向に隣接する任意の2本の湾曲状ロッド電極に互いに極性が逆である高周波電圧を印加する主電圧発生手段と、
e)前記2n本の湾曲状ロッド電極で囲まれる空間内のイオンを前記湾曲中心軸に直交する面内で該湾曲状中心軸の曲がりの内側方向に誘引するように、前記偏向用補助電極に偏向用直流電圧を印加する一方、前記2n本の湾曲状ロッド電極で囲まれる空間内のイオンを前記湾曲状中心軸に直交する面内で前記偏向用直流電圧によるイオンの誘引方向と直交又は斜交する線上で両側からそれぞれ湾曲中心軸に向かって押すように、前記収束用補助電極に収束用直流電圧を印加する補助電圧発生手段と、
を備えることを特徴としている。
第2発明においても第1発明と同様に2以上の整数であるnには原理的な上限はないが、実用的にはnは2〜4の範囲、つまり湾曲状ロッド電極は四重極、六重極又は八重極の構成であることが好ましい。
第2発明に係るイオンガイドの一態様は、nが2である四重極型の構成であり、前記偏向用補助電極は湾曲状中心軸を挟んで対向して2つ配設され、収束用補助電極は前記平面に直交する湾曲状曲面上で且つ湾曲状中心軸を挟んで対向して2つ配設され、前記補助電圧発生手段は、その2つの偏向用補助電極のうちの湾曲内方側の補助電極に分析対象のイオンと逆極性の、湾曲外方側の補助電極には分析対象のイオンと同極性の偏向用直流電圧を印加し、また2つの収束用補助電極にはいずれも分析対象のイオンと同極性である収束用直流電圧を印加する構成とすることができる。
第2発明に係るイオンガイドによれば、2n本の湾曲状ロッド電極で囲まれる空間に導入されたイオンには高周波電場による収束作用に加えて、収束用直流電圧が印加された収束用補助電極により形成される直流電場により、イオンが徐々に曲がる半径方向と直交又は斜交する方向について該イオンを湾曲状中心軸付近に圧縮するような力が作用する。このため、或る程度大きな運動エネルギを有して導入されたイオンが偏向用直流電場の作用で湾曲状に進む場合でも、イオンの拡がりが抑えられ、高い効率でイオンガイド出口端に到達する。これにより、高いイオン通過効率を実現することができる。
なお、収束用補助電極には収束用直流電圧のほかに、高周波電場の作用を強めるべく高周波電圧を重畳して印加するようにしてもよい。
また上記課題を解決するために成された第3発明に係る質量分析装置は、第1又は第2発明に係るイオンガイドをイオン源と質量分析器との間に配設したことを特徴としている。
この構成によれば、イオン源で生成されたイオンを効率良く質量分析器まで輸送することができる一方、分析には不必要で装置の汚染や測定ノイズの原因ともなる中性粒子を質量分析器に達する前に除去することができる。
第1、第2発明に係るイオンガイドによれば、従来の湾曲型イオンガイドに比べてイオンをより収束させた状態で湾曲状経路に沿って輸送することができるので、高いイオン通過効率を達成することができる。また、第1、第2発明に係るイオンガイドを用いた第3発明に係る質量分析装置によれば、従来の湾曲型イオンガイドを用いた場合に比べて質量分析に供されるイオンの量が増加するので、分析感度、分析精度を向上させることができる。
本発明の一実施例(第1実施例)であるイオンガイドの概略構成図。 第1実施例であるイオンガイドの湾曲状ロッド電極の斜視図。 第1実施例であるイオンガイドを用いた質量分析装置の概略構成図。 本発明の別の実施例(第2実施例)であるイオンガイドの概略構成図。 従来のイオンガイドと第2実施例のイオンガイドとにおける直流電場を比較する模式図。 本発明の別の実施例(第3実施例)であるイオンガイドの概略構成図。 本発明の別の実施例(第4実施例)であるイオンガイドの概略構成図。 湾曲型イオンガイドの湾曲状ロッド電極の斜視図。 従来の湾曲型イオンガイドにおける電極構成と電圧源の回路構成とを示す図。 従来の湾曲型イオンガイドにおける電極構成と電圧源の回路構成とを示す図。
以下、本発明に係るイオンガイドと該イオンガイドを備えた質量分析装置とについて、実施例を挙げて説明する。
[第1実施例]
図1は第1実施例による湾曲型イオンガイドの概略構成図、図2は第1実施例による湾曲型イオンガイドの湾曲状ロッド電極の概略斜視図、図3はこの湾曲型イオンガイドを備える質量分析装置の概略構成図である。
図3に示すように、この質量分析装置において、イオン化部(イオン源)1から出射された試料由来のイオンは、軌道を略90°曲げる湾曲型イオンガイド2に導入され、そのイオンガイド2の湾曲状中心軸Oに沿って進行方向を徐々に曲げつつ進んでイオンガイド2の出口端から出射する。イオン化部1からイオンとともにイオンガイド2に導入された試料分子などの中性粒子はイオンガイド2内部の電場の影響を受けずに直進し、イオンとは分離されて除外される。イオンガイド2の出口端から出射されたイオンは四重極マスフィルタ等の質量分析器3に導入され、ここで質量電荷比に応じて分離されて検出器4に到達する。
イオンガイド2は図2に示すように、湾曲状中心軸Oを取り囲むように配置された4本の湾曲状ロッド電極211〜214を備える。このうちの2本の湾曲状ロッド電極212、214は、円弧の一部である湾曲状中心軸Oが載る平面(図3では紙面に相当)P上にその中心が位置している。また、他の2本の湾曲状ロッド電極211、213は平面Pに直交し且つ湾曲状中心軸Oを含む曲面上にその中心が位置している。図1に示す湾曲状ロッド電極211〜214は、図2中の湾曲状ロッド電極211〜214を湾曲状中心軸Oに直交する面で切断した状態の端面である。
図1に示すように、電圧源522、523は、4本の湾曲状ロッド電極211〜214のうちの対向する2本の湾曲状ロッド電極212、214に高周波電圧VRFに所定の直流バイアス電圧VBIASを重畳した電圧を印加し、電圧源521は、他の2本の湾曲状ロッド電極211、213に高周波電圧VRFと振幅が同一で極性が逆である高周波電圧−VRFに所定の直流バイアス電圧VBIASを重畳した電圧を印加する。直流バイアス電圧VBIASは全ての湾曲状ロッド電極211〜214に共通に印加される電圧であり、この直流バイアス電圧VBIAS自体はイオンガイド2の内部に直流電場を形成しない。なお、図9、図10の例は直流バイアス電圧VBIAS=0である。上記のように、湾曲状ロッド電極211〜214に印加される高周波電圧VRF、−VRFにより、イオンガイド2の内部には、イオンを振動させつつ収束させる高周波電場が形成される。これは従来と同じである。
電圧源522は、湾曲状経路内方側に位置する湾曲状ロッド電極212に分析対象であるイオン(この例では正イオン)と逆極性である直流電圧−VDCxを偏向用直流電圧として印加する。湾曲状中心軸Oを挟んで対向する湾曲状ロッド電極214には偏向用直流電圧が印加されていないが、これは0Vの偏向用直流電圧が印加されていると捉えることができる。これにより、イオンガイド2の内部にはイオンを湾曲状経路の内方、つまり図1中の白抜き矢印の方向へと誘引する直流電場が形成される。この直流電場の作用も従来と同じである。
さらに、このイオンガイド2において電圧源52は、湾曲状中心軸Oを挟んで対向する2本の湾曲状ロッド電極211、213に分析対象であるイオンと同極性である直流電圧DCyを収束用直流電圧として印加する。この収束用直流電圧の印加により湾曲状ロッド電極211、213の近傍に形成される直流電場(収束用直流電場)は、イオンガイド2内部にあるイオンをそれぞれ湾曲状ロッド電極211、213から離すように作用する。即ち、図1中の太線矢印に示すように、イオンは2本の湾曲状ロッド電極211、213付近から湾曲状中心軸O方向に向かう力を受けるため、イオンは外周側に拡がりにくく湾曲状中心軸O付近に収束しつつ、上記の偏向用直流電場の作用により進行に伴って曲げられる。本実施例のイオンガイド2では、高周波電場に加えて収束用直流電場の作用により、イオンの拡がりを抑え、湾曲状中心軸Oに沿ってイオンを効率よく出口端まで輸送することができる。
[第2実施例]
図4は第2実施例による湾曲型イオンガイドの概略構成図である。この第2実施例では、4本の湾曲状ロッド電極201〜204は第1実施例のような構造・配置ではなく、図8〜図10に示した従来例と同じ構造・配置である。即ち、4本の湾曲状ロッド電極201〜24はいずれも、湾曲状中心軸Oが載る平面P上、及び、該平面Pに直交し且つ湾曲状中心軸Oを含む曲面上に位置していない。また、図10に示した従来例と同様に、湾曲状中心軸Oが載る平面P上には該湾曲状中心軸Oを挟んで対向して一対の偏向用補助電極205、206が配設されている。さらに、平面Pに直交し且つ湾曲状中心軸Oを含む曲面上には該湾曲状中心軸Oを挟んで対向して一対の収束用補助電極207、208が配設されている。この収束用補助電極207、208は断面矩形状で、湾曲状中心軸Oに平行な湾曲形状に延伸する形状である。
図4に示すように、電圧源531は、4本の湾曲状ロッド電極201〜204のうちの対向する2本の湾曲状ロッド電極21、23に高周波電圧VRFに所定の直流バイアス電圧VBIASを重畳した電圧を印加し、電圧源532は、他の2本の湾曲状ロッド電極22、24に高周波電圧VRFと振幅が同一で極性が逆である高周波電圧−VRFに所定の直流バイアス電圧VBIASを重畳した電圧を印加する。これにより、イオンガイド2の内部には、イオンを振動させつつ収束させる高周波電場が形成される。
電圧源533は、湾曲状経路外方側に位置する偏向用補助電極206に分析対象であるイオンと同極性である直流電圧 DEF を偏向用直流電圧として印加し、電圧源534は、湾曲状経路内方側に位置する偏向用補助電極205に分析対象であるイオンと逆極性である直流電圧−V DEF を偏向用直流電圧として印加する。これにより、イオンガイド2の内部にはイオンを湾曲状経路の内方、つまり図4中の白抜き矢印の方向へと誘引する直流電場が形成される。
さらに、このイオンガイド2において電圧源535は、湾曲状中心軸Oを挟んで対向する収束用補助電極207、208に分析対象であるイオンと同極性である直流電圧DCyを収束用直流電圧として印加する。この収束用直流電圧の印加により収束用補助電極207、208の近傍に形成される直流電場は、イオンガイド2内部にあるイオンをそれぞれ湾曲状ロッド電極201〜204から離すように作用する。
図5は湾曲状中心軸Oに直交する面内での直流電場による等電位線を模式的に示す図であり、(a)は図10の従来例に対応する模式図、(b)が図3に示した第2実施例に対応する模式図である。図5(a)に示すように、従来の構成では、湾曲状ロッド電極201〜204で囲まれる空間内の等電位線はほぼ直線的になっており、イオンは湾曲状中心軸Oの内方側に向かう力を受けるだけである。これに対し、図5(b)に示すように、第2実施例の構成では、湾曲状ロッド電極201〜204で囲まれる空間内の等電位線が中央で左方(湾曲状中心軸Oの外方)に凸となる湾曲状になっており、これによりイオンは湾曲状中心軸O付近から内方側へと向かう力と収束用補助電極207、208近傍から湾曲状中心軸Oへと向かう力とを合成した力を受ける。これにより、イオンは外周側に拡がりにくく湾曲状中心軸O付近に収束しつつ、上記の偏向用直流電場の作用により進行に伴って湾曲状中心軸Oの湾曲に沿って曲げられる。その結果、イオンは高い効率で出口端まで到達する。
なお、収束用補助電極207、208には収束用直流電圧のみならず、これに重畳して高周波電場の形成を補助するために高周波電圧を印加してもよい。
[第3実施例]
図6は第3実施例による湾曲型イオンガイドの概略構成図である。この第3実施例によるイオンガイドは8本の湾曲状ロッド電極221〜228を備える八重極型の構成であり、第1実施例に示した四重極型のイオンガイドにおいて周方向に隣接する湾曲状ロッド電極の間に、さらに1本ずつ湾曲状ロッド電極が追加された構成となっている。電圧源541、544は周方向に隣接しない(つまり1本おきの)4本の湾曲状ロッド電極221、223、225、227に高周波電圧VRFに所定の直流バイアス電圧VBIASを重畳した電圧を印加し、電圧源542、543、545は、他の4本の湾曲状ロッド電極222、224、226、228に高周波電圧VRFと振幅が同一で極性が逆である高周波電圧−VRFに所定の直流バイアス電圧VBIASを重畳した電圧を印加する。イオンガイド2の内部には、イオンを振動させつつ収束させる高周波電場が形成される。
電圧源541、542は、湾曲状経路内方側に位置する3本の湾曲状ロッド電極221、222、223に分析対象であるイオンと逆極性である直流電圧−VDEFを偏向用直流電圧として印加し、電圧源534は、湾曲状経路外方側に位置する3本の湾曲状ロッド電極225、226、227に分析対象であるイオンと同極性である直流電圧VDEFを偏向用直流電圧として印加する。これにより、イオンガイド2の内部にはイオンを湾曲状経路の内方、つまり図6中の白抜き矢印の方向へと誘引する直流電場が形成される。なお、湾曲状ロッド電極222、226のみに偏向用直流電圧を印加してもよい。
さらに、電圧源543は、湾曲状中心軸Oを挟んで対向する2本の湾曲状ロッド電極224、228に分析対象であるイオンと同極性である直流電圧DCyを収束用直流電圧として印加する。この収束用直流電圧の印加により湾曲状ロッド電極224、228の近傍に形成される直流電場は、イオンガイド2内部にあるイオンをそれぞれ湾曲状ロッド電極224、228から湾曲状中心軸Oに向かって押すように作用する。これにより、上記実施例と同様に、イオンはその拡がりが抑えられつつ湾曲状中心軸Oに沿って曲げられる。
[第4実施例]
図7は第4実施例による湾曲型イオンガイドの概略構成図である。この第4実施例によるイオンガイドは第1実施例と同様に補助電極を使用しない四重極型の構成であるが、各湾曲状ロッド電極に代えて仮想的湾曲状ロッド電極が用いられている。即ち、1本の仮想的湾曲状ロッド電極は、湾曲状中心軸Oに沿って互いに分離された複数枚(図7(b)の例では6枚だが、この枚数は任意である)の電極板(例えば231a〜231f)から構成され、こうした仮想的湾曲状ロッド電極が湾曲状中心軸Oの周りに90°の回転角度離して4本配設されている。なお、図7(a)では1本の仮想的湾曲状ロッド電極を構成する複数枚の電極板を直線的に配置しているが、実際には湾曲状中心軸Oの曲がりに沿ってずらして配置されることになる。また、図7(b)は図7(a)に示した仮想的湾曲状ロッド電極を、湾曲状中心軸Oが載る平面に直交し且つ湾曲状中心軸Oを含む曲面で切断したときの端面を示す図であり、そのため湾曲状中心軸Oは直線状に延伸している。
電圧源553、554は湾曲状中心軸Oを挟んで対向する2本の仮想的湾曲状ロッド電極に含まれる電極板232a、232b、…、234a、234b、…、に高周波電圧VRFに所定の直流バイアス電圧VBIASを重畳した電圧を印加し、電圧源551は他の2本の仮想的湾曲状ロッド電極に含まれる電極板231a、231b、…、233a、233b、…、に高周波電圧VRFと振幅が同一で極性が逆である高周波電圧−VRFに所定の直流バイアス電圧VBIASを重畳した電圧を印加する。これにより、イオンガイド2の内部には、イオンを振動させつつ収束させる高周波電場が形成される。
電圧源553は、湾曲状経路内方側に位置する仮想的湾曲状ロッド電極に含まれる電極板232a、232b、…に分析対象であるイオンと逆極性である直流電圧−VDCxを偏向用直流電圧として印加する。これは、第1実施例と同様であり、これにより、イオンガイド2の内部にはイオンを湾曲状経路の内方、つまり図7(a)中の白抜き矢印の方向へと誘引する直流電場が形成される。
さらに、電圧源551は、湾曲状中心軸Oを挟んで対向する2本の仮想的湾曲状ロッド電極に含まれる電極板のうち、最も手前に位置する電極板231a、233aから1枚おき(231c、233c、231e、233e)に、分析対象であるイオンと同極性である直流電圧VDCaltを収束用直流電圧として印加する。また、電圧源552は、湾曲状中心軸Oを挟んで対向する2本の仮想的湾曲状ロッド電極に含まれる電極板のうち、手前から2番目に位置する電極板231b、233bから1枚おき(231d、233d、231f、233f)に、分析対象であるイオンと逆極性である直流電圧−VDCaltを収束用直流電圧として印加する。これにより、直流電圧VDCaltが印加された電極板231a、233a、231c、233c、231e、233eで囲まれる空間をイオンが通過する際には、イオンは外方から湾曲状中心軸O方向に押され、凸イオンレンズの機能を果たす。一方、直流電圧−VDCaltが印加された電極板231b、233b、231d、233d、231f、233fで囲まれる空間をイオンが通過する際には、イオンは湾曲状中心軸O方向から外方に押され、凹イオンレンズの機能を果たす。このようにイオンが進行するに伴い、収束、非収束が繰り返されるので、これによってイオンは効率良く輸送されていって出口端に到達する。
以上のように、本発明に係る第1乃至第4実施例のイオンガイドはいずれも、収束用直流電場の作用によりイオンの拡がりを抑えつつイオンを湾曲状中心軸Oに沿って曲げながら輸送するので、従来の湾曲型イオンガイドと比較して高いイオン通過効率を達成することができる。
なお、本発明に係るイオンガイドは、図3に示したように、イオン化部と質量分析器との間に配設されるだけでなく、質量分析装置においてイオンを収束させつつ後段に輸送することが必要な様々な部位で使用することができる。例えば、三連四重極型質量分析装置において、コリジョンセル内に配設されるイオンガイドとして上記湾曲型イオンガイドを用いることもできる。さらにまた、本発明に係るイオンガイドは質量分析装置のみならず、イオンを扱う様々な機器、装置において用いることができる。
また、上記実施例はいずれも一例にすぎず、本発明の趣旨の範囲で適宜変形、修正、追加を行っても、本願請求の範囲に包含されることは明らかである。例えば、上記実施例に示したイオンガイドは四重極型又は八重極型であるが、六重極や十重極以上の多重極の構成としてもよい。
1…イオン化部
2…イオンガイド
2…湾曲型イオンガイド
201〜204、211〜214、221〜228…湾曲状ロッド電極
205、206…偏向用補助電極
207、208…収束用補助電極
231a〜231f、232a〜232c、233a〜233f、234a〜234c…電極板
3…質量分析器
4…検出器
521〜523、531〜535、541〜545、551〜554…電圧源
O…湾曲状中心軸

Claims (6)

  1. イオンを収束させつつ湾曲状経路に沿って輸送するイオンガイドにおいて、
    a)湾曲状中心軸を取り囲むように配置された2n(nは2以上の整数)本の湾曲状ロッド電極と、
    b)前記2n本の湾曲状ロッド電極にそれぞれ電圧を印加する電圧発生手段であって、該2n本の湾曲状ロッド電極の中で周方向に隣接する任意の2本の湾曲状ロッド電極に互いに極性が逆である高周波電圧を印加し、該2n本の湾曲状ロッド電極で囲まれる空間内のイオンを前記湾曲中心軸に直交する面内で該湾曲状中心軸の曲がりの内側方向に誘引するように、少なくとも1本の湾曲状ロッド電極に前記高周波電圧に加えて偏向用直流電圧を印加し、さらに、前記2n本の湾曲状ロッド電極で囲まれる空間内のイオンを前記湾曲状中心軸に直交する面内で前記偏向用直流電圧によるイオンの誘引方向と直交又は斜交する線上で両側からそれぞれ湾曲中心軸に向かって押すように、該偏向用直流電圧が印加されている湾曲状ロッド電極を除き、少なくとも湾曲状中心軸を挟んで対向する2本の湾曲状ロッド電極に前記高周波電圧に加えて収束用直流電圧を印加する電圧発生手段と、
    を備えることを特徴とするイオンガイド。
  2. 請求項1に記載のイオンガイドであって、
    nが2である四重極型の構成であり、湾曲状中心軸を挟んで対向する2本の湾曲状ロッド電極の中心は前記湾曲状中心軸が載る平面上に位置し、他の2本の湾曲状ロッド電極の中心は前記平面に直交し且つ前記湾曲状中心軸を含む湾曲状曲面上に位置するように、4本の湾曲状ロッド電極が配置され、
    前記電圧発生手段は、中心が前記平面上に位置する2本の湾曲状ロッド電極の一方又は両方に偏向用直流電圧を印加し、他の2本の湾曲状ロッド電極には分析対象のイオンと同極性である収束用直流電圧を印加することを特徴とするイオンガイド。
  3. 請求項1に記載のイオンガイドであって、
    前記湾曲状ロッド電極はそれぞれ、湾曲状中心軸に沿って並べられた複数の電極板からなる仮想的湾曲状ロッド電極であり、
    前記電圧発生手段は前記収束用直流電圧として、1本の仮想的湾曲状ロッド電極を構成する複数の電極板に対し1枚毎交互に、分析対象のイオンと同極性である電圧と逆極性である電圧とを印加することを特徴とするイオンガイド。
  4. イオンを収束させつつ湾曲状経路に沿って輸送するイオンガイドにおいて、
    a)湾曲状中心軸を取り囲み、且つ該湾曲状中心軸が載る平面上に位置しないように配置された2n(nは2以上の整数)本の湾曲状ロッド電極と、
    b)前記湾曲状中心軸が載る平面上で且つ周方向に隣接する湾曲状ロッド電極の間に配置された湾曲状である偏向用補助電極と、
    c)前記平面に直交又は斜交し且つ前記湾曲状中心軸を含む湾曲状曲面上で且つ周方向に隣接する湾曲状ロッド電極の間に配置された湾曲状である収束用補助電極と、
    d)前記2n本の湾曲状ロッド電極の中で周方向に隣接する任意の2本の湾曲状ロッド電極に互いに極性が逆である高周波電圧を印加する主電圧発生手段と、
    e)前記2n本の湾曲状ロッド電極で囲まれる空間内のイオンを前記湾曲中心軸に直交する面内で該湾曲状中心軸の曲がりの内側方向に誘引するように、前記偏向用補助電極に偏向用直流電圧を印加する一方、前記2n本の湾曲状ロッド電極で囲まれる空間内のイオンを前記湾曲状中心軸に直交する面内で前記偏向用直流電圧によるイオンの誘引方向と直交又は斜交する線上で両側からそれぞれ湾曲中心軸に向かって押すように、前記収束用補助電極に収束用直流電圧を印加する補助電圧発生手段と、
    を備えることを特徴とするイオンガイド。
  5. 請求項4に記載のイオンガイドであって、
    nが2である四重極型の構成であり、前記偏向用補助電極は湾曲状中心軸を挟んで対向して2つ配設され、収束用補助電極は前記平面に直交する湾曲状曲面上で且つ湾曲状中心軸を挟んで対向して2つ配設され、前記補助電圧発生手段は、その2つの偏向用補助電極のうちの湾曲内方側の補助電極に分析対象のイオンと逆極性の、湾曲外方側の補助電極には分析対象のイオンと同極性の偏向用直流電圧を印加し、また2つの収束用補助電極にはいずれも分析対象のイオンと同極性である収束用直流電圧を印加することを特徴とするイオンガイド。
  6. 請求項1〜5のいずれかに記載のイオンガイドを、イオン源と質量分析器との間に配設したことを特徴とする質量分析装置。
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