しかし従来の構成では、絶縁被覆層を融点の高いフッ素樹脂層を内層とし、融点の低いフッ素樹脂層を外層として構成し、コイル導線を巻回後に、外層を溶融固化する製造方式であるが、巻治具を含めて加熱コイルを高温槽へ入れる等の全体的な加熱を必要とするため、加熱コイル形状の安定化に時間がかかり、また製造効率を上げるには多くの巻付型を準備する必要がある等、加熱コイルとしての生産能力上の問題があった。また、巻付型に加熱コイルを含む加熱装置を組込んで、絶縁被覆層を溶融させる方式でも、絶縁被覆層が温度バラツキによって部分的にしか溶融固化できず、加熱コイル形状の安定化を図ることが困難であった。また、巻付型そのものが200℃以上の高温となるため、作業性の困難さもある。
また、絶縁被覆層の内層と外層が共にフッ素樹脂層であり、同種材料であることから、融点の高いグレード(例えばPFA:310℃)と融点の低いグレード(例えばFEP:275℃)の温度差は最大でも35℃程度が限界であった。よって、融点の低い外層を熱溶融固化させるためには、270℃程度まで加熱する必要があり、融点の高い内層にまで加熱による軟化の影響が及んで、絶縁被覆層の肉薄化を発生させ、絶縁性能を低下させる要因となっていた。
そこで本発明は、コイル導線を巻回後、短時間で効率良く全体的に安定化した形状を得ることが可能な加熱コイルおよび誘導加熱装置を提供することを第1の目的とする。
また、本発明の第2の目的は、絶縁被覆層を熱溶融固化させる時の加熱温度が内層材に及ぼす影響を極力抑えることで、絶縁被覆層としての信頼性を維持することが可能な加熱コイルおよび誘導加熱装置を提供することにある。
請求項1の発明では、巻回されたコイル導線に対して通電することにより、コイル導線の素線自身の発熱で融着層が軟化溶融し、コイル導線への通電を停止すると、融着層が再固化してコイル導線の形状が安定化する。そのため、絶縁被覆層を加熱融着させるものよりも短時間で容易に加熱コイルの形状をバラツキ無く安定化させることができる。また、コイル導線の導体自身の発熱で融着層を軟化溶融させるため、素線どうしをほぼ均一に接合できると共に、巻付型の温度上昇も少なく済み、多くの巻付型を準備しなくても、コイル導線を巻回した後に、短時間で効率良く加熱コイル全体を安定化した形状にすることができる。また、絶縁被覆層に気体抜き孔を形成したことにより、絶縁被覆層内部で膨張した空気や、蒸気による結露を気体抜き孔から絶縁被覆層外部に速やかに排出することができる。
請求項2の発明では、融着層の軟化溶融温度を絶縁被覆層の軟化溶融温度よりも低くしたことにより、コイル導線への通電による発熱で融着層のみを溶融させることが可能となり、絶縁被覆層が素線の温度上昇によって溶融し、熱的に損傷するのを防止することができる。
請求項3の発明では、コイル導線の巻付および加圧工程を繰り返すことにより、融着層のないコイル導線でもその断面を所望の形状に成型し、巻回したコイル導線の絶縁被覆層どうしを密着させることで、短時間で容易にコイル導線の形状をバラツキ無く安定化させることができる。また、加熱を必要としないため、巻付型の温度上昇もなく、多くの巻付型を準備しなくても、コイル導線を巻回した後に、短時間で効率良く加熱コイル全体を安定化した形状にすることができる。また、絶縁被覆層に気体抜き孔を形成したことにより、絶縁被覆層内部で膨張した空気や、蒸気による結露を気体抜き孔から絶縁被覆層外部に排出することができる。また、加熱コイルを塑性変形する際に余分な空気が排出されるために、コイル導体を隙間なく容易に変形できる。
請求項4の発明では、特に低電気抵抗の被加熱体を誘導加熱することを目的として、加熱コイルに40kHz以上の高周波電流を流す構成としたことにより、その表皮効果を利用して被加熱体表面の浅い部分を加熱させることができる。さらに誘導加熱装置は、加熱コイルと、この加熱コイルとの磁気結合を強化するための磁性体と、ボビンとにより構成され、形状安定化した加熱コイルを容易にボビンに取り付けることができる。
請求項5の発明では、加熱コイルのボビンへの取り付けを接着剤にて固定させたことにより、加熱コイルとボビンの機械的な結合力を向上させることができる。
請求項6の発明では、ボビンには加熱コイルの外周形状を規制するガイドを設けたことにより、加熱コイルが外周方向へずれるのを防止することができる。
請求項7の発明では、絶縁被覆層としての絶縁性能をフッ素樹脂の絶縁材で確保しつつ、ポリエステル樹脂の融着材を溶融固化させて、加熱コイルを所望のコイル形状に固着することができる。しかも、所定の径でコイル導線を縦N段と縦N+1段(Nは2以上の自然数)とで交互に繰返し巻回して形成したことによって、コイル導線どうしの磁界を介して相互に影響する近接作用が低減し、加熱コイルの高周波抵抗を下げることができる。
請求項1の発明によれば、コイル導線を巻回後、短時間で効率良く全体的に安定化した形状の加熱コイルを得ることが可能になる。また、加熱コイルを加熱する際、絶縁被覆層内部の膨張や絶縁被覆層内面の蒸気による結露を防止することができる。
請求項2の発明によれば、融着層を熱溶融固化させる時の加熱温度が絶縁被覆層に及ぼす影響を極力抑えることで、絶縁被覆層の絶縁体としての信頼性を維持することができる。
請求項3の発明によれば、コイル導線を巻回後、短時間で効率良く全体的に安定化した形状の加熱コイルを得ることが可能になる。また、絶縁被覆層内部の膨張や絶縁被覆層内面の蒸気による結露を防止することができる。また、コイル導体を塑性変形する際に余分な空気が排出され、コイル導体を隙間なく容易に変形できる。
請求項4の発明によれば、加熱コイルを高い周波数で駆動することにより、その表皮効果を利用して電気抵抗の低い被加熱体の表面の浅い部分を加熱することができる。さらに、誘導加熱装置として、加熱体との磁気結合が磁性体により強化され、また形状安定化した加熱コイルを容易にボビンに取り付けることができる。
請求項5の発明によれば、ホビンと加圧された加熱コイルの接合を強固にすることができる。
請求項6の発明によれば、加熱コイルが外周方向へずれるのを防止することができる。
請求項7の発明によれば、加熱コイルを所望のコイル形状に固着することができると共に、加熱コイルの高周波抵抗を下げることができるため、高周波数でも大電流を流して誘導加熱することができ、加熱コイル自身の発熱も小さくすることができる。
以下、添付図面を参照しながら、本発明における加熱コイルおよび誘導加熱装置の好ましい各実施例について説明する。
まず、本発明の第1実施例について、図1〜図6の添付図面を参照しながら説明する。図1は、素線1から完成状態のコイル導線5に至るまでの各部の断面図を示しており、同図において、コイル導線5の素線1は、断面が略円形をなす単線の導体2に対し、その外周に略一定の厚さの絶縁層3を設け、さらに絶縁層3の外周に略一定の厚さの融着層4を設けて構成される。そして、この素線1の外径を0.15mm以下、例えば0.05mmにして、数百〜数千本(例えば1200本)の素線1を撚り合わせてなるリッツ線6と、そのリッツ線6の外周に設けた略一定の厚さの耐熱性を有する絶縁被覆層7とにより、高周波電流を通電し得るコイル導線5を構成している。
完成状態のコイル導線5において、融着層4は絶縁被覆層7よりも軟化溶融温度が低い材料を使用して形成される。例えば、エポキシ樹脂系の材質からなる融着層4(軟化開始温度200℃以下)と、フッ素樹脂系の絶縁被覆層7(軟化開始温度220℃以上)との組み合わせで形成される。
次に、図2と図3を参照しながら、上記コイル導線5から誘導加熱コイル9を製造する方法について説明する。これらの各図において、10はコイル導線5を渦巻き状に配置させる巻治具としての巻付型で、これは巻付上型11と巻付下型12とを組み合わせて構成される。巻付上型11は、外周が略円形に形成された円板状のフランジ部13と、このフランジ部13の一側面より突出する凸部14とを備えてなり、フランジ部13の中心には、止着部材であるネジ15の軸を挿通する貫通孔17が設けられる。また巻付下型12は、巻付上型11のフランジ部13と同形をなすフランジ部18と、フランジ部14の一側面中心部より突出する筒状のスリーブ19とを備えてなり、スリーブ19には前記凸部14に係合する凹部20が形成されると共に、フランジ部18ひいてはスリーブ19の中心には、前記貫通孔17に対応する位置にねじ15の軸を螺合するねじ孔21が形成される。
そして、コイル導線5を巻回した所望形状の誘導加熱コイル9を製造するには、まず巻付上型11の凸部14を巻付下型12の凹部20に嵌め合せた状態で、フランジ部13の他側面からねじ15の軸を貫通孔17に挿通し、巻付下型12のねじ孔21に螺着することにより、スリーブ19の放射方向外側に位置して、フランジ部13,18の間に所定の隙間22を有する巻付型10を得る。この巻付型10に対して、スリーブ19の外周面に対向する内側から、フランジ部13,18の外周に向かう外側にコイル導線5を2段に巻装すると、フランジ部13,18の間に形成した隙間22に、コイル導線5が渦巻き状に配置され、その一端5Aと他端5Bが巻付型10の内周と外周からそれぞれ引き出される。
この状態で、好ましくは交流電源としての外部電源24を、コイル導線5の一端5Aと他端5Bとの間に接続して、コイル導線5に定電流を短時間通電すると、各素線1の導体2自身の持つ電気抵抗によって、導体2からジュール熱が発生し、素線1どうしでその外周に設けた融着層4が軟化溶融する。ここで、コイル導線5の一端5Aと他端5Bには、外部電源24とコイル導線5との接続を容易にするために、それぞれ接続用端子25を設けておくことが好ましい。そして、所定時間が経過して、融着層4を適度に溶融させた後、外部電源24によるコイル導線5への通電を停止し、発熱で高温になっていたコイル導線5の温度を低下させると、各導体1の融着層4が再固化し、コイル導線5の内部において、隣り合う融着層4間を連結固定する融着部26が形成され、素線1どうしが融着部26によってほぼ均一に接合される(図3)。こうして、コイル導線5の全体的な形状が安定化することで、巻付型10から外した後の渦巻き状のコイル導線5は、誘導加熱コイル9としてその形状を維持することができる。
また本実施例では、融着層4を絶縁被覆層7の軟化溶融温度より低い軟化溶融温度の材料を使用して、双方の軟化溶融温度に差をつけているため、コイル導線5の温度上昇によって融着層4のみを溶融させ、絶縁被覆層7は溶融しないようにして、コイル導線5に通電し融着層4を融着する融着通電工程において、コイル導線5の外周にある絶縁被覆層7の熱的な損傷を防止することができる。
なお、上記融着層4の溶融固化時には、融着層4の溶融と同時に絶縁被覆層7内の空気が膨張したり、絶縁被覆層7の内面が蒸気により結露したりする。また、誘導加熱コイル9の製造時だけでなく通常の使用時においても、絶縁被覆層7内で蒸気の発生や空気の膨張が生じる虞がある。そのため、好適には図4に示すように、コイル導線5には予め、絶縁被覆層7に空気や蒸気抜き用の子孔としての気体抜き孔30を略等間隔に1つ以上設けておく。それにより、絶縁被覆層7内に発生する空気や蒸気を、コイル導線5の外部に速やかに排出させることができる。
次に、本実施例の誘導加熱コイル9を備えた誘導加熱装置41の概略構成について、図5および図6を参照しながら説明する。
これらの各図において、本実施例における誘導加熱装置41は、その上部に平板状の耐熱ガラスプレート42を備え、この耐熱ガラスプレート42に載置する被加熱体43を電磁誘導加熱するために、耐熱ガラスプレート42の下部に位置して誘導コイル9を被加熱体43に対向させて設けている。誘導加熱負荷となる被加熱体43は、例えば調理物などを収容するために有底状をなし、鉄やステンレスよりも電気抵抗の低いアルミニウムや銅などの低透磁率で低電気抵抗の金属材料で形成される。また、誘導加熱装置41にはそれ以外に、加熱コイル12で発生する磁束を効率良く被加熱体43に伝える磁性体として、誘導加熱コイル9の下部に配置したフェライトコア45と、これらの誘導加熱コイル9およびフェライトコア45を所定位置に取付ける支持部材として、全体が略円形扁平状をなすボビン46がそれぞれ設けられている。ボビン46は好適には、耐熱性材料で形成される。
フェライトコア45は、略円形渦巻き状に巻回された誘導加熱コイル9と同心に、それぞれ均等に間隔を空けて放射方向に沿って複数本配置され、各々のフェライトコア45は、誘導加熱コイル9の内径より内側の箇所から立ち上がる第1の壁部51と、誘導加熱コイル9の外径より外側の箇所から立ち上がる第2の壁部52と、誘導加熱コイル9に交差して配置され、第1の壁部51と第2の壁部52との間を連結する底部53と、を含むコ字型の棒形状に形成されている。
ボビン46は、円板状の基体48にフェライトコア45の第1の壁部51が貫通する孔54と、第2の壁部52が貫通する孔55をそれぞれ形成すると共に、基体48の外周端部には、誘導加熱コイル9の外径に沿って、耐熱ガラスプレート42に向けて延びるリブ56と、フェライトコア45の底部53の外側面に沿って、リブ56の反対側に向けて延びるリブ58が形成され、さらにそれよりも基体48の内周側において、誘導加熱コイル9の内径に沿って、耐熱ガラスプレート42に向けて延びるリブ57と、フェライトコア45の底部53の内側面に沿って、リブ57の反対側に向けて延びるリブ59が形成される。そして、リブ56,57と基体48とによって区画形成された有底状の収容部61に、所定形状に安定化された誘導加熱コイル9を配置すると共に、フェライトコア45の第1の壁部51と第2の壁部52を、基体48の孔54と孔55にそれぞれ差し込んで、フェライトコア45をボビン46の底部に嵌合保持する。このときのリブ56,57は、誘導加熱コイル9の高さより僅かに長く設計されており、収容部61の上面開口を塞ぐように耐熱ガラスプレート42が装着される。また、誘導加熱装置40としてフェライトコア45を設けたことで、誘導加熱コイル9との磁気結合が強化され、さらに誘導加熱コイル9は予めその形状が安定化されているので、誘導加熱コイル9を容易にボビン46へ取付けることができる。
こうして完成した誘導加熱装置41を用いて、耐熱ガラスプレート42に載せた低電気抵抗の被加熱体43を電磁誘導加熱するには、誘導加熱コイル9に40kHz以上の高周波電流を流す。鉄やステンレスの金属負荷では、通常30kHz以上の高周波電流を誘導加熱コイル9に流せばよいが、それよりも低電気抵抗の被加熱体43では、40kHz以上の高周波電流を誘導加熱コイル9に流すことで、表皮効果を利用して被加熱体43の表面のより浅い部分を加熱させることができる。
参考として、従来の素線1’から完成状態のコイル導線5’に至るまでの各部の断面図を、図7に示す。従来の素線1’は、導体2の外周に略一定の厚さの絶縁層3を設けただけの構成で、その外周に融着層4を設けてはいない。代わりに、複数の素線1’を撚り合わせたリッツ線6’の外周に、二重の絶縁被覆層として融点の高い内側絶縁被覆層7Aと、それよりも融点の低い外側絶縁被覆層7Bを順に設けて、完成状態のコイル導線5’を得る。
図8は、従来のコイル導線5’から誘導加熱コイル9’を製造する方法を示している。ここでの巻付型10は本実施例と同じもので、その巻付型10にコイル導線5’を巻装する方法も本実施例で説明したとおりである。本実施例と異なるのは、巻付上型11と巻付下型12に外部電源24によって駆動される加熱装置28を組み込み、この加熱装置25によって誘導加熱コイル9’を外側から加熱して、外側絶縁被覆層7Bを溶融させる、という点である。この場合、外部電源24から加熱装置28への通電を停止すると、外側絶縁被覆層7Bが再固化して、隣り合う外側絶縁被覆層7B間を連結固定する融着部29が形成される。しかし、この従来の製造方法では、コイル導線5’の加熱装置25に近い部分ほど加熱による温度上昇が大きく、逆に加熱装置25から離れた部分ほど加熱による温度上昇が少ないために、巻付型10を含めて誘導加熱コイル9’を高温槽へ入れる等の全体的な加熱を行わない限り、温度ムラが生じて外側絶縁被覆層7Bを均一に再固化できない。
これに対して、本実施例で得られる加熱コイルとしての誘導加熱コイル9は、請求項1に対応して、コイル導線5が導体2の周囲に絶縁層3と融着層4を設けた複数本の素線1を撚り合わせてなり、その外周に絶縁被覆層7を設けて構成され、融着層4はコイル導線5を巻回後、当該コイル導線5への通電による加熱により軟化溶融し、コイル導線5への通電を停止すると、コイル導線5の形状が安定化されるように再固化して、隣り合う融着層4が連結固定する融着部26を形成している。
この場合、巻回されたコイル導線5に対して通電することにより、コイル導線5の素線1自身の発熱で融着層4が軟化溶融し、コイル導線5への通電を停止すると、融着層4が再固化してコイル導線5の形状が安定化する。そのため、従来の絶縁被覆層7を加熱融着させるものよりも短時間で容易に加熱コイル9の形状をバラツキ無く安定化させることができる。また、コイル導線5の導体2自身の発熱で融着層4を軟化溶融させるため、素線1どうしをほぼ均一に接合できると共に、巻付型10の温度上昇も少なく済み、多くの巻付型10を準備しなくても、コイル導線5を巻回した後に、短時間で効率良く加熱コイル9全体を安定化した形状にすることができる。
また、本実施例は、誘導加熱コイル9の素線1の径を0.15mm以下にしている。
この場合、高い周波数で駆動すると、その表皮効果の影響がコイル導線5にも出て、素線1の外表面の浅い部分にしか高周波電流が流れない症状が発生するが、素線径を0.15mm以下に限定したことにより、高周波数で駆動しても素線1の表皮効果による影響を低減することができる。そのため、40kHz以上の駆動周波数でも必要な電流を流して、被加熱体43を誘導加熱することができる。
さらに、本実施例は請求項2に対応して、融着層4の軟化溶融温度を絶縁被覆層7の軟化溶融温度よりも低くして誘導加熱コイル9を構成している。
この場合、コイル導線5への通電による発熱で、融着層4のみを溶融させることが可能となり、絶縁被覆層7が素線1の温度上昇によって溶融し、熱的に損傷することを防止することができる。したがって、コイル導線5の素線1の外層である融着層4を熱溶融固化させる時の加熱温度が、絶縁被覆層7に及ぼす影響を極力抑えることで、絶縁被覆層7の絶縁体としての信頼性を維持することができる。
さらに、本実施例は請求項1に対応して、コイル導線5の絶縁被覆層7に空気や蒸気抜き用の気体抜き孔30を一つ以上設けている。
この場合、絶縁被覆層7に気体抜き孔30を形成したことにより、誘導加熱コイル9の通電時などにおいて、絶縁被覆層7内部で膨張した空気や、発生した蒸気による結露を気体抜き孔30から絶縁被覆層7の外部に速やかに排出することができる。したがって、誘導加熱コイル9を加熱する際、絶縁被覆層7内部の膨張や絶縁被覆層7内面の蒸気による結露を防止することができる。
さらに本実施例の誘導加熱装置41は、上記誘導加熱コイル9と、誘導加熱コイル9と磁気結合する磁性体としてのフェライトコア45と、誘導加熱コイル9およびフェライトコア45を所定位置に取り付け可能とするボビン46とを備え、誘導加熱コイル9に40kHz以上の高周波電流を流して低電気抵抗の被加熱体43を誘導加熱する構成としている。
この場合、誘導加熱コイル9に40kHz以上の高周波電流を流す構成としたことにより、その表皮効果を利用して、被加熱体43表面の浅い部分を集中的に加熱させることができる。さらに誘導加熱装置41は、誘導加熱コイル9と、この誘導加熱コイル9との磁気結合を強化するためのフェライトコア45と、ボビン46とにより構成され、形状安定化した誘導加熱コイル9を容易にボビン46に取り付けることができる。
なお、本実施例は本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能であり、例えばコイル導線5の素線1やリッツ線6の断面は、略円形状ではなく略扁平形状であっても良い。また、誘導加熱装置41を構成する誘導加熱コイル9,フェライトコア45,ボビン46などは上述の形状および構造に限定されず、適宜変更可能に設計される。フェライトコア45もフェライトに限らず、別な素材の磁性体としてもよい。
次に、本発明で提案する好ましい加熱コイルおよび誘導加熱装置の第2実施例を、図9〜図13の添付図面に基づいて説明する。なお、前記第1実施例と共通する構成については共通する符号を付して説明する。
図9は、素線1から完成状態のコイル導線5に至るまでの各部の断面図を示しており、同図において、本実施例における素線1は、断面が略円形をなす導体2に対し、その外周に略一定の厚さの絶縁層3を設けて構成されるが、第1実施例のような融着層4は設けられていない。この導体2と絶縁層3だけで構成される素線1を数百〜数千本を撚り合わせてリッツ線6を形成し、そのリッツ線6の外周に略一定の厚さの絶縁被覆層71を設けてコイル導線5を構成する。素線1の外径は0.15mm以下、例えば0.05mmに形成される。
本実施例における絶縁被覆層71は、後述する加圧手段75により塑性変形される材料で形成される。ここでは単一の絶縁被覆層71を示しているが、二層構造の絶縁被覆層71については、別な実施例で説明する。また、絶縁被覆層71は集合線であるリッツ線6の少なくとも外周の一部若しくは全体を覆っているが、リッツ線6をさらに撚り合わせた上位集合線の少なくとも外周の一部若しくは全体に、当該絶縁被覆層71を被覆させてもよい。
次に、図10と図11を参照しながら、上記コイル導線5から誘導加熱コイル9を製造する方法について説明する。これらの各図において、75はコイル導線5を渦巻き状に巻回した後、そのコイル導体5の外側周囲から圧力を加えて、コイル導体5の形状を安定化させる加圧手段である、加圧手段75は、巻治具としての巻付型76と、巻付型76に装着されたコイル導体5の外側面に圧力を加える側面押込み型77とにより構成される。また巻付型76は、巻付上型81と巻付下型82とを組み合わせてなり、さらに巻付上型81と巻付下型82との間を広げる方向に付勢する弾性体としてのバネ83と、巻付上型81と巻付下型82との間の広がりを規制する留め具84とを備えて構成される。巻付型76の中心部には孔85が設けられ、この孔85の内壁面に沿うように、巻付上型81と巻付下型82に跨って前記留め具84が装着される。
巻付上型81は、外周が略円形に形成された円板状のフランジ部85の中心部側に、当該フランジ部85よりも肉薄な段差部86を設けて構成される。また段差部86の下面には、巻付下型82の収容孔90に向けて突出するバネ押え87が形成される。巻付下型82は、外周が略円形に形成された円板状のフランジ部88の中心部側に、当該フランジ部88よりも肉厚な筒状のスリーブ89を設けて構成される。このスリーブ89には、バネ83を収容する上面を開口した収容孔90が形成される。収容孔90及びこれに対応するバネ押え87は、孔85の周囲に一乃至複数設けられる。また、巻付下型82の孔85のある内面には凹部91が設けられており、この凹部91と巻付上型81の上面とにおいて、コ字型の留め具84が嵌合される。なお留め具84は、図示しない調整手段、例えばネジによる締め付けなどの手段でコ字型のギャップ長を調整可能にされていても良い。
そして、所望形状の誘導加熱コイル9を製造するには、巻付下型82の収容孔90にバネ83を収容した状態で、巻付上型81のバネ押え87を収容孔90に挿入して、巻付上型81のフランジ部85と巻付下型82のフランジ部88とを向い合せ、バネ83の弾性力によって巻付下型82から巻付上型81が外れないように、凹部91と巻付上型81の上面に留め具84を嵌合させる。これにより、フランジ部85,88の間に所定の隙間92を有する巻付型76を得る。この巻付型76に対して、スリーブ89の外周面に対向する内側から、フランジ部85,88の外周に向かう外側にコイル導線5を3段に巻装すると、フランジ部85,88の間に形成した隙間92に、コイル導線5が渦巻き状に配置される。
本実施例では、この状態から隙間92を狭めるように、バネ83の弾性力に抗して巻付上型81を巻付下型82に向けて押込むと共に、隙間92の半径方向外側開口から内側に向かって側面押込み型77を押込んで、コイル導線5を外側から加圧する。図11は、加圧前と加圧後におけるコイル導線5の断面図を示しているが、加圧前には断面が略丸形であったコイル導線5は、上記加圧手段75による外側四方からの加圧によって、加圧後には絶縁被覆層7が塑性変形することで略直方形に成型され、コイル導線5どうしの隙間94も縮小する。こうして、コイル導線5の全体的な形状が安定化することで、加圧後に巻付型76から外した後の渦巻き状のコイル導線5は、絶縁被覆層7の面どうしを密着させた誘導加熱コイル9としてその形状を維持することができる。また、上述した巻付型76へのコイル導線5の巻付けと、コイル導線5に対する加圧工程を繰り返すことで、加熱を必要とせずに短時間で所望形状の誘導加熱コイル9を大量に製造することができる。なお、側面押込み型93は直方形状の棒状体として、コイル導体5に対して加圧を繰返し反復するようにして塑性変形させても良いし、コイル導体5の外形に沿った形状にして、誘導加熱コイル9の円周方向外側から一度に均一に加圧して塑性変形させるようにしても良い。
また、絶縁被覆層7内の空気が膨張したり、絶縁被覆層7の内面が蒸気により結露したりするのを防ぐために、第1実施例の図4でも示したような気体抜き孔30を1つ以上設けておくのが好ましい。それにより、絶縁被覆層7内に発生する空気や蒸気を、コイル導線5の外部に速やかに排出させることができる。
次に、本実施例の誘導加熱コイル9を備えた誘導加熱装置100の概略構成について、図12および図13を参照しながら説明する。
これらの各図において、本実施例における誘導加熱装置100は、その上部に平板状の耐熱ガラスプレート42を備え、この耐熱ガラスプレート42に載置する被加熱体43を電磁誘導加熱するために、耐熱ガラスプレート42の下部に位置して誘導コイル9を被加熱体43に対向させて設けている。誘導加熱装置41にはそれ以外に、フェライトコア45とボビン46がそれぞれ設けられている。
本実施例の誘導加熱装置100において、第1実施例と異なるのは、誘導加熱コイル9の外側面に当接して、ボビン46の基体48から耐熱ガラスプレート42に向けて略平板状のガイド106を延設すると共に、誘導加熱コイル9を例えばシリコン系ゴムの接着剤107によって基体48に固着させることにある。その他の構成とそれに伴う作用は、第1実施例と全く共通であり、重複を避けるために説明を省略する。
本実施例においても、コイル導線5を巻回した誘導加熱コイル9は予めその形状が安定化されているので、誘導加熱コイル9を容易にボビン46へ取付けることができる。但し、加圧手段75による加圧で得られた誘導加熱コイル9は機械的な結合力が低いので、前記ガイド106や接着剤107でこれを補う。具体的には、ボビン46と誘導加熱コイル9を接着剤107で固定して、ボビン46と誘導加熱コイル9との接合を強固なものとする。また、誘導加熱コイル9の外周面に当接するガイド106をボビン46に設けることで、誘導加熱コイル9が外周方向へ逃げるのを防止する。これらのガイド106や接着剤107によって、塑性変形された誘導加熱コイル9における形状の安定化を高め、被加熱物43への安定した加熱を実現することができる。
以上のように、本実施例で得られる誘導加熱コイル9は請求項3に対応して、コイル導線5を巻回してなる誘導加熱コイル9において、コイル導線5が導体2の周囲に絶縁層3を設けた素線1を撚り合わせ、その外周に絶縁被覆層7を設けて構成され、コイル導線5は巻回後に加圧されることにより、その形状を安定化させるように絶縁被覆層7が塑性変形する構成となっている。
この場合、コイル導線5の巻付および加圧工程を繰り返すことにより、融着層4のないコイル導線5でも、コイル導線5の断面形状を所望の形状に成型し、巻回したコイル導線5の絶縁被覆層7どうしを密着させることで、短時間で容易にコイル導線5ひいては誘導加熱コイル9の形状を安定化することができる。また加熱を必要としないため、巻付型76の温度上昇もなく、多くの巻付型76を準備しなくても、コイル導線5を巻回した後に、短時間で効率よく誘導加熱コイル9全体を安定化した形成にすることができる。
また、本実施例は各素線1の径を0.15mm以下にして構成している。
この場合、高い周波数で駆動すると、その表皮効果の影響がコイル導線5にも出て、素線1の外表面の浅い部分にしか高周波電流が流れない症状が発生するが、素線径を0.15mm以下に限定したことにより、高周波数で駆動しても素線1の表皮効果による影響を低減することができる。そのため、40kHz以上の駆動周波数でも必要な電流を流して、被加熱体43を誘導加熱することができる。
また、本実施例は請求項3に対応して、コイル導線5の絶縁被覆層7に空気や蒸気抜き用の気体抜き孔30を一つ以上設けている。
この場合、絶縁被覆層7に気体抜き孔30を形成したことにより、絶縁被覆層7内部で膨張した空気や、発生した蒸気による結露を気体抜き孔30から絶縁被覆層7の外部に速やかに排出することができる。したがって、絶縁被覆層7内部の膨張や絶縁被覆層7内面の蒸気による結露を防止することができる。また、コイル導体5を塑性変形する際に余分な空気が排出され、コイル導体5を隙間なく容易に変形できる。
また、本実施例の誘導加熱装置100は、請求項4に対応して、上記誘導加熱コイル9と、誘導加熱コイル9と磁気結合する磁性体としてのフェライトコア45と、誘導加熱コイル9およびフェライトコア45を所定位置に取り付け可能とするボビン46とを備え、誘導加熱コイル9に40kHz以上の高周波電流を流して低電気抵抗の被加熱体43を誘導加熱する構成としている。
この場合、誘導加熱コイル100に40kHz以上の高周波電流を流す構成としたことにより、その表皮効果を利用して、被加熱体43表面の浅い部分を集中的に加熱させることができる。さらに誘導加熱装置100は、誘導加熱コイル9と、この誘導加熱コイル9との磁気結合を強化するためのフェライトコア45と、ボビン46とにより構成され、形状安定化した誘導加熱コイル9を容易にボビン46に取り付けることができる。
さらに、本実施例は請求項5に対応して、誘導加熱コイル9のボビン46への取付けを接着剤107によって固着する構成としている。
この場合、誘導加熱コイル9とボビン46の機械的な結合力を向上させることができ、ホビン46と加圧された誘導加熱コイル9の接合を強固にすることができる。
さらに、本実施例は請求項6に対応して、ボビン46には誘導加熱コイル9の外周形状の逃げを規制するガイド106を設けて構成している。
この場合、ボビン46には誘導加熱コイル9の外周形状を規制するガイド106を設けたことにより、誘導加熱コイル9が外周方向へずれるのを防止することができる。
そして、これらの接着剤107やガイド106により、塑性変形された誘導加熱コイル9の形状の安定性が向上し、被加熱物43への安定した加熱を実現することが可能になる。
なお、本実施例は本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能であり、例えばコイル導線5の素線1やリッツ線6の断面は、略円形状ではなく略扁平形状であっても良い。また、誘導加熱コイル9,フェライトコア45,ボビン46などは上述の形状および構造に限定されず、適宜変更可能に設計される。フェライトコア45もフェライトに限らず、別な素材の磁性体としてもよい。さらに加圧によって誘導コイル5の断面を直方(四角)形状にするのではなく、例えば六角形状にしてもよい。
次に、本発明で提案する好ましい加熱コイルおよび誘導加熱装置の第3実施例を、図14および図15の添付図面に基づいて説明する。なお、前記第1実施例や第2実施例と共通する構成については共通する符号を付して説明する。
本実施例は上記第2実施例の変形例といえるもので、図14に示すように、第2実施例における塑性変形する絶縁被覆層7が二層構造になっており、リッツ線6の外周に設けた略一定の厚さの絶縁層111と、絶縁層111の外周に設けた略一定の厚さの融着層112とを有している。例えば絶縁被覆層7の内層となる絶縁層111は、最小で0.2mmの厚さを有するフッ素層(融点温度307.5℃、軟化温度290℃)とし、絶縁被覆層7の外層となる融着層112は、50μmの厚さを有するポリエステル層(融点温度207℃、最大の連続使用温度160℃)とし、リッツ線6は外形0.05mmの素線1を1200本撚り合わせたもの(絶縁層3はEl(ポリエステルイミド)とAl(ポリアミドイミド)とによる被覆で、800V耐圧、耐熱指数が200℃)とする。それ以外のコイル導線5としての構成は、第2実施例と全く共通している。
そして図15に示すように、このコイル導線5を縦N段と縦N+1段(Nは2以上の自然数)、例えば縦2段と縦3段で交互に繰返しながら、前記巻付型76の隙間92に巻装する。
この状態から、所望の形状の誘導加熱コイル9を得るには、第2実施例と同様に誘導コイル5の外側から加圧すると共に、例えば従来例の加熱装置25を一定時間通電して、誘導コイル5の外側から加熱する。本実施例では、リッツ線6の外周に設けた絶縁層111の融点温度よりも、絶縁層111の外側にある融着層112の融点温度が低いため、融着層112のみを溶融軟化させながら絶縁被覆層7を塑性変形させることができる。その後、加熱装置25への通電を停止すると、融着層112が再固化して、塑性変形後の絶縁被覆層7において、隣り合う融着層112間を連結固定する融着部(図示せず)が形成される。これにより絶縁層111であるフッ素樹脂の絶縁性能を確保しつつ、融着層112であるポリエステル樹脂の溶融固化により、加熱コイル5としての形状をさらに安定化させることができる。
また、所定の径でコイル導線5を縦N段と縦N+1段(Nは2以上の自然数)とで交互に繰返し巻回して誘導加熱コイル9を構成しているため、コイル導線5どうしの磁界を介して相互に影響する近接作用を低減し、誘導加熱コイル9の高周波抵抗を下げることができる。
こうして得られた誘導加熱コイル9は、第2実施例の誘導加熱装置100に組み込むことができる。誘導加熱装置100としての構成や作用については上述の通りであるため、改めて説明はしない。
以上のように、本実施例と前記第2実施例を組み合わせた誘導加熱装置100は請求項7に対応しており、前記絶縁被覆層7は、絶縁材であるフッ素樹脂の絶縁層111と、融着材であるポリエステル樹脂の融着層112とを、絶縁層111よりも融着材112が外側になるように設けて構成され、融着層112はコイル導線5を例えば巻付型76に巻回後、コイル導線5を加熱することで溶融固化し、隣接する絶縁被覆層7どうしを接着させるものであり、誘導加熱コイル9は、所定の径でコイル導線5を縦N段と縦N+1段(Nは2以上の自然数)とで交互に繰返し巻回して形成されている。
この場合、絶縁被覆層7としての絶縁性能をフッ素樹脂の絶縁層111で確保しつつ、ポリエステル樹脂の融着層112を溶融固化させて、誘導加熱コイル9を所望のコイル形状に固着することができる。しかも、所定の径でコイル導線5を縦N段と縦N+1段(Nは2以上の自然数)とで交互に繰返し巻回して形成したことによって、コイル導線5どうしの磁界を介して相互に影響する近接作用が低減し、誘導加熱コイル9の高周波抵抗を下げることができる。そのため、高周波数でも大電流を流して誘導加熱することができ、誘導加熱コイル9自身の発熱も小さくすることができる。