前述のように、本発明は、例えば、セラミック基板とパワー半導体素子との接合時及びセラミック基板を含むパワーモジュールの完成後の動作時等の高温環境下においてセラミック基板とパワー半導体素子との間の熱歪みによって発生する応力を吸収・緩和して、当該応力に起因するセラミック基板とパワー半導体素子との接合部近傍のセラミック基板やパワー半導体素子及び当該接合部における亀裂の発生や、当該接合部の断線等の問題を低減することができるパワーモジュール基板を提供することを1つの目的とする。
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究の結果、主としてセラミックを含んでなる誘電体層からなる基材と、当該基材中に埋設された内層電極と、当該基材の表面に形成された表面電極と、を備える基板において、当該基材中に部分的に埋設された複数の柱状導体によって当該表面電極を形成し、当該複数の柱状導体を介して当該基板とパワー半導体素子とを接合することにより、上述のような高温環境下においてセラミック基板とパワー半導体素子との間の熱歪みによって発生する応力に起因するセラミック基板とパワー半導体素子との接合部近傍のセラミック基板やパワー半導体素子及び当該接合部における亀裂の発生や、当該接合部の断線等の問題を低減することができることを見出し、本発明を想到するに至ったものである。
即ち、本発明の第1の実施態様は、
主としてセラミックを含んでなる誘電体層からなる基材と、
前記基材中に埋設された内層電極と、
前記基材の表面に形成された表面電極と、
を備える基板であって、
前記表面電極が、前記基材中に部分的に埋設された複数の柱状導体からなり、
前記複数の柱状導体が、前記内層電極を介して互いに導通している、
基板である。
上記のように、本実施態様に係る基板においては、基材の表面に形成された表面電極が、基材中に部分的に埋設された複数の柱状導体からなり、複数の柱状導体が、基材中に埋設された内層電極を介して互いに導通している。即ち、複数の柱状導体は、全体として、1つの表面電極を形成している。かかる表面電極とパワー半導体素子の端子とを接合することにより、例えば、当該基板とパワー半導体素子との接合時及び当該基板を含むパワーモジュールの完成後の動作時等の高温環境下にあっても、表面電極を形成する複数の柱状導体が変形することによって、当該基板とパワー半導体素子との間の熱歪みに起因して当該基板とパワー半導体素子との接合部に発生する応力を吸収・緩和して、当該応力に起因する当該基板とパワー半導体素子との接合部近傍の当該基板やパワー半導体素子及び当該接合部における亀裂の発生や、当該接合部の断線等の問題を低減することができる。
尚、上記のような熱歪みに起因して発生する応力は、基板の主面に平行な面内方向のみならず、基板の主面の法線方向にも発生するが、本実施態様に係る基板においては、表面電極が複数の柱状導体によって形成されていることから、何れの方向における応力も吸収・緩和することができる。
また、本実施態様に係る基板においては、表面電極が複数の柱状導体によって形成されていることから、パワー半導体素子と当該基板との間における電流経路の導通抵抗(電気抵抗)を効果的に下げることができる。加えて、本実施態様に係る基板においては、表面電極が複数の柱状導体によって形成されていることから、パワー半導体素子と当該基板との間において良好な熱伝導が行われるため、パワー半導体素子と当該基板との間における熱抵抗を効果的に下げ、パワー半導体素子から発生する熱を効率良く外部に放出することができる。
更に、上述のように、本実施態様に係る基板においては、基材の表面に形成された表面電極を形成する複数の柱状導体が、基材中に埋設された内層電極を介して互いに導通している。これにより、パワー半導体素子と当該基板との間における電流経路や熱伝導経路を効果的に拡大することができるのみならず、特定の柱状導体に電流や熱が集中して、熱歪みに起因して発生する応力が集中することを抑制することもできる。
以上のように、本実施態様に係る基板によれば、パワー半導体素子と当該基板との間における電気抵抗及び熱抵抗の増大を伴うこと無く、例えば、当該基板とパワー半導体素子との接合時及び当該基板を含むパワーモジュールの完成後の動作時等の高温環境下において当該基板とパワー半導体素子との間の熱歪みに起因して発生する応力を、表面電極を形成する複数の柱状導体の変形によって吸収・緩和させることにより、当該応力に起因する当該基板とパワー半導体素子との接合部近傍の当該基板やパワー半導体素子及び当該接合部における亀裂の発生や、当該接合部の断線等の問題を低減することができる。
尚、本実施態様に係る基板が備える表面電極を形成する柱状導体の形状は、特に限定されるものではなく、例えば、円柱状及び角柱状等、種々の形状とすることができる。尚、柱状導体は、前述のように、上述のような高温環境下において当該基板とパワー半導体素子との間の熱歪みに起因して発生する応力を吸収・緩和することにより、当該応力に起因する当該基板とパワー半導体素子との接合部近傍の当該基板やパワー半導体素子及び当該接合部における亀裂の発生や、当該接合部の断線等の問題を低減する。かかる観点から、柱状導体としては、例えば、応力集中等に繋がる「くびれ」等を有する形状は望ましくなく、一様な太さ(基板の主面に略平行な平面による断面積)を有する形状が望ましい。また、同様の理由から、柱状導体は、複数の部材が集成されて形成されるものではなく、均一な材質を用いて一体的に形成されるものであることが望ましい。例えば、上記柱状導体は、導体材料からなるワイヤであってもよい。
ところで、本実施態様に係る基板が備える表面電極を形成する柱状導体は、上述のように、パワー半導体素子と当該基板との間における電流経路となることから、柱状導体を構成する材質は、良導体であることが望ましい。かかる良導体の具体例としては、例えば、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、金(Au)、及び銀(Ag)等を挙げることができる。
従って、本発明の第2の実施態様は、
本発明の前記第1の実施態様に係る基板であって、
前記柱状導体が、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、金(Au)、及び銀(Ag)から選ばれる少なくとも1種以上の金属によって構成される、
基板である。
上記のように、本実施態様に係る基板においては、柱状導体を構成する材質として、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、金(Au)、及び銀(Ag)から選ばれる少なくとも1種以上の金属が用いられる。即ち、本実施態様に係る基板が備える表面電極を形成する柱状導体を構成する材質は、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、金(Au)、又は銀(Ag)の何れか1種(単体)であってもよい。あるいは、柱状導体を構成する材質は、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、金(Au)、及び銀(Ag)から選ばれる2種以上の金属を含む合金であってもよい。より好ましくは、柱状導体を構成する材質としては、銅(Cu)、金(Au)、及び銀(Ag)から選ばれる少なくとも1種以上の金属が用いられる。
ところで、本発明に係る基板を例えばインバータ等のパワーモジュールにおいて用いる場合、当該基板とパワー半導体素子との接合時のみならず、パワーモジュールの完成後の動作状態においても、パワー半導体素子に大電流が流れることに起因するパワー半導体素子からの発熱により、当該基板とパワー半導体素子との接合部が高い温度に曝される。この際、当該基板とパワー半導体素子との間における熱歪みに起因して発生する応力は、当該基板の表面電極を形成する柱状導体の先端(即ち、パワー半導体素子の端子との接続部)にかかる負荷となり、その結果、柱状導体の根元(即ち、当該基板の主面と柱状導体とが交わる部分)に回転モーメントとして作用する。
かかる状況においても、本発明に係る基板によれば、表面電極を形成する複数の柱状導体が変形することによって、上述のような高温環境下において柱状導体の根元に作用する力を吸収・緩和することができるので、当該応力に起因する当該基板とパワー半導体素子との接合部近傍の当該基板やパワー半導体素子及び当該接合部における亀裂の発生や、当該接合部の断線等の問題を低減することができる。
しかしながら、本発明に係る基板を含むパワーモジュールにおいても、柱状導体の強度が過度に高い場合(例えば、柱状導体の高さに対して太さが過度に大きい(柱状導体が過度に太い)又は柱状導体の剛性が過度に高い等の場合)は、当該基板とパワー半導体素子との接合部近傍の当該基板やパワー半導体素子及び当該接合部において亀裂が発生する等の問題が生ずる虞がある。一方、柱状導体の強度が過度に低い場合(例えば、柱状導体の高さに対して太さが過度に小さい(柱状導体が過度に細い)又は柱状導体の剛性が過度に低い等の場合)は、柱状導体そのものが破損して、当該基板とパワー半導体素子との間の電気的接続が遮断される等の問題が生ずる虞がある。
従って、上述のような高温環境下において発生する応力に起因する当該基板とパワー半導体素子との接合部近傍の当該基板やパワー半導体素子及び当該接合部における亀裂の発生や、当該接合部の断線等の問題をより確実に低減するには、表面電極を形成する柱状導体の形状及び剛性を適切なレベルに制御することがより望ましい。本発明者は、かかる観点に立ち、鋭意研究を重ねた結果、柱状導体の太さ及び基板から露出している部分の長さと、柱状導体を構成する材質の弾性率とが、所定の関係を満足する場合に、高温環境下における当該基板とパワー半導体素子との間の熱歪みに起因して発生する応力を、柱状導体の変形によって、より効果的に吸収・緩和することができることを見出した。
具体的には、柱状導体の基板の主面に略平行な平面による断面の等価円直径(D)と、柱状導体の基材から露出している部分の基板の主面の略法線方向における長さ(L1)と、柱状導体を構成する材質のヤング率(G)と、銅(Cu)のヤング率(Gcu)とが、0.1≦D/L1≦Gcu/G及びGcu/G>1/10によって表される関係を満たす場合に、上述のような高温環境下における当該基板とパワー半導体素子との間の熱歪みに起因して発生する応力を、柱状導体の変形によって、より効果的に吸収・緩和することができる。
従って、本発明の第3の実施態様は、
本発明の前記第1又は前記第2の実施態様の何れか1つに係る基板であって、
前記柱状導体の前記基板の主面に略平行な平面による断面の等価円直径(D)と、前記柱状導体の前記基材から露出している部分の前記基板の主面の略法線方向における長さ(L1)と、前記柱状導体を構成する材質のヤング率(G)と、銅(Cu)のヤング率(Gcu)とが、0.1≦D/L1≦Gcu/G及びGcu/G>1/10によって表される関係を満たす、
基板である。
上記のように、本実施態様に係る基板は、柱状導体の基板の主面に略平行な平面による断面の等価円直径(D)と、柱状導体の基材から露出している部分の基板の主面の略法線方向における長さ(L1)と、柱状導体を構成する材質のヤング率(G)と、銅(Cu)のヤング率(Gcu)とが、0.1≦D/L1≦Gcu/G及びGcu/G>1/10によって表される関係を満たすように構成されている。これにより、本実施態様に係る基板によれば、上述のような高温環境下における当該基板とパワー半導体素子との間の熱歪みに起因して発生する応力を、表面電極を形成する複数の柱状導体の変形によって、より効果的に吸収・緩和させることができる。その結果、本実施態様に係る基板を含むパワーモジュールにおいては、当該応力に起因する当該基板とパワー半導体素子との接合部近傍の当該基板やパワー半導体素子及び当該接合部における亀裂の発生や、当該接合部の断線等の問題をより効果的に低減することができる。尚、上記において、銅(Cu)のヤング率(Gcu)とは、具体的には、110×109[N/m2]である。
尚、上記のように、本実施態様に係る基板において、柱状導体の基板の主面に略平行な平面による断面の等価円直径(D)の、柱状導体の基材から露出している部分の基板の主面の略法線方向における長さ(L1)に対する比(D/L1)は、0.1以上、より好ましくは0.2以上であることが望ましい。当該比(D/L1)が0.1未満である場合は、上述のような高温環境下における当該基板とパワー半導体素子との間の熱歪みに起因して発生する応力に対する柱状導体の強度が過度に低くなり、柱状導体が破損して当該基板とパワー半導体素子との間の電気的接続が遮断される等の問題が生ずる虞があるので望ましくない。一方、当該比(D/L1)は、Gcu/G以下であることが望ましい。当該比(D/L1)が、柱状導体を構成する材質のヤング率(G)に対する銅(Cu)のヤング率(Gcu)の比(Gcu/G)を超える場合は、上述のような高温環境下における当該基板とパワー半導体素子との間の熱歪みに起因して発生する応力に対する柱状導体の強度が過度に高くなり、当該基板とパワー半導体素子との接合部近傍の当該基板やパワー半導体素子及び当該接合部において亀裂が発生する等の問題が生ずる虞があるので望ましくない。
また、柱状導体を構成する材質のヤング率(G)に対する銅(Cu)のヤング率(Gcu)の比(Gcu/G)は、上記のように、1/10を超えることが望ましく、より好ましくは1/5を超えることが望ましい。当該比(Gcu/G)が1/10以下である場合は、柱状導体を構成する材質の剛性が過度に高く、結果として、上述のような高温環境下における当該基板とパワー半導体素子との間の熱歪みに起因して発生する応力に対する柱状導体の強度が過度に高くなり、当該基板とパワー半導体素子との接合部近傍の当該基板やパワー半導体素子及び当該接合部において亀裂が発生する等の問題が生ずる虞があるので望ましくない。
ところで、本発明に係る基板は、基材中に部分的に埋設された複数の柱状導体からなる表面電極を備える。当該柱状導体は、上述のような高温環境下における当該基板とパワー半導体素子との間の熱歪みに起因して発生する熱的応力のみならず、例えば、当該基板とパワー半導体素子との半田接合時等に発生する機械的応力にも曝される。従って、当該柱状導体は、かかる応力に曝された際にも基板から容易に脱落することの無いように、確実に基板に固定されていることが望ましい。
具体的には、本発明に係る基板が備える表面電極を構成する柱状導体は、上記のような応力を受けた際にも当該基板から容易に脱落することの無いように十分に深く基材中に部分的に埋設されていることが望ましい。より具体的には、本発明に係る基板が備える表面電極を構成する柱状導体は、例えば、柱状導体の基材から露出している部分の基板の主面の略法線方向における長さ(L1)に対する、柱状導体の基材中に埋設されている部分の基板の主面の略法線方向における長さ(L2)の比(L2/L1)が、ある程度以上大きいことが望ましい。
そこで、本発明者は、柱状導体の基材から露出している部分の基板の主面の略法線方向における長さ(L1)に対する、柱状導体の基材中に埋設されている部分の基板の主面の略法線方向における長さ(L2)の比(L2/L1)の好適な範囲についても検討した。その結果、当該比(L2/L1)が1/10(=0.1)以上である場合に、柱状導体が上記のような応力を受けた際にも、柱状導体が基板から容易に脱落することの無いことを見出した。
従って、本発明のもう1つの好ましい実施態様は、
本発明の前記第1乃至前記第3の実施態様の何れか1つに係る基板であって、
前記柱状導体の前記基材から露出している部分の前記基板の主面の略法線方向における長さ(L1)に対する、前記柱状導体の前記基材中に埋設されている部分の前記基板の主面の略法線方向における長さ(L2)の比(L2/L1)が1/10以上である、
基板である。
上記のように、本実施態様に係る基板は、柱状導体の基材から露出している部分の基板の主面の略法線方向における長さ(L1)に対する、柱状導体の基材中に埋設されている部分の基板の主面の略法線方向における長さ(L2)の比(L2/L1)が1/10以上、より好ましくは1/5以上であるように構成される。これにより、本実施態様に係る基板においては、当該基板が備える表面電極を構成する柱状導体が上述のような熱的応力又は機械的応力に曝された際にも、柱状導体が基板から容易に脱落することが無い。即ち、本実施態様によれば、より信頼性の高い基板を提供することができる。
以上、本発明の幾つかの実施態様に係る基板について詳細に説明してきたが、前述のように、本発明は、例えば、セラミック基板とパワー半導体素子との接合時及びセラミック基板を含むパワーモジュールの完成後の動作時等の高温環境下においても優れた信頼性を呈するパワーモジュール基板の製造方法にも関する。そこで、本発明の幾つかの実施態様に係る基板の製造方法について、以下に説明する。但し、本発明の幾つかの実施態様に係る基板について既に上述した事項については説明を割愛する。
先ず、本発明の第4の実施態様は、
主としてセラミックを含んでなる誘電体層からなる基材と、
前記基材中に埋設された内層電極と、
前記基材の表面に形成された表面電極と、
を備える基板であって、
前記表面電極が、前記基材中に部分的に埋設された複数の柱状導体からなり、
前記複数の柱状導体が、前記内層電極を介して互いに導通している、
基板の製造方法であって、
前記基板の焼成の前に、少なくとも部分的に前記基材中に埋設された状態で前記複数の柱状導体を仮固定し、
前記基板の焼成により前記複数の柱状導体を前記基板の表面に固定する、
基板の製造方法である。
上記のように、本実施態様に係る基板の製造方法は、主としてセラミックを含んでなる誘電体層からなる基材と、前記基材中に埋設された内層電極と、前記基材の表面に形成された表面電極と、を備える基板であって、前記表面電極が、前記基材中に部分的に埋設された複数の柱状導体からなり、前記複数の柱状導体が、前記内層電極を介して互いに導通している、基板の製造方法であって、前記基板の焼成の前に、少なくとも部分的に前記基材中に埋設された状態で前記複数の柱状導体を仮固定し、前記基板の焼成により前記複数の柱状導体を前記基板の表面に固定する、基板の製造方法である。
本発明に係る基板の製造方法において、少なくとも部分的に基材中に埋設された状態で複数の柱状導体を仮固定するための手順は、特定の手順に限定されるものではない。具体的な手順としては、例えば、本発明に係る基板を、所謂「ゲルキャスト法」を利用して製造する場合は、保護基材に設けられた複数の穴に柱状導体を挿入し、当該保護基材上にセラミックを含むスラリーを注ぎ、当該スラリーを固化させて複数の柱状導体を仮固定することができる。また、本発明に係る基板を、所謂「ドクターブレード法」等の手法によって成形されたグリーンシートを利用して製造する場合は、予め成形されたセラミックを含むグリーンシートに複数の柱状導体を突き刺して複数の柱状導体を仮固定したり、あるいは、予め成形されたセラミックを含むグリーンシートに設けられた複数の穴に柱状導体を挿入して複数の柱状導体を仮固定したりすることができる。
少なくとも部分的に基材中に埋設された状態で柱状導体を仮固定するための手順の如何に拘わらず、本実施態様に係る基板の製造方法においては、焼成により基板を製造した後に、当該基板の表面に複数の柱状導体を配設するのではなく、上記のように、基板を焼成する前に、少なくとも部分的に基材中に埋設された状態で複数の柱状導体を仮固定しておき、その後、斯くして少なくとも部分的に基材中に埋設された状態で複数の柱状導体が仮固定された基板を焼成する。この際、基材(及び内層電極)は焼成に伴う収縮挙動を呈する(以降、「焼き締まり」とも称する)。一方、柱状導体においては焼き締まりは起こらないため、少なくとも部分的に基材中に埋設された状態で仮固定された柱状導体は、基板の焼成に伴い、基材によって締め付けられ、強固に支持される。斯くして、複数の柱状導体が基板の表面に確実に固定される。
尚、詳しくは後述するように、基板の焼成時には、上記のように、基材(及び内層電極)は焼成に伴う収縮挙動(焼き締まり)を呈する一方で、柱状導体においては焼き締まりは起こらない。その結果、基板の焼成時には、柱状導体が基材から突き出る力が作用するものの、基板の焼成時には、柱状導体の一方の端部が内層電極(となるべき導体パターン)と接触しているため、柱状導体は当該端部側には突き出ることができない。このため、基板の焼成時には、柱状導体は、内層電極(となるべき導体パターン)と接触していない端部側(即ち、基材の露出面側)に突き出ることになる。
上記のように、基板の焼成時には、柱状導体の基材から露出している部分の長さが増大するので、本実施態様に係る基板の製造方法において基板の焼成の前に基材中に埋設された状態で複数の柱状導体を仮固定する際には、必ずしも柱状導体が基材から露出している必要は無く、複数の柱状導体が完全に基材中に埋設された状態で複数の柱状導体を仮固定してもよい。即ち、本実施態様に係る基板の製造方法においては、基板の焼成の前に、少なくとも部分的に基材中に埋設された状態で複数の柱状導体を仮固定する。
本実施態様に係る基板の製造方法によれば、例えば、セラミック基板とパワー半導体素子との接合時及びセラミック基板を含むパワーモジュールの完成後の動作時等の高温環境下においてセラミック基板とパワー半導体素子との間の熱歪みに起因して発生する応力を、表面電極を形成する複数の柱状導体の変形によって吸収・緩和させることにより、当該応力に起因するセラミック基板とパワー半導体素子との接合部近傍のセラミック基板やパワー半導体素子及び当該接合部における亀裂の発生や、当該接合部の断線等の問題を低減することができる。結果として、本実施態様に係る基板の製造方法によれば、上述のような高温環境下においても優れた信頼性を呈するパワーモジュール基板を提供することができる。
ところで、前述のように、本実施態様に係る基板の製造方法によって製造される基板が備える表面電極を形成する柱状導体は、上述のように、パワー半導体素子と当該基板との間における電流経路となることから、柱状導体を構成する材質は、良導体であることが望ましい。かかる良導体の具体例としては、例えば、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、金(Au)、及び銀(Ag)等を挙げることができる。
従って、本発明の第5の実施態様は、
本発明の前記第4の実施態様に係る基板の製造方法であって、
前記柱状導体が、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、金(Au)、及び銀(Ag)から選ばれる少なくとも1種以上の金属によって構成される、
基板の製造方法である。
また、前述のように、本実施態様に係る基板の製造方法によって製造される基板においては、柱状導体の太さ及び基板から露出している部分の長さと、柱状導体を構成する材質の弾性率とが、所定の関係を満足する場合に、上述のような高温環境下においてセラミック基板とパワー半導体素子との間の熱歪みに起因して発生する応力を、柱状導体の変形によって、より効果的に吸収・緩和することができる。
具体的には、柱状導体の基板の主面に略平行な平面による断面の等価円直径(D)と、柱状導体の基材から露出している部分の基板の主面の略法線方向における長さ(L1)と、柱状導体を構成する材質のヤング率(G)と、銅(Cu)のヤング率(Gcu)とが、0.1≦D/L1≦Gcu/G及びGcu/G>1/10によって表される関係を満たす場合に、上述のような高温環境下においてセラミック基板とパワー半導体素子との間の熱歪みに起因して発生する応力を、柱状導体の変形によって、より効果的に吸収・緩和することができる。
従って、本発明の第6の実施態様は、
本発明の前記第4又は前記第5の実施態様の何れか1つに係る基板の製造方法であって、
前記焼成後の前記基板において、前記柱状導体の前記基板の主面に略平行な平面による断面の等価円直径(D)と、前記柱状導体の前記基材から露出している部分の前記基板の主面の略法線方向における長さ(L1)と、前記柱状導体を構成する材質のヤング率(G)と、銅(Cu)のヤング率(Gcu)とが、0.1≦D/L1≦Gcu/G及びGcu/G>1/10によって表される関係を満たすように、少なくとも部分的に前記基材中に埋設された状態で仮固定される前記柱状導体の前記基材から露出している部分の前記基板の主面の略法線方向における長さを調節する、
基板の製造方法である。
尚、前述のように、基板の焼成に伴う基材(及び内層電極)の焼き締まりは、基板の主面に平行な面内方向のみならず、基板の主面の法線方向にも発生する。一方、柱状導体においては、上述のように、焼き締まりは起こらない。その結果、基板の焼成時には、柱状導体が基材から突き出る力が作用するものの、基板の焼成時には、柱状導体の一方の端部が内層電極(となるべき導体パターン)と接触しているため、柱状導体は当該端部側には突き出ることができない。一方、基板の焼成時において、柱状導体の他方の端部は、内層電極(となるべき導体パターン)や他の基材層(誘電体層)が積層されていない、基材の露出面側にあり、柱状導体が基材から突き出るのを妨げるものが存在しない。このため、基板の焼成時には、柱状導体は、内層電極(となるべき導体パターン)と接触していない端部側(即ち、基材の露出面側)に突き出ることになる。
上記の結果、基板の焼成の前に複数の柱状導体を仮固定した際に、柱状導体が部分的に基材中に埋設され、柱状導体が基材から露出している場合は、基板の焼成時に柱状導体が基材から更に突き出て、基材から露出している部分の長さが増大することになる。一方、基板の焼成の前に複数の柱状導体を仮固定した際に、柱状導体が完全に基材中に埋設され、柱状導体が基材から露出していない場合も、基板の焼成時に柱状導体が基材から突き出て、結果として柱状導体が基材から露出することになる。
従って、焼成後の基板において、柱状導体の基板の主面に略平行な平面による断面の等価円直径(D)の、柱状導体の基材から露出している部分の基板の主面の略法線方向における長さ(L1)に対する比(D/L1)が、上述の望ましい範囲から逸脱することの無いように注意を払う必要がある。具体的には、本実施態様に係る基板の製造方法において、少なくとも部分的に基材中に埋設された状態で仮固定される柱状導体の基材から露出している部分の基板の主面の略法線方向における長さを調節する際には、上述したような、基板の焼成時における柱状導体の基材から露出している部分の長さの増大を考慮に入れる必要がある。尚、ここで言う「長さ」とは、少なくとも部分的に基材中に埋設された状態における柱状導体の基板の主面の略法線方向における長さを指す。
ところで、前述のように、本発明に係る基板の製造方法において、少なくとも部分的に基材中に埋設された状態で複数の柱状導体を仮固定するための具体的な手順としては、例えば、本発明に係る基板を、所謂「ゲルキャスト法」を利用して製造する場合は、保護基材に設けられた複数の穴に柱状導体を挿入し、当該保護基材上にセラミックを含むスラリーを注ぎ、当該スラリーを固化させて複数の柱状導体を仮固定することができる。また、本発明に係る基板を、所謂「ドクターブレード法」等の手法によって成形されたグリーンシートを利用して製造する場合は、予め成形されたセラミックを含むグリーンシートに複数の柱状導体を突き刺して複数の柱状導体を仮固定したり、あるいは、予め成形されたセラミックを含むグリーンシートに設けられた複数の穴に柱状導体を挿入して複数の柱状導体を仮固定したりすることができる。
従って、本発明の第7の実施態様は、
本発明の前記第4乃至前記第6の実施態様の何れか1つに係る基板の製造方法であって、
保護基材に設けられた複数の穴に前記柱状導体を挿入し、当該保護基材上にセラミックを含むスラリーを注ぎ、当該スラリーを固化させて前記複数の柱状導体を仮固定することによって、少なくとも部分的に前記基材中に埋設された状態で前記複数の柱状導体が仮固定されたセラミック成形体を成形し、
前記セラミック成形体と、焼成後に前記内層電極を形成する導体パターンを前記複数の柱状導体が仮固定された位置に対応する領域に備えるセラミック成形体を含む、他のセラミック成形体とを積層し、
斯くして得られた積層体を焼成することによって、前記複数の柱状導体が表面に固定されたセラミック基板を得る、
基板の製造方法である。
上記のように、本実施態様に係る基板の製造方法は、所謂「ゲルキャスト法」を利用するものである。ゲルキャスト法とは、例えば、フィルム状または薄板状の保護基材の表面に、例えばスクリーン印刷法等の印刷法によって導体パターンを配設し、導体パターンが配設されなかった部分にはセラミック等の誘電体材料のスラリーを注入し、当該スラリーを固化させて得られる導体パターンが埋設された誘電体材料のシートを必要な枚数だけ積層して、導体パターンを表面電極や内層電極として構成し、焼成することによって、セラミック配線基板を得る方法である。
上記保護基材としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリエチレンナフタレート(PEN)フィルム等の樹脂フィルムを用いることが望ましく、また樹脂フィルム以外にも、ガラス板や紙、金属などのフィルム状または板状の種々の材料を用いることができる。但し、保護基材としては、剥離操作の容易性の観点から、可撓性を備えたものを用いることが好ましい。
また、例えば、上記誘電体材料のシートを保護基材から容易に剥離することができるようにすること等を目的として、上記保護基材の表面には、例えば、剥離剤等が塗布されていてもよい。かかる剥離剤には、例えば、当該技術分野において離型剤として知られている各種薬剤が含まれる。より具体的には、かかる剥離剤としては、公知のシリコーン系剥離剤、フッ素系剥離剤等を使用することができる。
上記導体パターンは、主成分として、例えば、少なくとも1種類以上の金属と熱硬化性樹脂前駆体を含んでなる導体ペーストを、例えば、スクリーン印刷等の方法により上記保護基材の表面上に形成することによって配設されることが望ましい。かかる熱硬化性樹脂前駆体としては、フェノール樹脂、レゾール樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂等を使用することができる。これらの中では、フェノール樹脂、レゾール樹脂であることが特に好ましい。かかる導体ペーストを上記保護基材の表面上に印刷した後、この導体ペーストに含まれるバインダーを硬化させることによって、導体パターンを得ることができる。
上記誘電体材料のスラリーとしては、例えば、樹脂、セラミック粉末、及び溶剤を含んでなるスラリーを挙げることができる。ここで、樹脂は所謂「バインダー」として機能するものであり、例えば、フェノール樹脂、レゾール樹脂、若しくはポリウレタン樹脂等の熱硬化性樹脂、又はポリオール及びポリイソシアネートを含んでなるポリウレタン前駆体等を使用することができる。これらの中では、ポリオール及びポリイソシアネートを含んでなる熱硬化性樹脂前駆体が特に好ましい。
セラミック粉末として使用されるセラミック材料としては、酸化物系セラミック又は非酸化物系セラミックの何れを使用してもよい。例えば、アルミナ(Al2O3)、ジルコニア(ZrO2)、チタン酸バリウム(BaTiO3)、窒化珪素(Si3N4)、炭化珪素(SiC)、酸化バリウム(BaO)、酸化チタン(TiO2)、酸化ケイ素(SiO2)、酸化亜鉛(ZnO2)、酸化ネオジム(Nd2O3)等を使用することができる。また、これらの材料は、1種類単独で、または2種以上を組み合わせて使用してもよい。更に、スラリーを調製可能な限りにおいて、セラミック材料の粒子径は特に限定されない。
ところで、基板における配線抵抗に起因する抵抗損失を低減する観点からは、上記導体パターンを構成する金属として、小さい電気抵抗を有する低抵抗導体を選択することが望ましい。かかる低抵抗導体としては、例えば、銅(Cu)、金(Au)、及び銀(Ag)、並びにこれらの2種以上の金属を含む合金等を挙げることができるが、これらの低抵抗導体は、他の金属と比較して、相対的に低い融点を有する。このような低い融点を有する金属を含んでなる導体パターンが埋設された誘電体材料のシート(誘電体層)を当該金属の融点以上の温度において焼成すると、当該金属が融解し、導体パターンの所望の形状を維持することが困難となる虞がある。従って、かかる低抵抗導体を表面電極や内層配線を構成する導体において使用する場合、使用される低抵抗導体の融点未満の温度において焼成することができるセラミック材料を使用することが望ましい。
尚、上記のように、使用される低抵抗導体の融点未満の温度において焼成することができるセラミックとしては、所謂「低温同時焼成セラミックス」(LTCC:Low Temperature Co−fired Ceramics)を使用することが望ましい。かかるLTCCは、例えば、セラミック材料にガラス成分等を添加することによって調製することができる。LTCCを使用することにより、低抵抗導体である銅(Cu)、金(Au)、及び銀(Ag)、並びにこれらの2種以上の金属を含む合金等を前記導体として使用することができる。これにより、基板における配線抵抗を抑制して、当該基板を使用するモジュールにおける抵抗損失を低減することができるのみならず、このような低い融点を有する金属を含んでなる導体パターンが埋設された誘電体材料のシート(誘電体層)を焼成する際に、当該金属が融解して、導体パターンの所望の形状を維持することが困難となる問題を回避することができる。
また、上記溶剤としては、上記バインダーとしての樹脂(及び、使用する場合には分散剤)を溶解するものであれば特に限定されない。溶剤の具体例としては、例えば、多塩基酸エステル(例えば、グルタル酸ジメチル等)、多価アルコールの酸エステル(例えば、トリアセチン(グリセリルトリアセテート)等)等の、2つ以上のエステル結合を有する溶剤を挙げることができる。
更に、上記誘電体材料のスラリーは、上述の樹脂、セラミック粉末、及び溶剤以外に、分散剤を含んでいてもよい。分散剤の具体例としては、例えば、ポリカルボン酸系共重合体、ポリカルボン酸塩等を挙げることができる。かかる分散剤を添加することにより、成形前のスラリーを低粘度とし、且つ高い流動性を有するものとすることができる。
本実施態様に係る基板の製造方法においては、上述のように、保護基材に設けられた複数の穴に柱状導体を挿入する。その後、上記ゲルキャスト法と同様に、当該保護基材上にセラミックを含むスラリーを注ぎ、当該スラリーを固化させる。これにより、少なくとも部分的に基材中に埋設された状態で複数の柱状導体が仮固定されたシート状のセラミック成形体が成形される。次に、必要に応じて導体パターンが埋設された他のシート状のセラミック成形体を必要な枚数だけ積層し、焼成することによって、セラミック配線基板を得ることができる。
但し、前述のように、本発明に係る基板においては、複数の柱状導体が、基材中に埋設された内層電極を介して互いに導通していることが必要である。従って、少なくとも部分的に基材中に埋設された状態で複数の柱状導体が仮固定されたシート状のセラミック成形体の複数の柱状導体が露出していない側に、複数の柱状導体が仮固定された位置に対応する領域に焼成後に内層電極を形成する導体パターンを備える、もう1つのセラミック成形体を積層する。必要に応じて、当該もう1つのセラミック成形体の、複数の柱状導体が仮固定されたシート状のセラミック成形体に対向する主面とは反対側の主面に、更なるセラミック成形体を積層してもよい。また、これらのシート状のセラミック成形体を積層する際に、加熱及び/又は加圧により、結果として得られる積層体の一体化を促進してもよい。斯くして得られた積層体を所定の条件下で焼成することにより、複数の柱状導体が表面に固定されたセラミック基板を得ることができる。
一方、前述のように、本発明に係る基板を、所謂「ドクターブレード法」等の手法によって成形されたグリーンシートを利用して製造することもできる。この場合、例えば、予め成形されたセラミックを含むグリーンシートに複数の柱状導体を突き刺して複数の柱状導体を仮固定してもよい。
即ち、本発明の第8の実施態様は、
本発明の前記第4乃至前記第6の実施態様の何れか1つに係る基板の製造方法であって、
予め成形されたセラミックを含むグリーンシートに前記複数の柱状導体を突き刺して前記複数の柱状導体を仮固定することによって、少なくとも部分的に前記基材中に埋設された状態で前記複数の柱状導体が仮固定されたセラミックグリーンシートを調製し、
前記セラミックグリーンシートと、焼成後に前記内層電極を形成する導体パターンを前記複数の柱状導体が仮固定された位置に対応する領域に備えるセラミックグリーンシートを含む他のセラミックグリーンシートとを積層し、
斯くして得られた積層体を焼成することによって、前記複数の柱状導体が表面に固定されたセラミック基板を得る、
基板の製造方法である。
上記のように、本実施態様に係る基板の製造方法は、所謂「ドクターブレード法」等の手法によって成形されたグリーンシートを利用するものである。本実施態様に係る基板の製造方法においては、例えば、ドクターブレード法等の手法によって前述のようなセラミック材料のスラリーからシート状のグリーンシートを成形する。次に、当該グリーンシートに複数の柱状導体を突き刺して複数の柱状導体を仮固定することにより、少なくとも部分的に基材中に埋設された状態で複数の柱状導体が仮固定されたセラミックグリーンシートを調製する。次に、必要に応じて導体パターンが埋設された他のセラミックグリーンシートを必要な枚数だけ積層し、焼成することによって、セラミック配線基板を得ることができる。
但し、前述のように、本発明に係る基板においては、複数の柱状導体が、基材中に埋設された内層電極を介して互いに導通していることが必要である。従って、少なくとも部分的に基材中に埋設された状態で複数の柱状導体が仮固定されたセラミックグリーンシートの複数の柱状導体が露出していない側に、複数の柱状導体が仮固定された位置に対応する領域に焼成後に内層電極を形成する導体パターンを備える、もう1つのセラミックグリーンシートを積層する。必要に応じて、当該もう1つのセラミックグリーンシートの、複数の柱状導体が仮固定されたシート状のセラミックグリーンシートに対向する主面とは反対側の主面に、更なるセラミックグリーンシートを積層してもよい。また、これらのセラミックグリーンシートを積層する際に、加熱及び/又は加圧により、結果として得られる積層体の一体化を促進してもよい。斯くして得られた積層体を所定の条件下で焼成することにより、複数の柱状導体が表面に固定されたセラミック基板を得ることができる。
尚、上記においては、ドクターブレード法によってグリーンシートを製造する態様として、本実施態様に係る基板の製造方法を説明したが、ドクターブレード法以外の手法によってグリーンシートを製造することもできる。例えば、前述のゲルキャスト法によってグリーンシートを製造してもよい。
更に、前述のように、本発明に係る基板を、所謂「ドクターブレード法」等の手法によって成形されたグリーンシートを利用して製造する場合において、例えば、予め成形されたセラミックを含むグリーンシートに設けられた複数の穴に柱状導体を挿入して複数の柱状導体を仮固定してもよい。
即ち、本発明の第9の実施態様は、
本発明の前記第4乃至前記第6の実施態様の何れか1つに係る基板の製造方法であって、
予め成形されたセラミックを含むグリーンシートに設けられた複数の穴に前記柱状導体を挿入して前記複数の柱状導体を仮固定することによって、少なくとも部分的に前記基材中に埋設された状態で前記複数の柱状導体が仮固定されたセラミックグリーンシートを調製し、
前記セラミックグリーンシートと、焼成後に前記内層電極を形成する導体パターンを前記複数の柱状導体が仮固定された位置に対応する領域に備えるセラミックグリーンシートを含む他のセラミックグリーンシートとを積層し、
斯くして得られた積層体を焼成することによって、前記複数の柱状導体が表面に固定されたセラミック基板を得る、
基板の製造方法である。
上記のように、本実施態様に係る基板の製造方法もまた、所謂「ドクターブレード法」等の手法によって成形されたグリーンシートを利用するものである。本実施態様に係る基板の製造方法においては、例えば、ドクターブレード法等の手法によって前述のようなセラミック材料のスラリーからシート状のグリーンシートを成形する。次に、当該グリーンシートに柱状導体を挿入するための複数の穴を設け、当該グリーンシートに設けられた複数の穴に柱状導体を挿入して複数の柱状導体を仮固定することにより、少なくとも部分的に基材中に埋設された状態で複数の柱状導体が仮固定されたセラミックグリーンシートを調製する。次に、必要に応じて導体パターンが埋設された他のセラミックグリーンシートを必要な枚数だけ積層し、焼成することによって、セラミック配線基板を得ることができる。
但し、前述のように、本発明に係る基板においては、複数の柱状導体が、基材中に埋設された内層電極を介して互いに導通していることが必要である。従って、少なくとも部分的に基材中に埋設された状態で複数の柱状導体が仮固定されたセラミックグリーンシートの複数の柱状導体が露出していない側に、複数の柱状導体が仮固定された位置に対応する領域に焼成後に内層電極を形成する導体パターンを備える、もう1つのセラミックグリーンシートを積層する。必要に応じて、当該もう1つのセラミックグリーンシートの、複数の柱状導体が仮固定されたシート状のセラミックグリーンシートに対向する主面とは反対側の主面に、更なるセラミックグリーンシートを積層してもよい。また、これらのセラミックグリーンシートを積層する際に、加熱及び/又は加圧により、結果として得られる積層体の一体化を促進してもよい。斯くして得られた積層体を所定の条件下で焼成することにより、複数の柱状導体が表面に固定されたセラミック基板を得ることができる。
尚、上記においては、ドクターブレード法によってグリーンシートを製造する態様として、本実施態様に係る基板の製造方法を説明したが、ドクターブレード法以外の手法によってグリーンシートを製造することもできる。例えば、前述のゲルキャスト法によってグリーンシートを製造してもよい。
更に、前述のように、本発明に係る基板の製造方法によって製造される基板においては、基板が備える表面電極を構成する柱状導体の基材から露出している部分の基板の主面の略法線方向における長さ(L1)に対する、柱状導体の基材中に埋設されている部分の基板の主面の略法線方向における長さ(L2)の比(L2/L1)が1/10(=0.1)以上である場合に、前述のような熱的応力や機械的応力を柱状導体が受けた際にも、柱状導体が基板から容易に脱落することを抑制することができる。
従って、本発明のもう1つの好ましい実施態様は、
本発明の前記第4乃至前記第6の実施態様の何れか1つに係る基板であって、
前記柱状導体の前記基材から露出している部分の前記基板の主面の略法線方向における長さ(L1)に対する、前記柱状導体の前記基材中に埋設されている部分の前記基板の主面の略法線方向における長さ(L2)の比(L2/L1)が1/10以上である、
基板の製造方法である。
上記のように、本実施態様に係る基板の製造方法によって製造される基板は、柱状導体の基材から露出している部分の基板の主面の略法線方向における長さ(L1)に対する、柱状導体の基材中に埋設されている部分の基板の主面の略法線方向における長さ(L2)の比(L2/L1)が1/10以上、より好ましくは1/5以上であるように構成される。これにより、本実施態様に係る基板の製造方法によって製造される基板においては、当該基板が備える表面電極を構成する柱状導体が上述のような熱的応力又は機械的応力に曝された際にも、柱状導体が基板から容易に脱落することが無い。即ち、本実施態様によれば、より信頼性の高い基板を提供することができる。
本発明の幾つかの実施態様に係る基板及び当該基板の製造方法に関する上記説明からも明らかであるように、本発明によれば、例えば、本発明に係るセラミック基板とパワー半導体素子との接合時及びセラミック基板を含むパワーモジュールの完成後の動作時等の高温環境下にあっても、表面電極を形成する複数の柱状導体が変形することによって、セラミック基板とパワー半導体素子との間の熱歪みに起因してセラミック基板とパワー半導体素子との接合部に発生する応力を吸収・緩和して、当該応力に起因するセラミック基板とパワー半導体素子との接合部近傍のセラミック基板やパワー半導体素子及び当該接合部における亀裂の発生や、当該接合部の断線等の問題を低減することができる。
以下、本発明の幾つかの実施態様に係る基板及び当該基板を含むパワーモジュールの構成、並びに当該基板の製造方法等につき、添付図面等を参照しつつ説明する。但し、以下に述べる説明はあくまでも例示を目的とするものであり、本発明の範囲が以下の説明に限定されるものと解釈されるべきではない。
図1は、前述のように、本発明の1つの実施態様に係る基板及び当該基板を含むパワーモジュールの構成を示す模式図である。具体的には、図1(a)は、本発明の1つの実施態様に係る基板110を含むパワーモジュール100の構成を示す模式図である。図1(a)に示すように、本発明の1つの実施態様に係る基板110は、基材111、内層電極112、及び複数の柱状導体113からなる3つの表面電極を備えている。また、これら3つの表面電極のそれぞれにおいては、複数の柱状導体113が基材111の内部に埋設された内層電極112を介して互いに導通している。尚、本実施例に係る基板においては、複数の柱状導体113からなる3つの表面電極を備える主面(図1における下側の主面。以降、「第1表面」とも称する)とは反対側の主面(図1における上側の主面。以降、「第2表面」とも称する)にも3つの表面電極が配設されており、これら第2表面上の3つの表面電極のうち2つは、内層電極112を介して、第1表面上の複数の柱状導体113からなる3つの表面電極と導通している。一方、これら第2表面上の3つの表面電極のうち1つは、内層電極を介して、第1表面上に配設された、複数の柱状導体113からなる3つの表面電極以外の、もう1つの表面電極と導通している。
本発明の1つの実施態様に係る基板110が備える複数の柱状導体113からなる3つの表面電極は、それぞれの表面電極を構成する複数の柱状導体113を介して、基板110とは別の基板上に配設されたパワー半導体素子114と接合されている。また、基板110の第1表面上に配設された、複数の柱状導体113からなる3つの表面電極以外の、もう1つの表面電極は、パワー半導体素子114が配設された基板上の電極と接合されている。更に、パワー半導体素子が配設された基板のパワー半導体素子114とは反対側の主面には、パワー半導体素子114から発生する熱を外部に放出するためのヒートシンクが配設されている。
尚、図1(b)は、図1(a)に示す点線で囲まれた、複数の柱状導体113とパワー半導体素子114との接合部近傍の拡大図である。図1(b)において、柱状導体113の基板110の主面に略平行な平面による断面の等価円直径(D)、柱状導体113の基材111から露出している部分の基板110の主面の略法線方向における長さ(L1)、及び柱状導体113の基材111中に埋設されている部分の基板110の主面の略法線方向における長さ(L2)を、それぞれ図中に示す。前述のように、本発明のより好ましい実施態様においては、上記D及びL1と、柱状導体113を構成する材質のヤング率(G)と、銅(Cu)のヤング率(Gcu)とが、0.1≦D/L1≦Gcu/G及びGcu/G>1/10によって表される関係を満たす場合に、上述のような高温環境下において当該基板110とパワー半導体素子114との間の熱歪みに起因して発生する応力を、柱状導体113の変形によって、更に効果的に吸収・緩和することができる。
図1(a)及び図1(b)に示すように、本実施例に係る基板110においては、当該基板110とパワー半導体素子114とを接合する表面電極のそれぞれが、複数の柱状導体113によって構成されている。これにより、例えば、本実施例に係る基板110とパワー半導体素子114との接合時及び当該基板110を含むパワーモジュール100の完成後の動作時等の高温環境下にあっても、表面電極を形成する複数の柱状導体113が変形することによって、当該基板110とパワー半導体素子114との間の熱歪みに起因して当該基板110とパワー半導体素子114との接合部に発生する応力を吸収・緩和して、当該応力に起因する当該基板110とパワー半導体素子114との接合部近傍の当該基板110やパワー半導体素子114及び当該接合部における亀裂の発生や、当該接合部の断線等の問題を低減することができる。
尚、前述のように、上記のような熱歪みに起因して発生する応力は、基板の主面に平行な面内方向のみならず、基板の主面の法線方向にも発生するが、本実施例に係る基板110においては、表面電極が複数の柱状導体113によって形成されていることから、何れの方向における応力も吸収・緩和することができる。
また、本実施例に係る基板110においては、表面電極が複数の柱状導体113によって形成されていることから、パワー半導体素子114と当該基板110との間における電流経路の導通抵抗(電気抵抗)を効果的に下げることができる。加えて、本実施例に係る基板110においては、表面電極が複数の柱状導体113によって形成されていることから、パワー半導体素子114と当該基板110との間において良好な熱伝導が行われるため、パワー半導体素子114と当該基板110との間における熱抵抗を効果的に下げ、パワー半導体素子114から発生する熱を効率良く外部に放出することができる。従って、図1(a)に示す実施態様においては、本実施例に係る基板110の第2表面に、例えば、パワー半導体素子114の動作を制御する制御用ICやコンデンサ等の回路素子が配設されているが、かかる回路素子に加えて、あるいは、かかる回路素子に代えて、当該基板110の第2表面にも第2のヒートシンクを配設し、パワー半導体素子114から発生する熱を、当該基板110を介して上記第2のヒートシンクに伝導して外部に放出することにより、パワーモジュール100の放熱効率を向上させることもできる。
更に、上述のように、本実施例に係る基板110においては、第1表面に形成された表面電極を形成する複数の柱状導体113が、基材111中に埋設された内層電極112を介して互いに導通している。これにより、パワー半導体素子114と当該基板110との間における電流経路や熱伝導経路を効果的に拡大することができるのみならず、特定の柱状導体113に電流や熱が集中して、熱歪みに起因して発生する応力が特定の柱状導体113に集中することを抑制することもできる。
以上のように、本実施例に係る基板110によれば、パワー半導体素子114と当該基板110との間における電気抵抗及び熱抵抗の増大を伴うこと無く、例えば、当該基板110とパワー半導体素子114との接合時及び当該基板110を含むパワーモジュール100の完成後の動作時等の高温環境下において当該基板110とパワー半導体素子114との間の熱歪みに起因して発生する応力を、表面電極を形成する複数の柱状導体113の変形によって吸収・緩和させることにより、当該応力に起因する当該基板110とパワー半導体素子114との接合部近傍の当該基板110やパワー半導体素子114及び当該接合部における亀裂の発生や、当該接合部の断線等の問題を低減することができる。
尚、図1に示す本実施例に係る基板及び当該基板を含むパワーモジュールの構成は、あくまでも一例に過ぎず、本発明に係る基板及び当該基板を含むパワーモジュールの構成は本実施例によって限定されるものと解釈されるべきではない。また、図1は、本発明の1つの実施態様に係る基板及び当該基板を含むパワーモジュールの構成を説明することを目的として示される模式図であり、本実施例に係る基板及び当該基板を含むパワーモジュールを構成する個々の構成要素の大きさや形状等は必ずしも正確なものではないことを念のため申し添えておく。
図2は、前述のように、本発明の1つの実施態様に係る基板の製造方法を説明する模式図である。本実施例に係る基板の製造方法においては、直径100μm、長さ200μmの銅(Cu)製のワイヤを柱状導体として採用し、前述のようにゲルキャスト法を利用して、部分的に基材中に埋設された状態で当該柱状導体を仮固定した。具体的には、図2(a)に示すように、200μmの間隔(ピッチ)にて複数の穴を設けた、75μmの厚みを有するPETシート製の保護基材201を用意し、図2(b)に示すように、それぞれの穴に、柱状導体202を挿入し、固定した。次に、図2(c)に示すように、斯くして柱状導体202が挿入・固定された保護基材201を金属枠(金型204)内に固定し、前述のように熱硬化性樹脂等を含むセラミック材料のスラリーを当該金属枠(金型204)中に流し込み、加熱することにより、当該スラリーを固化させた。次いで、図2(d)に示すように、斯くして得られたテープ状のセラミック成形体を他の誘電体セラミックシート(セラミック成形体205)と圧着して、セラミック成形体の積層体とし、当該積層体を焼成して、図2(e)に示す本実施例に係る基板200を製造した。
ところで、前述のように、本発明に係る基板においては、複数の柱状導体が、基材中に埋設された内層電極を介して互いに導通していることが必要である。上記説明を解り易くする目的で、本実施例においては割愛したが、セラミック成形体205の少なくとも柱状導体202と接触する領域には、個々の柱状導体202と導通する内層電極が配設されている必要がある。
尚、上記積層体の焼成時には、前述のように、主としてセラミックからなる基材(及び内層電極)は焼成に伴う収縮挙動(焼き締まり)を呈する。一方、銅(Cu)製のワイヤである柱状導体においては焼き締まりは起こらないことに加え、柱状導体202の基材中に埋設された側の端部は他のセラミック成形体205(に配設された内層電極)と接触することから、柱状導体202の基材中に埋設されていない端部側(柱状導体202が基材から露出している側)に、柱状導体202が更に突き出る。本実施例においては、上記積層体の焼成に伴い、柱状導体202がセラミックシートから更に25μm突き出た。これにより、焼成後の本実施例に係る基板200においては、柱状導体202の基材から露出している部分の(基板200の主面の略法線方向における)長さL1が100μmとなった(75+25=100μm)。また、柱状導体202の基材中に埋設されている部分の(基板の主面の略法線方向における)長さL2は、100μmとなった(200−100=100μm)。従って、焼成後の本実施例に係る基板200におけるD/L1は1.0となる(100/100=1.0)。
また、本実施例に係る基板200において採用した柱状導体202の材質は、上述のように銅(Cu)である。即ち、本実施例に係る基板200において採用した柱状導体202を構成する材質のヤング率(G)は、銅(Cu)のヤング率である110×109[N/m2]となる。一方、銅(Cu)のヤング率(Gcu)は、前述のように、110×109[N/m2]である。従って、本実施例に係る基板200における、柱状導体202を構成する材質のヤング率(G)に対する銅(Cu)のヤング率(Gcu)の比(Gcu/G)は1.0となる(110/110=1.0)。
以上より、焼成後の本実施例に係る基板200におけるD/L1(1.0)及びGcu/G(1.0)は、本発明のより好ましい実施態様において規定される前述の関係式0.1≦D/L1≦Gcu/G及びGcu/G>1/10の両方を満足している。このことから、本実施例に係る基板200は、前述のような高温環境下において当該基板200とパワー半導体素子との間の熱歪みに起因して発生する応力を、柱状導体202の変形によって、更に効果的に吸収・緩和することができるものと期待される。
そこで、上述のようにして得られた本実施例に係る基板200とパワー半導体素子とを、高温半田を用いて接合したところ、個々の柱状導体202が、高温半田により、パワー半導体表面素子の端子に接合・固定された。この際、セラミック基板200、パワー半導体素子、及び高温半田による接合部の何れにおいても、亀裂や断線等の異常の発生は観察されなかった。
図3は、前述のように、本発明のもう1つの実施態様に係る基板の製造方法を説明する模式図である。本実施例に係る基板の製造方法においては、直径50μm、長さ300μmの銀(Ag)製のワイヤを柱状導体として採用した。また、本実施例に係る基板の製造方法においては、前述のようにドクターブレード法等の手法によって成形されたグリーンシートを利用して、基材中に完全に埋設された状態で当該柱状導体を仮固定した。具体的には、図3(a)に示すように、300μmの厚みを有するセラミックグリーンシート206に柱状導体202を突き刺して埋設することにより、150μmの間隔(ピッチ)を有するアレー状に柱状導体202を配列した。次に、図3(b)に示すように、斯くして得られたセラミックグリーンシート206を他のセラミックグリーンシート207と積層し、当該積層体を焼成して、図3(c)に示す本実施例に係る基板200を製造した。
ところで、前述のように、本発明に係る基板においては、複数の柱状導体が、基材中に埋設された内層電極を介して互いに導通していることが必要である。上記説明を解り易くする目的で、本実施例においては割愛したが、セラミックグリーンシート207の少なくとも柱状導体202と接触する領域には、個々の柱状導体202と導通する内層電極が配設されている必要がある。
尚、本実施例に係る基板200においては、上記積層体の焼成に伴い、柱状導体202がセラミックグリーンシートから60μm突き出た。即ち、焼成後の本実施例に係る基板200において、柱状導体202の基材から露出している部分の(基板の主面の略法線方向における)長さL1は60μm、柱状導体202の基材中に埋設されている部分の(基板の主面の略法線方向における)長さL2は240μmであった(300−60=240μm)。従って、焼成後の本実施例に係る基板200におけるD/L1は約0.8となる(50/60≒0.8)。
また、本実施例に係る基板200において採用した柱状導体202の材質は、上述のように銀(Ag)である。即ち、本実施例に係る基板200において採用した柱状導体202を構成する材質のヤング率(G)は、銀(Ag)のヤング率である76×109[N/m2]となる。一方、銅(Cu)のヤング率(Gcu)は、前述のように、110×109[N/m2]である。従って、本実施例に係る基板200における、柱状導体202を構成する材質のヤング率(G)に対する銅(Cu)のヤング率(Gcu)の比(Gcu/G)は約1.4となる(110/76≒1.4)。
以上より、焼成後の本実施例に係る基板200におけるD/L1(約0.8)及びGcu/G(約1.4)は、本発明のより好ましい実施態様において規定される前述の関係式0.1≦D/L1≦Gcu/G及びGcu/G>1/10の両方を満足している。このことから、本実施例に係る基板200もまた、前述のような高温環境下において当該基板200とパワー半導体素子との間の熱歪みに起因して発生する応力を、柱状導体202の変形によって、更に効果的に吸収・緩和することができるものと期待される。
そこで、上述のようにして得られた本実施例に係る基板200とパワー半導体素子とを、高温半田を用いて接合したところ、個々の柱状導体202が、高温半田により、パワー半導体表面素子の端子に接合・固定された。この際、セラミック基板200、パワー半導体素子、及び高温半田による接合部の何れにおいても、亀裂や断線等の異常の発生は観察されなかった。
本実施例に係る基板の製造方法については、対応する図面は添付していない。本実施例に係る基板の製造方法においては、直径300μm、長さ1000μmの銅(Cu)製のワイヤを柱状導体として採用した。また、本実施例に係る基板の製造方法においては、前述のようにドクターブレード法等の手法によって成形されたグリーンシートを利用して、基材中に部分的に埋設された状態で当該柱状導体を仮固定した。具体的には、300μmの厚みを有するセラミックグリーンシートに、600μmの間隔(ピッチ)にてアレー状に配列された、280μmの直径を有する複数の穴を設けた。次に、それぞれの穴に、上記柱状導体を挿入し、固定した。斯くして得られたセラミックグリーンシートを他のセラミックグリーンシートと積層し、当該積層体を焼成して、本実施例に係る基板を製造した。
ところで、前述のように、本発明に係る基板においては、複数の柱状導体が、基材中に埋設された内層電極を介して互いに導通していることが必要である。上記説明を解り易くする目的で、本実施例においては割愛したが、上記他のセラミックグリーンシートの少なくとも柱状導体と接触する領域には、個々の柱状導体と導通する内層電極が配設されている必要がある。
尚、本実施例に係る基板においては、上記積層体の焼成に伴い、柱状導体がセラミックグリーンシートから更に60μm突き出た。これにより、焼成後の本実施例に係る基板においては、柱状導体の基材から露出している部分の(基板の主面の略法線方向における)長さL1が760μmとなった(1000−300+60=760μm)。また、柱状導体の基材中に埋設されている部分の(基板の主面の略法線方向における)長さL2は、240μmとなった(1000−760=240μm)。従って、焼成後の本実施例に係る基板におけるD/L1は約0.4となる(300/760≒0.4)。
また、本実施例に係る基板において採用した柱状導体の材質は、上述のように銅(Cu)である。即ち、本実施例に係る基板において採用した柱状導体を構成する材質のヤング率(G)は、銅(Cu)のヤング率である110×109[N/m2]となる。一方、銅(Cu)のヤング率(Gcu)は、前述のように、110×109[N/m2]である。従って、本実施例に係る基板における、柱状導体を構成する材質のヤング率(G)に対する銅(Cu)のヤング率(Gcu)の比(Gcu/G)は1.0となる(110/110=1.0)。
以上より、焼成後の本実施例に係る基板におけるD/L1(約0.4)及びGcu/G(1.0)は、本発明のより好ましい実施態様において規定される前述の関係式0.1≦D/L1≦Gcu/G及びGcu/G>1/10の両方を満足している。このことから、本実施例に係る基板もまた、前述のような高温環境下において当該基板とパワー半導体素子との間の熱歪みに起因して発生する応力を、柱状導体の変形によって、更に効果的に吸収・緩和することができるものと期待される。
そこで、上述のようにして得られた本実施例に係る基板とパワー半導体素子とを、高温半田を用いて接合したところ、個々の柱状導体が、高温半田により、パワー半導体表面素子の端子に接合・固定された。この際、セラミック基板、パワー半導体素子、及び高温半田による接合部の何れにおいても、亀裂や断線等の異常の発生は観察されなかった。
本実施例においては、本発明に係る基板の製造方法ではなく、比較例に係る基板の製造方法について説明する。本実施例に係る基板の製造方法においては、直径100μm、長さ150μmの銅(Cu)製のワイヤを柱状導体として採用し、前述のようにゲルキャスト法を利用して、部分的に基材中に埋設された状態で当該柱状導体を仮固定した。具体的には、200μmの間隔(ピッチ)にて複数の穴を設けた、75μmの厚みを有するPETシート製の保護基材を用意し、それぞれの穴に、上記柱状導体を挿入し、固定した。次に、斯くして柱状導体が挿入・固定された保護基材を金属枠(金型)内に固定し、前述のように熱硬化性樹脂等を含むセラミック材料のスラリーを当該金属枠(金型)中に流し込み、加熱することにより、当該スラリーを固化させた。次いで、斯くして得られたテープ状のセラミック成形体を他の誘電体セラミックシート(セラミック成形体)と圧着して、セラミック成形体の積層体とし、当該積層体を焼成して、本実施例に係る基板を製造した。
尚、本実施例に係る基板においては、上記積層体の焼成に伴い、柱状導体がセラミックグリーンシートから更に15μm突き出た。これにより、焼成後の本実施例に係る基板においては、柱状導体の基材から露出している部分の(基板の主面の略法線方向における)長さL1が90μmとなった(75+15=90μm)。また、柱状導体の基材中に埋設されている部分の(基板の主面の略法線方向における)長さL2は、60μmとなった(150−90=60μm)。従って、焼成後の本実施例に係る基板におけるD/L1は約1.1となる(100/90≒1.1)。
また、本実施例に係る基板において採用した柱状導体の材質は、上述のように銅(Cu)である。即ち、本実施例に係る基板において採用した柱状導体を構成する材質のヤング率(G)は、銅(Cu)のヤング率である110×109[N/m2]となる。一方、銅(Cu)のヤング率(Gcu)は、前述のように、110×109[N/m2]である。従って、本実施例に係る基板における、柱状導体を構成する材質のヤング率(G)に対する銅(Cu)のヤング率(Gcu)の比(Gcu/G)は1.0となる(110/110=1.0)。
以上より、焼成後の本実施例に係る基板におけるGcu/G(1.0)は、本発明のより好ましい実施態様において規定される前述の関係式Gcu/G>1/10を満足しているものの、D/L1(約1.1)は、本発明のより好ましい実施態様において規定される前述の関係式0.1≦D/L1≦Gcu/Gを満足していない。このことから、本実施例に係る基板は、前述のような高温環境下において当該基板とパワー半導体素子との間の熱歪みに起因して発生する応力を、柱状導体の変形によって、効果的に吸収・緩和することができないものと危惧される。
そこで、上述のようにして得られた本実施例に係る基板とパワー半導体素子とを、高温半田を用いて接合したところ、個々の柱状導体が、高温半田により、パワー半導体表面素子の端子に接合・固定された。しかしながら、比較例としての本実施例においては、セラミック基板表面における柱状導体の根元部近傍に亀裂の発生が認められた。
次に、本実施例においては、柱状導体の直径(D)及び焼成後の基板において基材から露出している柱状導体の(基板の主面の略法線方向における)長さ(L1)を種々に変更することにより、これらの比(D/L1)を種々に変更して、各種サンプル基板を製造した。尚、本実施例においては、基材を構成するセラミック材料として前述のLTCCを採用し、柱状導体の素材として銀(Ag)を採用し、前述のようにゲルキャスト法を利用して、部分的に基材中に埋設された状態で当該柱状導体を仮固定した。その他の製造工程については、前述の実施例1と同様である。
本実施例において製造した各種サンプル基板において採用した柱状導体の材質は上述のように銀(Ag)である。また、銀(Ag)及び銅(Cu)のヤング率は、前述のように、それぞれ76×109[N/m2]及び110×109[N/m2]である。結果として、本実施例において製造した各種サンプル基板において採用した柱状導体を構成する材質のヤング率(G)に対する銅(Cu)のヤング率(Gcu)の比(Gcu/G)は約1.4となる(110/76≒1.4)。従って、本実施例において、本発明のより好ましい実施態様において規定される前述の関係式0.1≦D/L1≦Gcu/Gを満足するD/L1の範囲は、0.1以上であり、約1.4以下である。尚、本実施例におけるGcu/Gの値(約1.4)は、本発明のより好ましい実施態様において規定される前述の関係式Gcu/G>1/10を満足している。
以上のように製造した各種サンプル基板とパワー半導体素子とを高温半田を用いて接合し、サンプル基板とパワー半導体素子との接合部における断線の発生状況及びサンプル基板の表面における柱状導体の根元部近傍での亀裂の発生状況について観察した結果を以下の表1に列挙する。
表1に列挙した結果からも明らかであるように、本実施例において製造した各種サンプル基板の構成においては、柱状導体の直径(D)と焼成後の基板において基材から露出している柱状導体の(基板の主面の略法線方向における)長さ(L1)との種々の組み合わせを有する各種サンプル基板の中でも、これらの比(D/L1)が本発明のより好ましい実施態様において規定される前述の関係式0.1≦D/L1≦Gcu/G(具体的には、0.1≦D/L1≦約1.4)を満足するサンプル基板においてのみ、サンプル基板とパワー半導体素子とを高温半田を用いて接合した際に、サンプル基板とパワー半導体素子との接合部における断線及びサンプル基板の表面における柱状導体の根元部近傍での亀裂が何れも発生していない。
以上の結果から、焼成後において本発明のより好ましい実施態様において規定される前述の関係式0.1≦D/L1≦Gcu/G及びGcu/G>1/10の両方を満足するD/L1及びGcu/Gを有する本発明に係る基板においては、前述のような高温環境下においても、セラミック基板とパワー半導体素子との間の熱歪みに起因して発生する応力を、表面電極を構成する柱状導体の変形によって更に効果的に吸収・緩和することにより、当該応力に起因するセラミック基板とパワー半導体素子との接合部近傍のセラミック基板やパワー半導体素子及び当該接合部における亀裂の発生や、当該接合部の断線等の問題を更に効果的に低減することができることが確認された。
本実施例においても、前述の実施例6と同様に、柱状導体の直径(D)及び焼成後の基板において基材から露出している柱状導体の(基板の主面の略法線方向における)長さ(L1)を種々に変更することにより、これらの比(D/L1)を種々に変更して、各種サンプル基板を製造した。尚、本実施例においては、柱状導体の素材としてニッケル(Ni)を採用した。その他の事項については、前述の実施例6と同様である。
本実施例において製造した各種サンプル基板において採用した柱状導体の材質は上述のようにニッケル(Ni)である。また、ニッケル(Ni)及び銅(Cu)のヤング率は、それぞれ207×109[N/m2]及び110×109[N/m2]である。結果として、本実施例において製造した各種サンプル基板において採用した柱状導体を構成する材質のヤング率(G)に対する銅(Cu)のヤング率(Gcu)の比(Gcu/G)は約0.5となる(110/207≒0.5)。従って、本実施例において、本発明のより好ましい実施態様において規定される前述の関係式0.1≦D/L1≦Gcu/Gを満足するD/L1の範囲は、0.1以上であり、約0.5以下である。尚、本実施例におけるGcu/Gの値(約0.5)は、本発明のより好ましい実施態様において規定される前述の関係式Gcu/G>1/10を満足している。
以上のように製造した各種サンプル基板とパワー半導体素子とを高温半田を用いて接合し、サンプル基板とパワー半導体素子との接合部における断線の発生状況及びサンプル基板の表面における柱状導体の根元部近傍での亀裂の発生状況について観察した結果を以下の表2に列挙する。
表2に列挙した結果からも明らかであるように、本実施例において製造した各種サンプル基板の構成においては、柱状導体の直径(D)と焼成後の基板において基材から露出している柱状導体の(基板の主面の略法線方向における)長さ(L1)との種々の組み合わせを有する各種サンプル基板の中でも、これらの比(D/L1)が本発明のより好ましい実施態様において規定される前述の関係式0.1≦D/L1≦Gcu/G(具体的には、0.1≦D/L1≦約0.5)を満足するサンプル基板においてのみ、サンプル基板とパワー半導体素子とを高温半田を用いて接合した際に、サンプル基板とパワー半導体素子との接合部における断線及びサンプル基板の表面における柱状導体の根元部近傍での亀裂が何れも発生していない。
以上の結果から、焼成後において本発明のより好ましい実施態様において規定される前述の関係式0.1≦D/L1≦Gcu/G及びGcu/G>1/10の両方を満足するD/L1及びGcu/Gを有する本発明に係る基板においては、前述のような高温環境下においても、セラミック基板とパワー半導体素子との間の熱歪みに起因して発生する応力を、表面電極を構成する柱状導体の変形によって更に効果的に吸収・緩和することにより、当該応力に起因するセラミック基板とパワー半導体素子との接合部近傍のセラミック基板やパワー半導体素子及び当該接合部における亀裂の発生や、当該接合部の断線等の問題を更に効果的に低減することができることが改めて確認された。
以上、本発明を説明することを目的として、特定の構成を有する幾つかの実施態様について説明してきたが、本発明の範囲は、これらの例示的な実施態様に限定されるものではなく、特許請求の範囲及び明細書に記載された事項の範囲内で、適宜修正を加えることができることは言うまでも無い。