(第1の形態)
図1は、本発明の第1の形態に係る駆動装置のスケルトン図を示している。この駆動装置10Aは、車両1に搭載されるものであり、内燃機関(以下、エンジンと称することがある。)11を備えている。エンジン11は、車両に搭載される周知のものであるため、詳細な説明は省略する。エンジン11の出力軸11aはトルクコンバータ12と接続されている。トルクコンバータ12は、出力軸11aが一体回転するように連結されたポンプ13と、そのポンプ13と組み合わされるタービン14とを備えている。このトルクコンバータ12には、ポンプ13とタービン14とが一体に回転するように連結する連結状態と、その連結を解除する解放状態とに切替可能なロックアップクラッチ15が設けられている。
トルクコンバータ12のタービン14は、エンジン11の回転を変速可能であるとともにその回転方向を切替可能な動力伝達機構16と接続されている。動力伝達機構16は、回転制御用遊星歯車機構17と、駆動輪2に動力を出力するための出力軸18とを備えている。図示は省略したが、出力軸18の動力は、変速機及びディファレンシャル機構等を経由して駆動輪2に伝達される。出力軸18は、駆動輪2に動力を出力可能であるとともに駆動輪2から動力が伝達された場合は回転するように設けられている。すなわち、出力軸18は、駆動輪2との間で相互に動力を伝達可能なように設けられている。そのため、出力軸18が本発明の出力部材に相当する。
回転制御用遊星歯車機構17は、シングルプラネタリ型の遊星歯車機構であり、外歯歯車であるサンギアS1と、そのサンギアS1に対して同軸的に配置された内歯歯車であるリングギアR1と、これらのギアS1、R1に噛み合うピニオンギアP1を自転可能かつサンギアS1の周囲を公転可能に保持するキャリアC1とを備えている。リングギアR1はタービン14と連結され、サンギアS1は出力軸18と連結されている。また、動力伝達機構16は、リングギアR1とキャリアC1とが一体に回転するようにこれらを連結する係合状態とその連結を解除する解放状態とに切替可能な伝達制御クラッチ手段としての伝達制御クラッチ19と、キャリアC1を制動する制動状態とその制動を解除する制動解除状態とに切替可能な伝達制御ブレーキ手段としての伝達制御ブレーキ20とを備えている。このように各部と連結されることにより、サンギアS1が本発明の差動機構の第1回転要素に、リングギアR1が本発明の差動機構の第2回転要素に、キャリアC1が本発明の差動機構の第3回転要素にそれぞれ相当する。
この図に示すように車両1には、オイルポンプ3、エアコンのコンプレッサ4、ブレーキに使用するための負圧を発生させるための負圧ポンプ5、及びオルタネータ6等の複数の補機が設けられている。これらの補機は、それぞれ回転駆動されることによって動作する。以降、これらの補機を区別する必要がない場合は、単に補機と称することがある。
駆動装置10Aは、これら補機を駆動するための補機駆動機構21を備えている。補機駆動機構21は、ポンプ13に設けられた第1一方向クラッチ22と、出力軸18に設けられた第2一方向クラッチ23と、補機に動力を出力するための伝達部材としての伝達軸24とを備えている。第1一方向クラッチ22は、内輪22a及び外輪22bを備え、内輪22aの回転数が外輪22bの回転数以上の場合は内輪22aと外輪22bとが一体に回転し、内輪22aの回転数が外輪22bの回転数未満の場合は内輪22aと外輪22bとが別々に回転するように構成されている。第2一方向クラッチ23も同様に、内輪23a及び外輪23bを備え、内輪23aの回転数が外輪23bの回転数以上の場合は内輪23aと外輪23bとが一体に回転し、内輪23aの回転数が外輪23bの回転数未満の場合は内輪23aと外輪23bとが別々に回転するように構成されている。伝達軸24の一端には第1プーリ25が設けられ、他端には第2プーリ26が設けられている。第1一方向クラッチ22の外輪22bと第1プーリ25とには、第1ベルト27が巻き掛けられている。このように第1ベルト27を巻き掛けることにより、第1一方向クラッチ22によってポンプ13から伝達軸24への動力伝達は許容され、伝達軸24からポンプ13への動力伝達は阻止される。第2一方向クラッチ23の外輪23bと第2プーリ26とには、第2ベルト28が巻き掛けられている。このように第2ベルト28を巻き掛けることにより、第2一方向クラッチ23によって出力軸18から伝達軸24への動力伝達は許容され、伝達軸24から出力軸18への動力伝達は阻止される。伝達軸24には、出力軸18と補機との間で動力が伝達される係合状態と、出力軸18と補機との間の動力伝達が阻止される解放状態とに切替可能な補機クラッチ手段としての補機クラッチ29が設けられている。
この補機駆動機構21では、第1一方向クラッチ22の外輪22bと第1プーリ25との間の速度比と、第2一方向クラッチ23の外輪23bと第2プーリ26との間の速度比とは同じに設定されている。この場合、ポンプ13の回転数が出力軸18の回転数より高い場合はポンプ13の動力が伝達軸24に伝達される。一方、補機クラッチ29が係合状態であり、かつポンプ13の回転数が出力軸18の回転数より低い場合は出力軸18の動力が伝達軸24に伝達される。このように補機駆動機構21は、ポンプ13と出力軸18とのうち回転数が高い方の動力が補機に伝達されるように補機の接続先をポンプ13又は出力軸18のいずれか一方に選択的に切替可能に構成されている。なお、第1一方向クラッチ22の外輪22bと第1プーリ25との間の速度比と、第2一方向クラッチ23の外輪23bと第2プーリ26との間の速度比とが異なっていてもよい。この場合は、ポンプ13の回転数、出力軸18の回転数、及び速度比の差に応じて補機の接続先が切り替えられる。
伝達制御クラッチ19、伝達制御ブレーキ20、及び補機クラッチ29の動作は、制御手段としてのエンジンコントロールユニット(以下、ECUと呼ぶ。)30にて制御される。ECU30は、マイクロプロセッサ及びその動作に必要なRAM、ROM等の周辺機器を含んだコンピュータユニットであり、車両1に設けられた各種センサからの出力信号に基づいてエンジン11の運転状態等を制御する周知のコンピュータユニットである。ECU30は、例えば車両1の減速時又はエンジン11の回転数が所定の判定回転数以上の場合にはエンジン11への燃料供給を停止する、いわゆるフューエルカットを実行する。また、ECU30は、車両1の速度に応じてロックアップクラッチ15の状態を切り替える。ECU30には、例えば車両1の速度に対応した信号を出力する車速センサ31、アクセルの開度に応じた信号を出力するアクセル開度センサ32、及びエンジン11のクランク軸の回転速度に対応した信号を出力するクランク角センサ33等が接続されている。この他にもECU30には種々のセンサが接続されているがそれらの図示は省略した。また、ECU30には、センサの他にシフト操作装置34が接続されている。シフト操作装置34は、前進走行レンジとしてのドライブレンジ(Dレンジ)、ニュートラル(N)レンジ、及び後進走行レンジとしてのリバースレンジ(Rレンジ)を含む複数のレンジ間で切り替え操作可能な周知のものである。
ECU30は、車両1の走行状態及びエンジン11の運転状態に応じて伝達制御クラッチ19、伝達制御ブレーキ20、及び補機クラッチ29の動作を制御し、これにより駆動装置10Aにおける動力伝達状態を切り替える。図2及び図3を参照して駆動装置10Aの各動力伝達状態について説明する。図2はエンジン11が運転されている場合の共線図を示し、図3はエンジン11に対してフューエルカットが実行されている場合の共線図を示している。これらの図中の「S1」、「C1」、「R1」はそれぞれ回転制御用遊星歯車機構17のサンギアS1、キャリアC1、リングギアR1を示している。また、これらの図の右端に示されている補機(ポンプ側)は、伝達軸24のポンプ13側の一端24aから補機に伝達される回転数を示し、左端に示されている補機(出力軸側)は伝達軸24の出力軸18側の他端24bから補機に伝達される回転数を示している。そして、図2の実線F1は車両1が前進走行中のときの動力伝達状態を、実線B1は車両1が後進走行中のときの動力伝達状態を、実線N1はシフト操作装置34がNレンジであり、かつ車両1が停止中のときの動力伝達状態をそれぞれ示している。図3の実線F2は車両1が前進走行中のときの動力伝達状態を、実線B2は車両1が後進走行中のときの動力伝達状態をそれぞれ示している。なお、これらの図に示した動力伝達状態では、いずれもロックアップクラッチ15は解放状態に切り替えられている。
まず、図2を参照してエンジン11が運転中であり、かつ車両1が前進走行中の場合について説明する。この場合、ECU30は伝達制御クラッチ19を係合状態に、伝達制御ブレーキ20を制動解除状態に、補機クラッチ29を解放状態にそれぞれ切り替える。この動力伝達状態では補機クラッチ29が解放状態であるため、補機にはポンプ13側から動力が伝達される。そのため、この図に示すように右端の補機(ポンプ側)の回転数がポンプ13の回転数と同じになり、出力軸側からの回転は伝達されない。従って、補機はエンジン11の動力にて駆動される。ポンプ13の動力はオイルを介してタービン14にも伝達されるが上述したようにロックアップクラッチ15は解放状態であるため、タービン14の回転数はポンプ13の回転数よりも若干低下する。タービン14の動力は回転制御用遊星歯車機構17を介して出力軸18に伝達される。この際、伝達制御クラッチ19が係合状態であり、伝達制御ブレーキ20が制動解除状態であるため、実線F1で示したようにサンギアS1、リングギアR1、及びキャリアC1は、一体に回転する。そのため、タービン14の回転数と出力軸18の回転数は同じになる。
エンジン11が運転中であり、かつ車両1が後進走行中の場合について説明する。この場合、ECU30は、伝達制御クラッチ19を解放状態に、伝達制御ブレーキ20を制動状態に、補機クラッチ29を解放状態にそれぞれ切り替える。この動力伝達状態においても上述した前進走行中の場合と同様に補機クラッチ29が解放状態であるため、補機(ポンプ側)の回転数がポンプ13の回転数と同じになり、補機(出力軸側)の回転数が0になる。そのため、この場合も補機はエンジン11の動力にて駆動される。タービン14に伝達された動力は実線B1で示すように回転制御用遊星歯車機構17において回転方向が逆方向に変更され、その後出力軸18に伝達される。
エンジン11が運転中であり、かつシフト操作装置34がNレンジであるとともに車両1が停止中の場合について説明する。この場合、ECU30は、伝達制御クラッチ19を解放状態に、伝達制御ブレーキ20を制動解除状態に、補機クラッチ29を解放状態にそれぞれ切り替える。この動力伝達状態においても上述した前進走行中及び後進走行中と同様に補機クラッチ29が解放状態であるため、補機(ポンプ側)の回転数がポンプ13の回転数と同じになり出力軸側からの回転は伝達されない。そのため、この場合も補機はエンジン11の動力にて駆動される。この場合、実線N1で示すように車両1が停止中であるため出力軸18の回転数、すなわちサンギアS1の回転数が0になる。そして、リングギアR1及びキャリアC1がタービン14によって回転駆動される。
次に図3を参照してエンジン11に対してフューエルカットが実行されており、かつ車両1が前進走行中の場合について説明する。この状態においては車両1が前進方向に慣性走行している。この場合、ECU30は伝達制御クラッチ19を解放状態に、伝達制御ブレーキ20を制動解除状態に、補機クラッチ29を係合状態にそれぞれ切り替える。この動力伝達状態では、フューエルカット中であるためポンプ13の回転数、すなわちエンジン11の回転数が0になる。一方、車両1は走行中であるため、出力軸18は駆動輪2によって回転駆動される。そして、補機クラッチ29が係合状態であるため、補機には出力軸18側から動力が伝達される。また、この図に示すように左端の補機(出力軸側)の回転数及び右端の補機(ポンプ側)の回転数がそれぞれ出力軸18の回転数と同じになる。従って、補機は駆動輪2から伝達された動力にて駆動される。なお、伝達軸24からポンプ13への動力伝達は第1一方向クラッチ22によって阻止されるので、ポンプ13の回転数は0に維持される。実線F2で示すようにキャリアC1及びリングギアR1は、それぞれサンギアS1の回転に引き摺られて回転する。ただし、キャリアC1が空転するためリングギアR1は殆ど回転しない。そのため、出力軸18とタービン14との間の動力伝達が制限される。
エンジン11に対してフューエルカットが実行されており、かつ車両1が後進走行中の場合について説明する。この状態においては車両1が後進方向に慣性走行している。この場合も、ECU30は伝達制御クラッチ19を解放状態に、伝達制御ブレーキ20を制動解除状態に、補機クラッチ29を係合状態にそれぞれ切り替える。エンジン11が停止中であり、かつ車両1が後進走行中の場合には、実線B2で示すように駆動輪2から伝達軸24に動力が伝達されないので、伝達軸24の回転数が0になる。そのため、補機(出力軸側)及び補機(ポンプ側)のそれぞれの回転数は0になる。
ECU30は、車両1が前進方向に慣性走行をしている状態からエンジン11を始動する場合には、伝達制御クラッチ19を係合状態に切り替えるとともにロックアップクラッチ15を連結状態に切り替える。これにより駆動輪2の動力が動力伝達機構16及びトルクコンバータ12を介してエンジン11まで伝達されるので、駆動輪2の動力によってエンジン11がクランキングされる。
この第1の形態の駆動装置10Aによれば、図2に示したようにエンジン11の運転中はエンジン11の動力によって補機が駆動される。一方、図3に示したように車両1が前進方向に慣性走行している場合には駆動輪2の動力によって補機が駆動される。この際、伝達制御クラッチ19が解放状態に、伝達制御ブレーキ20が制動解除状態にそれぞれ切り替えられる。これによりタービン14と出力軸18との間の動力伝達を制限することができるので、駆動輪2の動力が動力伝達機構16を介してポンプ13に伝達されることを抑制できる。これにより、駆動輪2の動力が無駄に消費されることを抑制できる。そのため、エネルギの回収効率を向上させることができる。なお、伝達制御クラッチ19が本発明のクラッチに相当し、伝達制御クラッチ19の係合状態が本発明のクラッチの動力伝達状態に相当する。また、回転制御用遊星歯車機構17が本発明の差動機構に相当し、伝達制御ブレーキ20が本発明のブレーキに相当する。
また、この形態では、車両1が前進方向に慣性走行している状態からエンジン11を始動する場合には駆動輪2の動力によってエンジン11のクランキングを行うので、始動モータを動作させる必要がない。そのため、始動時に消費されるエネルギを低減できる。
(第2の形態)
図4〜図6を参照して本発明の第2の形態について説明する。なお、図4は、第2の形態に係る駆動装置10Bのスケルトン図を示している。また、図5はエンジン11が運転されている場合の共線図を示し、図6はエンジン11に対してフューエルカットが実行されている場合の共線図を示している。なお、これらの図において第1の形態と共通の部分には同一の符号を付して説明を省略する。図4に示すようにこの形態の駆動装置10Bでは、第1一方向クラッチ22の外輪22bとポンプ13との間で動力が伝達される係合状態と、第1方向クラッチ22の外輪22bとポンプ13との間の動力伝達が遮断される解放状態とに切替可能なクラッチ手段としての切替クラッチ40がポンプ13に設けられている点が第1の形態と異なる。それ以外は第1の形態と同じである。
切替クラッチ40の動作は、ECU30によって制御される。ECU30は、エンジン11が運転中の場合には切替クラッチ40を係合状態に切り替える。なお、伝達制御クラッチ19、伝達制御ブレーキ20、及び補機クラッチ29は、第1の形態と同様に制御される。この場合、ポンプ13と第1一方向クラッチ22の外輪22bとが一体に回転するので、エンジン11の動力が伝達軸24に伝達される。そのため、エンジン11によって補機が駆動される。図5は、このときの動力伝達状態を示している。この図に示すようにこの形態におけるエンジン11の運転中の動力伝達状態は上述した第1の形態と同じになる。
一方、ECU30は、エンジン11に対してフューエルカットが実行されている場合には切替クラッチ40を解放状態に切り替える。なお、この場合においても伝達制御クラッチ19、伝達制御ブレーキ20、及び補機クラッチ29は、第1の形態と同様に制御される。この場合、第1一方向クラッチ22及び切替クラッチ40によってポンプ13と伝達軸24との間の動力伝達が遮断される。そのため、図6に実線F2で示すように第1の形態と同様に補機は出力軸18の動力によって駆動される。また、車両1が後進方向に慣性走行している場合には、実線B2で示すように補機が逆方向に駆動されることを防止できる。
この形態おいてECU30は、車両1が前進方向に慣性走行している状態からエンジン11を始動する場合に切替クラッチ40を係合状態に切り替える。なお、この形態では伝達制御クラッチ19及びロックアップクラッチ15はそれぞれ解放状態に維持される。上述したように車両1が前進方向に慣性走行しているときは、補機クラッチ29が係合状態である。そのため、切替クラッチ40を係合状態に切り替えることにより、図6に破線Stで示したように出力軸18の動力が伝達軸24及び切替クラッチ40を介してポンプ13に伝達される。そのため、この動力によってエンジン11をクランキングすることができる。なお、この際にはタービン14もポンプ13に引き摺られて回転する。
この第2の形態では、ポンプ13に切替クラッチ40を設けたので、ロックアップクラッチ15及び伝達制御クラッチ19を操作することなくエンジン11のクランキングを行うことができる。そのため、車両1の慣性走行時にエンジン11を始動する場合の制御を簡略化できる。また、ロックアップクラッチ15には、ポンプ13がエンジン11によって駆動されていない場合は連結状態に切り替えることができないものもある。この形態では、ロックアップクラッチ15を連結状態に切り替えることなく駆動輪2の動力をエンジン11に伝達できるので、このようなロックアップクラッチ15が設けられていてもエンジン11を駆動輪2の動力でクランキングすることができる。なお、この形態においては、第1一方向クラッチ22は省略し、ポンプ13と伝達軸24の間の動力伝達状態の切り替えを切替クラッチ40のみで行ってもよい。
(第1の参考例)
図7〜図9を参照して本発明の実施形態と共通の部分を有する第1の参考例に係る駆動装置10Cについて説明する。図7は、第1の参考例に係る駆動装置10Cのスケルトン図を示している。図8は、エンジン11が運転されている場合の共線図を示し、図9はエンジン11に対してフューエルカットが実行されている場合の共線図を示している。なお、これらの図において上述した本発明の実施の形態と共通の部分には同一の符号を付して説明を省略する。
図7に示すようにこの参考例の駆動装置10Cでは、回転制御用遊星歯車機構17のキャリアC1に円筒状の出力部材50が設けられている。この参考例では、第2一方向クラッチ23が出力部材50に設けられている。なお、この参考例では、出力部材50が本発明の出力部材に対応し、出力軸18は本発明の被駆動部材に対応する。補機駆動機構21は、動力切替用遊星歯車機構51を備えている。動力切替用遊星歯車機構51は、シングルプラネタリ型の遊星歯車機構であり、外歯歯車であるサンギアS2と、そのサンギアS2に対して同軸的に配置された内歯歯車であるリングギアR2と、これらのギアS2、R2に噛み合うピニオンギアP2を自転可能かつサンギアS2の周囲を公転可能に保持するキャリアC2とを備えている。リングギアR2は第1プーリ25と連結され、サンギアS2は第2プーリ26と連結されている。また、キャリアC2は、伝達軸24と連結されている。第1ベルト27は、ポンプ13と第1プーリ25とに巻き掛けられている。第2ベルト28は、第2一方向クラッチ23の外輪23bと第2プーリ26とに巻き掛けられている。また、補機駆動機構21は、動力切替用遊星歯車機構51のリングギアR2を制動する制動状態とその制動を解除する制動解除状態とに切替可能なブレーキ手段としての切替ブレーキ52を備えている。このように各部と連結されることにより、サンギアS2が本発明の動力切替用遊星歯車機構の第1回転要素に、リングギアR2が本発明の動力切替用遊星歯車機構の第2回転要素に、キャリアC2が本発明の動力切替用遊星歯車機構の第3回転要素にそれぞれ相当する。
この参考例では、ECU30は、車両1の走行状態及びエンジン11の運転状態に応じて伝達制御クラッチ19、伝達制御ブレーキ20、及び切替ブレーキ52の動作を制御し、これにより駆動装置10Cにおける動力伝達状態を切り替える。図8は、エンジン11が運転されている場合の共線図を示し、図9はエンジン11に対してフューエルカットが実行されている場合の共線図を示している。なお、これらの図中の「S2」、「C2」、「R2」はそれぞれ動力切替用遊星歯車機構51のサンギアS2、キャリアC2、リングギアR2を示している。図8の実線F3a、F3bは、車両1が前進走行中のときの動力伝達状態を、実線B3a、B3bは車両1が後進走行中のときの動力伝達状態を、実線N3a、N3bはシフト操作装置34がNレンジであり、かつ車両1が停止中のときの動力伝達状態をそれぞれ示している。図9の実線F4a、F4bは車両1が前進走行中のときの動力伝達状態を示している。これらの動力伝達状態では、いずれもロックアップクラッチ15は解放状態に切り替えられている。なお、これらの動力伝達状態の他に、車両1が前進走行中であり、かつロックアップクラッチ15が連結状態のときの動力伝達状態を図8に実線F3bONで示した。
まず、図8を参照してエンジン11が運転中であり、かつ車両1が前進走行中の場合について説明する。この場合、ECU30は伝達制御クラッチ19を係合状態に、伝達制御ブレーキ20を制動解除状態に、切替ブレーキ52を制動解除状態にそれぞれ切り替える。この動力伝達状態では、切替ブレーキ52が解放状態であるため、動力切替用遊星歯車機構51のリングギアR2はポンプ13と同じ回転数で回転する。また、伝達制御クラッチ19が係合状態であり、かつ伝達制御ブレーキ20が制動解除状態であるため、実線F3aで示したように回転制御用遊星歯車機構17のリングギアR1、キャリアC1、及びサンギアS1は一体に回転する。これにより出力軸18はタービン14と同じ回転数で回転する。そして、この動力伝達状態では、第2一方向クラッチ23の内輪23aと外輪23bとが別々に回転するので、出力軸18側から動力切替用遊星歯車機構51への動力伝達は阻止される。そのため、実線F3bで示したように動力切替用遊星歯車機構51のサンギアS2、キャリアC2、及びリングギアR2は、ポンプ13から伝達された動力によって回転する。なお、この際にロックアップクラッチ15が連結状態の場合は実線F3bONで示すようにこれらの回転要素は一体に回転する。そして、このように動力切替用遊星歯車機構51の各回転要素が回転することにより伝達軸24が回転して補機が駆動される。したがって、この動力伝達状態ではエンジン11の動力によって補機が駆動される。
エンジン11が運転中であり、かつ車両1が後進走行中の場合について説明する。この場合、ECU30は、伝達制御クラッチ19を解放状態に、伝達制御ブレーキ20を制動状態に、切替ブレーキ52を制動解除状態にそれぞれ切り替える。この動力伝達状態においても切替ブレーキ52が解放状態であるため、動力切替用遊星歯車機構51のリングギアR2にポンプ13の動力が伝達される。ポンプ13の動力はタービン14にも伝達されるが、この動力伝達状態では伝達制御クラッチ19が解放状態であり、伝達制御ブレーキ20が制動状態であるため、その動力は実線B3aで示すように回転制御用遊星歯車機構17において回転方向が逆方向に変更され、その後出力軸18に伝達される。この動力伝達状態では伝達制御ブレーキ20が制動状態に切り替えられるため、回転制御用遊星歯車機構17のキャリアC1及び動力切替用遊星歯車機構51のサンギアS2は回転不能に制動される。そのため、出力軸18側から動力切替用遊星歯車機構51への動力伝達は阻止される。また、これにより動力切替用遊星歯車機構51のサンギアS2、リングギアR2、及びキャリアC2のそれぞれの回転数は実線B3bで示した関係になる。このようにこの動力伝達状態においても補機はエンジン11の動力によって駆動される。
エンジン11が運転中であり、かつシフト操作装置34がNレンジであるとともに車両1が停止中の場合について説明する。この場合、ECU30は、伝達制御クラッチ19を解放状態に、伝達制御ブレーキ20を制動解除状態に、切替ブレーキ52を制動解除状態にそれぞれ切り替える。この動力伝達状態においても上述した前進走行中及び後進走行中と同様に切替ブレーキ52が解放状態であるため、動力切替用遊星歯車機構51のリングギアR2にポンプ13の動力が伝達される。また、ポンプ13の動力はタービン14にも伝達されるが出力軸18が回転していないため、回転制御用遊星歯車機構17のサンギアS1、リングギアR1、及びキャリアC1のそれぞれの回転数は実線N3aで示した関係になる。この動力伝達状態では、第2一方向クラッチ23によって回転制御用遊星歯車機構17のキャリアC1と動力切替用遊星歯車機構51のサンギアS2とが接続されるので、これらの回転数が同じになる。そのため、動力切替用遊星歯車機構51のサンギアS2、リングギアR2、及びキャリアC2のそれぞれの回転数は実線N3bで示した関係になる。そして、この動力伝達状態においても補機はエンジン11の動力によって駆動される。
次に図9を参照してエンジン11に対してフューエルカットが実行されており、かつ車両1が前進走行中の場合、すなわち車両1が前進方向に慣性走行している場合について説明する。この場合、ECU30は伝達制御クラッチ19を解放状態に、伝達制御ブレーキ20を制動解除状態に、切替ブレーキ52を制動状態にそれぞれ切り替える。この場合、実線F4aで示したように駆動輪2によって回転制御用遊星歯車機構17のサンギアS1及びキャリアC1が駆動される。そして、これに引き摺られて回転制御用遊星歯車機構17のリングギアR1が回転する。この動力伝達状態では第2一方向クラッチ23の内輪23aと外輪23bとが一体に回転するので、回転制御用遊星歯車機構17のキャリアC1によって動力切替用遊星歯車機構51のサンギアS2が駆動される。上述したように切替ブレーキ52は制動状態であるため、動力切替用遊星歯車機構51のリングギアR2は停止状態に維持される。そのため、動力切替用遊星歯車機構51のサンギアS2、リングギアR2、及びキャリアC2のそれぞれの回転数は実線F4bで示した関係になる。従って、この動力伝達状態では補機は駆動輪2からの動力によって駆動される。
この参考例においてECU30は、このように車両1が前進方向に慣性走行をしている状態からエンジン11を始動する場合には、切替ブレーキ52を制動解除状態に切り替える。これにより図9に破線Clで示したように動力切替用遊星歯車機構51のサンギアS2の動力がリングギアR2に伝達される。そのため、駆動輪2の動力がエンジン11に伝達され、これによりエンジン11がクランキングされる。
この参考例においても、上述した本発明の実施形態と同様にエンジン11の運転中はエンジン11の動力によって補機を駆動し、車両1が前進方向に慣性走行している場合には駆動輪2の動力によって補機を駆動できる。また、駆動輪2の動力によって補機を駆動している場合には、伝達制御クラッチ19が解放状態に、伝達制御ブレーキ20が制動解除状態にそれぞれ切り替えられるので、これによりタービン14と出力軸18との間の動力伝達を遮断することができる。そのため、駆動輪2の動力が無駄に消費されることを抑制できる。また、車両1が前進方向に慣性走行している状態からエンジン11を始動する場合には駆動輪2の動力によってエンジン11のクランキングを行うことができるので、この始動時に消費されるエネルギを低減できる。さらに、この参考例では、ポンプ13がエンジン11によって駆動されていない場合は連結状態に切り替えることができないロックアップクラッチ15がトルクコンバータ12に設けられていても、エンジン11を駆動輪2の動力でクランキングすることができる。なお、この参考例では、動力切替用遊星歯車機構51のサンギアS2とポンプ13とが動力伝達可能に接続され、動力切替用遊星歯車機構51のリングギアR2と出力部材50とが第2一方向クラッチ23を介して動力伝達可能に接続されていてもよい。この場合においても上述した作用効果を同様に得ることができる。
(第2の参考例)
図10〜図12を参照して本発明の実施形態と共通の部分を有する第2の参考例に係る駆動装置10Dについて説明する。図10は、第2の参考例に係る駆動装置10Dのスケルトン図を示している。図11は、エンジン11が運転されている場合の共線図を示し、図12はエンジン11に対してフューエルカットが実行されている場合の共線図を示している。なお、これらの図において上述した本発明の実施形態と共通の部分には同一の符号を付して説明を省略する。
図10に示すようにこの駆動装置10Dでは、出力部材50と第2一方向クラッチ23の外輪23bとの間で動力が伝達される係合状態と、出力部材50と第2一方向クラッチ23の外輪23bとの間の動力伝達が遮断される解放状態とに切替可能な駆動輪側クラッチ手段としての駆動輪側クラッチ60が出力部材50に設けられている。また、オルタネータ6の代わりに補機として電動機及び発電機として機能するモータジェネレータMGが設けられている。それ以外は上述した第1の参考例と同じである。
駆動輪側クラッチ60の動作及びモータジェネレータMGの動作は、ECU30によって制御される。ECU30は、エンジン11が運転中の場合には駆動輪側クラッチ60を解放状態に切り替える。なお、伝達制御クラッチ19、伝達制御ブレーキ20、及び切替ブレーキ52は、第1の参考例と同様に制御される。この場合、出力部材50と第2一方向クラッチ23の外輪23bとの間の動力伝達は第2一方向クラッチ23によって制御される。そのため、図11に示すようにこの形態におけるエンジン11の運転中の各動力伝達状態は上述した第1の参考例と同じになる。そのため、エンジン11の動力によって補機が駆動される。
一方、ECU30は、エンジン11に対してフューエルカットが実行されている場合には駆動輪側クラッチ60を係合状態に切り替える。なお、伝達制御クラッチ19、伝達制御ブレーキ20、及び切替ブレーキ52の動作は、この場合においても上述した第1の参考例と同様に制御される。そのため、回転制御用遊星歯車機構17のキャリアC1によって動力切替用遊星歯車機構51のサンギアS2が駆動される。そして、これにより動力切替用遊星歯車機構51のキャリアC2が駆動される。従って、駆動輪2の動力によって補機が駆動される。
また、この参考例においても車両1が前進方向に慣性走行している状態からエンジン11を始動する場合には、切替ブレーキ52を制動解除状態に切り替える。これにより図12に破線Clで示したように動力切替用遊星歯車機構51のサンギアS2の動力がリングギアR2に伝達される。そのため、駆動輪2の動力がエンジン11に伝達され、これによりエンジン11がクランキングされる。この参考例ではさらにこの状態からモータジェネレータMGによってキャリアC2を駆動する。この場合の動力切替用遊星歯車機構51のサンギアS2、リングギアR2、及びキャリアC2のそれぞれの回転数は破線Clmgで示した関係になる。この場合、リングギアR2の回転数はモータジェネレータMGによって調整可能となる。そこで、この参考例では、エンジン11の始動時に振動等の発生が抑制されるようにモータジェネレータMGによってリングギアR2の回転数を調整する。また、この参考例では、車両1が停止し、かつエンジン11が停止している状態からエンジン11を始動する場合にも切替ブレーキ52を制動解除状態に切り替え、その後モータジェネレータMGを動作させることによってエンジン11のクランキングを行う。
以上に説明したように第2の参考例の駆動装置10Dでは、補機としてモータジェネレータMGが設けられたので、このモータジェネレータMGによってエンジン11の始動時に動力切替用遊星歯車機構51の各回転要素の回転数を調整することができる。そのため、エンジン11の始動時に振動等が発生することを抑制できる。また、車両1が停止し、かつエンジン11が停止している状態からもこのモータジェネレータMGによってエンジン11を始動することができるので、エンジン11の始動モータを省略することができる。そのため、コストを低減できる。さらにこの参考例では、切替ブレーキ52を制動状態に、駆動輪側クラッチ60を係合状態にそれぞれ切り替えることによりモータジェネレータMGで車両1を駆動することができる。
なお、この参考例では、第2一方向クラッチ23は省略し、出力部材50と動力切替用遊星歯車機構51のサンギアS2との間の動力伝達状態の切り替えを駆動輪側クラッチ60のみで行ってもよい。また、この参考例においても第1の参考例と同様に、動力切替用遊星歯車機構51のサンギアS2とポンプ13とが動力伝達可能に接続され、動力切替用遊星歯車機構51のリングギアR2と出力部材50とが第2一方向クラッチ23を介して動力伝達可能に接続されていてもよい。この場合においても上述した作用効果を同様に得ることができる。
本発明は、上述した各形態に限定されることなく、種々の形態にて実施することができる。例えば、本発明の駆動装置にて駆動される補機は、上述した各形態に示したものに限定されない。車両に搭載され、回転駆動する必要がある種々の補機を本発明で駆動してよい。本発明の駆動装置に設けられる回転制御用遊星歯車機構、及び動力切替用遊星歯車機構はシングルプラネタリ型に限定されず、サンギアとリングギアとの間の互いに噛み合う2つのピニオンギアが設けられるダブルプラネタリ型であってもよい。