ところで、特許文献1では、過去の時点と現時点での電機子電流の特徴を比較するが、単一量の比較では、正常な波形のばらつきと誤検出とを判別することが困難になるおそれがある。例えば、特徴として電流リップル波形の変化量を用いる場合、変化量の増減が電機子電流の増減に追従した正常なものであるか、誤検出によるものであるかの判別が難しい。また、特徴としてリップル周期を用いる場合、リップル周期が短くなった原因が直流モータの回転速度の増加に起因した正常なものであるか、誤検出によるものであるかの判別が難しい。
本来、直流モータのロータおよびステータは回転対称に構成され、ロータの機械的な1回転未満に構造上のトポロジー(類似性)あるいは電気角の360°をもつのが通常である。しかしながら、実際には製造上の寸法公差や組み付け誤差などの影響により、1回転したときの電流リップル波形の類似性が最も顕著となる。例えば、コンミテータおよびブラシを有する直流ブラシモータでは、それぞれのコンミテータおよびブラシの組み合わせで決まる固有の特徴をもった電流リップルが発生する。つまり、電流リップルは、モータのリップル発生機構の一種の指紋であり、機械的な1回転を周期として類似性を比較することにより、検出の妥当性を最も的確に判定できるものと考えられる。また、電機子電流の増減の影響を取り除くためには、単一量の絶対値を比較するのではなく、複数量からなるデータ列の変化パターンを比較することが効果的と考えられる。
一方、波形のばらつきやノイズの影響を検出し補正を行う技術では、補正した結果が正しいか否かを確認する方法がない。つまり、検出した電流リップルの精度を保証することが難しい。したがって、独立した別の検出方法を併用して、リップル検出の精度向上を図ることが好ましい。
本発明は、上記背景技術の問題点に鑑みてなされたもので、電流リップルの検出精度を従来よりも大幅に向上するとともに、他の検出装置や検出方法との併用によりリップル検出の確からしさを保証でき、さらには一定の記憶エリアと軽い演算負荷で実現可能な直流モータのリップル検出装置、リップル検出方法、およびリップル検出プログラムを提供することを解決すべき課題とする。
上記課題を解決する請求項1に係る直流モータのリップル検出装置の発明は、直流モータの電機子電流に含まれる電流リップルを検出するリップル検出装置であって、前記電機子電流から前記電流リップルを抽出し、各該電流リップルがもつ特徴量を検出する検出手段と、検出した各前記電流リップルの前記特徴量を時系列順に記憶する記憶手段と、複数の前記特徴量を含む第1データ列と、該第1データ列以前の同数の前記特徴量を含む第2データ列とを比較し、対応する各前記特徴量の変化パターンが類似しているときに集合マッチと判定する判定手段とを備え、前記判定手段は、前記集合マッチと判定したときに、前記第1データ列と前記第2データ列との時系列的な隔たりを前記特徴量の個数で表した検出周期数を求め、前記直流モータが1回転する間に検出する特徴量の本来の個数である本来周期数と前記検出周期数とを比較し、さらに、前記本来周期数と前記検出周期数とが一致した場合にリップル検出が妥当に行われていると判定し、前記本来周期数よりも前記検出周期数が小さい場合に前記電流リップルを検出できないリップル抜けが発生したと判定し、前記本来周期数よりも前記検出周期数が大きい場合に前記電流リップルと区別できないノイズが重畳するリップル増しが発生したと判定する、ことを特徴とする。
請求項2に係る発明は、請求項1において、前記判定手段は、最新の特徴量を含んで第1データ列を設定し、該第1データ列よりも前回の判定で得られた検出周期数分または前記本来周期数分だけ以前の第2データ列を設定し、前記第1データ列および前記第2データ列における前記集合マッチの有無を判定し、該集合マッチを判定できないときに前記第2データ列を時系列的に移動して前記集合マッチを探査することを特徴とする。
請求項3に係る発明は、請求項1または2において、前記判定手段は、前記第1データ列に含まれる全ての特徴量を加算して第1和を求め、前記第1データ列に含まれる各特徴量の前記第1和に対する割合である各第1割合を求め、前記第2データ列に含まれる全ての特徴量を加算して第2和を求め、前記第2データ列に含まれる各特徴量の前記第2和に対する割合である各第2割合を求め、前記各第1割合と対応する前記各第2割合とを比較して許容差の範囲内で一致しているときに前記集合マッチと判定することを特徴とする。
請求項4に係る発明は、請求項3において、前記判定手段は、前記集合マッチと判定できずかつ前記許容差の範囲内で一致しない第1割合および第2割合の組み合わせが許容不一致数以内の場合に部分マッチと判定し、前記第1データ列および前記第2データ列の少なくとも一方にノイズの影響を受けた特徴量を含んでいると判定することを特徴とする。
請求項5に係る発明は、請求項4において、前記判定手段は、前記部分マッチと判定したときに、一致しない第1割合および第2割合の組み合わせの基になっている第1データ列および第2データ列のそれぞれの特徴量を除外して以降の判定を行うことを特徴とする。
請求項6に係る発明は、請求項1〜5のいずれか一項において、前記判定手段は、前記検出周期数を確定するときに、認定回数以上継続して同一値を求める継続条件、あるいは認定確率以上で同一値を求める確率条件を用いることを特徴とする。
請求項7に係る発明は、請求項1〜6のいずれか一項において、前記特徴量は、前記電流リップルの極小値から極大値までの増加量を示す立ち上がり幅、あるいは前記電流リップルの極大値から極小値までの減少量を示す立ち下がり幅、あるいは前記立ち上がり幅と前記立ち下がり幅との組み合わせであることを特徴とする。
請求項8に係る直流モータのリップル検出方法の発明は、直流モータの電機子電流に含まれる電流リップルを検出するリップル検出方法であって、前記電機子電流から前記電流リップルを抽出し、各該電流リップルがもつ特徴量を検出する検出ステップと、検出した各前記電流リップルの前記特徴量を時系列順に記憶する記憶ステップと、複数の前記特徴量を含む第1データ列を設定し、該第1データ列に含まれる全ての特徴量を加算して第1和を求め、前記第1データ列に含まれる各特徴量の前記第1和に対する割合である各第1割合を求める第1演算ステップと、前記第1データ列以前の同数の前記特徴量を含む第2データ列を設定し、該第2データ列に含まれる全ての特徴量を加算して第2和を求め、前記第2データ列に含まれる各特徴量の前記第2和に対する割合である各第2割合を求める第2演算ステップと、前記各第1割合と対応する前記各第2割合とを比較して許容差の範囲内で一致しているときに集合マッチと判定し、一致していないときに前記第2データ列を時系列的に移動して前記第2演算ステップを再度実施し、前記集合マッチを探査する探査ステップと、前記集合マッチと判定したときに、前記第1データ列と前記第2データ列との時系列的な隔たりを前記特徴量の個数で示した検出周期数を求め、前記直流モータが1回転する間に検出する特徴量の本来の個数である本来周期数と前記検出周期数とを比較し、前記本来周期数と前記検出周期数とが一致した場合にリップル検出が妥当に行われていると判定し、前記本来周期数よりも前記検出周期数が小さい場合に前記電流リップルを検出できないリップル抜けが発生したと判定し、前記本来周期数よりも前記検出周期数が大きい場合に前記電流リップルと区別できないノイズが重畳するリップル増しが発生したと判定するマッチ時判定ステップと、前記集合マッチと判定できなかったときに、前記第1データ列および前記第2データ列の少なくとも一方にノイズの影響を受けた特徴量を含んでいると判定するミスマッチ時判定ステップと、を有することを特徴とする。
請求項9に係る直流モータのリップル検出プログラムの発明は、請求項8の各前記ステップをコンピュータに実行させるプログラムであることを特徴とする。
請求項1に係る直流モータのリップル検出装置の発明では、各電流リップルがもつ特徴量を検出して時系列順に記憶しており、判定手段は、複数の特徴量を含んで時系列的に隔たった第1データ列および第2データ列を比較し、変化パターンが類似した集合マッチによりリップル検出が妥当に行われていると判定する。一般的に、電流リップルを発生する機構は直流モータの構造、主に固定子と回転子の位置関係に依存する。このため、電流リップルは本来、直流モータの1回転を周期とする類似波形の繰り返しとなる。したがって、1回転分に相当する時系列的な隔たりで第1データ列および第2データ列を設定して比較し、特徴量の変化パターンが類似していればリップル検出が妥当に行われていると判定できる。また、特徴量の変化パターンが類似していなければ、ノイズなどの影響によりリップル検出の精度が低下していると判定できる。
また、本発明では、電流リップルの特徴量の増減変動が顕著であるほど、第1データ列および第2データ列の変化パターンが類似しているか否かを正確に判定できる。これに対し、従来の各種リップル検出装置や検出手法では、電流リップルが同一波形で繰り返していれば高精度であるが、変動があると精度低下を引き起こしていた。したがって、本発明のリップル検出装置を従来のリップル検出装置と併用することにより、互いの弱点を補完しあって、リップル検出の確からしさを保証できる。
さらに、集合マッチと判定したときに、検出した変化パターンが繰り返す検出周期数と直流モータの本来周期数とを比較することにより、リップル検出の妥当性あるいはリップル抜けやリップル増しの発生を判定できる。したがって、リップルの検出取りこぼしや余剰なノイズの検出などの検出誤りの度合いを判定でき、電流リップルの検出精度を従来よりも大幅に向上できる。また、検出誤りに対する補正などを行う他の検出装置や検出手法と併用することにより、補正処理の正当性まで含めてリップル検出の確からしさを保証できる。
請求項2に係る発明では、最新の特徴量を含んで第1データ列を設定し、第1データ列よりも検出周期数分または本来周期数分だけ以前の第2データ列を設定して、集合マッチの有無を判定し、集合マッチを判定できないときに第2データ列を時系列的に移動して集合マッチを探査する。つまり、最新の第1データ列に類似する可能性の大きい検出周期数分または本来周期数分だけ以前の第2データ列を優先して集合マッチの有無を判定し、不可のときに限り第2データ列を時系列的に移動して集合マッチを探査する。これにより、判定手段の演算処理が効率化され、一定の記憶エリアと軽い演算負荷で実現可能となり、加えて判定所要時間が短縮される。
請求項3に係る発明では、判定手段は、各特徴量の絶対値ではなく相対的な割合の変化パターンを用いて集合マッチを判定する。これは、特徴量を正規化することに相当し、特徴量が直流モータの運転状態に依存して変化する場合にも高精度な判定を行える。例えば、特徴量として電流リップルの立ち上がり幅を用いる場合、電機子電流の増加につれて電流リップルの変化が顕著となり立ち上がり幅も増加する。このときの第1データ列に含まれる複数の立ち上がり幅はそれぞれ、第2データ列に含まれて対応する立ち上がり幅よりも大きくなり、絶対値で比較すると判定を誤るおそれがある。これに対して、第1および第2データ列に含まれる複数の立ち上がり幅をそれぞれ第1割合および第2割合という相対値に正規化した後に比較すれば、変化パターンが類似しているか否かが見やすくなり判定を誤るおそれがなくなる。つまり、直流モータの運転状態が変化しているときであっても、電流リップルの検出精度を従来よりも大幅に向上できる。
請求項4に係る発明では、集合マッチと判定できないときでも、多数の第1割合および第2割合の組み合わせが一致し、許容不一致数以内の少数の組み合わせが不一致の場合に部分マッチと判定し、ノイズの影響を受けた特徴量を含んでいると判定する。これにより、ノイズの影響を受けても許容不一致数以内であれば、特徴量の変化パターンの類似性を見つけ、リップル検出の妥当性を判定できる。
請求項5に係る発明では、部分マッチと判定したときに、一致しない第1割合および第2割合の組み合わせの基になっている第1データ列および第2データ列のそれぞれの特徴量を除外して以降の判定を行う。つまり、ノイズの影響を受けたと推定される特徴量を除外し、以降は時系列的に不連続な複数の特徴量を含む第1データ列および第2データ列を比較して判定する。これにより、ノイズの影響を避けることができ、変化パターンが類似しているか否かを精度良く判定でき、電流リップルの検出精度を従来よりも大幅に向上できる。
請求項6に係る発明では、検出周期数を確定する条件として、認定回数以上継続して同一値を求める継続条件、あるいは認定確率以上で同一値を求める確率条件を用いる。これにより、変化パターンが繰り返す検出周期数を求める信頼性が向上し、リップル検出の妥当性判定の信頼性が極めて高くなる。
請求項7に係る発明では、特徴量は、電流リップルの立ち上がり幅、立ち下がり幅、およびリップル周期のいずれか、あるいは2個以上の組み合わせとしている。つまり、電流リップル波形の生波形データでなく、波形を代表する単一数値を特徴量としている。このため、判定手段で処理するデータ量は少量となり、また電機子電流の変化の様相が変動しても扱うデータ量は殆ど変化せず、判定手段は限られた一定の記憶エリアを有すればよい。また、特徴量を検出したときにのみ判定処理を行えばよく、生波形データを継続的に処理する必要がないので演算負荷が軽い。したがって、専用のディジタル演算処理回路での実現のみならず、汎用の通信手段およびマイコンを組み合わせた構成での実現が可能である。
請求項8に係る直流モータのリップル検出方法の発明は、検出ステップ、記憶ステップ、第1演算ステップ、第2演算ステップ、探査ステップ、マッチ時判定ステップ、およびミスマッチ時判定ステップを有する。これにより、リップルの検出取りこぼしや余剰なノイズの検出などの検出誤りの度合いを判定できるので、電流リップルの検出精度を従来よりも大幅に向上できる。また、検出誤りに対する補正などを行う他の検出装置や検出手法と併用することにより、補正処理の正当性まで含めてリップル検出の確からしさを保証できる。さらに、第1データ列および第2データ列の各特徴量を正規化して変化パターンを比較するので、直流モータの運転状態が変化しているときであっても、電流リップルの検出精度を従来よりも大幅に向上できる。
請求項9に係る直流モータのリップル検出プログラムの発明では、請求項8の各ステップをコンピュータに実行させることができる。
本発明を実施するための第1実施形態を、図1〜図11を参考にして説明する。図1は、本発明の第1実施形態の直流モータのリップル検出装置1およびリップル検出方法を説明する機能ブロック図である。直流モータ9は、図略の車両用シート装置のシートスライド用に適用されているものである。直流モータ9は、4極10スロットの直流ブラシモータであり、ロータが1回転する間にブラシとコンミテータの接触の組み合わせが20通り発生する。したがって、ロータが1回転する間に電流リップル波形Irは20回増減し、本来20個の増減波形を周期として類似した電流リップル波形Irが繰り返す。この20個が本来周期数TNである。
リップル検出装置1は、専用のディジタル演算処理回路で構成され、ハードウェアとして演算処理部、入力部、出力部、記憶部などを備えて動作するようになっている。なお、これに限定されずリップル検出装置1は、プログラムで構成することも可能である。リップル検出装置1は、機能的には、検出手段に相当するフィルタ部2および特徴量検出部3、記憶手段4、判定手段5などにより構成されている。
フィルタ部2は、遮断周波数を可変に制御できるディジタルフィルタである。フィルタ部2は、直流モータ9の電機子電流Imをフィルタリングして電流リップル波形Irを抽出し、特徴量検出部3に出力する。特徴量検出部3は、電流リップル波形Irがもつ特徴量を検出する手段であり、特徴量として立ち上がり幅Cを検出する。立ち上がり幅Cは、電流リップル波形Irが増減するたびに検出される単一の数値データであり、電流リップル波形Irの極小値から極大値までの増加量を意味する。立ち上がり幅Cの単位の次元はアンペアであるが、変化パターンを比較するためには絶対量である必要はなく、検出、記憶および演算処理を行いやすい任意の単位系を用いることができる。本実施形態では、ディジタル計測されたディジタル値で表記し、単位は付さないものとする。特徴量検出部3は、検出した立ち上がり幅Cを逐次記憶手段4に出力する。フィルタ部2および特徴量検出部3には、従来の各種ディジタル演算回路を用いることができ、検出方式に特別な制約はない。
記憶手段4は、立ち上がり幅Cを時系列順に記憶する手段である。記憶手段4は、受け取った立ち上がり幅Cに波形番号nを付し、波形番号nおよび立ち上がり幅C(n)をセットにして記憶部に記憶する。波形番号n=0は現在の最新立ち上がり幅C(0)を示し、過去にさかのぼるにしたがって波形番号nを増加させて記憶するようになっている。また、立ち上がり幅C(n)を記憶する記憶数は30個あれば十分である。記憶手段4は、特徴量検出部3から新規立ち上がり幅C(new)を受け取ると、記憶している各立ち上がり幅C(n)の波形番号nを1ずつ増加させて更新し、新規立ち上がり幅C(new)を最新立ち上がり幅C(0)として記憶する。
判定手段5は、記憶手段4が記憶した立ち上がり幅C(n)を用いて演算処理を行い、リップル検出の妥当性を判定する手段である。判定手段5には、本来周期数TN、データ個数N、下限閾値ゲインGLおよび上限閾値ゲインGHなどの諸定数を予め初期設定しておく。本来周期数TNは、上述したように直流モータ9の構造から決まる固有の値である。データ個数Nは、判定に用いる第1データ列D1および第2データ列D2に含まれる立ち上がり幅C(n)の個数である。下限閾値ゲインGLおよび上限閾値ゲインGHは、変化パターンの類似性を判定する際の許容差の基準となる量である。判定手段5の機能は、次の演算処理フローで詳述する。
図2は、第1実施形態のリップル検出装置1を用いたリップル検出方法を説明する演算処理フローの図である。図中のステップS1で、フィルタ部2は恒常的にフィルタリング処理を行う。ステップS2で、特徴量検出部3は新規立ち上がり幅C(new)を逐次検出する。ステップS1およびS2の処理は検出ステップに相当する。ステップS3は記憶ステップに相当し、記憶手段4は、新規立ち上がり幅C(new)を受け取ったときに、その都度立ち上がり幅C(n)を更新する。
ステップS4以降の演算処理は判定手段5が担っている。判定手段5は、立ち上がり幅C(n)が更新されたときに動作し、ステップS4で第1データ列D1を設定する。具体的には、第1データ列D1は現在の最新立ち上がり幅C(0)を先頭としてデータ個数Nの立ち上がり幅C(n)を含むものとする。一例として、データ個数N=5とする。つまり、第1データ列D1は、順序付けられた5個の要素を有する一種の集合である。ステップS5では、第1データ列D1に関して、各第1割合d1を演算する。この演算では、まず第1データ列D1に含まれる5個の立ち上がり幅C(i)を加算して第1和Sum1を求める。次に、各立ち上がり幅C(i)の第1和Sum1に対する割合を演算して各第1割合d1(i)とする。ステップS4およびS5の演算処理は第1演算ステップに相当し、これらの演算内容は下式で示される。
第1データ列D1=C(i)、ただしi=0〜(N−1)
=[C(0)、C(1)、C(2)、C(3)、C(4)]
第1和Sum1=C(0)+C(1)+C(2)+C(3)+C(4)
各第1割合d1(i)=C(i)/Sum1
次のステップS6で、第2データ列D2を設定する。具体的には、第1データ列D2は第1データ列D1よりも後述する検出周期数TD分だけ以前の同数(すなわちデータ個数N=5)の立ち上がり幅C(n)を含むものとする。また検出周期数TDが得られていないときには、本来周期数TN分だけ以前の同数の立ち上がり幅C(n)をもつものとする。第2データ列D2も、順序付けられた5個の要素を有する一種の集合である。ステップS7では、第2データ列D2に関して、各第2割合d2を演算する。この演算は第1データ列D1の場合と同様であり、まず第2和Sum2を求め、次に第2和Sum2に対する割合を演算する。ステップS6およびS7の演算処理は第2演算ステップに相当し、これらの演算内容は下式で示される。
第2データ列D2=C(i+TD)またはC(i+TN)、ただしi=0〜(N−1)
第2和Sum2=Σ{C(i+TD)}またはΣ{C(i+TN)}
各第2割合d2(i)=C(i+TD)/Sum2または
=C(i+TN)/Sum2
上式で検出周期数TD=20または本来周期数TN=20である場合、第2データ列D2は下式に書き換えることができる。
第2データ列D2=[C(20)、C(21)、C(22)、C(23)、C(24)]
次のステップS8で、各第1割合d1(i)と各第2割合d2(i)とが概ね一致しているか、すなわち変化パターンが類似しているか比較する。比較に際しては、初期設定された下限閾値ゲインGLおよび上限閾値ゲインGHを用い、第1割合d1(i)と対応する第2割合d2(i)の全5組の組み合わせが下式を満足しているときに概ね一致、すなわち集合マッチと判定する。ステップS8に先立ち、許容差として例えば±10%を見込む場合、下限閾値ゲインGL=0.9、上限閾値ゲインGH=1.1を初期設定しておく。
GL×d2(i)≦d1(i)≦GH×d2(i)
上式により集合マッチと判定したときにはステップS11に進み、集合マッチと判定できなかったときにはステップS9に進む。
ステップS9では、後述する第2データ列D2の移動が所定範囲にわたって行われ、集合マッチの探査が終了したか否かを確認する。演算処理フローの中で初めてステップS9に到達したときには第2データ列D2の移動は行われておらず、したがって探査は終了しておらずステップS10に進む。ステップS10では、第2データ列D2を現在に近づけるようにあるいは過去にさかのぼるように、立ち上がり幅C(n)1個分ずつ時系列的に移動する。そして、ステップS7に戻る。
再度のステップS7では、移動後の第2データ列D2に関して、再度第2和Sum2および各第2割合d2を演算する。さらに、ステップS8で集合マッチの判定を繰り返す。このように、ステップS7〜S10で構成された閉ループにより、第2データ列D2を時系列的に移動して集合マッチを探査する演算処理が探査ステップに相当する。ステップS9において、第2データ列D2の移動が所定範囲を網羅しても集合マッチと判定できなかったときには、ステップS16に進む。所定範囲の一例として、検出周期数TDまたは本来周期数TNを中心として前後5個分の移動を考慮する。つまり、ステップS7およびステップS8は、最大で11回の演算処理を行うことになる。
集合マッチと判定して進んだステップS11では、検出周期数TDを確定する。検出周期数TDは、集合マッチを判定したときの第1データ列D1および第2データ列D2の時系列的な隔たりを立ち上がり幅C(n)の個数で表した値である。検出周期数TDは、毎回一定とは限らず、新規立ち上がり幅C(new)による更新で変化する場合が生じ得る。次にステップS12で、本来周期数TNと検出周期数TDとを比較し、比較結果に基づいてステップS13〜S15のいずれかに進む。
本来周期数TNと検出周期数TDとが一致した場合のステップS13では、リップル検出が妥当に行われていると判定する。なぜなら、本来周期数TNに合致して立ち上がり幅C(n)の変化パターンの類似が検出されており、第1データ列D1と第2データ列D2の間の時間帯においても正しくリップル検出を行っていると判断できるからである。
本来周期数TNよりも検出周期数TDが小さい場合のステップS14では、電流リップルを検出できないリップル抜けが発生したと判定する。なぜなら、本来周期数TNよりも少ない個数の間隔で立ち上がり幅C(n)の変化パターンの類似が検出されており、第2データ列D2と第1データ列D1の間の時間帯において電流リップルの検出取りこぼし、すなわちリップル抜けが発生していると判断できるからである。なお、リップル抜けの原因としては、ジッタ成分によるゆらぎや電機子電流Imの増減が電流リップル波形Irに影響を及ぼしたことが考えられる。
本来周期数TNよりも検出周期数TDが大きい場合のステップS15では、電流リップルと区別できないノイズが重畳するリップル増しが発生したと判定する。なぜなら、本来周期数TNよりも多い個数の間隔で立ち上がり幅C(n)の変化パターンの類似が検出されており、第2データ列D2と第1データ列D1の間の時間帯においてノイズ波形を誤って電流リップルと認識した、すなわちリップル増しが発生していると判断できるからである。なお、リップル増しの原因となるノイズとしては、周期的な低周波ノイズや高周波ノイズ、あるいは一過性の高周波ノイズなど、様々な種類が想定される。
ステップS11〜S15の演算処理は、マッチ時判定ステップに相当する。
これに対し、ステップS16の演算処理は、ステップS7〜S10の探査ステップで集合マッチと判定できなかったときのミスマッチ時判定ステップに相当する。ステップS16では、第1データ列D1および第2データ列D2の少なくとも一方にノイズの影響を受けた立ち上がり幅C(n)を含んでいると判定する。なぜなら、第1データ列D1または第2データ列D2に含まれるいずれかの立ち上がり幅C(n)が、ノイズの影響を受けて変化し、変化パターンの類似が認められなくなったと判断できるからである。
ステップS13〜S16のいずれかの判定を終えると、判定手段5は待機する。再度、ステップS2で、特徴量検出部3が新規立ち上がり幅C(new)を検出すると、ステップS2以降の演算処理が行われ、以下逐次繰り返される。
次に、上述の演算処理フローについて、模式的な事例を提示して説明する。図3は、第1実施形態における検出ステップおよび記憶ステップを説明する図であり、(1)は立ち上がり幅C(n)の検出方法、(2)は立ち上がり幅C(n)の記憶方法を示している。図3(1)の横軸は時間、縦軸は電流値であり、抽出した電流リップル波形Irが例示されている。図中に上向きの矢印で示されるように、特徴量検出部3は、抽出した電流リップル波形Irの極小値Iminから極大値Imaxまでの増加量を求めて立ち上がり幅C(n)とする。図には、波形番号n=24において立ち上がり幅C(24)=42を検出した例を示している。その他の波形番号nについても同様で、矢印の下側に波形番号nを示し、矢印の上側に立ち上がり幅C(n)の値を示している。また、図3(2)に示されるように、記憶手段4は、波形番号nおよび立ち上がり幅C(n)をセットにして記憶部に記憶する。
図4の(1)は第1データ列D1を対象とする第1演算ステップの演算処理内容、(2)は第2データ列D2を対象とする第2演算ステップの演算処理内容、をそれぞれ説明する演算表の図である。第1データ列D1には、最新立ち上がり幅C(0)を含むように図3(2)の波形番号n=0〜4を設定している。また、第2データ列D2には、検出周期数TD=20として、図3(2)の波形番号n=20〜24を設定している。図4(1)において、第1和Sum1および波形番号n=0における第1割合d1(0)は、次のようにして求められる。
第1和Sum1=50+10+40+20+45=165
第1割合d1(0)=50/165=0.303
また、波形番号n=1〜4における各第1割合d1(1)〜d1(4)も同様にして求められる。さらに、図4(2)において、第2和Sum2および各第2割合d1(i)も、図4(1)と同じ方法で求められる。
図5は、探査ステップで集合マッチの有無を判定する演算処理内容を説明する演算表の図である。判定に使用する各第1割合d1(i)および各第2割合d2(i)は、図4で求めたものである。また、許容差を見込む下限閾値ゲインGL=0.9、上限閾値ゲインGH=1.1である。図示されるように、まず、各第2割合d2(i)を基準として許容範囲の下限すなわちGL×d2(i)および上限すなわちGH×d2(i)を演算する。次に、各第1割合d1(i)が許容範囲の下限と上限の間に収まっているか否かを調べ、収まっていれば一致と判定して判定欄を○印とし、収まっていなければ不一致と判定して判定欄を×印とする。例えば、図中のi=0において、d1(0)=0.303は、許容範囲である0.270と0.330の間に収まっているので判定欄は○印となる。各第1割合d1(i)と対応する各第2割合d2(i)の組み合わせが全て許容差の範囲内で一致しているとき、すなわち図に例示されるように判定欄が全て○印のときに集合マッチと判定する。
このとき、第1データ列D1と第2データ列D2の時間的な隔たりを示す検出周期数TD=20である。したがって、検出周期数TD=本来周期数TNであり、マッチ時判定ステップでは、リップル検出が妥当に行われていると判定できる。
次に、リップル抜けが発生しているときの模式的な事例を図6および図7に提示して説明する。図6は、リップル抜けが発生しているときに、記憶手段4が記憶した波形番号nおよび立ち上がり幅C1(n)のセットである。図3(2)における波形番号n=20〜24の各立ち上がり幅C(20)〜C(24)の値は、リップル抜けにより図6中のn=19〜23の各立ち上がり幅C1(19)〜C(23)として検出されている。
図7は、図6の立ち上がり幅C1(n)を基にして探査ステップで集合マッチを探査する演算処理内容を説明する演算表の図である。判定手段5は、リップル抜けの発生を事前に知り得ないので、第1データ列D11に図6の波形番号n=0〜4を設定し、第2データ列D21に図6の波形番号n=20〜24を設定する。そして、図6の上段(A)および中段(B)に示されるように、第1和Sum11、各第1割合d11(i)、第2和Sum21、および各第2割合d21(i)を演算する。しかしながら、各第1割合d11(i)と対応する各第2割合d21(i)の組み合わせは1組も一致せず、集合マッチと判定できない。
そこで、判定手段5は、第2データ列D21を時系列的に移動し、1個分現在に近づけたときに図7の下段(C)に示された第2データ列D22を設定する。このとき、各第1割合d11(i)と対応する各第2割合d22(i)の組み合わせは5組全てが一致するので、集合マッチと判定できる。したがって、検出周期数TD=19となる。検出周期数TDは本来周期数TNよりも1だけ小さく、第1データ列D11と第2データ列D22との間で、リップル抜けが1回発生したことを判定できる。なお、リップル抜けの発生回数は、本来周期数TNから検出周期数TDを減算して求めることができる。
次に、リップル増しが発生しているときの模式的な事例を図8および図9に提示して説明する。図8は、リップル増しが発生しているときに、記憶手段4が記憶した波形番号nおよび立ち上がり幅C2(n)のセットである。図3(2)における波形番号n=20〜24の各立ち上がり幅C(20)〜C(24)の値は、リップル増しにより図8中のn=22〜26の各立ち上がり幅C2(22)〜C(26)として検出されている。
図9は、図8の立ち上がり幅C2(n)を基にして探査ステップで集合マッチを探査する演算処理内容を説明する演算表の図である。判定手段5は、リップル増しの発生を事前に知り得ないので、第1データ列D12に図8の波形番号n=0〜4を設定し、第2データ列D23に図8の波形番号n=20〜24を設定する。そして、図9の上段(D)および中段(E)に示されるように、第1和Sum12、各第1割合d12(i)、第2和Sum23、および各第2割合d23(i)を演算する。しかしながら、各第1割合d12(i)と対応する各第2割合d23(i)の組み合わせは、1組のみ偶然に一致し他の4組は一致せず、集合マッチと判定できない。
そこで、判定手段5は、第2データ列D23を時系列的に移動し、2個分過去にさかのぼらせたときに図9の下段(F)に示された第2データ列D24を設定する。このとき、各第1割合d12(i)と対応する各第2割合d24(i)の組み合わせは5組全てが一致するので、集合マッチと判定できる。したがって、検出周期数TD=22となる。検出周期数TDは本来周期数TNよりも2だけ大きく、第1データ列D12と第2データ列D24との間で、リップル増しが2回発生したことを判定できる。なお、リップル増しの発生回数は、検出周期数TDから本来周期数TNを減算して求めることができる。
上述したように、判定手段5は、リップル抜けもリップル増しも事前に知り得ないので、第2データ列D2を所定範囲にわたって移動し、試行錯誤的な演算処理により集合マッチを探査して、リップル抜けやリップル増しの判定を行う。
次に、ノイズの影響を受けて立ち上がり幅C(n)が変化したときの模式的な事例を図10および図11に提示して説明する。図10は、最新立ち上がり幅C3(0)がノイズの影響を受けて増加しているときに、記憶手段4が記憶した波形番号nおよび立ち上がり幅C3(n)のセットである。図10では、図3(2)と比較して、第1データ列D13が含む最新立ち上がり幅C3(0)のみが50から58に増加している。
図11は、ノイズの影響を受けているときに、探査ステップで集合マッチの有無を判定する演算処理内容を説明する演算表の図である。判定手段5は、第1データ列D13に図10の波形番号n=0〜4を設定し、第2データ列D25に図10の波形番号n=20〜24を設定する。図11の上段(G)に示されるように、第1データ列D13中の最新立ち上がり幅C3(0)が増加したことに起因して、第1和Sum13が増加し、各第1割合d13(i)が変化している。次に、各第1割合d13(i)が許容範囲に収まっているか否かを調べると、最新立ち上がり幅C3(0)に基づいた第1割合d13(0)=0.335は対応する第2割合d25(0)=0.300の+10%以内に収まっていない。したがって、図11の下段(H)に示されるように、不一致と判定されて判定欄は×印となる。残りの4組では一致と判定されて判定欄は○印となる。したがって、集合マッチとは判定できないが、部分マッチと判定する。なお、本実施形態では許容不一致数FN=2としており、不一致の判定が2組以内であれば部分マッチと判定する。
この後、第2データ列D25をさらに時系列的に移動して集合マッチを探査するが、5組全てが一致する集合マッチは見つからない。したがって、判定手段5は、第1データ列D13および第2データ列D25の少なくとも一方にノイズの影響を受けた立ち上がり幅C3(n)を含んでいると判定する。
第1実施形態の直流モータのリップル検出装置1およびリップル検出方法によれば、第1データ列D1および第2データ列D2における集合マッチを判定し、初期設定された本来周期数TNと求めた検出周期数TDとを比較して、リップルの検出取りこぼしや余剰なノイズの検出などの検出誤りの度合いを判定できるので、電流リップルの検出精度を従来よりも大幅に向上できる。
また、第1実施形態では、電流リップルの立ち上がり幅C(n)の増減変動が顕著であるほど、第1データ列D1および第2データ列D2の変化パターンが類似しているか否かを正確に判定できる。これに対し、従来の各種リップル検出装置や検出手法では、各電流リップルが同一波形で繰り返していれば高精度であるが、変動があると精度低下を引き起こしていた。したがって、本発明のリップル検出装置1を従来のリップル検出装置と併用することにより、互いの弱点を補完しあい、補正処理の正当性まで含めてリップル検出の確からしさを保証できる。なお、組み合わせる他の検出装置や検出手法として、本願出願人が出願した特開2000−134985号の状態記憶装置を例示できる。
さらに、第1データ列D1および第2データ列D2の各立ち上がり幅C(n)を正規化して比較している。したがって、直流モータ9の運転状態が変化しつつあるとき、例えば電機子電流Imが増加しつつありこれに伴って電流リップル波形Irが増加するときでも、変化パターンの類似性を基にして高精度な判定を行うことができ、電流リップルの検出精度を従来よりも大幅に向上できる。
また、特徴量として、電流リップル波形Irの生波形データでなく単一数値である立ち上がり幅C(n)を用いる。このため、立ち上がり幅C(n)の記憶数は30個とわずかな記憶エリアでよく、また電機子電流Imが変化しても扱うデータ量は殆ど変化しない。さらに、判定手段5は、新規立ち上がり幅C(new)が検出されたときに動作すればよく、また、検出周期数TD分または本来周期数TN分だけ以前の第2データ列D2で集合マッチを判定できないときに限り第2データ列D2を時系列的に移動して集合マッチを探査する。これにより、判定手段5の演算処理が効率化され、軽い演算負荷で実現可能となり、加えて判定所要時間が短縮される。したがって、専用のディジタル演算処理回路での実現のみならず、汎用の通信手段およびマイコンを組み合わせた構成での実現が可能である。
さらに、集合マッチと判定できないときでも、5個の第1割合d1(i)および第2割合d2(i)の組み合わせの不一致が許容不一致数FN=2以内の場合に部分マッチと判定し、ノイズの影響を受けた立ち上がり幅C(n)を含んでいると判定する。これにより、ノイズの影響を受けても許容不一致数FN以内であれば、立ち上がり幅C(n)の変化パターンの類似性を検出して、リップル検出の妥当性を判定できる。
次に、第2実施形態の直流モータのリップル検出装置およびリップル検出方法について、図12および図13を参考にして説明する。第2実施形態では、図1に示される第1実施形態のリップル検出装置1の構成を用い、図2に示される演算処理フローを基本として追加機能を有したプログラムで動作するようになっている。追加機能の第1は部分マッチ時のノイズ除去機能であり、第2は検出周期数TDの継続条件による確定機能である。図12は本発明の第2実施形態を説明する状態遷移図であり、6つの状態の状態番号および状態名、ならびに生じ得る状態遷移を示している。状態遷移は矢印Mijで示されており、添字iは遷移元、添字jは遷移先を意味している。図13は本発明の第2実施形態を説明する状態遷移表であり、6つの状態の状態番号、状態名、状態の説明、演算処理内容、遷移条件、および遷移先を一覧表に示している。
状態番号St1のイニシャル状態は、起動直後の待ち状態である。イニシャル状態では、直流モータ9が起動して電機子電流Imおよび電流リップル波形Irが過渡的に変化する間の立ち上がり幅C(n)を読み飛ばし、ある程度落ち着いた時点から判定に用いる立ち上がり幅C(n)を記憶する。立ち上がり幅C(n)の記憶数が所定数未満のときにはイニシャル状態を維持し(M11)、記憶数が所定数に達した時点でサーチ状態に遷移する(M12)。
状態番号St2のサーチ状態は、集合マッチの探査状態である。サーチ状態では、第1および第2データ列D2を設定し、第2データ列D2を時系列的に移動して集合マッチを探査する。探査の結果、集合マッチを判定できなかったときにはサーチ状態を維持する(M22)。集合マッチを判定できたときには検出周期数TDを求め、ベリファイ状態に遷移する(M23)。
状態番号St3のベリファイ状態は、集合マッチの継続判定状態である。ベリファイ状態では、サーチ状態で求めた検出周期数TDだけ以前の第2データ列D2を設定して集合マッチの有無を判定する。判定の結果、集合マッチを判定できなかったときにはサーチ状態に遷移する(M32)。集合マッチと判定しかつその継続回数が認定回数未満のときにはベリファイ状態を維持し(M33)、認定回数に到達したときには継続条件が満たされたのでデテクト状態に遷移する(M34)。
状態番号St4のデテクト状態は、検出周期数TDの確認状態である。デテクト状態では、ベリファイ状態で確定した検出周期数TDを確認する。つまり、検出周期数TDだけ以前の第2データ列D2を設定して集合マッチの有無を判定する。判定の結果、集合マッチと判定したときには、同一の検出周期数TDを再度確認できたことになり、デテクト状態を維持する(M44)。デテクト状態の維持は、リップル検出が良好に安定して行われている最も好ましいものである。また、各第1割合d1(i)と対応する各第2割合d2(i)との不一致数が許容不一致数FN以下の部分マッチと判定したときには、ノイズの影響はあるものの検出周期数TDは確認できたことになり、ノイズ状態に遷移する(M45)。不一致数が許容不一致数FNを超えるミスマッチ時には、ノイズの影響により検出周期数TDが確認できなくなったことになり、フラッシュ状態に遷移する(M46)。
状態番号St5のノイズ状態は、ノイズ検出状態、すなわち電流リップル波形Irにノイズが重畳していずれかの立ち上がり幅C(n)が常態から変化した状態である。ノイズ状態では、第1データ列D1および第2データ列D2から不一致の基になった立ち上がり幅C(n)を除外して集合マッチの有無を判定する。このとき、第1データ列D1および第2データ列D2は、時系列的に不連続な要素の集合となり得る。判定の結果、集合マッチと判定したときには、ノイズの影響を避けて同一の検出周期数TDを再度確認できたことになり、デテクト状態に遷移する(M54)。集合マッチを判定できなかったときには、ノイズの影響により検出周期数TDが確認できなくなったことになり、フラッシュ状態に遷移する(M56)。
状態番号St6のフラッシュ状態は、ノイズ通過待ち状態である。フラッシュ状態では、ノイズを含むいずれかの立ち上がり幅C(n)が第1データ列D1または第2データ列D2を通過する間、判定を行わずに待機する。換言すれば、第1データ列D1および第2データ列D2はそれぞれ5個の立ち上がり幅C(n)を含むので、5個分の新規立ち上がり幅C(new)を検出して更新するまで待機する。待機が未完のときにはフラッシュ状態を維持し(M66)、待機が完了した時点でサーチ状態に遷移する(M62)。
第2実施形態の直流モータのリップル検出装置およびリップル検出方法では、状態番号St5のノイズ状態で、部分マッチと判定したときに不一致の基になった立ち上がり幅C(n)を除外して集合マッチの有無を判定する。つまり、ノイズの影響を受けたと推定される立ち上がり幅C(n)を除外し、以降は時系列的に不連続な第1データ列D1および第2データ列D2を比較して判定する。これにより、ノイズの影響を避けて変化パターンが類似しているか否かを精度良く判定でき、電流リップルの検出精度を従来よりも大幅に向上できる。
また、状態番号St3のベリファイ状態では、認定回数以上継続して同一の検出周期数TDを求めたときにその値を確定する。つまり、継続条件を用いて検出周期数TDを確定している。これにより、変化パターンが繰り返す検出周期数TDを求める信頼性が向上し、リップル検出の妥当性判定の信頼性が極めて高くなる。
次に、第3実施形態の直流モータのリップル検出装置およびリップル検出方法について、図14および図15を参考にして説明する。前述の第2実施形態では、ベリファイ状態において認定回数以上継続して同一値の検出周期数TDを求めないとデテクト状態に遷移できず、継続条件は厳しすぎる場合も考えられる。そこで、第3実施形態では、認定確率以上で同一値を求めたとき検出周期数に確定するという確率条件を用いるように判定ロジックを変更している。また、第2実施形態のデテクト状態における部分マッチの判定やノイズ状態におけるノイズを含む立ち上がり幅C(n)の除外の演算処理は煩雑な面もあり、確率条件を用いればその必要性も低下する。したがって、第3実施形態ではノイズの除外に関する演算処理を省略して判定ロジックを簡素化している。図14および図15は、本発明の第3実施形態を説明する状態遷移図およびで状態遷移表であり、表記要領は第2実施形態と同様である。
第3実施形態における状態番号St1のイニシャル状態は、概ね第2実施形態と同様であり、起動直後の待ち状態である。イニシャル状態では、直流モータ9が起動して電機子電流Imおよび電流リップル波形Im過渡的に変化する間の立ち上がり幅C(n)を読み飛ばし、ある程度落ち着いた時点から判定に用いる立ち上がり幅C(n)を記憶する。立ち上がり幅C(n)の記憶数が所定数未満のときにはイニシャル状態を維持し(M11)、記憶数が所定数に達した時点でサーチ状態に遷移する(M17)。
状態番号St7のサーチ状態は、集合マッチの探査および検出周期数TDの確定状態である。サーチ状態では、まず、第1データ列D1および第2データ列D2を設定し、第2データ列D2を時系列的に移動して集合マッチを探査し、集合マッチ時に検出周期数TDを求める。次に、過去3m回(3の倍数回)にわたって求めた検出周期数TDの分布を調査する。調査の結果、同一の検出周期数TDが2m個以上、すなわち認定確率である2/3以上の発生確率があれば検出周期数TDとして確定し、デテクト状態に遷移する(M78)。つまり、2/3以上の確率条件で検出周期数TDを確定する。上記以外のときにはサーチ状態を維持する(M77)。
状態番号St8のデテクト状態は、検出周期数TDの確認状態である。デテクト状態では、まず、サーチ状態で確定した検出周期数TDだけ以前の第2データ列D2を設定して集合マッチの有無を判定する。次に、過去3回中の集合マッチの回数を計数する。計数の結果、集合マッチが3回または2回であれば2/3以上の確率条件を満たしているので、デテクト状態を維持する(M88)。デテクト状態の維持は、ノイズの影響を避けてリップル検出が良好に安定して行われている好ましいものである。また、集合マッチが1回または0回であれば確率条件を満たしていないので、フラッシュ状態に遷移する(M86)。
状態番号St6のフラッシュ状態は、概ね第2実施形態と同様であり、ノイズ通過待ち状態である。フラッシュ状態では、ノイズを含む立ち上がり幅C(n)が第1データ列D1または第2データ列D2を通過する間、判定を行わずに待機する。換言すれば、第1データ列D1および第2データ列D2はそれぞれ5個の立ち上がり幅C(n)を含むので、5個分の新規立ち上がり幅C(new)を検出して更新するまで待機する。待機が未完のときにはフラッシュ状態を維持し(M66)、待機が完了した時点でサーチ状態に遷移する(M67)。
第3実施形態の直流モータのリップル検出装置およびリップル検出方法では、2/3以上の確率条件を用いて検出周期数TDの確定および確認を行っている。これにより、低頻度で発生するノイズの影響を避けることができ、変化パターンが繰り返す検出周期数TDを求める信頼性が向上し、リップル検出の妥当性判定の信頼性が極めて高くなる。
なお、第1〜第3実施形態で説明した演算処理フローおよび判定ロジックの内容や、データ個数Nを始めとする諸定数は一例であって、様々な応用が可能である。また、特徴量としてリップル電流波形Irの立ち上がり幅C(n)を例示したが、立ち下がり幅やその他の特徴量でもよく、さらには立ち上がり幅C(n)と立ち下がり幅とを組み合わせて用いるようにしてもよい。一方、本来周期数TNは、対象とする直流モータの構造に合わせて設定することは当然である。