以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
まず、本実施形態に係る車両のパワートレーンについて図1を参照して説明する。図1は、本発明が適用される車両のパワートレーン及びその制御系の一例を示す構成図である。このパワートレーンの制御は、図1に示すECU(Electronic Control Unit)100によって実行される。なお、具体的には、ECU100は、例えば、エンジンECU、変速機ECU、自動クラッチECU等から構成され、これらのECUは互いに通信可能に接続されている。
また、図1に示すように、本実施形態に係る車両のパワートレーンは、エンジン1と、自動クラッチ2と、変速機3と、ECU100とを備えている。以下、エンジン1、自動クラッチ2、変速機3、及び、ECU100について順次説明する。
−エンジン1−
エンジン1は、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン等の内燃機関であって、その出力軸であるクランクシャフト11は、自動クラッチ2のフライホイール21(図2参照)に連結されている。また、クランクシャフト11の回転数(エンジン回転数Ne)は、エンジン回転数センサ401によって検出される。
エンジン1に吸入される空気量は、スロットルバルブ12によって制御される。スロットルバルブ12の開度(スロットル開度)は、ドライバによるアクセルペダルの操作とは独立して、ECU100によって制御することが可能に構成され、スロットル開度はスロットル開度センサ402によって検出される。
スロットルバルブ12のスロットル開度は、ECU100によって制御される。具体的には、エンジン回転数センサ401によって検出されるエンジン回転数Ne、及び、ドライバによるアクセルペダルの踏み込み量(アクセル開度)等のエンジン1の運転状態に応じて、適正な吸入空気量(目標吸気量)を吸入するべく、ECU100は、スロットルバルブ12のスロットル開度を制御する。
−自動クラッチ2−
図2を参照して自動クラッチ2の構成について説明する。図2は、自動クラッチ2の構成の一例を示す断面図である。本実施形態に係る自動クラッチ2は、乾式単板の摩擦クラッチ20(以下、単に「クラッチ20」ともいう)、及び、クラッチ操作装置200を備えている。
クラッチ20は、フライホイール21、クラッチディスク22、プレッシャプレート23、ダイヤフラムスプリング24、及び、クラッチカバー25を備えている。フライホイール21は、クランクシャフト11に連結されている。また、フライホイール21には、クラッチカバー25が一体回転可能に取り付けられている。クラッチディスク22は、フライホイール21に対向して配置され、変速機3の入力軸31にスプライン嵌合によって固定されている。
プレッシャプレート23は、クラッチディスク22とクラッチカバー25との間に配置されている。プレッシャプレート23は、ダイヤフラムスプリング24の外周部によってフライホイール21側へ付勢されている。このプレッシャプレート23への付勢力によって、クラッチディスク22とプレッシャプレート23との間、及び、フライホイール21とクラッチディスク22との間で、それぞれ摩擦力が発生する。これらの摩擦力によって、クラッチ20が接続(継合)された状態となり、フライホイール21、クラッチディスク22及びプレッシャプレート23が一体となって回転する。
このようにして、クラッチ20が接続状態になると、クランクシャフト11と変速機3の入力軸31とが一体となって回転するため、エンジン1と変速機3との間でトルクが伝達される。ここで、エンジン1と変速機3との間でクラッチ20を介して伝達可能な最大トルクを、以下の説明において「クラッチトルクTc」という。なお、クラッチ20が完全に接続(継合)された状態で、且つ、エンジン1が駆動状態にある場合には、クラッチ20における滑りの発生を防止するために、クラッチトルクTcは、クランクシャフト11の回転トルク(エンジントルクTe)よりも大きい値に設定される。
クラッチ操作装置200は、レリーズベアリング201、レリーズフォーク202、及び、油圧式のクラッチアクチュエータ203を備えており、クラッチ20のプレッシャプレート23を軸方向に(図2では左右方向に)変位させることによって、当該プレッシャプレート23とフライホイール21との間で、クラッチディスク22を挟持する状態、又は、クラッチディスク22から離間する状態に設定する。
レリーズベアリング201は、変速機3の入力軸31に軸方向に(図2では左右方向に)変位可能に嵌合されており、ダイヤフラムスプリング24の中央部分に当接している。レリーズフォーク202は、レリーズベアリング201をフライホイール21に近接、離間する方向に(図2では左右方向に)移動させる部材である。クラッチアクチュエータ203は、油室203aを有するシリンダとピストンロッド203bとを備え、油圧によりピストンロッド203bを進退(前進、及び、後退)させることによって、レリーズフォーク202を、支点202aを中心として回動させる。
クラッチアクチュエータ203の作動は油圧制御回路204及びECU100によって制御される。具体的には、図2に示す状態(クラッチ接続状態)から、クラッチアクチュエータ203が駆動されてピストンロッド203bが前進する(図2では右向きに移動する)と、レリーズフォーク202が支点202aを中心として回動(図2では、時計周り方向に回動)され、これに伴ってレリーズベアリング201がフライホイール21側に(図2では左側に)向けて移動する。このようにして、レリーズベアリング201が移動することによって、ダイヤフラムスプリング24の中央部分(つまり、レリーズベアリング201に当接するダイヤフラムスプリング24の部分)が、フライホイール21側に(図2では左側に)向けて移動して、ダイヤフラムスプリング24が反転する。これによって、ダイヤフラムスプリング24から付与されるプレッシャプレート23の付勢力が弱くなり、クラッチディスク22とプレッシャプレート23との間、及び、フライホイール21とクラッチディスク22との間での、摩擦力が減少する結果、クラッチ20が切断(開放)された状態になる。
逆に、クラッチ切断状態から、クラッチアクチュエータ203のピストンロッド203bが後退する(図2では左向きに移動する)と、ダイヤフラムスプリング24の弾性力によって、プレッシャプレート23がフライホイール21側(図2では左側に)に向けて付勢される。このプレッシャプレート23に付与されるダイヤフラムスプリング24からの付勢力によって、クラッチディスク22とプレッシャプレート23との間、及び、フライホイール21とクラッチディスク22との間で、それぞれ、摩擦力が増大し、これらの摩擦力によってクラッチ20が接続(継合)された状態になる。
また、クラッチアクチュエータ203のピストンロッド203bの移動量(以下、「クラッチストロークSt」ともいう)は、クラッチストロークセンサ408によって検出される。クラッチストロークセンサ408の出力信号は、ECU100に入力される(図5参照)。
−クラッチ温度TPc−
次に、図2を参照して、本発明に係るクラッチ温度TPc、及び、熱容量Cについて説明する。本発明において「クラッチ温度TPc」とは、クラッチカバー25等の変形、及び、クラッチディスク22等の熱膨張などの、クラッチトルクTcを適正に検出することを阻害する程度を示す指標として、自動クラッチ2における適正な範囲の温度(平均温度、最高温度、又は、最低温度等)を指すものである。また、自動クラッチ2に対して予め設定された「熱容量C」とは、「クラッチ温度TPc」の定義と対応付けて定義付けられるものである。
例えば、クラッチディスク22の温度が上昇すると、クラッチディスク22は熱膨張する。その結果、クラッチディスク22とプレッシャプレート23との間、及び、フライホイール21とクラッチディスク22との間で、それぞれ、摩擦力が増大し、クラッチトルクTcが増大することになる。このようなクラッチディスク22の熱膨張が、クラッチトルクTcを適正に検出することを阻害する条件において支配的な要因である場合には、「クラッチ温度TPc」は、例えば、クラッチディスク22の温度(又は、フライホイール21、プレッシャプレート23のクラッチディスク22と対向する側の温度)を指す。
この場合には、「熱容量C」とは、例えば、図2におけるクラッチディスク22(又は、フライホイール21、プレッシャプレート23)の熱容量を指すものである。
また、例えば、クラッチカバー25の温度が上昇すると、クラッチカバー25が変形する場合がある。その結果、クラッチディスク22とプレッシャプレート23との間、及び、フライホイール21とクラッチディスク22との間で、それぞれ、摩擦力が増大し(又は減少し)、クラッチトルクTcが増大する(又は減少する)ことになる。このようなクラッチカバー25等の変形が、クラッチトルクTcを適正に検出することを阻害する条件において支配的な要因である場合には、「クラッチ温度TPc」は、図2におけるクラッチ20全体の温度(平均温度、最高温度、又は、最低温度等)を指す。
この場合には、「熱容量C」とは、例えば、図2におけるクラッチ20全体の熱容量を指すものである。
本実施形態においては、「クラッチ温度TPc」は、例えば、図2におけるクラッチ20の平均温度を指し、「熱容量C」とは、例えば、図2におけるクラッチ20の熱容量を指すものとする。なお、平均温度とは、例えば、クラッチ20を構成する各部材の温度を、各部材の熱容量で重み付けし加重平均して得られるものである。
−変速機3−
次に、変速機3について図1〜図3を参照して説明する。図3は、変速操作装置のゲート機構及びアクチュエータの一例を示す構成図である。変速機3は、例えば、前進5段、後進1段の平行歯車式変速機などの一般的なマニュアルトランスミッションと同様の構成を有している。変速機3の入力軸31は、上記したクラッチ20のクラッチディスク22に連結されている(図2参照)。
また、図1に示すように、変速機3は、入力側ギア群33、及び、出力側ギア群34を備えている。入力側ギア群33は、入力軸31に連結され、出力側ギア群34は、出力軸32に連結されている。また、後述する変速操作装置300によって、入力側ギア群33のいずれか1つのギアと、出力側ギア群34のいずれか1つのギアとが噛合されて、噛合されたギアに対応するギア段が選択される。更に、変速機3の出力軸32の回転トルクは、ドライブシャフト4、ディファレンシャルギア5及び車軸6等を介して駆動輪7に伝達される。
変速機3の入力軸31の回転数(クラッチ20の出力側回転数:以下、「クラッチ回転数Nc」ともいう)は、入力軸回転数センサ403によって検出される。また、変速機3の出力軸32の回転数は、出力軸回転数センサ404によって検出される。これら入力軸回転数センサ403及び出力軸回転数センサ404の出力信号から得られる回転数の比(出力回転数/入力回転数)に基づいて、変速機3のギア段を判定することができる。
本実施形態に係る変速機3には、シフトフォーク及びセレクトアンドシフトシャフト等を有する変速操作装置300が設けられており、全体としてギア変速操作を自動的に行う自動化マニュアルトランスミッション(AMT:Automatic Manual Transmission)を構成している。
変速操作装置300には、図3に示すように、セレクト方向の操作(セレクト操作)を行う油圧式のセレクトアクチュエータ301、シフト方向の操作(シフト操作)を行う油圧式のシフトアクチュエータ302、及び、アクチュエータ301、302に供給する作動油の油圧を制御する油圧回路303を備えている。
変速操作装置300には、ギア段を規定するシフト位置を有する複数のゲートがセレクト方向に沿って配列されている。具体的には、例えば、図3に示すように、1速(1st)と2速(2nd)とを規定する第1ゲート311、3速(3rd)と4速(4th)とを規定する第2ゲート312、及び、5速(5th)と後退(Rev)とを規定する第3ゲート313がセレクト方向に沿って配列されている。
そして、第1ゲート311〜第3ゲート313のうち、いずれか1つのゲート(例えば第1ゲート311)を、セレクトアクチュエータ301の駆動によって選択した状態で、シフトアクチュエータ302を駆動することによって、ギア段の切り換え(例えばニュートラル(N)→1速(1st))を行うことができる。
油圧回路303には、励磁コイルへの通電により弁体を動作させるソレノイドバルブ等が設けられており、このソレノイドバルブに配設された励磁コイルへの通電又は非通電を行うことによって、セレクトアクチュエータ301及びシフトアクチュエータ302への油圧の供給又は油圧の解放を制御する。
また、変速操作装置300の油圧回路303には、ECU100からのソレノイド制御信号(油圧指令値)が入力される。そして、油圧回路303は、ECU100から入力されたソレノイド制御信号に基づいて、セレクトアクチュエータ301及びシフトアクチュエータ302をそれぞれ個別に駆動制御する。その結果として、変速機3のセレクト操作及びシフト操作が実行される。また、これらのセレクト操作量及びシフト操作量は、シフト・セレクトストロークセンサ409(図5参照)によって検出される。
−シフト装置9−
次に、シフト装置9について、図1、図4を参照して説明する。図4は、シフト装置9のシフトゲート92の一例を示す平面図である。一方、図1に示すように、車両の運転席の近傍には、シフト装置9が配設されている。このシフト装置9にはシフトレバー91が変位操作可能に設けられている。
また、このシフト装置9には、図4に示すように、パーキング(P)位置、リバース(R)位置、ニュートラル(N)位置、ドライブ(D)位置、及び、シーケンシャル(S)位置を有するシフトゲート92が形成されており、ドライバが所望の変速位置へシフトレバー91(図1参照)を変位させることが可能に構成されている。これらのパーキング(P)位置、リバース(R)位置、ニュートラル(N)位置、ドライブ(D)位置、シーケンシャル(S)位置(下記の「+」位置及び「−」位置も含む)の各変速位置は、シフトポジションセンサ406(図5参照)によって検出される。
例えば、シフトレバー91がシフトゲート92の「ドライブ(D)位置」に操作されている場合には、車両の運転状態などに応じて、変速機3の複数の前進ギア段(前進5速)が自動的に変速制御される。つまり、オートマチックモードでの変速動作が行われる。
一方、シフトレバー91がシフトゲート92の「シーケンシャル(S)位置」に操作されている場合に、シフトレバー91がシフトゲート92のS位置を中立位置として「+」位置又は「−」位置に操作されると、変速機3の前進ギア段がアップ又はダウンされる。具体的には、シフトゲート92における「+」位置へのシフトレバー91の1回操作ごとに、ギア段が1段ずつアップ(例えば1st→2nd→…→5th)される。一方、シフトゲート92における「−」位置へのシフトレバー91の1回操作ごとにギア段が1段ずつダウン(例えば5th→4th→…→1st)される。
−ECU100−
次に、図1、及び、図5を参照して、ECU100の構成について説明する。ECU100は、スロットルモータ121、クラッチ操作装置200、及び、変速操作装置300等を制御するものであって、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、バックアップRAM、及び、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)を備えている。
ROMには、各種制御プログラム、及び、各種制御プログラムを実行する際に参照されるテーブルデータ(又は、マップデータ)等が記憶されている。CPUは、ROMに記憶された各種制御プログラムを読み出して実行することによって種々の処理を行う。また、RAMは、CPUでの処理の結果、各センサから入力されたデータ等を一時的に記憶するメモリである。バックアップRAMは、例えばエンジン1の停止時に、保存すべきデータ等を記憶する不揮発性のメモリである。EEPROMは、後述するトルク特性等を記憶する書き換え可能な不揮発性メモリである。
ECU100には、エンジン回転数センサ401、スロットル開度センサ402、入力軸回転数センサ403、出力軸回転数センサ404、アクセルペダル8の開度を検出するアクセル開度センサ405、シフト装置9のシフト位置を検出するシフトポジションセンサ406、ブレーキペダルの踏み込み量を検出するブレーキペダルセンサ407、自動クラッチ2のクラッチストロークStを検出するクラッチストロークセンサ408、及び、シフト・セレクトストロークセンサ409などが接続されており、これらの各センサからの信号がECU100に入力される。
また、ECU100には、制御対象として、スロットルバルブ12を開閉するスロットルモータ13、自動クラッチ2のクラッチ操作装置200、及び、変速機3の変速操作装置300などが接続されている。
ECU100は、上記各種センサの出力信号に基づいて、エンジン1のスロットルバルブ12の開度制御を含むエンジン1の各種制御を実行する。また、ECU100は、変速機3の変速時等において自動クラッチ2のクラッチ操作装置200に制御信号を出力して、自動クラッチ2に切断動作及び接続動作を行わせる。更に、ECU100は、上記各種センサの出力信号に基づいて、変速機3の変速操作装置300に制御信号(油圧指令値)を出力して、変速機3のギア段を切り換える変速制御を行う。
また、ECU100において、CPUは、ROMに記憶された制御プログラムを読み出して実行することによって、機能的に、熱容量記憶部101、発熱量推定部102、温度推定部103、基準温度設定部104、温度判定部105、学習禁止部106、学習実行部107、及び、特性記憶部108として機能する。なお、本発明に係る自動クラッチ制御装置は、熱容量記憶部101、発熱量推定部102、温度推定部103、基準温度設定部104、温度判定部105、学習禁止部106、学習実行部107、及び、特性記憶部108等で構成されている。
熱容量記憶部101は、自動クラッチ2に対して予め設定された「熱容量C」の値を記憶する機能部である。「熱容量C」とは、例えば、図2におけるクラッチ20の熱容量を指すものとする。
ここで、クラッチ20のフライホイール21は、クランクシャフト11に連結されているため、フライホイール21とクラッチディスク22との間で発生した摩擦熱は、クランクシャフト11に伝導される。また、クラッチディスク22は、変速機3の入力軸31にスプライン嵌合によって固定されているため、クラッチディスク22とプレッシャプレート23との間、及び、フライホイール21とクラッチディスク22との間で、それぞれ発生した摩擦熱は、変速機3の入力軸31に伝導される。更に、クラッチ20を構成する各部材(フライホイール21、クラッチディスク22、プレッシャプレート23、ダイヤフラムスプリング24、及び、クラッチカバー25)の温度が上昇すると、各部材から大気中へ熱が放出(伝達)される。
このようにして、クラッチ20の温度が高くなる程、クラッチ20から周囲の部材、及び、大気中へ多くの熱が伝達(又は伝導)されるため、見かけ上「熱容量C」は、クラッチ20の温度が高くなる程、大きくなる。また、周囲の雰囲気温度(外気温度)が低い程、クラッチ20から周囲の部材、及び、大気中へ多くの熱が伝達(又は伝導)されるため、周囲の雰囲気温度(外気温度)が低い程、見かけ上「熱容量C」は、小さくなる。
したがって、熱容量記憶部101において、クラッチ20の温度、及び、周囲の雰囲気温度(外気温度)の少なくとも一方に対応付けて、「熱容量C」として対応する値が記憶されていることが好ましい。なお、「熱容量C」の値は、実験等によって予め求めておくことが好ましい。この場合には、外気温度が変化した場合、及び、クラッチ20の温度が変化した場合にも、「熱容量C」として適正な値を設定することができる。
発熱量推定部102は、自動クラッチ2における発熱量Qを推定する機能部である。ここでは、発熱量推定部102は、特許請求の範囲に記載の「発熱量推定手段」に相当する。発熱量推定部102は、具体的には、クラッチディスク22とプレッシャプレート23との間、及び、フライホイール21とクラッチディスク22との間で、それぞれ発生する摩擦熱の和として発熱量Qを推定するものであって、次の(1)式に基づいて発熱量Qを推定する。
Q=A×|Ne−Nc|×Te (1)
すなわち、発熱量推定部102は、エンジン回転数Neと自動クラッチ2の出力側(変速機3の入力軸31)の回転数Ncとの回転数差、及び、エンジントルクTeに基づき、発熱量Qを推定する。ここで、定数Aの値は、実験等によって予め求めておくことが好ましい。
温度推定部103は、発熱量推定部102によって推定された発熱量Qに基づき、クラッチ温度TPcを推定する機能部である。ここでは、温度推定部103は、特許請求の範囲に記載の「温度認識手段」に相当する。温度推定部103は、具体的には、予め設定された所定期間ΔT(例えば、0.1秒)ごとに、発熱量推定部102によって推定された発熱量Qと、熱容量記憶部101に記憶された熱容量Cとから、温度上昇量ΔTPcを求め、次の(2)式及び(3)式に基づいてクラッチ温度TPcを推定するものである。
TPc←TPc+ΔTPc (2)
ΔTPc=Q/C (3)
このようにして、自動クラッチ2に対して予め設定された熱容量Cに基づき、クラッチ温度TPcが推定されるため、熱容量Cを適正な値に設定することによって、クラッチ温度TPcを適正に推定することができる。
なお、温度推定部103は、例えば、イグニッションON時の大気温度T0を、クラッチ温度TPcの初期値TPc0として設定し、上記(2)式及び(3)式に基づいて、クラッチ温度TPcを更新するものである。ただし、直前のイグニッションOFF時から今回のイグニッションON時までの期間が短い(例えば、1分間以下である)場合には、温度推定部103は、直前のイグニッションOFF時のクラッチ温度TPcを初期値として用いることが好ましい。このように、クラッチ温度TPcの初期値TPc0を設定することによって、クラッチ温度TPcを適正に推定することができる。
基準温度設定部104は、予め設定された基準時点でのクラッチ温度TPcを基準温度TPc1として設定する機能部である。ここでは、基準温度設定部104は、特許請求の範囲に記載の「基準温度設定手段」に相当する。基準温度設定部104は、具体的には、車両が停止状態から前進を開始する発進時点(「基準時点」に相当する)での、温度推定部103によって推定されたクラッチ温度TPcを基準温度TPc1として設定する。
このようにして、前記基準時点が、前記トルク特性の学習が開始される発進時点に設定されているため、基準温度TPc1を適正に設定することができる。
すなわち、後述するように、車両が停止状態から前進を開始する発進時点から、エンジン回転数Neとクラッチ回転数Ncとの回転数差が回転数差閾値Nth以下となる時点まで、学習実行部107によって前記トルク特性の学習が実行される。また、クラッチ温度TPcの基準温度TPc1に対する温度上昇量ΔTPcが、予め設定された上昇量閾値ΔTth以上である場合に、学習禁止部106によって前記トルク特性の学習が禁止される。したがって、前記トルク特性の学習が開始される発進時点である前記基準時点のクラッチ温度TPcを基準温度TPc1として設定することによって、前記トルク特性の学習を禁止するか否かの判定を適正に行うことができるのである。
温度判定部105は、温度推定部103によって推定されるクラッチ温度TPcの、基準温度TPc1に対する温度上昇が、予め設定された所定条件を満たすか否かを判定する機能部である。ここでは、温度判定部105は、特許請求の範囲に記載の「温度判定手段」に相当する。
本実施形態では、温度判定部105は、温度推定部103によって推定されるクラッチ温度TPcの、基準温度TPc1に対する温度上昇量ΔTPcが、予め設定された上昇量閾値ΔTth(例えば、7℃)以上であるか否かを判定する。すなわち、温度判定部105は、次の(4)式が成立するか否かを判定する。
ΔTPc≧ΔTth (4)
ここで、温度上昇量ΔTPcは、次の(5)式で規定される。
ΔTPc=TPc−TPc1 (5)
このようにして、温度判定部105によって、クラッチ温度TPcの、基準温度TPc1に対する温度上昇量ΔTPcが、予め設定された上昇量閾値ΔTth以上であるか否かが判定されるため、上昇量閾値ΔTthを適正な値に設定することによって、トルク特性の学習を適正に禁止することができるため、トルク特性を好適に学習することができる。なお、上昇量閾値ΔTthは、実験等によって、適正な値を求めておき、ECU100に配設されたROM等に予め記憶しておくことが好ましい。
学習禁止部106は、温度判定部105によって前記温度上昇が前記所定条件を満たすと判定された場合に、学習実行部107に対してトルク特性の学習を禁止する機能部である。ここでは、学習禁止部106は、特許請求の範囲に記載の「学習禁止手段」に相当する。本実施形態では、学習禁止部106は、温度判定部105によって、温度上昇量ΔTPcが、予め設定された上昇量閾値ΔTth(例えば、7℃)以上である(上記(4)式が成立する)と判定された場合に、学習実行部107に対してトルク特性の学習を禁止する。
また、学習禁止部106は、温度判定部105によって、温度上昇量ΔTPcが、予め設定された上昇量閾値ΔTth(例えば、7℃)以上である(上記(4)式が成立する)と判定された場合に、学習実行部107に対して、今回の学習を開始する時点である学習開始時点(すなわち、車両が停止状態から前進を開始する発進時点)からの学習実行部107によって取得された学習データを破棄させる。
学習実行部107は、予め設定された学習開始条件を満たす場合に、自動クラッチ2におけるクラッチストロークStとクラッチトルクTcとの関係を示すトルク特性の学習を実行する機能部である。本実施形態においては、学習実行部107は、車両が停止状態から前進を開始する発進時点(以下、「学習開始時点」ともいう)から前記トルク特性の学習を開始し、エンジン回転数Neとクラッチ回転数Ncとの回転数差が、予め設定された回転数差閾値Nth以下となる時点(以下、「学習終了時点」ともいう)で前記トルク特性の学習を終了する。すなわち、学習実行部107は、次の(6)式を満たす時点で、前記トルク特性の学習を終了する。
|Ne−Nc|≦Nth (6)
ここで、学習開始条件は、例えば、ギア段が1速(1st)であること、エンジン回転数Neの単位時間当たりの変化量が、予め設定された所定範囲内であること等の適正なトルク特性を取得することを可能とする条件である。
具体的には、学習実行部107は、学習開始時点から学習終了時点まで、予め設定された所定ストロークごと(又は、所定時間ごと)に、クラッチストロークStとクラッチトルクTcとをそれぞれ示すデータを取得又は生成する。そして、学習実行部107は、学習終了時点までのクラッチストロークStとクラッチトルクTcとをそれぞれ示すデータが取得又は生成された場合には、取得又は生成されたデータを対応付けて特性記憶部108に記録する。また、学習実行部107は、学習禁止部106からトルク特性の学習が禁止された場合には、トルク特性の学習を中止すると共に、学習開始時点からの取得又は生成された学習データを破棄する。
このようにして、前記トルク特性の学習が、エンジン回転数Neとクラッチ回転数Ncとの回転数差が、予め設定された回転数差閾値Nth以下となる時点で終了されるため、回転数差閾値Nthを適正な値に設定することによって、前記トルク特性の学習を適正なタイミングで終了することができる。
また、上記学習開始時点から、上記学習終了時点までの間(以下、「学習期間」ともいう)において、前記クラッチ温度の前記基準温度に対する温度上昇が、予め設定された所定条件を満たすと判定された場合には、トルク特性の学習が禁止されるため、前記所定条件を適正に設定することによって、トルク特性の学習を適正に禁止することができる。すなわち、前記トルク特性の学習期間中に、前記所定条件を満たすと判定された場合には、その前に取得された前記トルク特性の学習値は破棄されるため、トルク特性の学習を適正に禁止することができるのである。
なお、学習実行部107は、例えば、クラッチストロークStを、クラッチストロークセンサ408を介して取得する。また、学習実行部107は、例えば、クラッチトルクTcを、エンジントルクTeに基づいて、次の(7)式を用いて算出する。
Tc=Te−Ie×(dωe/dt) (7)
ここで、エンジンイナーシャIeは、エンジン1に固有の設計値である。エンジン回転角加速度(dωe/dt)は、エンジン回転数センサ401によって検出されるエンジン回転数Neから求められる。
図6は、本発明に係るトルク特性の学習タイミングの一例を示すグラフである。図6において、横軸は、時間Tであって、縦軸は、上側から順に、アクセル開度センサ405によって検出されるアクセルペダル8の開度、エンジン回転数センサ401によって検出されるエンジン1の回転数Ne(rpm)(又は入力軸回転数センサ403によって検出されるクラッチ20の出力側の回転数であるクラッチ回転数Nc(rpm))、エンジントルクTe(N・m)、クラッチトルクTc(N・m)、及び、ECU100によってトルク特性の学習が行われているか否かを示す学習中信号である。
また、図6において、それぞれ、上側から順に、アクセルペダル8の開度の変化を示すグラフG10、エンジン1の回転数Neの変化を破線で示す示すグラフG20、クラッチ20の出力側の回転数であるクラッチ回転数Ncの変化を実線で示す示すグラフG30、エンジントルクTeの変化を示すグラフG40、クラッチトルクTcの変化を示すグラフG50、及び、学習中信号の変化を示すグラフG60である。
ここで、初期状態において、車両は停止状態であり、エンジン1は、アイドリング状態である。時点T01において、アクセルペダル8が踏み込まれて、グラフG10に示すように、アクセルペダル8の開度が増加する。そして、アクセルペダル8の開度の増加に伴って、グラフG40、G50に示すように、エンジントルクTe及びクラッチトルクTcが増大する。次いで、時点T02において、グラフG30に示すように、クラッチ20が半クラッチ状態となり、クラッチ回転数Ncが増加する。
そして、時点T03において、グラフG60に示すようにトルク特性の学習が開始される。また、時点T02以降、エンジン回転数Neとクラッチ回転数Ncとの差が単調に減少し、時点T04において、エンジン回転数Neとクラッチ回転数Ncとの差が予め設定された回転数差閾値Nth以下となり、グラフG60に示すようにトルク特性の学習が終了される。そして、時点T05において、エンジン回転数Neとクラッチ回転数Ncとが一致し、クラッチ20が接続(係合)状態となる。
再び、図5に戻って、ECU100の機能構成について説明する。特性記憶部108は、自動クラッチ2におけるクラッチストロークStとクラッチトルクTcとの関係を示すトルク特性を記憶する機能部である。また、特性記憶部108に記憶されるトルク特性は、学習実行部107によって書き換えられる。なお、特性記憶部108は、ECU100に配設されたEEPROM上に機能部として構成されている。
図7は、特性記憶部108に記憶されたトルク特性の一例を示すグラフである。図6の横軸は、クラッチストロークStであって、縦軸は、クラッチトルクTcである。グラフGAは、車両の工場出荷時(初期)のトルク特性を示すグラフの一例であって、グラフGBは、車両が所定距離(例えば、10000km)走行後のトルク特性を示すグラフの一例である。
図7に示すように、グラフGBは、グラフGAよりも下側に位置しており、クラッチストロークStが同一の位置で発生されるクラッチトルクTcは、クラッチディスク22の磨耗等によって、時間の経過と共に低下する。したがって、学習実行部107によってトルク特性を学習し、適性なクラッチストロークStに制御する必要がある。
−クラッチ温度TPcの推定動作−
図8は、図5に示すECU100のクラッチ温度TPcを推定する動作の一例を示すフローチャートである。まず、ステップS101において、温度推定部103によって、クラッチ温度TPcの初期値TPc0が設定される。そして、ステップS103において、発熱量推定部102によって、エンジン回転数センサ401からエンジン回転数Neが取得される。次に、ステップS105において、発熱量推定部102によって、入力軸回転数センサ403からクラッチ回転数Ncが取得される。
次いで、ステップS107において、発熱量推定部102によって、エンジントルクTeが求められる。そして、ステップS109において、発熱量推定部102によって、ステップS103で取得されたエンジン回転数Ne、ステップS105で取得されたクラッチ回転数Nc、及び、ステップS107で求められたエンジントルクTeに基づき、発熱量Qが推定される。
そして、ステップS111において、温度推定部103によって、熱容量記憶部101から熱容量Cが読み出される。次いで、ステップS113において、温度推定部103によって、ステップS109において推定された発熱量Qと、ステップS111において読み出された熱容量Cとから、温度上昇量ΔTPcが求められる。そして、ステップS115において、温度推定部103によって、ステップS113において求められた温度上昇量ΔTPcから、クラッチ温度TPcが推定される。次いで、処理がステップS103に戻され、ステップS103以降の処理が繰り返し実行される。
このようにして、エンジン回転数Neとクラッチ回転数Nc(自動クラッチ2の出力側の回転数Nc)との回転数差、及び、エンジントルクTeに基づき、自動クラッチ2における発熱量Qが推定されるため、自動クラッチ2における発熱量Qを適正に推定することができる。また、推定された発熱量Qに基づき、クラッチ温度TPcが推定されるため、クラッチ温度TPcを適正に推定することができる。
本実施形態では、温度推定部103が、発熱量推定部102によって推定された発熱量Qに基づき、クラッチ温度TPcを推定する場合について説明するが、クラッチ温度TPcを検出する温度センサ(ここでは、図5に示すクラッチ温度センサ410)を備え、該温度センサによって検出された温度に基づいてクラッチ温度TPcを認識する形態でもよい。この場合には、クラッチ温度TPcが検出されるため、クラッチ温度TPcを正確に認識することができる。
図5に示すクラッチ温度センサ410としては、例えば、熱電対を、摩擦熱が発生する部材であるフライホイール21、クラッチディスク22及びプレッシャプレート23の少なくともいずれか1つに埋め込み、スリップリング等を介して、クラッチ温度センサ410によって検出された温度信号をECU100に伝送する形態が好ましい。
−トルク特性の学習動作−
図9は、図5に示すECU100のトルク特性を学習する動作の一例を示すフローチャートである。なお、ここでは、便宜上、初期状態において、車両は停止状態であり、エンジン1は、アイドリング状態である。まず、ステップS201において、学習実行部107によって、学習開始条件が成立しているか否かの判定が行われる。ステップS201でNOの場合には、処理が待機状態とされる。ステップS201でYESの場合には、処理がステップS203に進められる。
ステップS203において、学習実行部107によって、車両が停止状態から前進を開始する発進時点(学習開始時点)に到達したか否かの判定が行われる。ステップS203でNOの場合には、処理がステップS201に戻され、ステップS201以降の処理が繰り返し実行される。ステップS203でYESの場合には、処理がステップS205に進められる。
ステップS205において、基準温度設定部104によって、学習開始時点のクラッチ温度TPcが基準温度TPc1として設定される。そして、ステップS207において、学習実行部107によって、トルク特性の学習が実行される。次に、ステップS209において、温度判定部105によって、クラッチ温度TPcが取得される。次いで、ステップS211において、温度判定部105によって、ステップS207において取得されたクラッチ温度TPcの、基準温度TPc1に対する温度上昇量ΔTPcが、上昇量閾値ΔTth以上であるか否かが判定される。ステップS211でYESの場合には、処理がステップS215に進められる。ステップS211でNOの場合には、処理がステップS213に進められる。
ステップS213において、学習実行部107によって、エンジン回転数Neとクラッチ回転数Ncとの回転数差が、回転数差閾値Nth以下となる時点(学習終了時点)に到達したか否かの判定が行われる。ステップS213でYESの場合には、処理がステップS217に進められる。ステップS213でNOの場合には、処理がステップS207に戻され、ステップS207以降の処理が繰り返し実行される。
ステップS215において、学習禁止部106によって、トルク特性の学習が禁止されると共に、ステップS207において取得又は生成された学習データが破棄され、処理がステップS201に戻され、ステップS201以降の処理が繰り返し実行される。
ステップS217において、学習実行部107によって、ステップS207において取得又は生成された学習データが特性記憶部108に記録されて、処理がステップS201に戻され、ステップS201以降の処理が繰り返し実行される。
このようにして、自動クラッチ2の温度であるクラッチ温度TPcの、予め設定された基準時点でのクラッチ温度TPcである基準温度TPc1に対する温度上昇が、予め設定された所定条件を満たすと判定された場合に、トルク特性の学習が禁止されるため、前記所定条件を適正に設定することによって、トルク特性を好適に学習することができる。
すなわち、自動クラッチ2の温度上昇が大きく、クラッチカバー25等の変形、又は、クラッチディスク22等の熱膨張が大きい場合には、適正なクラッチトルクTcを検出することが困難であるため、前記トルク特性の学習を禁止することが好ましい。したがって、前記所定条件を適正に設定することによって、自動クラッチ2の温度上昇が大きく、適正なクラッチトルクTcを検出することが困難である場合に、トルク特性の学習を適正に禁止することができるため、トルク特性を好適に学習することができるのである。
本実施形態では、温度判定部105が、基準温度TPc1に対する温度上昇量ΔTPcが上昇量閾値ΔTth以上であるか否かを判定する場合について説明したが、温度判定部105が、基準温度TPc1に対する温度上昇率が、予め設定された上昇率閾値以上であるか否かを判定する形態でもよい。この場合には、上記上昇率閾値を適正な値に設定することによって、トルク特性の学習を適正に禁止することができるため、トルク特性を好適に学習することができる。
−効果の説明−
次に、図10〜図12を参照して、本願発明に係る自動クラッチ制御装置の効果を説明する。図10は、本発明の効果の一例を示すグラフである。図11は、従来技術の課題の一例を示すグラフである。図10、図11において横軸は、時間Tであって、縦軸は、上側から順に、車両の走行速度である車速V、ECU100によって特性記憶部108に記憶されたクラッチ特性に基づいて制御されるクラッチ20のクラッチストローク(mm)、クラッチトルクTc、エンジン回転数センサ401によって検出されるエンジン1の回転数Ne(rpm)(又は入力軸回転数センサ403によって検出されるクラッチ20の出力側の回転数であるクラッチ回転数Nc(rpm))、及び、車両の前後方向の加速度Gである。
また、図10、図11において、それぞれ、上側から順に、車速Vの変化を示すグラフG11、グラフG12、クラッチストロークの変化を示すグラフG21、グラフG22、クラッチ回転数Ncの変化を実線で示すグラフG31、グラフG32、エンジン回転数Neの変化を破線で示すグラフG41、グラフG42、及び、車両の前後方向の加速度Gの変化を示すG51、グラフG52である。また、図10、図11においては、車両が、アクセル「OFF」の状態で下り坂を下っており、車速Vが増加している途中で、ギアのアップシフトを行うために、クラッチ20が一旦切断状態とされた後、接続状態とされる状況である。
まず、図11を用いて、従来技術の課題について説明する。従来は、図12を用いて後述するように、トルク特性の適正でない学習が行われる場合があり、このような場合には、特性記憶部108に適正ではないトルク特性が記憶されている。このような場合には、図11を用いて、以下に説明するように、ECU100によってクラッチ20のクラッチストロークStが適正ではない値に制御されるために、クラッチ20がスムーズに係合されず、車両の前後方向に急峻な加速度Gが発生することになる。
図11において、グラフG12に示すように、車速Vは増加している。そして、この車速Vの増加に伴って、グラフG32に示すように、クラッチ回転数Ncが増加し、エンジン回転数Neに近づいている。そして、時点T21において、グラフG22に示すように、クラッチストロークStが、クラッチ20を接続する方向に変化し、時点T22において、クラッチ20が半クラッチ状態となり、グラフG42に示すようにエンジン回転数Neが、クラッチ回転数Ncに沿って増加している。
しかしながら、ここでは、特性記憶部108に適正ではないトルク特性が記憶されているため、クラッチストロークStが、クラッチ20を接続するのに適正な値となっていない(ここでは、クラッチストロークStの変化量が不足している)ので、時点T22以降も、グラフG32及びグラフG42に示すように、エンジン回転数Neとクラッチ回転数Ncが一致しない状態、すなわち、非係合状態が続いている。そして、時点T23及び時点T24において、グラフG32及びグラフG42に示すように、クラッチ20を接続する方向にクラッチストロークStが移動するため、クラッチ回転数Ncが急激に低下して(車両が急激に減速して)、グラフG52に示すように、車両の前後方向に急峻な加速度Gが発生している。
このように、トルク特性の適正ではない学習が行われた結果、特性記憶部108に適正ではないトルク特性が記憶されている場合には、クラッチストロークStが適正に制御されず、車両の前後方向に急峻な加速度Gが発生する場合がある。
これに対して、図10においては、以下に説明するように、特性記憶部108に適正なトルク特性が記憶されているため、クラッチストロークStが適正に制御され、車両の前後方向に急峻な加速度Gが発生することはない。
図10において、グラフG11に示すように、車速Vは増加している。そして、この車速Vの増加に伴って、グラフG31に示すように、クラッチ回転数Ncが増加し、エンジン回転数Neから離間している。そして、時点T11において、グラフG21に示すように、クラッチストロークStが、クラッチ20を接続する方向に変化し、時点T12において、クラッチ20が半クラッチ状態となり、グラフG41に示すようにエンジン回転数Neが、クラッチ回転数Ncに沿って増加している。
そして、ここでは、特性記憶部108に適正なトルク特性が記憶されているため、クラッチストロークStが、クラッチ20を接続するのに適正な値となっているので、時点T13において、グラフG31及びグラフG41に示すように、エンジン回転数Neとクラッチ回転数Ncが一致している状態、すなわち、接続(係合)状態が続いている。そこで、グラフG51に示すように、車両の前後方向に急峻な加速度Gは発生していない。
次に、図12を参照して、従来どのような場合にトルク特性の適正でない学習が行われていたかについて説明する。図12は、従来技術において適正でない学習が実行されていた状況の一例を示すグラフである。図12において横軸は、時間Tであって、縦軸は、上側から順に、アクセル開度センサ405によって検出されるアクセルペダル8の開度、車両の走行速度である車速V、ECU100(温度推定部103)によって推定されたクラッチ温度TPc(℃)、ECU100によってトルク特性の学習が行われているか否かを示す学習中信号、及び、車両の前後方向の加速度Gである。
また、図12において、それぞれ、上側から順に、アクセルペダル8の開度の変化を示すグラフG13、車速Vの変化を示すグラフG23、クラッチ温度TPcの変化を示すグラフG33、学習中信号の変化を示すグラフG43、及び、車両の前後方向の加速度Gの変化を示すG53である。
図12において、時点T31、時点T32、及び、時点T33において、それぞれ、グラフG13に示すように、アクセルペダルが踏み込まれ、グラフG23に示すように、発進直後に車速Vが増加している(加速している)。そして、時点T31、時点T32、及び、時点T33の直後に、グラフG33に示すように、クラッチ温度TPcがステップ状に大幅に増加している。また、時点T31、時点T32、及び、時点T33の直後において、グラフG43に示すように、トルク特性の学習が実行されている。
なお、上述のように、トルク特性の学習は、車両の発進直後からエンジン回転数Neとクラッチ回転数Ncとの回転数差が回転数差閾値Nth以下となる時点まで実行される。一方、トルク特性の学習が実行される期間において、クラッチ温度TPcが大幅に上昇すると、クラッチカバー25(図2参照)等の変形、及び、クラッチディスク22(図2参照)等の熱膨張の影響を受けるため、トルク特性を適正に学習することができない。したがって、図12に示す時点T31、時点T32、及び、時点T33の直後に行われているトルク特性の学習は、適正ではない学習である。
このように、時点T31、時点T32、及び、時点T33の直後に、トルク特性の適正ではない学習が行われた結果、時点T34、及び、時点T35において、それぞれ、グラフG53に示すように、車両の前後方向に急峻な加速度Gが発生している。ここで、図12の時点T34、及び、時点T35において発生している急峻な加速度Gは、それぞれ、図11の時点T23、及び、時点T24において発生している急峻な加速度G(グラフG62参照)と同一のものである。すなわち、図11の時点T23、及び、時点T24において発生している急峻な加速度Gは、図12に示す時点T31、時点T32、及び、時点T33の直後に、トルク特性の適正ではない学習が行われた結果、発生しているものである。
−他の実施形態−
本実施形態では、熱容量記憶部101、発熱量推定部102、温度推定部103、基準温度設定部104、温度判定部105、学習禁止部106、学習実行部107、及び、特性記憶部108が、ECU100において機能的に構成されている場合について説明したが、熱容量記憶部101、発熱量推定部102、温度推定部103、基準温度設定部104、温度判定部105、学習禁止部106、学習実行部107、及び、特性記憶部108のうち、少なくとも1つが電子回路等のハードウェアで実現されている形態でもよい。
本実施形態では、自動クラッチ2のクラッチ20が、乾式単板の摩擦クラッチである場合について説明したが、自動クラッチ2のクラッチが、その他の種類の摩擦クラッチである形態でもよい。例えば、自動クラッチ2のクラッチが、乾式DCT(Dual Clutch Transmission)である形態でもよい。
また、本実施形態では、自動クラッチ2の駆動源が、油圧式である場合について説明したが、自動クラッチ2の駆動源が、その他の種類の動力源(例えば、電動式等)である形態でもよい。