JP5620794B2 - ピストンリング - Google Patents

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Description

本発明は、シリンダライナあるいはシリンダの内壁面と摺動する内燃機関用低フリクションピストンリングに関する。
温暖化をはじめとする環境問題が地球規模で大きくクローズアップされ、大気中のCO2削減に向けた内燃機関の燃費改善技術の開発が大きな課題となっており、その一環として、エンジン等に用いられる摺動部材の摩擦損失の低減が求められている。これに鑑み、近年において、耐摩耗性および耐焼付性に優れ、かつ、摩擦力の低減効果を最大限に発現することが可能な摺動部材の材料・表面処理・改質の技術の開発が進められている。
内燃機関の燃費改善など、シリンダが用いられる装置のエネルギー効率を向上させるためには摩擦損失の低減が有効である。特に、往復運動を行うピストンリングの外周摺動面と、シリンダライナあるいはシリンダの内壁面との間における摩擦低減が有効である。ピストンリングとシリンダライナとの摩擦力を低減させる手段としては、ピストンリングの張力を下げることが考えられる。しかしながら、ピストンリングの張力を下げた場合には、シール性が低下し、潤滑油の消費量が拡大してしまうという問題があった。
このような状況下、潤滑油の消費量を抑えつつ、摩擦力を低減させることができるピストンリングについて種々の研究がなされており、特許文献1には、外周摺動面に微小なディンプルが形成されたピストンリングが提案されている。この提案は、ピストンリングの外周摺動面に、ディンプルを形成することで、ピストンリングの外周摺動面と、シリンダライナ内壁面との接触面積を減らし、摩擦力を低減させるものである。
また、特許文献2には、外周面に多数の溝が形成されたピストンリングや、複数のディンプルが形成されたピストンリングが提案されている。この提案は、溝やディンプルを外周面に形成することで、シリンダライナの内壁面に対する摺接性の向上、及び摩耗を逓減させるものである。
特開2004−60873号公報 特開2010−38295号公報
しかしながら、上記特許文献1に提案されているピストンリングでは、ディンプルをどの程度形成するかについて、またディンプルの形成位置について何ら着目されておらず、また、特許文献2に提案されているピストンリングでは、ディンプルをどの程度形成するかについて、上面側よりも下面側のディンプルの数を少なくすることの開示がされているのみであって、その他のディンプルの面積率や、大きさ等については検討がされていない。例えば、外周摺動面にディンプルを過剰に形成した場合には、摩擦力、ガスシール、オイルシール機能が低下し、スカッフ等の問題が生ずる可能性が高くなる。
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、耐スカッフ性等の摺動特性に優れ、摩擦係数を小さくして内燃機関の低フリクション化の要求に応えることができ、かつガスシール、オイルシール機能を低下させることのないピストンリングを提供することを主たる課題とする。
上記課題を解決するための本発明は、ピストンのリング溝に装着され、シリンダライナあるいはシリンダの内壁面と摺動する内燃機関用ピストンリングであって、ピストンリングの外周摺動面のうち、ピストンリングのバレル幅領域には、微小な凹部が複数形成されており、前記バレル幅領域において前記凹部が形成されていない凹部非形成領域の面積が、前記凹部形成前のバレル幅領域の全面積を100%としたときの20〜85%の範囲内であり、前記バレル幅領域の軸方向切断面のすべてには、前記凹部非形成領域が存在しており、前記ピストンリングが前記ピストンのリング溝に装着され、該ピストンをシリンダに組み込んだ状態において、前記シリンダの中心軸と合口部の外周端部とを通る直線を基準線とした場合、前記中心軸を中心に前記基準線とのなす角が1°未満の範囲の前記バレル幅領域には、前記凹部が形成されていないことを特徴とする。
また、前記凹部非形成領域には、硬質皮膜が形成されていてもよい。
また、前記外周摺動面の軸方向下端部にまたがらないように、前記凹部が形成されていてもよく、前記ピストンリングの下端部が面取りされている場合において、該面取りされている部分にまたがらないように、前記凹部が形成されていてもよい。
本発明のピストンリングによれば、凹部非形成領域の面積が上記の範囲内となるようにバレル幅領域に凹部が形成されていることから、低フリクションの要求を十分に満たすことができる。また、バレル幅領域の軸方向切断面の全てには、凹部非形成領域が存在していることからも、同様に、ガスシール、オイルシール機能を低下させることもない。
本発明のピストンリングのバレル幅領域を説明するための概略断面図である。 本発明のピストンリングにおける合口部近傍のピストンリングの外周からみた拡大斜視図である。 本発明のピストンリングにおける合口部近傍のピストンリングの外周からみた概略展開図である。 本発明のピストンリングにおける合口部近傍のピストンリングの外周からみた概略展開図である。 図5(a)は、シリンダ中心軸Oと、中心角との関係を示す概略図であり、図5(b)は、中心角1°未満の範囲内のバレル幅領域に凹部が形成されていないピストンリングを示す合口部近傍のピストンリングの外周からみた概略展開図である。 外周摺動面の全面に凹部が形成された本発明のピストンリングにおける合口部近傍のピストンリングの外周からみた概略展開図である。 本発明のピストンリングのピストンリングの外周からみた下端部近傍を示す概略展開図である。 本発明のピストンリングに形成される凹部の形状の例を示す概略展開図である。 本発明のシリンダに形成される凹部の寸法位置を説明する概略展開図および概略断面図である。 本発明の実施例で用いられたマスキング板の開口部を示す概略図である。 本発明の実施例における往復動摩擦を測定するために用いられた装置の構成を示す概略断面図である。 本発明の実施例における測定結果を示すグラフである。 本発明の実施例における測定結果を示すグラフである。
本発明のピストンリングは、ピストンのリング溝に装着され、シリンダライナあるいはシリンダの内壁面を摺動する内燃機関用ピストンリングであって、ピストンリングの外周摺動面のうち、ピストンリングのバレル幅領域には、微小な凹部が複数形成されており、バレル幅領域において凹部が形成されていない凹部非形成領域の面積が、凹部形成前のバレル幅領域の全面積を100%としたときの20〜85%の範囲内であり、バレル幅領域の軸方向切断面のすべてには、凹部非形成領域が存在していることを特徴とする。
本発明におけるピストンリングのバレル幅領域とは、JIS B 8032−6(1998)に示される符号h8を意味する。また、図1に示すようにバレルフェースレクタンギュラリングの場合には、外周摺動面200の全てがバレル幅領域100とはならず、外周摺動面200のうち、図中のX部分がバレル幅領域100となる。なお、図1は、ピストンリング10のバレル幅領域100を説明するための概略断面図である。以下、バレル形状の外周摺動面200を有し、外周摺動面の軸方向上端部及び下端部が面取りされたピストンリングを中心に説明を行うが、本発明はこの形態に限定されるものではない。
本発明のピストンリング本体の材質については、特に限定されることはなくいかなる材質も用いることができる。例えば、その材質としては、主にスチール(鋼材)を用いることができ、またステンレス鋼としては、SUS440、SUS440B、SUS410、SUS420、SUS304等、あるいは8Cr鋼、10Cr鋼、SWOSC−V、SWRH材などを用いることができる。また、窒化処理を行なった鋼材を用いてもよい。ピストンリングの種類としては、いわゆる圧力リングとして機能するトップリングはもとより、同じ圧力リングであるセカンドリングに用いることもできる。
次に、図2〜図4を参照して本発明のピストンリングのバレル幅領域100に形成された凹部3について説明する。なお、図2は、本発明のピストンリングをピストンリングの外周からみたときの合口部近傍の一例を示す拡大斜視図であり、図3、図4は、本発明のピストンリングをピストンリングの外周からみたときの合口部近傍の一例を示す概略展開図である。
図2に示すように、本発明のピストンリング10のバレル幅領域100には、微小な凹部3が複数形成されている。この構成により、ピストンリング10と、シリンダライナあるいはシリンダの内壁面との間の往復動摩擦力を低減させることができる。
さらに、本発明のピストンリング10は、バレル幅領域100において凹部3が形成されていない凹部非形成領域4の面積が、凹部形成前のバレル幅領域の全面積を100%としたときの20〜85%の範囲内であり、バレル幅領域100のリング軸方向切断面のすべてには、凹部非形成領域4が存在している。なお、凹部非形成領域4とは、バレル幅領域100内において凹部3が形成されていない部分の領域である。
上記の特徴を有する本発明のピストンリング10によれば、シリンダライナあるいはシリンダの内壁面との間の往復動摩擦力低減効果を維持しつつ、スカッフ等の問題が生ずることを防止することができる。なお、凹部非形成領域4の面積が20%未満である場合(凹部が占める割合が多い場合)には、接触面積が小さすぎることによって、摺動部の面圧が著しく高くなり、摩擦力が増加してしまう。一方、凹部非形成領域4の面積が85%を超える場合(凹部が占める割合が少ない場合)には、凹部3を形成することによる効果を十分に得ることができない。また、バレル幅領域100のリング軸方向切断面のすべてに、凹部非形成領域4が存在していない場合には、シール性(気密性)が著しく低下することとなる。
本発明のピストンリング10は、バレル幅領域100のリング軸方向切断面のすべてに、凹部非形成領域4が存在することを必須の要件とするものであり、この要件を満たすように、バレル幅領域100には、複数の凹部3が形成されている。
上記の要件を満たす方法について特に限定はなく、例えば、図3(a)に示すように、バレル幅領域100内に、バレル幅領域のリング軸方向長さ(L1)よりも、リング軸方向長さの短い凹部3を形成する場合には、該凹部3の形成位置にかかわらず、バレル幅領域100のリング軸方向切断面に、凹部非形成領域4を存在させることができる。
なお、図3(a)は、バレル幅領域100内の全面にバレル幅領域のリング軸方向長さ(L1)よりも、リング軸方向長さの短い凹部3が形成されたピストンリングの一例であるが、本発明はこの構成に限定されるものではない。例えば、図3(b)に示すように、上記の要件を満たす範囲で、バレル幅領域100のうち、バレル頂点に近い領域に凹部3を集中して形成することもできる。また、上記の要件を満たす範囲でバレル幅領域100内に凹部3が形成されていれば、図3(c)に示すように、バレル幅領域100内のみならず、外周摺動面200の全面に凹部3を形成することもできる。
一方、バレル幅領域100に、バレル幅領域100のリング軸方向長さよりも、リング軸方向長さの長い凹部3bを形成すると、図4に示すように、バレル幅領域100のリング軸方向切断面が、1つの凹部3bによって貫通してしまい、バレル幅領域100のリング軸方向切断面に凹部非形成領域4を存在させることができなくなり、シール性が著しく低下する。
バレル幅領域100に形成される凹部の個数、および凹部の形状等について特に限定はないが、少なくとも、バレル幅領域100の凹部3が形成されていない凹部非形成領域4の面積が、凹部3が形成されていないとした場合のバレル幅領域の全面積の20〜85%の範囲内となるように、凹部の個数、形状を調節することが必要である。
また、エンジンによって異なるが、凹部3は、バレル幅に対してバレル頂点より8〜50%の範囲内に形成されることが好ましく、8〜25%の範囲内がより好ましい。バレル頂点に近い位置に凹部3を形成することで、初期摺動時において、十分に摩擦力低減効果が得られ、ピストンリングの外周摺動面とシリンダ内壁面とのシール機能をコントロールすることができる。なお、バレル頂点とは、対称バレルにおいてはリング軸方向の中央部分であり、偏心バレルにおいてはリング軸方向の径方向長さが最大となる部分である。
また、図5(a)、(b)に示すように、凹部3は、ピストンリングがピストンに装着され、ピストンをシリンダに組み込んだ状態において、シリンダの中心軸(O)と合口部の外周端部(S)とを通る直線を基準線(P)とした場合、中心軸(O)を中心に基準線(P)とのなす角が1°未満の範囲のバレル幅領域(100Q)には、凹部3が形成されていないことが好ましい。この範囲のバレル幅領域(100Q)に凹部3を形成しないことにより、合口部の過度の面圧上昇によるスカッフ等の問題が生ずる可能性を低減させることができる。なお、図5(a)は、シリンダ中心軸(O)、基準線(P)、基準線(P)とのなす角との関係を示す概略図であり、図5(b)は、シリンダの中心軸(O)と合口部の外周端部(S)とを通る直線を基準線(P)とした場合、中心軸(O)を中心に基準線(P)とのなす角が1°未満の範囲のバレル幅領域(100Q)に凹部3が形成されていないピストンリングを示す合口部近傍をピストンリング外周からみたときの概略展開図である。
また、ピストン摺動時には、燃焼圧がピストンリング上面よりかかり、ピストンリング下面側に応力集中が起きやすくなる。そうすると、図7(c)に示すように凹部3を外周摺動面の軸方向下端部にまたがるように形成した場合には、この凹部3を起点としてピストンリングが折損しやすくなる。このような点を考慮すると、図7(a)に示すように凹部3は外周摺動面の軸方向下端部にまたがるように形成されていないことが好ましい。また、図7(d)に示すように外周摺動面下端部に接するように面取り部が形成されている場合において、この面取り部にまたがるように凹部3が形成されている場合には、この凹部3を起点としてピストンリングが折損しやすくなる。このような点を考慮すると、図7(b)に示すように凹部3は面取り部にまたがるように形成されていないことが好ましい。なお、図7(a)〜(d)は、ピストンリングの外周摺動面の軸方向下端部近傍に形成された凹部を示す概略展開図である。
また、本態様において、ピストンリングのバレル幅領域に形成される凹部の正面形状(ピストンリング周方向に展開した面)は特に限定されるものではなく、当該凹部の配置等に応じて適宜調整することができる。例えば、図8(a)〜(j)に例示するように、直線および/または曲線から構成される形状の凹部を形成することができる。凹部は、図8(a)〜(c)のような横長の形状でも、図8(d)〜(g)のような縦長の形状でも、図8(h)〜(j)のような縦対横の比率がほぼ等しい形状でもよい。
また、凹部の周方向平均長さは、0.01mm〜5mmの範囲内が好ましく、0.01mm〜0.3mmの範囲内が特に好ましい。周方向平均長さがこの範囲に満たない場合は、凹部を形成した効果が十分に得られない場合がある。一方で、周方向平均長さがこの範囲を超える場合は、ピストンリングが変形する等の不具合が発生する場合がある。
本態様においては、凹部の径方向平均長さは、0.1μm〜100μmの範囲内が好ましく、0.5μm〜30μmの範囲内がさらに好ましい。凹部の径方向平均長さがこの範囲に満たない場合は、凹部を形成した効果が十分に得られない場合がある。一方で、径方向平均長さがこの範囲を超える場合は、加工が困難であり、また、ピストンリングの径方向平均長さを長くする(肉厚を厚くする)必要がある等の不具合が生じる場合がある。なお、凹部の径方向平均長さは、凹部内周面がバレル幅領域よりも突出することがないように適宜設定する必要がある。
また、本態様においては、隣り合う凹部間の周方向平均長さ(凹部非形成領域の周方向平均長さ)は、0.1mm〜15mmの範囲内が好ましく、0.3mm〜5mmの範囲内が特に好ましい。隣り合う凹部間の周方向平均長さ(凹部非形成領域の周方向平均長さ)がこの範囲に満たない場合には、ピストンリングとシリンダの内壁面とが安定して摺動できない可能性がある。一方で、この範囲を超える場合には、凹部を形成した効果が十分に得られない可能性がある。
なお、本態様において上述した凹部の各平均長さは、図9に例示する各箇所の平均長さを意味するものとする。図9(a)は、バレル幅領域におけるピストンリングの軸方向を図面の上下方向に示した概略展開図である。また、図9(b)は、バレル幅領域の、周方向における概略断面図である。前記凹部の軸方向平均長さとは、図9(a)に例示するように、ピストンリング軸方向における、凹部の長さの平均である。
また、上記凹部の周方向平均長さとは、図9(a)に例示するように、シリンダ周方向における、凹部の長さの平均である。図9(b)に例示するように、前記凹部の周方向平均長さとは、凹部によって形成される開口領域における長さの平均を意味する。
また、上記凹部の径方向平均長さとは、図9(b)に例示するように、凹部の底面から凹部非形成領域までの長さの平均である。また、上記凹部間の周方向平均長さ(凹部非形成領域の平均長さ)とは、図9(a)および(b)に例示するように、隣り合う凹部の間隔の平均である。
本態様においては、ピストンリングと、シリンダライナの内壁面との往復動摩擦力低減の観点から、凹部非形成領域4の十点平均粗さ(Rz)は、3.2μm以下であることが好ましく、1.6μm以下であることが特に好ましい。なお、上記十点平均粗さRzとは、JIS B0601−1994にて規定されているものである。
(凹部の形成方法)
本態様のバレル幅領域に形成される凹部の形成方法については、特に限定されることはなく、上述した各条件を満たす凹部を形成することができれば、いかなる方法をも採用することができる。
例えば、マスキングした後、砥粒を吹き付けることにより凹部を形成するブラスト加工法や、マスキングした後、腐食溶液につけ込むことにより凹部を形成する方法、さらには、凸版印刷において、インクの代わりに腐食液を使用した腐食加工方法などを採用することができる。
また、ピストンリングのバレル幅領域に各種PVD法、CVD法等の硬質皮膜処理によって硬質皮膜を形成した後に、上記の方法で凹部を形成する方法を採用することもできる。この方法によれば、凹部非形成領域4に硬質皮膜が形成されることから、凹部非形成領域4の耐摩耗性を向上させることができる。また、硬質皮膜としてPVD皮膜、CVD皮膜を形成、または、PVD皮膜、又はCVD皮膜上にDLC(ダイヤモンド・ライク・カーボン)皮膜を形成し、その後に上記の方法で凹部を形成する方法を採用してもよい。DLC皮膜は、低摩擦であることから、摩擦力を更に低減させることができる。
また、本態様のピストンリングにおいては、最終的にバレル幅領域に凹部が形成されていればよく、必ずしも、製造工程においてピストンリング表面を除去することに凹部とする必要はなく、逆にピストンリング表面に凸部(凹部非形成領域4)を形成することにより、結果として当該凸部(凹部非形成領域4)が形成されなかった部分を凹部としてもよい。この場合、具体的には、所定のマスキングした後、各種PVD法やCVD法によって硬質皮膜を凸部(凹部非形成領域4)として形成する方法を用いることができる。
(凹部非形成領域の表面処理)
また、上記で説明したようにバレル幅領域100に凹部3を形成したときには、ピストンリング外周面圧が増加することから、ピストンリング外周面の摩耗が促進することとなる。また、ピストンリングが往復動する際の、上死点停止位置、及び下死点停止位置においては摩擦力が増大する傾向となる。このような点を考慮すると、凹部非形成領域4には、ピストンリング外周面の摩擦力を低減させ、上死点停止位置、及び下死点停止位置における摩擦力を低減させるための表面処理が施されていることが好ましい。このような表面処理としては、凹部非形成領域4に、硬質皮膜である耐摩耗性、低摩擦のDLC(ダイヤモンド・ライク・カーボン)皮膜や、耐摩耗性の高いPVD皮膜を形成する方法を挙げることができる。特に、本発明においては、凹部非形成領域4上に、Cr−Ni系やTi−Ni系等のPVD皮膜を形成し、このPVD皮膜上にDLC皮膜を形成する表面処理が好ましい。また、バレル幅領域100は、ピストン摺動にともない、摺動面は、徐々に径方向に広がることから、外周摺動面200にも、上記の表面処理が施されていることが好ましい。なお、上記で説明したように、ピストンリングのバレル幅領域に硬質皮膜を形成した後に凹部を形成する場合や、硬質皮膜で凸部(凹部非形成領域4)を形成する場合には当該処理は不要である。
(凹部内周面の表面処理)
また、摺動時に潤滑油は凹部内周面で保持される。ここで、凹部内周面に保持された潤滑油が酸化劣化した場合には、炭素を主成分とする煤が生成され、発生した煤が凹部内周面に付着し、次いで、凹部内周面に付着した煤を起点として徐々に凹部内に煤が堆積していく。煤が堆積することで凹部が目詰まりをおこした場合には、ピストンリングとシリンダライナとの接触面積が増大してしまい凹部を形成することにより発揮される往復動摩擦の低減効果を長期にわたって維持することができなくなる。
このような点を考慮すると、凹部内表面には、潤滑油が長期にわたって保持されることを防止するための表面処理が施されていることが好ましい。このような表面処理としては、撥油性を有する樹脂を凹部内にコーティングする方法や、凹部内表面にリン酸塩皮膜を生成させるリン酸塩皮膜処理を挙げることができる。リン酸塩皮膜処理とは、リン酸塩の処理液を用いて金属の表面に化学的にリン酸塩皮膜を生成させる化成処理をいう。また、撥油性を有する樹脂としては、例えば、フッ素樹脂等を挙げることができる。
以下に実施例および比較例を示して本発明をさらに具体的に説明する。
以下の方法によりバレル幅領域に凹部が形成されたピストンリングを加工した。
<ピストンリングの加工>
(加工前のピストンリングの準備)
以下の性状を有する凹部加工前のピストンリングを準備した。
材質:SUS410J1
形状:バレル形状
外径(D):95.4mm
軸方向高さ(h1):2mm
径方向幅(a1):2.55mm
上下面面取り:0.2mm
バレル幅領域100軸方向長さ:1.2mm
このピストンリングに550℃で5時間ガス窒化を施し、その後外周摺動面にCr−B−N皮膜を30μm被覆した。ビッカース硬さは1800Hv(0.1)であった。
(マスキング板の準備)
図10(a)に示す六角形状の開口部を、下表1に示す寸法で設けたマスキング板1〜7を準備した。なお、使用したマスキング板1〜7はS45C製であり、厚さは0.1mmある。また、マスキング板1〜7は、ピストンリングがピストンのリング溝に装着され、該ピストンをシリンダに組み込んだ状態において、シリンダの中心軸と合口部の外周端部とを通る直線を基準線とした場合、中心軸を中心に基準線とのなす角が5°未満の範囲のバレル幅領域に対応する位置を除いて開口部が設けられている。
Figure 0005620794
(凹部の形成)
(1)上記で準備した外周摺動面加工前のピストンリングをスペーサリングと交互に筒に抱かせ、マスキング板1をピストンリング外周に巻きつけたワークを用意した。次いで、マスキング板が動かないように固定する押さえリングをマスキング板の外周から巻きつけた。なお、スペーサリングと押さえリングの間にマスキング板がセットできるようにした。
(2)ワークをブラスト加工機のターンテーブルにセットし、マスキング板側から下記の加工条件にてブラスト加工を行い、凹部の形成を行った。
<加工条件>
研磨材:アルミナ
噴射圧力:0.1MPa
ワークの回転数:298rpm
ガンとワークの距離:40mm
ガンの上下送り速度:164mm/min
ガンの噴射口径:φ8mm
ガン往復回数:3往復
噴射時間:8min
(3)ターンテーブルからワークを取り外し、ついでマスキング板、凹部形成後のピストンリングを筒から取り外した。このマスキング板1を用いて凹部が形成されたピストンリングを実施例1のピストンリングとした。
(4)上記(1)〜(3)の作業をマスキング板2〜7についても同様に行った。マスキング板2〜4を用いて凹部が形成されたピストンリングを、それぞれ実施例2〜4のピストンリングとした。また、凹部の加工を行わなかったピストンリングを比較例1のピストンリングとした。また、マスキング板5〜7を用いて凹部が形成されたピストンリングを、それぞれ比較例2〜4のピストンリングとした。
実施例1〜4、比較例2、3のピストンリングは、バレル幅領域の軸方向幅の中心位置に凹部の中心が位置するように凹部が形成されており、形成された凹部の形状は六角形状であり、凹部軸方向長さは0.19mm、凹部周方向長さは0.16mm、凹部径方向長さは10μmであった。すなわち、実施例1〜4、比較例2、3のピストンリングは、バレル幅領域が凹部で貫通しないように(バレル幅領域のリング軸方向切断面の全てに凹部非形成領域が存在するように)凹部が形成されたピストンリングである。なお、凹部の寸法は、任意の凹部5個を測定し平均した値である。
また、比較例4のピストンリングは、バレル幅領域の軸方向幅の中心位置に凹部の中心が位置するように凹部が形成されており、形成された凹部の形状は六角形状であり、凹部軸方向長さは1.30mm、凹部周方向長さは0.16mm、凹部径方向長さは10μmであった。すなわち、比較例4のピストンリングは、バレル幅領域が凹部で貫通するように凹部が形成されたピストンリングである。
(凹部非形成領域の面積率の測定)
凹部形成前のバレル幅領域の全面積を100%としたときの、バレル幅領域において凹部が形成されていない凹部非形成領域の面積率の測定を行った。なお、ピストンリングがピストンのリング溝に装着され、該ピストンをシリンダに組み込んだ状態において、シリンダの中心軸と合口部の外周端部とを通る直線を基準線とした場合、中心軸を中心に基準線とのなす角が5°未満の範囲のバレル幅領域には凹部を形成しなかった。
<測定結果>
凹部形成前のバレル幅領域の全面積を100%としたときの、バレル幅領域において凹部が形成されていない凹部非形成領域の面積率は、比較例2のピストンリングが90%、実施例1のピストンリングが85%、実施例2のピストンリングが80%、実施例3、比較例4のピストンリングが50%、実施例4のピストンリングが20%、比較例3のピストンリングが15%であった。なお、比較例1のピストンリング(凹部が形成されていないピストンリング)の面積率は100%である。
(実験1)
<往復動摩擦力の測定>
実施例1〜4、比較例1〜3のピストンリングの往復動摩擦力(N)を図11に示す装置を用いて測定した。往復動摩擦力の測定結果を図12に示す。図12においては、上記凹部が形成されていない従来品のピストンリング(比較例1のピストンリング(凹部非形成領域の面積率が100%))の摩擦力を1.00としたときの摩擦力比を示す。往復動摩擦力の測定時の回転数は700rpm、ピストンリング周辺温度は80℃であり、供給油はSAE粘度10W−30のものを用いた。
(実験2)
<ブローバイガス試験>
実験1に引き続き、ピストンリングを実機に搭載しブローバイガス試験を行った。具体的には、排気量:3000cc、シリンダ数:4、シリンダ径:95.4mm、ストローク:104.9mmのディーゼルエンジンを用いた。また、回転数は3600rpmとし、水温は80℃とした。
ピストンリングは3本構成とし、第1圧力リングは実施例3、比較例4のピストンリング、第2圧力リングはテーパーアンダーカット形状リング、オイルリングはコイルエキスパンダーとオイルリング本体とからなる2ピースオイルリングを用いた。第1圧力リングとして実施例3、比較例4のピストンリングを用いた場合のブローバイガス測定結果を図13に示す。なお、図13は、上記凹部が形成されていない従来品のピストンリング(比較例1のピストンリング)のブローバイガス量を1としたときのブローバイガス量比を示す図である。
図12から明らかなように、凹部形成前のバレル幅領域の全面積を100%としたときの、バレル幅領域において凹部が形成されていない凹部非形成領域の面積率が20%〜85%の範囲外のピストンリングは、摩擦力の低減効果を発揮することができないことがわかる。
図13から明らかなように、バレル幅領域を貫通するように凹部が形成されている場合(バレル幅領域のリング軸方向切断面の全てに凹部非形成領域が存在していない場合)には、ブローバイガス量が多くなってしまうことがわかる。
実験1、実験2の結果から、バレル幅領域において凹部が形成されていない非形成領域4の面積が、凹部形成前のバレル幅領域の全面積を100%としたときの20〜85%の範囲内であり、バレル幅領域のリング軸方向切断面のすべてに、凹部非形成領域が存在していることが好ましいことがわかる。
なお、本発明は上記実施例には限定されないことは言うまでもない。例えば、上記実施例においては、凹部の形成にあたりブラスト加工法を用いたが、これに限定されることはなく、腐食溶液を用いる方法で行ってもよい。また、上記実施例においてはマスキング板を用いたが、これに限定されることはなく、樹脂からなるマスキングシート等を用いてもよい。
2…合口部
3…凹部
4…凹部非形成領域
10…ピストンリング
100…バレル幅領域
200…外周摺動面

Claims (4)

  1. ピストンのリング溝に装着され、シリンダライナあるいはシリンダの内壁面と摺動する内燃機関用ピストンリングであって、
    ピストンリングの外周摺動面のうち、ピストンリングのバレル幅領域には、微小な凹部が複数形成されており、
    前記バレル幅領域において前記凹部が形成されていない凹部非形成領域の面積が、前記凹部形成前のバレル幅領域の全面積を100%としたときの20〜85%の範囲内であり、
    前記バレル幅領域の軸方向切断面のすべてには、前記凹部非形成領域が存在しており、
    前記ピストンリングが前記ピストンのリング溝に装着され、該ピストンをシリンダに組み込んだ状態において、
    前記シリンダの中心軸と合口部の外周端部とを通る直線を基準線とした場合、前記中心軸を中心に前記基準線とのなす角が1°未満の範囲の前記バレル幅領域には、前記凹部が形成されていないことを特徴とするピストンリング。
  2. 前記凹部非形成領域には、硬質皮膜が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のピストンリング。
  3. 前記外周摺動面の軸方向下端部にまたがらないように、前記凹部が形成されていること特徴とする請求項1又は2に記載のピストンリング。
  4. 前記ピストンリングの下端部が面取りされている場合において、面取りされている部分にまたがらないように、前記凹部が形成されていることを特徴とする請求項3に記載のピストンリング。
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