JP2004060873A - ピストンリングおよびその製造方法 - Google Patents
ピストンリングおよびその製造方法 Download PDFInfo
- Publication number
- JP2004060873A JP2004060873A JP2002224079A JP2002224079A JP2004060873A JP 2004060873 A JP2004060873 A JP 2004060873A JP 2002224079 A JP2002224079 A JP 2002224079A JP 2002224079 A JP2002224079 A JP 2002224079A JP 2004060873 A JP2004060873 A JP 2004060873A
- Authority
- JP
- Japan
- Prior art keywords
- piston ring
- outer peripheral
- base material
- coating
- film
- Prior art date
- Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
- Withdrawn
Links
Images
Landscapes
- Pistons, Piston Rings, And Cylinders (AREA)
Abstract
【課題】耐摩耗性および耐スカッフ性に優れると共に、摩擦力を低減して内燃機関の低フリクション化を達成できるピストンリングおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】ピストンリング母材2と、そのピストンリング母材2の少なくとも外周面4に形成された硬質皮膜3とを有するピストンリング1において、硬質皮膜3を形成する前のピストンリング母材2の外周面4に、あらかじめショットピーニングを施してディンプル5を形成することにより、上記課題を解決する。このとき、(1)ピストンリング1の外周摺動面4’には微小な略断面円弧状を有する直径0.1〜5μmの無数のディンプル5’が形成されていること、(2)硬質皮膜3が3〜7μmの厚さで形成されていることが好ましい。
【選択図】 図1
【解決手段】ピストンリング母材2と、そのピストンリング母材2の少なくとも外周面4に形成された硬質皮膜3とを有するピストンリング1において、硬質皮膜3を形成する前のピストンリング母材2の外周面4に、あらかじめショットピーニングを施してディンプル5を形成することにより、上記課題を解決する。このとき、(1)ピストンリング1の外周摺動面4’には微小な略断面円弧状を有する直径0.1〜5μmの無数のディンプル5’が形成されていること、(2)硬質皮膜3が3〜7μmの厚さで形成されていることが好ましい。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、内燃機関の低フリクション化の要請に応えたピストンリングおよびその製造方法に関し、更に詳しくは、少なくとも外周摺動面に微小なディンプルを形成したピストンリングおよびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
自動車用エンジンに代表される内燃機関には、軽量化と高出力化に伴う摺動特性(例えば、耐摩耗性、耐スカッフ性等)の他、CO2 排出量削減等の地球環境問題からより一層の低燃費化が要求されている。
【0003】
こうした中、耐摩耗性の向上や耐スカッフ性の向上等の要求に対しては、ピストンリングの外周面に各種の硬質皮膜、例えば、PVD法で作製されたCrNやTiN等の硬質皮膜、硬質炭素皮膜(DLC:ダイヤモンドライクカーボン皮膜)、Crめっき皮膜、窒化処理層等を形成することが研究され、実用化されている。
【0004】
一方、低燃費化の要求に対しては、内燃機関の各部で発生する摩擦力を低減する研究がなされている。特に、ピストン系においては、ピストンリングとシリンダライナとの摩擦力が大きく、その摩擦力の低減が全体の燃費低減に寄与することから多方面で研究がなされている。ピストンリングとシリンダライナとの摩擦力を低減させる手段としては、ピストンリングの張力を下げることが考えられるが、シール性が低下し、潤滑油の消費量が拡大してしまうという問題がある。
【0005】
摺動部の摩擦力を低減させる従来技術としては、例えば、特開平7−188738号公報には、金属製品の摺動部にショットピーニングを施して微小なディンプルを形成し、そのディンプルが油だまりとして作用し、摩耗を防止する手段が記載されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
上述したショットピーニングによる従来の摩擦力低減手段をピストンリングの外周摺動面に適用することも考えられるが、ピストンリングの外周面には耐摩耗性や耐スカッフ性の向上を目的とした硬質皮膜が形成されているので、上述したショットピーニングを行っても、その硬質皮膜の硬度が高いためにショットが跳ね返され、微小なディンプルを形成することができないという問題があった。
【0007】
本発明は、上述した問題を解決すべくなされたものであって、その目的は、耐摩耗性や耐スカッフ性等の摺動特性に優れると共に、摩擦係数を小さくして内燃機関の低フリクション化の要求に応えることができるピストンリングおよびその製造方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するための本発明のピストンリングは、ピストンリング母材と、当該ピストンリング母材の少なくとも外周面に形成された硬質皮膜とを有するピストンリングであって、予めショットピーニングされたピストンリング母材の少なくとも外周面に硬質皮膜を設けることにより、ピストンリングの少なくとも外周摺動面に微小なディンプルが形成されていることに特徴を有する。
【0009】
この発明によれば、比較的変形させ易いピストンリング母材にショットピーニングが施されるので、そのピストンリング母材の少なくとも外周面には微小なディンプルが形成される。そのため、その後に設けられた硬質皮膜の表面にも、ピストンリング母材に形成されたディンプルと同様なディンプルが現れる。ピストンリングの少なくとも外周摺動面に形成されたディンプルは油だまりとして作用し、摩擦係数を顕著に低減できるので、フリクションの低減を図ることができる。
【0010】
本発明のピストンリングにおいて、前記ディンプルが、微小な略断面円弧状を有する直径0.1〜5μmの無数の凹部であることが好ましい。
【0011】
また、本発明のピストンリングにおいて、前記硬質皮膜が、イオンプレーティング皮膜、硬質炭素皮膜、Crめっき皮膜および窒化皮膜から選択される単層皮膜または積層皮膜であることが好ましい。さらに、イオンプレーティング皮膜としては、Cr−N系皮膜、Cr−B−N系皮膜およびTi−N系皮膜から選択される皮膜であることが好ましく、さらに、硬質炭素皮膜としては、W−Ni系硬質炭素皮膜またはSi系硬質炭素皮膜であることが好ましい。これらの発明によれば、耐摩耗性と耐スカッフ性に優れたピストンリングとすることができる。
【0012】
上記課題を解決する本発明のピストンリングの製造方法は、ピストンリング母材の少なくとも外周面にショットピーニングを施して微小なディンプルを形成した後、その外周面に硬質皮膜を形成することに特徴を有する。
【0013】
この発明によれば、硬質皮膜を形成する前のピストンリング母材の外周面にショットピーニングを施して微小なディンプルを形成するので、ディンプルの形成が容易であると共に、その後に形成した硬質皮膜の表面に、そのディンプルをほぼそのまま現すことができる。その結果、そのディンプルを油だまりとして作用させることができ、摩擦係数を顕著に低減して低フリクション化を達成することができる。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明のピストンリングおよびその製造方法について詳しく説明する。
【0015】
図1は、本発明のピストンリングの一例を示す断面図である。本発明のピストンリング1は、ピストンリング母材2と、そのピストンリング母材2の少なくとも外周面4に形成された硬質皮膜3とを有するものである。そして、このピストンリング1は、予めショットピーニングされたピストンリング母材2の外周面4に硬質皮膜3を設けることにより、得られたピストンリング1の少なくとも外周摺動面4’に微小なディンプル5’が形成された形態となっている。
【0016】
(ピストンリング母材)
ピストンリング母材2としては、少なくともピストンリング母材として使用可能であって、ショットピーニングにより微小なディンプル5が形成されやすい材質からなるものであればよく、特に限定されない。例えば、鋳物材、鋳鋼材、鋼材等を使用できる。鋼材としては、マルテンサイト系ステンレス鋼(JIS規格で表されるSUS410材、SUS440材など)、オーステナイト系ステンレス鋼(SUS304材など)、Si−Cr系鋼等のような材料を使用することができる。
【0017】
(ショットピーニング)
上述したピストンリング母材2にショットピーニングする手段については、例えば特開平7−188738号に記載された従来からの方法に準じた方法を適用することができる。なお、本発明におけるショットピーニングとは、ショットと呼ばれる小球を、ピストンリング母材2の少なくとも外周面4に向かって高圧空気等により高速で噴射することにより、その表面に微小なディンプル5を形成する手段をいう。
【0018】
使用するショットとしては、ピストンリング母材2の硬さと同等以上の硬さを有するものが好ましく、その材質としては、ショットピーニングの対象であるピストンリング母材2の材質に応じて、例えば、金属材、金属とセラミックの複合材、セラミック材またはガラス材から選択される。より具体的には、例えば、ロックウェル硬度Cスケール(HRC)40のバネ鋼材に対してはビッカース硬度(Hv)900のセラミックからなるショットを好ましく使用できる。また、ピストンリング母材として通常使用されているマルテンサイト系ステンレス鋼や、それ以外の公知の全てのピストンリング母材に対しても、生材(硬質皮膜を施していないもの)であれば、ビッカース硬度(Hv)900のセラミックからなるショットで対応可能である。
【0019】
ショットの形状は、より保油性に優れた油だまりを形成するために、略球状であることが好ましく、真球に近い形状であるほどより好ましい。そして、その粒径は、およそ10〜50μmであることが好ましい。こうしたショットを使用することにより、ピストンリング母材2の少なくとも外周面4に、微小な略断面円弧状を有する直径0.1〜5μmの無数のディンプル5を形成することができる。
【0020】
ショットピーニングの条件は、上述したショットを噴射速度100m/秒以上でピストンリング母材2の少なくとも外周面4に向かって噴射させることができるように、例えば、噴射ガス圧や噴射時間が設定される。
【0021】
本発明においては、こうしたショットピーニングを、未だ硬質皮膜3が形成されていない状態のピストンリング母材2の表面(少なくとも外周面4)に施したことに特徴がある。そのため、そのピストンリング母材2の少なくとも外周面4は、ショットピーニングで微小なディンプル5が形成され易い状態となっており、ショットの材質や大きさ、さらにはショット条件を設定することにより、好適な油だまりとして作用する上述した形態のディンプル5が形成される。
【0022】
なお、ショットピーニング工程においては、通常、ピストンリング母材2が積み重ねられ、主にその外周面4がショットピーニングされるような装着治具にセットされる。そして、硬質皮膜を設けた後のピストンリングの外周摺動面が後述する所定の表面粗さとなるように、また、後述する所定の径のディンプルとなるように、ショットピーニング条件が制御される。
【0023】
(硬質皮膜)
上述したショットピーニングによりピストンリング母材2の少なくとも外周面4に微小なディンプル5を形成した後、そのピストンリング母材2の少なくとも外周面4に硬質皮膜3を形成する。
【0024】
硬質皮膜3としては、耐摩耗性や耐スカッフ性に優れる各種の処理皮膜を適用でき、例えば、PVD皮膜、硬質炭素皮膜、Crめっき皮膜、窒化処理皮膜等を挙げることができる。
【0025】
PVD皮膜は、蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング等のいわゆる乾式成膜法により形成された皮膜を意味するものであり、成膜材質としては、Cr系、Cr−N系、Cr−B−N系、Ti−N系等を挙げることができる。硬質炭素皮膜は、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)皮膜のことであり、反応性イオンプレーティング法や反応性スパッタリング法等のいわゆるPVD法、または、プラズマCVD法等のCVD法によって形成されたW系硬質炭素皮膜、W−Ni系硬質炭素皮膜、Si系硬質炭素皮膜等を挙げることができる。Crめっき皮膜は、単層めっき皮膜でも積層めっき皮膜でもでよく、めっき浴中で金属Crを電解析出させる従来からのCrめっき手段により形成される各種のものを挙げることができる。窒化処理皮膜は、ガス窒化、イオン窒化、塩浴窒化、プラズマ窒化等の従来から行われている窒化手段により形成された各種のものを挙げることができる。
【0026】
なお、本発明のピストンリング1においては、硬質皮膜3を、上述した各種の成膜手段から選択した単一の手段により形成しても、複数の手段を選択して形成してもよく、特に限定されない。単一の手段により形成した場合には、硬質皮膜3は単一層(単層皮膜)となり、複数の手段により形成した場合には、硬質皮膜3は積層態様(積層皮膜)となる。これらは、エンジンに装着された後のピストンリングの使用態様により選択される。
【0027】
硬質皮膜3は、ピストンリング1の少なくとも外周摺動面4’を構成するものである。硬質皮膜3が外周摺動面4’を構成することにより、相手材であるシリンダライナとの間で、優れた耐摩耗性や耐スカッフ性等の摺動特性を発揮することができる。なお、硬質皮膜3が外周摺動面4’以外に形成されていても構わない。
【0028】
こうした硬質皮膜3の表面には、その下地であるピストンリング母材2の外周面4に形成された微細なディンプル5がほぼそのままの形態で再現されている。ピストンリング母材2の外周面4の微細なディンプル5がほぼそのまま再現されるための硬質皮膜3の好ましい厚さは、PVD皮膜、硬質炭素皮膜、Crめっき皮膜等、専らピストンリング母材上に形成される硬質皮膜3においては1〜10μmであることが好ましく、3〜7μmであることがより好ましい。また、窒化処理皮膜のようにピストンリング母材2の内部方向に窒素が主に拡散浸透して形成される硬質皮膜3においても、1〜10μmであることが好ましく、3〜7μmであることがより好ましい。硬質皮膜3の厚さをこれらの範囲内とすることにより、ピストンリング母材2の外周面4に形成された微細なディンプル5をほぼそのままの形態で維持することができる。この場合において、硬質皮膜3の厚さを薄く形成することにより、ピストンリングの外周摺動面4’を構成する硬質皮膜表面のディンプル5’は、保油性に優れた油だまりとなるので、硬質皮膜3の厚さが薄くても耐摩耗性や耐スカッフ性を維持することができるという格別の効果がある。
【0029】
このとき、硬質皮膜の厚さの下限より薄い場合は、十分な耐摩耗性と耐スカッフ性を発揮することができないことがあり、その厚さの上限より厚い場合は、ピストンリング母材の表面に形成された微小なディンプルが硬質皮膜上に現れなくなることがあり、油だまりとして作用せず、低フリクション化に寄与することができないことがある。
【0030】
(ピストンリング)
上述した構成からなる本発明のピストンリング1は、少なくともその外周摺動面4’に微小なディンプル5’を有するので、ピストンリング1がピストンに装着され、相手材であるシリンダライナと摺動接触する場合に、そのディンプル5’が潤滑油の油だまりとして作用する。
【0031】
本発明においては、特開平7−188738号に記載の方法と同様の方法でピストンリング母材の少なくとも外周面4をショットピーニングし、さらにその上に硬質皮膜を設けて外周摺動面4’としているが、ショットピーニング条件および硬質皮膜の形成条件等を制御することにより、その外周摺動面の表面粗さを0.1〜4.0Rmax(μm)とすることが好ましい。外周摺動面4’の表面粗さをこの範囲内とすることにより、微小な断面円弧状の凹部が無数に形成される。形成された各凹部は、隣接する凹部との間で油玉を連結する作用効果を発揮し、全体として摺動部に安定した油玉を形成するように作用する。その結果、こうした凹部を有する上記表面粗さの外周摺動面は、保油性に優れて油膜切れが生じにくくなるという格別の効果を奏する。なお、言うまでもなく、表面粗さRmax(μm)は、JIS−B−0601に準拠する。また、そのディンプル5’は直径0.1〜5μmの微小な略断面円弧状を有する無数の凹部として外周摺動面4’に存在している。ディンプル5’の径は、断面曲線上の山頂間隔とした。
【0032】
こうした外周摺動面を有するピストンリングは、シリンダライナとの間の摩擦力を極めて低減させることができると共に、耐スカッフ性に優れ、初期なじみ性も向上する。なお、上述した特徴を有する本発明のピストンリング1は、トップリング、セカンドリング、オイルリングの何れかであってもまたはそれらの全てであってもよい。特に、トップリングには好適に使用される。
【0033】
本発明のピストンリング1は、その外周摺動面4’に微小なディンプル5’が形成されているので、従来タイプのピストンリングのようなラッピング処理の必要がない点にその外観上の特徴がある。したがって、ラッピングを施さないでもそのまま使用できるという、従来のピストンリングには見られない顕著な特徴を有している。
【0034】
このようなピストンリングを備えたピストンの使用は、エンジンの低フリクション化を達成することができ、その結果、近年の低燃費化の要請に応えることができる。
【0035】
【実施例】
実施例と比較例を挙げて、本発明を更に詳しく説明する。以下において、組成を示す「%」は、重量%を意味する。
【0036】
(実施例1〜7)
C:0.9%、Si:0.4%、Mn:0.3%、Cr:17.5%、Mo:1.1%、V:0.1%、P:0.02%、S:0.02%、残部:鉄および不可避不純物からなるSUS440(17Crステンレス鋼)製のピストンリング母材を使用し、先ず、その外周面にショットピーニングを施した。ショットピーニングは、微粉用ブラスト加工装置を使用し、ショット材質は、Al2 O3 とSiO2 を3:7の割合で混合させた直径10〜50μm・不二機販製・略球形状・ビッカース硬度Hv900のショットを使用し、噴射圧力:0.4MPa、噴射ノズル径:9mm、噴射速度:100m/秒、噴射距離:100mm、処理時間:2秒、の条件で行った。ショットピーニング後のピストンリング母材2の外周面4には、直径3μm程度の微小なディンプル5が形成された。
【0037】
その後、そのピストンリング母材2の外周面4に、表1に示す各種の硬質皮膜3を形成した。実施例1は、イオンプレーティング装置を用いて形成した厚さ3μmのCr−N系皮膜(Cr:5.7%、Cr2 N:7.9%、CrN:86.4%)であり、実施例2は、イオンプレーティング装置を用いて形成した厚さ3μmのCr−B−N系皮膜(Cr:78.5%、B:1.2%、N:20.3%)であり、実施例3は、イオンプレーティング装置を用いて形成したTiNを主とする厚さ3μmのTi−N系皮膜(ビッカース硬度Hv2000)である。実施例4は、CVD装置を用いて形成した厚さ5μmのW−Ni系硬質炭素皮膜(W:75%、Ni:8%、残部:Cおよび不可避不純物)であり、実施例4は、CVD装置を用いて形成した厚さ10μmのSi系硬質炭素皮膜(Si:69.4%、残部:Cおよび不可避不純物)である。実施例6は、公知のフッ化浴中で、先ず、電流密度:60A/dm2 、印加時間:30分の条件で電解研磨を行い、次いで、極性を反転して母材を陰極として電流密度:60A/dm2 、印加時間:5分の条件で形成した厚さ5μm・ビッカース硬度Hv900のCrめっき皮膜である。実施例7は、塩浴窒化処理(550℃×10分保持)により形成した深さ10μmの窒化処理皮膜である。
【0038】
こうして実施例1〜7の供試材を作製し、摩擦係数測定とスカッフ性試験を行った。なお、得られた各ピストンリング供試材の外周摺動面の表面粗さは、3.5〜3.0Rmax(μm)程度であり、深さ3.5μm以下の微小なディンプルが形成されていた。また、そのディンプルの径は1〜4μmであった。
【0039】
(比較例1〜7)
上述したショットピーニングを施していないこと以外は、実施例1〜7のそれぞれと同じピストンリング母材と硬質皮膜を適用して、比較例1〜7の供試材を作製し、摩擦係数測定とスカッフ性試験を行った。
【0040】
(摩擦係数試験)
摩擦係数試験は、図2に示すアムスラー型摩耗試験機20を使用し、供試材21(18mm×12mm×6mm)を固定片とし、相手材22(回転片)にはドーナツ状(外径40mm、内径16mm、厚さ10mm)のものを用い、供試材21と相手材22を接触させ、荷重Pを負荷して行った。供試材21としては、実施例1〜7および比較例1〜7の供試材を使用した。各供試材21を用いた摩擦係数試験条件は、潤滑油:クリセフH8(1号スピンドル油相当品)、油温:80℃、周速:1m/秒(478rpm)、荷重:150kgf、試験時間:7時間の条件下で、ボロン鋳鉄を相手材22として行った。このボロン鋳鉄からなる相手材22は、所定形状に研削加工した後、研削砥石の細かさを変えて順次表面研削を行い、最終的に2μmRzとなるように調整した。摩擦係数は、摩擦抵抗を荷重で割ることにより算出した。
【0041】
摩擦係数は、実施例1〜7および比較例2〜7の各供試材の摩摩擦係数を、比較例1に対応する供試材の摩擦係数に対しての相対比として比較し、摩擦係数指数とした。従って、各供試材の摩擦係数指数が100より小さいほど摩擦係数が小さいことを表す。実施例1〜7の各供試材の摩擦係数指数は92〜97であり、それぞれが対応する比較例1〜7の供試材の結果に比べて小さい摩擦係数を示していた。その結果を表1に示した。
【0042】
(スカッフ試験)
スカッフ試験も、アムスラー型摩耗試験機を使用した。スカッフ試験においては、供試材に潤滑油を付着させ、スカッフ発生まで荷重を負荷させて行った。供試材としては、実施例1〜7および比較例1〜7の供試材を使用した。各供試材を用いてスカッフ試験を行い、スカッフ性の評価を行った。試験条件は、潤滑油:クリセフH8(1号スピンドル油相当品)、周速:1m/秒(478rpm)の条件下で、ボロン鋳鉄を相手材として行った。このボロン鋳鉄も上述の方法により最終的に2μmRzとなるように調整した。
【0043】
スカッフ性は、比較例1に対応する供試材のスカッフ発生荷重を100とし、実施例1〜7および比較例2〜7の各供試材のスカッフ発生荷重を、比較例1の供試材の結果に対しての相対比として比較し、スカッフ指数とした。従って、各供試材のスカッフ指数が100より大きいほど、スカッフ発生荷重が大きくなり、比較例1の供試材よりも耐スカッフ性に優れることとなる。実施例1〜7に対応する各供試材のスカッフ指数は、103〜110であり、それぞれが対応する比較例1〜7の供試材の結果に比べて優れた耐スカッフ性を示していた。その結果を表1に示した。
【0044】
(外周摺動面の表面性状)
図3は、実施例3のピストンリングの外周摺動面の表面性状を示す顕微鏡写真(800倍)であり、図4は、比較例3のピストンリングの外周摺動面の表面性状を示す顕微鏡写真(800倍)である。本発明に係る実施例3のピストンリングは、図3からも明らかなように、その外周摺動面に微小なディンプルを有し、そのディンプルが保油性に優れた油溜まりとして作用するので、初期なじみ性の向上とフリクションの低減を達成することができる。一方、従来タイプの比較例3のピストンリングは、その外周摺動面にディンプルを有していないので、本発明に係るピストンリングの顕著な効果を奏さない。
【0045】
【表1】
【0046】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明のピストンリングおよびその製造方法によれば、ピストンリング母材2の外周面4に微小なディンプル5を形成したので、その後に形成した硬質皮膜3の外周摺動面4’にも微小なディンプル5’が現れる。そうして得られたピストンリング1は、そのディンプル5’が保油性に優れた油だまりとして作用するので、初期なじみ性の向上およびフリクションの低減に顕著な効果を奏すると共に、耐スカッフ性等の摺動特性も向上する。さらに、本発明のピストンリングによれば、その外周摺動面4’に微小なディンプルが形成されているので、シリンダライナとの間の油膜が薄くなり、オイル消費量の低減にも効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のピストンリングの一例を示す断面図である。
【図2】摩擦係数試験およびスカッフ性試験に使用したアムスラー型摩耗試験機の概略構成図である。
【図3】実施例3のピストンリングの外周摺動面の表面性状を示す顕微鏡写真である。
【図4】比較例3のピストンリングの外周摺動面の表面性状を示す顕微鏡写真である。
【符号の説明】
1 ピストンリング
2 ピストンリング母材
3 硬質皮膜
4 外周面
4’ 外周摺動面
5、5’ ディンプル
20 アムスラー型摩耗試験機
21 供試材(ピストンリング材)
22 相手材(シリンダライナ材)
23 潤滑油
P 荷重
【発明の属する技術分野】
本発明は、内燃機関の低フリクション化の要請に応えたピストンリングおよびその製造方法に関し、更に詳しくは、少なくとも外周摺動面に微小なディンプルを形成したピストンリングおよびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
自動車用エンジンに代表される内燃機関には、軽量化と高出力化に伴う摺動特性(例えば、耐摩耗性、耐スカッフ性等)の他、CO2 排出量削減等の地球環境問題からより一層の低燃費化が要求されている。
【0003】
こうした中、耐摩耗性の向上や耐スカッフ性の向上等の要求に対しては、ピストンリングの外周面に各種の硬質皮膜、例えば、PVD法で作製されたCrNやTiN等の硬質皮膜、硬質炭素皮膜(DLC:ダイヤモンドライクカーボン皮膜)、Crめっき皮膜、窒化処理層等を形成することが研究され、実用化されている。
【0004】
一方、低燃費化の要求に対しては、内燃機関の各部で発生する摩擦力を低減する研究がなされている。特に、ピストン系においては、ピストンリングとシリンダライナとの摩擦力が大きく、その摩擦力の低減が全体の燃費低減に寄与することから多方面で研究がなされている。ピストンリングとシリンダライナとの摩擦力を低減させる手段としては、ピストンリングの張力を下げることが考えられるが、シール性が低下し、潤滑油の消費量が拡大してしまうという問題がある。
【0005】
摺動部の摩擦力を低減させる従来技術としては、例えば、特開平7−188738号公報には、金属製品の摺動部にショットピーニングを施して微小なディンプルを形成し、そのディンプルが油だまりとして作用し、摩耗を防止する手段が記載されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
上述したショットピーニングによる従来の摩擦力低減手段をピストンリングの外周摺動面に適用することも考えられるが、ピストンリングの外周面には耐摩耗性や耐スカッフ性の向上を目的とした硬質皮膜が形成されているので、上述したショットピーニングを行っても、その硬質皮膜の硬度が高いためにショットが跳ね返され、微小なディンプルを形成することができないという問題があった。
【0007】
本発明は、上述した問題を解決すべくなされたものであって、その目的は、耐摩耗性や耐スカッフ性等の摺動特性に優れると共に、摩擦係数を小さくして内燃機関の低フリクション化の要求に応えることができるピストンリングおよびその製造方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するための本発明のピストンリングは、ピストンリング母材と、当該ピストンリング母材の少なくとも外周面に形成された硬質皮膜とを有するピストンリングであって、予めショットピーニングされたピストンリング母材の少なくとも外周面に硬質皮膜を設けることにより、ピストンリングの少なくとも外周摺動面に微小なディンプルが形成されていることに特徴を有する。
【0009】
この発明によれば、比較的変形させ易いピストンリング母材にショットピーニングが施されるので、そのピストンリング母材の少なくとも外周面には微小なディンプルが形成される。そのため、その後に設けられた硬質皮膜の表面にも、ピストンリング母材に形成されたディンプルと同様なディンプルが現れる。ピストンリングの少なくとも外周摺動面に形成されたディンプルは油だまりとして作用し、摩擦係数を顕著に低減できるので、フリクションの低減を図ることができる。
【0010】
本発明のピストンリングにおいて、前記ディンプルが、微小な略断面円弧状を有する直径0.1〜5μmの無数の凹部であることが好ましい。
【0011】
また、本発明のピストンリングにおいて、前記硬質皮膜が、イオンプレーティング皮膜、硬質炭素皮膜、Crめっき皮膜および窒化皮膜から選択される単層皮膜または積層皮膜であることが好ましい。さらに、イオンプレーティング皮膜としては、Cr−N系皮膜、Cr−B−N系皮膜およびTi−N系皮膜から選択される皮膜であることが好ましく、さらに、硬質炭素皮膜としては、W−Ni系硬質炭素皮膜またはSi系硬質炭素皮膜であることが好ましい。これらの発明によれば、耐摩耗性と耐スカッフ性に優れたピストンリングとすることができる。
【0012】
上記課題を解決する本発明のピストンリングの製造方法は、ピストンリング母材の少なくとも外周面にショットピーニングを施して微小なディンプルを形成した後、その外周面に硬質皮膜を形成することに特徴を有する。
【0013】
この発明によれば、硬質皮膜を形成する前のピストンリング母材の外周面にショットピーニングを施して微小なディンプルを形成するので、ディンプルの形成が容易であると共に、その後に形成した硬質皮膜の表面に、そのディンプルをほぼそのまま現すことができる。その結果、そのディンプルを油だまりとして作用させることができ、摩擦係数を顕著に低減して低フリクション化を達成することができる。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明のピストンリングおよびその製造方法について詳しく説明する。
【0015】
図1は、本発明のピストンリングの一例を示す断面図である。本発明のピストンリング1は、ピストンリング母材2と、そのピストンリング母材2の少なくとも外周面4に形成された硬質皮膜3とを有するものである。そして、このピストンリング1は、予めショットピーニングされたピストンリング母材2の外周面4に硬質皮膜3を設けることにより、得られたピストンリング1の少なくとも外周摺動面4’に微小なディンプル5’が形成された形態となっている。
【0016】
(ピストンリング母材)
ピストンリング母材2としては、少なくともピストンリング母材として使用可能であって、ショットピーニングにより微小なディンプル5が形成されやすい材質からなるものであればよく、特に限定されない。例えば、鋳物材、鋳鋼材、鋼材等を使用できる。鋼材としては、マルテンサイト系ステンレス鋼(JIS規格で表されるSUS410材、SUS440材など)、オーステナイト系ステンレス鋼(SUS304材など)、Si−Cr系鋼等のような材料を使用することができる。
【0017】
(ショットピーニング)
上述したピストンリング母材2にショットピーニングする手段については、例えば特開平7−188738号に記載された従来からの方法に準じた方法を適用することができる。なお、本発明におけるショットピーニングとは、ショットと呼ばれる小球を、ピストンリング母材2の少なくとも外周面4に向かって高圧空気等により高速で噴射することにより、その表面に微小なディンプル5を形成する手段をいう。
【0018】
使用するショットとしては、ピストンリング母材2の硬さと同等以上の硬さを有するものが好ましく、その材質としては、ショットピーニングの対象であるピストンリング母材2の材質に応じて、例えば、金属材、金属とセラミックの複合材、セラミック材またはガラス材から選択される。より具体的には、例えば、ロックウェル硬度Cスケール(HRC)40のバネ鋼材に対してはビッカース硬度(Hv)900のセラミックからなるショットを好ましく使用できる。また、ピストンリング母材として通常使用されているマルテンサイト系ステンレス鋼や、それ以外の公知の全てのピストンリング母材に対しても、生材(硬質皮膜を施していないもの)であれば、ビッカース硬度(Hv)900のセラミックからなるショットで対応可能である。
【0019】
ショットの形状は、より保油性に優れた油だまりを形成するために、略球状であることが好ましく、真球に近い形状であるほどより好ましい。そして、その粒径は、およそ10〜50μmであることが好ましい。こうしたショットを使用することにより、ピストンリング母材2の少なくとも外周面4に、微小な略断面円弧状を有する直径0.1〜5μmの無数のディンプル5を形成することができる。
【0020】
ショットピーニングの条件は、上述したショットを噴射速度100m/秒以上でピストンリング母材2の少なくとも外周面4に向かって噴射させることができるように、例えば、噴射ガス圧や噴射時間が設定される。
【0021】
本発明においては、こうしたショットピーニングを、未だ硬質皮膜3が形成されていない状態のピストンリング母材2の表面(少なくとも外周面4)に施したことに特徴がある。そのため、そのピストンリング母材2の少なくとも外周面4は、ショットピーニングで微小なディンプル5が形成され易い状態となっており、ショットの材質や大きさ、さらにはショット条件を設定することにより、好適な油だまりとして作用する上述した形態のディンプル5が形成される。
【0022】
なお、ショットピーニング工程においては、通常、ピストンリング母材2が積み重ねられ、主にその外周面4がショットピーニングされるような装着治具にセットされる。そして、硬質皮膜を設けた後のピストンリングの外周摺動面が後述する所定の表面粗さとなるように、また、後述する所定の径のディンプルとなるように、ショットピーニング条件が制御される。
【0023】
(硬質皮膜)
上述したショットピーニングによりピストンリング母材2の少なくとも外周面4に微小なディンプル5を形成した後、そのピストンリング母材2の少なくとも外周面4に硬質皮膜3を形成する。
【0024】
硬質皮膜3としては、耐摩耗性や耐スカッフ性に優れる各種の処理皮膜を適用でき、例えば、PVD皮膜、硬質炭素皮膜、Crめっき皮膜、窒化処理皮膜等を挙げることができる。
【0025】
PVD皮膜は、蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング等のいわゆる乾式成膜法により形成された皮膜を意味するものであり、成膜材質としては、Cr系、Cr−N系、Cr−B−N系、Ti−N系等を挙げることができる。硬質炭素皮膜は、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)皮膜のことであり、反応性イオンプレーティング法や反応性スパッタリング法等のいわゆるPVD法、または、プラズマCVD法等のCVD法によって形成されたW系硬質炭素皮膜、W−Ni系硬質炭素皮膜、Si系硬質炭素皮膜等を挙げることができる。Crめっき皮膜は、単層めっき皮膜でも積層めっき皮膜でもでよく、めっき浴中で金属Crを電解析出させる従来からのCrめっき手段により形成される各種のものを挙げることができる。窒化処理皮膜は、ガス窒化、イオン窒化、塩浴窒化、プラズマ窒化等の従来から行われている窒化手段により形成された各種のものを挙げることができる。
【0026】
なお、本発明のピストンリング1においては、硬質皮膜3を、上述した各種の成膜手段から選択した単一の手段により形成しても、複数の手段を選択して形成してもよく、特に限定されない。単一の手段により形成した場合には、硬質皮膜3は単一層(単層皮膜)となり、複数の手段により形成した場合には、硬質皮膜3は積層態様(積層皮膜)となる。これらは、エンジンに装着された後のピストンリングの使用態様により選択される。
【0027】
硬質皮膜3は、ピストンリング1の少なくとも外周摺動面4’を構成するものである。硬質皮膜3が外周摺動面4’を構成することにより、相手材であるシリンダライナとの間で、優れた耐摩耗性や耐スカッフ性等の摺動特性を発揮することができる。なお、硬質皮膜3が外周摺動面4’以外に形成されていても構わない。
【0028】
こうした硬質皮膜3の表面には、その下地であるピストンリング母材2の外周面4に形成された微細なディンプル5がほぼそのままの形態で再現されている。ピストンリング母材2の外周面4の微細なディンプル5がほぼそのまま再現されるための硬質皮膜3の好ましい厚さは、PVD皮膜、硬質炭素皮膜、Crめっき皮膜等、専らピストンリング母材上に形成される硬質皮膜3においては1〜10μmであることが好ましく、3〜7μmであることがより好ましい。また、窒化処理皮膜のようにピストンリング母材2の内部方向に窒素が主に拡散浸透して形成される硬質皮膜3においても、1〜10μmであることが好ましく、3〜7μmであることがより好ましい。硬質皮膜3の厚さをこれらの範囲内とすることにより、ピストンリング母材2の外周面4に形成された微細なディンプル5をほぼそのままの形態で維持することができる。この場合において、硬質皮膜3の厚さを薄く形成することにより、ピストンリングの外周摺動面4’を構成する硬質皮膜表面のディンプル5’は、保油性に優れた油だまりとなるので、硬質皮膜3の厚さが薄くても耐摩耗性や耐スカッフ性を維持することができるという格別の効果がある。
【0029】
このとき、硬質皮膜の厚さの下限より薄い場合は、十分な耐摩耗性と耐スカッフ性を発揮することができないことがあり、その厚さの上限より厚い場合は、ピストンリング母材の表面に形成された微小なディンプルが硬質皮膜上に現れなくなることがあり、油だまりとして作用せず、低フリクション化に寄与することができないことがある。
【0030】
(ピストンリング)
上述した構成からなる本発明のピストンリング1は、少なくともその外周摺動面4’に微小なディンプル5’を有するので、ピストンリング1がピストンに装着され、相手材であるシリンダライナと摺動接触する場合に、そのディンプル5’が潤滑油の油だまりとして作用する。
【0031】
本発明においては、特開平7−188738号に記載の方法と同様の方法でピストンリング母材の少なくとも外周面4をショットピーニングし、さらにその上に硬質皮膜を設けて外周摺動面4’としているが、ショットピーニング条件および硬質皮膜の形成条件等を制御することにより、その外周摺動面の表面粗さを0.1〜4.0Rmax(μm)とすることが好ましい。外周摺動面4’の表面粗さをこの範囲内とすることにより、微小な断面円弧状の凹部が無数に形成される。形成された各凹部は、隣接する凹部との間で油玉を連結する作用効果を発揮し、全体として摺動部に安定した油玉を形成するように作用する。その結果、こうした凹部を有する上記表面粗さの外周摺動面は、保油性に優れて油膜切れが生じにくくなるという格別の効果を奏する。なお、言うまでもなく、表面粗さRmax(μm)は、JIS−B−0601に準拠する。また、そのディンプル5’は直径0.1〜5μmの微小な略断面円弧状を有する無数の凹部として外周摺動面4’に存在している。ディンプル5’の径は、断面曲線上の山頂間隔とした。
【0032】
こうした外周摺動面を有するピストンリングは、シリンダライナとの間の摩擦力を極めて低減させることができると共に、耐スカッフ性に優れ、初期なじみ性も向上する。なお、上述した特徴を有する本発明のピストンリング1は、トップリング、セカンドリング、オイルリングの何れかであってもまたはそれらの全てであってもよい。特に、トップリングには好適に使用される。
【0033】
本発明のピストンリング1は、その外周摺動面4’に微小なディンプル5’が形成されているので、従来タイプのピストンリングのようなラッピング処理の必要がない点にその外観上の特徴がある。したがって、ラッピングを施さないでもそのまま使用できるという、従来のピストンリングには見られない顕著な特徴を有している。
【0034】
このようなピストンリングを備えたピストンの使用は、エンジンの低フリクション化を達成することができ、その結果、近年の低燃費化の要請に応えることができる。
【0035】
【実施例】
実施例と比較例を挙げて、本発明を更に詳しく説明する。以下において、組成を示す「%」は、重量%を意味する。
【0036】
(実施例1〜7)
C:0.9%、Si:0.4%、Mn:0.3%、Cr:17.5%、Mo:1.1%、V:0.1%、P:0.02%、S:0.02%、残部:鉄および不可避不純物からなるSUS440(17Crステンレス鋼)製のピストンリング母材を使用し、先ず、その外周面にショットピーニングを施した。ショットピーニングは、微粉用ブラスト加工装置を使用し、ショット材質は、Al2 O3 とSiO2 を3:7の割合で混合させた直径10〜50μm・不二機販製・略球形状・ビッカース硬度Hv900のショットを使用し、噴射圧力:0.4MPa、噴射ノズル径:9mm、噴射速度:100m/秒、噴射距離:100mm、処理時間:2秒、の条件で行った。ショットピーニング後のピストンリング母材2の外周面4には、直径3μm程度の微小なディンプル5が形成された。
【0037】
その後、そのピストンリング母材2の外周面4に、表1に示す各種の硬質皮膜3を形成した。実施例1は、イオンプレーティング装置を用いて形成した厚さ3μmのCr−N系皮膜(Cr:5.7%、Cr2 N:7.9%、CrN:86.4%)であり、実施例2は、イオンプレーティング装置を用いて形成した厚さ3μmのCr−B−N系皮膜(Cr:78.5%、B:1.2%、N:20.3%)であり、実施例3は、イオンプレーティング装置を用いて形成したTiNを主とする厚さ3μmのTi−N系皮膜(ビッカース硬度Hv2000)である。実施例4は、CVD装置を用いて形成した厚さ5μmのW−Ni系硬質炭素皮膜(W:75%、Ni:8%、残部:Cおよび不可避不純物)であり、実施例4は、CVD装置を用いて形成した厚さ10μmのSi系硬質炭素皮膜(Si:69.4%、残部:Cおよび不可避不純物)である。実施例6は、公知のフッ化浴中で、先ず、電流密度:60A/dm2 、印加時間:30分の条件で電解研磨を行い、次いで、極性を反転して母材を陰極として電流密度:60A/dm2 、印加時間:5分の条件で形成した厚さ5μm・ビッカース硬度Hv900のCrめっき皮膜である。実施例7は、塩浴窒化処理(550℃×10分保持)により形成した深さ10μmの窒化処理皮膜である。
【0038】
こうして実施例1〜7の供試材を作製し、摩擦係数測定とスカッフ性試験を行った。なお、得られた各ピストンリング供試材の外周摺動面の表面粗さは、3.5〜3.0Rmax(μm)程度であり、深さ3.5μm以下の微小なディンプルが形成されていた。また、そのディンプルの径は1〜4μmであった。
【0039】
(比較例1〜7)
上述したショットピーニングを施していないこと以外は、実施例1〜7のそれぞれと同じピストンリング母材と硬質皮膜を適用して、比較例1〜7の供試材を作製し、摩擦係数測定とスカッフ性試験を行った。
【0040】
(摩擦係数試験)
摩擦係数試験は、図2に示すアムスラー型摩耗試験機20を使用し、供試材21(18mm×12mm×6mm)を固定片とし、相手材22(回転片)にはドーナツ状(外径40mm、内径16mm、厚さ10mm)のものを用い、供試材21と相手材22を接触させ、荷重Pを負荷して行った。供試材21としては、実施例1〜7および比較例1〜7の供試材を使用した。各供試材21を用いた摩擦係数試験条件は、潤滑油:クリセフH8(1号スピンドル油相当品)、油温:80℃、周速:1m/秒(478rpm)、荷重:150kgf、試験時間:7時間の条件下で、ボロン鋳鉄を相手材22として行った。このボロン鋳鉄からなる相手材22は、所定形状に研削加工した後、研削砥石の細かさを変えて順次表面研削を行い、最終的に2μmRzとなるように調整した。摩擦係数は、摩擦抵抗を荷重で割ることにより算出した。
【0041】
摩擦係数は、実施例1〜7および比較例2〜7の各供試材の摩摩擦係数を、比較例1に対応する供試材の摩擦係数に対しての相対比として比較し、摩擦係数指数とした。従って、各供試材の摩擦係数指数が100より小さいほど摩擦係数が小さいことを表す。実施例1〜7の各供試材の摩擦係数指数は92〜97であり、それぞれが対応する比較例1〜7の供試材の結果に比べて小さい摩擦係数を示していた。その結果を表1に示した。
【0042】
(スカッフ試験)
スカッフ試験も、アムスラー型摩耗試験機を使用した。スカッフ試験においては、供試材に潤滑油を付着させ、スカッフ発生まで荷重を負荷させて行った。供試材としては、実施例1〜7および比較例1〜7の供試材を使用した。各供試材を用いてスカッフ試験を行い、スカッフ性の評価を行った。試験条件は、潤滑油:クリセフH8(1号スピンドル油相当品)、周速:1m/秒(478rpm)の条件下で、ボロン鋳鉄を相手材として行った。このボロン鋳鉄も上述の方法により最終的に2μmRzとなるように調整した。
【0043】
スカッフ性は、比較例1に対応する供試材のスカッフ発生荷重を100とし、実施例1〜7および比較例2〜7の各供試材のスカッフ発生荷重を、比較例1の供試材の結果に対しての相対比として比較し、スカッフ指数とした。従って、各供試材のスカッフ指数が100より大きいほど、スカッフ発生荷重が大きくなり、比較例1の供試材よりも耐スカッフ性に優れることとなる。実施例1〜7に対応する各供試材のスカッフ指数は、103〜110であり、それぞれが対応する比較例1〜7の供試材の結果に比べて優れた耐スカッフ性を示していた。その結果を表1に示した。
【0044】
(外周摺動面の表面性状)
図3は、実施例3のピストンリングの外周摺動面の表面性状を示す顕微鏡写真(800倍)であり、図4は、比較例3のピストンリングの外周摺動面の表面性状を示す顕微鏡写真(800倍)である。本発明に係る実施例3のピストンリングは、図3からも明らかなように、その外周摺動面に微小なディンプルを有し、そのディンプルが保油性に優れた油溜まりとして作用するので、初期なじみ性の向上とフリクションの低減を達成することができる。一方、従来タイプの比較例3のピストンリングは、その外周摺動面にディンプルを有していないので、本発明に係るピストンリングの顕著な効果を奏さない。
【0045】
【表1】
【0046】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明のピストンリングおよびその製造方法によれば、ピストンリング母材2の外周面4に微小なディンプル5を形成したので、その後に形成した硬質皮膜3の外周摺動面4’にも微小なディンプル5’が現れる。そうして得られたピストンリング1は、そのディンプル5’が保油性に優れた油だまりとして作用するので、初期なじみ性の向上およびフリクションの低減に顕著な効果を奏すると共に、耐スカッフ性等の摺動特性も向上する。さらに、本発明のピストンリングによれば、その外周摺動面4’に微小なディンプルが形成されているので、シリンダライナとの間の油膜が薄くなり、オイル消費量の低減にも効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のピストンリングの一例を示す断面図である。
【図2】摩擦係数試験およびスカッフ性試験に使用したアムスラー型摩耗試験機の概略構成図である。
【図3】実施例3のピストンリングの外周摺動面の表面性状を示す顕微鏡写真である。
【図4】比較例3のピストンリングの外周摺動面の表面性状を示す顕微鏡写真である。
【符号の説明】
1 ピストンリング
2 ピストンリング母材
3 硬質皮膜
4 外周面
4’ 外周摺動面
5、5’ ディンプル
20 アムスラー型摩耗試験機
21 供試材(ピストンリング材)
22 相手材(シリンダライナ材)
23 潤滑油
P 荷重
Claims (6)
- ピストンリング母材と、当該ピストンリング母材の少なくとも外周面に形成された硬質皮膜とを有するピストンリングであって、
予めショットピーニングされたピストンリング母材の少なくとも外周面に硬質皮膜を設けることにより、ピストンリングの少なくとも外周摺動面に微小なディンプルが形成されていることを特徴とするピストンリング。 - 前記ディンプルが、微小な略断面円弧状を有する直径0.1〜5μmの無数の凹部であることを特徴とする請求項1に記載のピストンリング。
- 前記硬質皮膜が、イオンプレーティング皮膜、硬質炭素皮膜、Crめっき皮膜および窒化皮膜から選択される単層皮膜または積層皮膜であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のピストンリング。
- 前記イオンプレーティング皮膜が、Cr−N系皮膜、Cr−B−N系皮膜およびTi−N系皮膜から選択される皮膜であることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載のピストンリング。
- 前記硬質炭素皮膜が、W−Ni系硬質炭素皮膜またはSi系硬質炭素皮膜であることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載のピストンリング。
- ピストンリング母材の少なくとも外周面にショットピーニングを施して微小なディンプルを形成した後、その外周面に硬質皮膜を形成することを特徴とするピストンリングの製造方法。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2002224079A JP2004060873A (ja) | 2002-07-31 | 2002-07-31 | ピストンリングおよびその製造方法 |
Applications Claiming Priority (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2002224079A JP2004060873A (ja) | 2002-07-31 | 2002-07-31 | ピストンリングおよびその製造方法 |
Publications (1)
Publication Number | Publication Date |
---|---|
JP2004060873A true JP2004060873A (ja) | 2004-02-26 |
Family
ID=31943671
Family Applications (1)
Application Number | Title | Priority Date | Filing Date |
---|---|---|---|
JP2002224079A Withdrawn JP2004060873A (ja) | 2002-07-31 | 2002-07-31 | ピストンリングおよびその製造方法 |
Country Status (1)
Country | Link |
---|---|
JP (1) | JP2004060873A (ja) |
Cited By (7)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2010038295A (ja) * | 2008-08-06 | 2010-02-18 | Mitsubishi Heavy Ind Ltd | 往復動機関のピストンリング |
JP2012233593A (ja) * | 2012-08-17 | 2012-11-29 | Mitsubishi Heavy Ind Ltd | 往復動機関 |
DE112011103828T5 (de) | 2010-11-18 | 2013-08-22 | Isuzu Motors Limited | Kolbenring |
JP2014062535A (ja) * | 2012-09-24 | 2014-04-10 | Furukawa Industrial Machinery Systems Co Ltd | 一軸偏心ねじポンプ |
JP2015001169A (ja) * | 2013-06-13 | 2015-01-05 | 古河産機システムズ株式会社 | 一軸偏心ねじポンプ |
JP2015124805A (ja) * | 2013-12-26 | 2015-07-06 | 株式会社リケン | 組合せオイルコントロールリング |
CN111379777A (zh) * | 2018-12-28 | 2020-07-07 | 态金材料科技股份有限公司 | 制造防锈蚀自攻螺丝的方法及其制品 |
-
2002
- 2002-07-31 JP JP2002224079A patent/JP2004060873A/ja not_active Withdrawn
Cited By (7)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2010038295A (ja) * | 2008-08-06 | 2010-02-18 | Mitsubishi Heavy Ind Ltd | 往復動機関のピストンリング |
DE112011103828T5 (de) | 2010-11-18 | 2013-08-22 | Isuzu Motors Limited | Kolbenring |
JP2012233593A (ja) * | 2012-08-17 | 2012-11-29 | Mitsubishi Heavy Ind Ltd | 往復動機関 |
JP2014062535A (ja) * | 2012-09-24 | 2014-04-10 | Furukawa Industrial Machinery Systems Co Ltd | 一軸偏心ねじポンプ |
JP2015001169A (ja) * | 2013-06-13 | 2015-01-05 | 古河産機システムズ株式会社 | 一軸偏心ねじポンプ |
JP2015124805A (ja) * | 2013-12-26 | 2015-07-06 | 株式会社リケン | 組合せオイルコントロールリング |
CN111379777A (zh) * | 2018-12-28 | 2020-07-07 | 态金材料科技股份有限公司 | 制造防锈蚀自攻螺丝的方法及其制品 |
Similar Documents
Publication | Publication Date | Title |
---|---|---|
US7291384B2 (en) | Piston ring and thermal spray coating used therein, and method for manufacturing thereof | |
JP5903085B2 (ja) | シリンダボアとピストンリングの組合せ | |
JP2000120869A (ja) | 摺動部材及びその製造方法 | |
JP7508747B2 (ja) | ピストンリング | |
JP2003113941A (ja) | ピストンリング及びピストンリングとピストンのリング溝との組み合わせ構造 | |
JP4901207B2 (ja) | ピストンリング | |
JPWO2010098382A1 (ja) | ピストンリング | |
JP2004060873A (ja) | ピストンリングおよびその製造方法 | |
JP2004060619A (ja) | 内燃機関用ピストンリングの組合せ | |
JP4374153B2 (ja) | ピストンリング | |
JP2003042294A (ja) | ピストンリング | |
JP4374154B2 (ja) | ピストンリング | |
JP2004069048A (ja) | ピストンリング及びその製造方法 | |
JP2001280494A (ja) | エンジン摺動部品及びその製造方法 | |
JP2002266697A (ja) | 摺動部材およびその製造方法 | |
JP4374160B2 (ja) | ピストンリング | |
JP3547583B2 (ja) | シリンダーライナー | |
KR20040070448A (ko) | 내연기관용 슬라이딩 부품 | |
EP4056732A1 (en) | Surface treatment of piston rings | |
JP2004176848A (ja) | 非晶質硬質炭素被覆部材と鉄系部材の組み合わせ | |
US20230083774A1 (en) | Piston ring, and method for manufacturing same | |
JP2001027152A (ja) | 内燃機関用ピストンリング及びその製造方法 | |
WO2023053380A1 (ja) | 摺動部材 | |
JPH112323A (ja) | ピストンリング | |
JP2006348858A (ja) | 組合せ摺動部材、及びこれを用いた内燃機関及び機械装置 |
Legal Events
Date | Code | Title | Description |
---|---|---|---|
A300 | Withdrawal of application because of no request for examination |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A300 Effective date: 20051004 |