JP5615597B2 - 空気入りタイヤ - Google Patents

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本発明は空気入りタイヤ(以下、単に「タイヤ」とも称する)に関し、詳しくは、有機繊維コードとこれを被覆するコーティングゴムとからなるゴム‐コード複合体をカーカスプライに用いた空気入りタイヤに関する。
従来、空気入りタイヤにおいては、主としてゴム材料を低ヒステリシスロス化することで、転がり抵抗の低減が図られてきている(例えば、特許文献1等)。また、タイヤの軽量化により、転がり抵抗を低減できることも公知である。さらに、タイヤの転がり抵抗は、タイヤの偏心性を高めることにより良化することが知られており、カーカスラインを適切に配置するとの設計要素を工夫して、偏心性の高いタイヤ形状とすることで、転がり抵抗を低減する技術が提案されている。
特開2009‐001665号公報(特許請求の範囲等)
一方で、カーカスプライに用いる有機繊維コードの細径化により転がり抵抗の低減を図ろうとすると、タイヤ内圧を保持するために必要な有機繊維コードの強力が不足して、適切なタイヤ形状を維持することが困難となる。また、タイヤ内圧の保持に必要な強力が確保できたとしても、有機繊維コードの耐疲労性がタイヤに必要なレベルまで確保できないという問題があり、かかる手法による転がり抵抗の低減には限界があった。
さらに、従来使用されている有機繊維コードのコード断面は、真円とは程遠い形状を有するため、有機繊維コードを被覆するコーティングゴムのゲージを十分に確保する必要があり、この点がタイヤ重量増の原因ともなっている。タイヤ重量は転がり抵抗と密接に関わるものであるため、タイヤ重量を低減することで、転がり抵抗の低減に寄与することも求められていた。
そこで本発明の目的は、上記問題を解消して、市場耐久性を損なうことなく、転がり抵抗の低減を図った空気入りタイヤを提供することにある。
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、有機繊維コードとその周囲に存在するゴムとの界面でのゴムの繰り返し歪が、走行時に生ずるヒステリシスロスに大きく寄与していることを見出した。本発明者はさらに検討した結果、このヒステリシスロスの発生を抑制するためには、有機繊維コードの断面形状を真円に近づけることが効果的であることを見出し、これにより、コード強力および耐疲労性の低下を生ずることなく、転がり抵抗の低減を図ることが可能となることを見出して、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の空気入りタイヤは、左右一対のビードコア間にまたがってトロイド状に延在する少なくとも1枚のカーカスプライと、該カーカスプライのクラウン部のタイヤ径方向外側に配置された少なくとも1層のベルト層とを備え、該カーカスプライのうち少なくとも1枚が、有機繊維コードと該有機繊維コードを被覆するコーティングゴムとからなる空気入りタイヤにおいて、
前記有機繊維コードのコード長手方向に直交する方向の断面における、ディップコードとしての最小径をR1、最大径をR2としたとき、R2/R1で定義される該有機繊維コードの真円度が、下記式、
1.0<R2/R1≦1.3
で示される関係を満足し、前記有機繊維コードが片撚りコードであり、前記カーカスプライが前記ビードコアにタイヤ内側から外側に折り返して係止され、かつ、該カーカスプライの折り返し端部のタイヤ径方向の高さが、該ビードコアのタイヤ径方向上端部からの距離で15mm以下であることを特徴とするものである。
本発明においては、前記カーカスプライが前記ビードコアにタイヤ内側から外側に折り返して係止され、該ビードコアのタイヤ径方向外側に断面三角形状のビードフィラーが配置され、かつ、該ビードフィラーのタイヤ径方向の高さが15mm以下であることも好ましい。
また、本発明においては、前記有機繊維コードが、繊維原糸に、下記式(1)で定義される下撚り係数N1で下撚りをかけた後、該下撚り糸の3本以上を引き揃えて、下記式(2)で定義される上撚り係数N2で上撚りをかけた撚糸よりなり、該下撚り係数N1と上撚り係数N2とが下記式(3)で表される関係を満足し、かつ、上撚り係数N2が下記式(4)で表される関係を満足することが好ましい。
N1=n1×√(0.125×D1/ρ)×10−3 (1)
N2=n2×√(0.125×D2/ρ)×10−3 (2)
0.81<N2/N1≦√(D2/D1) (3)
0.4≦N2≦1.1 (4)
(式中、n1は下撚り数(回/10cm)であり、n2は上撚り数(回/10cm)であり、D1は下撚り糸の表示デシテックス数であり、D2はトータル表示デシテックス数であり、ρは前記有機繊維の比重(g/cm)である)
この場合、前記有機繊維コードの材質が、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリケトン、レーヨン、リヨセル、ポリビニルアルコール、ナイロンまたはアラミドであることが好ましい。また、前記有機繊維コードの接着剤付着量が2〜10質量%であることが好ましい。
さらに、前記有機繊維コードが、ペンダント基に架橋性官能基を含有し、アリル位に水素基を有する炭素−炭素二重結合を主鎖に実質的に含有しない熱可塑性高分子重合体(A)、水溶性高分子(B)および極性官能基を有する芳香族類をメチレン結合した構造を含有する化合物(C)を含む接着剤組成物(i)、前記成分(A)、成分(B)および成分(C)に、さらに、脂肪族エポキシド化合物(D)、金属塩(E)、金属酸化物(F)、ゴムラテックス(G)および2つ以上の(ブロックド)イソシアネート基を有するベンゼン誘導体(H)よりなる群から選択される少なくとも1種の成分を含む接着剤組成物(ii)、または、前記成分(A)、および、芳香族類をメチレン結合した構造を含有する有機ポリイソシアネート類(α)と、複数の活性水素を有する化合物(β)と、イソシアネート基に対する熱解離性ブロック化(γ)剤とを反応させて得られる水性ポリウレタン化合物(I)を含む接着剤組成物(iii)で接着剤処理されていることが好ましい。
さらにまた、前記有機繊維コードが、アンモニアを触媒とするレゾルシン・ホルムアルデヒド・ゴムラテックス混合液と、乳化重合されたブロックドイソシアネート化合物とを含み、レゾルシン1.0molに対するアンモニア触媒量が0.5〜5.0molであり、かつ、該ブロックドイソシアネート化合物の比率が全体の15〜45質量%である接着剤組成物(iv)に、1回だけ浸漬された後、乾燥工程と熱処理工程とを経て乾燥硬化処理されて得られ、該ブロックドイソシアネート化合物のブロック剤乖離温度が150〜210℃であって、該乾燥工程における乾燥温度が、該ブロックドイソシアネート化合物のブロック剤乖離温度以上であることも好ましい。
さらにまた、前記有機繊維コードの、原糸強力が7.5cN/dtex以上であり、かつ、コード強力が6.5cN/dtex以上であることが好ましい。
本発明によれば、上記構成としたことで、内圧保持に必要なコード強力および十分な耐疲労性を担保して、耐久性を損なうことなく、転がり抵抗の低減を図った空気入りタイヤを実現することが可能となった。
本発明の空気入りタイヤの一例を示す幅方向断面図である。 有機繊維コードのコード断面の一例を示す写真図である。 真円度が1.3より大きい有機繊維コードを用いたトリートを示す概略断面図である。 本発明の空気入りタイヤの他の例のビード部近傍を拡大して示す幅方向断面図である。
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1に、本発明の空気入りタイヤの一例の幅方向断面図を示す。図示するように、本発明の空気入りタイヤは、トレッド部11と、その両縁部からタイヤ半径方向内側に配設された一対のサイドウォール部12と、そのタイヤ半径方向内側に連なるビード部13とからなり、これら各部をビード部13内に埋設されたビードコア1相互間にわたり補強する少なくとも1枚、図示例では1枚のカーカスプライ2と、そのクラウン部のタイヤ径方向外側に配置された少なくとも1層、図示例では2層のベルト層3とを備えている。
本発明のタイヤにおいては、カーカスプライ2のうち少なくとも1枚、好ましくはすべてのカーカスプライが、有機繊維コードとこれを被覆するコーティングゴムとからなり、かかる有機繊維コードが、下記の条件を満足することが重要である。すなわち、本発明においては、かかる有機繊維コードのコード長手方向に直交する方向の断面における、ディップコードとしての最小径をR1、最大径をR2としたとき、R2/R1で定義される有機繊維コードの真円度が、下記式、
1.0<R2/R1≦1.3
で示される関係を満足するものとする。カーカスプライ2を構成する有機繊維コードの真円度が上記範囲を満足するものとしたことで、市場耐久性を損なうことなく、転がり抵抗の低減を図ったタイヤが得られる理由は、以下のとおりである。
すなわち、前述したように、有機繊維コードの断面形状を真円に近づけることで、有機繊維コードとゴムとが接触する界面の表面積を小さくすることができるので、結果として、この界面でのゴムの繰り返し歪によるヒステリシスロスの発生を抑制して、転がり抵抗の低減効果を得ることができる。また、有機繊維コードの断面形状を真円に近づけることで、有機繊維コードをコーティングゴムに対し均等に圧着させて、ゴムゲージを均一化することができるので、トリートとしての強度を保持しつつ、コーティングゴムの量を低減して、軽量化を図ることができ、この点でも低転がり抵抗化を図ることが可能である。さらに、この場合、コードとコーティングゴムとの接着界面に生ずる応力が均一に分散されて、発熱を抑制することができるために、この点でも転がり抵抗の低減効果が得られる。さらにまた、有機繊維コードを真円に近づけることで、コードとコードとの間の距離を精度よく確保でき、製造上のバラツキが低減できるので、コードの接触による故障を低減して、耐久性の向上効果をも得ることができる。
これに対し、真円度が1.3より大きくなると、図3に示すように、コード21のトリート厚み方向の径がトリート20内で不均一となって、トリート厚み方向に最大径を有するコード21Aに合わせてゴムゲージを設定する必要が生ずる。そのため、強度を保持するために必要なコーティングゴム22の量が必然的に増えることとなって、重量増に繋がり、低転がり抵抗化を阻害する。また、コードとコーティングゴムとの接着界面に生ずる応力が不均一となって、発熱が生じやすくなり、かかる点からも転がり抵抗が悪化する。
ここで、上記有機繊維コードのディップコードとしての最大径および最小径は、有機繊維コードをその長手方向に対して垂直に切断したときのコード断面において、有機繊維コードをコーティングゴムで被覆した際にコードとゴムの界面とが接する円を描いたとき、最大となる円の直径を最大径とし、最小となる円の直径を最小径として定義される。図2(a),(b)に、有機繊維コードのコード断面の一例の写真を示す。図示する写真中の円が、各有機繊維コードの最大径および最小径を、それぞれ示している。なお、かかる最大径および最小径の測定は、例えば、有機繊維コードを無負荷状態で樹脂に埋め込んだ成型体の断面を観察する等により、行うことができる。ここで、ディップコードとは、接着剤(ディップ液)で処理された後のコードを意味する。また、本発明においてディップコードとしてのコード径としているのは、タイヤ内に埋設される前のコード径を問題とするとの意味である。
本発明のタイヤにおいては、カーカスプライのうち少なくとも1枚について、上記真円度に係る条件を満足する有機繊維コードを用いるものであればよく、これにより本発明の所期の効果を得ることができる。本発明のタイヤにおいては、かかる条件を満足する有機繊維コードを用いる以外の点については特に制限はなく、有機繊維コードのコード構造の詳細や材質、コーティングゴムのゴム種、および、タイヤ構造の詳細等については、常法に従い適宜決定することができ、特に制限されるものではない。
本発明において、かかる有機繊維コードの真円度は、コードの撚り条件を適宜選定することにより、調整することが可能である。具体的に、有機繊維コードの断面形状を真円に近づける方法としては、(1)片撚りコードとする方法、および、(2)3本以上の下撚りコードを撚り合わせた3本以上の複数本撚りコードとする方法がある。このうち、真円度を高めるためには、片撚りコードが最も効果的である。一方、3本以上の複数本撚りコードは、片撚りコード対比では真円度は劣るが、双撚りコード対比では真円度は良好であり、耐疲労性にも優れるというメリットがある。
上記カーカスプライの有機繊維コードとして片撚りコードを用いる場合には、図1に示すようにカーカスプライ2をビードコア1にタイヤ内側から外側に折り返して係止する構造として、カーカスプライ2の折り返し端部2aのタイヤ径方向の高さを、ビードコア1のタイヤ径方向上端部からの距離hで15mm以下、好適には10mm以下、例えば、3〜10mmとすることが好ましい。これにより、タイヤとリムとの接触点近傍にカーカスプライの折返し部が存在しないものとなるので、タイヤに荷重がかかって、リムとの接触点を支点として、ビード部近傍にタイヤ外側に向かう曲げ変形が生じた際に、カーカスプライの折返し部に圧縮入力がかかることを防止できる。そのため、片撚りコードを用いたカーカスプライを用いた場合でも、このような曲げ変形に起因する故障の発生を抑制する効果が得られる。
また、上記カーカスプライの有機繊維コードとして片撚りコードを用いる場合には、図4に示すようにカーカスプライ2をビードコア1にタイヤ内側から外側に折り返して係止し、ビードコア1のタイヤ径方向外側に断面三角形状のビードフィラー4を配置して、ビードフィラー4のタイヤ径方向の高さhを15mm以下、好適には10mm以下、例えば、3〜10mmとすることが好ましい。これにより、タイヤに荷重がかかって、リムとの接触点を支点として、ビード部近傍にタイヤ外側に向かう曲げ変形が生じた際に、カーカスプライにかかる圧縮入力を低減することができる。そのため、片撚りコードを用いたカーカスプライを用いた場合でも、このような曲げ変形に起因する故障の発生を抑制する効果が得られる。
ここで、上記カーカスプライ2の高さhおよびビードフィラー4の高さhは、タイヤを適用リムに組み付けて、規定の空気圧を充填した、無負荷状態での高さを意味する。また、適用リムとは下記の規格に規定されたリムをいい、規定の空気圧とは、下記の規格において、最大負荷能力に対応して規定される空気圧をいう。規格とは、タイヤが生産または使用される地域において有効な産業規格であり、例えば、アメリカ合衆国ではThe Tire and Rim Association Inc.のYear Bookであり、欧州ではThe European Tire and Rim Technical OrganizationのStandards Manualであり、日本では日本自動車タイヤ協会のJATMA Year bookである。
なお、上記カーカスプライの有機繊維コードとして片撚りコードを用いる場合の有機繊維コードの材質としては、特に制限されるものではないが、耐疲労性を高める観点からは、ポリエチレンテレフタレート(PET)またはポリエチレンナフタレート(PEN)を用いることが好ましい。
一方、上記カーカスプライの有機繊維コードとして3本以上の複数本撚りコードを用いる場合には、上記カーカスプライ2の高さhまたはビードフィラー4の高さhを特定した構造には限られず、いかなる構造とも好適に組み合わせて用いることができる。
また、上記カーカスプライの有機繊維コードとして3本以上の複数本撚りコードを用いる場合には、有機繊維コードの撚り構造が、下記条件を満足することが好ましい。すなわち、上記有機繊維コードは、好適には、繊維原糸に、下記式(1)で定義される下撚り係数N1で下撚りをかけた後、この下撚り糸の3本以上を引き揃えて、下撚りとは逆方向に、下記式(2)で定義される上撚り係数N2で上撚りをかけた撚糸よりなるものとする。また、本発明においては、下撚り係数N1と上撚り係数N2とが下記式(3)で表される関係を満足し、かつ、上撚り係数N2が下記式(4)で表される関係を満足することが好ましい。
N1=n1×√(0.125×D1/ρ)×10−3 (1)
N2=n2×√(0.125×D2/ρ)×10−3 (2)
0.81<N2/N1≦√(D2/D1) (3)
0.4≦N2≦1.1 (4)
(式中、n1は下撚り数(回/10cm)であり、n2は上撚り数(回/10cm)であり、D1は下撚り糸の表示デシテックス数であり、D2はトータル表示デシテックス数であり、ρは前記有機繊維の比重(g/cm)である)
3本以上の複数本撚りコードでは、上記上撚り係数N2が0.4未満であると、有機繊維コードの耐疲労性および市場耐久性を十分に確保できず、さらに、有機繊維コードにコーティングゴムを圧着する際に、真円性を損なうおそれがある。一方、上記上撚り係数N2が1.1以上を超えると、コード強力が大きく低下するために、耐久性を保持できなくなるおそれがある。
なお、上記カーカスプライの有機繊維コードとして3本以上の複数本撚りコードを用いる場合の有機繊維コードの材質としては、特に制限されるものではないが、PET、PEN、ポリケトン、レーヨン、リヨセル、ポリビニルアルコール(PVA)、ナイロンまたはアラミドを好適に用いることができる。
また、上記カーカスプライの有機繊維コードとして3本以上の複数本撚りコードを用いる場合には、有機繊維コードを、接着剤付着量が2〜10質量%となるよう接着剤処理(ディップ処理)することが好ましい。3本以上の複数本撚りコードの接着剤付着量が、2質量%を下回ると接着性能に懸念が生じ、10質量%を上回ると、接着剤自体のロスにより低転がり抵抗化の効果を損なうおそれがある。ここで、接着剤付着量は、ディップコードの質量に占める接着剤の質量の割合を示す。
さらに、上記カーカスプライの有機繊維コードとして3本以上の複数本撚りコードを用いる場合の接着剤としては、以下に挙げるもののうちのいずれかを使用することが好ましく、これにより、高温時における転がり抵抗の悪化を抑制することができる。
ペンダント基に架橋性官能基を含有し、アリル位に水素基を有する炭素−炭素二重結合を主鎖に実質的に含有しない熱可塑性高分子重合体(A)、水溶性高分子(B)および極性官能基を有する芳香族類をメチレン結合した構造を含有する化合物(C)を含む接着剤組成物(i)、上記成分(A),(B)および(C)に、さらに、脂肪族エポキシド化合物(D)、金属塩(E)、金属酸化物(F)、ゴムラテックス(G)および2つ以上の(ブロックド)イソシアネート基を有するベンゼン誘導体(H)よりなる群から選択される少なくとも1種の成分を含む接着剤組成物(ii)、および、上記成分(A)、および、芳香族類をメチレン結合した構造を含有する有機ポリイソシアネート類(α)と、複数の活性水素を有する化合物(β)と、イソシアネート基に対する熱解離性ブロック化剤(γ)とを反応させて得られる水性ポリウレタン化合物(I)を含む接着剤組成物(iii)である。
上記熱可塑性高分子重合体(A)は、ペンダント基に架橋性官能基を含有し、アリル位に水素を有する炭素−炭素二重結合を主鎖に実質的に含有しないものである。ここで、「ペンダント基」とは、高分子鎖を修飾する官能基を指し、「アリル位に水素を有する炭素−炭素二重結合」とは、「アリル位の飽和炭素原子に水素を有する炭素−炭素二重結合」を指す。また、上記架橋性官能基としては、オキサゾリン基、ビスマレイミド基、(ブロックド)イソシアネート基、エポキシ基、アジリジン基、カルボジイミド基、ヒドラジノ基、エピチオ基が好ましく、オキサゾリン基、ヒドラジノ基、または(ブロックド)イソシアネート基が特に好ましい。さらに、上記主鎖には、アクリル系重合体、酢酸ビニル系重合体、酢酸ビニル・エチレン系重合体などのエチレン性付加重合体、および直鎖構造を主体とするウレタン系高分子重合体を好ましく用いることができ、これらの重合体を、1種もしくは複数種組み合わせて使用できる。
熱可塑性高分子重合体(A)がエチレン性付加重合体からなる場合には、その単位は、炭素−炭素二重結合を1つ有するエチレン性不飽和単量体(a)、および、炭素−炭素二重結合を2つ以上含有する単量体(b)からなる。
炭素−炭素二重結合を1つ有するエチレン性不飽和単量体(a)としては、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン、イソブチレン等のα−オレフィン類;スチレン、α−メチルスチレン、モノクロルスチレン、ビニルトルエン、ビニルナフタレン、スチレン、スルホン酸ナトリウム等のα,β−不飽和芳香族単量体類;イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸、ブテントリカルボン酸などのエチレン性カルボン酸類およびその塩;無水マレイン酸、無水イタコン酸などの酸無水物;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸メトキシポリエチエレングリコール、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−アミノエチル等の不飽和カルボン酸のエステル類;イタコン酸モノエチルエステル、フマル酸モノブチルエステル、マレイン酸モノブチルエステルなどのエチレン性ジカルボン酸のモノエステル類;イタコン酸ジエチルエステル、フマル酸ジブチルエステルなどのエチレン性ジカルボン酸のジエステル類;アクリルアミド、マレイン酸アミド、N−メチロールアクリルアミド、N−(2−ヒドロキシエチル)アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、N−(2−ヒドロキシエチル)メタクリルアミド、マレイン酸アミド等のα,β−エチレン性不飽和酸のアミド類;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等の水酸基含有モノマー;アクリロニトリル、メタアクリロニトリル、フマロニトリル、α−クロロアクリルニトリル等の不飽和ニトリル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;ビニルケトン;ビニルアミド;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン等の含ハロゲンα,β−不飽和単量体類;酢酸ビニル、吉草酸ビニル、カプリル酸ビニル、ビニルピリジン等のビニル化合物;2−イソプロペニル−2−オキサゾリンなどの付加重合性オキサゾリン類;ビニルピロリドン等の複素環式ビニル化合物;ビニルエトキシシラン、α−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等の不飽和結合含有シラン化合物などが挙げられる。また、炭素−炭素二重結合を2つ以上含有する単量体(b)としては、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2、3−ジメチル−1,3−ブタジエン、クロロプレンなどのハロゲン置換ブタジエンなどの共役ジエン系単量体などが挙げられ、また、非共役ジエン系単量体としては、ビニルノーボルネン、ジシクロペンタジエン、1,4−ヘキサジエン等の非共役ジエン系単量体等が挙げられる。これらの単量体は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
熱可塑性高分子重合体(A)がウレタン系高分子重合体からなる場合、その主鎖構造には、主に、ポリイソシアネートと2個以上の活性水素を有する化合物とを重付加反応させて得られるウレタン結合やウレア結合などの、イソシアネート基と活性水素の反応に起因する結合が多数存在する。なお、イソシアネート基と活性水素の反応に起因する結合のみならず、活性水素を有する化合物の分子内に含まれるエステル結合、エーテル結合、アミド結合、および、イソシアネート基同士の反応で生成するウレトジオン、カルボジイミド等をも含むことは言うまでもない。
また、熱可塑性高分子重合体(A)は、直鎖状構造を主体とする比較的高分子量域の高分子重合体であることが好ましく、ゲル浸透クロマトグラフィーによるポリスチレン換算で重量平均分子量が10,000以上であることがさらに好ましく、20,000以上であることが特に好ましい。
上記水溶性高分子(B)は、水または電解質を含む水溶液に水溶性であり、その構造に特に制限はなく、直鎖であっても、分岐していても、あるいは二次元、三次元に架橋していてもよいが、性能の点から、直鎖あるいは分岐鎖の構造のみの重合体であることが好ましい。具体的な水溶性高分子(B)の例としては、ポリアクリル酸;ポリ(α−ヒドロキシカルボン酸);アクリルアミド−アクリル酸;(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル;酢酸ビニル−無水マレイン酸;スチレン−マレイン共重合体;エチレン−アクリル酸共重合体;(メタ)アクリル酸エステル−無水マレイン酸共重合体;イソブテン−無水マレイン酸などのα−オレフィン−無水マレイン酸共重合体;メチルビニルエーテル−無水マレイン酸、アリルエーテル−無水マレイン酸などのアルキルビニルエーテル−無水マレイン酸共重合体;スチレン−アクリル共重合体;α−オレフィン−(メタ)アクリル酸エステル−マレイン酸共重合体またはこれら水溶性高分子の塩基性物質による中和物が挙げられ、特に、イソブテン−無水マレイン酸共重合体またはこれらの塩基性物質による中和物であることが好ましい。
水溶性高分子(B)は、実質的に炭素−炭素二重結合を1つ有する単量体由来の単位からなり、重量平均分子量が3,000以上、より好ましくは10,000以上、さらに好ましくは80,000以上の比較的高分子量域の高分子重合体であることが好ましい。
上記化合物(C)は、極性官能基を有する芳香族類をメチレン結合した構造を含む。ここで、上記極性官能基は、接着剤組成物中に含まれるカルボキシル基、架橋性成分であるエポキシ基、(ブロックド)イソシアネート基などと反応する基であることが好ましい。具体的には、エポキシ基、(ブロックド)イソシアネート基などの架橋性官能基、水酸基、アミノ基、カルボキシル基などが挙げられる。また、芳香族類をメチレン結合した分子構造としては、例えば、ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリフェニレンポリメチレンポリイソシアネート、あるいはフェノール類とホルムアルデヒドとの縮合物などに見られる分子構造が挙げられる。芳香族類をメチレン結合した分子構造部分は、分岐などせず直鎖状であることが好ましい。この芳香族類をメチレン結合した分子構造は、メチレンジフェニル、または、比較的に線状な分子構造のポリメチレンポリフェニルの構造が好ましい。なお、芳香族類をメチレン結合した分子構造部分の分子量は、特に制限されないが、好ましくは6,000以下、より好ましくは2,000以下である。また、上記化合物(C)としては、好ましくは比較的低〜中分子量領域の分子で、分子量9,000以下が好ましい。さらに、上記化合(C)物は、水性(水溶性あるいは水分散性)であることが好ましい。
上記化合物(C)としては、芳香族ポリイソシアネートと熱解離性ブロック化剤とを含む化合物、ジフェニルメタンジイソシアネートまたは芳香族ポリイソシアネートを熱解離性ブロック化剤でブロック化した成分を含む水分散性化合物、ビスフェノール系エポキシド化合物、フェノール類とホルムアルデヒドとの縮合物またはその変性体、ノボラック化反応により得られるレゾルシンとホルムアルデヒドとの縮合物、クロロフェノール・レゾルシノール・ホルムアルデヒド縮合物、エポキシ基を有するクレゾールノボラック樹脂などのフェノール樹脂類あるいはその変性体、上記水性ポリウレタン化合物(I)などを挙げることができる。
上記芳香族ポリイソシアネートと熱解離性ブロック化剤とを含む化合物としては、好ましくは、ジフェニルメタンジイソシアネートと公知のイソシアネートブロック化剤とを含むブロックドイソシアネート化合物などが挙げられる。ジフェニルメタンジイソシアネートまたは芳香族ポリイソシアネートを熱解離性ブロック化剤でブロック化した成分を含む水分散性化合物としては、ジフェニルメタンジイソシアネートまたはポリメチレンポリフェニルポリイソシアネートを、前述のイソシアネート基をブロックする公知のブロック化剤でブロックした反応物が挙げられる。具体的には、エラストロンBN69(第一工業製薬(株)製)、DELION PAS−03(竹本油脂(株)製)などの市販のブロックドポリイソシアネート化合物を用いることができる。
上記フェノール類とホルムアルデヒドの縮合物の具体例としては、ノボラック化反応により得られるレゾルシン・ホルムアルデヒド縮合物、アミノフェノールとクレゾールとホルムアルデヒドの縮合物、p−クロロフェノールとホルムアルデヒドの縮合物、クロロフェノールとレゾルシンとホルムアルデヒドの縮合物などが挙げられるが、好ましくは、ノボラック化反応により得られるレゾルシン・ホルムアルデヒド縮合物、p−クロロフェノールとレゾルシンとホルムアルデヒドの縮合物などを挙げることができる。より具体的には、ノボラック化反応により得られるレゾルシン・ホルムアルデヒド縮合物としてのWO97/13818公報の実施例に記載のノボラック化反応により得られるレゾルシン・ホルムアルデヒド縮合物や、クロロフェノールとレゾルシンとホルムアルデヒドの縮合物としてのナガセ化成工業(株)のデナボンド、デナボンド−AL、デナボンド−AFなどを用いることができる。
エポキシクレゾールノボラック樹脂としては、旭チバ(株)のアラルダイトECN1400、ナガセ化成工業(株)のデナコールEM−150などの市販の製品を用いることができる。このエポキシノボラック樹脂はエポキシド化合物でもあるため、接着剤組成物の高温での流動化を抑制する接着剤分子の分子間架橋成分としても作用する。フェノール類とホルムアルデヒド縮合物のスルホメチル化変性した化合物は、フェノール類とホルムアルデヒドとの縮合反応の、反応の前、反応中、あるいは反応の後にスルホメチル化剤を加熱反応させた化合物である。スルホメチル化剤としては亜硫酸、重亜硫酸と塩基性物質の塩が挙げられる。具体的には、特願平10−203356号(特開2000−34455号公報)の実施例に記載のフェノール類とホルムアルデヒド縮合物のスルホメチル化変性物などを用いることができる。
上記脂肪族エポキシド化合物(D)は、接着剤組成物の架橋剤として作用する化合物であって、分子中に2個以上、好ましくは4個以上のエポキシ基を有する化合物である。脂肪族エポキシド(D)として、具体的には、ジエチレングリコール・ジグリシジルエーテル、ポリエチレン・ジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコール・ジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコール・ジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオール・ジグリシジルエーテル、グリセロール・ポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパン・ポリグリシジルエーテル、ポリグリセロール・ポリグリシジルエーテル、ペンタエリチオール・ポリグリシジルエーテル、ジグリセロール・ポリグリシジルエーテル、ソルビトール・ポリグリシジルエーテル等の多価アルコール類とエピクロルヒドリンとの反応生成物が挙げられる。
上記金属塩(E)および金属酸化物(F)は、接着剤組成物の安価な充填剤として作用し、接着剤組成物に延性や強靭性を付与するものである。なお、ここで「金属」とは、ホウ素や、珪素等の類金属をも包含する。金属塩(E)としては、例えば、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、バリウム、アルミニウム、鉄、ニッケル等の金属の硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩、炭酸塩、塩化物、水酸化物、珪酸塩等が挙げられる。一方、金属酸化物(F)としては、例えば、マグネシウム、カルシウム、バリウム、亜鉛、アルミニウム、チタン、ホウ素、珪素、ビスマス、マンガン、鉄、ニッケル等の酸化物、またはこれら酸化物が構成要素となるベントナイト、シリカ、ゼオライト、クレー、タルク、サテン白、スメクタイト等が挙げられる。
上記ゴムラテックス(G)は、特に制限されず、公知のゴムラテックスを用いることができる。例えば、ビニルピリジン−共役ジエン化合物系共重合体ラテックスまたはその変性ラテックス、スチレン−ブタジエン共重合体ラテックスまたはその変性ラテックス、アクリロニトリル−ブタジエン系共重合体ラテックスまたはその変性ラテックス等の合成ラテックスや、天然ゴムラテックス等が挙げられる。これらゴムラテックス(G)は、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。また、ビニルピリジン−共役ジエン化合物系共重合体ラテックスとしては、国際公開第97/13818号パンフレット等で開示の、接着性能を損なわずに低ブタジエン量化した、マルチステージフィード重合方法で得られる共重合体を用いることができる。
上記ベンゼン誘導体(H)は、2つ以上の(ブロックド)イソシアネート基を有することを特徴とし、具体例としては、トリレンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、テトラメチルキシレンジイソシアネート、イソプロペニルジメチルベンジルジイソシアネート等のベンゼン類のイソシアネート誘導体またはその2量体等が挙げられる。ベンゼン誘導体(H)の含有率は、乾燥質量で、接着剤組成物中、50質量%以下であることが好ましく、20質量%であることがさらに好ましい。
上記水性ポリウレタン化合物(I)は、芳香族類をメチレン結合した構造を含有する有機ポリイソシアネート類(α)と、複数の活性水素を有する化合物(β)と、イソシアネート基に対する熱解離性ブロック化剤(γ)と、を反応させて得られる。ここで、「水性」とは、必ずしも完全な水溶性を意味するのではなく、部分的に水溶性のもの、あるいは、本発明の接着剤組成物の水溶液中で相分離しないことをも意味する。
水性ポリウレタン化合物(I)は、好ましくは、有機ポリイソシアネート化合物(α)40〜85重量%、化合物(β)5〜35重量%、熱解離性ブロック化剤(γ)5〜35重量%、および化合物(δ)5〜35重量%の反応生成物であり、かつ、反応生成物の分子量中、熱解離性ブロックドイソシアネート基が0.5〜11質量%(NCO=42として換算)であることが、より好ましい。また、水性ポリウレタン化合物(I)は、下記式、
(式中、Aは芳香族類をメチレン結合した構造を有する有機ポリイソシアネート化合物(α)の活性水素が脱離した残基を示し、Yはイソシアネート基に対する熱解離性ブロック化剤(γ)の活性水素が脱離した残基を示し、Zは化合物(δ)の活性水素が脱離した残基を示し、Xは化合物(β)の活性水素が脱離した残基であり、nは2〜4の整数であり、p+mは2〜4の整数(m≧0.25)である)で表されることが好ましい。
上記有機ポリイソシアネート化合物(α)としては、メチレンジフェニルポリイソシアネートおよびポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート等が挙げられ、好ましくは分子量6,000以下の、より好ましくは分子量4,000以下のポリメチレンポリフェニルポリイソシアネートである。
上記化合物(β)は、好ましくは2〜4個の活性水素を有し、平均分子量が5,000以下の化合物であるが、このような複数の活性水素を有する化合物としては、i)2〜4個の水酸基を有する多価アルコール類、ii)2〜4個の第一級および/または第二級アミノ基を有する多価アミン類、iii)2〜4個の第一級および/または第二級アミノ基と水酸基を有するアミノアルコール類、iv)2〜4個の水酸基を有するポリエステルポリオール類、v)2〜4個の水酸基を有するポリブタジエンポリオール類およびそれらと他のビニルモノマーとの共重合体、vi)2〜4個の水酸基を有するポリクロロプレンポリオール類およびそれらと他のビニルモノマーとの共重合体、vii)2〜4個の水酸基を有するポリエーテルポリオール類であって、多価アミン、多価フェノールおよびアミノアルコール類のC2〜C4のアルキレンオキサイド重付加物、C3以上の多価アルコール類のC2〜C4のアルキレンオキサイド重付加物、C2〜C4のアルキレンオキサイド共重合物、またはC3〜C4のアルキレンオキサイド重合物が挙げられる。
上記熱解離性ブロック化剤(γ)は、熱処理によりイソシアネート基を遊離することが可能な化合物であり、公知のイソシアネートブロック化剤が挙げられる。
上記化合物(δ)は、少なくとも1つの活性水素とアニオン性および/または非イオン性の親水性基を有する化合物である。少なくとも1つの活性水素とアニオン性の親水基を有する化合物としては、例えば、タウリン、N−メチルタウリン、N−ブチルタウリン、スルファニル酸等のアミノスルホン酸類、グリシン、アラニン等のアミノカルボン酸類等が挙げられる。一方、少なくとも1つの活性水素と非イオン性の親水基を有する化合物としては、例えば、親水性ポリエーテル鎖を有する化合物類が挙げられる。
上記接着剤組成物(i)の組成は、接着剤組成物中、乾燥重量で、(A)熱可塑性高分子重合体が2〜75%、(B)水溶性高分子が5〜75%、(C)化合物が15〜77%であることが好ましい。また、上記接着剤組成物(ii)への上記(D)〜(H)成分の配合量は、接着剤組成物中、乾燥重量で、脂肪族エポキシド化合物(D)が70%以下、金属塩(E)が50%以下、金属酸化物(F)が50%以下、ゴムラテックス(G)が18%以下、2つ以上の(ブロックド)イソシアネート基を有するベンゼン誘導体(H)が50%以下であることが好ましい。さらに、上記接着剤組成物(iii)の組成は、接着剤組成物中、乾燥重量で、熱可塑性高分子重合体(A)が2〜75%、(I)水性ポリウレタン化合物が15〜87%であることが好ましい。
また、上記カーカスプライの有機繊維コードとして3本以上の複数本撚りコードを用いる場合の接着剤としては、(iv)アンモニアを触媒とするレゾルシン・ホルムアルデヒド・ゴムラテックス(RFL)混合液と、乳化重合されたブロックドイソシアネート化合物とを含み、レゾルシン1.0molに対するアンモニア触媒量が0.5〜5.0molであり、かつ、ブロックドイソシアネート化合物の比率が全体の15〜45質量%である接着剤組成物を用いることも好ましく、この場合も、高温時における転がり抵抗の悪化を抑制する効果が得られる。この場合、有機繊維コードをこの接着剤組成物(iv)に1回だけ浸漬させた後、乾燥工程と熱処理工程とを経て乾燥硬化処理を行う。また、この場合、上記ブロックドイソシアネート化合物のブロック剤乖離温度を150〜210℃として、上記乾燥工程における乾燥温度を、ブロックドイソシアネート化合物のブロック剤乖離温度以上とすることが必要である。
上記接着剤組成物(iv)において、ゴムラテックスとしては、ビニルピリジン、スチレンおよびブタジエンの共重合ゴムラテックスが好ましく、より好ましくは、ゴムラテックスがビニルピリジン、スチレンおよびブタジエンの2段重合からなる2重構造を有する共重合ゴムラテックスを用いる。
上記ビニルピリジン、スチレンおよびブタジエンの2段重合からなる2重構造を有する共重合ゴムラテックスは、ビニルピリジン、スチレン、ブタジエンの共重合ゴムラテックスで、(i)スチレン含有率が10〜60質量%、ブタジエン含有率が60質量%未満およびビニルピリジン含有率0.5〜15質量%で構成される単量体混合物を重合させた後、次いで、(ii)スチレン含有率10〜40%、ブタジエン含有率45〜75質量%およびビニルピリジン含有率5〜20質量%で構成される単量体混合物を、(i)における重合で用いたスチレン含有量よりも低いスチレン含有量で重合させて得ることができる。
また、上記接着剤組成物(iv)においては、ゴムラテックスとして、スチレンリッチのコアを持つシェルコア型のビニルピリジン、スチレン、ブタジエンの共重合体ゴムラテックスを用いることが、さらに好ましい。スチレンリッチのコアを持つシェルコア型のゴムラテックスを用いることにより、架橋性が高く、反応が進みやすいイソシアネートを含んだRFL配合の接着劣化速度を抑え、ゴム中耐熱接着性を良好に確保することができる。
上記接着剤組成物(iv)においては、RFL接着剤液としては、特に制限はなく、公知のRFL接着剤液を用いることができる。例えば、レゾルシン/ホルムアルデヒド総量のモル比をR/F、レゾルシンおよびホルムアルデヒドの総質量とゴムラテックス固形分の総質量の比をRF/Lとしたとき、下記式、
1/2.3≦R/F≦1/1.1
1/10≦RF/L≦1/4
で表わされる関係を満足するRFL接着剤液を好適に用いることができる。
また、上記有機繊維コードとしては、原糸強力が7.5cN/dtex以上、例えば、7.5〜18cN/dtexであって、かつ、コード強力が6.5cN/dtex以上、例えば、6.5〜11cN/dtexであるものを用いることが好ましい。有機繊維コードの、原糸強力が7.5cN/dtex以上であって、かつ、コード強力が6.5cN/dtex以上でないと、市場で要求される耐久性を十分に保持できずに、安全性を確保できないおそれがある。
さらに、上記有機繊維コードの総デシテックス数は、好適には1000〜10000dtexであり、上記有機繊維コードの原糸の25℃におけるtanδは、好適には0.025以下、例えば、0.025〜0.046である。さらにまた、上記有機繊維コードのカーカスプライにおける打込み数は、例えば、30〜70本/50mmとすることができる。
例えば、ベルト層3は、通常、タイヤ赤道面に対して傾斜して延びるコードのゴム引き層、好ましくは、スチールコードのゴム引き層からなる。2層のベルト層3は、通常、各ベルト層を構成するコード同士がタイヤ赤道面を挟んで互いに交差するように積層されて交錯層を構成する。図示する例では、ベルト層3は2層からなるが、本発明のタイヤにおいては、ベルト層3の層数についてはこれに限られるものではない。
また、図示はしないが、本発明においては、ベルト層3のタイヤ半径方向外側に、所望に応じ、ベルト層3の全幅以上にわたり配置されるキャップ層や、ベルト層3の両端部を覆う領域に配置されるレイヤー層からなるベルト補強層を配置してもよい。これらキャップ層およびレイヤー層は、通常、タイヤ周方向に対し実質的に平行に配列された補強コードのゴム引き層により構成される。
さらに、図示はしないが、タイヤの最内層には通常インナーライナーが配置され、トレッド表面には、適宜トレッドパターンが形成される。さらにまた、本発明の空気入りタイヤにおいて、タイヤ内に充填する気体としては、通常のあるいは酸素分圧を変えた空気、または、窒素等の不活性ガスを用いることができる。
以下、本発明を、実施例を用いてより詳細に説明する。
タイヤサイズ195/65R15にて、1枚のカーカスプライと、そのクラウン部のタイヤ径方向外側に配置された2層のベルト層とを備える空気入りタイヤを作製した。カーカスプライは、下記表1,2中に示す条件に従う有機繊維コードと、これを被覆するコーティングゴムとからなるものとし、コードの打込み数は50本/50mmとした。なお、下記表1,2中の接着剤配合は、下記表3,4中に示すとおりである。また、そのコード角度は、タイヤ周方向に対し90°とした。ベルト層は、スチールコードのゴム引き層からなるものとし、そのコード角度は、タイヤ周方向に対し±25°とした。
<転がり抵抗>
得られた各供試タイヤにつき、転がり抵抗を評価した。転がり抵抗は、各供試タイヤをサイズ6J×14のリムに組み、内圧2.0kgf/cm、荷重440kgfの条件下で、外径1.7mのドラム上に設置してドラムを回転させ、回転速度を120km/時まで上昇させた後、ドラムを惰行させて、回転速度80km/時のときの慣性モーメントを算出し、下記式に基づき評価した。結果は、比較例を100とする指数にて示した。この指数値が小さいほど転がり抵抗が小さく、良好である。
指数値=[(供試タイヤの慣性モーメント)/(従来例のタイヤの慣性モーメント)]×100
その結果を、下記の表中に併せて示す。
*1)各有機繊維コードのコード長手方向に直交する方向の断面における、ディップコードとしての最小径をR1、最大径をR2としたとき、R2/R1で定義される各有機繊維コードの真円度を示す。なお、各有機繊維コードの最小径および最大径は、有機繊維コードを樹脂に埋め込んだ成型体の断面を5箇所測定した値の平均値である。
*2)接着剤は上記比率にて、最終的に20質量%の水溶液になるように調整して作製し、使用した。ディップ後の乾燥処理は180℃×2分の条件で行い、熱処理は250℃×1分の条件で行った。
*3)(A)熱可塑性高分子重合体:(株)日本触媒製,商品名エポクロスK2030E
*4)(B)水溶性高分子:(株)クラレ製,商品名イソバン10
*5)(C)化合物:竹本油脂(株)製,商品名DELION PAS−037
*6)(I)水性ポリウレタン化合物:第一工業製薬(株)製,商品名エラストロンBN77
*7)(D)脂肪族エポキシド化合物:ナガセケムテックス(株)製,商品名テナコールEX614B
*8)(E)金属塩:白石カルシウム(株)製,商品名ホワイトンP−30
*9)(F)金属酸化物:堺化学工業(株)製,商品名FINEX−75
*10)(G)ゴムラテックス:シェルコア型ビニルピリジン−ブタジエン−スチレン共重合ラテックス(nVPラテックス),特開2000−248254の合成例11
*11)(H)2つ以上の(ブロックド)イソシアネート基を有するベンゼン誘導体:TSEインダストリーInc.製,商品名Thanecure T9
*12)接着剤は上記比率にて、最終的に20質量%の水溶液になるように調整して作製し、使用した。また、上記配合中、ラテックスは乳化重合により作製した。さらに、ブロックドイソシアネート化合物としては、第一工業製薬社製のエラストロンBN27(ブロック剤乖離温度180℃)を使用し、RFLを配合、熟成させた後に、使用直前に加えて用いた。RFL熟成時間は20℃×24時間とした。ディップ後の乾燥処理は上記温度×2分の条件で行い、熱処理は250℃×1分の条件で行った。
また、カーカスプライに、下記表5中に示す条件に従う有機繊維コードを用いて、そのコードの打込み数を50本/50mmとした以外は上記と同様にして、空気入りタイヤを作製した。得られた各供試タイヤにつき、上記と同様にして転がり抵抗を評価した結果を、下記の表中に併せて示す。
上記表中に示すように、カーカスプライに、本発明に係る真円度の条件を満足する有機繊維コードを用いた各実施例の供試タイヤにおいては、かかる条件を満足しない各従来例および比較例の供試タイヤと比較して、低い転がり抵抗が得られていることが確かめられた。また、各実施例の供試タイヤにおいては、所定のコード強力が担保されているので、市場で要求される耐久性についても十分に確保することが可能である。
1 ビードコア
2 カーカスプライ
2a 折り返し端部
3 ベルト層
4 ビードフィラー
11 トレッド部
12 サイドウォール部
13 ビード部
20 トリート
21 コード
21A 最大径を有するコード
22 コーティングゴム

Claims (8)

  1. 左右一対のビードコア間にまたがってトロイド状に延在する少なくとも1枚のカーカスプライと、該カーカスプライのクラウン部のタイヤ径方向外側に配置された少なくとも1層のベルト層とを備え、該カーカスプライのうち少なくとも1枚が、有機繊維コードと該有機繊維コードを被覆するコーティングゴムとからなる空気入りタイヤにおいて、
    前記有機繊維コードのコード長手方向に直交する方向の断面における、ディップコードとしての最小径をR1、最大径をR2としたとき、R2/R1で定義される該有機繊維コードの真円度が、下記式、
    1.0<R2/R1≦1.3
    で示される関係を満足し、前記有機繊維コードが片撚りコードであり、前記カーカスプライが前記ビードコアにタイヤ内側から外側に折り返して係止され、かつ、該カーカスプライの折り返し端部のタイヤ径方向の高さが、該ビードコアのタイヤ径方向上端部からの距離で15mm以下であることを特徴とする空気入りタイヤ。
  2. 前記カーカスプライが前記ビードコアにタイヤ内側から外側に折り返して係止され、該ビードコアのタイヤ径方向外側に断面三角形状のビードフィラーが配置され、かつ、該ビードフィラーのタイヤ径方向の高さが15mm以下である請求項記載の空気入りタイヤ。
  3. 前記有機繊維コードが、繊維原糸に、下記式(1)で定義される下撚り係数N1で下撚りをかけた後、該下撚り糸の3本以上を引き揃えて、下記式(2)で定義される上撚り係数N2で上撚りをかけた撚糸よりなり、該下撚り係数N1と上撚り係数N2とが下記式(3)で表される関係を満足し、かつ、上撚り係数N2が下記式(4)で表される関係を満足する請求項1または2記載の空気入りタイヤ。
    N1=n1×√(0.125×D1/ρ)×10−3 (1)
    N2=n2×√(0.125×D2/ρ)×10−3 (2)
    0.81<N2/N1≦√(D2/D1) (3)
    0.4≦N2≦1.1 (4)
    (式中、n1は下撚り数(回/10cm)であり、n2は上撚り数(回/10cm)であり、D1は下撚り糸の表示デシテックス数であり、D2はトータル表示デシテックス数であり、ρは前記有機繊維の比重(g/cm)である)
  4. 前記有機繊維コードの材質が、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリケトン、レーヨン、リヨセル、ポリビニルアルコール、ナイロンまたはアラミドである請求項記載の空気入りタイヤ。
  5. 前記有機繊維コードの接着剤付着量が2〜10質量%である請求項3または4記載の空気入りタイヤ。
  6. 前記有機繊維コードが、ペンダント基に架橋性官能基を含有し、アリル位に水素基を有する炭素−炭素二重結合を主鎖に実質的に含有しない熱可塑性高分子重合体(A)、水溶性高分子(B)および極性官能基を有する芳香族類をメチレン結合した構造を含有する化合物(C)を含む接着剤組成物(i)、前記成分(A)、成分(B)および成分(C)に、さらに、脂肪族エポキシド化合物(D)、金属塩(E)、金属酸化物(F)、ゴムラテックス(G)および2つ以上の(ブロックド)イソシアネート基を有するベンゼン誘導体(H)よりなる群から選択される少なくとも1種の成分を含む接着剤組成物(ii)、または、前記成分(A)、および、芳香族類をメチレン結合した構造を含有する有機ポリイソシアネート類(α)と、複数の活性水素を有する化合物(β)と、イソシアネート基に対する熱解離性ブロック化(γ)剤とを反応させて得られる水性ポリウレタン化合物(I)を含む接着剤組成物(iii)で接着剤処理されている請求項3〜5のうちいずれか一項記載の空気入りタイヤ。
  7. 前記有機繊維コードが、アンモニアを触媒とするレゾルシン・ホルムアルデヒド・ゴムラテックス混合液と、乳化重合されたブロックドイソシアネート化合物とを含み、レゾルシン1.0molに対するアンモニア触媒量が0.5〜5.0molであり、かつ、該ブロックドイソシアネート化合物の比率が全体の15〜45質量%である接着剤組成物(iv)に、1回だけ浸漬された後、乾燥工程と熱処理工程とを経て乾燥硬化処理されて得られ、該ブロックドイソシアネート化合物のブロック剤乖離温度が150〜210℃であって、該乾燥工程における乾燥温度が、該ブロックドイソシアネート化合物のブロック剤乖離温度以上である請求項3〜5のうちいずれか一項記載の空気入りタイヤ。
  8. 前記有機繊維コードの、原糸強力が7.5cN/dtex以上であり、かつ、コード強力が6.5cN/dtex以上である請求項3〜7のうちいずれか一項記載の空気入りタイヤ。
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