JP5607960B2 - 疲労強度特性に優れた耐熱マグネシウム合金およびエンジン用耐熱部品 - Google Patents
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本発明のマグネシウム合金は、マグネシウムに合金元素としてYとSmを添加して構成されるが、マグネシウム合金中のYの含有量は1〜8%、Smの含有量は1〜8%であり、残部はMgおよび不可避的不純物である。尚、先に記載した%は質量%を示し、以下の明細書中に%と記載するものは全て質量%を示す。
YはSmと共存して耐熱性(高温強度)および高温伸びに加えて優れた耐疲労強度を確保するために必要な元素である。このYの含有量が1%未満であると、マグネシウムマトリクッスへのYの固溶量が、耐熱性(高温強度)および高温伸びに加えて優れた耐疲労強度を確保するために必要な最低限度の0.8%を確保することが不可能になる。一方、Yの含有量が8%を超えると、Y系金属間化合物の粒界への析出量が増加し、却って、耐熱性(高温強度)高温伸び、および耐熱性を低下させてしまう。また、Yの含有量が8%を超えて多くなっても、マグネシウムマトリックスへのYの固溶量が4.5%を超えることはなく、Yをそれ以上含有させる必要もない。従って、Yの含有量は1〜8%とする。
SmはYと共存して耐熱性(高温強度)および高温伸びに加えて優れた耐疲労強度を確保するために必要な元素である。このSmの含有量が1%未満であると、マグネシウムマトリックスへのSmの固溶量が、耐熱性(高温強度)および高温伸びに加えて優れた耐疲労強度を確保するために必要な最低限度の0.6%を確保することが不可能になる。一方、Smの含有量が8%を超えると、Sm系金属間化合物の粒界への晶出量が増加し、却って、耐熱性(高温強度)高温伸び、および耐熱性を低下させてしまう。従って、Smの含有量は1〜8%とする。
マグネシウムマトリックスへのYとSmの固溶量は、Y:0.8〜4.5%、Sm:0.6〜3.5%とする。YとSmの固溶量がこれらの下限未満であると、耐熱性(高温強度)、高温伸び、更には優れた耐疲労強度を全て兼備することができなくなる。一方、溶体化処理によって、YとSmの固溶量を前記した上限以上とすることは困難であり、また、その効果も飽和する。尚、YとSmの固溶量は、溶体化処理の温度を高温とし、且つ長時間とすることで増加させることで可能ではあるが、結晶粒の結晶粒径が著しく粗大化し、続く熱間加工によっても微細化できない可能性が高くなるため好ましくはない。
マグネシウム合金組織の結晶粒の平均結晶粒径は、3〜15μmの範囲に微細化する必要がある。平均結晶粒径が15μmを超えると、YとSmの固溶量が確保できていても、マグネシウム合金の室温での強度と、高温での延性を確保することができなくなる。一方、平均結晶粒径を3μm未満とすることは、鍛造、押出し等の現在の熱間加工の能力では困難であるのが現状である。
表層部に存在する結晶粒の最大結晶粒径は、100μm以下とする必要がある。表層部に存在する結晶粒の最大結晶粒径が100μmを超えると、繰返し荷重を受ける間に変形双晶が導入されて疲労破壊の初期クラック発生の原因となるため、結晶粒径は最大でも100μmとする必要がある。また、この表層部に存在する結晶粒の最大結晶粒径は、50μm以下とすることが好ましく、15μm以下とすることがより好ましい。尚、本発明では、表層部の厚みは特に規定しないが、一例を示すと、表面から約400μmの範囲のことである。
次に、本発明の耐熱マグネシウム合金を得るまでの、好ましい製造方法、その条件について説明する。まず、本発明の耐熱マグネシウム合金の製造方法では、質量%で、Y:1〜8%、Sm:1〜8%含有し、残部がMgおよび不可避的不純物となるように調整したマグネシウム合金溶湯を鋳造して鋳塊とし、その鋳塊を必要により熱間加工するためのビレットに機械加工し、YとSmを固溶させるための(固溶量を確保するための)溶体化処理を施した後、結晶粒微細化のための鍛造、押出しなどの熱間加工を行う。尚、一般的なマグネシウム合金の製造工程では、これらの製造工程は実施せず、鋳塊の状態で製品として使用するか、この鋳塊に溶体化処理などの熱処理を施すのみである。
以下、本発明の実施例について説明する。本実施例では、マグネシウム合金の成分組成と製造方法に係る条件を種々変えて、マグネシウム合金組織中のYとSmの固溶量、結晶粒の平均結晶粒径、並びに表層部に存在する結晶粒の最大結晶粒径を変え、マグネシウム合金材の強度、クリープ特性、疲労破壊寿命を、夫々測定、評価した。表1および表3に、マグネシウム合金の成分組成(YとSmのみ)と製造方法に係る条件を、表2および表4に、YとSmの固溶量、結晶粒の平均結晶粒径、表層部の結晶粒の最大結晶粒径、並びにマグネシウム合金材の強度、クリープ特性、疲労破壊寿命の測定結果を示す。尚、表1および表2には熱間加工を平板鍛造により実施した事例を、表3および表4には熱間加工を熱間静水圧押出しにより実施した事例を、夫々示す。
YとSmの固溶量は、前記したFE−TEMとEDXを用いた成分定量分析により実施した。同一試料の任意の5箇所を測定し、それら5箇所の平均値を各試料のYとSmの固溶量とした。
結晶粒の平均結晶粒径並びに表層部に存在する結晶粒の最大結晶粒径は、熱間加工後のマグネシウム合金組織を光学顕微鏡で観察することにより、前記した方法によって夫々求めた。
引張り試験は、試験材から切り出した試料の長手方向を、鍛造方向および押出し方向とした試験片を用いて、5882型インストロン社製万能試験機により、試験片サイズφ7mm、GL=25mm、試験速度0.2mm/minの条件で実施した。夫々同一条件の試験片を3本毎試験し、0.2%引張耐力の平均値を試験結果とし、室温耐力として表2および表4に示す。室温耐力が100〜1000MPaであれば合格とする。
クリープ特性は、公知の定荷重クリープ試験により、測定、評価した。設定温度は250℃とし、負荷荷重を80MPaとし、250時間までのクリープ試験を実施し、最小クリープ速度を求めた。高温では、一定の荷重をかけただけでも、マグネシウム合金の変形は進むので、この変形量乃至ひずみ量を表す測定対象の最小クリープ速度は、小さい方がクリープ特性に優れる。この試験では、最小クリープ速度が3×10−2%/h以下であれば合格とする。尚、表2および表4にはこの最小クリープ速度の単位を(※)として示しているが、(※)は(×10−2%/h)のことである。
室温疲労破断寿命については、小野式回転曲げ疲労試験機を用い回転曲げ疲労試験を実施することにより確認、評価した。試験片は、直径(D0):12.0mm、長さ(L):90mm、最細部径(d):8.0mm、平滑部曲率半径(R):48.0mmの、JIS Z2274の2号試験片とし、室温(23℃)、負荷応力:100MPa、回転数:3000rpmの条件で疲労試験を実施した。107回疲労試験を繰返し、試験片が破断しなかったものを、疲労強度特性に優れているとして合格とする。尚、試験途中で破断した場合は、表2および表4に何周期目の試験で破断が発生したかの回数を表2および表4に示した。尚、2.0E×04は2000周期目の試験で破断が発生したことを、5.1E×05は510000周期目の試験で破断が発生したことを、夫々示す。
実施例2では、実施例1で作製したNo.1とNo.5の試料に様々な条件で時効処理を施し、実施例1と同一条件で、YとSmの固溶量、結晶粒の平均結晶粒径、表層部の結晶粒の最大結晶粒径、並びにマグネシウム合金材の強度、クリープ特性、疲労破壊寿命の測定を実施した。その試験結果を表5に示す。
Claims (3)
- 質量%で、Y:1〜8%、Sm:1〜8%含有し、残部がMgおよび不可避的不純物からなるマグネシウム合金であって、
前記マグネシウム合金溶湯を鋳造後、処理温度が450〜550℃の条件で溶体化処理を施した後に、加工温度:350〜550℃の条件で、真ひずみが1.1〜2.1のひずみを、ひずみ速度:0.1/s〜1.7/sで付与する熱間加工により成形加工を施し、更に、その加工終了後5秒以内に300℃以下にまで冷却することにより製造され、
このマグネシウムマトリックスへのYとSmの固溶量が、質量%で、Y:0.8〜4.5%、Sm:0.6〜3.5%であり、
且つ、このマグネシウム合金組織の結晶粒の平均結晶粒径が3〜15μmの範囲であると共に、
表面から深さ400μmの範囲の表層部に存在する結晶粒の最大結晶粒径が100μm以下であることを特徴とする疲労強度特性に優れた耐熱マグネシウム合金。 - 質量%で、Y:1〜8%、Sm:1〜8%含有し、残部がMgおよび不可避的不純物からなるマグネシウム合金であって、
前記マグネシウム合金溶湯を鋳造後、処理温度が450〜550℃の条件で溶体化処理を施した後に、加工温度:350〜550℃の条件で、真ひずみが1.1〜2.1のひずみを、ひずみ速度:0.1/s〜1.7/sで付与する熱間加工により成形加工を施し、更に、その加工終了後5秒以内に300℃以下にまで冷却し、その後、処理温度が150〜220℃の条件で、12〜30時間の時効処理を施すことにより製造され、
このマグネシウムマトリックスへのYとSmの固溶量が、質量%で、Y:0.8〜4.5%、Sm:0.6〜3.5%であり、
且つ、このマグネシウム合金組織の結晶粒の平均結晶粒径が3〜15μmの範囲であると共に、
表面から深さ400μmの範囲の表層部に存在する結晶粒の最大結晶粒径が100μm以下であることを特徴とする疲労強度特性に優れた耐熱マグネシウム合金。 - 請求項1または請求項2記載の耐熱マグネシウム合金を用いて作製してなるエンジン用耐熱部品。
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