JP5605602B2 - 環状ペプチド化合物の合成方法 - Google Patents

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Description

本発明は環状ペプチド化合物の新規な合成方法に関する。より詳細には、任意のアミノ酸化合物でのtRNAのアミノアシル化反応を可能とするリボザイムを用いることを一つの特徴とする無細胞翻訳系によって非環状のペプチド化合物を合成した後、その非環状ペプチド化合物を環化することによる環状ペプチド化合物の新規な合成方法に関する。また、本発明は、当該方法によって合成することのできる新規環状ペプチド化合物に関する。
天然には環状構造をとるペプチド化合物(環状ペプチド化合物)が数多く存在し、それらが多様な生理活性を有することが知られている。例えば、ウロテンシンII及びソマトスタチンは、共に環内にジスルフィド結合を有する環状ペプチド化合物であり、それぞれ、例えば、血管収縮作用、下垂体の成長ホルモン(GH)分泌を抑制する作用、を持つことが知られている。
このように、環状ペプチド化合物が生体内において様々な作用を示すことから、新規な作用等に対する興味から、新規な構造を有する環状ペプチド化合物を合成することがなされており、また、それに伴い、環状ペプチド化合物の合成法の開発が行われてきている。
また、上記のウロテンシンII等の環状ペプチド化合物の環内ジスルフィド結合は、生体内で比較的不安定であることが知られている。そのため、環内ジスルフィド結合を有する環状ペプチド化合物の当該結合を他の形式の結合に置き換えて、生体内での安定性を高めた環状ペプチド化合物を合成することが行われてきている。例えば、Grb7タンパク質のSH2ドメインに結合するペプチドとして単離された式(15)(配列番号27)のペプチドのジスルフィド結合をチオエーテル結合に置き換えた式(16)(配列番号28)の化合物が合成されている。
Figure 0005605602
そして、このような点からも、環状ペプチド化合物の合成法の開発が行われてきている。
しかしながら、環状ペプチド化合物の既存の翻訳合成法では、システインを介したジスルフィド架橋するしかその方法論がなく、還元条件下やヒト血中内では環状ペプチド状態を保持する事が困難である。それ故、直鎖状になったペプチドでは、その生体内安定性がもとの環状ペプチドと比較すると著しく低下してしまうといった問題点がある。したがって、生体内安定性を保持した環状ペプチドを新規な合成方法の開発が必要とされている。
ところで、広範なtRNAアミニアシル化活性を有するリボザイム、及び当該リボザイムを用いてtRNAをアミノアシル化することが知られている。
特表2003−514572号公報 特表2005−528090号公報 H. Murakami, H. Saito, and H. Suga (2003) "A versatile tRNA aminoacylation catalyst based on RNA" Chemistry & Biology, Vol. 10, 655-662 H. Murakami, A. Ohta, H. Ashigai, H. Suga (2006) "The flexizyme system: a highly flexible tRNA aminoacylation tool for the synthesis of nonnatural peptides" Nature Methods 3, 357-359
本発明の課題は、環状ペプチド化合物の新規な合成方法、及び新規な環状ペプチド化合物を提供することである。
本発明者らは、上記課題を解決するために検討した結果、翻訳合成によって、結合形成反応が可能な一組の官能基を分子内に有する非環状ペプチド化合物を合成した後、当該化合物を環化することによって、環状ペプチド化合物が効率よく合成できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、
1.環状ペプチド化合物の合成方法であって、
(1)結合形成反応が可能な一組の官能基である官能基1及び官能基2を分子内に有する非環状ペプチド化合物を翻訳合成によって合成する工程;及び
(2)前記官能基1及び官能基2の結合形成反応によって前記非環状ペプチド化合物を環化する工程;を含む、前記方法、
2.前記工程(1)が、
(a)任意のアミノ酸化合物でのtRNAのアミノアシル化反応を触媒するリボザイムを提供する工程;
(b)前記リボザイムによるアシル化反応の基質となる、開始tRNA及び前記官能基1を有するアミノ酸化合物を提供する工程;
(c)前記リボザイムを用いて前記官能基1を有するアミノ酸化合物で前記開始tRNAのアミノアシル化を行う工程;
(d)前記官能基2を有するアミノ酸化合物及び該アミノ酸化合物でアミノアシル化されるtRNAとを少なくとも含み、メチオニンを含まない無細胞翻訳系を提供する工程;
(e)前記開始tRNAのアンチコドンに対応するコドン、及び前記官能基2を有するアミノ酸化合物でアミノアシル化されるtRNAのアンチコドンに対応するコドン、とを所望の位置に有するmRNAを形成するための鋳型DNAを提供する工程;及び
(f)前記工程(c)で得られたアミノアシル化された開始tRNA、及び前記鋳型DNAを前記無細胞翻訳系に加えて非環状ペプチド化合物を合成する工程、を含む、前記1に記載の方法、
3.前記工程(1)が、
(a)任意のアミノ酸化合物でのtRNAのアミノアシル化反応を触媒するリボザイムを提供する工程;
(b)前記リボザイムによるアシル化反応の基質となる、開始tRNA及び前記官能基1を有するアミノ酸化合物を提供する工程;
(c)前記リボザイムを用いて前記官能基1を有するアミノ酸化合物で前記開始tRNAのアミノアシル化を行う工程;
(d)前記リボザイムによるアシル化反応の基質となる、tRNAであって無細胞翻訳系に存在する天然のアミノアシルtRNA合成酵素とオルソゴナルな関係にあるtRNA、及び前記官能基2を有するアミノ酸化合物を提供する工程;
(e)前記リボザイムを用いて前記官能基2を有するアミノ酸化合物で前記tRNAのアミノアシル化を行う工程;
(f)メチオニンを含まない無細胞翻訳系を提供する工程;
(g)前記開始tRNAのアンチコドンに対応するコドン、及び前記tRNAのアンチコドンに対応するコドン、とを所望の位置に有するmRNAを形成するための鋳型DNAを提供する工程;及び
(h)前記工程(c)で得られたアミノアシル化された開始tRNA、前記工程(e)で得られた前記官能基2を有するアミノ酸化合物でアミノアシル化されたtRNA、及び前記鋳型DNAを前記無細胞翻訳系に加えて非環状ペプチド化合物を合成する工程、を含む、前記1に記載の方法、
4.前記工程(1)が、
(a)任意のアミノ酸化合物でのtRNAのアミノアシル化反応を触媒するリボザイムを提供する工程;
(b)前記リボザイムによるアシル化反応の基質となる、tRNAであって無細胞翻訳系に存在する天然のアミノアシルtRNA合成酵素とオルソゴナルな関係にあるtRNA、及び前記官能基1を有するアミノ酸化合物を提供する工程;
(c)前記リボザイムを用いて前記官能基1を有するアミノ酸化合物で前記tRNAのアミノアシル化を行う工程;
(d)前記官能基2を有するアミノ酸化合物、該アミノ酸化合物でアミノアシル化されるtRNA、開始tRNA、メチオニン及びメチオニルtRNA合成酵素とを少なくとも含む無細胞翻訳系を提供する工程;
(e)前記官能基1を有するアミノ酸化合物でアミノアシル化される前記tRNAのアンチコドンに対応するコドン、及び前記官能基2を有するアミノ酸化合物でアミノアシル化される前記tRNAのアンチコドンに対応するコドン、とを所望の位置に有するmRNAを形成するための鋳型DNAを提供する工程;及び
(f)前記工程(c)で得られたアミノアシル化されたtRNA、及び前記鋳型DNAを前記無細胞翻訳系に加えて非環状ペプチド化合物を合成する工程、を含む、前記1に記載の方法、
5.前記工程(1)が、
(a)任意のアミノ酸化合物でのtRNAのアミノアシル化反応を触媒するリボザイムを提供する工程;
(b)前記リボザイムによるアシル化反応の基質となる、tRNAであって無細胞翻訳系に存在する天然のアミノアシルtRNA合成酵素とオルソゴナルな関係にあるtRNA、及び前記官能基1を有するアミノ酸化合物を提供する工程;
(c)前記リボザイムを用いて前記官能基1を有するアミノ酸化合物で前記tRNAのアミノアシル化を行う工程;
(d)前記リボザイムによるアシル化反応の基質となる、tRNAであって無細胞翻訳系に存在する天然のアミノアシルtRNA合成酵素とオルソゴナルな関係にあるtRNA、及び前記官能基2を有するアミノ酸化合物を提供する工程;
(e)前記リボザイムを用いて前記官能基2を有するアミノ酸化合物で前記tRNAのアミノアシル化を行う工程;
(f)開始tRNA、メチオニン及びメチオニルtRNA合成酵素とを少なくとも含む無細胞翻訳系を提供する工程;
(g)前記官能基1を有するアミノ酸化合物でアミノアシル化される前記tRNAのアンチコドンに対応するコドン、及び前記官能基2を有するアミノ酸化合物でアミノアシル化される前記tRNAのアンチコドンに対応するコドン、とを所望の位置に有するmRNAを形成するための鋳型DNAを提供する工程;及び
(h)前記工程(c)で得られたアミノアシル化されたtRNA、前記工程(e)で得られたアミノアシル化されたtRNA及び前記鋳型DNAを前記無細胞翻訳系に加えて非環状ペプチド化合物を合成する工程、を含む、前記1に記載の方法、
6.前記任意のアミノ酸化合物でのtRNAのアミノアシル化反応を触媒するリボザイムが以下の(I)または(II):
(I):GGAUCGAAAGAUUUCCGCGGCCCCGAAAGGGGAUUAGCGUUAGGU
(II):GGAUCGAAAGAUUUCCGCAUCCCCGAAAGGGUACAUGGCGUUAGGU
のいずれかの塩基配列からなるリボザイムである、前記2乃至5のいずれか一つに記載の方法、
7.前記一組の官能基1及び官能基2が、以下の官能基の組(A)乃至(C);
Figure 0005605602
(式中、X1はClまたはBrであり、そして、Arは置換基を有していてもよい芳香環である)のいずれか一組である、前記1に記載の方法、
8.前記工程(b)のアミノ酸化合物が式(1):
Figure 0005605602
(式中、R1及びR2は水素原子または炭素で連結した任意の置換基を表す)の化合物であり、前記工程(d)のアミノ酸化合物がシステインである、前記2に記載の方法、
9.前記工程(b)のアミノ酸化合物が式(2)の化合物であり、前記(d)工程のアミノ酸化合物が式(3):
Figure 0005605602
(式中、R1及びR2は前記と同義であり、Z1は任意の置換基を表す)の化合物である、前記3に記載の方法、
10.前記工程(b)のアミノ酸化合物が式(4):
Figure 0005605602
(式中、mは1乃至10の整数を表す)の化合物であり、前記工程(d)のアミノ酸化合物がシステインである、前記4に記載の方法、
11.前記工程(b)のアミノ酸化合物が式(5)の化合物であり、前記(d)工程のアミノ酸化合物が式(6):
Figure 0005605602
(式中、mは前記と同義である)の化合物である、前記5に記載の方法、
12.前記工程(b)のアミノ酸化合物が式(7)の化合物であり、前記(d)工程のアミノ酸化合物が式(8):
Figure 0005605602
(式中、Z1は前記と同義である)の化合物である、前記5に記載の方法、
13.式(9)または式(10):
Figure 0005605602
(式中、AAは2乃至10のアミノ酸残基からなるペプチド鎖を表し、BBは1のアミノ酸残基または2乃至5のアミノ酸残基からなるペプチド鎖を表し、L1は二価の連結基を表し、Arは前記と同義である)で表される環状ペプチド化合物、
14.式(11)(配列番号29)または式(12)(配列番号30):
Figure 0005605602
で表される、前記13に記載の環状ペプチド化合物、
15.式(13):
Figure 0005605602
(式中、m1及びm2は、それぞれ1乃至10の整数を表し、AA及びBBは前記と同義である)で表される環状ペプチド化合物、
16.式(14):
Figure 0005605602
(式中、m1及びm2はは前記と同義である)で表される、前記15に記載の環状ペプチド化合物、
である。
本発明の方法により、環状ペプチド化合物を容易に、且つ効率よく翻訳合成することができる。また、本発明の方法では、非環状ペプチド化合物の合成を翻訳合成によって行っているため、その配列の制御をmRNAの配列で制御することが可能となる。これにより、無細胞翻訳系を用いたディスプレイ系(mRNAディスプレイやリボソームディスプレイ)と組み合わせて、迅速な機能性特殊ペプチドのスクリーニングが可能となる。
本発明における環化反応の例を示した概略図である。N末端と側鎖の環状化の形式及び側鎖とC末端側鎖の環状化の形式を示している。 式(15)及び式(16)の環状ペプチド化合物の構造を示した図。 実施例1−1の環状ペプチド化合物及びmRNAに関する図。 実施例1−1の環状ペプチド化合物のマススペクトルの図。 実施例1−2の環状ペプチド化合物のMALDI TOF/TOFの図。 実施例1−2の環状ペプチド化合物のMALDI TOFの図。 ウロテンシンII及び式(35)の環状ペプチド化合物の構造を示した図。 実施例2の環状ペプチド化合物及びマススペクトルの図。 実施例3の環状ペプチド化合物(ウロテンシンIIアナログ)及びマススペクトルの図。 ウロテンシンII及び実施例3の環状ペプチド化合物(ウロテンシンIIアナログ)のカルシウム動員実験に関する図。 ウロテンシンII及び実施例3の環状ペプチド化合物のプロテアーゼ耐性実験に関する図。 実施例4の環状ペプチド化合物及びマススペクトルの図。 実施例5−1の環状ペプチド化合物及びマススペクトルの図。 実施例5−1の環状ペプチド化合物の蛍光スペクトルの図。 実施例5−2の環状ペプチド化合物のマススペクトルの図。
本発明の環状ペプチド化合物の合成方法は、翻訳合成により結合形成反応が可能な一組の官能基(官能基1及び官能基2)を分子内に有する非環状ペプチド化合物を合成した後、当該一組の官能基の結合形成反応によってその非環状ペプチド化合物を環化することを特徴とする。
本明細書において、非環状ペプチド化合物には、複数個のアミノ酸化合物がペプチド結合によって連結して生じる非環状の化合物のほか、複数個のアミノ酸化合物の一部がヒドロキシカルボン酸化合物に置き換えられ、そのような化合物がペプチド結合及びエステル結合によって連結して生じる非環状の化合物、が含まれるものである。
本明細書において、結合形成反応が可能な一組の官能基(官能基1及び官能基2)、とは、当該一組の官能基間、すなわち官能基1と官能基2との間で結合形成反応が可能であり、そして、その反応の結果として、非環状ペプチド化合物を環状ペプチド化合物とする官能基の組のことである。そのような一組の官能基としては、結合形成反応が可能な官能基の組み合わせであれば、特に制限はない。また、官能基間の反応の形式についても特に制限はなく、置換反応、付加反応、縮合反応及び環化付加反応等、様々な反応形式であることができ、また、反応によって形成される結合の形式(単結合、二重結合及び三重結合等)及びその数についても特に制限はない。
一組の官能基としては、例えば、−CH2−L(Lは−Cl、−Br及び−OSO2CH3等の脱離基を表す)と求核性官能基(−OH、−NH2及び−SH等)の組が挙げられる。また、一組の官能基のより具体的な例としては、以下の官能基の組(A)乃至(C):
Figure 0005605602
が挙げられる。なお、式中、X1はClまたはBrであり、そして、Arは置換基を有していてもよい芳香環である。Arの置換基は特に制限はないが、例えば、水酸基、ハロゲン原子、炭素原子数1乃至6のアルキル基、炭素原子数1乃至6のアルコキシ基、フェニル基、フェノキシ基、シアノ基及びニトロ基等が挙げられる。
(A)の組の場合、官能基間での置換反応により式(A−3)の構造を与えることができる。また(B)及び(C)の場合は、官能基間での環化反応により、それぞれ(B−3)及び(C−3)の構造を与えることができる。
Figure 0005605602
本発明では、非環状ペプチド化合物に存在する一組の官能基間での結合形成によって環が形成される。そのため、非環状ペプチド化合物を構成するアミノ酸化合物(またはヒドロキシカルボン酸化合物)を一つの単位として、そのような一組の官能基は、異なったアミノ酸化合物(またはヒドロキシカルボン酸化合物)単位上に存在することが必要である。すなわち、翻訳合成によって合成される非環状ペプチド化合物は、一組の官能基を異なったアミノ酸化合物(またはヒドロキシカルボン酸化合物)単位上に有する化合物である。非環状ペプチド化合物において、一方の官能基を有するアミノ酸化合物単位と他方の官能基を有するアミノ酸化合物単位との間に少なくとも一つのアミノ酸化合物単位が存在することが好ましく、例えば、一乃至二十、または二乃至十、または三乃至五のアミノ酸化合物の単位が存在することが好ましい。
本発明では、このような一組の官能基を有する非環状ペプチド化合物が無細胞翻訳系での翻訳合成によって合成される。
ポリペプチドの無細胞翻訳合成とは、細胞質の抽出物から構成される遺伝情報翻訳系を人工容器内に揃えて、ポリペプチドを試験管内で合成しようとするものである。無細胞合成では生きた生命体を利用しないので生体内の生理学的制約を受けることがなく、遺伝子からのポリペプチド合成のハイスループット化が可能であり、さらに合成可能なアミノ酸配列の種類を劇的に拡大することができると期待されている。原理的には、無細胞ポリペプチド合成系では、遺伝情報さえあれば、翻訳酵素系の触媒機能を妨害しない限りにおいて、どのようなアミノ酸配列からなるポリペプチドでも試験管内で自在に合成することができると考えられる。さらには、遺伝情報とうまく対応させることができれば、生体内に存在しない非天然アミノ酸も用いることができる。
このような無細胞翻訳系は、一般的には、リボソームタンパク質、リボソームRNA、アミノ酸、tRNA、GTP、ATP、翻訳開始および伸長因子、ならびに翻訳に必要なその他の因子を含み、高効率のものとしては、大腸菌抽出液・小麦胚芽抽出液が知られている。これらは、透析を用いて連続的にエネルギーを供給することで、数百μgから数mg/mLの蛋白質を生産する。遺伝子DNAからの転写も併せて行うためのRNAポリメレースを含む系もある。大腸菌由来の系としてはロッシュ・ダイアグノスティック社のRTS−100(登録商標)やPGI社のPURESYSTEM(登録商標)等があり、小麦胚芽抽出液を用いた系としてはゾイジーン社のもの等が使用できる。
無細胞翻訳系では生体内の制約がないため、どのようなアミノ酸配列からなるペプチド化合物でも自在に合成することができ、合成可能なペプチド化合物の長さにも原理的には制限はない。また、無細胞翻訳系では、遺伝情報と対応させることができれば異常アミノ酸も用いることができる。また、アミノ酸のだけでなく、その一部にヒドロキシカルボン酸化合物を使用することも可能である。
本発明では、非環状ペプチド化合物の翻訳合成は、具体的には、例えば以下の態様に示す方法によって行うことができる。
方法1
本発明の一つの態様において、非環状ペプチド化合物の翻訳合成は、
(a)任意のアミノ酸化合物でのtRNAのアミノアシル化反応を触媒するリボザイムを提供する工程;
(b)前記リボザイムによるアシル化反応の基質となる、開始tRNA及び前記官能基1を有するアミノ酸化合物を提供する工程;
(c)前記リボザイムを用いて前記官能基1を有するアミノ酸化合物で前記開始tRNAのアミノアシル化を行う工程;
(d)前記官能基2を有するアミノ酸化合物及び該アミノ酸化合物でアミノアシル化されるtRNAとを少なくとも含み、メチオニンを含まない無細胞翻訳系を提供する工程;
(e)前記開始tRNAのアンチコドンに対応するコドン、及び前記官能基2を有するアミノ酸化合物でアミノアシル化されるtRNAのアンチコドンに対応するコドン、とを所望の位置に有するmRNAを形成するための鋳型DNAを提供する工程;及び
(f)前記工程(c)で得られたアミノアシル化された開始tRNA、及び前記鋳型DNAを前記無細胞翻訳系に加えて非環状ペプチド化合物を合成する工程、を含む方法によって行われる。
この方法によって得られる非環状ペプチド化合物では、一組の官能基の一方の官能基(官能基1)は、開始tRNAに結合するアミノ酸化合物に由来するアミノ酸残基に存在し、他方の官能基(官能基2)は、無細胞翻訳系でのペプチド鎖伸長反応において導入されるアミノ酸残基上に存在することになる。
この方法では、まず、任意のアミノ酸化合物でのtRNAのアミノアシル化反応を触媒することが可能なリボザイムによって、開始tRNAが官能基1を有するアミノ酸化合物によってアミノアシル化される。
まず、この方法における開始tRNAについて説明する。
mRNAの翻訳の開始には、開始tRNAと呼ばれる特定のtRNAが必要である。翻訳が始まるには、アミノアシル化された開始tRNAが、開始因子(IF)とともにリボソームの小サブユニットに結合し、リボソームの小サブユニットがmRNA上の開始コドンに結合するが、この開始コドンを認識するのが開始tRNAである。天然においては、開始tRNAは必ずメチオニン(原核細胞ではホルミルメチオニン)を運び、開始コドンとしては一般的にはメチオニンのコドンであるAUGが用いられるため、開始tRNAはメチオニンに対応するアンチコドンを有する。
これに対して、この方法においては、開始アミノ酸が官能基1を有するアミノ酸化合物であることが特徴である。つまり、開始tRNAに官能基1を有するアミノ酸化合物を結合して翻訳を開始させることが特徴である。また、この方法においては、開始コドンもAUGに限定されない。つまり、開始コドンとして他のコドンを割り当てることも可能である。従って、この方法においては開始tRNAはメチオニンに対応するアンチコドンを有していても、他のアンチコドンで置換されていてもよい。例えば、本発明者らはAUA、CGG、CCG、GGC、GCCのコドンでもそれらのアンチコドンをもつ開始tRNAを用いれば、開始可能であることを確認した。
以下に、この方法において使用可能な、開始コドンAUGに対応する天然の開始tRNA(tRNAfMet)の塩基配列を示す。
5'-GGCGGGGUGGAGCAGCCUGGUAGCUCGUCGGGCUCAUAACCCGAAGAUCGUCGGUUCAAAUCCGGCCCCCGCAACCA-3' (配列番号1)
(下線部はアンチコドン部位である。)
開始コドンを変える場合は、それに相補的なアンチコドンをもったtRNAを使用する。従って、開始コドンとして任意のコドン(NNN)を割り当てる場合は、開始tRNAの配列は次のように表される。
5'-GGCGGGGUGGAGCAGCCUGGUAGCUCGUCGGGCUNNNAACCCGAAGAUCGUCGGUUCAAAUCCGGCCCCCGCAACCA-3' (配列番号2)
(下線部のNNNは任意の塩基の組み合わせからなるアンチコドンを表す。)NNN以外の部分は、tRNAfMetのボディ配列であり、開始因子の結合に必要であると考えられている。
この方法において、翻訳合成する際には、上記のNNNで表されるアンチコドンに対応する開始コドンが、翻訳合成される非環状ペプチドの配列をコードするmRNA上に存在し、その開始コドンがポリペプチドのN末端となる所望の開始アミノ酸をコードすることになる。
開始tRNAのアミノアシル化は以下のようにして行うことができる。
tRNAのアミノアシル化は、tRNAの3’末端の水酸基にアミノ酸のカルボキシル基がエステル結合する反応(アシル化)である。
この方法においては、tRNAのアシル化反応を触媒することができるRNA分子であるリボザイムを用いて、開始tRNAのアミノアシル化を行う。リボザイムとしてこの方法で使用可能なものは、所望の構造を持つアミノ酸化合物を任意のtRNAにアシル化する機能を有するリボザイムである。このようなリボザイムは、天然のアミノアシル化tRNA合成酵素(ARS)とは異なり、各アミノ酸化合物及び各tRNAに対して特異性を持たず、本来チャージすべきアミノ酸化合物以外の任意のアミノ酸化合物を用いたアミノアシル化が可能となる。そのため、開始tRNAに任意のアミノ酸化合物を結合することができる。
この方法で使用されるリボザイムは、本発明者らにより記載された試験管内分子進化による方法に従って創製可能である(国際公開WO2007/066627、H. Murakami, H. Saito, and H. Suga (2003) "A versatile tRNA aminoacylation catalyst based on RNA" Chemistry & Biology, Vol. 10, 655-662、及びH. Murakami, A. Ohta, H. Ashigai, H. Suga (2006) "The fexizyme system: a highly flexible tRNA aminoacylation tool for the synthesis of nonnatural peptides" Nature Methods 3, 357-359)。この方法により創製されるリボザイムは、天然のARSとは異なり、アミノアシル化反応の第1段階目である高エネルギー中間体(アミノアシルAMP)の生成の過程をスキップしてアミノ酸化合物のtRNAへの結合の過程のみを触媒するように進化させて得られるものであるため、アミノ酸化合物としてはあらかじめ弱活性化されたアミノ酸を用いる必要がある。
本発明で使用することができるリボザイムの具体的な例としては、
(I):GGAUCGAAAGAUUUCCGCGGCCCCGAAAGGGGAUUAGCGUUAGGU (配列番号3)
(II):GGAUCGAAAGAUUUCCGCAUCCCCGAAAGGGUACAUGGCGUUAGGU (配列番号4)
のいずれかのRNA配列からなるリボザイム、またはその変異型が挙げられる。これらのリボザイムやその原型であるフレキシザイムの創製については、国際公開WO2007/066627、H. Murakami, A. Ohta, H. Ashigai, H. Suga (2006) "The flexizyme system: a highly flexible tRNA aminoacylation tool for the synthesis of nonnatural peptides" Nature Methods 3, 357-359、及びH. Murakami H. Saito, H. Suga (2003) "A versatile tRNA aminoacylation catalyst based on RNA" Chem. Biol. 10, 655-662に詳細に記載されている。
リボザイムによる開始tRNAのアミノアシル化反応は、溶液中で行ってもよいし、担体に固定化したリボザイムを用いたカラムを用いて反応させてもよい。例えば、もし翻訳の反応スケールが100μL以下の少ない量であれば、溶液中でリボザイムによる開始tRNAのアミノアシル化を行い、反応溶液をエタノール沈殿したペレットを適当な緩衝液(例えば1mMの酢酸カリウム、pH5等)に溶解し、翻訳系に添加することができる。反応の条件は適宜好適な条件を選べばよいが、少量スケールの反応条件の一例としては、最終濃度で0.5〜20μMの開始tRNA、0.5〜20μMのリボザイム、2〜10mMのアミノ酸化合物、0.6MのMgCl2を含むpH7.5、0.1Mの反応緩衝液を、0℃で1時間〜24時間、反応させるとよい。
翻訳の反応スケールが100μLを超える場合は、リボザイムの再利用を考慮し、担体に固定化したリボザイムを用いたほうが好都合である。担体として、例えば、樹脂、アガロース、セファロース、磁器ビーズなどを用いることもできるが、特に限定されない。リボザイムを担体に固定化して反応を行わせる場合は、例えば、Murakami, H., Bonzagni, N. J. and Suga, H. (2002). "Aminoacyl-tRNA synthesis by a resin-immobilized ribozyme." J. Am. Chem. Soc. 124(24): 6834-6835に記載の方法に従って行うことができる。反応生成物であるアミノアシル化tRNAの分離は、様々な方法で行える。一例としては、10mM程度のEDTAを含有する緩衝液でカラムから溶出する方法がある。リボザイムを固定化した樹脂は、例えば反応バッファーで平衡化することにより、十数回リサイクルすることができる。
リボザイムによるアミノアシル化反応について、さらに具体的には後述の実施例を参照されたい。
次に、この方法において使用される官能基1を有するアミノ酸化合物について説明する。
前記のように、官能基1を有するアミノ酸化合物は任意のアミノ酸化合物でのtRNAのアミノアシル化反応を触媒するリボザイムによって開始tRNAに導入されるものであるので、官能基1を有している限り、種々のアミノ酸を用いることができる。
アミノ酸は、基本的には分子内にアミノ基とカルボキシル基の二つの官能基を持つ化合物を指す。アミノ酸のうち、天然の通常の翻訳で使用されるアミノ酸は、α−アミノカルボン酸(または置換型α−アミノカルボン酸)である、アラニン(Ala、A)、バリン(Val、V)、ロイシン(Leu、L)、イソロイシン(Ile、I)、プロリン(Pro、P)、トリプトファン(Trp、W)、フェニルアラニン(Phe、F)、メチオニン(Met、M)、グリシン(Gly、G)、セリン(Ser、S)、トレオニン(Thr、T)、チロシン(Tyr、Y)、システイン(Cys、C)、グルタミン(Gln、Q)、アスパラギン(Asn、N)、リジン(Lys、K)、アルギニン(Arg、R)、ヒスチジン(His、H)、アスパラギン酸(Asp、D)、およびグルタミン酸(Glu、E)の20種類の天然アミノ酸である。本明細書においては、アミノ酸には、天然アミノ酸と非天然アミノ酸の両方が含まれ、特にこれらの20種類の天然アミノ酸を通常アミノ酸とも称する。
通常アミノ酸に対する語として、異常アミノ酸は、通常アミノ酸以外のアミノ酸を意味し、人工的に合成したものであっても、自然界に存在するものであってもよい。異常アミノ酸の例としては、アミノ酸骨格内に付加的なメチレン基を有するβ−アミノ酸、γ−アミノ酸及びδ−アミノ酸、並びに通常のアミノ酸の立体異性体であるD−アミノ酸等が挙げられる。また、本明細書においては、アミノ酸の語には、アミノ酸骨格上のアミノ基やカルボキシル基が置換された構造を有する誘導体も包含することがあり、アミノ酸のアミノ基に多様なアシル基が導入されたものや、N−メチル体、スタチン(β−ヒドロキシ−γ−アミノ酸)、ピログルタミン酸、アミノベンゼンカルボン等も異常アミノ酸の例として挙げられる。さらに、ジペプチド、トリペプチド、若しくはそれより長鎖のペプチドもアミノ酸と表現する場合がある。
官能基1を有するアミノ酸化合物としては、通常アミノ酸から誘導される化合物及び異常アミノ酸から誘導される化合物のどちらも用いることができる。
前記のように、官能基1を有するアミノ酸化合物は任意のアミノ酸化合物でのtRNAのアミノアシル化反応を触媒するリボザイムによって開始tRNAに導入されるものであり、前述のようにあらかじめ弱活性化されたアミノ酸化合物であることが必要である。つまり、アミノ酸のアデニル化をスキップする代わりに、アシル化が進行するカルボニル基において電子吸引性基によって弱活性化されたエステル結合を持つアミノ酸化合物を使用する。このような弱活性化されたアミノ酸化合物としては、例えば、AMP、シアノメチルエステル、チオエステル、またはニトロ基やフッ素その他の電子吸引性基をもったベンジルエステル、等のエステル化された化合物である。好適なアミノ酸化合物の例としては、そのカルボキシル基においてシアノメチルエステル化、ジニトロベンジルエステル化または4−クロロベンジルチオエステル化されたアミノ酸化合物が挙げられる。しかし、これらに限定されるわけではなく、当業者であれば反応効率の高い適当な脱離基を適宜スクリーニングして用いることが可能であり、そのような適当な脱離基を有するアミノ酸化合物を利用することも本発明の範囲に含まれることは当然である。
リボザイムとして、前記(I)又は(II)のリボザイムまたはその変異型を用いる場合、アミノ酸化合物は、それらのリボザイムで認識されるように、アミノ酸側鎖または脱離基内に芳香環を有していることが必要である。例えば、シアノメチルエステル化されたα−アミノ酸の場合、下記式(17)のように、α−炭素上の置換基に芳香環を有したα−アミノ酸であることが必要である。または、下記式(18)のように、アシル化時に脱離するエステル基内に芳香環を有したα−アミノ酸であることが必要である。
Figure 0005605602
式(17)のアミノ酸は、例えば、特表2005−528090及びSugaら、J.Am.Chem.Soc.、120、1151〜1156、1998に記載の方法により合成することができる。
式(18)のアミノ酸は、例えば、アミノ基をBoc保護したアミノ酸を、芳香環上に電子吸引基を有するハロメチル芳香族化合物(例えば、電子吸引基を有するベンジルブロミド)と反応させエステル化した後、酸を用いてBoc保護基を除くことで合成することができる。または、アミノ基をBoc保護したアミノ酸と、電子吸引基を有するヒドロキシメチル芳香族化合物(例えば、電子吸引基を有するベンジルアルコール)または芳香族メチルチオール化合物(例えば、ベンジルメルカプタン)とを、一般的な縮合剤(例えば、ジシクロヘキシルカルボジイミド等)を用いて縮合させることで合成することができる。
アミノ酸化合物の官能基1はアミノ酸のα−炭素及びβ−炭素等の炭素原子上の置換基として存在することができ、またはそのような炭素原子上の置換基上に存在することができる。またアミノ酸化合物の官能基1は、アミノ基窒素原子上の置換基として存在することができ、またはそのようなアミノ基窒素原子上の置換基上に存在することができる。官能基1は工程(d)のアミノ酸化合物の官能基2と結合形成反応できることが必要である。後述のように、工程(d)のアミノ酸化合物は通常アミノ酸であり、官能基2は、基本的に、システイン及びチロシン等に含まれる求核性官能基(−SH、−COOH及び−OH等)であるため、官能基1としては適切な脱離基を有する官能基、例えば−CH2−L(Lは−Cl、−Br及び−OSO2CH3等の脱離基を表す)の基を有する官能基であることが好ましい。
具体的には、例えば、アミノ基窒素原子上に前記(A−1)の基を有するアミノ酸化合物であることが好ましい。アミノ酸化合物の具体例としては、例えば、前記式(1)の化合物が挙げられる。式(1)中、R1及びR2は水素原子またはα位の炭素原子に炭素で連結した任意の置換基を表す。R1及びR2は、具体的には、例えば、上記の20種類の天然アミノ酸(通常アミノ酸)のα−炭素上の置換基のいずれかであることが好ましい。そして、R1及びR2は、通常アミノ酸のα−炭素上の置換基の組み合わせのいずれかであることが好ましい。式(1)の化合物の具体例としては、例えば、式(19):
Figure 0005605602
が挙げられる。
次に、この方法の無細胞翻訳系について説明する。
無細胞翻訳系には、まず、メチオニンが含まれないことが必要である。これにより、官能基1を有するアミノ酸化合物でアミノアシル化された開始tRNAにより翻訳が開始されることになる。無細胞翻訳系がメチオニン及びメチオニルtRNA合成酵素の双方を含まない系であってもよい。
無細胞翻訳系には、官能基2を有するアミノ酸化合物及びそのアミノ酸化合物でアミノアシル化されるtRNAが含まれることが必要である。官能基2を有するアミノ酸化合物は、基本的に、通常アミノ酸であり、例えば、システイン、アスパラギン酸、グルタミン及びチロシン等である。すなわち、官能基2としては−OH、−SH、−C(=O)NH2及び−COOH等である。官能基2を有するアミノ酸化合物としては、システインが好ましい。
無細胞翻訳系は、これらの他、ペプチド鎖伸長に必要なアミノ酸及びtRNA等、翻訳に必要なその他の因子が含まれる。ペプチド鎖伸長に必要なアミノ酸としては、総ての通常アミノ酸を用いることができるほか、遺伝暗号のリプログラミングを介した異常アミノ酸及びヒドロキシカルボン酸化合物(例えば、乳酸及びフェニル乳酸等)を用いることもできる。
次に、この方法のmRNAを形成するための鋳型DNAについて説明する。
この方法において、mRNAは、開始tRNAのアンチコドンに対応するコドン、及び官能基2を有するアミノ酸化合物でアミノアシル化されるtRNAのアンチコドンに対応するコドン、とを所望の位置に有するmRNAである。官能基1と官能基2の反応が必要であるため、それらの官能基を有するアミノ酸化合物は非環状ペプチド化合物では、前記のように、少なくとも一つのアミノ酸化合物の単位をおいて位置することが好ましい。そのため、mRNAにおいて、前記二つのコドンは、例えば、それらコドンの間に一乃至二十、または二乃至十、または三乃至五のコドンが存在するようにmRNAに位置することが好ましい。そしてこのようなmRNAは、そのようなmRNAを形成するように適切に設計された鋳型DNAを無細胞翻訳系に加えることによって系内で形成される。
このような鋳型DNAは、合成対象となる非環状ペプチド化合物の構造に基づいて作製される。鋳型DNAの作製は、当業者に周知の任意の手法により行うことができる。また、合成対象となる非環状ペプチド化合物の構造に基づいて、無細胞翻訳系に含まれるペプチド鎖伸長に必要なアミノ酸及びtRNA等も決定される。
次いで、官能基1を有するアミノ酸化合物でアミノアシル化された開始tRNA及び鋳型DNAを無細胞翻訳系に加えて、非環状ペプチド化合物が合成される。
方法2
本発明の一つの態様において、非環状ペプチド化合物の翻訳合成は、
(a)任意のアミノ酸化合物でのtRNAのアミノアシル化反応を触媒するリボザイムを提供する工程;
(b)前記リボザイムによるアシル化反応の基質となる、開始tRNA及び前記官能基1を有するアミノ酸化合物を提供する工程;
(c)前記リボザイムを用いて前記官能基1を有するアミノ酸化合物で前記開始tRNAのアミノアシル化を行う工程;
(d)前記リボザイムによるアシル化反応の基質となる、tRNAであって無細胞翻訳系に存在する天然のアミノアシルtRNA合成酵素とオルソゴナルな関係にあるtRNA、及び前記官能基2を有するアミノ酸化合物を提供する工程;
(e)前記リボザイムを用いて前記官能基2を有するアミノ酸化合物で前記tRNAのアミノアシル化を行う工程;
(f)メチオニンを含まない無細胞翻訳系を提供する工程;
(g)前記開始tRNAのアンチコドンに対応するコドン、及び前記tRNAのアンチコドンに対応するコドン、とを所望の位置に有するmRNAを形成するための鋳型DNAを提供する工程;及び
(h)前記工程(c)で得られたアミノアシル化された開始tRNA、前記工程(e)で得られた前記官能基2を有するアミノ酸化合物でアミノアシル化されたtRNA、及び前記鋳型DNAを前記無細胞翻訳系に加えて非環状ペプチド化合物を合成する工程、を含む方法によって行われる。
この方法によって得られる非環状ペプチド化合物では、官能基1は開始tRNAに結合するアミノ酸化合物に由来するアミノ酸残基に存在し、官能基2はペプチド鎖伸長反応において導入されるアミノ酸残基上に存在することになる。
任意のアミノ酸化合物でのtRNAのアミノアシル化反応を触媒するリボザイム及び開始tRNA、及び官能基1を有するアミノ酸化合物による開始tRNAのアミノアシル化等については方法1と同様である。
この方法では、任意のアミノ酸化合物でのtRNAのアミノアシル化反応を触媒するリボザイム及び官能基2を有するアミノ酸化合物を用いて、無細胞翻訳系に存在する天然のアミノアシルtRNA合成酵素(ARS)とオルソゴナルな関係にあるtRNAのアミノアシル化が行われ、そして、無細胞翻訳系に適用される。ARSとオルソゴナルな関係にないtRNAを用いた場合、無細胞翻訳系において、内在しているARSによって他のアミノ酸でtRNAがアミノアシル化され、官能基2を有するアミノ酸化合物ではなく、その他のアミノ酸が導入されることがある。そのためARSとオルソゴナルな関係にあるtRNAが使用される。
天然のARSとはオルソゴナルな関係にあるものとは、すなわち、翻訳系に存在する天然のARSによってはアミノアシル化されることはないが、リボソームでは効率よく変異部位のコドンをサプレッションして、所望の異常アミノ酸やカルボン酸を発現させ得るようなサプレッサーtRNAである。このようなtRNAとして、例えば、異なる種に由来する天然のアンバーサプレッサーtRNAを使用することができる。あるいは、このようなtRNAとして人工的に構築したtRNAを使用することができる。人工的に構築したtRNAの一例として、otRNA(orthogonal tRNA:オルソゴナルtRNA)が挙げられる。これは大腸菌のアンバーサプレッサーtRNAAsn CUAに由来し、G73Aの変異を導入された人工tRNAであり、数カ所に人工的な改変を施すことで大腸菌ARSによって認識されないため、大腸菌の翻訳系でもアミノアシル化されないtRNAである。あるいは、天然由来のtRNA様分子として、細胞外翻訳系とは異なる種(ヒトなど)に由来するアンバーサプレッサーtRNAをこの目的で使用することができる。
次に、この方法の無細胞翻訳系であるが、方法1の場合と同様に、メチオニン及びメチオニルtRNA合成酵素が含まれないことが必要である。また、無細胞翻訳系は、方法1の場合と同様に、ペプチド鎖伸長に必要なアミノ酸及びtRNA等、翻訳に必要なその他の因子が含まれる。
次に、この方法のmRNAを形成するための鋳型DNAについて説明する。
この方法においてmRNAは、開始tRNAのアンチコドンに対応するコドン、及び前記オルソゴナルな関係にあるtRNAのアンチコドンに対応するコドン、とを所望の位置に有するmRNAである。これらのコドンは、例えば、それらコドンの間に一乃至二十、または二乃至十、または三乃至五のコドンが存在するようにmRNAに位置することが好ましい。そしてこのようなmRNAは、そのようなmRNAを形成するように適切に設計された鋳型DNAを無細胞翻訳系に加えることによって系内で形成される。鋳型DNAは、合成対象となる非環状ペプチド化合物の構造に基づいて作製される。鋳型DNAの作製は、当業者に周知の任意の手法により行うことができる。また、合成対象となる非環状ペプチド化合物の構造に基づいて、無細胞翻訳系に含まれるペプチド鎖伸長に必要なアミノ酸及びtRNA等も決定される。
官能基1を有するアミノ酸化合物及び官能基2を有するアミノ酸化合物は、前記の場合と同様に、あらかじめ弱活性化されたアミノ酸化合物であることが必要である。
官能基1を有するアミノ酸化合物及び官能基2を有するアミノ酸化合物は、それぞれ、官能基1及び官能基2を有している限り特に制限はない。官能基1及び官能基2は、アミノ基窒素原子上の置換基に、または、α−炭素及びβ−炭素等の炭素原子上の置換基に存在することができる。
窒素原子上に存在する場合、例えば、式(20)乃至式(24):
Figure 0005605602
(式中、nは、1以上の整数、例えば1乃至10の数を表し、X1は前記と同義である)のようなアシル置換基、またはアシル置換基の一部として、アミノ酸アミノ基の窒素原子上に導入することができる。
α−炭素及びβ−炭素等の炭素原子上に存在する場合、例えば、式(25)乃至式(30):
Figure 0005605602
(式中、nは、1以上の整数、例えば1乃至10の数を表し、X1は前記と同義である)のような基として導入することができる。
官能基1を有するアミノ酸化合物の具体例としては、例えば、前記式(2)の化合物が挙げられ、官能基2を有するアミノ酸化合物の具体例としては、例えば、前記式(3)の化合物を挙げることができる。式(2)中、R1及びR2は前記と同様であり、Z1は任意の置換基を表す。Z1としては、例えば、水酸基、ハロゲン原子、炭素原子数1乃至6のアルキル基、炭素原子数1乃至6のアルコキシ基、フェニル基、フェノキシ基、シアノ基及びニトロ基等が挙げられる。式(2)の化合物の具体例としては、例えば、式(31):
Figure 0005605602
が挙げられる。
方法3
本発明の一つの態様において、非環状ペプチド化合物の翻訳合成は、
(a)任意のアミノ酸化合物でのtRNAのアミノアシル化反応を触媒するリボザイムを提供する工程;
(b)前記リボザイムによるアシル化反応の基質となる、tRNAであって無細胞翻訳系に存在する天然のアミノアシルtRNA合成酵素とオルソゴナルな関係にあるtRNA、及び前記官能基1を有するアミノ酸化合物を提供する工程;
(c)前記リボザイムを用いて前記官能基1を有するアミノ酸化合物で前記tRNAのアミノアシル化を行う工程;
(d)前記官能基2を有するアミノ酸化合物、該アミノ酸化合物でアミノアシル化されるtRNA、開始tRNA、メチオニン及びメチオニルtRNA合成酵素とを少なくとも含む無細胞翻訳系を提供する工程;
(e)前記官能基1を有するアミノ酸化合物でアミノアシル化される前記tRNAのアンチコドンに対応するコドン、及び前記官能基2を有するアミノ酸化合物アミノアシル化される前記tRNAのアンチコドンに対応するコドン、とを所望の位置に有するmRNAを形成するための鋳型DNAを提供する工程;及び
(f)前記工程(c)で得られたアミノアシル化されたtRNA、及び前記鋳型DNAを前記無細胞翻訳系に加えて非環状ペプチド化合物を合成する工程、を含む方法によって行われる。
この方法によって得られる非環状ペプチド化合物では、官能基1及び官能基2はペプチド鎖伸長反応において導入されるアミノ酸残基上に存在することになる。
この方法では、無細胞翻訳系に含まれるメチオニンでアミノアシル化される開始tRNAから翻訳が開始される。メチオニンに対応するアンチコドンを有している開始tRNAが使用される。
任意のアミノ酸化合物でのtRNAのアミノアシル化反応を触媒するリボザイム、無細胞翻訳系に存在する天然のアミノアシルtRNA合成酵素とオルソゴナルな関係にあるtRNA、及び官能基1を有するアミノ酸化合物によるアミノアシル化等については前記方法と同様である。
この方法において、無細胞翻訳系には、官能基2を有するアミノ酸化合物、該アミノ酸化合物でアミノアシル化されるtRNA、開始tRNA、メチオニン及びメチオニルtRNA合成酵素が、少なくとも含まれる。
官能基1を有するアミノ酸化合物は、前記の場合と同様に、あらかじめ弱活性化されたアミノ酸化合物であることが必要である。
方法1の場合と同様に、工程(d)のアミノ酸化合物は通常アミノ酸であり、官能基2は、基本的に、システイン及びチロシン等に含まれる求核性官能基(−SH、−COOH及び−OH等)であるため、工程(b)のアミノ酸化合物の官能基1としては適切な脱離基を有する官能基、例えば−CH2−L(Lは−Cl、−Br及び−OSO2CH3等の脱離基を表す)の基を有する官能基であることが好ましい。
官能基1を有するアミノ酸化合物の具体例としては、例えば、前記式(4)の化合物が挙げられる。官能基2を有するアミノ酸化合物としては、システインが好ましい。
式(4)中、mは1乃至10の整数を表す。式(4)の化合物の具体例としては、mが2の化合物を挙げることができ、この化合物は、例えば、2,4−ジアミノ酪酸から製造することができる。
次に、この方法の無細胞翻訳系では、メチオニン及びメチオニルtRNA合成酵素を含むことが必要である。また、無細胞翻訳系は、前記方法の場合と同様に、ペプチド鎖伸長に必要なアミノ酸及びtRNA等、翻訳に必要なその他の因子が含まれる。
この方法の鋳型DNAは、前記方法と同様に、前記官能基1を有するアミノ酸化合物でアミノアシル化される前記tRNAのアンチコドンに対応するコドン、及び前記官能基2を有するアミノ酸化合物アミノアシル化される前記tRNAのアンチコドンに対応するコドン、とを所望の位置(例えば、それらコドンの間に一乃至二十のコドンが存在する)有するようなmRNAを形成することのできるDNAである。
方法4
本発明の一つの態様において、非環状ペプチド化合物の翻訳合成は、
(a)任意のアミノ酸化合物でのtRNAのアミノアシル化反応を触媒するリボザイムを提供する工程;
(b)前記リボザイムによるアシル化反応の基質となる、tRNAであって無細胞翻訳系に存在する天然のアミノアシルtRNA合成酵素とオルソゴナルな関係にあるtRNA、及び前記官能基1を有するアミノ酸化合物を提供する工程;
(c)前記リボザイムを用いて前記官能基1を有するアミノ酸化合物で前記tRNAのアミノアシル化を行う工程;
(d)前記リボザイムによるアシル化反応の基質となる、tRNAであって無細胞翻訳系に存在する天然のアミノアシルtRNA合成酵素とオルソゴナルな関係にあるtRNA、及び前記官能基2を有するアミノ酸化合物を提供する工程;
(e)前記リボザイムを用いて前記官能基2を有するアミノ酸化合物で前記tRNAのアミノアシル化を行う工程;
(f)開始tRNA、メチオニン及びメチオニルtRNA合成酵素とを少なくとも含む無細胞翻訳系を提供する工程;
(g)前記官能基1を有するアミノ酸化合物でアミノアシル化される前記tRNAのアンチコドンに対応するコドン、及び前記官能基2を有するアミノ酸化合物アミノアシル化される前記tRNAのアンチコドンに対応するコドン、とを所望の位置に有するmRNAを形成するための鋳型DNAを提供する工程;及び
(h)前記工程(c)で得られたアミノアシル化されたtRNA、前記工程(e)で得られたアミノアシル化されたtRNA及び前記鋳型DNAを前記無細胞翻訳系に加えて非環状ペプチド化合物を合成する工程、を含む方法によって行われる。
この方法によって得られる非環状ペプチド化合物では、官能基1及び官能基2はペプチド鎖伸長反応において導入されるアミノ酸残基上に存在することになる。
この方法では、無細胞翻訳系に含まれるメチオニンでアミノアシル化される開始tRNAから翻訳が開始される。メチオニンに対応するアンチコドンを有している開始tRNAが使用される。
任意のアミノ酸化合物でのtRNAのアミノアシル化反応を触媒するリボザイム、無細胞翻訳系に存在する天然のアミノアシルtRNA合成酵素とオルソゴナルな関係にあるtRNA、及び官能基1または官能基2を有するアミノ酸化合物によるアミノアシル化等については前記方法と同様である。
官能基1を有するアミノ酸化合物及び官能基2を有するアミノ酸化合物は、前記の場合と同様に、あらかじめ弱活性化されたアミノ酸化合物であることが必要である。
官能基1を有するアミノ酸化合物及び官能基2を有するアミノ酸化合物は、それぞれ、官能基1及び官能基2を有している限り特に制限はない。官能基1及び官能基2は、アミノ基窒素原子上の置換基に、または、α−炭素及びβ−炭素等の炭素原子上の置換基に存在することができる。官能基1及び官能基2は、α−炭素及びβ−炭素等の炭素原子上の置換基に存在することが好ましい。官能基1及び官能基2としては、例えば、方法2において例示した基を挙げることができる。
官能基1を有するアミノ酸化合物の具体例としては、例えば、前記式(5)または式(7)の化合物が挙げられる。これらの式中、Z1及びmは前記と同義である。式(7)の化合物の具体例としては、例えば、式(32):
Figure 0005605602
が挙げられる。
官能基2を有するアミノ酸化合物の具体例としては、例えば、前記式(6)または式(8)の化合物を挙げることができる。式(6)中、mは前記と同義である。
また、官能基1を有するアミノ酸化合物としては(A−1)の官能基を有する化合物(例えば、前記式(4)の化合物)、官能基2を有するアミノ酸化合物としてはホモシステインやメルカプトノルバリン等の−SH基を有する異常アミノ酸化合物、という組み合わせを挙げることもできる。
次に、この方法の無細胞翻訳系では、メチオニン及びメチオニルtRNA合成酵素を含むことが必要である。また、無細胞翻訳系は、前記方法の場合と同様に、ペプチド鎖伸長に必要なアミノ酸及びtRNA等、翻訳に必要なその他の因子が含まれる。
この方法の鋳型DNAは、方法3と同様に、二つのコドンを所望の位置(例えば、それらコドンの間に一乃至二十のコドンが存在する)有するようなmRNAを形成することができるDNAである。
非環状ペプチド化合物の環化
次に、上記のようにして合成された非環状ペプチド化合物を環化することによって環状ペプチド化合物が合成される。
非環状ペプチド化合物の環化は、その非環状ペプチド化合物に存在する結合形成反応が可能な一組の官能基(官能基1と官能基2)の種類に応じて、適切な反応条件を選択することによって行うことができる。
非環状ペプチド化合物の環化は、非環状ペプチド化合物を単離した後、適切な反応条件にさらすことによって行うことができる。または、非環状ペプチド化合物を単離することなく、無細胞翻訳系を適切な反応条件に調整することによって環化を行うことができる。また、一組の官能基の種類によっては、非環状ペプチド化合物を合成するための無細胞翻訳系の条件下において環化することがあり、この場合は、特段の反応条件の調整を行うことなく、環状ペプチド化合物を得ることができる。
非環状ペプチド化合物の環化のための反応条件は、例えば、一組の官能基が、−CH2−L(Lは−Cl及び−Br等の脱離基を表す)と求核性官能基−SH、の組である場合、例えば、非環状ペプチド化合物を単離した後、適当な溶媒中で加熱する(例えば40乃至100℃)ことによって、または、単離することなく無細胞翻訳系を例えば35乃至40℃で数時間(例えば、37℃で3時間)保つことによって、行うことができる。
一組の官能基が前記組(A)の場合、例えば、非環状ペプチド化合物を単離した後、適当な溶媒中で加熱する(例えば40乃至100℃)ことによって、または、単離することなく無細胞翻訳系を例えば35乃至40℃で数時間(例えば、37℃で3時間)保つことによって、環化することができる。また、官能基(A−1)と(A−2)との反応性は比較的高いため、一組の官能基が前記組(A)の場合、非環状ペプチド化合物合成のための無細胞翻訳系内において当該官能基の反応が進行し、無細胞翻訳系より環状ペプチド化合物として単離されることがある(以下の実施例1乃至3参照)。
一組の官能基が前記組(B)の場合、無細胞翻訳系より単離した非環状ペプチド化合物を、適当な溶媒中、一価の銅塩(硫酸銅(II)をアスコルベイトで系内で還元しながら生産する)で処理することによって環化(ヒュースゲン(Huisgen)環化)して(B−3)とすることができる。
一組の官能基が前記組(C)の場合、非環状ペプチド化合物を単離した後、適当な溶媒中、フェリシアン化カリウム(K3[Fe(CN)6])で処理することによって反応させ(C−3)とすることができる。
環状ペプチド化合物
また、本発明は前記の式(9)または式(10)で表される環状ペプチド化合物に関する。これらの化合物は、前記の方法によって(C−1)及び(C−2)の官能基を有する非環状ペプチド化合物を合成し、それをK3[Fe(CN)6]で処理することによって反応させて得ることができる。
式(9)及び式(10)中、AAは2乃至10のアミノ酸残基からなるペプチド鎖を表し、BBは1のアミノ酸残基または2乃至5のアミノ酸残基からなるペプチド鎖を表し、L1は二価の連結基を表し、そして、Arは前記と同義である。AA及びBBは、非環状ペプチド化合物の合成において使用されるアミノ酸化合物に由来するものであり、その合成において使用可能なアミノ酸化合物である限り、特に制限はない。L1としては、例えば、アルキレン基(例えばメチレン基)、−C(=O)−及び−C(=O)−NH−等の連結基が挙げられる。
これらの化合物において、前記(C−3)の環構造は、励起光の照射によって蛍光を発光する構造であることが知られている。そのため、これら本発明の環状ペプチド化合物も励起光の照射によって蛍光を発するものである。そのため、これら本発明の環状ペプチド化合物は、蛍光発光を利用した分析、検出方法における使用が考えられる。
式(9)及び式(10)で表される環状ペプチド化合物の具体例としては、例えば、それぞれ、前記の式(11)及び式(12)の化合物である。これらの化合物の合成の詳細については以下の実施例5−1及び実施例5−2を参照されたい。
また、本発明は前記の式(13)で表される環状ペプチド化合物に関する。この化合物は、前記の方法によって(B−1)及び(B−2)の官能基を有する非環状ペプチド化合物を合成し、それを一価の銅塩(系内で生成させる)で処理することによって反応させて得ることができる。式(13)で表される環状ペプチド化合物の具体例としては、例えば、前記の式(14)の化合物、例えばm1が4、m2が1を表す式(14)の化合物である。この化合物の合成の詳細については以下の実施例4を参照されたい。
また、本発明の環状ペプチド化合物は、生体内において種々の生理作用を示すことが考えられる。そのため、本発明の環状ペプチド化合物は、医薬等の生理活性物質として、または生理活性物質の評価における標準物質として有用であると考えられる。
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、これによって本発明が限定されるものではない。
以下に記載する実施例ではARSリボザイムとしては、前記のリボザイム(I)またはリボザイム(II)を使用し、翻訳系としては、cDNAからの転写系を含む原核生物由来の再構成無細胞合成系を用いた。
1. アミノ酸基質の合成
この実施形態では、リボザイム(I)または(II)によるアシル化反応の基質となる、弱活性化されたエステル結合を持つアミノ酸基質(以下、単に「基質」と記載することもある)の合成を記載する。
1.1 側鎖に芳香族を持たないアミノ酸(DBEにて活性化)
標題のアミノ酸にDBEを導入した基質の合成の一般的な方法を、ClB-DBE(式(33))の例で説明する。α-N-Boc-ClAcDab-OH(式(34))(35.3 mg, 0.12 mmol)、トリエチルアミン(21 mg, 0.21 mmol)および3,5-ジニトロベンジルクロリド(45.5 mg, 0.21 mmol)を0.1mlのジメチルホルムアミドに加えて混合し、室温で12時間攪拌した。反応後、ジエチルエーテル(3 ml)を加え、溶液を0.5 M HCl (5 mL x 3)、4 % NaHCO3 (5 mL x 3)およびブライン (5 mL x1)で洗浄し、硫酸マグネシウムで有機層の中の水を除いてから、減圧下で溶媒を減圧留去した。クルードな残渣を4M塩酸/酢酸エチル(1 ml)に溶解し、室温で20分静置した。反応後、ジクロロメタン(3 mL)を加えて溶媒を減圧留去する操作を3回繰り返し、余分のHClを除いた。ジエチルエーテル(3 mL)を加えて沈殿させ、沈澱を濾過により回収して全体で39%の収率でClB-DBEを得た(19 mg, 0.046 mmol)。
1H NMR (DMSO-d6, 500 MHz) δ 8.88 (s, 1H), 8.74 (s, 2H), 8.42 (br, 3H), 8.30 (br, 1H), 5.49 (m, 2H), 4.18 (m, 1H), 4.05(s, 2H), 3.26 (m, 2H), 2.02 (m, 1H), 1.94 (m, 1H).
Figure 0005605602
1.2 側鎖に芳香族を持つアミノ酸(CMEにて活性化)
標題のアミノ酸にCME(シアノメチルエステル)を導入した基質の合成の一般的な方法を、WOH-CME(式(3)の化合物)の例で説明する。
α-N-Boc-L-5-ヒドロキシトリプトファン(90 mg, 0.28 mmol)、トリエチルアミン(40.0 mg, 0.336 mmol)およびクロロアセトニトリル(358 mg, 4.8 mmol)を混合し、室温で5時間攪拌した。反応後、溶媒を減圧留去し、酢酸エチル(3 ml)を加え、溶液を1 N HCl (3 mL x 3)、1 N NaHCO3 (3 mL x 3) およびブライン(3 mL x1)で洗浄し、硫酸マグネシウムで有機層の中の水を除いてから、減圧下で溶媒を減圧留去した。クルードな残渣を4M塩酸/酢酸エチル(3 ml)に溶解し、室温で20分静置した。反応後、ジエチルエーテル(3mL)を加えて溶媒を減圧留去する操作を3回繰り返し、余分のHClを除いた。ジエチルエーテル(3mL)を加えて沈殿させ、全体で62%の収率でWOH-CMEを得た(45.1 mg, 0.174 mmol)。
1H NMR (DMSO-d6, 500 MHz) δ 10.80 (s, 1H), 8.72 (br, OH), 8.47 (s, 2H), 7.19 (d, J = 8.6 Hz, 1H), 7.11 (s, 1H), 6.81 (s, 1H), 6.48 (d, J = 8.6 Hz, 1H), 5.10 (s, 2H), 4.34 (m, 1H), (d, J = 6.43, 2H).
1.3 N-アシル化アミノ酸
CMEを導入したN-アシル化アミノ酸基質(N-アシル-アミノアシル-CME)の合成の一般的な方法を、baF-CME(式(31)の化合物)の例で説明する。
フェニルアラニン(82.5 mg, 0.50 mmol)、[p-(N-Boc-アミノメチル)ベンゾイル]-N-ヒドロキシスクシンイミド(209.0 mg, 0.60 mmol)およびNaHCO3(100 mg, 1.2 mmol)を50%ジオキサン水溶液(1.2 mL)に加えて混合し、室温で1時間攪拌した。反応後、溶媒を減圧留去してジオキサンを除き、酢酸エチル(3 mL x2)で溶液を洗浄した。水層を1M HClで酸性にし、溶液を酢酸エチル(3 mL x2)で抽出し、硫酸マグネシウムで有機層の中の水を除いてから、減圧下で溶媒を減圧留去した(183.4 mg, 0.42 mmol)。引き続き1.2に示した方法により、CME化および脱Boc化を行い、全体で81%の収率でbaF-CMEを得た(153.3 mg, 0.41 mmol)。
1H NMR (DMSO-d6, 500 MHz) δ 9.05(m, 1H), 8.44 (br, 3H), 7.83 (t, J = 8.1 Hz, 1H), 7.55 (t, J = 8.0 Hz, 1H), 7.34-7.26 (m, 4H), 7.20 (t, J = 7.1 Hz, 1H), 5.03-4.49 (m, 2H), 4.08 (s, 2H), 3.22-3.11 (m, 2H).
また、N-[3-[4-(アミノメチル)フェニル]プロパノイル]フェニルアラニンシアノメチルエステル(bzaF-CME)を次のようにして合成した。フェニルアラニン(21 mg, 0.13 mmol)、N-[3-[4-(N-Boc-アミノメチル)フェニル]プロパノイル]スクシンイミド(45 mg, 0.12 mmol)および1M NaHCO3水溶液(130μL, 0.13 mmol)、水(370μL)及びジオキサン(500μL)を混合し、室温で3時間攪拌した。反応後、溶媒を減圧留去してジオキサンを除き、酢酸エチル(1 mL x3)で溶液を洗浄した。水層を1M HClで酸性にし、溶液を酢酸エチル(1 mL x3)で抽出し、硫酸マグネシウムで有機層の中の水を除いてから、減圧下で溶媒を減圧留去した。引き続き1.2に示した方法により、CME化および脱Boc化を行い、N-[3-[4-(アミノメチル)フェニル]プロパノイル]フェニルアラニンシアノメチルエステル(bzaF-CME)を得た(17 mg, 40%)。
1H NMR (DMSO-d6, 500 MHz): δ 8.53 (s, 1H), 8.19 (br, 1H), 7.33 (d, J = 7.9 Hz, 2H), 7.30-7.21 (m, 5H), 7.19 (d, J = 7.9 Hz, 2H), 4.97 (s, 2H), 4.51 (m, 1H), 3.99 (s, 2H), 3.05 (q, J = 13.8, 5.6 Hz, 2H), 2.93 (q, J = 13.7, 9.4 Hz, 2H), 2.75 (t, J = 7.5, 2H), 2.38 (t, J = 7.5, 2H). 13C NMR (DMSO-d6, 125 MHz): δ 171.8, 171.0, 141.8, 137.0, 131,8, 129.3, 129.0, 128.6, 128.5, 126.9, 115.9, 53.7, 49.6, 42.2, 36.5, 30,6. HRMS (FAB) C21H31N3O3 ([M+H]+)について計算値:366.1818、実測値:366.1838.
2.RNAの合成
オリゴヌクレオチドは全てOperon社(日本)から購入した。以下のプライマーを用いて増幅した鋳型DNAからin vitro の転写によりtRNAfMet CAUを合成した。
P1: 5'-GTAAT ACGAC TCACT ATAGG CGGGG TGGAG CAGCC TGGTA GCTCG TCGG-3' (配列番号5)
P2: 5'-GAACC GACGA TCTTC GGGTT ATGAG CCCGA CGAGC TACCA GGCT-3' (配列番号6)
P3: 5'-GCATA TGTAA TACGA CTCAC TATAG-3' (配列番号7)
P4: 5'-TGGTT GCGGG GGCCG GATTT GAACC GACGA TCTTC GGG-3' (配列番号8)
P5: 5'-TGGTT GCGGG GGCCG GATTT-3' (配列番号9)
まず、P1とP2とをアニ−ルさせ、Taq DNA ポリメレースにより伸長した。得られた産物をPCR反応緩衝液で20倍に希釈し、P3およびP4をそれぞれ5'および3'プライマーとして用いて増幅した。さらに、産物を200倍に希釈して、P3およびP5をそれぞれ5'および3'プライマーとして用いて増幅してtRNAfMet CAUに相当するDNAを得た。次いで、T7 RNAポリメレースを用いて、DNA産物を転写し、10%変性PAGEにより精製した。得られたtRNAfMet CAUを水に溶解し、濃度を200μMに調製した。
同様に、以下のプライマーを用いて増幅した鋳型DNAからin vitroの転写によりtRNAEnAsn NNNも合成した。
P6: 5'- GTAATACGACTCACTATAGGCTCTGTAGTTCAGTCGGTAGAACGGCGGA-3' (配列番号10)
P7: 5'- GAACCAGTGACATACGGATTNNNAGTCCGCCGTTCTACCGACT-3' (配列番号11)
P8: 5'- TGGCGGCTCTGACTGGACTCGAACCAGTGACATACGGA-3' (配列番号12)
P9: 5'- TGGCGGCTCTGACTGGACTC-3' (配列番号13)
まず、P6とP7とをアニ−ルさせ、Taq DNAポリメレースにより伸長した。この時、調製したいtRNAのアンチコドンの配列に対応する様に、P7のNNN配列を設計する。得られた産物をPCR反応緩衝液で20倍に希釈し、P3およびP8をそれぞれ5'および3'プライマーとして用いて増幅した。さらに、産物を200倍に希釈して、P3およびP9をそれぞれ5'および3'プライマーとして用いて増幅してtRNAEnAsn NNNに相当するDNAを得た。次いで、T7 RNAポリメレースを用いて、DNA産物を転写し、10%変性PAGEにより精製した。得られたtRNAEnAsn NNN を水に溶解し、濃度を200μMに調製した。同様の方法により、tRNAAsn NNN(5'-GUAAUACGACUCACUAUAGCCUCUGUAGUUCAGUCGGUAGAACGGCGGACUNNNAAUCCGUAUGUCACUGGUUCGAGUCCAGUCAGAGGCACCA -3') (配列番号14)を調製した。
また、tRNAAsn-E1 GAUを次のようにして合成した。
まず、P6とP10(P7のNNN配列がATCであるもの)とをアニ−ルさせ、Taq DNAポリメレースにより伸長した。得られた産物をPCR反応緩衝液で20倍に希釈し、P3およびP8をそれぞれ5'および3'プライマーとして用いて増幅してtRNAAsn-E1 GAUに相当するDNAを得た。次いで、10mMのGMP存在下、T7 RNAポリメレースを用いてDNA産物を転写し、8%変性PAGEにより精製した。得られたtRNAAsn-E1 GAUを水に溶解し、濃度を200μMに調整した。
さらに、リボザイム(I)及び(II)もin vitro転写法により合成した。具体的には、国際公開WO2007/066627、およびH. Murakami, A. Ohta, H. Ashigai, H. Suga (2006) "The fexizyme system: a highly flexible tRNA aminoacylation tool for the synthesis of nonnatural peptides" Nature Methods 3, 357-359に記載の方法を用いて行った。
3.翻訳
本実施形態では、様々なアミノ酸によりアシル化されたtRNAを、無細胞翻訳系に加えて翻訳を開始することにより、所望の非天然アミノ酸を含有するポリペプチドの翻訳合成を行った。
翻訳系は、cDNAからの転写系を含む原核生物由来の再構成無細胞タンパク質合成系であるPGI社のPURESYSTEM(登録商標)を用いた。必要最低限のアミノ酸のみを含んだ翻訳反応混合物にアシル化tRNAを加えた。
まず、翻訳反応で用いるアシル化tRNAを調製した。0.1 M Hepes-K buffer pH 7.5, 0.1 M KCl, 600 mM MgCl2 中で、20 μMリボザイム(I)または(II)15 μL、 20 μM tRNA(tRNAfMet CAUもしくは目的のアンチコドンを持つtRNAEnAsn NNN 及びtRNAAsn NNN)、および5 mM 基質、20 % DMSOを0℃で2時間反応させた後、エタノール沈殿を行い、目的のアミノ酸でアシル化されたtRNAを単離した。その詳細な手順としては、40 μM tRNAを0.2 M Hepes-K buffer pH 7.5, 0.2 M KCl (7.5 μL) に加え、95℃で3分加熱し、5分間で25℃まで冷却した。MgCl2 (3 M, 3 μL)およびリボザイム(I)または(II)(200 μM, 1.5 μL)を加え、混合物を25℃で5分静置した。基質(DMSO中25 mM, 3 μL)を加えることによりアシル化反応を開始し、氷上で2時間静置した。アシル化反応後、0.6 M 酢酸ナトリウム(pH 5)を45 μL加えることにより反応を停止し、エタノール沈殿によりRNAを回収した。ペレットを70%エタノールと0.1 M酢酸ナトリウム(pH 5)で2回洗浄し、70%エタノールで1回洗浄してアシル化tRNAを得た。アシル化tRNAは、翻訳混合物に添加する直前に0.5 μLの1 mM酢酸ナトリウムに溶解した。
ペプチドの翻訳合成は、PURE systemを用いて、0.04 μM cDNA、伸長反応用の必要最低限のアミノ酸(用いたcDNA配列に依存する)をそれぞれ200 μM、ならびに120 μMのアシル化tRNAを翻訳反応混合物に添加し、37℃で1時間静置することで行った。
その後、以下の二つの方法いずれかでペプチドの精製を行った。
ペプチド配列のC末端にFLAGタグを持つペプチドについては、FLAGタグ抗体によって精製を行った。FLAG抗体はSIGMA社から発売されているANTI-FLAG (登録商標)M2アガロースを用いた。まず、翻訳産物を0.1 M Tris buffer pH 8.0, 0.15 M NaCl中で ANTI-FLAG (登録商標)M2アガロースに結合させた。担体を洗浄用緩衝液(0.1 M Tris buffer pH 8.0, 0.15 M NaCl)で洗浄した後、0.2%TFA溶液を加えることで、翻訳産物を溶出・単離した。
FLAGタグを含有しないペプチドについては、遠心式限外濾過法により精製した。遠心式フィルターユニットとしては、ミリポア社のマイクロコンYM-10(分画分子量10000)を用いた。翻訳産物を水で6倍に希釈した後にマイクロコンに移し、14000×gで30分間遠心した。その濾液を回収することで翻訳産物の精製を行った。
精製後の翻訳産物はマトリックスとしてα-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸を用いてMALDI-MSスペクトルを測定した。
実施例1
チオエーテル型環化ペプチド合成 その1(G7-18NATE)
G7-18NATE(式(16)の化合物)は以下の二つの方法により翻訳合成を行った。
実施例1−1
一つ目の方法では、鋳型DNAとして
(5'-GCATATGTAATACGACTCACTATAGGGTTAACTTTAACAAGGAGAAAAACATGTTTGAAGGTTATGACAATACCTTTCCGTGCCTCGACTACAAGGACGACGACGACAAGTAAGCTTCG-3'/3'-CGTATACATTATGCTGAGTGATATCCCAATTGAAATTGTTCCTCTTTTTGTACAAACTTCCAATACTGTTATGGAAAGGCACGGAGCTGATGTTCCTGCTGCTGCTGTTCATTCGAAGC-5') (配列番号15)
を用いて翻訳合成を行った。反応系中には、外来のアシル化tRNAはClacW-tRNAfMet CAU(式(19)のアミノ酸化合物でアミノアシル化されたtRNAfMet CAU)及びHOF-tRNAEnAsn GAG(フェニル乳酸でアシル化されたtRNAEnAsn GAG)を、アミノ酸は、Phe, Glu, Gly, Tyr, Asp, Asn, Thr, Pro, Cys, Lysを加えた。その結果、環化した全長のペプチドがMSスペクトルで確認された。(図4左側のチャート)。FLAG抗体での精製後、Bicine緩衝液(pH9)を加え30分間95℃で加熱することで、目的のペプチド断片を得た(MALDI-TOF、[M+H+]:計算値1418.536、実測値1418.642、図4右側のチャート)。
実施例1−2
二つ目の方法では鋳型DNAとして
(5'-GCATATGTAATACGACTCACTATAGGGTTAACTTTAACAAGGAGAAAAACATGTTTGAAGGTTATGACAATACCTTTCCGTGCTAAGCTTCG-3'/3'-CGTATACATTATGCTGAGTGATATCCCAATTGAAATTGTTCCTCTTTTTGTACAAACTTCCAATACTGTTATGGAAAGGCACGATTCGAAGC -5') (配列番号16)
を用いて翻訳合成を行った。反応系中には、外来のアシル化tRNAはClacW-tRNAfMet CAU及びHOF-tRNAEnAsn GAGを、アミノ酸は、Phe, Glu, Gly, Tyr, Asp, Asn, Thr, Pro, Cysを加えた。翻訳反応後、限外濾過を行うことで精製を行った。その結果、目的のペプチドが合成されたことがMSスペクトルにより確認された(MALDI-TOF、[M+H+]:計算値1418.536、実測値1418.310、図6)。
また、得られたペプチドはMALDI-TOF/TOF型タンデムマススペクトメトリーによりペプチドのポストソース分解を観測し、目的のG7-18NATEであることが確定された(図5参照)。
実施例2
チオエーテル型環化ペプチド合成 その2
図8はClBをモデルペプチドに導入し、環状化の進行を確認した図である。ペプチドは鋳型DNAとして
(5'-GCATATGTAATACGACTCACTATAGGGTTAACTTTAACAAGGAGAAAAACATGTTTGAAGGTTATGACAATACCTTTCCGTGCCTCGACTACAAGGACGACGACGACAAGTAAGCTTCG-3'/3'-CGTATACATTATGCTGAGTGATATCCCAATTGAAATTGTTCCTCTTTTTGTACAAACTTCCAATACTGTTATGGAAAGGCACGGAGCTGATGTTCCTGCTGCTGCTGTTCATTCGAAGC-5') (配列番号17)
を用い、アミノ酸 Met, Phe, Glu, Gly, Tyr, Asp, Thr, Pro, Cys, Leu, Lys, およびアミノアシルtRNAのClB-tRNAAsn GUU(式(33)のアミノ酸化合物でアミノアシル化されたtRNAAsn GUU)を加え、前記3.の方法に従い翻訳合成した。
FLAG抗体による精製は前記3.記載した方法によった。MALDI-MSによる解析の結果、ペプチドの環状化が定量的に進行していることが確認された(MALDI-MS、[M+H+]:計算値2484.977、実測値2484.620、図8)。
実施例3
チオエーテル型環化ペプチド合成 その3(Urotensin II analog YS9:式(35)(配列番号31))
Figure 0005605602
図9ではYS9の合成のため、鋳型DNAとして
(5'-TAATACGACTCACTATAGGGTTAACTTTAACAAGGAGAAAAACATGCCGGACCTCTTCTGGAAGTACTGTGTTTAAGCTTCG-3'/3'-ATTATGCTGAGTGATATCCCAATTGAAATTGTTCCTCTTTTTGTACGGCCTGGAGAAGACCTTCATGACACAAATTCGAAGC-5') (配列番号18)
を用い、アミノ酸 Met, Pro, Asp, Phe, Trp, Lys, Tyr, Cys, Val 及びアミノアシルtRNA ClB-tRNAAsn GUUを加え、実験項3の方法に従い翻訳合成した。
次に、前記3.の方法によりペプチドを限外濾過により精製し、MALDI-MSによる解析をおこなった。その結果、ほとんどのペプチドが環化していることが確認された(MALDI-MS、[M+H+]:計算値1356.568、実測値1356.708、図9)。
カルシウム動員測定
図10には蛍光試薬を用いたペプチド添加による細胞内カルシウム動員の様子を示した。2×105のHEK-UTR細胞(HEK細胞に Urotensin II receptorを発現させた細胞)を96ウェルプレートにまき、12-16時間後に1μMのFluo-4-AM((株)同仁化学研究所製)で1時間インキュベーションした。インキュベーション後、蛍光試薬を取り除き、そこに90μLのアッセイバッファー(Hanks Balanced Salts Solution (HBSS), 10 mM HEPES, 200 μM of CaCl2, 0.1% BSA, and 2.5 mM probenecid)を加えた。ここに、アッセイバッファーに溶解したペプチド10 μLを加え、マイクロプレートリーダーにより蛍光強度変化を測定した。また、ペプチドは翻訳産物をZip-tip(Millipore)により精製し、溶出液を減圧留去することで調製した。
YS4ペプチド(図10)は鋳型DNAとして
(5'-TAATACGACTCACTATAGGGTTAACTTTAACAAGGAGAAAAACATGCCGGACTGTTTCTGGAAGTACTGTGTTTAAGCTTCG-3'/3'-ATTATGCTGAGTGATATCCCAATTGAAATTGTTCCTCTTTTTGTACGGCCTGACAAAGACCTTCATGACACAAATTCGAAGC-5') (配列番号19)
を用い、アミノ酸 Met, Pro, Asp, Phe, Trp, Lys, Tyr, Cys, Valを加え、前記3.の方法に従い翻訳合成した。
コントロールとして Urotensin II((株)ペプチド研究所製)をHEK-UTR細胞に加えたところカルシウム濃度変化が見られた。またジスルフィド結合を有するペプチドYS4を加えたところ、同様の応答を示した。一方、Urotensin II receptorを発現していないHEK細胞にYS4を加えても応答がないことも確認した。次に、チオエーテル型環化ペプチドYS9をHEK-UTR細胞に加えたところ、Urotensin IIと同様に細胞内カルシウム動員が観測された。
チオエーテル型環化ペプチドのプロテアーゼ耐性
図11に、ペプチドのプロテアーゼ耐性について示した。翻訳合成ペプチド及び購入したUrotensin IIペプチドを、1 mM DTT存在下、あるいは非存在下のもとで、5 μg/mlのproteinase K溶液で37℃, 1時間反応させた。
直鎖型ペプチドYS10は、YS9ペプチド合成に用いた鋳型DNAと同様のものを使い、アミノ酸 Met, Pro, Asp, Leu, Phe, Trp, Lys, Tyr, Cys, Valを加えて翻訳合成した。
Urotensin IIペプチドはproteinase Kにより分解されないが、DTTにより直鎖状になると分解されることがMALDI-MSの解析により分かった。同様に、環状型のYS9ペプチドはproteinase Kにより分解されないが、直鎖型ペプチドYS10は分解されていることが分かった。
実施例4
トリアゾール型環状ペプチド化合物の合成(図12)
図12に示したように、モデルペプチド中にアジド基、アセチレン基を持つアミノ酸を導入した。モデルペプチドは鋳型DNAとして
(5'-TAATACGACTCACTATAGGGCTTTAATAAGGAGAAAAACATGACCCCGGACTGTTTCTGGAAGTACTGTGTTCTCGAAGAAGACTACAAGGACGACGACGACAAGTAAGCTTCG-3'/3'-ATTATGCTGAGTGATATCCCGAAATTATTCCTCTTTTTGTACTGGGGCCTGACAAAGACCTTCATGACACAAGAGCTTCTTCTGATGTTCCTGCTGCTGCTGTTCATTCGAAGC-5') (配列番号20)
を用い、アミノ酸 Met, Lys, Gly, Phe, Pro, Asp, Tyr及び、アミノアシルtRNAとしてZ-tRNAAsn GAG(mが4の式(5)のアミノ酸化合物でアミノアシル化されたtRNAAsn GAG)、X-tRNAAsn GGU(mが1の式(6)のアミノ酸化合物でアミノアシル化されたtRNAAsn GGU)を加え、前記3.の方法に従い翻訳合成した。
翻訳合成後、ペプチドをFLAG抗体で精製し、環化反応を進行させるため1mM CuSO4及び1mMアスコルビン酸で1時間、室温で反応させた。環化効率を測るため、50 mM TCEP(トリス(2−カルボキシエチル)ホスフィン)で一晩反応させ、MALDI-MSにより解析したところ、還元されたペプチドは見られなかった。このことよりペプチド中のアジド基は定量的にアセチレン基と反応し、環状ペプチドを形成していることが確認された(式(36)(配列番号32))。
Figure 0005605602
実施例5
蛍光を有する環化ペプチド合成
蛍光を有する環化ペプチドの合成を5通り示す。
実施例5−1
モデルペプチド中のセリン部位にYAを、アスパラギン部位にWOHを導入したペプチドを合成した(図13)。このペプチドを、Borate緩衝液(終濃度250 mM, pH 9.0)中において、K3Fe(CN)6(終濃度30 mM)を加え、室温で10分間反応させた。生成物をMALDI-MSで分析し、環化反応がほぼ定量的に進行していることが確認できた(MALDI-MS、[M+H+]:計算値1885.8、実測値1885.2、図13)。
モデルペプチドは鋳型DNAとして
(5'-TAATACGACTCACTATAGGGTGATCCAACTTTAATAAGGAGGTATACCAATGAGTGGCGGCCCGGGCGGCAACGATTATAAAGATGATGATGATAAATAAGCTTCG-3'/3'-ATTATGCTGAGTGATATCCCACTAGGTTGAAATTATTCCTCCATATGGTTACTCACCGCCGGGCCCGCCGTTGCTAATATTTCTACTACTACTATTTATTCGAAGC) (配列番号21)
を用い、アミノ酸 Met, Gly, Pro, Asp, Tyr, Lys 及び YA-tRNAAsn ACU(式(32)のアミノ酸化合物でアミノアシル化されたtRNAAsn ACU)、WOH-tRNAAsn GUU(式(8)のアミノ酸化合物でアミノアシル化されたtRNAAsn GUU)を加え、前記3.の方法に従い翻訳合成した。本実施例で得られた環状ペプチド化合物は、前記式(11)の化合物である。
実施例5−2
メチオニン部位にbaF、ロイシン部位にWOH、アスパラギン部位にHOFを導入したペプチドを合成した(図15)。ペプチドをFLAG抗体で精製後、Bicine緩衝液(終濃度200 mM, pH9)を加え30分95度で加熱することで、非環状ペプチドを得た(図15)。このペプチドを、Borate緩衝液(終濃度250 mM, pH 9.0)中において、K3Fe(CN)6(終濃度30 mM)を加え、室温で10分間反応させた。生成物をMALDI-MSで分析し、環化ペプチドの合成が確認できた(図15)。ペプチドは鋳型DNAとして、
(5'-CGTATACTAATACGACTCACTATAGGGTTAACTTTAACAAGGAGAAAAACATGGTTGGTGCAGGTGCAGTTGGTGCACTCAACGACTACAAGGACGACGACGACAAGTAAGCTTCG-3'/3'-GCATATGATTATGCTGAGTGATATCCCAATTGAAATTGTTCCTCTTTTTGTACCAACCACGTCCACGTCAACCACGTGAGTTGCTGATGTTCCTGCTGCTGCTGTTCATTCGAAGC-5') (配列番号22)
を用い、アミノ酸 Val, Gly, Ala, Asp, Tyr, Lys、及び baF-tRNAfMet CAU(式(31)のアミノ酸化合物でアミノアシル化されたtRNAfMet CAU), WOH-tRNAEnAsn GAG, HOF-tRNAEnAsn GUUを加え、前記3.の方法に従い翻訳合成した。本実施例で得られた環状ペプチド化合物は、前記式(12)の化合物である。
実施例5−3
鋳型DNAとして、
(5'-CGTATACTAATACGACTCACTATAGGGTTAACTTTAACAAGGAGAAAAACATGCGAACCCGAAGTCCAGTTAACCTCGGTATCGACTAAGCTTCG-3'/3'-GCATATGATTATGCTGAGTGATATCCCAATTGAAATTGTTCCTCTTTTTGTACGCTTGGGCTTCAGGTCAATTGGAGCCATAGCTGATTCGAAGC-5') (配列番号23)
を用い、アミノ酸 Arg, Thr, Ser, Pro, Val, Asn, Leu, Gly, Asp、及び、WOH-tRNAAsn-E1 GAU及びbzaF-tRNAfMet CAUbzaF-CMEでアミノアシル化されたtRNAfMet CAU)を前記3.の方法に従い、式(37)のペプチド化合物を翻訳合成した。
次いで、このペプチド化合物の環化反応を行なった。翻訳合成の反応混合物5μLに、2.5μLのBorate緩衝液(1M、pH8)及び2.5μLのK3Fe(CN)6水溶液(2.5mM)を加え、混合物を室温で5分間、放置した。生成物をMALDI-MSで分析したところ、環化ペプチド(式(38)、(配列番号33))の合成が確認できた(式(37)の分子量:計算値1624.82、実測値1624.65;式(38)の分子量:計算値1618.78、実測値1618.83)。
Figure 0005605602
実施例5−4
鋳型DNAとして、
(5'-CGTATACTAATACGACTCACTATAGGGTTAACTTTAACAAGGAGAAAAACATGCGAACCCGAAGTCCAGTTAACATCGACTAAGCTTCG-3'/3'-GCATATGATTATGCTGAGTGATATCCCAATTGAAATTGTTCCTCTTTTTGTACGCTTGGGCTTCAGGTCAATTGTAGCTGATTCGAAGC-5') (配列番号24)
を用い、アミノ酸 Arg, Thr, Ser, Pro, Val, Asn, Asp、及び、WOH-tRNAAsn-E1 GAU及びbzaF-tRNAfMet CAUを前記3.の方法に従い、式(39)のペプチド化合物を翻訳合成した。
次いで、実施例5−3と同様にして、このペプチド化合物の環化反応を行ない、生成物をMALDI-MSで分析したところ、環化ペプチド(式(40)、(配列番号34))の合成が確認できた(式(39)の分子量:計算値1454.72、実測値1454.60;式(40)の分子量:計算値1448.67、実測値1448.51)。
Figure 0005605602
実施例5−5
鋳型DNAとして、
(5'-CGTATACTAATACGACTCACTATAGGGTTAACTTTAACAAGGAGAAAAACATGCGAACCCGAAGTCCAATCGACTAAGCTTCG-3'/3'-GCATATGATTATGCTGAGTGATATCCCAATTGAAATTGTTCCTCTTTTTGTACGCTTGGGCTTCAGGTTAGCTGATTCGAAGC-5') (配列番号25)
を用い、アミノ酸 Arg, Thr, Ser, Pro, Asp、及び、WOH-tRNAAsn-E1 GAU及びbzaF-tRNAfMet CAUを前記3.の方法に従い、式(41)のペプチド化合物を翻訳合成した。
次いで、実施例5−3と同様にして、このペプチド化合物の環化反応を行ない、生成物をMALDI-MSで分析したところ、環化ペプチド(式(42)、(配列番号35))の合成が確認できた(式(41)の分子量:計算値1241.61、実測値1241.39;式(42)の分子量:計算値1235.56、実測値1235.38)。
Figure 0005605602
実施例5−6
鋳型DNAとして、
(5'-CGTATACTAATACGACTCACTATAGGGTTAACTTTAACAAGGAGAAAAACATGCGAACCCGAATCGACTAAGCTTCG-3'/3'-GCATATGATTATGCTGAGTGATATCCCAATTGAAATTGTTCCTCTTTTTGTACGCTTGGGCTTAGCTGATTCGAAGC-5') (配列番号26)
を用い、アミノ酸 Arg, Thr, Asp、及び、WOH-tRNAAsn-E1 GAU及びbzaF-tRNAfMet CAUを前記3.の方法に従い、式(43)のペプチド化合物を翻訳合成した。
次いで、実施例5−3と同様にして、このペプチド化合物の環化反応を行ない、生成物をMALDI-MSで分析したところ、環化ペプチド(式(44)、(配列番号36))の合成が確認できた(式(43)の分子量:計算値1057.52、実測値1057.23;式(44)の分子量:計算値1051.47、実測値1051.23)。
Figure 0005605602
蛍光を有する環化ペプチドの蛍光測定(図14)
非環状ペプチドと環状ペプチドの励起および蛍光スペクトルの測定を行った。各ペプチドは、250 mM Borate緩衝液(pH 9.0)、25%アセトニトリル溶液に溶解し、蛍光波長500 nmで励起スペクトルを、励起波長360 nmで蛍光スペクトルを測定した。非環状ペプチドの場合特異的なスペクトルが観察されないが、環化ペプチドの場合、蛍光発光を観察することができた。
[配列表フリーテキスト]
配列番号1:開始tRNA(tRNAfMet
配列番号2:アンチコドンを改変した開始tRNA
配列番号3:リボザイムI
配列番号4:リボザイムII
配列番号5:P1
配列番号6:P2
配列番号7:P3
配列番号8:P4
配列番号9:P5
配列番号10:P6
配列番号11:P7
配列番号12:P8
配列番号13:P9
配列番号14:tRNA(tRNAAsn NNN
配列番号15:鋳型DNA1
配列番号16:鋳型DNA2
配列番号17:鋳型DNA3
配列番号18:鋳型DNA4
配列番号19:鋳型DNA5
配列番号20:鋳型DNA6
配列番号21:鋳型DNA7
配列番号22:鋳型DNA8
配列番号23:鋳型DNA9
配列番号24:鋳型DNA10
配列番号25:鋳型DNA11
配列番号26:鋳型DNA12
配列番号27:Grb7のSH2ドメインに結合するペプチド
配列番号28:式(16)の化合物のペプチド部分
配列番号29:式(11)の化合物のペプチド部分
Xaaはチロシン誘導体に由来する
Xaaはトリプトファン誘導体に由来する
配列番号30:式(12)の化合物のペプチド部分
Xaaはフェニルアラニン誘導体に由来する
Xaaはトリプトファン誘導体に由来する
配列番号31:式(35)の化合物のペプチド部分
Xaaは2,4−ジアミノ酪酸誘導体に由来する
配列番号32:式(36)の化合物のペプチド部分
Xaaは2−アミノ−6−アジドヘキサン酸に由来する
Xaaは2−アミノ−4−ペンチン酸に由来する
配列番号33:式(38)の化合物のペプチド部分
Xaaはフェニルアラニン誘導体に由来する
Xaaはトリプトファン誘導体に由来する
配列番号34:式(40)の化合物のペプチド部分
Xaaはフェニルアラニン誘導体に由来する
Xaaはトリプトファン誘導体に由来する
配列番号35:式(42)の化合物のペプチド部分
Xaaはフェニルアラニン誘導体に由来する
Xaaはトリプトファン誘導体に由来する
配列番号36:式(44)の化合物のペプチド部分
Xaaはフェニルアラニン誘導体に由来する
Xaaはトリプトファン誘導体に由来する

Claims (15)

  1. 環状ペプチド化合物の合成方法であって、
    (1)結合形成反応が可能な一組の官能基である官能基1及び官能基2を分子内に有する非環状ペプチド化合物を翻訳合成によって合成する工程;及び
    (2)前記官能基1及び官能基2の結合形成反応によって前記非環状ペプチド化合物を環化する工程;を含み、
    前記工程(1)が、任意のアミノ酸化合物でのtRNAのアミノアシル化反応を可能とするリボザイムを用いることを一つの特徴とする無細胞翻訳系によって非環状ペプチド化合物を合成することを含み、
    前記一組の官能基1及び官能基2が、以下の官能基の組(A)乃至(C);
    Figure 0005605602
    (式中、X1はClまたはBrであり、そして、Arは置換基を有していてもよい芳香環である)のいずれか一組である、前記方法。
  2. 前記工程(1)が、
    (a)任意のアミノ酸化合物でのtRNAのアミノアシル化反応を触媒するリボザイムを提供する工程;
    (b)前記リボザイムによるアシル化反応の基質となる、開始tRNA及び前記官能基1を有するアミノ酸化合物を提供する工程;
    (c)前記リボザイムを用いて前記官能基1を有するアミノ酸化合物で前記開始tRNAのアミノアシル化を行う工程;
    (d)前記官能基2を有するアミノ酸化合物及び該アミノ酸化合物でアミノアシル化されるtRNAとを少なくとも含み、メチオニンを含まない無細胞翻訳系を提供する工程;
    (e)前記開始tRNAのアンチコドンに対応するコドン、及び前記官能基2を有するアミノ酸化合物でアミノアシル化されるtRNAのアンチコドンに対応するコドン、とを所望の位置に有するmRNAを形成するための鋳型DNAを提供する工程;及び
    (f)前記工程(c)で得られたアミノアシル化された開始tRNA、及び前記鋳型DNAを前記無細胞翻訳系に加えて非環状ペプチド化合物を合成する工程、を含む、請求項1に記載の方法。
  3. 前記工程(1)が、
    (a)任意のアミノ酸化合物でのtRNAのアミノアシル化反応を触媒するリボザイムを提供する工程;
    (b)前記リボザイムによるアシル化反応の基質となる、開始tRNA及び前記官能基1を有するアミノ酸化合物を提供する工程;
    (c)前記リボザイムを用いて前記官能基1を有するアミノ酸化合物で前記開始tRNAのアミノアシル化を行う工程;
    (d)前記リボザイムによるアシル化反応の基質となる、tRNAであって無細胞翻訳系に存在する天然のアミノアシルtRNA合成酵素とオルソゴナルな関係にあるtRNA、及び前記官能基2を有するアミノ酸化合物を提供する工程;
    (e)前記リボザイムを用いて前記官能基2を有するアミノ酸化合物で前記tRNAのアミノアシル化を行う工程;
    (f)メチオニンを含まない無細胞翻訳系を提供する工程;
    (g)前記開始tRNAのアンチコドンに対応するコドン、及び前記tRNAのアンチコドンに対応するコドン、とを所望の位置に有するmRNAを形成するための鋳型DNAを提供する工程;及び
    (h)前記工程(c)で得られたアミノアシル化された開始tRNA、前記工程(e)で得られた前記官能基2を有するアミノ酸化合物でアミノアシル化されたtRNA、及び前記鋳型DNAを前記無細胞翻訳系に加えて非環状ペプチド化合物を合成する工程、を含む、請求項1に記載の方法。
  4. 前記工程(1)が、
    (a)任意のアミノ酸化合物でのtRNAのアミノアシル化反応を触媒するリボザイムを提供する工程;
    (b)前記リボザイムによるアシル化反応の基質となる、tRNAであって無細胞翻訳系に存在する天然のアミノアシルtRNA合成酵素とオルソゴナルな関係にあるtRNA、及び前記官能基1を有するアミノ酸化合物を提供する工程;
    (c)前記リボザイムを用いて前記官能基1を有するアミノ酸化合物で前記tRNAのアミノアシル化を行う工程;
    (d)前記官能基2を有するアミノ酸化合物、該アミノ酸化合物でアミノアシル化されるtRNA、開始tRNA、メチオニン及びメチオニルtRNA合成酵素とを少なくとも含む無細胞翻訳系を提供する工程;
    (e)前記官能基1を有するアミノ酸化合物でアミノアシル化される前記tRNAのアンチコドンに対応するコドン、及び前記官能基2を有するアミノ酸化合物でアミノアシル化される前記tRNAのアンチコドンに対応するコドン、とを所望の位置に有するmRNAを形成するための鋳型DNAを提供する工程;及び
    (f)前記工程(c)で得られたアミノアシル化されたtRNA、及び前記鋳型DNAを前記無細胞翻訳系に加えて非環状ペプチド化合物を合成する工程、を含む、請求項1に記載の方法。
  5. 前記工程(1)が、
    (a)任意のアミノ酸化合物でのtRNAのアミノアシル化反応を触媒するリボザイムを提供する工程;
    (b)前記リボザイムによるアシル化反応の基質となる、tRNAであって無細胞翻訳系に存在する天然のアミノアシルtRNA合成酵素とオルソゴナルな関係にあるtRNA、及び前記官能基1を有するアミノ酸化合物を提供する工程;
    (c)前記リボザイムを用いて前記官能基1を有するアミノ酸化合物で前記tRNAのアミノアシル化を行う工程;
    (d)前記リボザイムによるアシル化反応の基質となる、tRNAであって無細胞翻訳系に存在する天然のアミノアシルtRNA合成酵素とオルソゴナルな関係にあるtRNA、及び前記官能基2を有するアミノ酸化合物を提供する工程;
    (e)前記リボザイムを用いて前記官能基2を有するアミノ酸化合物で前記tRNAのアミノアシル化を行う工程;
    (f)開始tRNA、メチオニン及びメチオニルtRNA合成酵素とを少なくとも含む無細胞翻訳系を提供する工程;
    (g)前記官能基1を有するアミノ酸化合物でアミノアシル化される前記tRNAのアンチコドンに対応するコドン、及び前記官能基2を有するアミノ酸化合物でアミノアシル化される前記tRNAのアンチコドンに対応するコドン、とを所望の位置に有するmRNAを形成するための鋳型DNAを提供する工程;及び
    (h)前記工程(c)で得られたアミノアシル化されたtRNA、前記工程(e)で得られたアミノアシル化されたtRNA及び前記鋳型DNAを前記無細胞翻訳系に加えて非環状ペプチド化合物を合成する工程、を含む、請求項1に記載の方法。
  6. 前記任意のアミノ酸化合物でのtRNAのアミノアシル化反応を触媒するリボザイムが以下の(I)または(II):
    (I):GGAUCGAAAGAUUUCCGCGGCCCCGAAAGGGGAUUAGCGUUAGGU
    (II):GGAUCGAAAGAUUUCCGCAUCCCCGAAAGGGUACAUGGCGUUAGGU
    のいずれかの塩基配列からなるリボザイムである、請求項2乃至5のいずれか一項に記載の方法。
  7. 前記工程(b)のアミノ酸化合物が式(1):
    Figure 0005605602
    (式中、R1及びR2は水素原子または炭素で連結した任意の置換基を表す)の化合物であり、前記工程(d)のアミノ酸化合物がシステインである、請求項2に記載の方法。
  8. 前記工程(b)のアミノ酸化合物が式(2)の化合物であり、前記(d)工程のアミノ酸化合物が式(3):
    Figure 0005605602
    (式中、R1及びR2水素原子または炭素で連結した任意の置換基を表し、Z1は任意の置換基を表す)の化合物である、請求項3に記載の方法。
  9. 前記工程(b)のアミノ酸化合物が式(4):
    Figure 0005605602
    (式中、mは1乃至10の整数を表す)の化合物であり、前記工程(d)のアミノ酸化合物がシステインである、請求項4に記載の方法。
  10. 前記工程(b)のアミノ酸化合物が式(5)の化合物であり、前記(d)工程のアミノ酸化合物が式(6):
    Figure 0005605602
    (式中、mは1乃至10の整数を表す)の化合物である、請求項5に記載の方法。
  11. 前記工程(b)のアミノ酸化合物が式(7)の化合物であり、前記(d)工程のアミノ酸化合物が式(8):
    Figure 0005605602
    (式中、Z1任意の置換基を表す)の化合物である、請求項5に記載の方法。
  12. 式(9)または式(10):
    Figure 0005605602
    (式中、AAは2乃至10のアミノ酸残基からなるペプチド鎖を表し、BBは1のアミノ酸残基または2乃至5のアミノ酸残基からなるペプチド鎖を表し、L1は二価の連結基を表し、Arは置換基を有していてもよい芳香環である)で表される環状ペプチド化合物。
  13. 式(11)または式(12):
    Figure 0005605602
    で表される、請求項12に記載の環状ペプチド化合物。
  14. 式(13):
    Figure 0005605602
    (式中、m1及びm2は、それぞれ1乃至10の整数を表し、AAは2乃至10のアミノ酸残基からなるペプチド鎖を表し、BBは1のアミノ酸残基または2乃至5のアミノ酸残基からなるペプチド鎖を表す)で表される環状ペプチド化合物。
  15. 式(14):
    Figure 0005605602
    (式中、m1及びm2は前記と同義である)で表される、請求項14に記載の環状ペプチド化合物。
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