JP5604673B2 - 中枢神経系の疲労回復又は疲労予防のための組成物 - Google Patents

中枢神経系の疲労回復又は疲労予防のための組成物 Download PDF

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Description

本発明は中枢神経系の疲労、いわゆる脳疲労の回復又は予防に用いられるための組成物に関する。
本願発明者は、脳疲労を誘引する原因物質としてトリプトファンであることを突き止め、脳疲労の予防又は回復には、分岐鎖アミノ酸(BCAA)の投与が有効であるとして、BCAAを有効成分とする脳疲労の予防剤又は回復剤(食品も含む)について特許出願を行っている(特許文献1参照)。また、BCAAに加えて、血液脳関門L−システムトランスポータにおける阻害剤であるBCH(2-aminobicyclo[2,2,1]heptane-2-carboxylic acid)を併用することにより、劇的に脳疲労が抑制されることを見出し、両者の併用剤についても特許出願を行っている(特許文献1)。
しかしながら、BCHは抗ガン剤として使用できる可能性が示唆されているが使用実績に乏しく、現時点では実用化が困難であった。
一方、ヒトの胎盤細胞におけるL−トリプトファンの取り込みを抑える物質として各種アミノ酸について検討した結果が報告されている(非特許文献1参照)。これによると、L−フェニルアラニン、L−メチオニン、L−システイン、L−ロイシン、L−バリンによってトリプトファンの取り込みが抑えられたとされる。ところが、この報告は、胎盤の刷子縁組織におけるものである。
また、BCAAとグルタミン及びアルギニンをラットに投与し、トレッドミルによる走行試験を行った結果が非特許文献2に示されているが、その他のアミノ酸については検討されておらず、非特許文献1で指摘されたようなトリプトファンの取り込みを抑えるアミノ酸が脳疲労の抑制に実際に寄与するかどうか到底推定できるものではない。
そこで、本発明者はBCHに成り変わるものとして、従来から食品領域で汎用されている物質についてさらに研究を進めたところ、BCAAと同じく人体の必須アミノ酸である上記アミノ酸類がBCHと同様に脳疲労の抑制に貢献することを見出し、本願発明を完成するに至った。
国際公開公報 WO02/34257 Yoshiki Kudo and C. A. R. Boyd "Journal of Physiology" 2001,531.2,pp.405-416 Miro Smriga, Makiko Kameishi et. Al. "Preference for a Solution of Branched Chain Amino Acids plus Glutamine and Arginine Correlates with Free Running Activity in Rats: Involvement of Serotonergic Dependent Process of Lateral Hypothalamus" Nutritional Neuroscience International Journal on Nutrition, Diet and Nervous system, 2001.11.19, p2002-
すなわち、本発明は、安全性が高くしかも効果が高い中枢神経系の疲労(脳疲労)の改善や抑制を標榜できる食品又は医薬品として利用可能な組成物を提供することにある。
本発明の中枢神経系の疲労回復又は予防のための組成物は、チロシン、メチオニン、フェニルアラニン、グルタミンからなる群から選ばれるいずれか1種以上のアミノ酸と分岐鎖アミノ酸を有効成分とするものであって、特にBCAAとチロシン、さらにそれらに加えてグルタミンを有効成分とすること、あるいはBCAAとメチオニンならびにフェニルアラニンそしてそれに加えてチロシンを有効成分とすることに特徴を有する。つまり、本発明は、中枢神経系の疲労回復又は疲労予防のために、チロシン、メチオニン、フェニルアラニン、グルタミンからなる群から選ばれるいずれか1種以上のアミノ酸と分岐鎖アミノ酸、その中でも特にBCAAとチロシン、BCAAとチロシンならびにグルタミン、あるいはBCAAとメチオニンならびにフェニルアラニンそしてこの三者とさらにチロシンを併せて服用することを目的とするものである。
本発明によれば、肉体的な疲労を伴わない、例えば、コンピューター作業や今後活発になるであろう宇宙環境における作業に伴って生じる脳疲労の改善や予防を行える。特に、本発明の組成物はアミノ酸のみから構成することができるので、その安全性はほぼ確率されているものと言え、その実用性は非常に高いものである。
本発明の疲労回復又は予防のための組成物は、分岐鎖アミノ酸(BCAA)とチロシン、メチオニン、フェニルアラニン、グルタミンからなる群から選ばれるいずれか1種以上のアミノ酸を有効成分として含有するものである。本発明において、中枢疲労系の疲労とは、上記特許文献1で述べられたとおりのものであり、肉体(筋肉)疲労に伴って生じるいわゆる疲労感とは異なり、コンピュータ作業や読書など肉体疲労を伴わない状態で生じるものである。本発明の疲労予防とは予め中枢神経系の疲労が予定される場合に先立って主として人に適用する場合であり、また、疲労回復は予め中枢神経系の疲労が生じた場合に事後的に主として人に適用する場合をいう。すなわち、本発明の中枢神経系の疲労回復又は予防のための組成物は、疲労の有無に拘らず適用できるものであって、いわゆる特定保健栄養剤として、中枢神経系の疲労(脳疲労)の回復、予防という新たな適用が予定されるものである。
分岐鎖アミノ酸(BCAA)には、L−バリン、L−ロイシン、L−イソロイシンと言った炭素鎖に分岐鎖を有する人体の必須アミノ酸が用いられる。また、これらのアミノ酸は、その生理学的に許容される塩、例えば塩酸塩やさらにはこれらの各種水和物をも用いることができる。これらの分岐鎖アミノ酸はそれぞれ単独若しくは混合物として用いることも可能である。また、混合物として用いる場合、これらの混合比については特に限定されるものではない。
BCAAと併用されるアミノ酸には、L−チロシン、L−メチオニン、L−フェニルアラニン、L-グルタミンが挙げられる。これらのアミノ酸は少なくても何れか1種が用いられるが、必ずBCAAと併用されるものである。BCAA以外のアミノ酸を1種併用する場合にはチロシンが効果的である。また、BCAAと併用されるアミノ酸は、2種のアミノ酸の組み合わせや3種以上のアミノ酸の組み合わせとしてもよい。2種以上の組み合わせは任意であるが、特にL−チロシンとL−グルタミンの組み合わせ、L−フェニルアラニンとL−メチオニンの組み合わせ、さらにはL−フェニルアラニンとL−メチオニン、L−チロシンの組み合わせが効果的である。組み合わせとする場合の各アミノ酸の量比も適宜決めることができる。
BCAAとアミノ酸の配合比も適宜定めればよいが、BCAAが主体となるようにし、質量比でほぼBCAAが1に対して、0.01〜2程度、好ましくは0.1〜1程度でよい。また、他のアミノ酸を複数種用いる場合であっても、その合計量が前記範囲で十分である。もちろん、BCAAよりも他のアミノ酸の配合量が多くなっても差し支えない。
本発明の組成物は、人に適用することが可能な形態であれば、その服用、投与形態は特に制限されるものではない。例えば、血管系やリンパ系などに直接投与可能な注射剤や輸液として、また、デンプンや乳糖などの適当な賦型剤を加え錠剤や顆粒剤、散剤など固形状の服用可能な形態(例えば医薬用途)として、さらには、いわゆる健康ドリンクなど様々な飲用の形態(例えば食品用と)として提供できるものである。また、ビスケット状や飴状などのいわゆる食品の形態のものとして提供しても差し支えない。
本発明の疲労回復又は予防のための組成物には、分岐鎖アミノ酸や他の必要なアミノ酸以外に、ブドウ糖やショ糖などの糖類、ビタミンB、B、BなどのビタミンB群、ビタミンCそしてナトリウムイオンやカリウムイオンなどの金属イオンなど、従来から主として肉体疲労回復のために用いられていた種々の化合物を添加できるのはいうまでもない。ただし、トリプトファンは脳疲労の原因物質であり、併用効果に負の作用を与えるのでトリプトファンを含まないものが望ましい。
以下、本発明について下記実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されないのは言うまでもない。
まず、特許文献1に記載された方法に従い、遺伝的に血漿中アルブミンの欠損した雌無アルブミンラット(日本SLC)をトレッドミル上で走行させる疲労実験を行なった。すなわち、疲労実験に先立って、室温22℃、7:00〜19:00(明時)の明暗サイクル下で飼育した無アルブミンラットに対し、13:00〜15:00の間の一定時間に、1週当たり4回の30分間のトレーニング(20m/min,7%傾斜)を4週間行なわせ、トレッドミル上のランニングに馴らした。トレーニング完成後、総ての無アルブミンラットに対してトレッドミル上で同条件下において疲労困憊運動を課し、疲労困憊へ至る時間を計測した。疲労困憊は、ラットがトレッドミル上でのスピードに付いていけなくなった時点若しくは走るのを拒否した時点とした。
5群に分けられたラット(一群5匹)は、生理食塩水、BCAA、BCAAとフェニルアラニン、メチオニンの併用剤(「BPM」と略記)、BCAAとフェニルアラニン、メチオニン、トリプトファンの併用剤(「BPMT」と略記)のそれぞれで処置された。生理食塩水は5ml/kg、フェニルアラニンは125mg/kg、メチオニンは75mg/kg、トリプトファンは85mg/kg及びBCAAは250mg/kgの投与量で、運動開始1時間前に腹腔内投与された。なお、BCAAをはじめとする各種アミノ酸はそれぞれ生理食塩水に溶解した後用いられた。また、BCAAは、L−バリン、L−ロイシン、L−イソロイシンの混合物(重量比、5:3:2)を用いた。ちなみに、これらの投与量は効果が発現されるであろうとして決定された量であり、実際の人への投与量は種々の要因により適宜変更可能なものである。その結果を表1に示す。また、アミノ酸各種は食品添加物用のもの(日理化学(株)社製)が用いられた(実施例2においても同じ)。
Figure 0005604673


この結果から分かるように、BCAA単独で投与することに比べると、フェニルアラニン及びメチオニンを加えた場合(BPM)には、ラットのランニング時間は飛躍的に延び、その効果は著しいものであった。つまり、生理食塩水投与であればわずか4時間少々しか走行できず、BCAA単独投与ならば6時間程度の走行ができるようになったが、BPM投与群のラットは7時間以上も疲れを知らずにトレッドミル上を走行し続けた。一方、トリプトファンを加えた群(BPMT)では、生理食塩水よりも効果が高いことが理解されるが、BPM群に比べるとその効果は低下してBCAA単独による場合と同程度となり、トリプトファンが悪影響を及ぼすことが確認された。
次に、ヒトに服用してもらうことにより本発明の効果を確認した。
健康な20〜21歳の男女各4名ずつに、被験飲料を飲んでもらった後に、多面的感情状態尺度による検査ならびに気分プロフィール検査(日本語版POMS)を実施した。飲用してから30分間は、飲食や考え込むようなこと、過激な運動及び喫煙は控えるように被験者に促した後、待機させた。その後、内田クレペリン検査を前半15分、3分休憩、後半15分の工程で行い、脳疲労(急性的な脳疲労)を課した。その直後に、多面的感情尺度項目(表2)に実験直後の感情状態を記入させ、その後POMS検査により過去1週間の感情状態(慢性的な脳疲労感)を記入させた。実験は1回につき、ドリンク飲用後の休憩30分、内田クレペリン検査に33分、多面的感情状態尺度項目及びPOMSの記入に10分の計80分弱を要した。なお、試験に先立ち、本試験をする目的、方法等の注意事項を説明した上で、自由意思に基づく文書による同意を得た。
〔被験飲料〕
市販のオレンジジュース(サントリー(株)社製「なっちゃんオレンジ」:オレンジ、レモン果汁、果糖、香料、酸味料、ビタミンC含有。なお、100ml当たりの栄養成分表示はエネルギー36kcal、タンパク質0.2g、脂質0g、炭水化物8.7g、ナトリウム0mg、ショ糖1.0gである。)200mlに、BCAA、チロシン、メチオニン、フェニルアラニン、グルタミンをそれぞれ次の表2に示す量で添加した。このときのBCAAには、3種の分岐鎖アミノ酸を各1gずつ用いた。
Figure 0005604673
〔服用試験〕
試験は1回200mlの飲料を飲むこととし、表2に示した実験群1〜4については各2回、実験群5及び6は各1回の計10回の実験(実験順序は次のとおり:実験群1→実験群2→実験群3→実験群4→実験群5→実験群1→実験群2→実験群3→実験群4→実験群6)を行った。
〔疲労検査1:多面的感情状態尺度検査〕
多面的感情状態尺度検査は、表3に示す結果集計用多面的感情状態尺度項目(寺崎正治ら、The Japanese Journal of Psychology,1992,Vol.62.No6,350-356)について、感じている:3点、少し感じている:2点、あまり感じていない1点:全く感じていない0点として、各項目ごとに点数を付けてもらった。そして、その後、脳疲労(急性疲労:急激に疲れた)に結び付いていると考えられる倦怠項目として、No3、11、26、36、42、48、54、64、67、80の項目を選び出し、被験者のスコアをそれぞれ算出した。多面的感情状態尺度検査は回答時点における評価を回答するものであり、選び出した項目に対する回答は急性疲労を評価していることになる。なお、実際の検査に際しては、表3の項目をNo.1からNo.87まで昇順に並び替えて実施した。
Figure 0005604673
〔疲労検査2:POMS検査〕
POMSは、日本版POMS(横山和仁ら、日本語版POMSNo.851,2002、金子書房)に記載された65項目の評価項目について、まったくなかった(スコア0)から非常に多くあった(スコア4)の5段階で評点を付けてもらった。そして、POMS記載の評価に従い、意欲・活力減退を示すF項目(疲れた、物事に気乗りがしない、ぐったりする、へとへとだ、だるい、うんざりだ、ひどくくたびれた)についてのスコアを求めた。POMSは多面的感情状態尺度検査と異なり、検査1週間前から回答時点までの期間における評価を回答するものであり、選び出した項目に対する回答は慢性疲労を評価していることになる。
〔試験結果〕
表4及び表5に多面的感情状態尺度検査による試験結果を、表6にPOMS検査による試験結果を示した。なお、有効率は試験群1(コントロール群)に対してスコアが減った被験者の人数でもって表した。
Figure 0005604673
Figure 0005604673
Figure 0005604673
動物実験の結果から、BCAA単独で用いる場合に比べ、フェニルアラニンやメチオニン等のアミノ酸を併用することにより、ラットのトレッドミル上の走行時間を飛躍的に延ばせられることが分かった。また、ヒトの実験においては、例えば急性的な脳疲労に対して、BCAAにチロシンを加えた場合(BY群)、BCAAにチロシン、グルタミンを加えた場合(BYG群)、BCAAにフェニルアラニン及びメチオニンを加えた場合(BMP群)、BMP群にさらにチロシンを加えた場合(BMPY群)に有効率50%以上であった(表4及び表5参照)。そして、慢性的な脳疲労に対しては、BCAAにフェニルアラニン及びメチオニンを加えた場合(BMP群)に50%の有効率があった(表6参照)。これらの動物実験やヒトにおける実験から、BCAAにフェニルアラニン及びメチオニンを加えた場合に特に相加的効果が高いと言える。
本発明の疲労回復又は予防のための組成物は、肉体疲労とは異なる症状を示す脳疲労に対して有効な抑制、改善を示すものであって、新たな効能効果を標榜可能ないわゆる機能性食品や医薬品等を提供する。

Claims (2)

  1. 有効成分として、フェニルアラニンとメチオニン及び分岐鎖アミノ酸を含有し、他のアミノ酸を含有しない中枢神経系の疲労回復又は予防のための組成物。
  2. 有効成分として、さらにチロシンを含む請求項1に記載の中枢神経系の中枢神経系の疲労回復又は予防のための組成物。
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