JP5591447B2 - ペプチドを直接発現させるための改良型細菌宿主細胞 - Google Patents

ペプチドを直接発現させるための改良型細菌宿主細胞 Download PDF

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Description

発明の技術分野
本発明は、ペプチド産物を発現する遺伝子操作された宿主細胞の培養培地の中にそのペプチド産物を直接発現させることに関する。より具体的には、本発明は、クローニングベクター、発現ベクター、宿主細胞、および/または高い收率で宿主から培地の中に排出されるペプチド産物を生産する発酵方法に関する。いくつかの実施形態において、本発明は、C末端にグリシンをもつが、後に、該グリシンの代わりにアミノ基を有するアミド化ペプチドに変換されるペプチド産物を直接的に発現させることに関する。
関連技術の説明
ペプチド産物、すなわち、ペプチド結合によって連結された複数のアミノ酸を含む分子構造を有する任意の化合物を組換えによって生産するための多様な技術が存在する。外来のペプチド産物が小さいときの問題点は、しばしば、そのペプチドを発現させるのに用いた宿主細胞の細胞質または周辺質において内生するプロテアーゼによって直ちに分解されてしまうことである。その他の問題点は、十分な收率を得ること、および、ペプチドを、その3次構造を変える(基本的機能を行う能力を低下させる可能性がある)ことなく比較的純粋な形で回収することなどである。サイズが小さいという問題点を解決するために、先行技術では、しばしば、目的とするペプチド産物を別の(通常より大きな)ペプチドとの融合タンパク質として発現させ、この融合タンパク質を細胞質の中に蓄積させてきた。この別のペプチドは、例えば、目的とするペプチドを宿主の細胞質に存在するプロテアーゼに曝露されることから保護するなど、いくつかの役割を担うことが可能である。このような発現系は、Rayら、Biol Technology, Vol. 11, pages 64‐70、(1993)に記載されている。
しかし、このような技術を用いてペプチドを単離するには、融合タンパク質を切断して、宿主の細胞質に通常存在するすべてのペプチドから精製する必要がある。これには、方法全体の効率を低下させるような他の工程が数多く必要とされる可能性がある。例えば、先行技術の融合タンパク質が細胞質に蓄積する場合、通常、細胞を回収して溶解し、清澄工程で細胞残渣を取り除かなければならない。本発明に従えば、目的とするペプチド産物が培養培地の中に直接発現されて、そこから回収されるため、このようなことはすべて回避できる。
先行技術では、しばしば、融合タンパク質を精製するためにアフィニティークロマトグラフィーの工程を利用する必要があり、目的とするペプチドをその融合パートナーから分離するためにさらに切断を行わなければならない。例えば、上記したBio/Technologyの論文では、臭化シアンを用いて融合パートナーからサケカルシトニンの前駆体を切断した。この切断工程は、さらに、サケカルシトニン前駆体の第1位および7位にあるシステインスルフヒドリル基を保護するための追加的な工程を必要とする。スルホン化を用いて、システインの保護基を提供した。これは、次に、後に前駆体の復元(また、当然ながら保護基の除去)を必要とするサケカルシトニン前駆体の3次構造を変更する。
本発明のペプチド産物はシグナル配列とともにのみ発現され、大きな融合パートナーとともには発現されない。本発明は「直接発現」をもたらす。それは、まず、N末端側に連結したシグナル領域とともに発現される。しかし、そのシグナル領域は、ペプチド産物が細胞周辺質に分泌される過程で翻訳後切断される。その後、ペプチド産物は拡散するか、または周辺質から細胞外の培養培基へ排出され、そこにおいて適切な3次構造に戻ること
ができる。それは、最初に細胞溶解による変性または修飾を行って除去する必要がある、いかなる融合パートナーとも結合していないが、ただし、本発明のいくつかの実施形態においては、ペプチド産物が精製される過程で、システインのスルフヒドリル基を保護するためにスルホン化が用いられる。
ペプチド産物を細胞の中に蓄積するという先行技術のもう1つの問題点は、蓄積する産物が細胞にとって有毒なことがあるため、合成することができる融合タンパク質の量が制限される可能性があることである。この方法にとって別の問題は、普通、より大きな融合パートナーが収率の大半を占めることである。例えば、生産量の90%が大きな融合パートナーであることがあり、すると、目的とするペプチドに関するわずか10%に過ぎないことになる。この方法のさらに別の問題は、融合タンパク質が細胞の中で不溶性の封入体を形成する可能性があるため、封入体を可溶化した後に切断しても、生物学的に活性なペプチドを得られない可能性がある。
先行技術では、N末端に結合したシグナルペプチドとともにペプチドを発現させて、所望のペプチド産物が周辺質に分泌されるようにすることが試みられた(欧州特許第177,343号、Genentech Inc.参照)。いくつかのシグナルペプチドが同定されている(Watson, M. Nucleic Acids Research,
Vol 12, No. 13, pp: 5145‐5164参照)。例えば、Hsiungら(Biotechnology, Vol 4, November 1986, pp: 991‐995)は、大腸菌(E. coli)の外膜タンパク質A(OmpA)のシグナルペプチドを用いて、あるペプチドを周辺質の中に導いた。ほとんどの場合、周辺質に分泌されたペプチドは、しばしば、培地には最小限しか排出されず、周辺質にとどまりがちである。十分な量の周辺質成分を放出させるためには、外膜を破壊または透過処理するさらなる好ましくない工程が必要とされよう。周辺質から細胞外の培養培地にペプチドを排出させようとする先行技術の試みには、外膜を透過性または漏出性にする細胞溶解ペプチドタンパク質(lytic peptide protein)とともにシグナルペプチドを含む所望のペプチド産物を、宿主が同時に発現するようにして、外膜障壁の完全性を損なうことを含むものがあった(米国特許第4,595,658号)。しかし、細胞の完全性を損なって細胞を殺してしまわないように、細胞溶解ペプチドタンパク質の産生量に注意を払わなければならない。目的のペプチドを精製することも、この技術によってより難しくなる可能性がある。
外膜を不安定化させる上記の技術の他に、グラム陰性菌の外膜を透過処理する、より厳密でない手段も存在する。
これらの方法は、細胞の生存能力を低下させる可能性がある外膜の破壊を必ずしももたらすとは限らない。これらの方法は、陽イオン性剤(Martti Vaara, Microbiological Reviews, vol.56, pages 395‐411 (1992))およびグリシン(Kaderbhai et al. Biotech. Appl. Biochem, Vol. 25, pages 53‐61 (1997))を用いることを含むが、これらに限定されない。陽イオン性剤は、外膜のリポ多糖骨格と相互作用して、それに損傷を与えることにより、外膜を透過性にする。損傷および断裂の量は、用いる濃度によって非致死性または致死性になりうる。グリシンは、ペプチドグリカンのペプチド成分中のアラニン残基を置換することができる。ペプチドグリカンは、グラム陰性菌の細胞外壁構造成分の一つである。高濃度のグリシンの中で大腸菌を培養すると、グリシン‐アラニン置換の頻度が増加して欠損細胞膜を生じ、その結果透過性が高まる。
所望のペプチド産物を排出させる、先行技術の別法は、通常は培地に排出される担体タ
ンパク質(溶血素(hemolysin))または外膜上に発現する完全なタンパク質(例えばompFタンパク質)に該産物を融合させることを含む。例えば、ヒトβエンドルフィン(b‐endorphin)は、ompFタンパク質の断片に結合すると、大腸菌細胞によって融合タンパク質として排出されることがある(EMBO J., Vol 4, No. 13A, pp:3589‐3592, 1987)。しかし、ペプチド産物が単体ペプチドから分離される必要があり、細胞質の中で融合ペプチドを発現させることに伴う欠点を(全部ではないが)いくつか有しているために、所望のペプチド産物を単離することは困難である。
さらに別の先行技術の方法では、遺伝的に宿主細胞を改変して、周辺質ペプチドおよび周辺質タンパク質を保持することが相対的に不可能な透過性外膜をもつ新規の菌株を作出する。しかし、これらの新たな菌株は維持が困難である可能性があり、また、所望のペプチド産物の収率に悪影響を与える厳密な条件を必要とする可能性もある。
Raymond Wongら(米国特許第5,223,407号)は、ompAシグナルペプチド、およびtacプロモーターを含む調節領域をコードするDNAに同じ読み枠で結合した、異種性タンパク質をコードするDNAを含む組換えDNA構築物を作製してペプチド産物を排出させるさらに別の方法を考案した。この系では、本発明を用いて達成可能な収率より著しく少ない収率が報告されている。
先行技術では、タンパク質を周辺質から培地に送出できるが、これにより、簡単に所望の高濃度まで増殖することができない非正常細胞が生じて、産物の収率に悪影響を与える。
最近、Mehtaら(米国特許第6,210,925号)は、遺伝子操作された宿主細胞が培養されている培養培地の中にペプチド産物を直接発現させる発現系を開示した。新たなベクター、宿主を特別に選択すること、および/または、細胞の増殖速度を慎重に制御すること、および増殖期に誘導因子を利用することを含む発酵処理法によって高収率が達成された。目的のペプチドをコードするコーディング領域から上流にあるシグナルペプチドをコードするコーディング領域に機能できるよう連結している多重プロモーターをもつ調節領域を含む特別なベクターが提供される。多重転写カセットも、収率を増やすために使用される。
本発明は、新規の宿主細胞を用いる効率的な発現ベクターによって、ペプチドをさらに高収率で製造することを追求している。本発明は、新規の汎用クローニングベクターを用いて、効率的な発現ベクターを製造することも追求している。
発明の概要
従って、ペプチド産生宿主細胞が増殖している培地の中に、ペプチド産物を良好な収率で蓄積させることが本発明の目的である。これは、培地に多くの細胞ペプチドの汚染物がない点で有利である。
本発明に係る新規の発現ベクターを発現させる上で、また、ペプチド産生宿主細胞が増殖している培地の中にペプチド産物を良好な収率で蓄積させる上で特に有用な遺伝子操作された宿主細胞を提供することが本発明の別の目的である。
遺伝子操作された宿主細胞によって発現されるペプチド産物の収率を増加させる改良さ
れた発酵処理法を提供することが本発明の別の目的である。
C末端にグリシンを有する前駆体ペプチドであって、本発明に従って培養培地中に直接発現された後アミド化される前駆体を利用して、アミド化ペプチドを製造するための改良された方法を提供することが、本発明のさらなる目的である。
従って、本発明は、組換えタンパク質およびプロテアーゼIIIをそれぞれコードする染色体遺伝子rec Aおよびptrに欠損がある、遺伝子操作された大腸菌を提供する。
本発明は、以下の(a)〜(e)を含むクローニングベクターも提供する。(a)少なくとも2つのプロモーターを含む調節領域、(b)シグナル配列をコードする核酸、(c)該シグナル配列と同一の読み枠にあって、該調節領域に機能できるよう連結しているペプチドをコードする遺伝子のクローニングを可能にする、2つの遺伝子クローニング用酵素制限部位、(d)該遺伝子クローニング用酵素制限部位から3´側にある、少なくとも2つのカセットクローニング酵素制限部位、および(e)該調節領域から5´側にある、少なくとも2つのカセットクローニング酵素制限部位、ただし、該制限酵素部位はすべて互いに異なっており、該ベクター内でユニークである。
本発明は、各カセットが、(1)ペプチド産物をコードする核酸によるコーディング領域であって、シグナルペプチドをコードする核酸の3´側に同一の読み枠で結合した領域、および(2)このコーディング領域に機能できるよう連結している調節領域であって、複数のプロモーターを含む領域を含んでなる複数の転写カセットを含有する発現ベクターを調製する方法であって、以下の(a)〜(d)の工程を含む方法をさらに提供する。(a)2つの遺伝子クローニング用酵素制限部位を用いて、シグナルペプチドをコードする核酸の3´側に同一の読み枠で、ペプチド産物をコードする核酸をもつコーディング領域を本発明のクローニングベクターの中にクローニングして、クローニングベクター内に発現カセットを形成する工程、(b)該遺伝子クローニング用酵素制限部位から3´側にあるカセットクローニング酵素制限部位で切断する第1の制限酵素、および該遺伝子クローニング用酵素制限部位から5´側にあるカセットクローニング酵素制限部位で切断する第2の制限酵素を用いて、クローニングベクターから発現カセットを切り出す工程、(c)発現カセットを、工程(b)のカセットクローニング酵素制限部位を含む鋳型発現用ベクターの中に、第1の制限酵素部位が第2の制限酵素部位の3´側になるようライゲーションする工程であって、該鋳型発現用ベクターが、(i)第1および第2の制限酵素によってライゲーションされ、かつ(ii)少なくとも1組以上のカセットクローニング酵素制限部位、例えば、該組の第1の部位が、請求項4記載の該遺伝子クローニング用酵素制限部位から3´側にあるカセットクローニング酵素制限部位と同一であり、該組の第2の部位が、請求項4記載の該遺伝子クローニング用酵素制限部位から5´側にあるカセットクローニング酵素制限部位と同一であって、該組の第1の部位が、該組の第2の部位から3´側にあって、各カセットクローニング酵素制限部位が鋳型ベクターに対してユニークであり、それ以外の請求項4記載のカセットクローニング酵素制限部位が、第1のカセットクローニング酵素制限部位の5´側の領域、および第2のカセットクローニング酵素制限部位の3´側の領域にないか、または、カセットクローニング酵素制限部位の該組の第1の部位の5´側の領域および第2の部位の3´側の領域にないものなどを含んでいる工程、および(d)工程(b)および(c)を1回以上繰り返す工程であるが、ただし、工程(b)の第1および第2の制限酵素ではなく、カセットクローニング酵素制限部位のいずれか1組の第1の部位および第2の部位を切断する制限酵素を用いる工程。
また、本発明は、組換えタンパク質およびプロテアーゼIIIをそれぞれコードする染色体遺伝子rec Aおよびptrに欠損がある大腸菌宿主細胞であって、該宿主が、複数の転写カセットであって、各カセットが、(1)ペプチド産物をコードする核酸によるコーディング領域であって、シグナルペプチドをコードする核酸の3´側に同一の読み枠で結合した領域、および(2)このコーディング領域に機能できるよう連結している調節領域であって、複数のプロモーターを含む領域を含んでなる転写カセットをタンデムに含む発現ベクターを含有し、発現させる大腸菌宿主細胞も提供する。
さらに、本発明は、本発明に係る発現ベクターによって形質転換または形質導入された本発明に係る宿主細胞を培養培地の中で培養する工程、および、宿主細胞を培養した培地からペプチド産物を回収する工程を含む、ペプチド産物を生産する方法を提供する。
本発明は、(a)本発明に係る発現ベクターによって形質転換または形質導入された本発明に係る宿主細胞を培養培地の中で培養する工程であって、ペプチド産物がC末端グリシンを含む工程、(b)該ペプチド産物を該培養培地から回収する工程、および(c)該C末端グリシンをアミノ基に変換させて、該ペプチド産物をアミド化ペプチドに変換する工程を含む、アミド化ペプチド産物を生産する方法も提供する。
発明の詳細な説明
本発明は、培地1リットル当り100 mgを超えるペプチド産生を可能にする。これは、新規の宿主(本発明により形質転換、形質導入、または使用されたもの)、新規の発酵方法、またはこれらを2つ以上組み合わせたものを用いて行われる。
宿主細胞
本発明は、本発明に係る任意のベクターによって形質転換または形質導入された宿主細胞を提供する。宿主細胞は、組換えタンパク質およびプロテアーゼIIIをそれぞれコードする染色体遺伝子rec Aおよびptrに欠損がある、遺伝子操作された大腸菌である。
好ましくは、遺伝子操作された大腸菌は、既に染色体遺伝子rec Aに欠損があるBLR株である。より好ましくは、本発明に係る宿主細胞は、ATCCアクセッション番号PTA‐5500をもつ変異BLR株BLM6である。
好適な汎用クローニングベクターの概要
本発明は、以下に記載するような本発明に係る好適な発現ベクターなどの発現ベクターを簡単に構築することが可能になる汎用クローニングベクターも提供する。
pUSEC‐05IQベクター
1つの好適な汎用クローニングベクターは、ペプチドをコードする遺伝子をクローニングするために設計されているpUSEC‐05IQプラスミドである。pUSEC‐05IQベクター(図3C)は、tacおよびlacの2重のプロモーターブロックと、それに続くompAシグナル配列を含んでいる。シグナル配列に直接隣接するのは、シグナル配列と同じフレームでペプチドをコードする遺伝子のクローニングを可能にする固有の制限酵素部位Stu IおよびNco Iである。多重クローニング部位の下流には2重のrrnB T転写終結因子がある。このベクターは、tacおよびlacプロモーターを制御するためのLacIリプレッサーをコードする遺伝子のコピーも持っている。このプラスミドは、選抜用にアンピシリン耐性遺伝子を持っている。このベクターは、pUC複製開始点を有するpSP72を基本プラスミドとして用いて構築された。2重プロモーター、ompAシグナル、クローン化されたペプチド遺伝子、および転写終結因子を含む発現カセットを、カセットの上流および下流に位置する3つの固有の制限酵素部位を用いてベクターから切り出すことができる。
このベクターの有用性には2つの要素がある。第1の有用性要素は、このベクターを、異種性ポリペプチドを分泌させるための汎用発現ベクターとして使用できる点にある。ompAシグナル配列と同一フレームで連結しているクローニング部位を用いて任意の異種性遺伝子をクローニングし分泌産物として発現させることができる。この機能は、細胞を溶解して発現を調べるという必要なしに遺伝子標的となりうるものを迅速にスクリーニングするのに利用することができよう。この有用性は、拡散によって培養培地に発現、分泌および輸送されるペプチドをクローニングし発現させるという所望の機能に基づいている。第2の有用性要素は、発現カセットの切り出しに使用される6つの制限酵素部位を利用できる点にある。これらの部位は、発現レベルを上昇させるための発現カセットのコピーを多数クローニングするために別のベクターと組み合わせて使用される。
pUSEC‐06ベクター
別の好適な汎用クローニングベクターは、pUSEC‐05IQの中にクローニングされた発現カセットを最大3つのコピーまでクローニングするための分泌促進産生用ベクターとして作用するpUSEC‐06プラスミドである。図2に示したpUSEC‐06ベクターは、pUSEC‐05IQに存在する発現カセットに隣接する同一の6つの固有の制限部位を含む。6つの部位は、発現カセットの別々のコピーを個々にクローニングするために用いることができる3組の対にグループ化される。ベクターは、分泌因子SecEおよびprlA‐4(SecYの変異対立遺伝子)をコードする遺伝子を含む。lacプロモーターはSecE遺伝子の発現を調節し、trpAプロモーターはprlA‐4遺伝子の発現を調節する。タンデムに並んだT1 T2転写終結因子が、SecEおよびprlA‐4遺伝子の下流に位置している。このプラスミドは、lacオペレーター配列を用いてプロモーターを制御するためにLacIQリプレッサーのコピーを持っている。カナマイシン耐性遺伝子が、選択のためにベクター上にコードされている。pUSEC‐05IQと同様に、pUSEC‐06の基本ベクターは、pUCの複製起点を保持するpSP72であった。
pUSEC‐05IQと同様に、pUSEC‐06の有用性には2つの要素がある。pUSEC‐06ベクターは、分泌タンパク質の発現を増やす産生用運搬体(vehicle)として作用する。SecEおよびprlA‐4遺伝子が存在すると、Sec機構(machinery)の2つの不可欠な成分が増加することによって分泌速度が増幅される。したがって、タンパク質を分泌するための移行ドメイン(translocation
domain)に由来するSecEおよびSecY (prlA)は、これら2つの因子のレベルが上昇すると、移行ドメインの数を増加させることになる。移行能力が増加すると、過剰発現された分泌標的タンパクが、より高効率に周辺質膜全面から分泌されることが可能になる。最終結果は、条件増殖培地から得られた処理ペプチドがより大量に蓄積および回収されることである。
第2の有用性はpUSEC‐05IQに関する。pUSEC‐05IQおよびpUSEC‐06の両方にある6つの固有の制限部位が、多数の発現カセットをクローニングするための基礎をなしている。添付の概略図に記載した方法を用いて、分泌発現カセットのコピーを最大3つクローニングして1遺伝子性、2遺伝子性および3遺伝子性の発現クローンを作出することができる。ベクター上の遺伝子量を増加させるこの新規の方法は、他の発現系にも応用することが可能であろう。
pUSEC‐05IQおよびpUSEC‐06の全遺伝子構成要素のリストを表1に示す。
Figure 0005591447
好適な発現ベクターの概略
本発明は、上記の好適な汎用クローニングベクターを用いて容易に構築することができるコーディング領域および調節領域を含む発現ベクターをさらに提供する(図3A〜3C)。コーディング領域は、シグナルペプチドをコードする核酸から下流で同じ読み枠で結合している、目的とするペプチド産物に対する核酸を含む。調節領域はコーディング領域と機能できるように連結していて、複数のプロモーターおよび少なくとも1つのリボソーム結合部位を含み、プロモーターの少なくとも1つが、tacおよびlacからなるグループから選択される。
好適には、ベクターは、各カセットが本発明に係る調節領域およびコーディング領域を有する、タンデムに配置された複数の転写カセットを含む。このような2遺伝子性ベクターまたは多遺伝子性ベクターは、2シストロン性または多シストロン性の発現ベクターよ
りも良好な発現を提供すると考えられている。これは、先行技術によっては示唆されていないと考えられる2シストロン性または多シストロン性の発現を驚異的に改良する点である。
ベクターは、場合によって、調節領域において1つ以上のプロモーターと結合するオペレーターを抑制するリプレッサーペプチド、転写終結因子領域、選択マーカー領域、および/または、少なくとも1つの分泌促進ペプチドをコードする領域をコードする核酸をさらに含むこともできる。あるいは、いくつかの実施形態において、リプレッサーペプチドおよび分泌促進ペプチドをコードする核酸は、ペプチド産物を発現させるベクターと同一の宿主細胞において共発現される別のベクター上に存在することができる。
構築された発現ベクター、およびこのようなベクターを構築する方法の具体例は本明細書に記載(set forth intra)されていない。市販のベクターの多くが、本発明の好適なベクターのための開始ベクターとして利用することができる。本発明に係るベクターの好適な部位のいくつかは、すでに開始ベクターに含まれているため、本発明に係るベクターを得るのに必要となる修飾の回数を比較的少なくすることができる。好適な開始ベクターはpSP72およびpKK233‐2などであるが、これらに限定されるものではない。ただし、もっとも好適な開始ベクターは、本明細書で以下に記載するpUSEC‐05IQおよびpUSEC‐06汎用直接発現用クローニングベクターを含む、本発明に係るクローニングベクターである。
本発明に係る新規のベクターは、そのベクターに特有の長所を付与すると考えられ、かつ、本明細書において特に有用であると同定された特定の宿主以外の宿主細胞において利用されても、また、本明細書に記載した改良された発酵法が利用されるか否かにかかわらず、それら予想外の長所が存在するはずであると考えられている。
新規の発酵法は、その発酵法によってもたらされる特有の長所によって収率の増大を提供すると考えられる。本明細書に記載した好適な宿主細胞および/または新規ベクターが使用されると、これらの利点は特に明確になると考えられる。
上記にもかかわらず、本発明の1つの好適な実施形態では、具体的に特定されている本発明の宿主細胞に形質転換され、本明細書記載の好適な発酵法の発明を用いて発現される、本発明に係る改良型発現ベクターを同時に使用する。これら3つの発明のすべてを組み合わせて用いる場合、先行技術と比べて、産物の収率および回収が著しく促進すると考えられる。
調節領域
調節領域はコーディング領域に機能できるよう連結されており、プロモーターの少なくとも1つがlacおよびtacからなるグループから選択される複数のプロモーター、および少なくとも1つのリボゾーム結合部位を含む。意外にも、単一の調節領域においてプロモーターを前記した通りに組み合わせると、(より詳細には本明細書に記載されているように)コーディング領域によって産生されるペプチド産物の収率が増加することが分かっている。このような2つのプロモーターは、概して重複した機能を提供するが、付加的または相乗的効果をもたらさないと予想されていた。意外なことに、本出願人らによって行われた実験により、請求の範囲に記載されたプロモーターを組み合わせて用いると相乗効果が示された。他のプロモーターも当技術分野において知られており、本発明に従って、tacおよびlacプロモーターと組合せて用いることができる。このようなプロモーターにはlpp、ara B、trpE、gal Kなどがあるが、これらに限定されるものではない。
好適には、調節領域は、まさに2つのプロモーターを含む。プロモーターの1つがtacである場合には、tacプロモーターは、調節領域にある別のプロモーターの5´側にあることが好適である。プロモーターの1つがlacである場合には、lacプロモーターは、好適には調節領域にある別のプロモーターの3´側にある。1つの実施形態において、調節領域はtacプロモーターおよびlacプロモーターの両方を含み、好適にはlacプロモーターがtacプロモーターの3´側にある。
コーディング領域
コーディング領域は、シグナルペプチドをコードする核酸から下流方向に同じ読み枠内で結合している目的のペプチド産物をコードする核酸を含み、それによって、このコーディング領域は、N末端からC末端までそれぞれ、シグナルおよびペプチド産物を含むペプチドをコードしている。理論に拘束されるわけではないが、シグナルは、ペプチド産物を周辺質に分泌するのに関与することに加えて、タンパク質分解からペプチド産物をある程度保護することができると考えられている。
多くのペプチドシグナル配列が知られており、本発明に従って用いることができる。これらには、十分に特徴が分かっている宿主細胞の外膜タンパク質のシグナル配列、ならびに、ペプチド産物を周辺質に移行させることができる任意の配列、および移行した結果、移行後宿主によって切断されることができる任意の配列が含まれる。有用なシグナルペプチドには、Omp A、pel B、Omp C、Omp F、Omp T、β‐la、Pho SおよびStaph Aなどがあるが、これらに限定されるものではない。
ペプチド産物は、好ましくは、本発明がなければ、従来の技術を用いる融合パートナーを通常は必要とするほど小さい。典型的には、ペプチド産物は、分子量が10 KDaよりも小さい。より好ましくは、ペプチド産物はC末端グリシンを有し、C末端グリシンをアミノ基に変換する酵素アミド化反応の前駆体として用いられて、アミド化ペプチドをもたらす。このような変換については、さらに以下で詳細に説明する。生物学的に重要なペプチドホルモンおよび神経伝達物質の夥しい数のものが、この型のアミド化ペプチドである。例えば、コーディング領域によってコードされるペプチド産物は、サケカルシトニン前駆体またはカルシトニン遺伝子に関連したペプチド前駆体であり、その両者がC末端グリシンを有し、そのどちらも酵素的にアミド化されて成熟型サケカルシトニンまたは成熟型カルシトニン遺伝子に関連したペプチドとなることができる。本発明に従って生産することができるその他のアミド化ペプチドには、成長ホルモン放出因子、血管作用性小腸ペプチドおよびガラニンなどがあるが、これらに限定されるものではない。その他のアミド化ペプチドも当技術分野においてよく知られている。
副甲状腺ホルモンのアナログも、本発明に従って産生することができよう。例えば、副甲状腺ホルモンの最初の34アミノ酸を持つペプチドは、34アミノ酸アナログをアミド化したものとして、副甲状腺ホルモン自体の機能と同様の機能を提供する。後者は、本明細書に記載された発現系および方法の1つ以上に従って、後ろにグリシン35が続く、副甲状腺ホルモンの最初の34アミノ酸を発現させて産生させることができる。そして、本明細書に開示された酵素的アミド化によって、グリシンをアミノ基に変換できよう。例えば、ヒト副甲状腺ホルモンアナログであるPTH 1‐30およびPTH 1‐31など、副甲状腺ホルモンのその他のアナログも、アミド化型であっても非アミド化型であっても好適である。
本明細書に記載された直接発現系の好適な実施形態は、C末端グリシンをもつペプチドを産生させるが、任意のペプチドでも、本明細書に記載されたベクター、宿主および/または発酵技術を利用して、良好な収率および容易な回収という恩恵を受けると考えられる。
本発明の好適なベクター、または本発明のリプレッサーベクターと同じ宿主の中で発現される他のベクターのその他の随意の態様
場合によって、本発明の好適なベクターは、少なくとも1つのプロモーターによって制御される発現を抑制する能力をもつリプレッサーペプチドをコードする核酸を含むことができる。しかし、あるいは、リプレッサーペプチドをコードする核酸は、本発明のベクターをもつ宿主細胞の中で別のベクター上に存在することもできる。多数のオペレーターに対して適当なリプレッサーが当技術分野において知られている。そのどちらか少なくとも一方が本発明に係る好適なベクターの中に常に存在するtacおよびlacプロモーターとともに含まれるlacオペレーターを抑制することから、好適には、本発明の好適な実施形態において、リプレッサーをコードする核酸はlacリプレッサーをコードする。
選択マーカー
多数の選択マーカー遺伝子(例えば、カナマイシン耐性をコードする遺伝子)の任意のものが、本発明のベクターの中に存在することが好ましい。これによって、本発明の新規ベクターによって効率的に形質転換または形質移入された宿主細胞を適切に特異的に選択することが可能となる。
分泌促進ペプチド
少なくとも1つの分泌促進ペプチドをコードする核酸が、場合によっては、本発明のベクター中に存在していてもよい。あるいは、分泌促進ペプチドをコードする核酸は、ペプチド産物をコードするベクターと同じ宿主細胞内で発現される別のベクター上に存在することも可能である。好適には、分泌促進ペプチドはSecY (prlA)またはprlA‐4からなるグループから選択される。SecYおよびprlAは同一のものであり、当技術分野において同義語として用いられていることが指摘されている。prlA‐4はprlAの公知の改変体であり、同様の機能を持っている。別の好適な分泌促進ペプチドは、「SecE」の同義語として用いられる用語である「prlG」としても知られるSecEである。最も好適には、少なくともその1つがSecEであり、他方がSecY (prlA)およびprlA‐4からなるグループから選択される複数の分泌促進ペプチドがコードされている。この2つのものは相互作用して、ペプチド産物が細胞質から周辺質へ移行するのを補助すると考えられている。理論に拘束されるわけではないが、これらの分泌促進ペプチドは、分泌促進機能に加えて、ペプチド産物を細胞質プロテアーゼから保護するのに役立つ可能性もある。
異種ペプチドを産生させる方法
ペプチド産物が高収率で培養培地に拡散または排出されるのを可能にする培養条件下で、非常に高い細胞密度まで宿主細胞を増殖させる新規の発酵条件が提供される。
新規の発酵法において有用な宿主細胞には、上記で検討した宿主細胞、および/または上記で検討した新規の発現ベクターの1つ以上によって形質転換または形質移入された宿主細胞などがあるが、これらに限定されない。シグナル領域とともにペプチド産物を発現させるよう遺伝子操作された他の宿主細胞を用いることもできる。細胞は、空気またはその他のガス、炭素源、およびその他の成分を培地に供給する適当な手段、およびプロモーターを誘導する手段を好適に含む発酵槽に入れられる。酸素含有量、細胞密度、pHなどをモニターする適当な手段も好適である。
本出願人らは、1時間当り0.05〜0.20ダブリングの限界範囲内で平均細胞増殖速度を慎重に制御すると、培養培地に直接発現するペプチド産物の収率が顕著に改善されることを発見した。このような制御された増殖は、培養の早期遅滞期に始まることが好適である。発酵期間(すなわち、本明細書に示されているように、増殖が制御されている期
間)中、平均細胞増殖速度を1時間当り0.10〜0.15ダブリングに、最も好適には1時間当り0.13ダブリングに維持することがより好ましい。増殖速度は、下記の「sCTglyの産生(発酵)、」と題された項に示されているパラメータのいずれか、特に供給速度「Q」を無数の他のパラメータと等式にする式を調整することによって制御することができる。本出願人らは、炭素源を発酵中の細胞に供給する速度を変えることが増殖速度を限界範囲内に維持する有利な方法であることを発見した。増殖速度を相対的に一定に維持するために、発酵槽の中に供給する炭素源の量を細胞の数の増加に比例して増加させる傾向がある。
本出願人らは、制御された増殖の該発酵期間中に誘導物質およびビタミンを供給することにより、顕著に改善された収率が得られることも発見した。炭素源と同様、適量の誘導物質を供給することは、細胞の数の増加に比例して供給速度を増大させることを含む。炭素源と誘導物質の供給量がともに細胞増殖に連動して好適に増加するため、供給物と誘導物質を一緒に混合し、この2つの混合物を、細胞増殖を制御するのに適した速度で(炭素源とともに)供給して、炭素源の量に対して一定の比率に留まっている誘導物質の持続的な供給を同時に維持することが有利であることを、本出願人らは発見した。しかし、炭素源と誘導物質を別々に供給することももちろん可能である。しかし、その場合にも、大量になると細胞に対して毒性を有する可能性がある化学誘導物質が用いられるならば、ある任意の時間に加えられる誘導物質の、その同じ時間に加えられる炭素源に対する重量比が、発酵処理過程全体で加えられる炭素源の量に対する、発酵処理過程(制御された増殖期間)全体で加えられる誘導物質の量の比から50%を超えて変動しないような量にして、誘導物質および炭素源を培養の各時間に加えることが望ましい。50%の変動は、比較される2つの比の低いほうの比率から測定される。例えば、発酵全体で炭素源対誘導物質の比が2:1である場合、ある任意の時間における比は、好適には3:1以下、1.333:1以上である。培養物の温度を変えたり、または特定の化合物または養分の濃度を変えたりという別の手段によって、増殖期間中に1つ以上のプロモーターを誘導することも可能である。
外部からの炭素源の供給が細胞増殖を調整する方法として用いられる場合、最初から(外部から炭素を供給する前から)培地にあった炭素源が枯渇して、外部炭素の供給が開始されなければ、それ以上細胞増殖を支えることができなくなるまで待つことが有用である。これによって、外部からの供給が、初期(非供給)炭素源からの顕著な干渉を受けることなく、細胞増殖に対してより直接的な制御を及ぼすことが保証される。溶解酸素の濃度を測定しつつ、好適には、酸素源を継続的に発酵培地に供給する。酸素濃度の突然の上昇は、細胞増殖の顕著な低下を示し、それは言い換えると、初期炭素源の枯渇を示し、外部からの供給を開始すべき時であることを意味する。
発酵培地の酸素飽和率が高くなるに従って、ペプチド産物の収率が増加することが偶然発見された。これは、酸素飽和率が小さくても細胞増殖を十分維持できる場合でも同様である。従って、全発酵処理過程にわたり、酸素源または酸素冨化源が発酵培地に供給され、少なくとも20%、好適には少なくとも50%の酸素飽和率が達成されていることが好適である。本明細書において「酸素飽和率」とは、培地が普通の空気で完全に飽和しているときの発酵培地における酸素のパーセント比率のことである。言い換えれば、空気で飽和している発酵培地は、100%の「酸素飽和率」である。発酵培地における酸素飽和率を100%を大きく超えたまま、すなわち空気の酸素含有量を超えた状態で維持することは困難ではあるが、これは可能であり、酸素含有量が多いほど収率が増加することを考慮すれば一層望ましい。これは、空気より酸素含有量が多いガスを培地に散布することにより達成可能である。
発酵培地の酸素飽和率を70%以上、特に80%以上に維持することによって、収率を
顕著に改善することができる。このようなレベルは比較的容易に維持できる。
より急速に攪拌すると、酸素飽和率を高めることができる。発酵培地が濃くなり始めると、酸素飽和率を維持するのがより困難になるため、少なくともこの段階では、空気よりも酸素含有率が高いガスを供給することが推奨される。本出願人らは、発酵期間の比較的後期に至るまで、良好な酸素飽和率を維持するのに普通の空気で十分であることを発見した。本出願人らは、発酵期間後半に空気供給量を50%の酸素供給量または100%の酸素供給量で補った。好適には、宿主細胞を(制御された増殖を開始した後)20〜32時間、より好適に22〜27時間、さらに好適に約23〜26時間、および、最も好適に約24時間培養する。制御された増殖が続く培養期間は、炭素源勾配供給段階、およびそれに続く炭素源定量供給段階の2つの段階に分けられる。両段階の期間中、誘導物質およびビタミンは常に添加される。勾配供給段階は、好適には約12〜18時間、より好適に約15時間行われ、一方、定量供給段階は好適には約7〜11時間、より好適には約9時間行われる。
好適には、宿主細胞は、20℃〜35℃の温度で、より好適には28℃〜34℃、さらに好適には31.5℃〜32.5℃で培養される。32℃という温度が、本出願人らによって行われた数回の発酵において最適であることが判明している。
好適には、培養培地のpHは6.0〜7.5、より好適には6.6〜7.0であるが、6.78〜6.83(例えば6.8)が特に好適である。
好適な実施形態において、発酵は、tacおよびlacの両プロモーターを含む調節領域、およびサケカルシトニン前駆体をコードするヌクレオチドの上流にシグナルペプチドをコードするヌクレオチドを含むコーディング領域を有する発現ベクターによって形質転換された宿主を用いて行われる。このような発現ベクターは、好適には、複数の、特に2つの転写カセットをタンデムに含む。本明細書において「タンデムに並んだ転写カセット」という用語は、調節領域およびコーディング領域に、少なくとも1つの追加的調節領域、および、最初のコーディング領域と同じペプチド産物をコードする少なくとも1つの追加的コーディング領域が続いていることを意味する。これは、2つのコピーのコーディング領域の発現を単一の調節領域が調節する2シストロン性発現と区別されるべきである。この定義によって、ペプチド産物に関係しないコーディング領域内の変更、例えば、第1の転写カセットにおいてコードされているものとは異なるシグナルペプチドをコードするヌクレオチドを第2の転写カセットに挿入することなどが可能となる。
当技術分野においては無数の炭素源が知られている。グリセロールは効果があると判明している。好適な誘導法には、IPTGおよび/またはラクトースなどの化学的誘導物質の添加などがある。温度シフト法または養分量を変えることなど、他の方法も用いられる。調節領域に存在するオペレーターまたはプロモーター(または、1つ以上のプロモーターが調節領域に存在する場合に用いられる複数のプロモーターの1つ)に適した他の誘導技術を用いることも可能である。
上記で検討された好適な増殖速度内で発酵培地における細胞の増殖が持続不能となるのとほぼ同時に、ペプチド産物の産生が著しく低下することがよくある。その時点で、発酵を停止して、炭素源および誘導体の供給ならびに酸素の流入を中止する。好適には、培養物をすばやく冷却してプロテアーゼの活性を抑制し、ペプチド産物が分解されないようにする。また、タンパク質分解活性を実質的に低下させるレベルにまでpHを変更することも望ましい。本発明の好適なベクターおよび宿主細胞を用いてサケカルシトニン前駆体を産生させる場合には、pHが低下するにつれてタンパク質分解活性が低下する。このような酸性化を、好適には培地の冷却と同時に進行させる。好適なpHの範囲を以下でより詳
細に検討する。発酵産物の測定に用いられているのと同じアッセイ法を用いて、さまざまなpHレベルにおける分解を測定して、所定のペプチドおよびその不純物にとって最適なpHを設定することができる。
異種ペプチドの回収
本発明は、宿主細胞を培養培地から分離する工程、および、その後、培養培地を、ゲル濾過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー(ペプチドがカルシトニンである場合は、好適には陽イオン交換クロマトグラフィー)、逆相クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、および疎水性相互作用クロマトグラフィーからなるグループから選択される少なくとも1種類のクロマトグラフィーにかける工程を含む、ペプチド産物を回収する方法をさらに提供する。システイン残基を含有するペプチドにおいては、ペプチドの凝集を阻止して単量体ペプチドの収率を増大させるために、精製工程の前またはそれと同時にS‐スルホン化を行うことができる。好適には、3つのクロマトグラフィー工程を、イオン交換クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、および別のイオン交換クロマトグラフィーという順に用いる。
発酵が完了してから、場合によっては、タンパク質分解活性を低下させるために培養培地のpHを変える。産物の産生を測定するために用いられるアッセイ法は、産物の分解を測定したり、安定させるのに最適なpHを決定したりするためにも用いることができる。本発明に従ってサケカルシトニン前駆体を生産する場合、pH 2.5〜4.0が好適であり、3.0〜3.5が特に好適である。これらのpH範囲は、サケカルシトニン前駆体を陽イオン交換コラム上に保持するのに役立つため、本明細書に記載された好適な精製技術過程でより良好な精製を提供すると考えられる。
また、場合によっては、培地の温度を、発酵完了後に10℃より低く、好適には3℃〜5℃、最も好適には4℃にまで下げる。こうすれば、望ましくないプロテアーゼ活性も抑制できると考えられる。
本発明は、アミド化ペプチド産物を生産する方法であって、C末端グリシンを有するペプチド産物を発現する本発明の宿主細胞のいずれかを培養培地の中で培養する工程、該ペプチド産物を該培養培地から回収する工程、ペプチジルグリシンα‐アミド化モノオキシゲナーゼ、またはペプチジルグリシンα‐ヒドロキシル化モノオキシゲナーゼの存在下、該ペプチド産物を酸素および還元剤に接触させることによって該ペプチド産物をアミド化する工程を含む方法をさらに提供する。ペプチジルグリシンα‐アミド化モノオキシゲナーゼが、上記したところで使用されず、また、反応混合液がすでに塩基性でない場合には、反応混合液が塩基性になるまで、反応混合液のpHを上昇させる。それから、反応混合液からアミド化ペプチドを回収する。
実施例1:宿主細胞における細胞外ペプチド産物分解に関与する標的遺伝子の同定
概要
以下に説明する通り、本出願人らは、sCTgly直接発現発酵プロトコルの誘導期後18〜26時間の間、1時間当り最大25%の割合で細胞外sCTglyを分解するのに関与する大腸菌メタロプロテアーゼを同定した。sCTglyの分解は、17時間より前でも未定の割合で生じる。以下に詳述する実験によって、sCTglyの分解に関与するプロテアーゼが、大腸菌のptr遺伝子に由来するプロテアーゼIIIであることが示された。
緒言
プロテアーゼIIIは、12 kDaよりも小さなペプチドを選択的に分解する107
kDaの亜鉛メタロプロテアーゼである。文献によれば、プロテアーゼIIIの活性は
、キモトリプシンの性質に似ていることが示されている。プロテアーゼIIIは、インスリンのB鎖をTyr‐Leuの間、およびPhe‐Tyrの間でゆっくりと切断する。プロテアーゼIIIには重要な生理学的役割はないと考えられているため、それを欠失させても、宿主の増殖に有害な効果をもたらさない(Dykstra et al. J. Bacteriol. 163: 1055‐1059; 1985)。特に、分泌増加期の間、プロテアーゼIIIの活性が増殖培地中にしばしば見られた(Diaz‐Torres et al. Can. J. Microbiol. 37: 718‐721; 1991)。本実験では、発酵過程で培養培地におけるタンパク質分解活性が原因となって我々のモデルペプチドであるsCTglyが消失することを調べる実験、およびプロテアーゼIIIの活性を除去するための大腸菌株の変異誘発についてまとめる。
タンパク質分解および同定
条件培地におけるsCTglyの分解
細胞を除去し、sCTglyを添加した培地を30℃でインキュベートした後のsCTglyの減少について、UGL165(pSCT 029によって形質転換された大腸菌BLR)およびUGL703(pSCT 038によって形質転換された大腸菌BLR)の2つの直接発現発酵物から得た条件培地サンプルを試験した。条件発酵培地中のsCTgly濃度をCEX HPLCによって測定した。表2は、UGL703の発酵物から回収された26時間目の培地サンプルから、sCTgly分解を標準的に試験したデータを示している。ベスタチン(Bestatin)、PMSF、α‐マクログロブリン、およびEDTAを含む、さまざまなプロテアーゼインヒビターを、sCTglyのタンパク質分解を低下または消滅させる能力について調べた。EDTAだけがsCTglyのタンパク質分解を低下させることができた。EDTAは、活性に必要とされる2価陽イオンに結合することによってメタロプロテアーゼを不活性化する。EDTAは、sCTglyのタンパク質分解を低下させることができたが、活性がより低い別のプロテアーゼまたは残存プロテアーゼIII活性の結果であるらしい残存sCTgly分解がいくらかあった。
Figure 0005591447
1.25Lの発酵物から誘導後約18時間目にもsCTglyの分解の割合を調べた。組換え体sCTglyを、誘導後18時間で回収した培地に添加して、sCTglyの濃度を37mg/Lからほぼ200mg/Lに上昇させて、30℃で4時間保温した後、上記したようにsCTglyを解析した。結果を表3に示す。
Figure 0005591447
試験した18時間サンプルにおける、4時間が経過するまでの1時間あたりのsCTglyの平均分解率は21%で、回収された発酵培地で見られたsCTglyの分解率と類似していた。この結果は、誘導後18時間から、発酵培地におけるsCTglyの分解は一定になることを示している。
一次的細胞外プロテアーゼの同定
以前の実験によって、sCTglyの一次分解に関与するプロテアーゼがメタロプロテアーゼであることが示された。大腸菌プロテアーゼIIIは、周辺質/細胞外の亜鉛メタロプロテアーゼである(宿主(Dykstra et al. J. Bacteriol. 163: 1055‐1059, 1985;分泌(Diaz‐Torres et al. Can. J. Microbiol. 37: 718‐721,1991)。他の2価陽イオンであるマグネシウムと比較したときの亜鉛に対する選好性を試験した。発酵培地サンプルを50 mM EDTAとともに20分間予め保温した後、sCTglyを最終濃度が約250 mg/Lになるようサンプルに加えた。15 mMのMgClまたはZnClを別々のサンプルに加えて、30℃で4時間保温した。sCTglyの濃度を上記したように測定し、その結果を表4に示す。
Figure 0005591447
未処理の条件培地に加えられたsCTglyは、4時間インキュベートすると87%が分解された。sCTglyを加える前に条件培地をEDTAで事前処理すると、減少率は34%になった。MgClおよびZnClを加えると、ペプチドの減少率は、それぞれ27%および72%になった。分解結果のグラフは、対照サンプルとZnClのサンプルとで同じような分解速度を示し、また、EDTA処理サンプルとMgCl処理サンプルとで同じような速度を示している。タンパク質分解活性を再活性化するために2種類の2価陽イオンを加えたところ、亜鉛は効果的であるが、マグネシウムは効果的でないことが示された。
問題のプロテアーゼの2価陽イオン特異性を試験する以外にも、大腸菌株KS272およびSF103を用いて実験を行った。大腸菌SF103は、ptr遺伝子が破壊されて
いるK12系統菌株である(上記)。KS272は、SF103の親菌株であり、野生型のptr遺伝子を保持している。UGL177(KS272+ pSCT 029)およびUGL178(SF103 + pSCT 029)で発現されるsCTglyのタンパク質分解を試験する発酵実験を行った。
第1の実験では、UGL177およびUGL178の非誘導発酵物0.5 Lの中に、sCTglyを、供給時間t=0で200 mg/Lの濃度になるまで添加した。sCTglyが添加されていない各菌株の対照となる発酵も行った。供給を開始してから4、18および20時間後に4種類の発酵物から得られた条件培地のサンプルを回収した。18時間後のサンプルを回収するまでに、両培養物は増殖を停止し、細胞が死滅および溶解する徴候を示していた。増殖に問題があったことから、供給後4時間の時点で採取したUGL177および178の発酵物から採取した培地のみをタンパク質分解活性について試験した。4時間後の時点で回収した4種類の培地サンプルに、sCTglyを200 mg/Lになるよう添加した。sCTglyを添加したサンプルを分割して、一方のセットを、対照として、50 mMにしたEDTAで処理した。8つのサンプルを室温で20時間保温した(誘導後4時間では細胞密度が低かったため、保温時間を延長して用いた)。保温した結果を表5に示した。最初にsCTglyを発酵物に添加したことにより、4つの培地サンプルのsCTgly濃度を評価した。
Figure 0005591447
これらのデータは、親菌株と比較して、プロテアーゼIIIが存在しない菌株から得られた条件培地ではsCTglyの分解量に違いがあることを示している。親菌株は、プロテアーゼIIIが存在しない菌株に比べ、条件培地サンプルにおいてほぼ4倍のsCTgly減少を示した。EDTAで処理した場合でも、親株内でのsCTglyの分解は、プロテアーゼIIIが存在しない菌株よりも約2倍多く、EDTA処理したサンプルにおける分解が、部分的にはプロテアーゼIIIの不完全な不活性化によるものであることを示唆している。
第2の実験では、各菌株が、sCTglyの発現を持続させることができるかを試験した。2つの大腸菌株UGL177および178を増殖させて、CBK. 025と同じような直接発現発酵プロトコルを用いて誘導した。誘導してから10、12、14、16および17時間後に解析するために条件培地サンプルを回収した。この2つの発酵培養物が同じような増殖速度を示しため、ptr遺伝子の欠失は培養物の生存率に影響しないことが確認された。ただし、上記実験におけると同様、どちらの培養細胞も、誘導後16から
17時間で死滅した。高細胞密度での直接的発現発酵プロトコルにおける大腸菌K‐12菌株の以前の試験では、発酵プロトコルの中間段階において培養細胞の生存率が低下することが示された。回収時点について各培養物からのsCTgly産生を表6に示す。
Figure 0005591447
表Vに列挙された結果は、ptr遺伝子を欠失した菌株だけが、定量可能な量のsCTglyを蓄積できたことを示している。上記の結果は、産生用大腸菌株において大腸菌プロテアーゼIIIを抑制または除去すると、sCTglyの産生における利点がもたらされることを示唆している。
タンパク質分解活性によるsCTgly減少量の推定
30℃でUGL703(BLR中のpSCT038)を発酵させる間、1時間当り20%という控え目なsCTglyの減少量を仮定すると、発酵のその後の段階で減少するsCTglyの総量を計算することが可能になる。この見積もりは、誘導後17から26時間までの発酵2301‐9004から得たsCTgly産生データに基づいていた。連続した時間の各組合せのsCTgly濃度を平均した。そして、1時間当りの平均分解割合を20%と仮定し、平均sCTgly濃度に0.2を乗じて、分解されるsCTglyの量を計算した。1時間ごとに、9時間にわたって失われるsCTglyの量が累積すると仮定して、1時間当りに失われるsCTglyの量を推定することができよう。この推定結果を表7に示す。
Figure 0005591447
条件培地だけから分解量を推定した。細胞の中で起きる分解は計算することができないため省いた。表7に示す結果は、発酵の間、最大171.5 mg/LのsCTgly減少があることを示唆している。20%の分解が起こらなかったならば産生されたであろう全sCTglyは360 mg/1と推定され、細胞株UGL703を用いた産生能力よりも約91%高い。
実施例2‐プロテアーゼ欠損大腸菌の構築
大腸菌BL21におけるptrおよびrecAの機能の破壊
プロテアーゼIIIをコードするptr遺伝子、およびrecA遺伝子のコーディング領域を破壊して大腸菌BL21を改変した。P1による形質導入を用いて、大腸菌SF 103のDNAをP1バクテリオファージにパッケージングして、大腸菌BL21の細胞に感染させるために用いた。ファージと細胞の混合液を、クロラムフェニコールを含むLB寒天平面培地で平面培養したが、クロラムフェニコール破壊ptr遺伝子を含む細胞だけが、クロラムフェニコール存在下で増殖することができるはずである。10個のクロラムフェニコール耐性形質導入体が、例えば、ラクトース上で増殖する能力およびストレプトマイシン感受性のようなBL21の遺伝子マーカーについても確認された。得られた菌株BL21Δptrを、recA遺伝子型をもつ大腸菌株BLRを用いたP1形質転換法によってさらに改変した。BLR由来のテトラサイクリン破壊recA遺伝子をBL21Δptrに形質導入するために用いて、BL21ptr recA菌株を作出した。20個のBL21 ptr recA形質導入体を同定した。20個の単離株にはBLM1〜20の名前が付与された。
大腸菌BLM菌株を用いた発現解析
8つの大腸菌BLM菌株BLM1〜8を、sCTgly発現ベクターpSCT‐038で形質転換し、UGL801と名づけた。振とうフラスコの中で、sCTglyの発現について、各形質転換から2つの単離株をスクリーニングした。50 ug/mLのカナマイシンを含む25 mLのCPM接種用培地Iに、各クローンを一晩培養したものから700μLを採って接種した。OD 600 nmが2〜3になるまで培養液を増殖させてから150μMのIPTGにより誘導し、さらに4時間増殖させた。4時間後のサンプルおよびUGL703対照についての結果を表8に示す。UGL801クローンのうち6個は、CBK. 025に概説されている直接発現用プロトコルを用いて、1.25リットルの発酵液の中でもスクリーニングした。各発酵液から選択されたサンプルから得られた結果を表9に示す。
振とうフラスコでの実験からの条件培地において、12個のクローンが検出可能なレベルのsCTglyを産生した。12個のクローンのsCTglyのレベルは、誘導してから3〜4時間後増加した。これに対し、UGL703対照は、誘導してから3〜4時間後に増加を示さなかった。12個のクローンの増殖はよく似ていたが、2つのUGL801‐6クローンは例外で、有意に低い細胞密度になった。
Figure 0005591447
6つのクローン(UGL801‐la、2a、3a、4a、5a、および6a)を、直接発現発酵プロトコルを用いて、sCTglyの発現について1.25 Lの発酵液の中でテストした。すべての発酵液で170 mg/Lよりも多い量のsCTglyが産生され、ほとんどが200 mg/Lを上回る最大産生量を示した。UGL801‐6a以外のクローンはすべて、発酵プロトコルが終了する誘導後26時間が経過する前に最大レベルのsCTglyを産生した(表9参照)。これらの発酵物からのサンプルには、標準的な手順どおりにpHを3.0に調整した後は大量の沈殿物が含まれていた。この現象の唯一の例外がUGL801‐6aであり、誘導後26時間経過するまでsCTglyを産生した上、pHを3.0に調整した培地サンプル中には沈殿物が見られなかった。また、UGL801‐6aは、誘導後26時間たった条件培地において、256 mg/Lに達する最高発現量のsCTglyを産生した。UGL801‐6aは、表9に示したすべての実験の中で最も高い細胞湿重量も示した。試験発酵から得られたデータに基づいて、UGL801‐ 6aを、sCTgly産生法を更に開発してゆくために選択した。対応する宿主菌株BLM‐6(ATCCアクセッション番号PTA‐5500)を、他のペプチド遺伝子含有プラスミドを挿入するための好適な細胞株として使用した。
Figure 0005591447
ここで、UGL801‐6aを、UGL801(ATCCアクセッション番号PTA‐5501)と名づけ、さらなる開発および生産規模を拡大するために選択した。大腸菌宿主菌株BLM‐6(F ompT hsdS(r ) gal dcmΔ(srl‐recA)306::Tn10(Tc)ptr32::ΩCat)(ATCCアクセッション番号PTA‐5500)は、UGL801の宿主であり、発現細胞株にとって好適な宿主であるとして使用される。したがって、PTH1‐31glyおよびPTH1‐34glyを発現する発現ベクターを挿入するためにBLM‐6を用い、それぞれ、細胞株UGL810(ATCCアクセッション番号PTA‐5502)およびUGL820 (ATCCアクセッション番号PTA 5569)を作出した。
実施例3‐UGL801の発酵プロトコル
上記したとおり、プラスミドベクターpSCT038を用いてBLM‐6宿主菌株を形質転換してUGL801組換え細胞株を得た。新しい細胞株UGL801のために最適化された発酵条件の開発を、UGL703の直接発現(Direct Expression)条件(細胞株UGL703は、プラスミドpSCT038を含有する大腸菌BLRである)を用いて、sCTglyを生産するためのUGL801細胞株を評価することから開始した。この条件は、UGL703のために開発された培地の中で、30℃、pH6.6、dO≧70%、26時間にわたる誘導供給(induced feed)して行われる基質制限された流加発酵である。開始時のDE発酵プロトコルでは、容量收率が200 mg/Lよりも低く、特異的收率は、細胞の湿細胞重量1グラム当り約1. 3 mgという結果であった。宿主細胞の改変によって宿主細胞BLM‐6と、組換え細胞株であるUGL801がもたらされ、UGL703の発酵条件下で試験すると、誘導後26時間で約1.3倍に容量増加を示して、200 mg/Lを上回り、かつ、特異的收率が、誘導後26時間で1.2倍の増加を示した。これらのデータを表10に示す。プロテアーゼのバックグラウンドが低下しており、かつ、増殖して発酵初期に未分解の組換えタンパク質を産生することができるUGL801細胞株を導入することで、收率および処理の信頼性が顕著に改善された。
Figure 0005591447
同じ発酵プロトコルで2つの細胞株を直接比較した後、温度上昇、供給/誘導プログラムの変更、新しい培地成分の供給、および供給/誘導時間の延長を含む、一連の発酵パラメータの最適化実験を行った。
温度上昇
新規宿主細胞BLM‐6を開発している過程で、発酵温度でのプロテアーゼ分解の特徴を調べたところ、先祖である宿主細胞BLRを用いると、30℃より高い温度でグリシン伸長されたペプチドが速やかに分解されることが示された。新しいプロテアーゼ欠損株のBLM‐6は、低い細胞外プロテアーゼアレイを示し、より高い温度で増殖して、場合によってはより大きな細胞塊およびより多い産物を産生することができるかもしれないことを示唆した。発酵pHを6.6で維持すると、両バッチおよび流加段階の全発酵の温度が32℃に上昇した。BLM‐6に基づく新規の組換え細胞株であるUGL801は、高い温度で良好に増殖してsCTglyを発現させた。表11から分かるように、発酵温度を上げると、新規の細胞株の容量生産性および特異的生産性が上昇した。
Figure 0005591447
図2のグラフから分かるように、高い温度での生産性は、発酵プロトコルのすべての流
加(供給)時間にわたって安定的というわけではなかった。さらなる開発のための調査が望ましい。
供給/誘導プローブの変更
細胞当りの生産性を高める目的で、UGL703(BLR::pSCT038)の直接発現発酵法のために開発された指数関数的供給プログラムを変更した。供給用培地を供給する速度を、誘導後20時間目の供給速度で誘導後26時間が経過するまで一定に保った。この変更の結果を表12に示す。
Figure 0005591447
新しい培地成分の添加
酵母抽出物を添加することで、細胞増殖に必要なビタミンおよび微量成分のほとんどが提供されると、一般的には仮定されている。しかし、これらの組換え細胞に対するタンパク質合成の要求が高まると、さらなるビタミンおよび微量成分が必要であることが認識された。供給用培地にビタミン/微量成分混合物を補ったところ、発酵実験の結果、この混合物を加えることで、発酵生産性に一定の安定性がもたらされることが示された。ビタミン/微量成分混合物の添加による生産性および再現性は、定常的供給時間を26時間よりも長くできるかもしれないことを示唆した。
Figure 0005591447
供給/誘導時間の延長
流加および誘導の発酵時間を延長することの実行可能性を評価した。延長の基礎となったのは、26時間まで延長したときに、細胞湿重量の増加が最低のままで細胞外ペプチドを定常的産生した20時間目での供給速度であった。供給用培地にビタミン/微量成分を補給したことにより、誘導時間の長さを26時間以上にしても発酵が十分に安定であることが示唆された。発酵の供給/誘導時間を徐々に29時間まで延長した。別のデータでは、29時間が、タンパク質の消失または細胞溶解の証拠なしに発酵物を生産する期間の限界であることが示唆されていた。20時間目に成立した一定の供給速度で、発酵供給/誘導時間を29時間まで延長した。
Figure 0005591447
大腸菌BLM‐6:: pSCT038であるUGL801について発酵法を開発・最適化したところ、UGL703条件での細胞株の生産性を、UGL801の最終的な最適化生産性に対して直接比較すると、細胞量(細胞湿重量)1グラム当りのsCTglyの細胞外産生が2.6倍に増加する結果となった。
以下の表15は、さまざまな発酵において使用された培地成分のリストである。
Figure 0005591447
結論
直接発現発酵プロトコルでは、UGL703は細胞外sCTglyを、容量レベルで200 mg/Lよりも少なく、細胞の湿細胞重量1グラム当り約1. 3 mgのペプチドという特異的生産性で産生した。宿主細胞BLM‐6の作出は、プロテアーゼのバックグラウンド量を低下させることによって生産性の第1の改善をもたらした。BLM‐6を、元のプラスミドベクターであるpSCT038の宿主として用いたところ、生産性が20〜30%改善されているUGL801が得られた。本書面に記載されている更なる改良は、容量および特異的な生産性を最適化するため発酵プロトコルに対して行われた。以下の表は、UGL703で開始し、新規の細胞株UGL801によって進められたもの、および、発酵プロトコルを最適化するために行われた4つの改良点の容量生産性および特異的生産性の比較を要約したものである。誘導後26時間のデータを比較すると、発酵法の改良点を合わせたものは、誘導後26時間のデータで比較すると、UGL801の容量生産性を2.2倍に上昇させた一方、誘導後26時間目の特異的生産性は3倍よりも大きく増加した(3.2倍)。時間を29時間まで延長したところ、約12%の容量増加があった。UGL703の26時間目の特異的生産性と比較すると、誘導後29時間目のUGL801の最終的な発酵プロトコルの特異的生産性が3.46倍上昇した。
Figure 0005591447
Figure 0005591447
本発明を具体的な実施形態と関連させて説明してきたが、その他多くの変更ならびに改変およびその他の用法が当業者には明らかになるはずである。したがって、本発明は、本明細書における具体的な開示内容によっては制限されず、添付した請求の範囲によってのみ制限される。
pUSEC‐03ベクターの構築(1A)、それを用いたpUSEC‐05ベクターの構築(1B)、さらにそれを用いたpUSEC‐05IQベクター(1C)(ATCCアクセッション番号PTA‐5567)の構築の概略図を示している。 pUSEC‐03ベクターの構築(1A)、それを用いたpUSEC‐05ベクターの構築(1B)、さらにそれを用いたpUSEC‐05IQベクター(1C)(ATCCアクセッション番号PTA‐5567)の構築の概略図を示している。 pUSEC‐03ベクターの構築(1A)、それを用いたpUSEC‐05ベクターの構築(1B)、さらにそれを用いたpUSEC‐05IQベクター(1C)(ATCCアクセッション番号PTA‐5567)の構築の概略図を示している。 pCPM‐00ベクター(2A)の構築、それを用いたpUSEC‐06ベクター(2B)(ATCCアクセッション番号PTA‐5568)の構築の概略図を示している。 pCPM‐00ベクター(2A)の構築、それを用いたpUSEC‐06ベクター(2B)(ATCCアクセッション番号PTA‐5568)の構築の概略図を示している。 ペプチドXという総称的ペプチドを分泌発現ベクターpUSEC‐05IQ(3A)にライゲーションして、pPEPX‐01を作製し、それをベクターpUSEC‐06とともに用いて1遺伝子性産生ベクターpPEPX‐02(3B)を構築し、それを用いて2遺伝子性産生ベクターpPEPX‐03を構築した概略図を示している。 ペプチドXという総称的ペプチドを分泌発現ベクターpUSEC‐05IQ(3A)にライゲーションして、pPEPX‐01を作製し、それをベクターpUSEC‐06とともに用いて1遺伝子性産生ベクターpPEPX‐02(3B)を構築し、それを用いて2遺伝子性産生ベクターpPEPX‐03を構築した概略図を示している。 ペプチドXという総称的ペプチドを分泌発現ベクターpUSEC‐05IQ(3A)にライゲーションして、pPEPX‐01を作製し、それをベクターpUSEC‐06とともに用いて1遺伝子性産生ベクターpPEPX‐02(3B)を構築し、それを用いて2遺伝子性産生ベクターpPEPX‐03を構築した概略図を示している。 図4は、pSCT‐038ベクター構築の概略図を示している。pSCT‐038を用いて大腸菌BLRおよびBLM‐6を形質転換して、それぞれUGL703およびUGL801というクローンを作出した。

Claims (26)

  1. リコンビナーゼAおよびプロテアーゼIIIをそれぞれコードする染色体遺伝子rec Aおよびptrに欠損がある、遺伝子操作された大腸菌。
  2. BLR菌株である、請求項1記載の遺伝子操作された大腸菌。
  3. ATCCアクセッション番号がPTA‐5500である、変異体BLR菌株BLM6。
  4. リコンビナーゼAおよびプロテアーゼIIIをそれぞれコードする染色体遺伝子rec Aおよびptrに欠損がある大腸菌宿主細胞であって、該宿主が、複数の転写カセットであって、各カセットが、(1)ペプチド産物をコードする核酸によるコーディング領域であって、シグナルペプチドをコードする核酸の3´側に同一の読み枠で結合した領域、および(2)このコーディング領域に機能できるよう連結している調節領域であって、複数のプロモーターを含む領域を含んでなる転写カセットをタンデムに含む発現ベクターを含有し、発現させる大腸菌宿主細胞。
  5. BLR菌株である、請求項4記載の宿主細胞。
  6. UGL801であり、ATCCアクセッション番号がPTA‐5501である、請求項4記載の宿主細胞。
  7. ペプチド産物を生産する方法であって、請求項4記載の宿主細胞を培養培地で培養すること、および、その後、宿主細胞が培養されていた培地からペプチド産物を回収することを含む方法。
  8. 最初に培地中に存在していた炭素源が、培地に外部の炭素源を導入しない限り宿主細胞の生命を支え続けてゆくことができなくなるレベルまで枯渇するまで外部の炭素源を培地に導入せず、その後、炭素源を、1時間当り0.05から0.20ダブリングという増殖速度を維持する割合で加える、請求項7記載の方法。
  9. 誘導方法が定常期の前に開始される、請求項7記載の方法。
  10. 誘導方法が、化学誘導因子を加えることによる、請求項9記載の方法。
  11. 誘導が、IPTGおよびラクトースからなるグループから選択された少なくとも1つの誘導因子を加えることによる、請求項10記載の方法。
  12. 誘導および定常期の間1時間毎に、誘導因子、炭素源、およびビタミンを、加えられる炭素源に対する誘導因子の重量比が、どの時間においても、全発酵期間中に加えられる比率から50%よりも大きく変動することがない量にして加えられる、請求項8記載の方法。
  13. 誘導後20から32時間宿主細胞を培養する、請求項9記載の方法。
  14. 誘導後22から27時間宿主細胞を培養する、請求項9記載の方法。
  15. 28から34℃の温度で宿主細胞を培養する、請求項9記載の方法。
  16. 31.5から32.5℃の温度で宿主細胞を培養する、請求項9記載の方法。
  17. 炭素源がグリセロールである、請求項12記載の方法。
  18. ペプチド産物を回収する工程が、
    (a)宿主細胞を培養培地から分離する工程、および
    (b)培地を逆相液体クロマトグラフィーにかけて、ペプチド産物を含む画分を回収する工程、および
    (c)工程(b)の該画分に陽イオン交換クロマトグラフィーを行う工程、および
    (d)その後、ペプチド産物を含む画分を回収する工程
    を含む、請求項7記載の方法。
  19. ペプチド産物を回収する工程が、
    (a)宿主細胞を培養培地から分離する工程、および
    (b)培地を陽イオン交換クロマトグラフィーにかけて、ペプチド産物を含む画分を回収する工程、および
    (c)工程(b)で回収された画分に逆相クロマトグラフィーを行って、ペプチド産物を含む画分を回収する工程、
    (d)工程(c)で回収された画分に陽イオン交換クロマトグラフィーを行う工程、および
    (e)その後、ペプチド産物を含む画分を回収する工程
    を含む、請求項7記載の方法。
  20. さらに、発酵が終了した直後に、産物のタンパク質分解が低下するレベルにまで培地のpHを変更する工程を含む、請求項7記載の方法。
  21. さらに、発酵が終了した後、培地の温度を10℃未満に低下させる工程を含む、請求項7記載の方法。
  22. アミド化ペプチド産物を生産する方法であって、
    (a)請求項4記載の宿主細胞を培養培地の中で培養する工程であって、ペプチド産物がC末端グリシンを含んでいる工程、
    (b)該ペプチド産物を該培養培地から回収する工程、および
    (c)該C末端グリシンをアミノ基に変換して、該ペプチド産物をアミド化ペプチドに変換する工程を含む方法。
  23. アミド化ペプチドへの変換が、
    (a)ペプチジルグリシンα‐アミド化モノオキシゲナーゼ、またはペプチジルグリシンα‐ヒドロキシル化モノオキシゲナーゼの存在下で、ペプチド産物を酸素および還元剤に接触させることによって反応混合液を形成する工程、
    (b)工程(a)において、ペプチジルグリシンα‐アミド化モノオキシゲナーゼが使用されず、また、反応混合液が既に塩基性でない場合、反応混合液が塩基性になるまで、反応混合液のpHを上昇させる行程、および
    (c)該反応混合液から該ペプチド産物を回収する工程
    によって行われる、請求項22記載の方法。
  24. アミド化ペプチドを回収する工程が、陽イオン交換クロマトグラフィーおよび逆相クロマトグラフィーからなるグループより選択される工程を少なくとも1つ含む、請求項23記載の方法。
  25. ATCCアクセッション番号がPTA‐5502である、組換え細胞株UGL810。
  26. ATCCアクセッション番号がPTA‐5569である、組換え細胞株UGL820。
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