JP5588962B2 - プロテアーゼ測定用蛍光プローブ - Google Patents

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Description

本発明はプロテアーゼ測定用の蛍光プローブに関するものである。
蛍光プローブは、標的物質の非存在下では実質的に無蛍光であり、標的物質と反応した後に蛍光性に変化する機能性分子である。蛍光プローブは中性かつ生理的温度などの緩和な条件下で極めて低濃度の標的物質を測定でき、生きた組織や臓器内に存在する標的物質を高感度にイメージングできることから、一酸化窒素、活性酸素、金属イオンなどの測定用プローブとして広く応用されている。プロテアーゼ測定用の蛍光プローブとしては下記のプローブが提案されている(Biochemical Journal, 201, pp.367-372, 1982)。
蛍光プローブの基本骨格としてフルオレセインやローダミンなどのキサンテン系色素が用いられている。キサンテン系色素は、開環構造においては強蛍光性であり、一方、ラクトン環を形成した閉環構造では蛍光団の共役が切断されるために実質的に無蛍光性である。蛍光プローブではこの現象を蛍光のoff/on制御に応用すべく、標的物質との反応により閉環構造から開環構造への構造変化が生じるような設計がなされている。
例えば、ローダミン骨格を利用した下記のジアシル型のプロテアーゼ測定用蛍光プローブが知られている。このジアシル型蛍光プローブでは、片側のアシル基がプロテアーゼにより加水分解を受けることにより開環型の弱蛍光性化合物への変化が生じ、さらにもう一方のアシル基が加水分解を受けることにより強蛍光性のジアミノローダミンが生成する(Biochemistry, 38, pp.13906-13911, 1999)。
しかしながら、この蛍光プローブでは閉環型の強蛍光性ジアミノローダミンが生成するために2ヶ所のアシル基が加水分解を受ける必要があり、蛍光応答が多段階となることから即時応答性や定量性に乏しいなどの問題がある。この問題点を解決するために、1ヶ所の反応部位で閉環型から開環型に構造変化して完全な蛍光off/on制御を達成できる蛍光プローブの開発が求められている。
Biochemical Journal, 201, pp.367-372, 1982 Biochemistry, 38, pp.13906-13911, 1999
本発明の課題はプロテアーゼ測定用の蛍光プローブを提供することにある。より具体的には、キサンテン骨格を利用したプロテアーゼ測定用の蛍光プローブであって、1ヶ所の反応部位で閉環型から開環型に構造変化して完全な蛍光off/on制御を達成することができ、即時応答性や定量性に優れた蛍光プローブを提供することが本発明の課題である。
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意研究を行なった結果、ジアミノローダミン骨格(例えばローダミン110)のベンゼン環におけるカルボキシル基をヒドロキシメチル基などのヒドロキシ低級アルキル基に置き換えた化合物では、片側のアミノ基をアシル化した場合に無蛍光性の閉環型化合物となり、そのアシル基を除去することにより強蛍光性の開環型化合物に構造変化すること、及びこの構造変化が中性領域において速やかに生じて蛍光強度の比が数百倍に達することから、この化合物をプロテアーゼ測定用の蛍光プローブとして利用できることを見出した。本発明は上記の知見を基にして完成されたものである。
すなわち、本発明により、下記の一般式(I):
(式中、R1は水素原子又はベンゼン環に結合する1個ないし4個の同一又は異なる置換基を示し;R2、R3、R4、R5、R6、及びR7はそれぞれ独立に水素原子、水酸基、アルキル基、又はハロゲン原子を示し;R8及びR9はそれぞれ独立に水素原子又はアルキル基を示し;XはC1-C3アルキレン基を示し;R10はアシル基を示す)で表される化合物又はその塩が提供される。
上記発明の好ましい態様によれば、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、及びR9が水素原子であり、Xがメチレン基であり、R10がアルキルカルボニル基、アルキルオキシカルボニル基、アリールカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルキルカルボニル基、アルキルチオカルボニル基、アルキルアミノカルボニル基、アリールチオカルボニル基、アリールアミノカルボニル基、又はアミノ酸由来アシル残基(ただし該アミノ酸由来アシル残基はアミノ酸のカルボキシル基から水酸基を除去した残基である)である上記の化合物又はその塩が提供される。さらに好ましくは、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、及びR9が水素原子であり、Xがメチレン基であり、R10がアミノ酸由来アシル残基(ただしアミノ酸由来アシル残基はアミノ酸のカルボキシル基から水酸基を除去した残りの部分構造に相当するアシル基である)である上記の化合物又はその塩が提供される。
別の観点からは、本発明により、上記の一般式(I)で表される化合物又はその塩を含むプロテアーゼ測定用蛍光プローブが提供される。
さらに別の観点からは、本発明により、プロテアーゼの測定方法であって、下記の工程:
(1) 上記一般式(I)で表される化合物又はその塩をプロテアーゼと反応させる工程;及び
(2) 上記工程(1) において生成する下記一般式(II):
(式中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、及びXは上記定義と同義である)で表される化合物又はその塩を検出する工程
を含む方法が提供される。
本発明により提供される上記一般式(I)で表される化合物は、1ヶ所の反応部位で閉環型から開環型に構造変化して完全な蛍光off/on制御を達成することができ、即時応答性や定量性に優れたプロテアーゼ測定用蛍光プローブとして利用することができる。また、本発明の蛍光プローブはローダミン骨格を利用していることから、細胞に取り込まれてプロテアーゼと反応した後に生成する一般式(II)で表される化合物又はその塩の細胞外漏出が少なく、生細胞や生組織などにおいて長時間にわたって高感度なイメージングを行なうことが可能になる。
本発明の化合物とプロテアーゼとの反応性を示した図である。(a)化合物(2)(Leu-RhoHM)とロイシンアミノペプチダーゼ(LAP)との反応による吸収及び蛍光スペクトル変化;(b)化合物(3)(γGlu-RhoHM)とγ-グルタミルトランスペプチダーゼ(GGT)との反応による吸収及び蛍光スペクトル変化;(c)及び(d)それぞれLeu-RhoHM及びγGlu-RhoHMの反応定量性を示す。 LAPと化合物(2)(Leu-RhoHM)及び化合物(3)(γGlu-RhoHM)との反応性を示した図である。 化合物(7)(Acetyl-RhoHM)と化合物(1)(RhoHM)のpH7.4(水中)における分光学的特性を示した図である。
本明細書において、アルキル基は直鎖状、分枝鎖状、環状、又はそれらの組み合わせからなるアルキル基のいずれであってもよい。アルキル基の炭素数は特に限定されないが、例えば炭素数1〜6個程度、好ましくは炭素数1〜4個程度である。本明細書において、アルキル基は任意の置換基を1個以上有していてもよい。該置換基としては、例えば、アルコキシ基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子のいずれであってもよい)、アミノ基、モノ若しくはジ置換アミノ基、置換シリル基、又はアシル基などを挙げることができるが、これらに限定されることはない。アルキル基が2個以上の置換基を有する場合には、それらは同一でも異なっていてもよい。アルキル部分を含む他の置換基(例えばアルキルオキシ基やアラルキル基など)のアルキル部分についても同様である。
また、本明細書において、アリール基は単環性アリール基又は縮合多環性アルール基のいずれであってもよく、環構成原子としてヘテロ原子(例えば、酸素原子、窒素原子、又は硫黄原子など)を1個以上含んでいてもよい。本明細書において、アリール基はその環上に任意の置換基を1個以上有していてもよい。該置換基としては、例えば、アルコキシ基、ハロゲン原子、アミノ基、モノ若しくはジ置換アミノ基、置換シリル基、又はアシル基などを挙げることができるが、これらに限定されることはない。アリール基が2個以上の置換基を有する場合には、それらは同一でも異なっていてもよい。アリール部分を含む他の置換基(例えばアリールオキシ基やアラルキル基など)のアリール部分についても同様である。
R1は水素原子又はベンゼン環に結合する1個ないし4個の置換基を示す。置換基としては、例えば、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子、アミノ基、モノ若しくはジ置換アミノ基、置換シリル基、又はアシル基などを挙げることができるが、これらに限定されることはない。ベンゼン環上に2個以上の置換基を有する場合には、それらは同一でも異なっていてもよい。R1としては水素原子が好ましい。
R2、R3、R4、R5、R6、及びR7はそれぞれ独立に水素原子、水酸基、アルキル基、又はハロゲン原子を示す。R2及びR7が水素原子であることが好ましい。また、R3、R4、R5、及びR6が水素原子であることも好ましい。R2、R3、R4、R5、R6、及びR7がいずれも水素原子であることがさらに好ましい。
R8及びR9はそれぞれ独立に水素原子又はアルキル基を示す。R8及びR9がともにアルキル基を示す場合には、それらは同一でも異なっていてもよい。例えば、R8及びR9の両者が水素原子である場合、及びR8がアルキル基であり、かつR9が水素原子である場合が好ましく、R8及びR9の両者が水素原子である場合がさらに好ましい。
XはC1-C3アルキレン基を示す。アルキレン基は直鎖状アルキレン基又は分枝鎖状アルキレン基のいずれであってもよい。例えば、メチレン基(-CH2-)、エチレン基(-CH2-CH2-)、プロピレン基(-CH2-CH2-CH2-)のほか、分枝鎖状アルキレン基として-CH(CH3)-、-CH2-CH(CH3)-、-CH(CH2CH3)-なども使用することができる。これらのうち、メチレン基又はエチレン基が好ましく、メチレン基がさらに好ましい。
R10はアシル基を示す。本明細書において、アシル基は脂肪族アシル基又は芳香族アシル基のいずれであってもよく、芳香族基を置換基として有する脂肪族アシル基であってもよい。アシル基は1個又は2個以上のヘテロ原子を含んでいてもよい。例えば、アシル基としてアルキルカルボニル基(アセチル基など)、アルキルオキシカルボニル基(アセトキシカルボニル基など)、アリールカルボニル基(ベンゾイル基など)、アリールオキシカルボニル基(フェニルオキシカルボニル基など)、アラルキルカルボニル基(ベンジルカルボニル基など)、アルキルチオカルボニル基(メチルチオカルボニル基など)、アルキルアミノカルボニル基(メチルアミノカルボニル基など)、アリールチオカルボニル基(フェニルチオカルボニル基など)、又はアリールアミノカルボニル基(フェニルアミノカルボニル基など)などのアシル基を挙げることができるが、これらに限定されることはない。これらのアシル基は任意の置換基を1個以上有していてもよい。該置換基としては、例えば、アルコキシ基、ハロゲン原子、アミノ基、モノ若しくはジ置換アミノ基、置換シリル基、又はアシル基などを挙げることができるが、これらに限定されることはない。アシル基が2個以上の置換基を有する場合には、それらは同一でも異なっていてもよい。
また、R10が示すアシル基としてアミノ酸のカルボキシル基から水酸基を除去した残りの部分構造であるアシル基(本明細書においてこの「アミノ酸由来アシル残基」と呼ぶ)などを挙げることができる。アミノ酸としては、アミノ基とカルボキシル基の両方を有する化合物であれば任意の化合物を用いることができるが、中性アミノ酸、塩基性アミノ酸、又は酸性アミノ酸のいずれであってもよい。好ましくは、それ自体が神経伝達物質などの伝達物質として機能するアミノ酸のほか、生理活性ペプチド(ジペプチド、トリペプチド、テトラペプチドのほか、オリゴペプチドを含む)やタンパク質などのポリペプチド化合物の構成成分であるアミノ酸を用いることができ、例えばαアミノ酸、βアミノ酸、γアミノ酸などであってもよい。アミノ酸としては、光学活性アミノ酸を用いることが好ましい。例えば、αアミノ酸についてはD-又はL-アミノ酸のいずれを用いてもよいが、生体において機能する光学活性アミノ酸を選択することが好ましい場合がある。より具体的には、アミノ酸として、例えば、タンパク質を構成する20種類のL-アミノ酸のほか、セレノシステイン、ピロリシン、シスチン、ヒドロキシプロリン、ヒドロキシリジン、チロキシン、O-ホスホセリン、又はデスモシンや、β-アラニン、サルコシン、オルニチン、クレアチン、γアミノ酪酸、又はオパインなどを用いることもできる。
上記一般式(I)で表される化合物は塩として存在する場合がある。塩としては、塩基付加塩、酸付加塩、アミノ酸塩などを挙げることができる。塩基付加塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩などの金属塩、アンモニウム塩、又はトリエチルアミン塩、ピペリジン塩、モルホリン塩などの有機アミン塩を挙げることができ、酸付加塩としては、例えば、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩などの鉱酸塩、メタンスルホン酸塩、パラトルエンスルホン酸塩、クエン酸塩、シュウ酸塩などの有機酸塩を挙げることができる。アミノ酸塩としてはグリシン塩などを例示することができる。もっとも、本発明の化合物の塩はこれらに限定されることはない。
一般式(I)で表される本発明の化合物は、置換基の種類に応じて1個または2個以上の不斉炭素を有する場合があり、光学異性体又はジアステレオ異性体などの立体異性体が存在する場合がある。純粋な形態の立体異性体、立体異性体の任意の混合物、ラセミ体などはいずれも本発明の範囲に包含される。
一般式(I)で表される本発明の化合物又はその塩は、水和物又は溶媒和物として存在する場合もあるが、これらの物質はいずれも本発明の範囲に包含される。溶媒和物を形成する溶媒の種類は特に限定されないが、例えば、エタノール、アセトン、イソプロパノールなどの溶媒を例示することができる。
一般式(I)で表される本発明の化合物は、例えば、3位及び6位にアミノ基を有し、9位に2-カルボキシフェニル基又は2-アルコキシカルボニルフェニル基を有するキサンテン化合物などを原料として用い、9位の2-カルボキシフェニル基又は2-アルコキシカルボニルフェニル基をヒドロキシアルキル基に変換した後に3位のアミノ基をアシル化することにより容易に製造することができる。原料として使用可能な3,6-ジアミノキサンテン化合物としては、例えば、いずれも市販されているローダミン110やローダミン123などを例示することができるが、これらに限定されることはなく目的化合物の構造に応じて適宜のキサンテン化合物を選択することができる。本明細書の実施例には、一般式(I)で表される本発明の化合物に包含される代表的化合物についての製造方法が具体的に示されているので、当業者は本明細書の開示を参照することにより、及び必要に応じて出発原料や試薬、反応条件などを適宜選択することにより、一般式(I)に包含される任意の化合物を容易に製造することができる。
一般式(I)で表される本発明の化合物はプロテアーゼ測定用の蛍光プローブとして使用することができる。閉環状態の本発明の化合物は中性領域(例えばpH5ないし9の範囲)では実質的に無蛍光である。一方、R10で表されるアシル基がプロテアーゼにより加水分解されると速やかに開環した互変異性体となって強蛍光性の一般式(II)で表される化合物を与える。例えば、一般式(I)で表される化合物又はその塩は、中性領域において例えば500 nm程度の励起光を照射した場合にはほとんど蛍光を発しないが、一般式(II)で表される合物は同じ条件下において極めて強い蛍光 (例えばemission: 524 nm) を発する性質を有している。従って、本発明の化合物をプロテアーゼ測定用の蛍光プローブとして使用することにより、プロテアーゼの存在を蛍光強度の変化により測定することが可能になる。
一般的には、プロテアーゼの測定方法は、下記の工程:(1) 上記一般式(I)で表される化合物又はその塩をプロテアーゼと反応させる工程;及び(2) 上記工程(1) において生成する下記一般式(II)で表される化合物又はその塩を測定する工程を含んでいる。一般式(I)で表される化合物を生体組織中や細胞内に取り込ませてプロテアーゼと反応させ、蛍光性の一般式(II)で表される化合物を生成させてこの化合物の蛍光を測定することにより、生体組織中や細胞内のプロテアーゼを測定することができる。
プロテアーゼの種類は上記一般式(I)で表される化合物においてR10で表されるアシル基を加水分解できるものであればその種類は特に限定されない。例えば、エンドプロテアーゼ又はエキソプロテアーゼのいずれであってもよく、プロテイナーゼ又はペプチダーゼに分類されるプロテアーゼであってもよい。例えば、特定のアミノ酸を基質とするプロテアーゼを測定するために、R10で表されるアシル基として上記の特定のアミノ酸に由来するアシル残基を用いることができ、このように設計された化合物を用いることによって、特定のプロテアーゼを特異的に測定することができる。このような観点から、R10が示すアシル基としてプロテアーゼにより加水分解可能なアミノ酸由来アシル残基を用いることが好ましく、例えば、タンパク質を構成する20種類のL-アミノ酸に由来するアシル残基や、セレノシステイン、ピロリシン、シスチン、ヒドロキシプロリン、ヒドロキシリジン、チロキシン、O-ホスホセリン、デスモシンや、β-アラニン、サルコシン、オルニチン、クレアチン、γアミノ酪酸、又はオパインなどに由来するアシル残基を用いることが好ましい。
本明細書において「測定」という用語は、検出、定量、定性など種々の目的の測定を含めて最も広義に解釈されるべきである。本発明の方法によるプロテアーゼの測定は中性条件下に行うことができ、例えば、pH 5.0〜9.0 の範囲、好ましくはpH 6.0〜8.0 の範囲、より好ましくはpH 6.8〜7.6 の範囲で行うことができる。
本発明の一般式(I)で表される化合物は、細胞内に容易に取り込まれ、一般式(I)で表される化合物から生成する開環型の一般式(II)で表される化合物は細胞内から漏出せずに長時間にわたり細胞内に滞留できる。従って、細胞内のプロテアーゼを長時間にわたり測定することができるという優れた性質を有している。特に、本発明の一般式(II)で表される化合物は非常に強い蛍光を発する性質を有しており、かつ細胞内滞留性が極めて優れていることから、長時間にわたって細胞内に存在する微量のプロテアーゼを高感度に測定できるという特徴がある。
本発明のプロテアーゼ測定用蛍光プローブとしては、上記一般式(I)で表される化合物又はその塩をそのまま用いてもよいが、必要に応じて、試薬の調製に通常用いられる添加剤を配合して組成物として用いてもよい。例えば、生理的環境で試薬を用いるための添加剤として、溶解補助剤、pH調節剤、緩衝剤、等張化剤などの添加剤を用いることができ、これらの配合量は当業者に適宜選択可能である。これらの組成物は、粉末形態の混合物、凍結乾燥物、顆粒剤、錠剤、液剤など適宜の形態の組成物として提供される。
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。
例1
以下のスキームで化合物(2)〜(7)を製造した。
(a)化合物(1)(RhoHM)の合成
ローダミン110 285 mg (0.8 mmol 1eq.) をメタノール 10 mLに溶かし硫酸を加えてアルゴン雰囲気下に80℃で10時間攪拌した。反応溶媒を減圧除去し、残渣を飽和重曹水および水で洗浄した。得られた固体をテトラヒドロフラン(THF) 10 mL に溶解させ、アルゴン雰囲気下に0℃で5 M ナトリウムメトキシド溶液(メタノール中) 400μL (0.8 mmol 1eq.)を加えて10分間攪拌した。続いてリチウムアルミニウムハイドライド 333 mg (8 mmol, 10eq.) を加えて3時間攪拌した。飽和塩化アンモニウム水溶液 を5 mL加え、溶媒を減圧除去し、得られた固体をジクロルメタン及び酒石酸4水和物カリウム・ナトリウム塩の飽和水溶液で抽出した。有機層に硫酸ナトリウムを加えてろ過した後、溶媒を除去し、固体を得た。得られた固体をジクロルメタンに溶解し、クロラニル 196 mg (1mmol 1eq.) を加えて30分間室温で攪拌した。溶媒を減圧下で除去し、残渣をシリカゲルクロマトグラフィーで精製して(ジクロルメタン/メタノール=10 : 1)目的化合物 (104 mg, 41%) を得た。
1H NMR (300 MHz, CD3OD): δ 7.64 (d, 1H, J = 7.7 Hz), 7.56 (t, 1H, J = 7.6 Hz), 7.44 (t, 1H, J = 7.5 Hz), 7.17 (d, 1H, J = 7.5 Hz), 7.03 - 7.00 (m, 2H), 6.71-6.74 (m, 4H), 4.23 (s, 2H)
13C NMR (400 MHz, CD3OD): δ 161.5, 159.9, 159.6, 141.0, 133.4, 132.2, 131.3, 130.3, 129.5, 128.8, 118.0, 115.0, 98.4, 62.8
HRMS (ESI+) Calcd for [M+H]+, 317.12900, Found, 317.12862 ( - 0.38 mmu)
(b)化合物(2)(Leu-RhoHM)の合成
化合物(1) 17.7 mg (0.05 mmol 1eq.)、HATU 42.4 mg (0.11 mmol 2eq.)、及びN,N-ジイソプロピルエチルアミン 19.5 μL (0.11 mmol 2eq.) をジメチルホルムアミド(DMF) 2 mLに溶解し、アルゴン雰囲気下に0℃で10分間攪拌した。続いてBoc-Leu-OH 13.9 mg (0.05 mmol 1eq.) を溶解したDMF 0.5 mLを加え15時間攪拌した。反応溶媒を減圧除去した後に得られた固体をジクロルメタン 2 mL とトリフルオロ酢酸(TFA) 2 mLに溶かし、30分間攪拌した。溶媒を除去しHPLCを用いて精製を行い(eluent A: H2O 0.1% TFA及びeluent B: CH3CN 80%, H2O 20% 0.1% TFA; A / B = 80 / 20 to 0 / 100 for 40 min.)、目的化合物 (5.7 mg, 24%) を得た。
1H NMR (300 MHz, CD3OD): δ 7.55-7.54 (m, 1H), 7.33-7.27 (m, 2H), 7.18 (t, 1H, J = 7.3 Hz), 7.03-7.01 (m, 1H), 6.76 -6.72 (m, 2H), 6.55 (d, 1H, J = 8.4 Hz), 6.41 (d, 1H, J = 2.0 Hz), 6.33-6.30 (m, 1H), 5.15 (s, 2H), 3.58-3.57 (m, 1H), 1.62-1.43 (m, 3H), 0.89 (m, 6H)
13C NMR (400 MHz, CD3OD): δ170.6, 164.8, 161.8, 160.5, 156.7, 147.5, 141.3, 135.0, 132.0, 131.7, 130.5, 129.9, 129.0, 121.8, 119.8, 119.4, 119.1, 116.7, 107.7, 98.6, 63.2, 54.0, 41.5, 23.3, 21.7
HRMS (ESI+) Calcd for [M+H]+, 430.21307, Found, 430.21210 ( - 0.96 mmu)
(c)上記(b)と同様にして、それぞれBoc-Glu-OtBu、Boc-Gly-OH、Fmoc-Ile-OH、Boc-Phe-OH、及び無水酢酸を用いて化合物(3)(γGlu-RhoHM)、化合物(4)(Gly-RhoHM)、化合物(5)(Ile-RhoHM)、化合物(6)(Phe-RhoHM)、及び化合物(7)(Acetyl-RhoHM)を得た。
化合物(3)
1H NMR (400 MHz, CD3OD): δ 8.39 (s, 1H), 7.62-7.61 (m, 2H), 7.50-7.47 (m, 1H), 7.39 (d, 1H, J = 7.8 Hz), 7.24 -7.22 (m, 3H), 6.94 (d, 1H, J = 8.3 Hz), 6.86 (s, 1H), 4.25 (s, 2H), 3.96 (t, 1H, J = 6.3 Hz), 2.71-2.69 (m, 2H), 2.30-2.27 (m, 2H)
13C NMR (400 MHz,CD3OD): δ173.4, 171.8, 164.5, 163.1, 160.7, 157.1, 148.7, 141.2, 134.9, 131.9, 131.7, 130.5, 129.8, 129.0, 121.4, 119.4, 118.5, 106.9, 98.5, 63.1, 53.5, 33.4, 26.6
HRMS (ESI+) Calcd for [M+H]+, 446.17160, Found, 446.17195 ( + 0.36 mmu).
化合物(4)
1H NMR (300 MHz, CD3OD): δ 8.45 (s, 1H), 7.72-7.69 (m, 2H), 7.59-7.56 (m, 1H), 7.50 (d, 1H), 7.38 -7.34 (m, 3H), 7.05 (d, 1H), 6.96 (s, 1H), 4.35 (s, 2H), 3.98 (s, 2H)
13C NMR (100 MHz,CD3OD): δ 167.1, 164.8, 161.8, 160.6, 156.9, 147.6, 141.2, 134.9, 132.1, 131.7, 130.5, 129.9, 129.0, 121.7, 119.7, 119.2, 118.9, 107.3, 98.6, 63.2, 42.7, 42.2
HRMS (ESI+) Calcd for [M+H]+, 374.15047, Found, 374.14897 (-1.50mmu)
化合物(5)
1H NMR (300 MHz, CD3OD):δ 8.49 (s, 1H), 7.72-7.69 (m, 2H), 7.59-7.53 (m, 2H), 7.42 -7.34 (m, 3H), 7.05 (d, 1H), 6.97 (s, 1H), 4.35 (s, 2H), 3.97-3.95 (m, 1H), 2.08-2.03 (m, 1H), 1.32-1.29 (m, 2H), 1.12 (d, 3H), 0.99 (t, 3H)
HRMS (ESI+) Calcd for [M+H]+, 430.21307, Found, 430.21296 (-0.11mmu)
化合物(6)
1H NMR (300 MHz, CD3OD): δ 8.42 (s, 1H), 7.75-7.71 (m, 2H), 7.58-7.55 (m, 2H), 7.44-7.41 (m, 3H), 7.08-6.97 (m, 2H), 6.84 (m, 2H), 6.70 (d, 1H, J = 8.1Hz), 6.56-6.48 (m, 2H), 4.30 (s, 2H), 4.16 (t, 1H, J = 7.0 Hz), 3.55-3.53 (m, 1H), 3.27-3.25 (m, 1H)
HRMS (ESI+) Calcd for [M+H]+, 464.19742, Found, 464.19652 (-0.89mmu)
化合物(7)
1H NMR (300 MHz, CD3OD): δ 7.63 (s, 1H), 7.44-7.42 (m, 2H ), 7.31 (t, 1H, J = 7.2 Hz), 7.10 (d, 1H, J = 8.5 Hz), 6.86 -6.83 (m, 2H), 6.67 (d, 1H, J = 8.4 Hz), 6.54 (s, 1H), 6.45 (d, 1H, J = 8.4 Hz), 5.28 (s, 2H), 2.16 (s, 3H)
13C NMR (400 MHz, CD3OD): δ 172.5, 164.5, 161.7, 160.7, 157.2, 148.9, 141.2, 134.8, 131.8, 131.7, 130.5, 129.8, 129.0, 121.4, 119.3, 118.4, 106.8, 98.5, 63.1, 24.3
HRMS (ESI+) Calcd for [M+H]+, 359.13957, Found, 359.13904 ( - 0.53 mmu)
例2
ロイシン及びグルタミン酸由来のアシル残基を化合物(1)(RhoHM)の一方のアミノ基に結合させた化合物(2)(Leu−RhoHM)及び化合物(3)(γGlu-RhoHM)を中性リン酸バッファーに溶解して、プロテアーゼ (ロイシンアミノペプチダーゼ(LAP, porcine kidney, SIGMA L5006-25UN)及びγ-グルタミルトランスペプチダーゼ(GGT, equine kidney, SIGMA G9270-100UN)を作用させた。各化合物の5 μM ジメチルスルホキシド(DMSO)溶液 3 μLを3 mL の0.1 M リン酸ナトリウムバッファー(pH 7.4) に最終濃度 5 μMとなるように溶解し、それぞれLAP (0.15 U)及びGGT (1.1 U) を加えて37℃で酵素反応を行った。励起波長は501 nmとした。この結果、両者ともプロテアーゼによるアシル基の加水分解により開環体を与え、その結果、即時に吸収及び蛍光強度の顕著な上昇が認められた(図1)。
また、両化合物のDMSO溶液 (5 mM) のうち3 μLを3 mL の0.1 M リン酸ナトリウムバッファー(pH 7.4) に最終濃度 5 μMとなるように溶解して 37℃で酵素反応を行った。各酵素量において酵素添加からLeu-RhoHMについては1分後、γGlu-RhoHMについては9分後に蛍光強度の値をプロットした。励起波長は501 nm、蛍光波長は524 nmとした。両化合物ともプロテアーゼの添加量に依存したリニアな蛍光強度増加を与えた(図1)。
例3
化合物(2)及び(3)を用いて酵素特異性を検討した。DMSO溶液 (5 mM) のうち3 μLを3 mL の0.1 M リン酸ナトリウムバッファー(pH 7.4) に最終濃度 5 μMとなるように溶解し、LAP(0.4 U)を加えて 37℃で酵素反応を行った。この結果、化合物(2)(Leu-RhoHM)とLAPとの反応により顕著な蛍光強度の増強が認められたが、化合物(3)(γGlu-RhoHM)とLAPとを反応させた場合には蛍光強度の増強が認められなかった(図2)。一方、化合物(3)はGGTと反応して顕著な蛍光強度を与えたことから(例2)、γGlu-RhoHMはGGTを特異的に検出するものと考えられる。

Claims (4)

  1. 下記の一般式(I):
    (式中、R1は水素原子又はベンゼン環に結合する1個ないし4個の同一又は異なる置換基を示し;R2、R3、R4、R5、R6、及びR7はそれぞれ独立に水素原子、水酸基、アルキル基、又はハロゲン原子を示し;R8及びR9はそれぞれ独立に水素原子又はアルキル基を示し;XはC1-C3アルキレン基を示し;R10はアシル基を示す)で表される化合物又はその塩。
  2. R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、及びR9が水素原子であり、Xがメチレン基であり、R10がアルカノイル基又はアミノ酸由来アシル残基である請求項1に記載の化合物又はその塩。
  3. 請求項1又は2に記載の一般式(I)で表される化合物又はその塩を含むプロテアーゼ測定用蛍光プローブ。
  4. プロテアーゼの測定方法であって、下記の工程:
    (1) 請求項1又は2に記載の一般式(I)で表される化合物又はその塩をプロテアーゼと反応させる工程;及び
    (2) 上記工程(1) において生成する下記一般式(II):
    (式中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、及びXは上記定義と同義である)で表される化合物又はその塩を検出する工程
    を含む方法。
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