本発明の製造方法は、リチウム原子と、ニッケル原子、コバルト原子、マンガン原子、アルミニウム原子およびマグネシウム原子からなる群より選ばれた少なくとも1種の原子とを含有し、空間群R−3m型構造または空間群Fd3m型構造を有する複合酸化物粒子にフッ素化処理を施した後、電気化学的酸化処理を施すという操作が採られている点に、1つの大きな特徴を有する。
本発明の製造方法では前記操作が採られているので、本発明の製造方法によって得られた非水電解質二次電池用正極材料を含む正極を有する非水電解質二次電池を構成した後、通常使用されている充放電プロセスにおける充電操作により、この非水電解質二次電池の正極が電気化学的酸化状態に至ったとき、電解液と正極との界面でのガスの発生および金属イオンの溶出が抑制される。
さらに、複合酸化物粒子として、式(I):
LiMxOy (I)
〔式中、Mはニッケル原子、コバルト原子、マンガン原子、アルミニウム原子およびマグネシウム原子からなる群より選ばれた少なくとも1種の原子、xは0.8〜2.3の数、yは1.7〜4.5の数を示し、xおよびyは式:1+xn=2y(式中、nは原子Mの平均酸化数を示し、xおよびyは前記と同じ)を満足する〕
で表される複合酸化物からなり、空間群R−3m型構造または空間群Fd3m型構造を有する複合酸化物粒子が用いられている場合、本発明の非水電解質二次電池用正極材料を含む正極は、充放電プロセスにおける充電操作によって電気化学的酸化状態に至ったとき、電解液と正極との界面でのガスの発生および金属イオンの溶出がより一層抑制される。
本発明の非水電解質二次電池用正極材料がこのように優れた効果を奏する理由は定かではないが、おそらく複合酸化物粒子の表面にフッ素化処理が施されていることにより、複合酸化物粒子の表面にフッ素原子が化学的に吸着しているので、この複合酸化物粒子に電気化学的酸化処理を施したときに、その表面状態が安定化することに基づくものと考えられる。
より具体的には、本発明の非水電解質二次電池用正極材料が前記効果を奏する理由は、前記複合酸化物粒子の表面にフッ素化処理を施した後、さらに電解液の存在下で電気化学的酸化処理を施したとき、電解液と複合酸化物粒子に存在しているフッ素とが反応し、生成したフッ素含有化合物によって複合酸化物粒子の表面全体がδ−に帯電するため、複合酸化物粒子の表面と電解液との固液界面の分極が緩和することに基づくものと考えられる。
また、本発明の非水電解質二次電池用正極材料が前記効果を奏するのは、複合酸化物粒子に存在している金属原子と酸素との結合は部分的に共有結合性を有するので、複合酸化物粒子に存在しているフッ素によってフッ素が存在していない酸化物粒子よりもδ+に帯電し、酸素−金属間結合を含む結合全体にイオン結合性がもたらされることによって安定化していることにも基づくものと考えられる。
また、本発明の製造方法では、複合酸化物粒子にフッ素化処理が施されているが、複合酸化物粒子の表面でフッ化物が生成しがたいことから、生成したフッ化物によって複合酸化物粒子が完全に被覆されることがなく、またフッ素を含まない複合酸化物相とフッ化物相または酸化フッ化物相との相分離が起こりがたいことから、得られる非水電解質二次電池用正極材料の電気抵抗が高められることがほとんどないという利点がある。
したがって、本発明の非水電解質二次電池用正極材料は、電池構成後の充放電プロセスにおける充電操作によって電気化学的酸化状態に至ったとき、複合酸化物粒子と電解液との固液間の分極、ガスの発生、および金属イオンの溶出が抑制されるので、電池の正極材料に使用したとき、電池の信頼性および安全性が高められる。
本発明に用いられる複合酸化物粒子は、リチウム原子と、ニッケル原子、コバルト原子、マンガン原子、アルミニウム原子およびマグネシウム原子からなる群より選ばれた少なくとも1種の原子とを含有し、空間群R−3m型構造または空間群Fd3m型構造を有する。
なお、複合酸化物粒子が空間群R−3m型構造または空間群Fd3m型構造を有するのは、この複合酸化物粒子を非水電解質二次電池用正極材料に用いるためである。複合酸化物粒子は、層構造の空間群R−3m型構造またはスピネル構造の空間群Fd3m型構造を有することが、電池の信頼性および安全性を高める観点から好ましい。
複合酸化物粒子を構成する複合酸化物の好適な例としては、式(I):
LiMxOy (I)
〔式中、Mはニッケル原子、コバルト原子、マンガン原子、アルミニウム原子およびマグネシウム原子からなる群より選ばれた少なくとも1種の原子、xは0.8〜2.3の数、yは1.7〜4.5の数を示し、xおよびyは式:1+xn=2y(式中、nは原子Mの平均酸化数を示し、xおよびyは前記と同じ)を満足する〕
で表される複合酸化物からなり、空間群R−3m型構造または空間群Fd3m型構造を有する複合酸化物粒子が挙げられる。この複合酸化物粒子が用いられている正極材料を含む正極は、充放電プロセスにおける充電操作によって電気化学的酸化状態に至ったときに、電解液と正極との界面でのガスの発生および金属イオンの溶出をより一層抑制するという利点がある。
式(I)において、xは、0.8〜2.3の数、yは、1.7〜4.5の数を示す。xは、結晶構造を安定に維持する観点から、0.8以上の数、好ましくは1以上の数であり、単位重量または単位体積あたりのリチウム原子の収蔵量を向上させる観点から、2.3以下の数、好ましくは2以下の数である。また、yは、結晶構造を安定に維持する観点から、1.7以上の数、好ましくは2以上の数であり、単位重量または単位体積あたりのリチウム原子の収蔵量を向上させる観点から、4.5以下の数、好ましくは4以下の数である。
式(I)において、Mは、ニッケル原子、コバルト原子、マンガン原子、アルミニウム原子およびマグネシウム原子からなる群より選ばれた少なくとも1種の原子である。Mは、電気化学的安定性を高める観点から、ニッケル原子、コバルト原子およびマンガン原子からなる群より選ばれた少なくとも1種の原子であることが好ましい。
式(I)において、xおよびyは、式:1+xn=2yを満足する。式(I)において、1はリチウム原子の酸化数である。xは、原子Mの数を示し、nは、原子Mの平均酸化数を示す。また、yは、複合酸化物粒子における酸素の数を示す。したがって、式(I)により、原子Mに対する酸素原子の割合が規定されている。
式(I)で表される複合酸化物のなかでは、電気化学的安定性を高める観点から、式(Ia):
LiNipqMap(1−q)Oy (Ia)
(式中、Maはコバルト原子およびマンガン原子から選ばれた少なくとも1種の原子、pは0.8〜2.3の数、qは0.01〜0.99の数を示し、yは前記と同じ)
で表される複合酸化物がより好ましい。
式(Ia)において、pは、結晶構造を安定に維持する観点から、0.8以上の数、好ましくは1以上の数であり、単位重量または単位体積あたりのリチウム原子の収蔵量を向上させる観点から、2.3以下の数、好ましくは2以下の数である。また、qは、充放電容量を増大させる観点から、0.01以上の数、好ましくは0.2以上の数であり、電気化学的安定性を高める観点から、0.99以下の数、好ましくは0.8以下の数である。
複合酸化物のなかでは、高エネルギー密度を有し、低分極性の充放電特性を有することから、式(Ib):
LiNisCotMnuOy (Ib)
(式中、sは0.01〜0.8の数、tは0.01〜0.8の数、uは0.01〜0.8の数を示し、s、tおよびuの和が0.8〜2.3であり、yは前記と同じ)
で表される複合酸化物がさらに好ましい。
式(Ib)において、sは、充放電容量を増大させる観点から、0.01以上の数、好ましくは0.3以上の数であり、電気化学的安定性を高める観点から、0.8以下の数、好ましくは0.7以下の数である。tは、電気化学的安定性および放電電位を高める観点から、0.01以上の数、好ましくは0.2以上の数であり、充放電容量を増大させる観点から、0.8以下の数、好ましくは0.5以下の数である。また、uは、結晶構造を維持する観点および電気化学的安定性を高める観点から、0.01以上の数、好ましくは0.2以上の数であり、充放電容量を増大させる観点から、0.8以下の数、好ましくは0.5以下の数である。yは、前記と同じである。
式(Ib)において、リチウム原子1個あたり、ニッケル原子とコバルト原子とマンガン原子の合計量、すなわちsとtとuの和は、充放電容量を増大させる観点および電気化学的安定性を高める観点から、0.8〜2.3、好ましくは0.97〜1.03である。
式(Ib)において、ニッケル原子とコバルト原子とマンガン原子との原子比〔ニッケル原子(s):コバルト原子(t):マンガン原子(u)〕は、エネルギー密度を高め、低分極性の充放電特性が向上するように任意に選ぶことが好ましいが、充放電時の格子の体積変化を小さくする観点から、1:1:1、すなわちsとtとuとが同一であることが好ましい。
複合酸化物粒子は、例えば、その粒子を構成するニッケル原子、コバルト原子、マンガン原子、アルミニウム原子およびマグネシウム原子からなる群より選ばれた少なくとも1種の原子の複合水酸化物を用いて調製することができる。
複合水酸化物の原料としては、ニッケル塩、コバルト塩、マンガン塩、アルミニウム塩およびマグネシウム塩を用いることができる。これらの塩は、いずれも、その水溶液中で生成する金属イオンが錯化剤と錯体を形成しうるものであれば特に限定されない。
ニッケル塩の具体例としては、硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、塩化ニッケルなどが挙げられ、これらは、それぞれ単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
コバルト塩の具体例としては、硫酸コバルト、硝酸コバルト、塩化コバルトなどが挙げられ、これらは、それぞれ単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
マンガン塩の具体例としては、硫酸マンガン、硝酸マンガン、塩化マンガンなどが挙げられ、これらは、それぞれ単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
アルミニウム塩の具体例としては、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、塩化アルミニウムなどが挙げられ、これらは、それぞれ単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
マグネシウム塩の具体例としては、硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、塩化マグネシウムなどが挙げられ、これらは、それぞれ単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
目的とする複合酸化物粒子の組成となるように、ニッケル塩、コバルト塩、マンガン塩、アルミニウム塩およびマグネシウム塩の量を調整し、錯化剤の存在下、不活性ガス雰囲気中で水中に前記塩を溶解させ、得られた水溶液を前記塩と反応させて共沈殿させることにより、複合水酸化物を得ることができる。
錯化剤としては、例えば、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、炭酸アンモニウム、フッ化アンモニウム、ヒドラジン、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三酢酸、ウラシル二酢酸、グリシンなどが挙げられ、これらは、それぞれ単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。錯化剤の量は、前記溶液に含まれている金属イオンの量などによって異なるので一概には決定することができないが、通常、金属イオンと錯体を生成し、かつ溶液中の金属イオンと水酸化物イオンとの反応によって水酸化物を生じる量であればよい。
前記水溶液のpHは、9〜13であることが好ましい。前記水溶液のpHは、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのpH調整剤を用いて調整することができる。なお、前記水溶液のpHが前記塩を溶解させることによって変動する場合には、前記pHの範囲内となるようにpH調整剤を前記水溶液に適宜添加すればよい。水溶液の液温は、通常、30〜60℃程度であることが好ましい。
なお、不活性ガス雰囲気中で反応を行なうのは、塩に含まれている金属の原子価を2価に維持するためである。不活性ガスとしては、例えば、窒素ガス、アルゴンガスなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示によって限定されるものではない。
このようにして反応を行なうことにより、原料のニッケル原子、コバルト原子、マンガン原子、アルミニウム原子およびマグネシウム原子の原子比が任意の割合である複合水酸化物を得ることができる。得られた複合水酸化物は、通常、粒子状を有する。得られた複合水酸化物には、ニッケル原子とコバルト原子とマンガン原子とアルミニウム原子とマグネシウム原子の原子比が所望の割合で含まれており、これらの原子が原子レベルで均一に分散している。得られた複合水酸化物におけるニッケル原子、コバルト原子、マンガン原子、アルミニウム原子およびマグネシウム原子の原子比は、ICP発光分光分析法などの金属分析方法によって求めることができる。
次に、目的とする複合酸化物粒子の組成となるように、得られた複合水酸化物とリチウム化合物とを充分に粉末状態で混合し、得られた混合物を焼成することにより、複合酸化物を得ることができる。
リチウム化合物としては、例えば、水酸化リチウム、炭酸リチウム、硝酸リチウム、酸化リチウムなどが挙げられ、これらは、それぞれ単独でまたは2種以上混合して用いることができる。
前記混合物の焼成温度は、通常、好ましくは700〜1000℃、より好ましくは900〜1000℃、さらに好ましくは950〜1000℃である。また、焼成雰囲気は、通常、大気であればよい。
前記混合物の焼成時間は、焼成条件などによって異なるので一概には決定することができないが、通常、焼成によって複合酸化物が形成するのに要する時間である。
このようにして、複合酸化物が得られるが、得られた複合酸化物におけるニッケル原子、コバルト原子、マンガン原子、アルミニウム原子およびマグネシウム原子の原子比は、ICP発光分光分析法などの金属元素分析方法によって求めることができる。
得られた複合酸化物が所望の粒子径を有さない場合には、必要により、複合酸化物を粉砕することが好ましい。複合酸化物粒子の平均粒子径は、電極作製時の操作性を向上させる観点および電気化学的反応場を増大させ、電極密度を高める観点から、好ましくは100nm〜100μm、より好ましくは5〜50μm、さらに好ましくは5〜30μm、さらに一層好ましくは7〜12μmである。なお、複合酸化物粒子の平均粒子径は、顕微鏡で観察することにより、一定の範囲内に含まれている粒子の各直径を測定し、その平均値を求めたときの値である。
次に、複合酸化物粒子にフッ素化処理を施す。複合酸化物粒子に施すフッ素化処理は、乾式法によって行なわれる。乾式法では、気体のフッ素化剤を用いて気相で複合酸化物粒子にフッ素化処理を施す。
フッ素化剤としては、例えば、フッ素(F2)、三フッ化窒素、三フッ化塩素、三フッ化臭素、五フッ化臭素、七フッ化臭素、二フッ化カルボニルなどが挙げられ、これらは、それぞれ単独でまたは2種以上混合して用いることができる。これらのなかでは、取り扱いやすさの観点から、フッ素、三フッ化窒素、三フッ化塩素、三フッ化臭素、五フッ化臭素および七フッ化臭素が好ましく、フッ素、三フッ化窒素および三フッ化塩素がより好ましい。また、これらのフッ素化剤を必要に応じて四フッ化炭素などの式:CmF2m+2(式中、mは1〜3の整数を示す)で表されるパーフルオロ炭素化合物ガスなどで希釈してもよい。
乾式法によって複合酸化物粒子にフッ素化処理を施す場合、フッ素化剤として、例えば、フッ素ガス、三フッ化窒素ガス、三フッ化塩素ガスなどのフッ素化剤ガスを用い、複合酸化物粒子をこのフッ素化剤ガスと接触させることにより、複合酸化物粒子の表面をフッ素化させることができる。
複合酸化物粒子にフッ素化剤ガスを接触させる方法としては、複合酸化物粒子をフッ素化剤ガス雰囲気中に入れて接触させる方法(バッチ法)が挙げられる。
複合酸化物粒子をフッ素化剤ガス雰囲気中に入れて接触させる方法(バッチ法)によって複合酸化物粒子をフッ素化させる場合、フッ素化剤ガス雰囲気の圧力は、安全性を高める観点および過剰なフッ素化を抑制する観点から、好ましくは常圧以下、より好ましくは13kPa以下であり、フッ素化処理の効率を高める観点から、好ましくは1.3kPa以上である。また、フッ素化剤ガス雰囲気の温度は、安全性を高める観点および過剰なフッ素化を抑制する観点から、好ましくは150℃以下、より好ましくは60℃以下であり、複合酸化物粒子のフッ素化処理の効率を高める観点から、好ましくは10℃以上、より好ましくは20℃以上である。
フッ素化剤ガス雰囲気中で複合酸化物粒子をフッ素化剤ガスと接触させる時間は、フッ素化剤ガス雰囲気の温度および圧力などによって異なるので一概には決定することができない。通常、複合酸化物粒子をフッ素化剤ガスと接触させる時間は、複合酸化物粒子の表面がフッ素化されるのに要する時間である。
複合酸化物粒子の表面に導入されるフッ素原子と、複合酸化物粒子の表面に存在している酸素原子との原子比(フッ素原子/酸素原子)は、複合酸化物粒子の表面における電気抵抗を低減させる観点から、1.7以下であり、表面構造を安定化させることによって電極性能を向上させる観点から、1.2以上である。なお、前記原子比は、X線光電子分光法によって求められたピーク強度およびその面積に基づいて決定することができる。
以上のようにして得られたフッ素化された複合酸化物粒子には、以下の実験例7の方法で測定したとき、通常、0.01〜0.15質量%、好ましくは0.03〜0.15質量%、より好ましくは0.03〜0.12質量%のフッ素が含有されている。
次に、フッ素化処理が施された複合酸化物粒子には、電気化学的酸化処理が施される。
電気化学的酸化処理としては、例えば、
(A)フッ素化処理が施された複合酸化物粒子を用いて電極を構成し、当該電極の対極として炭素材料からなる負極を用い、当該電極と負極との間に電解液およびセパレータを介して電装を構成した後、当該電極に酸化電流を印加することにより、フッ素化処理が施された複合酸化物粒子に電気化学的酸化処理を施す方法、
(B)リチウム塩を支持電解質とする電解液を有する電解槽内に、リチウム金属からなる電極またはリチウムを吸蔵しうる擬似対極と、フッ素化処理が施された複合酸化物粒子で構成された電極を浸漬した後、この電極に酸化電流を印加することにより、フッ素化処理が施された複合酸化物粒子に電気化学的酸化処理を施す方法、
(C)電装や対極を要しない電気化学的局部電池を用いてフッ素化処理が施された複合酸化物粒子で構成された電極に電気化学的酸化を施す方法
などが挙げられる。本発明では、これらの方法のうちの少なくとも1つの方法を用いることができる。
前記(A)の方法では、前記電極が電解液と最初に接触した後、時間率0.1C程度の酸化電流を印加し、リチウム電位基準で4.0V以上4.3V未満の電位が得られるまで通電処理を施すことが好ましい。前記(A)の方法では、同一電装内で前記電極と対極が構成されているので、前記電極を正極として用い、そのままの状態で電池デバイスとして用いることができる。
前記(B)の方法では、前記電極が電解液と最初に接触した後、時間率3C以上の酸化電流を0.1〜3ミリ秒、好ましくは0.3〜1ミリ秒程度の瞬時に印加した後、通電を停止する。なお、電池を構成したときに活物質としての充電容量を確保する観点から、通電を停止し、5分間経過した後に、最初の開回路電位から0.05V以上0.08V未満の電位上昇を引き起こす酸化電流を印加することが好ましい。湿潤した電極を用いる場合には、あらかじめ室温〜50℃程度の温度で電極を乾燥し、電極の重量の減少率を処理前の重量の0.1重量%以下にすればよい。
前記(A)の方法または前記(B)の方法では、後で正極として用いられる前記電極と電解液との固液界面が形成されるが、電気化学的酸化過程で複合酸化物粒子の表面にフッ素が吸着することから、複合酸化物粒子の表面全体は、フッ素が吸着していない場合と比べて、よりδ-に帯電しているので、複合酸化物粒子の表面と電解液との固液界面の分極が緩和され、溶媒分子の急激な酸化が免れる。
また、複合酸化物粒子の表面では、フッ素を一部取り込んだ鎖状有機化合物が形成されていると考えられる。複合酸化物粒子の表面の金属原子と酸素との結合は、共有結合性を有するが、複合酸化物粒子に付加的に存在しているフッ素原子によって、フッ素が吸着していない場合と比べて、よりδ+に帯電しやすく、酸素−金属間結合を含む結合全体にイオン結合による性質がもたらされるため、結晶場が安定化する。
あらかじめ電気化学的酸化処理を施しておいた電極を正極とし、セパレータを介してリチウムまたは炭素材料からなる負極を対極とする電極群を捲回して群構成またはジェリーロールをなし、電解液を注液した後、封口したものは、電池デバイスとして用いることができる。
前記(A)および(B)の方法は、いずれも常温で操作することができる。これらの方法では、電解液として、例えば、0.5〜2mol/dm3、好ましくは1mol/dm3のLiPF6を含むプロピレンカーボネートとジエチレンカーボネートとの混合溶液を用いることができる。このとき、プロピレンカーボネートとジエチレンカーボネートとの体積比(プロピレンカーボネート/ジエチレンカーボネート)は、0.5/1.5〜1.5/0.5であることが好ましく、1/1であることがより好ましい。
前記(C)の方法は、電解液を構成する成分および電解液に使用される溶媒を複合酸化物粒子に10μL/min・cm2で噴霧し、空気中または酸化性雰囲気中で40〜50℃程度の温度の温風で乾燥することによって行なうことができる。
一般に、複合酸化物粒子が微小な粒子の溶媒と接触すると、複合酸化物の結晶構造に存在しているリチウムの一部がリチウムイオンとして溶出し、溶出したリチウムイオンが溶媒和する。そのとき、溶媒に存在しているプロトンとのイオン交換反応と外界に存在している酸素の還元反応とが競争的に進行するため、リチウムの溶出とリチウムイオンの溶媒和とは、両者間に平衡が成立するまで一定のバランスで進行するが、その際に溶媒の酸化分解が起こらない。
また、複合酸化物粒子にフッ素化処理を施したとき、フッ素が複合酸化物粒子の表面で不均質に存在するため、微視的にフッ素の存在部位と非存在部位が生じる。この表面に噴霧などによる溶媒の微小粒子が接触したとき、フッ素が存在する部位では、安定な含フッ素結合を与える溶媒分子の一部の酸化分解が起こる。
フッ素の関与した溶媒分子の酸化反応は、溶媒の極性および比誘電率の大きさと関係し、極性および比誘電率が大きい溶媒ほど顕著に現れる。また、複合酸化物粒子の表面は、フッ素の吸着によってより高い酸化状態、即ち、より強い還元性を有するため、複合酸化物粒子の結晶構造に含まれているリチウムが溶媒滴に溶出しがたく、溶媒滴に存在しているプロトンとのイオン交換が起こらない。さらに、酸素の還元と対になる複合酸化物粒子の酸化反応が抑制されるため、この酸化反応に付随するリチウムイオンの放出が起こらない。
一方、フッ素が存在していない部位では、複合酸化物粒子の結晶構造中のリチウムの一部がリチウムイオンとして溶媒中に溶出し、その一部が溶媒和するが、溶媒自体は、複合酸化物粒子のフッ素が存在している部位ですでに酸化分解を受けているので、リチウムイオンとの溶媒和が困難となる。外界に存在する酸素は、複合酸化物粒子のフッ素が存在している部位では、その酸化力のため、還元が起こらない。他方、複合酸化物粒子のフッ素が存在していない部位では、僅かに還元が進行するが、酸化分解された溶媒の還元作用が優先し、複合酸化物粒子の表面上で酸化された溶媒の還元による有機化合物の析出反応が起こる。
なお、複合酸化物粒子のフッ素が存在していない部位から放出されたリチウムイオンは、溶媒中で複合酸化物粒子のフッ素が存在している部位に移動し、イオン性化合物であるフッ化リチウムの生成を促す。しかし、リチウムイオンの溶媒和に制限があることから、フッ化リチウムはほとんど生成しない。このことから、巨視的に複合酸化物粒子の表面状態を見た場合、鎖状有機化合物、およびフッ化リチウムなどの無機化合物は、それぞれが混在した状態で存在していると考えられる。
また、前記(C)の方法では、局部電池反応により、フッ素を一部取り込んだ鎖状有機化合物が主として形成される。この鎖状有機化合物は、電池の組み立ての前段階で形成されるものである。前記(C)の方法では、あらかじめ局部電池反応により電気化学的酸化処理を施しておいた複合酸化物粒子からなる電極(本電極)を正極とし、セパレータを介してリチウムまたは炭素材料からなる負極を対極とする電極群を捲回することによって群構成またはジェリーロールをなし、電解液を注液した後、封口したものは、電池デバイスとして用いることができる。前記(C)の方法によれば、前記(A)および(B)の方法と同様に、複合酸化物粒子の表面と電解液との固液界面で分極が緩和される。
本発明の非水電解質二次電池用正極材料を含む正極を用いた場合には、正極を含む正極が充電操作によって電気化学的酸化状態に至ったときに、ガスの発生および金属イオンの溶出が抑制されるので、電池の信頼性および安全性が高められる。
本発明の非水電解質二次電池は、前記非水電解質二次電池用正極材料を含む正極、負極、セパレータおよび電解質を含有するものである。
正極は、例えば、前記非水電解質二次電池用正極材料、導電剤および結着剤を混合し、得られたペーストを集電体に塗布し、乾燥することによって得られる。
導電剤は、電池内で化学変化を起こさない電子伝導性材料であればよく、特に限定されない。導電剤としては、例えば、鱗片状黒鉛などの天然黒鉛、人造黒鉛などのグラファイト;アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラック;炭素繊維、金属繊維などの導電性繊維;フッ化カーボン;銅、ニッケル、アルミニウム、銀などの金属の粉末;酸化亜鉛、チタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー;酸化チタンなどの導電性金属酸化物;ポリフェニレン誘導体などの有機導電性材料などが挙げられ、これらは、それぞれ単独でまたは本発明の目的が損なわれない範囲内で任意に混合して用いることができる。これらのなかでは、人造黒鉛、アセチレンブラックおよびニッケルが好ましい。
導電剤の量は、特に限定されないが、通常、前記非水電解質二次電池用正極材料100重量部に対して、好ましくは2〜5重量部、より好ましくは2.5〜3.5重量部である。
結着剤は、分解温度が300℃以上のポリマーであることが好ましい。結着剤の具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−クロロトリフルオロエチレン共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン−ペンタフルオロプロピレン共重合体、プロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−パーフルオロメチルビニルエーテル−テトラフルオロエチレン共重合体などが挙げられ、これらは、それぞれ単独でまたは本発明の目的が損なわれない範囲内で任意に混合して用いることができる。これらの中では、ポリフッ化ビニリデンおよびポリテトラフルオロエチレンが好ましい。
結着剤の量は、特に限定されないが、通常、前記非水電解質二次電池用正極材料100重量部に対して、好ましくは3〜10重量部、より好ましくは5〜7重量部である。
前記非水電解質二次電池用正極材料、導電剤および結着剤を混合することによってペーストが得られ、得られたペーストを集電体に塗布する。
集電体は、電池内で化学変化を起こしがたい電子伝導体であれば特に制限されない。集電体を構成する材料としては、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス鋼、ニッケル、チタン、炭素などをはじめ、アルミニウムやステンレス鋼の表面に炭素、ニッケル、チタンまたは銀を付着させた複合体などが挙げられる。これらのなかでは、アルミニウムおよびアルミニウム合金が好ましい。
なお、集電体の表面を酸化させておいてもよく、あるいは表面処理によってその表面に凹凸を形成させておいてもよい。
集電体の形状は、一般に電池に使用されているものであればよい。集電体の形状の具体例としては、例えば、箔、フィルム、シート、ネット、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維、織布、不織布などが挙げられる。集電体の厚さは、特に限定されないが、通常、1〜50μm程度であればよい。
前記ペーストを集電体に塗布した後の電極密度は、特に限定されないが、通常、3.0〜3.8g/mL程度であればよい。
次に、ペーストを塗布した集電体を常法で乾燥させることにより、正極が得られる。
負極に用いられる負極材料としては、例えば、リチウム、リチウム合金、金属間化合物、炭素材料などのリチウムイオンを吸蔵または放出しうる化合物であればよい。これらの負極材料は、それぞれ単独でまたは本発明の目的が損なわれない範囲内で任意に組み合わせて用いることができる。
リチウム合金としては、例えば、Li−Al系合金、Li−Al−Mn系合金、Li−Al−Mg系合金、Li−Al−Sn系合金、Li−Al−In系合金、Li−Al−Cd系合金、Li−Al−Te系合金、Li−Ga系合金、Li−Cd系合金、Li−In系合金、Li−Pb系合金、Li−Bi系合金、Li−Mg系合金などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。リチウム合金におけるリチウムの含有量は、10重量%以上であることが好ましい。
金属間化合物としては、例えば、遷移金属とケイ素の化合物、遷移金属とスズの化合物などが挙げられる。
炭素材料としては、例えば、ポリアクリロニトリル系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、セルロース系炭素繊維、気相成長炭素系炭素繊維などの炭素繊維、コークス、熱分解炭素、天然黒鉛、人造黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ、黒鉛化メソフェーズ小球体、気相成長炭素、ガラス状炭素、ポリ不定形炭素などが挙げられ、これらは、それぞれ単独でまたは本発明の目的が損なわれない範囲内で任意に組み合わせて用いることができる。
セパレータは、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのオレフィン系ポリマー、ガラス繊維などからなるシート、不織布などのイオン透過度および機械的強度が高く、絶縁性、耐有機溶媒性および疎水性を有する微多孔性薄膜が好ましい。
セパレータの孔径は、例えば、0.1〜1μmであることが好ましい。セパレータの厚さは、10〜100μm程度であればよい。また、セパレータの空孔率は、電子やイオンの透過性などに応じて決定されるが、一般的には30〜80%程度であることが好ましい。
電解液は、電解質を有機溶媒に溶解させることによって得られる。
有機溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネートなどの環状カーボネート;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネートなどの非環状カーボネート;ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチルなどの脂肪族カルボン酸エステル;γ−ブチロラクトン(GBL)などのγ−ラクトン;1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、エトキシメトキシエタンなどの非環状エーテル;テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランなどの環状エーテル;ジメチルスルホキシド、ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジオキソラン、ジオキソラン誘導体、アセトニトリル、プロピルニトリル、ニトロメタン、エチルモノグライム、リン酸トリエステル、トリメトキシメタン、スルホラン、メチルスルホラン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、3−メチル−2−オキサゾリジノン、プロピレンカーボネート誘導体、テトラヒドロフラン誘導体、1,3−プロパンサルトン、アニソール、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドンなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの有機溶媒は、それぞれ単独でまたは本発明の目的が損なわれない範囲内で任意に組み合わせて用いることができる。
電解質は、非水電解質であることが好ましい。非水電解質としては、例えば、LiClO4、LiBF4、LiPF6、LLiAlCl4、LiSbF6、LiSCN、LiCl、LiCF3SO3、LiCF3CO2、Li(CF3SO2)2、LiAsF6、LiN(CF3SO2)2、LiB10Cl10、低級脂肪族カルボン酸リチウム、LiCl、LiBr、LiI、クロロボランリチウム、四フェニルホウ酸リチウム、LiN(CF3SO2)(C2F5SO2)、LiN(CF3SO2)2、LiN(C2F5SO2)2、LiN(CF3SO2)(C4F9SO2)などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの電解質は、それぞれ単独でまたは本発明の目的が損なわれない範囲内で任意に組み合わせて用いることができる。
有機溶媒1リットルあたりの電解質の量は、特に限定されないが、好ましくは0.2〜2mol、より好ましくは0.5〜1.5molである。
なお、電解液には、充放電特性を高める観点から、2−メチルフラン、チオフェン、ピロール、アニリン、クラウンエーテル、ピリジン、トリエチルフォスファイト、トリエタノールアミン、環状エーテル、エチレンジアミン、n−グライム、ヘキサリン酸トリアミド、ニトロベンゼン誘導体などを溶解させてもよい。
また、電解液に不燃性を付与するために、例えば、四塩化炭素、三フッ化塩化エチレンなどの含ハロゲン有機溶媒を電解液に含有させてもよい。さらに、高温における保存安定性を電解液に付与する観点から、電解液に炭酸ガスを吹き込んでもよい。
電解液は、通常、多孔質ポリマー、ガラスフィルタ、不織布などのセパレータに含浸させることによって用いることができる。
電池の形状としては、例えば、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。電池の形状がコイン型またはボタン型である場合、正極活物質や負極材料をペレット状に成形することによって用いることができる。ペレット状の電池の厚さや直径は、電池の用途などに応じて適宜決定すればよい。
本発明の非水電解質二次電池は、正極活物質として非水電解質二次電池用正極材料が用いられているので、充電操作によって電気化学的酸化状態に至ったときにガスの発生および金属イオンの溶出がほとんどないので、その信頼性および安全性に優れている。
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
製造例1(複合酸化物粒子Aの製造)
攪拌器およびオーバーフローパイプを備えた15L容の円筒形反応槽内に、水13Lを入れた後、pHが10.9となるまで30%水酸化ナトリウム水溶液を添加し、液温を50℃に保持し、窒素ガスをこの水溶液に0.5L/分の流量で吹き込んで溶存酸素を除去しながら攪拌を行なった。
一方、1.7mol/L硫酸ニッケル水溶液と1.5mol/L硫酸コバルト水溶液と1.1mol/L硫酸マンガン水溶液を、ニッケル原子とコバルト原子とマンガン原子の原子比が1:1:1となるように混合した。得られた混合溶液に、この混合溶液1Lあたり50mLの割合で6mol/L硫酸アンモニウム水溶液を添加した。この混合溶液中の溶存酸素を除去するために、この混合溶液1Lあたり13mLの割合で4重量%ヒドラジン水溶液を添加し、混合原料溶液を調製した。
次に、前記円筒形反応槽内に、この混合原料溶液を10mL/分の流量で連続的に添加し、さらに反応槽内の溶液のpHが10.9となるように30%水酸化ナトリウムを断続的に添加し、ニッケル−コバルト−マンガン複合水酸化物粒子を得た。
反応槽内が定常状態になった後、オーバーフローパイプからニッケル−コバルト−マンガン複合水酸化物粒子を連続的に採取して水洗し、濾過し、100℃の温度で15時間乾燥することにより、ニッケル−コバルト−マンガン複合水酸化物の乾燥粉末を得た。
次に、得られたニッケル−コバルト−マンガン複合水酸化物のニッケル原子とコバルト原子とマンガン原子との合計に対するリチウム原子の原子比が1.03となるように水酸化リチウム一水和物を秤量し、この水酸化リチウム一水和物とニッケル−コバルト−マンガン複合水酸化物の乾燥粉末とを十分に混合し、得られた混合物を空気中で1000℃の温度で10時間焼成することにより、複合酸化物を得た。得られた複合酸化物を粉砕することにより、粒子径が20μm以下の複合酸化物粒子を得た。
得られた複合酸化物粒子は、ニッケル原子とコバルト原子とマンガン原子の原子比が1:1:1であり、空間群R−3m型構造を有し、式:LiNi0.33Co0.33Mn0.33O2.00で表されるものであった。この複合酸化物粒子を以下、複合酸化物粒子Aという。
なお、各製造例で得られた複合酸化物粒子の空間群の構造は、X線回折によって確認された。
製造例2(複合酸化物粒子Bの製造)
攪拌器およびオーバーフローパイプを備えた15L容の円筒形反応槽内に、水13Lを入れた後、pHが10.9となるまで30%水酸化ナトリウム水溶液を添加し、液温を50℃に保持し、窒素ガスをこの水溶液に0.5L/分の流量で吹き込んで溶存酸素を除去しながら攪拌を行なった。
一方、1.7mol/L硫酸ニッケル水溶液と1.5mol/L硫酸コバルト水溶液と1.1mol/L硫酸マンガン水溶液を、ニッケル原子とコバルト原子とマンガン原子の原子比が8:1:1となるように混合した。得られた混合溶液に、この混合溶液1Lあたり50mLの割合で6mol/L硫酸アンモニウム水溶液を添加した。この混合溶液中の溶存酸素を除去するために、この混合溶液1Lあたり13mLの割合で4重量%ヒドラジン水溶液を添加し、混合原料溶液を調製した。
次に、前記円筒形反応槽内に、この混合原料溶液を10mL/分の流量で連続的に添加し、さらに反応槽内の溶液のpHが10.9となるように30%水酸化ナトリウムを断続的に添加し、ニッケル−コバルト−マンガン複合水酸化物粒子を得た。
反応槽内が定常状態になった後、オーバーフローパイプからニッケル−コバルト−マンガン複合水酸化物粒子を連続的に採取して水洗し、濾過し、100℃の温度で15時間乾燥することにより、ニッケル−コバルト−マンガン複合水酸化物の乾燥粉末を得た。
次に、得られたニッケル−コバルト−マンガン複合水酸化物のニッケル原子とコバルト原子とマンガン原子との合計に対するリチウム原子の原子比が1.03となるように水酸化リチウム一水和物を秤量し、この水酸化リチウム一水和物とニッケル−コバルト−マンガン複合水酸化物の乾燥粉末とを十分に混合し、得られた混合物を空気中で1000℃の温度で10時間焼成することにより、複合酸化物を得た。得られた複合酸化物を粉砕することにより、粒子径が20μm以下の複合酸化物粒子を得た。
得られた複合酸化物粒子は、ニッケル原子とコバルト原子とマンガン原子の原子比が8:1:1であり、空間群R−3m型構造を有し、式:LiNi0.80Co0.10Mn0.10O2.00で表されるものであった。この複合酸化物粒子を以下、複合酸化物粒子Bという。
製造例3(複合酸化物粒子Cの製造)
攪拌器およびオーバーフローパイプを備えた15L容の円筒形反応槽内に、水13Lを入れた後、pHが10.9となるまで30%水酸化ナトリウム水溶液を添加し、液温を50℃に保持し、窒素ガスを水溶液に0.5L/分の流量で吹き込んで溶存酸素を除去しながら攪拌を行なった。
一方、1.7mol/L硫酸ニッケル水溶液と1.5mol/L硫酸コバルト水溶液を、ニッケル原子とコバルト原子の原子比が1:1となるように混合した。得られた混合溶液に、この混合溶液1Lあたり50mLの割合で6mol/L硫酸アンモニウム水溶液を添加した。この混合溶液中の溶存酸素を除去するために、この混合溶液1Lあたり13mLの割合で4重量%ヒドラジン水溶液をこの混合溶液に添加し、混合原料溶液を調製した。
次に、前記円筒形反応槽内に、この混合原料溶液を10mL/分の流量で連続的に添加し、さらに反応槽内の溶液のpHが10.9となるように30%水酸化ナトリウムを断続的に添加し、ニッケル−コバルト複合水酸化物粒子を得た。
反応槽内が定常状態になった後、オーバーフローパイプからニッケル−コバルト複合水酸化物粒子を連続的に採取して水洗し、濾過し、100℃の温度で15時間乾燥することにより、ニッケル−コバルト複合水酸化物の乾燥粉末を得た。
次に、得られたニッケル−コバルト複合水酸化物のニッケル原子とコバルト原子との合計量とリチウム原子の原子比とが1:1.03となるように水酸化リチウム一水和物を秤量し、この水酸化リチウム一水和物とニッケル−コバルト複合水酸化物の乾燥粉末とを十分に混合し、得られた混合物を大気雰囲気中で750℃の温度で10時間焼成することにより、複合酸化物を得た。得られた複合酸化物を粉砕することにより、粒子径が20μm以下の複合酸化物粒子を得た。
得られた複合酸化物粒子は、ニッケル原子とコバルト原子の原子比が1:1であり、空間群R−3m型構造を有し、式:LiNi0.50Co0.50O2.00で表されるものであった。この複合酸化物粒子を以下、複合酸化物粒子Cという。
製造例4(複合酸化物粒子Dの製造)
攪拌器およびオーバーフローパイプを備えた15L容の円筒形反応槽内に、水13Lを入れた後、pHが11.9となるまで30%水酸化ナトリウム水溶液を添加し、液温を50℃に保持し、窒素ガスをこの水溶液に0.5L/分の流量で吹き込んで溶存酸素を除去しながら攪拌を行なった。
次に、コバルト水酸化物を得るための原料溶液として1.5mol/L硫酸コバルト水溶液を調製した。この硫酸コバルト水溶液1Lあたり50mLの割合で6mol/L硫酸アンモニウム水溶液をこの水溶液に添加した。得られた混合溶液中の溶存酸素を除去するために、この混合溶液1Lあたり13mLの割合で4重量%ヒドラジン水溶液をこの混合溶液に添加し、混合原料溶液を調製した。
次に、前記円筒形反応槽内に、この混合原料溶液を10mL/分の流量で連続的に添加し、さらに反応槽内の溶液のpHが11.9となるように30%水酸化ナトリウムを断続的に添加し、コバルト水酸化物粒子を得た。
反応槽内が定常状態になった後、オーバーフローパイプからコバルト水酸化物粒子を連続的に採取して水洗し、濾過し、60℃の温度で15時間乾燥することにより、コバルト水酸化物の乾燥粉末を得た。
次に、得られたコバルト水酸化物のコバルト原子とリチウム原子の原子比が1:1.03となるように水酸化リチウム一水和物を秤量し、この水酸化リチウム一水和物とコバルト水酸化物の乾燥粉末とを十分に混合し、得られた混合物を大気雰囲気中で850℃の温度で10時間焼成することにより、複合酸化物を得た。得られた複合酸化物を粉砕することにより、粒子径が20μm以下の複合酸化物粒子を得た。
得られた複合酸化物粒子は、空間群R−3m型構造を有し、式:LiCo1.00O2.00で表されるものであった。以下、この複合酸化物粒子を複合酸化物粒子Dという。
製造例5(複合酸化物粒子Eの製造)
攪拌器およびオーバーフローパイプを備えた15L容の円筒形反応槽内に、水13Lを入れた後、pHが11.4となるまで30%水酸化ナトリウム水溶液を添加し、この水溶液に窒素ガスを0.5L/分の流量で吹き込むことによって溶存酸素を除去しながら攪拌を行なった。
一方、1.7mol/L硫酸ニッケル水溶液と1mol/L硫酸マンガン水溶液を、ニッケル原子とマンガン原子の原子比が1:1となるように混合した。この混合溶液1Lあたり50mLの割合で6mol/L硫酸アンモニウム水溶液を添加した。この混合液中の溶存酸素を除去するために、この混合液1Lあたり13mLの割合で4重量%ヒドラジン水溶液を添加し、混合原料溶液を調製した。
次に、前記円筒形反応槽内に、この混合原料溶液を10mL/分の流量で連続的に添加し、さらに反応槽内の溶液がpH11.4となるように30%水酸化ナトリウムを断続的に添加し、ニッケル−マンガン複合水酸化物粒子を得た。
反応槽内が定常状態になった後、オーバーフローパイプからニッケル−マンガン複合水酸化物粒子を連続的に採取して水洗し、濾過し、100℃の温度で15時間乾燥することにより、ニッケル−マンガン複合水酸化物の乾燥粉末を得た。
次に、得られたニッケル−マンガン複合水酸化物のニッケル原子とマンガン原子との合計に対するリチウム原子の原子比が1:1.03となるように水酸化リチウム一水和物を秤量し、この水酸化リチウム一水和物とニッケル−マンガン複合水酸化物の乾燥粉末とを十分に混合し、得られた混合物を大気雰囲気中で1000℃の温度で10時間焼成することにより、複合酸化物を得た。得られた複合酸化物を粉砕することにより、粒子径が20μm以下の複合酸化物粒子を得た。
得られた複合酸化物粒子は、ニッケル原子とマンガン原子の原子比が1:1であり、空間群R−3m型構造を有し、式:LiNi0.50Mn0.50O2.00で表されるものであった。この複合酸化物粒子を以下、複合酸化物粒子Eという。
製造例6(複合酸化物粒子Fの製造)
攪拌器およびオーバーフローパイプを備えた15L容の円筒形反応槽内に、水13Lを入れた後、pHが11.9となるまで30%水酸化ナトリウム水溶液を添加し、温度を50℃に保持し、攪拌を行なった。
一方、ニッケル水酸化物を得るための原料溶液として1.7mol/L硫酸ニッケル水溶液を調製した。この溶液1Lあたり50mLの割合で6mol/L硫酸アンモニウム水溶液を添加し、混合原料溶液を調製した。
次に、前記円筒形反応槽内に、この混合原料溶液を10mL/分の流量で連続的に添加し、さらに反応槽内の溶液のpHが11.9となるように30%水酸化ナトリウムを断続的に添加し、ニッケル水酸化物粒子を得た。
反応槽内が定常状態になった後、オーバーフローパイプからニッケル水酸化物粒子を連続的に採取して水洗し、濾過し、100℃の温度で15時間乾燥することにより、ニッケル水酸化物の乾燥粉末を得た。
次に、得られたニッケル水酸化物のニッケル原子とリチウム原子の原子比が1:1.03となるように水酸化リチウム一水和物を秤量し、この水酸化リチウム一水和物とニッケル水酸化物の乾燥粉末とを十分に混合し、得られた混合物を大気雰囲気中で750℃の温度で10時間焼成することにより、複合酸化物を得た。得られた複合酸化物を粉砕することにより、粒子径が20μm以下の複合酸化物粒子を得た。
得られた複合酸化物粒子は、空間群Fd3m型構造を有し、式:LiNi1.00O2.00で表されるものであった。以下、この複合酸化物粒子を複合酸化物粒子Fという。
製造例7(複合酸化物粒子Gの製造)
攪拌器およびオーバーフローパイプを備えた15L容の円筒形反応槽内に、水13Lを入れた後、pHが10.9となるまで30%水酸化ナトリウム水溶液を添加し、液温を50℃に保持し、窒素ガスをこの水溶液に0.5L/分の流量で吹き込むことにより溶存酸素を除去しながら攪拌を行なった。
一方、1mol/L硫酸マンガン水溶液を調製し、この溶液1Lあたり50mLの割合で6mol/L硫酸アンモニウム水溶液を添加した。この混合液中の溶存酸素を除去するために、この混合液1Lあたり13mLの割合で4重量%ヒドラジン水溶液を添加し、混合原料溶液を調製した。
次に、前記円筒形反応槽内に、この混合原料溶液を10mL/分の流量で連続的に添加し、さらに反応槽内の溶液のpHが10.9となるように30%水酸化ナトリウムを断続的に添加し、マンガン水酸化物粒子を得た。
反応槽内が定常状態になった後、オーバーフローパイプからマンガン水酸化物粒子を連続的に採取して水洗し、濾過し、100℃の温度で15時間乾燥することにより、マンガン水酸化物の乾燥粉末を得た。
次に、得られたマンガン水酸化物のマンガン原子に対するリチウム原子の原子比が1:0.52となるように水酸化リチウム一水和物を秤量し、この水酸化リチウム一水和物とマンガン水酸化物の乾燥粉末とを十分に混合し、得られた混合物を大気雰囲気中で850℃の温度で10時間焼成することにより、複合酸化物を得た。得られた複合酸化物を粉砕することにより、粒子径が20μm以下の複合酸化物粒子を得た。
得られた複合酸化物粒子は、空間群Fd3m型構造を有し、式:LiMn2.00O4.00で表されるものであった。以下、この複合酸化物粒子を以下、複合酸化物粒子Gという。
製造例8(複合酸化物粒子Hの製造)
攪拌器およびオーバーフローパイプを備えた15L容の円筒形反応槽内に、水13Lを入れた後、pHが11.4となるまで30%水酸化ナトリウム水溶液を添加し、液温を50℃に保持し、窒素ガスをこの水溶液に0.5L/分の流量で吹き込んで溶存酸素を除去しながら攪拌を行なった。
一方、1.7mol/L硫酸ニッケル水溶液と1mol/L硫酸マンガン水溶液を、ニッケル原子とマンガン原子の原子比が0.5:1.5となるように混合した。この混合溶液1Lあたり50mLの割合で6mol/L硫酸アンモニウム水溶液を添加した。この混合液中の溶存酸素を除去するために、この混合液1Lあたり13mLの割合で4重量%ヒドラジン水溶液を添加し、混合原料溶液を調製した。
次に、前記円筒形反応槽内に、この混合原料溶液を10mL/分の流量で連続的に添加し、さらに反応槽内の溶液のpHが11.4となるように30%水酸化ナトリウムを断続的に添加し、ニッケル−マンガン複合水酸化物粒子を得た。
反応槽内が定常状態になった後、オーバーフローパイプからニッケル−マンガン複合水酸化物粒子を連続的に採取して水洗し、濾過し、100℃の温度で15時間乾燥することにより、ニッケル−マンガン複合水酸化物の乾燥粉末を得た。
次に、得られたニッケル−マンガン複合水酸化物のニッケル原子とマンガン原子との合計量とリチウム原子との原子比が1:0.52となるように水酸化リチウム一水和物を秤量し、この水酸化リチウム一水和物とニッケル−マンガン複合水酸化物の乾燥粉末とを十分に混合し、得られた混合物を大気雰囲気中で1000℃の温度で10時間焼成することにより、複合酸化物を得た。得られた複合酸化物を粉砕することにより、粒子径が20μm以下の複合酸化物粒子を得た。
得られた複合酸化物粒子は、ニッケル原子とマンガン原子の原子比が0.5:1.5であり、空間群Fd3m型構造を有し、式:LiNi0.50Mn1.50O4.00で表されるものであった。この複合酸化物粒子を以下、複合酸化物粒子Hという。
製造例9(複合酸化物粒子Iの製造)
攪拌器およびオーバーフローパイプを備えた15L容の円筒形反応槽内に、水13Lを入れた後、pHが10.9となるまで30%水酸化ナトリウム水溶液を添加し、液温を50℃に保持し、窒素ガスをこの水溶液に0.5L/分の流量で吹き込んで溶存酸素を除去しながら攪拌を行なった。
一方、1.7mol/L硫酸ニッケル水溶液と1.5mol/L硫酸コバルト水溶液と1.1mol/L硫酸マンガン水溶液を、ニッケル原子とコバルト原子とマンガン原子の原子比が0.3:0.3:1.4となるように混合した。この混合溶液1Lあたり50mLの割合で6mol/L硫酸アンモニウム水溶液を添加した。この混合液中の溶存酸素を除去するために、この混合液1Lあたり13mLの割合で4重量%ヒドラジン水溶液を添加し、混合原料溶液を調製した。
次に、前記円筒形反応槽内に、この混合原料溶液を10mL/分の流量で連続的に添加し、さらに反応槽内の溶液のpHが10.9となるように30%水酸化ナトリウムを断続的に添加し、ニッケル−コバルト−マンガン複合水酸化物粒子を得た。
反応槽内が定常状態になった後、オーバーフローパイプからニッケル−コバルト−マンガン複合水酸化物粒子を連続的に採取して水洗し、濾過し、100℃の温度で15時間乾燥することにより、ニッケル−コバルト−マンガン複合水酸化物の乾燥粉末を得た。
次に、得られたニッケル−コバルト−マンガン複合水酸化物のニッケル原子とコバルト原子とマンガン原子との合計量とリチウム原子との原子比が1:0.52となるように水酸化リチウム一水和物を秤量し、この水酸化リチウム一水和物とニッケル−コバルト−マンガン複合水酸化物の乾燥粉末とを十分に混合し、得られた混合物を大気雰囲気中で1000℃の温度で10時間焼成することにより、複合酸化物を得た。得られた複合酸化物を粉砕することにより、粒子径が20μm以下の複合酸化物粒子を得た。
得られた複合酸化物粒子におけるニッケル原子とコバルト原子とマンガン原子の原子比が0.3:0.3:1.4であり、空間群Fd3m型構造を有し、式:LiNi0.70Co0.30Mn1.00O4.00で表されるものであった。この複合酸化物粒子を以下、複合酸化物粒子Iという。
製造例10(複合酸化物粒子Jの製造)
攪拌器およびオーバーフローパイプを備えた15L容の円筒形反応槽内に、水13Lを入れた後、pHが10.9となるまで30%水酸化ナトリウム水溶液を添加し、液温を50℃に保持し、窒素ガスをこの水溶液に0.5L/分の流量で吹き込んで溶存酸素を除去しながら攪拌を行なった。
一方、1.5mol/L硫酸コバルト水溶液と1.1mol/L硫酸マンガン水溶液を、コバルト原子とマンガン原子の原子比が1:9となるように混合した。この混合溶液1Lあたり50mLの割合で6mol/L硫酸アンモニウム水溶液を添加した。この混合液中の溶存酸素を除去するために、この混合液1Lあたり13mLの割合で4重量%ヒドラジン水溶液を添加し、混合原料溶液を調製した。
次に、前記円筒形反応槽内に、この混合原料溶液を10mL/分の流量で連続的に添加し、さらに反応槽内の溶液のpHが10.9となるように30%水酸化ナトリウムを断続的に添加し、コバルト−マンガン複合水酸化物粒子を得た。
反応槽内が定常状態になった後、オーバーフローパイプからコバルト−マンガン複合水酸化物粒子を連続的に採取して水洗し、濾過し、100℃の温度で15時間乾燥することにより、コバルト−マンガン複合水酸化物の乾燥粉末を得た。
次に、得られたコバルト−マンガン複合水酸化物のコバルト原子とマンガン原子との合計量とリチウム原子の原子比が1:0.52となるように水酸化リチウム一水和物を秤量し、この水酸化リチウム一水和物とコバルト−マンガン複合水酸化物の乾燥粉末とを十分に混合し、得られた混合物を大気雰囲気中で1000℃の温度で10時間焼成することにより、複合酸化物を得た。得られた複合酸化物を粉砕することにより、粒子径が20μm以下の複合酸化物粒子を得た。
得られた複合酸化物粒子は、コバルト原子とマンガン原子の原子比が1:9であり、空間群Fd3m型構造を有し、式:LiCo0.20Mn1.80O2.00で表されるものであった。この複合酸化物粒子を以下、複合酸化物粒子Jという。
製造例11(複合酸化物粒子Kの製造)
攪拌器およびオーバーフローパイプを備えた15L容の円筒形反応槽内に、水13Lを入れた後、pHが10.9となるまで30%水酸化ナトリウム水溶液を添加し、液温を50℃に保持し、窒素ガスを水溶液に0.5L/分の流量で吹き込んで溶存酸素を除去しながら攪拌を行なった。
一方、1.7mol/L硫酸ニッケル水溶液と1.5mol/L硫酸コバルト水溶液を、ニッケル原子とコバルト原子の原子比が0.75:0.25となるように混合した。得られた混合溶液に、この混合溶液1Lあたり50mLの割合で6mol/L硫酸アンモニウム水溶液を添加した。この混合溶液中の溶存酸素を除去するために、この混合溶液1Lあたり13mLの割合で4重量%ヒドラジン水溶液をこの混合溶液に添加し、混合原料溶液を調製した。
次に、前記円筒形反応槽内に、この混合原料溶液を10mL/分の流量で連続的に添加し、さらに反応槽内の溶液のpHが10.9となるように30%水酸化ナトリウムを断続的に添加し、ニッケル−コバルト複合水酸化物粒子を得た。
反応槽内が定常状態になった後、オーバーフローパイプからニッケル−コバルト複合水酸化物粒子を連続的に採取して水洗し、濾過し、100℃の温度で15時間乾燥することにより、ニッケル−コバルト複合水酸化物の乾燥粉末を得た。
次に、得られたニッケル−コバルト複合水酸化物のニッケル原子とコバルト原子との合計量とリチウム原子の原子比とが1:1.03となるように水酸化リチウム一水和物を秤量し、この水酸化リチウム一水和物とニッケル−コバルト複合水酸化物の乾燥粉末とを十分に混合し、得られた混合物を大気雰囲気中で750℃の温度で10時間焼成することにより、複合酸化物を得た。得られた複合酸化物を粉砕することにより、粒子径が20μm以下の複合酸化物粒子を得た。
得られた複合酸化物粒子は、ニッケル原子とコバルト原子の原子比が0.75:0.25であり、空間群R−3m型構造を有し、式:LiNi0.75Co0.25O2.00で表されるものであった。この複合酸化物粒子を以下、複合酸化物粒子Kという。
製造例12(複合酸化物粒子Lの製造)
攪拌器およびオーバーフローパイプを備えた15L容の円筒形反応槽内に、水13Lを入れた後、pHが10.9となるまで30%水酸化ナトリウム水溶液を添加し、液温を50℃に保持し、窒素ガスを水溶液に0.5L/分の流量で吹き込んで溶存酸素を除去しながら攪拌を行なった。
一方、1.7mol/L硫酸ニッケル水溶液と1.5mol/L硫酸コバルト水溶液と1.5mol/L硫酸アルミニウム溶液を、ニッケル原子とコバルト原子とアルミニウム原子の原子比が0.80:0.15:0.05となるように混合した。得られた混合溶液に、この混合溶液1Lあたり50mLの割合で6mol/L硫酸アンモニウム水溶液を添加した。この混合溶液中の溶存酸素を除去するために、この混合溶液1Lあたり13mLの割合で4重量%ヒドラジン水溶液をこの混合溶液に添加し、混合原料溶液を調製した。
次に、前記円筒形反応槽内に、この混合原料溶液を10mL/分の流量で連続的に添加し、さらに反応槽内の溶液のpHが10.9となるように30%水酸化ナトリウムを断続的に添加し、ニッケル−コバルト−アルミニウム複合水酸化物粒子を得た。
反応槽内が定常状態になった後、オーバーフローパイプからニッケル−コバルト−アルミニウム複合水酸化物粒子を連続的に採取して水洗し、濾過し、100℃の温度で15時間乾燥することにより、ニッケル−コバルト−アルミニウム複合水酸化物の乾燥粉末を得た。
次に、得られたニッケル−コバルト−アルミニウム複合水酸化物のニッケル原子とコバルト原子とアルミニウム原子の合計量とリチウム原子の原子比とが1:1.03となるように水酸化リチウム一水和物を秤量し、この水酸化リチウム一水和物とニッケル−コバルト−アルミニウム複合水酸化物の乾燥粉末とを十分に混合し、得られた混合物を大気雰囲気中で750℃の温度で10時間焼成することにより、複合酸化物を得た。得られた複合酸化物を粉砕することにより、粒子径が20μm以下の複合酸化物粒子を得た。
得られた複合酸化物粒子は、ニッケル原子とコバルト原子とアルミニウムの原子比が0.80:0.15:0.05であり、空間群R−3m型構造を有し、式:LiNi0.80Co0.15Al0.05O2.00で表されるものであった。この複合酸化物粒子を以下、複合酸化物粒子Lという。
製造例13(複合酸化物粒子Mの製造)
攪拌器およびオーバーフローパイプを備えた15L容の円筒形反応槽内に、水13Lを入れた後、pHが10.9となるまで30%水酸化ナトリウム水溶液を添加し、液温を50℃に保持し、窒素ガスを水溶液に0.5L/分の流量で吹き込んで溶存酸素を除去しながら攪拌を行なった。
一方、1.5mol/L硫酸コバルト水溶液と1.0mol/L硫酸マグネシウム溶液を、コバルト原子とマグネシウム原子の原子比が0.95:0.05となるように混合した。得られた混合溶液に、この混合溶液1Lあたり50mLの割合で6mol/L硫酸アンモニウム水溶液を添加した。この混合溶液中の溶存酸素を除去するために、この混合溶液1Lあたり13mLの割合で4重量%ヒドラジン水溶液をこの混合溶液に添加し、混合原料溶液を調製した。
次に、前記円筒形反応槽内に、この混合原料溶液を10mL/分の流量で連続的に添加し、さらに反応槽内の溶液のpHが10.9となるように30%水酸化ナトリウムを断続的に添加し、コバルト−マグネシウム複合水酸化物粒子を得た。
反応槽内が定常状態になった後、オーバーフローパイプからコバルト−マグネシウム複合水酸化物粒子を連続的に採取して水洗し、濾過し、100℃の温度で15時間乾燥することにより、コバルト−マグネシウム複合水酸化物の乾燥粉末を得た。
次に、得られたコバルト−マグネシウム複合水酸化物のコバルト原子とマグネシウム原子の合計量とリチウム原子の原子比とが1:1.03となるように水酸化リチウム一水和物を秤量し、この水酸化リチウム一水和物とコバルト−マグネシウム複合水酸化物の乾燥粉末とを十分に混合し、得られた混合物を大気雰囲気中で900℃の温度で10時間焼成することにより、複合酸化物を得た。得られた複合酸化物を粉砕することにより、粒子径が20μm以下の複合酸化物粒子を得た。
得られた複合酸化物粒子は、コバルト原子とマグネシウムの原子比が0.95:0.05であり、空間群R−3m型構造を有し、式:LiCo0.95Mg0.05O2.00で表されるものであった。この複合酸化物粒子を以下、複合酸化物粒子Mという。
実施例1
製造例1で得られた複合酸化物粒子20gをニッケル製反応容器に入れ、できるだけ粒子同士の重なりが小さくなるようにして広げた後、このニッケル製反応容器を3L容の316Lステンレス鋼製反応容器中に設置し、フッ素ガス導入ラインに接続した。接続部の機密性を確認した後、圧力が1Pa以下となるように減圧した。
次に、反応容器内の温度を25℃に調整し、絶対圧で1.3kPaとなるまでフッ素ガスを反応容器内に導入し、1時間保持した。その後、フッ素ガスを排気し、アルゴンガスを1気圧となるまで反応容器内に導入した。反応容器をフッ素ガス導入ラインから切り離し、アルゴンガス雰囲気中で容器を開け、フッ素化された複合酸化物粒子を取り出した。このフッ素化された複合酸化物粒子をアルゴンガスが封入された容器内で保存した。
実施例2〜27
実施例1において、複合酸化物粒子およびフッ素化処理の条件(フッ素化ガスの種類、フッ素化処理時の温度および圧力)を表1に示すように変更したほかは、実施例1と同様にしてフッ素化処理が施された複合酸化物粒子を製造し、得られたフッ素化された複合酸化物粒子をアルゴンガスが封入された容器内で保存した。なお、実施例3、実施例17および実施例19は、参考例として取り扱われるものである。
実験例1(各複合酸化物粒子の表面におけるフッ素と酸素の存在比率の測定)
各実施例で得られたフッ素化された複合酸化物粒子の物性として、各複合酸化物粒子の表面におけるフッ素と酸素の存在比率を以下の方法に基づいて調べた。その結果を「F/Oの原子比」として表1に示す。
各複合酸化物粒子の表面におけるフッ素と酸素の存在比率は、X線光電子分光分析(XPS)スペクトルのピーク面積の比率に基づいて算出した。より具体的には、XPSの測定に、(株)島津製作所製、品番:ESCA750を用いた。フッ素化処理が施された複合酸化物粒子をアルゴンガスが充填された試料瓶中に入れ、できるだけ空気に触れさせないようにして測定機器の真空チャンバー内に導入した。その後、真空チャンバーを10-3Paまで脱気し、MgKα線を照射して発生する光電子を分光してスペクトルを得た。ここでは、特にフッ素の1s電子に由来する光電子について調べるため、680〜700eVの範囲で詳細に走査し、スペクトルを得た。
スペクトル中のピークプロファイルは、685eVと687eV付近にピークを持つ対称的な形状を有するピーク群の合算として示すことができる。685eV付近のピークは、リチウムと相互作用するフッ素、687eV付近のピークは、ニッケルおよびコバルトと相互作用するフッ素に相当する。さらに、二フッ化物を基準に考えると、ニッケルは687.6eV、コバルトは687.7eV、マンガンは687.4eVにピークがある。
一方、酸素に対するスペクトルは、より複雑であり、主に529.4eVおよび530.2eVにピークを持つ対称的な形状を有するピーク群を合算することによって求められる。なお、ピーク群には、さらに数本の強度が小さいピークが存在している。
理論的には、このスペクトルを個別の化学結合状態に対応する左右対称のピークに分離し、その強度比またはピーク面積比を算出して、個別の化学結合状態が考慮された組成比を決定するが、個別のピークを完全に分離し、同定することができない場合には、実測した領域すべてにわたって求められたピーク面積によって総合的な組成比として求められる。各実施例では、フッ素のスペクトルおよび酸素のスペクトルをそれぞれ積分することによってピーク面積を求め、両者の面積比を組成比(F/Oの原子比)とした。
なお、あらかじめフッ素化処理前後の重量変化から求めておいたフッ素量と、窒素ガス吸着法で測定しておいたサンプルの表面積との関係から、F/Oの原子比が2/1以下では、複合酸化物粒子の表面におけるフッ素と酸素との原子数比から、複合酸化物粒子の表面がフッ素によって完全には覆われていないことが確認されている。
表1に示された結果から、実施例1〜2、4〜16、18および20〜27で得られたフッ素化された複合酸化物粒子は、F/Oの原子比が2/1以下であることから、複合酸化物粒子のフッ素化によってその表面全体がフッ素で完全に覆われていないことがわかる。したがって、これらの粒子では、フッ素化が均一に行なわれているのでなく、粒子の酸素などの下地物質が露出している部分を残して行なわれていると考えられる。
一方、実施例3、17および19で得られたフッ素化された複合酸化物粒子は、F/Oの原子比が2/1を超えていることがわかる。
各実施例で得られたフッ素化された複合酸化物粒子の電導率を粉末電導率測定装置で測定したところ、実施例1〜2、4〜16、18および20〜27で得られたフッ素化された複合酸化物粒子の電導率が10−3Scm−1であったのに対し、実施例3、17および19で得られたフッ素化された複合酸化物粒子は、その10〜100分の1という非常に小さい電導率を示したことから、その表面がフッ素で完全に覆われていると考えられる。
実施例28
実施例1において、複合酸化物粒子として、製造例11で得られたLiNi0.75Co0.25O2.00からなる複合酸化物粒子を用い、フッ素化処理の際に、フッ素化ガスとして圧力が1.3kPaであるフッ素ガスを用い、フッ素化処理の際の温度を100℃としたほかは、実施例1と同様にしてフッ素化処理が施された複合酸化物粒子を製造し、得られたフッ素化された複合酸化物粒子をアルゴンガスが封入された容器内で保存した。
得られたフッ素化された複合酸化物粒子のX線光電子分光分析(XPS)の測定結果(XPSスペクトル)を図1の(A)に示す。
次に、運動エネルギーを与えたアルゴンイオンを、フッ素化処理が施された複合酸化物粒子の表面に照射し、表面から0.1nm〜数nmの原子層をエッチングによって取り除いた後に、フッ素化された複合酸化物粒子のX線光電子分光分析(XPS)を測定した。その測定結果(XPSスペクトル)を図1の(B)に示す。
なお、図1の(A)および(B)のXPSの測定結果を示すグラフにおいて、1は測定されたXPSスペクトル、2はLi−Fのフッ素に対応するピーク、3はCo−Fのフッ素に対応するピーク、4はNi−Fのフッ素に対応するピーク、5はLi−Fのフッ素に対応するピークとCo−Fのフッ素に対応するピークとNi−Fのフッ素に対応するピークとの和を示す。
図1の(A)および(B)を対比して、測定されたXPSスペクトルでは、遷移金属と相互作用していると考えられるフッ素に由来するピーク3および4が極端に小さくなっていることが確認された。このことから、フッ素は、遷移金属と比べてある程度優先的にリチウムと相互作用していることがわかる。
実施例29〜34
実施例1において、複合酸化物粒子として、製造例11で得られたLiNi0.75Co0.25O2.00からなる複合酸化物粒子を用い、表2に示すフッ素化処理の条件で、実施例1と同様にしてフッ素化処理を施すことにより、フッ素化処理が施された複合酸化物粒子を製造し、得られたフッ素化された複合酸化物粒子をアルゴンガスが封入された容器内で保存した。
比較例1
比較例として、実施例28において、フッ素化処理が施されていない複合酸化物粒子を用いた。
次に、実施例29〜34で得られたフッ素化された複合酸化物粒子および比較例1のフッ素化処理が施されていない複合酸化物粒子について、X線光電子分光分析(XPS)
を行なった。その結果を図2に示す。
なお、図2において、1は比較例1で用いられたフッ素化処理が施されていない複合酸化物粒子のXPSの測定結果を示すグラフ、2〜7はそれぞれ順に実施例29〜34で得られたフッ素化された複合酸化物粒子のXPSの測定結果を示すグラフである。
図2に示された結果より、フッ素化ガスの種類によってXPSスペクトルの形状が異なり、表面に存在しているフッ素の状態が変化することがわかる。また、リチウムおよび遷移金属と相互作用しているフッ素の割合は、温度や圧力などの反応条件よりもフッ素化ガスの種類に大きく依存していることがわかる。
実験例2(フッ素化された複合酸化物粒子の結晶構造の解析)
実施例1〜25で用いられた複合酸化物粒子および実施例1〜25で得られたフッ素化された複合酸化物粒子に、それぞれ、銅の特性X線(波長1.54Å)を照射し、2θが10〜85°の範囲で毎分2°で走査することにより、X線回折を行なった。なお、X線回折の測定には、(株)島津製作所製、品番:XD−3Aを用いた。その結果を表3に示す。
表3には、ピーク強度の大きいものから3本を選定し、その位置と最大強度のピークを100とした比率で強度が示されている。より具体的には、表3中、(2θ1,I1)は最大強度ピーク位置およびそのときの強度比、(2θ2,I2)は第二強度ピーク位置およびそのときの強度比、(2θ3,I3)は第三強度ピーク位置およびそのときの強度比を示す。
表3に示された結果から、各実施例において、フッ素化に伴うX線回折パターンの変化は、実験誤差の範囲内であり、いずれの場合にも、複合酸化物粒子の結晶構造は、表面のフッ素化によってほとんど変化しないことから、フッ素は、複合酸化物粒子の表面のみに存在し、フッ化物などへの分解反応が進行していないことがわかる。
実施例35〜37
実施例1において、複合酸化物粒子としてLiMn2O4からなる複合酸化物粒子を用い、表4に示すフッ素化処理の条件で、実施例1と同様にしてフッ素化処理を施すことにより、フッ素化処理が施された複合酸化物粒子を製造し、得られたフッ素化された複合酸化物粒子をアルゴンガスが封入された容器内で保存した。
比較例2
比較例として、実施例35において、フッ素化処理が施されていない複合酸化物粒子を用いた。
次に、実施例35〜37で得られたフッ素化された複合酸化物粒子および比較例2のフッ素化処理が施されていない複合酸化物粒子について、X線回折を行なった。なお、X線回折の測定には、(株)島津製作所製、品番:XD−3Aを用いた。その結果を図3に示す。
なお、図3において、1は比較例2で用いられたフッ素化処理が施されていない複合酸化物粒子のX線回折図、2〜4はそれぞれ順に実施例35〜37で得られたフッ素化された複合酸化物粒子のX線回折図を示す。
図3に示された結果から、X線回折ピークは、いずれもスピネル構造のLiMn2O4に帰属された。また、図3に示された結果から、X線回折のピークの位置およびピーク強度比は、いずれもフッ素化によって変化していないことから、複合酸化物粒子の結晶構造は、フッ素化処理によって変化しないことがわかる。
実験例3(複合酸化物粒子の表面積および密度の測定)
実施例1〜25で原料として用いられた複合酸化物粒子および実施例1〜25で得られたフッ素化された複合酸化物粒子の密度および表面積を調べた。その結果を表5に示す。
なお、密度は、BET法によりヘリウム置換型ピクノメーター〔マイクロメリティックス(Micromeritics)社製、商品名:Accupyc1300〕を用いて測定し、表面積は、マイクロメリティックス(Micromeritics)社製、品番:ASAP2100を用いて測定した窒素ガス吸着量から求めた。
表5に示された結果から、各実施例において、複合酸化物粒子の表面積および密度は、フッ素化によってほとんど変化しないことがわかる。このことから、フッ素は、ベースの酸化物粒子の表面の形態を変化させることなく、表面にのみ存在していることがわかる。
実施例38〜39
実施例1において、複合酸化物粒子としてLiMn2O4からなる複合酸化物粒子を用い、表6に示すフッ素化処理の条件で、実施例1と同様にしてフッ素化処理を施すことにより、フッ素化された複合酸化物粒子を製造し、得られたフッ素化された複合酸化物粒子をアルゴンガスが封入された容器内で保存した。
比較例3
比較例として、実施例38において、フッ素化処理が施されていない複合酸化物粒子を用いた。
実験例4(複合酸化物粒子の表面状態)
実施例38〜39で得られたフッ素化された複合酸化物粒子および比較例3で用いられたフッ素化処理が施されていない複合酸化物粒子の電子顕微鏡写真を(株)島津製作所製、品番:EPMA−C1を用いて撮影した。その結果を図4に示す。
図4において、A〜Cは、それぞれ順に、比較例3で用いられたフッ素化処理が施されていない複合酸化物粒子、実施例38で得られたフッ素化された複合酸化物粒子および実施例39で得られたフッ素化された複合酸化物粒子の電子顕微鏡写真である。なお、各電子顕微鏡写真中の白線は、5μmの長さを示す。
図4のA〜Cに示された結果から、フッ素化に伴う表面状態の変化は、マイクロメートルレベルでは観測されなかった。このことから、本発明によるフッ素化処理は、複合酸化物粒子の原子レベルでの表面処理であると考えられる。
実験例5(効果確認試験)
実施例1、5〜7、13〜15、22〜24、26、27および29で得られたフッ素化された複合酸化物粒子について、以下の効果確認試験を行なった。
活物質であるフッ素化された複合酸化物粒子100重量部に対して、導電剤としてアセチレンブラック3重量部および結着剤としてポリフッ化ビニリデン5重量部の割合で各成分を混合し、得られた混合物を有機溶媒としてN−メチル−2−ピロリドン中でさらに混合し、分散させることによって得られたペーストをアルミニウム集電体シートに塗工し、乾燥および圧延することにより、正極板を得た。
負極の活物質として黒鉛を用い、黒鉛100重量部に対して、結着剤としてスチレンブタジエンゴム2.5重量部の割合で両者を、水で混練し分散させることによって得られたペーストを銅集電体シートに塗工し、乾燥および圧延することにより、負極板を得た。
容量100mAh程度の容量が得られるように正極板と負極板との容量比をあらかじめ調整しておいた電池を構成した。より具体的には、図5に示されるアルミニウムフォイルで形成されたラミネートセル3を用いた。図5において、試料極としての正極板1と対極としての負極板2とは、セパレータ(図示せず)を介して対向されている。アルミニウムフォイルで形成されているラミネートセル3には、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとの混合溶媒にLiPF6を1mol/dm3の量で溶解させた電解液が真空注液によって含浸されており、開口部(図示せず)が封止されている。このラミネートセル3は、正極板1および負極板2が存在している電池動作室4と副反応で生じるガスを捕集するためのガス溜め室5が設けられており、電池動作室4とガス溜め室5の隔壁(図示せず)には、ガス通路6が形成されている。
常温で正極板1に10mAの電気化学的酸化電流を通電し、ラミネートセル3の電圧が4.0Vに達したときに通電を終了することにより、電気化学的酸化処理を完了した。
電気化学的酸化処理が終了したラミネートセル3を45℃で1時間以上放置した後、放電電流10mAで電位が3.0Vとなるまで放電した。
次に、得られたラミネートセル3を45℃の大気中で4.5Vまで充電した後、開回路状態で3日間保存し、発生ガスを捕集した。また、試験終了後にラミネートセル3を解体し、電解液と負極板2に存在している遷移金属元素量を分析した。その結果、炭酸ガスを主成分とする正極板1に由来のガスおよびメタンガスを主成分とする負極板2に由来のガスが検出された。これらのうち、正極板1に由来のガスは、主として正極板1と電解液との副反応によって生成される成分と考えられるので、フッ素ガス処理の有無による正極板1に由来のガスの発生量について調べた。
電解液と負極板2に存在する遷移金属元素は、主として正極板1から溶出した成分であり、正極板1の安定性を示す指標となり、遷移金属元素の溶出量が少ないほど正極板1が安定していると考えられる。
得られたラミネートセル3を用いて、ガス発生比、溶出金属イオン比および容量比を以下の方法に基づいて調べた。その結果を表7に示す。
〔ガス発生比〕
空間群R−3m型構造または空間群Fd3m型構造を有する複合酸化物に対するフッ素化処理による効果を確認するために、図5に示されるラミネートセル3を用い、45℃の雰囲気中で4.5Vの充電電圧で充電した後、開回路状態で3日間発生したガスの捕集を行ない、ガスの総発生量の比率(処理あり/処理なしの比の値)を求めた。
また、スピネル構造を有する複合酸化物については、スピネル構造を有する複合酸化物に対するフッ素化処理による効果を調べるために、実施例15および実施例24では、図5に示されるラミネートセル3を用い、45℃の雰囲気中で充電電圧4.5Vを印加して充電した後、開回路状態で3日間発生したガスを捕集し、ガスの総発生量の比率(処理あり/処理なしの比の値)を求めた。なお、実施例22および実施例23では、充電電圧を4.75Vに設定したこと以外は、この操作と同様の操作を行なった。
〔溶出金属イオン比〕
空間群R−3m型構造または空間群Fd3m型構造を有する複合酸化物に対するフッ素化処理による効果を調べるために、図5に示されるラミネートセル3を用い、45℃の雰囲気中で4.5Vの充電電圧で充電した後、開回路状態で3日間保存した後、負極または電解液中の遷移金属イオン量の比率(処理あり/処理なしの比の値)を求めた。
スピネル構造を有する複合酸化物については、スピネル構造を有する複合酸化物に対するフッ素化処理による効果を調べるために、実施例15および実施例24では、図5に示されるラミネートセル3を用い、45℃の雰囲気中で充電電圧4.5Vを印加して充電し、開回路状態で3日間保存した後、負極板2または電解液中の遷移金属イオン量の比率(処理あり/処理なしの比の値)を求めた。なお、実施例22および実施例23では、充電電圧を4.75Vに設定したこと以外は、この操作と同様の操作を行なった。
〔容量比〕
空間群R−3m型構造または空間群Fd3m型構造を有する複合酸化物に対するフッ素化処理による容量特性への影響を調べるために、図5に示されるラミネートセル3を用い、45℃の雰囲気中で4.5Vの充電電圧で充電し、開回路状態で3日間保存した後、0.2C相当の放電容量の比率(処理あり/処理なし)を求めた。
スピネル構造を有する複合酸化物については、スピネル構造を有する複合酸化物に対するフッ素化処理による容量特性への影響を調べるために、実施例15および実施例24で得られたフッ素化された複合酸化物粒子を用い、図5に示されるラミネートセル3にて45℃の雰囲気中で4.5Vの充電電圧で充電し、開回路状態で3日間保存した後、0.2C相当の放電容量の比率(処理あり/処理なしの比の値)を求めた。なお、実施例22および実施例23では、充電電圧を4.75Vに設定したこと以外は、この操作と同様の操作を行なった。
表7に示された結果から、いずれの実施例でも、結晶系の空間群の相違に関係なく、ガス発生比および溶出金属イオン比が小さく、容量比が1に近いことから、フッ素化処理を施しても、その容量がほとんど影響を受けないことがわかる。
なお、いずれの実施例においても、フッ素化処理が施された場合の電極電位は、フッ素化処理が施されなかった場合の電極電位と対比して、約30mV貴な電位が示された。これは、複合酸化物粒子の表面の金属原子は、本来、酸素と共有結合性を有するが、表面で付加的に存在しているフッ素原子によってδ+に帯電しやすく、酸素−金属間結合を含む結合全体にイオン結合的な性質がもたらされ、エネルギーの安定化が図られ、初期の電位が貴な方向へシフトしたことに起因するものと考えられる。
また、フッ素化処理が施された複合酸化物粒子からなる電極が用いられたラミネートセル3は、フッ素化処理が施されなかった複合酸化物粒子からなる電極が用いられたラミネートセル3と対比して、充電容量に差異がほとんど見られなかったが、初回の充放電効率が1.0〜1.5%程度向上していた。このことは、おそらく、初回の充電時に4.0V以上の満充電に至るまでに電極表面にフッ素が存在していること、および共有性に加えてイオン性が付与されることによって複合酸化物粒子の結晶構造が安定化し、電気化学的酸化過程で得られるフッ素含有鎖状有機化合物が生成していることなどにより、電解液との直接的な副反応が制限されていることに基づくものと考えられる。
実験例6(DSCによる複合酸化物粒子の充電状態での熱安定性)
フッ素化処理が施された空間群R−3m型構造または空間群Fd3m型構造を有する複合酸化物粒子の充電状態における熱分解挙動を調べるために、実施例1〜32で得られた複合酸化物粒子にフッ素化処理を施すことによって得られたフッ素化された複合酸化物粒子を図5に示されるラミネートセル3に入れ、45℃の雰囲気中で4.5Vの充電電圧で充電した後、フッ素化された複合酸化物粒子を取り出し、ステンレス鋼製の密閉セルを用いて10℃/secの昇温速度で室温から350℃までの温度範囲内でDSCの測定を行なった。
一方、実施例22および実施例23で得られた複合酸化物粒子にフッ素化処理を施すことによって得られたフッ素化された複合酸化物粒子では、充電電圧を4.75Vに変更した以外は、この操作と同様の操作を行なった。
実施例27で得られたフッ素化された複合酸化物粒子の充電状態でのDSCの測定結果を図6に、比較例1で得られたフッ素化処理が施されていない複合酸化物粒子のDSCの測定結果を図7にそれぞれ示す。
図6および7に示された結果から、図7において228℃付近に観測された発熱ピークが図6においては観測されないことがわかる。
その結果、R−3m型構造を有する複合酸化物にフッ素化処理を施すことにより、260℃付近で観察されるフッ素化された複合酸化物粒子の分解による発熱ピークよりも20℃程度低温側に現れるプレピークの強度が顕著に低下するとともに、発熱ピークをブロードにするかまたは消失させることができたことから、フッ素化処理は、充電状態の複合酸化物粒子上で加熱時に起こる少なくともひとつの化学反応を抑制する効果があることがわかる。
このことから、フッ素化処理は、充電状態の複合酸化物粒子上で加熱時に起こる少なくともひとつの充放電反応とは異なる不可逆的な化学反応、すなわち電池に対して充放電サイクル寿命を短縮させるという悪影響を及ぼす化学反応を抑制する効果があることがわかる。
なお、種々の複合酸化物についてフッ素化処理による効果とは別に、材料としての基本的な電気化学的活性を調べた。すなわち、電池用正極板として用いる際の体積容量密度、および5時間率放電特性に対する1時間率放電特性の比について調べた。
式(Ia)で表される組成以外の複合酸化物では、400mAh/mL以上の体積容量密度が得られず、また91%以上の時間率放電特性の比が得られなかった。一方、製造例1および2で得られた式(Ib)で表されるR−3m型構造を有する複合酸化物では、体積容量密度が640mAh/mL以上であり、時間率放電特性の比が96%以上であることから、式(Ia)で表される製造例3、5、6、11および12で得られた複合酸化物と対比して、電気化学的活性に優れていることがわかる。
また、製造例9で得られた式(Ib)で表されるFd3m型構造を有する複合酸化物は、体積容量密度が450mAh/mL以上であり、時間率放電特性の比が95%以上であることから、製造例8で得られた式(Ia)で表される複合酸化物と対比して、電気化学的活性に優れていることがわかる。
したがって、複合酸化物のなかでは、式(Ia)で表される組成を有する複合酸化物が高い電気化学的活性を有することがわかる。なかでも、式(Ib)で表される組成を有する複合酸化物は、より電気化学的活性に優れていることがわかる。
実験例7
実施例1および3で得られたフッ素化された複合酸化物粒子0.5gを精秤し、30℃の純水50mLに分散させ、全イオン強度調整液〔オリオン(ORION)社製、商品名:TISAB III〕を用いて溶液の全イオン強度を調整した後、水中に溶出したフッ化物イオン量をイオン選択性電極〔オリオン(ORION)社製、商品名:720(メーター部)、96−09(電極部)〕を用いて測定した。
その結果、実施例1で得られたフッ素化された複合酸化物粒子には0.07質量%、実施例3で得られたフッ素化された複合酸化物粒子には0.09質量%のフッ素が含有されていることが確認された。
以上説明したように、本発明の製造方法によって得られた非水電解質二次電池用正極材料は、電解液と複合酸化物粒子との界面でのガスの発生および金属イオンの溶出を抑制するので、電池の信頼性および安全性を高めることができる。また、本発明の非水電解質二次電池は、前記非水電解質二次電池用正極材料を含む正極を有するので、電池構成後の充電操作よる電気化学的酸化状態に至ったときに、ガスの発生および金属イオンの溶出が抑制されるので、電池の信頼性および安全性を高めることができることがわかる。