本発明の多層配線基板の製造方法においては、内層回路基板の片面又は両面上に熱硬化性樹脂組成物層が積層され、該熱硬化性樹脂組成物層上に水溶性高分子層が積層され、該水溶性高分子層上に支持体層が積層された状態で、熱硬化性樹脂組成物層を熱硬化して絶縁層を形成する工程を含む。
[内層回路基板]
本発明における内層回路基板は、多層配線基板を製造する際に、さらに絶縁層及び導体層が形成されるべき中間製造物であり、表面に回路配線が形成された基板であれば特に限定されない。例えば、ガラスエポキシ基板、金属基板、ポリエステル基板、ポリイミド基板、BTレジン基板、熱硬化型ポリフェニレンエーテル基板等の基板の片面又は両面に回路配線が形成されたもの、或いはこれらをコア基板とし絶縁層と回路配線がさらに形成された多層配線基板の中間製造物等が挙げられる。
[熱硬化性樹脂組成物層]
内層回路基板上に形成される熱硬化性樹脂組成物層に用いる熱硬化性樹脂組成物は、多層配線基板の絶縁層に適したものであれば特に限定されない。例えば、エポキシ樹脂、シアネートエステル樹脂、フェノール樹脂、ビスマレイミド−トリアジン樹脂、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、ビニルベンジル樹脂等の熱硬化性樹脂にその硬化剤を少なくとも配合した組成物が使用される。特にエポキシ樹脂及び硬化剤を含有する熱硬化性樹脂組成物が好ましい。
エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフトール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、リン含有エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、脂肪族鎖状エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、ブタジエン構造を有するエポキシ樹脂、ビスフェノールのジグリシジルエーテル化物、ナフタレンジオールのジグリシジルエーテル化物、フェノール類のグリシジルエーテル化物、及びアルコール類のジグリシジルエーテル化物、並びにこれらのエポキシ樹脂のアルキル置換体及び水素添加物等が挙げられる。エポキシ樹脂は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
エポキシ樹脂は、これらの中でも、耐熱性、絶縁信頼性等の観点から、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ナフトール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ブタジエン構造を有するエポキシ樹脂が好ましい。具体的には、例えば、ジャパンエポキシレジン(株)製「jER828EL」(液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂)、DIC(株)製「HP4032」、「HP4032D](ナフタレン型2官能エポキシ樹脂)、DIC(株)製「HP4700」(ナフタレン型4官能エポキシ樹脂)、東都化成(株)製「ESN−475V」「ESN−185V」(ナフトール型エポキシ樹脂)、ダイセル化学工業(株)製「PB−3600」(ブタジエン構造を有するエポキシ樹脂)、日本化薬(株)製「NC3000H」、「NC3000L」、「NC3100」、「NC3000」(ビフェニル型エポキシ樹脂)、ジャパンエポキシレジン(株)製「YX4000」(ビフェニル型エポキシ樹脂)、東都化成(株)製GK3207(ビフェニル型エポキシ樹脂)、ジャパンエポキシレジン(株)製「YX8800」(アントラセン骨格含有型エポキシ樹脂)などが挙げられる。
エポキシ樹脂は、樹脂シートの形態で使用する場合、耐熱性や破断強度とラミネート性を両立するために、1分子中に2以上のエポキシ基を有する室温(20℃等)で液状の芳香族系エポキシ樹脂、または融点以上で溶解させた後、室温にて液状となる結晶性芳香族系エポキシ樹脂と、1分子中に3以上エポキシ基を有する室温(20℃等)で固体状の芳香族系エポキシ樹脂を併用して用いるのが好ましい。また該固体状の芳香族系エポキシ樹脂は、ガラス転移温度等の物性向上のため、エポキシ当量が230以下のものが好ましく、エポキシ当量が150〜230の範囲にあるものがさらに好ましい。該液状の芳香族系エポキシ樹脂と固体状の芳香族系エポキシ樹脂の割合は、質量比で1:0.3〜2の範囲が好ましく、1:0.5〜1の範囲がより好ましい。
硬化剤としては、例えば、アミン系硬化剤、グアニジン系硬化剤、イミダゾール系硬化剤、トリアジン骨格含有フェノール系硬化剤、フェノール系硬化剤、トリアジン骨格含有ナフトール系硬化剤、ナフトール系硬化剤、酸無水物系硬化剤又はこれらのエポキシアダクトやマイクロカプセル化したもの、活性エステル系硬化剤、ベンゾオキサジン系硬化剤、シアネートエステル樹脂等を挙げることができる。フェノール系硬化剤、ナフトール系硬化剤、トリアジン骨格含有フェノール系硬化剤、トリアジン骨格含有ナフトール系硬化剤が好ましい。硬化剤は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
フェノール系硬化剤、ナフトール系硬化剤の具体例としては、例えば、MEH−7700、MEH−7810、MEH−7851(明和化成(株)製)、NHN、CBN、GPH(日本化薬(株)製)、SN170、SN180、SN190、SN475、SN485、SN495、SN375、SN395(東都化成(株)製)、TD2090(大日本インキ化学工業(株)製)等が挙げられる。トリアジン骨格含有フェノール系硬化剤の具体例としては、LA3018(大日本インキ化学工業(株)製)等が挙げられる。トリアジン骨格含有フェノールノボラック硬化剤の具体例としては、LA7052、LA7054、LA1356(大日本インキ化学工業(株)製)等が挙げられる。
活性エステル化合物は、エポキシ樹脂の硬化剤として機能し、一般にフェノールエステル類、チオフェノールエステル類、N−ヒドロキシアミンエステル類、複素環ヒドロキシ化合物のエステル類等の反応活性の高いエステル基を1分子中に2個以上有する化合物が好ましく用いられる。活性エステル化合物は、カルボン酸化合物及び/又はチオカルボン酸化合物とヒドロキシ化合物及び/又はチオール化合物との縮合反応によって得られるものが好ましい。特に耐熱性等の観点から、カルボン酸化合物とフェノール化合物又はナフトール化合物とから得られる活性エステル化合物が好ましい。カルボン酸化合物としては、例えば安息香酸、酢酸、コハク酸、マレイン酸、イタコン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ピロメリット酸等が挙げられる。フェノール化合物又はナフトール化合物としては、ハイドロキノン、レゾルシン、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、フェノールフタリン、メチル化ビスフェノールA、メチル化ビスフェノールF、メチル化ビスフェノールS、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、カテコール、α−ナフトール、β−ナフトール、1,5−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、ジヒドロキシベンゾフェノン、トリヒドロキシベンゾフェノン、テトラヒドロキシベンゾフェノン、フロログルシン、ベンゼントリオール、ジシクロペンタジエニルジフェノール、フェノールノボラック等が挙げられる。活性エステル化合物は2種以上を併用してもよい。活性エステル化合物としては、特開2004−427761号公報に開示されている活性エステル化合物を用いてもよく、また市販のものを用いることもできる。市販されている活性エステル化合物としては、例えば、ジシクロペンタジエニルジフェノール構造を含むものとして、EXB−9451、EXB−9460(DIC(株)製)、フェノールノボラックのアセチル化物としてDC808、フェノールノボラックのベンゾイル化物としてYLH1026(ジャパンエポキシレジン(株)製)、などが挙げられる。
ベンゾオキサジン化合物の具体的例としては、F−a、P−d(四国化成(株)製)、HFB2006M(昭和高分子(株)製)などが挙げられる。
シアネートエステル樹脂は、例えば、ノボラック型(フェノールノボラック型、アルキルフェノールノボラック型など)シアネートエステル樹脂、ビスフェノール型(ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールS型など)シアネートエステル樹脂およびこれらが一部トリアジン化したプレポリマーなどが挙げられる。好ましいシアネートエステル樹脂としては、例えば、ビスフェノールAジシアネート、ポリフェノールシアネート(オリゴ(3−メチレン−1,5−フェニレンシアネート)、4,4'−メチレンビス(2,6−ジメチルフェニルシアネート)、4,4'−エチリデンジフェニルジシアネート、ヘキサフルオロビスフェノールAジシアネート、2,2−ビス(4−シアネート)フェニルプロパン、1,1−ビス(4−シアネートフェニルメタン)、ビス(4−シアネート−3,5−ジメチルフェニル)メタン、1,3−ビス(4−シアネートフェニル−1−(メチルエチリデン))ベンゼン、ビス(4−シアネートフェニル)チオエーテル、ビス(4−シアネートフェニル)エーテル等の2官能シアネート樹脂、フェノールノボラック、クレゾールノボラック等から誘導される多官能シアネート樹脂、これらシアネート樹脂が一部トリアジン化したプレポリマーなどが挙げられる。市販されているシアネートエステル樹脂としては、ロンザジャパン(株)製PT30(フェノールノボラック型多官能シアネートエステル樹脂、シアネート当量124)、ロンザジャパン(株)製、BA230(ビスフェノールAジシアネートの一部または全部がトリアジン化され、三量体となったプレポリマー、シアネート当量232)、ロンザジャパン(株)製、DT4000(ジシクロペンタジエン型多官能シアネートエステル樹脂、シアネート当量140)等が挙げられる。
エポキシ樹脂と硬化剤の配合比率は、例えば、トリアジン骨格含有フェノール系硬化剤、フェノール系硬化剤、トリアジン骨格含有ナフトール系硬化剤、ナフトール系硬化剤の場合、エポキシ樹脂のエポキシ当量1に対してこれら硬化剤のフェノール性水酸基当量が0.4〜2.0の範囲となる比率が好ましく、0.5〜1.0の範囲となる比率がより好ましい。反応基当量比がこの範囲外であると、硬化物の機械強度や耐水性が低下する傾向にある。
本発明における熱硬化性樹脂組成物には、硬化剤に加え、硬化促進剤をさらに配合することができる。このような硬化促進剤としては、イミダゾール化合物、ジアザビシクロ化合物、有機ホスフィン・ホスホニウム化合物等が挙げられる。具体例としては、例えば、四国化成(株)製の2MZ(2-メチルイミダゾール)、C11Z(2-ウンデシルイミダゾール)、C17Z(2−ヘプタデシルイミダゾール)、1.2DMZ(1,2−ジメチルイミダゾール)、2E4MZ(2−エチル−4−メチルイミダゾール)、2PZ(2−フェニルイミダゾール)、2P4MZ(2−フェニル−4−メチルイミダゾール)、1B2MZ(1−ベンジル−2−メチルイミダゾール)、1B2PZ(1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール)、2MZ−CN(1 - シアノエチル−2−メチルイミダゾール)、C11Z−CN(1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾール)、2E4MZ−CN(1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール)、2PZ−CN(1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール)、C11−CNS(1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾリウムトリメリテイト)、2PZCNS−PW(1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾリウムトリメリテイト)、2MZ−A(2,4−ジアミノ−6−[2'−メチルイミダゾリル−(1')]−エチル−s−トリアジン、C11Z−A(2,4−ジアミノ−6−[2'−ウンデシルイミダゾリル−(1')]−エチル−s−トリアジン)、2E4MZ−A(2,4−ジアミノ−6−[2'−エチル−4'−メチルイミダゾリル−(1')]−エチル−s−トリアジン)、2MA−OK(2,4−ジアミノ−6−[2'−メチルイミダゾリル−(1')]−エチル−s−トリアジンイソシアヌル酸付加物)、2PHZ−PW(2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール)、2P4MHZ−PW(2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール)、TBZ(2,3−ジヒドロ−1H−ピロロ[1,2−a]ベンズイミダゾール、SFZ(1−ドデシル−2−メチル−3−ベンジルイミダゾリウムクロライド)、P−0505(エポキシ−イミダゾールアダクト)等のイミダゾール化合物、サンアプロ(株)製のU-CAT SA 1(DBU-フェノール塩)、U-CAT SA 102(DBU-オクチル酸塩)、U-CAT SA 506(DBU-p-トルエンスルホン酸塩)、U-CAT SA 603(DBU-ギ酸塩)、U-CAT SA 810(DBU-オルトフタル酸塩、U-CAT SA 831、841、851、U-CAT 881(DBU-フェノールノボラック樹脂塩)、U-CAT 5002(N-ベンジルDBU-テトラフェニルボレート塩)等のジアザビシクロ化合物、北興化学工業(株)製、TPP−S(トリフェニルホスフィントリフェニルボラン)、TPP−K(テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート)、TBP−DA(テトラブチルホスホニウムデカン酸塩)などの有機ホスフィン・ホスホニウム化合物などが挙げられる。硬化促進剤を用いる場合、エポキシ樹脂に対して0.1〜3.0質量%の範囲で用いるのが好ましい。
本発明における熱硬化性樹脂組成物には、硬化後の組成物に適度な可撓性を付与する等の目的で熱可塑性樹脂を配合することができる。熱可塑性樹脂としては、例えば、フェノキシ樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン等が挙げられる。熱硬化性樹脂は2種以上を組み合わせて用いてもよい。当該熱可塑性樹脂は熱硬化性樹脂組成物の不揮発分を100質量%としたとき、0.5〜60質量%の割合で配合するのが好ましく、より好ましくは3〜50質量%である。熱可塑性樹脂の配合割合が0.5質量%未満の場合、樹脂組成物粘度が低いために、均一な熱硬化性樹脂組成物層を形成することが難しくなる傾向となり、60質量%を超える場合、樹脂組成物の粘度が高くなり過ぎて、基板上の配線パターンへの埋め込みが困難になる傾向となる。
フェノキシ樹脂の具体例としては、例えば、東都化成(株)製FX280、FX293、ジャパンエポキシレジン(株)製YX8100、YL6954、YL6974、YL7482、YL7553、YL6794、YL7213、YL7290等が挙げられる。
ポリビニルアセタール樹脂はポリビニルブチラール樹脂が好ましく、ポリビニルアセタール樹脂の具体例としては、電気化学工業(株)製、電化ブチラール4000−2、5000−A、6000−C、6000−EP、積水化学工業(株)製エスレックBHシリーズ、BXシリーズ、KSシリーズ、BLシリーズ、BMシリーズ等が挙げられる。
ポリイミドの具体例としては、新日本理化(株)製のポリイミド「リカコートSN20」および「リカコートPN20」が挙げられる。また、2官能性ヒドロキシル基末端ポリブタジエン、ジイソシアネート化合物及び四塩基酸無水物を反応させて得られる線状ポリイミド(特開2006−37083号公報記載のもの)、ポリシロキサン骨格含有ポリイミド(特開2002−12667号公報、特開2000−319386号公報等に記載のもの)等の変性ポリイミドが挙げられる。
ポリアミドイミドの具体例としては、東洋紡績(株)製のポリアミドイミド「バイロマックスHR11NN」および「バイロマックスHR16NN」が挙げられる。また、日立化成工業(株)製のポリシロキサン骨格含有ポリアミドイミド「KS9100」、「KS9300」等の変性ポリアミドイミドが挙げられる。
ポリエーテルスルホンの具体例としては、住友化学(株)社製のポリエーテルスルホン「PES5003P」等が挙げられる。
ポリスルホンの具体例としては、ソルベンアドバンストポリマーズ(株)社製のポリスルホン「P1700」、「P3500」等が挙げられる。
本発明における熱硬化性樹脂組成物には、硬化後の組成物の低熱膨張化等のために無機充填材を含有させることができる。無機充填材としては、例えば、シリカ、アルミナ、雲母、マイカ、珪酸塩、硫酸バリウム、水酸化マグネシウム、酸化チタン等が挙げられ、シリカ、アルミナが好ましく、特に無定形シリカ、溶融シリカ、結晶シリカ、合成シリカ等のシリカが好ましい。シリカとしては球状のものが好ましい。なお、無機充填剤は絶縁信頼性の観点から、平均粒径が3μm以下であるのが好ましく、平均粒径が1.5μm以下であるのがより好ましい。無機充填材の平均粒径はミー(Mie)散乱理論に基づくレーザー回折・散乱法により測定することができる。具体的にはレーザー回折式粒度分布測定装置により、無機充填材の粒度分布を体積基準で作成し、そのメディアン径を平均粒径とすることで測定することができる。測定サンプルは、無機充填材を超音波により水中に分散させたものを好ましく使用することができる。レーザー回折式粒度分布測定装置としては、(株)堀場製作所製 LA−500等を使用することができる。
無機充填材は、耐湿性、分散性等の向上のため、アミノプロピルメトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、ウレイドプロピルトリエトキシシラン、N−フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、N−2(アミノエチル)アミノプロビルトリメトキシシラン等のアミノシラン系カップリング剤、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、グリシジルブチルトリメトキシシラン、(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシシラン系カップリング剤、メルカトプロピルトリメトキシシラン、メルカトプロピルトリエトキシシラン等のメルカプトシラン系カップリング剤、メチルトリメトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メタクロキシプロピルトリメトキシシラン、イミダゾールシラン、トリアジンシラン等のシラン系カップリング剤、ヘキサメチルジシラザン、ヘキサフェニルジシラザン、ジメチルアミノトリメチルシラン、トリシラザン、シクロトリシラザン、1,1,3,3,5,5−ヘキサメテルシクロトリシラザン等のオルガノシラザン化合物、ブチルチタネートダイマー、チタンオクチレングリコレート、ジイソプロポキシチタンビス(トリエタノールアミネート)、ジヒドロキシチタンビスラクテート、ジヒドロキシビス(アンモニウムラクテート)チタニウム、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)エチレンチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート、トリーn−ブトキシチタンモノステアレート、テトラ−n−ブチルチタネート、テトラ(2−エチルヘキシル)チタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、テトラ(2,2−ジアリルオキシメチル−1−ブチル)ビス(ジトリデシル)ホスファイトチタネート、イソプロピルトリオクタノイルチタネート、イソプロピルトリクミルフェニルチタネート、イソプロピルトリイソステアロイイルチタネート、イソプロピルイソステアロイルジアクリルチタネート、イソプロピルジメタクリルイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリ(ジオクチルホスフェート)チタネート、イソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルパイロホスフェート)チタネート、イソプロピルトリ(N−アミドエチル・アミノエチル)チタネートのチタネート系カップリング剤などの1種以上の表面処理剤で処理されていてもよい。
熱硬化性樹脂組成物中の無機充填剤の含有量は、熱硬化性樹脂組成物の不揮発分を100質量%とした時、好ましくは20〜90質量%であり、より好ましくは20〜70質量%である。無機充填剤の含有量が20重量%未満の場合、熱膨張率の低下効果が十分に発揮されない傾向にあり、無機充填剤の含有量が90重量%を超えると、硬化物の機械強度が低下するなどの傾向となる。
本発明における熱硬化性樹脂組成物には、必要に応じて他の成分を配合することができる。他の成分としては、例えば、有機リン系難燃剤、有機系窒素含有リン化合物、窒素化合物、シリコーン系難燃剤、金属水酸化物等の難燃剤、シリコーンパウダー、ナイロンパウダー、フッ素パウダー等の充填剤、オルベン、ベントン等の増粘剤、シリコーン系、フッ素系、高分子系の消泡剤又はレベリング剤、イミダゾール系、チアゾール系、トリアゾール系、シラン系カップリング剤等の密着性付与剤、フタロシアニン・ブルー、フタロシアニン・グリーン、アイオジン・グリーン、ジスアゾイエロー、カーボンブラック等の着色剤等を挙げることができる。
なお熱硬化性樹脂組成物層は、繊維からなるシート状補強基材中に上述の熱硬化性樹脂組成物を含浸したプリプレグで形成されてもよい。プリプレグに用いるシート状繊維基材は特に限定されず、例えばガラスクロス、アラミド不織布、液晶ポリマー不織布等のプリプレグ用基材として常用されているものを用いることができる。絶縁基材に用いる場合には、厚さが10〜150μmのものが好適に用いられ、特に10〜100μmのものが好ましい。シート状繊維基材の具体的な例としては、ガラスクロス基材として、例えば、旭シュエーベル社(株)製スタイル1027MS(経糸密度75本/25mm、緯糸密度75本/25mm、布重量20g/m2、厚さ19μm)、旭シュエーベル社(株)製スタイル1037MS(経糸密度70本/25mm、緯糸密度73本/25mm、布重量24g/m2、厚さ28μm)、(株)有沢製作所製1078(経糸密度54本/25mm、緯糸密度54本/25mm、布重量48g/m2、厚さ43μm)、(株)有沢製作所製2116(経糸密度50本/25mm、緯糸密度58本/25mm、布重量103.8g/m2、厚さ94μm)、などが挙げられる。また液晶ポリマー不織布として、(株)クラレ製の芳香族ポリエステル不織布のメルトブロー法によるベクルス(目付け量6〜15g/m2)やベクトランなどが挙げられる。
プリプレグは、公知のホットメルト法、ソルベント法などにより製造することができる。ホットメルト法は、樹脂組成物を有機溶剤に溶解することなく、樹脂組成物と剥離性の良い離型紙に一旦コーティングし、それをシート状繊維基材にラミネートする、あるいはダイコータにより直接塗工するなどして、プリプレグを製造する方法である。またソルベント法は、樹脂組成物を有機溶剤に溶解した樹脂組成物ワニスにシート状繊維基材を浸漬することにより、樹脂組成物ワニスをシート状繊維基材に含浸させ、その後乾燥させる方法である。また、支持体上に積層された熱硬化性樹脂組成物からなる樹脂シートをシート状繊維基材の両面から加熱、加圧条件下、連続的に熱ラミネートすることで調製することもできる。
ワニスを調製する場合の有機溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル、セロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、カルビトールアセテート等の酢酸エステル類、セロソルブ、ブチルカルビトール等のカルビトール類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等を挙げることができる。有機溶剤は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
乾燥条件は特に限定されないが、プレス工程における温度で熱硬化性樹脂組成物が流動性及び接着性を有する必要がある。従って、乾燥時には熱硬化性樹脂組成物の硬化をできる限り進行させないことが重要となる。一方、プリプレグ内に有機溶剤が多く残留すると、硬化後に膨れが発生する原因となるため、通常、熱硬化性樹脂組成物中への有機溶剤の含有割合が通常5重量%以下、好ましくは2重量%以下となるように乾燥させる。具体的な乾燥条件は、熱硬化性樹脂組成物の硬化性やワニス中の有機溶媒量によっても異なるが、例えば30〜60重量%の有機溶剤を含むワニスにおいては、通常80〜180℃で3〜13分程度乾燥させることができる。
熱硬化性樹脂組成物層は異なる種類の熱硬化性樹脂組成物からなる2層以上で形成されていてもよく、プリプレグ層と繊維状シート基材を含まない層からなる2層以上で形成されていてもよい。
熱硬化性樹脂組成物層の層厚は、内層回路基板の配線回路(導体層)の厚み等によっても異なるが、層間での絶縁信頼性等の観点から、10〜150μmの範囲が好ましく、15〜80μmの範囲がより好ましい。
熱硬化性樹脂組成物層をプリプレグで形成する場合、層厚は通常20〜250μmの範囲であり、ガラスクロスのコスト及び絶縁基材として所望される剛性の観点から、20〜180μmであることがより好ましく、さらには20〜150μmであることがより好ましい。
[水溶性高分子層]
熱硬化性樹脂組成物層上に形成される水溶性高分子層に用いる水溶性高分子としては、膨潤工程では絶縁層表面の適度な保護膜として働き、アルカリ性酸化剤処理工程において、アルカリ性酸化剤溶液により溶解除去可能なものを使用する。好ましいものとしては、例えば、水溶性セルロース樹脂、水溶性アクリル樹脂、水溶性ポリエステル樹脂等が挙げられる。また熱硬化性樹脂組成物層を熱硬化して絶縁層を形成後、支持体層を剥離する際、絶縁層と水溶性高分子層の界面で剥離するのでなく、水溶性高分子層と支持体層の界面で剥離することが可能となるものを用いるのが好ましい。特に好ましいものとしては、水溶性セルロース樹脂、スルホ基もしくはその塩及び/又はカルボキシル基もしくはその塩を有する水溶性ポリエステル樹脂、カルボキシル基又はその塩を有する水溶性アクリル樹脂が挙げられる。水溶性高分子層は2種以上を混合して用いてもよく、異なる水溶性高分子からなる2層以上の複層構造であってもよい。常、水溶性高分子離型層には、いずれかの水溶性高分子が単独で用いられるが、2種以上の水溶性高分子を混合して用いることもできる。また、通常、水溶性高分子離型層は単層で形成されるが、使用される水溶性高分子が異なる2以上の層から形成される多層構造を有していてもよい。
本発明でいう「水溶性セルロース樹脂」とは、セルロースに水溶性を付与するための処理を施したセルロース誘導体のことであり、好適には、セルロースエーテル、セルロースエーテルエステル等が挙げられる。
セルロースエーテルは、セルロースポリマーに1以上のエーテル連結基を与えるために、セルロースポリマーの1以上の無水グルコース繰り返し単位に存在する1以上のヒドロキシル基の変換により形成されるエーテルのことであり、エーテル連結基には、通常、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アルコキシ基(炭素数1〜4)及びヒドロキシアルコキシ基(炭素数1〜4)から選択される1種以上の置換基により置換されていてもよいアルキル基(炭素数1〜4)が挙げられる。具体的には、2−ヒドロキシエチル、2−ヒドロキシプロピル、3−ヒドロキシプロピルなどのヒドロキシアルキル基(炭素数1〜4);2−メトキシエチル、3−メトキシプロピル、2−メトキシプロピル、2−エトキシエチルなどのアルコキシ(炭素数1〜4)アルキル基(炭素数1〜4);2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチルまたは2−(2−ヒドロキシプロポキシ)プロピルなどのヒドロキシアルコキシ(炭素数1〜4)アルキル基(炭素数1〜4)、カルボキシメチルなどのカルボキシアルキル基(炭素数1〜4)等が挙げられる。ポリマー分子中のエーテル連結基は単一種でも複数種でもよい。すなわち、単一種のエーテル連結基を有するセルロースエーテルであっても、複数種のエーテル連結基を有するセルロースエーテルであってもよい。
セルロースエーテルの具体例としては、例えば、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース、ヒドロキシエチルエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース及びこれらの水溶性塩(例えば、ナトリウム塩等のアルカリ金属塩)が挙げられる。
なお、セルロースエーテルにおける単位グルコース環あたりに置換されたエーテル基の平均モル数は特に限定されないが、1〜6が好ましい。また、セルロースエーテルの分子量は重量平均分子量が20000〜60000程度が好適である。
一方、セルロースエーテルエステルは、セルロース中に存在する1以上のヒドロキシル基及び1以上の好適な有機酸またはその反応性誘導体との間で形成され、それによりセルロースエーテルにおいてエステル連結基を形成するエステルのことである。なお、ここでいう「セルロースエーテル」は上述の通りであり、「有機酸」は脂肪族または芳香族カルボン酸(炭素数2〜8)を含み、脂肪族カルボン酸は、非環状(分枝状または非分枝状)または環状であってもよく、飽和または不飽和であってもよい。具体的には、脂肪族カルボン酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、フマル酸、マレイン酸等の置換又は非置換の非環状脂肪族ジカルボン酸;グリコール酸または乳酸などの非環状ヒドロキシ置換カルボン酸;リンゴ酸、酒石酸、クエン酸などの非環状脂肪族ヒドロキシ置換ジ−またはトリ−カルボン酸等が挙げられる。また、芳香族カルボン酸としては、炭素数が14以下のアリールカルボン酸が好ましく、1以上のカルボキシル基(例えば、1、2または3のカルボキシル基)を有するフェニルまたはナフチル基などのアリール基を含むアリールカルボン酸が特に好ましい。なお、アリール基は、ヒドロキシ、炭素数が1−4のアルコキシ(例えば、メトキシ)及びスルホニルから選択される、同一または異なってもよい1以上の(例えば、1、2または3)の基により置換されていてもよい。アリールカルボン酸の好適な例には、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸またはトリメリット酸(1,2,4−ベンゼントリカルボン酸)等が挙げられる。
有機酸が1以上のカルボキシル基を有する場合、好適には、酸のただ1つのカルボキシル基が、セルロースエーテルに対してエステル連結を形成する。例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロースサクシネートの場合、各サクシネート基の1つのカルボキシル基がセルロースとエステル連結を形成し、他のカルボキシ基が遊離の酸として存在する。「エステル連結基」は、セルロースまたはセルロースエーテルと、既述の好適な有機酸またはその反応性誘導体による反応により形成される。好適な反応性誘導体には、例えば、無水フタル酸などの酸無水物が含まれる。
ポリマー分子中のエステル連結基は単一種でも複数種でもよい。すなわち、単一種のエステル連結基を有するセルロースエーテルエステルであっても、複数種のエステル連結基を有するセルロースエーテルエステルであってもよい。例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートは、サクシネート基とアセテート基の両方を有するヒドロキシプロピルメチルセルロースの混合エステルである。
好適なセルロースエーテルエステルは、ヒドロキシプロピルメチルセルロースまたはヒドロキシプロピルセルロースのエステルであり、具体的には、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースサクシネート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルローストリメリテート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートトリメリテート、ヒドロキシプロピルセルロースアセテートフタレート、ヒドロキシプロピルセルロースブチレートフタレート、ヒドロキシプロピルセルロースアセテートフタレートサクシネート及びヒドロキシプロピルセルロースアセテートトリメリテートサクシネート等が挙げられ、これらは1種又は2種以上を使用できる。
これらの中でも、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートフタレートが好ましい。
なお、セルロースエーテルエステルにおける単位グルコース環あたりに置換されたエステル基の平均モル数は特に限定されないが、例えば0.5%〜2%程度が好ましい。また、セルロースエーテルエステルの分子量は重量平均分子量が20000〜60000程度が好適である。
セルロースエーテル、セルロースエーテルエステルの製法は公知であり、天然由来のセルロース(パルプ)を原料とし、定法に従って、エーテル化剤、エステル化剤を反応させることによって得ることができるが、本発明では市販品を使用してもよい。例えば、信越化学工業(株)製「HP−55」、「HP−50」(ともにヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート)、「60SH−06」(ヒドロキシプロピルメチルセルロース)等が挙げられる。
(水溶性ポリエステル樹脂)
本発明でいう「水溶性ポリエステル樹脂」とは、多価カルボン酸またはそのエステル形成性誘導体と多価アルコールまたはそのエステル形成性誘導体を主たる原料とする通常の重縮合反応によって合成されるような、実質的に線状のポリマーからなるポリエステル樹脂であって、分子中または分子末端に親水基が導入されたものである。ここで、親水基としては、スルホ基、カルボキシル基、燐酸基等の有機酸基またはその塩等が挙げられ、好ましくは、スルホン酸基またはその塩、カルボン酸基またはその塩である。水溶性ポリエステル樹脂としては、特にスルホ基もしくはその塩及び/又はカルボキシル基もしくはその塩を有するものが好ましい。
当該ポリエステル樹脂の多価カルボン酸成分の代表例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、無水フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸などであり、これらは、単独使用でも2種以上の併用でもよい。また、上記の種々の化合物と共に、p−ヒドロキシ安息香酸などのようなヒドロキシカルボン酸、マレイン酸、フマル酸またはイタコン酸などのような不飽和カルボン酸も少量であれば併用してもよい。
当該ポリエステル樹脂の多価アルコール成分の代表例としては、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,6−ヘキサングリコール、1,4−シクロヘキサンメタノール、キシリレングリコール、ジメチロールプロピオン酸、グリセリン、トリメチロールプロパンまたはポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール等であり、これらは、単独使用でも2種以上の併用でもよい。
当該ポリエステル樹脂の分子中または分子末端への親水基の導入は公知慣用の方法で行えばよいが、親水基を含有するエステル形成性化合物(例えば、芳香族カルボン酸化合物、ヒドロキシ化合物等)を共重合する態様が好ましい。
例えば、スルホン酸塩基を導入する場合、5−スルホン酸ナトリウムイソフタル酸、5−スルホン酸アンモニウムイソフタル酸、4−スルホン酸ナトリウムイソフタル酸、4−メチルスルホン酸アンモニウムイソフタル酸、2−スルホン酸ナトリウムテレフタル酸、5−スルホン酸カリウムイソフタル酸、4−スルホン酸カリウムイソフタル酸及び2−スルホン酸カリウムテレフタル酸等から選ばれる1または2種以上を共重合するのが好適である。
また、カルボン酸基を導入する場合、たとえば、無水トリメリット酸、トリメリット酸、無水ピロメリット酸、ピロメリット酸、トリメシン酸、シクロブタンテトラカルボン酸、ジメチロールプロピオン酸等から選ばれる1または2種以上を共重合するのが好適であり、当業共重合反応の後、アミノ化合物、アンモニアまたはアルカリ金属塩などで中和せしめることによって、カルボン酸塩基を分子中に導入することが出来る。
水溶性ポリエステル樹脂の分子量は特に制限はないが、重量平均分子量が10000〜4000程度が好ましい。重量平均分子量が10000未満では、層形成性が低下する傾向となり、40000を超えると、溶解性が低下する傾向となる。
本発明において、水溶性ポリエステル樹脂は、市販品を使用することができ、例えば、互応化学工業(株)製の「プラスコート Z−561」(重量平均分子量:約27000)、「プラスコート Z−565」(重量平均分子量:約25000)等が挙げられる。
(水溶性アクリル樹脂)
本発明でいう「水溶性アクリル樹脂」とは、カルボキシル基含有単量体を必須成分として含有することで、水に分散乃至溶解するアクリル樹脂である。
当該アクリル樹脂は、より好ましくは、カルボキシル基含有単量体及び(メタ)アクリル酸エステルが必須の単量体成分であり、必要に応じてその他の不飽和単量体を単量体成分として含有するアクリル系重合体である。
上記単量体成分において、カルボキシル基含有単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イタコン酸、シトラコン酸、無水マレイン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノブチル、イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノブチル等が挙げられ、これらのうちの1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも、(メタ)アクリル酸が好適である。
また、(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸n−ペンチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸n−ヘプチル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル等のアルキルの炭素数が1〜18であるメタアクリル酸アルキルエステルが挙げられ、これらのうちの1種又は2種以上を用いることができる。
また、その他の不飽和単量体としては、例えば、芳香族アルケニル化合物、シアン化ビニル化合物、共役ジエン系化合物、ハロゲン含有不飽和化合物、水酸基含有単量体等をあげることができる。芳香族アルケニル化合物としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−メトキシスチレン等を挙げることができる。シアン化ビニル化合物としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等を挙げることができる。共役ジエン系化合物としては、例えば、ブタジエン、イソプレン等をあげることができる。ハロゲン含有不飽和化合物としては、例えば、塩化ビニル、塩化ビニリデン、パーフルオロエチレン、パーフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン等をあげることができる。水酸基含有単量体としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、4−ヒドロキシブチルメタクリレート、α−ヒドロキシメチルエチル(メタ)アクリレート等をあげることができる。これらは1種又は2種以上を用いることができる。
後述するように、本発明において、離型層は、好適には、水溶性セルロース、水溶性ポリエステルまたは水溶性アクリル樹脂を含む塗工液を支持体層に塗布・乾燥する方法によって形成される。水溶性アクリル樹脂を使用する場合、その塗工液はエマルジョン形態でも、水溶液形態でも使用可能である。
水溶性アクリル樹脂をエマルジョン形態で使用する場合、コアシェル型エマルジョンが好適であり、コアシェル型エマルジョンでは、コアシェル粒子のシェルにカルボキシル基が存在することが重要であり、従って、シェルはカルボキシル基含有単量体及び(メタ)アクリル酸エステルを含むアクリル樹脂で構成される。
このようなコアシェル粒子の分散品(エマルジョン)は市販品を使用することができ、例えば、ジョンクリル7600(Tg:約35℃)、7630A(Tg:約53℃)、538J(Tg:約66℃)、352D(Tg:約56℃)(いずれもBASFジャパン社(株)製)等が挙げられる。
水溶性アクリル樹脂を水溶液形態で使用する場合、当該アクリル樹脂は、カルボキシル基含有単量体及び(メタ)アクリル酸エステルを含むアクリル樹脂であり、比較的低分子量であることが重要である。よって、重量平均分子量が1000〜50000であるのが好ましく、重量平均分子量が1000未満では、層形成性が低下する傾向となり、重量平均分子量が50000を超えると、支持体層との密着性が高くなり、硬化後の支持体層の剥離性が低下する傾向となる。
このような水溶性アクリル樹脂の水溶液は、市販品を使用することができ、例えば、ジョンクリル354J(BASFジャパン社(株)製)等を挙げることができる。
なお、水溶性アクリル樹脂のエマルジョンと水溶液では、エマルジョンの方が分子量が高いために薄膜化しやすい。従って、水溶性アクリル樹脂のエマルジョンが好適である。
水溶性高分子層の層厚は、通常0.01μm以上20μm以下(0.01〜20μm)、好ましくは0.05μm以上10μm以下、さらに好ましくは0.1以上5μm以下、さらに好ましくは、0.1μm以上3μm以下、さらに好ましくは0.1μm以上2μm以下、さらに好ましくは0.1μm以上1μm以下、さらに好ましくは0.2μm以上1μm以下である。水溶性高分子層の層厚が薄すぎると支持体層の剥離性が低下する傾向にあり、厚すぎるとコスト的に不利であり、またアルカリ性過マンガン酸溶液による除去工程の負荷が大きくなる。
水溶性高分子層には、本発明の効果が発揮される範囲において、必要により金属化合物粉、カーボン粉、金属粉、黒色染料等のレーザー吸収性成分、シリカ、タルク等の無機充填材、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤等の帯電防止剤等を含んでいてもよい。
[支持体層]
支持体層に使用する支持体は自己支持性を有するフィルム乃至シート状物であり、金属箔、プラスチックフィルム等を用いることができ、特に比較的安価で、剥離性も良好なプラスチックフィルムが好適に用いられる。プラスチックフィルムとしては、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレート、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリカーボネート等が挙げられ、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルムが好ましく、中でも、安価なポリエチレンテレフタレートが特に好ましい。また支持体層表面は、マット処理、コロナ処理等の表面処理が施してあってもよい。支持体は市販のものを用いることもでき、例えば、T60(東レ(株)製、ポリエチレンテレフタレートフィルム)、A4100(東洋紡(株)製、ポリエチレンテレフタレートフィルム)、Q83(帝人デュポンフィルム(株)製、ポリエチレンナフタレートフィルム)、リンテック(株)製、アルキッド型離型剤(AL−5)付きポリエチレンテレフタレートフィルム、ダイアホイルB100(三菱化学ポリエステルフィルム(株)製、ポリエチレンテレフタレートフィルム)等が挙げられる。金属箔としては、アルミニウム箔、銅箔等が挙げられる。
支持体層の層厚は、通常10〜70μm、好ましくは15〜70μmである。層厚が小さすぎると、取り扱い性に劣る、支持体層の剥離性低下や、絶縁層の平滑性が低下する傾向にある。また、層厚が大きすぎると、コスト的に不利となる。
支持体は水溶性高分子層と支持体層間の剥離性を向上させるため、水溶性高分子層と接する面にシリコーン樹脂、アルキッド樹脂、フッ素樹脂等の離型剤により離型処理が施されているのが好ましい。離型剤の層厚は通常0.01〜0.2μmの範囲である。
[内層回路基板上への層形成]
内層回路基板上に、熱硬化性樹脂層、水溶性高分子層、支持体層を積層する方法としては、例えば、熱硬化性樹脂ワニスの内層回路基板上への塗工・乾燥、水溶性高分子溶液の塗工・乾燥及び支持体層のラミネートを経て製造することができるが、これらの層を含むドライフィルム形態で積層するのが好ましい。ドライフィルム形態で積層する方法としては、以下の2つの方法が挙げられる。
(1)支持体層上に熱硬化性樹脂組成物層が形成された樹脂シートを内層回路基板の片面又は両面上に積層し、支持体層を剥離後、さらに、支持体層上に水溶性高分子層が形成された水溶性高分子シートを該熱硬化性樹脂組成物層上に積層する方法。
(2)支持体層上に水溶性高分子層が形成され、該水溶性高分子層上に熱硬化性樹脂組成物層が形成された樹脂シートを、内容回路基板の片面又は両面上に積層する方法。
支持体上に硬化性樹脂組成物層の形成し樹脂シートを製造する方法は公知の方法を用いることができ、例えば、有機溶剤に熱硬化性樹脂組成物を溶解した樹脂ワニスを調製し、この樹脂ワニスを、ダイコータなどを用いて、支持体上に塗布し、更に加熱、あるいは熱風吹きつけ等により有機溶剤を乾燥させて樹脂組成物層を形成させることにより製造することができる。また、支持体上に水溶性高分子層を形成し、水溶性高分子シートを製造する方法も同様の方法を用いることができ、例えば、有機溶剤に水溶性高分子を溶解した溶液を調製し、この溶液を、ダイコータなどを用いて、支持体又は熱硬化性樹脂組成物層上に塗布し、更に加熱、あるいは熱風吹きつけ等により有機溶剤を乾燥させて樹脂組成物層を形成させることにより製造することができる。支持体層上に水溶性高分子層が形成され、該水溶性高分子層上に熱硬化性樹脂組成物層が形成された樹脂シートを製造する方法も上記と同様の方法により、支持体上に水溶性高分子層と熱硬化性樹脂組成物層を順次層形成することで製造することができる。
有機溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル、セロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、カルビトールアセテート等の酢酸エステル類、セロソルブ、ブチルカルビトール等のカルビトール類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等が挙げられる。有機溶剤は2種以上を組みわせて用いてもよい。
乾燥条件は特に限定されないが、熱硬化性樹脂組成物層及び水溶性高分子層への有機溶剤の含有量が通常10質量%以下、好ましくは5質量%以下となるように乾燥させる。ワニスや溶液中の有機溶剤量、有機溶剤の沸点によっても異なるが、例えば30〜60質量%の有機溶剤を含むワニス又は溶液を50〜150℃で3〜10分程度乾燥させることにより、各層が形成される。
樹脂シート、水溶性高分子シートの積層は、作業性及び一様な接触状態が得られやすい点から、ロールやプレス圧着等で行うことができる。なかでも、真空ラミネート法により減圧下で積層するのが好適である。また、積層の方法はバッチ式であってもロールでの連続式であってもよい。支持体層上に熱硬化性樹脂組成物層が形成された樹脂シートを内層回路基板の片面又は両面上に積層する場合、支持体層上に水溶性高分子層が形成された水溶性高分子シートを熱硬化性樹脂組成物層上に積層する場合、及び支持体層上に水溶性高分子層が形成され、該水溶性高分子層上に熱硬化性樹脂組成物層が形成された樹脂シートを、内容回路基板の片面又は両面上に積層する場合のいずれも、同様の方法で積層することができる。水溶性高分子シートを熱硬化性樹脂組成物層に積層する場合の、熱硬化性樹脂組成物層からの支持体の除去は、手動で行ってもよく自動剥離装置により機械的に剥離してもよい。金属箔を支持体層に使用した場合は、エッチングにより支持体層を除去することもできる。
積層の際の加熱温度は、60〜140℃が好ましく、より好ましくは80〜120℃である。圧着圧力は、1〜11kgf/cm2(9.8×104〜107.9×104N/m2)の範囲が好ましく、2〜7kgf/cm2(19.6×104〜68.6×104N/m2)の範囲が特に好ましい。空気圧が20mmHg(26.7hPa)以下の減圧下で積層するのが好ましい。
真空ラミネートは市販の真空ラミネーターを使用して行うことができる。市販の真空ラミネーターとしては、例えば、(株)名機製作所製 バッチ式真空加圧ラミネーター MVLP−500、ニチゴー・モートン(株)製 バキュームアップリケーター、(株)日立インダストリイズ製 ロール式ドライコータ、日立エーアイーシー(株)製 真空ラミネーター等を挙げることができる。
[熱硬化性樹脂組成物層の熱硬化による絶縁層形成]
上記のようにして、内層回路基板の片面又は両面上に熱硬化性樹脂組成物層が積層され、該熱硬化性樹脂組成物層上に水溶性高分子層が積層され、該水溶性高分子層上に支持体層が積層された状態とすることができる。この状態で、熱硬化性樹脂組成物層を熱硬化して絶縁層を形成する。
熱硬化条件は硬化性樹脂の種類等によっても異なるが、一般に硬化温度が120〜200℃、硬化時間が15〜90分である。なお、比較的低い硬化温度から高い硬化温度へ段階的に硬化させる、又は上昇させながら硬化させる方が、形成される絶縁層表面のしわ防止の観点から好ましい。
[支持体層の剥離]
支持体層の除去は、一般に、手動または自動剥離装置により機械的に剥離することによって行われる。金属箔を支持体層に使用した場合は、エッチングにより支持体層を除去することもできる。支持体層は熱硬化性樹脂組成物層の硬化処理による絶縁層形成後に剥離される。支持体層を熱硬化処理前に剥離した場合、絶縁層表面にシワが生じ、導体層形成に適した絶縁層の形成が困難となる。支持体としてプラスチックフィルムを使用し、水溶性高分子として、水溶性セルロース樹脂、スルホ基もしくはその塩及び/又はカルボキシル基もしくはその塩を有する水溶性ポリエステル樹脂、カルボキシル基又はその塩を有する水溶性アクリル樹脂から選ばれる1種以上を使用した場合、支持体層−水溶性高分子層の界面で支持体層の剥離性が良好となり、容易に剥離可能となる。
本発明の多層配線基板の製造方法において、公知の方法により、ブラインドビアやスルーホールの形成を行ってもよい。多層配線基板のビルドアップされた絶縁層では、一般にブラインドビアにより層間の導通が行われる。スルーホールの形成は一般にコア基板において行われるが、絶縁層形成後にスルーホールが形成されてもよい。この場合、デスミア工程と同様の処理をスルーホールに適用することができる。なおスルーホール形成には、一般に機械ドリルが用いられ、ブラインドビアの形成には、一般に炭酸ガスレーザーに代用されるレーザーが用いられる。絶縁層にブラインドビアを形成する工程が行われる場合、支持体層を除去後、水溶性高分子層上から行ってもよく、また特に支持体層がプラスチックフィルムである場合、絶縁層形成後、支持体層を除去する工程の前に、支持体層上から行ってもよい。
[アルカリ性酸化剤による絶縁層表面の粗化工程]
支持体層が除去された後、絶縁層表面に水溶性高分子層が存在する状態で、アルカリ性酸化剤による絶縁層表面の粗化工程を行う。アルカリ性酸化剤による絶縁層表面の粗化工程は、ブラインドビアを形成した場合は、ブラインドビア形成により生じたスミアを除去する工程(デスミア工程)を兼ねる。アルカリ性酸化剤による絶縁層表面の粗化工程は、通常、膨潤処理工程、アルカリ性酸化剤処理工程及び中和工程を含む。
膨潤処理に用いる膨潤液としてはアルカリ溶液、界面活性剤溶液等が挙げられ、好ましくはアルカリ溶液であり、該アルカリ溶液としては、例えば、水酸化ナトリウム溶液、水酸化カリウム溶液、炭酸ナトリウム溶液、炭酸水素ナトリウム溶液等が挙げられる。市販されている膨潤液としては、例えば、アトテックジャパン(株)製のスウェリング・ディップ・セキュリガンスP(Swelling Dip Securiganth P)、スウェリング・ディップ・セキュリガンスSBU(Swelling Dip Securiganth SBU)等を挙げることができる。膨潤処理条件は、通常、室温〜80℃程度の溶液に1分から30分程度浸すことで行うことができる。アルカリ水溶液の濃度は、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等を使用する場合で1〜10g/Lの範囲が好ましい。
アルカリ性酸化剤処理に用いるアルカリ性酸化剤としては、例えば、水酸化ナトリウムの水溶液に過マンガン酸カリウムや過マンガン酸ナトリウムを溶解したアルカリ性過マンガン酸溶液を挙げることができる。アルカリ性過マンガン酸溶液等のアルカリ性酸化剤による粗化処理は、通常60℃〜80℃程度に加熱した酸化剤溶液に10分〜30分程度付すことで行われる。また、アルカリ性過マンガン酸溶液における過マンガン酸塩の濃度は5〜10重量%程度とするのが一般的である。市販されている酸化剤としては、例えば、アトテックジャパン(株)製のコンセントレート・コンパクト CP、ド−ジングソリューション セキュリガンスP等のアルカリ性過マンガン酸溶液が挙げられる。
中和処理に用いる中和液としては、酸溶液が用いられ、好ましいものとしては、硫酸溶液、硫酸ヒドロキシアミン溶液等が挙げられる。市販品としては、アトテックジャパン(株)製のリダクションショリューシン・セキュリガントP(中和液)が挙げられる。中和の条件では、通常室温〜50℃の溶液に5分程度付けることで行われる。酸溶液の濃度は例えば、酸として98重量%硫酸等を使用する場合、20〜80ml/Lの範囲が好ましい。
水溶性高分子層は、通常、膨潤処理工程において、一部乃至全部が溶解除去される。熱硬化性樹脂組成物の熱硬化反応により、絶縁層表面と水溶性高分子が結合するなどして、膨潤処理工程を経た後も絶縁層表面に水溶性高分子が残存する場合でも、次のアルカリ性酸化剤処理工程で表面が粗化されることにより絶縁層表面から完全に除去すること可能である。またブラインドビア形成により生じたスミアも膨潤処理工程とアルカリ性酸化剤処理工程を経て除去される。
粗化工程後、粗化された絶縁層表面に無電解メッキ及び電解メッキにより導体層が形成される。まず無電解めっきにより絶縁層表面に金属膜層を形成する。該工程は、公知の方法により行うことができ、例えば、絶縁層表面を界面活性剤等で処理し、パラジウム等のめっき触媒を付与した後、無電解めっき液に含浸することで金属膜層を形成することができる。該金属膜層として銅、ニッケル、金、パラジウム等が挙げられるが、銅が好ましい。また、その厚みは、0.1〜5.0μmが好ましい。樹脂表面の十分な被覆、コストの点から、通常、0.2〜2.5μm程度であり、好ましくは0.2〜1.5μm程度である。なお、上記金属膜層は、無電解めっきの一種であるダイレクトプレーティング法によって形成してもよい。
さらに金属膜層を利用して、金属膜層上に電解メッキによりさらに金属層を成長させて導体層を形成する。かかる導体層形成はセミアディティブ法等、公知の方法により行うことができる。例えば、めっきレジストを形成し、転写された金属膜層又は上記の無電解めっきによる金属膜層をめっきシード層として、電解めっきにより導体層を形成する。電解めっきによる導体層は銅が好ましく、その厚みは所望の多層プリント配線板のデザインによるが、一般的には、3〜35μm、好ましくは5〜30μmである。電解めっき後、めっきレジストをアルカリ性水溶液等のめっきレジスト剥離液で除去後、めっきシード層の除去を行い、配線パターンが形成される。めっきシード層となった無電解めっきによる金属膜層の除去の方法は、金属膜層を形成する金属を溶解させる溶液によりエッチング除去することにより行われる。エッチングは選択した金属層に応じて公知のものが選択され、例えば、銅であれば塩化第二鉄水溶液、ペルオキソ二硫酸ナトリウムと硫酸の水溶液などの酸性エッチング液、メック(株)製のCF−6000、メルテックス(株)製のE−プロセス―WL等のアルカリ性エッチング液を用いることができる。ニッケルの場合には、硝酸/硫酸を主成分とするエッチング液を用いることができ、市販品としては、メック(株)製のNH−1865、メルテックス(株)製のメルストリップN−950等が挙げられる。
以下、実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって何等限定されるものではない。なお、以下の記載中の「部」は「重量部」を意味する。
<実施例1>
[水溶性高分子シートの作製]
アルキッド樹脂系離型剤(リンテック(株)製「AL―5」)により離型処理されている厚み38μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(PET)フィルムの離型処理面に、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(信越化学工業(株)製「60−SH」)の水−イソプロピルアルコール(3:1)混合溶液(不揮発分2%)をバーコータにより塗布し、熱風乾燥炉を用いて75℃から140℃まで昇温速度0.11℃/秒で昇温することで溶剤を除去し、PETフィルム上に1μmのヒドロキシプロピルメチルセルロース層を形成して、水溶性高分子シートを作製した。
[樹脂シートの作製]
液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ当量180、ジャパンエポキシレジン(株)製「エピコート828EL」)28部と、ナフタレン型4官能エポキシ樹脂(エポキシ当量163、大日本インキ化学工業(株)製「HP4700」)28部、フェノキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)製「YX6954BH30」)20部とをMEK15部、シクロヘキサノン15部に撹拌しながら加熱溶解させた。そこへ、トリアジン含有フェノールノボラック樹脂(水酸基当量125、DIC(株)製「LA7054」、窒素含有量約12重量%)27部、ナフトール系硬化剤(水酸基当量215、東都化成(株)製「SN−485」)の固形分50重量%のMEK溶液27部、硬化触媒(四国化成工業(株)製、「2E4MZ−CN」)0.1部、球形シリカ(平均粒径0.5μm、(株)
アドマテックス製「SOC2」アミノシラン処理)70部、フェナントレン型リン化合物(三光(株)製「HCA−HQ」平均粒径2μm)6部、ポリビニルブチラール樹脂(積水化学工業(株)製「KS−1」)の固形分15重量%のエタノールとトルエンの1:1溶液30部を混合し、高速回転ミキサーで均一に分散して、樹脂ワニスを作製した。厚み25μmの離型PETフィルム上に上記ワニスをダイコータにより塗布し、熱風乾燥炉を用いて溶剤を除去し、熱硬化性樹脂組成物層の厚みが40μmである樹脂シートを作製した。
[内層回路基板上への熱硬化性樹脂組成物層の形成]
内層回路基板(回路厚18μm、ガラスエポキシ基板)の銅層上をCZ8100(アゾール類の銅錯体、有機酸を含む表面処理剤、メック(株)製)で粗化処理を行った。次に、上記樹脂シートの熱硬化性樹脂組成物層が銅回路表面と接するようにし、バッチ式真空加圧ラミネーターMVLP−500((株)名機製作所製商品名)を用いて、樹脂シートを基板の両面にラミネートした。ラミネートは、30秒間減圧して気圧を13hPa以下で行った。次いで、室温に冷却後、樹脂シートの支持体層を剥離し、内層回路基板の両面に熱硬化性樹脂組成物層を形成した。
[内層回路基板上への水溶性高分子層及び支持体層の形成]
上記水溶性高分子シートを、水溶性高分子層が熱硬化性樹脂組成物層と接触するようにして内層回路基板に積層した。積層は、バッチ式真空加圧ラミネーターMVLP−500((株)名機製作所製商品名)を用いて、内層回路基板の両面にラミネートすることにより行った。ラミネートは、30秒間減圧して気圧を13hPa以下とし、その後30秒間、圧力7.0kgf/cm2でプレスすることにより行った。その後、硬化物樹脂組成物層を110℃で30分、更に180℃で30分間硬化させ、絶縁層を形成し、該絶縁層からPETフィルムを剥離した。剥離性は良好で手で容易に剥離できた。硬化物層表面はシワが入ることなく、良好であった。
[粗化工程(デスミア処理)及び水溶性高分子層の除去]
絶縁層上に水溶性高分子層が形成された状態の上記内層回路基板を、膨潤液(アトテックジャパン(株)スエリングディップ・セキュリガントP)に60℃で5分間浸漬し膨潤処理を行い、次に、アルカリ性酸化剤溶液(アトテックジャパン(株)コンセントレート・コンパクトP(KMnO4:60g/L、NaOH:40g/Lの水溶液)に80℃で20分間浸漬し、絶縁層表面の粗化処理、水溶性高分子層の除去及びスミア除去を行い、最後に中和液(アトテックジャパン(株)リダクションショリューシン・セキュリガントP)に40℃で5分間浸漬し、中和処理を行った。その後、内層回路基板を水洗浄し、乾燥させた。
[導体層形成]
粗化処理された絶縁層表面に無電解銅めっき(アトテックジャパン(株)製薬液を使用した無電解銅めっきプロセスを使用)を行った。無電解銅めっきの膜厚は1μmとなった。その後、電解銅めっきを行い、計30μm厚の導体層(銅層)を形成し、多層配線基板を得た。
<実施例2>
[水溶性高分子層付樹脂シートの作製]
実施例1記載の樹脂シートの熱硬化性樹脂組成物層上に、同じく実施例1記載の水溶性高分子シートの水溶性高分子層を60℃で熱ラミネートして貼り合わせ、25μm厚:離型PET/40μm厚:熱硬化性樹脂組成物層/1μm厚:水溶性高分子層/38μm厚:離型PETの構成となる樹脂シートを作製した。
[内層回路基板上への熱硬化性樹脂組成物層/水溶性高分子層の形成]
内層回路基板(回路厚18μm、ガラスエポキシ基板)の銅層上をCZ8100(アゾール類の銅錯体、有機酸を含む表面処理剤、メック(株)製)で粗化処理を行った。次に、上記樹脂シートの25μm厚:離型PETを剥離して、熱硬化性樹脂組成物層が銅回路表面と接するようにし、バッチ式真空加圧ラミネーターMVLP−500((株)名機製作所製商品名)を用いて、樹脂シートを基板の両面にラミネートした。ラミネートは、30秒間減圧して気圧を13hPa以下とし、その後30秒間、圧力7.0kgf/cm2でプレスすることにより行った。その後、硬化物樹脂組成物層を110℃で30分、更に180℃で30分間硬化させ、絶縁層を形成し、該絶縁層から支持体である38μm厚:離型PETフィルムを剥離した。剥離性は良好で手で容易に剥離できた。硬化物層表面はシワが入ることなく、良好であった。
その後は、実施例1と同様の実験を行った。
<比較例1>
水溶性高分子層を導入することなく、実施例1と同様の実験を行った。実施例1と同様の熱硬化性樹脂組成物層を有する樹脂シートを作成し、内層回路基板上にラミネートした後、PETフィルムを剥離した。剥離性は良好で手で容易に剥離された。その後、熱硬化物樹脂組成物層を110℃で30分、更に180℃で30分間硬化させ、絶縁層を形成した。絶縁層表面はシワが入ることなく、良好であった。続いて同様に膨潤処理、粗化処理、中和処理を行った後、導体層を形成し、計30μm厚の導体層(銅層)の多層配線基板を得た。
<比較例2>
水溶性高分子層を導入することなく、実施例1と同様の実験を行った。実施例1と同様の熱硬化性樹脂組成物層を有する樹脂シートを作成し、内層回路基板上にラミネートした後、熱硬化物樹脂組成物層を110℃で30分、更に180℃で30分間硬化させ、絶縁層を形成した。続いて該絶縁層からPETフィルムを剥離した。剥離性は良好で手で容易に剥離された。硬化物層表面はシワが入ることなく、良好であった。続いて同様に膨潤処理、粗化処理、中和処理を行った後、導体層を形成し、計30μm厚の導体層(銅層)の多層配線基板を得た。
<参考例1>
水溶性高分子層を導入しPETフィルムを剥離して硬化した以外は、実施例1と同様の実験を行った。実施例1と同様の熱硬化性樹脂組成物層を有する樹脂シートを作成し、内層回路基板上に絶縁層をラミネートした後、PETフィルムを剥離した。剥離性は良好で手で容易に剥離された。その後、水溶性離型層付き転写フィルムを、水溶性離型層が熱硬化性樹脂組成物層と接触するようにして基板に積層した。水溶性離型層を積層後、PETフィルムを剥離し、硬化物樹脂組成物層を110℃で30分、更に180℃で30分間硬化させ、絶縁層を形成した。絶縁層を観察したところ、表面に多数のシワが入っており、導体層形成に不向きなため、その後の工程を省略した。
<導体層のピール強度測定>
導体層のピール強度をJIS C6481に準拠して行った。導体厚は約30μmとした。
<絶縁層表面粗さ測定>
絶縁層表面粗さの測定は、作製した多層回路基板上の銅メッキ層を銅エッチング液で除去し、非接触型表面粗さ計(ビーコインスツルメンツ製WYKO NT3300)を用いて、VSIコンタクトモード、50倍レンズにより測定範囲を121μm×92μmとして、絶縁層表面のRa値(算術平均粗さ)を求めた。
<支持体層の剥離性の評価>
支持体層を手で剥離することにより、支持体層の剥離性を評価した。
<熱硬化後の絶縁層表面の状態>
硬化物層の表面を目視で確認した。不良がない場合は良好、不良がある場合はその様子を記録した。
実施例、比較例及び参考例の結果を 表1に示す。
表中−の部分は、絶縁層表面のシワのため評価を行わなかった。
表1から、水溶性高分子層を導入して多層配線基板の製造を行った場合には、絶縁層表面が低粗度でありながら高いピール強度を有する導体層が得られることがわかる。また支持体層を付けたまま硬化することにより、表面にシワを生じることなく絶縁層を形成できることがわかる。