JP5577842B2 - ボロンドープp型シリコンウェーハの鉄濃度測定方法および測定装置、シリコンウェーハ、ならびにシリコンウェーハの製造方法 - Google Patents
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Description
更に本発明は、前記測定方法による品質保証書付きシリコンウェーハ、および、鉄による汚染が低減されたボロンドープp型シリコンウェーハの製造方法にも関するものである。
ボロンドープp型シリコンウェーハでは、FeとBは結合しFe−Bペアを形成しているが、光照射等により格子間Feと置換型Bに解離する。上記SPV法は、Fe−Bペアと格子間Feとでは、少数キャリア拡散長に与える影響が大きく異なることを利用し、Fe−Bペア結合中とFe−Bペア乖離中の少数キャリア拡散長の測定値の違いに基づきボロンドープp型シリコンウェーハ(以下、単に「シリコンウェーハ」または「ウェーハ」ともいう)の鉄濃度を測定する方法である。一方、上記光導電減衰法は、同様にFe−Bペア乖離現象を利用し、Fe−Bペア結合中とFe−Bペア乖離中の再結合ライフタイムの測定値の違いに基づきシリコンウェーハの鉄濃度を測定する方法である。
いずれの方法も、乖離処理によって生じる現象はFe−Bペアの乖離のみであることを前提としているが、本発明者らの検討の結果、この前提の下で測定を行うと以下の誤差要因により測定精度が低下することが明らかとなった。
SPV法、光導電減衰法とも、Fe−Bペア乖離処理は、主に光照射により行われるが、太陽電池の分野では、シリコン中では製造工程から必然的に混入する酸素原子(格子間酸素)とドープされたボロン原子が光照射により結合しB−O欠陥(B1つに対してOが2つ結合していると言われている)を形成することが報告されている(Schmidt, et. al. "PROGRESS IN UNDERSTANDING AND REDUCING THE LIGHT DEGRADATION OF CZ SILICON SOLAR CELLS", the 16th European Photovoltaic Solar Energy Conference, Glasgow May 1-5, 2000参照)。このB−O欠陥の存在は測定値を変化させるため(例えば少数キャリア拡散長はB−O欠陥の存在により低下する)、光照射によりB−O欠陥が形成されたにもかかわらずB−O欠陥の存在を無視してFe−Bペア乖離前後の測定値の変化から鉄濃度を求めると、形成されたB−O欠陥の分だけ鉄濃度を高めに算出してしまうことになる。
以上の知見に基づき本発明者らは、Fe−Bペア結合中の測定値、Fe−Bペア乖離中(乖離処理後)の測定値の両方をB−O欠陥存在下で取得すれば、光照射によるB−O欠陥の形成による影響を無視することができるため、より高精度に鉄濃度を測定することができることを見出すに至り、本発明を完成した。
[1]Fe−Bペア結合中の測定値と光照射によるFe−Bペア乖離中の測定値の違いに基づきボロンドープp型シリコンウェーハの鉄濃度を測定する方法であって、
Fe−Bペアを含む測定対象シリコンウェーハに対して100W/cm 2 以下の照射強度で光照射を行うことにより該ウェーハに含まれるボロン原子と酸素原子との結合体であるB−O欠陥を形成すること、
B−O欠陥形成後のシリコンウェーハを0〜100℃の範囲の温度下に放置することにより、前記光照射により乖離したFe−Bペアを結合させること、
前記放置後に、B−O欠陥存在下で、前記測定値を求めること、
を含む、前記鉄濃度測定方法。
[2]前記光照射を、100mW/cm2以上の照射強度で行う、[1]に記載の鉄濃度測定方法。
[3]前記測定値は、少数キャリア拡散長または再結合ライフタイムである、[1]または[2]に記載の鉄濃度測定方法。
[4]前記測定値を、表面光電圧法または光導電減衰法により求める、[1]〜[3]のいずれかに記載の鉄濃度測定方法。
[5][1]〜[4]のいずれかに記載の鉄濃度測定方法に使用される測定装置であって、
前記測定値を求める測定部と、
B−O欠陥形成のための光照射を行う光照射部と、
前記測定部と光照射部との間で測定対象シリコンウェーハを移動させる移動手段と、
を含むことを特徴とする、前記測定装置。
[6][1]〜[4]のいずれかに記載の方法により測定された鉄濃度が記載された品質保証書付きシリコンウェーハ。
[7]複数のボロンドープp型シリコンウェーハからなるシリコンウェーハのロットを準備する工程と、
前記ロットから少なくとも1つのシリコンウェーハを抽出する工程と、
前記抽出されたシリコンウェーハの鉄濃度を測定する工程と、
前記測定により鉄濃度が閾値以下と判定されたシリコンウェーハと同一ロット内の他のシリコンウェーハを製品ウェーハとして出荷する工程と、を含むボロンドープp型シリコンウェーハの製造方法であって、
前記抽出されたシリコンウェーハの鉄濃度測定を、[1]〜[4]のいずれかに記載の方法によって行うことを特徴とする、前記方法。
以下、上記第一工程、第二工程について、順次説明する。
光照射により形成されるB−O濃度は、光照射時間が長くなるほど増えていくが、ある時点で濃度の増加が頭打ち(飽和)になり、それ以上光照射を続けてもB−O欠陥の増加がほとんど見られなくなる。測定に対するB−O欠陥形成の影響を効果的に低減するためには、この飽和状態になるまで光照射を行うことが好ましい。飽和状態に達するまでに要する時間は、光の照射強度が大きいほど短くなり、小さいほど長くなる。
なお、B−O欠陥には、形成が速い結合体とゆっくりと形成される結合体の2種類が存在する。これら2種類のB−O欠陥の形成速度については、以下の関係式が成立することが知られている(Karsten Bothea and Jan Schmidt, JOURNAL OF APPLIED PHYSICS 99, 013701 2006参照)。
以上の関係式から、ボロン濃度に基づき光照射条件を決定することができる。または、予備実験を行い光照射条件を経験的に決定することも可能である。本発明者らの検討により、例えば、ボロンドープ量が約1E15〜1E17atms/cm3程度のシリコンウェーハについては、照射強度100mW/cm2で十時間程度、照射強度6W/cm2では15分程度の光照射で飽和状態に達することが確認されている。光の照射強度は、B−O欠陥形成に要する時間が過度に長時間に及ぶことを回避するためには、100mW/cm2以上とすることが好ましく、1W/cm2以上とすることがより好ましい。その上限は特に限定されるものではないが、試料の温度上昇を防ぐという観点からは、100W/cm2以下とすることが好ましい。また、照射する光は、白色光等の高エネルギー光が好ましい。光照射方法は特に限定されるものではなく、例えば、SPV測定装置やμ―PCD法による測定装置に組み込まれている光照射機構を利用することができる。
上記式から、ホウ素濃度が1×1016atms/cm3近辺のシリコンは室温(20〜25℃程度)であれば3〜4時間、80℃程度であれば30分〜1時間程度で、ほぼ100%Fe−Bペアに戻ることが確認できる。本発明では、ボロン濃度に依存するFe−Bペアリング速度を考慮して格子間Feがボロンとリペアリングするまでの期間、ウェーハを放置することが好ましい。上記の通りボロン濃度にもよるが、通常、上記放置時間は、30分〜24時間程度とすることが好ましい。なお、光照射で形成されたB−O欠陥はFe−Bペアと比べて安定であり、いったん形成されると、ほとんど乖離せずにウェーハ中に存在する。特に、0℃〜100℃における安定性が高いため、光照射後にウェーハを放置する際の雰囲気温度は0℃〜100℃の間とすることが好ましい。操作の簡便性の点からは、室温(20〜25℃程度)においてウェーハを放置することが、温度制御が不要であるため好ましい。
本工程は、B−O欠陥形成後のシリコンウェーハについて、Fe−Bペア乖離前後の測定値の違いを求めることにより鉄濃度を算出する工程である。第一工程において既にB−O欠陥を形成しているため、本工程における光照射で起こる現象は、実質的にFe−Bペアの乖離のみである。したがって、B−O欠陥の影響なく(または影響が極めて少ない状態で)、鉄濃度を求めることができる。
ホウ素濃度および酸素濃度が異なり、鉄の混入がほぼ同レベルと見なせる条件で製作したCZシリコンウェーハ(直径200mm、厚み725μm)に対し、少数キャリア拡散長測定装置として、表面光電圧(SPV)測定装置(SDI社製FAaST330−SPV)を用いて、ウェーハ裏面でのキャリアの再結合を考慮した測定モードでSEMI準拠のスタンダードモードで各シリコンウェーハ中の鉄濃度を測定した。Fe−Bペア乖離処理は、装置組み込みの光照射機構により6W/cm2の照射強度で2分間行った。測定前に、5質量%のHF溶液にシリコンウェーハを5分間浸漬し自然酸化膜を除去し、その後10分間の超純水リンスを行い、乾燥後、クリーンルーム内雰囲気に1週間放置し、測定の前処理とした。
太陽電池の分野では、B−O欠陥の発生量はホウ素濃度に比例し、格子間酸素(Oi)濃度の自乗に比例することが報告されているため、SPV法により得られた鉄濃度を、ホウ素濃度[B]と格子間酸素(Oi)濃度[Oi]の自乗との積[B]*[Oi]2に対してプロットしたグラフを、図2に示す。
Feが微量混入した、ホウ素濃度が1.2×1016atms/cm3、格子間酸素濃度が1×1018atms/cm3のp型シリコンウェーハ(直径200mm、厚み725μm)表面に対して、上記1.と同様にSPV測定装置組み込みの光照射機構により6W/cm2の照射強度で白色光を連続的に照射した後、上記1.と同様の方法で少数キャリア拡散長を求めた。光照射と少数キャリア拡散長の測定を、時間を置かず交互に繰り返した結果を図3に示す。
上記光照射によりB−O欠陥形成のほかにFe−Bペアの乖離も起こるが、上記照射強度ではFe−Bペアの乖離は1〜2分程度で完了するので、図3中のFe−Bペア乖離完了後の拡散長低下は、もっぱらB−O欠陥形成による影響である。照射を15分程度続けると少数キャリア拡散長の低下は緩やかになっていることから、本照射強度では15分以上光照射すればB−O欠陥形成を飽和状態にできることが確認できる。
上記と同様の操作を、白色光の照射強度を30mW/cm2に変更して得られた結果が、図4である。図4で照射時間10時間程度で少数キャリア拡散長の低下が緩やかになっていることから、本照射強度では、10時間以上光照射すれば、B−O欠陥の形成を飽和状態にできることが確認できる。
Feが微量混入した、ホウ素濃度が1.2×1016/cm3、格子間酸素濃度が1×1018/cm3のp型シリコンウェーハ(直径200mm、厚み725μm)表面に対して、上記2.と同様に6W/cm2の白色光を15分間照射した。この光照射によりB−O欠陥が生じて少数キャリア拡散長が低下したシリコンウェーハを、室温(約25℃)で約3日間放置した。
図5は、上記室温放置初期のシリコンウェーハの少数キャリア拡散長を示している。ここでの少数キャリア拡散長の測定は、上記1.と同様の方法で行った。図5中、少数キャリア拡散長の変化はほとんど見られないことから、一度発生したB−O欠陥は、室温で安定であることが確認できる。なお、ここで使用したシリコンウェーハはきわめて清浄度が高くFe汚染はわずかであると考えられる。そのため、Fe−Bペアへの再結合に伴う少数キャリア拡散長の変化は殆ど見受けられない。
ホウ素濃度が1×1015〜1×1016atms/cm3の範囲、格子間酸素濃度が1×1018〜1.5×1018atms/cm3の範囲で異なる複数のp型シリコンウェーハ(直径200mm、厚み725μm)の鉄濃度を、以下の方法で求めた。
(1)各シリコンウェーハに対して6W/cm2の照射強度で白色光を15分間照射し、B−O欠陥の形成を飽和させた。
(2)上記(1)後の各シリコンウェーハを室温(25℃)で3時間放置しFe−Bペアをリペアリングした。
(3)その後、前述の1.と同様の方法で乖離処理前後の少数キャリア拡散長を求めた後、以下の式により鉄濃度を算出した。
ホウ素濃度が1×1015〜1×1016atms/cm3の範囲、格子間酸素濃度が1×1018〜1.5×1018atms/cm3の範囲で異なる複数のp型シリコンウェーハ(直径200mm、厚み725μm)を、上記(1)、(2)の操作を行わず上記(3)の測定に付すことにより、鉄濃度を求めた。
実施例1、比較例1で使用したシリコンウェーハは、ホウ素濃度および格子間酸素濃度は異なるが、ほぼ同様のクリーン度で製造されたものであるため、鉄濃度は同レベルである。図6に示すように、比較例1では、ホウ素濃度・格子間酸素濃度が高いウェーハ([B]*[Oi]2の大きいウェーハ)ほど鉄濃度が高く算出されているのに対し、実施例1では算出された鉄濃度は、ホウ素濃度・格子間酸素濃度にかかわらず、ほぼ同じ値であった。
以上の結果から、比較例1では見かけ上の鉄濃度に対してB−O欠陥の形成が支配的であったのに対し、実施例1ではB−O欠陥形成の影響を排除し、より正確な鉄濃度が求められたことが確認できる。
Claims (7)
- Fe−Bペア結合中の測定値と光照射によるFe−Bペア乖離中の測定値の違いに基づきボロンドープp型シリコンウェーハの鉄濃度を測定する方法であって、
Fe−Bペアを含む測定対象シリコンウェーハに対して100W/cm 2 以下の照射強度で光照射を行うことにより該ウェーハに含まれるボロン原子と酸素原子との結合体であるB−O欠陥を形成すること、
B−O欠陥形成後のシリコンウェーハを0〜100℃の範囲の温度下に放置することにより、B−O欠陥の存在下、前記光照射により乖離したFe−Bペアを結合させること、
前記放置後に、B−O欠陥存在下で、前記測定値を求めること、
を含む、前記鉄濃度測定方法。 - 前記光照射を、100mW/cm2以上の照射強度で行う、請求項1に記載の鉄濃度測定方法。
- 前記測定値は、少数キャリア拡散長または再結合ライフタイムである、請求項1または2に記載の鉄濃度測定方法。
- 前記測定値を、表面光電圧法または光導電減衰法により求める、請求項1〜3のいずれか1項に記載の鉄濃度測定方法。
- 請求項1〜4のいずれか1項に記載の鉄濃度測定方法に使用される測定装置であって、
前記測定値を求める測定部と、
B−O欠陥形成のための光照射を行う光照射部と、
前記測定部と光照射部との間で測定対象シリコンウェーハを移動させる移動手段と、
を含むことを特徴とする、前記測定装置。 - 請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法により測定された鉄濃度が記載された品質保証書付きシリコンウェーハ。
- 複数のボロンドープp型シリコンウェーハからなるシリコンウェーハのロットを準備する工程と、
前記ロットから少なくとも1つのシリコンウェーハを抽出する工程と、
前記抽出されたシリコンウェーハの鉄濃度を測定する工程と、
前記測定により鉄濃度が閾値以下と判定されたシリコンウェーハと同一ロット内の他のシリコンウェーハを製品ウェーハとして出荷する工程と、を含むボロンドープp型シリコンウェーハの製造方法であって、
前記抽出されたシリコンウェーハの鉄濃度測定を、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法によって行うことを特徴とする、前記方法。
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