次に、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1は、本発明の一実施形態に係るトラクタ1の全体的な構成を示す側面図である。図2は、トラクタ1の駆動伝達構成を示すスケルトン図である。
図1に示す4輪型の農作業用トラクタ(作業車両)1は、走行機体2を前輪3と後輪4とで支持するとともに、走行機体2の前部に配置されたエンジン5によって後輪4及び前輪3を駆動することにより、走行機体2を前進又は後進させるように構成している。このトラクタ1は、プラウ、ハロー等の図示しない作業機を必要に応じて後部に装着し、種々の作業を行うことが可能に構成されている。また、このトラクタ1は、上述した2つの仕様のうち標準仕様に相当するものであって、高速で走行させる必要が特にない用途に用いられるものである。
前記走行機体2は、エンジンフレーム14と、このエンジンフレーム14の後部に固定された機体フレーム16と、を備える。機体フレーム16の後部には、エンジン5の回転を適宜変速して後輪4及び前輪3に伝達するためのミッションケース17が固定されている。ミッションケース17の左右の側面には後車軸ケース18がそれぞれ固定され、更に、この後車軸ケース18には、前記後輪4を支持するギアケース19が取り付けられている。
ミッションケース17の後部における上面には、前記作業機を昇降させるための油圧式の作業機用昇降機構20が取り付けられている。前記作業機は、ミッションケース17の後部にロワーリンク21及びトップリンク22を介して連結可能に構成されている。また、ミッションケース17の後部には、作業機を駆動するためのPTO軸23が後方に突出するように配置されている。
エンジン5はボンネット6によって覆われている。また、前記走行機体2はキャビン7を備え、このキャビン7の内部に、運転座席8と、ステアリングハンドル9と、が配置されている。
キャビン7の内部において、運転座席8の下部周辺を覆うように底部カバー(カバー部材)10が設置されている。この底部カバー10の前後中央部分は水平に形成される一方、前部は前下がり状に形成されており、この傾斜部分にPTO変速レバー11が配置されている。底部カバー10の前部には、運転座席8に座ったオペレータが足を置くための水平なステップ板12が固定される。このステップ板12は、前記底部カバー10において水平に形成された部分よりも低い位置に配置されている。
次に、図2から図5までを参照して、ミッションケース17の内部構造を説明する。図3は、ミッションケース17の前半部分の内部を示す断面展開図である。図4は、ミッションケース17の後半部分の内部を示す断面展開図である。図5は、インライン式HST29の構成を示す断面拡大図である。
図2から図4までに示すように、ミッションケース17は、その内部空間が仕切り壁31によって前後方向に区画された構成のミッションケース本体17aを備える。そして、ミッションケース本体17aの前部を覆うように前壁部材32が固定されるとともに、前壁部材32の前部には前蓋69が取り付けられている。また、ミッションケース本体17aの後部を覆うように後壁部材33が取り付けられている。
ミッションケース17は略直方体状の箱型に形成されており、前記仕切り壁31によって、ミッションケース本体17aの内部に前室34と後室35とが形成されている。なお、特に図示しないが仕切り壁31には油流通路が適宜形成されており、この油流通路を介して、前室34と後室35とに注入されている作動油(潤滑油)が相互に移動できるようになっている。
ミッションケース17は、図2等に示すように、エンジン5からの動力を入力するための主変速入力軸(変速入力軸)27を備える。この主変速入力軸27は、エンジン5が備えるフライホイール25と、自在軸継手を備えた伸縮式の動力伝達軸28によって連結される。
ミッションケース17は、主変速入力軸27に伝達されたエンジン5の回転を、走行主変速機構である静油圧式の無段変速機29で適宜変速する。そして、その変速された出力回転を後輪用の差動ギア機構(差動機構)58に伝達して、左右の後輪4を駆動する。また、変速された回転は前車軸ケース13に出力されて前輪用の差動ギア機構(差動機構)86に伝達され、左右の前輪3を駆動することもできる。
前室34には、クラッチ機構30と、PTO変速ギア機構96と、が配置されている。また、後室35には、前記無段変速機29と、後輪用の差動ギア機構58と、が配置されている。
無段変速機29は後室35の内部に配置されている。図2や図4等に示すように、この無段変速機29は、前記主変速入力軸27と、この主変速入力軸27の径方向外側に配置される筒状の主変速出力軸(変速出力軸)36と、を備える、いわゆるインライン式HSTとして構成されている。主変速出力軸36は、主変速入力軸27と軸線を一致させて配置されている。
図5の拡大図で示すように、インライン式HST29は、可変容量型の油圧ポンプ部501と、定容量型の油圧モータ部502と、を備えている。前記主変速入力軸27の長手方向中途部には、油圧ポンプ部501及び油圧モータ部502において用いられる共通のシリンダブロック505が固定されている。そして、シリンダブロック505からみて主変速入力軸27の長手方向一側に油圧ポンプ部501が配置され、他側に油圧モータ部502が配置されている。
油圧ポンプ部501は、第1ホルダ510と、可動型のポンプ斜板509と、複数のシュー508と、複数のポンププランジャ506と、を備える。
第1ホルダ510は、シリンダブロック505に対して軸線方向で対向するようにして、ミッションケース本体17aの内部に固定されている。また、ポンプ斜板509は、主変速入力軸27の軸線に対する傾斜角を変更できるように、第1ホルダ510によって支持されている。このポンプ斜板509には斜板操作シリンダ556が連結されており、この斜板操作シリンダ556を駆動することで、ポンプ斜板509の傾斜角を変更することができる。
シュー508はポンプ斜板509上に複数配置され、それぞれがポンプ斜板509に対してスライド可能に構成されている。それぞれのポンププランジャ506は、シリンダブロック505に形成された第1プランジャ孔507に対してスライド可能に挿入される。また、ポンププランジャ506の頭部は、前記シュー508に対して球体自在継手を介して連結されている。
前記シリンダブロック505には第1スプール弁536が前記ポンププランジャ506と同数だけ設けられている。この第1スプール弁536は、シリンダブロック505において軸方向に形成された貫通状の第1弁孔532に対し、スライド可能に嵌合している。この第1弁孔532は、その中央部分が第1プランジャ孔507に連通している。また、前記第1ホルダ510には、リング状の第1スプールガイド部材537が固定されている。この第1スプールガイド部材537は主変速入力軸27の外周側に配置されており、その外周面には、前記第1スプール弁536の頭部を係合させるための円環溝が形成されている。
リング状の前記第1スプールガイド部材537は、その軸線方向が前記主変速入力軸27の軸線から若干傾斜するように配置されている。従って、その外周の円環溝も傾斜して配置されるので、シリンダブロック505の回転に伴って、第1スプール弁536は第1弁孔532内を軸方向に往復移動する。
油圧モータ部502は、第2ホルダ519と、モータ斜板518と、複数のシュー517と、複数のモータプランジャ515と、を備える。
第2ホルダ519は、シリンダブロック505に対して軸線方向で対向するようにして、前記主変速入力軸27に対して回転可能に支持されている。この第2ホルダ519は、前記主変速出力軸36に固定されている。また、モータ斜板518は、主変速入力軸27の軸線に対する傾斜角が一定となるようにして、前記第2ホルダ519に取り付けられている。
シュー517はモータ斜板518上に複数配置され、それぞれがモータ斜板518に対してスライド可能に構成されている。それぞれのモータプランジャ515は、シリンダブロック505に形成された第2プランジャ孔516に対してスライド可能に挿入される。また、モータプランジャ515の頭部は、前記シュー517に対して球体自在継手を介して連結されている。
前記シリンダブロック505には第2スプール弁540がモータプランジャ515と同数だけ設けられている。この第2スプール弁540は、シリンダブロック505において軸方向に形成された貫通状の第2弁孔533に対し、スライド可能に嵌合している。この第2弁孔533は、その中央部分が第2プランジャ孔516に連通している。また、前記第2ホルダ519には、リング状の第2スプールガイド部材541が取り付けられている。この第2スプールガイド部材541は主変速入力軸27の外周側に配置されており、その外周面には、前記第2スプール弁540の頭部を係合させるための円環溝が形成されている。
リング状の前記第2スプールガイド部材541は、第1スプールガイド部材537と同様に、その軸線方向が前記主変速入力軸27の軸線から若干傾斜するように配置されている。従って、その外周の円環溝も傾斜して配置されるので、シリンダブロック505の回転に伴って、第2スプール弁540は(第1スプール弁536と連動して)第2弁孔533内を軸方向に往復移動する。
前記シリンダブロック505の内部には、第1油室530と、第2油室531と、がそれぞれ形成されている。第1油室530及び第2油室531は何れも円環状に形成され、主変速入力軸27の外周側に配置されている。また、第1油室530及び第2油室531は何れも、第1弁孔532を介して第1プランジャ孔507に連通するとともに、第2弁孔533を介して第2プランジャ孔516に連通している。
以上の構成で、シリンダブロック505が1回転すると、第1スプールガイド部材537の作用によって第1スプール弁536が1往復し、第1プランジャ孔507が第1油室530又は第2油室531に交互に連通されるようになっている。また同時に、第2スプールガイド部材541の作用によって第2スプール弁540が1往復し、第2プランジャ孔516が第1油室530又は第2油室531に交互に連通されるようになっている。それぞれのプランジャ孔507,516が連通される油室は、シリンダブロック505が180°回転するごとに、第1油室530及び第2油室531の間で切り替えられる。
なお、図5において、ポンププランジャ506、第1プランジャ孔507、シュー508、第1弁孔532、第1スプール弁536、モータプランジャ515、第2プランジャ孔516、第2弁孔533、及び第2スプール弁540等については、図面の都合上1つずつしか描かれていないが、実際は、上記に列挙した部品等は主変速入力軸27の周囲に複数並べて配置されている。
次に、以上に説明したインライン式HST29の動作について詳細に説明する。
最初に、ポンプ斜板509が主変速入力軸27の軸線に対して略直交している場合を説明する。この場合は、主変速入力軸27に伝達される動力によってシリンダブロック505が回転しても、ポンププランジャ506が往復動しない。従って、モータプランジャ515も往復動しないので、モータ斜板518はシリンダブロック505と一体的に回転する。従って、主変速入力軸27の回転速度が変更されることなく主変速出力軸36に伝達される。
次に、主変速入力軸27の軸線に対してポンプ斜板509を一側に傾斜させた場合について説明する。この場合は、シリンダブロック505の回転に従ってポンププランジャ506が往復動するので、第1プランジャ孔507における作動油の吸入及び吐出が繰り返し行われる。そして、第1プランジャ孔507と第2プランジャ孔516との間には、第1スプール弁536及び第2スプール弁540が適宜動作することにより、閉じた油圧回路が第1油室530又は第2油室531を通じて形成される。従って、ポンププランジャ506の吐出行程では第1プランジャ孔507から第2プランジャ孔516に作動油が圧送され、ポンププランジャ506の吸入行程では逆向きに作動油が戻される。こうして、アキシャルピストンポンプ及びアキシャルピストンモータの動作が行われる。
従って、ポンプ斜板509を傾斜させた場合、主変速入力軸27の回転数に、油圧ポンプ部501によって駆動される油圧モータ部502の回転数が加算又は減算されて、主変速出力軸36に伝達される。以上の作用により、無段変速された回転を主変速出力軸36に得ることができる。
ポンプ斜板509の傾斜角度は、走行機体2を前後進させるための走行変速操作具を操作することにより、斜板操作シリンダ556を介して変更することができる。なお、この走行変速操作具としては、例えば、運転座席8の近傍に配置した主変速レバー、又は、前進ペダル及び後進ペダルが考えられる。また、ポンプ斜板509を所定の傾斜角度とすることで主変速入力軸27の回転を完全に打ち消すこともでき、これにより車速ゼロ状態を得ることができる。
図3に示すように、ミッションケース17の前室34には、前進と後進の切替を行う前進ギア41及び後進ギア43が配置される。また、主変速出力ギア37,39が配置される前室34の内部には、走行カウンタ軸(走行伝達軸)38と、図示しない逆転軸と、が配置されている。前記逆転軸には逆転ギア44が回転可能に支持されている。
走行カウンタ軸38には、前進ギア41と、後進ギア43と、がそれぞれ回転可能に支持されている。前進ギア41と走行カウンタ軸38とは、前進用の湿式多板型油圧クラッチ40によって連結することができる。また、後進ギア43と走行カウンタ軸38とは、後進用の湿式多板型油圧クラッチ42によって連結することができる。前進ギア41は主変速出力ギア37に噛み合っている。後進ギア43は逆転ギア44に噛み合っており、逆転ギア44は主変速出力ギア39に噛み合っている。
この構成で、キャビン7内に配置されている図略の前後進切替レバーをオペレータが前進側に操作した場合、又は、図略の前進ペダルをオペレータが操作した場合は、前進用の湿式多板型油圧クラッチ40が接続され、主変速出力ギア37と走行カウンタ軸38とが前進ギア41によって連結される。一方、上記の前後進切替レバーが後進側に操作された場合、又は、後進ペダルが操作された場合は、後進用の湿式多板型油圧クラッチ42が接続され、主変速出力ギア39と走行カウンタ軸38とが後進ギア43及び逆転ギア44を介して連結される。
なお、前後進切替レバーが中立位置とされた場合、又は、前進ペダル及び後進ペダルの何れも操作されない場合は、前進用及び後進用の湿式多板型油圧クラッチ40,42の両方が切断されるので、前輪3及び後輪4に対して出力される主変速出力ギア37,39からの走行駆動力が略ゼロとなる。これにより、前後進クラッチの「遮断」状態を実現することができる。
次に、クラッチ機構30について説明する。図3に示すように、ミッションケース17の前室34には、クラッチ機構30と、クラッチ出力軸50と、が配置されている。前記走行カウンタ軸38には駆動伝達ギア51が固定される一方、クラッチ出力軸50には従動ギア52が回転可能に支持されている。駆動伝達ギア51と従動ギア52は相互に噛み合っている。また、クラッチ出力軸50にはクラッチシフタ(クラッチスライダ)53がスプライン嵌合され、スライド可能とされている。このクラッチシフタ53は、従動ギア52とクラッチ出力軸50とを連結することができる。
この構成で、従動ギア52がクラッチシフタ53によってクラッチ出力軸50と連結されると、走行カウンタ軸38とクラッチ出力軸50とは、駆動伝達ギア51及び従動ギア52によって接続される。これがクラッチ機構30の「連結」状態であり、この状態で、クラッチ出力軸50から前輪3及び後輪4に対して走行駆動力が出力される。一方、クラッチシフタ53をスライドさせるとクラッチ機構30が「遮断」状態とされ、クラッチ出力軸50からの走行駆動力が前輪3及び後輪4に出力されなくなる。なお、図1に示す標準仕様のトラクタ1では、後述する操作を行わない限りクラッチ機構30は「連結」状態に保持されるため、殆どの場合、走行カウンタ軸38はクラッチ出力軸50と連結されている。
クラッチ出力軸50の後端部は、仕切り壁31を通過して後室35の内部に突出している。この突出部分にはピニオン59が設けられている。図4に示すように、後室35の内部には、左右の後輪4に走行駆動力を伝達するための後輪用の差動ギア機構58が配置されている。差動ギア機構58は、図2に示すように、前記ピニオン59に噛み合うリングギア60と、当該リングギア60が固定される差動ギアケース61と、左右一対の差動出力軸62と、を備えている。
それぞれの差動出力軸62は、ファイナルギア63等を介して後車軸64に連結されている。従って、走行駆動力は差動出力軸62から後車軸64に伝達され、後輪4を駆動することができる。
次に、前輪3の駆動切替(4輪駆動と2輪駆動の切替)のための構成を説明する。図3等に示すように、前壁部材32と前蓋69とにより形成される空間には、前輪入力軸72と、前輪出力軸73と、が配置されている。前輪入力軸72は、ギア70,71を介して前記クラッチ出力軸50と連結されている。
前輪出力軸73には、4輪駆動用の油圧クラッチ74によって連結される前輪駆動ギア75と、倍速用の油圧クラッチ76によって連結される前輪倍速ギア77と、が回転可能に支持されている。前輪駆動ギア75及び前輪倍速ギア77は、前輪入力軸72に固定されたギア78,79とそれぞれ噛み合っている。
以上の構成で、4輪駆動と2輪駆動を切り替えるための図略の切替レバーが「4輪駆動」の位置に操作された場合、4輪駆動用の油圧クラッチ74が接続される。この結果、前輪入力軸72と前輪出力軸73とが前輪駆動ギア75によって連結され、前輪3が後輪4とともに駆動される。一方、上記切替レバーが「2輪駆動」の位置に操作されると、油圧クラッチ74が遮断されるので、前輪3は駆動されない。
また、上記切替レバーが「倍速」の位置に操作されると、ステアリングハンドル9のUターン操作検知時に、倍速用の油圧クラッチ76が接続される。この結果、前輪入力軸72と前輪出力軸73とが前輪倍速ギア77によって連結され、Uターン外側の前輪3がUターン内側の前輪3よりも高速で駆動されるので、小さな半径での旋回を実現することができる。
図2に示すように、前輪出力軸73と、前車軸ケース13が備える前輪駆動入力軸84とは、前輪駆動伝達軸85を介して連結されている。また、前車軸ケース13の内部には、左右の前輪3に走行駆動力を伝達するための前輪用の差動ギア機構86が配置されている。
前輪用の差動ギア機構86は、前輪駆動入力軸84の前端部に形成されたピニオン87に噛み合うリングギア88と、このリングギア88が固定される差動ギアケース89と、左右の差動出力軸90と、を備える。
それぞれの差動出力軸90は、ファイナルギア91等を介して前車軸92に連結されている。従って、走行駆動力は差動出力軸90から前車軸92に伝達され、前輪3を駆動することができる。
次に、図3等を参照して、PTO軸23の駆動速度を切り替えるための構成を説明する。図3に示すように、ミッションケース17の前室34には、エンジン5からの動力をPTO軸23に伝達するためのPTO変速ギア機構96が配置される。また、図2等に示すように、前壁部材32と前蓋69との間に形成される空間の内部には、エンジン5からの動力を油圧ポンプ94,95に伝達するためのポンプ駆動軸97が配置されている。これらの油圧ポンプ94,95により、作業機用昇降機構20や、ミッションケース17の各変速部等(インライン式HST29を含む)に作動油を供給することができる。
PTO変速ギア機構96は、PTOカウンタ軸98と、PTO変速出力軸99と、を備える。PTOカウンタ軸98にはPTO入力ギア101が回転可能に支持され、このPTO入力ギア101は、PTO用の油圧クラッチ100を介してPTOカウンタ軸98に連結可能に構成されている。
PTO入力ギア101は、主変速入力軸27に固定した入力側ギア102と噛み合うとともに、ポンプ駆動軸97に固定した出力側ギア103にも噛み合っている。この結果、主変速入力軸27とポンプ駆動軸97とが連結される。
この構成で、図示しないPTOクラッチレバー又はPTOクラッチスイッチが「接続」位置に操作された場合、PTO用の油圧クラッチ100が接続される。この結果、主変速入力軸27とPTOカウンタ軸98とがPTO入力ギア101を介して連結される。
PTO変速出力軸99には、PTO出力用として、第1速ギア106と、第2速ギア107と、第3速ギア108と、第4速ギア109と、逆転ギア110と、がそれぞれ回転可能に支持されている。また、PTO変速出力軸99には、2つの第1変速シフタ81,82と、1つの第2変速シフタ83と、がそれぞれスプライン嵌合され、スライド可能とされている。この変速シフタ81,82,83は、前記PTO変速レバー11と、後述する連係機構を介して連結されている。
第1速ギア106、第2速ギア107、第3速ギア108、及び第4速ギア109は、PTOカウンタ軸98に備えられたギアにそれぞれ噛み合っており、互いに異なるギア比で回転する。一方、逆転ギア110は、PTOカウンタ軸98にアイドルギア115を介して連結されており、ギア106〜109とは反対の方向に回転する。
この構成で、PTO変速レバー11が変速操作されると第1変速シフタ81,82又は第2変速シフタ83が軸方向に移動し、ギア106〜110の何れかが択一的に選択されてPTO変速出力軸99に連結される。この結果として得られたPTO変速出力軸99の回転は、PTO伝動ギア113及びPTO出力ギア114を介してPTO軸23に伝達される。
次に、クラッチ機構30のクラッチシフタ53、及び、PTO変速ギア機構96の変速シフタ81〜83を移動させるための構成について説明する。図6は、ミッションケース本体17aの側部及び上部周辺の構成を示した斜視図である。図7は、クラッチ機構30及びPTO変速ギア機構96を操作するための構成をやや上側から見た斜視図である。図8は、図7において底部カバー10で隠れている部分を透視的に示す斜視図である。
キャビン7の内部においては、図6に示すように、ミッションケース本体17aの上部を覆うように底部カバー10が設置されている。この底部カバー10は、水平部10aと、前傾斜部10bと、後傾斜部10cと、を一体的に形成した構成となっている。
水平部10aの前端には、前下がり状に形成された前傾斜部10bが接続されている。また、水平部10aの後端には、後上がり状に形成された後傾斜部10cが接続されている。また、底部カバー10には、水平部10aと前傾斜部10bに跨るようにして開口部10dが形成されており、この開口部10dの部分に別途支持部材を介して前記運転座席8が設置される(ただし、図6においては運転座席8を図示していない)。
図7に示すように、水平部10aにおいて運転座席8の左脇の位置には、前述のクラッチ機構30を操作するための操作溝201が直線状に形成されている。また、前傾斜部10bにおいて運転座席8の左脇の位置には、H型に形成されたシフト溝251が形成されている。
ミッションケース本体17aにはクラッチ操作シャフト202が回転可能に支持されており、このクラッチ操作シャフト202に固定された図示しないシフトアームが、前記クラッチ機構30のクラッチシフタ53(図3)に接続されている。クラッチ操作シャフト202の一端はミッションケース本体17aの側壁から突出しており、その先端には回動アーム203が固定されている。この回動アーム203は上方へ延びるとともに、その先端には連結アーム(連結部材)204が固定されている。
図8に示すように、連結アーム204は、板状の細長い部材であるアーム本体205の先端部分を2回屈曲させて構成されており、これにより、第1折曲げ部206と、第2折曲げ部207と、が構成されている。第1折曲げ部206は、アーム本体205に対して斜めに延びるとともに、その先端には第2折曲げ部207が接続されている。第2折曲げ部207は、アーム本体205に対してほぼ垂直となるように向けられている。これら第1折曲げ部206及び第2折曲げ部207により、後述の工具220を連結することが可能な連結部が構成されている。
連結アーム204はほぼ上下方向に配置されており、その上端部(第2折曲げ部207)は前記底部カバー10より下方に位置している。言い換えれば、連結アーム204の長手方向一端側(上方)を覆うように底部カバー10が配置されている。また、連結アーム204の上端部は、前記操作溝201に対して上下方向でほぼ対面するように配置されている。
前記第1折曲げ部206及び第2折曲げ部207には、細長い引掛け溝(切欠き部)208が形成されている。この引掛け溝208は、第1折曲げ部206及び第2折曲げ部207の間の屈曲部に跨るように配置される。この引掛け溝208には、図7に示すように細長い工具(器具)220を前記操作溝201から差し込んだ場合に、当該工具220の先端を挿入できるようになっている。なお、この工具220としては、例えばドライバー等の汎用のものが考えられるが、専用の工具を用いても良い。
前記作業機用昇降機構20が備えるケーシングの側壁にはブラケット209が固定されており、図8に示すように、このブラケット209は前記底部カバー10の下方に配置されている。ブラケット209にはポテンショメータ210が取り付けられており、このポテンショメータ210は、回転可能に支持されたセンシング部材211の角度を測定できるように構成されている。センシング部材211は2本の直線状の爪部を有するフォーク状に形成されており、この爪部の間には、前記連結アーム204に固定された連結棒212が差し込まれている。これにより、連結アーム204の操作位置をポテンショメータ210で電気的に検出し、この検出結果を車速の制御のために用いることができるようになっている。
この構成で、図7に示すような細長い工具220を操作溝201に上側から差し込み、当該工具220の先端を前記引掛け溝208に挿入することで、連結アーム204及びクラッチ操作シャフト202を回転させることができる。この結果、クラッチ機構30のクラッチシフタ53を移動させ、「連結」状態と「遮断」状態とを切り替えることができる。
ここで引掛け溝208は、屈曲部を挟んで接続される第1折曲げ部206及び第2折曲げ部207において、当該屈曲部に跨るように形成されている。従って、工具220の先端を引掛け溝208に十分に挿入すると、引掛け溝208の内壁が、第1折曲げ部206と第2折曲げ部207とでそれぞれ1箇所ずつ工具220に接触する。このように、屈曲部を挟んだ少なくとも2箇所で工具220が引掛け溝208の内壁に接触するので、工具220を連結アーム204に確実に連結して操作することができる。
なお、図7に示すように、底部カバー10の水平部10aであって操作溝201に近接する位置には、クラッチ機構30の操作位置を表示するための刻印213が直接付されている。この刻印213は、クラッチ機構30の「連結」状態を示す「D」と、「遮断」状態を示す「N」と、からなる。
ここで、図1に示すトラクタ1は標準仕様のトラクタであって、走行機体2の停止状態は、インライン式HST29を車速ゼロ状態とするとともに、前後進切替用の湿式多板型油圧クラッチ40,42を何れも「遮断」状態とすることで得ることができる。従って、本仕様のトラクタ1においては、クラッチ機構30は基本的に「連結」状態に保持することとしてクラッチ操作具を省略することで、運転座席8の周囲の構成を簡素化している。
しかしながら上述したように、寒冷地においては、湿式多板型油圧クラッチ40,42を「遮断」状態としても、潤滑油の粘度が高いために連れ回りを生じることがある。この場合、湿式多板型油圧クラッチ40,42より伝達経路下流側の伝達機構が発生させる抵抗の大部分が、エンジン5に加わってしまう。従って、インライン式HST29においても作動油の粘度増大により抵抗が大きくなっていることと相まって、エンジン5の出力軸には大きな抵抗トルクが生じ、エンジン5を始動することが困難になる。
この点、本実施形態では、低温環境においてエンジン5を始動したい場合は、以下のようにしてクラッチ機構30を「遮断」状態とすることができる。即ち、操作溝201において、刻印213の「D」の位置が示す箇所に工具220を差し込むことで、当該工具220の先端を連結アーム204の先端(第1折曲げ部206及び第2折曲げ部207)に連結させる。そして、この状態で工具220を操作溝201に沿って「N」の位置まで前後方向にスライドさせることで、連結アーム204、回動アーム203及びクラッチ操作シャフト202を回転させ、クラッチ機構30のクラッチシフタ53をスライドさせる。
この結果、従動ギア52からクラッチ出力軸50への動力伝達を遮断することができるので、クラッチ出力軸50から下流側の伝達機構が発生させる抵抗がエンジン5に加わることを防止できる。従って、エンジン5を円滑に始動させることができる。エンジン5の始動後は、連結アーム204に連結させていた工具220を再び「D」の位置まで移動させてクラッチ機構30を再び「連結」状態とし、その後、工具220を操作溝201から抜けば良い。
次に、図8及び図9を参照して、PTO変速レバー11の操作によってPTO変速ギア機構96を切り替えるための連係機構を説明する。図9は、PTO変速レバー11の周辺を上方から見た斜視図である。
図8等に示すように、底部カバー10の水平部10aの下面には、L字状のブラケット252が固定されている。このブラケット252には、丸棒状の操作支点軸253が片持ち支持されている。そして、この操作支点軸253には、前記PTO変速レバー11の基部が回転可能に支持されている。また、このPTO変速レバー11を挟むようにして、前記操作支点軸253には、第1連係アーム255と、第2連係アーム256と、がそれぞれ回転可能に支持されている。
具体的に説明すると、前記第1連係アーム255は円筒状の筒部271を備えており、この筒部271が操作支点軸253に支持されている。また、PTO変速レバー11を挟んで第1連係アーム255と反対側にはスプリング272が設置され、このスプリング272は、PTO変速レバー11の基部を第1連係アーム255側に押し付けている。
第1連係アーム255には第1連結ピン273が固定され、第2連係アーム256には第2連結ピン274が固定されている。第1連結ピン273及び第2連結ピン274は、何れもPTO変速レバー11に向かって突出するように配置されている。また、第1連結ピン273及び第2連結ピン274の先端部には、先が細くなるようなテーパが形成されている。更に、前記PTO変速レバー11には、前記第1連結ピン273及び第2連結ピン274を差し込むことが可能な細長い貫通溝275が形成されている。
図6や図8等に示すように、ミッションケース本体17aの側部には、第1操作アーム257と、第2操作アーム258と、が回転可能に支持されている。第1操作アーム257は、PTO変速ギア機構96の第1変速シフタ81,82と、図示しないシャフト等を介して連結される。また、第2操作アーム258は、PTO変速ギア機構96の第2変速シフタ83と、図示しないシャフト等を介して連結される。
第1操作アーム257は第1連係アーム255とロッド259を介して連結される。また、第2操作アーム258は第2連係アーム256とロッド260を介して連結される。
PTO変速レバー11の中途部を通過させるシフト溝251は、上述のとおりH字状に構成されており、図7に示すように、平行な2本の縦溝251a,251bのほぼ中央部同士を横溝251cで連結した構成となっている。
以上の構成で、PTO変速レバー11には常にスプリング272のバネ力が作用するので、当該PTO変速レバー11は、前記筒部271の端面の全面に接触した状態となる。この状態(図9に実線で示されている状態)は、シフト溝251のうち一側の縦溝251aにPTO変速レバー11が位置した状態に対応する。このとき、PTO変速レバー11に形成される前記貫通溝275には、第1連係アーム255から突出する第1連結ピン273が差し込まれる。従って、上記縦溝251aに位置しているPTO変速レバー11をオペレータが上下に操作すると、第1連係アーム255がPTO変速レバー11と一体的に回転するので、第1操作アーム257を介して第1変速シフタ81,82を移動させることができる。この結果、PTO変速出力軸99(PTO軸23)の回転として、1速、中立、2速及び3速を選択することができる。
一方、PTO変速レバー11を、前記横溝251cを通じて反対側の縦溝251bに移動させることもできる。この場合、PTO変速レバー11は筒部271の端面のエッジを支点として図9の鎖線のように斜めに傾くので、貫通溝275から第1連結ピン273が抜け、それと同時に第2連結ピン274が当該貫通溝275に差し込まれる。従って、縦溝251bに位置しているPTO変速レバー11をオペレータが上下に操作すると、今度は第2連係アーム256がPTO変速レバー11と一体的に回転するので、第2操作アーム258を介して第2変速シフタ83を移動させることができる。この結果、PTO変速出力軸99(PTO軸23)の回転として、4速及び逆転を選択することができる。
このように、横溝251cを通じたPTO変速レバー11の移動は、筒部271の端面の縁を支点としてPTO変速レバー11が傾動することで実現されている。従って、PTO変速レバー11を軸支するピン等の特別な構成が不要になるので、構成を簡素化できる。また、第1連係アーム255及び第2連係アーム256は、連結ピン273,274によって選択的にPTO変速レバー11に連結される構成となっており、それぞれの連結ピン273,274の端部には先細状のテーパ部が形成されている。従って、貫通溝275に対する連結ピン273,274の抜差しを円滑に行うことができる。この結果、PTO変速レバー11を横溝251c内で移動させる際に引っ掛かりが生じにくいので、スムーズな操作を実現することができる。
更に、本実施形態では、第2連係アーム256の第2連結ピン274は、前記貫通溝275に挿入されることでPTO変速レバー11と第2連係アーム256を連結する機能のほか、図9に示すように前記ロッド260を回転可能に連結する機能も有している。従って、構成の簡素化と部品点数の削減を実現することができる。
次に、ハイスピード仕様のトラクタの構成を説明する。図10は、ハイスピード仕様のトラクタ1hの全体的な構成を示す側面図である。
このハイスピード仕様のトラクタ1hは、運転座席8の左脇の部分に副変速レバー(副変速操作具)15が配置されている点と、副変速ギア機構を内蔵するミッションケース17hを備える点で、図1で説明した標準仕様のトラクタ1と異なる。
なお、上述の副変速レバー15及びミッションケース17h以外の構成については、図1で説明した標準仕様のトラクタ1と実質的に同様である。従って、以降の説明においては、前記標準仕様のトラクタ1と同一又は類似する構成については、図面に同一の符号を付して説明を省略する場合がある。
図11に示すミッションケース17hは、クラッチ機構30の代わりに副変速ギア機構30xを備えている点で、標準仕様のトラクタ1と異なる。以下、ミッションケース17hが標準仕様の構成(図3)と異なる点を中心に説明する。図11は、ミッションケース17hの前半部分の内部を示す断面展開図である。なお、ミッションケース17hの後半部分の構成は前記標準仕様(図4)と全く同様であるので、説明を省略する。
ミッションケース17hが備える走行カウンタ軸38には、大径ギア54及び小径ギア55が固定されている。更に、ミッションケース17hにおいては、(前述のクラッチ出力軸50に代えて)副変速出力軸50xが支持されている。この副変速出力軸50xには、高速ギア56及び低速ギア57が回転可能に支持されている。高速ギア56は大径ギア54に、低速ギア57は小径ギア55に、それぞれ噛み合っている。
副変速出力軸50xには、副変速シフタ(クラッチスライダ)53xがスプライン嵌合されている。この副変速シフタ53xをスライド移動させることにより、副変速出力軸50xに低速ギア57又は高速ギア56を連結し、低速又は高速の回転(異なる2つの変速比で変速された回転)を副変速出力軸50xに得ることができる。また、副変速シフタ53xを中立位置に移動させることで、副変速出力軸50xから走行駆動力が出力されない構成とすることもできる。
この副変速シフタ53xは、図10及び図12に示すように運転座席8の脇に配置した副変速レバー15を操作することによって、スライド移動させることができる。なお、図12の構成は、図8に示す標準仕様の構成において回動アーム203から連結アーム204を取り外し、その代わりに副変速レバー15を回動アーム203に固定したものに相当する。副変速レバー15は上方へ延びて前記操作溝201を通過し、その先端は底部カバー10の水平部10aから上方へ突出している。従って、副変速レバー15をオペレータが操作することで、副変速出力軸50xの回転として1速、中立、2速を選択することができる。
このハイスピード仕様のトラクタ1hにおいては、標準仕様のトラクタ1の底部カバー10(図7)をそのまま流用し、部品の共通化によりコストを低減している。ただし、当該底部カバー10には図7に示すように、標準仕様のトラクタ1のクラッチ機構30における操作位置(「D」と「N」のみ)を示す刻印213が付されており、ハイスピード仕様で備えられる副変速レバー15の操作位置(1速、中立、2速)と整合しなくなっている。
そこで、ハイスピード仕様のトラクタ1hにおいては図12に示すように、底部カバー10の水平部10aの上面にプレート部材(表示部材)241が設置されている。このプレート部材241には貫通溝242が形成されており、この貫通溝242を通じて操作溝201が露出するようになっている。この構成で、副変速レバー15は、貫通溝242及び操作溝201に差し込まれ、貫通溝242及び操作溝201に沿って前後方向に操作することができる。
そして、前記プレート部材241には、副変速レバー15の操作位置を示す操作表示243が貫通溝242の脇の位置に付されている。この操作表示243は、1速を意味する「1」と、中立を意味する「N」と、2速を意味する「2」と、によりなる。なお、底部カバー10に直接付されていた刻印213(図7)は、プレート部材241によって覆い隠される。これにより、オペレータは、副変速レバー15の操作位置を容易に確認することができる。
以上に説明したように、本実施形態における標準仕様のトラクタ1(図1)は、エンジン5と、主変速入力軸27と、主変速出力軸36と、インライン式HST29と、走行カウンタ軸38と、湿式多板型の前後進クラッチ40,42と、クラッチ出力軸50と、クラッチ機構30と、後輪側の差動ギア機構58と、前輪側の差動ギア機構86と、ミッションケース17と、連結アーム204と、底部カバー10と、を備える。主変速入力軸27には、エンジン5の出力回転が伝達される。主変速出力軸36は、主変速入力軸27の径方向外側に軸線を一致させて配置される。インライン式HST29は、主変速入力軸27の回転を無段変速して主変速出力軸36に出力する。湿式多板型の前後進クラッチ40,42は、主変速出力軸36の回転方向と同一方向で走行カウンタ軸38を回転させる状態と、逆方向で走行カウンタ軸38を回転させる状態と、主変速出力軸36の回転を走行カウンタ軸38に伝達しない状態と、の間で切替可能に構成されている。クラッチ機構30は、走行カウンタ軸38の回転をクラッチ出力軸50に伝達する連結状態と、走行カウンタ軸38の回転をクラッチ出力軸50に伝達しない遮断状態と、を切替可能である。後輪側の差動ギア機構58は、クラッチ出力軸50の回転を左右の後輪4に分配する。前輪側の差動ギア機構86は、クラッチ出力軸50の回転を左右の前輪3に分配する。ミッションケース17は、クラッチ機構30を収容している。連結アーム204は、クラッチ機構30が有するクラッチシフタ53を移動させるためにミッションケース17の外側に配置される。底部カバー10は、連結アーム204の長手方向一端側を覆うように配置される。底部カバー10には、細長い工具220を差込可能な貫通状の操作溝201が形成されている。連結アーム204には、操作溝201から差し込まれた工具220を連結することが可能な第1折曲げ部206及び第2折曲げ部207が設けられている。
これにより、クラッチ機構30の操作具を省略して操作部の構成を簡素化できるとともに、必要な場合は、操作溝201から工具220を差し込んで連結アーム204に連結し、クラッチ機構30の切替操作を行うことができる。従って、例えば寒冷地においてエンジン5を始動する場合はクラッチ機構30を「切断」状態とすることで、前後進クラッチ40,42に連れ回りが生じている場合でもエンジン5側に加わる抵抗を低減できるので、スムーズなエンジン始動が可能になる。
また、本実施形態における標準仕様のトラクタ1においては、前記連結アーム204は板状に構成されるとともに、その先端部に形成される第1折曲げ部206及び第2折曲げ部207の間には屈曲部が形成されている。また、連結アーム204には、引掛け溝208が前記屈曲部に跨るように形成されている。
これにより、工具220の先端を引掛け溝208に挿入することにより、引掛け溝208の溝壁が、前記屈曲部を挟んだ少なくとも2箇所で工具220に接触する。従って、連結アーム204と工具220との確実な連結が得られるので、工具220を介してクラッチ機構30を円滑に操作することができる。
また、本実施形態における標準仕様のトラクタ1において、底部カバー10は、運転座席8の近傍に配置される。また、図7に示すように、底部カバー10の表面には、操作溝201の近傍に、クラッチ機構30の伝達状態に対応する位置(「D」)と、遮断状態に対応する位置(「N」)と、を表示する刻印213が直接的に付されている。
これにより、操作位置を確認しながら、工具220を用いてクラッチ機構30を容易に操作することができる。また、刻印213が底部カバー10に直接的に付されているので、操作位置を表示するための特別な部材が不要になり、コストを低減することができる。
また、本実施形態におけるハイスピード仕様のトラクタ1h(図10)は、エンジン5と、主変速入力軸27と、主変速出力軸36と、インライン式HST29と、走行カウンタ軸38と、湿式多板型の前後進クラッチ40,42と、副変速出力軸50xと、副変速ギア機構30xと、後輪側の差動ギア機構58と、前輪側の差動ギア機構86と、ミッションケース17hと、副変速レバー15と、底部カバー10と、を備える。主変速入力軸27には、エンジン5の出力回転が伝達される。主変速出力軸36は、主変速入力軸27の径方向外側に軸線を一致させて配置される。インライン式HST29は、主変速入力軸27の回転を無段変速して主変速出力軸36に出力する。湿式多板型の前後進クラッチ40,42は、主変速出力軸36の回転方向と同一方向で走行カウンタ軸38を回転させる状態と、逆方向で走行カウンタ軸38を回転させる状態と、主変速出力軸36の回転を走行カウンタ軸38に伝達しない状態と、を切替可能である。副変速ギア機構30xは、走行カウンタ軸38の回転を第1変速比で変速して副変速出力軸50xに伝達する第1状態と、走行カウンタ軸38の回転を前記第1変速比とは異なる第2変速比で変速して副変速出力軸50xに伝達する第2状態と、走行カウンタ軸38の回転を副変速出力軸50xに伝達しない遮断状態と、を切替可能である。後輪側の差動ギア機構86は、副変速出力軸50xの出力回転を左右の後輪4に分配する。前輪側の差動ギア機構86は、副変速出力軸50xの出力回転を左右の前輪3に分配する。ミッションケース17hは、副変速ギア機構30xを収容する。副変速レバー15は、副変速ギア機構30xが有するクラッチシフタ53を移動させるためにミッションケース17hの外側に配置される。底部カバー10は、運転座席8の近傍に配置される。底部カバー10には貫通状の操作溝201が形成されている。副変速レバー15は操作溝201を通過するように配置される。底部カバー10の表面には、操作溝201の近傍に、操作位置を表示する位置表示(刻印213)が直接的に付されている。底部カバー10の刻印213を覆うようにプレート部材241が固定される。プレート部材241の表面には、副変速ギア機構30xの前記第1状態に対応する位置(「1」)と、前記第2状態に対応する位置(「2」)と、前記遮断状態に対応する位置(「N」)と、を表示する操作表示243が付されている。
これにより、標準仕様のトラクタ1の構成の大部分を流用して、ハイスピード仕様のトラクタ1hを提供することができる。また、標準仕様のトラクタ1の底部カバー10において、ハイスピード仕様の副変速レバー15の操作位置に整合しない位置表示(刻印213)が付されていた場合でも、副変速レバー15の操作位置を表示したプレート部材241を取り付けることで、当該位置表示を隠すことができる。従って、同一の構成の底部カバー10を2つの仕様で共通に用いることができ、コストを低減することができる。
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
連結アーム204は、その先端部を2箇所で折り曲げる構成に代えて、例えばL字状に1回折り曲げた構成に変更することができる。また、長孔状の引掛け溝208を形成することに代えて、工具220の先端を差込可能な円形の孔を形成するようにすることもできる。
ハイスピード仕様のトラクタ1hにおいて、副変速ギア機構30xは、1速、中立、2速以外に、例えば3速を選択できるように構成することもできる。
上記実施形態の構成は、4輪型のトラクタに限定されず、例えばセミクローラ方式のトラクタに適用することができる。また、トラクタ以外の作業車両にも適用することもできる。