実施の形態1.
以下、本発明の実施の形態1について、図に基づいて説明する。図1は本実施の形態に係る貫流ファン8を搭載した空気調和機を示す外観斜視図、図2は図1のM−M線における縦断面図である。図1及び図2において、空気調和機本体1は空調される部屋の壁に設置される。空気調和機本体上部1aには、室内空気の吸込口となる吸込グリル2、ホコリを静電させ集塵する電気集塵器6、ホコリを除塵する網目状のフィルタ5を配設している。さらに、複数のアルミフィン7aに配管7bが貫通する構成の熱交換器7を、羽根車8aの正面側と上部側に、羽根車8を囲むように配置している。また、空気調和機本体前面1bは前面パネルで覆われ、その下側に吹出口3が開口している。送風機である貫流ファン8は、羽根車8aに対して吸込側流路と吹出側流路を分離すると共に、熱交換器7から滴下される水滴を一時貯水するスタビライザー9を有し、羽根車8aの吹出側には吹出側流路の背面を構成するため、渦巻状のガイドウォール10を有する。さらに吹出口3には上下風向ベーン4a、左右風向ベーン4bが回動自在に取り付けられ、室内への送風方向を変化させる。図中、Oは羽根車8aの回転中心を示し、C1は羽根車8aの吸込領域、C2は羽根車8aの吹出領域である。また、ROは羽根車8aの回転方向を示す。
図3は本実施の形態に係る貫流ファン8の羽根車8aを示す概略図であり、図3(a)は貫流ファン8の側面図、図3(b)は図3(a)のN−N線断面図を示し、下半分は向こう側の複数枚の翼が見えている状態を示し、上半分は1枚の翼8cを示している。
図3において、貫流ファン8の羽根車8aは、回転軸方向AXに複数の羽根車単体8dを有する。羽根車単体8dは、所定の間隔をあけて配置される少なくとも2つの円板状の支持板、ここでは例えばリング8bと、両端がリング8bの外周部に固定され回転軸方向AXに伸びる複数の翼8cとで構成される。羽根車単体8dは、例えばAS樹脂やABS樹脂などの熱可塑性樹脂で成形され、回転軸方向AXに複数個溶着などによって連結され、羽根車8aを形成する。そして、一端のリング8bの中心にファンシャフト8f、他端のリング8bの中心にファンボス8eとモータ12のモータシャフト12aがネジ等で固定される。また、羽根車8aの回転軸に垂直な断面において、翼8cは、翼外周側先端部13aの近傍である翼外周側端部と翼内周側先端部13bの近傍である翼内周側端部との間で円弧状であり、1枚の翼の中心線は、翼外周側先端部13aの近傍である翼外周側端部で回転方向ROに前傾するような曲線を成す。モータ12によってモータシャフト12aを回転中心として回転すると、羽根車8aがRO方向に回転し、送風される。ここで、翼外周側先端部13aとは翼外周側端部の先端とその近傍を含んだ部分を示し、翼内周側先端部13bとは翼内周側端部の先端とその近傍を含んだ部分を示す。また、翼外周側端部とは翼中央部から翼外周側先端部13aを含む部分を示し、翼内周側端部とは翼中央部から翼内周側先端部13aを含む部分を示す。
翼8cの翼外周側端部及び翼内周側端部の少なくとも一方の端部には、回転軸方向AXに伸びる段差形状の凹部を設けており、図4に基づいて段差11の構成を詳しく説明する。図4は本実施の形態に係る翼8cを示す説明図であり、図4(a)は翼8cの回転方向ROに対して後面となる翼負圧面13dを示し、図4(b)は図4(a)のV−V線断面図である。翼8cがRO方向に回転すると、翼8cの回転方向ROに対して前面は翼圧力面13cとなり、後面は翼負圧面13dとなる。
翼負圧面13dの例えば翼外周側端部に設けた段差11は、翼外周側先端部13a側を凹とし、翼外周側先端部13aの先端から段差前縁部11aまたは段差後縁部11bまでの翼負圧面13dに沿った距離が徐々に増加又は減少するように斜めに伸びる形状である。図中、Haは翼外周側先端部13aに平行な線で、最も翼外周側先端部13aに近い段差前縁部11aを通る線であり、Hbは翼外周側先端部13aに平行な線で、最も翼外周側先端部13aに近い段差後縁部11bを通る線である。即ち、段差前縁部11aと段差後縁部11bは平行であるが、共に翼外周側先端部13aに対して斜め角度を有する方向に伸びている。翼外周側先端部13aの先端から段差後縁部11bまでの凹部の翼肉厚は、翼中央部の翼肉厚よりも薄くなる。
このように構成された空気調和機本体1において、モータ12が電源基板より通電されると貫流ファン8の羽根車8aがRO方向に回転する。すると本体上部1aに設けられた吸込口2より部屋の空気が吸込まれ、電気集塵器6及びフィルタ5でホコリが除去された後、熱交換器7で空気は加熱され暖房、または冷却され冷房、除湿のいずれかがされ、貫流ファン8の羽根車8aへ吸込まれる。その後、羽根車8aから吹出された気流はガイドウォール10に誘導され吹出口3へ向かい、吹出口3から部屋へ吹出すことで空気調和される。この際、上下風向ベーン4a、左右風向ベーン4bにより吹出空気を上下、左右方向へ風向制御することで、部屋全体に風を流し温度ムラの抑制を図っている。
ここで、翼8cが吸込領域C1にあるとする。羽根車8aがRO方向に回転することで、気流E0が翼負圧面13dに流れ、翼外周側端部の翼形状が曲がっている部分で剥離が起ころうとする。本実施の形態ではこの部分に斜めに設けた段差11によって、剥離の翼外周側先端部13aからの距離が回転軸方向AXで少しずつずれる。このため、剥離渦の発生位相が変化し拡散されることで、回転音を低減できる。
また、翼8cが吹出領域C2にある時には、気流は図4のE0と逆になって流れる。この場合も同様であり、翼外周側端部の翼形状が曲がっている部分で流れが離脱しようとするが、翼8cを流れが離脱する位相が回転軸方向AXで少しずつずれる。このため、流れの離脱する位相が変化し拡散されて、低騒音化を図ることができる。
図5は、本実施の形態に係る翼8cの他の構成例を示す説明図であり、翼8cの回転方向ROに対して後面となる翼負圧面13dを示す。翼8cの断面は図4(b)と同様である。この構成例では、翼負圧面13dに、回転軸方向AXに複数、例えば2つの段差11a、11bを形成した例である。2つの段差11a、11bは、翼外周側先端部13aに対して異なる角度を有し、中央付近で2本の段差11を連結している。このため、2つの段差11a、11bは回転軸方向AXの中央部分で凹側が互いに向かい合うように構成される。図4の段差11と同様、斜めに設けた段差11によって、剥離の位置や離脱する位置が回転軸方向AXで少しずつずれる。このため、剥離渦や離脱の発生位相が変化し拡散されることで、回転音が低減でき、低騒音化を図ることができる。さらに、2本の段差11の凹側が互いに向かい合うように配設したことで、吸込領域C1では気流を羽根車単体8dの中央部分に集める一方、段差11を乗り越える渦は羽根車単体8dの端、即ちリング8bに向かう方向成分を有する。このため、気流が翼負圧面13dから剥離するのを抑制でき、広帯域騒音を低減することができる。
また図6は、本実施の形態に係る翼8cのさらに他の構成例を示す説明図であり、翼8cの回転方向ROに対して後面となる翼負圧面13dを示す。翼8cの断面は図4(b)と同様である。この構成例でも、翼外周側先端部13aに対して異なる角度を有する2本の段差11を翼負圧面13dに形成すると共に、中央部分で2本の段差11を連結している。図5とは2本の段差11の翼外周側先端部13aに対する角度を逆にしたものである。この構成の効果も図5と同様である。即ち、斜めに設けた段差11によって、剥離の位置や流れが離脱する位置が回転軸方向AXで少しずつずれる。このため、剥離渦や離脱の発生位相が変化し拡散されることで、回転音が低減でき、低騒音化を図ることができる。
図4〜図6では翼外周側端部の翼負圧面13dに段差11を設けて低騒音化を図っている。即ち、吸込領域C1では気流の翼8cへの流入側部分で翼外周側端部で発生する剥離渦の位相を変化させ、吹出領域C2では逆に翼外周側端部からの流出側部分で翼外周側端部で発生する流れの離脱の位相を変化させて、騒音を低減している。これに対し、翼内周側先端部13b側の翼内周側端部の翼負圧面13dに段差11を設けてもよい。翼内周側端部は吸込領域C1では翼内周側端部からの流出側部分となるので、段差を設けることで翼内周側端部で発生する流れの離脱の位相を変化させる。一方、吹出領域C2では逆に気流の翼8cへの流入側部分となるので、段差を設けることによって翼内周側端部で発生する剥離渦の位相を変化させて、騒音を低減する構成でもよい。また、翼外周側端部及び翼内周側端部の翼負圧面13dの両方に段差11を設けてもよい。この場合には、吸込領域C1と吹出領域C2のどちらの位置でも翼内周側端部及び翼外周側端部の両方で低騒音化を図ることができる。
また、翼負圧面13dと翼外周側端部及び翼内周側端部の両方に段差11を設ける場合、翼外周側先端部13aと翼外周側段差との斜めの方向と、翼内周側先端部13bと内周側段差との斜めの方向とが、逆になるように段差を設けるのが好ましい。図7は翼内周側端部と翼外周側端部の両方に段差11を設けた構成を示す説明図であり、翼負圧面13dを平面的に示している。図7(a)は図4、図7(b)は図5、図7(c)は図6の構成に対応している。このように翼外周側端部に設けた段差(外周側段差)と翼内周側端部に設けた段差(内周側段差)とが平行に近くなるのではなく、翼8cの回転軸方向AXで段差11が互いに近づくまたは離れるように逆方向に斜めになるように構成したほうがよい。
このように構成すると、翼8cの回転軸方向AXで、外周側段差と内周側段差との距離が異なる。即ち、一方の段差で影響を受けた流れが、他方の段差で影響を受けるまでの距離が、回転軸方向AXで異なることになる。このため、一方の段差11で剥離渦の発生位相を変化し、他方の段差11で流れの離脱する位相を変化する効果をより大きく得ることができる。また、外周側段差と内周側段差とが同様の段差で構成されていなくても、段差によって騒音を低減できる。例えば外周側段差を図4で示すものとし、内周側段差を図5で示すものとするなど、他の組み合わせの構成でもよい。
また、図4〜図6では、段差前縁部11aと段差後縁部11bとが平行になるように構成したが、平行でなくてもよい。段差前縁部11aと段差後縁部11bの少なくとも一方が、翼外周側先端部13aまたは翼内周側先端部13bに平行ではなく、ある程度の角度を成すように斜めであればよい。少なくとも先端部13a、13bに対して斜めに段差が構成されていれば、流れの剥離渦の発生する位相や離脱する位相がずれることで、ある程度の効果は期待できる。他の構成例として、例えば図4の斜めが逆であっても同様である。また、図5、図6には回転軸方向AXに2本の段差を有する構成を示したが、さらに多くの段差を形成してもよい。
また、段差前縁部11aと段差後縁部11bで構成される段差11の翼厚さ方向の立ち上がり角度については、90°(垂直)以下で流れが段差11に沿って流れるような角度にするのが好ましい。また、段差11の段差前縁部11aでは、翼肉厚は薄くなるが、翼8cの強度が保持できる程度の厚みや成形時に熱可塑性樹脂を型に流し入れる際の流れに影響しない程度の厚みがあったほうがよい。翼肉厚は翼外周側先端部13aと翼内周側先端部13bで薄く、翼中央部で厚い形状である。このため、段差11を、翼外周側先端部13aと翼内周側先端部13bよりも翼中央部側で、翼肉厚が翼外周側先端部13aと翼内周側先端部13bより厚い部分に形成すれば、段差前縁部11aでの翼肉厚が翼外周側先端部13aと翼内周側先端部13bでの翼肉厚と同程度に維持できる。
以上のように、所定の間隔をあけて配置される少なくとも2つの円板状の支持板8bと、支持板8bの中心を通り回転軸となるシャフト8fと、両端が支持板8bの外周部に固定され回転軸方向AXに伸び、回転軸に垂直な断面で翼外周側端部と翼内周側端部との間で円弧状である複数の翼8cと、翼8cの回転方向ROに対して後面となる翼負圧面13dの翼外周側端部及び翼内周側端部の少なくとも一方の端部に設けた回転軸方向AXに伸びる凹部と、を備え、凹部は、端部の先端13a、13bから翼負圧面13dに沿った距離が徐々に増加又は減少するように斜めに伸びる段差11形状であることを特徴とすることにより、翼負圧面13dで発生する剥離渦や気流の離脱の位相を回転軸方向AXでずらして変化させ、騒音を低減できる効果がある。
また、回転軸方向AXに複数の段差11を設け、少なくとも2つの隣り合う段差11を凹側が互いに向かい合うように構成したことにより、さらに効果的に翼負圧面13dで発生する剥離渦や気流の離脱の位相を回転軸方向AXでずらして変化させ、騒音を低減できる効果がある。
実施の形態2.
以下、本発明の実施の形態2に係る貫流ファンについて、図に基づいて説明する。図8は本実施の形態に係る貫流ファン8の羽根車8aを示す概略図であり、図8(a)は貫流ファン8の側面図、図8(b)は図8(a)のH−H線断面図を示し、下半分は向こう側の複数枚の翼が見えている状態を示し、上半分は1枚の翼8cを詳しく示している。また、図9は図8の翼1枚を拡大して示す斜視図であり、図10は翼負圧面13dに形成される溝部を含む翼8cの一部を拡大して示す説明図である。図中、実施の形態1と同一符号は同一、又は相当部分を示す。
翼8cの羽根車8aの回転方向ROに対して後面となる翼負圧面13dにおいて、翼外周側端部及び翼内周側端部の少なくとも一方の端部に、回転軸方向AXに複数の溝部14を形成した。図8に示すように、翼負圧面13dの例えば翼外周側端部に設けた溝部14の数は、羽根車単体8dの回転軸方向の長さに応じて異なる数とした。複数の溝部14の回転軸方向AXの中点間の距離F2をほぼ同一とし、例えば、羽根車単体8dの回転軸方向長さBが75mm程度のとき、溝部14の翼外周側先端部13aに最も近い回転軸方向AXの長さA1を5mm程度とし、F2を7mm程度とする。
また、図9の翼8cの回転軸側の側面に示すように、翼8cの側面における中心線は、外周側で回転方向に前傾するような曲線である。その両端部である翼外周側先端部13aと翼内周側先端部13bを結ぶ直線を翼弦線Lとし、翼弦線Lの中点に相当する翼8cの位置を翼弦中央部13eとする。回転軸方向に所定間隔F2で配置された溝部14は、図10に示すように正面視で例えば略台形形状であり、翼外周側先端部13a側を下底とし、翼外周側先端部13a側から翼弦中央部13eに向かって回転軸方向AXの溝幅A1を徐々に小さくする。略台形形状の溝部14の上底に該当する溝内端部14aは、翼外周先端部13aと平行な段差を形成している。また、溝側部14bは翼外周先端部13aに対して斜めの段差を形成しており、凹側が互いに向かい合う形状である。向かい合う溝側部14bの傾きθ1は、例えば30°程度とする。翼肉厚方向では、溝部14の内部が翼外周先端部13aから滑らかに傾斜するような凹部を形成している。
図11は図10におけるP−P線断面図を示す。翼負圧面13dの溝部14によって凹部となった面を溝部表面14cとし、翼負圧面13dの溝部以外の面と溝部表面14cとの段差が一番大きい部分を溝部最深部A2とし、溝部最深部A2を通る翼弦線Lに垂直な直線との交点の翼弦線溝部最深点A2Lとする。また、この翼断面で、翼圧力面13cと翼負圧面13dに内接する円の直径である翼肉厚tのうちで、最大肉厚tmを示す内接円の中心を通り翼弦線Lに垂直な直線との交点を最大肉厚点Tmとし、溝部14が形成される翼先端部側、ここでは翼外周側先端部13a側の翼外周側先端部円弧中心13acから翼弦線溝部最深点A2Lまでの距離を溝最深部翼弦距離F1とし、翼外周側先端部13aの肉厚をt1とする。本実施の形態では、溝部最深部A2における翼肉厚tを、翼外周側先端部13aの肉厚t1以上で、且つ最大肉厚tm以下となるように溝部14を形成する。
本実施の形態では、例えば羽根車8aの半径を100mm程度、翼弦線Lの長さである翼弦長L1を10mm程度、翼外周側先端部13aの肉厚t1を0.5mm程度、最大肉厚tmを1.1mm程度、溝最深部翼弦距離F1を2.5mm程度で構成している。
貫流ファン8において、翼8cが熱交換器7側の羽根車吸込領域C1を通過する時、気流E0は図10に示すように翼外周側先端部13aから翼内周側先端部13bへ流れる。翼外周側先端部13aから流れ込む気流は、溝内端部14aへ直接向かって下流側の翼弦中央部13eへ通過する流れE1と、溝側部14bに流れて翼外周側先端部13aに対して斜めの角度を有する段差を乗り越え翼負圧面13dへ回り込む渦流れE2が生成される。溝側部14bで生成される渦流れE2により、周囲の流れが翼負圧面13dへ誘引され、翼負圧面13dから剥離しようとする気流が抑制される。ここで、溝側部14bが回転軸に直交する平面に平行である場合には、溝部に流れが集中し、溝部が無い場所とで速度差が大きくなってせん断力が働き、流れが乱れて騒音悪化の恐れがある。これに対し、本実施の形態では、溝側部14bは角度θ1のように、翼外周側先端部13aの回転軸方向に対して平行でも垂直でもない角度を有する斜めの段差を形成している。この構成によって、渦流れE2を生成することができ、周囲の流れが翼負圧面13dへ誘引されることで剥離を抑制でき、広帯域騒音の発生を低減できる。
さらに、翼外周側先端部13a付近の翼負圧面13dに周期的に生成される強い渦が回転音の原因となっていた。これに対して、翼外周側端部に溝部14を形成したことで、翼外周側端部に凹凸ができ、発生する渦の周期性が拡散され、ピーク性の回転音が低減される。
一方、貫流ファン8の翼8cがガイドウォール10側の羽根車8aの吹出領域C2を通過する時は、図12に示すように、気流E0は翼内周側先端部13bから翼外周側先端部13aに向かって流れる。この時、翼外周側端部に設けた溝14周辺では、翼弦中央部13eから翼外周側先端部13aへ流れる。翼弦中央部13eから溝内端部14aへの流れE3及び翼弦中央部13eから溝側部14bへの流れE4は、溝部14が上流の翼弦中央部13eより凹形状となることで負圧となって翼負圧面13dに誘引される。このように吹出領域C2でも剥離が抑制され、広帯域騒音の発生を低減できる。
以上のように、翼8cの翼負圧面13dにおいて、溝部14を設けることで、羽根車吸込領域C1、吹出領域C2共に剥離が抑制され広帯域騒音を低減でき、また発生する渦の周期性を拡散して回転音を低減できる。また、この貫流ファン8を空気調和機やエアーカーテンなどに搭載した場合には、通常室内のホコリを除去するために吸い込み側にフィルタ5を有するが、フィルタ5にホコリが付着してくると通風抵抗が増加する。通風抵抗が増加すると、翼8cへの流入角度が変化して剥離がおこりやすくなっていた。本実施の形態ではこのように通風抵抗が増加した状態でも、溝部14によって渦流れE2を生成することで剥離をある程度抑制でき、広帯域騒音を低減できる。さらに吹出領域でも翼負圧面13dの凹凸形状による回転音の低減が可能である。その結果、静粛な空気調和機が実現できる。
また、溝部最深部A2における翼肉厚tを、翼外周側先端部の肉厚t1以上で、且つ最大肉厚tm以下となるように溝部14を形成している。これによって、翼8cの回転軸に垂直な方向の長さである翼肉厚tが翼外周側先端部の肉厚t1よりも薄くなることはない。このため、貫流ファン8を射出成形する際、熱可塑性樹脂を型に流し込んで成形するのであるが、この成形時に樹脂の湯回りを阻害することなく、滑らかに樹脂を流し込むことができる。
次に、溝部14の形状で、特に1つの溝部14の向かい合う溝側部14bの傾斜角度について説明する。ここで、溝側部14bの回転軸方向AXの溝幅A1は、翼外周側先端部13aから翼弦中央部13eに向かって、徐々に短くし、凹部が向かい合う溝側部14bのなす角度をθ1とする。溝側部14bは、翼外周側先端部13aの回転軸方向AXに伸びる直線に対して、斜めに交差する段差を構成しており、実施の形態1に示すように騒音の低減効果がある。さらにここでは向かい合う角度θ1で構成した溝側部14bの騒音低減効果について説明する。
図13に溝部14の両溝側部14bがなす角度である溝側部角度θ1と騒音値の関係を示す。これは、空気調和機において貫流ファンの翼外周側端部に溝部14を設け、この溝側部14bの角度θ1を変化させて、吹出口3近傍の室内で騒音値を計測したものである。図13において、横軸は溝側部14bの角度θ1(°)であり、縦軸は騒音低減値{dB(A)}を示す。θ1=0°とは溝部14を設けていない構成であり、これを基準の騒音値とし、この騒音値からの低減値をグラフ化している。
溝側部14bの角度θ1が30°程度のときに騒音低減値が最も大きくなり、10°より小さい構成及び45°よりも大きい構成の時にはそれほど騒音が低減されていない。溝側部角度θ1が10°より小さいと、溝側部14bが回転軸に直交する角度に近くなり、渦流れE2がそれほど生成されなくなる。このため、気流が剥離し騒音低減作用が小さい。即ち、溝側部角度θ1が10°以上であると、渦流れE2が生成され、気流が剥離するのを防止するように作用して騒音を低減できるので、好ましい。
一方、溝側部角度θ1が45°より大きいと、溝側部14bを乗り越える際にできる渦E2の渦中心が回転軸方向に向き、周囲の流れの方向から離れる向きになる。このため、剥離を抑制する効果が小さくなるので、騒音低減値が小さくなる。逆に、溝側部角度θ1が45°以下である場合には、溝側部14bを乗り越える際にできる渦E2の渦中心が周囲の流れに近い方向になる。このため、剥離を効果的に抑制でき、大きな騒音低減値が得られる。さらに、溝幅A1が広くなると、隣り合う溝部14の溝側部14bから生成される渦流れE2同士が干渉して騒音が悪化する。
即ち、溝側部角度θ1が45°以下であると、渦流れE2によって気流が剥離するのを防止することができ、騒音を低減できるので、好ましい。ただし、溝側部角度θ1が45°より大きくても、隣り合う溝部14との距離などを変化させることで、隣り合う溝部14の溝側部14bでの渦流れE2同士の干渉をある程度改善することができる。
以上のことから、図10に示したような構成では、図13に示されるように、10°≦溝側部角度θ1で構成するのが好ましく、広帯域騒音を低減でき、静粛な貫流ファンが得られる。さらには溝側部角度θ1≦45°で構成するのが好ましく、広帯域騒音を低減でき、静粛な貫流ファンが得られる。
次に、溝部14の形状で、特に図11に示す翼8cの回転軸に垂直な断面において、翼外周側先端部円弧中心13acから翼弦線溝部最深点A2Lまでの距離である溝最深部翼弦距離F1と、翼外周側先端部13aと翼内周側先端部13bを結ぶ翼弦線Lの長さL1の比F1/L1について説明する。図14は、横軸に溝最深部翼弦距離F1と翼弦線Lの長さL1の比F1/L1を示し、縦軸に騒音低減値{dB(A)}を示す。これは、空気調和機において貫流ファンの翼外周側端部に溝部14を設け、この溝最深部翼弦距離F1を変化させて、吹出口3近傍の室内で騒音値を計測したものである。F1/L1=0とは溝部14を設けていない構成であり、これを基準の騒音値とし、この騒音値からの低減値をグラフ化している。ここで、溝側部角度θ1は30°として構成した。
F1/L1が0.2程度のときに騒音低減値が最も大きくなり、0.1より小さい構成及び0.3よりも大きい構成の時にはそれほど騒音が低減されていない。溝最深部翼弦距離F1が大きく、即ちF1/L1が0.3より大きいと、溝部14の翼弦中央部13e側において、渦流れE2の渦が発達しすぎる。そして、隣りの溝部14による渦流れ同士で干渉しあって逆に周囲の流れを乱すことになり、騒音が悪化してしまう。即ち、F1/L1が0.3以下であると、溝側部14bで生成される渦流れE2によって効果的に周囲空気が誘引され、広帯域騒音を低減できるので、好ましい。ただし、F1/L1が0.3より大きくても、隣り合う溝部14との距離などを変化させることで、ある程度改善することはできる。
一方、F1/L1が0.1より小さいと、渦流れE2が十分に生成されないので、効果がない。このため、F1/L1が0.1以上であると、渦流れE2を十分に生成して騒音を低減できるので、好ましい。
以上のことから、0.1≦F1/L1で構成するのが好ましく、広帯域騒音を低減でき、静粛な貫流ファンが得られる。さらにはF1/L1≦0.3で構成するのが好ましく、隣り合う溝部14の翼弦中央部13e側で渦流れの渦が発達しすぎず、溝側部14bで生成される渦流れE2と周囲空気の誘引が干渉ないため、広帯域騒音を低減でき、静粛な貫流ファンが得られる。
次に、溝部14の形状で、特に図8に示す羽根車8aの軸方向両端を除く羽根車単体8dにおいて、隣り合うリング8b間の翼長さBと溝部14の回転軸方向の中点間距離F2の比F2/Bについて説明する。図15は、横軸に溝中点間距離F2とリング間翼長さBの比F2/Bを示し、縦軸に騒音低減値{dB(A)}を示す。これは、空気調和機において貫流ファンの翼外周側端部に溝部14を設け、隣の溝14との間隔である溝中点間距離F2を変化させて、吹出口3近傍の室内で騒音値を計測したものである。F2/B=0とは溝部14を設けていない構成であり、これを基準の騒音値とし、この騒音値からの低減値をグラフ化している。ここで、溝側部角度θ1は30°とし、F1/Lは0.2として構成した。
F2/Bが0.2程度のときに騒音低減値が最も大きくなり、0.1より小さい構成及び0.3よりも大きい構成の時にはそれほど騒音が低減されていない。溝最深部翼弦距離F2が小さく、即ちF2/Bが0.1より小さいと、距離Bに形成される溝部14の数が多くなって隣り合う溝部14同士の距離が近くなり、回転軸方向の溝側部14bを短かくしなければならなくなる。このため、渦流れE2を十分に生成できず、十分な低騒音効果が得られない。また、従って、F2/Bが0.1以上であると、溝側部14bで渦流れE2を十分に生成することができ、広帯域騒音を低減できるので、好ましい。
一方、F2/Bが0.3より大きいと、隣り合う溝側部14bにおける渦流れE2が離れすぎ、周囲流れが翼負圧面13dへ誘引される効果が薄れる。また、翼外周側先端部13a側の翼負圧面13dで溝部14がない領域が増加するので、翼外周側先端部13aでの剥離が生じ、回転音が大きくなる。従って、F2/Bが0.3以下であると、渦流れE2を十分に発生でき、剥離を低減でき、回転音を小さくでき、広帯域騒音を低減できるので、好ましい。ただし、F2/Bが0.3より大きくても、溝部14の軸方向長さA1や溝側部角度θ1などを変化させることで、ある程度改善することはできる。
以上のことから、0.1≦F2/Bで構成するのが好ましく、回転音が小さく、広帯域騒音も低減でき、聴感が良く静粛な貫流ファンが得られる。さらにはF2/B≦0.3で構成するのが好ましく、回転音が小さく、広帯域騒音を低減でき、聴感が良く静粛な貫流ファンが得られる。
また、溝部14の他の構成例として、図16は本実施の形態に係る貫流ファン8の1枚の翼8cを示す斜視図である。図16に示すように、翼負圧面13dの翼外周側端部側に設けた溝部14は、隣の溝部14との間をあけずに隣接して複数設けた構成である。溝部14の形状は図9の構成例と同様、翼外周側先端部13a側を下底とする略台形形状であり、翼外周側先端部13aから翼弦中央部13eへ向け、徐々に回転軸方向AXの溝幅A1が小さくなる溝側部14bを有する。隣り合う溝部14の間は、翼外周側先端部13a側に略三角形状に突出した翼負圧面13dを構成している。
このように溝部14の下底が隣接するように形成することにより、隣り合う溝部14の溝側部14b同士により形成される突出部は、先端が鋭角の三角形状となる。このため、溝内端部14aでは羽根車8aが吸込領域C1を通過する時、斜め形状の溝側部14bを乗り越えて翼面へ回り込む渦流れE2を強く発生できる。渦流れE2が強くなることで、周囲の流れが翼負圧面13dへさらに誘引されやすくなり、周囲の流れが抑え込まれる。従って、剥離が抑制され、広帯域騒音を低減できる。また、翼外周側先端部13a側から流入する流れを、溝部14の内側に集め、その流れの勢いで溝部14の内側にできようとする境界層を溝部14外に流出させる。このため、翼外周側端部における境界層が発達しにくくなり、さらに剥離を抑制できる。
また、吹出領域C2では翼外周側端部の翼負圧面13dに生成される強い渦が、回転音の原因となっていた。図16のような溝部14の構成でも図9の構成と同様、溝部14によって翼外周側端部に形成される凹凸形状により、周期性が拡散されピーク性の回転音が低減される。
なお、図9及び図16に基づいて説明した溝部14は、翼外周側端部に設けたが、これに限るものではなく、翼内周側端部に設けてもよい。また、溝部14を翼8cの外周側端部及び内周側端部の両方に形成した場合、羽根車吸込領域C1、吹出領域C2でのそれぞれの流れ現象が翼1枚の中で生じることでさらに低騒音化が図れる。
また、図9及び図16において、溝部14は翼外周側先端部13aや翼内周側先端部13bの端部の先端側を下底とする略台形形状の凹部として説明したが、これに限るものではない。例えば、翼外周側先端部13aや翼内周側先端部13bの先端側を底辺とする略三角形状の凹部で構成しても、同様の効果を奏する。
以上のように、本実施の形態では、所定の間隔をあけて配置される少なくとも2つの円板状の支持板8bと、支持板8bの中心を通り回転軸となるシャフト12aと、両端が支持板8bの外周部に固定され回転軸方向AXに伸び、回転軸に垂直な断面で翼外周側端部と翼内周側端部との間で円弧状である複数の翼8cと、翼8cの回転方向に対して後面となる翼負圧面13dの翼外周側端部及び翼内周側端部の少なくとも一方の端部に設けられ、前記端部の先端13a、13b側を底辺とする略三角形状または前記端部の先端13a、13b側を下底とする略台形形状の凹部で構成して凹側が向かい合う段差14bを有する複数の溝部14と、を備えたことにより、流れの剥離を抑制し低騒音な貫流ファンを得ることができる。
また、向かい合う段差14bが成す角度θ1を10°以上とし、向かい合う段差14bの段差間距離A1を端部の先端13a、13b側で広くしたことにより、効果的に流れの剥離を抑制でき、低騒音な貫流ファンを得ることができる。
また、向かい合う段差14bが成す角度θ1を45°以下としたことにより、効果的に流れの剥離を抑制でき、低騒音な貫流ファンを得ることができる。
また、翼8cの回転軸に垂直な断面で、翼外周側端部の先端13aと翼内周側端部の先端13bを結ぶ直線を翼弦線Lとし、溝部14の内部で溝部14の周囲との段差が最も大きくなる部分を溝部最深部A2とし、溝部最深部A2を通り翼弦線Lに垂直な直線との交点を翼弦線溝部最深点A2Lとし、溝部14が形成される端部の円弧状の先端の円弧中心から翼弦線溝部最深点A2Lまでの距離を溝最深部翼弦距離F1とし、翼弦線Lの長さを翼弦長L1とし、最深部翼弦距離F1と翼弦長L1の比を0.1≦F1/L1≦0.3となるように構成したことにより、効果的に流れの剥離を抑制でき、低騒音な貫流ファンを得ることができる。
また、回転軸方向AXの翼8cの長さを翼長Bとし、複数の溝部14を回転軸方向AXに略等間隔で配置し、溝間隔F2と翼長Bの比を0.1≦F2/B≦0.3となるように構成したことにより、効果的に流れの剥離を抑制でき、低騒音な貫流ファンを得ることができる。
実施の形態3.
以下、本発明の実施の形態3に係る貫流ファンについて、図に基づいて説明する。図17は本実施の形態に係る貫流ファン8の1枚の翼8cを拡大して示す斜視図である。また、図18はこの羽根車8aを空気調和機に搭載した場合で、翼8cが吸込領域C1に位置する際の翼負圧面13dの一部を拡大して示す説明図であり、図19は空気調和機における吹出領域C2に位置する際の翼負圧面13dの一部を拡大して示す説明図である。なお、本実施の形態における主な構成については、実施の形態1及び実施の形態2と同様であり、同一符号は同一又は相当部分を示し、ここでは説明を省略する。
図17に示す翼8cは、実施の形態2における図16に示した溝部14を有し、さらに各溝部14に切欠部15を設けた構成である。切欠部15は、翼8cの翼内周側端部と前記翼外周側端部の少なくとも一方の端部に設けられ、端部の先端13a、13bから翼8cの内側に向かって切り欠いた構成であり、回転軸方向AXに複数配設している。特に本実施の形態では、複数の溝部14が形成する凹部の全てに切欠部15を設け、それぞれ切欠部15を溝部14が形成する凹部の中央に位置したものである。
図18に示すように、回転軸方向AXの溝幅A1の中点付近に設けた切欠部15は、例えば略三角形に開口し、その三角形状の底辺は、翼端部である翼外周側先端部13aに面している。その底辺の両端に相当する切欠部角部15a、並びに三角形状の二辺に相当する切欠部側部15bの翼圧力面13c及び翼負圧面13dとの角部は、丸くした円弧形状で形成している。
翼8cが吸込領域C1を通過する際には、気流E0が矢印方向から流れる。この時、翼外周側先端部13aに対して斜め形状である溝側部14bを乗り越えて、翼面へ回り込む渦流れE2が強く発生し、周囲の流れが翼負圧面13dへ誘引されやすくなる。このため、周囲の流れが抑え込まれて気流が翼負圧面13dから剥離するのを抑制する。
さらに、翼外周側先端部13a及び負圧面13dの翼外周側先端部13a側に生成される強い剥離渦が回転音の原因となることは周知のことであるが、翼外周側先端部13aに切欠部15を設けていることで、剥離渦が拡散される。即ち、切欠部15によって翼圧力面13cから翼負圧面13dに向かって渦が発生し、さらにこの渦が翼負圧面13dに沿って流れていく。この渦によって翼負圧面13d上の流れが誘引され、翼負圧面13dに抑えこまれる。このため、剥離渦が拡散される。さらに溝部14によって形成される斜めの段差により、剥離渦の周期性が拡散される。このため、回転音が低減される。
また、図19に示すように、翼8cが吹出領域C2を通過する際には、気流E0が矢印方向から流れる。この時、翼弦中央部13eから溝内端部14aへの流れE3及び溝側部14bへの流れE4は、溝部14が上流の翼弦中央部13eより凹形状となっており負圧となり誘引されることで剥離が抑制される。この時の切欠部15の作用は吸込領域と同様、切欠部15に生じる微小な変動流や渦により、剥離が緩和され回転音や広帯域騒音がさらに低減される。
さらに、翼外周側先端部13aに溝部14がなくて切欠部15のみが形成された場合には、切欠部15で漏れ流れが生じることで損失が大きくなっていた。これに対し本実施の形態では溝部14を設けているので、切欠部15における翼圧力面13cから翼負圧面13dへの漏れ流れが溝部14を通過する流れで抑制される。このため、漏れ流れによって生じていた損失が低減でき、消費電力の低減が可能である。特にフィルタ5にホコリが付着し通風抵抗が増加した時の消費電力の低減効果が大きい。
このように、溝部14と切欠部15とを組み合わせることで、切欠部15のみの構成の場合に問題であった翼面積減少に伴う空気出力の低下を防止でき、両者の騒音低減効果を相乗して発揮できる。
さらに、本実施の形態では、切欠部角部15a及び切欠部側部15bは、角部を丸くして円弧形状で形成している。例えば羽根車8aにホコリが付着し、雑巾等で羽根車8aの翼外周側先端部3aを直接拭く時など、回転軸方向へ拭いても雑巾が切れたり、指をケガを防止でき、安全な貫流ファンが得られる。
このように、通風抵抗が増加しても回転音が抑制され、広帯域騒音が低減されることで低騒音で、聴感も良く、省エネで、清掃時も安全を確保した品質のよい貫流ファンが得られる。
なお、本実施の形態では、溝部14及び切欠部15を翼外周側先端部13aに設けた構成例について説明したが、翼内周側先端部13bに設けてもよい。また、翼外周側先端部13aと翼内周側先端部13bの両方に設けると、さらに大きな騒音低減効果が得られる。
また、切欠部15を全ての溝部14の内側に設けているが、これに限るものではなく、切欠部15を設けていない部分があってもよく、ある程度の効果を奏する。ただし、羽根車8aの回転軸方向の中央を通る線に対して、線対称になるように配置すれば、気流が安定した貫流ファンが得られる。
また、ここでは図16の構成の溝部14にさらに切欠部15を設けているが、実施の形態1における図4、図5、図6に示した構成の段差11を有する構成に、さらに切欠部15を設けてもよい。また、実施の形態2における図9に示した溝部14を有する構成に、さらに切欠部15を設けてもよい。段差11又は溝部14と、切欠部15を設けることで、さらに騒音を低減できる効果を奏する。
以上のように、本実施の形態によれば、翼8cの翼内周側端部と翼外周側端部の少なくとも一方の端部に設けられ、端部の先端13a、13bから翼8cの内側に向かって切り欠いた切欠部15を回転軸方向AXに複数有することにより、回転音及び広帯域騒音を低減でき、静粛な貫流ファンが得られる。
また、切欠部15の先端15aの角部を丸くしたことにより、掃除がしやすくなることで清潔に保つことができ、安全な貫流ファンが得られる。
実施の形態4.
以下、本発明の実施の形態4に係る貫流ファンについて、図に基づいて説明する。図20は本実施の形態に係る羽根車8aの1枚の翼8cを示す斜視図である。また、図21はこの羽根車8aを空気調和機に搭載した場合で、翼8cが吸込領域C1に位置する際の翼負圧面13dの一部を拡大して示す説明図であり、図22は空気調和機における吹出領域C2に位置する際の翼負圧面13dの一部を拡大して示す説明図である。また、図23は図21のQ−Q線における断面図、図24は図21のR−R線における断面図を示す。なお、本実施の形態における主な構成については、実施の形態1又は実施の形態2と同様であり、同一符号は同一、又は相当部分を示し、ここでは説明を省略する。
図20及び図21に示すように、羽根車8aの回転方向ROに対して後面となる翼負圧面13dにおいて、翼外周側端部に、翼負圧面13dから翼弦中央部13eの方向へ突出する突起部16を有する。図21に拡大して示すように所定間隔G1で回転軸方向AXに複数、例えばリング8b間に3個の突起部16を有する。1つの突起部16の翼負圧面13dに接する底面は、回転軸方向AXに短く回転方向ROに長い多角形であり、回転方向ROに対して前方の翼外周側傾斜面16a及び後方の翼内周側傾斜面16b、回転方向ROに沿った2つの側面16c、突出した上面16dを有する。
翼外周側傾斜面16aは翼外周側端部側から翼内周側端部側へ向かって高さが増加する傾斜面であり、翼内周側傾斜面16bは翼内周側端部側から翼外周端部側へ向かって高さが増加する翼内周側傾斜面である。また、図23に示す回転軸に垂直な翼断面において、突起部16は回転中心Oを中心とし翼外周側先端部13aを通る翼外周円Dよりも外側に突出しないように、翼外周円Dよりも内側で、翼負圧面13dから突出する形状とする。また、翼外周側先端部13aの円弧中心13acと翼内周側先端部13bの円弧中心13bcを結ぶ翼弦線Lに平行で、翼負圧面13dに接する直線Lsから突出しないように、直線Lsよりも翼負圧面13d側に収まるように形成する。
また、図24に示すように、回転方向ROに沿った突起部16の2つの側面16cは、翼負圧面13dから離れるにつれて、突起部16の内側に傾いた先細り形状となる傾斜面で形成され、両傾斜面で成す角を傾斜角θ2とする。さらに、突起部16の角部16eは丸く構成している。
このように形成された貫流ファン8において、図21に示すように、翼8cが吸込領域C1に位置する際、気流E0は翼外周側端部13aから翼内周側端部13bに向かい、回転方向ROと逆の方向になる。このため、気流E0は翼外周側端部13aから翼負圧面13dに流れ、突起部16の翼外周側傾斜面16aに流れる。翼外周側傾斜面16aは翼外周側先端部13a側から翼弦中央部13e側へ向け徐々に翼負圧面13dからの高さが増加する傾斜面である。このため、気流は翼外周側傾斜面16aに乗りあがりながら下流側に流れようとし、図21や図24に示すように、側面16cへ沿う縦渦E5が生成され、側面16cに沿って下流へ流れていく。このとき周囲空気が縦渦E5に誘引され、気流が翼負圧面13dから剥離しようとするのを抑制する。この気流の剥離が抑制されることで、貫流ファンの回転音を低減できる。
ここで、縦渦とは翼負圧面13dに垂直な面を形成するような渦を称し、横渦とは翼負圧面13dに平行な面を形成するような渦を称する。もし翼外周側傾斜面16aが翼負圧面13dに直立するように構成されていると、気流が翼外周側傾斜面16aにぶつかって横方向に流れようとするので横渦が生成される。ところが、横渦ができると翼内周側傾斜面16bの付近で後流渦が生じ、気流に悪影響を及ぼす。突起部16によって縦渦E5が発生することで、気流が翼負圧面13dから剥離しようとするのを抑制できる。
一方、図22に示すように、翼8cが吹出領域C2に位置する際、気流E0は翼内周側先端部13bから翼外周側先端部13aに向かい、回転方向ROと同方向になる。この時、気流E0は翼内周側先端部13bから翼負圧面13dに流れ、翼弦中央部13eを越えたあたりから境界層が発達し始める。突起部16は翼弦中央部13eの下流側に位置し、突起部16の翼内周側傾斜面16bは、翼弦中央部13e側から翼外周側先端部13a側へ向かって、徐々に翼負圧面13dからの高さが増加する傾斜面である。このため、翼弦中央部13eを越えて流れてきた境界層の発達しだす流れは、翼内周側傾斜面16bに乗りあがりながら下流側流れようとし、側面16cに沿う縦渦E6が生成され、側面16cに沿って下流へ流れていく。この縦渦E6によって周囲に発生している剥離渦を拡散して剥離を抑制し、広帯域騒音を低減できる。
また、図23に基づいて説明したように、回転軸に垂直な断面において、突起部16は、回転中心Oを中心とし、翼外周側先端部13aに接する翼外周円Dより突出することなく、翼外周円Dの内側に収まるような形状とした。このため、突起部16が羽根車8aの回転による軌跡から外側に突出しないので、突起部16が羽根車8aの外部の流れを乱すのを防止できる。ここで、翼外周側傾斜面16aが、翼外周円Dの円周とほぼ一致するように形成すれば、吸込領域C1において流れ込む気流に対し、スムーズに縦渦E5を発生することができる。
さらに、突起部16の回転方向ROの長さは、回転軸方向AXの長さよりも長い形状である。このため、羽根車吸込領域C1及び吹出領域C2共に、翼負圧面13dでの流れが、隣り合う突起部16によって回転方向ROに流れるように強制される。即ち突起部16によって流れが整流されて安定する。
また、本実施の形態ではリング8b間の羽根車回転軸方向で、中央位置に1つの突起部16を配置すると共に、この中央に線対称になるように2つの突起部16を配置した。このように羽根車単体8dで、突起部16を線対称に配置すると、流れの対称性が図れるので、流れが安定する。その結果、貫流ファン8で流れが安定し、フィルタ5に通風抵抗が付加されても安定して送風できる。
また、側面16cは突起部16の内側に傾斜する先細り形状の傾斜面とし、両側面16c間の傾斜角度θ2を例えば10°≦θ2≦90°とした。即ち、1つの側面16cで、翼負圧面13dに垂直な面からの角度はθ2/2であり、5°〜45°程度とした。この角度をあまり小さくすると側面16cが垂直に近い立ち上がりとなって、翼外周側傾斜面16aや翼内周側傾斜面16bで生成した縦渦E5、E6を滑らかに下流へ流すことができなくなる。また、この角度をあまり大きくすると突起部16の高さが低くなって、翼外周側傾斜面16aや翼内周側傾斜面16bで縦渦E5、E6を十分に生成することができず、剥離を十分に抑制できなくなる。
また、突起部16の角部16eを丸く曲面で形成したので、気流が滑らかに流れると共に、清潔に保つことができ清掃時の安全性も確保できる。例えば翼8cを雑巾等の布で羽根車回転軸方向AXに拭く時、側面16cから丸みを帯びた上面16dと通過して側面16cへ滑らかに布を滑らせることができ、翼負圧面13dの付け根付近も掃除できる。さらに、角部16eが尖っていないので、引っ掛かってケガをしたりする心配がなく、安全である。
なお、突起部16の形状は、この実施の形態に限るものではない。例えば、上面16dは平らでなく略球面の一部のように丸い形状でもよい。また、翼外周側傾斜面16a、翼内周側傾斜面16b、2つの側面16cもそれぞれ平面に限るものではなく、丸みを帯びた傾斜面でもよく、また多少角部を有する傾斜面で構成されていてもよい。例えば、底面形状が回転方向ROに長い楕円である円錐形状や、回転方向ROに沿った2つの側面16cが半円形状で翼外周側傾斜面16aと翼内周側傾斜面16bとで側面16cを接続する面を構成するような、円柱を縦に切断した形状などでもよい。
また、図23の翼断面図で、突起部16は、直線Lsよりも翼負圧面13d側で翼外周円Dよりも翼負圧面13d側に収まるように構成すればよく、回転方向ROの長さがもっと長くてもよい。また、回転軸方向AXの長さがもっと短くてもよい。ただし、側面16cと翼負圧面13dに垂直な面との角度がある程度、例えば5°以上の角度で構成すれば、縦渦E5、E6を発生させることができ、上記と同様の効果を奏する。また、突起部16の数は本実施の形態に限定されるものではなく、回転軸方向AXに2個または4個以上であってもよい。
また、突起部16は、翼8cを射出成形するときに一体として製造してもよいし、別に成形した突起部16を翼8cに固着して製造してもよい。
以上のように、本実施の形態によれば、所定の間隔をあけて配置される少なくとも2つの円板状の支持板8bと、支持板8bの中心を通り回転軸となるシャフト12aと、両端が支持板8bの外周部に固定され回転軸方向AXに伸び、回転軸に垂直な断面で翼外周側端部と翼内周側端部との間で円弧状である複数の翼8cと、翼8cの回転方向ROに対して後面となる翼負圧面13dの翼外周側端部に回転軸方向AXに複数設けた翼負圧面13dから突出する突起部16と、を備え、突起部16は、翼外周側端部側から翼内周側端部側へ向かって高さが増加する翼外周側傾斜面16aと、翼内周側端部側から翼外周端部側へ向かって高さが増加する翼内周側傾斜面16bを有すると共に、回転軸に垂直な断面で回転中心Oを中心として翼外周側端部の先端13aを通る翼外周円Dの内側に設けられ、さらに断面で翼外周側端部の先端13aと翼内周側端部の先端13bを結ぶ翼弦線Lと平行で翼負圧面13dに接する直線Lsよりも翼負圧面13d側に設けたことにより、回転音及び広帯域騒音を低減できる貫流ファンが得られる。
さらに、突起部16によって気流の流れを整流することもでき、フィルタの目詰まりなどによって通風抵抗が大きくなっても送風効率の低減を抑制できる。
また、突起部16の回転方向ROに沿った側面16cは、翼負圧面13dから離れるにつれて突起部16の内側に傾く傾斜面で構成されたことにより、縦渦を発生させることができ、回転音及び広帯域騒音を低減できる貫流ファンが得られる。
また、突起部16の角部16eを丸く構成したことにより、突起部16の凹凸面の角部は滑りやすくなるのでホコリが引っかかりにくくなり、貫流ファンを清潔に保つことができる。また、安全に掃除がしやすく衛生面が保てる貫流ファンを得ることができる。
実施の形態5.
以下、本発明の実施の形態5に係る貫流ファンについて、図に基づいて説明する。図25は本実施の形態に係る羽根車8aの1枚の翼8cを拡大して示す斜視図である。また、図26はこの羽根車8aを空気調和機に搭載した場合で、翼8cが吸込領域C1に位置する際の翼負圧面13dの一部を拡大して示す説明図であり、図27は翼8cが吹出領域C2に位置する際の翼負圧面13dの一部を拡大して示す説明図である。また、図28は図26のT−T線における断面図、図29は図26のS−S線における断面図を示す。なお、本実施の形態における主な構成については、実施の形態1〜実施の形態4と同様であり、同一符号は同一、又は相当部分を示し、ここでは説明を省略する。
図に示すように、羽根車の回転方向ROに対して後面となる翼負圧面13dにおいて、翼8cの翼外周側端部に、翼負圧面13dから突出し、回転方向ROの長さが回転軸方向AXの長さよりも長い底面形状を有する突起部16を設けた。1つの羽根車単体8dで回転軸方向AXに複数、例えば3個の突起部16を所定間隔G1で配置する。この突起部16の構成は実施の形態4と同様である。
さらに、突起部16の近傍には溝部14を有する。この溝部14は、実施の形態2における溝部14と同様の構成であるが、翼外周側先端部13a側に突起部16が形成されているので、実施の形態2の構成よりも翼弦中央部13eの方にずれた位置に設けている。翼負圧面13dに設けた溝部14は、突起部16と所定の間隔をあけて配置され、突起部16の少なくとも翼内周側傾斜面16bの一部を囲むように略U字状に設ける。そして、突起部16を設けた側を凹部とする。
以下、略U字状の溝部14について詳しく説明する。溝部14は、溝内端部14aと溝側部14bを有する略U字状である。溝側部14bは回転軸方向AXに対して角度を有し、翼外周側端部の先端13a側に伸びる段差を形成しており、2つの対向する溝側部14bは、翼内周側先端部13b側から翼外周側先端部13a側へ向かって回転軸方向AXの距離である幅A1が徐々に大きくなる構成である。溝側部14bの傾きは、図に示すように、羽根車回転軸に直交する平面に対して所定角度θ3である。この角度θ3は、実施の形態2における角度θ1と同程度、または突起部16を設けているので角度θ1よりも若干広く形成する。
また、溝内端部14aは、突起部16の翼内周側傾斜面16bに対向し、回転軸方向AXに伸びる段差である。溝内端部14aの段差の両端に溝側部14bが接続される。また、隣り合う突起部16の間には、回転軸方向AXに伸びる溝部接続段差14dを形成し、隣り合う溝部14は溝部接続段差14dで接続されている。翼部接続段差14dは、突起部16の翼内周側傾斜面16bが翼負圧面13dに交わる位置よりも翼外周側先端部13a側に位置する。即ち、翼内周側傾斜面16bの翼負圧面13d上の立ち上がり部分は、溝内端部14aと溝側部14bで囲まれている。本実施の形態では、すべての突起部16の少なくとも翼内周側傾斜面16bの一部が溝部14で囲まれており、溝部14の幅A1方向の中心線上に突起部16を配置する。
また、図28に示すように、突起部16の回転方向ROに沿った2つの側面16cは、翼負圧面13dから離れるにつれて突起部16の内側に傾く先細り形状の傾斜面であり、その傾斜角をθ2とし、かつ突起部16の角部16eは丸い曲面で形成されている。
このように形成された貫流ファン8の羽根車8aにおいて、図26に示すように、翼8cが吸込領域C1に位置する場合、気流E0は翼外周側先端部13aから翼内周側先端部13bに流れ、回転方向ROと逆の方向になる。このため、実施の形態4で述べたように、突起部16の側面16cに沿って縦渦E5が生成されて側面16cに沿って下流へ流れていく。このとき周囲空気が縦渦E5に誘引され、気流が翼負圧面13dから剥離しようとするのを抑制するので、回転音を低減できる。
さらに、突起部16の翼内周側傾斜面16bの近傍には溝側部14bが形成されている。実施の形態2と同様、溝側部14bの段差で渦流れE2が生成され周囲空気が誘引されることで、剥離が抑制される。また、向かい合う溝側部14bの段差は翼弦中央部13e側へ向かうにつれて溝幅A1が小さく狭まり、翼内周側傾斜面16bを囲むような形状である。これによって、翼内周側傾斜面16bの後流渦の発生を抑制して乱れ流れをさらに抑制し、側面16cに沿って発生する縦渦E5を有効に作用させることができる。即ち、縦渦E5による周囲空気の誘引効果がさらに得られ、広帯域騒音を大幅に低減できる。
一方、図27に示すように、翼8cが吹出領域C2に位置する際、気流は翼内周側先端部13bから翼外周側先端部13aに流れ、回転方向ROと同方向となる。この時、突起部16の翼内周側傾斜面16bは翼弦中央部13eの下流側に位置し、翼弦中央部13e側から翼外周側先端部13a側へ向かって、徐々に翼負圧面13dからの突起部16の高さが増加する傾斜面である。このため、翼弦中央部13eから流れてきた境界層の発達しだす流れは、翼内周側傾斜面16bに乗りあがりながら下流側に流れようとし、側面16cに沿う縦渦E6が生成されて側面16cに沿って下流へ流れていく。この縦渦E6によって周囲に発生している剥離渦を拡散して剥離を抑制することで、広帯域騒音を低減できる。
さらに、突起部16の翼内周側傾斜面16bの近傍には角度θ3で向かい合う溝側部14bが形成されている。このため、翼弦中央部13eから溝内端部14aへの流れE3及び溝側部14bへの流れE4は、溝部14が上流の翼弦中央部13eより凹形状となることで負圧となり誘引されることで剥離が抑制される。さらに、突起部16の翼外周側傾斜面16aの後流渦を抑制して乱れ流れをさらに抑制し、側面16cに沿って流れる縦渦E6を有効に作用させることができる。即ち、縦渦E6によって剥離を拡散する効果がさらに得られるため、さらに広帯域騒音を低減できる。
また、図28に示すように突起部16の側面16cが構成されており、側面16cが翼負圧面13dに対して垂直ではないので、翼8cを雑巾等の布で回転軸方向AXに拭く時、側面16cの翼負圧面13dと交わる付け根付近も掃除できるので、清潔に保つことができる。さらに、角部16eを丸い形状としたので、布が角部16eにひっかかることもなく、また指を怪我することもなく安全である。
以下、突起部16の2つの向かい合う側面16cのなす角θ2について説明する。図28に示した突起部16の側面16cのなす角度θ2と騒音値の関係を図30に示す。これは、空気調和機において図26のように翼外周側先端部13aに突起部16及び溝部14を設け、側面16cのなす角度θ2を変化させて、吹出口3近傍の室内で騒音値を計測したものである。図30において、横軸は側面16cのなす角度θ2(°)であり、縦軸は騒音低減値{dB(A)}を示す。θ1=0°とは突起部16を設けていない構成であり、これを基準の騒音値とし、この騒音値からの低減値をグラフ化している。
側面角度θ2が20°程度のときに最も騒音低減値が大きくなり、側面角度θ2が10°より小さい構成及び30°よりも大きい構成の時にはそれほど騒音が低減されていない。側面角度θ2が10°より小さいと、側面16cが翼負圧面13dから垂直に近い角度で立ち上がることになる。この構成では、縦渦E5、E6がうまく生成されず、突起部16の高さ方向に回転軸をもつ横渦が強くなる。このため、突起部16の後流が大きく発生することで騒音悪化してしまう。即ち、角度θ2が10°以上であると、縦渦E5、E6がうまく生成され、縦渦E5、E6によって気流が剥離するのを防止でき、騒音を小さくすることができる。また、上記で記載したが、側面角度θ2を10°以上として、側面16cの翼負圧面13dからの立ち上がりをなだらかにすれば、掃除がしやすく、立ち上がり部を清潔に保つことができる。
一方、側面角度θ2が10°よりも大きくなるにつれて、側面16cが翼負圧面13dから立ち上がる角度がゆるやかになる。この場合には、側面16cに流れる気流は溝側部14bにおける渦流れE2と同様となる。即ち、突起部16によって縦渦E5、E6がうまく生成されないので、低騒音効果が小さい。このため、側面角度θ2を30°以下とすると、側面16cに縦渦E5、E6がうまく生成され、縦渦E5、E6によって気流が剥離するのを防止でき、騒音を低減できる。
以上のことから、図28に示した構成では、図30に示されるように、10°≦側面角度θ2で構成するのが好ましく、広帯域騒音を低減でき、静粛な貫流ファンが得られる。さらには側面角度θ2≦30°で構成するのが好ましく、広帯域騒音を低減でき、静粛な貫流ファンが得られる。
本実施の形態では、突起部16及び溝部14を形成するで両効果がさらに拡大し、貫流ファンから発生する回転音および広帯域騒音をさら低減でき、掃除しやすく、聴感の良く静粛で、衛生面が保てる貫流ファンを得ることができる。
なお、上記の構成では、突起部16を囲む溝部14を略U字形状としたが、突起部16と所定の間隔をあけて、突起部16の少なくとも翼内周側傾斜面16bの一部を囲むように構成されていればよい。例えば略V字形状や略コの字形状や円弧形状などの形状で溝部14を構成しても、上記と同様の効果を奏する。
また、図25で示した構成では、すべての突起部16が溝部14に囲まれた構成であるが、これに限るものではない。すべての突起部16が溝部14に囲まれていなくてもよく、例えば3つの突起部16を設けた場合、両端の2つの突起部16は溝部14で囲まれるような溝部の形状でもよい。また、逆に、すべての溝部14の溝内端部14aの翼外周先端部13a側に突起部16が形成されていなくてもよい。
図25では、隣り合う突起部16の間における溝部接続段差14dを回転軸方向AXに平行な段差で構成したが、これに限るものではない。溝部接続段差14dの部分を、溝部14の溝側部14b及び溝内端部14aと同様の形状とした構成例を図31に示す。即ち、翼負圧面13dにおいて、溝内端部14aと、溝内端部14aの両端に接続され向かい合う溝側部14bとで構成される溝部14と同様、溝内端部17aと、溝内端部17aの両端に接続され向かい合う溝側部17bとで構成される溝部17を溝部14の隣に配置する。
この構成では、図26及び図27で示したものと同様の効果が得られることに加え、溝側部17bによる効果が得られる。即ち、羽根車8aの吸込領域C1では図10における溝側部14bと同様の構成となって、渦流れE2が生成され翼負圧面13dでの剥離を防止できる。一方、吹出領域C2でも図12における溝側部14bと同様、負圧生成によって剥離を抑制ができ、図25の構成と比較して、さらに騒音低減が可能である。
また、溝部接続段差14dを回転軸方向AXに平行に構成する代わりに、溝部接続段差14dの少なくとも一部で回転軸方向AXに対して傾斜した段部を有する構成でもよい。この場合には実施の形態1で示したように、斜めの段差となる溝部接続段差14dによって、吸込領域C1では剥離渦の発生位相を変化させることができ、吹出領域C2では流れの離脱する位相を変化させることができるので、騒音を低減できる。
また、本実施の形態では翼外周側端部に溝部14と突起部16とを設けた構成について記載したが、さらに実施の形態4で示した切欠部15を設けてもよい。翼外周側先端部13aと翼内周側先端部13bの少なくとも一方の翼先端部に切欠部15を設けると、溝部14や突起部16の騒音低減効果に加え、さらに翼先端部付近の翼負圧面13d上の乱れを低減でき、低騒音化できる。ここで、突起部16の場合には翼外周側端部に設けるのが効果的であり、溝部14及び切欠部15の場合には翼外周側端部及び翼内周側端部のどちらか一方または両方に設けても騒音低減効果を期待できる。
以上のように、本実施の形態によれば、翼負圧面13dに突起部16と所定の間隔をあけて配置され、突起部16の少なくとも翼内周側傾斜面16bの一部を囲むように略U字状に設けられ、突起部16側を凹部とする溝部14を有することにより、突起部16で発生した縦渦を有効に作用させて、広帯域騒音を低減できる貫流ファンが得られる。
また、溝部14は、突起部16の翼内周側傾斜面16bに対向し回転軸方向AXに伸びる溝内端部14aの段差と、溝内端部14aの段差の両端に接続しそれぞれ回転軸方向AXに対して角度を有して翼外周側端部の先端13a側に伸びる溝側部14bの段差を有することにより、溝内端部14aと溝側部14bによって、突起部16で発生した縦渦を有効に作用させて、広帯域騒音を低減できる貫流ファンが得られる。
また、回転軸方向AXで翼負圧面13dに垂直な突起部16の断面で、向かい合う側面16cのなす角度をθ2とし、10≦θ2≦30°となるように構成したことにより、側面16cで縦渦を強く生成でき、突起部16の後流が大きく発生するのを抑制でき、低騒音な貫流ファンが得られる。
実施の形態1〜実施の形態3及び実施の形態5において、翼8cの翼負圧面13dに段差11や溝部14を形成しているため、回転軸に垂直な断面における翼8cの肉厚を見ると、段差11や溝部14が設けられていない部分の肉厚よりも小さくなる。ここで、翼8cの全体の肉厚は図11に示すように翼外周側先端部13aの肉厚が最も小さく、翼弦中央部13e側に向かって肉厚が厚くなるように構成する。そこで、翼外周側先端部13aの肉厚が最も小さくなるように、翼負圧面13dに段差11や溝部14を形成するのが好ましい。即ち、翼外周側先端部13aよりも肉厚の厚くなった部分に、段差11や溝部14を形成し、その凹部側の肉厚が翼外周側先端部13aの肉厚以上になるようにすればよい。このように構成することで、成形時の樹脂の湯周りを阻害することなく、低騒音な貫流ファンが得られる。
実施の形態1〜実施の形態5のいずれの実施の形態においても、通常、例えば空気調和機に搭載される貫流ファン8の羽根車8aの翼8cや支持板であるリング8bは、ガラス繊維を含有する熱可塑性樹脂で射出成形される。即ち成形型にガラス繊維を含有する熱可塑性樹脂を注入して固めた後に成形型から取り出す。この成形時に注入する樹脂と成形型との接触面において、成形物である翼8cやリング8bの表面に微小な凹部ができてしまう。室内空気に含まれるホコリや塵は吸入口2から吸い込まれてフィルタ5に引っ掛かって除去される。ところが、フィルタ5を通過してしまったホコリや塵は、熱交換器7で空気調和されて貫流ファン8に入り、翼8cやリング8bの表面に流れていく。この時、翼8cやリング8bの表面に微小な凹部があると、凹部にホコリや塵が付着して、カビの発生や悪臭の原因となる。そこで、羽根車8aやリング8bの表面を例えばシリコンやフッ素素材などのホコリ付着防止材による保護膜で覆う。このホコリ付着防止材による保護膜は、例えば表面の微小な凹部を覆うことで、翼8cやリング8bの表面にできている微小な凹部を円滑にし、表面を均一化してホコリが付着しにくい表面とする。ホコリ付着防止材による保護膜は、ホコリ付着防止材を、例えば塗布や散布すればよい。
この保護層は翼8cとリング8b共に、その全体を覆うように形成されていてのよいし、どちらか一方に保護層を設ける構成でもよいし、その一部のホコリが付きやすい部分のみを保護層で覆うように構成してよい。
ただし、ホコリが付着しやすい翼8c表面の段差、切欠部、突起部などの凹凸面の角部は滑りやすくなるので、ホコリが引っかかるのを防止できる効果は大きい。即ち、羽根車8aの翼8cやリング8b表面にできている微小な凹部をなくし円滑にし、フィルタ5で取り切れない微小なホコリの付着やニオイの吸着やカビの発生やニオイ放出を抑制できる。特にホコリが付着しやすい翼8c表面の段差11や切欠部15、突起部16などの凹凸面の角部は滑りやすくなるのでホコリが引っかからず効果が大きい。その結果、羽根車8aの内部側である翼内周側先端部13bや翼圧力面13d側も清潔に保て、衛生的な貫流ファンを得ることができる。
このように、所定の間隔をあけて配置される少なくとも2つの円板状の支持板8bと、両端が支持板8bの外周部に固定され回転軸方向AXに伸びる複数の翼8cと、を有する羽根車単体8dを回転軸方向AXに複数有する貫流ファン8であって、支持板8bと翼8cは、ガラス繊維を含有する熱可塑性樹脂材と、熱可塑性樹脂材を覆うホコリ付着防止材で構成したことにより、羽根車8の内部側を綺麗に保つことができ、衛生的な貫流ファンを得ることができる。さらにこの貫流ファンを搭載して、衛生的な空気調和機を得ることができる。
なお、実施の形態3及び実施の形態4ではすでに述べたが、他の実施の形態における突起部16を有する場合の他に、他の実施の形態で示した溝部14、溝部14と切欠部15を有する場合も、リング間8b間の羽根車軸方向で中点位置に対称に形成されれば、同様の効果が得られる。即ち、羽根車単体8dにおける流れの対称性が図れ流れが安定する。その結果、貫流ファン8で流れが安定し、フィルタ5に通風抵抗が付加されても安定して送風できる。
このように、翼8cの回転軸方向AXにおける中央部を通り回転軸方向AXに垂直な中心線に対して略線対称となるように、翼8cの段差11や溝部14や切欠部15や突起部16を構成したことで、羽根車単体8dにおける流れの対称性が図れ流れが安定する。その結果、貫流ファン8全体で流れが安定し、フィルタに通風抵抗が付加されても安定し送風できる。よって、安定した送風可能な貫流ファンが得られる。
また、実施の形態3で述べた切欠部15を実施の形態4及び実施の形態5に示した構成の翼8cに設けてもよい。翼8cの翼内周側端部と翼外周側端部の少なくとも一方の端部に設けられ、前記端部の先端13a、13bから翼8cの内側に向かって切り欠いた切欠部15を回転軸方向AXに複数設けることで、それぞれの構成における効果に加え、回転音をさらに低減できる。この切欠部15の形状はV字状の略三角形に限るものではなく、U字状やコの字状でもよい。
また、切欠部15の先端の切欠部角部15aを丸くすれば、掃除がしやすく安全な貫流ファンが得られる。即ち、羽根車8aにホコリが付着し、雑巾等で羽根車の翼外周側先端部を直接拭く時、回転軸方向AXへ拭いても雑巾が切れるなど指がケガをするようなことがなく、安全を確保した品質のよい貫流ファンが得られる。
実施の形態1〜実施の形態5で示したいずれかの貫流ファン8と、貫流ファン8で形成される吸込側流路C1に配設され、吸い込んだ空気と熱交換する熱交換器7と、を備えたことにより、騒音を低減できる空気調和機を得ることができる。即ち、貫流ファン8の羽根車8aの翼端部の翼負圧面13d側に、突起部16や溝部14や段差11を形成することで、聴感が良く静粛な空気調和機を得ることができる。さらに、翼先端部に切欠部15を設けることで、聴感が良く静粛な空気調和機を得ることができる。また、ガラス繊維を含有した熱可塑性樹脂を覆うホコリ付着防止材を備えた貫流ファン8を用いて、ホコリが付着しにくく衛生的な空気調和機を得ることができる。
また、実施の形態1〜実施の形態5では、貫流ファン8を例えば空気調和機に搭載した構成例について説明したが、これに限るものではない。例えば、エアーカーテンなど他の装置に搭載される貫流ファンに適用することもできる。騒音を低減化できる貫流ファンを用いることで、これを搭載した装置の騒音を低減できる効果がある。
なお、本明細書は、以下のものをも含むものである。
態様1として、所定の間隔をあけて配置される少なくとも2つの円板状の支持板と、前記支持板の中心を通り回転軸となるシャフトと、両端が前記支持板の外周部に固定され前記回転軸方向に伸び、前記回転軸に垂直な断面で翼外周側端部と翼内周側端部との間で円弧状である複数の翼と、前記翼の回転方向に対して後面となる翼負圧面の前記翼外周側端部及び前記翼内周側端部の少なくとも一方の端部に設けられ、前記端部の先端側を底辺とする略三角形状または前記端部の先端側を下底とする略台形形状の凹部で構成して凹側が向かい合う段差を有する複数の溝部と、を備えたことを特徴とする貫流ファン。
態様2として、前記向かい合う段差が成す角度θ1を10°以上とし、前記向かい合う段差の段差間距離を前記端部の先端側で広くしたことを特徴とする態様1に記載の貫流ファン。
態様3として、前記向かい合う段差が成す角度θ1を45°以下としたことを特徴とする態様1または態様2に記載の貫流ファン。
態様4として、前記翼の回転軸に垂直な断面で、前記翼外周側端部の先端と前記翼内周側端部の先端を結ぶ直線を翼弦線とし、前記溝部の内部で前記溝部の周囲との段差が最も大きくなる部分を溝部最深部A2とし、前記溝部最深部A2を通り前記翼弦線に垂直な直線との交点を翼弦線溝部最深点A2Lとし、前記溝部が形成される前記端部の円弧状の先端の円弧中心から前記翼弦線溝部最深点A2Lまでの距離を溝最深部翼弦距離F1とし、前記翼弦線の長さを翼弦長L1とし、前記最深部翼弦距離F1と前記翼弦長L1の比を0.1≦F1/L1≦0.3となるように構成したことを特徴とする態様1に記載の貫流ファン。
態様5として、前記回転軸方向の前記翼の長さを翼長Bとし、複数の前記溝部を前記回転軸方向に略等間隔で配置し、隣り合う溝部の中線間の距離を溝間隔F2とし、前記溝間隔F2と前記翼長Bの比を0.1≦F2/B≦0.3となるように構成したことを特徴とする態様1または態様4に記載の貫流ファン。
態様6として、前記翼の前記翼内周側端部と前記翼外周側端部の少なくとも一方の端部に設けられ、前記端部の先端から前記翼の内側に向かって切り欠いた切欠部を前記回転軸方向に複数有することを特徴とする態様1乃至態様5のいずれか1態様に記載の貫流ファン。
態様7として、前記切欠部の前記先端の角部を丸くしたことを特徴とする態様6に記載の貫流ファン。
態様8として、前記翼の前記回転軸方向における中央部を通り前記回転軸方向に垂直な中心線に対して略線対称となるように、前記翼を構成したことを特徴とする態様1乃至態様7のいずれか1態様に記載の貫流ファン。
態様9として、前記支持板と前記翼は、ガラス繊維を含有する熱可塑性樹脂材と、前記熱可塑性樹脂材を覆うホコリ付着防止材で構成したことを特徴とする態様1乃至態様7のいずれか1態様に記載の貫流ファン。
態様10として、態様1乃至態様9の少なくともいずれか1態様に記載の貫流ファンと、前記貫流ファンで形成される吸込側流路に配設され、吸い込んだ空気と熱交換する熱交換器と、を備えたことを特徴とする空気調和機。