JP5573715B2 - 黒色メタリック色調成形樹脂組成物 - Google Patents

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本発明は、光輝材を含み且つ耐熱性と黒色度とのバランスに優れた黒色メタリック色調成形樹脂組成物に関する。
例えば、自動車業界における内外装品において、美観の改善のために着色塗装が広く行われている。また着色塗装の一種として、アルミニウム粉あるいはパール顔料等の光輝材を含むメタリック色調塗装を好むユーザも多い。中でも、銃の外観色に似ているため、「ガンメタ(リック)色」と通称される黒色メタリック色調塗装を好むユーザは多い。しかし、このような着色塗装に用いられる塗料には多く揮発性有機化合物(VOC)が含まれ、環境に対する悪影響、作業工数の増加等の問題が指摘されている。そこで、近年は、予め着色剤や光輝材を混練した着色樹脂組成物の成形体を直接内外装部品として用いることも提案されている(例えば、特許文献1)。
特開2010−106201号公報
しかしながら、本発明者らの検討によれば、樹脂着色によるメタリック色調の表現には幾つかの問題点が見出された。その一つは、メタリック色の表現には、アルミニウム粉あるいはパール顔料等の光輝材粉末が含まれるため、樹脂成形に際して光輝材粉末の配向によりウェルドラインやフローマークなどが目立ちやすくなり、外観の不具合が発生しやすいという点である。濃い「ガンメタ(リック)色」の場合には、その黒色によりウェルドライン等の外観不良が目立つほか、また別の問題が見出された。すなわち、ガンメタ(リック)着色部品の軟化・変形による外観ならびに機能上の不具合の発生という問題である。本発明者らの検討によれば、これは、黒色に着色した樹脂は、太陽光等の吸収により蓄熱しやすいことによる。従来の、金属基板上に薄い塗膜を形成する「ガンメタ(リック)色」塗装の場合には、金属基板を通じて放散された吸収熱が、部品強度の確保のためにある程度の肉厚が要求される「ガンメタ(リック)色」着色樹脂部品では、放熱が不十分となって、蓄熱が樹脂部品自体の温度上昇につながり、比較的低いガラス転移点を持つ樹脂の場合には、部品の変形にまでつながるという問題である。
従って、本発明の主要な目的は、上述した「ガンメタ(リック)色」着色部品成形の問題点を解決した黒色メタリック色調成形樹脂組成物、より具体的には耐熱性と黒色度の調和した黒色メタリック色調成形樹脂組成物を与えることにある。
耐熱変形性の向上のために、ガラス繊維あるいはタルク等の強化材を配合すること、ならびにマレイミド樹脂等の耐熱性樹脂を配合することは、本発明の目的の達成のためには好ましくない。これら無機物質あるいは屈折率の異なる樹脂の配合により基本材料樹脂の透明性が損なわれ、望まれる黒色メタリック色調の発現が妨げられるからである。
本発明者らの研究によれば、黒色着色剤の配合による黒色樹脂の蓄熱性は、黒色着色剤の種類により大きく異なることが見出された。すなわち、着色塗装用に最も広汎に用いられていた黒色着色剤であるカーボンブラックを配合した樹脂はかなり大なる蓄熱性を示すのに対して、有機黒色着色剤は顕著に低い蓄熱性付与性を示す(後記実施例参照)。従って、黒色メタリック色調成形樹脂組成物を与えるにあたって、蓄熱性の上昇に問題ない程度まで、カーボンブラックにより黒色度を増大させ(明度(L*)を低下させ)、不足する黒色度を有機着色剤の配合により付与すれば、耐熱性と黒色度の調和した黒色メタリック色調成形樹脂組成物が得られることが見出された。すなわち、有機黒色着色剤はR,GおよびBの着色剤の減法混色により得られるため一般に高価であり、またそれ自体は周知のように光照射により変・退色を起し耐候(光)性が低いが、その欠点は、カーボンブラックの持つ隠蔽力により、また補助的な量でのみ使用することにより、緩和され、耐候(光)性、耐熱性および黒色度の調和した黒色メタリック色調成形樹脂組成物が得られる。
本発明の黒色メタリック色調成形樹脂組成物は、上述の知見に基づくものであり、ガラス繊維を配合しない80℃以上のガラス転移温度を有する非晶性樹脂に、光輝材を配合し、更にカーボンブラックおよび有機黒色着色剤を併用添加することにより、明度(L*)値を60未満とした材料樹脂着色によることを特徴とする。
表2に対応して各種Al粉末配合基本樹脂にカーボンブラックのみを添加した系における蓄熱温度(℃)−明度(L*)の対応プロット。 表3に対応してAl粉末配合基本樹脂PMMA1にカーボンブラック+有機黒色顔料を添加した系における蓄熱温度(℃)−明度(L*)の対応プロット。 表4に対応してAl粉末配合基本樹脂PMMA2にカーボンブラック+有機黒色顔料を添加した系における蓄熱温度(℃)−明度(L*)の対応プロット。 表5に対応してAl粉末配合基本樹脂PMMA3にカーボンブラック+有機黒色顔料を添加した系における蓄熱温度(℃)−明度(L*)の対応プロット。 表6に対応してAl粉末配合基本樹脂PMMA4にカーボンブラック+有機黒色顔料を添加した系における蓄熱温度(℃)−明度(L*)の対応プロット。 表7に対応してAl粉末配合基本樹脂ABS5にカーボンブラック+有機黒色顔料を添加した系における蓄熱温度(℃)−明度(L*)の対応プロット。
以下、本発明を、その好ましい態様について、より具体的に説明する。以下の記載において、組成あるいは配合比を表す「%」および「部」は、特に断らない限り重量基準とする。
(非晶性樹脂)
本発明の黒色メタリック色調成形樹脂組成物を構成する樹脂は、非晶性の熱可塑性樹脂である。結晶性樹脂は、溶融成形後の結晶化により透明性を低下し、黒色メタリック色調の発現が妨げられるからである。黒色着色剤の配合による蓄熱性が増大しても、自動車部品等の変形につながるガラス転移温度(Tg)への到達が避けられるように、Tgが、80℃以上、好ましくは90℃以上のものが用いられる。成形性をも考慮して、本発明で用いるに適した非晶性樹脂の例としては、PMMA(ポリメチルメタクリレート)、ASA(アクリロニトリルースチレンーアクリレート共重合体)、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体)、MBS(メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン共重合体)、AES(アクリロニトリル−エチレン・プロピレン・ジエン−スチレン共重合体)、ブタジエン−(メタ)アクリレート共重合体、あるいはこれらの混合物等が挙げられる。
(光輝材)
上記非晶性樹脂に対して、光輝材を配合して、メタリック色調の基本樹脂組成物を形成する。光輝材としては、アルミニウム粉、マイカ粉等が用いられ、特に本発明の目的とする「ガンメタ(リック)色」を表現するためには、アルミニウム粉が好ましく用いられる。光輝性付与効果、分散性、得られる組成物の成形性の観点から、非晶性樹脂100重量部に対し、0.5〜5重量部、特に0.8〜3重量部の割合で配合することが好ましい。同様な理由により、光輝材は、顕微鏡観察による平均粒子径が5〜120μm、特に5〜20μmの粉粒体であることが好ましい。
(カーボンブラック)
カーボンブラックとしては、樹脂着色に適した顕微鏡観察による算術平均粒径が10〜100nmのものが好ましく用いられる。市販品の例としては、Columbian Carbon社製「Raven7000,3200,850,500、410」、Cabot社製「Monaech800,700、Elftex12、Sterling R(NS)」等がある。カーボンブラックは、本発明のメタリック色調成形樹脂組成物に要求される黒色度、すなわち明度(L*)が60未満、に対して、明度(L*)≧60程度まで、明度(L*)を低下させる量で用い、望まれるより低い明度(L*)を後述する有機黒色着色剤の添加で実現するように組成設計することが好ましい。これにより、太陽光等の照射による蓄熱熱効果により成形部品が非晶性樹脂のTgに到達するのを防止しつつ、所望の黒色メタリック色調を容易に実現することが可能になる。このカーボンブラック量は、添加される光輝材の量および粒径により異なる(具体的には、光輝材の量が多くなるに従い、また粒径が小さくなるに従い、同一明度(L*)を得るためにより多量のカーボンブラックが必要となる傾向がある)が、一般に、非晶性樹脂100重量部に対して、0.005〜2重量部、好ましくは0.01〜0.5重量部程度である。
(有機黒色着色剤)
有機黒色着色剤は、一般にR,GおよびBの有機顔料あるいは染料の減法混色により得られるものであり、市販品の例としては、R:クラリアントジャパン社製PV Fast Red B、BASF社製パリオゲンレッド、G:大日本インキ化学社製ファストゲングリーン、B:BASF社製へリオゲンブルー、大日精化工業社製シアニンブルー等がある。有機黒色着色剤は、上述したカーボンブラックに加えて補助着色剤として所望の黒色度(明度(L*)として60未満、必要に応じて更に、55未満、50未満、45未満あるいは40未満)を与えるために添加されるものであり、光輝材添加量およびカーボンブラック添加量との兼ね合いでその添加量が決定されるが、一般に、非晶性樹脂100重量部に対して、0.01〜2重量部、好ましくは0.01〜1重量部程度である。
(その他成分)
本発明の黒色メタリック色調成形樹脂組成物は、上述した非晶性樹脂、光輝材、カーボンブラックおよび有機黒色着色剤を必須成分として含むものであるが、有機黒色着色剤の光照射下での変・退色を防止するために、非晶性樹脂100重量部当たり0.25〜1.0重量部の光安定剤(その好ましい例としては特願2010−134156号明細書に開示される低分子量型あるいは高分子量型のNH型ピペリジン環を有するヒンダードアミン化合物が挙げられる)を添加することも好ましい。その他、本発明の樹脂組成物には、ステアリン酸亜鉛等の滑剤あるいは潤滑剤、その他成形用樹脂への慣用添加物を必要に応じて添加することも可能である。
(組成物)
本発明の黒色メタリック色調成形樹脂組成物は、上記各成分を乾式混合あるいは溶融混合することにより得られ、例えば230〜270℃での射出成形、押出成形等により各種内外装品の成形に用いられる。
以下、実験例(実施例、比較例および参考例を含む)により、本発明を更に具体的に説明する。(添加物の配合量は、いずれも非晶性樹脂基準の重量%である。)
(参考例)
原料非晶性樹脂としてPMMA(ポリメチルメタクリレート;Tg(ガラス転移点):90〜95℃;(株)クラレ製「パラペットGF」)およびABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体;Tg:110℃;ダイセルポリマー(株)製「セビアン300SF」)の2種、ならびに光輝材として、平均粒子径がそれぞれ5μm、8μmおよび20μmのAl(アルミニウム)粉(いずれも東洋アルミ社製ペーストPAタイプ)3種を用い、下記表1のように配合して5種のAl粉配合基本樹脂を得た。
Figure 0005573715
別途、黒色着色剤として、カーボンブラック(Columbian Carbon社製「Raven7000」)およびRGB混色による有機黒色顔料(R:有本化学工業社製「PLAST RED8350)、G:有本化学工業社製「PLAST Green8620」、B:有本化学工業社製「PLAST Blue8580」の混合物)を用意した。
次いで、上記のようにして得た5種のAl粉配合基本樹脂について、まずそれぞれ上記カーボンブラックのみを下表2に示すように0〜2重量%の範囲の異なる量で添加して、得られた組成物について、220〜250℃の温度で溶融混練後、射出樹脂成形して、50mm×90mm×厚さ2mmの試験片をそれぞれ必要数用意して以下の蓄熱温度(℃)および明度(L*)の測定を行なった。
<蓄熱温度(℃)>
上記試験片を、その長手方向両端を約40mm離間した2個のレンガブロックに差し渡して床面から30mmの高さに支承した。次いで、この試験片の非支承部長約40mmの中央部の30mm上の位置に、その下端部(光輝部の先端部)が来るように250Wハロゲンランプ(ウシオライティング株式会社製「JT120V250WG」)を配置し、照射を開始し、照射開始後7分(照射継続中)の時点で試験片の表面温度を、Reytek社製赤外線温度計で測定して、蓄熱温度(℃)とした。
<明度(L*)>
上記試験片について分光測定器(コニカミノルタホールディングス(株)製「CM−508d」)により、明度(L*)を測定した。(JIS Z8701、JIS Z8716、JIS Z8720、JIS Z8722,JIS Z8723、JIS Z8729,JIS Z8730に準拠。)
上記で得られた各種試験片の測定結果をまとめて次表2に、測定結果に基づく蓄熱温度(℃)と明度(L*)との対応プロットを図1に示す。図1の結果を表2および1と対照すると、カーボンブラックの添加による蓄熱温度(℃)の上昇および明度(L*)の低下(黒色度の増大)の効果は、非晶性樹脂に添加したAl粉の粒径および量に左右されるが、蓄熱温度(℃)と明度(L*)との間には、Al粉配合基本樹脂の種類によらずほぼ一様な対応が見られることが注目される。
Figure 0005573715
(実施例、比較例)
次いで、上記表2および図1に示す参考例の結果をもとに、各Al粉配合基本樹脂について上記の過酷な照射条件において樹脂のTgに近接する蓄熱温度85℃に相当する明度(L*)60を与えるカーボンブラック添加量レベルにおいて、より低い明度(L*)(大なる黒色度)を有機黒色顔料により実現するという思想のもとに、上記有機黒色顔料を0〜5%の範囲で異なる量で添加して、得られた組成物について、上記と同様な試験片の作成、蓄熱温度(℃)および明度(L*)の測定を行なった。測定結果をAl粉配合基本樹脂ごとに次表3〜7および図2〜6に示す。
Figure 0005573715
Figure 0005573715
Figure 0005573715
Figure 0005573715
Figure 0005573715
上記表3〜7および図2〜6、特に図2〜6、の結果を見れば、Al粉配合基本樹脂の如何にかかわらず、カーボンブラック添加量の増大による明度(L*)の低下には蓄熱温度の顕著な増大が見られるのに対して、補助的に添加した有機黒色顔料の添加量の増大は、蓄熱温度をほとんど増大させることなく、明度(L*)を有意に低下可能であることが分る。
上記においては、60近傍の明度(L*)をカーボンブラックの添加により確保し、更なる明度(L*)の低下を有機黒色顔料の添加により実現する例について示してある。しかしながら、本発明の組成物により成形する黒色メタリック色調成形部品の使用環境あるいはユーザの好みより最終的に希望される黒色度あるいは明度(L*)レベルによっては、カーボンブラックのみにより確保する基礎明度(L*)レベルを、65〜70に緩和し、あるいは55〜45に強化することによっても、蓄熱による部品の変形を防止しつつ、更なる有機黒色顔料の添加により60未満、55未満、50未満、あるいは45未満、更には40未満の最終明度レベルを実現可能である。
上述したように、本発明によれば、多くのユーザが好む明度(L*)が60未満のいわゆるガンメタ(リック)色の成形部品を、塗装によらず、いわゆる材料樹脂着色により実現するに当たっての問題点として顕在化した、部品の蓄熱による熱変形という問題を、通常黒色着色剤としてのカーボンブラックに加えて有機黒色着色剤を併用することにより解決した、耐熱性と黒色度の調和した黒色メタリック色調成形樹脂組成物が得られる。

Claims (7)

  1. ガラス繊維を配合しない80℃以上のガラス転移温度を有する非晶性樹脂に、光輝材を配合し、更にカーボンブラックおよび有機黒色着色剤を併用添加することにより、明度(L*)値を60未満とした材料樹脂着色による黒色メタリック色調成形樹脂組成物。
  2. カーボンブラックが、有機黒色着色剤なしで、60以上の明度(L*)値を与える量で含まれ、更に有機黒色着色剤がカーボンブラックとの併用により60未満の明度(L*)を与える量で含まれる請求項1に記載の樹脂組成物。
  3. 光輝材が平均粒径5〜20μmのアルミニウム粉であり、非晶性樹脂100重量部に対して、0.5〜5重量部の割合で添加される請求項1または2に記載の樹脂組成物。
  4. 非晶性樹脂が85℃以上のガラス転移温度を有する請求項1〜3のいずれかに記載の樹脂組成物。
  5. 非晶性樹脂が、ポリメチルメタクリレートまたはアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体である請求項4に記載の樹脂組成物。
  6. 有機黒色着色剤がR,GおよびBの減法混色による有機黒色顔料である請求項1〜5のいずれかに記載の樹脂組成物。
  7. 更に非晶性樹脂100重量部に対して0.25〜1.0重量部の光安定剤を含む請求項1〜6のいずれかに記載の樹脂組成物。
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