JP5570285B2 - 無電解めっき法で用いる触媒水溶液、その触媒水溶液の調製方法及びその触媒水溶液を用いた無電解めっき法並びにその無電解めっき法を用いて形成した金属皮膜を備える金属層付被めっき物 - Google Patents

無電解めっき法で用いる触媒水溶液、その触媒水溶液の調製方法及びその触媒水溶液を用いた無電解めっき法並びにその無電解めっき法を用いて形成した金属皮膜を備える金属層付被めっき物 Download PDF

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本件発明は、無電解めっき法で用いる触媒溶液、その触媒溶液の調製方法及びその触媒溶液を用いた無電解めっき法並びにその無電解めっき法を用いて形成した金属皮膜を備える金属層付被めっき物に関する。
近年、携帯電話、携帯音楽プレーヤーやPDAなどの小型化が著しいモバイル用途の電子機器や家庭用ゲーム機器等に対する高機能化や多機能化への要求は高まる一方である。このような背景の下、これらの電子機器に用いられるプリント配線板には、さらなる軽薄短小化が求められている。この軽薄短小化に対応する手段としては、微細な銅配線を形成した多層プリント配線板を用いるのが一般化している。また、ビルドアップ工法により多層プリント配線板を製造する場合には、導体パターンを形成する方法として、フルアディティブ法を採用することができる。フルアディティブ法では、基材の表面や層間接続の径路とするビアホールの内壁表面に無電解銅めっき法により導体パターン等を形成し、必要に応じて、さらにニッケルめっきや金めっき等を施している。
絶縁体である基材の表面に無電解銅めっき法により銅層を形成する際には、まず、基材の表面に、無電解銅めっき液からの銅の析出を促進するための触媒を付与する。この触媒付与の手法としては、スズ−パラジウムコロイド等の水溶性懸濁液を用いる方法、パラジウムイオン−アミン系錯化剤等を用いる方法が知られている。しかし、これらの手法を用いると、配線の間に触媒として用いた金属パラジウム等が残留する場合がある。その結果、無電解銅めっき液で処理する際に意図せぬ部分に金属銅が析出したり、一定期間機器を使用した段階でマイグレーションが発生して回路ショートを引き起こすなど、プリント配線板として致命的な不良が発生することになる。また、上述したスズ−パラジウムコロイド等の水溶性懸濁液が含むコロイドの粒子径はイオン径よりも格段に大きく、溶液の粘度もイオンのみを含む水溶液より高いのが通常である。そのため、スズ−パラジウムコロイド等の水溶性懸濁液を用いた場合、高アスペクト比のビアホールの内奥部等では液の流動性が著しく低下し、導体パターンを形成する部位に触媒粒子を十分に補給することができない。さらに、被めっき物表面に形成される拡散2重層も厚くなることから、ビアホールの内奥部等に十分な触媒を付与することは困難である。
上述したように、無電解銅めっき法でパラジウム系触媒を用いる場合、マイグレーションが発生する等の問題があるため、これらの問題を解決するためには、煩雑な工程管理が必要とされている。また、触媒の主要成分であるパラジウムは貴金属であり、資源量も限られているため高価である。そのため、プリント配線板の製造方法において無電解銅めっき法により導体パターンの形成を行なうのは、高コストであると一般的に認識されている。さらに、スズ−パラジウムコロイド等の水溶性懸濁液を用いる場合には、高アスペクト比のビアホールを介して層間接続を行なうことが困難である等により、適用可能な多層プリント配線板の仕様も制約されてしまう。
そこで、特許文献1には、パラジウムなどの貴金属を使用せず、且つ良好な触媒化作用を発揮するものを提供することを目的として、第一銅イオンと第一スズイオンとを含む触媒溶液が開示されている。特許文献1の記載によれば、当該触媒溶液中では、銅イオンは第一銅イオンの形態で安定して存在している。また、当該触媒溶液中には第一スズイオンが常に存在しており、第一スズイオンが第一銅イオンの吸着プロモーターとして機能して触媒溶液による触媒化処理が進行する。その結果、被めっき物に吸着した第一銅イオンを、後の工程で還元剤を用いて還元すれば、銅触媒核が表面に均一に付着した被めっき物が得られるとしている。
また、特許文献2には、絶縁特性が良好な高密度プリント板を安価に製造するフルアディティブ法を提供することを目的とする技術が開示されている。具体的には、表面に接着剤が塗布された基板を粗化し、その表面にパーマネントマスクを形成し、次に触媒処理を行なって基板とパーマネントマスクの表面に銅触媒を付着させ、さらに過マンガン酸塩水溶液で処理を行ない、パーマネントマスク表面の触媒を除去している。そして、実施例には、銅触媒液としてゼラチン10gとポリエチレングリコール5g及び60%硫酸15mLを約700mLの水に溶解し、その後NaOHでpH2程度に調整してから硫酸銅5水和物を25g溶解し、最後に濃度100g/Lのジメチルアミンボラン120mLを徐々に添加することにより調製した、金属銅を核とするコロイド触媒が記載されている。
特開2008−214706号公報 特開平7−297520号公報
特許文献1の実施例の記載によれば、得られたプリント配線板は、試験基材の表面に30μm厚さの銅皮膜を形成し、エッチング法により形成した配線間の基材表面をEDXで分析しても金属元素は検出されておらず、パラジウムを含む触媒液を用いた場合と比べると、配線間の絶縁信頼性は向上していると考えられる。一方、特許文献1には、長時間の触媒化処理をすればスズの析出が見られると記載されており、当該記載に基づけば、得られる銅触媒核は、わずかではあってもスズを含むと考えられる。しかし、この銅触媒核は、スズ含有量が微量であれば容易にエッチング除去できるため、エッチング法により配線を形成すれば、通常であれば配線間の基材表面に金属元素が残留することはない。ところが、形成した配線の断面に着目すると、配線と基材とが接している界面に存在しているスズはエッチング除去されることがないため、当該界面部分にはスズが残留していると考えざるを得ない。
ここで、近年の電子機器がデジタル化し、処理速度を向上させるために信号の高クロック化が進んでいることを考えると、周波数が高い信号ほど配線の表面を伝播するという、所謂表皮効果の影響を無視することができない。この表皮効果をシミュレーションした結果によれば、1GHzの信号が伝播するのは配線表面の厚さ2μm程度であり、10GHzの信号ではこの厚さが0.7μmになるとされている。ここで、上述した特許文献1が開示する技術を用いて作成した配線の表面について考察すると、ほぼ長方形の配線断面4辺のうち、1辺にのみスズが存在している。その結果、加熱処理や経時変化などに起因して、スズが存在する配線表面には、スズと銅との合金である青銅の層、即ち比抵抗の大きな層が形成されてしまう。すると、この比抵抗が大きな表面層を備える1辺では、高周波信号ほど伝播速度が遅くなる。即ち、デジタル信号ではきれいなパルス波形を伝送することができなくなり、高周波信号のSN比が低下する。
一方、特許文献2が開示する銅触媒溶液を用いれば触媒核は金属銅で直接形成されるため、比抵抗の大きな金属が存在することに起因する信号伝送特性への悪影響は考慮する必要がない。しかし、特許文献2が開示する銅触媒溶液は金属銅を核とするコロイド触媒であるため、従来から使用されているスズ−パラジウムコロイド等の水溶性懸濁液を用いた場合と同様、高粘度であることに起因して高アスペクト比のビアホールの内奥部等には十分な触媒付与が困難である。また、過マンガン酸塩水溶液で処理した後に金属銅を核とする触媒を基板表面に残留させるためには、基板表面を粗化(実施例ではRmaxで2〜5μm)する必要がある。従って、表面粗化が表皮効果に与える影響を考慮すると、特許文献2に開示の技術は、GHz帯の高周波信号を処理する配線板の製造プロセスには適用できないことが明らかである。
従って、従来の無電解めっき法で用いてきたパラジウム(比抵抗10.8μΩ・cm)やスズ(比抵抗11.5μΩ・cm)等、銅(比抵抗1.7μΩ・cm)に比べて比抵抗が大きな金属を触媒核に含まず、高アスペクト比のビアホール等を備える多層プリント配線板にも適用可能な、良好な触媒核を形成できる触媒溶液が求められていた。
そこで、本件発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ね、以下に記載する無電解めっき法で用いる触媒溶液、その触媒溶液の調製方法及びその触媒溶液を用いた無電解めっき法並びにその無電解めっき法を用いて形成した金属皮膜を備える金属層付被めっき物に想到したのである。
本件発明に係る触媒溶液: 本件発明に係る触媒溶液は、無電解めっき法の触媒化処理で用いる触媒溶液であって、第一銅イオン及び次亜リン酸イオン並びに塩素イオンを含み、pHが6.0〜8.5であることを特徴としている。
本件発明に係る触媒溶液は、第一銅イオンの濃度が0.5g/L〜100g/Lであり、次亜リン酸イオンの濃度が、次亜リン酸ナトリウム(NaPH)として10g/L〜100g/L、塩素イオンの濃度が5g/L〜200g/Lであることも好ましい。
本件発明に係る触媒溶液は、次亜リン酸イオンの濃度と第一銅イオンの濃度との比[(次亜リン酸イオン濃度)/(第一銅イオン濃度)](以下、「P/Cu比」と称する。)の値が1〜20であることも好ましい。
本件発明に係る触媒溶液は、無機還元剤及び有機還元剤から選択される1種又は2種以上の還元剤を含み、還元剤の合計還元基当量と前記第一銅イオン当量との比[(合計還元基当量)/(第一銅イオン当量)](以下、「還元当量比」と称する。)の値が1〜10であることも好ましい。
本件発明に係る触媒溶液は、有機還元剤がL−アスコルビン酸、アミンボラン、ジメチルアミンボラン(以下、「DMAB」と称する。)、水素化ホウ素(以下、「SBH」と称する。)、ギ酸、ホルムアルデヒド、ハイドロキノンから選択される1種又は2種以上であることも好ましい。
本件発明に係る触媒溶液の調製方法: 本件発明に係る触媒溶液の調製方法は、以下の工程A〜工程Cを含むことを特徴としている。
工程A: 次亜リン酸塩水溶液と塩化第二銅水溶液とを混合して、第一銅イオン含有水溶液を調製する工程。
工程B: 第一銅イオン含有水溶液に塩化ナトリウムを添加して塩素リッチ第一銅イオン含有溶液を調製する工程。
工程C: 塩素リッチ第一銅イオン含有溶液に塩酸又は水酸化ナトリウムを添加してpHを調整し、触媒溶液を調製する工程。
本件発明に係る触媒溶液の調製方法においては、以下の工程Dを含むことも好ましい。
工程D: 塩素リッチ第一銅イオン含有溶液に還元剤を添加する工程。
本件発明に係る無電解めっき法: 本件発明に係る無電解めっき法は、上述した触媒溶液を用いて被めっき物の表面に金属皮膜を形成する無電解めっき法であって、以下の工程a〜工程dを含むことを特徴としている。
工程a: 被めっき物の表面をコンディショニング処理し、前処理被めっき物を得る前処理工程。
工程b: 前処理被めっき物を触媒溶液を用いて触媒化処理し、触媒化被めっき物を得る触媒化処理工程。
工程c: 触媒化被めっき物を還元化処理し、還元化被めっき物を得る還元化処理工程。
工程d: 還元化被めっき物を無電解めっき液と接触させて無電解めっきを施し、金属皮膜を形成した金属皮膜付被めっき物を得る無電解めっき工程。
本件発明に係る無電解めっき法においては、工程aのコンディショニング処理では界面活性剤を0.01g/L〜10g/L含むコンディショニング剤を用い、前記被めっき物を、液温25℃〜60℃で1分間〜20分間接触処理することも好ましい。
本件発明に係る無電解めっき法においては、工程aでコンディショニング処理後に実施するプレディップ処理では、塩化ナトリウム濃度が10g/L〜200g/Lの水溶液であるプレディップ剤と被めっき物とを、室温で1分間〜10分間接触処理することも好ましい。
本件発明に係る無電解めっき法においては、工程bの触媒化処理工程では、前処理被めっき物を、液温が10℃〜80℃の触媒溶液で0.1分間〜120分間接触処理することも好ましい。
本件発明に係る無電解めっき法においては、工程cの還元化処理工程では、DMAB、SBH、ホルムアルデヒド、ヒドラジンから選択される1種以上の還元剤を含む還元化処理液を用い、触媒化被めっき物を、室温で1回又は複数回接触処理することも好ましい。
本件発明に係る金属層付被めっき物: 本件発明に係る金属層付被めっき物は、上述した無電解めっき法を用いて形成した金属皮膜を備えることを特徴としている。
本件発明に係る触媒溶液は、無電解めっき法で用いる触媒溶液であり、被めっき物の表面を均一に覆った銅触媒核を形成できる。即ち、この触媒溶液を用いると、パラジウムやスズなど、比抵抗の大きな金属が被めっき物へ付着することがない。従って、配線板の導体パターンを無電解銅めっき法を用いて作成しても、得られる銅配線断面の1辺に比抵抗の大きな金属が残留して電気信号の伝達速度が低下する現象を排除できる。また、貴金属触媒を用いていないため、触媒付与工程のコストが低減できる。同時に、意図せぬ部分への金属銅の析出がないため、プリント配線板の製造工程の簡略化が可能であり、コスト低減はより大きくなる。さらに、この触媒溶液の主要成分がイオンであるため、多層プリント配線板に形成した高アスペクト比のビアホールの内奥部での流動性も良好であり、拡散2重層が厚くなることがない。その結果、この触媒溶液を用いれば、高アスペクト比のビアホールの内壁面にも均一に銅触媒核を形成できる。
実施例1で得られた銅層付COPフィルムの表面観察写真である。 実施例2で得られた銅層付ポリイミドフィルムの表面観察写真である。
本件発明に係る触媒溶液の形態: 本件発明に係る触媒溶液は、無電解めっき法の触媒化処理で用いる触媒溶液であって、第一銅イオン及び次亜リン酸イオン並びに塩素イオンを含むものである。この触媒溶液は、銅触媒核を前処理被めっき物に直接付着させる銅コロイド触媒とは異なり、第一銅イオンを被めっき物に吸着させるものである。従って、金属銅の触媒核は、後述する触媒化処理後の還元化工程で形成する。
まず、本件発明に係る触媒溶液が第一銅イオンを含む理由を説明する。第一銅イオンと第二銅イオンを比較すると、第一銅イオンの単極電位は第二銅イオンの単極電位よりも高い。従って、被めっき物の表面電位が同じであるとすれば、被めっき物の表面へは第一銅イオンが吸着し易く、また、吸着量も第二銅イオンよりも多くなる。そのため、第一銅イオンを含む触媒溶液を用いると、第一銅イオンが被めっき物の表面を均一に覆った吸着層を形成することが容易になる。
また、本件発明に係る触媒溶液において、次亜リン酸イオンは、第二銅イオンを第一銅イオンに還元すると共に第一銅イオンの酸化を抑制し、第一銅イオンの吸着を安定化させる機能を果たす。さらに、本件発明に係る触媒溶液において、塩素イオンは被めっき物の表面の電位等を平準化し、第一銅イオンの吸着をより均一化する機能を果たす。
しかし、本件発明に係る触媒溶液は、上述したように還元剤である次亜リン酸イオンを含むものであるが、空気と接触した状態で長期間放置しておくと、本来無色透明な触媒溶液が青みを帯びた乳白色の色調に変化する場合がある。すると、後の工程で還元化処理を施しても、銅触媒核が被めっき物の表面に均一に形成されない傾向が見られるようになる。この色調の変化は、触媒溶液中の第一銅イオンが酸化されて微細な水酸化第二銅として析出し、時間の経過とともに凝集して青色を呈したものであると考えられる。従って、係る現象は第一銅イオンの第二銅イオンへの酸化を示しており、第一銅イオン濃度の低下が触媒化処理に影響を与えることになる。係る場合には、還元剤を用いて第二銅を第一銅イオンに還元し、触媒溶液を無色透明の状態にすれば、被めっき物の触媒化処理がより均一になり、被めっき物の表面には均一に分布した銅触媒核を形成できる。但し、触媒溶液中の第二銅イオンの存在は、完全に回避すべき事象ではない。還元化処理により形成される銅触媒核の分布が、無電解めっき法で実用上支障のないレベルで均一であれば良いためである。
さらに、本件発明に係る触媒溶液のpHは6.0〜8.5である。上述したように、本件発明に係る触媒溶液を用いると第一銅イオンが被めっき物に吸着するが、この現象は、イオン交換に類似した機構によると考えられる。一方、触媒溶液には水素イオンが共存しており、水素イオンは、被めっき物に吸着した第一銅イオンを溶離させる機能を備えている。従って、水素イオン濃度が所定のレベルを超えると、吸着した第一銅イオンが被めっき物から溶離する傾向が強く現れる。係る水素イオンの挙動から、触媒溶液のpHが6.0を下回ると第一銅イオンを吸着させる機能を発揮しない傾向が見られるようになるため好ましくない。さらに、酸性側では次亜リン酸イオンの還元性が弱くなり、第二銅イオンの存在比率が増加する傾向が現れるため好ましくない。
一方、触媒溶液のpHが8.5を超えると、このようなアルカリ領域では触媒溶液中の第一銅イオンが酸化され易く、第二銅イオンが水酸化物となって被めっき物の表面に付着する傾向が現れる。すると、被めっき物の表面に付着した水酸化第二銅が、第一銅イオンの被めっき物への吸着を阻害し、均一な銅触媒核が形成されなくなるため好ましくない。また、触媒溶液が含む還元剤では、水酸化第二銅を還元して第一銅イオンにすることは困難である。上述した観点からは、触媒溶液のpHを6.5〜7.5程度に維持すると、第一銅イオンが被めっき物の表面に安定的に吸着し、良好な触媒化処理が行なわれるためより好ましい。
本件発明に係る触媒溶液において、第一銅イオンの濃度は0.5g/L〜100g/Lであり、次亜リン酸イオンの濃度は、次亜リン酸ナトリウム(NaPH)として10g/L〜100g/Lであり、塩素イオンの濃度は5g/L〜200g/Lである。
まず、第一銅イオンの濃度について説明する。第一銅イオンの濃度が0.5g/Lを下回ると、触媒化処理後の被めっき物の表面に第一銅イオンが吸着はしても、被めっき物の表面全体を覆う吸着層として形成されない傾向が見られるようになる。その結果、還元化処理を施しても、銅触媒核がアイランド状に形成されるなど不十分になり、無電解めっき法における触媒の効果が確実には得られない場合があるため好ましくない。一方、第一銅イオンの濃度が100g/Lを超えても、被めっき物の表面の第一銅イオンの吸着層を均一にする効果等はすでに飽和に達しており、それ以上の改善は認められない。
また、第一銅イオンの濃度が高くなると、水酸化第一銅が形成される傾向も見られるようになる。さらに、触媒溶液の粘度も高くなって高アスペクト比のビアホールの内奥部での流動性が低下して拡散2重層の厚みにバラツキが生じ、触媒化が不均一になるため好ましくない。また、被めっき物の表面における拡散2重層も厚くなる傾向になるため、撹拌状況によっては拡散2重層に厚さムラが生じ、第一銅イオンの吸着が不均一になる場合がある。上述した観点から、触媒溶液の第一銅イオンの濃度を1.0g/L〜50g/Lに維持すると、第一銅イオンが被めっき物に均一に吸着し、良好な触媒化処理が行なわれるためより好ましい。
次に、次亜リン酸イオンの濃度について説明する。本件発明では、次亜リン酸イオンの濃度は、触媒溶液中の次亜リン酸ナトリウム(NaPH)の濃度で規定している。ここで、すでに説明したように、触媒溶液は、pHが6.0〜8.5である。触媒溶液中のアニオンである次亜リン酸イオン及び塩素イオンとカチオンである第一銅イオンとの濃度バランスを考慮すると、触媒溶液を上述のpH領域に調整するためには、第一銅イオンとは異種のカチオンも含める必要がある。この時、被めっき物へ第一銅イオンを吸着させるためには、第一銅イオンよりも優先的に被めっき物に吸着する異種カチオンの共存は避けなければならない。しかし、異種カチオンがナトリウムイオンであれば、被めっき物にナトリウムイオンが吸着していたとしても第一銅イオンは置換吸着する。そこで本件発明では、亜リン酸ナトリウムを用いて触媒溶液を調製し、第一銅イオンが安定した触媒化機能を発揮できるものとしている。
しかし、触媒溶液の次亜リン酸イオンの濃度が、次亜リン酸ナトリウムとして10g/Lを下回ると、第一銅イオンの濃度が下限の0.5g/Lであっても、次亜リン酸イオンが第一銅イオンを安定して存在させる効果が十分に得られなくなる。その結果、触媒溶液中には第二銅イオンが共存することになり、上述したごとく、被めっき物の表面への第一銅イオンの吸着が不均一になる傾向が見られるようになるため好ましくない。一方、次亜リン酸イオンの濃度が、次亜リン酸ナトリウムとして100g/Lを超えても、第一銅イオンを安定して存在させる効果等はすでに飽和に達しており、それ以上の効果の改善は認められない。一方、触媒溶液の粘度が高くなり、高粘度に起因する不具合が見られるようになるため好ましくない。従って、次亜リン酸イオン濃度は、上述の範囲が妥当である。
さらに、塩素イオンの濃度について説明する。塩素イオンの濃度が5g/Lを下回ると、塩素イオンが安定して被めっき物の表面の電位等を平準化する効果が得られない傾向が見られる。その結果、第一銅イオンの吸着が不均一になる傾向が現れるため好ましくない。一方、塩素イオンの濃度が200g/Lを超えても、被めっき物の表面の電位等を平準化する効果はすでに飽和に達しており、薬品を無駄無駄に消耗することになる。また、pH調整を考えると、塩素イオンを含む塩類を用いて塩素濃度を調整することが好ましい。従って、塩素濃度を高くすると、当該塩類が含むカチオン濃度も上昇して触媒溶液の粘度が上昇するため、高粘度に起因する不具合が見られるようになるため好ましくない。上述した観点からは、触媒溶液の第一銅イオンの濃度を5g/L〜20g/L、次亜リン酸イオンの濃度を、次亜リン酸ナトリウム(NaPH)として25g/L〜100g/Lとし、塩素イオンの濃度を50g/L〜150g/Lとすることがより好ましい。
本件発明に係る触媒溶液においては、P/Cu比の値が1〜20である。P/Cu比の値が1を下回ると、次亜リン酸イオンの濃度が低い場合と同様、第一銅イオンを安定して存在させる効果が得られにくくなる。その結果、触媒溶液中の第二銅イオン濃度が上昇する傾向が見られるようになり、上述したごとく、第一銅イオンの吸着が不均一になる場合があるため好ましくない。一方、P/Cu比の値が20を上回っても、第一銅イオンを安定して存在させる効果はほぼ飽和に達している。一方、次亜リン酸イオンが増加すると触媒溶液の粘度も上昇するため、高粘度に起因する不具合が見られるようになるため好ましくない。上述した観点からは、触媒化処理の均一性を保証し、触媒溶液の調整に用いる薬品の使用量とのバランスを考えると、P/Cu比の値の範囲は、3〜7とすることがより好ましい。
本件発明に係る触媒溶液においては、無機還元剤及び有機還元剤から選択される1種又は2種以上の還元剤を含むものである。ここで、無電解めっき法では触媒溶液の機能を長期間維持しつつ繰り返し使用するのが好ましいことを考えると、触媒溶液の液組成を適正範囲に維持する必要がある。一方、触媒溶液が空気と接触する環境では、第一銅イオンが酸化されて第二銅イオンが増加する傾向が現れ、触媒を付与するという触媒溶液の所期の機能が発揮できなくなる場合がある。しかし、当該触媒溶液が還元剤を含むものであれば、第一銅イオンの酸化による第二銅イオンの形成が抑制されると同時に次亜リン酸イオンの酸化も抑制され、触媒溶液の機能維持が容易になる。
また、ここで用いる還元剤は、触媒溶液が含む第一銅イオンの酸化を抑制することが実験的に確認された化合物から自由に選択できる。しかし、第二銅イオンの還元に伴う次亜リン酸イオンの消費も抑制することを考えると、触媒溶液が大気と接触した場合に次亜リン酸イオンと同等かそれ以上に酸化され易い性質を備える還元剤を用いることが好ましい。具体的には、無機還元剤では亜硫酸や三塩化チタン又はその塩類等、有機還元剤ではギ酸やL−アスコルビン酸又はその塩類等を用いることができる。特に、塩類を用いると、触媒溶液のpHを6.0〜8.5に維持することが容易になるため好ましい。さらに、ナトリウム塩を用いると、上述したごとく、ナトリウムイオンが被めっき物に吸着したとしても、第一銅イオンが置換吸着するため、被めっき物への第一銅イオンの吸着を阻害しないためより好ましい。
また、本件発明に係る触媒溶液においては、還元当量比の値が1〜10である。還元当量比の値が1を下回ると、還元剤が第二銅イオンを還元する能力が不安定になる傾向が見られるようになり、触媒溶液中に共存する第二銅イオン濃度の増加に伴い第一銅イオンの吸着が不均一になる場合があるため好ましくない。一方、還元当量比の値が10を超えても、還元剤が第一銅イオンの酸化を抑制する能力はすでに過剰になっている。また、還元剤が無機還元剤及び有機還元剤のいずれであっても、高濃度になると触媒溶液の粘度も上昇するため、高粘度に起因する不具合が見られるようになるため好ましくない。
本件発明に係る触媒溶液においては、有機還元剤がL−アスコルビン酸、アミンボラン、DMAB、SBH、ギ酸、ホルムアルデヒド、ハイドロキノンから選択される1種又は2種以上である。また、有機還元剤の中でも、特に有機酸は水溶性に優れている。しかし、第一銅イオンを被めっき物に吸着させることを考えると、有機酸であっても、銅イオンと錯化合物を形成するクエン酸やEDTAなどの化合物は、有効な第一銅イオンの濃度を低下させることになるため好ましくない。上述した観点からは、L−アスコルビン酸やギ酸を用いることがより好ましい。
本件発明に係る触媒溶液の調製形態: 本件発明に係る触媒溶液の調製方法は、上述した触媒溶液の調製方法であって、以下に示す工程A〜工程Cを含むものである。また、必要に応じて工程Dを含むことができる。以下、各工程毎に説明する。
工程Aは、次亜リン酸塩水溶液と塩化第二銅水溶液とを混合して、第一銅イオン含有水溶液を調製する工程である。この工程では、第一銅イオン含有水溶液を得ることを目的としているため、第一銅イオン源としては塩化第一銅、又はその水溶液を用いるのが好ましいと考えるのが通常である。しかし、塩化第一銅を次亜リン酸塩水溶液に添加することを考えると、塩化第一銅は空気中で酸化され易いため、溶解した第二銅イオンが次亜リン酸イオンによって還元されることになるため、次亜リン酸イオンが消費され、適正な添加量の設定が困難になる。また、塩化第一銅の水溶液を次亜リン酸塩水溶液と混合することを考えると、塩化第一銅の水に対する飽和濃度は、25℃で0.11g/Lと低いため、所期の第一銅イオンの濃度に調整した第一銅イオン含有水溶液を得ることは困難である。そこで、銅イオンの供給源には、入手が容易で水に対する溶解度も大きく、大気中でも安定な塩化第二銅を用いる。一方、次亜リン酸塩は水に対する溶解度が大きければ、どのような次亜リン酸塩を用いても構わない。しかし、ナトリウムイオンが被めっき物への第一銅イオンの吸着を阻害しないことや、水に対する溶解度が大きく、入手が容易であることを考えあわせると、次亜リン酸ナトリウムを用いて水溶液を調製することがより好ましい。
また、工程Aでは、次亜リン酸塩水溶液と塩化第二銅水溶液とを混合する方法を採用している。粉末の塩化第二銅を次亜リン酸塩水溶液に添加すると、塩化第二銅が水に溶解してから第二銅イオンが第一銅イオンに還元される。この時、次亜リン酸塩水溶液のpHによっては水酸化第二銅が形成される場合があるため、第一銅イオン含有水溶液の調製完了の判定が困難になる。しかし、適切に撹拌しながら次亜リン酸塩水溶液と塩化第二銅水溶液とを混合すれば、均一な第一銅イオン含有水溶液を速やかに調製することができる。特に、塩化第二銅水溶液を次亜リン酸塩水溶液に徐々に添加して混合する方法は、第二銅イオンが速やかに第一銅イオンに還元され、混合が完了した時点で均一な混合状態の第一銅イオン含有水溶液が得られるためより好ましい。
工程Bは、第一銅イオン含有水溶液に塩化ナトリウムを添加して塩素リッチ第一銅イオン含有溶液を調製する工程である。塩素イオンの濃度を調整するのであれば、塩化ナトリウムにこだわらず、塩化カリウム等を用いることもできる。しかし、工程Aで次亜リン酸ナトリウムを使用することを前提とすれば、塩化カリウムを用いると、触媒溶液が含むカチオンの種類が多くなると同時に、挙動が異なるカチオンが混在することになる。その結果、第一銅イオンの吸着挙動が影響を受ける場合が見られるようになるため好ましくない。従って、次亜リン酸ナトリウムを用いて調製した第一銅イオン含有溶液に対しては、上述したと同様、塩化ナトリウムを添加するのが好ましい。一方、カリウムのアクア錯体はナトリウムのアクア錯体よりも分子が小さいことが知られている。係る知見などから、例えば、カリウムを含むことによって触媒溶液としてより好ましい特徴を発揮するのであれば、次亜リン酸カリウムと塩化カリウムとの組み合わせ等を採用することもできる。
工程Cは、塩素リッチ第一銅イオン含有溶液に塩酸又は水酸化ナトリウムを添加してpHを調整し、触媒溶液を調製する工程である。通常のpH調製であれば、酸性側に調整する場合には塩酸や硫酸を使用し、アルカリ性側に調整する場合には水酸化ナトリウム、水酸化カリウムやアンモニア水を使用することが多い。しかし、第一銅イオンの錯体形成を避けるため、本件発明の触媒溶液にアンモニア水を添加してpHを調整することはできない。また、硫酸や水酸化カリウムを添加すると、触媒溶液が含むイオンの種類が多くなると同時に、混在するカチオンやアニオンの挙動が異なることになる。すると、上述のごとく、第一銅イオンの吸着挙動が影響を受ける場合が見られるようになるため好ましくない。従って、触媒溶液のpH調製には、触媒溶液を構成する主要成分とできるだけ共通する塩素イオンやナトリウムイオンを含む、塩酸又は水酸化ナトリウムを用いることが好ましい。
本件発明に係る触媒溶液の調製方法では、塩素リッチ第一銅イオン含有溶液に還元剤を添加する工程Dを、必要に応じて実施することができる。還元剤を含む触媒溶液を調製する方法については特段の制約はなく、あらかじめ触媒溶液中に一定量の還元剤を添加した触媒溶液を調製する方式を採用できる。この時、還元剤として有機酸を用いると、有機酸を添加した後の触媒溶液のpHが変化する場合がある。係る場合には、工程Bと工程Cとの間で工程Dを実施するのが好ましい。工程CでpHを調整することができるからである。一方、用いる還元剤の種類によっては、pHの緩衝作用を果たす場合もある。係る還元剤を用いる場合には、工程CではpH調整した触媒溶液を調製し、連続又は定期的に触媒溶液中の第二銅イオン濃度を例えば吸光光度計などで測定し、ある閾値を超えた段階で一定量の還元剤を添加する方式とすることもできる。係る工程Dであれば、還元剤の添加が過剰になることがないため、省資源の還元剤添加方式である。さらに、触媒溶液の粘度が低めに推移することになるためより好ましい。
本件発明に係る無電解めっき法の形態: 本件発明に係る無電解めっき法は、上述した触媒溶液を用いて被めっき物の表面に金属皮膜を形成する無電解めっき法であって、以下の工程a〜工程dを含む。但し、各工程間では必要に応じて適宜水洗などの工程を設けるのが通常であるが、これらの工程では浸漬やシャワーリングなどの一般的な手法が適用できるので、ここでは詳細な説明を省略する。以下、各工程毎に説明する。
工程aは、被めっき物の表面をコンディショニング処理し、前処理被めっき物を得る前処理工程である。このコンディショニング処理とは、「非電導性下地に金属を析出させる工程が含む、表面をあらかじめ被覆し易い状態に変える処理」であり、非電導性下地である被めっき物の表面状態を代表する、ぬれ性や表面電位等を均一化することを主な目的としている。また、係る前処理工程では、コンディショニング処理を実施する前に、出発材料である被めっき物にアルカリ脱脂処理などを施して表面を清浄化しておくのが通常である。具体的には、アルカリ脱脂処理では、濃度10g/L〜100g/Lの水酸化ナトリウム水溶液の液温を60℃程度とし、被めっき物を3分間程度接触処理する。さらに、必要に応じて、アルカリ脱脂前に有機溶剤を用いた洗浄処理等を施すこともできる。なお、アルカリ脱脂処理の前に被めっき物の表面にプラズマ処理やホーニング処理等を施して粗化したり、樹脂製の被めっき物であれば紫外線を照射するUV改質処理を施せば、形成した金属皮膜と被めっき物との密着性を改善することができる。
本件発明に係るコンディショニング処理で用いるコンディショニング剤は、自身で調製することもできるが、市販品から最適な商品を選択することもできる。コンディショニング処理では、被めっき物の表面のぬれ性を均一にすることを一つの目的としているため、コンディショニング剤は、カチオン系、アニオン系、両性系そしてノニオン系に大別される4種類の界面活性剤から選択した1種又は2種以上の界面活性剤を含んでいる。そのため、その後の処理手法や処理対象とする被めっき物に対して最適なコンディショニング剤を選択する。
本件発明に係る前処理工程では、これらのコンディショニング剤を用いて被めっき物にコンディショニング処理を施せば、界面活性剤の疎水基が被めっき物の表面に吸着し、後の触媒化処理工程では被めっき物に吸着した界面活性剤の親水基に第一銅イオンが吸着する。コンディショニング処理の具体的な操作としては、被めっき物をコンディショニング剤の溶液に浸漬する方法、コンディショニング剤の溶液を被めっき物にシャワーリングしたりスプレーする方法などが採用可能であり、被めっき物の形状、処理条件や処理装置の設置場所等を勘案して最適な方法を選択すれば良い。
また、本件発明に係るコンディショニング処理では、界面活性剤を0.01g/L〜10g/L含むコンディショニング剤を用い、被めっき物を、液温25℃〜60℃で1分間〜20分間接触処理する。各種界面活性剤の中でもカチオン系界面活性剤を含むコンディショニング剤を用いると、被めっき物に吸着したカチオン系界面活性剤の親水基がマイナスに帯電している。従って、親水基に第一銅イオンが吸着し易く、触媒化処理すれば、均一に第一銅イオンが吸着した表面状態の触媒化被めっき物が得られる。その結果、触媒化被めっき物を還元化処理すれば、銅触媒核が均一に分布した還元化被めっき物が得られる。このカチオン系界面活性剤を含むコンディショニング剤には市販のコンディショニング剤、例えばローム・アンド・ハース電子材料株式会社製CC−231等を用いることができる。
しかし、コンディショニング剤が含むカチオン系界面活性剤の濃度が0.01g/Lを下回ると、カチオン系界面活性剤の種類によっては、被めっき物の表面へのカチオン系界面活性剤の吸着が不均一になる傾向が見られるようになる。その結果、後の触媒化処理における第一銅イオンの吸着も不均一になるため好ましくない。一方、カチオン系界面活性剤の濃度が10g/Lを超えても、被めっき物の表面へのカチオン系界面活性剤の吸着を均一にする効果はすでに飽和に達している。また、カチオン系界面活性剤の濃度が高くなるとコンディショニング剤の粘度も上昇するため、高粘度に起因する不具合が見られるようになる。同時に、後の水洗工程などを経て薬品類を無駄に廃棄することになるため好ましくない。上述した観点から、コンディショニング剤が含むカチオン系界面活性剤の濃度範囲は、0.1g/L〜1g/Lとすれば、表面状態が均一な前処理被めっき物が得られるためより好ましい。
さらに、本件発明に係るコンディショニング処理では、カチオン系界面活性剤を含むコンディショニング剤の液温を25℃〜60℃とする。コンディショニング剤の液温が25℃を下回ると、カチオン系界面活性剤のミセル形成が困難になり、コンディショニング剤が含むカチオン系界面活性剤の実質濃度が低下することになる。その結果、被めっき物の表面へのカチオン系界面活性剤の吸着が不均一になる場合があるため好ましくない。一方、コンディショニング剤の液温の上限については、被めっき物の耐熱温度を考慮して設定するのが通常である。しかし、十分な耐熱性を備える被めっき物を、コンディショニング剤の液温が60℃を超える温度で処理しても、表面状態にはほとんど変化は見られない。一方、コンディショニング処理を連続して実施することを考えると、液温維持に要するエネルギーコストが上昇し、水分の蒸発に伴う液組成の変動が大きくなるため好ましくない。
また、本件発明に係るコンディショニング処理では、カチオン系界面活性剤を含むコンディショニング剤で被めっき物を1分間〜20分間接触処理する。コンディショニング処理の時間は、コンディショニング剤の液組成や処理手法に応じて適宜調整すべき管理項目である。しかし、接触時間が1分間未満では、十分に撹拌したコンディショニング剤に被めっき物を浸漬して接触させても、被めっき物の形状、処理条件や処理装置等の影響を受け、被めっき物の表面へのカチオン系界面活性剤の吸着が不均一になる場合があるため好ましくない。一方、被めっき物をコンディショニング剤と20分間を超えて接触させても、被めっき物の表面へのカチオン系界面活性剤の吸着均一性がそれ以上改善されることはない。一方、カチオン系界面活性剤は極性が大きいため、複層に吸着する傾向が見られるようになる。そして、カチオン系界面活性剤が複層に吸着すると、カチオン系界面活性剤層に吸着した第一銅イオンを還元して得られる銅触媒核が、被めっき物との密着性に劣る場合があるため好ましくない。従って、被めっき物の表面には界面活性剤の単分子膜を均一に形成することがより好ましい。係る単分子膜を形成するためには、カチオン系界面活性剤を0.01g/L〜1g/L含むコンディショニング剤を用い、被めっき物を、液温を30℃〜50℃としたコンディショニング剤と2分間〜10分間接触処理するのがより好ましい。
また、工程aでは、コンディショニング処理後にプレディップ処理を施すこともできる。プレディップ処理では、塩化ナトリウム濃度が10g/L〜200g/Lの水溶液であるプレディップ剤と被めっき物とを、室温で1分間〜10分間接触処理する。塩化ナトリウム水溶液を用いたプレディップ処理を施せば、コンディショニング処理で被めっき物の表面に吸着した界面活性剤の親水基にナトリウムイオンや塩素イオンが吸着する。この時、被めっき物の表面に吸着しているのがカチオン系界面活性剤であれば、カチオン系界面活性剤の親水基に塩素イオンが吸着する。その結果、被めっき物の表面電位等がより平準化され、後の触媒化処理工程では第一銅イオンの吸着がより均一になる。また、還元化処理によって形成される銅触媒核の分布も均一になる。しかし、塩化ナトリウム濃度が10g/L未満では、被めっき物に吸着したカチオン系界面活性剤の親水基への塩素イオンの吸着が不均一になる傾向が見られるようになる。すると、触媒化処理では第一銅イオンの吸着が不均一になり、銅触媒核の分布も不均一になるため好ましくない。一方、200g/Lを超える塩化ナトリウム濃度としても、被めっき物に吸着したカチオン系界面活性剤の親水基に対する塩素イオンの吸着を均一にする効果はすでに飽和に達している。従って、それ以上吸着を均一にする効果は期待できず、後の水洗工程などを経て薬品類を無駄に廃棄することになるため好ましくない。
工程bは、前処理被めっき物を触媒溶液を用いて触媒化処理し、触媒化被めっき物を得る触媒化処理工程である。この触媒化処理工程では、触媒溶液と前処理被めっき物とを接触処理し、被めっき物の表面に均一な第一銅イオンの吸着層を形成した触媒化被めっき物を得る。ここでの接触処理も前処理のコンディショニング処理やプレディップ処理と同様の操作であり、具体的な手法としては、被めっき物を触媒溶液に浸漬する方法、触媒溶液を被めっき物にシャワーリングしたりスプレーする方法などを採用できる。従って、被めっき物の形状、処理条件や処理装置の設置場所等を勘案して最適な方法を選択すれば良い。しかし、前処理被めっき物の表面への第一銅イオンの吸着バラツキを小さくするためには、前処理被めっき物を安定した液温に維持した触媒溶液に浸漬し、緩やかに撹拌しながら接触時間を長めに設定して処理することが好ましい。
本件発明に係る触媒化処理では、前処理被めっき物を、液温が10℃〜80℃の触媒溶液と接触させる。ここで、第一銅イオンの前処理被めっき物表面への吸着が化学吸着であることから、触媒化処理の温度が吸着速度などに与える影響はそれほど大きくはないと考えられる。しかし、触媒溶液の液温が10℃を下回ると、金属塩濃度が高い場合には金属塩が触媒溶液から晶析する傾向が見られるようになり、金属塩が被めっき物の表面に付着すると均一な触媒化処理の妨げとなる。さらに、触媒溶液の粘度が上昇し、高粘度に起因する不具合が見られるようになるため好ましくない。一方、触媒化処理温度の上限については、コンディショニング処理と同様、被めっき物の耐熱温度を考慮して設定するが、触媒溶液の液温が80℃を超えると、触媒溶液の液温維持に要するエネルギーコストが上昇し、水分の蒸発に伴う液組成の変動が大きくなるため好ましくない。
また、本件発明に係る触媒化処理では、前処理被めっき物を、触媒溶液で0.1分間〜120分間接触処理する。前処理被めっき物と触媒溶液との接触時間が0.1分間を下回ると、被めっき物の形状、処理条件や処理装置等の影響を受け、前処理被めっき物の表面への第一銅イオンの吸着が不均一になる場合があるため好ましくない。一方、120分間を超える接触時間としても、第一銅イオンの吸着量の増加や均一性の改善はすでに飽和に達しており、生産性の低下のみが顕著になるため好ましくない。上述した観点から、安定して均一な第一銅イオンの吸着層を形成するためには、触媒溶液の液温を40℃〜50℃とし、緩やかな撹拌を実施しながら接触時間を3分間〜10分間とすることがより好ましい。
工程cは、触媒化被めっき物を還元化処理し、還元化被めっき物を得る還元化処理工程である。この還元化処理工程では、触媒化被めっき物の表面に吸着している第一銅イオンを還元し、被めっき物の表面に銅触媒核を形成した還元化被めっき物を得る。触媒化被めっき物を還元化処理をすれば、触媒化被めっき物の表面に吸着している第一銅イオンのほとんどが金属銅になり、銅触媒核と被めっき物との密着が強固になる。
また、本件発明に係る還元化処理では、DMAB、SBH、ホルムアルデヒド、ヒドラジンから選択される1種以上の還元剤を含む還元化処理液を用い、触媒化被めっき物を、室温で1回又は複数回接触処理する。この還元化処理は、パラジウムを触媒に用いた場合と同様の還元化処理ではある。上述した還元剤の中では、従来既知の還元化処理が可能である観点からは、DMBA、SBH及びヒドラジンを用いることができる。しかし、ホルムアルデヒドを用いると、パラジウムを対象とした場合の還元化処理に適した条件では還元効果が得られないため、2段還元処理などの工夫が必要である。このように、還元化処理では、銅とパラジウムでは酸化還元電位が異なること等も考慮する必要がある。なお、上述したこれらの化合物は、効果が確認されたものを例示しているに過ぎず、その他の化合物については、還元化処理の方法や時間などの処理条件を工夫した上で、還元剤としての使用の可否を都度確認し使用すれば良い。
なお、還元化処理における具体的な操作は、上述してきた前処理方法等と同様であり、触媒化被めっき物を還元化処理液に浸漬する方法、還元化処理液を触媒化被めっき物にシャワーリングしたりスプレーする方法などを採用することができる。具体的には、使用する還元化処理液、被めっき物の形状、処理条件や処理装置の設置場所等を勘案して最適な方法を選択すれば良い。また、還元化処理に要する時間等は、上述したように、用いる還元剤の種類により大きく異なる。しかし、一般的には、還元化処理時間が短いと、銅触媒核と被めっき物との密着性が不十分になる傾向が見られる。従って、あらかじめ試験を行なって銅触媒核と被めっき物との密着性が安定する時間を求め、余裕を持った還元化処理時間を設定することが好ましい。
工程dは還元化被めっき物を無電解めっき液と接触させて無電解めっきを施し、金属皮膜を形成した金属皮膜付被めっき物を得る無電解めっき工程である。この無電解めっき工程で形成する金属皮膜の種類には特に限定はなく、ニッケル、銅、金等の無電解めっき液と接触させれば、所望の金属皮膜を還元化被めっき物の表面に形成できる。そして、上述した金属を析出させるために用いる無電解めっき液には、自身で調製したものを用いることもできるが、市販品を用いることもできる。例えば、メルテックス株式会社が市販している製品では、無電解ニッケルめっき液はエンプレートNI−426、無電解銅めっき液はメルプレートCU−390、無電解金めっき液はロノベルCS−100を挙げることができる。
しかし、触媒金属に銅を採用している観点から、本件発明の特徴を最大限に発揮するためには、形成する金属皮膜は銅皮膜とすることが好ましい。銅被膜を形成する無電解銅めっきは、自己触媒型で銅層が形成されてゆくため、所望の厚さの銅皮膜を安定して形成できる。そして、この無電解めっき工程を、パターンめっき法やセミアディティブ法でプリント配線板の導体パターンを作成する際に必要な下地の極薄金属層を形成する工程や、フルアディティブ法で基材表面に直接銅配線を形成する工程等に用いてプリント配線板を作成すれば、異種金属を含まない、銅のみで構成された配線を得ることが可能になる。
以上、工程a〜工程dについて説明してきた。但し、それぞれの工程では、安定した処理状態を得るため、処理溶液を維持管理することができる。具体的には、工程bの触媒化処理では、第一銅イオンが被めっき物に吸着するため、繰り返しの触媒化処理に使用している触媒溶液が含む第一銅イオンの濃度は低下してゆく。従って、工程bは、触媒溶液中の第一銅イオン濃度が下限の設定値を下回った場合には、新たな触媒溶液を建浴して更新したり、濃厚な触媒溶液を準備しておき、通常は第一銅イオン濃度をモニターしながら適宜濃厚液を添加して第一銅イオン濃度を調整し、塩素イオンや次亜リン酸イオンの濃度や粘度の上限などを指標として触媒溶液の更新を行なう等の操作を含んでいる。そして、市販の処理液を用いる工程では、製造元の推奨する調整方法を採用することが多い。
本件発明に係る金属層付被めっき物の形態: 本件発明に係る金属層付被めっき物は、上述した無電解めっき法を用いて形成した金属皮膜を備える金属層付被めっき物である。上述したように、本件発明では銅触媒核を形成するため、無電解めっきで銅被膜を形成した銅層付被めっき物が本件発明の特徴を最大限に発揮した金属層付被めっき物である。具体的な銅層付被めっき物としては、フルアディティブ法を採用して作成したプリント配線板を例示することができる。係るプリント配線板は、フルアディティブ法を採用していても、配線の断面内における比抵抗のバラツキが小さいことが大きな特徴である。また、前処理工程で表面にUV改質処理を施した樹脂基材を用いたプリント配線板は、銅配線と基材との密着性が改善されている。特に、誘電率の小さいシクロオレフィンポリマー樹脂製の表面平滑性に優れた基材を用いたプリント配線板は、高周波信号の伝送特性に優れるという特徴を備える。また、高アスペクト比のフィルドビアホールを備える多層プリント配線板は、ビアホール内に形成した銅皮膜の厚さが均一で導電性が良好になる。このため、電解銅めっきでビアフィリングを行なってもボイドの発生が少なく、ビアホールを用いた層間の接続信頼性が高いという特徴を備える。
実施例1では、シクロオレフィンポリマー樹脂(以下、「COP」と称する。)試片として50mm×50mmサイズ、厚さ188μmのゼオノアフィルムZF−16(日本ゼオン株式会社製)を用い、その両面に厚さ0.2μmの無電解銅めっき層を形成し、その上に、さらに厚さ20μmの電解銅めっき層を形成した。具体的には、COP試片に前処理としてUV改質処理、アルカリ脱脂処理、コンディショニング処理とプレディップ処理を逐次施し、その後触媒化処理、還元化処理、無電解銅めっき、電解銅めっきを施して銅層被覆COP試片を得た。各工程の間では、必要に応じて水洗処理を行なった。また、無電解銅めっき工程と電解銅めっき工程の後には熱処理を行なった。上述した工程の流れを纏めて以下の表1に示す。
<前処理>
前処理工程では、まずCOP試片にUV改質処理を行なった。具体的には、高出力低圧水銀ランプ(KOGLQ−600US:江東電気株式会社製)を用い、COP試片表面の紫外線強度10.0mW/cmで30分間照射した。この紫外線強度は、紫外線強度測定器(C6080−02:浜松フォトニクス株式会社製)を用いて測定した。そして、UV改質処理したCOP試片を、アルカリ脱脂処理液(NaOH:50g/L)に3分間浸漬し、さらにコンディショニング処理液(CC−231:ローム・アンド・ハース電子材料株式会社製)に5分間浸漬後プレディップ処理液(NaCl: 200g/L)に1分間浸漬して前処理COP試片を得た。上述した各処理では、マグネチックスターラーで緩やかに撹拌しているビーカー内の各処理液にCOP試片を浸漬し、各処理の後には30秒間の水洗を実施した。上述の前処理で用いた3種類の処理液と、後述する触媒溶液、還元化処理液及び無電解銅めっき液並びに電解銅めっき液の浴組成を纏めて以下の表2に示す。
<触媒溶液の調製>
実施例では、イオン交換水を用いて以下に示す組成の水溶液を調製し、触媒溶液E7として用いた。調製後の触媒溶液E7は無色透明であり、pHは7.0、P/Cu比の値は6.4であった。
CuCl 10g/L
NaPH・HO 50g/L
conc.HCl 10mL/L
NaCl 200g/L
<触媒化処理>
触媒化処理工程では、ビーカー内で45℃に維持した0.5Lの触媒溶液E7に、前処理COP試片を10分間浸漬した。この時の液攪拌は、マグネチックスターラーを用いた比較的緩やかなものとした。触媒化処理後の触媒化COP試片の目視外観観察では、表面にムラは観察されず、均一であった。また、触媒化COP試片への銅の吸着量を、触媒化COP試片を希塩酸に5分間浸漬して水洗し、希塩酸に溶離した銅量として測定した。その結果、触媒化COP試片への銅の付着量は、543μg/dmであった。
<還元化処理>
還元化処理工程では、ビーカー内でマグネチックスターラーを用い比較的緩やかに撹拌している室温の還元化処理液に、触媒化COP試片を5分間浸漬した。この還元化処理では、DMABをイオン交換水に溶解して濃度を3g/Lとし、pHを12.5に調整した水溶液(還元化処理液1)と、SBHをイオン交換水に溶解して濃度を2g/Lとし、pHを10.5に調整した水溶液(還元化処理液2)の2種類の還元化処理液を用いた。還元化処理後の還元化COP試片を観察したところ、還元化処理液1用いた還元化COP試片1の色調が、還元化処理液2を用いた還元化COP試片2の色調よりも明るかったものの、いずれの還元化COP試片にもムラは観察されず、外観は均一であった。
<無電解銅めっき>
無電解めっき工程では、無電解銅めっき液を以下に示す組成に調製した。具体的には、液温を60℃としてエア攪拌している無電解銅めっき液に、還元化COP試片1及び還元化COP試片2をそれぞれ10分間浸漬して0.2μm厚さの銅被膜を形成し、銅皮膜付COP試片1と銅皮膜付COP試片2とを得た。得られた銅皮膜付COP試片1と銅皮膜付COP試片2との外観には差がなく、共に均一であった。なお、下記成分表記において、PEG−1000とは平均分子量1000のポリエチレングリコールである。
CuSO 0.03mol/L
EDTA 0.24mol/L
2、2’−ビピリジン 0.01g/L
PEG−1000 0.1g/L
ホルムアルデヒド 0.20mol/L
pH 12.5
<電解銅めっき>
電解銅めっき工程では、めっき後の表面が平滑で光沢を有するように、硫酸酸性銅めっき液を以下に示す組成に調製した。具体的には、銅皮膜付COP試片1及び銅皮膜付COP試片2を、液温を25℃としてエア攪拌している硫酸酸性銅めっき液に浸漬し、対極には寸法安定性陽極を用いて陰極電流密度2.5A/dmで35分間電解し、厚さ20μmの銅層を備える銅層付COP試片1と銅層付COP試片2とを得た。得られた銅層付COP試片1と銅層付COP試片2との外観には差がなく、いずれも均一であった。銅層付COP試片1の表面の観察写真を図1に示す。なお、下記成分表記において、PEG−4000は平均分子量4000のポリエチレングリコール、SPSはビス(3−スルホプロピル)ジスルフィド、JGBはヤヌスグリーンである。
CuSO 0.8mol/L
SO 0.5mol/L
Cl 1.4×10−3mol/L
PEG−4000 0.01g/L
SPS 0.01g/L
JGB 0.01g/L
<銅皮膜の密着性>
上述した銅層被覆COP試片1の引き剥がし強さをJIS C 5012に従って測定し、銅皮膜の密着性評価とした。具体的には、エッチング法で銅層に10mm幅の直線回路を形成し、インストロン型万能試験機(SV−950:株式会社MKSハピネス製)を用い、10mm幅の回路端部をチャックに挟み込み、50mm/分の早さで基材面に対して90°で引き上げて測定した。測定の結果、引き剥がし強さは0.50kN/cmであり、実用上十分な密着性を備えていた。
実施例2では、実施例1で用いたCOP試片に替えてポリイミド樹脂(以下、「PI」と称する。)試片として50mm×50mmサイズ、厚さ37.5μmのPIフィルム(カプトン150EN:東レデュポン株式会社製)を用い、実施例1と同様にしてその両面に厚さ0.2μmの無電解銅めっき層を形成し、その上に、さらに厚さ20μmの電解銅めっき層を形成した。実施例2で得られた銅層付PI試片1及び銅層付PI試片2の銅層の外観に差はなく、共に均一であった。銅層付PI試片1の表面の観察写真を図2に示す。また、銅層付PI試片1が備える銅皮膜の密着性を実施例1と同様にして評価した結果、引き剥がし強さは0.90kN/cmであり、実用上十分な密着性を備えていた。
実施例3では、触媒化処理時間と還元化処理時間が、銅皮膜の密着性に与える影響を調査した。具体的には、実施例1で用いたのと同じCOP試片を用い、表1に記載の工程のうち、触媒化処理時間を3分、5分、10分とし、それぞれの触媒化処理時間に対して還元化処理時間を3分、5分、10分に変更して銅層付COP試片を作成し、銅皮膜の密着性を実施例1と同様にして評価した。その結果、触媒化処理時間を3分間とした場合の銅層の引き剥がし強さは、還元化処理時間3分間が0.36kN/cm、5分間が0.45kN/cm、10分間が0.49kN/cmであった。そして、触媒化処理時間を5分間とした場合にはそれぞれ0.45kN/cm、0.50kN/cm、0.47kN/cm、触媒化処理時間を10分間とした場合にはそれぞれ0.41kN/cm、0.46kN/cm、0.49kN/cmであった。上述した結果を以下の表3に纏めて示す。
上記表3では、いずれの触媒化処理時間においても、還元化処理時間が3分間であった時の引き剥がし強さが最小値を示している。この現象は、還元化処理が短時間になると銅触媒核の形成が不十分になり、銅被膜と被めっき物との密着性を良好にする効果が十分に発揮できないことを示している。そして、触媒化処理時間と還元化処理時間とを共に10分間とした場合の引き剥がし強さ0.49kN/cmと、実施例1における引き剥がし強さ0.50kN/cmとの対比から、実施例で用いた表2に示す組成の触媒溶液を用いると、液温を45℃として触媒化処理時間を3分間程度に設定すれば、還元化処理時間を適切に設定することで、実用上十分な密着性を備える銅皮膜が得られることが確認できた。
比較例
比較例では、実施例で用いた触媒溶液のpHを、塩酸を用いて1.0、3.0、5.0に調整した触媒溶液CE1、触媒溶液CE3、触媒溶液CE5を用いた以外は、実施例1と同様にして表1に記載の工程を実施することとした。しかし、触媒溶液CE1、触媒溶液CE3、触媒溶液CE5のいずれを用いた場合においても、還元化処理を施した還元化COP試片の表面状態は、前処理COP試片の表面と変わりがなかった。そして、この還元化COP試片を無電解銅めっき工程に投入しても銅皮膜が形成されなかったため、その後の水洗を施した段階で試験を中止した。
<実施例と比較例との対比>
比較例では、用いた触媒溶液のpHが酸性側である点だけが実施例と異なっているにも関わらず、実施例1と同様の処理条件を採用した無電解銅めっき工程で銅被膜を形成することができていない。そして、その理由は、還元化COP試片の表面状態から、銅触媒核が形成されていないためであると考えられる。即ち、比較例で調製した触媒溶液CE1、触媒溶液CE3、触媒溶液CE5は、pHを酸性側としただけで触媒溶液としての機能を果たせていない。従って、触媒溶液として機能するためには、触媒溶液が中性領域からアルカリ側のpH領域にあることが必須であることが確認できた。
本件発明に係る触媒溶液は、無電解めっき法で良好な触媒化作用を発揮する。そして、イオンが主体の触媒溶液は低粘度であり、プリント配線板のビアホール等の内部においても、主要成分の濃度均一性の維持が容易であり、高アスペクト比のビアホールに対しても均一な触媒化処理が可能である。そして、触媒溶液が含む銅イオンが第一銅イオンであることから、本件発明に係る触媒溶液を電解銅めっき用途に用いれば、非シアン浴でも高い電流効率が達成できる。

Claims (13)

  1. 無電解めっき法の触媒化処理で用いる触媒溶液であって、
    第一銅イオン及び次亜リン酸イオン並びに塩素イオンを含み、pHが6.0〜8.5であることを特徴とする触媒溶液。
  2. 前記第一銅イオンの濃度が0.5g/L〜100g/Lであり、前記次亜リン酸イオンの濃度が、次亜リン酸ナトリウム(NaPH2O2)として10g/L〜100g/L、塩素イオンの濃度が5g/L〜200g/Lである請求項1に記載の触媒溶液。
  3. 前記次亜リン酸イオンの濃度と前記第一銅イオンの濃度との比[(次亜リン酸イオン濃度)/(第一銅イオン濃度)]の値が1〜20である請求項1又は請求項2に記載の無電解めっき用の触媒溶液。
  4. 無機還元剤及び有機還元剤から選択される1種又は2種以上の還元剤を含み、当該還元剤の合計還元基当量と前記第一銅イオン当量との比[(合計還元基当量)/(第一銅イオン当量)]値が1〜10である請求項1〜請求項3のいずれかに記載の触媒溶液。
  5. 前記有機還元剤がL−アスコルビン酸、アミンボラン、ジメチルアミンボラン、水素化ホウ素、ギ酸、ホルムアルデヒド、ハイドロキノンから選択される1種又は2種以上である請求項4に記載の触媒溶液。
  6. 請求項1〜請求項5のいずれかに記載の触媒溶液の調製方法であって、
    以下の工程A〜工程Cを含むことを特徴とする触媒溶液の調製方法。
    工程A: 次亜リン酸塩水溶液と塩化第二銅水溶液とを混合して、第一銅イオン含有水溶液を調製する工程。
    工程B: 前記第一銅イオン含有水溶液に塩化ナトリウムを添加して塩素リッチ第一銅イオン含有溶液を調製する工程。
    工程C: 前記塩素リッチ第一銅イオン含有溶液に塩酸又は水酸化ナトリウムを添加してpHを調整し、触媒溶液を調製する工程。
  7. 以下の工程Dを含む請求項6に記載の触媒溶液の調整方法。
    工程D: 前記塩素リッチ第一銅イオン含有溶液に還元剤を添加する工程。
  8. 請求項1〜請求項5のいずれかに記載の触媒溶液を用いて被めっき物の表面に金属皮膜を形成する無電解めっき法であって、
    以下の工程a〜工程dを含むことを特徴とする無電解めっき法。
    工程a: 被めっき物の表面をコンディショニング処理し、前処理被めっき物を得る前処理工程。
    工程b: 前記前処理被めっき物を前記触媒溶液を用いて触媒化処理し、触媒化被めっき物を得る触媒化処理工程。
    工程c: 前記触媒化被めっき物を還元化処理し、還元化被めっき物を得る還元化処理工程。
    工程d: 前記還元化被めっき物を無電解めっき液と接触させて無電解めっきを施し、金属皮膜を形成した金属皮膜付被めっき物を得る無電解めっき工程。
  9. 前記コンディショニング処理では界面活性剤を0.01g/L〜10g/L含むコンディショニング剤を用い、前記被めっき物を、液温25℃〜60℃で1分間〜20分間接触処理する請求項8に記載の無電解めっき法。
  10. 前記工程aでコンディショニング処理後に実施するプレディップ処理では、塩化ナトリウム濃度が10g/L〜200g/Lの水溶液であるプレディップ剤と被めっき物とを、室温で1分間〜10分間接触処理する請求項8又は請求項9に記載の無電解めっき法。
  11. 前記工程bで実施する触媒化処理は、前処理被めっき物を、液温が10℃〜80℃の触媒溶液で0.1分間〜120分間接触処理する請求項8〜請求項10のいずれかに記載の無電解めっき法。
  12. 前記工程cで実施する還元化処理は、ジメチルアミンボラン、水素化ホウ素、ホルムアルデヒド、ヒドラジンから選択される1種以上の還元剤を含む還元化処理液を用い、前記触媒化被めっき物を、室温で1回又は複数回接触処理する請求項8〜請求項11のいずれかに記載の無電解めっき法。
  13. 請求項8〜請求項12のいずれかに記載の無電解めっき法を用いて形成した金属皮膜を備えることを特徴とする金属層付被めっき物。
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