以下、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。本発明の実施形態のモータを図1に示す。A01、A02、A03、A04、A05、A06はステータ磁極であり、ステータ磁極の数Mは6である。A07、A08、A09、A0A、A0B、A0Cは、ステータ磁極に挟まれた各スロットである。A0DとA0GはA相巻線であり破線で示すA0Lはコイルエンド部の巻線経路を示している。巻線経路A0Lは円状のバックヨークの片側に配置しているが、半分ずつ両側へ配置することもできる。各相の巻線には、電流のシンボルで示しているように、そのシンボルの方向の片方向電流を通電して制御する。則ち、交流ではなく、直流電流制御である。この巻線は、電気角180°ピッチで全節巻で巻回し、それぞれ1個のスロットに集中して巻回しているので集中巻きである。A0FとA0JはB相巻線であり破線で示すA0Mはコイルエンド部の巻線経路を示している。A0HとA0EはC相巻線であり破線で示すA0Nはコイルエンド部の巻線経路を示している。
A0Zはロータ軸である。ロータはA0Kで示す突極状のロータ磁極を円周上に4個等間隔に配置している。ロータ磁極の数Kは4である。図1ではステータ磁極とロータ磁極の円周方向幅は、共に、電気角で30°の例を示している。A相の正の巻線中心からロータ磁極の反時計回転方向の端部までの角度をロータ回転位置θrとする。
ここで、本発明で記述するモータのモデル形式に関する呼称方法について定義する。ステータ磁極の数Mで、ロータ磁極の数Kの場合、MSNRと呼称することとする。具体的な例として、ステータ磁極の数M=6で、ロータ磁極の数K=4の場合、モータのモデル形式を6S4Rと呼称することとする。
図1のロータ回転位置θrで反時計回転方向CCWのトルクTを生成する場合、巻線シンボルの通り、A相巻線A0Dへ紙面の表側から紙面の裏側へ、A相巻線A0Gへ紙面の裏側から紙面の表側へ直流電流Iaを通電し、C相巻線A0Hへ紙面の表側から紙面の裏側へ、C相巻線A0Eへ紙面の裏側から紙面の表側へ直流電流Icを通電することにより、太線の矢印A0Pで示す磁束が誘起され、ロータに反時計回転方向のトルクが生成する。この時、B相巻線A0F、A0Jへは電流Ibを流さない。また、太線の矢印A0Pで示す磁束と直角な方向、すなわち、ステータ磁極A02、A03とA05、A06の方向へは、電流IaとIcの起磁力が相殺しているので、磁束が発生しない。電流IaとIcの大きさが異なる場合は、その差分に比例した起磁力が作用するので、矢印A0Pで示す磁束と直角な方向へ磁束が誘起する。
A相、B相、C相の巻線の各電流Ia、Ib、Icに通電する制御装置の例を図2、図3に示す。各巻線の電流は直流であり、片方向電流なので、例えば、図2のように簡素な構成のインバータ(電流制御手段)とすることができる。561、562、563はそれぞれA相、B相、C相の巻線、564、565、566は電流を通電するトランジスタ、567、568、569はダイオードである。ダイオード567、568、569により集めた回生電流はコンデンサ56Cへ充電し、DC−DCコンバータであるトランジスタ56A、チョークコイルLdcc、ダイオード56Bにより電圧変換して直流電源53Aへ充電する。このDC−DCコンバータは良く使用されている一般的な構成であり、コンデンサ56Cへ充電された電荷をトランジスタ56AによりチョークコイルLdccへ電流Ircを通電し、この状態でトランジスタ56Aをオフする。この時、チョークコイルLdccにたまった磁気エネルギーは、ダイオード56Bを使用して電流Ircの形で直流電源53Aへ充電することが出来る。VMは直流電源53Aの電圧である。このようにしてモータの運動エネルギー、モータの磁気エネルギーを回生し、効率良く直流電源53Aへ回生する。
なお、図2の回生電圧VHは、求められる回生特性に応じて設定することが可能である。特に、多極の本発明モータを高速で回転し使用する場合、電流を減少する時間の短縮が必要となる。電流の減少は巻線の磁気エネルギーの回生を意味し、前記回生電圧VHが大きいほど電流減少時間を短縮できる。また、前記DC−DCコンバータ等の変形も可能である。各トランジスタを保護するスナバ回路、逆方向電流阻止用のダイオードの追加なども必要に応じて行うことができる。
他の例として、図3は6個のトランジスタで3個の巻線の電流Ia、Ib、Icを制御するインバータである。84Dは直流電圧電源である。図1のA相巻線、B相巻線、C相巻線は図3の巻線87D、87E、87Fに相当する。例えば、巻線87Dへ電流を流す場合はトランジスタ871と872を制御して直流電圧の印加、回生、フライホイールの制御が可能である。877、878のダイオードは、巻線87Dへ電流を通電中に、両トランジスタ871、872をオフすることにより、巻線87Dのエネルギーを電源へ回生することができる。この時片方のトランジスタ、例えばトランジスタ872だけをオンすれば、巻線87D、トランジスタ872、ダイオード878のループでフライホイール電流を流すこともできる。B相巻線87E、トランジスタ873、874、ダイオード879、87Aについても同様な制御ができる。C相巻線87F、トランジスタ875、876、ダイオード87B、87Cについても同様な制御ができる。ただし、各3相巻線へは片方向の電流しか通電できない。また、モータの都合などにより各トランジスタへ負の電圧が印加される恐れがある場合は、図2のダイオード56Dに示すような保護ダイオードを、各トランジスタへ追加しても良い。本発明で他に示す片方向電流駆動用のインバータについても同様である。
また、図3のインバータにおいても、電流の減少時間を短縮するため、各ダイオードの接続先の電源を直流電源84Dとは別の電源とし、回生電圧を大きくすることも可能である。
次に、ロータの回転位置θrと各相巻線へ通電する電流について、反時計回転方向へ回転する場合の例を図4に示し説明する。図4の(a)は、図1と同じ回転位置θr=30°であり、前記のように、A相巻線A0D、A0GとC相巻線A0H、A0Eへ直流電流IaとIcを通電し、矢印で示す磁束を誘起し、反時計回転方向CCWのトルクTを発生する。この時、B相巻線A0F、A0Jへは通電しない。なお、図4の(a)の紙面で水平方向、すなわち、B相巻線A0FからA0Jの方向への起磁力は、前記電流IaとIcとが逆方向に作用し、相殺しているので、水平方向の磁束は励磁されない。また、この時、B相電流Ibは零であるが、B相巻線の電圧Vbは、矢印で示す磁束φがB相巻線に鎖交しており、電圧Vb=Nw×dφ/dtが発生する。ここで、Nwは巻線の巻回数である。
図4の(b)は、回転位置θr=45°であり、A相巻線A0D、A0GとB相巻線A0F、A0Jへ直流電流IaとIbを通電し、矢印で示す磁束φを誘起し、反時計回転方向のトルクTを発生する。C相巻線A0H、A0Eへは通電しない。
図4の(c)は、回転位置θr=60°であり、A相巻線A0D、A0GとB相巻線A0F、A0Jへ直流電流IaとIbを通電し、矢印で示す磁束を誘起し、反時計回転方向のトルクTを発生する。C相巻線A0H、A0Eへは通電しない。
図4の(d)は、回転位置θr=30°であり、B相巻線A0F、A0JとC相巻線A0H、A0Eへ直流電流IbとIcを通電し、矢印で示す磁束を誘起し、反時計回転方向のトルクTを発生する。A相巻線A0D、A0Gへは通電しない。このように、ロータ回転位置θrにより通電する巻線を変えながら、連続的に回転トルクを得ることができる。トルク発生は、磁気的にロータ磁極を吸引するステータ磁極の円周方向の両側のスロットの巻線へ決められた方向の電流Ia、Ib、Icを通電することにより、ステータ磁極とロータ磁極の間に磁束φを発生させ、回転トルクTを得ている。
この時、特徴的なことは、各巻線の電流Ia、Ib、Icが片方向電流で、かつ、各巻線とその電流が2つの異なる電磁気的作用に関わっていて兼用していることである。そして、2つの巻線が2つの独立した電力の供給経路となっていて、それぞれの巻線が独立して同時に直流電源からモータへ電力を供給している。各巻線が2個のステータ磁極の駆動に兼用できるということは、その巻線の電流を駆動するパワートランジスタも兼用できるということでもある。また、リラクタンストルクは、磁束の方向に関係なく同一方向の吸引力を発生する特徴も活かしている。これらの結果、後に示す、モータの小型化、制御装置のパワートランジスタの電流容量の低減を可能としている。そして、これらの特徴は、図1に示したモータ以外の後に示す他のモータ形式へも適用できる。
なお、本発明のモータは、両方向へ電流を通電できる両方向電流制御手段でも、当然、制御することができ、本発明は両方向電流制御手段を排除するものではない。後で述べるように、正負の両方向の電流を通電することにより、平均モータ出力トルクの向上、モータのピーク出力トルクの向上、モータの定出力特性の改善などが可能な場合もある。
次に、このモータの発生するトルクTについて定性的に考える。自動車用のモータにおいて、通常運転においてはモータに求められるトルクは最大トルクの1/2以下であって、最大トルクを使用する頻度は低く、最大トルク時のモータ効率はさほど問題にならない用途が少なからずある。このような用途でのモータの小型化、低コスト化は、最大トルクの特性が重要である。
今、トルク特性について、ステータの歯とロータの突極が相互に対向している部分の軟磁性体が磁気飽和していない線形動作領域Aaと磁気飽和している非線形動作領域Asとに分けて、図1のモータモデルで、ロータ回転位置θr=30°近傍で考える。
軟磁性体の磁気的な線形動作領域Aaで、磁束密度をBx、各相の巻線巻回数Nw、A相巻線とC相巻線のそれぞれに通電する電流Ix、1相の巻線の電圧Vx、磁束密度の比例係数Kb、モータのロータ軸方向の厚みtc、ロータの回転角速度ωr、ロータ半径Rとすると、磁束密度Bxと鎖交磁束φは、概略的に、次式(1)〜(5)で与えられる。ただし、図1のA相電流IaとC相電流Icが一定でB相電流Ibが零とした条件である。時間はtで示す。
ωr=dθr/dt (1)
Vx=Nw×dφ/dt (2)
=Nw×dφ/dθr×dθr/dt (3)
=Nw×dφ/dθr×ωr (4)
Bx=Kb×Ix×Nw (5)
(4)の電圧式に表れる鎖交磁束φのロータ角度変化率dφ/dθrは、次式(6)及び(7)となる。
dφ/dθr≒Δφ/Δθr
=(tc×ωr×Δt×R×Bx)/(ωr×Δt)
=(tc×ωr×Δt×R×Kb×Ix×Nw)/(ωr×Δt) (6)
=tc×R×Kb×Ix×Nw (7)
この時、入力電力Pinは、巻線抵抗Raを零、鉄損Pfeを零、モータの機械損を零と仮定し、ロータとステータとの間のエアギャップは十分小さいとし、次式(8)となる。
Pin=2×Vx×Ix=2×Nw×dφ/dt×Ix (8)
ここで、係数の2は、A相巻線とC相巻線で電力を供給するので、片側の巻線の電力を計算し、2倍しているものである。
また、機械的な出力Poutは次式(9)となる。
Pout=T×ωr (9)
従って、これらの式から、線形動作領域AaにおけるモータのトルクTは次式(10)で与えられる。
T=2×Nw×dφ/dt×Ix/ωr
=2×Nw×dφ/dθr×dθr/dt×Ix/ωr
=2×Nw×(tc×R×Kb×Ix×Nw)×ωr×Ix/ωr
=2×Nw×tc×R×Kb×Nw×Ix2 (10)
線形動作領域AaでのトルクTは、磁束密度の比例係数Kbに比例し、電流Ixの二乗に比例する値となる。
図5に、図1などのリラクタンスモータの電流IxとトルクTの特性例を示す。図示する太線の特性Trmが代表的なトルク特性である。この図の原点から動作点Tnの領域は、モータの軟磁性体が磁気的にほぼ線形な領域で、電流とトルクが2次関数に近い特性となり、式(10)で示されるような領域である。動作点Tnからトルク飽和点Tsの領域の特性は、ステータ磁極とロータ磁極とが対向しているエアギャップ部近傍が2.0Tでその近辺の軟磁性体が磁気飽和に近い磁性領域であり、次に説明する領域である。動作点Tsより電流が大きい領域は、エアギャップの近傍だけでなく、バックヨークなどのモータ磁路のどこかが磁気飽和する領域である。このモータ磁路の磁気飽和領域では、電気エネルギーをモータの前記エアギャップ部に与えることが困難になっている領域でもある。
図5の特性Tgsは、ステータ磁極とロータ磁極とが対向しているエアギャップ長を特性Trmのモータより1/2程度に小さくした特性である。このエアギャップ長を零に近ずけると特性Tgzに近づく特性となる。また、特性Tspmは、図117に示すような表面磁石形の同期モータのトルク特性で、例えば、ネオジム、鉄、ボロンNdFeB系の永久磁石で1.2T程度に動作する例である。この磁束密度は、1.2T程度と軟磁性体の2.0Tより小さいが、永久磁石表面の磁束に位置依存性があり、各巻線の鎖交磁束φの回転変化率dφ/dθrは2倍に作用するので、特性Tgzより急勾配の特性となるように設計できる。例えば、ネオジム、鉄、ボロンNdFeB系の永久磁石の平均磁束密度が1.0Tの場合、図5の特性TspmとTgとは同じ勾配となる。これらの特性の勾配は、モータ設計の自由度がある。
一方、前記エアギャップ部近傍の軟磁性体が磁気飽和している非線形動作領域AsでのトルクTについて、飽和磁束密度をBsatとして求める。図5のトルク特性で動作点TnからTsの領域である。鎖交磁束φのロータ角度変化率dφ/dθrは次式(11)となる。
dφ/dθr≒Δφ/Δθr
=(tc×ωr×Δt×R×Bsat)/(ωr×Δt)
=tc×R×Bsat (11)
トルクを発生している巻線の電圧Vxは、次式(12)で与えられる。
Vx=Nw×dφ/dt
=Nw×dφ/dθr×dθr/dt
=Nw×tc×R×Bsat×ωr (12)
モータの入力Pinおよび出力トルクTは次式(13)及び(14)となる。
Pin=2×Vx×Ix=T×ωr (13)
=2×Nw×tc×R×Bsat×Ix×ωr (14)
トルクTは次式(15)で与えられる。
T=2×Nw×Vx×Ix/ωr
=2×Nw×tc×R×Bsat×ωr×Ix/ωr
=2×Nw×tc×R×Bsat×Ix (15)
軟磁性体の非線形動作領域AsでのトルクTは、飽和磁束密度Bsatと電流Ixに比例した値になる。図5のトルク特性では、動作点TnからTsの領域である。当然、この最大トルクTは各相の巻線巻回数Nw、モータのロータ軸方向の厚みtc、ロータ半径Rにも比例する。この結果から、モータの小型化、低コスト化を行うための重要な特性であるモータの最大トルクの特性は、飽和磁束密度Bsatに大きく依存することが定性的に推測できる。ただし、(11)式が成り立つ条件として、ステータとロータが対向する部分以外での磁気飽和は無いこと、図1のロータA0Kの円周方向の空間部の漏れ磁束密度が軟磁性体部の磁束密度に比較して十分に小さいことという条件が必要である。これらの条件については、比較するモータで同等であると仮定する。
また、各巻線に関わる磁気エネルギEwは、それぞれが次式(16)で表される。
Ew=1/2×Nw×φ×Ix (16)
例えば、図4の(a)の状態で、A相電流IaとC相電流Icが同じ値の電流Ixであるときには、A相巻線とC相巻線に(16)式のエネルギーが存在し、2巻線なので、モータ全体の磁気エネルギーは(16)式の2倍の磁気エネルギーとなる。この磁気エネルギーは電流を増加、減少するときに必要な電圧、電流、時間を計算するために必要となる。
モータの最大トルクは、モータとして動作する飽和磁束密度Bsatが重要であり、図1のリラクタンスモータの動作点では最大の磁束密度を利用していると言える。通常の電磁鋼板で構成すれば、2T(テスラ)程度の磁束密度を活用することができる。図117に示す従来の表面磁石形の3相交流同期モータと比較して説明する。この永久磁石をネオジム、鉄、ボロンNdFeB系の構成の高性能磁石と仮定し、平均磁束密度が1Tとすると、図117のステータの各歯の磁束密度は限界の2Tとなる。図117のモータのトルク発生に作用する磁束密度はステータの歯とスロットの平均磁束密度で作用するので、おおよそ、歯の飽和磁束密度Bsatの1/2である1Tで作用しており、図1のモータに比較し磁束密度の点では低い値となっている。しかし、図117の表面磁石形モータの各巻線の鎖交磁束の回転変化率は、図1のリラクタンスモータに比較し、2倍となる。2倍となる理由は良く知られているように、永久磁石の磁束は位置依存性が高く、リラクタンスモータは軟磁性体の範囲で磁束が自由に移動できることに起因する。結論として、図1に示すリラクタンスモータのトルクは図117に示す表面磁石形の3相交流同期モータに比較し、磁束密度の点では2倍だが、磁束の位置依存性の点では1/2となるので、合計では同等の値となると言える。ここで、ステータとロータ間のエアギャップは十分に小さく、図1のリラクタンスモータの励磁負担は小さいものと仮定している。また、図1のモータモデルで、ロータ回転位置θr=30°近傍でモータの最大トルクを出力する時、軟磁性体の飽和磁束密度Bsatの限界まで使用しているとも言える。
次に図1に示すモータの駆動アルゴリズムについて図4に示し説明する。図4の(a)は図1と同じ位置であり、各電流Ia、Ib、Ic、磁束φ、トルクTは前記の通りであり、反時計回転方向のトルクTを発生する。次に、図4の(b)の回転位置θr=45°まで回転すると、A相電流IaとB相電流Ibとを通電することにより反時計回転方向CCWのトルクTを発生する。さらに図4の(c)の回転位置θr=60°の近辺でも、A相電流IaとB相電流Ibとを通電することにより反時計回転方向のトルクTを発生する。そして、図4の(d)の回転位置θr=75°まで回転すると、B相電流IbとC相電流Icとを通電することにより反時計回転方向のトルクTを発生する。以下同様に、図6に示すように、ロータの回転位置θrに応じて各相の電流Ia、Ib、Icを制御することにより連続的に回転トルクを発生し、回転することができる。反時計回転方向および時計回転方向の駆動が可能であり、また、力行、回生が可能である。
図1、図4に示すモータの電流Ia、Ib、IcとトルクTa、Tb、Tc、Tmの関係を図6に示す。図6の(A)は図1の巻線A0DとA0Gへ通電するA相電流Iaである。図6の(C)は図4の巻線A0FとA0Jへ通電するB相電流Ibである。図6の(E)は図4の巻線A0HとA0Eへ通電するC相電流Icである。図6の(B)は図4のステータ磁極A01とA04がロータへ与えるトルクTaである。図6の(D)は図4のステータ磁極A03とA06がロータへ与えるトルクTbである。図6の(F)は図4のステータ磁極A05とA02がロータへ与えるトルクTcである。図6の(G)はトルクTa、Tb、Tcを加えた値で、ロータの回転トルクTmである。図1のモータモデルは理解が容易なように、ステータ磁極とロータ磁極の円周方向幅を30°で作図しているので、各ステータ磁極が発生するトルクが他の相へ移行する部分でトルクが低下するトルクTmとなっている。ステータ磁極とロータ磁極の円周方向幅を30°より大きくすることにより、トルクの乗り継ぎ部分のトルク低下を低減することができる。
各相電流の通電、制御方法の基本的な例を図6に示した。しかし、必ずしもこの方法に限定されるわけではなく、各電流の位相、各電流の大きさなどを修正して、さらに効果的に駆動することもできる。例えば、ある程度以上の高速回転では各電流の増加、減少応答遅れが問題となるので、各相電流の位相を早めることは効果的である。巻線に同一の電流が流れている状態でも、回転位置によって磁束φの大きさが異なり、(16)式で示される磁気エネルギが異なる。また、各巻線に誘起する電圧は回転と共に発生する。従って、電流の増加は、磁気エネルギが小さく、巻線に正の電圧が誘起していない区間で電圧を印加すれば、電流の増加を早めることができる。その意味で、各電流の位相を進めることは、電流の応答遅れを改善するために効果的である。
また、巻線に正確な電圧を正確な時間に与えるために、各巻線の鎖交磁束を推定計算し、巻線の電圧を計算し、正確な電圧をフィードフォワード制御により与えることができる。正確で、高速な応答の電流制御ができる。この制御方法については後に示す。
また、各ステータ磁極の磁束は電磁気上、基本の考え方は、トルクを発生させる対象とするステータ磁極の円周方向両隣の2個のスロットに、それぞれ逆方向の向きの電流を通電するものであるが、電流の大きさが異なっていても良く、また、3個の巻線全てに電流を通電しても良い。
また、図6でのA相電流Iaは、15°から75°まで一定電流を流し、75°から105°までは電流を零とし、以下同様のサイクルとなっている。B相電流IbはA相電流Iaに対して位相が30°遅れた関係となり、C相電流IcはB相電流Ibに対して位相が30°遅れた関係となっている。同時に2つの相の電流が流れるような関係となっていて、一つの相の電流が減少する時、他の一相の電流が増加する関係となっている。
また、原理的な考え方の他の1方法は、図6の破線で示すように、例えば15°の点で電流IaとIcを増加して通電し、45°の点で電流IaとIcを零Aに減少し、直後に電流IbとIa増加して通電し、75°の点で電流IbとIaを零Aに減少し、直後に電流IcとIb増加して通電し、105°の点で電流IcとIbを零Aに減少し、直後に電流IaとIc増加して通電し、135°の点で電流IaとIcを零Aに減少し、以下同様に通電することにより一定のトルクで反時計回転方向へ回り続けることができる。このようなアルゴリズムであれば、意図した方向の磁束だけが誘起される。なお、図6の破線で示す、一時的な電流の減少は、電流が零になるまで減少させるのではなく、その途中までの減少でもその効果が得られる。また、この時、ある回転以上の高速回転では、電流の応答性を向上するために、図6に示す電流位相より早める必要がある。
また、これらと異なる方法として、1相の電流だけを通電した場合には、2つの経路に磁束が誘起するような状態が発生し、動作が複雑となる。また、3相の巻線に電流を通電した場合にもそれらの電流の大きさにより種々の電磁気的作用を作り出すことができる。逆にそれらの種々の電磁気的作用を組み合わせてトルク発生することもできる。
次に、図1に示すモータがCCWへ回転している場合に、ブレーキをかける、すなわち、回生制動を行う場合の動作について、図7、図8に示し、説明する。なお、トルクは電流にのみ依存し、回転方向、回転速度とは原理的に関係が無い。回転方向とトルク方向が一致していれば力行であり、回転方向とトルク方向が逆であれば回生の動作である。
図7、図8のモータの電流Ia、Ib、Ic、ロータ回転角θrおよびトルクTa、Tb、Tc、Tmは、図1、図4、図6と同じである。図7の(a)のθr=60°では、ロータはCCWへ回転していて、CCWのトルクを発生するためには、A相巻線A0D、A0GへA相電流Iaを通電し、同時に、C相巻線A0H、A0EへC相電流Icを通電し、矢印で示す磁束を誘起してCW方向のトルクTを発生する。回転方向とトルクの発生方向とが逆方向であり、回生制動である。次に、図7の(b)の回転位置θr=75°まで回転すると、A相電流IaとB相電流Ibとを通電することによりその後のCWのトルクTを発生する準備をする。その回転角θr=75°から105°までは、図7の(c)の回転位置θr=90°に代表されるように、A相電流IaとB相電流Ibとを通電することによりCWのトルクTを発生する。そして、図4の(d)の回転位置θr=105°まで回転すると、B相電流IbとC相電流Icとを通電することにより、回転位置θrが105°から135°までの間CWのトルクTを発生するための準備をする。以下同様に、ロータの回転位置θrに応じて各相の電流Ia、Ib、Icを制御することにより連続的に回転トルクを発生し、回生制動を行うことができる。
図7に示したロータ回転位置θrと電流Ia、Ib、IcとトルクTの関係を図8に示す。ロータはCCWへ回転していて、CCWのトルクを発生する時の各相の電流Ia、Ib、IcとトルクTa、Tb、Tcである。なお、図8では、トルクTa、Tb、Tc回生トルクなので負の値で示している。また、図8の電流およびトルクは、図6で示した力行時のタイミングに比較して30°遅れた関係となっている。その理由は、図1のモータのCCWトルクの発生する角度とCWトルクの発生する角度とが30°ずれているためである。図8の(A)は図7のA相巻線A0DとA0Gへ通電するA相電流Iaである。図8の(C)は図7のB相巻線A0FとA0Jへ通電するB相電流Ibである。図8の(E)は図7のC相巻線A0HとA0Eへ通電するC相電流Icである。図8の(B)は図7のステータ磁極A01とA04がロータへ与えるトルクTaである。図8の(D)は図7のステータ磁極A03とA06がロータへ与えるトルクTbである。図8の(F)は図7のステータ磁極A05とA02がロータへ与えるトルクTcである。図8の(G)はトルクTa、Tb、Tcを加えた値で、ロータ全体の回転トルクTmである。
図7のモータモデルは理解が容易なように、ステータ磁極とロータ磁極の円周方向幅を30°で作図しているので、各ステータ磁極が発生するトルクが他の相へ移行する部分でトルクが低下するトルクTmとなっている。ステータ磁極とロータ磁極の円周方向幅を30°より大きくすることにより、トルクの乗り継ぎ部分のトルク低下を低減することができる。また、各相の電流は図8で示す各相の電流位相より少し早めの位相で増減した方が、各巻線に誘起する電圧の影響で、各相電流の増加および減少を早めることができる。また、ステータ磁極、ロータ磁極の特性にもよるが、図8に破線で示す様に、常に2相の電流が増減するように制御しても良い。
この図1に示すモータとその制御装置の大きな特徴は、各巻線電流が直流であること、各巻線の電流が隣接する両隣のステータ磁極のトルク発生に寄与できる構成で兼用していること、3個の直流電流の増減で時計回転方向CWと反時計回転方向CCW及び正トルクと逆トルクの4象限運転が可能なことである。
これらの特性は、モータ構成と制御装置構成が密接な関係となっていて、インバータの小型化を実現することができる。図2の制御装置の場合の例を挙げて説明する。直流電源53Aの電圧が200Vで、各トランジスタの電流容量が10Aであると仮定する。今、図1に示すモータのロータがある回転数ωrで回転していて、図4の(a)に示す回転位置θr=30°にさしかかった回転位置であり、A相巻線A0D、A0Gすなわち巻線561とC相巻線A0H、A0Eすなわち巻線563のそれぞれの巻線へ10Aの電流が通電されると仮定する。この時、ステータ磁極と対向するロータ磁極との間の磁束密度は、10Aの電流により磁気飽和していて飽和磁束密度である約2.0Tであるものとする。A相巻線とC相巻線の電圧Vxは(12)式で示される。ここで、図4の(a)に図示して示されるように、A相巻線とC相巻線の鎖交磁束φは同じ値であり、鎖交磁束φの回転変化率dφ/dtも同じ値である。そして、(12)式で表される電圧が丁度200Vであると仮定する。この時、インバータの出力であり、モータの入力出もある電力P1は、次式(17)となる。
P1=(200V)×(10A)×(2巻線) (17)
=4000 [ W ]
一方、図119に示すインバータは従来の3相交流インバータであり、通常良く使用されている。そして、このインバータに接続した3相交流モータを星形結線したものとについて、その最大出力について検証する。直流電源84Dの電圧は200Vとし、各トランジスタの電流容量は10Aとする。例えば、U相巻線834からV相巻線835へ200Vを印加し、最大電流10Aを通電したと仮定すると、その時の出力P2は次式(18)及び(19)となる。
P2=(200V)×(10A) (18)
=2000 [ W ] (19)
なお、U相巻線834からV相巻線835とW相巻線836とへ半分ずつ通電する場合もおおよそ同程度の電力供給である。すなわち、図119のシステムにおいて、モータ巻線の誘起電圧が直流電源84Dに近い値の時で、使用しているトランジスタの最大電流と3相正弦波電流のピーク電流とが同じになる程度に3相正弦波電流を通電すると、3相電流の位相に関わらず、おおよそ同程度のモータ出力が得られる。
図1のモータと図2の制御装置の組み合わせと図119の通常の3相交流モータとインバータとを比較すると、3個のトランジスタで4000Wの出力と6個のトランジスタで2000Wの出力であり、トランジスタ1個あたりの出力を比較すると、4倍となる。同一出力の条件で比較すると、図1のモータと図2の制御装置は、半分のトランジスタ数の3個で済み、かつ、トランジスタの電流容量は半分の5Aで、同一出力の2000Wを出力できることになる。
なおここで、図2の構成では、トランジスタ56Aなどで構成するDC−DCコンバータが必要であり、トランジスタ564、565、566の耐電圧は200Vより大きな値が必要であることには注意を要する。
自動車用のバッテリ電圧12Vで自動車の補機用のモータは、通常50個から100個以上も使用されている。図2のDC−DCコンバータを複数のモータで共用し、各モータの駆動をそれぞれ3個のトランジスタで駆動する場合、駆動装置を大幅に簡素化できる。
また、電気自動車、ハイブリッド自動車等において、自動車駆動用に2個以上のモータが使用されることも多い。通常、市街地走行モードでの燃費、即ち駆動効率が問題とされる。自動車の種類にもよるが、市街地走行モードではモータの最大トルクの1/2以下であることが多い。従って、回生時のモータ側発電容量、即ち、回生容量は急加速時の最大出力容量に比較して1/2以下の容量で十分である。自動車が急減速しなければならないときには、安全上の観点でも、機械式のブレーキ機能を併用して使用すれば良いと考えることが出来る。その様な観点で、図2に示すようなDC−DCコンバータは、複数のモータで共用することが可能であり、1台のモータ駆動用の駆動回路は、3個のトランジスタ564、565、566と3個のダイオード567、568、569であると見ることが出来る。従って、図2の破線に示すインバータはトランジスタ3個とダイオード3個でモータを1台駆動することが可能な簡素なインバータであり、低コスト化が可能である。同時に、電流の順方向電圧降下、回生時のダイオードでの電圧降下も、図119に示すような通常の3相交流インバータに比較すると、約l/2であり、効率が良く、発熱が少ないという点でもインバータの小型化が可能である。
次に、図3に示す制御装置の場合について説明する。直流の3相インバータである。84Dは直流電圧源である。87DはA相巻線でトランジスタ871と872で駆動する。87EはB相巻線でトランジスタ873と874で駆動する。87FはC相巻線でトランジスタ875と876で駆動する。そして、各巻線の前後には回生用のダイオードを取り付けている。図3の制御装置の場合、図2で示したようなDC−DCコンバータは不要となる。
今、直流電圧源84Dの電圧が200Vで、各トランジスタの電流容量が10Aの時、A相巻線とC相巻線に最大電圧、最大電流を出力するとき、最大出力P3は、次式(20)のようになる。
P3=(200V)×(10A)×(2巻線) (20)
=4000 [ W ]
前記の図119の3相交流インバータへ3相交流モータを星形結線で接続した構成では、最大出力P2が2000Wだったので、図1のモータと図3では2倍出力できることになる。同一出力の場合、1/2の電流容量すなわち5Aの電流容量で同程度の出力が可能なことになる。モータシステムとして、この場合にも従来のモータシステムに比較して大幅な低コスト化が可能となる。
図120に示すスイッチトリラクタンスモータなど外観上は似ている部分もあるモータとその制御装置の提案が公知特許あるいは学会発表などで知られているが、インバータの電流容量を1/4あるいは1/2とできる提案は、直流モータシステム以外には無く、本発明のモータと制御装置は今までに存在しないモータシステムである。
なお、直流モータの場合でも、その可変速4象限運転には4個のトランジスタが必要である。そして、その各トランジスタの電流容量は、本発明モータと図3の制御装置で使用するトランジスタの電流容量の2倍の電流容量が必要であり、本発明のモータシステムの制御装置の方が相対的に6/(4×2)=6/8の電流容量となり、低コスト化、小型化が可能である。また、直流モータの場合と、図1の本発明モータと図2の制御装置の組み合わせの場合には、3/8の電流容量となり、さらに低コスト化が可能である。
図1、図2、図3に示すモータシステムは、そのモータ特性からインバータを低コスト化、小型化できることについて説明したが、その他の特徴について以下に説明する。図1のモータは高価な希土類磁石を使用しないので安価であり、希土類金属の資源枯渇問題および価格高騰の問題も無い。図120のスイッチトリラクタンスモータに比較して、スロット内の巻線の太さを2倍にできるので巻線抵抗が小さい。ただし、図1のモータはコイルエンドが長い点が不利である点には注意を要し、ステータコアのロータ軸方向積厚が小さいモータでは多極化によりその負担を軽減する必要がある。図1のモータはロータが堅牢なので、高速回転を使用することが物理的に容易であり、高出力化が可能である。図1のモータのトルクは、ステータ磁極とロータ磁極との間に発生する吸引力を使用するもので、トルク発生原理が簡単であり、比較的トルクリップルの小さな特性を得易く、その点では低振動、低騒音とすることができる。但し、ラジアル方向の吸引力の急激な変動はステータコアの振動を引き起こすので注意を要する。図1のモータはリラクタンスモータなので、永久磁石を使用しておらず、電流を通電しないときにモータ内部で磁束は存在しないので、モータが連れ周りの状態で空転運転にあるときに不要な鉄損を発生することがない。これは、ハイブリッド自動車などに使用されて高速走行中にガソリンエンジンで走行する場合などに発生し、問題となり、重要な特性である。
なお、本発明の例について説明したが、種々の変形、複合が可能である。以下に、各種の変形の例について説明する。まず、図1に示すモータを始め、本発明で図示するモータの形状は1例を示しているので、種々の変形が可能である。ステータ磁極の円周方向幅Htは、例えば、ステータ磁極の数M=6の時、構成の解りやすさのため、Ht=360°/(6×2)=30°として図示しているが、このHtとロータ磁極幅Hrを30°より大きな角度とすることにより、そのステータ磁極がトルクを発生する円周方向幅を大きくすることができる。そして、ロータ磁極幅Hrを30°以上として、電流の切り替え部でより連続的な回転トルクを発生させることができる。
また逆に、各相巻線の電流の増加を容易にするためには、ステータ磁極とロータ磁極とが対向していない回転位置θrでそのスロットの円周方向両隣のスロットの巻線に電流を供給すればよい。その目的のためには、ステータ磁極幅Htとロータ磁極幅Hrが30°より小さい方が都合がよい。結論として、種々の駆動方法により、HtとHrの値を選択が必要であり、いずれの場合も本発明に含むものである。
また、スロットの開口部の広さを小さくし、同期電動機のように駆動することもできる。また、ロータ磁極は円周方向に均等に配置し、その円周方向幅は一定の幅のモデルを図1へ示しているが、トルクリップルを低減するために不均等配置であったり、低速回転での駆動方法と高速回転での駆動方法とを、トルクの発生あるいは振動低減などのために幅の広いロータ磁極と幅の狭いロータ磁極を配置することもできる。
また、ステータ磁極、ロータ磁極の形状についても、図1では単純な突極形状を示しているが、軸方向、円周方向、ラジアル方向に種々変形が可能である。特に、各ステータ磁極とロータ磁極の円周方向両端近傍で、ステータとロータとの間のエアギャップが大きくなるようにラジアル方向に変形することにより、ロータ磁極がステータ磁極にさしかかるときの磁束の急激な変化を低減し、ラジアル方向吸引力の急激な変化による振動、騒音を低減することができる。
また、各相の電流の値についても、図4、図11等に、基本的なアルゴリズムとしてON、OFF的に示しているが、吸引力の差で駆動することができるので、例えば全ての巻線に電流を通電し、各電流の差でトルクを発生させることもできる。すなわち、図4、図11等で示したA相、B相、C相の各巻線電流Ia、Ib、Icへある重畳電流Isetを重畳させ、加える方法である。前記重畳電流Isetの値は、一定の電流値とする、あるいは、電流振幅値の一定割合の電流値とする、制御条件により規定するなどの種々方法が可能である。また、この重畳電流Isetは、全ステータ磁極の磁束を励磁する界磁電流と考えることもできる。
この重畳電流Isetは、モータ形式により長所、短所がある。例えば、本発明モータの一つの課題はモータの振動と騒音である。この課題の原因の一つは、モータのラジアル方向の吸引力の回転に伴う変化、電流の増減に伴う吸引力の変化である。この点で、各ステータ磁極をある程度励磁しておくことにより、ラジアル方向吸引力の変動を低減し、振動と騒音を低減することができる。また、各巻線電流Ia、Ib、Icの増減時の応答性を改善できる場合もある。
また、モータトルクTは、図4、図11等に示したときに一定トルクで、トルクリップルが零となるわけではない。漏れ磁束、軟磁性体の非線形性などがあるため、モータトルクTは、正確には、各電流値Ia、Ib、Icとロータの電気角の位相角θreに依存した複雑な関数、値となる。従って、モータが一定のトルクTを発生しながら回転するためには、図6、図12に示すような各相電流Ia、Ib、Icにトルク誤差を補正するような電流を加えた電流とする必要がある。
また、各相の電流値はステータ磁極の数M=6でA相、B相、C相の3相である場合について多く記述しているが、3相以上の多相の場合については、相数に応じて各相電流を拡張して考える必要がある。
なお、モータの形態は、2極のモータを図示しているが、例えばモータの外径が100mm以上に大きな場合などは多極化することが多く、例えば8極程度にすれば、全節巻巻線のコイルエンドの長さが1/4程度に短縮で、各相巻線のコイルエンドによる巻線抵抗の増加の割合などその負担を大幅に低減できる。
また、図1等では、コイルエンドの配置はスロットから一つの経路で示しているが、コイルエンドを2分割あるいは3分割して他の同一相のスロットへ巻回しても電磁気的には同一の作用であり、巻線経路を変形することができる。
また、図1等のモータでは、巻線は全節巻で巻線ピッチが180°で、かつ、集中巻きの例について示しているが、多少の変形は可能であり、ほぼ同等の効果が得られ、それらの変形したものも本発明に含むものである。この変形の一つはスロット形状であり、スロットを2個に分割し、分布巻きとすることもできる。巻線は複雑になるがトルクの変動が滑らかになると言う効果、一つの巻線量が多い場合は巻線挿入が容易となるという効果もある。
他の変形例として巻線ピッチも180°に限定するわけではなく、多少は短節巻としても類似の効果が得られる。円周方向に隣接するスロットの各相巻線が相互にオーバラップするように巻線を巻回する場合、巻線は複雑になるが、相電流が切り替わる時に、トルクの変動が滑らかになると言う効果を得ることも可能である。
次に、ステータ磁極の数M=6でロータ磁極の数K=2の本発明の例を図9に示す。説明を容易化するために2極のモータであり、モータのモデル形式は6S2Rである。
ステータ11Fの各スロットには全節巻でかつ集中巻きの各巻線を巻回していて、111と114はA相の巻線、113と116はB相の巻線、115と112はC相の巻線である。各スロットに挟まれた各歯117、118、119、11A、11B、11Cはそれぞれ突極を構成している。歯の先端部の幅はHt、スロットの開口部の幅はHsであり、両幅の和(Hs+Ht)は電気角で60°である。ロータの回転位置をθrで示す。図1のステータに比較してステータ磁極の円周方向幅Htがスロットの開口部の幅Hsより大きな形状としている。
ロータ11Eは軟磁性体で構成された突極形状のロータである。11Dの部分の大半は空間であり、回転時の風損を低減する等の目的等で非磁性体を埋め込むことも可能である。ロータ磁極の幅は図示するようにHmである。
図9のモータは、動作の説明が容易な2極のモータの例を示しているが、他の本発明モータと同様に多極化が可能であり、図10に8極のモータに変形した例を示す。ステータ12Tのスロットは121、122、123、124、125、126、127、128、129、12A、12B、12C、12D、12E、12F、12J、12K、12L、12M、12N、12P、12Q、12R、12Sであり、ロータ12Uは8個の突極12Vを持っている。
次に、図9のモータの作用について、図11の(a)から(f)に図解して説明する。スロットの開口部の幅Hsは20°、ロータ磁極の幅Hmは40°の例である。図12に、水平軸に電気角で表したロータ回転位置θrと各相の電流と各相のトルクを示す。A相の電流はIa、B相の電流はIb、C相の電流はIcである。
図9、図10、図11に示すモータのトルクは、巻線が全節巻でかつ集中巻きであり、ステータの歯117、118、119、11A、11B、11Cがほぼ全周に配置されていることから、トルクを発生させるために少なくとも2個の巻線に電流を流してトルクを生成する。そして、ステータの突極状の歯とロータの突極との間に吸引力を発生させてリラクタンストルクを得る。ステータの歯117と11Aとがロータ磁極11Eとの間に発生するトルクをTa、ステータの歯119と11Cとがロータ磁極11Eとの間に発生するトルクをTb、ステータの歯11Bと118とがロータ磁極11Eとの間に発生するトルクをTcとする。なお、この時、各吸引力は磁束の方向が正の場合も負の場合も同一の吸引力とトルクを発生する点には注意を要する。
ロータが図11の(a)に示すθr=30°の回転位置近傍にあるときには、A相巻線131へは正の電流Iaを流し、反対側のA相巻線134へは負の電流−Iaを流す。同時にC相巻線135へは正の電流Icを流し、反対側のC相巻線132へは負の電流−Icを流す。B相巻線133、136へは電流を流さない。各相の電流Ia、Ib、Icは図12の(A)、(C)、(E)に示す電流である。この状態ではアンペアの法則に従い、ステータの突極11Aから117の方向へ太線の矢印で示す方向にA相電流Ia、C相電流Icの起磁力が作用し、矢印で示す方向、歯11Aから歯117の方向に磁束が誘起される。そして、ロータには反時計回転方向CCWへ図12の(B)に示すトルクTaが発生する。ここで、ステータとロータの軟磁性体部の透磁率は十分に大きく、ステータとロータ間の広い空間部の透磁率は十分に小さく、ステータとロータ間の狭いエアギャップ部の磁気抵抗は十分に小さいと仮定する単純モデルでは、ステータの歯118、119、11B、11Cの近傍に作用する磁界の強さ[ A/m ]はほぼ零で、これらの歯をラジアル方向に通過する磁束はほぼ零で、トルクもほぼ零ある。
ロータがCCWへ回転し、図11の(b)に示すθr=50°の回転位置近傍まで回転すると、C相巻線135へ正の電流Icを流しC相巻線132へは負の電流−Icを流す。同時にB相巻線133へ正の電流Ibを流し、反対側のB相巻線136へは負の電流−Ibを流す。A相巻線131、134へは電流を流さない。この状態ではアンペアの法則に従い、ステータの突極118から11Bの方向へ太線の矢印で示す方向にB相電流Ib、C相電流Icの起磁力が作用し、矢印で示す方向に磁束が誘起される。そして、ロータはCCWへ図12の(F)に示すトルクTcが発生する。しかし、巻線132、135のスロット開口部近傍の空気部を磁束が通ることになり、磁気抵抗が大きいことから磁束密度は小さく、トルクTcは大きくない。そして、ロータ磁極11Eがステータの歯118、11Bへ近づくにつれトルクTcが急激に増加する。
ロータがCCWへ回転し図11の(c)に示すθr=70°の回転位置近傍まで回転すると、同一の電流条件で、さらにロータはCCWへトルクTcが発生し回転する。図11の(d)のロータ回転位置θr=90°からθr=110°まで同様に図12の(F)に示すトルクTcが発生する。
ロータが図11の(e)に示すθr=110°の回転位置近傍まで回転すると、B相巻線133へ正の電流Ibを流しB相巻線136へは負の電流−Ibを流す。同時にA相巻線131へ正の電流Iaを流し、反対側のA相巻線134へは負の電流−Iaを流す。C相巻線131、134へは電流を流さない。この状態ではアンペアの法則に従い、ステータの突極11Cから119の方向へ太線の矢印で示す方向にA相電流Ia、B相電流Ibの起磁力が作用し、矢印で示す方向に磁束が誘起される。そして、ロータはCCWへ図12の(D)に示すトルクTbが発生する。θrが110°から120°近傍までは、磁束が巻線133、136近傍の空気部を通るため、磁気抵抗が大きく発生トルクTaは小さい。図11の(f)のロータ回転位置θr=130°の近傍でトルクTbは急激に大きくなる。
ここで、図11の(a)と(d)ではロータの角度が60°回転しているが類似の動作である。但し、ロータの磁束の方向は逆になっている。図11の(b)と(e)ではロータの角度が60°回転しているが類似の動作である。但し、ロータの磁束の方向は逆になっている。図11の(c)と(f)ではロータの角度が60°回転しているが類似の動作である。但し、ロータの磁束の方向は逆になっている。
図11、図12に示すように、ロータ回転位置θrにより順次通電する電流を変えてロータを回転することができる。各歯の発生トルクTa、Tb、Tcを乗り継いだモータの合計トルクTmを図12の(G)の実線に示す。ロータ磁極11Eの回転方向端がスロットの開口部にさしかかるとトルクTmが低下している。この程度の部分的なトルク低下は問題ない用途も多い。このトルク低下を低減するためには、ステータもしくはロータをスキューする方法があり、その他の方法についても後述する。
図11に示すこれらの動作で、ステータの各突極の磁束の方向は同一方向であり、ロータの磁束の方向は回転位置により反転し、A相電流Ia、B相電流Ib、C相電流Icの方向は一方向の電流で駆動可能である。これらの3相の電流は、それぞれが2つの電流モードで使用していて、各巻線が兼用していることが重要なポイントである。また、これらの3種類の片方向電流を組み合わせることにより、時計回転方向トルクと反時計回転方向トルクを連続的に発生することができ、力行と回生も可能であることから4象限運転が可能であると言える。従って、図2の制御装置あるいは図3の制御装置により駆動することができ、制御装置の低コスト化、小型化が可能である。
電流の大きさについては、各相の電流の大きさを同一として説明したが、各相の電流バランスを変えたり、3相共に電流を流すことも可能である。ロータ磁極の幅Hm、歯の先端部の幅Ht、スロットの開口部の幅Hsについても異なる値を取ることができる。ロータ磁極の幅Hmを40°以上とする場合で、モータのラジアル方向吸引力の変動を低減する制御法については、後に示す。ステータの歯の先端形状については単純な突極形状を図示し説明したが、スロットの開口部を狭くする構造、歯の円周方向端のロータとのエアギャップを広めにする構造等各種の変形が可能である。ロータ磁極の形状についても、同様に、種々変形が可能である。
また、図1、図9に示したモータの巻線の前記巻回方法は、重ね巻きのように説明したが、波巻きで巻回しても良い。なお、全節巻きの巻線は電気角で360°ピッチで、各スロットのロータ軸方向に行き来する巻線間のピッチは電気角で180°である。図1、図9では2極のモータなので重ね巻きと波巻きとの差異が解りにくいが、図10の8極のモータのように多極化したときに重ね巻きと波巻きの巻線の差異が出る。A相巻線を波巻きとした具体的な例を図10に示す。121、127、12D、12MはA相巻線を巻回するスロットで、124、12A、12J、12Qは負のA相巻線を巻回するスロットである。実線で示す12Xは紙面の表側のA相巻線のコイルエンドで破線で示す12Yは紙面の裏側に配置するコイルエンドである。波巻きは、コイルエンド12X、12Yのようにステータコアのロータ軸方向の両端で交互に配置して一つの相の巻線を巻回する。他のB相、C相の巻線についてもそれぞれの相の波巻き巻線として同様に巻回する。
このように、スロットの外側の接続関係は自由度があり、重ね巻き、波巻き、あるいはその他の巻き方でも良い。電磁気的には同一の作用である。しかし、これらの巻線方法は、量産化、自動化のための巻線機の構造に深く関わっていて、生産方法によって選択する。本発明の図10以外の他のモータについても同様である。また、一つの相の巻線が一つのスロットに巻回する集中巻きだけでなく、分布巻きも可能である。スロットの円周方向の間隔も均一とは限らない。例えば、同相の巻線を隣接する2つのスロットに巻回する分布巻きとし、これらの同相の隣接する巻線間の歯の円周方向幅を他よりも小さくする方法がある。
モータの形式として図1の6S4Rと図9の6S2Rの全節巻のモータについて説明したが、図13に示す多くのモータ形式を同様に実現することができる。図13の横軸はステータ磁極の数Mであり、縦軸はロータ磁極の数Kである。図13ではMの最大値14まで、Kの最大値14までの組み合わせのモータ形式を記載している。その中には、あるMとKの数の組み合わせの整数倍の組み合わせは、2極のモデルを4極、6極、8極・・・・と多極化したものも含まれている。多極化したものを除いても、さらに図13の延長上のモータ形式が多く可能である。それらのものも本発明に含むものである。多少はMとKの数が大きくなっても、制御装置のパワートランジスタの数は増えるが、分散するだけで、制御装置の合計の出力容量は変わらないので、MとKの数が小さいモータ形式のモータシステムと比較して、パワートランジスタの電圧、電流容量の合計は基本的に同等である。また、MとKの数が大きいと、モータ全体で力の発生できるステータ磁極とロータ磁極との場所の数が増加し、それぞれの位相も異なる場合ではトルクリップルのキャンセル効果も得られ、メリットもある。ただし、MとKの数が大きくなると制御装置が複雑になることは否定できず、MとKの数を極端に大きくすることは得策ではない。ステータ磁極の数Mとロータ磁極の数Kのいくつかの組み合わせについては後に説明する。
次に巻線方法の異なる本発明のモータについて図14に示し説明する。図14のモータは図1のモータの巻線を環状巻きとしたモータである。ステータ磁極の数M=6、ロータ磁極の数K=4のモータである。巻線A41とA42はA相の巻線で、環状巻とし集中的に巻回し、いわゆるトロイダル巻線をなしている。A47とA48は負のA相巻線で、環状巻とし集中的に巻回している。巻線A45とA46はB相の巻線で、環状巻とし集中的に巻回している。A4BとA4Cは負のB相巻線で、環状巻とし集中的に巻回している。巻線A49とA4AはC相の巻線で、環状巻とし集中的に巻回している。A43とA44は負のC相巻線で、環状巻とし集中的に巻回している。
ステータコアの外部に位置する巻線A42、A44、A46、A48、A4A、A4Cは、いずれもその電磁気的な作用がステータの外側の空間部を通る閉磁路しか構成できないので、その磁気抵抗は大きく、これらの巻線の電流がモータ内部の磁気的作用に及ぼす影響は無視できるほどに小さい。従って、図14のモータは図1のモータとほとんど同じ磁気特性を示す。
これらの6組の巻線は、それぞれ個々に片方向電流を通電制御することができる。図2の制御装置は3個の巻線の電流電圧を制御するが、この制御装置の相数を拡張し、パワートランジスタ6個用いた6相の制御装置とすればよい。図3の制御装置の場合も、素子を2倍にし、6相の制御装置とすればよい。なお、3相の制御装置を6相の制御装置とする場合、6個の各巻線の電圧を3相モータである場合と同じ電圧に設計すれば、パワートランジスタの数は2倍となるが、電流容量は1/2とできるので、制御装置の出力容量は同じであり、コスト的にも大差はない。
なお、モータ出力容量が同じであれば、多相化してもパワートランジスタの電流容量の総合計値は、原理的に同じにすることができる。従って、パワートランジスタの価格が電流容量に比例すると仮定すれば、相数にかかわらず、パワー部分の出力容量およびコストは同じとなる。ただし、例えば出力容量が100W以下と小さいモータの場合には、部品点数がコストに影響する割合が大きくなるので、相数が大きくなるとコスト的な問題が発生することがある。
また、図14の巻線は、巻線A41とA42およびA47とA48を電流方向が一緒の方向となるように渡り線で直列に接続すれば、図1のA相巻線と等価な巻線となる。巻線A45とA46およびA4BとA4Cについても電流方向が一緒の方向となるように渡り線で直列に接続すれば、図1のB相巻線と等価な巻線となる。巻線A49とA4AおよびA43とA44についても電流方向が一緒の方向となるように渡り線で直列に接続すれば、図1のC相巻線と等価な巻線となる。これらの巻線接続とした場合、図14のモータは図1のモータと等価な3相のモータとなり、図2の3相の制御装置、あるいは、図3の3相の制御装置で駆動することができる。
図14に示すモータにおいて、ステータコアの外側の巻線は電磁気的にはほとんど役に立っていないが、ステータコアのロータ軸方向積厚が小さく、また、極数が少ない場合は、環状巻の方が巻線長が短い場合もあり、巻線のまとまりも良いので実用的なモータ構造とすることができる。
図14の環状巻のモータは、モータ形式6S4Rの場合の例であるが、図13の示すような種々のモータ形式について実現することができる。さらに、図13ではステータ磁極の数Mとロータ磁極の数Kが偶数の場合について示しているが、それぞれ奇数であっても、1個の巻線、あるいは数個の巻線が正負両方向の電流を通電できるようにすれば、他の部分についてはMとKの数が偶数の場合と同様に駆動することができ、MあるいはKの数が奇数のモータについても本発明に含むものである。
次に異なる構成の本発明のモータを図15に示し説明する。外径側と内径側とにモータを組み込んだ複合構造のモータである。図15は8極のモータで、図9に示すモータを8極にし、最も外径側にロータR1を配置し、その内側にロータR1に対応するステータS1を配置し、ステータS1の内径側にステータS2を配置し、ステータS2の内径側にステータS2と作用するロータR2を配置している。すなわち、モータ形式6S2Rのモータを8極に多極化し、外形と内径に2個のモータを複合化して配置したモータである。なお、図1のロータ構成あるいは、その他のモータでも同様に実現できる。
図15の構成では、外径側のステータS1と内径側のステータS2とが背中合わせに配置することになるので、背中合わせの外径側スロットと内径側のスロットの電流が丁度正負逆の電流となるように設計すれば、各相の巻線は背中合わせのスロット同士に巻回することが可能となり、巻線が簡素化し、コイルエンド長の短縮も期待できる。
巻線46B、46H、46QはA相の巻線であり、電流の向きは巻線シンボルの方向で、片方向電流を通電する。巻線46E、46Lは負のA相の巻線である。巻線46D、46KはB相の巻線である。巻線46G、46Nは負のB相の巻線である。巻線46F、46MはC相の巻線である。巻線46C、46Jは負のC相の巻線である。これらの巻線を6相の巻線であるとして扱うことができる。従って、図2、図3の片方向電流の制御装置を6相化して図15のモータへ接続し、制御することができる。そして、パワートランジスタの電流容量を通常使用されている3相交流インバータより大幅に小容量化できることにより、低コスト化、小型化が可能である。
あるいは、A相の巻線と負のA相の巻線とを渡り線で電流方向が同一となるように直列に接続し、同様に、B相の巻線と負のB相の巻線とを接続し、C相と負のC相の巻線を接続しすることにより3相化し、図2、図3の3相の片方向電流の制御装置で駆動することができ、同様に低コスト化、小型化が可能である。
図13に多くのモータ形式の一覧表を示したが、特にステータ磁極の数Mが大きくなると、全節巻の場合多くの巻線が交差することになり、巻線が複雑になってきて、その製作し易さが悪くなると同時に、コイルエンド部も大きくなりがちである。この点で、図15の形式で構成する場合には、ステータ磁極の数Mが大きくなっても、各巻線は背中合わせのスロット間で巻線を巻回すればよいので、巻線の生産性が落ちることはなく、巻線が複雑になることもない。なお、環状巻の場合も、ステータ磁極の数Mが大きくなっても巻線が複雑にはならない。
また、外径側のモータと内径側のモータでは径が異なるため電磁気的な条件が異なり、両モータの電磁気的最適化を図ると両モータの電流が異なる値となり、前記巻線では不都合が発生する問題がある。この問題を解決するため、図1のモータで示したような全節巻きの巻線を追加して電磁気的なバランスを取ることも可能である。46R、46UはA相巻線、46S、46VはB相巻線、46T、46WはC相巻線である。これらの追加した巻線は、外径側のモータの電磁気的な作用に寄与し、両モータの最適化を図ることにより、高出力化、小型化、低コスト化を実現できる。
次に他の構成の複合モータの例を図16に示し説明する。図15と同様に、外径側と内径側とにモータを組み込んだ複合構造のモータであるが、外径側のモータと内径側のモータの位相が電気角で180°異なっている。図16は8極のモータで、図9に示すモータを8極にし、最も外径側にロータR1を配置し、その内側にロータR1に対応するステータS3を配置し、ステータS3の内径側にステータS4を配置し、ステータS4の内径側にステータS4と作用するロータR2を配置している。すなわち、モータ形式6S2Rのモータを8極に多極化し、外形と内径に2個のモータを複合化して配置したモータである。なお、図1のロータ構成あるいは、その他のモータでも同様に実現できる。
ロータR1とロータR2は図15のモータと同じである。ステータの歯G08、G09、G0A、G0B、G0C、G0D、G0E、G0F、G0G、G0H、G0J、G0K、G0L、G0Mは、外径側のステータS3の歯と内径側のステータS4の歯とを一体化している。そして、外径側のステータS3の歯と内径側のステータS4との極性が逆特性としていて、例えば、外径側のロータR1のロータ磁極461を通る磁束はステータの歯G08あるいはG09を通り内径側のロータ2のロータ磁極466を通る構成としている。従って、ステータS3とステータS4のバックヨークは不要になり、前記の複合した歯G09などが円周上に並んでいる。なお、これらの歯の固定は、何らかの固定手段を用いてロータ軸方向側面などから固定する必要がある。そして、固定手段の磁気特性については注意を要する。
図16のモータの巻線は、外径側のステータS3の巻線と内径側のステータS4との巻線とが一体化し、共用した形態として構成できる。巻線のコイルエンド部を破線で示していて、G02、G05はA相巻線、G03、G06はB相巻線、G01、G04、G07はC相巻線である。いずれも巻線のシンボルで表す片方向電流を通電する。これらの3相の電流を通電する図2、図3の片方向電流の制御装置で駆動することができ、前記と同様に低コスト化、小型化が可能である。なお、この時、図15、図16のモータの各巻線には片方向の電流を通電し、各ステータ磁極には片方向の磁束が通り、電磁気的に作用している。
なお、図16の複合モータの場合、外径側のモータの磁束量と内径側のモータの磁束量を同じ値にする必要があり、内径側のモータの磁束量がやや過剰となりやすい。この対応として、図15と図16の両モータの中間的なモータを実現することもできる。すなわち、外径側ステータと内径側ステータの間に磁束量的なアンバランス分だけバックヨークを配置するものである。そして、図16の巻線は2組に分け、外形側ステータのスロットと内径側ステータのスロットに、図16の巻線と類似の巻線をそれぞれに適切な量を巻回すればよい。
また、図15は外径方向と内径方向に2個のモータを効果的に配置したモータ構成であるが、ロータ軸方向にアキシャルギャップ構造のモータを2個配置し、両端がそれぞれのロータで、ロータ軸方向の中心にステータを背中合わせに配置することもできる。この組み合わせについても、図15に示すモータの一変形であり、本発明に含むものである。
また、他の複合モータの形態として、ステータとロータの配置の組み合わせは、最も外側にステータS5を配置し、最も内径側にステータS6を配置し、S5とS6の間に、複合化したロータR3とR4を配置することも出来る。この時、ステータS5とS6には、図16と類似の巻線を巻回すればよい。
次にステータ磁極の形状とロータ磁極の形状を工夫し、高トルク化する本発明について、図17、図18に示し説明する。図17に示すモータは、図1のモータに比較し、各ステータの歯の先端部を2個に分けている。具体的にはA51とA52、A53とA54、A55とA56、A57とA58、A59とA5A、A5BとA5Cである。ロータ磁極の数は図1のステータ磁極数4に増加した歯数6を加えた10であり、ロータ磁極のピッチは、前記のステータの分割した歯のピッチとほぼ一致している。A5KとコイルエンドA5SとA5NはA相巻線である。A5MとコイルエンドA5TとA5QはB相巻線である。A5PとコイルエンドA5UとA5LはC相巻線である。動作は、図4に示した動作と類似の動作であり、A相電流Ia、B相電流Ib、C相電流Icも同様の電流である。ただし、ロータの回転角は、ロータ磁極の円周方向幅が小さくなっているのでその分だけ回転角が小さくなる。以上の結果、図17のモータは図4のモータに比較して、単純原理的にはトルクを発生する歯の数が2倍になっているのでトルクが2倍になり、回転速度は歯幅の比率だけ遅くなるモータである。
次に図18のモータは、図1のモータに比較し、各ステータの歯の先端部を3個に分けている。具体的にはA61とA62とA63、A64とA65とA66、A67とA68とA69、A6AとA6BとA6C、A6DとA6EとA6F、A6GとA6HとA6Jである。ロータ磁極の数は図1のロータ磁極数4に増加した歯数6×2を加えた16であり、ロータ磁極のピッチは、前記のステータの分割した歯のピッチとほぼ一致している。A6RとコイルエンドA5SとA6UはA相巻線である。A6TとコイルエンドA5TとA6WはB相巻線である。A6VとコイルエンドA5UとA6SはC相巻線である。動作は、図4に示した動作と類似の動作であり、A相電流Ia、B相電流Ib、C相電流Icも同様の電流である。ただし、ロータの回転角は、ロータ磁極の円周方向幅が小さくなっているのでその分だけ回転角が小さくなる。以上の結果、図18のモータは図4のモータに比較して、単純原理的には歯の数が3倍になっているのでトルクが3倍になり、回転速度は歯幅の比率だけ遅くなるモータである。
図17、図18に示したモータは、各ステータ磁極の歯の数を2倍あるいは3倍と増加し、トルク定数を大きくしたモータである。図1に示したモータに比較して、トルク定数、トルクの増加が見込め、モータの効率も向上する。ただし、モータのピークトルクは、ステータ磁極周辺、ロータ磁極周辺の漏れ磁束が発生するため磁気飽和が部分的に発生し、さほど向上しないことが多い。この対策として、前記の歯間の凹部に永久磁石をそのステータ磁極の磁束の方向とは反対方向に向けて配置することにより、歯間の漏れ磁束を低減することができ、トルクを向上することが可能である。また、前記歯の側面から前記凹部の底部へ磁石を配置して歯の部分へ通過する磁束の大きさを増大することにより、トルクを増加することもできる。また、両手法を使用することもできる。
次に、図1のモータに界磁巻線を付加したモータを図19に示し説明する。具体的には、ステータA0P1において、ステータ磁極A01の周囲へ界磁巻線A72とA73とを破線で示すように集中巻きに巻回し、ステータ磁極A02の周囲へ界磁巻線A75とA74とを集中巻きに巻回し、ステータ磁極A03の周囲へ界磁巻線A76とA77とを集中巻きに巻回し、ステータ磁極A04の周囲へ界磁巻線A79とA78とを集中巻きに巻回し、ステータ磁極A05の周囲へ界磁巻線A7AとA7Bとを集中巻きに巻回し、ステータ磁極A06の周囲へ界磁巻線A71とA7Cとを集中巻きに巻回している。電流の方向は各巻線のシンボルの方向である。それぞれの界磁巻線を電流の方向が同じになるように渡り線で直列に接続し、図21に示すように界磁電流駆動回路により界磁電流Ifを通電する。A87は直流電圧源、A88はフライホイールダイオード、A81、A82、A83、A84、A85、A86は図19に示した各界磁巻線、A89は界磁電流駆動用トランジスタ、A92は界磁電流Ifを検出する電流センサーである
前記界磁電流Ifを通電し、他の各相電流Ia、Ib、Icが零の状態では、ロータA0K1において、太線の矢印で示す磁束A7D、A7Eが誘起し、回転トルクは相殺するので零となる。この状態でロータが反時計回転方向へ回転すると、それぞれの界磁巻線に鎖交する磁束は回転と共に変化するが、6個の界磁巻線に鎖交する総磁束は変化しない。従って、図21に示すように界磁巻線を直列に接続して界磁電流Ifを通電して反時計回転方向へ回転する場合、ステータ磁極A01、A04の磁束は増加するが、A02とA05の磁束は減少し、総磁束は変化しない。この時、図21の各巻線の磁気エネルギは巻線間で授受することになる。従って、直流電源側からモータの界磁巻線側への電力の授受は、原理的に発生しない。
図1のモータを高速回転で駆動する場合の一つの課題は、界磁磁束の供給及び回生の負担である。例えば、反時計回転方向に回転しているとき、ロータ磁極A0Kがステータ磁極A01にさしかかる直前あるいは直後に巻線A72、A78と巻線A79、A73へ所定電流をできるだけ速やかに供給する必要がある。その後、ステータ磁極A01とロータ磁極A0Kとの間に回転トルクが発生して回転し、これらの両磁極が真正面に対向する直前に巻線A72、A78と巻線A79、A73へ通電している電流をできるだけ速やかに零Aに減少させる必要がある。すなわち、課題の一つは、所定のタイミングで電流を急激に立ち上げ、その後所定のタイミングで電流を急激に減少させることである。
図19、図21に示すように界磁電流Ifが流れていて界磁磁束は確立している場合には、巻線A72、A78と巻線A79、A73の電流の増減に伴う磁束の増減が小さく、電圧の負担が小さいので電流制御が容易となる。また、図21に示す6個の界磁巻線の合計電圧の変動は小さく、比較的細い巻線を多数回巻回することができ、界磁電流を比較的小さなトランジスタA89で制御することができる。その結果、図2、図3の制御装置のトランジスタへの負担も軽減することができ、制御装置の小容量化が可能である。図2、図3の制御装置が供給する電力の力率が改善すると見ることもできる。
また、回生する場合、発電機として使用する場合にも、図19、図21の界磁巻線構成は力率を改善することができ、好都合である。
また、図19に示す前記界磁巻線は各ステータ磁極に個々に界磁巻線を巻回したが、図20に示すように全節巻の界磁巻線とすることもできる。H71、H74はA相の界磁巻線、H75、H72はB相の界磁巻線、H73、H76はC相の界磁巻線である。これらの3個の巻線を電流方向を合わせて直列に巻回し、界磁電流を通電する。なお、3個の巻線へ個別に電流を通電することも可能である。
これらの全節巻、集中巻きの界磁巻線の数は3個なので、図21の制御へ適用する場合は、界磁巻線A81等の6個の巻線に変え、3個の直列巻線となる。また、界磁巻線を図14に示すような環状巻の巻線で構成することもできる。また、図15に示した様にモータを複合化し両モータのスロットへ相互に巻線を巻回する界磁巻線とすることもできる。
既に図1のモータの巻線へ通電する区間、方法について図4に示し説明したが、ある回転方向トルクを発生する場合、その回転方向に回転していて、ロータ磁極があるステータ磁極へさしかかるとき、そのステータ磁極の円周方向両隣のスロットの2個の巻線へ、それぞれ逆方向の電流を通電すればよい。そのためには、円周方向の各スロットの巻線に通電する電流の方向は、円周方向に隣接する各スロットに正電流と負電流とを交互に配置する。この時、円周方向に隣接する各ステータ磁極に、回転と共に順次誘起する磁束の方向も、正磁束と負磁束とを交互に誘起することになる。
本発明モータと制御装置でそれらの特長を発揮するためには次の条件が重要である。電流、電圧をより簡単に供給するために、各巻線の電流が片方向電流であること。各巻線とその電流が二つの電磁気的作用に兼用できるために、円周方向に隣接する各ステータ磁極の両隣のスロットの巻線電流の正負の方向は逆方向であること。これは、あるスロットの巻線の電流はそのスロットの両隣のステータ磁極がそれぞれにトルクを発生するときにそれぞれに寄与できること、すなわち、各巻線は2つの異なる作用に使用でき、兼用の巻線であることである。そして、ロータの回転に伴いこれらの動作を順次行うことにより、前記の巻線電流でロータの正転、逆転、正トルク、負トルクをほぼ連続的に発生できること、すなわち、4象限運転ができることである。また、ロータ磁極が軟鉄で構成され、磁束の方向が両方向に作ることができ、磁束の方向がどちらであっても吸引力が作用する点も重要である。
この時、両隣のステータ磁極の異なるそれぞれの作用に使用できるためには、モータの各巻線の結線を電流の独立制御が可能な結線としておく必要がある。各巻線の電流を独立に制御できる最も簡単な方法は、モータの各巻線ごとに個別のトランジスタで電圧、電流を印加できる方法で、具体例は図2、図3の巻線の結線である。直流電源に対して各巻線を並列に配置して個別に電流、電圧を印加している、あるいは、モータの各巻線を分離して個別に電流、電圧を印加している。なお、巻線が兼用できるということは、モータ巻線の実質的抵抗値を小さくできるということだけではなく、巻線の電流を駆動するパワートランジスタを兼用できるということでもある。
これらの条件が成立するとき、駆動する電流が直流であり、各電流はモータの異なるステータ磁極の駆動に兼用できるのでそのパワートランジスタも兼用できることになり全部のパワートランジスタの電流容量合計が低減でき、その結果制御装置を小型化できる。具体的には、図1、図9等に示す本発明モータと図2、図3等に示す制御装置、あるいはこれらを必要に応じて多相化した制御装置と組み合わせて、制御装置の大幅な低コスト化を実現することができる。また、制御装置の電流容量をどの程度低減できるかは、本発明モータの種類によって変わる。
図1のモータの場合、3個の巻線の内の2個の巻線がトルク発生に寄与し、そして、2個の巻線へ電力を供給する制御装置の経路が別経路であって、それぞれの2経路で同時に電力供給が可能である点が特徴的である。
これに対し、図119に示す従来の3相交流インバータと3相交流モータの場合、インバータの最大出力は直流電圧源の電圧と1個のトランジスタの電流容量の積であり、1つの電力供給経路分の出力しかで駆動できない。すなわち、6個のトランジスタで1つの電力供給経路分の出力しか供給、駆動できない。
なお、本発明のモータと制御装置で、ステータ磁極の数Mが大きな数である場合には、後で述べるように、3経路以上からの同時の電力供給も可能である。
各巻線の結線方法は、同一位相の巻線あるいは逆位相の巻線を電流方向が一致するように直列に接続することにより、電流を駆動するトランジスタ等の電流制御手段を簡素化できる。例えば、本発明モータである図1のモータを4極にした場合、円周上にA相巻線、B相巻線、C相巻線が2個ずつ配置するのでそれぞれの相の巻線を2個ずつ直列に巻回できる。6極の場合、同相の巻線を3個ずつ直列に巻回できる。当然、位相の異なる巻線へ通電する電流は異なる電流制御手段で別々に通電し、それぞれに電力を供給する。
図14の環状巻の巻線のモータにおいて、巻線A41、A42と巻線A47、A48は逆相の電流であり、通電方向を合わせて、渡り線で直列に巻回することができる。
なお、図1のモータを反時計回転方向へ回転させるとき、ステータ磁極A01がロータ磁極A0Kを吸引するとき、巻線A0DとA0Eへ逆方向の電流を同時に通電するが、次に、ステータ磁極A02でロータ磁極A0Kを吸引するときには、巻線A0Eと巻線A0Fへ電流を通電し巻線A0Dへは通電しない。この場合において、巻線A0DとA0Eは同じ大きさの電流を通電するときもあるが、異なる電流値であるときもある。このような電流の位相は同一位相でも逆相の位相でもない。巻線A0Dに通電するA相電流Iaと巻線A0Eの通電するB相電流Ibは異なる位相の電流である。
図1、図9、図14、図15などに示したモータは、図2、図3に示すような制御装置で、A相電流Ia、B相電流Ib、C相電流Icを通電することによりモータを回転駆動することができる。この時、各巻線への電流の通電は、少なくとも2個以上の通電経路を持って、2個以上の電流制御手段で同時に電力を供給する構成としている。
例えば、図98の制御装置で駆動する場合、2つの経路で電力を供給できるので、2個の電流制御手段は、(電流容量×電源電圧×2)の電力を供給することができる。図119に示す3相交流インバータが(電流容量×電源電圧×1)の電力供給であるのに比較して2倍の電力供給ができることになる。
図2、図3に示すような制御装置で、同時に2経路以上で電力供給が行える条件、すなわち制御装置の電流容量を低減できる条件として、前記したように、各巻線の電流が片方向電流であること、各巻線の電流が独立に制御できるモータの結線であって、円周方向に隣接する両隣のステータ磁極をそれぞれ2つのトルク発生モードで励磁でき、その巻線を両モードで兼用していることである。モータ特性と各巻線の結線および制御装置特性との全てが密接に関わっている。
例えば、図120に示すスイッチトリラクタンスモータは、図2、図3に示すような制御装置で駆動することはできるが、同時に2個の経路で電力供給をすることはできない。従って、本発明モータと制御装置のように、制御装置のトランジスタの電流容量を低減することはできない。図120のモータとは、巻線方法、渡り線の結線方法、電流の通電方法、制御方法などが異なる。そして両モータシステムは、モータ効率、モータサイズとコスト、制御装置効率、制御装置サイズとコストに大きな差がある。
既に説明したように、図19に示すような界磁巻線を施すことができる。そして、図21に示すように、これらの界磁巻線を電流方向が同一になるように渡り線で直列に接続し、界磁電流Ifを流し、比較的簡単な発電機を構成することができる。巻線A0D、A0GはA相巻線で、図21の巻線A9Lである。巻線A0F、A0JはB相巻線で、図21の巻線A9Mである。巻線A0H、A0EはC相巻線で、図21の巻線A9Nである。A9H、A9J、A9Kは整流用のダイオードであり、3相の電圧を整流して直流電圧、直流電流を得る。A9Fは整流用のチョークコイル、A9Pはコンデンサ、あるいは、バッテリなどである。A9Qは負荷である。なお、整流ダイオードA9H、A9J、A9Kの替わりにIGBT等の制御素子も使用できる。また、チョークコイルA9Fとコモン線A9Rの間にIGBT等の制御素子を追加し、チョークコイルA9FとコンデンサA9Pの間にダイオードを追加し、DC−DCコンバータを構成することもできる。DC−DCコンバータをコンデンサA9Pの後段に配置することもできる。図21に示すように、界磁巻線へ界磁電流Ifを通電することにより比較的簡単な構成の発電機を構成することができる。
図19のモータ構成における発電は、今、反時計回転方向CCWに回転しているとして、ロータ磁極A0Kがステータ磁極A01にさしかかり、真正面に対向し、そのロータ位置からCCWへ回転してステータ磁極とロータ磁極との対向面積が減少する時に、巻線A0D、A0Eおよび巻線A0H、A0Eに磁束の減少を妨げる方向に発電電圧が発生し、発電電流が流れる。他のステータ磁極と巻線についても同様である。また、発電電流は3相の内の2相の巻線に流れるので、効率も良い。
自動車用の発電機であるオルタネータは、例えば、1,000rpmから10,000rpm以上の広範囲な回転数領域において、バッテリの電圧である12Vから14V程度の発電が求められる。しかも、コスト要求のレベルが高く、簡素な構成で実現する必要がある。現状、世界の自動車で使用されているオルタネータの大半はランデル型と言われるもので、回転子側にクローポール構造のロータ磁極が配置され、そのクローポールの中に回転子軸を中心として巻回する直流界磁巻線が巻回されている。直流電流は固定子側からスリップリングとブラシを介して接触式で供給されている。固定子側の3相交流巻線に交流電圧が出力されるので、3相交流電圧をダイオードで整流して直流の12Vを作っている。現状のオルタネータの問題として、スリップリングとブラシの寿命および信頼性問題およびロータの複雑さがある。また、ロータ構造の巻線と磁路の取り合いの関係からオルタネータの高出力化が難しい点も問題である。またロータのクローポール構造から、高速回転ではロータが変形する問題もあり、ステータとロータ間のエアギャップ拡大の問題もある。
図21のA93は電圧指令、A9Gこの発電機の出力端子でA9Sは出力電圧信号、A9Aは加算機で電圧誤差を求め、比例、積分などの補償器A9Bでその出力は界磁電流指令である。A9Cは加算器で、界磁電流指令と界磁電流検出手段A92の出力との差から界磁電流誤差を求め、比例、積分等の補償器A9D、A9Eで界磁電流電圧指令を求め、パルス幅変調器でいわゆるPWM信号を作りトランジスタA89の駆動信号を作る。このように、発電電圧を監視しながら、界磁電流Ifを制御することにより、広範囲な回転領域で安定した定電圧の発電を行うことが可能である。能動的なパワー素子は界磁電流用のトランジスタA89だけであり、また、発電機の巻線および整流器も簡単な構成で、低コストに実現できる。そして、界磁電流用のブラシ、スリップリングがないので、信頼性も向上する。振動、騒音については重要な課題であるが、各磁極形状なお、各部の詳細な構成については、種々の変形が可能である。
本発明のモータで構成するオルタネータの例は、図19に示す界磁巻線付きのモータ構造を8極程度に多極化した構成であり、界磁巻線と発電用の巻線とが共に固定子側に配置でき、非接触型の高信頼でかつ簡素なオルタネータとすることができる。本発明で、界磁巻線を固定子側に配置でき、かつ直流で励磁できる理由は、本発明モータが片方向電流で機能し、各ステータ磁極を通過する磁束も片方向磁束であることに起因している。本発明モータ特有の特長である。従来の交流発電機でステータ側から界磁を励磁する場合には、3相交流の界磁電流が必要となり、複雑で高価なものとなってしまう。また、界磁巻線と発電巻線がステータ側にあるので、大型化、高出力化も比較的容易である。また、本発明モータのロータは鉄の塊なので大変堅牢に構成でき、高速回転でもロータの変形量は少なく、ステータとロータ間のエアギャップを工作、組立精度の限界まで小さくでき、モータの高効率化と高速化が可能である。以上示したように、図19および図21に示す本発明オルタネータの構成は、従来のランデル型オルタネータの大半の問題を解決できる。
なお、本発明モータは、前記の界磁巻線がない場合においても、モータの回生制動動作として、発電することもできる。すなわち、図1のモータと図2あるいは図3の制御装置で発電することも可能である。その動作状態は、図1のモータが回生制動を行う、図7、図8の場合と同じ動作であり、モータ側から直流電源側へエネルギーが回生される。すなわち発電する。ただし、このように、モータの駆動装置を使用して発電を行う場合は、図21の構成に比較して、能動的なパワー素子であるトランジスタの数は増加し、やや高価になることが多い。
次に、本発明モータのステータ磁極の表面に永久磁石を付加したモータを図22、図23に示し説明する。図22のモータは、図1に示したモータを基本構造とし、ステータ磁極の表面に永久磁石B07、B08、B09、B0A、B0B、B0Cを配置した構成である。B01、B02、B03、B04、B05、B06は、各ステータ磁極である。A相巻線A0DとA0GへA相電流Iaを通電し、B相巻線A0FとA0JへB相電流Ibを通電し、C相巻線A0HとA0EへC相電流Icを通電する。電流の方向は図示するシンボルの方向で、片方向電流を通電する。
永久磁石の磁極の方向は図示する方向であり、あるステータ磁極の永久磁石の方向は、そのステータ磁極の両隣のスロットの巻線へ図示する巻線シンボルの方向へ電流を流したときに印可する起磁力の方向である。本発明モータのステータ側磁束が3相の片方向電流により励磁し、各ステータ磁極の磁束が一方向磁束となるモータ構成なので、ステータ側に永久磁石を配置するモータ構成が可能となっている。
このモータ内の磁束は、磁路が複数有り、磁石の起磁力と電流の起磁力とが作用するので、単純ではない。図22のロータ回転位置では太い矢印線H11、H12、H13、H14で示す磁束が誘起し、ロータの回転と共にそれぞれが変化する。モータのトルクは、式(10)等で示したように、巻線の鎖交磁束の回転変化率とその巻線の電流とに比例する。図22のロータ回転位置でCCWのトルクを発生させる場合、C相巻線A0H、A0Eへ鎖交する磁束の回転変化率が大きいので、C相電流Icを通電することによりCCWのトルクを発生できる。磁束H12はこの回転位置の前後では変化しないので、トルク発生には寄与していない。
なおこの時、永久磁石とロータ磁極が対向している部分の磁束密度は一定値Bxで、ロータ磁極が対向していない部分の磁束は零であるかあるいはモータの作用に影響しないと仮定すると、A相巻線A0D、A0Gの鎖交磁束はこのロータ回転位置前後では変化しないので、A相電流Iaによるトルク発生は零となる。図1に示したモータとは異なる作用である。
しかし、現実のモータの磁気回路は前記仮定とは異なる状態であり、モータの磁気回路設計を適切に行うことにより、モータシステムとして都合の良い特性とすることができる。都合の良い特性とは、モータのトルクが大きく、制御装置のパワートランジスタの電流容量を小さくできることである。
図26に永久磁石の磁界の強さHと磁束密度Bとの特性の例を示す。Bhの動作点の磁束密度Brは残留磁束密度で、Bnの動作点は永久磁石の減磁限界点でありその磁束密度はB14である。例えば、モータ電流が零の時の動作点をBkとし、各巻線の電流によりその動作点がBmからBjまで変化するように設計すれば、永久磁石の磁束密度はB13からB11まで変化するので、図22のモータのトルク発生作用も前記の説明とは異なる動作となる。具体的には、図22においてCCWのトルクを発生する時、A相巻線A0D、A0GへA相電流Iaを通電し、同時にC相巻線A0H、A0EへIaと同じ大きさのC相電流Icを通電すると永久磁石B07とB0Aは磁束を強める方向に起磁力が作用し、図26の動作点Bjに磁束密度が増加し、他の永久磁石B08、B09、B0B、B0Cへは起磁力が作用しないのでその動作点Bkは変化しない。この時、磁束H12の回転変化率は動作点の磁束密度の上昇値に比例して増加し、電流Icが発生するトルクが増加すると共に、電流Iaによりトルクが前記磁束B11とB12の差分に比例して発生できるようになる。
また、電流Icを電流Iaより大きくすると、(Ic−Ia)に比例して永久磁石B09とB0Cの磁束を弱める起磁力を発生することになり、それらの磁束密度がBm点のB13へ減少する。そして、永久磁石B09とB0Cの磁束低下分だけ電流Iaによるトルクが増加する。なおこの時、C相巻線A0H、A0EのC相電流Icが発生するトルクTcは永久磁石特性で(B11+B13)に比例し、A相巻線A0D、A0GのA相電流Iaが発生するトルクTaは永久磁石B07、B0Aの磁束密度B11と永久磁石B09とB0Cの磁束密度B13の差分(B11−B13)に比例する。このように、図22のモータで、A相巻線とC相巻線とからこのモータへ電力を供給することができ、制御装置のパワートランジスタの電流容量を低減することが可能である。
図22のモータの特徴は、図2、図3などの制御装置で駆動でき、パワートランジスタの電流容量を低減できること、永久磁石の付加により図5の特性Trmから特性Tspmの特性へトルクを増加し改善できることである。特に、小型のモータでは、低電流領域でのトルクの改善は顕著である。また、A相電流Ia、B相電流Ib、C相電流Icは、それぞれの電流がいわゆるトルク電流に相当し、永久磁石により各巻線のインダクタンスが小さくなるので電流の応答性が著しく改善され、モータの制御性を改善できる。
なお、この時、もしB相巻線A0FとA0Jへ巻線シンボルと逆方向の電流−Ibを通電することができれば、磁束H11を強めることができるので、トルクを増加させることができる。また、図22のモータは、巻線の結線を星形結線に変更し、図119で示す従来の3相交流インバータで駆動することもできる。
次に、図23に示すモータについて説明する。このモータは図1のモータのステータ磁極表面に永久磁石を配置した構成である。各巻線の電流が各永久磁石の図26の特性に与える影響は図22のモータの場合と同じである。図23の状態でCCWのトルクを発生する場合、A相巻線A0DとA0GへA相電流Iaを通電し、C相巻線A0HとA0EへC相電流Icを通電する。この時、磁束H15は強められ、磁束H16は変化しない。図23のモータのトルクは、図22のモータのA相電流とC相電流との関係が逆になり、A相巻線A0D、A0GのA相電流Iaが発生するトルクTaは永久磁石F67、F6Aの磁束密度B11と永久磁石F68、F6Bの磁束密度B13の和(B11+B13)に比例し、C相巻線A0H、A0EのC相電流Icが発生するトルクTcは永久磁石特性で(B11−B13)に比例する。図23のモータの特徴は図22のモータの特徴とほぼ同じである。
前記のように、図22のモータ特性と図23のモータ特性とでは、トルクを発生するステータ磁極の円周方向両隣のスロットに通電するA相電流IaとC相電流Icとのトルク発生比率、あるいは、誘起電圧の比率が逆の関係となっているので、この2種類のモータ構成をロータ軸方向へ重ねた構成とすることにより、A相電流IaとC相電流Icとのバランスを改善することができる。この時、3相の各相の巻線は同一巻線をロータ軸方向へ貫通する。このバランスの改善により、制御装置のパワートランジスタの電流容量を低減することが可能である。
なお、この時、もしB相巻線A0FとA0Jへ巻線シンボルと逆方向の電流−Ibを通電することができれば、磁束H11を強めることができるので、トルクを増加させることができる。また、図23のモータは、巻線の結線を星形結線に変更し、図119で示す従来の3相交流インバータで駆動することもできる。
また、図22、図23のモータは、ステータ磁極表面の永久磁石の形状を変えることにより種々特性とすることができる。具体的には、ステータ磁極表面を永久磁石と軟磁性体とを混在させる構成であり、永久磁石の比率をRspmとする。この比率をRspm=1の時は図22に示すようにステータ磁極表面を全て永久磁石とし、比率をRspm=0.5の時永久磁石と軟磁性体が50%ずつとし、比率をRspm=0はステータ磁極の表面が図1のように全てが軟磁性体とする。比率Rspmを0から1まで可変することにより、図1のモータ特性から図22のモータ特性までの中間の種々特性を得ることができる。
次に、図24に示す本発明モータについて説明する。このモータは図22のロータ磁極を変更していて、ロータ磁極の数Kが2で、ロータ磁極の円周方向幅を60°と大きくしている。ステータの各巻線および電流Ia、Ib、Icは図22と同じである。今、図24の状態でCCWへトルクを発生する場合、A相巻線A0DとA0GへA相電流Iaを通電し、同時に、C相巻線A0HとA0EへC相電流Icを通電する。そして、ロータ磁極が永久磁石B07の正面に対向する位置までCCWへ回転すると、B相巻線A0FとA0JへB相電流Ibを通電し、C相巻線A0HとA0EへC相電流Icを通電する。同様に、ロータ磁極の回転と共に巻線を変更して電流を通電し、ロータ磁極を吸引して連続的にトルクを発生して回転することができる。ロータが1回転する間にロータの磁束方向が6度反転するが、同一のロータ磁極を同一方向に順次吸引して回転させるという観点では、同期電動機に類似した駆動法でもある。
また、巻線への電流の駆動方法は、3相巻線の内の1相の電流で順次回転トルクを発生することができ、また、前記のように2個の巻線に通でしながら順次回転トルクを発生することできる。なお、図示する巻線のシンボルと逆の方向の電流を駆動することが可能な場合は、例えば図24の回転位置ではB相巻線へ逆方向の電流を通電すれば、この回転位置でB相電流もトルク発生に寄与させること可能である。
図24のモータの特徴は、図2、図3などの制御装置で駆動でき、パワートランジスタの電流容量を低減できること、永久磁石の付加により図5の特性Trmから特性Tspmの特性へトルクを増加し改善できることである。特に、小型のモータで、低電流領域でのトルクの改善は顕著である。
次に、図25に本発明の他の例を示す。このモータは図24の円筒状の6個の永久磁石を分離して配置した構成である。電磁気的な動作は図24のモータとほとんど同じである。このようにステータ磁極の形状、ロータ磁極の形状は種々の形状に変形することが可能である。また前記のように、ステータ磁極表面の永久磁石は、軟磁性体のステータ磁極と混在させることも可能である。また、後に述べるように、永久磁石を軟磁性体の内部へ配置することも可能である。
以上示したように、ステータ磁極表面に永久磁石を付加するモータは種々の形態が可能である。各ステータ磁極、各永久磁石、ロータ磁極の各形状の自在性は大きく、トルク、コギングトルク、トルクリップルの観点で種々の工夫ができる。トルクの観点では、ステータ磁極、永久磁石の各磁極の円周方向幅、ロータ磁極の円周方向幅を変えることにより大きく特性を変えることができる。例えば、永久磁石の円周方向幅を図1のモータのように、電気角で30°に狭くすることもできる。また、永久磁石磁極の境界部分はコギング等の低減のため、円弧状に滑らかな曲線形状で凹ませる、永久磁石表面形状をいわゆるかまぼこ形状としてトルクリップルを低減することが可能である。ステータ、ロータ共にスキューを施すことも可能である。ロータ磁極の表面形状も、例えば、いわゆるかまぼこ形状とすることもできる。変形の方向は、ラジアル方向、円周方向、ロータ軸方向に変形することができる。また、永久磁石の破損が心配される場合は、ステータの内周を樹脂等の透磁率の小さな物質で覆って保護することもできる。巻線の巻回方法についても、図14、図15の方法を採用することもできる。
また、図22、図25などに示したモータを多極化することも可能であり、後に述べるようなステータ磁極の数M、ロータ磁極の数Kが種々の値であるモータを実現することもできる。また、モータに求められる特性は用途により多様であり、回転数により異なるモータ特性が求められる場合には、例えば、ある回転数以上ではロータ磁極の数を8個から4個に変えるなど、機械的な構成を連動させて他の動力あるいは電気的なアクチュエータで変更することも可能である。
各永久磁石の減磁については、正常にトルクを発生する時には、磁石を強める方向に作用する点が特徴的である。ロータが堅牢なので、ステータとロータ間のエアギャップも小さくすることが可能である。従って、永久磁石を薄くして使用することができ、低コストにすることが可能である。しかし、誤ったモータ電流の制御が行われた時、パワートランジスタが壊れた時などは磁石が減磁する可能性があり、その対処法を考えておく必要がある。その一つの対処法は、後述するように、各相の巻線電流で着磁することができるような磁石設計をする方法である。正常に制御されている時には、減磁しないので、今までにない種々方法が可能となる。また、後述するように、モータの回転中に永久磁石の強さを変え、界磁弱め制御および定出力制御を行うことも可能となってくる。減磁および増磁の容易さ磁石設計を行うことが可能となる。この場合、磁界の強さHが非常に大きいネオジム鉄ボロンNdFeB系の磁石だけでなく、いわゆるアルニコ磁石などの応用が可能である。
次に、永久磁石の一部あるいは全てをステータコアの内部に配置するモータである。具体的な例を図27、図28、図29、図30に示し、説明する。図27に示すモータは、図1のモータのステータ磁極の先端部近傍に永久磁石を配置した構成である。B11、B12、B13、B14、B15、B16は永久磁石である。B17、B18、B19、B1A、B1B、B1Cはステータ磁極である。磁石の磁束方向は図示する方向であり、図1の磁束方向である。ステータ磁極及び各永久磁石の円周方向幅を小さくすることができ、逆に、大きくすることも可能である。
そして、ステータの磁気特性を永久磁石の特性と軟磁性体の特性との間の特性を実現することができる。ステータ磁極に求められる磁気特性は、用途により異なる。例えば、低速で高トルクが必要な場合は、ステータ磁極の磁束密度は、希土類磁石の磁束密度以上の磁束密度すなわち鉄の飽和磁束密度近傍の2.0T程度に高密度であって欲しい。パーメンジュール等の高磁束密度材を使用すれば2.5T程度の磁束密度も可能である。逆に、界磁弱め等を行って高速回転の運転を行いたい場合には、巻線電流が零である場合のステータ磁極表面の磁束密度は、例えば、0.5T程度あるいはそれ以下が都合がよい場合もある。永久磁石をコア内部へ配置する構造の場合は、図27、図28、図29、図30に示した様な構造により、種々磁気特性の設定、設計が可能である。
制御装置の観点でも、例えば図27においてこのロータ回転位置θrでCCWのトルクを発生する場合、A相巻線A0D、A0GへA相電流Iaを通電し、同時に、C相巻線A0H、A0EへC相電流Icを通電し磁束B1Dを強め、CCWのトルクを発生する。そしてこの時、逆に、他の方向の磁束B1E、B1Fはできる限り小さい値にしたい。それは、CWのトルクを小さくするというだけでなく、C相巻線の電圧を大きくすることにもなる。C相巻線に発生する電圧は、主に、磁束B1Dの時間変化率と磁束B1Fの時間変化率を加えた値なので、CCW時に負の電圧を発生する磁束B1Fは小さい値である方が良い。ステータ磁極表面における磁束B1Fの磁束密度が低い方が、A相巻線とC相巻線とでよりバランス良く電力をモータへ供給することができる。各巻線電圧のバランスを良くすることは、直流電源とパワートランジスタの電圧限界があることから、制御装置のパワートランジスタの電流容量を低減することに繋がる。また、電圧バランスの観点では、C相電流IcよりA相電流Iaを大きな値とする方が、磁束B1Fを低減する効果を発生することができるので望ましい。
なお、この時、C相巻線A0F、A0Jへ巻線の電流方向シンボルで表す電流方向とは逆方向の電流−Icをさらに追加することにより発生トルクを増加させることができる点については、後に説明する。また、この電流−Icは、磁束B1E、B1Fを減少させる起磁力を発生する効果もある。
図28の(a)、(b)、(c)は、ステータ磁極のみを部分的に示していて、磁石を分割して配置する例である。ステータ磁極の磁束の量を任意に設計、選択することができる。図28の(b)では永久磁石を3個に分割しているが、さらに分割数を大きくする、あるいは、永久磁石間の軟鉄部の幅を広くすることなども可能である。図29の(a)、(b)、(c)、(d)も磁石の種々は一例である。軟鉄部は、さらに、各部にスリットを付加して、磁束の方向性を得ることもできる。図30は、バックヨーク部に永久磁石を配置した例である。バックヨーク部に磁石を配置して各ステータ磁極へ磁束を供給することもできる。
次に、永久磁石を使用した具体的な例を図31に示す。図31のモータ形状は、図9のモータのステータ磁極の一部へ永久磁石G71、G72、G73、G74、G75、G76を付加し、ロータ磁極幅Hmを約75°とし、ロータ磁極の円周方向端の形状に丸みを持たせた形状としている。用途にもよるが、本発明モータの課題の一つは、各相電流の増加、減少を速やかに行い、高速回転の実現、あるいは、トルクを確保することである。また、他の課題の一つは、ラジアル方向の吸引力の変動をより滑らかに行い、振動、騒音を小さくすることである。図31に示すモータは、図9のモータ特性である図12の特性を改良している。
今、CCWのトルクを発生してCCWへ回転することを考える。構造的にCCWとCWでは異なる特性となっている。電気自動車あるいはハイブリッド自動車では、CCWとCWでは異なった使い方をする。エアコンのコンプレッサ用モータでは、片方向の回転だけを使用する。図31の(a)のロータ回転位置θrでは、A相巻線131、134へA相電流Iaを通電し、同時に、C相巻線135、132へC相電流Icを通電し、磁束G7Fを励磁してCCWのトルクを発生する。この時、電流IaとIcが同一振幅であれば、ステータ磁極G7DとG7Aの間には起磁力が相殺し発生しないが、永久磁石G71とG74の間にはG7Fの磁束成分が発生している。この磁束G7Fはトルクは発生していない。
図31の(b)のロータ回転位置θrでは、継続して、A相電流IaとC相電流Icにより磁束G7Fを励磁してCCWのトルクを発生する。この時も同様に、G7Fの磁束成分が発生している。この磁束G7Fはトルクは発生していない。
図31の(c)のロータ回転位置θrでは、継続して、A相電流IaとC相電流Icにより磁束G7Fを励磁してCCWのトルクを発生する。しかし、高速で回転しているときには、このロータ回転位置θrのあたりで、電流Iaを減少させる必要がある。このロータ回転位置θrでは、永久磁石G71とG74によるG7Fの磁束成分が発生している。また、永久磁石G75とG72によるG7Gの磁束成分が発生し初めている。
図31の(d)のロータ回転位置θrでは、A相電流Iaが減少して零となり、B相巻線133、136へB相電流Ibが通電され、磁束G7Hが励磁され、CCWのトルクを発生する。この時、永久磁石G71とG74によるG7Fの磁束成分と、永久磁石G75とG72によるG7Gの磁束成分とが発生している。
前記の図31の(c)から図31の(d)にかけて、A相電流Iaが急激に減少して、磁束G7Eに伴う磁気エネルギーを直流電源へ回生する必要があるが、永久磁石G72とG75の磁束成分に伴う磁束エネルギーを回生する必要はない。図11の(b)では、ステータ磁極117を通る磁束の磁気エネルギー全てを回生する必要があったことに比較し、永久磁石G72とG75の磁束成分だけ回生エネルギーが軽減しており、A相電流Iaの減少時間を短縮できることになる。すなわち、永久磁石G72とG75により励磁エネルギー増減する負担が軽減したわけである。
また、この時同時に、ステータとロータの間のラジアル方向吸引力は、前記の図31の(c)から図31の(d)にかけて、A相電流IaとC相電流Icとが急激に減少したとしても、永久磁石G71とG74によるG7Fの磁束成分と、永久磁石G75とG72によるG7Gの磁束成分とが残っており、吸引力が零になるわけではない。図11の(b)において、A相電流IaとC相電流Icとが急激に零になれば、ラジアル方向吸引力がほぼ零になることに比較すると、図31の(c)から図31の(d)の場合には、永久磁石G71、G74、G75、G72によりラジアル方向吸引力の変動を緩和していることになる。さらには、図31の(d)においてもA相電流Iaを零とせずに、ラジアル方向吸引力の変動を緩和する程度にA相電流の変化を緩やかに制御することもできる。
図31の(a)から(d)の動作の例について説明したが、この60°の動作が同じように繰り返し、連続してロータを回転させることができる。
なお、前記の永久磁石の形状については、磁石の厚みについても、一部の磁石は厚く、他の磁石は薄い構造とし、磁石特性の異なる構造とすることもできる。また、希土類磁石、鋳造磁石、フェライト磁石、それらのいわゆるボンド磁石など、2種類以上の磁石を目的に応じて使用することができる。例えば、厚い希土類磁石は、常に高磁束密度の特性を発揮させ、他の部分は電流により磁束密度を可変して使用することができる。また、前記のように、磁石の一部の着磁と減磁とを、モータを運転中に、モータ駆動電流で行うことも可能である。また、磁石形状についても、磁石断面が矩形形状の例を多く示したが、三角形状、台形形状等種々形状とすることができる。なお、ステータ磁極近傍における永久磁石配置を、ステータ磁極の表面配置とステータ磁極の内部配置とを言い分けたが、図28および図31などの場合の様に軟鉄部がごく薄い形状であれば、電磁気的作用に大差があるわけではない。
次に、ロータ磁極の表面、あるいは、ロータ磁極の軟磁性体の内部に永久磁石を配置するモータ構成について説明する。図32はステータ磁極数Mが6で、ロータ磁極数Kが10で、ロータ表面に永久磁石を配置したモータである。ステータ磁極およびステータの各巻線は、図1で示したステータと同じである。G3D、G3E、G3Qなどに示すロータG3Mの永久磁石はその磁石磁束の方向を矢印で示し、永久磁石の内径側に永久磁石の内径側磁極であるN極あるいはS極を示している。
図32の(a)、(b)、(c)、(d)は、その順に、ロータG3Mが反時計回転方向CCWへ進んだ状態を示している。図32の(a)でロータG3MがCCWのトルクTを発生するためには、G3DのN極磁石をA相巻線G37、G38の電流IaとC相巻線G3B、G3Cの電流Icでステータ磁極G31の方向へ吸引すればよい。この時同時に、G3LのS極磁石を前記電流Ia、Icでステータ磁極G34の方向であるCCWへ吸引している。また同時に、永久磁石G3RとG3Sは、それぞれ、ステータ磁極G31とG34とを反発し、CCWのトルクを発生している。なお、時計回転方向CWへトルクを発生する場合は、逆の関係のステータ磁極とロータ磁極を選び、そのステータ磁極が起磁力を発生する電流を通電すればよい。
図32の(b)のロータ回転位置では、同様に、B相電流Ibを巻線G39、G3Aに通電し、電流Icを通電し、ステータ磁極G32とS極永久磁石G3Eとを吸引し、ステータ磁極G35とN極永久磁石G3Fとを吸引し、CCWのトルクTを発生する。
図32の(c)のロータ回転位置では、同様に、A相電流Iaを通電し、B相電流Ibを通電し、ステータ磁極G33とN極永久磁石G3Hとを吸引し、ステータ磁極G36とS極永久磁石G3Gとを吸引し、CCWのトルクTを発生する。以下、同様に回転トルクを発生することができる。
図32の(d)は、ロータG3Xの永久磁石を変更したモータの例である。N極永久磁石G3J等は同じ構成とし、S極永久磁石に替えて軟磁性体の磁極G3Kとしている。この軟磁性体の磁極G3K等へは、N極磁石G3J等の磁束がステータを経由して通過するので、S極永久磁石が配置されている時と類似した磁束が通り、トルクの発生も類似している。磁石の数を少なくしたモータ構成例である。
また、ロータに配置する永久磁石はロータの軟磁性体の表面だけでなく、軟磁性体の内部へも配置することができる。種々方法で軟磁性体の内部へ永久磁石を配置することができ、図27、図28、図29、図30はステータ磁極の例であるが、ロータ磁極についても同様である。
次に図33に、ステータ磁極数Mが8で、ロータ磁極数Kが12で、ロータ表面に永久磁石を配置したモータを示す。この場合、ステータの各巻線はスロット数の関係から、図1で示した全節巻とすることできない。図33に示すモータの巻線は、図14に示した環状巻か、あるいは、図15に示した様にモータを複合化し両モータのスロットへ相互に巻線を巻回する必要がある。図33では、電磁気的に機能するために必要な巻線だけを示すことにする。
図33の(a)、(b)、(c)、(d)は、その順に、ロータG41がCCWへ進んだ状態を示している。図33の(a)のロータ回転位置では、CCWのトルクを発生するために、巻線G43とG44へ図示する方向の電流を通電し、ステータ磁極G4Bと磁石G42の間に吸引力を発生する。同時に、巻線G43とG4Aへ図示する方向の電流を通電し、ステータ磁極G4Zと磁石G4Jの間に吸引力を発生する。同時に、巻線G47とG46へ図示する方向の電流を通電し、ステータ磁極G4Eと磁石G4Lの間に吸引力を発生する。同時に、巻線G47とG48へ図示する方向の電流を通電し、ステータ磁極G4Fと磁石G4Mの間に吸引力を発生する。ここで、巻線G43、G48へ通電する電流は重なっているので、この両巻線へは他の巻線の2倍の電流を通電する必要がある。前記の4個のステータ磁極G4B、G4Z、G4G、G4Fで発生するトルクの合計がモータトルクTである。なお、前記のロータ磁極磁石G42、G4A、G4U、G4MのCCW側に配置する永久磁石も反発力でCCWのトルクを発生している。
図33の(b)のロータ回転位置では、同様に、CCWのトルクを発生するために、巻線G43とG44へ図示する方向の電流を通電し、ステータ磁極G4Bと磁石G42の間に吸引力を発生する。同時に、巻線G45とG44へ図示する方向の電流を通電し、ステータ磁極G4Cと磁石G4Vの間に吸引力を発生する。同時に、巻線G49とG48へ図示する方向の電流を通電し、ステータ磁極G4Gと磁石G4Wの間に吸引力を発生する。同時に、巻線G47とG48へ図示する方向の電流を通電し、ステータ磁極G4Fと磁石G4Mの間に吸引力を発生する。
図33の(c)のロータ回転位置では、同様に、CCWのトルクを発生するために、巻線G45とG44へ図示する方向の電流を通電し、ステータ磁極G4Cと磁石G4Yの間に吸引力を発生する。同時に、巻線G45とG46へ図示する方向の電流を通電し、ステータ磁極G4Dと磁石G4Kの間に吸引力を発生する。同時に、巻線G49とG48へ図示する方向の電流を通電し、ステータ磁極G4Gと磁石G4Wの間に吸引力を発生する。同時に、巻線G49とG4Aへ図示する方向の電流を通電し、ステータ磁極G4Hと磁石G4Pの間に吸引力を発生する。
図33の(d)のロータ回転位置では、同様に、CCWのトルクを発生するために、巻線G45とG46へ図示する方向の電流を通電し、ステータ磁極G4Dと磁石G4Kの間に吸引力を発生する。同時に、巻線G47とG46へ図示する方向の電流を通電し、ステータ磁極G4Eと磁石G4Rの間に吸引力を発生する。同時に、巻線G49とG4Aへ図示する方向の電流を通電し、ステータ磁極G4Hと磁石G4Pの間に吸引力を発生する。同時に、巻線G43とG4Aへ図示する方向の電流を通電し、ステータ磁極G4Jと磁石G4Qの間に吸引力を発生する。以下、同様に回転トルクを発生することができる。
次に図34に、ステータ磁極数Mが10で、ロータ磁極数Kが16で、ロータ表面に永久磁石を配置したモータを示す。図34のステータの各巻線は、図1で示した全節巻とすることもできるが、このロータ磁極数16の場合は電気角で180°反対側のロータ磁極の向きが逆方向となるので、全節巻は採用できない。図34に示すモータの巻線は、図14に示した環状巻か、あるいは、図15に示した様にモータを複合化し両モータのスロットへ相互に巻線を巻回する必要がある。図34では、電磁気的に機能するために必要な巻線だけを示すことにする。
図34の(a)、(b)、(c)、(d)は、その順に、ロータGG1がCCWへ進んだ状態を示している。図34の(a)のロータ回転位置では、CCWのトルクを発生するために、巻線G51とG52へ図示する方向の電流を通電し、ステータ磁極G5Bと磁石G5Zの間に吸引力を発生する。同時に、巻線G59とG58へ図示する方向の電流を通電し、ステータ磁極G5Uと磁石G5Vの間に吸引力を発生する。同時に、巻線G57とG58へ図示する方向の電流を通電し、ステータ磁極G5Hと磁石G5Vの間に吸引力を発生する。同時に、巻線G55とG54へ図示する方向の電流を通電し、ステータ磁極G5Eと磁石G5Mの間に吸引力を発生する。前記の4個のステータ磁極G5B、G5U、G5H、G5Eで発生するトルクの合計がモータトルクTである。なお、前記のロータ磁極磁石G5Z、G5V、G5V、G5MのCCW側に配置する永久磁石も反発力でCCWのトルクを発生している。
図34の(b)のロータ回転位置では、同様に、CCWのトルクを発生するために、巻線G53とG52へ図示する方向の電流を通電し、ステータ磁極G5Cと磁石G5Lの間に吸引力を発生する。同時に、巻線G59とG5Aへ図示する方向の電流を通電し、ステータ磁極G5Jと磁石G5Rの間に吸引力を発生する。同時に、巻線G59とG58へ図示する方向の電流を通電し、ステータ磁極G5Uと磁石G5Mの間に吸引力を発生する。同時に、巻線G55とG56へ図示する方向の電流を通電し、ステータ磁極G5Fと磁石G5Nの間に吸引力を発生する。
図34の(c)のロータ回転位置では、同様に、CCWのトルクを発生するために、巻線G53とG52へ図示する方向の電流を通電し、ステータ磁極G5Cと磁石G5Tの間に吸引力を発生する。同時に、巻線G59とG5Aへ図示する方向の電流を通電し、ステータ磁極G5Jと磁石G5Rの間に吸引力を発生する。同時に、巻線G57とG56へ図示する方向の電流を通電し、ステータ磁極G5Gと磁石G5Pの間に吸引力を発生する。同時に、巻線G53とG52へ図示する方向の電流を通電し、ステータ磁極G5Cと磁石G5Lの間に吸引力を発生する。
図34の(d)のロータ回転位置では、同様に、CCWのトルクを発生するために、巻線G5BとG5Aへ図示する方向の電流を通電し、ステータ磁極G5Kと磁石G5Sの間に吸引力を発生する。同時に、巻線G57とG58へ図示する方向の電流を通電し、ステータ磁極G5Hと磁石G5Qの間に吸引力を発生する。同時に、巻線G55とG54へ図示する方向の電流を通電し、ステータ磁極G5Eと磁石G50の間に吸引力を発生する。同時に、巻線G53とG54へ図示する方向の電流を通電し、ステータ磁極G5Dと磁石G5Tの間に吸引力を発生する。以下、同様に回転トルクを発生することができる。
以上、ロータへ永久磁石を配置した本発明の例を示した。これらの例以外に、ステータ磁極の数Mとロータ磁極の数Kの種々組み合わせの構成も可能であり、ロータに永久磁石を配置したこれらの構成も本発明に含むものである。図32、図33、図34では、ロータの全周に永久磁石を配置した例を示したが、ロータ表面の円周方向に分離して永久磁石を配置することもできる。また、円周方向に、永久磁石部と軟鉄部を配置した構成とすることもできる。各永久磁石の形状、軟鉄部の形状についても種々変形は可能である。
また、ステータ磁極あるいはロータ磁極に永久磁石を使用する本発明モータを発電機として使用する場合には、図21に示した界磁電流Ifなどの励磁電流を無くすことが可能な場合もある。また、各巻線の発電電圧を整流する場合に、正負両方向の電圧を活用するためには、いわゆる全波整流とする必要がある。
なお、ここまでに記述した各種構成のモータを複合することも可能である。例えば、8極のモータで、4極分についてはステータ磁極の表面が永久磁石である構成とし、残りの半分はステータ磁極が軟鉄で構成し、モータ全体の特性としては両者の中間の特性とすることができる。また、従来モータ技術との複合も可能である。種々の複合により各種構成のモータを実現することができる。
次に、リニアモータの構成について説明する。前記の種々モータを直線化することが可能である。図35の(a)はリニアモータの縦断面図で、(b)は横断面図である。また、図35のリニアモータは図1のモータを図15のモータのように外径側と内径側とにモータを構成し、さらにそのモータを直線化し、最後に円筒化した構成のリニアモータである。概略のリニアモータ構成として、中心側がステータで、外周側がスライダーとした構成の例である。B26、B25、B24、B23、B23、B22、B21は円環状のステータ磁極である。B21とB27とは円環状の突極を成している。B2T、B2Cは円環状の巻線でA相巻線で、B2Q、B2Kは負のA相巻線である。B2R、B2Lは円環状の巻線でB相巻線で、B2N、B2Hは負のB相巻線である。B2P、B2Jは円環状の巻線でC相巻線で、B2S、B2Mは負のC相巻線である。B2GとB2Bは円環状のスライダー磁極である。同様に、B2FとB2A、B2EとB29、B21とB27はそれぞれ円環状のスライダー磁極である。図35の(a)はリニアモータの一部を図解していて、任意の長さの構成とすることができる。図35の(b)において、B2Uはスライダー磁極、B2Vはステータとスライダー間のエアギャップ、B2Hはステータ磁極である。力の発生は、図1のモータのトルク発生と同じ電磁気的作用であり、動きが円運動から直線化している。また、ステータとスライダとの間には、滑り軸受けあるいは転がり軸受けなどを配置し、相互の隙間を正確に保つと共に、案内する。また、電流の通電は、同相の巻線および逆相の巻線を渡り線で電流方向が同一となるように接続し、図2、図3のような制御装置で駆動することができ、低コストで小型のシステムとすることができる。各巻線はその2/3の巻線がトルク発生に寄与するので、高効率なリニアモータとすることができる。ステータ磁極に永久磁石を付加することによりさらに高トルク化することもできる。また、図35のリニアモータは内径側と外径側とを逆にすることも可能であり、また、巻線側を可動部とすることもでき、種々変形が可能である。モータ形式の異なる他のモータのリニアモータ化、永久磁石の活用等も可能である。
次に、モータの各種形態について示す。ステータ磁極の数Mが6で、ロータ磁極の数Kが2あるいは4の場合については、図1から図16等に示した。ステータ磁極の数Mが6で、ロータ磁極の数Kが3あるいは5の奇数の場合についても、図36、図37に示すように、本発明モータを実現することができる。
図36はモータ形式6S3Rのモータである。このモータはロータ磁極数Kが3であり、非対称構造なので、全節巻は採用できない。図36に示すモータの巻線は、図14に示した環状巻か、あるいは、図15に示した様にモータを複合化し両モータのスロットへ相互に巻線を巻回する必要がある。図36では、電磁気的に機能するために必要な巻線だけを示すことにする。
図36の(a)のロータ回転位置でCCWのトルクを発生するためには、巻線G11とG16へ図示する方向の電流を通電し、ステータ磁極A01とロータ磁極G17の間に吸引力を発生させCCWのトルクを得ることができる。図36の(b)のロータ回転位置でCCWのトルクを発生するためには、巻線G13とG12へ図示する方向の電流を通電し、ステータ磁極A03とロータ磁極G18の間に吸引力を発生させCCWのトルクを得ることができる。このように、ロータの回転に伴い、順次、通電する巻線を変えることにより連続したトルクを得ることができる。なおこのモータでは6個の巻線があり、各巻線は円周方向両側の2個のステータ磁極がそれぞれにトルクを発生するときに使用でき、各巻線が兼用している。
次に、図37は、モータ形式6S5Rのモータである。このモータもロータ磁極数Kが5であり、非対称構造なので、全節巻は採用できない。図36に示すモータの巻線は、図14に示した環状巻か、あるいは、図15に示した様にモータを複合化し両モータのスロットへ相互に巻線を巻回する必要がある。
図37の(a)のロータ回転位置でCCWのトルクを発生するためには、巻線G11とG14へ図示する方向の電流を通電し、ステータ磁極A06とロータ磁極G25の間に吸引力を発生させCCWのトルクを得ることができる。また、巻線G15とG14へ図示する方向の電流を通電し、ステータ磁極A05とロータ磁極G24の間に吸引力を発生させCCWのトルクを得ることができる。
図37の(b)のロータ回転位置までCCWへ回転すると、巻線G15とG12へ図示する方向の電流を通電し、ステータ磁極A04とロータ磁極G23の間に吸引力を発生させCCWのトルクを得ることができる。また、巻線G15とG14へ図示する方向の電流を通電し、ステータ磁極A05とロータ磁極G24の間に吸引力を発生させCCWのトルクを得ることができる。このように、ロータの回転に伴い、順次、通電する巻線を変えることにより連続したトルクを得ることができる。なおこのモータでは6個の巻線があり、各巻線は円周方向両側の2個のステータ磁極がそれぞれにトルクを発生するときに使用でき、各巻線が兼用している。
なお、図36、図37に示すモータは、ステータ磁極およびロータ磁極の円周方向の幅などを、必要に応じて、変更することができる。また、ステータ磁極およびロータ磁極の数を整数倍して、いわゆる多極化に相当する変形も可能である。図36、図37の基本形では幾何学的にアンバランスな構造も多極化することによりバランスを良くすることができる。磁気的にも、巻線の方向を変えて全磁束がバランスするように構成することができる。
また、Kが6以上の場合もトルクの発生が可能であり、特に低トルク域の場合にはトルクリップルの小さい運転が可能であるなどの特徴もある。しかし、大トルクを発生する場合には、ロータ磁極が近接するので、漏れ磁束が多くなり、不利である。
ロータ磁極の数Kが奇数の場合について示したが、ステータ磁極の数Mが奇数の場合についても本発明モータを実現することができる。但しその場合には、1個所で電流の方向に関してステータ磁極の起磁力発生に不都合が発生する。この対応策にはいくつかの方法があり、以下に示す。一つの方法は、不都合の発生するステータ磁極はモータとして使用しない。あるいは、一つの巻線の電流方向は、両方向に通電できるように制御する。あるいは、不規則性が発生するスロットに、電流方向が逆方向の2組の巻線を配置し、それぞれに片方向電流が通電できる様にする。この問題は、モータの一部の問題なので、多少のコスト的負担をすれば、種々の対応方法がある。ステータ磁極の数とロータ磁極の数の特定関係を実現したい場合、あるいはモータを実現する上での制約がある場合には、あえてMおよびKを奇数とすることも可能である。
また、具体的にステータ磁極の形状、スロット形状、ロータ磁極の形状などを変形したモータの例を図38に示し説明する。このモータはモータ形式6S4Rで、全節巻の巻線である。破線はコイルエンドの配置を示している。巻線226と229はA相巻線で、巻線228と22BはB相巻線で、巻線22Aと227はC相巻線である。各巻線の電流方向は、図示したシンボルの方向である。例えば、巻線226の電流方向は紙面の表側から紙面の裏側の方向である。巻線229の電流方向は紙面の裏側から紙面の表側の方向である。巻線の巻回方法についても、図14に示した環状巻か、あるいは、図15に示した様にモータを複合化し両モータのスロットへ相互に巻線を巻回するとすることもできる。
22C、22D、22E、22F、22G、22Hは各ステータ磁極である。ステータ磁極の形状についても種々の変形ができ、図1に示すモータのステータ磁極の円周方向幅は電気角でほぼ30°であるが、この値に比較して、図38のステータ磁極幅Htはむしろ60°に近い。そして、各相巻線を配置している各スロットの開口部はつば状の形状222となっていて、スロット開口部の円周方向幅Hsは巻線が挿入可能な程度に小さい例である。
ロータ磁極は、221が円周方向幅が広いロータ磁極幅Hmで、225が狭いロータ磁極幅Hhとしている。これらの形状としている狙いは、低速回転ではロータ回転位置に応じて両ステータ磁極を交互に駆動し、回転速度が高速になるにしたがい狭いロータ磁極225での駆動を減少し、広いロータ磁極での駆動を増加させるようにし、駆動アルゴリズムを単純化させて各巻線の電流の増減を少なくすること、鉄損を低減すること、振動および騒音を低減することなどを目的とする。
円周方向幅が広いロータ磁極には、スリット223、224を設けている。これは、ロータ磁極の磁束が過大とならないようにすること、ロータ磁極部の磁束の分布を均一化することなどの目的がある。ロータ磁極に種々形状のスリット、穴などを設けることができる。さらに、スリットへ閉回路を成した導体あるいは導体板を配置し、スリットを横切る磁束の変化を妨げるように導体の電流を誘起し、磁束の分布を制約することもできる。また、これらのスリットは2つのロータ磁極に4個ずつ分離した構成を記述しているが、これらのスリットが一方のロータ磁極から他方のロータ磁極まで繋がった4個のスリットであっても良い。
ここではロータの回転位置をA相巻線の中心位置からあるロータ磁極の反時計回転方向の角部までの角度としてθrで示している。図38の回転位置θrでCCWのトルクを発生する場合には、A相巻線226、229へA相電流IaとC相巻線22A、227へ同一の大きさの電流Icを通電すればよい。電流Ia、Icの大きさは概略としてトルク指令Tcの大きさで決めることができるが、正確には空間部に漏れる漏れ磁束の影響および軟磁性体の磁気的な非線形性などによりロータ回転位置θrの関数ともなる。そしてこの時、B相巻線228、22Bの電流Ibは零とする。しかしこれらの電流値についてもその目的により種々の値を取ることができる。例えば高速回転では、電流応答遅れ時間を考慮して位相を早めて各相電流を制御とすることが効果的である。また、各相のある大きさの電流をオフセット値として付加することもでき、モータ内のラジアル方向の吸引力の安定化することができ、振動と騒音を低減できる場合もある。同様に、モータ内の磁束の変化をよりスムーズに行うための電流制御法もある。また、後に示すが、この回転位置θrにおいて、図38に図示したC相電流の方向とは逆方向にC相電流Icを通電してモータトルクを増加させることもでき、モータの平均出力トルクを向上することも可能である。但しその場合には、制御装置の変更、増加が必要であり、一長一短である。以上のように、各相電流は種々の方法および値でモータを駆動することができるので、本発明で説明する基本的で静的なトルク発生のための電流通電方法および電流値を変形することが可能であり、本発明はそれらを排除するものではない。
次に、図38に示すモータを円周方向に整数倍し、いわゆる多極化をすることも可能であり、多極化することによりコイルエンド部の長さを大幅に短縮でき、ステータのバックヨーク部の厚みも大幅に低減できるので、本発明の例として示し説明する2極のモータは、むしろ多極化することを想定している。
ここで示したこれらのモータ形状の変形は、本発明で示す他の種類のモータの場合にも同様のことが言え、本発明例に示す他のモータについて各部形状を変形したモータも本発明に含むものである。
次に、ステータ磁極の数Mが8の場合の本発明モータについて説明する。Mが8の場合の各スロットの巻線の電流方向は、図39に図示するように隣接するスロットの巻線の電流方向が逆方向となるように配置することができる。しかし、電気角で180°の位置にある巻線B3HとB3Mの電流方向は同一方向であり、図1のステータのように全節巻で巻線を巻回することはできない。図14のような環状巻線あるいは図15のような複合モータの、巻線であれば、個々のスロットの巻線を巻回することができるので製作可能である。
この時、ロータ磁極の数Kは、2以上の整数で可能である。K=2のモータ形式8S2Rの場合は、図9に示すロータ11Eとなり、図9に示したモータのように、各ステータ磁極で順次吸引して駆動することができる。しかし、この場合には、磁束の方向が同一方向となるので、ステータのバックヨークとロータのバックヨークとの間に磁束のバイパス路を付加する必要がある。あるいは、図39の(a)において、ロータ磁極B3BとB3Dを除去した構成とすることができる。トルク低下部については、漏れ磁束によるトルク発生、ロータのスキューあるいは後に述べる段スキューなどにより改善が可能である。
モータ形式8S2Rのモータの特徴は、6S2Rのモータに比較して隣接するステータ磁極のトルクとのオーバラップに関する自由度が高い点である。6S2Rのモータの場合、2つのステータ磁極でのトルク発生の移り変わりを行う回転位置の近傍において、2つのステータ磁極でそれぞれにトルクを発生する電流を重畳して通電するが、モータ構造によってはこの時、第3のステータ磁極で負トルクが発生する問題がある。
この問題点に対して、モータ形式8S2Rのモータでは、隣接する第1と第2のステータ磁極でトルク発生の移り変わりを行う回転位置の近傍において、これらの2つのステータ磁極でそれぞれにトルクを発生する電流を重畳して通電したときに、ロータ磁極が近接する第3のステータ磁極への起磁力がほとんど作用しないので、良好なトルク発生を実現することが容易である。
モータ形式8S4Rの例を図39の(a)、(b)に示す。このモータは、ロータが幾何学的にアンバランスな形状だが、図4に示す6S4Rと同様に駆動することができる。多極化すればロータバランスなどの問題は解消できる。今、CCWのトルクを発生する場合、図39の(a)のロータ位置では、巻線B3NとB3Bへ巻線シンボルの方向へ電流を通電し、ステータ磁極B35とロータ磁極B3Bとを吸引させ、CCWのトルクを発生する。同時に、巻線B3QとB3Hへ巻線シンボルの方向へ電流を通電し、ステータ磁極B38とロータ磁極B3Dとを吸引させ、CCWのトルクを発生する。
図39の(a)のロータ位置からCCWへ少し回転し、図39の(b)のロータ位置では、巻線B3JとB3Kへ巻線シンボルの方向へ電流を通電し、ステータ磁極B32とロータ磁極B3Aとを吸引させ、CCWのトルクを発生する。同時に、巻線B3QとB3Pへ巻線シンボルの方向へ電流を通電し、ステータ磁極B37とロータ磁極B3Cとを吸引させ、CCWのトルクを発生する。以下同様に、ロータ回転位置θrに従って、通電すべき巻線を選択して回転トルクを得ることができる。
図39の(a)、(b)では、8個の巻線の内、4個の巻線の電流で駆動することができる。また、各巻線はその巻線の円周方向両隣のステータ磁極でそれぞれにトルクを発生するときに使用することができ、各巻線を兼用している。
次に、図40に示すモータは、ステータは図39と同じで、ロータ磁極の数Kが6の例である。モータ形式は、8S6Rである。図40では環状巻の構成とし、バックヨークの背面側の巻線B3Xおよび破線で示す経路B3Y等も付加して、ステータを少し具体的に示している。今、CCWのトルクを発生する場合、図40の(a)のロータ位置では、巻線B3JとB3Hへ巻線シンボルの方向へ電流を通電し、ステータ磁極B31とロータ磁極B3Rとを吸引させ、CCWのトルクを発生する。同時に、巻線B3JとB3Kへ巻線シンボルの方向へ電流を通電し、ステータ磁極B32とロータ磁極B3Sとを吸引させ、CCWのトルクを発生する。同時に、巻線B3NとB3Mへ巻線シンボルの方向へ電流を通電し、ステータ磁極B35とロータ磁極B3Uとを吸引させ、CCWのトルクを発生する。同時に、巻線B3NとB3Pへ巻線シンボルの方向へ電流を通電し、ステータ磁極B36とロータ磁極B3Vとを吸引させ、CCWのトルクを発生する。
図40の(a)のロータ位置からCCWへ少し回転し、図40の(b)のロータ位置では、巻線B3QとB3Hへ巻線シンボルの方向へ電流を通電し、ステータ磁極B38とロータ磁極B3Wとを吸引させ、CCWのトルクを発生する。同時に、巻線B3JとB3Hへ巻線シンボルの方向へ電流を通電し、ステータ磁極B31とロータ磁極B3Rとを吸引させ、CCWのトルクを発生する。同時に、巻線B3LとB3Mへ巻線シンボルの方向へ電流を通電し、ステータ磁極B34とロータ磁極B3Tとを吸引させ、CCWのトルクを発生する。同時に、巻線B3NとB3Mへ巻線シンボルの方向へ電流を通電し、ステータ磁極B35とロータ磁極B3Uとを吸引させ、CCWのトルクを発生する。以下同様に、ロータ回転位置θrに従って、通電すべき巻線を選択して回転トルクを得ることができる。
次に、ステータ磁極の数Mが10の場合の本発明モータについて説明する。Mが10の場合の各スロットの巻線の電流方向は、図41に図示するように隣接するスロットの巻線の電流方向が逆方向となるように配置することができる。そして、電気角で180°の位置にある巻線、例えばB5MとB5Sの電流方向は反対方向となり、全節巻で巻線を巻回することができる。全節巻の場合は10スロットに配置した巻線は、A相巻線がB5MとB5S、B相巻線がB5PとB5U、C相巻線がB5RとB5W、D相巻線がB5TとB5N、E相巻線がB5VとB5Qと5組の巻線で構成する。また、図14のような環状巻線あるいは図15のような複合モータの巻線で巻回することもできる。
この時、ロータ磁極の数Kは、2以上の整数で可能である。K=2のモータ形式10S2Rの場合は、図9に示すロータ11Eとなり、図9に示したモータのように各ステータ磁極で順次吸引して駆動することができる。トルク低下部については、漏れ磁束によるトルク発生、ロータのスキューあるいは後に述べる段スキューなどにより改善が可能である。
モータ形式10S2Rのモータの特徴は、6S2Rのモータに比較して隣接するステータ磁極のトルクとのオーバラップに関する自由度が高い点である。6S2Rのモータの場合、2つのステータ磁極でのトルク発生の移り変わりを行う回転位置の近傍において、2つのステータ磁極でそれぞれにトルクを発生する電流を重畳して通電するが、モータ構造によってはこの時、第3のステータ磁極で負トルクが発生する問題がある。
この問題点に対して、モータ形式10S2Rのモータでは、隣接する第1と第2のステータ磁極でトルク発生の移り変わりを行う回転位置の近傍において、これらの2つのステータ磁極でそれぞれにトルクを発生する電流を重畳して通電したときに、ロータ磁極が近接する第3のステータ磁極への起磁力がほとんど作用しないので、良好なトルク発生を実現することが容易である。また、モータ形式8S2Rのモータの場合には全節巻きが困難であり、磁束の向きについての工夫も必要であったが、モータ形式10S2Rのモータはその点では簡潔である。ただし、5相のモータとなるので、巻線の利用率が下がり、制御装置もやや複雑になる。
図41はモータ形式10S4Rのモータ例である。このモータは、図4に示した方法と同様の方法で回転駆動することができる。ロータ回転位置θrに応じて、ロータ磁極B5E、B56とB5C、B5Dとを交互に図にシンボルで示す片方向電流を通電して励磁し、回転トルクを生成することができる。図2の制御装置を5相に拡張した制御装置で、図41の各巻線に電流を通電してトルクを発生する時間的な割合は2/5であり、図3の従来例に比較してパワートランジスタの電流容量は(1/6)/(2/5)=(1/2.4)倍となる。制御装置の低電流容量化が可能である。すなわち、小型化できる。
次に、図41のステータ磁極とロータ磁極の円周方向幅を大きくしたモータの例を図42の(a)に示す。G91、G92、G93、G94、G95、G96、G97、G98、G99、G9Aは10個のステータ磁極である。各巻線は図41と同じで、A相、B相、C相、D相、E相の各巻線は、B5MとB5S、B5PとB5U、B5RとB5W、B5TとB5N、B5VとB5Qの5個の巻線であり、それぞれの電流は図示するシンボルの方向の片方向電流Ia、Ib、Ic、Id、Ieを通電する。なお、全節巻のコイルエンド部の記述を省略している。
今、CCWのトルクを発生する場合、図42の(a)のロータ位置では、A相巻線B5M、B5SとD相巻線B5T、B5Nへ巻線シンボルの方向へ電流Ia、Idを通電し、太い矢印付き実線で示す磁束G9Fを励磁し、ステータ磁極G91とロータ磁極G9Bとを吸引させ、CCWのトルクを発生する。この時同時に、ステータ磁極G96とロータ磁極G9Dとの間にも前記磁束G9Fを励磁しており、吸引力が発生し、CCWのトルクを発生する。一方、同時に、B相巻線B5P、B5UとE相巻線B5V、B5Qへ巻線シンボルの方向へ電流を通電し、太い矢印付き破線で示す磁束G9Gを励磁し、ステータ磁極G93とロータ磁極G9Cとを吸引させ、CCWのトルクを発生する。この時同時に、ステータ磁極G98とロータ磁極G9Eとの間にも前記磁束G9Gを励磁しており、吸引力が発生し、CCWのトルクを発生する。
CCWへ少し回転した図42の(b)のロータ位置では、A相巻線B5M、B5SとD相巻線B5T、B5Nへ巻線シンボルの方向へ電流を通電し、太い矢印付き実線G9Hで示す磁束を励磁し、ステータ磁極G91とロータ磁極G9Bとを吸引させ、CCWのトルクを発生する。この時同時に、ステータ磁極G96とロータ磁極G9Dとの間にも前記磁束G9Hを励磁しており、吸引力が発生し、CCWのトルクを発生する。一方、同時に、C相巻線B5R、B5WとE相巻線B5V、B5Qへ巻線シンボルの方向へ電流を通電し、太い矢印付き破線で示す磁束G9Jを励磁し、ステータ磁極G94とロータ磁極G9Cとを吸引させ、CCWのトルクを発生する。この時同時に、ステータ磁極G99とロータ磁極G9Eとの間にも太い矢印付き破線で示す磁束を励磁しており、吸引力が発生し、CCWのトルクを発生する。
図42の(c)のロータ位置では、B相巻線B5P、B5UとD相巻線B5T、B5Nへ巻線シンボルの方向へ電流を通電し、太い矢印付き実線で示す磁束G9Kを励磁し、ステータ磁極G92とロータ磁極G9Bとを吸引させ、CCWのトルクを発生する。この時同時に、ステータ磁極G97とロータ磁極G9Dとの間にも太い矢印付き実線で示す磁束G97を励磁しており、吸引力が発生し、CCWのトルクを発生する。一方、同時に、C相巻線B5R、B5WとE相巻線B5V、B5Qへ巻線シンボルの方向へ電流を通電し、太い矢印付き破線で示す磁束G9Lを励磁し、ステータ磁極G94とロータ磁極G9Cとを吸引させ、CCWのトルクを発生する。この時同時に、ステータ磁極G99とロータ磁極G9Eとの間にも太い矢印付き破線で示す磁束を励磁しており、吸引力が発生し、CCWのトルクを発生する。
図42の(d)のロータ位置では、B相巻線B5P、B5UとD相巻線B5T、B5Nへ巻線シンボルの方向へ電流を通電し、太い矢印付き実線で示す磁束G9Mを励磁し、ステータ磁極G92とロータ磁極G9Bとを吸引させ、CCWのトルクを発生する。この時同時に、ステータ磁極G97とロータ磁極G9Dとの間にも前記磁束G9Mを励磁しており、吸引力が発生し、CCWのトルクを発生する。一方、同時に、C相巻線B5R、B5WとE相巻線B5V、B5Qへ巻線シンボルの方向へ電流を通電し、太い矢印付き破線で示す磁束G9Nを励磁し、ステータ磁極G94とロータ磁極G9Cとを吸引させ、CCWのトルクを発生する。この時同時に、ステータ磁極G99とロータ磁極G9Eとの間にも前記破線で示す磁束G9Nを励磁しており、吸引力が発生し、CCWのトルクを発生する。以下同様に、ロータ回転位置に応じて各相の電流を制御することにより回転トルクを発生することができる。CCW、CWの方向の回転で、正負のトルクを制御でき、いわゆる4象限運転が可能である。
図42のモータは、以上示したように、4個のロータ磁極でトルクを発生し、ステータ磁極とロータ磁極の位相関係が2個のロータ磁極ずつ位相が異なるので、トルクリップルも低減される。また、大半の回転位置に置いて、5個の巻線の内4個の巻線の電流が回転トルク発生に関わっていて、効果的にトルクを発生しているとも言える。
しかし、図42のモータ形式10S4Rでは、図11のモータ形式6S2Rに比較して2組の磁束の増減が交差して発生するので、各巻線の電流によるモータとのエネルギーの授受が複雑である。各巻線に発生する電圧が、図11のモータ形式6S2Rの例の単純な重ね合わせとはならない場合がある。図42の(a)の回転位置で回転している時に、太線の破線で示す磁束が増減すると、A相巻線B5M、B5SとD相巻線B5T、B5Nの誘起電圧が同じ値とならないことには注意を要する。
なお、図42の(c)に示すような、ロータ磁極の回転方向の円周方向端がステータのスロット開口部にさしかかるときには、その部分で発生するトルクが低下しがちである。このトルク低下の問題の対応策として、後に述べるロータのスキュー、ロータ形状に工夫をして漏れ磁束によるトルク発生などの種々方法がある。また、図42あるいはその多相化したモータ形状で、5相の全節巻巻線を構成すると、コイルエンド部で各相巻線が交差し、コイルエンド部が大きくなりがちである。この点についても、図15に示すように複合モータ化することにより、内外径の同相のスロット間に各相巻線を相互に巻回し、相数が多くなっても巻線を簡素化するなどの方法がある。図14のような環状巻とする方法もある。
また、ロータ磁極の形状および位置を図43あるいは図44に示す形状に変形することもできる。
なお、図9に示す6S4Rのモータ形式を、図10のモータのように円周上に4倍に多極化し、ステータ磁極の数Mを24個とし、ロータ磁極の数Kを8とした場合は、3相の電流Ia、Ib、Icで制御でき、2組の磁束が交差することもなく制御することが可能であり、図42のモータのような電圧のアンバランスの問題は発生しない。すなわち、多極化により各相巻線の電流と鎖交磁束と関係が電磁気的に複雑になることはない。
次に、図45はモータ形式10S6Rのモータ例である。このモータのステータは、図41から図44のステータと同じ構成である。ロータ磁極の数Kは6であり、円周上に均等に配置した例である。図45の(a)のロータ回転位置でCCWのトルクを発生する場合、A相巻線B5M、B5SとD相巻線B5T、B5Nへ巻線シンボルの方向へ電流Ia、Idを通電し、太い矢印付き実線で示す磁束B6Aを励磁し、ステータ磁極B51とロータ磁極B61とを吸引させ、CCWのトルクを発生する。この時同時に、ステータ磁極B56とロータ磁極B64との間にも前記磁束B6Aを励磁しており、吸引力が発生し、CCWのトルクを発生する。
一方、同時に、C相巻線B5R、B5WとE相巻線B5V、B5Qへ巻線シンボルの方向へ電流を通電し、太い矢印付き破線で示す磁束B6Bを励磁し、ステータ磁極B54とロータ磁極B63とを吸引させ、CCWのトルクを発生する。この時同時に、ステータ磁極B59とロータ磁極B66との間にも前記磁束B6Bを励磁しており、吸引力が発生し、CCWのトルクを発生する。
CCWへ少し回転した図45の(b)のロータ位置では、A相巻線B5M、B5SとD相巻線B5T、B5Nへ巻線シンボルの方向へ電流Ia、Idを通電し、太い矢印付き実線で示す磁束B6Aを励磁し、ステータ磁極B51とロータ磁極B61とを吸引させ、CCWのトルクを発生する。この時同時に、ステータ磁極B56とロータ磁極B64との間にも前記磁束B6Aを励磁しており、吸引力が発生し、CCWのトルクを発生する。
一方、同時に、B相巻線B5P、B5UとE相巻線B5V、B5Qへ巻線シンボルの方向へ電流を通電し、太い矢印付き破線で示す磁束B6Cを励磁し、ステータ磁極B53とロータ磁極B62とを吸引させ、CCWのトルクを発生する。この時同時に、ステータ磁極B58とロータ磁極B65との間にも前記磁束B6Cを励磁しており、吸引力が発生し、CCWのトルクを発生する。以下同様に、ロータ回転位置に応じて各相の電流を制御することにより回転トルクを発生することができる。
図46はモータ形式10S8Rのモータ例である。このモータのステータは、図41から図45のステータと同じ構成である。ロータ磁極の数Kは8であり、円周上に均等に配置した例である。図46の(a)のロータ回転位置でCCWのトルクを発生する場合、A相巻線B5M、B5SとD相巻線B5T、B5Nへ巻線シンボルの方向へ電流Ia、Idを通電し、太い矢印付き実線で示す磁束B7Aを励磁し、ステータ磁極B51とロータ磁極B71とを吸引させ、CCWのトルクを発生する。この時同時に、ステータ磁極B56とロータ磁極B75との間にも前記磁束B7Aを励磁しており、吸引力が発生し、CCWのトルクを発生する。
一方、同時に、B相巻線B5P、B5UとD相巻線B5T、B5Nへ巻線シンボルの方向へ電流Ib、Idを通電し、太い矢印付き破線で示す磁束B7Bを励磁し、ステータ磁極B52とロータ磁極B72とを吸引させ、CCWのトルクを発生する。この時同時に、ステータ磁極B57とロータ磁極B76との間にも前記磁束B58を励磁しており、吸引力が発生し、CCWのトルクを発生する。
CCWへ少し回転した図45の(b)のロータ位置では、A相巻線B5M、B5SとD相巻線B5T、B5Nへ巻線シンボルの方向へ電流Ia、Idを通電し、太い矢印付き実線で示す磁束B7Aを励磁し、ステータ磁極B51とロータ磁極B71とを吸引させ、CCWのトルクを発生する。この時同時に、ステータ磁極B56とロータ磁極B75との間にも前記磁束B7Aを励磁しており、吸引力が発生し、CCWのトルクを発生する。
一方、同時に、A相巻線B5M、B5SとC相巻線B5R、B5Wへ巻線シンボルの方向へ電流Ia、Icを通電し、太い矢印付き破線で示す磁束B7Cを励磁し、ステータ磁極B5Aとロータ磁極B78とを吸引させ、CCWのトルクを発生する。この時同時に、ステータ磁極B55とロータ磁極B74との間にも前記磁束B7Cを励磁しており、吸引力が発生し、CCWのトルクを発生する。以下同様に、ロータ回転位置に応じて各相の電流を制御することにより回転トルクを発生することができる。
次に、ステータ磁極の数Mが12の場合の本発明モータについて説明する。その一つのモータは、図9、図11に示したモータ形式6S2Rを4極の多極化したモータ形式12S4Rであるが、モータ特性は6S2Rの特性である。他の一つは、図1の6S4Rのモータを4極に多極化したモータであり、モータ特性は図1の6S4Rの特性である。これらのモータは3相のモータである。但し、ロータ磁極の一部を円周方向に電気角で0°〜30°程度シフトする、あるいは、ステータ磁極、ロータ磁極の一部の円周方向磁極幅を0°〜30°程度拡大、縮小するなどの変形は可能である。トルクリップルの低減、振動、騒音の低減などが可能である。
Mが12の場合の他のモータ例として、モータ形式12S10Rの例を図47に示す。ステータ磁極は等間隔に配置していて、B81、B82、B83、B84、B85、B86、B87、B88、B89、B8A、B8B、B8Cである。この形状のモータの場合は、交流モータの場合、6相交流モータと考えることができるが、隣接するスロットへ片方向の電流を通電するという制約を設けると、180°反対側のスロットの電流方向が同一極性の電流となるので、全節巻の巻線を巻回することはできない。しかし、図14のような環状巻、図15のような複合モータでの相互のモータのスロット間での巻回により、モデル的に図47に示す電流方向の巻線を巻回することができる。B8RはA相巻線でA相電流Iaを通電する。B8SはB相巻線でB相電流Ibを通電する。B8TはC相巻線でC相電流Icを通電する。B8UはD相巻線でD相電流Idを通電する。B8VはE相巻線でE相電流Ieを通電する。B8WはF相巻線でF相電流Ifを通電する。B8XはG相巻線でG相電流Igを通電する。B8YはH相巻線でH相電流Ihを通電する。B8ZはJ相巻線でJ相電流Ijを通電する。B8DはK相巻線でK相電流Ikを通電する。B8EはM相巻線でM相電流Imを通電する。B8FはN相巻線でN相電流Inを通電する。
今、CCWのトルクを発生する場合、図47のロータ位置では、A相巻線B8RとF相巻線B8Fへ巻線シンボルの方向へ電流Ia、Ifを通電し、磁束B8Gを励磁し、ステータ磁極B8Cとロータ磁極B8Kとを吸引させ、CCWのトルクを発生する。この時同時に並列して、A相巻線B8RとB相巻線B8Sへ巻線シンボルの方向へ電流Ia、Ibを通電し、磁束B8Hを励磁し、ステータ磁極B81とロータ磁極B8Lとを吸引させ、CCWのトルクを発生する。この時同時に並列して、C相巻線B8TとB相巻線B8Sへ巻線シンボルの方向へ電流Ic、Ibを通電し、磁束B8Jを励磁し、ステータ磁極B82とロータ磁極B8Mとを吸引させ、CCWのトルクを発生する。この時同時に並列して、G相巻線B8XとF相巻線B8Fへ巻線シンボルの方向へ電流Ig、Ifを通電し、磁束J11を励磁し、ステータ磁極B86とロータ磁極B8Nとを吸引させ、CCWのトルクを発生する。この時同時に並列して、G相巻線B8XとH相巻線B8Yへ巻線シンボルの方向へ電流Ig、Ihを通電し、磁束J12を励磁し、ステータ磁極B87とロータ磁極B8Pとを吸引させ、CCWのトルクを発生する。この時同時に並列して、J相巻線B8ZとH相巻線B8Yへ巻線シンボルの方向へ電流Ij、Ihを通電し、磁束J13を励磁し、ステータ磁極B88とロータ磁極B8Qとを吸引させ、CCWのトルクを発生する。以下同様に、ロータ回転位置に応じて各相の電流を制御することにより回転トルクを発生することができる。
また、図47において、各磁束B8G、B8H、B8J、J11、J12、J13のラジアル方向の磁束の総和は零とならないときもあるが、他のステート磁極およびロータ磁極を経由して磁束を一巡させ、ループすることができる。また、前記の磁束を励磁するための電流は、必ずしも全部を通電する必要もなく、また、各電流の大きさも選択できる。従って、あるトルク発生するときに、このモータの各巻線の電流の値は、多くの組み合わせがあり、駆動方法は多様であると言える。インバータの負担低減、鉄損の低減、銅損の低減、巻線電圧の低減などの都合で選択することができる。
なお、図47のモータにおいて、各スロットへ2組の巻線を挿入して12相のモータとして動作させる、あるいは、一部の巻線は両方向電流を通電することができる構成とすることなどにより全節巻とすることもできる。
次に、ステータ磁極の数Mが14の場合の本発明モータについて説明する。巻線は全節巻、図14に示したような環状巻、図15のような複合モータの巻線が可能である。しかし、7相モータとなり、全節巻の場合には各相の巻線が複雑に交差し、製作が容易ではない。その点で、図14で示した環状巻、図15で示した複合モータの巻線であれば、各相の巻線が干渉することはないので、相数が大きい場合でも巻線の製作は容易で、モータのコイルエンド部が大型化する問題もない。
全節巻の場合は、図48に示すように、A相巻線はB9V、B9Hで電流Iaを通電する。B相巻線はB9X、B9Kで電流Ibを通電する。C相巻線はB9Z、B9Mで電流Icを通電する。D相巻線はB9G、B9Pで電流Idを通電する。E相巻線はB9J、B9Wで電流Ieを通電する。F相巻線はB9L、B9Yで電流Ifを通電する。G相巻線はB9N、B9Fで電流Igを通電する。B91、B92、B93、B94、B95、B96、B97、B98、B9A、B9B、B9C、B9D、B9Eはステータ磁極である。
図48はモータ形式14S4Rの例である。このモータは、図4のモータと同様に電流を通電して駆動することができる。しかし、図4のモータと異なる点はロータの外周で空きスペースが多く、何らかの他の用途にそのスペースが活用できる点である。ロータに形状制約がある場合に使用できる。
図49はモータ形式14S6Rの例である。このモータは、ロータ磁極が6個有り、各ロータ磁極のトルク発生区間を重複することができるので、図48のモータに対し、より大きなトルクが得られる点と、トルクリップルを小さくできる特徴がある。
図50はモータ形式14S8Rの例である。このモータは、ロータ磁極が8個有り、ロータが回転するとき、4個のロータ磁極をトルク発生に使用でき、14個の巻線の内8個の巻線の電流でトルクを発生することができる。モータのトルクが大きく、制御装置のパワートランジスタの電流容量を小さくすることができ、低コスト化、小型化ができる。
図50のロータ回転位置でCCWのトルクを発生する場合、A相巻線B9V、B9Hへ電流Iaを通電し、同時にE相巻線はB9J、B9Wで電流Ieを通電することにより、磁束C17を励磁し、ステータ磁極B91とロータ磁極C11とを吸引させ、CCWのトルクを発生する。同時に、磁束C17により、ステータ磁極B98とロータ磁極C14とを吸引させ、CCWのトルクを発生する。
この時同時に、B相巻線B9V、B9Hへ電流Ibを通電し、同時にF相巻線はB9L、B9Yで電流Ifを通電することにより、磁束C18を励磁し、ステータ磁極B93とロータ磁極C12とを吸引させ、CCWのトルクを発生する。同時に、磁束C18により、ステータ磁極B9Aとロータ磁極C15とを吸引させ、CCWのトルクを発生する。
また、この時同時に、C相巻線B9Z、B9Mへ電流Icを通電し、同時にG相巻線はB9N、B9Fで電流Igを通電することにより、磁束C19を励磁し、ステータ磁極B95とロータ磁極C13とを吸引させ、CCWのトルクを発生する。同時に、磁束C19により、ステータ磁極B9Cとロータ磁極C16とを吸引させ、CCWのトルクを発生する。以下、ロータの回転位置に伴い、所望のトルクを発生することのできるステータ磁極を励磁することによりロータを順次回転することができる。正転、逆転、力行トルク、回生トルクの組み合わせでいわゆる4象限運転が可能である。
このように、図50に示すモータでは、同時に4個のステータ磁極、あるいは、6個のステータ磁極でトルクを発生することができ、高トルク化が可能である。逆に、トルクを発生するステータ磁極を限定して、巻線の発生電圧を低減し、直流電源電圧の制約の中でより高速の回転を実現することもできる。また、制御装置の点でも、各巻線は片方向電流で、各巻線が両隣のステータ磁極を励磁できるように兼用しているので、複数の巻線経路から同時に電力をモータへ供給できるので、パワートランジスタの電流容量を低減することができ、制御装置の低コスト化、小型化も可能である。
次に、図51はモータ形式14S10Rの例である。このモータは、図50に示すモータと同じステータで、ロータには10個のステータ磁極を持っている。例えば、図51のロータ回転位置の状態でCCWのトルクを発生する場合、矢印で示す磁束を図50のモータの場合と同様な方法で励磁して吸引力を発生してCCWのトルクを発生することができる。モータ特性は図50のモータと類似している。
次に、図52はモータ形式14S12Rの例である。このモータは、図50に示すモータと同じステータで、ロータには10個のステータ磁極を持っている。例えば、図51のロータ回転位置の状態でCCWのトルクを発生する場合、矢印で示す磁束を励磁して吸引力を発生してCCWのトルクを発生することができる。しかし、図52の磁束の分布は、図50、図51の場合と大分異なる。これは、ステータ磁極の数M=14とロータ磁極の数K=12とが近い数であることからこのような磁束分布となっていて、その磁束分布はいわゆるバーニアモータと言われるモータと類似している点がある。しかし、図52のモータは、各巻線の電流方向が隣接するスロットの巻線の電流方向と逆方向である点、磁束の方向が異なる点、各ロータ磁極を各ステータ磁極が個別に励磁している点が異なる。その結果として、ステータのバックヨークを薄くできる点、制御装置を小型化できる点は異なる。図52のモータのトルク特性等は、図50、図51のモータ特性と類似していて、大きなトルクを発生でき、また、トルク発生部を選択的に制御することもできる。
以上、図50、図51、図52などに示したように、ステータ磁極の数Mおよびロータ磁極の数Kが大きな値である場合は、多くのステータ磁極でトルクを発生することができ、高トルク化が可能である場合が多い。
この時、各巻線電流は軟磁性体を励磁して磁束を誘起するわけであるが、各磁束は複数の巻線へ鎖交している場合が多く、相互インダクタンスが大きい。結果として、各巻線の電圧Vzは鎖交する全磁束φaの影響を受け、その巻線の巻回数Nwと前記全磁の時間変化率の積となる。巻線の電圧が特定の1個のステータ磁極の磁束だけを生成している場合の電圧よりも大きくなる。したがって、直流電源電圧の制約の中でモータを駆動する場合、駆動可能な回転速度ωrが直流電源電圧により制約される。
この対応として、高速の回転速度ωrで運転する場合には、トルクを発生するステータ磁極を限定して、巻線の発生電圧を低減し、直流電源電圧の制約の中でより高速の回転を実現することもできる。
また、制御装置の点では、各巻線に通電する電流は片方向電流で、各巻線が両隣のステータ磁極を励磁できるように兼用しているので、複数の巻線経路から同時に電力をモータへ供給できるので、パワートランジスタの電流容量を低減することができ、制御装置の低コスト化、小型化も可能である。
以上の具体的なモータ例では、ステータ磁極の数Mおよびロータ磁極の数Kが偶数である場合について多く説明した。しかし、ステータ磁極の数Mあるいはロータ磁極の数Kが奇数の場合についても、部分的な巻線が両方向電流での駆動が可能にするなど、部分的な変更により、本発明のモータとその制御装置の例で示した特徴の一部を矛盾無く得ることが可能であり、本発明に含むものである。
図39などでは、ステータ磁極およびロータ磁極の円周方向幅は360°/(8×2)=22.5°の場合について示しているが、モータの要求特性により円周方向幅を大きくも小さくもできる。また、それぞれのピッチについても、トルクリップルの低減などの目的で円周方向に移動することができ、不等間隔に配置することもできる。またそれぞれの磁極の形状およびスロット形状についても円周方向、ロータ軸方向、ラジアル方向に変形が可能である。また、スキューを行う、あるいは、磁極の一部を削除することなども可能である。もちろん多極化することも可能である。また、多極化する時に、電気角360°の構成を全く同じ構成とするのではなく、円周方向に少しシフトして配置するなどの修正も可能である。また、円周方向に異なる構成のモータを複合的に配置することも可能である。また、ステータ磁極の数Mよりロータ磁極の数Kの方が大きくなる構成も実現可能である。
次に、ステータ磁極の角度で表す円周方向幅Htが360°/(2M)より大きい例について図53に示す。このモータは、モータ形式6S4Rである。図1に示した6S4Rのモータのステータ磁極幅Htおよびロータ磁極幅Hmは30°であるのに対し、図53のステータ磁極幅は40°で、ロータ磁極幅も約40°である。図1のモータではあるステータ磁極がロータ磁極を吸引してトルクを発生できる幅が30°であったのに対し、図53のモータでは40°に広くなっている。従って、図53のモータでは、2つのステータ磁極間でトルクの発生を乗り継ぐ場合に、片側の発生トルクを減少しながら他方の発生トルクを上昇させるように、余裕のある制御が可能である。ただし、スロットの面積が小さくなり、巻線抵抗が大きくなるなど、弊害もあり、トレードオフの関係になっている。
次に、本発明の他のモータ例を図54に示す。図9の6S2Rのモータに対し、円周方向磁極幅の小さいロータ磁極162を追加している。その他は図9に示したモータと同じである。図54のモータにおいて、円周方向磁極幅が広いロータ磁極161を主突極磁極と呼び、円周方向磁極幅が小さいロータ磁極162を補助突極磁極と呼ぶことにする。主突極磁極161の円周方向磁極幅Hmは約40°で、補助突極磁極162の円周方向磁極幅Hhは約20°である。この例では、ロータの4個の突極は相互に電気角で90度の角度差を設け、等間隔に配置している。なお、図54のモータは、図1の6S4Rのモータに対し、ロータ磁極の幅が2つの異なる値を持つモータの例でもある。
図54では、説明を容易化するために2極の構成のモータを示している。しかし、現実には、4極、あるいは、8極など多極化して使用する。多極化によりコイルエンド部の短縮、あるいは、ステータのバックヨーク部の薄型化など、モータの小型化が可能である。図54の2極のモータを8極に多極化した構成を図55に示す。図10のモータに比較し、ロータ171に補助突極磁極173を付加している。172は主突極磁極である。電気角360°の間に、ロータの4個の突極を相互に電気角で90度の角度差を設け、等間隔に配置している。
図54のモータ構成の目的は、図9のモータの特性である図12の(G)で示したトルクの低下部を改善することである。図54のモータの作用について、図56の(a)から(f)に図解して説明する。スロットの開口部の幅はHsは20°、ロータの主突極磁極161の円周方向の幅Hmは40°、補助突極磁極162の円周方向の幅は20°の例である。図57に、水平軸に電気角で表したロータ回転位置θrと各相の電流と各相のトルクを示す。A相の電流はIa、B相の電流はIb、C相の電流はIcである。
図54、図55、図56に示すモータのトルクは、巻線が全節巻でかつ集中巻きであり、ステータの歯117、118、119、11A、11B、11Cがほぼ全周に配置されていることから、トルクを発生させるために少なくとも2個の巻線に電流を流してトルクを生成する。そして、ステータの突極状の歯とロータの突極との間に吸引力を発生させてリラクタンストルクを得る。各巻線の電流の方向は、巻線シンボルで示す電流方向である。したがって、各ステータ磁極の磁束の方向も片方向の磁束となる。
ステータ磁極11Cと119とがロータ主突極磁極161および補助突極磁極162との間に発生するトルクをTa、ステータ磁極118と11Bとがロータ主突極磁極161および補助突極磁極162との間に発生するトルクをTb、ステータ磁極117と11Aとがロータ主突極磁極161および補助突極磁極162との間に発生するトルクをTcとする。なお、この時、各吸引力は磁束の方向が正の場合も負の場合も同一の吸引力、トルクを発生することはリラクタンストルクの特徴的な点である。
ロータが図56の(a)に示すθr=30°の回転位置近傍にあるときには、A相巻線111へは正の電流Iaを流し、反対側のA相巻線114へは負の電流−Iaを流す。同時にC相巻線115へは正の電流Icを流し、反対側のC相巻線112へは負の電流−Icを流す。B相巻線113、116へは電流を流さない。各相の電流Ia、Ib、Icは図57の(A)、(C)、(E)に示す電流である。この状態ではアンペアの法則に従い、ステータ磁極11Aから117の方向へ太線の矢印で示す方向にA相電流Ia、C相電流Icの起磁力が作用し、矢印で示す方向、ステータ磁極11Aからステータ磁極117の方向に磁束が誘起される。そして、ロータには反時計回転方向CCWへ図57の(F)に示すトルクTcが発生する。ここで、ステータとロータの軟磁性体部の透磁率は十分に大きく、ステータとロータ間の広い空間部の透磁率は十分に小さく、ステータとロータ間の狭いエアギャップ部の磁気抵抗は十分に小さいと仮定する単純モデルでは、ステータ磁極118、119、11B、11Cの近傍に作用する磁界の強さH[ A/m ]はほぼ零で、これらのステータ磁極である各歯をラジアル方向に通過する磁束はほぼ零で、トルクもほぼ零ある。
ロータがCCWへ回転し、図56の(b)に示すθr=50°の回転位置近傍まで回転すると、A相巻線111へ正の電流Iaを流しA相巻線114へは負の電流−Iaを流す。同時にB相巻線113へ正の電流Ibを流し、反対側のB相巻線116へは負の電流−Ibを流す。C相巻線115、112へは電流を流さない。この状態ではアンペアの法則に従い、ステータの突極118から11Bの方向へ太線の矢印で示す方向にB相電流Ib、C相電流Icの起磁力が作用し、矢印で示す方向、歯11Cから歯119の方向に磁束が誘起される。そして、ロータはCCWへ図57の(B)に示すトルクTaが発生する。このモータモデルでは補助突極磁極162の円周方向の幅は20°と狭いので、図57の(B)に示すθr=60°近傍のトルクの幅は狭い。
ロータがCCWへ回転し図56の(c)に示すθr=70°の回転位置近傍まで回転すると、C相巻線115へ正の電流Icを流しC相巻線112へは負の電流−Icを流す。同時にB相巻線113へ正の電流Ibを流し、反対側のB相巻線116へは負の電流−Ibを流す。A相巻線111、114へは電流を流さない。この状態ではアンペアの法則に従い、ステータの突極118から11Bの方向へ太線の矢印で示す方向にB相電流Ib、C相電流Icの起磁力が作用し、矢印で示す方向、歯118から歯11Bの方向に磁束が誘起される。そして、ロータはCCWへ図57の(D)に示すトルクTbが発生する。そして、CCWへ回転し、図56の(d)に示すθr=90°の回転位置へ回転する。
この図54に示すモータは電気角で60°の周期性があり、60°の周期で類似の駆動を行うことができる。図56の(a)のθr=30°での動作と、図56の(d)のθr=90°での動作とでの相対的な関係は、電流の向き、磁束の方向は逆であるが、トルクTは共にCCWの方向で同じ大きさである。このように、回転位置θrが90°から150°の間は、回転位置θrが30°から90°の間のモータ動作と類似動作でトルクを発生し、回転することができる。同様に、150°から210°の間、210°から270°の間、270°から330°の間、330°から30°の間も類似の動作で回転することができる。具体的には、図57に示すように、ロータ回転位置θrにより順次通電する電流Ia、Ib、Icを変えてトルクTa、Tb、Tcを得、ロータを回転する。
そして、各歯の発生トルクTa、Tb、Tcを乗り継いだモータトルクTmを図57の(G)の実線に示す。この図57の(G)のトルクTmは、各相巻線の電流が切り替わるときに、わずかにトルクが低下する図の特性としている。このトルクTmは、図12の(G)に示すトルクTmに比較して、トルクの落ち込みが改善している。また、さらに図57の(G)に示すトルクTmの部分的なトルク低下を低減するためには、ロータの主突極磁極161および補助突極磁極162の円周方向幅Hm、Hhをやや広めに設定することにより、さらに改善することができる。
また、ロータ回転数が大きいときには、電流位相を早めたり、図6の破線で示したように電流波形を変更するなど、種々の工夫が可能である。
次に、スロットの開口部の円周方向幅Hsとロータの主突極磁極161の円周方向幅Hmと補助突極磁極162の円周方向幅Hhとモータの出力トルクTとの関係について説明する。最初に、連続したトルクを発生できる条件について考える。図58のロータ回転位置において、CCWの方向へ連続したモータトルクTmを発生できる条件について考える。今、主突極磁極161がCCWへ回転していて歯117にさしかかり、歯117左端へ主突極磁極161の左端が一致する回転位置θrである場合について考える。図58の回転位置θrは、丁度、主突極磁極161がCCWの方向へトルクを発生できなくなる回転位置である。この回転位置θrで補助突極磁極162がCCWの方向へトルクを発生できる条件について考える。その条件は、主突極磁極161と補助突極磁極162の間の空隙部の幅と補助突極磁極162の幅との和Hgが、次式(21)及び(22)に示すように、スロットの開口部の円周方向幅Hsに60°を加えた幅Hfより大きいことである。
Hg>Hf (21)
(360°−(Hm+Hh)×2)/4+Hh>60°+Hs (22)
次に、図59に示すように、補助突極磁極162がCCWの方向へトルクを発生する時に主突極磁極161が時計回転方向CWへトルクを発生しない条件について考える。その条件は、主突極磁極161と補助突極磁極162の間の空隙部の幅Hbが次式(23)及び(24)に示すように、ステータの歯の幅Htより大きいことである。
Hb>Ht (23)
(360°−(Hm+Hh)×2)/4>60°−Hs (24)
例えば、スロットの開口部の円周方向幅Hsと主突極磁極161の円周方向幅Hmを仮定し、条件に適合する補助突極磁極162の円周方向幅Hhを求める場合、(22)式と(24)式より幅Hhを次式で表すことができる。
Hm+2Hs−60°<Hh<−Hm+2Hs+60° (25)
また、条件を簡略化するため、主突極磁極161の円周方向幅Hmは次式(26)に示すように、補助突極磁極162の円周方向幅Hhより大きいものとする。
Hm>Hh (26)
また、主突極磁極と補助突極磁極とで少なくとも60°の回転角を駆動するので次式(27)の条件がある。
Hm+Hh>60° (27)
前記の(25)、(26)、(27)式の条件を満たす具体的な各幅の例を図60の表に示す。横軸をスロットの開口部の円周方向幅Hs、縦軸を主突極磁極161の円周方向幅Hmとし、表内に補助突極磁極162の円周方向幅Hhの条件を満たす最小値Minと最大値Maxで示している。例えば、スロットの開口部の円周方向幅Hs=15°で主突極磁極161の円周方向幅Hm=50°の時、条件を満たす補助突極磁極162の円周方向幅Hhは最小値20°から最大値40°である。
図60において、太線の2重の枠を示しているが、外側の太線枠は前記のHs、Hm、Hhの相関関係にやや余裕がある範囲である。内側の太線枠はさらに各値の選択の自由度が大きい範囲である。
なお、図58の補助突極磁極162の円周方向幅Hhは、最小値と最大値の範囲を多少はずれても実用的には使用できる場合もある。例えば、補助突極磁極162とステータの歯とは、図58において補助突極磁極162と歯119とがラジアル方向に対向していなくて、多少離れていても吸引力、トルクを発生することができる。従って、単純にモデル的に作成した(22)式で示されるHhより多少小さいHhの値でも連続的トルクの発生が可能である。またさらには、多少断続的なモータトルクでも使用できる用途は少なくないので、(22)、(24)式を多少はずれていても実用化可能である。
以上説明したように、図54のモータ構成において、補助突極磁極162の働きは図9のモータにおけるトルク低下部でのトルク発生である。この結果、特に低速回転においてモータの全周に渡ってトルクの発生が可能となり、低速回転時の自在なモータ運転が可能となった。図54のモータ運転方法の一つとして、回転が高速回転になってくると主突極磁極161でのトルク発生を主とし、補助突極磁極162のトルク発生を少なくし、十分に高速な回転では主突極磁極161だけによるトルク発生とし、積極的には補助突極磁極162のトルク発生を行わない方法とすることができる。主突極磁極161だけでの運転とすることにより、制御の煩雑さを低減し、より簡単な制御とすることが可能である。また、補助突極磁極162およびステータ磁極での磁束の変化が低減できるので、鉄損を低減する効果もある。
しかしながら、この時、3相の片方向電流を回転に伴って順次切り替えて行く制御行う場合、2つの電流の過渡的なアンバランスなどにより、補助突極磁極162へ磁束が誘起する現象が発生する。すなわち、補助突極磁極162が存在することによる弊害も発生する。従って、図9に示すモータの要求仕様が、図12の(g)のトルク低下部が多少改善する程度でよい場合には、図54のモータの補助突極磁極162を部分的に削除することも可能である。具体的には、図54に示す補助突極磁極162がロータ軸方向端から他端まで存在するのではなく、例えば、半分程度に削減することができる。また、図55に示すように、多極のモータである場合には、円周上に補助突極磁極173が8個配置しているが、数を減らし、例えば4個にすることもできる。このように、補助突極磁極には長所と短所があるので、用途により補助突極磁極の量を可変することが可能である。
また、低速回転と高速回転でモータの電磁気的な作用を変える方法として、図54に示すモータのように低速回転で高いトルクを発生できるロータと、図9、図10のように多少トルクリップルは大きくなりがちだが、高速回転で大きな平均トルクが得られ、かつ、静粛な特性のロータとを同軸上に並列に有し、ステータとロータとを相対的にロータ軸方向に移動させることによりモータの電磁気特性を変更することもできる。
図54、図55などのモータを低速回転で駆動する場合には、主突極磁極161と補助突極磁極162とを交互に吸引して連続トルクを得ることができる。しかし、高速回転においては、時間的に短時間であれば惰性回転も可能であり、主突極磁極161だけで回転トルクを得た方が簡素であり、鉄損も小さく、振動、騒音も小さくできる。
この高速回転時に、より効果的に運転するためには、補助突極磁極162を排除し、主突極磁極162の円周方向幅が大きくなることが好ましい。主突極磁極162の円周方向幅が大きいと、トルクを発生する電流を増減する時間に余裕を持たせることができる。なお、ステータ磁極の円周方向幅Htは歯間の漏れ磁束が問題とならない程度に大きい方が制御上好ましい。
これらの要求に応えるため、回転中にロータ磁極の形状を変形することができれば良い。例えば、ステータ側にロータ軸方向の移動が可能な機構KSを備え、ロータ側には回転自在ではあるがロータ軸方向へ前記機構KSと連動した機構KRを備え、この機構KRの動きが補助突極磁極162のラジアル方向の移動と連動する構造とすれば、ステータ側の機構KSを小型のサーボモータ等により駆動することにより、補助突極磁極162のラジアル方向の移動させることが可能となる。そして、補助突極磁極162の有無をステータ側から回転中に制御できることになる。図61(a)に補助突極磁極162がラジアル方向へ移動するイメージを矢印線F41と破線で示す。
あるいは、前記のロータ側機構KRが補助突極磁極162を円周方向に移動することができる機構であれば、ステータ側の機構KSを小型のサーボモータ等により駆動することにより補助突極磁極162を矢印F42で示すように主突極磁極161と隣接させ、主突極磁極161の一部とし、実質的に主突極磁極161の幅を広げ、同時に、補助突極磁極162を排除したことになる。
また、主突極磁極161が、例えばSS1とSS2とに2分していて、図61(b)の矢印F41で示す方向へ破線で示す突極SS1が移動すれば、実質的に主突極磁極161の円周方向幅を大きくできる。なお、通常高速回転では、制御装置の電源電圧が有限であることから、界磁弱めなどによって磁束量を減らし、モータ側の電圧が上昇しないように制御している。前記のように、高速回転で主突極磁極が円周方向へ2分して分けると、ロータ磁極161の円周方向の単位幅当たりの磁束量が減少し、電圧の面でも好ましい。
また、ステータ側からロータ側の一部を駆動する機構は、種々の方法があり、例えば、ロータ側へ小型のモータを内蔵し、そのモータの回転をステータ側から制御することによりロータ形状、ロータ磁極の位置などを変化させることも可能である。
次に、モータ特性を回転中に変更することのできる他の例を図62に示す。F43はロータ軸、F4Bは軸受けである。F44はステータコアでF45はコイルエンドである。F46、F47、F48、F49、F4Aはロータユニットである。ステータとロータとのロータ軸方向の相対的な位置を、矢印で示すように変更することにより、モータの電磁気的特性を目的の特性が得られるように変更することができる。前記の目的の特性とは、例えば、低速回転では図1の4個のロータ突極を電気角360°の範囲に持つ特性で、中速では図9、図10のように電気角360°の範囲に2個のロータ突極を持つ単純な特性で、さらに高速回転ではモータの全体の界磁磁束が減少するように図9、図10のロータのロータ軸方向長さが縮小した電磁気特性を持つ様な特性である。その様な特性が得られれば、低速ではトルクリップルが小さく大きなトルクが得られ、中速では鉄損の少ない高効率な運転が実現し、さらに高速での界磁磁束を減少することによりモータの誘起電圧が過大とならないように適正に保ち、優れた定出力特性が得られる。また、比較的に電流容量の小さな制御装置で低速から高速まで良好な特性が得られることになる。
次に、ステータ磁極の円周方向幅Htとロータ磁極の円周方向幅Hm、Htとの関係について考える。例えば、図54のロータ位置では、ステータ磁極118の円周方向範囲にロータ磁極162に入っているので、このような状態でB相巻線113、116の電流IbとC相巻線115、112の電流Icを増減してもロータ磁極162がトルクを発生することはない。ロータが回転中でもステータ磁極118の範囲の中でIb、Icを可変することにより他に悪影響しない制御が可能である。このように、ステータ磁極の円周方向幅Htとロータ磁極の円周方向幅Hm、Htとを異なる値として、意図しない負トルクの発生などの弊害を低減することができる。
次に、図9に示すモータをCCWへ回転させ、図11の(b)の回転位置にさしかかったときにトルクが低下する問題の対応策について説明する。図63に示すように、ロータ13Eの円周方向端で、ロータの半径Rより内径側へ軟磁性体の突起部151、152、153、154を付加することにより、この回転位置近傍でトルクを増加し、改善することができる。ステータの歯118と突起部152との距離が短くなり、この間の磁気抵抗が小さくなる。ステータの歯11Bと突起部153との関係も同様である。また、例えばCCW方向のトルクだけでよいモータの場合には、軟磁性体152と153を追加するだけでよい。
また、図47に示すモータのように、ステータとロータ間のラジアル方向磁束の総和が零とならない場合には、そのアンバランス分だけ磁束を通すことができない場合がある。このようなアンバランスな関係の時、ステータとロータ間に何らかの磁気的なバイパス路を設けることにより、ステータ磁極とロータ磁極の間を通る磁束の量を増加させ、より効果的にトルクを発生できる構成とすることができる。また、他の方法として、ステータとロータ間の磁束量的な関係が逆の関係にあるモータを2個並列に配置し、それぞれ、ステータ同士、ロータ同士を磁気的に接続することにより、より効果的にトルクを発生することができる。
次に、ロータ磁極の円周方向位置を非対称に配置した例を図64に示す。主突極磁極161が紙面の上側と下側へ向いているのに対し、補助突極磁極162は紙面の左右である水へ線に対して右上がりに傾いている。片方向回転の用途のモータなどにおいては、このように非対称なロータ磁極の配置により、片方向回転のトルク特性を改善することができる。
また、図65に示すモータ形式12S8Rのモータは、図1に示した6S4Rの2極のモータを4極化したモータで、ステータ磁極とロータ磁極の数が2倍となっている。しかし、ロータ磁極8個の配置は等間隔ではなく、4個のロータ磁極C78、C79、C7A、C7Bについては他のステータ磁極C74、C75、C76、C77に対して時計回転方向CWへ機械角で15°、電気角で30°シフトした例である。このように、一部の磁極の位置を円周方向にシフトすることにより、トルクリップルを低減することができる。しかし、トルク的なアンバランスの問題には気を付ける必要がある。
次に、ステータ磁極あるいはロータ磁極の相互に対向する面の形状について説明する。ステータとロータとの相対的な形状なので、どちらの形状であっても良い。また、ステータとロータの両方の形状が長方形を変形した形状であって、相対的に図66に示すような形状の効果が得られる形状であっても良い。図66の(F)は、図1に示すモータのロータ磁極A0Kの外周面形状を水平展開して示す図である。ほぼ長方形の形状をしている。横軸はロータ回転位置θrで0°から180°までの約半周を示している。上下方向はロータ軸方向である。図66の(E)は(F)の形状をスキューした形状である。スキューは一般的にトルクリップルを低減する効果がある。しかし、トルクが少し低下する傾向があり、その点には注意が必要である。本発明モータの場合、トルクリップルを低減する効果とロータのトルク発生範囲を広げる効果が期待できる。図66の(D)は、きめ細かく凹凸を作った磁極形状である。磁極内での磁束のロータ軸方向成分が小さく、電磁鋼板内での渦電流が少ない。またロータ軸方向に対称な構造なので、ロータ軸方向に作用する力も小さい。電磁気的には優れているが、きめ細かな構造なので、その製作には工夫が必要である。図66の(C)は、いわゆる、段スキューと言っているもので、図66の(E)と類似の効果があり、スキューを行うと不都合が発生する場合などに使用される。図66の(C)の場合、ロータ軸方向に非対称であるため、ロータ軸方向振動が発生する場合がある。図66の(B)は、ロータ軸方向に対称として段スキューを実現する構成である。
図66の(A)は円周方向の左側に長さSbの突起があり、円周方向の右にも長さScの突起がある形状である。元の原形である図66の(F)の磁極形状と円周方向位置が同じである部分のロータ軸方向長さはSaの2倍で、円周方向である左右にロータ軸方向幅Sdの突起がある。前記SdよりSa×2の方が十分に大きいので、図66の(F)の磁極と類似の特性であるが、円周方向の突起部が作用するので、ロータの円周方向のトルク発生範囲を長さSbあるいはScだけ広げる効果がある。わずかな突起部なので、その突起部が発生できるトルクは大きくないが、トルクの発生範囲を広げる必要がある場合には有効である。例えば、図9のモータはトルク発生が困難な場所がいくつかあり、このような場合に、段スキューなどの構造は好適である。
また、図66のロータ回転位置θrが180°の近傍の各磁極形状のように、左右対称の形状であっても良い。この方が、CCWとCWの特性がより対称な特性とすることができる。ただし、電磁鋼板の形状を作成するときの金型の種類が増えるなどの製造的な負担はある。
なお、図66では、ロータ磁極幅が30°の例を示しているが、電気角で20°から60°くらいの値とすることができる。また、図9のモータモデルは、電気角360°の間に2個のロータ磁極を配置した構成であり、図1に示す4個のロータ磁極のモータモデルとは異なる。従って、図9のモータモデルの場合は、ロータ磁極幅Hmは電気角で40°から90°位に設定するべきで、図66の各種形状は、横軸のロータ回転位置θrの角度を2倍程度に置き換えて見る必要がある。具体的には、例えば、横軸が30°の点は40°から90°くらいに置き換え、90°の位置は180°とし、180°の位置は360°とする。従って、例えば、ロータ磁極幅Hmが電気角で60°の時はロータ磁極間の空間部は電気角で120°となり、Hmが80°の時はロータ磁極間の空間部は100°となる関係である。
次に、図9、図11に示すような電気角で360°の間にステータ磁極が6個あり、ロータ磁極が2個の構成のモータで、例えばCCWの方向へ途切れることなく連続的にトルクを発生する構造について説明する。例えば、図11の(b)では、スロットの開口部の幅Hsは20°なのでステータとロータ間のエアギャップ長に比べて矢印で示す磁束11Xは小さく、発生トルクも零ではないが小さいという問題がある。6個のステータ磁極で360°の範囲をカバーするためには、1個のステータ磁極は60°以上の範囲でトルクを発生する必要がある。
今、図9、図11に示すように、ステータ磁極のロータへ向いた形状がほぼ長方形でその円周方向幅Htが電気角で40°の場合について考えているので、ロータ磁極のステータへ向いた形状が図66に示すロータ磁極形状について考える。
図66の幅Sfが電気角で40°の時は次式となる。
Sb+(Se−Sf)/2+Sf≧60°
∴ Sb+Se/2≧40°
図66の幅Sfが電気角で40°より大きいときには次式となる。
Sb+(Se−Sf)/2+40°≧60°
∴ Sb+(Se−Sf)/2≧20°
この時、トルクの大きさについては、それぞれの磁極形状により異なる。また、円周方向に隣接するステータ磁極間でトルクの発生を引き継ぎながら回転するのであるから、多少の余裕を持たせたい場合は、前記条件式の60°をやや大きい値とすればよい。設計的自由度がある。
前記例では、ステータ磁極が長方形で、ロータ磁極形状が図66のような形状と想定して考えてみたが、両方の磁極形状が種々形状を成していても良い。例えば曲線形状を含む形状でも良く、ラジアル方向すなわちエアギャップが変化する構造でも良い。円周方向の力およびラジアル方向の力が回転と共に急激に変化しないような構造は、モータの振動低減のために重要なことであり、各磁極形状の工夫により改良できる。
また、図9、図11に示すようなモータで途切れることなく連続的にトルクを発生する構造は、多極のモータである場合に、半分の数のロータ磁極を円周方向に電気角で20°シフトしておく方法でも継続的なトルクを生成することができる。例えば、8極のモータの場合には、2極分のロータ磁極を最初の状態とし、次の2極分のロータ磁極をCCWへ20°シフトし、次の2極分のロータ磁極を最初の状態とし、次の2極分のロータ磁極をCCWへ20°シフトすれば、連続的にトルクを発生することができる。またこの構造は、ロータ中心点に対して点対称のロータ形状になるので、機械的なバランスの点でも優れている。また、円周方向へロータ磁極をシフトする方法と図66の方法とを合成しても良い。
次に、図9に示した本発明モータの例について、ステータ磁極のロータに面する形状とロータ磁極のステータに面する形状とそれらの間に発生できるトルクの関係を図67、図68に示し説明する。図9に示すモータ形式6S2Rのモータのトルクは、図1に示すモータ形式6S4Rのモータとは異なり、ロータ磁極がスロット開口部にさしかかるときがトルクが低下し、トルクリップルの問題がある。一方、スロットの円周方向幅を小さくすると巻線スペースが小さくなる問題があり、スロット開口部だけを狭くしてもステータ磁極間の漏れ磁束の問題とステータ磁極の磁気飽和の問題がある。従って、図9に示すようなモータの場合、ステータ磁極の円周方向幅とスロット開口部の大きさとは、トルクと漏れ磁束に関してトレードオフの関係となっていて、それらの両立が難しいという問題がある。
図67の(S1)は図9のステータ磁極117,118,119,11A、11B,11Cのロータに面する形状を直線状に平面展開した図である。水平軸はステータの円周方向位置の角度である。この水平軸は図10の8極モータの場合では、電気角で示していることになる。縦軸はロータ軸方向である。図9のモータのステータ磁極のロータに面する形状は6個の長方形で示され、円周方向幅は40°で、ステータ磁極間のスロット開口部の円周方向幅は20°である。
図67の(R1)は図9のロータ磁極11Eのステータに面する形状を直線状に平面展開した図である。ここで、水平軸および縦軸は前記(S1)と同じである。ロータ磁極の円周方向幅は60°で、ロータ軸方向幅はステータ磁極のロータ軸方向幅と同じである。
図67の(T1)は、図9のモータのトルクであって、前記ステータ磁極形状(S1)である時に、前記ロータ磁極形状(R1)のロータ11EをCCWへ回転させたときのトルクを単純モデル化して表現したトルクである。単純モデル化とは、ステータとロータ間のエアギャップ長はほぼ零で、ステータとロータ近傍の空間の漏れ磁束はほとんど無いと仮定する物である。トルク(T1)の特性は、40°の間は有効なトルクを発生することができ、20°の間はトルクが零の特性となる。
図67の(S2)は前記ステータ磁極(S1)を20°スキューしたもので、その時のトルク(T2)は図示するように、台形状のトルク特性となり、トルクが零の部分はごく特定点だけとしている。しかし、図示するようにトルク低下部は、例えば40°から80°の範囲となり、広範囲になっている。なお、前記(S2)、(R2)において、ステータ磁極(S2)を長方形とし、ロータ磁極(R2)を20°スキューした形状としても、トルク特性(T2)は同じである。
図67の(S3)は前記ステータ磁極(S1)をほぼ60°の幅としたもので、ステータ磁極の表面形状を円周方向幅いっぱいまで広げている。ロータ磁極(R3)は同じ形状である。この場合についてはステータ磁極間が円周方向に隣接しているので、前記の例の場合とは異なり、ステータ磁極間の漏れ磁束が発生するものとして考えると、ステータ磁極の磁路がロータ磁極11Eの回転位置により磁気飽和することになる。このため、トルク特性(T3)は図示するように、ステータ磁極とロータ磁極との対向面積が小さい範囲では大きなトルクを発生、対向面積が大きくなると次第に磁気飽和によりトルクが低下する特性となる。
図68のステータ磁極(S4)は、図66の(C)の右端に示す形状であり、前記ステータ磁極(S1)と(S3)を組み合わせた変形形状でもある。ステータ磁極(S1)と(S3)を1/2ずつ組み合わせた形状である。そして、円周方向に隣接するステータ磁極はロータ軸方向に対称な形状とし、同時に、ロータ軸方向へシフトしている。この結果、ステータ磁極のロータ軸方向幅およびロータのロータ軸方向幅は、(S4),(R4)の図では約1.5倍に大きくなっている。この結果、トルク特性(T4)は、平均トルク、トルク低下部共にかなり改善されている。そして、ステータ磁極間の隙間を大きくすることができ、ステータ磁極間の漏れ磁束を前記(S3)に比較して大幅に低減できている。
図68のステータ磁極(S5)は、前記(S4)を台形状とした例である。ロータ磁極(R5)は、前記(R4)と同じである。これらのトルク特性(T5)はすこし改善している。さらに、ステータ磁極の円周方向幅を広げ、円周方向に隣接するステータ磁極の相対的なロータ軸方向位置を離すことにより、トルクの増加とステータ磁極間の漏れ磁束の低減とを両立させることができる。すなわち、前記ステータ磁極(S1)では、トレードオフの関係となっていた、トルク増加とステータ磁極間の漏れ磁束低減とを、ステータ磁極(S5)の形状とすることにより両立させることができる。
ここで問題となる点は、ステータ磁極(S1)に比較してステータ磁極(S5)の形状がロータ軸方向に大きくなることである。しかし、ステータ磁極(S5)に3相巻線の経路を付記して示すように3相巻線の長さを短縮することができ、また、各ステータ磁極のロータ軸方向の凹み形状を設けることによりコイルエンド部のロータ軸方向への突き出し量を低減することもできる。また、3相巻線が交差する部分では、台形状のステータ磁極の先端側の空きスペースが活用できる点も巻線の配置、処理の点でモータ製作上効果的である。これらの結果、前記(S1)、(R1)、(T1)で示したモータより(S5)、(R5)、(T5)で示すモータの方がトルク特性、モータサイズ、コストなどの点で優れたモータとすることも可能である。
なお、ステータ磁極(S5)を電磁鋼板の積層した構成で製作する場合、積層方向に歯の円周方向幅が1枚ずつに異なる電磁鋼板を製作する必要がある。従って、電磁鋼板をプレス打ち抜きで製作する金型の工夫が必要である。既存技術で、スキューなどの電磁鋼板の積層構成を実現するため、電磁鋼板加工用の順相金型において、ステッピングモータなどを使用して金型の回転方向位置を1枚のプレス加工ごとに少しずつ回転させてスキューを行った積層コアを実現する技術がある。このような回転可能な金型を順相金型の2つのステーションに配置して、スロットの片側をプレス加工する回転可能な金型とスロットの反対側をプレス加工する回転可能な金型とを配置し、両金型を反対方向へ回転させながら加工することにより、1枚ずつ歯幅の異なる電磁鋼板のシートを製作し、積層することができる。この場合には、各電磁鋼板シート間の接合は、いわゆるダボと言われるカシメ構造を採用できる。
また他の方法として、スロットの片側のプレス加工が回転可能とし、他方のスロット加工は固定位置とし、歯幅の異なる電磁鋼板のシートを製作する。その後、積層する電磁鋼板のシートの整列を行い、電磁鋼板の積層体を作る。この場合には、前記のカシメ構造を採用できない。ただし、この場合にも、カシメ構造が採用できるように、順相金型のどこかで何らかの回転方向の位置合わせ機構を設ければ、前記のカシメ構造を採用できる。
また、図68で示したモータは、比較的薄形のモータで効果的である。また、磁束が円周方向とラジアル方向の他に、ロータ軸方向成分も発生するので、磁束ロータ軸方向成分の変動による鉄損の増加などには注意を要し、必要に応じその対策を行う必要がある。例えば、バックヨークの一部に、ロータの軸方向の磁路を設ければよい。圧粉磁心などの3次元方向の磁束の増減が可能な材料を使用することもできる。
また、図68では、ロータ磁極の円周方向幅は60°の場合について示したが、各相のトルクがオーバラップできるようにするためには、60°以上の大きさとすることももちろん可能である。
次に、本発明モータの漏れ磁束に関する対策の一つを図69に示し説明する。モータの用途で、高い回転数で比較的大きなトルクを求められる用途は多い。本発明モータのピークトルクの制限は、トルク発生に寄与する磁束が通る磁路の一部が磁気飽和する点で制限されることが多い。そして、この磁気飽和は巻線の大電流による各部の漏れ磁束により総磁束φsが増加して発生することが多い。従って、大きなピークトルクを得るためには、モータ各部の磁路断面積を十分に確保すると同時に、モータ各部の漏れ磁束を低減することが効果的である。また、高い回転数で大きなトルクを必要とする場合、漏れ磁束を低減することにより力率を改善することができ、モータ効率が向上する。
図69の(a)は図9のモータ断面の一部を拡大した断面図であり、図9の巻線114は図69の巻線C92である。C91はステータコアである。C93は巻線C92へ紙面の裏側から表側へ大きな電流を通電した時に、スロットの開口部に発生する漏れ磁束である。この漏れ磁束によりステータ磁極である歯が磁気飽和し、トルクの増加が難しくなる場合がある。
この対応策として、図69の(b)に示すように、平角導線C94を使用すれば、漏れ磁束C95の増減により平角導線C94の中に渦電流が誘起し、漏れ磁束C95を低減する作用が発生する。モータが静トルクを発生するとき、あるいは、低速で回転するときはほとんど効果がないが、高速回転で大きな電流を巻線に通電し、漏れ磁束C95の周波数が上がり、電流値が大きくなると、平角導線C94内の渦電流よる漏れ磁束の低減効果が出てくる。このように、平角導線C94の使用によりモータ力率、効率の改善が可能である。
この時、漏れ磁束C95はスロットの開口部近傍が一番多いので、スロットの内径側からスロットの外形までの長さ、すなわち、スロットの深さC96に比較し、平角導線の幅C97が1/4以上であれば、効果が期待できる。
次に、漏れ磁束を低減する他の方法について説明する。図70は、ロータ磁極の円周方向に505、506、507、508で示す閉回路を構成する導体、あるいは、導体板を配置した構成である。これらの導体により、導体を通過する方向の漏れ磁束成分を導体内に誘起する電流により低減するものである。本発明モータでは、ロータ側の磁束がロータの回転と共に交番するので、漏れ磁束を低減する効果がある。図70に示す以外の各種本発明モータへ適用できる。また、ロータの漏れ磁束は、ロータ磁極のロータ軸方向端からも発生するので、ロータのロータ軸方向端の電磁鋼板を導体板に変えることにより、ロータ軸方向からの漏れ磁束を低減することができる。
また、前記導体は図71に示すようにロータ501へスリット509、50B、50D、50Fを設け、そのスリットの中へ導体50A、50C、50E、50Gを埋設することもできる。前記導体の固定が容易であり、高速回転用途へも適用できる。
次に、モータの最大トルクを向上させる方法について説明する。図54に示す本発明のモータのトルク特性は、例えば、図5のような特性となる。電流Iの小さな0からA1の領域では(10)式で示されるトルク特性を示し、電流の二乗関数のような特性を示す。モータの一部の磁束密度が飽和磁束密度に近づくような、図5のA1からA2の電流転領域では(15)式で示されるように、電流の増加に伴いトルクもT1からT2へと増加し、電流の1次関数となるトルク特性を示す。そして、さらにA2以上の大きな電流値にすると、モータ内のステータ磁極とロータ磁極の間のエアギャップ部以外の場所で、モータの磁気回路の一部が磁気飽和する部分が発生し、電流に対するトルクの増加率が減少し、図5の電流A2からA3の時のトルクT2からT3のような、トルクの飽和特性を示す。
ここで示す最大トルクの向上は、図5に示すトルク特性において、一点鎖線で示すように、T3のトルクをT4へ向上するものである。技術的には、モータ内部の磁気飽和を低減し、ステータ磁極とロータ磁極の間のエアギャップ部へより大きな磁気エネルギーを与えることが出来るように改良するものである。
最初に、モータのどの部分に磁気飽和が起きやすいかについて、図54のモータ例について説明する。図54は、主突極磁極161がステータの歯117、11Aと対向し、ステータの歯が磁気飽和する状態を示している。歯117を通る磁束は、歯11Aからロータの主突極磁極161を通り歯117を通る磁束成分、巻線111の電流によりスタータ磁極11Cからそのスロットの開口部近傍を通りステータ磁極117へ入る漏れ磁束の成分、そして、巻線112の電流によりステータ磁極118からそのスロットの開口部近傍を通りステータ磁極117へ入る漏れ磁束の成分がある。トルク発生に寄与しない漏れ磁束成分が両隣のステータ磁極から加わるため、ロータの主突極磁極161を通る磁束より歯117を通る磁束の方が通過する磁束が多く、ステータ磁極117は磁気飽和しやすい。
一方、補助突極磁極162がトルクを発生するときには、その円周方向幅が小さいので、周囲のステータ磁極からの漏れ磁束により磁気飽和しやすい。説明したように、磁気飽和しやすい場所は、ステータの各歯とロータの補助突極磁極162である。以下、モータの最大トルクを向上する6種類の方法を示す。
最大トルク向上の第1の方法を図72に示す。図72の(a)は、図54のモータの断面の1例である。262はステータコアの歯の部分、263は巻線のコイルエンド、261はロータコアである。図72の(b)は、ステータコアの歯の磁気飽和を低減するため、軟磁性体264をロータ軸方向に追加したものである。歯の磁路が太くなり、磁気飽和が低減される。なお、この時、磁束の流れがラジアル方向および円周方向だけでなくロータ軸方向にも通過することになるので、軟磁性体262、264が電磁鋼板の積層体である場合には渦電流損が増加する問題がある。したがって、図72の(b)の構成の場合、電磁鋼板の歯の部分にスリットを設けるあるいは切れ目を入れるなどの工夫が必要である。あるいは、軟磁性体粉末に電気絶縁皮膜を施して圧縮した圧粉磁心を用いるなど、渦電流低減対策が有効である。
最大トルク向上の第2の方法を図73に示す。図73の(a)は、破線部に示す271の軟磁性体と永久磁石を付加している。この破線部を拡大して図73の(b)に示す。272は永久磁石、271は軟磁性体である。図73(b)に示すモータの制御法の一つは、各スロットの電流の方向を固定し、直流で制御する。その場合、各歯に通る磁束の方向は一方向であり、特徴的である。そして、歯262を通る磁束275の方向とは逆の方向になるように永久磁石272の方向に構成し、磁束274を得る。
この時の歯262の磁気特性を図74に示す。水平軸は磁界の強さH[A/m]、垂直軸は磁束密度B[T]である。最初に、軟磁性体273、永久磁石272が無い状態でモータに大きな電流が通電された場合、歯262の磁束密度は零からBa点まで変化し、磁束密度はB1となる。
次に、軟磁性体273、永久磁石272を付加した状態では、歯262には逆方向の磁束が通過するので、Bb点、あるいは、Bc点となっている。この状態で大きな電流が通電された場合、歯262の磁束密度は零からBa点まで変化し、磁束密度はB1とほぼ同じ値となる。しかし、磁束密度の変化は図74に示すB3もしくはB4となり、前記のB1より大幅に増加することになる。例えばB1とB2がほぼ同じ値であれば、歯262へ2倍の磁束を通過させることが出来ることになる。トルクの増加で表現すると、図5において、T3のトルクをT4へ増加させることに相当する。なお、図73の(b)の構成の場合、歯262を通る磁束のロータ軸方向成分の時間変化率は単純原理的には少ないとも言えるが、無視できず、前記の切れ目、圧粉磁心などの渦電流低減対策も有効である。
最大トルク向上の第3の方法を図75に示す。図75の(a)は、図73の(b)に示した軟磁性体273と永久磁石272の代わりに、破線部に示す293の軟磁性体と励磁巻線を付加している。この破線部を拡大して図75の(b)に示す。292は軟磁性体、291は励磁巻線である。電磁気的な作用は図73の軟磁性体273と永久磁石272と同様であり、ロータを通る磁束275とは反対方向の磁束294を作り出すことが出来る。そして、モータの最大トルクを向上させることができる。図75の方法の特徴の一つは、電流の大きさを変えることにより磁気的な動作点を容易に変化させることができる点である。例えば、軽負荷の場合には電流を零にすることができ、不要な制御は行わず、大きなトルクが必要なときにだけ巻線291に必要に応じた電流を流すことができる。なお、図73に示した方法でも、永久磁石272を他のアクチュエータで出し入れすることにより磁束274の大きさを制御することも可能であり、磁石の向きを反転することも可能である。また、図73、図75の方法は、軟磁性体、永久磁石、巻線の位置を、円周方向隣接する歯と複合させた変形など、種々の変形が可能である。また、モータを駆動するインバータについても、各巻線へ一方向電流しか流せないようなインバータだけでなく、自在な電流を流せるインバータまで種々インバータの活用が可能である。なお、図73、図75において、磁束274、294は比透磁率の大きい軟磁性体の中を通るだけなので、ロータからの磁束の流入により磁気飽和をしない範囲で使用すれば、これらの磁束を誘起する磁石272厚みは小さくても良く、巻線291の励磁電流も比較的小さな値となる。
最大トルク向上の第4の方法を図76に示す。各スロットの開口部へ永久磁石301、302、303、304、305、306を配置する方法である。磁石の方向N、Sは、付記するように、各スロットの電流による起磁力とは反対方向にし、スロット開口部近傍の漏れ磁束を相殺し、低減している。この結果、図73に示した構造の効果と同様に、各歯の磁束密度を低減することができ、モータの最大トルクを増加させることが出来る。特に、この方法は、モータのロータ軸方向の長さWtが大きくなっても適用できる技術である。従って、図76の方式は出力の大きなモータでも採用しやすい技術である。一方、図72、図73、図75の方法は、モータのロータ軸方向長さWtが大きくなると、次第にその効果の比率が小さくなる傾向があり、薄形の形状のモータで効果的な方法である。なお、図76の6個の永久磁石301、302、303、304、305、306は、コスト的な都合等で3個に減らすこともできる。また、図76に図示する永久磁石がロータ軸方向の一部だけに配置してもそれ相当の効果はある。また、各ステータ磁極間に配置できれば類似した効果が得られるので、ステータ磁極のロータ軸方向端に配置することもできる。
図76のスロット形状と永久磁石の配置で分かるように、これらの永久磁石はスロット内のコイルを固定する部材としても活用することが出来る。また永久磁石の縦横寸法など形状の変形も可能である。なお、永久磁石の温度上昇による特性の変化については注意を要する。例えば、熱抵抗の大きな部材、あるいは、冷却用の液冷パイプを各スロットの永久磁石と巻線の間に配置することも可能である。
最大トルク向上の第5の方法を図77に示す。図77の(a)は、図59の断面AD−ADの断面図に磁気飽和を低減する軟磁性体311を付加した形状である。313はロータコアで、ロータコア313の両端は補助突極磁極162である。図77の(b)は、図77の(a)の側面図である。図77の(b)の補助突極磁極162の形状のように、補助突極磁極162の先端からロータ中心に向かって台形形状となり、磁路を太くしている。補助突極磁極162の根元を太くすることにより磁気飽和を低減し、モータの最大トルクを向上している。
最大トルク向上の第6の方法を図77に示す。補助突極磁極162の側面に磁気飽和を低減する軟磁性体311を追加している。補助突極磁極162の磁路が太くなり、磁気飽和が低減され、モータの最大トルクを向上することが出来る。軟磁性体311は補助突極磁極162の近傍に配置しているが、高速回転するときには大きな遠心力がかかり強度が必要となるので、8極などの多極のモータの場合、314の破線で示すように円周方向に環状に接続された軟磁性体とすることも出来る。なお、補助突極磁極162の近傍の軟磁性体は、前記の切れ目、圧粉磁心などの渦電流低減対策が有効である。また、軟磁性体を付加する場合は、磁束の方向の自由度があり、その磁路部分での磁束が交番する電流制御方法で駆動することも出来る。なお、モータの最大トルクの種々向上方法を示したが、最大トルクを向上させることにより、モータの小型化が可能となり、また低コスト化を実現することも出来る。
次に、本発明モータのステータとロータ間のエアギャップに関する技術について説明する。特に、永久磁石を使用しないリラクタンスモータは、エアギャップによって性能が大きく変わる。特に小型のモータほどエアギャップ部の励磁負担の割合が大きく、エアギャップの大きさが重要となる。図78の(a)はモータの部分拡大図で、D51がステータ磁極でD52はロータ磁極である。図78の紙面の水平軸はロータ軸方向で、上下方向はモータのラジアル方向、紙面の表から裏側は円周方向である。共に、電磁鋼板を8枚積層した構成をモデル的に示している。D53はエアギャップである。電磁鋼板の厚みが0.35mmで、エアギャップが0.5mmの例である。
図78の(b)は、D54がステータ磁極の部分拡大図で、エアギャップ部D56に面した形状は各電磁鋼板が図78の(a)のステータ磁極D51のロータ軸方向厚みに比較して約2倍に広げた形状としている。ロータ磁極D55も同様に、ロータ磁極D52に比較して約2倍に広げた形状としている。D57、D58、D59、D5Aはそれぞれの磁路の磁気飽和を避けるための軟磁性体である。図78の(b)の形状とすると、ステータ磁極D54とロータ磁極D55の間のエアギャップ部の磁気抵抗を低減することができる。図78では整然とした形状であるが、さらに形状を工夫することにより、エアギャップ部の磁気抵抗を最小1/2に近い値まで低減できる。それは、エアギャップD53の大きさを1/2近くに低減できたことと等価であり、各磁極形状の工夫のよりトルクの向上、力率の改善、効率の改善が期待できる。この時、図78の(b)は図78の(a)に比較して体積は大きくなっているが、重量の増加はわずかであり、材料コストの増加もわずかである。
次に、本発明モータの高トルク化の一手法について説明する。図79に、ステータは図1と同じステータで、各ロータ磁極に巻線を施した例を示す。D69のロータ磁極の起磁力を発生する巻線D61、D62を巻回し、D6Aのロータ磁極の起磁力を発生する巻線D65、D66を巻回している。D6Bのロータ磁極の起磁力を発生する巻線D63、D64を巻回し、D6Cのロータ磁極の起磁力を発生する巻線D67、D68を巻回している。これらの巻線へ通電する電流Irは、ロータ軸D6Hに取り付けたスリップリングD6D、D6EへブラシD6F、D6Gから供給する。ロータ磁極の磁束方向は、このモータの場合毎回転ごとに6回反転するので、その磁束方向に応じて変化する電流を与える必要がある。
このようなモータ構成とすると、ステータ側とロータ側とで起磁力を生成することができるので、大きなピークトルクを発生することができる。用途が電気自動車の場合を考えると、急な坂道を上がる時などに大きなモータトルクが必要である。しかし、その様な高トルク運転はごく少ない場合が多く、通常の運転ではブラシD6F、D6Gはスリップリングから浮かしておくことによりスリップリングとブラシの寿命を確保することもできる。この結果、ごくまれに使用する高トルク付加に対し、ロータへ巻線とスリップリングとブラシとを付加することにより比較的低コストで対応する方法である。
次に、本発明モータを巻線切り替えにより、広範囲に回転する方法、定出力範囲を拡大する方法について説明する。図80は巻線切り替え手段の例である。D71、D72、D73は、図1に示すモータ等の3相の巻線である。D74、D75、D76はそれぞれの巻線の片端端子である。各巻線D71、D72、D73は、図示するように、3個所から巻線を取り出せる構造となっていて、巻線選択手段D7Aにより巻線のタップを選択できる構成としている。D77、D78、D79は選択した各巻線タップに接続された各巻線の端子である。このような構成とすることにより、各巻線の巻回数は3通りの巻回数が選択できるので、より広い回転数範囲でトルクを出力できる。巻線電圧は巻線ターン数に比例するので、低速回転では全巻線ターンを使用し、高速回転では巻回数の少ないタップを使用する。定出力制御が必要な場合には、この巻線選択により定出力範囲を広げることができる。なお、具体的な前記の巻線タップの切り替えには、電磁接触器などが使用できる。この巻線の切り替え時には電流を確実に遮断することができれば、接触子は比較的小型化することができる。
また、モータ巻線の電圧を可変する方法として、ステータロータ間のエアギャップ長さを可変することもできる。具体的な方法は、例えば、ステータ軸方向長さLsよりロータの軸方向長さLrの方が2倍長い構造とし、ステータの内径が片端と他端とで10mm異なるテーパ状の形状とし、ロータの片端直径はステータの内径よりエアギャップ長の2倍だけ小さい直径としロータのテーパは同一角度のテーパとする。そして、ロータに対するステータのロータ軸方向位置を相対的にステータの軸方向長さLsまで動かすことができる構造とする。このような構成で、ロータに対するステータのロータ軸方向位置を相対的にLs動かすと、エアギャップの量が直径で10mm大きくすることができる。片側のエアギャップ長で5mmを可変できることになる。このようにエアギャップ長を可変することにより、ステータとロータ間の磁束を可変し、モータの誘起電圧を可変し、モータ回転数の可変範囲を広げることもできる。
また、ステータ各部の材料を特性により使い分けたり、巻線の直径についての工夫なども可能である。図81にその例を示す。351はステータのバックヨーク部である。今、354の巻線に紙面の表側から裏側へ大きな電流を通電し、同時に、巻線355へ紙面の裏側から表側へ同一の大きさの電流が通電していると仮定する。両電流により356に示す磁束が歯352へ励磁され、両隣の歯からスロット開口部近傍を通り357、358の磁束が歯352を通る。このように、ロータ磁極を吸引するように作用するステータの歯352は、磁束が集まり、磁気飽和しやすくなる。漏れ磁束357、358を低減するためには、スロットの開口部の幅WSBが大きい方が良く、スロット形状は図81のような形状となる。この時、歯の先端部は細くなり、ますます磁気飽和しやすくなるので、歯の先端部359の材料として高磁束密度材として知られているパーメンジュールを使用すると都合がよい。鉄とコバルトが50%ずつ位で構成するパーメンジュールの最大磁束密度は約2.5T程度であり、都合がよいが高価でもある。歯の先端部だけであれば、多少高価でも使用できる用途はある。また、パーメンジュールの部品構造を35Aのような形状とし、歯全体の磁気飽和を低減することも可能である。
また、スロット内の巻線太さについても、スロットの開口部側の巻線を相対的に細い巻線とし、スロットの開口部近傍の磁束密度を上げることにより漏れ磁束357、358を低減することもできる。
また、本発明モータにおいて、ステータとロータの形状を運転状況に応じて形状変更を行うことも可能である。例えば具体的には、低速回転では図54の形状をしていて、全周でほぼ一定のトルクを発生できる形状とし、ある回転数以上では補助突極磁極162を内径側へ移動させ、図9のモータと等価なモータとすることができる。図9のモータはトルクリップルが発生するが、シンプルな構成で、制御も比較的単純である。補助突極磁極162を移動する方法は、例えば、ロータ軸上のレバーを固定子側からある範囲でロータ軸方向へ移動できる構造とする。そして、そのレバーに前記補助突極磁極162が連結していて、前記レバーを移動することにより前記補助突極磁極162をラジアル方向に出入りできる構造とすればよい。
その様なモータとすることにより、低速ではトルクリップルの小さな構造のモータを実現し、高速回転では鉄損、パワートランジスタのスイッチングロス等が小さなモータを実現することができる。またこの時、主突極突極磁極161の磁極幅を連動して可変することも可能である。またこれらの移動、あるいは変形などの機構は、他の種々方法でも可能である。
また、前記の各種の磁気飽和問題の低減策などは組み合わせて使用し、構成することもできる。当然、それぞれの効果が得られる。
次に、モータの鉄損に関わる説明をする。本発明モータでは片方向電流制御するので、ステータ各部の磁束も片方向の磁束となる。従って、特ステータのヒステリシス損失は小さく、通常使用されている電磁鋼板が使用できる。しかしロータの磁束の方向は、図1のモータの場合、磁束の方向が1回転に6回変わる。本発明モータの鉄損を小さくするためには、ロータの材質をアモルファス金属にすることが鉄損低減に効果的である。鉄損の小さい軟磁性体としては、珪素Siの含有率を高めた電磁鋼板、方向性珪素鋼板、鉄粉の表面に電気抵抗の大きな膜を施し高圧プレスした圧粉磁心などがあり、それらを使用することもできる。
次に、巻線の問題点について検証する。その後に、巻線の問題点を解決する方法を示す。従来例として、図116、図117、図118を示して説明し、各巻線の配置が複雑で製作が難しいという問題、巻線の占積率が低下する問題、巻線の交差によりコイルエンド部が軸方向に長くなる問題について示した。図82は図54に示した2極のモータを4極化した本発明モータのステータ例であり、ロータ軸方向から見てその形状をモデル化した図である。図116、図118に示した従来技術で巻線を巻回した構成である。A相巻線は、スロット371からスロット374へ巻回する巻線H81とスロット377からスロット37Aへ巻回する巻線H84である。B相巻線は、スロット373からスロット376へ巻回する巻線H82とスロット379からスロット37Cへ巻回する巻線H86である。C相巻線は、スロット375からスロット378へ巻回する巻線H83とスロット37Bからスロット372へ巻回する巻線H86である。
図83は図82のモータの断面AG−AGの縦断面図である。381はステータコアで電磁鋼板をロータ軸方向へ積層している。384はスロット内の巻線、385、389はコイルエンドであり、LCE1はステータコア381からの突き出し量であるコイルエンド長さである。386、387はスロット近傍でステータコア381と巻線との絶縁を保つための絶縁紙である。絶縁紙387は、通常、絶縁を確保するためステータコア381の端から10mm程度突き出している。382はロータ、383はステータコア381とロータ382の間のエアギャップ部を指している。一点鎖線はロータの回転中心である。このような構成で、2極のモータ、6極のモータの場合も同様に巻回することが出来、また、コイルエンド各部の巻線はほぼ均一に全周へ分散される。しかし、コイルエンド部は複数の巻線が重なり、複雑な配置となり、生産性の問題がある。巻回の困難さから、スロット内の巻線占積率が低下する問題もある。コイルエンドのロータ軸方向の長さは、コイルエンド部の巻線が分散されているので、型などで成形することによりある程度短くできる。しかし、成形にも限界があり、コイルエンドが長いという問題はある。
次に、これらの問題を低減する巻線の巻回方法、巻線の配置方法について、図84に示し説明する。図84は、4極、12スロットの本発明モータのステータ例をロータ軸方向から見て、巻線のスロット位置、コイルエンド部の巻線の配置関係をモデル的に示した図である。スロット371へ正のA相巻線、スロット374へ負のA相巻線を巻線37Dで巻回する。そして、スロット377へ正のA相巻線、スロット37Aへ負のA相巻線を巻線37Gで巻回する。同様に、スロット373へ正のB相巻線、スロット376へ負のB相巻線を巻線37Eで巻回する。そして、スロット379へ正のB相巻線、スロット37Cへ負のB相巻線を巻線37Gで巻回する。同様に、スロット375へ正のC相巻線、スロット378へ負のC相巻線を巻線37Fで巻回する。そして、スロット37Bへ正のC相巻線、スロット372へ負のC相巻線を巻線37Jで巻回する。
図84における巻線の巻回順は、外径側に配置される巻線37D、37F、37Hが巻線37E、37G、37Jより先に巻回される。その理由は、例えば、巻線37Eはスロット374、375のロータ軸方向の端面を覆うことになるので、巻線37Eより巻線37D、37Fを巻回する必要がある。従って、例えば、巻線37D、37Fが巻回されていれば、巻線37Hより先に巻線37Eを巻回することは可能である。
図84の様に集中巻線を外径側、内径側に仕分けして巻回出来るモータの極数は4の整数倍の極数である。この場合には、巻線の数が少なく、相互の物理的な干渉も少ないので、効率良く、高占積で巻線を巻回することが出来る。
図85に、モータの極数が4の整数倍ではなく、6極のモータのステータの例を示す。A相の巻線は、スロット731から734へ巻回される巻線73K、スロット737から73Aへ巻回される巻線73N、スロット73Dから73Gへ巻回される巻線73Rである。B相の巻線は、スロット733から736へ巻回される巻線73L、スロット739から73Cへ巻回される巻線73P、スロット73Fから73Jへ巻回される巻線73Sである。C相の巻線は、スロット735から738へ巻回される巻線73M、スロット73Bから73Eへ巻回される巻線73Q、スロット73Hから732へ巻回される巻線73Tである。これらの巻線の中で、巻線73Tが他の巻線に比較して不規則な形状、配置となっている。このように、部分的に不規則にすれば、6極、10極、14極、18極などでも類似の巻線とすることが出来る。
次に、図84のモータのコイルエンド部近傍の巻線形状、コア形状を図86、図87、図88、図89に示し説明する。図86は図84の断面AF−AFのスロット375側の断面図である。図83のコイルエンド385を比較のため、破線で示している。391はステータコア、396、397、398は絶縁紙、394はスロット37Bに巻回した巻線で395はそのコイルエンド部である。スロットの中程からステータコアのロータ軸方向端面に向かって徐々に外径側へ折り曲げられ、コイルエンド395に繋がっている。399は巻線37Eであり、円周方向に向かって位置している。この結果、従来のコイルエンドのロータ軸方向長さLCE1に比較し図86のコイルエンドの長さLCE2は大幅に短縮していることが分かる。
図87は、図84の断面AE−AEのスロット376側の断面図である。40Bはステータコア、403、404、405は絶縁紙、406はスロット376に巻回した巻線で402はそのコイルエンド部である。巻線406、402の形状を、このステータ側から見て円弧状の形状を直線展開した図88に示す。図88の水平軸は円周方向、上下方向はロータ軸方向である。411、412、413、414、415は各歯の内周側形状である。416、417は図84の巻線37Eであり、図87の巻線406、402である。巻線416がスロットの中程から418の部分にさしかかると円周方向に折れ曲がり、コイルエンド部に繋がっている。折れ曲がり部419も同様である。円弧状に無理なく折れ曲がっているので、図87に示すコイルエンド402のロータ軸方向の突き出し量を短く、LCE2の大きさに抑えている。このようにコイルエンド近傍のステータコアのスロット形状を工夫することによりコイルエンドのロータ軸方向長さを短縮することが出来る。なお、巻線401は図84の巻線37Fであり、円周方向に向かって位置している。
図89は、図84と同じ部分のステータコアの形状を示す図である。724はステータコアで、図84のコイルエンド部37Dは図89のコイルエンド部723である。破線で示す721は図84のスロット371の形状である。太線722は、図86のスロット形状39Bのロータ軸方向端の形状である。従って、図89の破線721から太線722にかけて曲面形状を成している。そして、巻線がスロット内部からステータコアのロータ軸方向側面に向かって、ステータコアの前記曲面形状に沿って、より容易に巻回できる形状としている。
なお、図86の巻線394が折れ曲がる部分のステータコアの形状39Bを滑らかな曲線、あるいは、円弧で示しているが、2段、多段の階段状の形状であっても同様の効果を得ることが出来る。例えば、図87のステータコア40Bの破線で示すスロット形状407の様な3段の形状である。ステータコアは積層電磁鋼板で構成することが多く、スロットの滑らかな形状変化は、電磁鋼板の打ち抜き用金型等のコスト的な負担が大きくなる。スロット形状407の様な形状であれば、3種類の電磁鋼板を積層することにより製作できるので、生産設備のコストを低減することが可能である。
さらに、図87では、39Aの破線で示す近傍のバックヨーク部の円周方向磁路が減少しているので、円周方向磁路断面積を増加させるため、円環状の軟磁性体408を追加している。この軟磁性体408により、モータのロータ軸方向長さを増加させることなく、バックヨーク部の円周方向磁路を確保することが出来る。また、軟磁性体408は破線で示すように、ロータ軸方向に積層する電磁鋼板を折り曲げて構成すると、磁束も無理なく408の部分を通過することができ好適である。
次に、図83に示す絶縁紙387、386の改良について説明する。図83の場合は、スロットの断面形状がロータ軸方向にステータコア381の一端から他端まで同じ形状をしている。従って、絶縁紙386、387の端末処理はステータコア381のロータ軸方向端から10mm程度突き出していることが多い。その理由は、ステータコア381のロータ軸方向端で端面に沿って広げると、絶縁紙の切れ目とステータコアの角部388との間の絶縁距離が短くなる問題、あるいは、スロット内部のロータ軸方向端の近傍で絶縁紙の分割などを行うとスロットの有効断面積が減少し巻線占積率が低下する問題がある。図86の構成では、スロットの形状がロータ軸方向端に近づくとスロット断面積が広くなり、絶縁紙398と397のようにオーバーラップさせて、ステータコア391との絶縁距離を確保しながら、両絶縁紙を接続することが出来る。絶縁紙397は、ステータコア391のスロット形状39Bに沿って配置できるので、コイルエンド395のロータ軸方向長さLCE2を短縮することが可能である。
図87の構成においても同様に、スロット断面積が広くなり、絶縁紙405と404のようにオーバーラップさせて、ステータコア40Bとの絶縁距離を確保しながら、スロット形状407に沿って両絶縁紙を接続することが出来る。
また、図86、図87に示すコイルエンド部の固定、放熱については、コイルエンドに密接してモータのフランジ部品を配置することにより、フランジ部品でコイルエンドを固定し、同時にコイルエンド部の熱をフランジ部品に伝えることにより効果的に行うことも出来る。
図84に示す巻線の巻回方法は、各巻線が他の巻線との物理的干渉が少なく、巻線の巻回が容易であることから、生産性が高く、巻線の占積率を向上することも可能である。図86、図87に示すようにスロット形状の改良により、巻線の配置、構成を容易化することが出来、コイルエンド部395、399、401、402のロータ軸方向の突き出し量LCE2を短縮することが出来、従来モータで課題であったコイルエンド部近傍の有効な利用率を大幅に改善している。結果としては、モータの小型化を実現したとも言える。
次に、本発明モータのステータコアを分割した構成について図90に示し、説明する。図90は8極の本発明モータのステータをロータ軸方向から見て、各巻線をモデル化した図である。171は8極のロータで、図55に示したモータのロータと同じである。分割点42E、42F、42G、42Hの4個所で接合されたステータコアで構成されている。これらの分割点の形状を2重線で示しているが、種々形状に変形することも出来る。これらの分割ステータは、電気角で360°に分割しているので、各相の巻線は、それぞれ、同一の分割コアに巻回することが出来、それぞれの分割ステータを独立して製作できる。A相の巻線はスロット421からスロット424へ巻回される。B相の巻線はスロット423からスロット426へ巻回される。C相の巻線はスロット425からスロット423へ巻回される。
例えば、4分割されたステータコアの一つに巻線を巻回する場合、90°の円弧形状なので、スロットの開口部側が開放されており、環状のステータコアに巻線を巻回するより大幅に容易であり、自由度がある。従って、巻線を巻線機により直巻きすることも可能であり、スロット内の巻線占積率の向上も可能である。
また、ステータコアの分割は、電気角で360°、720°など電気角の整数倍で分割しても同様の効果が得られる。また、例えば、720°で分割したステータコアの場合、ステータあるいはロータの形状を720°の周期で変形することが可能となり、トルクリップルを低減するために2個の同相のロータ磁極を360とは少し異なるピッチとしてトルクリップルをキャンセルさせる手法などを採用することが可能となる。
また、前記分割点42E、42F、42G、42Hの合わせ面については、電磁鋼板の1枚ごとに、あるいは、数枚ごとに互い違いに凹凸上に組み合わせることにより、相互の磁気抵抗を支障がない程度に低減することができる。そして、隣接する分割コアの電磁鋼板が相互に、互い違いに凹凸上に組み合わせた部分をレーザ溶接などにより精度良く、強固に固定することもできる。また、各分割コアの機械的な固定には、ボルトによる圧接、接着剤による接着固定、ケーシングによる把持、レーザ溶接などによる溶接固定などの種々の方法が可能である。
次に、図15、図16に示した、2個のモータを複合して組み込むモータの機械的な支持構造について説明する。外径側と内径側にロータがあり、ステータをそれらの中間に配置しているので、精度良く実現する具体的な構成が簡単ではない。先に説明したように、ステータ磁極とロータ磁極との間のエアギャップ長はモータ特性を確保するためにできるだけ小さくする必要がある。
図91に、図15、図16等の複合モータの縦断面図の例を示す。E05はロータの出力軸、E01は外径側に配置したロータR1、E02は内側に配置したロータR2、E03とE04は背中合わせに一体化したステータS1とステータS2である。E0Aはステータの巻線のコイルエンドを示している。E06、E07はロータを支える軸受けである。E08は固定部であり、ステータS1、S2を接続していて、E09の部分を固定してモータ全体を固定することができる。一点鎖線はロータの回転中心線である。
一方、高速回転を使用する場合には、軸受けの直径Dと回転数Nとの積D×Nの値が軸受けの寿命と信頼性に大きく関わることが知られている。すなわち、モータの回転数Nが大きい場合は、軸受けの直径は小さい方が好ましい。この観点で、軸受けE0Cの直径を小さくしている。また、軸受けの直径が大きくなると、コストも上がる問題もある。
この図91のモータ構成は、E01のロータR1とステータS1、S2とが片側から支持している構造なので、偏心などの誤差が発生しやすい。従って、ステータとロータの軸方向厚みを大きくすることはできない。扁平形状のモータの場合は、それなりに精度の維持が可能である。
図92に示すモータは、ステータとロータの軸方向長さが図91のモータの約2倍ほどに大きい場合のモータの例である。図92のステータとロータ間のエアギャップを小さく保てるように、ステータとロータとの軸方向両端が破線で示す回転中心線へ精度良く支持できる構造としている。E15はロータの出力軸、E11は外径側に配置したロータR1、E12は内側に配置したロータR2、E13とE14は背中合わせに一体化したステータS1とステータS2である。E1Aはステータの巻線のコイルエンドを示している。E16、E1Cはロータを支える軸受けである。ステータの他端も軸受けE17でロータ軸中心へ支持している。E18は固定部であり、ステータS1、S2を接続していて、E19の部分を固定してモータ全体を固定することができる。
しかし、軸受けE1Cの内径が小さいので、モータ全体の支持剛性が制約される問題がある。この点については、軸受けE1Cの内径を許容できる程度に大きくして、モータ全体の剛性を挙げても良い。また、図92のモータは外周のE11がロータR1であり、回転部が露出しているので、注意を要する。
次に、図92のモータの外周にモータケースと軸受けを追加したモータ構成を図93に示す。E1Dはモータケースで、E1BはロータE15を支持する軸受けである。E18は固定部であり、E19の部分を固定してモータ全体を固定することができる。また、図93のモータの場合は、E21の部分あるいは前フランジ部であるE22の部分を固定することもできる。E21の部分あるいはE22の部分を固定する場合は、図116の従来モータの支持構造とほぼ同じ扱いができる。また、図93のモータ構成の場合は、一点鎖線で示すロータ回転中心線に対してモータ各部の位置を精度良く保つことができるので、ステータとロータ間のエアギャップを小さく保つことができ、モータ性能を確保することができる。またこの時、使用している軸受けE1C、E16、E17、E1Bの各直径を、過大な大きさとせず、適切な直径となるように設計可能な構成なので、長寿命、高信頼なモータを設計可能である。
次に、インバータの構成を簡素化できるモータについて図94、図95に示し、説明する。図94のモータは図54のモータの巻線を、いわゆるバイファイラ巻きと言われる2重巻線に変更している。図54の巻線111は図94の巻線521と522に、巻線114は図94の巻線527と528、変更している。そして、巻線521は巻線527と直列に巻回され、巻線522は巻線528と直列に巻回されている。両巻線521、522に鎖交する磁束を出来るだけ共通にしたいので、2本の電線を並列にして巻回することが電磁気的には好ましい。同様に他の巻線についても、図54の巻線113は図94の巻線525と526、巻線116は巻線52Bと52C、巻線115は巻線529と52A、巻線112は巻線523と524に置き換えている。図94の巻線方法は、図95に示すインバータで駆動することが出来るので、インバータが簡素になり、低コスト化が可能である。但し、バイファイラ巻きで同じ太さの巻線とすると、スロット断面積の大きさは制約されるので、各巻線の太さは約1/2の太さに細くなり、抵抗値が大きくなって銅損が増加し、モータ効率はやや低下する。なお、回生電流が流れる巻線の電流は比較的小さいので、バイファイラ巻きの2本の巻線の太さを異なる太さにして、前記のモータ効率の低下を最小限とすることもできる。
図95に示すインバータと図94の各巻線について説明する。53Aは直流電源で、50Hz、60Hzの商用交流電源を直流に変換した直流電源、あるいは、バッテリなどの直流電源を指している。VMは直流電源53Aの正極側、VLは負極側を指している。図95の巻線531は図94の521と527で構成する巻線で、巻線532は522と528で構成する巻線である。この時、巻線531と532とは至近距離に並列に巻回することにより、両巻線に鎖交する磁束の大半を共通に鎖交する磁束とすることが出来る。また、両巻線531と532はその巻線のドットで示すように、極性が逆になるように配置している。なお、巻線531と532とが、図94に示すようにスロット内で空間的に分離される場合には、スロットの奥に配置する522と528の巻線が図95の回生用巻線532であることが、より多くの磁束をスロットの奥の巻線に鎖交することから、好ましい。同様に、巻線533は巻線525と52Bで、巻線534は巻線526、52Cである。巻線535は巻線529と523で、巻線536は巻線52Aと524である。
図94に示すモータを図95に示すインバータで駆動する方法は、CCWへ駆動するとき、図56に示した方法と同様の方法で駆動することが出来る。ただし、モータの磁気エネルギを回生する方法が異なっている。具体的には、図56の(a)の状態では、トランジスタ537により巻線531に電流を通電し、同時に、トランジスタ539により巻線535へ通電する。図56の(b)の状態では、トランジスタ539をオフしてその巻線535に鎖交する磁束の磁気エネルギーを、巻線536とダイオード53Dを利用して電源53Aへ回生する。巻線535と536とは相互インダクタンスが大きく、大半の磁束が両巻線へ共通に鎖交しているのでエネルギーを供給し合うことが出来る。この時と前後して、トランジスタ538により巻線533に電流を通電し、図56の(b)の矢印で示す磁束を生成してCCWのトルクを発生する。図56の(c)の状態では、トランジスタ537をオフしてその巻線531に鎖交する磁束の磁気エネルギーを、巻線532とダイオード53Bを利用して電源53Aへ回生する。この時と前後して、トランジスタ539により巻線535に電流を通電し、図56の(c)の矢印で示す磁束を生成してCCWのトルクを発生する。図56の(d)の状態まで回転すると、その回転位置は図56の(a)の状態からCCWの方向へ電気角で60°進んだ回転位置であり、その後のCCW方向への回転は同様のアルゴリズムで駆動することになる。図95に示すインバータはトランジスタ3個とダイオード3個で構成される簡素なインバータであり、低コスト化が可能である。図95に示すインバータは、トランジスタの個数が半減し、トランジスタの電流容量も半減することから、図95のインバータの合計電流容量は約l/4に小さくできることになる。また同時に、電流の順方向電圧降下、回生時のダイオードでの電圧降下も、図119に示すような通常の3相交流インバータに比較すると1/2となり、効率が良く、発熱が少ないという点でもインバータの小型化が可能である。
図96に図95のトランジスタにかかる瞬時過電圧を低減する例を示す。トランジスタ537に電流が流れている状態からオフ状態に変化すると、巻線531に鎖交している磁束の磁気エネルギーは、単純原理的には巻線532とダイオード53Bにより電源53Aに回生される。しかし、巻線531の漏れ磁束成分等については、巻線532には鎖交しない磁束成分なので回生できない磁束成分が存在する。これらの漏れ磁束成分等は、トランジスタ537がオフ状態になるときに巻線531で瞬時の過大電圧を発生し、トランジスタ537へダメージを与えるという問題がある。図96のダイオード541、542、543は各巻線531、533、535に発生する過大電圧を整流して集め、過電圧吸収回路である抵抗546、コンデンサ544、ツェナーダイオード545へ吸収させることが出来る。前記の漏れ磁束成分等の磁気エネルギーの総量は小さいので、比較的小規模の過電圧吸収回路で解決することが出来る。また、過電圧吸収回路は種々変形が可能である。
なお、図94、図95、図96では、巻線が3個の場合について説明したが、4相、5相などの多相の場合についても、図95、図96の制御回路を拡張して、同様に実現することができる。
次に、図1、図9、図54などに示すモータが数W程度の小容量モータである場合について、そのインバータの構成の例を図97に示し、説明する。551、552、553は3相の巻線、554、555、556は電流を通電するトランジスタ、557、558、559はダイオード、55A、55B、55Cはモータの磁気エネルギを吸収する抵抗である。このようにモータの出力容量が小さいときには簡単な回路、抵抗でモータの磁気エネルギーを吸収させることにより、回路の簡素化が可能である。ここで、抵抗55A、55B、55Cは、コンデンサ、ツェナーダイオード等と組み合わせることも出来る。
次に、図1、図9、図54などに示すモータが中容量以上のモータである場合について、そのインバータの構成の例を図2に示し、説明する。561、562、563は3相の巻線、564、565、566は電流を通電するトランジスタ、567、568、569はダイオードである。ダイオード567、568、569により集めた回生電流はコンデンサ56Cへ充電し、DC−DCコンバータであるトランジスタ56A、チョークコイルLdcc、ダイオード56Bにより電圧変換して直流電源53Aへ充電する。このDC−DCコンバータは良く使用されている一般的な構成であり、コンデンサ56Cへ充電された電化をトランジスタ56AによりチョークコイルLdccへ電流Ircを通電し、この状態でトランジスタ56Aをオフする。この時、チョークコイルLdccにたまった磁気エネルギーは、ダイオード56Bを使用して電流Ircの形で直流電源53Aへ充電することが出来る。このようにしてモータの運動エネルギー、モータの磁気エネルギーを回生し、効率良く直流電源53Aへ回生する。なお、図2の回生電圧VHは、求められる回生特性に応じて設定することが可能である。また、前記DC−DCコンバータの変形も可能である。
電気自動車、ハイブリッド自動車等において、自動車駆動用に2個以上のモータが使用されることも多い。通常、市街地走行モードでの燃費、即ち駆動効率が問題とされる。自動車の種類にもよるが、市街地走行モードではモータの最大トルクの1/2以下であることが多い。従って、回生時のモータ側発電容量、即ち、回生容量は急加速時の最大出力容量に比較して1/2以下の容量で十分である。自動車が急減速しなければならないときには、安全上の観点でも、機械式のブレーキ機能を併用して使用すれば良いと考えることが出来る。その様な観点で、図2に示すようなDC−DCコンバータは、複数のモータで共用することが可能であり、1台のモータ駆動用の駆動回路は、3個のトランジスタ564、565、566と3個のダイオード567、568、569であると見ることが出来る。従って、図2の破線に示すインバータはトランジスタ3個とダイオード3個でモータを1台駆動することが可能な簡素なインバータであり、低コスト化が可能である。同時に、電流の順方向電圧降下、回生時のダイオードでの電圧降下も、図119に示すような通常の3相交流インバータに比較すると、約l/2であり、効率が良く、発熱が少ないという点でもインバータの小型化が可能である。
次に、図1、図9、図54などに示すモータを駆動する他の回路を図98に示し、説明する。図2に比較し、トランジスタ571とダイオード572が付加され、コンデンサ573の負側の接続点がコモン線VLになっている。トランジスタ571が付加されることにより、巻線561、562、563の回生電圧を約(VH−VL)と大きな値とすることが可能となっている。回生する時間の短縮が可能である。
次に、図1、図9、図54などに示すモータを先に示した図3のインバータで駆動する方法について説明する。図54の3相巻線A巻線、B巻線、C巻線は図3の巻線87D、87E、87Fに相当する。例えば、巻線87Dへ電流を流す場合はトランジスタ871と872を制御して直流電圧の印加、回生、フライホイールの制御が可能である。ただし、巻線87Dへは片方向の電流しか通電できない。他の相の巻線電流についても同様である。モータの回転位置θrと各相電流との関係は、図11、図12、図56、図57の関係などで通電すればよい。先に説明したように、図3のインバータで本発明モータを駆動した場合、従来インバータの合計電流容量に比較し、約1/2に小容量化できるので、制御装置の小型化、低コスト化が可能である。
次に、本発明モータを高トルク化する方法と高速回転の駆動とを両立させる方法について説明する。先に、高トルク化を実現する方法として図73の(b)で示した方法、図76で示した方法により、ロータ側からの磁束をステータ磁極の軟磁性体部へより多く通す方法について示した。その結果、図5のトルクT2の動作点からトルクT4の動作点へ最大トルクを増加できることを示した。しかしこの時、磁束が増加するので、各巻線へ鎖交する磁束および電圧も増加することになる。従って、モータ回転数を高速回転まで駆動するという観点では、これらの方法はむしろ不利である。
この対策として、各巻線に鎖交する磁束の時間変化率を低減し、巻線の誘起電圧を低減し、高速回転までの駆動を容易化する方法を説明する。図99は、図73の(b)に比較してロータ磁束681の方向を逆にしている。ロータ磁束681は各巻線の電流によって励磁しているので、モータの各巻線の電流方向を逆にし、磁束681の方向を逆向きとしている。永久磁石272により励起される磁束274と磁束681とが、歯262で同一の方向を向いており、歯が磁気飽和しやすい構成となっている。トルクを大きくする先の説明では、磁石272により初期動作点を図74に示すBc点とし、B4の磁束密度差で大きな磁束変化B4を得る方法を説明した。今、電流方向を逆にした場合は、初期動作点をBcとし、逆向き電流を各巻線へ通電した時の動作点をBbとすると、その磁束密度の差分はB5となり、小さな値とすることができる。巻線の誘起電圧は磁束の変化分に比例するので、高速回転がより容易となる。
ステータ磁極を通る磁束の変化分を小さくする他の方法を図100へ示す。この構成は図76に比較し、巻線の電流方向を逆にしている。この場合にも図74において、ステータ磁極の磁束密度動作点がBcとなり、電流を通電したときの動作点がBbとすると、ステータ磁極の磁束密度の変化分がB5となり、巻線の誘起電圧が減少するので、その分高速回転が容易になる。
図73の(b)あるいは図76に示すように作用させると、大きな磁束密度の差B4により大きなトルクを発生させることができ、一方、3相の電流方向を全て逆方向に切り替えて磁束密度の差をB5として誘起電圧を減少させることにより高速の回転を実現することができる。その様な制御が可能な制御装置の例を図101および図102に示す。両制御装置共に電流の方向を正と負の両方に通電することができる。モータは図1、図10、図54などに示す3相のモータの場合である。4相以上のモータ場合は相数に応じて回路を拡張すればよい。
図101に示す制御装置の場合、各巻線は星形結線となっていて、星形結線の中心KからトランジスタE5DとE5Fの中間点に接続している。従って、A相巻線E5JへはトランジスタE51、E52により正の電流と負の電流を通電できる構成となっている。B相巻線E5K、C相巻線E5Lについても同様である。このような制御装置において、中速回転以下で大きなトルクが必要な場合は各相巻線へ図6に示したような電流を、ステータ磁極近傍の構成が図73の(b)あるいは図76のように作用させて大きなトルクを出力することが可能である。そして一方、同じモータで高速回転を行うときには、A相電流Ia、B相電流Ib、C相電流の向きを逆向きにし、図99あるいは図100に示すように電流を通電して、磁束密度の変化分を小さくし、各巻線の誘起電圧を小さくし、高速回転まで容易に駆動することができる。
図102の制御装置は、各巻線561、562、563がそれぞれ4個のトランジスタにより、いわゆるHブリッジの構成とし、各巻線へ正負の電流が自在に通電できる構成としている。この場合にも同様に、高トルクの時の通電と高速回転時の通電では電流の方向を逆とすることにより、両運転モードでの運転が可能な構成としている。なお、前記の両運転モードにおいても、その時点でのモータ電流制御は片方向電流制御となっている。また、モータは図1、図10、図54の様に永久磁石を使用しないモータ構成の場合は、リラクタンスモータなので、前記のどちらの運転モードにおいても同じモータ特性となる。
また、図101および図102に示すような両方向の電流が自由に通電できる制御装置の場合は、さらにモータトルクをさらに高トルク化することも可能である。より多くの巻線へ同時に電流を通電してトルクを発生することができるので、モータの連続出力トルクを向上することができる。また、制御装置としても、同時に複数の経路で電力供給をすることができるので、パワートランジスタの素子数は増加するが、合計の電流容量は低減できる効果がある。
例えば、図4の(a)では、B相巻線A0F、A0Jへ逆向きのB相電流を通電すればトルクが増加する。図4の(a)、(d)のロータ回転位置θrでは、丁度境界位置にあるので、残りの1相の巻線へ電流を通電してもトルクは増加しない。図4の(c)のロータ回転位置θrでは、C相巻線A0H、A0Eへ逆向きのC相電流を通電すればトルクが増加する。ただし、制御装置が高コスト化する問題はある。
また、図22から図34に示すような永久磁石を付加した構成のモータにおいては、特に平均トルクの向上に効果的である。例えば、図23に示すモータの場合、このロータ回転位置θrでCCWのトルクを発生する場合、A相巻線A0D、A0GへA相電流Iaを通電し、C相巻線A0H、A0EへC相電流Icを通電し、このモータのトルクを発生する。ここでさらに、残りのB相巻線A0F、A0Jへその電流シンボルで示す電流方向の電流Icとは逆方向の電流−Icを通電することによりトルクを増加させることができる。この状態では、3個の巻線に電流を流してCCWのトルクを発生しているので、モータのジュール損を低減でき、総合的にはモータの連続出力トルクを増加させることができる。
また、図101および図102に示す制御装置で、3個の巻線に自在な方向の電流を通電する場合、パワートランジスタの個数は増加するが、同時に複数の経路で電力供給をすることができるので、パワートランジスタの素子数は増加するが、合計の電流容量を低減できる効果がある。従って、低コスト化、小型化の可能性がある。
また、トルク増加を行った図73で示したモータ、あるいは、図76で示したモータ等のさらなる高トルク化も可能である。全ての巻線でトルクを発生する起磁力を発生するので、モータのジュール損を低減でき、モータの連続出力トルクを増加することができる。これらの高トルク化は、モータの設置スペースが限定されている様な用途には特に好適である。
なお、図99あるいは図100のモータ構成では、モータの電流が流れていない状態では、ロータに磁束は誘起せず、ロータが回転状態にあっても鉄損は発生しない。すなわち、いわゆるひきずりトルクは発生せず、損失は発生しない。これは、軽負荷で運転するときに重要な特性である。また、ハイブリッド自動車で、内燃機関のエンジンで高速走行を行うとき、モータも電流零の状態で連れ回りし、この時モータ損失が零であることは重要な特性である。
次に、本発明モータの内、永久磁石を付加したタイプにおける応用技術について説明する。図23、図27などに永久磁石を使用したモータを示した。これらのモータは永久磁石の使用により、高トルク化、高効率化が図れる。そして、本発明のモータが片方向電流で制御できることから、トルクを発生時には永久磁石を増磁する方向に電流を流し、起磁力をかけながら駆動することができることを示した。すなわち、永久磁石が減磁する方向には電流を通電しないような駆動が可能である。一方、従来の永久磁石応用モータの場合、加減速時に永久磁石を減磁する方向の起磁力も作用するので、減磁しないように十分に厚い磁石を使用したり、減磁しにくい高価な磁石を使用し、コスト的な問題がある。
本発明では、減磁しない方向の電流だけで制御できることから、減磁耐力の小さい安価な永久磁石の活用、磁石の薄型化が可能で、低コスト化が可能である。しかし、本発明モータは、永久磁石が減磁する方向の電流の通電ができないわけではないので、制御装置が誤動作した場合には、永久磁石が減磁する問題はある。また、モータ特性の他の要求として、高速回転では、磁石の磁束密度を低下できるように減磁して高速回転制御を行いたいという要求もある。
この対応として、永久磁石の減磁手段、着磁手段を制御装置に持たせることができれば、前記の問題を解決し、それ以外の要求にも応えることができる。具体的な方法は、モータの永久磁石を必要最小限の厚みの磁石とし、減磁着磁が比較的容易な特性とする。そして、永久磁石の減磁手段、着磁手段として、モータの駆動に使用するパワートランジスタを活用する方法である。モータは永久磁石の量を少なくでき、着磁手段、減磁手段として追加するハードウェアを要しないので、低コストである。
一方、永久磁石には種々の種類の永久磁石が使用できるが、例えば、アルミニウム、ニッケル、コバルトを含有するいわゆるアルニコ磁石は磁束密度が高く、保磁力は小さいのでこの目的には合っている。永久磁石の着磁は、例えば図23の状態で永久磁石F68とF6Bを着磁する場合、B相巻線A0F、A0JへB相電流Ibを通電し、同時に、C相巻線A0H、A0EへC相電流Icを通電すればよい。この時、電流Ib、Icに求められる大きさは、モータの磁石特性により決められる。また、図23の状態で永久磁石F68とF6Bを減磁する場合には、A相巻線A0D、A0Gへ電流Iaを通電すればよい。なお、着磁の電流は2個の巻線で行うことができ、減磁は1つの電流で行うことになるので、どちらかというと減磁能力が不足し易い。
また、複数の永久磁石の内、一部の永久磁石は、モータ電流では減磁しない特性とし、他の一部の永久磁石は減磁、増磁が容易な特性とし、永久磁石の磁力の可変を容易化することも可能である。なお、この増磁、減磁は、全ての磁石の強さを同程度に強める、あるいは、弱めることにより実現できる。しかし、増磁、減磁の目的は、モータ端子間電圧の調整なので、一部の磁石の強さを可変することにより目的を達成することもできる。強さを可変する磁石が特定の磁石であれば、モータ設計もより容易化でき、増磁、減磁の操作も単純化できる。
例えば、モータの制御装置が図2で減磁および増磁を行うことができ、その後、モータの回転制御もこの制御装置で行うことができる。もし、減磁電流が不足する場合、3個のパワートランジスタ564、565、566の電流容量を大きくしておけば良い。また、増磁、減磁に必要な電流は瞬時電流なので、電磁接触器、サイリスタなどの他の電力素子を付加して増磁、減磁の専用の機能ユニットを構成し、付加することも可能である。モータ制御用のインバータと並列に配置することになる。いずれにしても、本発明モータの磁石
増磁、減磁を具体的に行う方法は、増磁、減磁に都合の良いロータ回転位置θrへ位置決めし、増磁、減磁に必要な大きさの電流を、必要最小限の時間以上に通電することにより実現できる。また、高速回転で運転するとき、磁石の磁束密度を低下できるように減磁する場合は、高速回転に入る前の回転中に、該当する永久磁石が減磁できる回転位置へ来たときに減磁電流を通電することにより減磁することができる。増磁についても同様であり、高速回転から低速回転にさしかかる時に、同様の方法で増磁電流により増磁することができる。
次に、本発明モータの駆動方法の例について説明する。先に説明したように、図9、図10に示したようなモータの場合、図11に示すように各ロータ回転位置θrにおける各相電流を通電してモータを回転駆動することができる。各ステータ磁極が、順次、ロータ磁極を吸引して回転トルクを発生する。この時、ステータ磁極の円周方向の前後のスロットへ巻線した各巻線へ通電する電流方向が逆向きとなっていて、円周方向に隣接するステーテータ磁極の磁性はN極とS極とが交互になっている。従って、ロータの回転方向へ、ロータの回転に伴って、円周方向に隣接するステータ磁極を、励磁する磁束の方向を順次逆転しながら、順次励磁してロータ磁極を継続的に吸引し、継続的に回転トルクを発生して駆動する制御方法である。なお、この時、ロータ磁極の磁束は、回転と共に、磁束の方向が逆転する構成である。この時の各相の電流Ia、Ib、Icと各ステータ磁極が発生するトルクTa、Tb、Tcは図12のようになる。
本発明モータのこのような駆動方法は、ロータに同期して順次円周方向のスロットの巻線へ電流を通電する方法は、通常の同期電動機と類似する駆動法である。ただし、本発明では各相電流が片方向電流である。
図12に示すような電流およびトルクの制御は、図107に示し、説明する制御装置により実現することができる。そして、図12の電流、トルクに関わるデータはDATAにその情報を格納しておくことにより実現する。
本発明モータの前記の電流制御、トルク制御を実現する具体的な速度制御装置の例を図107に示す。591が本発明モータで、図1、図9、図54などの3相のモータを表している。このような3相のモータの制御の例を示す。本発明モータが片方向電流Ia、Ib、Icを通電して制御するシーケンス的で不連続な制御な面をもち、磁気的に非線形な領域を利用して駆動するモータであるため、従来の制御装置とは異なる点がある。592はA相巻線、593はB相巻線、594はC相巻線である。595はロータの回転位置θrを検出する位置検出器である。596は位置検出器595のインターフェイスでロータ回転位置θrおよびロータの回転速度ωrを出力する。599は速度指令信号で、加算器59Aによりロータ回転速度ωrとの差である速度誤差59Bを求め、補償器59Cへ出力する。補償器59Cは、比例計算、積分計算、微分計算等を行い、それらの加算値をトルク指令信号TCとして電流電圧演算器59Gへ出力する。
電流電圧演算器59Gは、トルク指令TCを入力とし、ロータ回転位置θrとロータ回転速度ωrを入力し、後に述べるデータベースDATAを使用して、A相、B相、C相の電流指令Ica、Icb、Iccと3相の電圧指令Vfa、Vfb、Vfcとを求め、出力する。
A相電流指令IcaはA相電流検出値Isaと加算器で差分を計算し、補償器J31で補償計算を行い電圧指令Veaとし、A相の電圧予測指令値Vfaと加算してA相の電圧指令値Vcaを電圧幅変調増幅器PWMへ出力する。B相電流指令IcbはB相電流検出値Isbと加算器で差分を計算し、補償器J32で補償計算を行い電圧指令Vebとし、B相の電圧予測指令値Vfbと加算してB相の電圧指令値Vcbを電圧幅変調増幅器PWMへ出力する。C相電流指令IccはC相電流検出値Iscと加算器で差分を計算し、補償器J33で補償計算を行い電圧指令Vecとし、C相の電圧予測指令値Vfcと加算してC相の電圧指令値Vccを電圧幅変調増幅器PWMへ出力する。
パルス電圧幅変調増幅器PWMの機能は、入力の電圧指令値Vca、Vcb、Vccに比例して電圧時間幅を制御してパルス幅変調し入力の電圧指令値に比例した平均電圧を電力増幅して出力するもので、いわゆるPWM変調器と図2あるいは図3のようなパワートランジスタで電力増幅する機能とを合わせた機能である。3相電圧の入力Vca、Vcb、Vccに応じて3相電圧と電流とをモータの各相の巻線へ供給する。なお、パワートランジスタのスイッチング損失を減らすため、あるいは、応答を良くするため種々の変調増幅器があり、特に増幅方法を限定するものではない。
各相のモータ電流は電流検出器で検出し、検出電流Isa、Isb、Iscを得、前記A相、B相、C相の電流指令Ica、Icb、Iccと加算器でその差分が得られ、それぞれ、A相の補償器J31、B相の補償器J32、C相の補償器J33で各相の電流誤差を補正する電圧成分を計算する。
そして、A相巻線に印加されるべき電圧Vacは、補償器J31の出力電圧と電圧指令Vfaとを加算して電圧幅変調増幅器PWMへ与え、電力増幅してA相巻線へ電流、電圧を与える。B相巻線に印加されるべき電圧Vcbは、補償器J31の出力電圧と電圧指令Vfbとを加算して電圧幅変調増幅器PWMへ与え、電力増幅してB相巻線へ電流、電圧を与える。C相巻線に印加されるべき電圧Vacは、補償器J31の出力電圧と電圧指令Vfcとを加算して電圧幅変調増幅器PWMへ与え、電力増幅してC相巻線へ電流、電圧を与える。この結果、各巻線の電流値指令値Ica、Icb、Iccとその電流を通電するために必要な電圧値Vfa、Vfb、Vfcとを与えることができれば、正確で高応答な電流と電圧の制御が可能となる。
前記データベースDATAの内容には、トルク指令TC、ロータ回転位置θr、ロータ回転速度ωrが与えられた時に、A相、B相、C相の電流指令Ica、Icb、Iccを計算して求めるためのデータを格納している。また、この時、3相の電圧指令Vfa、Vfb、Vfcも計算して得られることが好ましい。そのデータベースDATAの内容は数式であっても数値であっても良い。入力の全組み合わせに対する出力情報が記録されていても良い。但しその場合はデータ量が多くなり、コスト的な問題とがある。
次に、本発明モータを制御するための前記データベースDATAを、事前に求める具体的な例について説明する。例えば、図4の(a)に示すモータで具体的な形状のモータについて、A相、C相の電流値Ia=Ic=Ix、Ib=0、回転位置θr=30°とし、非線形有限要素法で磁場解析を行い、各相巻線に鎖交する鎖交磁束φxを求める。同時にトルクTxも求められる。この条件では、A相巻線、C相巻線に鎖交する磁束は等しく、B相巻線に鎖交する磁束はほぼ零である。このように、図109の表に示すように、モータ運転で使用する全ての条件の磁束鎖交数ΨとトルクTを求める。行は、電流条件で、例えばInは、3相電流Ia、Ib、Icのある組み合わせを意味している。列はロータ回転位置θrで、θmはそのある値を示している。Ψmnは、A相巻線、B相巻線、C相巻線の磁束鎖交数Ψmna、Ψmnb、ΨmncとトルクTmnを表している。磁束鎖交数Ψ=Nw×φは巻線の巻回数Nwと鎖交磁束φとの積なので、各相の鎖交磁束φmna、φmnb、φmncで表現しても良い。
ここで、3相電流Ia、Ib、Icの組み合わせ条件は、それぞれ10個の離散的な代表値を決めると、その全ての組み合わせは1000通りできる。しかし、通常運転で使用しない組み合わせの電流値の組み合わせは省略することができる。ロータ回転位置θrについては0°から360°まであるが、3相の磁気回路と巻線が対称的なことから同じデータが繰り返すことになり、1/2あるいは1/3あるいは1/6に省略することができる。このようにして、モータモデルを非線形有限要素法で磁場解析して、図109の表の全データを求める。
なお、図109のデータを使用して実際のモータの使用条件における各巻線の鎖交磁束などを求める方法は、保存するデータはとびとびの離散的なサンプル値なので、求める条件の近傍のデータ値から内挿計算して求める。求める条件の近傍のデータ値から比例計算すれば、ほとんどの場合、十分の精度が得られる。さらに具体的には、図109の表のデータには、計算しようとする変数の組み合わせIa、Ib、Ic、θrの値と同じ値の時の鎖交磁束のデータなどは保存されていないので、最も近い変数の組み合わせの行列Ψmnのデータとその行列Ψmnの上下左右のデータから内挿計算して、任意のモータ動作点の条件に相当する磁束鎖交数Ψmna、Ψmnb、ΨmncとトルクTmnの近似値を得ることができる。
次に、データベースの変換について説明する。図109の表データには、モータの全ての運転条件の近傍における磁束鎖交数とトルクのデータが、離散的に確保できているとして、図109の表から前記電流電圧演算器59Gで求めようとした任意の回転位置θr、トルク指令値TCの条件での各相電流指令値Ica、Icb、Iccと各相電圧指令値Vfa、Vfb、Vfcが、原理的には求められることになる。しかし、モータを運転するときにリアルタイムでそれらのデータを探し出し、計算することは難しい。この問題を解決するため、前記電流電圧演算器59Gが必要とするデータが簡単に得られるようにデータベースを変換しておくと、モータ制御時に簡単な計算で必要な値を求めることができる。
その1例は、図109の表を図110の表に、図107の制御を行う前に、事前に、変換するもである。図110の表の行はトルク指令値TCの条件で、列はロータ回転位置θrの条件である。図110の表の各ますには、該当するトルク指令値TCとロータ回転位置θrにおける各相電流値と各相電圧値を計算するためのデータを格納する。この図110の表であれば、前記電流電圧演算器59Gの入力であるトルク指令値TCと回転位置θrから求める該当するデータPmnを探し出し、その上下左右のデータから内挿計算することにより、各相電流指令値Ica、Icb、Iccと各相電圧指令値Vfa、Vfb、Vfcの近似値を求めることができる。
なお、図110のデータPmnには、種々の形態でデータを作ることができる。各相電流指令値Ica、Icb、Iccの情報は、その回転位置θmでトルクTnが得られる各相電流である。また、各相電圧指令値Vfa、Vfb、Vfcを計算するためには(4)式より回転数ωrの情報が必要である。一つの方法は、(4)式より、磁束鎖交数Ψの回転変化率(dΨ/dθr)の値を格納しておく方法である。その場合、(4)式に従い、前後左右の行列の磁束鎖交数の回転変化率から近似計算し、回転数ωrを乗ずることにより各相の電圧指令値Vfa、Vfb、Vfcを求めることができる。なお、磁束鎖交数Ψは鎖交磁束φと巻回数Nwの積、Ψ=Nw×φなので、鎖交磁束φの回転変化率データ(dφ/dθr)でも良い。
なお、前記(dΨ/dθr)のデータが図107のデータに格納していない場合にも、図110の該当する行列のデータの前後左右の磁束鎖交数データから鎖交磁束の回転変化率を都度計算することも可能である。また、他の方法は、図110の各データ欄のそれぞれに、各回転数における各相電圧指令値を直接値として格納しておき、そのモータ回転数の各相電圧指令値Vfa、Vfb、Vfcを内挿計算して得る方法である。このように、図110のデータ形式だけでなく、種々のデータテーブルの作り方が可能である。
図110の表データが図107のDATAの一例である。この表データを使用して、トルク指令値TC、回転位置θr、回転速度dθr/dt=ωrに応じた各相電流指令値Ica、Icb、Iccと各相電圧指令値Vfa、Vfb、Vfcの近似値を求めることができる。
なお、磁場解析の非線形有限要素法で求めるトルクTxは、(10)式あるいは(15)式と良く合うので、磁束鎖交数Ψから計算しても良い。本発明の方法で電流、電圧を求める場合、モータの軟磁性体が磁気飽和の非線形領域でも誤差は小さく、モータ内に永久磁石が含まれていても永久磁石を意識することなく扱うことができる。これは、扱う物理量が、電圧、電流、磁束、回転数の基本的物理量だけで計算しているために、誤差要素が少ないことによる。
古くから、誘導電動機、変圧器などはインダクタンスLで表現されてきた。実際これらの古くからの機器は1.6T近傍の磁気的に線形な領域で使用されてきた。電流と磁束の比例係数としてのインダクタンスLの値が一定値として扱われても問題が少なかった。しかし、近年の機器はインバータにより可変周波数制御がなされ、小型化、低コスト化要求により、連続定格トルクでは磁気的飽和の近傍の磁気的に非線形な領域で使用することが多くなっている。そして、多くのモータメーカは非線形有限要素法でモータ特性を求め、性能追求することが常識化している。磁気的に非線形な領域を使用するモータの場合、電流と磁束との比例定数であるインダクタンスLの値が大きく変化する領域で使用していて、モータの電圧方程式などで矛盾が生じている。そして、インダクタンスLが条件により変化する値であるとして、つじつまを合わせている。
単純な場合には、モータの巻線の電圧Vと電流Iと巻回数Nwと磁束φとは次式(28)及び(29)の関係である。
V=L×(dI/dt)=Nw×(dφ/dt) (28)
L×I=Nw×φ=Ψ (29)
また、モータはモデル的表現として図108のように表現できる。モータの入力は電圧Vと電流Iで、モータ内部は電圧Vと電流Iと磁束鎖交数Ψと回転速度ωrであり、モータ出力はトルクTと回転速度ωrである。ここで、(29)式の様に電流Iと磁束鎖交数Ψとの係数としてのインダクタンスLがあるが、非線形であれば比例定数としての意味はほとんど無い。
そして、図109に示したようなデータが非線形有限要素法で比較的容易に得られ、図110の表データに変換できるので、本発明の制御方法により、モータ開発からモータ制御までの一貫した開発が可能である。また、磁束鎖交数を用いた本発明の制御方法の妥当性については、電気学会論文誌D、産業応用部門誌、IEEJ Trans. IA,Vol.127,No.2,2007,158ページから166ページに「シンクロナスリラクタンスモータの磁束鎖交数を用いたインダクタンス算定法とモデル化の提案」と題し、発明者らが報告している。従来の同期モータの例ではあるが、磁気飽和領域の非線形な領域においても磁束鎖交数から正確なトルクが算出可能であること、永久磁石をロータ内に内蔵したモータにおいても永久磁石を意識することなく磁束鎖交数を用いて正確なトルクが算出可能であること、磁束鎖交数から各巻線の電圧が算出できること等を示している。
次に、本発明モータを振動、騒音を小さく制御する方法について説明する。図103に示すモータは、図9に示したモータに比較して、ロータJ61のロータ磁極の円周方向幅Hmを75°に大きくしたモータである。ステータ磁極の円周方向幅Htは40°で、スロット開口部の円周方向幅Hsは20°である。今、ロータにCCWのトルクを発生し、CCWへ回転し、図103の(a)、(b)、(c)、(d)の順に回転する時の各電流Ia、Ib、IcとトルクTとステータ側とロータ側との間に作用するラジアル方向吸引力FSRとの関係について説明する。解り易いように、2極のモータモデルで図解している。
図103の(a)のロータ回転位置θr=30°の状態では、A相巻線131、134へA相電流Iaを通電し、同時に、C相巻線135、132へC相電流Icを通電し、破線で示す磁束J62を励磁し、CCWのトルクTaを発生している。この時、ステータ磁極117および11Aとロータとの間にはラジアル方向吸引力FSRが働いている。ステータ磁極11Cおよび119の方向へは、電流IaとIcとの起磁力が相殺しているので、磁束は発生しない。図103に示す各ロータ回転位置θrの各相の電流と発生するトルクを図104に示す。
図103の(b)のロータ回転位置θr=55°まで回転すると、C相電流Ic2を通電し、同時にB相巻線133、136へB相電流Ib2を通電して磁束J62を励磁し、CCWのトルクTaを発生する。この時、磁束J62を励磁する前記電流IaとIcの成分を零とすると、磁束J62が急激に変化し、ラジアル方向吸引力FSRが急激に減少し、ステータとロータに振動を発生させることになる。
この対策として、図103の(b)のロータ回転位置θr=55°では、ステータ磁極117、11Aがほとんどロータの凸部に対向しているので、磁束J62はCCWあるいはCWトルクのトルクを発生しない。磁束J62がトルクを発生しない回転領域は図103の(c)、(d)のロータ回転位置まで続く。このことを利用して、ラジアル方向吸引力FSRが急激に減少しない程度の磁束J62を維持するA相電流Ia1とC相電流Ic1を通電する。結局、各相電流は、次式(30)〜(32)となる。
Ia=Ia1 (30)
Ib=Ib2 (31)
Ic=Ic1+Ic2 (32)
とすることにより、図103の磁束J63と磁束J62の両方を励磁する。この時、磁束J63によるトルクの発生と磁束J62の最低量の維持とを両立させたことになる。なお、この時、ステータ磁極11Cと119の方向への磁束は零である。これは、その方向の励磁電流が、次式(33)となる。
Ia+Ib−Ic=Ia1+Ib2−(Ic1+Ic2) (33)
=0
これは、Ia1とIc1が等しく、Ib2とIc2が等しいとしているので、零となるためである。
図103の(c)のロータ回転位置θr=70°では、図103の(b)の状態と同じ条件であり、ラジアル方向吸引力FSRが急激に減少しない程度に磁束J62を減少させ、その後さらに磁束J62を励磁する前記電流成分Ia1とIc1とを徐々に減少させる。この時、トルクを発生する電流Ic2とIb2の成分は、トルクTcの発生に必要な電流値を通電する。
図103の(d)のロータ回転位置θr=90°では、磁束J62がCWのトルクを発生し始めるので、前記電流成分Ia1とIc1とを零とする。そして、トルクを発生する電流Ic2とIb2の成分は、トルクTcの発生に必要な電流値を通電する。
なお、図103の(d)の状態で、CCWのトルクが所望トルクT3となっていればよいのであるから、前記電流成分Ia1とIc1とが零ではなく多少のCWトルクT4を発生し、一方、CCWトルクを発生する電流Ic2とIb2の成分がCWトルクを補う様にCCWのトルクをT3からへ増加したトルクT5として、T5=T3+T4であっても良い。
また、図103の(b)から(c)、(d)の間の各3相の電流Ia、Ib、Icは、必ずしも(30)、(31)、(32)式の値である必要はなく、基本的な考え方を示すものである。従って、所望トルクT3が得られ、ラジアル方向吸引力が急激に変動しない程度であればよいので、多少異なる値でも良い。
例えば、図103の(b)、(c)のロータ回転位置θrでは、磁束J62をB相電流IbよりC相電流Icを大きくすることにより維持することもできる。すなわち、この方法でもトルク発生とラジアル方向吸引力FSRの急激な変動の抑制を実現できる。そして、この方法の場合、その間でA相電流を零とすることができる。このように、トルク発生とラジアル方向吸引力FSRの急激な変動の抑制とを両立する3相電流の値は、当然制約はあるが、多くの種類の値を取り得る。
また、振動、騒音はモータおよび周辺部品との共振周波数に関わって顕在化し、問題となることが多い。従って、ラジアル方向吸引力の増減は時間の関数として制御する必要があり、横軸をロータ回転位置θrとした各電流波形はモータの回転数によって変化する。
図103の(d)の状態は、図103の(a)の状態からCCWへ60°回転した位置であり、前記動作を繰り返し、連続的に回転させることができる。そして、ラジアル方向吸引力FSRが急激に変動しないように制御し、振動、騒音を低減することができる。なお、この時、トルク発生の観点では不要な電流も通電することになるので、効率と振動、騒音とのバランスでモータの各相電流を選択することになる。
なお、図103、図104では、このモータが発生する図104の(G)に示すトルクTmに大きなトルクリップルが発生しているが、図66に示すスキューなどによりトルクリップルを低減することも可能である。
次に、図105に示すモータは、図1に示したモータのロータ磁極の円周方向幅を電気角で30°から45°に大きくしたモータ例である。図103、図104で説明したように、軸方向吸引力FSRの急激な変化を低減する駆動法を図105、図106に示し、説明する。本発明モータの振動、騒音を小さく制御する方法である。今、ロータにCCWのトルクを発生し、CCWへ回転し、図105の(a)、(b)、(c)、(d)の順に回転する時の各電流Ia、Ib、IcとトルクTとステータ側とロータ側との間に作用するラジアル方向吸引力FSRとの関係について説明する。解り易いように、2極のモータモデルで図解している。
図105の(a)のロータ回転位置θr=30°の状態では、A相巻線A0D、A0GへA相電流Iaを通電し、同時に、C相巻線A0H、A0EへC相電流Icを通電し、破線で示す磁束K12を励磁し、CCWのトルクTaを発生している。この時、ステータ磁極A01およびA04とロータとの間にはラジアル方向吸引力FSRが働いている。ステータ磁極A06およびA03の方向へは、電流IaとIcとの起磁力が相殺しているので、磁束は発生しない。図105に示す各ロータ回転位置θrの各相の電流と発生するトルクを図106に示す。
図105の(b)のロータ回転位置θr=45°まで回転すると、A相電流Ia3を通電し、同時にB相巻線A0F、A0JへB相電流Ib3を通電して磁束K13を励磁し、CCWのトルクTbを発生する。この時、磁束K13を励磁する前記電流IaとIcの成分を零とすると、磁束K13が急激に変化し、ラジアル方向吸引力FSRが急激に減少し、ステータとロータに振動を発生させることになる。
この対策として、図105の(b)のロータ回転位置θr=45°では、ステータ磁極A01、A04がほとんどロータの凸部に対向しているので、磁束K12はCCWあるいはCWトルクのトルクを発生しない。磁束K12がトルクを発生しない回転領域は図105の(c)のロータ回転位置θr=60°まで続く。このことを利用して、ラジアル方向吸引力FSRが急激に減少しない程度の磁束K12を維持するA相電流Ia4とC相電流Ic4を通電する。結局、各相電流は、次式となる。
Ia=Ia3+Ia4
Ib=Ib3
Ic=Ic4
とすることにより、図105の磁束K12と磁束K13の両方を励磁する。この時、磁束K13によるトルクの発生と磁束K12の最低量の維持とを両立させたことになる。なお、この時、ステータ磁極A02とA05の方向への磁束は零である。これは、その方向の励磁電流が、次式となる。
Ia−Ib−Ic=Ia3+Ia4−Ib3−Ic4
=0
これは、Ia3とIb3が等しく、Ia4とIc4が等しいとしているので、零となるためである。
図105の(c)のロータ回転位置θr=60°では、前記A相電流Ia4とC相電流Ic4を零にし、磁束K12を零とする。図105の(b)の状態からCCWへ15°回転するまでの間に、前記A相電流Ia4とC相電流Ic4を緩やかに減少させる。この時、トルクを発生する電流Ia3とIb3の電流成分は、トルクTbの発生に必要な電流値を通電する。
図105の(d)のロータ回転位置θr=75°では、C相電流IcとB相電流Ibを通電し、磁束K11を励磁し、トルクTcが発生する。一方磁束K13がCCWのトルクを発生できない位置であり、磁束K13の励磁電流成分であるIa3とIb3をラジアル方向吸引力FSRが急激に減少しない程度に減少させ、その後、緩やかにさらに減少させ、ロータ回転位置θr=90°までに零とする。
図105での以下の回転では、同様に各相の電流Ia、Ib、Icを制御は、同様の動作で連続的な回転を行うことができる。なお、各相電流の大きさについては、トルク電流成分は負荷トルクの大きさに応じて決められ、ラジアル方向吸引力FSRを発生する電流成分についてはトータルのラジアル方向吸引力FSRが急激に変化しないように、また、周辺部品と共振しないように決める必要がある。また、図105、図106で示した駆動法は1例であり、種々の変形が可能である。
次に、トルクを発生するロータ磁極を交互に選択して連続的なトルクを得るモータの駆動方法について説明する。モータは、例えば、図1に示したモータであり、図4および図6に示したロータ回転位置θrと電流とトルクの関係である。このような関係の制御を実現する方法は、図107の制御装置で実現することができる。電流電圧演算器59Gが制御対象のモータの電流と電圧の、図6に示すような制御アルゴリズムを記憶し、各電流の大きさ、各電圧の大きさは、トルク指令値TCとロータ回転位置θrとロータ速度ωrと入力し、モータの各相電流指令値Ica、Icb、Iccと各相電圧指令値Vfa、Vfb、Vfcを計算する。図1のモータの電流制御アルゴリズムは、駆動トルクを発生するロータ磁極がロータの回転と共に替わり、交互にトルクを発生するところが特徴的である。すなわち、ロータの回転と共に、ロータ磁極とステータ磁極が接近する組み合わせを全ステータ磁極の中から選択し、選択したステータ磁極の円周方向の前後の巻線へそれぞれ固有の電流方向の電流を通電する。それぞれのロータ磁極に生成するトルクはロータ回転角に対して間欠的ではあるが、ロータ全体としては複数のロータ磁極で生成するトルクはほぼ連続的なトルクとすることができる。
次に、低速回転ではロータ磁極を交互に選択して連続的なトルクを得るモータの駆動方法で回転し、ロータ回転数が上昇するに従い特定のロータ磁極での発生トルクを増加させ、他方のロータ磁極でのトルク発生を低減する方法について説明する。図54に示すモータでは、ロータ磁極の円周方向磁極幅が広い主突極磁極161と円周方向磁極幅が狭い補助突極磁極162とでロータを構成している。そして、このモータが連続的にトルクを発生するためには、主突極磁極161と補助突極磁極162とが交互のトルクを発生する必要がある。CCWのトルクを発生する各相電流Ia、Ib、IcとトルクTa、Tb、Tcの関係を図57に示した。低速回転では、このように、ロータ磁極の回転と共に、ロータ磁極が接近し、対向するステータ磁極を全ステータ磁極の中から選択し、選択したステータ磁極の円周方向の前後の巻線へそれぞれ固有の電流方向の電流を通電し、それぞれのロータ磁極に生成するトルクは間欠的ではあるが、ロータ全体としてはほぼ継続的な回転トルクを生成する。高速回転では主として、ロータ磁極の回転と共に、円周方向に隣接するステータ磁極を、励磁する磁束の方向を順次逆転しながら、順次励磁してロータ磁極をほぼ継続的に吸引し、ほぼ継続的に回転トルクを発生して駆動することができる。高速回転で使用するロータ磁極は主突極磁極161である。この高速回転での駆動は、図9のモータを図11に示す電流とトルクのように制御するものである。図112において、ロータ回転位置θrが0°から210°にかけては主突極磁極161と補助突極磁極162と交互に使用したトルク発生を示し、210°以降は主突極磁極161だけでトルクを発生する時の電流とトルクの例を示している。
各相の電流は、低速回転から高速回転にかけては、図57に示すような制御から徐々に図12の制御へ移行することができる。あるいは、ある回転数までは図57に示すような制御を行い、その回転数以上では図12の制御へ切り替えても良い。高速回転では、発生トルクが間欠的であっても、トルクを発生する時間的な間隔が小さいので、トルク零の間は惰性で回転し、実用的な問題は少ない。図113には、主突極磁極161の駆動比率と補助突極磁極162の駆動比率の例を横軸を回転数にして示す。主突極磁極161の駆動比率は回転数0、N1、N2、N3と共に、R0、R1、R2、R3と増加し、補助突極磁極162の駆動比率はR4、R5、R6、R7と減少し、両トルクを合計した平均トルクが同程度となるように重み付けをしている。
図57に示す制御は、連続的なトルクを発生することは可能であるが、ステータ磁極とロータ磁極との吸引力の変動が大きく、また異なる部分で交互にラジアル方向力を発生するので、比較的剛性の低いステータコアの振動を引き起こしやすい。この点で、図12の場合のステータ磁極とロータ磁極との吸引力は、交流同期電動機の様なラジアル吸引力となるので、比較的ラジアル吸引力変動が小さく、振動、騒音を低減できるので、高速回転での運転に好適である。また、図57の制御では、ラジアル方向の電流の増減が多いので、鉄損の増大、制御装置のスイッチング損失、無効電力などが多くなる等の問題もある。
次に、図107、図108、図109、図110などに示した鎖交磁束φあるいは磁束鎖交数Ψしたモータ制御法について説明する。図107の制御装置で説明したように、また、(2)式で示すように、各巻線の電圧は主に鎖交磁束φの時間変化率(dφ/dt)に比例する。そして、(4)式に示すように、巻線の電圧は鎖交磁束φの回転変化率(dφ/dθ)と回転速度ωrの積に比例する。一方、各巻線の各電流条件における鎖交磁束φは、モータを非線形有限要素法を使用して磁場解析することにより正確に求めることができる。この解析データを使用して、各巻線の鎖交磁束の回転変化率(dφ/dθ)を計算することができる。この結果、回転位置検出器を使用してモータの回転速度ωrを得、巻線の鎖交磁束の回転変化率(dφ/dθ)と巻線の巻回数Nwを乗じることにより、(4)式を使用してその巻線の電圧を正確に求めることができる。ただし、この計算は、各巻線の電流が一定の場合であり、電流値が変化する場合は電流の変化に伴う電圧成分も計算する必要がある。
各巻線の鎖交磁束φ、磁束鎖交数Ψは、ロータ回転位置θrと各相電流Ia、Ib、Icの関数である。従って関数を示すため、φ(θr、Ia、Ib、Ic)、Ψ(θr、Ia、Ib、Ic)と表記することができる。今、モータを制御しているとき、Δtの短時間の間にロータ回転位置と各相電流が(θ1、A1、B1、C1)から(θ2、A2、B2、C2)へ変化する場合には、その巻線の電圧Vxは次式(34)のように書ける。
Vx=Nw×dφ/dt
≒Nw×{φ(θ2、A2、B2、C2)
−φ(θ1、A1、B1、C1)}/Δt (34)
ここで、θ2はθ1に(Δt×ωr)を加えればよい。各電流値は時間Δt後の目標とする電流値であり、図110に示すデータテーブルから内挿計算して求めることができる。
この時、電流目標値は任意の値を選択できるわけではなく、(28)式に示すように電流の変化率の最大値はその巻線に印加できる電圧の最大値で制限される。現在の電流値(A1、B1、C1)から変化できる最大値の限界があるので、電流値(A2、B2、C2)はその範囲に限定される。
前記(34)式で示される電圧Vxは大別して次の3つの電圧成分がある。一番目の電圧成分VX1は、各電流が一定であって、回転に伴って鎖交磁束φが変化する成分で、(1)式から(15)式で示された値である。
二番目の電圧成分VX2は、各巻線の電流値が(A1、B1、C1)から電流値(A2、B2、C2)へ変化するときの鎖交磁束の変化に基づく電圧成分である。この電圧成分は、(28)式で表され、インダクタンスLは電流値が(A1、B1、C1)の動作点におけるインクレメンタルなインダクタンスLincで求める必要がある。
三番目の電圧成分VX3は、図1の回転位置θrの場合は、ステータ磁極A02とステータ磁極A05との間の磁束φtの時間変化率に基づく電圧成分である。図1の状態でCCWへトルクを発生する時、太線で示す磁束を誘起してCCWのトルクを発生するが、A相電流IaとC相電流Icの誤差などにより、ステータ磁極A02とステータ磁極A05との間の磁束φtが発生する場合に、前記三番目の電圧VX3が発生する。
まとめると、各巻線の電圧は、各ロータ回転位置においてモータの制御で使用する電流状態における鎖交磁束が解れば、前記(34)式により各巻線の電圧を計算することができる。なお、前記二番目の電圧成分VX2の電圧成分については、その時点での電流動作点におけるインクレメンタルなインダクタンスが解っていれば(28)式で前記二番目の電圧成分VX2の電圧成分を計算することができる。
また、モータの各動作モード、すなわち、各トルク指令値TCとロータ回転位置θrとロータ回転速度ωrにおける各巻線の電流値と電圧値を、各相の電流情報IJと各相の電圧情報VJとしてメモリに記憶しておいて、これらの離散的なデータからモータの動作状態の電流値、電圧値を内挿計算して使用し、モータを駆動することも可能である。これは、各巻線の電流情報と磁束鎖交数情報とトルク情報等の関係が各巻線の電圧方程式として表されるので、これらの関係はモータのトルク、ロータ回転位置などの駆動条件と各相巻線の電流情報IJと各相巻線の電圧情報VJとして置き換えてメモリに記憶させておくことも可能であることを意味している。
なお、鎖交磁束と電圧との関係を用いて説明したが、(29)式の関係から鎖交磁束ではなく非線形なインダクタンスLの値を使用して鎖交磁束φあるいは磁束鎖交数Ψを表現することも可能であり、等価である。ただし、このインダクタンスLは各相の電流値と共に変化する値であり、取り扱いが複雑となることが多い。
次に、図107に示す制御装置に、トルクのフィードバック制御を付加した制御装置を図111に示す。図107の制御装置の場合、モータの電流値と電圧値を正確に与えて高速かつ高精度にモータを制御しようとするものである。しかし、制御装置の電源電圧が変動した場合、あるいは、モータのパラメータ等の情報に誤差があるいは温度等によって変動する場合などでは、モータの制御誤差が大きくなる問題がある。
図111に示す制御装置では、トルク検出装置J3Cが各3相の電流検出値Isa、Isb、Iscとロータ回転位置θrを入力し、モータの各巻線の鎖交磁束などを格納した情報DATAを活用してモータトルクの推定値Tsを検出する。トルク指令値TCからトルク推定値Tsを加算器J3Eで減算してフィードバックし、補償器J3Bで比例および積分などの補償演算等を行い、トルク誤差の補正値Tcmを電流電圧演算器J3Dへ出力する。電流電圧演算器J3Dでは、トルク誤差の補正値Tcmを3相の電流指令Ica、Icb、Iccあるいは3相の電圧指令Vfa、Vfb、Vfcあるいは両方へ換算して加える。このようにして、電源電圧変動あるいはモータパラメータ誤差などでモータトルクに誤差が発生する場合に、そのトルク誤差をフィードバックできる構成とすることにより、モータの制御装置の制御精度を改善することができ、より高精度で高応答な制御を実現することができる。
なお、本発明モータの電流制御方法について種々の方法を示したが、特定区間ではオーバラップする2個のステータ磁極のトルクの両方を得るために、2つの電流成分を加算した電流を通電することもできる。また、振動、騒音を低減するために基本的なトルクを発生するための電流に他の成分の電流を重畳させることもできる。図9、図10等のモータにおいて、オフセット的な電流を各3相電流に重畳して、ラジアル方向の吸引力の変化が小さくなるように制御することもできる。電流の増減時間を短縮するために有利な電流制御法もある。これらの種々目的の電流制御法ように、本発明で示す電流制御法を変形した電流制御法があり、それらの電流制御方法についても本発明に含むものである。
次に、ロータ回転位置θrの検出を位置検出器ではなく、モータのインダクタンス、巻線電流および巻線電圧からロータ回転位置θrを検出する方法について示す。いわゆるセンサレス位置検出、センサレス速度検出である。図114は、図54、図55に示したモータと類似形状のモータモデルを非線形有限要素法で磁場解析した特性である。横軸を電気角で表したロータ回転位置θr[°]、縦軸はA相巻線とC相巻線の鎖交磁束[mWb]で示して、A相とC相の電流値Ia=Icをパラメータとしている。極数は14極で、主突極磁極172の電気角で表した円周方向幅Hmは40°、補助突極磁極173の円周方向幅Hhは20°、スロット開口部の円周方向幅Hsは20°、B相電流Ib=0の例である。
図114の特性および図54の2極モデルで説明することとし、ロータ回転位置θrが0°から50°まではA相とC相巻線とで励磁する主突極磁極161の鎖交磁束φがロータの回転と共に増加しCCWのトルクを発生することができ、50°から100°まではA相とC相巻線の鎖交磁束φがロータの回転と共に減少しCWのトルクを発生することができる。そして、ロータ回転位置θrが100°の位置では補助突極磁極162がA相巻線とC相巻線に挟まれたステータ磁極117、11Aの近傍に来るので、100°から140°の間ではA相とC相巻線の鎖交磁束φがロータの回転と共に増加しCCWのトルクを発生し、140°から180°の間ではA相とC相巻線の鎖交磁束φがロータの回転と共に減少しCWのトルクを発生することができる。
この時、電流値IとトルクTの関係は、図5のような関係であり、また、(10)式あるいは(15)式の関係であり、図114では特性の勾配と電流値の積に比例する。図114においてパラメータとしている電流値Ia、Icの値が小さく磁気的に線形な領域では、特性の勾配が電流値と共に増加している。
このモータにおいて、C相巻線115、112へC相電流Icを通電し、同時に、B相巻線113、116へB相電流Ibを通電したときの図114に相当する特性は、図114に比較して電気角で120°位相が遅れた特性となる。また、B相巻線113、116へB相電流Ibを通電し、同時に、A相巻線111、114へA相電流Iaを通電したときの図114に相当する特性は、図114に比較して電気角で240°位相が遅れた特性となる。従って、3相の内の2巻線に同一の電流を通電することにより、図114の特性と120°位相のずれた特性と240°位相のずれた特性の3種類の特性を得ることができる。
また、A相、C相巻線へ通電している時のインダクタンスLa、Lcは、概略的に図114に近い形となり、図115のA−C特性となる。横軸はロータ回転位置θrである。C相、B相巻線へ通電している時のインダクタンスLc、Lbは、概略的に図115のC−B相特性となる。B相、A相巻線へ通電している時のインダクタンスLb、Laは、概略的に図115のB−A特性となる。それぞれが相対的に60°の位相差を持つ特性となる。それぞれの特性の周期は、リラクタンスなので、電気角で180°周期である。
図114の鎖交磁束の特性、図115のインダクタンスの特性は、いずれも、2個の巻線に同じ大きさの電流を通電したときの特性であり、代表特性の一つに過ぎない。この他に、巻線1個だけに通電したときの特性、巻線3個に電流を通電したときの特性など、多くの特性がある。いずれの特性も、巻線の電圧、電流の値からロータ回転位置θrを推測する情報として使用できる。図115において、各インダクタンス値の回転変化率(dL/dθr)、すなわち、図115における各特性の勾配もロータ回転位置θrの特定のために使用することができる。
図115のインダクタンス特性から、ロータ回転位置θrを推測する具体的な一方法は、任意のロータ回転位置θrにおいて、先に示した方法で、3巻線のインダクタンスを計測する。そして、図115のインダクタンス特性と照合すれば、0°から180°のロータ回転位置θrを特定することができる。しかし、ごく特定の回転位置に置いては、2個所の回転位置で同一のインダクタンスとなることがある。その様な特定のロータ回転位置についても検出する必要がある場合は、インダクタンス値の回転変化率(dL/dθr)、あるいは、他の条件でのインダクタンスを位置検出情報として付加することができる。
また、逆に、2個のインダクタンス特性からロータ回転位置θrを推測するなど、種々の簡素化した方法も考えられる。また、例えば、500回転/分から2000回転/分の回転数の間で使用する用途について考えると、ある特定回転位置で、ロータ回転位置θrが検出できなくとも、ロータ回転位置θrを過去の履歴から推定することができるので、モータの回転数制御および電流、電圧制御にはほとんど問題にはならない。
図54に示す本発明モータに限らず、種々の本発明モータは、それぞれに特有な磁気特性を示すので、それぞれの方法で、ロータ回転位置をモータ巻線の電圧、電流を計測し、求めることができる。図9に示すモータの場合は、図114、図115に相当する特性がさらに単純化している。本発明モータは、主に軟磁性体で構成され、突極形状を成していて、モータそのものが磁気抵抗変化型のレゾルバー位置検出器に類似した特性となっているので、従来のレゾルバー位置検出器に使用されてきた種々位置検出技術を応用し、使用できる。
また、インダクタンスの具体的な計測方法は、いわゆる外乱注入方式と言われる方法で、モータの制御電流、電圧に加え、計測のためのパルス状の電圧あるいは電流を加え、その時の電流、電圧の値から図115の関係を求め、ロータ回転位置θrを検出することができる。あるいは、ロータ回転位置θrの検出のために、モータ電流の制御周波数とは異なる周波数fxの電流あるいは電圧をモータを駆動する電流、電圧に重畳して加え、モータ巻線から周波数fxの信号を選択的に検出することにより図115のような特性を検出してロータ回転位置θrを検出することができる。あるいは、モータトルクを発生するための電圧、電流の値を利用してロータ回転位置θrを計測することもできる。
ロータの回転速度ωrを推測する方法は、前記の方法で得た回転位置の時間変化率(dωr/dt)から計算することができる。他の方法として、図114に示したように、2個の電流が一定であるときに、ある巻線電流値で鎖交磁束が一定の勾配で変化する区間の回転変化率(dφ/dθr)が一定ksとなっているので、この区間での巻線電圧Vsを利用してロータ回転速度ωrを検出することができる。すなわち、巻線の電流がある電流値Isである時の鎖交磁束回転変化率(dφ/dθr)の値ksはモータ固有であり、既知なので、次式(35)及び(36)のようにロータ回転速度ωrを検出することができる。
Vs=Nw×(dφ/dt)
=Nw×(dφ/dθr)×(dθr/dt) (35)
∴ ωr=dθr/dt
=Vs/Nw/(dφ/dθr)
=Vs/(Nw×ks) (36)
また、図9、図10に示すモータにおいて、ロータの回転位置、回転速度を検出する具体的な一方法は、3相巻線の全てに、ある程度の磁束密度となる一定の電流を通電してロータを回転し、その時の各相巻線の電圧を計測することにより検出する方法である。この時、それぞれの巻線にほぼ矩形の電圧が発生するので、その電圧の大きさと極性が切り替わるタイミングを計測することにより、ロータの速度と位置を計測することができる。電圧の大きさは、磁束密度と回転速度に比例するので、回転速度の検出に利用できる。電圧の切り替わり点は、ステータ磁極の円周方向両端へロータ磁極の円周方向両端が対向する位置なので、その電圧極性の切り替わりの時点で、ロータがどの位置にあるかが推測できる。
これらの関係を利用して、モータの駆動電流と位置検出用の電流が重畳した状態で、前記の信号成分を検出することにより、モータの運転中にロータ回転位置、ロータ回転速度を検出することができる。また、3相巻線の内の1線に電流を通電するときのロータ回転位置と電圧特性、2線へ電流を通電するときのロータ回転位置と電圧特性も、それぞれ固有の特性を持っているので利用することができる。
このように、モータの巻線の電圧、電流から求めたロータの回転位置θrおよび速度情報を用いて、図107、図111に示すような制御装置で本発明モータのトルク制御、あるいは、速度制御、あるいは、位置制御などを行うことができる。位置検出器を使用しないので、位置検出センサー、位置検出器用の配線、コネクターなどが不要であり、システムの信頼性を高めることができる。低コスト化も可能であり、小型化できることも多い。
以上、本発明に関する種々形態の例について説明したが、本発明を種々変形することも可能であり、本発明に含むものである。例えば、モータの極数についての制約はなく、ロータの種々構造、種々形状のロータについて適用可能である。各種のトルクリップル低減技術を本発明モータへ適用することもできる。例えば、ステータ磁極、ロータ磁極の形状を周方向に滑らかにする方法、径方向に滑らかにする方法、円周方向に一部のロータ磁極を移動させて配置し、トルクリップル成分をキャンセルする方法などがある。
モータの形態についても種々形態が可能であり、ステータとロータとの間のエアギャップ形状で表現して、エアギャップ形状が円筒形であるインナーロータ型モータ、アウターロータ型モータ、あるいはエアギャップ形状が円盤状であるアキシャルギャップ型モータ等にも変形できる。また、リニアモータにも変形できる。また、エアギャップ形状が円筒形状をややテーパ状に変形したモータ形状も可能である。また、本発明のモータを含む複数のモータを複合して製作することが可能である。また、本発明モータの一部を省略して削除した構造も可能である。
軟磁性体としては通常の珪素鋼板を使用する他に、アモルファス電磁鋼板、粉状の粉末軟鉄を圧縮成形した圧紛磁心等の使用が可能である。特に小型のモータにおいては、電磁鋼板を打ち抜き加工、折り曲げ加工、鍛造加工を行なうことにより3次元形状部品を形成し、前述の本発明モータの一部の形状を成すこともできる。
本発明のモータは、特にロータが堅牢であり、高速回転を使用した高出力化も可能である。この高速化に関しては、モータの風損が問題となることがあり、ロータ外周形状を円形に近づける、あるいは、ステータ側の内周を円形形状にするなどの風損低減策が有効である。また、ステータ、ロータのロータ軸方向スペースの排除等も効果的である。騒音低減の効果もある。
本発明の制御装置についても、主に3相の片方向電流を制御する装置について説明したが、4相以上の他相のモータの場合は4相以上の制御装置も、技術的に拡張することにより実現することができる。電力制御素子については従来のパワートランジスタの場合について示したが、サイリスタなどの電力素子、あるいは、SiC、GaN等の新たな技術を適用した電力素子を使用することもできる。モータに通電する電流波形については、各相の電流が特定の形状である例について説明したが、正弦波電流で制御など、各種波形の電流で制御することも可能である。これらの種々変形したモータのついても、本発明モータの主旨の変形技術は本発明に含むものである。