以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、本実施形態の電動パワーステアリング装置(EPS)1において、ステアリング2が固定されたステアリングシャフト3は、ラックアンドピニオン機構4を介してラック軸5と連結されている。そして、ステアリング操作に伴うステアリングシャフト3の回転は、ラックアンドピニオン機構4によりラック軸5の往復直線運動に変換される。尚、本実施形態のステアリングシャフト3は、コラムシャフト3a、インターミディエイトシャフト3b、及びピニオンシャフト3cを連結してなる。そして、このステアリングシャフト3の回転に伴うラック軸5の往復直線運動が、同ラック軸5の両端に連結されたタイロッド6を介して図示しないナックルに伝達されることにより、転舵輪7の舵角、即ち車両の進行方向が変更される。
また、EPS1は、操舵系にステアリング操作を補助するためのアシスト力を付与する操舵力補助装置としてのEPSアクチュエータ10と、該EPSアクチュエータ10の作動を制御する制御手段としてのECU11とを備えている。
本実施形態のEPSアクチュエータ10は、駆動源であるモータ12が減速機構13を介してコラムシャフト3aと駆動連結された所謂コラム型のEPSアクチュエータとして構成されている。尚、本実施形態では、モータ12には、三相(U,V,W)の駆動電力に基づき回転するブラシレスモータが採用されている。そして、EPSアクチュエータ10は、このモータ12の回転を減速してコラムシャフト3aに伝達することにより、そのモータトルクに基づくアシスト力を操舵系に付与する構成となっている。
一方、ECU11には、トルクセンサ14が接続されており、ECU11は、同トルクセンサ14の出力信号に基づいて、ステアリングシャフト3を伝達する操舵トルクτを検出する。また、本実施形態のECU11には、車輪速センサ15により検出される左右の車輪速Wr,Wl及び同車輪速Wr,Wlに基づき検出される車速Vが入力される。そして、本実施形態のECU11は、これらの各状態量に基づいて、操舵系に付与すべき目標アシスト力を演算し、これに相当するモータトルクを発生させるべく駆動電力を供給することにより、そのモータ12を駆動源とするEPSアクチュエータ10の作動、即ち操舵系に付与するアシスト力を制御する構成となっている(パワーアシスト制御)。
次に、本実施形態のEPSの電気的構成について説明する。
図2は、本実施形態のEPSの制御ブロック図である。同図に示すように、ECU11は、モータ制御信号を出力するモータ制御信号出力手段としてのマイコン17と、同マイコン17の出力するモータ制御信号に基づいてモータ12に三相の駆動電力を供給する駆動回路18とを備えている。
尚、以下に示す各制御ブロックは、マイコン17が実行するコンピュータプログラムにより実現されるものである。そして、同マイコン17は、所定のサンプリング周期で上記各状態量を検出し、所定周期毎に以下の各制御ブロックに示される各演算処理を実行することにより、モータ制御信号を生成する。
詳述すると、本実施形態の駆動回路18には、直列に接続された一対のスイッチング素子を基本単位(スイッチングアーム)として、各相モータコイル12u,12v,12wに対応する3つのスイッチングアームを並列に接続してなる周知のPWMインバータが採用されている。即ち、マイコン17の出力するモータ制御信号は、この駆動回路を構成する各相スイッチング素子のオン/オフ状態(各相スイッチングアームのDuty)を規定するものとなっている。そして、駆動回路18は、このモータ制御信号の入力により作動して、その印加される電源電圧V_pigに基づく三相の駆動電力をモータに供給する構成となっている。
さらに詳述すると、ECU11には、モータ12の各相電流値Iu,Iv,Iwを検出するための電流センサ21が設けられている。尚、本実施形態の電流センサ21は、上記駆動回路18を構成する各スイッチングアームの低電位側(接地側)に、それぞれ、シャント抵抗を接続してなる周知の構成を有している。そして、本実施形態のマイコン17は、この電流センサ21の出力信号(シャント抵抗の端子間電圧)に基づいて、各相モータコイル12u,12v,12wに流れる相電流値Iu,Iv,Iwを検出する。
また、本実施形態のマイコン17は、モータレゾルバ23の出力信号に基づいて、モータ12の回転角(電気角)θmを検出する。尚、本実施形態では、モータレゾルバ23には、そのセンサ信号として、モータの実回転角(電気角)に応じて振幅が変化する二相の正弦波状信号(正弦信号S_sin及び余弦信号S_cos)を出力する巻線型のレゾルバが採用されている。そして、本実施形態のマイコン17は、これらモータ12の各相電流値Iu,Iv,Iw及び回転角θmに基づいて、電流フィードバック制御を実行することにより、その駆動回路18に出力するモータ制御信号を生成する。
さらに詳述すると、本実施形態では、マイコン17のモータ制御部24には、回転座標系における電流制御の実行によりモータ12の各相に印加すべき相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*(Vu**,Vv**,Vw**)を演算する第1制御部25及び第2制御部26、並びに、その相電圧指令値をモータ制御信号に変換するPWM変換部27が設けられている。そして、本実施形態のマイコン17は、このモータ制御部24において生成されたモータ制御信号を駆動回路18に出力する構成となっている。
図3に示すように、第1制御部25は、上記のようにECU11が取得する操舵トルクτ及び車速Vに基づいて目標アシスト力に対応した電流指令値を演算する電流指令値演算部31を備えている。また、第1制御部25は、d/q変換部32を備えており、同d/q変換部32は、各相電流値Iu,Iv,Iwを、モータレゾルバ23により検出される上記回転角θm、即ちモータ12の実回転角に従う回転座標系(d/q座標系)の直交座標上に写像することにより、d軸電流値Id及びq軸電流値Iqを演算する。そして、第1制御部25は、そのd/q座標系において電流フィードバック制御を実行することにより、モータ12の各相に印加すべき電圧を示す相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*を演算する構成となっている。
即ち、上記電流指令値演算部31は、電流指令値としてq軸電流指令値Iq*を演算する。具体的には、同電流指令値演算部31は、入力される操舵トルクτが大きいほど、また車速Vが小さいほど、より大きなアシスト力を発生させるようなq軸電流指令値Iq*を演算する。尚、d軸電流指令値Id*は「0」に固定される(Id*=0)。そして、これらd軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*は、d/q変換部32の出力するd軸電流値Id及びq軸電流値Iqとともに、その対応する減算器33d,33qに入力される。
次に、これら各減算器33d,33qが演算する各軸の電流偏差ΔId,ΔIqは、それぞれ、対応するF/B制御部(フィードバック制御部)34d,34qに入力される。そして、各F/B制御部34d,34qは、その入力される電流偏差ΔId,ΔIq及び所定のフィードバックゲイン(比例:P、積分:I)に基づくフィードバック制御演算を実行することにより、d/q座標系の電圧指令値であるd軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を演算する。
具体的には、各F/B制御部34d,34qは、それぞれ、その入力される電流偏差ΔId,ΔIqに比例ゲインを乗ずることにより得られる比例成分、及び当該電流偏差ΔId,ΔIqの積分値に積分ゲインを乗ずることにより得られる積分成分を演算する。そして、これらの比例成分及び積分成分を加算することにより、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を生成する。
次に、これらのd軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*は、d/q逆変換部35において、三相(U,V,W)の交流座標上に写像される。そして、第1制御部25は、このd/q逆変換部35が実行する逆変換により得られる相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*を、上記PWM変換部27に出力する構成となっている。
一方、図4に示すように、第2制御部26は、演算周期毎のモータ回転角変化量に相当する加算角θa(θa´)を演算する加算角演算部41と、その加算角θa(θa´)を演算周期毎に積算することにより制御上の仮想的なモータ回転角としての制御角θcを演算する制御角演算部42とを備えている。そして、第2制御部26は、その制御角θcに従う回転座標系(γ/δ座標系)において電流フィードバック制御を実行することにより、相電圧指令値Vu**,Vv**,Vw**を演算する構成となっている。
詳述すると、本実施形態の加算角演算部41には、上記のようにECU11が取得する操舵トルクτ及び車速Vが入力される。また、本実施形態のマイコン17は、上記車輪速センサ15により検出される左右の車輪速Wr,Wlに基づいて、ステアリング2に生じた操舵角θsを推定する操舵角推定演算部43を備えており(図2参照)、加算角演算部41には、この推定された操舵角θsが入力される。尚、本実施形態の操舵角推定演算部43は、以下に示す周知の演算式に左右の車輪速Wr,Wlを代入することにより得られる転舵輪の舵角(転舵角θt)を換算することにより、操舵角θsを推定する。
θt=(2×WB×(Wl−Wr))/(RW×(Wl+Wr))×(180/π)
・・・(1)
尚、上記(1)式中、「WB」は車両のホイールベース長、「RW」は車両のトレッド長である。
更に、加算角演算部41は、ステアリング2に生じた操舵角θs及び車速Vに基づいて、操舵トルクτの目標値に対応した目標トルクτ*を演算する目標トルク演算部45を備えており、この目標トルク演算部45において演算された目標トルクτ*は、操舵トルクτとともに減算器46に入力される。そして、本実施形態の加算角演算部41は、その操舵トルクτから目標トルクτ*を減算することにより得られるトルク偏差Δτに基づいて上記加算角θaを演算する。
即ち、モータトルクに基づくアシスト力を操舵系に付与するEPSにおいて、目標トルクτ*は、モータ12が発生すべきモータトルクに対応するパラメータであり、操舵トルクτは、モータ12の実トルクに対応するパラメータである。そして、本実施形態の加算角演算部41は、そのトルク偏差Δτに基づくトルクフィードバック制御を実行することにより、モータ12が発生すべき目標トルクと実トルクとの間のトルク偏差に対応した加算角θaを演算する。
具体的には、減算器46において演算されたトルク偏差Δτは、F/B制御部47に入力される。そして、F/B制御部47は、そのトルク偏差Δτに比例ゲインを乗ずることにより得られる比例成分、及び当該トルク偏差Δτの積分値に積分ゲインを乗ずることにより得られる積分成分の加算値を、各演算周期におけるモータ回転角の第1変化成分dθτとして演算する。
また、本実施形態では、第2制御部26には、モータ回転角速度を推定するモータ回転角速度推定手段としての回転角速度推定演算部50が設けられており、上記加算角演算部41には、この回転角速度推定演算部50の推定するモータ回転角速度ωm_eが、各演算周期におけるモータ回転角の第2変化成分dθωとして入力される。そして、本実施形態の加算角演算部41は、上記トルク偏差Δτに基づく第1変化成分dθτとともに、このモータ回転角速度ωm_eに基づく第2変化成分dθωを用いることにより、上記加算角θaを演算する。
詳述すると、第2制御部26には、上記PWM変換部27がモータ制御信号を生成する際に用いる相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*(Vu**,Vv**,Vw**)に対応した内部指令値、即ちDutyが入力される。また、本実施形態のECU11には、駆動回路18に印加される電源電圧V_pigを検出する電圧検出手段としての電圧センサ51が設けられている(図2参照)。そして、第2制御部26には、その検出される電源電圧V_pig及び上記Dutyに基づいて、モータ12の各相電圧値Vu,Vv,Vwを演算する相電圧演算部52が備えられている。
更に、この各相電圧値Vu,Vv,Vw、及び上記電流センサ21により検出されたモータ12の各相電流値Iu,Iv,Iwは、α/γ変換部53において、それぞれ、二相固定座標系(α/β座標系)のα軸電圧値Vα及びβ軸電圧値Vβ並びにα軸電流値Iα及びβ軸電流値Iβに変換される。そして、本実施形態の回転角速度推定演算部50は、これらα軸電圧値Vα及びβ軸電圧値Vβ並びにα軸電流値Iα及びβ軸電流値Iβに示されるモータ電圧及びモータ電流に基づいて、モータ回転角速度ωm_eを推定する。
さらに詳述すると、本実施形態の回転角速度推定演算部50は、モータモデルに基づいて、そのモータ12に生ずる誘起電圧を外乱として推定する外乱オブザーバ54を備えている。
即ち、図5に示すように、ブロック線図において、モータ12は、モータ電圧(Vα,Vβ)及び誘起電圧(Eα,Eβ)に基づいてモータ電流(Iα,Iβ)を生じせしめるモータモデルM1に表される。従って、そのモータ電流(Iα,Iβ)を入力とする逆モータモデルM2、及び当該逆モータモデルM2の出力及びモータ電圧(Vα,Vβ)を入力とする差分器55によって、上記のような誘起電圧推定値(Eα_e,Eβ_e)を出力する外乱オブザーバ54を形成することができる。尚、例えば、モータモデルM1を「1/(R+pL)」とすると、逆モータモデルM2は「R+pL」となる(但し、R:電機子巻線抵抗、L:インダクタンス、p:微分演算子)。そして、本実施形態の回転角速度推定演算部50は、この外乱オブザーバ54が出力する誘起電圧推定値(Eα_e,Eβ_e)に基づいて、モータ回転角速度ωm_eを推定する。
即ち、α/β座標系の誘起電圧(Eα,Eβ)は、それぞれ、次の(2)(3)式に表される。尚、各式中、「Ke」は誘起電圧定数、「ωm」はモータ回転角速度である。
Eα=−Ke×ωm×sinθ ・・・(2)
Eβ=Ke×ωm×cosθ ・・・(3)
更に、これら(2)(3)式を角度「θ」について解くことにより、次の(4)式を得る。尚、同式中、「arctan」は「アークタンジェント」である。
θ=arctan(−Eα/Eβ) ・・・(4)
従って、外乱オブザーバ54が出力する誘起電圧推定値(Eα_e,Eβ_e)からモータ回転角(θm_e)を推定することができる。そして、本実施形態の回転角速度推定演算部50は、そのモータ回転角の推定値(θm_e)を微分することにより、モータ回転角速度(の推定値)ωm_eを演算する。
具体的には、図6のフローチャートに示すように、回転角速度推定演算部50は、上記外乱オブザーバ54によりモータ12の誘起電圧を推定すると(Eα_e,Eβ_e、ステップ101)、先ず、その誘起電圧推定値(Eα_e,Eβ_e)にフィルタ処理を施す(LPF:ローパスフィルタ、ステップ102)。次に、回転角速度推定演算部50は、上記(4)式を用いることにより、その誘起電圧推定値(Eα_e,Eβ_e)から、モータ回転角(θm_e)を推定し(回転角推定、ステップ103)、そのモータ回転角(θm_e)を微分することによりモータ回転角速度(の推定値)ωm_eを演算する(回転角度推定、ステップ104)。そして、そのモータ回転角速度ωm_eを、各演算周期におけるモータ回転角の第2変化成分dθωとして、上記加算角演算部41に出力する(ステップ105)。
図4に示すように、本実施形態の加算角演算部41において、上記F/B制御部47の演算するトルク偏差Δτに基づくモータ回転角の第1変化成分dθτ、及び上記回転角速度推定演算部50の演算するモータ回転角速度ωm_eに基づくモータ回転角の第2変化成分dθωは、ともに加算角調整演算部58に入力される。また、本実施形態では、上記回転角速度推定演算部50は、その外乱オブザーバ54が出力する誘起電圧推定値(Eα_e,Eβ_e)の二乗和を演算し(Esq_αβ=(Eα_e)^2+(Eβ_e)^2、但し「^2」は二乗を示す)、その誘起電圧二乗和Esq_αβを加算角調整演算部58に出力する。そして、本実施形態の加算角演算部41は、この誘起電圧二乗和Esq_αβの値に応じて、その上記トルク偏差Δτに基づく第1変化成分dθτ及びモータ回転角速度ωm_eに基づく第2変化成分dθωを用いた加算角θaの演算形態を変更する。
詳述すると、本実施形態の加算角調整演算部58は、その入力される誘起電圧二乗和Esq_αβを所定の閾値(E0)と比較する。そして、当該誘起電圧二乗和Esq_αβが閾値(E0)を超える場合には、上記トルク偏差Δτに基づく第1変化成分dθτ及びモータ回転角速度ωm_eに基づく第2変化成分dθωの加算値を加算角θaとし、閾値(E0)以下である場合には、そのトルク偏差Δτに基づく第1変化成分dθτを加算角θaとする構成になっている。
即ち、一演算周期を基本単位とするモータ回転角速度ωm_eは、その一演算周期あたりのモータ回転角変化量と等価的な意味を有する。そして、上記のような外乱オブザーバ54を用いたモータ電流及びモータ電圧に基づく誘起電圧の推定は、当該誘起電圧が増大する高速回転領域において、より高い精度が確保される。
この点を踏まえ、本実施形態では、上記誘起電圧二乗和Esq_αβと閾値(E0)との比較により、モータ12の回転状態が、その推定されるモータ回転角速度ωm_eをモータ回転角の第2変化成分dθωとして利用可能な推定精度が担保される高速回転領域にあるか否かを判定する。そして、その要求される推定精度が担保される高速回転領域にある場合にのみ、上記モータ回転角速度ωm_eに基づく第2変化成分dθωを用いる構成となっている。
具体的には、図7のフローチャートに示すように、加算角調整演算部58は、先ず、上記トルク偏差Δτに基づく第1変化成分dθτ、及び上記モータ回転角速度ωm_eに基づく第2変化成分dθω、並びに上記誘起電圧二乗和Esq_αβを取得する(ステップ201〜ステップ203)。
次に、加算角調整演算部58は、誘起電圧二乗和Esq_αβが閾値E0を超えるか否かを判定し(ステップ204)、閾値E0を超える場合(ステップ204:YES)には、続いて、既に当該誘起電圧二乗和Esq_αβが閾値E0を超える状態にあったことを示す超過フラグがセットされているか否かを判定する(ステップ205)。そして、当該超過フラグがセットされていない場合(ステップ205:NO)には、当該超過フラグをセットし(ステップ206)、上記ステップ201において取得した第1変化成分dθτの値をクリアする(dθτ=0、ステップ207)。
また、上記ステップ205において、既に超過フラグがセットされている場合(ステップ205:YES)には、上記ステップ206及びステップ207の処理は実行されない。そして、このように上記ステップ204において誘起電圧二乗和Esq_αβが閾値E0を超えると判定された場合(ステップ204:YES)には、その超過フラグの如何にかかわらず、そのトルク偏差Δτに基づく第1変化成分dθτ及びモータ回転角速度ωm_eに基づく第2変化成分dθωを加算することにより加算角θaを演算する(ステップ208)。
一方、上記ステップ204において、誘起電圧二乗和Esq_αβが閾値E0以下であると判定した場合(ステップ204:NO)もまた、加算角調整演算部58は、超過フラグがセットされているか否かを判定し(ステップ209)、セットされている場合(ステップ209:YES)には、当該超過フラグをリセットする(ステップ210)。尚、超過フラグがセットされていない場合(ステップ209:NO)には、このステップ210の処理は実行されない。そして、その上記ステップ201において取得した第1変化成分dθτを加算角θaとして演算する(ステップ211)。
そして、本実施形態の加算角調整演算部58は、このように上記ステップ208又はステップ211において演算した加算角θaを外部に出力する構成となっている(ステップ212)。
即ち、上記トルク偏差Δτに基づく第1変化成分dθτは、モータ12の実回転角と制御上の仮想的なモータ回転角との乖離の大きさに応じた値となる。従って、上記モータ回転角速度ωm_eに基づく第2変化成分dθωよりも、その値がモータ回転状態に左右されにくい。この点を踏まえ、本実施形態では、上記のように、モータ回転状態が低速領域にある場合には、当該第1変化成分dθτを加算角θaとする。尚、モータ回転角速度ωm_eに基づく第2変化成分dθωを用いて加算角θaを演算する最初の演算周期(ステップ204:YES、及びステップ205:NO)において、第1変化成分dθτをクリアするのは(ステップ207)、当該第1変化成分dθτが、第2変化成分dθωを用いなかった前回演算周期の状態を反映するものだからである。そして、本実施形態では、これにより、そのモータ回転状態に依らず、高精度な加算角演算が可能となっている。
図4に示すように、加算角演算部41において、上記加算角調整演算部58の出力する加算角θaは、加算角制限部59に入力される。そして、本実施形態の加算角演算部41は、この加算角制限部59において加算角制限処理(後述)が施された後の加算角θa´を、制御角演算部42へと出力する。
一方、制御角演算部42は、前回の演算周期において演算した制御角θcの前回値を記憶領域(図示略)に保持するとともに、当該前回値に上記加算角θaを加算することにより新たな制御角θcを演算する。そして、その当該新たな制御角θcにて、上記記憶領域に保持する前回値を更新することにより、その演算周期毎に、加算角θaの積算による制御角θcの演算を実行する構成となっている。
第2制御部26において、このようにして演算された制御上の仮想的なモータ回転角としての制御角θcは、上記α/γ変換部53が出力する二相固定座標系(α/β座標系)のα軸電流値Iα及びβ軸電流値Iβとともに、γ/δ変換部60に入力される。そして、γ/δ変換部60は、当該α軸電流値Iα及びβ軸電流値Iβを、その制御角θcに従う回転座標系、即ちγ/δ座標系の直交座標上に写像することにより、当該γ/δ座標系の実電流値として、γ軸電流値Iγ及びδ軸電流値Iδを演算する。
また、第2制御部26は、そのγ/δ座標系の電流指令値として、γ軸電流指令値Iγ*及びδ軸電流指令値Iδ*を演算する電流指令値演算部61を備えている。
詳述すると、本実施形態の電流指令値演算部61には、上記加算角演算部41において演算されたトルク偏差Δτ及び目標トルクτ*が入力されるようになっている。そして、電流指令値演算部61は、これらトルク偏差Δτ及び目標トルクτ*に基づいて、γ軸電流指令値Iγ*及びδ軸電流指令値Iδ*を演算する。
図8に示すように、本実施形態の電流指令値演算部61は、トルク偏差Δτに基づいて、各演算周期におけるγ軸電流指令値Iγ*の増減値(γ軸電流増減値η)を演算するγ軸電流増減値演算部62と、そのγ軸電流増減値ηを演算周期毎に積算する積算制御部63とを備えている。そして、電流指令値演算部61は、その積算制御部63の制御出力をγ軸電流指令値Iγ*とし、δ軸電流指令値Iδ*としては「0」を出力する構成となっている。
さらに詳述すると、本実施形態のγ軸電流増減値演算部62には、トルク偏差Δτとγ軸電流増減値ηが関連付けられた二つのマップ(62a,62b)が設けられている。本実施形態では、第1マップ62aは、目標トルクτ*の符号(方向)が正である場合(τ*>0)に対応して形成されている。そして、同第1マップ62aにおいて、γ軸電流増減値ηは、そのトルク偏差Δτの増加に伴って線形増加するように設定されている。一方、第2マップ62bは、目標トルクτ*の符号が負である場合(τ*<0)に対応して形成されている。そして、同第2マップ62bにおいて、γ軸電流増減値ηは、そのトルク偏差Δτの増加に伴って線形減少するように設定されている。
尚、本実施形態では、第1マップ62a及び第2マップ62bには、ともにトルク偏差Δτがゼロとなる点を中心とした所定範囲(-A<Δτ<A)に、当該トルク偏差Δτの値にかかわらずγ軸電流増減値ηが「0」となるような不感帯が設定されている。そして、本実施形態のγ軸電流増減値演算部62は、目標トルクτ*の符号に応じて参照するマップを切り替えつつ、その入力されるトルク偏差Δτに基づいて、各演算周期におけるγ軸電流増減値ηを演算する。
一方、積算制御部63は、前回の演算周期における制御出力、即ちγ軸電流指令値Iγ*の前回値を記憶領域(図示略)に保持するとともに、当該前回値に上記γ軸電流増減値ηを加算することにより新たなγ軸電流指令値Iγ*を演算する。そして、その新たなγ軸電流指令値Iγ*にて、上記記憶領域に保持する前回値を更新することにより、その演算周期毎に、γ軸電流指令値Iγ*の積算によるγ軸電流指令値Iγ*の演算を実行する構成となっている。
図4に示すように、このようにして電流指令値演算部61が演算するγ軸電流指令値Iγ*は、上記γ軸電流値Iγとともに、その対応する減算器64aに入力される。同様に、δ軸電流指令値Iδ*もまた、δ軸電流値Iδとともに、その対応する減算器64bに入力される。そして、これら各減算器64a,64bにおいて演算される電流偏差ΔIγ,ΔIδは、それぞれ、その対応する各F/B制御部65a,65bに入力される。
次に、各F/B制御部65a,65bは、その電流偏差ΔIγ,ΔIδ及び所定のフィードバックゲイン(比例:P、積分:I)に基づくフィードバック制御演算を実行することにより、γ/δ座標系の電圧指令値であるγ軸電圧指令値Vγ*及びδ軸電圧指令値Vδ*を演算する。尚、これら各F/B制御部65a,65bの実行するフィードバック制御演算の態様については、上記第1制御部25側の各F/B制御部34d,34qと同様であるため、その詳細な説明は省略する。
更に、これらのγ軸電圧指令値Vγ*及びδ軸電圧指令値Vδ*は、2相/3相変換部66において、三相(U,V,W)の交流座標上に写像される。そして、第2制御部26は、この2相/3相変換部66において生成された相電圧指令値Vu**,Vv**,Vw**を、上記PWM変換部27に出力する構成となっている。尚、このように、第2制御部26が実行するレゾルバレス制御の原理についての詳細は、例えば、上記特許文献1及び特許文献2等の記載を参照されたい。
また、図2に示すように、本実施形態のマイコン17は、上記モータレゾルバ23により検出される上記回転角θmの異常を検出する回転角異常検出部68を備えている。具体的には、本実施形態の回転角異常検出部68は、そのモータレゾルバ23が出力する正弦信号S_sin及び余弦信号S_cosの二乗和が適正範囲内にあるか否かを判定する。そして、その判定結果に基づいて、モータ12の実回転角として回転角θmの異常を検出する。尚、このような回転角異常検出の詳細については、例えば、特開2006−177750号公報等の記載を参照されたい。
更に、本実施形態では、この回転角異常検出部68による異常検出の結果は、回転角異常検出信号S_rsfとして上記モータ制御部24に入力されるようになっている。そして、本実施形態のモータ制御部24は、回転角θmに異常のない場合には、上記第1制御部25が演算する相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に基づいてモータ制御信号を出力し、回転角θmに異常が生じた場合には、上記第2制御部26が演算する相電圧指令値Vu**,Vv**,Vw**に基づいて、そのモータ制御信号の出力を実行する。
即ち、上記のように、第2制御部26は、モータ12の実回転角であるモータレゾルバ23により検出される回転角θmを用いることなく、制御上の仮想的なモータ回転角である制御角θcを用いて、その相電圧指令値Vu**,Vv**,Vw**を演算する。そして、本実施形態では、その第2制御部26が演算する相電圧指令値Vu**,Vv**,Vw**に基づいてモータ制御信号を生成することにより、回転角θmに異常が検出された後においても、安定的に、そのモータ制御を継続することが可能となっている。
(加算角制限処理)
次に、本実施形態における加算角制限処理の態様について説明する。
上述のように、演算周期毎に加算角θaを演算し、該加算角θaを積算することにより得られる制御上の仮想的なモータ回転角、即ち制御角θcに従う回転座標系において電流フィードバック制御を実行するレゾルバレス制御では、モータ回転状態がモータ電流に反映される限りにおいて、実際の回転角θmと制御角θcとの乖離を制御可能な範囲に留めることが可能になる。従って、そのモータ回転状態が反映されにくいモータ電流が極小化する制御領域を回避することが、制御角θcやモータ回転角速度ωm_eの検出精度を担保し、ひいてはモータ制御の安定性を確保するために重要な課題となる。
そこで、本実施形態の加算角演算部41は、上記のように、加算角調整演算部58の出力する加算角θaを、加算角制限部59において所定の上限値(θlim)以下に制限する(図2参照)。そして、その制限処理後の加算角θa´を、制御角演算部42に出力することにより、上記モータ電流が極小化する制御領域への突入を回避する構成になっている。
即ち、モータ回転角速度の最大値は、その誘起電圧に抗してモータ電流を流すために印加可能なモータ電圧、つまり駆動回路18に印加される電源電圧V_pigにより決定される。そして、演算周期毎のモータ回転角変化量として演算される加算角θaは、その一演算周期を基本単位としたモータ回転角速度と等価的な意味を有する。従って、加算角θaにも同様に理論上の最大値があり、当該最大値よりも小さな値に上限値を設定して同加算角θaを制限することにより、その最大値近傍に存在する「モータ電流が極小化する制御領域」への突入を回避することができる。
ところが、車両においては、そのモータ12の駆動電力を出力する駆動回路18に印加される電源電圧V_pigが変化する可能性がある。そして、その電源電圧V_pigの低下によって、上記のような加算角制限処理が有効に機能しなくなるおそれがある。
即ち、図9に示すように、電源電圧V_pigが適正値(V_pig=V0)にあるとすれば、その電圧V0の印加時に発生し得るモータ回転角速度の最大値に対応する値ω0よりも低い値B0を上限値θlimに設定することにより(θlim=B0)、その加算角制限処理を有効に機能させることができる。
しかしながら、電源電圧V_pigが上記の適正値(電圧V0)よりも低い値(V_pig=V1)に低下した場合には、そのモータ回転角速度の最大値自体が低下することで、当該最大値に対応する値ω1が、上記電源電圧V_pigが適正値にある場合(V_pig=V0)に設定した上限値θlim(=B0)よりも低くなる可能性がある。そして、これにより、そのモータ電流(γ軸電流値Iγ)が微小となる、或いは当該モータ電流が理論的にゼロとなる制御領域、即ちモータ回転角速度の最大値に対応する値ω1を超えた加算角θa´の出力が許容されることで、その要求される制御角θcの検出精度及びモータ制御の安定性を維持することができなくなるおそれがある。
この点を踏まえ、本実施形態の加算角制限部59には、上記電圧センサ51の検出する電源電圧V_pigが入力されるようになっている(図4参照)。そして、同加算角制限部59は、この入力される電源電圧V_pigに基づいて、その加算角制限処理の上限値θlimを変更する。
詳述すると、図10に示すように、本実施形態の加算角制限部59は、検出される電源電圧V_pigが、その適正値として設定された電圧V0よりも低下した場合には、当該電源電圧V_pigの低下に応じて、上記加算角制限処理の上限値θlimを低減する。具体的には、電源電圧V_pigが適正値である電圧V0以上の領域においては、上限値θlimを「B0」で固定し、その電源電圧V_pigが同電圧V0よりも低い領域においては、その電源電圧V_pigの低下幅に応じて、上記上限値θlimを線形的に低減させる。そして、例えば、図9に示すように、電源電圧V_pigが電圧V1に低下した場合(V_pig=V1)には、その電圧V1に基づき発生し得るモータ回転角速度の最大値に対応する値ω1よりも低い値B1が上限値θlimとして選択されるようにすることで、電源電圧V_pigの変動に依らず、その加算角制限処理を有効に機能させることが可能な構成となっている。
以上、本実施形態によれば、以下のような作用・効果を得ることができる。
(1)加算角演算部41は、加算角θaを上限値θlim以下に制限する加算角制限部59を備える。そして、加算角演算部41は、検出される電源電圧V_pigに応じて、その加算角制限処理の上限値θlimを変更する。
即ち、モータ回転角速度の最大値は、その誘起電圧に抗してモータ電流を流すために印加可能なモータ電圧、つまり駆動回路18に印加される電源電圧V_pigにより決定される。そして、演算周期毎のモータ回転角変化量として演算される加算角θaは、その一演算周期を基本単位としたモータ回転角速度と等価的な意味を有する。従って、加算角θaにも同様に理論上の最大値があり、当該最大値よりも小さな値に上限値θlimを設定して同加算角θaを制限することにより、その最大値近傍に存在する「モータ電流が極小化する制御領域」への突入を回避することができる。ここで、電源電圧V_pigが変化する環境下においては、その電源電圧V_pigの低下に伴いモータ回転角速度の最大値が上限値θlimよりも低くなることで、上記のような加算角制限処理が有効に機能しなくなるおそれがある。しかしながら、上記構成のように、その検出される電源電圧V_pigに応じて上限値θlimを変更することにより、電源電圧V_pigの変動に依らず、その加算角制限処理を有効に機能させることができる。その結果、制御上のモータ回転角として用いる制御角θcの検出精度及びモータ制御の安定性を好適に維持することができる。
(2)第2制御部26は、モータ電流(Iα,Iβ)に基づきモータ回転角速度(ωm_e)を推定する回転角速度推定演算部50を有し、加算角演算部41には、この回転角速度推定演算部50の推定するモータ回転角速度ωm_eが、各演算周期におけるモータ回転角の第2変化成分dθωとして入力される。そして、加算角演算部41は、そのモータ回転角速度ωm_eに基づく第2変化成分dθωに基づいて上記加算角θaを演算する。
即ち、モータ電流が極小化する制御領域を回避することで、当該モータ電流に基づくモータ回転角速度ωm_eの検出精度が向上する。従って、このような構成に、上記(1)の構成を適用することで、その制御角θcの検出精度及びモータ制御の安定性を好適に維持するという点において、より顕著な効果を得ることができる。
(3)加算角演算部41は、モータ12が発生すべきモータトルクに対応するパラメータとして演算する目標トルクτ*とモータ12の実トルクに対応するパラメータとして検出する操舵トルクτとのトルク偏差Δτに基づいて各演算周期におけるモータ回転角の第1変化成分dθτを演算する。そして、そのトルク偏差Δτに基づく第1変化成分dθτに基づいて上記加算角θaを演算する。
即ち、モータ12が発生する実トルクは、モータ電流に依存する。従って、このような構成に上記(1)の構成を適用し、モータ電流が極小化する制御領域を回避することで、その制御角θcの検出精度及びモータ制御の安定性を好適に維持するという点において、より顕著な効果を得ることができる。
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記実施形態では、本発明をEPSアクチュエータ10の駆動源であるモータ12の作動を制御するモータ制御装置としてのECU11に具体化した。しかし、これに限らず、EPS以外の用途に適用してもよい。
・また、EPSに適用する場合であっても、上記各実施形態のような所謂コラム型に限らず、例えば所謂ピニオン型やラックアシスト型等のEPSに適用してもよい。
・上記実施形態では、電源電圧V_pigが同電圧V0よりも低い領域において、その電源電圧V_pigの低下幅に応じて上記上限値θlimを線形的に低減させることとした。しかし、これに限らず、例えば、ステップ状に上限値θlimを引き下げる等、電源電圧V_pigに応じた上限値θlimの変更は、段階的に行うこととしてもよい。
・上記実施形態では、誘起電圧二乗和Esq_αβを所定の閾値E0と比較する。そして、当該誘起電圧二乗和Esq_αβが閾値E0を超える場合には、上記トルク偏差Δτに基づく第1変化成分dθτ及びモータ回転角速度ωm_eに基づく第2変化成分dθωの加算値を加算角θaとし、閾値E0以下である場合には、そのトルク偏差Δτに基づく第1変化成分dθτを加算角θaとすることとした。しかし、これに限らず、常にトルク偏差Δτに基づく第1変化成分dθτを加算角θaとする構成、或いは、モータ回転角速度ωm_eに基づく第2変化成分dθωの加算値を加算角θaとする構成としてもよい。そして、常にトルク偏差Δτに基づく第1変化成分dθτ及びモータ回転角速度ωm_eに基づく第2変化成分dθωの加算値を加算角θaとする構成に具体化してもよい。
・上記実施形態では、左右の車輪速Wr,Wlに基づき操舵角θsを推定することとしたが、ステアリングセンサ等の回転角センサを用いて実際の操舵角θsを検出する構成であってもよい。尚、本実施形態のように、左右の車輪速Wr,Wlに基づき操舵角θsを推定する構成において、前輪車輪速及び後輪車輪速を独立に検出可能である場合には、その前輪車輪速に基づく推定値と後輪車輪速に基づく推定値との平均値を操舵角θsとするとよい。
次に、以上の実施形態から把握することのできる技術的思想を効果とともに記載する。
(イ)前記モータ制御信号出力手段は、高速回転領域においては、前記モータ回転角速度に基づく変化成分と前記トルク偏差に基づく変化成分とを加算することにより、前記加算角を演算すること、を特徴とするモータ制御装置。これにより、より精度よく加算角を演算することができる。そして、このような構成に請求項1の発明を適用することで、より顕著な効果を得ることができる。