以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、本実施形態の電動パワーステアリング装置(EPS)1において、ステアリング2が固定されたステアリングシャフト3は、ラックアンドピニオン機構4を介してラック軸5と連結されている。そして、ステアリング操作に伴うステアリングシャフト3の回転は、ラックアンドピニオン機構4によりラック軸5の往復直線運動に変換される。尚、本実施形態のステアリングシャフト3は、コラムシャフト3a、インターミディエイトシャフト3b、及びピニオンシャフト3cを連結してなる。そして、このステアリングシャフト3の回転に伴うラック軸5の往復直線運動が、同ラック軸5の両端に連結されたタイロッド6を介して図示しないナックルに伝達されることにより、転舵輪7の舵角、即ち車両の進行方向が変更される。
また、EPS1は、操舵系にステアリング操作を補助するためのアシスト力を付与する操舵力補助装置としてのEPSアクチュエータ10と、該EPSアクチュエータ10の作動を制御する制御手段としてのECU11とを備えている。
本実施形態のEPSアクチュエータ10は、駆動源であるモータ12が減速機構13を介してコラムシャフト3aと駆動連結された所謂コラム型のEPSアクチュエータとして構成されている。尚、本実施形態では、モータ12には、三相(U,V,W)の駆動電力に基づき回転するブラシレスモータが採用されている。そして、EPSアクチュエータ10は、このモータ12の回転を減速してコラムシャフト3aに伝達することにより、そのモータトルクに基づくアシスト力を操舵系に付与する構成となっている。
一方、ECU11には、トルクセンサ14が接続されており、同ECU11は、そのトルクセンサ14の出力信号に基づいて、ステアリングシャフト3に伝達される操舵トルクτを検出する。また、本実施形態のECU11には、車速センサ15により検出される車速V及びステアリングセンサ(操舵角センサ)16により検出される操舵角θsが入力される。そして、ECU11は、これらの各状態量に基づいて、操舵系に付与すべき目標アシスト力を演算し、これに相当するモータトルクを発生させるべく駆動電力を供給することにより、そのモータ12を駆動源とするEPSアクチュエータ10の作動、即ち操舵系に付与するアシスト力を制御する(パワーアシスト制御)。
次に、本実施形態のEPSの電気的構成について説明する。
図2は、本実施形態のEPSの制御ブロック図である。同図に示すように、ECU11は、モータ制御信号を出力するモータ制御信号出力手段としてのマイコン17と、同マイコン17の出力するモータ制御信号に基づいてモータ12に三相の駆動電力を供給する駆動回路18とを備えている。
尚、以下に示す各制御ブロックは、マイコン17が実行するコンピュータプログラムにより実現されるものである。そして、同マイコン17は、所定のサンプリング周期で上記各状態量を検出し、所定周期毎に以下の各制御ブロックに示される各演算処理を実行することにより、モータ制御信号を生成する。
詳述すると、本実施形態の駆動回路18には、直列に接続された一対のスイッチング素子を基本単位(スイッチングアーム)として、各相モータコイル12u,12v,12wに対応する3つのスイッチングアームを並列に接続してなる周知のPWMインバータが採用されている。即ち、マイコン17の出力するモータ制御信号は、この駆動回路を構成する各相スイッチング素子のオン/オフ状態(各相スイッチングアームのDuty)を規定するものとなっている。そして、駆動回路18は、このモータ制御信号の入力により作動して、その印加される電源電圧V_pigに基づく三相の駆動電力をモータに供給する構成となっている。
さらに詳述すると、ECU11には、モータ12の各相電流値Iu,Iv,Iwを検出するための電流センサ21が設けられている。尚、本実施形態の電流センサ21は、上記駆動回路18を構成する各スイッチングアームの低電位側(接地側)に、それぞれ、シャント抵抗を接続してなる周知の構成を有している。そして、本実施形態のマイコン17は、この電流センサ21の出力信号(シャント抵抗の端子間電圧)に基づいて、各相モータコイル12u,12v,12wに流れる相電流値Iu,Iv,Iwを検出する。
また、本実施形態のマイコン17は、モータレゾルバ23の出力信号に基づいて、モータ12の回転角(電気角)θmを検出する。尚、本実施形態では、モータレゾルバ23には、そのセンサ信号として、モータ12の実回転角(電気角)に応じて振幅が変化する二相の正弦波状信号(正弦信号S_sin及び余弦信号S_cos)を出力する巻線型のレゾルバが採用されている。そして、本実施形態のマイコン17は、これらモータ12の各相電流値Iu,Iv,Iw及び回転角θmに基づいて、電流フィードバック制御を実行することにより、その駆動回路18に出力するモータ制御信号を生成する。
さらに詳述すると、本実施形態では、マイコン17のモータ制御部24には、回転座標系における電流制御の実行によりモータ12の各相に印加すべき相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*(Vu**,Vv**,Vw**)を演算する第1制御部25及び第2制御部26、並びに、その相電圧指令値をモータ制御信号に変換するPWM変換部27が設けられている。そして、本実施形態のマイコン17は、このモータ制御部24において生成されたモータ制御信号を駆動回路18に出力する構成となっている。
図3に示すように、第1制御部25は、上記のように検出される操舵トルクτ及び車速Vに基づいて目標アシスト力に対応した電流指令値を演算する電流指令値演算部31を備えている。また、第1制御部25は、d/q変換部32を備えており、同d/q変換部32は、モータレゾルバ23により検出される上記回転角θmに基づいて、各相電流値Iu,Iv,Iwをd/q座標上に写像することにより、d軸電流値Id及びq軸電流値Iqを演算する。そして、第1制御部25は、このモータ12の実回転角(θm)に従う回転座標系(d/q座標系)において電流フィードバック制御を実行することにより、モータ12の各相に印加すべき電圧を示す相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*を演算する構成となっている。
即ち、上記電流指令値演算部31は、電流指令値としてq軸電流指令値Iq*を演算する。具体的には、同電流指令値演算部31は、入力される操舵トルクτが大きいほど、また車速Vが小さいほど、より大きなアシスト力を発生させるようなq軸電流指令値Iq*を演算する。尚、d軸電流指令値Id*は「0」に固定される(Id*=0)。そして、これらd軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*は、d/q変換部32の出力するd軸電流値Id及びq軸電流値Iqとともに、その対応する減算器33d,33qに入力される。
次に、これら各減算器33d,33qが演算する各軸の電流偏差ΔId,ΔIqは、それぞれ、対応するF/B制御部(フィードバック制御部)34d,34qに入力される。そして、各F/B制御部34d,34qは、その入力される電流偏差ΔId,ΔIq及び所定のフィードバックゲイン(比例:P、積分:I)に基づくフィードバック制御演算を実行することにより、d/q座標系の電圧指令値であるd軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を演算する。
具体的には、各F/B制御部34d,34qは、それぞれ、その入力される電流偏差ΔId,ΔIqに比例ゲインを乗ずることにより得られる比例成分、及び当該電流偏差ΔId,ΔIqの積分値に積分ゲインを乗ずることにより得られる積分成分を演算する。そして、これらの比例成分及び積分成分を加算することにより、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を生成する。
次に、これらのd軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*は、d/q逆変換部35において、三相(U,V,W)の交流座標上に写像される。そして、第1制御部25は、このd/q逆変換部35が実行する逆変換により得られる相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*を、上記PWM変換部27に出力する構成となっている。
一方、図4に示すように、第2制御部26は、演算周期毎のモータ回転角変化量に相当する加算角θaを演算する加算角演算部41と、その加算角θaを演算周期毎に積算することにより制御上の仮想的なモータ回転角としての制御角θcを演算する制御角演算部42とを備えている。そして、第2制御部26は、その制御角θcに従う回転座標系(γ/δ座標系)において電流フィードバック制御を実行することにより、相電圧指令値Vu**,Vv**,Vw**を演算する構成となっている。
詳述すると、本実施形態の加算角演算部41には、上記のように検出される操舵トルクτ、車速V、操舵角θsが入力されるようになっている。また、加算角演算部41は、目標操舵トルク演算部45を備えており、同目標操舵トルク演算部45は、ステアリング2に生じた操舵角θs及び車速Vに基づいて、操舵トルクτの目標値に対応した目標操舵トルクτ*を演算する。また、加算角演算部41は、トルクセンサ14により検出される実際の操舵トルクτから目標操舵トルクτ*を減算する減算器46を備えている。即ち、モータトルクに基づくアシスト力を操舵系に付与するEPSにおいて、目標操舵トルクτ*は、モータ12が発生すべきモータトルク(目標トルク)に対応するパラメータであり、操舵トルクτは、モータ12の実トルクに対応するパラメータである。つまり、これら目標操舵トルクτ*と実際の操舵トルクτとの間の差分(トルク偏差Δτ)は、目標トルクに対する実トルクの過不足を示す状態量となっている。そして、本実施形態の加算角演算部41は、その目標操舵トルクτ*に実際の操舵トルクτを追従させるべく、トルクフィードバック制御を実行することにより加算角θaを演算する。
具体的には、減算器46において演算されたトルク偏差Δτ(Δτ´)は、F/B制御部47に入力される。そして、F/B制御部47は、そのトルク偏差Δτ(Δτ´)に比例ゲインを乗ずることにより得られる比例成分、及び当該トルク偏差Δτ(Δτ´)の積分値に積分ゲインを乗ずることにより得られる積分成分の加算値を、各演算周期におけるモータ回転角の第1変化成分dθτとして演算する。
また、本実施形態では、第2制御部26には、モータ回転角速度を推定するモータ回転角速度推定手段としての回転角速度推定演算部50が設けられており、上記加算角演算部41には、この回転角速度推定演算部50の推定するモータ回転角速度ωm_eが、各演算周期におけるモータ回転角の第2変化成分dθωとして入力される。そして、本実施形態の加算角演算部41は、上記トルク偏差Δτに基づく第1変化成分dθτとともに、このモータ回転角速度ωm_eに基づく第2変化成分dθωを用いて、上記加算角θaを演算する。
詳述すると、第2制御部26には、上記PWM変換部27がモータ制御信号を生成する際に用いる相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*(Vu**,Vv**,Vw**)に対応した内部指令値、即ちDutyが入力される。また、本実施形態のECU11は、電圧センサ51によって、その駆動回路18に印加される電源電圧V_pigを検出する(図2参照)。そして、第2制御部26には、その検出される電源電圧V_pig及び上記Dutyに基づいて、モータ12の各相電圧値Vu,Vv,Vwを演算する相電圧演算部52が設けられている。
また、これらの各相電圧値Vu,Vv,Vw、及び上記電流センサ21により検出されたモータ12の各相電流値Iu,Iv,Iwは、α/β変換部53において、それぞれ、二相固定座標系(α/β座標系)のα軸電圧値Vα及びβ軸電圧値Vβ並びにα軸電流値Iα及びβ軸電流値Iβに変換される。そして、本実施形態の回転角速度推定演算部50は、これらα軸電圧値Vα及びβ軸電圧値Vβ並びにα軸電流値Iα及びβ軸電流値Iβに示されるモータ電圧及びモータ電流に基づいて、モータ回転角速度ωm_eを推定する。
さらに詳述すると、本実施形態の回転角速度推定演算部50は、モータモデルに基づいて、そのモータ12に生ずる誘起電圧を外乱として推定する外乱オブザーバ54を備えている。
即ち、図5に示すブロック線図において、モータ12は、モータ電圧(Vα,Vβ)及び誘起電圧(Eα,Eβ)に基づいてモータ電流(Iα,Iβ)を生じせしめるモータモデルM1に表される。従って、そのモータ電流(Iα,Iβ)を入力とする逆モータモデルM2、及び当該逆モータモデルM2の出力及びモータ電圧(Vα,Vβ)を入力とする差分器55によって、上記のような誘起電圧推定値(Eα_e,Eβ_e)を出力する外乱オブザーバ54を形成することができる。尚、例えば、モータモデルM1を「1/(R+pL)」とすると、逆モータモデルM2は「R+pL」となる(但し、R:電機子巻線抵抗、L:インダクタンス、p:微分演算子)。そして、本実施形態の回転角速度推定演算部50は、この外乱オブザーバ54が出力する誘起電圧推定値(Eα_e,Eβ_e)に基づいて、モータ回転角速度ωm_eを推定する。
即ち、α/β座標系の誘起電圧(Eα,Eβ)は、それぞれ、次の(1)(2)式に表される。尚、各式中、「Ke」は誘起電圧定数、「ωm」はモータ回転角速度である。
Eα=−Ke×ωm×sinθ ・・・(1)
Eβ=Ke×ωm×cosθ ・・・(2)
更に、これら(1)(2)式を角度「θ」について解くことにより、次の(3)式を得る。尚、同式中、「arctan」は「アークタンジェント」である。
θ=arctan(−Eα/Eβ) ・・・(3)
従って、外乱オブザーバ54が出力する誘起電圧推定値(Eα_e,Eβ_e)からモータ回転角(θm_e)を推定することができる。そして、本実施形態の回転角速度推定演算部50は、そのモータ回転角の推定値(θm_e)を微分することにより、モータ回転角速度(の推定値)ωm_eを演算する。
具体的には、図6のフローチャートに示すように、回転角速度推定演算部50は、上記外乱オブザーバ54によりモータ12の誘起電圧を推定すると(Eα_e,Eβ_e、ステップ101)、先ず、その誘起電圧推定値(Eα_e,Eβ_e)にフィルタ処理を施す(LPF:ローパスフィルタ、ステップ102)。次に、回転角速度推定演算部50は、上記(4)式を用いることにより、その誘起電圧推定値(Eα_e,Eβ_e)から、モータ回転角(θm_e)を推定する(回転角推定、ステップ103)。そして、そのモータ回転角(θm_e)を微分することによりモータ回転角速度(の推定値)ωm_eを演算する(回転角度推定、ステップ104)。
そして、本実施形態の回転角速度推定演算部50は、そのモータ回転角速度ωm_eを、各演算周期におけるモータ回転角の第2変化成分dθωとして、上記加算角演算部41に出力する構成になっている(ステップ105)。
図4に示すように、本実施形態の加算角演算部41において、上記F/B制御部47の演算するトルク偏差Δτに基づくモータ回転角の第1変化成分dθτ、及び上記回転角速度推定演算部50の演算するモータ回転角速度ωm_eに基づくモータ回転角の第2変化成分dθωは、ともに加算角調整演算部58に入力される。また、本実施形態では、上記回転角速度推定演算部50は、その外乱オブザーバ54が出力する誘起電圧推定値(Eα_e,Eβ_e)の二乗和を演算し(Esq_αβ=(Eα_e)^2+(Eβ_e)^2、但し「^2」は二乗を示す)、その誘起電圧二乗和Esq_αβを加算角調整演算部58に出力する。そして、本実施形態の加算角演算部41は、この誘起電圧二乗和Esq_αβの値に基づいて、その加算角θaの演算形態を変更する。
詳述すると、本実施形態の加算角調整演算部58は、その入力される誘起電圧二乗和Esq_αβを所定の閾値(E0)と比較する。そして、当該誘起電圧二乗和Esq_αβが閾値(E0)を超える場合には、上記トルク偏差Δτに基づく第1変化成分dθτ及びモータ回転角速度ωm_eに基づく第2変化成分dθωの加算値を加算角θaとし、閾値(E0)以下である場合には、そのトルク偏差Δτに基づく第1変化成分dθτを加算角θaとする構成になっている。
即ち、一演算周期を基本単位とするモータ回転角速度ωm_eは、その一演算周期あたりのモータ回転角変化量と等価的な意味を有する。そして、上記のような外乱オブザーバ54を用いたモータ電流及びモータ電圧に基づく誘起電圧の推定は、当該誘起電圧が増大する高速回転領域において、より高い精度が確保される。
この点を踏まえ、本実施形態の加算角調整演算部58は、上記誘起電圧二乗和Esq_αβと閾値(E0)との比較により、モータ12の回転状態が、その推定されるモータ回転角速度ωm_eをモータ回転角の第2変化成分dθωとして利用可能な推定精度が担保される高速回転領域にあるか否かを判定する。そして、その要求される推定精度が担保される高速回転領域にある場合にのみ、上記モータ回転角速度ωm_eに基づく第2変化成分dθωを用いる構成となっている。
具体的には、図7のフローチャートに示すように、加算角調整演算部58は、先ず、上記トルク偏差Δτに基づく第1変化成分dθτ、及び上記モータ回転角速度ωm_eに基づく第2変化成分dθω、並びに上記誘起電圧二乗和Esq_αβを取得する(ステップ201〜ステップ203)。
次に、加算角調整演算部58は、誘起電圧二乗和Esq_αβが閾値E0を超えるか否かを判定し(ステップ204)、閾値E0を超える場合(ステップ204:YES)には、続いて、既に当該誘起電圧二乗和Esq_αβが閾値E0を超える状態にあったことを示す超過フラグがセットされているか否かを判定する(ステップ205)。そして、当該超過フラグがセットされていない場合(ステップ205:NO)には、当該超過フラグをセットし(ステップ206)、上記ステップ201において取得した第1変化成分dθτの値をクリアする(dθτ=0、ステップ207)。
尚、上記ステップ205において、既に超過フラグがセットされている場合(ステップ205:YES)には、上記ステップ206及びステップ207の処理は実行されない。そして、これら上記ステップ204において誘起電圧二乗和Esq_αβが閾値E0を超えると判定された場合(ステップ204:YES)には、その超過フラグの如何にかかわらず、そのトルク偏差Δτに基づく第1変化成分dθτ及びモータ回転角速度ωm_eに基づく第2変化成分dθωを加算することにより加算角θaを演算する(ステップ208)。
一方、上記ステップ204において、誘起電圧二乗和Esq_αβが閾値E0以下であると判定した場合(ステップ204:NO)もまた、加算角調整演算部58は、超過フラグがセットされているか否かを判定する(ステップ209)。そして、当該超過フラグがセットされている場合(ステップ209:YES)には、当該超過フラグをリセットする(ステップ210)。尚、超過フラグがセットされていない場合(ステップ209:NO)には、このステップ210の処理は実行されない。そして、その上記ステップ201において取得した第1変化成分dθτを加算角θaとして演算する(ステップ211)。
そして、本実施形態の加算角調整演算部58は、このように上記ステップ208又はステップ211において演算した加算角θaを外部に出力する構成となっている(ステップ212)。
即ち、上記トルク偏差Δτに基づく第1変化成分dθτは、モータ12の実回転角と制御上の仮想的なモータ回転角との乖離の大きさに応じた値となる。従って、上記モータ回転角速度ωm_eに基づく第2変化成分dθωよりも、その値がモータ回転状態に左右されにくい。この点を踏まえ、本実施形態では、上記のように、モータ回転状態が低速領域にある場合には、当該第1変化成分dθτを加算角θaとする。尚、モータ回転角速度ωm_eに基づく第2変化成分dθωを用いて加算角θaを演算する最初の演算周期(ステップ204:YES、及びステップ205:NO)において、第1変化成分dθτをクリアするのは(ステップ207)、当該第1変化成分dθτが、第2変化成分dθωを用いなかった前回演算周期の状態を反映するものだからである。そして、本実施形態では、これにより、そのモータ回転状態に依らず、高精度な加算角演算が可能となっている。
一方、図4に示すように、制御角演算部42は、前回の演算周期において演算した制御角θcの前回値を記憶領域(図示略)に保持するとともに、当該前回値に上記加算角θaを加算することにより新たな制御角θcを演算する。そして、その当該新たな制御角θcにて、上記記憶領域に保持する前回値を更新することにより、その演算周期毎に、加算角θaの積算による制御角θcの演算を実行する構成となっている。
第2制御部26において、このようにして演算された制御上の仮想的なモータ回転角としての制御角θcは、上記α/β変換部53が出力する二相固定座標系(α/β座標系)のα軸電流値Iα及びβ軸電流値Iβとともに、γ/δ変換部60に入力される。そして、γ/δ変換部60は、当該α軸電流値Iα及びβ軸電流値Iβを、その制御角θcに従う回転座標系、即ちγ/δ座標系の直交座標上に写像することにより、当該γ/δ座標系の実電流値として、γ軸電流値Iγ及びδ軸電流値Iδを演算する。
尚、本実施形態では、制御上の仮想的な回転座標としての上記γ/δ座標系は、制御角θcと実際のモータ回転角(θm)との乖離(負荷角)が「0」である場合に、その「γ軸」が「d軸」に一致する。
また、第2制御部26は、そのγ/δ座標系の電流指令値として、γ軸電流指令値Iγ*及びδ軸電流指令値Iδ*を演算する電流指令値演算部61を備えている。本実施形態では、この電流指令値演算部61には、上記目標操舵トルク演算部45により演算された目標操舵トルクτ*、及び当該目標操舵トルクτ*と実際の操舵トルクτとの間のトルク偏差Δτが入力される。そして、電流指令値演算部61は、これらトルク偏差Δτ及び目標操舵トルクτ*に基づいて、γ軸電流指令値Iγ*(及びδ軸電流指令値Iδ*)を演算する。
詳述すると、図8に示すように、本実施形態の電流指令値演算部61は、目標操舵トルクτ*と実際の操舵トルクτとの間のトルク偏差Δτに基づいて各演算周期におけるγ軸電流指令値Iγ*の増減値(γ軸電流増減値η)を演算するγ軸電流増減値演算部71と、入力されるγ軸電流増減値ηを演算周期毎に積算する積算制御部72とを備えている。
本実施形態のγ軸電流増減値演算部71は、トルク偏差Δτとγ軸電流増減値ηが関連付けられた二つのマップ(71a,71b)を備えている。具体的には、第1マップ71aは、目標操舵トルクτ*の符号(方向)が「正である場合(τ*>0)」に対応して形成される一方、第2マップ71bは、目標操舵トルクτ*の符号が「負である場合(τ*<0)」に対応して形成されている。尚、目標操舵トルクτ*が「0」である場合には、その直前の符号が用いられる。そして、γ軸電流増減値演算部71は、入力される目標操舵トルクτ*の符号に応じて参照するマップを切り替えつつ、そのトルク偏差Δτに基づいて、各演算周期におけるγ軸電流増減値ηを演算する。
即ち、目標操舵トルクτ*が「正の値」である場合にトルク偏差Δτが「正の値」、又は目標操舵トルクτ*の符号が「負の値」である場合にトルク偏差Δτが「負の値」にある状態は、モータ12が発生すべき目標トルクに対して実トルクが「不足」していることを示している。一方、目標操舵トルクτ*が「正の値」である場合にトルク偏差Δτが「負の値」、又は目標操舵トルクτ*の符号が「負の値」である場合にトルク偏差Δτが「正の値」にある状態は、モータ12が発生すべき目標トルクに対して実トルクが「過剰」であることを示している。そして、本実施形態のγ軸電流増減値演算部71は、そのトルク偏差Δτに示されるモータ12が発生すべき目標トルクに対する実トルクの過不足に基づいて、各演算周期におけるγ軸電流増減値ηを演算する。
具体的には、第1マップ71aにおいて、γ軸電流増減値ηは、トルク偏差Δτが「正の値」を有する所定値A1以上、且つ同じく「正の値」を有する所定値A2より小さい場合(A1≦Δτ<A2)には、当該トルク偏差Δτが大きな値となる程、より大きな絶対値を有する「正の値」となるように設定されている。また、トルク偏差Δτが所定値A1より小さく、且つ同じく「正の値」を有する所定値A3以上である場合(A3≦Δτ<A1)には、当該トルク偏差Δτが小さな値となるほど、より大きな絶対値を有する「負の値」となるように設定されている。そして、トルク偏差Δτが所定値A2以上である場合(A2≦Δτ)には、γ軸電流増減値ηが、一定の「正の値(最大増加値γ1)」となり、トルク偏差Δτが所定値A3より小さい場合(Δτ<A3)には、同γ軸電流増減値ηが、一定の「負の値(最大減少値γ2)」となるように設定されている。
一方、第2マップ71bにおいて、γ軸電流増減値ηは、トルク偏差Δτが「負の値」を有する所定値A4以下、且つ同じく「負の値」を有する所定値A5より大きい範囲にある場合(A5<Δτ≦A4)には、当該トルク偏差Δτが小さな値となる程、より大きな絶対値を有する「正の値」となるように設定されている。また、トルク偏差Δτが所定値A4より大きく、且つ同じく「負の値」を有する所定値A6以下である場合(A4<Δτ≦A6)には、当該トルク偏差Δτが大きな値となるほど、より大きな絶対値を有する「負の値」となるように設定されている。そして、トルク偏差Δτが所定値A5以下である場合(Δτ≦A5)には、γ軸電流増減値ηが、一定の「正の値(最大増加値γ1)」となり、トルク偏差Δτが所定値A6より大きい場合(A6<Δτ)には、同γ軸電流増減値ηが、一定の「負の値(最大減少値γ2)」となるように設定されている。
本実施形態のγ軸電流増減値演算部71は、これら二つのマップ(71a,71b)を参照することにより、モータ12が発生すべき目標トルクに対して実トルクが「過剰」である場合(τ*>0においてΔτ<0、又はτ*<0においてΔτ>0)には、γ軸電流指令値Iγ*を低減するような「負の値」を有したγ軸電流増減値ηを演算する。
更に、本実施形態では、モータ12が発生すべき目標トルクに対して実トルクが「不足」することを示す領域についても、その「実トルクの不足」を許容する範囲が設定されている(τ*>0において0≦Δτ<A1、又はτ*<0においてA4<Δτ≦0)。そして、γ軸電流増減値演算部71は、そのトルク偏差Δτに示される「実トルクの不足」が上記許容範囲内にある場合にも、γ軸電流指令値Iγ*を低減するような「負の値」を有したγ軸電流増減値ηを演算する。
そして、本実施形態のγ軸電流増減値演算部71は、そのトルク偏差Δτに示される「実トルクの不足」が上記許容範囲を超える場合(τ*>0においてΔτ≧A1、又はτ*<0においてΔτ≦A4)には、γ軸電流指令値Iγ*を増大させるような「正の値」を有したγ軸電流増減値ηを演算する構成になっている。
一方、本実施形態の積算制御部72は、前回の演算周期における制御出力、即ちγ軸電流指令値Iγ*の前回値を記憶領域(図示略)に保持する。そして、積算制御部72は、入力されるγ軸電流増減値ηを当該前回値に加算することにより新たなγ軸電流指令値Iγ*を演算するとともに、当該新たなγ軸電流指令値Iγ*によって、その記憶領域に保持する前回値を更新する。
そして、本実施形態の電流指令値演算部61は、この積算制御部72の制御出力、即ちγ軸電流増減値ηの積算値をγ軸電流指令値Iγ*とする構成になっている。
図4に示すように、第2制御部26において、上記のように演算されたγ軸電流指令値Iγ*は、上記γ軸電流値Iγとともに、対応する減算器74aに入力される。同様に、δ軸電流指令値Iδ*もまた、δ軸電流値Iδとともに、対応する減算器74bに入力される。尚、本実施形態では、δ軸電流指令値Iδ*は「0」に固定される(Iδ*=0)。そして、これら各減算器74a,74bにおいて演算される電流偏差ΔIγ,ΔIδは、それぞれ、その対応する各F/B制御部75a,75bに入力される。
次に、各F/B制御部75a,75bは、その電流偏差ΔIγ,ΔIδ及び所定のフィードバックゲイン(比例:P、積分:I)に基づくフィードバック制御演算を実行することにより、γ/δ座標系の電圧指令値であるγ軸電圧指令値Vγ*及びδ軸電圧指令値Vδ*を演算する。尚、これら各F/B制御部75a,75bの実行するフィードバック制御演算の態様については、上記第1制御部25側の各F/B制御部34d,34qと同様であるため、その詳細な説明は省略する。
更に、これらのγ軸電圧指令値Vγ*及びδ軸電圧指令値Vδ*は、2相/3相変換部76において、三相(U,V,W)の交流座標上に写像される。そして、第2制御部26は、この2相/3相変換部76において生成された相電圧指令値Vu**,Vv**,Vw**を、上記PWM変換部27に出力する構成となっている。尚、このように、第2制御部26が実行するレゾルバレス制御の原理についての詳細は、例えば、上記特許文献1及び特許文献2等の記載を参照されたい。
また、図2に示すように、本実施形態のマイコン17は、上記モータレゾルバ23により検出される上記回転角θmの異常を検出する回転角異常検出部78を備えている。具体的には、本実施形態の回転角異常検出部78は、そのモータレゾルバ23が出力する正弦信号S_sin及び余弦信号S_cosの二乗和が適正範囲内にあるか否かを判定する。そして、その判定結果に基づいて、モータ12の実回転角として回転角θmの異常を検出する。尚、このような回転角異常検出の詳細については、例えば、特開2006−177750号公報等の記載を参照されたい。
更に、本実施形態では、この回転角異常検出部78による異常検出の結果は、回転角異常検出信号S_rsfとして上記モータ制御部24に入力される。そして、本実施形態のモータ制御部24は、回転角θmに異常のない場合には、上記第1制御部25が演算する相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に基づいてモータ制御信号を出力し、回転角θmに異常が生じた場合には、上記第2制御部26が演算する相電圧指令値Vu**,Vv**,Vw**に基づいて、そのモータ制御信号の出力を実行する。
即ち、第2制御部26は、モータ12の実回転角であるモータレゾルバ23により検出される回転角θmを用いることなく、制御上の仮想的なモータ回転角である制御角θcを用いて、その相電圧指令値Vu**,Vv**,Vw**を演算する。そして、本実施形態のECU11は、その第2制御部26が演算する相電圧指令値Vu**,Vv**,Vw**に基づいてモータ制御信号を生成することにより、回転角θmに異常が検出された後においても、安定的に、そのモータ制御を継続することが可能となっている。
(加算角低減制御)
次に、本実施形態の加算角演算部41が実行する加算角低減制御の態様について説明する。
上述のように、制御上の仮想的な制御角(θc)を用いるレゾルバレス制御では、より大きなモータ電流を通電してステータの起磁力を強化することにより、その制御状態の安定化を図ることができる。しかしながら、継続的に大きな電流をモータに通電することにより、エネルギー効率の低下、或いはモータの発熱が増大することによる信頼性の低下等を招くおそれがある。
そこで、本実施形態の電流指令値演算部61のように、目標操舵トルクτ*と実際の操舵トルクτとの間のトルク偏差Δτに基づいてγ軸電流増減値ηを演算する。そして、当該γ軸電流増減値ηを積算した値をγ軸電流指令値Iγ*とすることにより、効果的にモータ電流を抑制することができる。
即ち、トルク偏差Δτは、モータ12が発生すべき目標トルクに対する実トルクの過不足を示す状態量である。従って、その絶対値が小さいほど、モータ制御の状態は安定的であり、当該トルク偏差Δτに基づいて、γ軸電流指令値Iγ*を増減することにより、モータ制御の安定性を維持しつつ、効果的に過剰なモータ電流の通電を抑えることができる。
しかしながら、このようにγ軸電流増減値ηを積算してγ軸電流指令値Iγ*を演算する構成では、トルク偏差Δτが小さな領域にある場合には、当該γ軸電流指令値Iγ*を増大させる際の立ち上がりが遅くなる傾向がある。このため、例えば、保舵状態からの切り込み時等、その小さなトルク偏差Δτに基づいてモータ電流を低く抑えた状態から負荷トルクに抗してモータ12を回転させる場合には、その回転初期においてステータの起磁力に不足が生ずる可能性がある。そして、これにより、加算角θaの積算により変化する上記制御角θcに対応した位置でロータを保持することができない、即ちその制御角θcに従ってロータを連れ回すことができなくなることで、制御状態が不安定化するおそれがある。
この点を踏まえ、本実施形態では、上記加算角演算部41は、トルク偏差Δτに基づいて、上記加算角θaを低減する。具体的には、トルク偏差Δτが小さく、γ軸電流指令値Iγ*の立ち上がりに遅れが生じやすい状態にあるほど、より大きく加算角θaを低減する。
即ち、トルク偏差Δτに基づき加算角θaを低減してモータ12の回転を抑えることで、ステアリング操作に要求される操舵トルクτが増大する。そして、これにより増大したトルク偏差Δτに基づき、より大きなγ軸電流増減値ηが演算されることによって、γ軸電流指令値Iγ*の立ち上がりが早くなる。そして、本実施形態では、これにより、上記のようなステータの起磁力に不足が生ずる事態を回避して、そのモータ制御の安定性を維持する構成になっている。
詳述すると、図4に示すように、本実施形態の加算角演算部41には、その操舵トルクτから目標操舵トルクτ*を減算する減算器46とF/B制御部47との間に、補正制御部80が設けられており、同補正制御部80は、減算器46が算出するトルク偏差Δτ(の絶対値)に基づいて、当該トルク偏差Δτを補正する。そして、本実施形態のF/B制御部47は、この補正制御部80が補正した後の値(Δτ´)に基づいて、加算角θaの基礎成分となる上記第1変化成分dθτを演算する。
さらに詳述すると、本実施形態の補正制御部80は、図9に示されるような補正マップ80aを備えている。そして、上記減算器46から入力されるトルク偏差Δτを、この補正マップ80aに参照することにより、その入力されるトルク偏差Δτの絶対値が小さいほど、その補正後の絶対値(|Δτ´|)がより大きく低減するように当該トルク偏差Δτを補正する。
具体的には、本実施形態の補正マップ80aには、トルク偏差Δτの絶対値が閾値T1以下となる領域(-T1≦Δτ≦T1)に、当該トルク偏差Δτの如何に依らず、補正後のトルク偏差Δτ´の値が「0」になる所謂不感帯が設定されている。そして、トルク偏差Δτの絶対値が閾値T1を超える領域(Δτ<-T1、T1<Δτ)については、当該トルク偏差Δτの絶対値が小さいほど、その補正後のトルク偏差Δτ´の低減率が大きくなるように設定されている。尚、同図中の破線Nは、その低減率が「0%」であると仮定した場合における補正後の値を示している。
即ち、補正制御部80により低減された補正後のトルク偏差Δτ´を用いて第1変化成分dθτを演算することにより、加算角θaの連続性を担保しつつ、トルク偏差Δτに基づいて同加算角θaを低減することができる。そして、本実施形態では、これにより、上記のようなステータの起磁力不足に起因したモータ制御の不安定化を回避して、モータ制御の安定性を好適に維持しつつ、効果的なモータ電流の抑制を図る構成となっている。
以上、本実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)電流指令値演算部61は、演算周期毎に、目標操舵トルクτ*と実際の操舵トルクτとの間のトルク偏差Δτに基づいてγ軸電流増減値ηを演算し、該当該γ軸電流増減値ηを積算することによりγ軸電流指令値Iγ*を演算する。また、加算角演算部41は、上記トルク偏差Δτに基づいて、演算周期毎のモータ回転角変化量に相当する加算角θaを演算し、該加算角θaを積算することにより、制御上の仮想的な制御角θcを演算する。そして、加算角演算部41は、そのトルク偏差Δτに基づいて、上記加算角θaを低減する。
即ち、トルク偏差Δτは、モータ12が発生すべき目標トルクに対する実トルクの過不足を示す状態量であることから、その絶対値が小さいほど、モータ制御の状態は安定的であり、当該トルク偏差Δτに基づいて、γ軸電流指令値Iγ*を増減することにより、モータ制御の安定性を維持しつつ、効果的に過剰なモータ電流の通電を抑えることができる。
しかしながら、このようにγ軸電流増減値ηを積算してγ軸電流指令値Iγ*を演算する構成では、トルク偏差Δτが小さな領域にある場合には、当該γ軸電流指令値Iγ*を増大させる際の立ち上がりが遅くなる傾向がある。このため、例えば、保舵状態からの切り込み時等、その小さなトルク偏差Δτに基づいてモータ電流を低く抑えた状態から負荷トルクに抗してモータ12を回転させる場合には、その回転初期においてステータの起磁力に不足が生ずる可能性があり、その結果、その制御状態が不安定化するおそれがある。
この点、上記構成によれば、トルク偏差Δτに基づき加算角を低減してモータ12の回転(制御角θcの変化)を抑えることで、ステアリング操作に要求される操舵トルクτが増大する。そして、これにより増大したトルク偏差Δτに基づいて、より大きなγ軸電流増減値ηが演算されることによって、γ軸電流指令値Iγ*の立ち上がりが早くなる。その結果、制御角θcに従ってロータを連れ回すために必要な起磁力をステータに発生させて、そのモータ制御の安定性を維持することができる。加えて、加算角θaの低減により操舵トルクτが増大することで、そのステアリング操作に「手応え感」を付与することができる。その結果、優れた操舵フィーリングを実現することができる。
(2)加算角演算部41は、トルク偏差Δτ(の絶対値)に基づいて当該トルク偏差Δτを補正し、その補正後のトルク偏差Δτ´に基づいて、加算角θaの基礎成分となる上記第1変化成分dθτを演算する。このような構成にすることで、加算角θaの連続性を担保しつつ、トルク偏差Δτに基づいて同加算角θaを低減することができる。その結果、より好適に、モータ制御の安定性を維持することができる。
(3)加算角演算部41(補正制御部80)は、トルク偏差Δτの絶対値が閾値T1以下となる領域(-T1≦Δτ≦T1)に不感帯が設定された補正マップ80aを用いることにより、当該トルク偏差Δτの如何に依らず補正後のトルク偏差Δτ´の値を「0」に補正する。
即ち、モータ12の制御状態が安定的であることを示すトルク偏差Δτの絶対値が小さな領域については、より低くモータ電流を抑えることが可能である。しかしながら、当該領域では、γ軸電流指令値Iγ*を増大させる際の立ち上がりも遅いため、そのモータ電流を低く抑えた状態から負荷トルクに抗してモータ12を回転させる際、上記のようなステータの起磁力不足に起因した制御状態の不安定化が起こりやすい。
この点、上記構成によれば、こうしたγ軸電流指令値Iγ*の立ち上がりに遅れが生じやすい領域においては、制御角θcが変化することなく、当該γ軸電流指令値Iγ*のみが増加する。そして、そのトルク偏差Δτが当該領域を超えるまで増大した後、同制御角θcが変化することで、その回転初期から十分なモータ電流を通電して、当該制御角θcに従ってロータを連れ回すために必要な起磁力をステータに発生させることができる。その結果、より好適に、モータ制御の安定性を維持することができる。また、トルク偏差Δτ(の絶対値)が小さな領域では、モータ12の回転が抑えられることから、特に、保舵状態における手応え感が高くなる。その結果、より優れた操舵フィーリングを実現することができる。
(4)トルク偏差Δτが、モータ12が発生すべき目標トルクに対する実トルクの「不足」を示す領域についても、その「実トルクの不足」を許容する範囲が設定される。そして、γ軸電流増減値演算部71は、そのトルク偏差Δτに示される「実トルクの不足」が上記許容範囲内にある場合にも、γ軸電流指令値Iγ*を低減するような「負の値」を有したγ軸電流増減値ηを演算する。
上記構成によれば、より効果的にモータ電流を抑制することができる反面、トルク偏差Δτの低い状態が継続する保舵時には、そのモータ電流を低く抑えた状態からモータ12を回転させる際に、上記のようなステータの起磁力不足に起因した制御状態の不安定化が起こりやすくなる。また、更には、過剰にγ軸電流増減値ηが低減される可能性もあり、このような場合、そのモータ電流の過小により変化するトルク偏差Δτに基づいて、再びγ軸電流増減値ηが増大することで、その制御角θcと実回転角(θm)との乖離が、安定的に制御可能な範囲に維持される。しかしながら、そのγ軸電流指令値Iγ*を増大させる際の立ち上がりに遅れが生ずることで、その制御角θcと実回転角(θm)との乖離が安定的に制御可能な範囲を超えてしまうおそれがある。従って、このような構成に上記(1)〜(3)の発明を適用することで、より顕著な効果を得ることができる。
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記実施形態では、本発明を所謂コラム型の電動パワーステアリング装置(EPS)1に具体化した。しかし、これに限らず、所謂ピニオン型やラックアシスト型等のEPSに適用してもよい。
・また、本発明は、EPS以外の用途に用いられるモータ制御装置に適用してもよい。尚、上記実施形態では、目標操舵トルクτ*と実際の操舵トルクτとの間のトルク偏差Δτを、「モータが発生すべき目標トルクと実トルクとの間のトルク偏差」として用いることとしたが、EPS以外の用途に適用する場合には、実際の「目標トルクと実トルクとの間のトルク偏差」を用いるとよい。
・上記実施形態では、トルク偏差Δτ(の絶対値)に基づいて当該トルク偏差Δτを補正し、その補正後のトルク偏差Δτ´に基づいて、加算角θaの基礎成分となる上記第1変化成分dθτを演算することにより、トルク偏差Δτに基づいて同加算角θaを低減することとした。しかし、これに限らず、直接的に加算角θaを低減する構成であってもよい。
例えば、図10に示す加算角演算部81のように、加算角調整演算部58が出力する加算角θaを補正する補正制御部82を設ける。そして、この補正制御部82において補正(低減)された後の加算角θa´を制御角演算部42に出力する構成とすればよい。
具体的には、この例では、同補正制御部82は、図11に示されるように、トルク偏差Δτ(の絶対値)と加算角θaの低減率(%)とが関連付けられた補正マップ82aを備えている。同補正マップ82aにおいて、トルク偏差Δτの絶対値が閾値T2以下となる領域(|Δτ|≦T2)については、補正後の加算角θa´が「0」となるように、その加算角θaの低減率が「100%」に設定されている。また、トルク偏差Δτの絶対値が閾値T2を超える領域(|T2|<Δτ)については、当該トルク偏差Δτの絶対値が大きいほど、加算角θaの低減率が小さくなるように設定されている。そして、これにより、上記実施形態と同様の効果を得ることが可能となっている。
・また、トルク偏差Δτに基づき演算される加算角θaの基礎成分、即ち上記第1変化成分dθτを当該トルク偏差Δτ(の絶対値)に基づいて補正(低減)することにより、同トルク偏差Δτに基づいて、加算角θaを低減する構成であってよい。尚、第1変化成分dθτの補正については、上記のように加算角θaを補正する場合と同様にするとよい(図11参照)。このような構成としても、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
・上記実施形態では、加算角演算部41は、トルク偏差Δτに基づくトルクフィードバック制御の実行により加算角θaを演算する。そして、γ軸電流増減値演算部71は、同じくトルク偏差Δτに基づいてγ軸電流増減値ηを演算することとした。しかし、目標操舵トルクτ*を「0」に固定して制御する場合には、トルク偏差Δτに代えて操舵トルクτを用いる構成としても全く等価であることは言うまでもない(Δτ=τ−τ*)。
・上記実施形態では、ステアリングセンサ16を用いて操舵角θsを検出することとしたが、車輪速から操舵角θsを推定する構成であってもよい。
次に、以上の実施形態から把握することのできる技術的思想を効果とともに記載する。
(イ)モータ制御信号を出力するモータ制御信号出力手段と、前記モータ制御信号に基づいて三相の駆動電力をモータに供給する駆動回路とを備え、前記モータ制御信号出力手段は、前記モータが発生すべき目標トルクと実トルクとの間のトルク偏差に基づいてトルクフィードバック制御を実行することにより演算周期毎のモータ回転角変化量に相当する加算角を演算し、該加算角を積算することにより制御上のモータ回転角を演算するとともに、前記演算周期毎に、前記トルク偏差に基づく増減値を演算し、該増減値を積算することにより電流指令値を演算しつつ、前記制御上のモータ回転角に従う回転座標系において電流フィードバック制御を実行することにより、前記モータ制御信号を出力するモータ制御装置において、前記モータ制御信号出力手段は、前記トルク偏差に基づいて前記加算角を低減すること、を特徴とするモータ制御装置。
上記構成によれば、モータ制御の安定性を好適に維持しつつ、効果的にモータ電流を抑制することができる。
(ロ)前記モータ制御信号出力手段は、前記トルク偏差が閾値以下となる領域に不感帯が設定された補正マップを用いて前記トルク偏差を補正すること、を特徴とする。
(ハ)前記モータ制御信号出力手段は、前記トルク偏差が、前記目標トルクに対する実トルクの不足を示す状態にあり、且つ該不足が許容範囲を超える場合には、前記電流指令値を増大させるような前記増減値を演算すること、を特徴とする。
(ニ)前記モータ制御信号出力手段は、前記トルク偏差が、前記目標トルクに対する実トルクの過剰を示す状態にある場合には、前記電流指令値を低減させるような前記増減値を演算すること、を特徴とする。