JP2012228063A - モータ制御装置及び電動パワーステアリング装置 - Google Patents

モータ制御装置及び電動パワーステアリング装置 Download PDF

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Abstract

【課題】トルク変動の発生を抑えつつ、加算角に含まれるモータ回転角速度の推定誤差を補正して、安定的にレゾルバレス制御を実行することのできるモータ制御装置を提供すること。
【解決手段】加算角調整演算部は、トルク偏差Δτに基づき第1変化成分が演算される方向に応じて、推定モータ回転角速度(ωm_e)に対応する第1の閾値dθlim1、及び当該第1の閾値dθlim1よりも推定モータ回転角速度(ωm_e)から離れた値を有した第2の閾値dθlim2を設定する。そして、これら二つの閾値(dθlim1,dθlim2)により規定される制限範囲内に加算角θaを制限する。更に、加算角調整演算部は、制御角と実回転角との乖離を示す負荷角を推定する。そして、その負荷角が安定領域外にある場合には、上記第1の閾値dθlim1を、推定モータ回転角速度(ωm_e)から、その想定される推定誤差の最大値に対応する所定値N2離れた値に変更する。
【選択図】図12

Description

本発明は、モータ制御装置及び電動パワーステアリング装置に関するものである。
従来、モータを駆動源として操舵系にアシスト力を付与する電動パワーステアリング装置(EPS)には、そのモータ回転角を検出することなくブラシレスモータを制御可能なモータ制御装置を備えたものがある。そして、このような回転角センサ(モータレゾルバ)を用いないセンサレス(レゾルバレス)駆動制御の態様として、演算周期毎のモータ回転角変化量に相当する加算角を演算し、その加算角を積算することにより得られる制御上のモータ回転角に従う回転座標系において電流フィードバック制御を実行する方法が提案されている。
例えば、特許文献1に記載のモータ制御装置は、モータが発生すべき目標トルクと実トルクとの間の偏差に基づいて、上記演算周期毎のモータ回転角変化量に相当した加算角を演算する。また、特許文献2に記載のモータ制御装置は、モータ電流及びモータ電圧に基づいてモータ回転角速度を推定する。そして、そのモータ回転角速度を上記演算周期毎の変化成分として上記加算角を演算することができる。
即ち、実際のモータ回転角(実回転角)と上記制御上のモータ回転角(制御角)とが厳密に一致しなくとも、その乖離が一定範囲内に留まる限りにおいて、ブラシレスモータは制御可能である。そして、上記の各方法により加算角を演算し、その加算角を積算することにより得られる制御角を用いて電流フィードバック制御を実行することにより、その実回転角と制御角との乖離を上記モータ制御可能な範囲に留めおくことができる。
特開2010−11709号公報 特開2010−29031号公報
ところで、モータ回転角速度を推定する場合、比較的高精度にその値を推定可能な高速回転領域であっても、その推定値には、モータの個体差(公差等の影響等、主に物理構成に起因するもの)に応じた誤差が含まれる。そして、推定モータ回転角速度に基づいて加算角を演算する構成では、モータ制御が不安定化しやすい状態にある場合、その加算角に含まれる推定誤差が、より一層の不安定化を助長するおそれがある。このため、そのモータ制御の安定性を確保する観点から、こうした推定誤差は補正することが望ましい。
しかしながら、各モータの個体差を考慮して、その想定される最大誤差により加算角を補正するとすれば、多くの場合、その補正は過剰なものとなる。そして、これにより生ずる新たな誤差がトルク変動の発生要因となるおそれがあり、この点において、なお改善の余地を残すものとなっていた。
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、トルク変動の発生を抑えつつ、加算角に含まれるモータ回転角速度の推定誤差を補正して、安定的にレゾルバレス制御を実行することのできるモータ制御装置及び電動パワーステアリング装置を提供することにある。
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、モータ制御信号を出力するモータ制御信号出力手段と、前記モータ制御信号に基づいて三相の駆動電力をモータに供給する駆動回路とを備え、前記モータ制御信号出力手段は、前記モータが発生すべき目標トルクと実トルクとの間のトルク偏差に基づいてトルクフィードバック制御を実行することにより得られる第1変化成分及び推定モータ回転角速度に基づく第2変化成分の加算値を演算周期毎のモータ回転角変化量に相当する加算角とし、該加算角を積算することにより得られる制御上のモータ回転角に従う回転座標系において電流フィードバック制御を実行することにより、前記モータ制御信号を出力するモータ制御装置において、前記モータ制御信号出力手段は、前記トルク偏差に基づき前記第1変化成分が演算される方向に応じて、前記推定モータ回転角速度に対応する第1の閾値と該第1の閾値よりも前記推定モータ回転角速度から離れた値を有した第2の閾値とを設定し、これら第1及び第2の閾値により規定される制限範囲内に前記加算角を制限するとともに、前記制御上のモータ回転角と実回転角との乖離を示す負荷角を推定し、該負荷角が安定領域を超えて拡大した場合には、前記制限範囲の設定方向において、前記第1の閾値を前記負荷角が前記安定領域にある場合よりも前記推定モータ回転角速度から離れた値に変更すること、を要旨とする。
即ち、拡大しようとする負荷角を縮小させるようなトルク偏差に基づく第1変化成分が演算される状況では、加算角制限における制限範囲の設定方向もまた、その第1変化成分が演算される方向と同じく、推定モータ回転角速度の発生方向とは逆向きになる。そして、推定モータ回転角速度を制限範囲における第1の閾値とした場合、例えば、応答遅れ等により上記トルク偏差に基づく第1変化成分が「0」となる最悪条件では、加算角に含まれる推定モータ回転角速度の推定誤差分だけ、負荷角の拡大が進むことになる。
しかしながら、上記構成によれば、負荷角が安定領域を超えて拡大した場合には、その制限範囲を規定する第1の閾値の値が、当該制限範囲の設定方向において、負荷角が安定領域にある場合よりも推定モータ回転角速度から離れた値に変更される。そして、これにより、そのモータ回転角速度の推定誤差による負荷角の拡大を抑えることができ、特に、その想定される推定誤差の最大値に対応して第1の閾値を変更することで、少なくとも負荷角が縮小する方向に、その誤差を補正することができる。
つまり、モータ制御の状態が安定的に維持された状況では、その加算角に含まれるモータ回転角速度の推定誤差を許容することで、当該推定誤差の補正により生ずるトルク変動が回避される。そして、負荷角が安定領域を超えて拡大した場合には、その推定誤差を補正することにより、当該負荷角の拡大によるモータ制御の不安定化が回避される。その結果、トルク変動の発生を抑えつつ、加算角に含まれるモータ回転角速度の推定誤差を補正して、安定的にレゾルバレス制御を実行することができる。
また、特に、このような加算角の制限処理によって、その加算角に含まれるモータ回転角速度の推定誤差を補正することで、その補正を最小限度に抑えることができる。即ち、加算角が上記第1の閾値及び第2の閾値により規定される制限範囲内にある場合には、その誤差補正が行われない。これにより、モータの個体差に起因した「誤差補正の実行により生ずる新たな誤差」の発生を抑制することができる。その結果、効果的にトルク変動の発生を抑えることができる。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のモータ制御装置を備えた電動パワーステアリング装置であること、を要旨とする。
上記構成によれば、トルク変動の発生を抑えつつ、加算角に含まれるモータ回転角速度の推定誤差を補正して、安定的にレゾルバレス制御を実行することができる。
本発明によれば、トルク変動の発生を抑えつつ、加算角に含まれるモータ回転角速度の推定誤差を補正して、安定的にレゾルバレス制御を実行することが可能なモータ制御装置及び電動パワーステアリング装置を提供することができる。
電動パワーステアリング装置(EPS)の概略構成図。 EPSの電気的構成を示すブロック図。 第1制御部の概略構成図。 第2制御部の概略構成図。 外乱オブザーバの概略構成を示すブロック線図。 回転角速度推定の処理手順を示すフローチャート。 加算角調整演算の処理手順を示すフローチャート。 (a)(b)加算角制限の態様を示す説明図。 第2制御部側の電流指令値演算部の概略構成図。 制御角と実際のモータ回転角との乖離(負荷角)及び各軸電流値の関係を示す説明図。 モータ回転角速度の実際値及び推定値間の大小関係に応じた負荷角の拡縮を示す説明図。 (a)(b)負荷角が安定領域外にある場合における加算角制限の態様を示す説明図。 制限範囲設定の処理手順を示すフローチャート。
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、本実施形態の電動パワーステアリング装置(EPS)1において、ステアリング2が固定されたステアリングシャフト3は、ラックアンドピニオン機構4を介してラック軸5と連結されている。そして、ステアリング操作に伴うステアリングシャフト3の回転は、ラックアンドピニオン機構4によりラック軸5の往復直線運動に変換される。尚、本実施形態のステアリングシャフト3は、コラムシャフト3a、インターミディエイトシャフト3b、及びピニオンシャフト3cを連結してなる。そして、このステアリングシャフト3の回転に伴うラック軸5の往復直線運動が、同ラック軸5の両端に連結されたタイロッド6を介して図示しないナックルに伝達されることにより、転舵輪7の舵角、即ち車両の進行方向が変更される。
また、EPS1は、操舵系にステアリング操作を補助するためのアシスト力を付与する操舵力補助装置としてのEPSアクチュエータ10と、該EPSアクチュエータ10の作動を制御する制御手段としてのECU11とを備えている。
本実施形態のEPSアクチュエータ10は、駆動源であるモータ12が減速機構13を介してコラムシャフト3aと駆動連結された所謂コラム型のEPSアクチュエータとして構成されている。尚、本実施形態では、モータ12には、三相(U,V,W)の駆動電力に基づき回転するブラシレスモータが採用されている。そして、EPSアクチュエータ10は、このモータ12の回転を減速してコラムシャフト3aに伝達することにより、そのモータトルクに基づくアシスト力を操舵系に付与する構成となっている。
一方、ECU11には、トルクセンサ14が接続されており、同ECU11は、そのトルクセンサ14の出力信号に基づいて、ステアリングシャフト3に伝達される操舵トルクτを検出する。また、本実施形態のECU11には、車速センサ15により検出される車速V及びステアリングセンサ(操舵角センサ)16により検出される操舵角θsが入力される。そして、ECU11は、これらの各状態量に基づいて、操舵系に付与すべき目標アシスト力を演算し、これに相当するモータトルクを発生させるべく駆動電力を供給することにより、そのモータ12を駆動源とするEPSアクチュエータ10の作動、即ち操舵系に付与するアシスト力を制御する(パワーアシスト制御)。
次に、本実施形態のEPSの電気的構成について説明する。
図2は、本実施形態のEPSの制御ブロック図である。同図に示すように、ECU11は、モータ制御信号を出力するモータ制御信号出力手段としてのマイコン17と、同マイコン17の出力するモータ制御信号に基づいてモータ12に三相の駆動電力を供給する駆動回路18とを備えている。
尚、以下に示す各制御ブロックは、マイコン17が実行するコンピュータプログラムにより実現されるものである。そして、同マイコン17は、所定のサンプリング周期で上記各状態量を検出し、所定周期毎に以下の各制御ブロックに示される各演算処理を実行することにより、モータ制御信号を生成する。
詳述すると、本実施形態の駆動回路18には、直列に接続された一対のスイッチング素子を基本単位(スイッチングアーム)として、各相モータコイル12u,12v,12wに対応する3つのスイッチングアームを並列に接続してなる周知のPWMインバータが採用されている。即ち、マイコン17の出力するモータ制御信号は、この駆動回路を構成する各相スイッチング素子のオン/オフ状態(各相スイッチングアームのDuty)を規定するものとなっている。そして、駆動回路18は、このモータ制御信号の入力により作動して、その印加される電源電圧V_pigに基づく三相の駆動電力をモータに供給する構成となっている。
さらに詳述すると、ECU11には、モータ12の各相電流値Iu,Iv,Iwを検出するための電流センサ21が設けられている。尚、本実施形態の電流センサ21は、上記駆動回路18を構成する各スイッチングアームの低電位側(接地側)に、それぞれ、シャント抵抗を接続してなる周知の構成を有している。そして、本実施形態のマイコン17は、この電流センサ21の出力信号(シャント抵抗の端子間電圧)に基づいて、各相モータコイル12u,12v,12wに流れる相電流値Iu,Iv,Iwを検出する。
また、本実施形態のマイコン17は、モータレゾルバ23の出力信号に基づいて、モータ12の回転角(電気角)θmを検出する。尚、本実施形態では、モータレゾルバ23には、そのセンサ信号として、モータ12の実回転角(電気角)に応じて振幅が変化する二相の正弦波状信号(正弦信号S_sin及び余弦信号S_cos)を出力する巻線型のレゾルバが採用されている。そして、本実施形態のマイコン17は、これらモータ12の各相電流値Iu,Iv,Iw及び回転角θmに基づいて、電流フィードバック制御を実行することにより、その駆動回路18に出力するモータ制御信号を生成する。
さらに詳述すると、本実施形態では、マイコン17のモータ制御部24には、回転座標系における電流制御の実行によりモータ12の各相に印加すべき相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*(Vu**,Vv**,Vw**)を演算する第1制御部25及び第2制御部26、並びに、その相電圧指令値をモータ制御信号に変換するPWM変換部27が設けられている。そして、本実施形態のマイコン17は、このモータ制御部24において生成されたモータ制御信号を駆動回路18に出力する構成となっている。
図3に示すように、第1制御部25は、上記のように検出される操舵トルクτ及び車速Vに基づいて目標アシスト力に対応した電流指令値を演算する電流指令値演算部31を備えている。また、第1制御部25は、d/q変換部32を備えており、同d/q変換部32は、モータレゾルバ23により検出される上記回転角θmに基づいて、各相電流値Iu,Iv,Iwをd/q座標上に写像することにより、d軸電流値Id及びq軸電流値Iqを演算する。そして、第1制御部25は、このモータ12の実回転角(θm)に従う回転座標系(d/q座標系)において電流フィードバック制御を実行することにより、モータ12の各相に印加すべき電圧を示す相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*を演算する構成となっている。
即ち、上記電流指令値演算部31は、電流指令値としてq軸電流指令値Iq*を演算する。具体的には、同電流指令値演算部31は、入力される操舵トルクτが大きいほど、また車速Vが小さいほど、より大きなアシスト力を発生させるようなq軸電流指令値Iq*を演算する。尚、d軸電流指令値Id*は「0」に固定される(Id*=0)。そして、これらd軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*は、d/q変換部32の出力するd軸電流値Id及びq軸電流値Iqとともに、その対応する減算器33d,33qに入力される。
次に、これら各減算器33d,33qが演算する各軸の電流偏差ΔId,ΔIqは、それぞれ、対応するF/B制御部(フィードバック制御部)34d,34qに入力される。そして、各F/B制御部34d,34qは、その入力される電流偏差ΔId,ΔIq及び所定のフィードバックゲイン(比例:P、積分:I)に基づくフィードバック制御演算を実行することにより、d/q座標系の電圧指令値であるd軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を演算する。
具体的には、各F/B制御部34d,34qは、それぞれ、その入力される電流偏差ΔId,ΔIqに比例ゲインを乗ずることにより得られる比例成分、及び当該電流偏差ΔId,ΔIqの積分値に積分ゲインを乗ずることにより得られる積分成分を演算する。そして、これらの比例成分及び積分成分を加算することにより、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を生成する。
次に、これらのd軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*は、d/q逆変換部35において、三相(U,V,W)の交流座標上に写像される。そして、第1制御部25は、このd/q逆変換部35が実行する逆変換により得られる相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*を、上記PWM変換部27に出力する構成となっている。
一方、図4に示すように、第2制御部26は、演算周期毎のモータ回転角変化量に相当する加算角θa(θa´)を演算する加算角演算部41と、その加算角θa(θa´)を演算周期毎に積算することにより制御上の仮想的なモータ回転角としての制御角θcを演算する制御角演算部42とを備えている。そして、第2制御部26は、その制御角θcに従う回転座標系(γ/δ座標系)において電流フィードバック制御を実行することにより、相電圧指令値Vu**,Vv**,Vw**を演算する構成となっている。
詳述すると、本実施形態の加算角演算部41には、上記のように検出される操舵トルクτ、車速V、及び操舵角θsが入力される。また、加算角演算部41は、ステアリング2に生じた操舵角θs及び車速Vに基づいて、操舵トルクτの目標値に対応した目標操舵トルクτ*を演算する目標操舵トルク演算部45を備えており、同目標操舵トルク演算部45において演算された目標操舵トルクτ*は、操舵トルクτとともに減算器46に入力される。そして、本実施形態の加算角演算部41は、トルクセンサ14により検出される実際の操舵トルクτから目標操舵トルクτ*を減算することにより得られるトルク偏差Δτに基づいて上記加算角θaを演算する。
即ち、モータトルクに基づくアシスト力を操舵系に付与するEPSにおいて、目標操舵トルクτ*は、モータ12が発生すべきモータトルク(目標トルク)に対応するパラメータであり、操舵トルクτは、モータ12の実トルクに対応するパラメータである。つまり、これら目標操舵トルクτ*と実際の操舵トルクτとの間の差分(トルク偏差Δτ)は、目標トルクに対する実トルクの過不足を示す状態量となっている。そして、本実施形態の加算角演算部41は、その目標操舵トルクτ*に実際の操舵トルクτを追従させるべく、トルクフィードバック制御を実行することにより加算角θaを演算する。
具体的には、減算器46において演算されたトルク偏差Δτは、F/B制御部47に入力される。そして、F/B制御部47は、そのトルク偏差Δτに比例ゲインを乗ずることにより得られる比例成分、及び当該トルク偏差Δτの積分値に積分ゲインを乗ずることにより得られる積分成分の加算値を、各演算周期におけるモータ回転角の第1変化成分dθτとして演算する。
また、本実施形態では、第2制御部26には、モータ回転角速度を推定するモータ回転角速度推定手段としての回転角速度推定演算部50が設けられており、上記加算角演算部41には、この回転角速度推定演算部50の推定するモータ回転角速度ωm_eが、各演算周期におけるモータ回転角の第2変化成分dθωとして入力される。そして、本実施形態の加算角演算部41は、上記トルク偏差Δτに基づく第1変化成分dθτとともに、このモータ回転角速度ωm_eに基づく第2変化成分dθωを用いて、上記加算角θaを演算する。
詳述すると、第2制御部26には、上記PWM変換部27がモータ制御信号を生成する際に用いる相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*(Vu**,Vv**,Vw**)に対応した内部指令値、即ちDutyが入力される。また、本実施形態のECU11は、電圧センサ51によって、その駆動回路18に印加される電源電圧V_pigを検出する(図2参照)。そして、第2制御部26には、その検出される電源電圧V_pig及び上記Dutyに基づいて、モータ12の各相電圧値Vu,Vv,Vwを演算する相電圧演算部52が設けられている。
また、これらの各相電圧値Vu,Vv,Vw、及び上記電流センサ21により検出されたモータ12の各相電流値Iu,Iv,Iwは、α/β変換部53において、それぞれ、二相固定座標系(α/β座標系)のα軸電圧値Vα及びβ軸電圧値Vβ並びにα軸電流値Iα及びβ軸電流値Iβに変換される。そして、本実施形態の回転角速度推定演算部50は、これらα軸電圧値Vα及びβ軸電圧値Vβ並びにα軸電流値Iα及びβ軸電流値Iβに示されるモータ電圧及びモータ電流に基づいて、モータ回転角速度ωm_eを推定する。
さらに詳述すると、本実施形態の回転角速度推定演算部50は、モータモデルに基づいて、そのモータ12に生ずる誘起電圧を外乱として推定する外乱オブザーバ54を備えている。
即ち、図5に示すブロック線図において、モータ12は、モータ電圧(Vα,Vβ)及び誘起電圧(Eα,Eβ)に基づいてモータ電流(Iα,Iβ)を生じせしめるモータモデルM1に表される。従って、そのモータ電流(Iα,Iβ)を入力とする逆モータモデルM2、及び当該逆モータモデルM2の出力及びモータ電圧(Vα,Vβ)を入力とする差分器55によって、上記のような誘起電圧推定値(Eα_e,Eβ_e)を出力する外乱オブザーバ54を形成することができる。尚、例えば、モータモデルM1を「1/(R+pL)」とすると、逆モータモデルM2は「R+pL」となる(但し、R:電機子巻線抵抗、L:インダクタンス、p:微分演算子)。そして、本実施形態の回転角速度推定演算部50は、この外乱オブザーバ54が出力する誘起電圧推定値(Eα_e,Eβ_e)に基づいて、モータ回転角速度ωm_eを推定する。
即ち、α/β座標系の誘起電圧(Eα,Eβ)は、それぞれ、次の(1)(2)式に表される。尚、各式中、「Ke」は誘起電圧定数、「ωm」はモータ回転角速度である。
Eα=−Ke×ωm×sinθ ・・・(1)
Eβ=Ke×ωm×cosθ ・・・(2)
更に、これら(1)(2)式を角度「θ」について解くことにより、次の(3)式を得る。尚、同式中、「arctan」は「アークタンジェント」である。
θ=arctan(−Eα/Eβ) ・・・(3)
従って、外乱オブザーバ54が出力する誘起電圧推定値(Eα_e,Eβ_e)からモータ回転角(θm_e)を推定することができる。そして、本実施形態の回転角速度推定演算部50は、そのモータ回転角の推定値(θm_e)を微分することにより、モータ回転角速度(の推定値)ωm_eを演算する。
具体的には、図6のフローチャートに示すように、回転角速度推定演算部50は、上記外乱オブザーバ54によりモータ12の誘起電圧を推定すると(Eα_e,Eβ_e、ステップ101)、先ず、その誘起電圧推定値(Eα_e,Eβ_e)にフィルタ処理を施す(LPF:ローパスフィルタ、ステップ102)。次に、回転角速度推定演算部50は、上記(3)式を用いることにより、その誘起電圧推定値(Eα_e,Eβ_e)から、モータ回転角(θm_e)を推定する(回転角推定、ステップ103)。そして、そのモータ回転角(θm_e)を微分することによりモータ回転角速度(の推定値)ωm_eを演算する(回転角度推定、ステップ104)。
そして、本実施形態の回転角速度推定演算部50は、そのモータ回転角速度ωm_eを、各演算周期におけるモータ回転角の第2変化成分dθωとして、上記加算角演算部41に出力する構成になっている(ステップ105)。
図4に示すように、本実施形態の加算角演算部41において、上記F/B制御部47の演算するトルク偏差Δτに基づくモータ回転角の第1変化成分dθτ、及び上記回転角速度推定演算部50の演算するモータ回転角速度ωm_eに基づくモータ回転角の第2変化成分dθωは、ともに加算角調整演算部58に入力される。また、本実施形態では、上記回転角速度推定演算部50は、その外乱オブザーバ54が出力する誘起電圧推定値(Eα_e,Eβ_e)の二乗和を演算し(Esq_αβ=(Eα_e)^2+(Eβ_e)^2、但し「^2」は二乗を示す)、その誘起電圧二乗和Esq_αβを加算角調整演算部58に出力する。そして、本実施形態の加算角演算部41は、この誘起電圧二乗和Esq_αβの値に基づいて、その加算角θaの演算形態を変更する。
詳述すると、本実施形態の加算角調整演算部58は、その入力される誘起電圧二乗和Esq_αβを所定の閾値(E0)と比較する。そして、当該誘起電圧二乗和Esq_αβが閾値(E0)を超える場合には、上記トルク偏差Δτに基づく第1変化成分dθτ及びモータ回転角速度ωm_eに基づく第2変化成分dθωの加算値を加算角θaとし、閾値(E0)以下である場合には、そのトルク偏差Δτに基づく第1変化成分dθτを加算角θaとする構成になっている。
即ち、一演算周期を基本単位とするモータ回転角速度ωm_eは、その一演算周期あたりのモータ回転角変化量と等価的な意味を有する。そして、上記のような外乱オブザーバ54を用いたモータ電流及びモータ電圧に基づく誘起電圧の推定は、当該誘起電圧が増大する高速回転領域において、より高い精度が確保される。
この点を踏まえ、本実施形態の加算角調整演算部58は、上記誘起電圧二乗和Esq_αβと閾値(E0)との比較により、モータ12の回転状態(回転速度)が、その推定されるモータ回転角速度ωm_eをモータ回転角の第2変化成分dθωとして利用可能な推定精度が担保される高速回転領域にあるか否かを判定する。そして、その要求される推定精度が担保される高速回転領域にある場合にのみ、上記モータ回転角速度ωm_eに基づく第2変化成分dθωを用いる構成となっている。
具体的には、図7のフローチャートに示すように、加算角調整演算部58は、先ず、上記トルク偏差Δτに基づく第1変化成分dθτ、及び上記モータ回転角速度ωm_eに基づく第2変化成分dθω、並びに上記誘起電圧二乗和Esq_αβを取得する(ステップ201〜ステップ203)。
次に、加算角調整演算部58は、誘起電圧二乗和Esq_αβが閾値E0を超えるか否かを判定し(ステップ204)、閾値E0を超える場合(ステップ204:YES)には、続いて、既に当該誘起電圧二乗和Esq_αβが閾値E0を超える状態にあったことを示す超過フラグがセットされているか否かを判定する(ステップ205)。そして、当該超過フラグがセットされていない場合(ステップ205:NO)には、当該超過フラグをセットし(ステップ206)、上記ステップ201において取得した第1変化成分dθτの値をクリアする(dθτ=0、ステップ207)。
尚、上記ステップ205において、既に超過フラグがセットされている場合(ステップ205:YES)には、上記ステップ206及びステップ207の処理は実行されない。そして、これら上記ステップ204において誘起電圧二乗和Esq_αβが閾値E0を超えると判定された場合(ステップ204:YES)には、その超過フラグの如何にかかわらず、そのトルク偏差Δτに基づく第1変化成分dθτ及びモータ回転角速度ωm_eに基づく第2変化成分dθωを加算することにより加算角θaを演算する(ステップ208)。
一方、上記ステップ204において、誘起電圧二乗和Esq_αβが閾値E0以下であると判定した場合(ステップ204:NO)もまた、加算角調整演算部58は、超過フラグがセットされているか否かを判定する(ステップ209)。そして、当該超過フラグがセットされている場合(ステップ209:YES)には、当該超過フラグをリセットする(ステップ210)。尚、超過フラグがセットされていない場合(ステップ209:NO)には、このステップ210の処理は実行されない。そして、その上記ステップ201において取得した第1変化成分dθτを加算角θaとして演算する(ステップ211)。
そして、本実施形態の加算角調整演算部58は、このように上記ステップ208又はステップ211において演算した加算角θaを外部に出力する構成となっている(ステップ212)。
即ち、上記トルク偏差Δτに基づく第1変化成分dθτは、モータ12の実回転角と制御上の仮想的なモータ回転角との乖離の大きさに応じた値となる。従って、上記モータ回転角速度ωm_eに基づく第2変化成分dθωよりも、その値がモータ回転状態に左右されにくい。この点を踏まえ、本実施形態では、上記のように、モータ回転状態が低速領域にある場合には、当該第1変化成分dθτを加算角θaとする。尚、モータ回転角速度ωm_eに基づく第2変化成分dθωを用いて加算角θaを演算する最初の演算周期(ステップ204:YES、及びステップ205:NO)において、第1変化成分dθτをクリアするのは(ステップ207)、当該第1変化成分dθτが、第2変化成分dθωを用いなかった前回演算周期の状態を反映するものだからである。そして、本実施形態では、これにより、そのモータ回転状態に依らず、高精度な加算角演算が可能となっている。
ここで、本実施形態の加算角調整演算部58は、上記のようにトルク偏差Δτに基づく第1変化成分dθτ及び推定されるモータ回転角速度ωm_eに基づく第2変化成分dθωの加算値を加算角θaとする場合(Esq_αβ>E0、θa=dθω+dθτ)、トルク偏差Δτの符号に基づいて、その加算角θaの制限処理(補正)を実行する。
詳述すると、加算角調整演算部58は、図8(a)(b)に示すように、トルク偏差Δτの符号、即ち当該トルク偏差Δτに基づき上記第1変化成分dθτが演算される方向に対応する制限範囲を設定する。具体的には、本実施形態の加算角調整演算部58は、上記推定されるモータ回転角速度(推定モータ回転角速度)ωm_eに対応する第1の閾値dθlim1、及び当該第1の閾値dθlim1よりも推定モータ回転角速度(ωm_e)から離れた値を有した第2の閾値dθlim2を設定する。そして、その出力する制限処理後の加算角θa´が、これら第1の閾値dθlim1と第2の閾値dθlim2とにより規定される制限範囲内の値となるように、その加算角θaを制限(補正)する。
さらに詳述すると、図8(a)に示すように、トルク偏差Δτの符号が「正」である場合(Δτ>0)、加算角調整演算部58は、推定モータ回転角速度(ωm_e)を第1の閾値dθlim1として設定する(dθlim1=ωm_e)。また、当該推定モータ回転角速度(ωm_e)から「+側(正方向)」に所定値N1離れた値を第2の閾値dθlim2として設定する(dθlim2=ωm_e+N1)。
そして、加算角調整演算部58は、加算角θaの値が第2の閾値dθlim2よりも「+側」にある場合(θa>dθlim2)には、その制限処理後の値が第2の閾値dθlim2となるように、同加算角θaを補正する(θa´=dθlim2)。また、加算角θaの値が第1の閾値dθlim1よりも「−側」にある場合(θa<dθlim1)には、その制限処理後の値が第1の閾値dθlim1となるように同加算角θaを補正する(θa´=dθlim1)、
一方、図8(b)に示すように、トルク偏差Δτの符号が「負」である場合(Δτ<0)、加算角調整演算部58は、推定モータ回転角速度(ωm_e)を第1の閾値dθlim1として設定する(dθlim1=ωm_e)。また、当該推定モータ回転角速度(ωm_e)から「−側(負方向)」に所定値N1離れた値を第2の閾値dθlim2として設定する(dθlim2=ωm_e−N1)。
そして、加算角調整演算部58は、加算角θaの値が第2の閾値dθlim2よりも「−側」にある場合(θa<dθlim2)には、その制限処理後の値が第2の閾値dθlim2となるように、同加算角θaを補正する(θa´=dθlim2)。また、加算角θaの値が第1の閾値dθlim1よりも「+側」にある場合(θa>dθlim1)には、その制限処理後の値が第1の閾値dθlim1となるように同加算角θaを補正する(θa´=dθlim1)。
即ち、制限範囲は、第2の閾値dθlim2を設定した方向に設定される。尚、トルク偏差Δτが「0」である場合には、その直前の符号が用いられる。また、上記の所定値N1には、電流応答の限界に対応する値(例えば、5°程度)が設定される。そして、トルク偏差Δτに基づく第1変化成分dθτを加算角θaとする場合(Esq_αβ≦E0、θa=dθτ)には、このような加算角θaについての制限処理は実行されない。
図4に示すように、加算角演算部41は、このようにして演算した加算角θa(θa´)を制御角演算部42に出力する。また、制御角演算部42は、前回の演算周期において演算した制御角θcの前回値を記憶領域(図示略)に保持するとともに、当該前回値に上記加算角θaを加算することにより新たな制御角θcを演算する。そして、同制御角演算部42は、その当該新たな制御角θcにて、上記記憶領域に保持する前回値を更新することにより、その演算周期毎に、加算角θaの積算による制御角θcの演算を実行する構成となっている。
第2制御部26において、このようにして演算された制御上の仮想的なモータ回転角としての制御角θcは、上記α/β変換部53が出力する二相固定座標系(α/β座標系)のα軸電流値Iα及びβ軸電流値Iβとともに、γ/δ変換部60に入力される。そして、γ/δ変換部60は、当該α軸電流値Iα及びβ軸電流値Iβを、その制御角θcに従う回転座標系、即ちγ/δ座標系の直交座標上に写像することにより、γ/δ座標系の実電流値としてのγ軸電流値Iγ及びδ軸電流値Iδを演算する。
また、第2制御部26は、そのγ/δ座標系の電流指令値として、γ軸電流指令値Iγ*及びδ軸電流指令値Iδ*を演算する電流指令値演算部61を備えている。そして、電流指令値演算部61は、上記加算角演算部41において演算されたトルク偏差Δτ、及び目標操舵トルクτ*に基づいて、γ軸電流指令値Iγ*及びδ軸電流指令値Iδ*を演算する。
詳述すると、図9に示すように、本実施形態の電流指令値演算部61は、目標操舵トルクτ*と実際の操舵トルクτとの間のトルク偏差Δτに基づいて各演算周期におけるγ軸電流指令値Iγ*の増減値(γ軸電流増減値η)を演算するγ軸電流増減値演算部71と、入力されるγ軸電流増減値ηを演算周期毎に積算する積算制御部72とを備えている。
本実施形態のγ軸電流増減値演算部71は、トルク偏差Δτとγ軸電流増減値ηが関連付けられた二つのマップ(71a,71b)を備えている。具体的には、第1マップ71aは、目標操舵トルクτ*の符号(方向)が「正である場合(τ*>0)」に対応して形成される一方、第2マップ71bは、目標操舵トルクτ*の符号が「負である場合(τ*<0)」に対応して形成されている。尚、目標操舵トルクτ*が「0」である場合には、その直前の符号が用いられる。そして、γ軸電流増減値演算部71は、入力される目標操舵トルクτ*の符号に応じて参照するマップを切り替えつつ、そのトルク偏差Δτに基づいて、各演算周期におけるγ軸電流増減値ηを演算する。
即ち、目標操舵トルクτ*が「正の値」である場合にトルク偏差Δτが「正の値」、又は目標操舵トルクτ*の符号が「負の値」である場合にトルク偏差Δτが「負の値」にある状態は、モータ12が発生すべき目標トルクに対して実トルクが「不足」していることを示している。一方、目標操舵トルクτ*が「正の値」である場合にトルク偏差Δτが「負の値」、又は目標操舵トルクτ*の符号が「負の値」である場合にトルク偏差Δτが「正の値」にある状態は、モータ12が発生すべき目標トルクに対して実トルクが「過剰」であることを示している。そして、本実施形態のγ軸電流増減値演算部71は、そのトルク偏差Δτに示されるモータ12が発生すべき目標トルクに対する実トルクの過不足に基づいて、各演算周期におけるγ軸電流増減値ηを演算する。
具体的には、第1マップ71aにおいて、γ軸電流増減値ηは、トルク偏差Δτが「正の値」を有する所定値A1以上、且つ同じく「正の値」を有する所定値A2より小さい場合(A1≦Δτ<A2)には、当該トルク偏差Δτが大きな値となる程、より大きな絶対値を有する「正の値」となるように設定されている。また、トルク偏差Δτが所定値A1より小さく、且つ同じく「正の値」を有する所定値A3以上である場合(A3≦Δτ<A1)には、当該トルク偏差Δτが小さな値となるほど、より大きな絶対値を有する「負の値」となるように設定されている。そして、トルク偏差Δτが所定値A2以上である場合(A2≦Δτ)には、γ軸電流増減値ηが、一定の「正の値(最大増加値γ1)」となり、トルク偏差Δτが所定値A3より小さい場合(Δτ<A3)には、同γ軸電流増減値ηが、一定の「負の値(最大減少値γ2)」となるように設定されている。
一方、第2マップ71bにおいて、γ軸電流増減値ηは、トルク偏差Δτが「負の値」を有する所定値A4以下、且つ同じく「負の値」を有する所定値A5より大きい範囲にある場合(A5<Δτ≦A4)には、当該トルク偏差Δτが小さな値となる程、より大きな絶対値を有する「正の値」となるように設定されている。また、トルク偏差Δτが所定値A4より大きく、且つ同じく「負の値」を有する所定値A6以下である場合(A4<Δτ≦A6)には、当該トルク偏差Δτが大きな値(絶対値小)となるほど、より大きな絶対値を有する「負の値」となるように設定されている。そして、トルク偏差Δτが所定値A5以下である場合(Δτ≦A5)には、γ軸電流増減値ηが、一定の「正の値(最大増加値γ1)」となり、トルク偏差Δτが所定値A6より大きい場合(A6<Δτ)には、同γ軸電流増減値ηが、一定の「負の値(最大減少値γ2)」となるように設定されている。
本実施形態のγ軸電流増減値演算部71は、これら二つのマップ(71a,71b)を参照することにより、モータ12が発生すべき目標トルクに対して実トルクが「過剰」である場合(τ*>0においてΔτ<0、又はτ*<0においてΔτ>0)には、γ軸電流指令値Iγ*を低減するような「負の値」を有したγ軸電流増減値ηを演算する。
更に、本実施形態では、モータ12が発生すべき目標トルクに対して実トルクが「不足」することを示す領域についても、その「実トルクの不足」を許容する範囲が設定されている(τ*>0において0≦Δτ<A1、又はτ*<0においてA4<Δτ≦0)。そして、γ軸電流増減値演算部71は、そのトルク偏差Δτに示される「実トルクの不足」が上記許容範囲内にある場合にも、γ軸電流指令値Iγ*を低減するような「負の値」を有したγ軸電流増減値ηを演算する。
そして、本実施形態のγ軸電流増減値演算部71は、そのトルク偏差Δτに示される「実トルクの不足」が上記許容範囲を超える場合(τ*>0においてΔτ≧A1、又はτ*<0においてΔτ≦A4)には、γ軸電流指令値Iγ*を増大させるような「正の値」を有したγ軸電流増減値ηを演算する構成となっている。
一方、本実施形態の積算制御部72は、前回の演算周期における制御出力、即ちγ軸電流指令値Iγ*の前回値を記憶領域(図示略)に保持する。そして、積算制御部72は、入力されるγ軸電流増減値ηを当該前回値に加算することにより新たなγ軸電流指令値Iγ*を演算するとともに、当該新たなγ軸電流指令値Iγ*によって、その記憶領域に保持する前回値を更新する。
そして、本実施形態の電流指令値演算部61は、この積算制御部72の制御出力、即ちγ軸電流増減値ηの積算値をγ軸電流指令値Iγ*とする構成になっている。
図4に示すように、このようにして電流指令値演算部61により演算されたγ軸電流指令値Iγ*は、上記γ軸電流値Iγとともに、その対応する減算器74aに入力される。同様に、δ軸電流指令値Iδ*もまた、δ軸電流値Iδとともに、その対応する減算器74bに入力される。尚、本実施形態では、δ軸電流指令値Iδ*は「0」に固定される(Iδ*=0)。そして、これら各減算器74a,74bにおいて演算される電流偏差ΔIγ,ΔIδは、それぞれ、その対応する各F/B制御部75a,75bに入力される。
次に、各F/B制御部75a,75bは、その電流偏差ΔIγ,ΔIδ及び所定のフィードバックゲイン(比例:P、積分:I)に基づくフィードバック制御演算を実行することにより、γ/δ座標系の電圧指令値であるγ軸電圧指令値Vγ*及びδ軸電圧指令値Vδ*を演算する。尚、これら各F/B制御部75a,75bの実行するフィードバック制御演算の態様については、上記第1制御部25側の各F/B制御部34d,34qと同様であるため、その詳細な説明は省略する。
更に、これらのγ軸電圧指令値Vγ*及びδ軸電圧指令値Vδ*は、2相/3相変換部76において、三相(U,V,W)の交流座標上に写像される。そして、第2制御部26は、この2相/3相変換部76において生成された相電圧指令値Vu**,Vv**,Vw**を、上記PWM変換部27に出力する構成となっている。尚、このように、第2制御部26が実行するレゾルバレス制御の原理についての詳細は、例えば、上記特許文献1及び特許文献2等の記載を参照されたい。
また、図2に示すように、本実施形態のマイコン17は、上記モータレゾルバ23により検出される上記回転角θmの異常を検出する回転角異常検出部78を備えている。具体的には、本実施形態の回転角異常検出部78は、そのモータレゾルバ23が出力する正弦信号S_sin及び余弦信号S_cosの二乗和が適正範囲内にあるか否かを判定する。そして、その判定結果に基づいて、モータ12の実回転角として回転角θmの異常を検出する。尚、このような回転角異常検出の詳細については、例えば、特開2006−177750号公報等の記載を参照されたい。
更に、本実施形態では、この回転角異常検出部78による異常検出の結果は、回転角異常検出信号S_rsfとして上記モータ制御部24に入力される。そして、本実施形態のモータ制御部24は、回転角θmに異常のない場合には、上記第1制御部25が演算する相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に基づいてモータ制御信号を出力し、回転角θmに異常が生じた場合には、上記第2制御部26が演算する相電圧指令値Vu**,Vv**,Vw**に基づいて、そのモータ制御信号の出力を実行する。
即ち、第2制御部26は、モータ12の実回転角であるモータレゾルバ23により検出される回転角θmを用いることなく、制御上の仮想的なモータ回転角である制御角θcを用いて、その相電圧指令値Vu**,Vv**,Vw**を演算する。そして、本実施形態のECU11は、その第2制御部26が演算する相電圧指令値Vu**,Vv**,Vw**に基づいてモータ制御信号を生成することにより、回転角θmに異常が検出された後においても、安定的に、そのモータ制御を継続することが可能となっている。
(加算角制限による誤差補正)
次に、本実施形態の加算角調整演算部58が実行する加算角制限による誤差補正の態様について説明する。
図10に示すように、本実施形態では、三相固定座標の「U軸」に対して実回転座標(d/q座標)の「d軸」のなす角を実回転角(θm)とした場合において、当該実回転角(θm)と上記制御角θcとが一致する場合に、その「γ軸」と上記「d軸」とが一致するように同制御角θcに従う仮想座標としてのγ/δ座標が定義されている。そして、本実施形態のECU11(第2制御部26)は、その制御角θcと実回転角(θm)との乖離を示す負荷角θLの大きさ(正の値)が「0〜90°」の範囲に留まる限りにおいて、安定的に、そのモータ制御を実行することが可能となっている。
即ち、図4に示すように、第2制御部26は、トルクフィードバック制御を実行することにより、モータ12が発生すべき目標トルクに対する実トルクの過不足を示すトルク偏差Δτに基づいて制御角θcを演算する。そして、図10に示すように、γ軸電流値Iγが一定であるとすれば、上記安定的にモータ制御可能な範囲内において、負荷角θLが拡大するほど、より大きなq軸電流が流れ、そのq軸電流値Iqに対応したモータトルクが発生することになる(Iq=Iγ・sinθL)。
つまり、本実施形態では、目標トルクに対する実トルクの不足によりトルク偏差Δτが拡大した状況にあるほど、当該トルク偏差Δτに従って、より大きな加算角θaが演算される。そして、その加算角θaに応じた制御角θcの変化により負荷角θLが拡大し、当該負荷角θLに応じたq軸電流値Iqの変化によってモータトルクが増大することにより、その実トルクが目標トルクに追従する。
一方、その負荷角θLが、上記安定的にモータ制御可能な範囲を超えた場合、即ち、その大きさが「90°」を超える領域においては、上記負荷角θLの変化とq軸電流値Iqの変化との関係が逆転する。つまり、トルク偏差Δτが大きくなるほどモータトルクが減少し、その負荷角θLの拡大が助長されることになる。そして、当該負荷角θLの大きさが「180°」を超えた瞬間、そのモータ回転方向とは逆向きのモータトルクが発生することになる。従って、負荷角θLが上記安定的にモータ制御可能な範囲を超えることにより、モータ制御の状態は不安定化することになる。
また、上記のように、本実施形態の加算角演算部41(加算角調整演算部58)は、モータ12が高速回転状態にある場合(図7参照、Esq_αβ>閾値E0、ステップ204:YES)には、トルク偏差Δτに基づく第1変化成分dθτ及び推定モータ回転角速度(ωm_e)に基づく第2変化成分dθωの加算値を加算角θaとする(同図中、ステップ208)。つまり、本実施形態の加算角演算部41は、一演算周期あたりのモータ回転角変化量と等価的な意味を有するモータ回転角速度(推定値)ωm_eを基礎(ベース)としてトルクフィードバック制御を実行することにより加算角θaを演算する。そして、これにより、その高速回転領域におけるモータ制御の安定性を、より一層、高めることが可能となっている。
ここで、図11に示すように、推定モータ回転角速度(ωm_e)と実モータ回転角速度(ωm_r)との間に乖離、即ち推定誤差がある場合、当該推定モータ回転角速度(ωm_e)に基づく第2変化成分dθωに注目すると、負荷角θLは、実モータ回転角速度(ωm_r)よりも推定モータ回転角速度(ωm_e)の方が遅い場合に縮小する。そして、実モータ回転角速度(ωm_r)よりも推定モータ回転角速度(ωm_e)の方が速い場合に拡大することになる。
尚、同図に示すように、回転方向を「正」とした場合、推定モータ回転角速度(ωm_e)の方が遅い場合には「ωm_r−ωm_e>0」、当該推定モータ回転角速度(ωm_e)の方が速い場合には「ωm_r−ωm_e<0」となる。
上記構成では、理論上、こうした加算角θaに含まれるモータ回転角速度ωm_eの推定誤差の問題も、そのトルク偏差Δτに基づくトルクフィードバック制御の実行により演算される上記第1変化成分dθτによって打ち消すことが可能である。ところが、現実のトルクフィードバック制御には応答性の問題が存在する。このため、モータ制御の安定性を確保する観点からは、やはり、少なくとも負荷角θLが縮小する方向に、その加算角θaに含まれるモータ回転角速度ωm_eの推定誤差を補正することが望まれる。
しかしながら、上述のように、モータ12の個体差を考慮し、その想定される最大誤差により加算角θaを補正するとすれば、その補正により生ずる新たな誤差がトルク変動の発生要因となるおそれがある。
この点を踏まえ、本実施形態の加算角調整演算部58は、その制御上の仮想的なモータ回転角としての制御角θcと実回転角(θm)との乖離を示す負荷角(誤差角)θLを推定し、当該負荷角θLに基づいて、モータ制御の状態、詳しくはその安定性を判定する。そして、その判定結果に基づいて、図8(a)(b)に示される加算角制限の制限範囲(dθlim1〜dθlim2)を移動(シフト)させる。
詳述すると、本実施形態の加算角調整演算部58には、制御角演算部42により演算された制御角θc及び回転角速度推定演算部50により推定されたモータ回転角(θm_e、図6参照、ステップ103)が入力されるようになっている。そして、同加算角調整演算部58は、当該制御角θc及び推定モータ回転角(θm_e)に基づいて、上記負荷角θLを推定する(θL=θc−θm_e)。
また、本実施形態では、モータ制御の状態が安定的に維持された状態において、負荷角θLが推移すべき値の範囲に対応する「安定領域」として、その大きさ(絶対値)が所定角度(θ0)以下の領域が設定されている。そして、本実施形態の加算角調整演算部58は、その推定された負荷角θLが、当該安定領域を超えて拡大した場合(|θL|>θ0)には、図12(a)(b)に示すように、その想定される推定モータ回転角速度(ωm_e)の最大誤差に対応する所定値N2(例えば、1°程度)の分だけ、その加算角制限の制限範囲(dθlim1〜dθlim2)を移動(シフト)させる。
さらに詳述すると、図12(a)(b)に示すように、加算角調整演算部58は、負荷角θLが、安定領域外にある場合、上記トルク偏差Δτに基づき第1変化成分dθτが演算される方向に対応する制限範囲の設定方向において、第1の閾値dθlim1を、上記所定値N2の分だけ、推定モータ回転角速度(ωm_e)から離れた値に変更する。そして、この第1の閾値dθlim1の変更(移動)に合わせて第2の閾値dθlim2を当該方向に移動させることにより、その加算角制限の制限範囲を移動(シフト)させる。
具体的には、図12(a)に示すように、負荷角θLが安定領域外にある場合において、トルク偏差Δτの符号が「正」である場合(Δτ>0)、加算角調整演算部58は、第1の閾値dθlim1として、推定モータ回転角速度(ωm_e)から「+側(正方向)」に所定値N2離れた値を設定する(dθlim1=ωm_e+N2)。そして、第2の閾値dθlim2についても、同じく「+側」に所定値N2離れた値に変更する(dθlim2=ωm_e+N1+N2)。
一方、図12(b)に示すように、負荷角θLが安定領域外にあり、且つトルク偏差Δτの符号が「負」である場合(Δτ<0)、加算角調整演算部58は、第1の閾値dθlim1として、推定モータ回転角速度(ωm_e)から「−側(負方向)」に所定値N2離れた値を設定する(dθlim1=ωm_e−N2)。そして、第2の閾値dθlim2についても、同じく「−側」に所定値N2離れた値に変更する(dθlim2=ωm_e−N1−N2)。
そして、本実施形態では、これにより、トルク変動の発生を抑えつつ、加算角θaに含まれるモータ回転角速度ωm_eの推定誤差を補正して、安定的に、そのレゾルバレス制御を実行することが可能となっている。
即ち、拡大しようとする負荷角θLを縮小させるような上記トルク偏差Δτに基づく第1変化成分dθτが演算される状況では、加算角制限における制限範囲の設定方向もまた、その第1変化成分dθτが演算される方向と同じく、推定モータ回転角速度(ωm_e)の発生方向とは逆向きになる。具体的には、例えば、図11に示すように、推定モータ回転角速度(ωm_e)の発生方向が「正」である場合において、その負荷角θLを縮小させる「負」方向の上記第1変化成分dθτが演算される状況(Δτ<0)では、その加算角制限における制限範囲の設定方向もまた「負」となる。
ここで、その推定誤差を「N」とすると、推定モータ回転角速度(ωm_e)は、実モータ回転角速度(ωm_r)に当該推定誤差「N」を加算した値となる(ωm_e=ωm_r+N)。そして、上記トルク偏差Δτに基づく第1変化成分dθτが「0」となる最悪条件を仮定すると、図8(b)に示すように、推定モータ回転角速度(ωm_e)を上記制限範囲における第1の閾値dθlim1とした場合(dθlim1=ωm_e)、その推定誤差「N」の分だけ、負荷角θLの拡大が進むことになる(ωm_r−(ωm_r+N)<0)。
しかしながら、本実施形態では、上記のように、負荷角θLが安定領域外にある場合、図12(b)に示すように、その制限範囲における第1の閾値dθlim1の値が、推定モータ回転角速度(ωm_e)から「−側(負方向)」に、その想定される推定誤差「N」の最大値に対応する所定値N2離れた値に変更される。そして、これにより、その加算角θaに含まれるモータ回転角速度ωm_eの推定誤差「N」は、少なくとも、その負荷角θLが縮小する方向に補正される(ωm_r−((ωm_r+N)−N2)>0)。
つまり、本実施形態の加算角調整演算部58は、モータ制御の状態が安定的に維持された状況で、負荷角θLが推移する「安定領域」にある場合(|θL|≦θ0)には、その加算角θaに含まれるモータ回転角速度ωm_eの推定誤差「N」を許容することで、当該推定誤差「N」の補正により生ずるトルク変動を回避する。そして、負荷角θLが安定領域を超えて拡大した場合(|θL|>θ0)には、上記加算角制限における制限範囲の移動(シフト)により、その推定誤差「N」を少なくとも負荷角θLが縮小する方向に補正することにより、当該負荷角θLの拡大によるモータ制御の不安定化を回避する構成となっている。
次に、本実施形態の加算角調整演算部58による加算角制限における制限範囲設定の処理手順について説明する。
図13のフローチャートに示すように、加算角調整演算部58は、制御角演算部42により演算された制御角θc及び回転角速度推定演算部50により推定されたモータ回転角(θm_e)を取得すると(ステップ301)、先ず、これらの制御角θc及び推定モータ回転角(θm_e)に基づいて負荷角θLを推定する(θL=θc−θm_e、ステップ302)。
次に、加算角調整演算部58は、その演算された負荷角θLの正弦成分(の絶対値「|sinθL|」)を上記「安定領域」を規定する所定角度(θ0)に対応する所定の閾値B0と比較する(ステップ303)。尚、この場合において、閾値B0は、例えば「0.8」程度に設定される。そして、その負荷角θLの正弦成分(の絶対値)が、閾値B0以下である場合(|sinθL|≦B0、ステップ303:NO)には、当該負荷角θLは、安定領域にあると判定して、図8(a)(b)に示されるように、その推定モータ回転角速度(ωm_e)を第1の閾値dθlim1とする通常の制限範囲を設定する(ステップ304)。
一方、上記ステップ303において、負荷角θLの正弦成分(の絶対値)が、閾値B0を超える場合(|sinθL|>B0、ステップ303:YES)には、安定領域外にあると判定する。そして、図12(a)(b)に示されるように、その第1の閾値dθlim1を、推定モータ回転角速度(ωm_e)から、想定される推定誤差「N」の最大値に対応する所定値N2離れた値に変更することにより、その制限範囲の移動(シフト)を実行する(ステップ305)。
以上、本実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)加算角調整演算部58は、トルク偏差Δτに基づく第1変化成分dθτ及び推定モータ回転角速度(ωm_e)に基づく第2変化成分dθωの加算値を加算角θaとする。また、加算角調整演算部58は、トルク偏差Δτに基づき上記第1変化成分dθτが演算される方向に応じて、推定モータ回転角速度(ωm_e)に対応する第1の閾値dθlim1、及び当該第1の閾値dθlim1よりも推定モータ回転角速度(ωm_e)から離れた値を有した第2の閾値dθlim2を設定する。そして、これら第1の閾値dθlim1と第2の閾値dθlim2とにより規定される制限範囲内に加算角θaを制限(補正)する。更に、加算角調整演算部58は、制御上の仮想的なモータ回転角としての制御角θcと実回転角(θm)との乖離を示す負荷角θLを推定する。そして、その推定される負荷角θLが安定領域を超えて拡大した場合には、上記第1の閾値dθlim1を、推定モータ回転角速度(ωm_e)から、その想定される推定誤差「N」の最大値に対応する所定値N2離れた値に変更する。
即ち、拡大しようとする負荷角θLを縮小させるような上記トルク偏差Δτに基づく第1変化成分dθτが演算される状況では、加算角制限における制限範囲の設定方向もまた、その第1変化成分dθτが演算される方向と同じく、推定モータ回転角速度(ωm_e)の発生方向とは逆向きになる。そして、推定モータ回転角速度(ωm_e)を上記制限範囲における第1の閾値dθlim1とした場合、例えば、応答遅れ等により上記トルク偏差Δτに基づく第1変化成分dθτが「0」となる最悪条件では、加算角θaに含まれる推定モータ回転角速度(ωm_e)の推定誤差「N」分だけ、負荷角θLの拡大が進むことになる。
しかしながら、上記構成によれば、負荷角θLが安定領域外にある場合には、その制限範囲を規定する第1の閾値dθlim1の値が、推定モータ回転角速度(ωm_e)から、その想定される推定誤差「N」の最大値に対応する所定値N2離れた値に変更される。そして、これにより、その加算角θaに含まれるモータ回転角速度ωm_eの推定誤差「N」は、少なくとも、その負荷角θLが縮小する方向に補正される。
つまり、モータ制御の状態が安定的に維持された状況では、その加算角θaに含まれるモータ回転角速度ωm_eの推定誤差「N」を許容することで、当該推定誤差「N」の補正により生ずるトルク変動が回避される。そして、負荷角θLが安定領域を超えて拡大した場合には、その推定誤差「N」を少なくとも負荷角θLが縮小する方向に補正することにより、当該負荷角θLの拡大によるモータ制御の不安定化が回避される。その結果、トルク変動の発生を抑えつつ、加算角に含まれるモータ回転角速度の推定誤差を補正して、安定的にレゾルバレス制御を実行することができる。
(2)特に、上記のような加算角θaの制限処理によって、その加算角θaに含まれるモータ回転角速度ωm_eの推定誤差「N」を補正することで、その補正を最小限度に抑えることができる。即ち、加算角θaが上記第1の閾値dθlim1及び第2の閾値dθlim2により規定される制限範囲内にある場合には、その誤差補正が行われない。これにより、モータ12の個体差に起因した「誤差補正の実行により生ずる新たな誤差」の発生を抑制することができる。その結果、効果的にトルク変動の発生を抑えることができる。
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記実施形態では、本発明を所謂コラム型の電動パワーステアリング装置(EPS)1に具体化した。しかし、これに限らず、所謂ピニオン型やラックアシスト型等のEPSに適用してもよい。
・また、本発明は、EPS以外の用途に用いられるモータ制御装置に適用してもよい。尚、上記実施形態では、目標操舵トルクτ*と実際の操舵トルクτとの間のトルク偏差Δτを、「モータが発生すべき目標トルクと実トルクとの間のトルク偏差」として用いることとしたが、EPS以外の用途に適用する場合には、実際の「目標トルクと実トルクとの間のトルク偏差」を用いるとよい。
・上記実施形態では、第1の閾値dθlim1の変更(移動)に合わせて第2の閾値dθlim2を当該方向に移動させることにより、その加算角制限の制限範囲を移動(シフト)させることとした。しかし、これに限らず、第2の閾値dθlim2は、変更しなくともよく、また、第1の閾値dθlim1とは異なる移動量を設定してもよい。
・上記実施形態では、負荷角θLが安定領域内にある場合には、推定モータ回転角速度(ωm_e)を第1の閾値dθlim1とすることとしたが、必ずしも厳密に両者が一致するものでなくともよい。
・上記実施形態では、制御角θcから推定モータ回転角(θm_e)を減算することにより負荷角θLを推定し(図13参照、θL=θc−θm_e、ステップ302)、その正弦成分(の絶対値「|sinθL|」)に基づいて、当該負荷角θLが安定領域にあるか否かを判定した。
しかし、これに限らず、以下の電圧方程式に基づいて、直接的に、負荷角θLの正弦成分を推定する構成であってもよい。
sinθL=(−Vγ+R・Iγ+L・(d/dt)・Iγ−ωm・L・Iδ)/E
・・・(4)
但し、「R」はモータ抵抗、「L」はモータインダクタンス、そして、「E」は誘起電圧である。尚、誘起電圧「E」は、上記誘起電圧二乗和Esq_αβの平方根(√)から求めることができる。そして、式中のモータ回転角速度(ωm)には、推定モータ回転角速度(ωm_e)が代入される。
尚、上記実施形態では、「γ軸」に対して「90°」位相を進めた位置に「δ軸」を定義したが、δ軸電流指令値Iδ*を「0」に固定する場合(Iδ*=0)には、「γ軸」から「90°」位相が遅れた位置に「δ軸」を定義してもよく、その場合、これに合わせた電圧方程式を用いて、負荷角θLを推定すればよい。
・また、より直接的に、負荷角θLを上記「安定領域」を規定する所定角度(θ0)と比較する構成としてもよい。尚、この場合、所定角度(θ0)は、例えば「60°」程度に設定するとよい。
次に、以上の実施形態から把握することのできる技術的思想を効果とともに記載する。
(イ)前記モータ制御信号出力手段は、前記推定モータ回転角速度の推定誤差に対応する所定値分、前記第1の閾値を前記推定モータ回転角速度から離れた値に変更すること、を特徴とする。これにより、その加算角に含まれる推定誤差を補正して、負荷角の拡大によるモータ制御の不安定化を抑制することができる。
(ロ)前記所定値は、前記モータの個体差に基づき想定される最大値であること、を特徴とする。これにより、その加算角に含まれる推定誤差を少なくとも負荷角が縮小する方向に補正することができる。
(ハ)前記第1の閾値に合わせて前記第2の閾値を変更すること、を特徴とする。
1…電動パワーステアリング装置(EPS)、10…EPSアクチュエータ、11…ECU、12…モータ、12u,12v,12w…モータコイル、14…トルクセンサ、15…車速センサ、16…ステアリングセンサ、17…マイコン、18…駆動回路、21…電流センサ、23…モータレゾルバ、24…モータ制御部、25…第1制御部、26…第2制御部、27…PWM変換部、41…加算角演算部、42…制御角演算部、45…目標操舵トルク演算部、46…減算器、47…F/B制御部、50…回転角速度推定演算部、52…相電圧演算部、53…α/β変換部、54…外乱オブザーバ、58…加算角調整演算部、60…γ/δ変換部、61…電流指令値演算部、71…γ軸電流増減値演算部、71a…第1マップ、71b…第2マップ、72…積算制御部、75a,75b…F/B制御部、76…2相/3相変換部、78…回転角異常検出部、Iu,Iv,Iw…相電流値、θm…回転角、Id…d軸電流値、Iq…q軸電流値、Id*…d軸電流指令値、Iq*…q軸電流指令値、ΔId,ΔIq…電流偏差、Vu*,Vv*,Vw*…相電圧指令値、τ…操舵トルク、τ*…目標操舵トルク、Δτ…トルク偏差、A1〜A6…所定値、η…γ軸電流増減値、dθτ…第1変化成分、Iα…α軸電流値、Iβ…β軸電流値、Vα…α軸電圧値、Vβ…β軸電圧値、Eα,Eβ…誘起電圧、Eα_e,Eβ_e…誘起電圧推定値、Esq_αβ…誘起電圧二乗和、E0…閾値、ωm_e…モータ回転角速度(推定モータ回転角速度)、dθω…第2変化成分、θa,θa´…加算角、θc…制御角、Iγ…γ軸電流値、Iδ…δ軸電流値、Iγ*…γ軸電流指令値、Iδ*…δ軸電流指令値、ΔIγ,ΔIδ…電流偏差、Vu**,Vv**,Vw**…相電圧指令値、θs…操舵角、V…車速、θm_e…モータ回転角(推定モータ回転角)、θL…負荷角、B0…閾値、dθlim1…第1の閾値、dθlim2…第2の閾値、N1…所定値、ωm_r…実モータ回転角速度、N…推定誤差、N2…所定値、S_rsf…回転角異常検出信号。

Claims (2)

  1. モータ制御信号を出力するモータ制御信号出力手段と、前記モータ制御信号に基づいて三相の駆動電力をモータに供給する駆動回路とを備え、前記モータ制御信号出力手段は、前記モータが発生すべき目標トルクと実トルクとの間のトルク偏差に基づいてトルクフィードバック制御を実行することにより得られる第1変化成分及び推定モータ回転角速度に基づく第2変化成分の加算値を演算周期毎のモータ回転角変化量に相当する加算角とし、該加算角を積算することにより得られる制御上のモータ回転角に従う回転座標系において電流フィードバック制御を実行することにより、前記モータ制御信号を出力するモータ制御装置において、
    前記モータ制御信号出力手段は、前記トルク偏差に基づき前記第1変化成分が演算される方向に応じて、前記推定モータ回転角速度に対応する第1の閾値と該第1の閾値よりも前記推定モータ回転角速度から離れた値を有した第2の閾値とを設定し、これら第1及び第2の閾値により規定される制限範囲内に前記加算角を制限するとともに、
    前記制御上のモータ回転角と実回転角との乖離を示す負荷角を推定し、該負荷角が安定領域を超えて拡大した場合には、前記制限範囲の設定方向において、前記第1の閾値を前記負荷角が前記安定領域にある場合よりも前記推定モータ回転角速度から離れた値に変更すること、を特徴とするモータ制御装置。
  2. 請求項1に記載のモータ制御装置を備えた電動パワーステアリング装置。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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