JP5554991B2 - 温水循環用パイプ及びその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、エチレン−ビニルアルコール系共重合体(以下EVOHと略記することがある)から成形される温水循環用パイプに関する。さらに詳しくは、エチレン−ビニルアルコール共重合体の特徴である酸素ガスなどのガスバリア性に優れ、かつ、耐久性、耐屈曲性、耐腐食性、耐熱性及び耐寒性に優れる温水循環用パイプに関し、かかる温水循環用パイプは、特に温水の循環、供給、排出に用いるのに適する。
本発明の温水循環用パイプとは、温水循環法によるセントラルヒーティングや集中フロアヒーティング設備、道路凍結防止用消雪パイプ、住宅等の床暖房パイプ(FHP:Floor Heating Pipe)などのパイプであり、好ましくは多層構造体であるパイプである。
道路凍結防止や住宅の床暖房に使用される温水循環用パイプとしては、従来、鉄、銅、合金などの金属パイプが主に用いられている。これらの金属パイプは、施工時に地盤中、あるいは床下に設置させることが多いため、一度設置されるとその後の補修が困難である。しかもこれらの設備には、例えば約30年〜50年というような長期間にわたる耐久性が要求される。しかし、従来の金属パイプは溶接などが必要なため施工性に劣り、長期間にわたる使用等の劣化が原因で溶接部に漏水などを生じ易く、また、鉄製パイプの場合は特に錆びなど、腐食しやすいという欠点がある。
上記の点から、近年、金属パイプに代わり、継ぎ目が少なく溶接部での漏れの心配のないプラスチックパイプが温水の循環用パイプとして用いられるようになっており、例えば、架橋ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテンなどのポリオレフィン系材料からなるパイプが使用されている。しかしながら、プラスチックパイプを使用した場合には、金属パイプに比べて、パイプの溶接部などで漏れが少なくなるものの、プラスチックパイプのパイプ壁を通して、大気中の酸素ガスなどの気体がパイプ内に浸透し、これらの気体がパイプ内に流れる温水に溶解し、この溶解ガスによって温水循環機器本体等の金属部分が腐食する問題があった。
そのため、プラスチックパイプにガスバリア性を付与することで、大気中の酸素ガスなどの気体がパイプ壁を通して浸透するのを防止することが広く一般的に行われている。ガスバリア性を付与する手段としては、アルミニウムなどの金属材料やEVOH、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニリデン、及びポリアクリロニトリルなどのガスバリア樹脂材料の中から、特に酸素バリア性の優れた材料を選択し、これらの材料からなる層をプラスチックパイプの表面に設けることやパイプを構成するプラスチックの中にこれらの材料を配合することが挙げられている。
しかしながら、アルミニウムの層をプラスチックパイプの外側に設けた場合は、曲げ加工を行うとピンホールや破断などが発生して、ガスバリア性の低下が起こり易いという問題がある。また、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニリデン及びポリアクリロニトリルなどのプラスチックは成形加工性が良好ではないため、プラスチックパイプの外側に設けることが非常に困難という問題もある。
また、EVOHはポリビニルアルコールやポリ塩化ビニリデンなどに比べて成形加工性が優れていることから、プラスチックパイプの最外層に設けることが既に提案されているが(例えば、特許文献1、特許文献2参照。)、それにより得られるパイプは弾性率の高いEVOHを最外層に有していることにより、曲げ加工しにくく加工性に劣っている。そのため、場合によっては曲げ加工を行った箇所でキンク(折れ、曲がり)が生じて温水が流れにくくなったり、歪みによるクラックの発生がおきたりする。さらには、温水が循環した状態で外気温との温度差が大きくなり、パイプの表面に結露が発生したりするケースでは、EVOHの最外層が膠着したりするという問題点がある。
上記問題点を解決するために、本発明者らは、EVOHの改質を目的とした架橋技術に注目した。EVOHに架橋を施すという技術は従来から種々検討されている。例えば、特許文献3にはエポキシ基及びアリル基を有する化合物をEVOHに配合後、光あるいは熱により架橋するとの記載があるが、特許文献3の実施例の熱水溶断温度を見るとその効果は小さく、ほとんど架橋できていない。これはエポキシ基がほとんどEVOHと反応していないことが原因と考えられる。また、当該化合物を製造する際には、エポキシ基及びアリル基を有する化合物を多量に配合する必要があるため、これが残存あるいは溶出する等問題となることが懸念される。
特許文献4及び特許文献5にはEVOHは多官能アリル系化合物、多官能(メタ)アクリル系及び多価アルコール及び金属酸化物から選ばれる少なくとも一種の架橋剤及び架橋助剤を添加し、電子線を照射し、架橋するという記載があるが、これも添加剤が残存することによる問題が懸念される。また、架橋剤が溶融混練の段階でEVOHと反応することによりゲル化し、樹脂製造時の工業的な長期運転には問題があった。
特許文献6にはEVOHにアリルエーテル基を2つ以上有する化合物を添加し、電子線を照射し、架橋するという記載があるが、これも添加剤が残存することによる問題があると考えられる。
特許文献7には架橋剤としてトリアリルシアヌレート及びトリアリルイソシアヌレートを使用し、これらをEVOHと溶融混練した後に電子線照射しEVOHを架橋する方法が記載されているが、トリアリルシアヌレート及びトリアリルイソシアヌレートが残存し、溶出等の問題が懸念される。また、トリアリルシアヌレート及びトリアリルイソシアヌレートが溶融混練の段階でEVOHと反応することによりゲル化し長期運転には問題があった。
特許文献8には、EVOHフィルムを水と接触させて含水状態にして電子線を照射することにより架橋する方法が記載されている。しかし、この方法の場合、フィルムを長時間水中に浸漬させる必要があり、高速生産が困難であるという問題があった。
特許文献9には、EVOHに特定のエポキシ化合物を反応させて変性することにより、ガスバリア性をなるべく保ちながら柔軟性を改善することが記載されている。しかし、変性により融点が大きく低下する問題点を有し、このままでは耐熱性が要求される用途に使用することが困難であった。また、特許文献10には、特許文献9に記載された変性EVOHと未変性のEVOHとからなる樹脂組成物が記載されている。
特開昭61−83035号公報 特開昭61−140691号公報 特開昭63−8448号公報 特開平5−271498号公報 特開平9−157421号公報 特開平9−234833号公報 特開昭62−252409号公報 特開昭56−49734号公報 WO02/092643号 WO03/072653号
本発明は、このような従来技術の欠点を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、有害な架橋剤をほとんど含有せず、従来のエチレン−ビニルアルコール系共重合体の高度なガスバリア性を維持し、耐久性、耐屈曲性、耐腐食性、耐熱性及び耐寒性に優れ、温水の循環・供給・排出に適する温水循環用パイプを提供することにある。また、そのような温水循環用パイプを製造するための好適な製造方法を提供することを目的とするものである。
上記目的は、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(C)(以下、変性EVOH(C)と称する)からなる温水循環用パイプであって、変性EVOH(C)は未変性のエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)(以下、未変性のEVOH(A)と称する)を、二重結合を有するエポキシ化合物(B)(以下、エポキシ化合物(B)と称する)で変性して得られたものであり、エポキシ化合物(B)による変性量が未変性のEVOH(A)のモノマー単位に対して0.1〜10モル%であり、変性EVOH(C)の少なくとも一部が架橋されていて、かつ、そのゲル分率が10質量%以上であることを特徴とする温水循環用パイプを提供することによって解決される。
なお、本明細書において「温水」とは、水そのものだけではなく、水にエチレングリコールなどの添加剤を少量混合した媒体も包含する。そして、「温かい」とは必ずしも30℃〜70℃程度の「温水」だけを指すのだけではなく、外気温よりも相対的に温度が高く、氷を融解させるだけの熱量を有するような「温水」も包含する。
また、上記課題は、変性EVOH(C)及び未変性のエチレン−ビニルアルコール系共重合体(D)(以下、未変性のEVOH(D)と称する)を含有する樹脂組成物からなる温水循環用パイプであって、変性EVOH(C)は未変性のEVOH(A)をエポキシ化合物(B)で変性して得られたものであり、エポキシ化合物(B)による変性量が未変性のEVOH(A)のモノマー単位に対して0.1〜10モル%であり、該樹脂組成物の少なくとも一部が架橋されていて、かつ、そのゲル分率が10質量%以上であることを特徴とする温水循環用パイプを提供することによって解決される。
上記温水循環用パイプにおいて、未変性のEVOH(A)のエチレン含有量が5〜55モル%であり、かつケン化度が90モル%以上であることが好ましい。エポキシ化合物(B)が分子量500以下の一価エポキシ化合物、特に、アリルグリシジルエーテルであることも好ましい。
本発明の温水循環用パイプは、好適には、変性EVOH(C)からなる層と、変性EVOH(C)以外の樹脂(F)(以下、単に樹脂(F)と称する)からなる層を有する多層構造体からなる。また、好適には、変性EVOH(C)及び未変性のEVOH(D)を含有する樹脂組成物からなる層と、樹脂(F)からなる層とを有する多層構造体からなる。さらに好適には、本発明の温水循環用パイプは、変性EVOH(C)からなる層、または変性EVOH(C)及び未変性のEVOH(D)を含有する樹脂組成物からなる層を最外層に配置した多層構造体からなる。これらの多層構造体において、樹脂(F)がポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリカーボネート、アクリル樹脂及びポリビニルエステルからなる群から選択された少なくとも1種であることが好ましい。また、樹脂(F)がエラストマーであることも好ましい。
上記課題は、変性EVOH(C)からなる温水循環用パイプの製造方法であって、未変性のEVOH(A)をエポキシ化合物(B)で変性して変性EVOH(C)を製造し、該変性EVOH(C)を成形してパイプを得てから、変性EVOH(C)の少なくとも一部を架橋させて、かつ、そのゲル分率を10質量%以上にすることを特徴とする温水循環用パイプの製造方法を提供することによっても解決される。
また、上記課題は、変性EVOH(C)及び未変性のEVOH(D)を含有する樹脂組成物からなる温水循環用パイプの製造方法であって、未変性のEVOH(A)を、エポキシ化合物(B)で変性して変性EVOH(C)を製造し、該変性EVOH(C)と未変性のEVOH(D)とを混合して樹脂組成物を製造し、該樹脂組成物を成形してパイプを得てから、該樹脂組成物の少なくとも一部を架橋させて、かつ、そのゲル分率を10質量%以上にすることを特徴とする温水循環用パイプの製造方法を提供することによっても解決される。
本発明の温水循環用パイプを得るための好適な製造方法は、押出成形、射出成形、異形成形、押出ブロー成形、共押出ブロー成形、共射出成形、コーティングである。
上記製造方法において、未変性のEVOH(A)のエチレン含有量が5〜55モル%であり、かつケン化度が90モル%以上であることが好ましい。エポキシ化合物(B)が分子量500以下の一価のエポキシ化合物、特にアリルグリシジルエーテルであることも好ましい。
上記製造方法において、電子線、X線、γ線、紫外線及び可視光線からなる群より選択される少なくとも1種を照射するか、加熱を行うことにより、変性EVOH(C)を架橋させる。また、変性EVOH(C)に対して未変性のEVOH(D)を配合した樹脂組成物を同様に成形、架橋することによっても温水循環用パイプが提供される。
すなわち、本発明の目的は、好適には以下のような方法によって達成される。まず、EVOHにエポキシ基および二重結合の両方を有する化合物を反応させる。このとき、触媒存在下で加熱して反応させた後、触媒を添加剤により失活させ、過剰の二重結合を有するエポキシ化合物を除去することが好ましい。こうして二重結合を有する変性EVOHが製造される。好ましくはこれを溶融成形あるいは溶融コーティングにより成形した後、電子線、X線、γ線、紫外線及び可視光線からなる群より選択される少なくとも1種を照射するか、加熱を行うことにより当該変性EVOHを架橋させる。以上のようにして、高度なガスバリア性を維持し、耐久性、耐屈曲性、耐腐食性、耐熱性及び耐寒性に優れた、変性EVOHからなる温水循環用パイプが提供される。また、二重結合を有する変性EVOHに対して未変性のEVOHを配合した樹脂組成物を、同様に成形、架橋することによってもガスバリア性を保ち、耐久性、耐屈曲性、耐腐食性、耐熱性及び耐寒性に優れた温水循環用パイプが提供される。
本発明により、有害な架橋剤をほとんど含有せず、従来のエチレン−ビニルアルコール系共重合体の高度なガスバリア性を維持し、耐久性、耐屈曲性、耐腐食性、耐熱性及び耐寒性に優れた、温水の循環・供給・排出に適する温水循環用パイプを提供することができる。また、そのような温水循環用パイプを製造するための好適な製造方法を提供することができる。
本発明に用いる変性EVOH(C)は、未変性のEVOH(A)の水酸基に、エポキシ化合物(B)を反応させたものである。
本発明に用いる未変性のEVOH(A)のエチレン含有量は5〜55モル%であることが好ましく、より好適には20〜55モル%、更に好適には25〜50モル%である。エチレン含有量が5モル%より小さい場合は耐水性に劣り、60モル%より大きい場合はガスバリア性に劣る。得られる変性EVOH(C)のエチレン含有量は、原料の未変性のEVOH(A)のエチレン含有量と同じである。
未変性のEVOH(A)のケン化度は90モル%以上が好ましく、好適には98モル%以上、更に好適には99モル%以上である。ケン化度が90モル%より小さい場合はガスバリア性及び熱安定性に劣る。
また、後述する通り、本発明の変性EVOH(C)は、好適には、未変性のEVOH(A)とエポキシ化合物(B)との反応を押出機内で行わせることによって得られるが、その際に、未変性のEVOH(A)は加熱条件下に晒される。この時に、該EVOH(A)が過剰にアルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩を含有していると、得られる変性EVOH(C)に着色が生じるおそれがある。また、変性EVOH(C)の粘度低下等の問題が生じ、成形性が低下するおそれがある。また、後述のように触媒を使用する場合には、触媒を失活させるため、それらの添加量はできるだけ少ないことが好ましい。
上記の問題を回避するためには、未変性のEVOH(A)が含有するアルカリ金属塩が金属元素換算値で50ppm以下であることが好ましい。より好ましい実施態様では、EVOH(A)が含有するアルカリ金属塩が金属元素換算値で30ppm以下であり、更に好ましくは20ppm以下である。また、同様な観点から、未変性のEVOH(A)が含有するアルカリ土類金属塩が金属元素換算値で20ppm以下であることが好ましく、10ppm以下であることがより好ましく、5ppm以下であることが更に好ましく、未変性のEVOH(A)にアルカリ土類金属塩が実質的に含まれていないことが最も好ましい。
本発明に用いる未変性のEVOH(A)の好適なメルトフローレート(MFR)(190℃、2160g荷重下)は0.1〜100g/10分であり、好適には0.3〜30g/10分、更に好適には0.5〜20g/10分である。但し、融点が190℃付近あるいは190℃を超えるものは2160g荷重下、融点以上の複数の温度で測定し、片対数グラフで絶対温度の逆数を横軸、MFRの対数を縦軸にプロットし、190℃に外挿した値で示す。MFRの異なる2種以上の未変性のEVOH(A)を混合して用いることもできる。
本発明に用いるエポキシ化合物(B)は、分子中にエポキシ基を1個及び二重結合1個又は複数個存在するものが好ましい。すなわち、一価エポキシ化合物であることが好ましい。また、分子量は500以下であることが好ましい。エポキシ基を複数個有するものは変性の際に架橋する問題がある。また、上記二重結合の種類としては特に好適には1置換オレフィンであるビニル基であり、次に好適には2置換オレフィンであるビニレン基あるいはビニリデン基である。次に好適には3置換オレフィンである。4置換オレフィンは反応性に乏しいため、本発明の目的には適していない。
また、エポキシ化合物(B)として、過剰に添加したものを容易に変性EVOH(C)から除去できるものが好ましい。その除去方法としては、押出機のベントから揮発させて除去することが現実的である。したがって、沸点が250℃以下であることが好適であり、200℃以下であることがより好適である。また、エポキシ化合物(B)の炭素数が4〜10であることが好ましい。このような二重結合を有するエポキシ化合物の具体例としては、1,2−エポキシ−3−ブテン、1,2−エポキシ−4−ペンテン、1,2−エポキシ−5−ヘキセン、1,2−エポキシ−4−ビニルシクロヘキサン、アリルグリシジルエーテル、メタアリルグリシジルエーテル、エチレングリコールアリルグリシジルエーテル等が挙げられ、特に好ましくはアリルグリシジルエーテルが挙げられる。また、押出機のベントから水洗除去することも可能であり、この場合、エポキシ化合物(B)が水に可溶であることも好ましい。
エポキシ化合物(B)と未変性のEVOH(A)の反応の条件は特に制限されないが、WO02/092643号(特許文献9)に記載の方法と同様に、押出機中で未変性のEVOH(A)にエポキシ化合物(B)を反応させることが好ましい。このとき、触媒を添加することが好ましく、その場合、反応後に失活剤としてカルボン酸塩を添加することが好ましい。押出機内で、溶融状態の未変性のEVOH(A)に対してエポキシ化合物(B)を添加することが、エポキシ化合物(B)の揮散を防止できるとともに反応量を制御しやすく、好ましい。過剰に添加したエポキシ化合物(B)は押出機のベントから除去可能である。更に、得られたペレットを温水で洗浄することにより、残存するエポキシ化合物(B)の除去が可能であると同時に、残存触媒も除去可能である。
使用する触媒は、周期律表第3〜12族に属する金属のイオンを含むものであることが好ましい。触媒に用いる金属イオンとして最も重要なことは適度のルイス酸性を有することであり、この点から周期律表第3〜12族に属する金属のイオンが用いられる。これらの中でも、周期律表第3族又は第12族に属する金属のイオンが適度なルイス酸性を有していて好適であり、亜鉛、イットリウム及びガドリニウムのイオンがより好適なものとして挙げられる。中でも、亜鉛のイオンを含む触媒が、触媒活性が極めて高く、かつ得られる変性EVOH(C)の熱安定性が優れていて、最適である。
周期律表第3〜12族に属する金属のイオンの添加量は未変性のEVOH(A)の質量に対する金属イオンのモル数で0.1〜20μmol/gであることが好適である。多すぎる場合には、溶融混練中に未変性のEVOH(A)がゲル化するおそれがあり、より好適には10μmol/g以下である。一方、少なすぎる場合には、触媒の添加効果が十分に奏されないおそれがあり、より好適には0.5μmol/g以上である。なお、周期律表第3〜12族に属する金属のイオンの好適な添加量は、使用する金属の種類や後述のアニオンの種類によっても変動するので、それらの点も考慮した上で、適宜調整される。
周期律表第3〜12族に属する金属のイオンを含む触媒のアニオン種は特に限定されないが、その共役酸が硫酸と同等以上の強酸である1価のアニオンを含むことが好ましい。共役酸が強酸であるアニオンは、通常求核性が低いのでエポキシ化合物(B)と反応しにくく、求核反応によってアニオン種が消費されて、触媒活性が失われることを防止できるからである。また、そのようなアニオンを対イオンに有することで、触媒のルイス酸性が向上して触媒活性が向上するからである。
共役酸が硫酸と同等以上の強酸である1価のアニオンとしては、メタンスルホン酸イオン、エタンスルホン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、ベンゼンスルホン酸イオン、トルエンスルホン酸イオン等のスルホン酸イオン;塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン等のハロゲンイオン;過塩素酸イオン;テトラフルオロボレートイオン(BF )、ヘキサフルオロホスフェートイオン(PF )、ヘキサフルオロアルシネートイオン(AsF )、ヘキサフルオロアンチモネートイオン等の4個以上のフッ素原子を持つアニオン;テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートイオン等のテトラフェニルボレート誘導体イオン;テトラキス(3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル)ボレート、ビス(ウンデカハイドライド−7,8−ジカルバウンデカボレート)コバルト(III)イオン、ビス(ウンデカハイドライド−7,8−ジカルバウンデカボレート)鉄(III)イオン等のカルボラン誘導体イオンなどが例示される。これらの中でもスルホン酸イオンが好ましく、トリフルオロメタンスルホン酸イオンが特に好ましい。
上述のように、使用する触媒はその共役酸が硫酸と同等以上の強酸である1価のアニオンを含むものであることが好適であるが、触媒中の全てのアニオン種が同一のアニオン種である必要はない。むしろ、その共役酸が弱酸であるアニオンを同時に含有するものであることが好ましい。
共役酸が弱酸であるアニオンの例としては、アルキルアニオン、アリールアニオン、アルコキシド、アリールオキシアニオン、カルボキシレート並びにアセチルアセトナート及びその誘導体が例示される。中でもアルコキシド、カルボキシレート並びにアセチルアセトナート及びその誘導体が好適に使用される。
触媒中の金属イオンのモル数に対する、共役酸が硫酸と同等以上の強酸であるアニオンのモル数は、0.2〜1.5倍であることが好ましい。上記モル比が0.2倍未満である場合には触媒活性が不十分となるおそれがあり、より好適には0.3倍以上であり、更に好適には0.4倍以上である。一方、上記モル比が1.5倍を超えると変性EVOH(C)がゲル化するおそれがあり、より好適には1.2倍以下である。前記モル比は最適には1倍である。なお、原料の未変性のEVOH(A)が酢酸ナトリウムなどのアルカリ金属塩を含む場合には、それと中和されて消費される分だけ、共役酸が硫酸と同等以上の強酸であるアニオンのモル数を増やしておくことができる。
触媒の調製方法は特に限定されないが、好適な方法として、周期律表第3〜12族に属する金属の化合物を溶媒に溶解又は分散させ、得られた溶液又は懸濁液に、共役酸が硫酸と同等以上のスルホン酸等の強酸を添加する方法が挙げられる。原料として用いる周期律表第3〜12族に属する金属の化合物としては、アルキル金属、アリール金属、金属アルコキシド、金属アリールオキシド、金属カルボキシレート、金属アセチルアセトナート等が挙げられる。ここで、かかる金属化合物の溶液又は懸濁液に、強酸を加える際には、少量ずつ添加することが好ましい。こうして得られた触媒を含有する溶液は押出機に直接導入することができる。
前記した金属化合物を溶解又は分散させる溶媒としては有機溶媒、特にエーテル系溶媒が好ましい。押出機内の温度でも反応しにくく、金属化合物の溶解性も良好だからである。エーテル系溶媒の例としては、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル等が例示される。使用される溶媒としては、金属化合物の溶解性に優れ、沸点が比較的低くて押出機のベントでほぼ完全に除去可能なものが好ましい。その点においてジエチレングリコールジメチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン及びテトラヒドロフランが特に好ましい。
また、上述の触媒の調製方法において、添加する強酸の代わりに強酸のエステル、例えばスルホン酸エステル等を用いても良い。強酸のエステルは、通常強酸そのものより反応性が低いために、常温では金属化合物と反応しないことがあるが、200℃前後に保った高温の押出機内に投入することにより、押出機内において活性を有する触媒を生成することができる。
触媒の調製方法としては、以下に説明する別法も採用可能である。まず、水溶性の前記した金属化合物と、共役酸が硫酸と同等以上のスルホン酸等の強酸とを、水溶液中で混合して触媒水溶液を調製する。なおこのとき、当該水溶液が適量のアルコールを含んでいても構わない。得られた触媒水溶液を未変性のEVOH(A)と接触させた後、乾燥することによって触媒が配合された未変性のEVOH(A)を得ることができる。具体的には、未変性のEVOH(A)のペレット、特に多孔質の含水ペレットを前記触媒水溶液に浸漬する方法が好適なものとして挙げられる。この場合には、このようにして得られた乾燥ペレットを押出機に導入することができる。
使用される触媒失活剤は、触媒のルイス酸としての働きを低下させるものであればよく、その種類は特に限定されない。好適にはアルカリ金属塩が使用される。その共役酸が硫酸と同等以上の強酸である1価のアニオンを含む触媒を失活させるには、当該アニオンの共役酸よりも弱い酸のアニオンのアルカリ金属塩を使用することが必要である。こうすることによって、触媒を構成する周期律表第3〜12族に属する金属のイオンの対イオンが弱い酸のアニオンに交換され、結果として触媒のルイス酸性が低下するからである。触媒失活剤に使用されるアルカリ金属塩のカチオン種は特に限定されず、ナトリウム塩、カリウム塩及びリチウム塩が好適なものとして例示される。またアニオン種も特に限定されず、カルボン酸塩、リン酸塩及びホスホン酸塩が好適なものとして例示される。
触媒失活剤として、例えば酢酸ナトリウムやリン酸一水素二カリウムのような塩を使用しても熱安定性はかなり改善されるが、用途によっては未だ不十分である場合がある。この原因は、周期律表第3〜12族に属する金属のイオンにルイス酸としての働きがある程度残存しているため、変性EVOH(C)の分解及びゲル化に対して触媒として働くためであると考えられる。この点を更に改善する方法として、周期律表第3〜12族に属する金属のイオンに強く配位するキレート化剤を添加することが好ましい。このようなキレート化剤は当該金属のイオンに強く配位できる結果、そのルイス酸性をほぼ完全に失わせることができ、熱安定性に優れた変性EVOH(C)を与えることができる。また、当該キレート化剤がアルカリ金属塩であることによって、前述のように触媒に含まれるアニオンの共役酸である強酸を中和することもできる。
触媒失活剤として使用されるキレート化剤として、好適なものとしては、オキシカルボン酸塩、アミノカルボン酸塩、アミノホスホン酸塩などが挙げられる。具体的には、オキシカルボン酸塩としては、クエン酸二ナトリウム、酒石酸二ナトリウム、リンゴ酸二ナトリウム等が例示される。アミノカルボン酸塩としては、ニトリロ三酢酸三ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸三ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸三カリウム、ジエチレントリアミン五酢酸三ナトリウム、1,2−シクロヘキサンジアミン四酢酸三ナトリウム、エチレンジアミン二酢酸一ナトリウム、N−(ヒドロキシエチル)イミノ二酢酸一ナトリウム等が例示される。アミノホスホン酸塩としては、ニトリロトリスメチレンホスホン酸六ナトリウム、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)八ナトリウム等が例示される。中でもポリアミノポリカルボン酸が好適であり、性能やコストの面からエチレンジアミン四酢酸のアルカリ金属塩が最適である。
触媒失活剤の添加量は特に限定されず、触媒に含まれる金属イオンの種類や、キレート剤の配位座の数等により適宜調整されるが、触媒に含まれる金属イオンのモル数に対する触媒失活剤のモル数の比が0.2〜10となるようにすることが好適である。比が0.2未満の場合には、触媒が十分に失活されないおそれがあり、より好適には0.5以上、更に好適には1以上である。一方、比が10を超える場合には、得られる変性EVOHが着色するおそれがあるとともに、製造コストが上昇するおそれがあり、より好適には5以下であり、更に好適には3以下である。
触媒失活剤を押出機へ導入する方法は特に限定されないが、均一に分散させるためには、溶融状態の変性EVOH(C)に対して、触媒失活剤の溶液として導入することが好ましい。触媒失活剤の溶解性や、周辺環境への影響などを考慮すれば、水溶液として添加することが好ましい。
触媒失活剤の押出機への添加位置は、未変性のEVOH(A)とエポキシ化合物(B)とを、触媒の存在下に溶融混練した後であればよい。しかしながら、未変性のEVOH(A)とエポキシ化合物(B)とを、触媒の存在下に溶融混練し、未反応のエポキシ化合物(B)を除去した後に触媒失活剤を添加することが好ましい。前述のように、触媒失活剤を水溶液として添加する場合には、未反応のエポキシ化合物(B)を除去する前に触媒失活剤を添加したのでは、ベント等で除去して回収使用するエポキシ化合物(B)の中に水が混入することになり、分離操作に手間がかかるからである。なお、触媒失活剤の水溶液を添加した後で、ベント等によって水分を除去することも好ましい。
変性EVOH(C)の製造方法において、触媒失活剤を使用する場合の好適な製造プロセスとしては、(1)未変性のEVOH(A)の溶融工程;(2)エポキシ化合物(B)と触媒の混合物の添加工程;(3)未反応のエポキシ化合物(B)の除去工程;(4)触媒失活剤水溶液の添加工程;(5)水分の減圧除去工程;の各工程からなるものが例示される。
反応を円滑に行う観点からは、系内から水分及び酸素を除去することが好適である。このため、押出機内へエポキシ化合物(B)を添加するより前に、ベント等を用いて水分及び酸素を除去しても良い。
エポキシ化合物(B)による変性EVOH(C)の変性量としては、未変性のEVOH(A)のモノマー単位に対して0.1〜10モル%の範囲であり、より好適には0.3〜5モル%の範囲であり、更に好適には0.5〜3モル%の範囲である。変性量が0.1モル%以下の場合、変性の効果が小さく、また、10モル%を超える場合、ガスバリア性及び熱安定性が低下するという欠点がある。
変性EVOH(C)の好適なメルトフローレート(MFR)(190℃、2160g荷重下)は0.1〜100g/10分であり、好適には0.3〜30g/10分、更に好適には0.5〜20g/10分である。但し、融点が190℃付近あるいは190℃を超えるものは2160g荷重下、融点以上の複数の温度で測定し、片対数グラフで絶対温度の逆数を横軸、MFRの対数を縦軸にプロットし、190℃に外挿した値で示す。
こうして得られた変性EVOH(C)を成形して本発明の温水循環用パイプが製造される。このとき、変性EVOH(C)以外の樹脂や各種添加物を配合しても構わない。なかでも、変性EVOH(C)に未変性のEVOH(D)を配合した樹脂組成物を成形して本発明の温水循環用パイプを製造することが、特に好適な実施態様である。一般に変性EVOH(C)の製造コストは、未変性のEVOH(D)よりも高いので、二重結合濃度の高い変性EVOH(C)と未変性のEVOH(D)とを混合して所望の二重結合濃度を有する樹脂組成物を製造することが経済的である。前述のような方法によって押出機内で反応させることによって、変性量の大きい変性EVOH(C)を容易に製造できるから、このような樹脂組成物が容易に得られる。また、樹脂組成物の二重結合濃度を、用途に応じて調整することも容易である。未変性のEVOH(D)としては、既に説明した未変性のEVOH(A)と同様のものを使用することができる。
変性EVOH(C)と未変性のEVOH(D)を含有する樹脂組成物における配合質量比(C/D)は特に限定されない。該樹脂組成物の二重結合濃度を所望の範囲にして耐熱水性に優れた温水循環用パイプを得るためには、比(C/D)の下限値は2/98であることが好ましく、5/95であることがより好ましく、15/85以上であることが更に好ましく、20/80以上であることが特に好ましい。一方、製造コスト及びバリア性の面からは、比(C/D)の上限値は60/40であることが好ましく、40/60であることがより好ましい。
変性EVOH(C)と未変性のEVOH(D)を配合する方法は特に限定されない。溶融混練して配合しても構わないし、溶液中で配合しても構わない。生産性の観点からは溶融混練することが好ましく、例えば変性EVOH(C)と未変性のEVOH(D)のペレットを用いて溶融混練することが好適な態様である。
変性EVOH(C)と未変性のEVOH(D)を含有する樹脂組成物における、エポキシ化合物(B)による変性量は、未変性のEVOH(A)のモノマー単位と未変性のEVOH(D)のモノマー単位の合計量に対して、好適には0.1〜10モル%の範囲であり、より好適には0.3〜5モル%の範囲であり、更に好適には0.5〜3モル%の範囲である。
変性EVOH(C)、あるいは変性EVOH(C)と未変性のEVOH(D)を含有する樹脂組成物には必要に応じて各種添加剤を配合することもできる。このような添加剤の例としては、増感剤、硬化剤、硬化促進剤、酸化防止剤、可塑剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、着色剤、充填材、あるいは他の高分子化合物を挙げることができ、これらを本発明の作用効果が阻害されない範囲で配合することができる。添加剤の具体例としては次のようなものが挙げられる。
増感剤:ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル、ベンジルジフェニルジスルフィド、テトラメチルチウラムモノサルファイド、アゾビスブチロニトリル、ジベンジル、ジアセチル、アセトフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、ベンゾフェノン、2−クロロチオキサントン、2−メチルチオキサントン等。
硬化剤:メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサンパーオキサイド、クメンパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルパーベンゾエート等。
硬化促進剤:2−エチルヘキサン酸コバルト、ナフテン酸コバルト、2−エチルヘキサン酸マンガン、ナフテン酸マンガン等の金属石鹸や、メチルアニリン、ジメチルアニリン、ジエチルアニリン、メチル−p−トルイジン、ジメチル−p−トルイジン、メチル−2−ヒドロキシエチルアニリン、ジ−2−ヒドロキシエチル−p−トルイジンなどのアミン又はその塩酸、酢酸、硫酸、リン酸などの塩。
酸化防止剤:2,5−ジブチル−t−ブチルハイドロキノン、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、4,4’−チオビス−(6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレン−ビス−(4−メチル−6−ブチルフェノール)、オクタデシル−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピロネート、4,4’−チオビス−(6−t−ブチルフェノール)等。
可塑剤:フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、ワックス、流動パラフィン、リン酸エステル等。
紫外線吸収剤:エチレン−2−シアノ−3,3’−ジフェニルアクリレート、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチルフェニル)5−クロロトリアゾール、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、(2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン等。
帯電防止剤:ペンタエリスリトールモノステアレート、ソルビタンモノパルミテート、硫酸化オレイン酸、ポリエチレンオキシド、カーボワックス等。
着色剤:カーボンブラック、フタロシアニン、キナクリドン、アゾ系顔料、酸化チタン、ベンガラ等。
充填剤:グラスファイバー、マイカ、セライト、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、炭酸カルシウム、酸化ケイ素、モンモリロナイト等。
他の高分子化合物:エチレン−ブテン共重合体、エチレン−プロピレン共重合体等のポリオレフィン;カルボキシル基などの官能基で変性された変性ポリオレフィン;ポリアミド、ポリエステル、ポリスチレン、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル等。
上記の目的に応じて必要により添加剤を添加した変性EVOH(C)を含有する樹脂組成物を溶融成形により本発明の温水循環用パイプに成形する。このような場合の条件について次に述べる。
変性EVOH(C)、あるいは変性EVOH(C)と未変性のEVOH(D)を含有する樹脂組成物を成形し、次いで変性EVOH(C)を架橋させることで、本発明の温水循環用パイプが得られる。溶融成形する場合、変性EVOH(C)に添加剤を添加せずそのまま使用してもよいし、変性EVOH(C)と未変性のEVOH(D)や各種添加剤とを押出機に供給して、溶融混練してそのまま成形してもよい。また溶融混練して一旦ペレット化してから、成形してもよく、適宜好適な手段が採用される。
溶融成形における成形温度は、変性EVOH(C)の融点等により異なるが、溶融樹脂温度を約120℃〜250℃とすることが望ましい。
溶融成形法としては射出成形法、圧縮成形法、押出成形法など任意の成形法が採用できる。このうち押出成形法としては、中空成形法、パイプ押出法、線状押出法、異型ダイ成形法などが挙げられる。
本発明の温水循環用パイプの好適な実施態様は、多層構造体である。具体的には、変性EVOH(C)からなる層と、変性EVOH(C)以外の樹脂(F)からなる層とを有する多層構造体からなる温水循環用パイプ、または変性EVOH(C)及び未変性のEVOH(D)を含有する樹脂組成物からなる層と変性EVOH(C)以外の樹脂(F)からなる層とを有する多層構造体からなる温水循環用パイプである。
このような多層構造体からなる温水循環用パイプの製造方法としては溶融成形が好ましく、例えば共押出成形、共射出成形などが採用される。
樹脂(F)としては、熱可塑性樹脂であることが好適である。例えばポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリカーボネート、アクリル樹脂及びポリビニルエステルからなる群から選択される少なくとも1種が例示される。ポリオレフィンとしては、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−α−オレフィン(炭素数3〜20のα−オレフィン)共重合体、アイオノマー、ポリプロピレン、プロピレン(炭素数4〜20のα−オレフィン)共重合体、ポリブテン、ポリメチルペンテンなどのオレフィンの単独もしくは共重合体、又はこれらオレフィンの単独又は共重合体を不飽和カルボン酸又はその無水物あるいはエステルでグラフト変性したものなどが例示される。樹脂(F)がエラストマーであることも好ましい。
多層構造体の層構成は本発明の変性EVOH(C)層、あるいは変性EVOH(C)と未変性のEVOH(D)を含有する樹脂組成物からなる層をC(C1,C2,・・・)、樹脂(F)層をF(F1,F2,・・・)、必要に応じて設けられる接着剤層をAdとするとき、C/Fの2層構造のみならず、C/F/C、F/C/F、F1/F2/C、F/C/F/C/F、C2/C1/F/C1/C2、C/Ad/F、C/Ad/F/C、F/Ad/C/Ad/F、F/Ad/C/Ad/C/Ad/Fなど、任意の構成が可能である。また、両樹脂の密着性を向上させる樹脂を配合したりすることもある。これらの中でも、温水と外気温との差が大きく、パイプの表面に結露が発生しやすい条件下で用いる場合では、C(C1,C2,・・・)が最外層となる層構成が、パイプの膠着を防止する観点から特に有用である。
変性EVOH(C)、あるいは変性EVOH(C)と未変性のEVOH(D)を含有する樹脂組成物を成形品であるパイプの表面に溶液コーティングして本発明の温水循環用パイプを得る場合、該樹脂組成物をEVOHを溶解する公知の溶媒に溶解又は分散して用いる。かかる溶媒としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−2−プロパノール、ベンジルアルコール等のアルコール、及びこれらと水の混合物、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等の溶媒が挙げられる。特に、前記のアルコールと水の混合溶媒が好ましい。
本発明において変性EVOH(C)又はそれを含む樹脂組成物が塗布されるパイプの基材としては特に制限はなく、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリ塩化ビニル等の各種プラスチックが挙げられる。
変性EVOH(C)又はそれを含む樹脂組成物の溶液を基材に塗布した後、乾燥を行う。乾燥温度は30〜150℃、好ましくは50〜120℃程度の温度で3秒〜5分程度加熱すれば良い。後述の架橋反応を電子線、X線、γ線、紫外線及び可視光線からなる群より選択される少なくとも1種を照射することによって行う場合、乾燥条件は低温度又は短時間で行うことが望ましい。
本発明の温水循環用パイプは、変性EVOH(C)の少なくとも一部が架橋されていて、そのゲル分率が3質量%以上となっているものである。かかる温水循環用パイプは、前述のようにして得られたパイプ中の変性EVOH(C)の少なくとも一部を架橋させることにより製造することができる。上記した架橋前のパイプは、空気中長時間放置することにより架橋させることが可能であるが、通常、架橋前のパイプに、電子線、X線、γ線、紫外線及び可視光線からなる群より選択される少なくとも1種を照射するか、加熱を行うことにより、架橋を行うことが望ましい。
電子線、X線又はγ線を用いる場合、吸収線量が1kGy以上であることが好ましい。より好適には1kGy〜1MGyであり、更に好適には5kGy〜500kGyであり、特に好適には10kGy〜200kGyである。吸収線量が1MGyより大きい場合EVOHの分解が生じることに伴い、強度の大幅低下、着色等の問題が生じるため好ましくない。また吸収線量が1kGyより小さい場合ゲル分率が向上せず、耐熱水性等の目的の性能が得られない。
このようにして得られた温水循環用パイプの、水−フェノール混合溶媒の不溶解率、すなわちゲル分率が3質量%以上であることが重要である。この不溶解率が3質量%未満の場合、本発明の目的である耐熱水性及び耐熱性等の効果が小さくなる。不溶解率は、好適には5質量%、更に好適には10質量%、特に好適には20質量%以上である。ここで、水−フェノール混合溶媒の不溶解率とは水(15質量%)−フェノール(85質量%)の混合溶剤100質量部に成形品としての温水循環用パイプを1質量部入れ、60℃、12時間加熱溶解した後、濾過し、濾液を蒸発乾固して算出される。なおここで濾過は溶解した未架橋のEVOHが実質的に100%透過する濾過器材(濾紙、濾布、メンブレン)が使用される。なお、本発明の温水循環用パイプ中にフィラーが含まれる場合、ゲル分率は上記溶媒の不溶分を500℃、1時間加熱した後に残る残渣の質量を減じて算出する。温水循環用パイプが多層構造体である場合、変性EVOH(C)層、あるいは変性EVOH(C)と未変性のEVOH(D)を含有する樹脂組成物層のゲル分率が、上記範囲となる。
本発明の温水循環用パイプは、有害な架橋剤をほとんど含有せず、従来のエチレン−ビニルアルコール系共重合体の高度なガスバリア性を維持し、耐久性、耐屈曲性、耐腐食性、耐熱性及び耐寒性に優れ、温水の循環・供給・排出に適する。例えば、温水循環法によるセントラルヒーティングや集中フロアヒーティング設備に用いられる道路凍結防止用消雪パイプ、住宅等の床暖房パイプ(FHP:Floor Heating Pipe)などに好適に用いられる。
以下、実施例にて本発明を更に詳しく説明するが、これらの実施例によって本発明は何ら限定されるものではない。なお、評価は以下の方法によって行った。
〔1〕EVOHのエチレン含有量及び変性EVOHの変性度
測定に用いる試料を粉砕し、アセトンにより低分子量成分を抽出した後、120℃、12時間で乾燥させる。上記試料をDMSO−dを溶媒として、H−NMR測定(日本電子社製「JNM−GX−500型」を使用)を行い、得られたスペクトルの内、二重結合を有するエポキシ化合物が反応した変性EVOHの二重結合のメチン位のピーク(5.9ppm)又は二重結合のメチレン位のピーク(5.2ppm)とEVOHのモノマー単位に相当するエチレン部分のピーク(1.4ppm)との面積比より算出した。
〔2〕EVOH及び変性EVOHのメルトフローレート(MFR)
メルトインデクサL260(テクノ・セブン社製)を用い、荷重2.16kg、温度190℃で樹脂の流出速度(g/10分)を測定した。
〔3〕耐屈曲性(ISO 178)
測定装置として東洋精機社製オートグラフを用い、各実施例及び比較例で得た4mm×10mm×80mm(厚さ×幅×長さ)の試験片を用いて、23℃、50%RHにおいて、試験速度:2mm/min、支点間距離:64mmの条件で曲げ弾性率(MPa)、曲げ強さ(MPa)、および最大曲げひずみ(%)を測定した。
〔4〕耐衝撃性評価(ISO 180)
測定装置として東洋精機社製Izod衝撃試験機を用い、各実施例及び比較例で得た4mm×10mm×80mm(厚さ×幅×長さ)の試験片を用いて、重り:1Jの条件で、23℃および−40℃におけるIzod衝撃強度(kJ/m)を測定し、その値を耐寒性の指標とした。
〔5〕引張強度(耐熱性評価)
測定装置として東洋精機社製オートグラフを用い、各実施例及び比較例で得た厚さ100μmのフィルムより15mm×150mm(幅×長さ)の試験片を切り出し、23℃・50%RH、100℃で72時間送風乾燥機で加熱後に23℃・50%RHで7日間調湿、125℃で72時間送風乾燥機で加熱後に23℃・50%RHで7日間調湿、のそれぞれの条件で、引張速度:250mm/min、支点間距離:50mmの測定条件にて最大引張強度(MPa)を測定した。測定結果を各実施例及び比較例における耐熱性の指標とした。
合成例1
亜鉛アセチルアセトナート一水和物28質量部を1,2−ジメトキシエタン957質量部と混合し、混合液を得た。得られた前記混合液に攪拌しながらトリフルオロメタンスルホン酸15質量部を添加し、触媒溶液を得た。
東芝機械社製TEM−35BS押出機(37mmφ、L/D=52.5)を使用し、スクリュー、3つのベント及び3つの圧入口を設置した。樹脂フィード口を水冷し、スクリュー回転部分の温度を200℃に設定し、スクリュー回転数300rpmで運転した。樹脂フィード口からEVOH(エチレン含有量32モル%、MFR6.0g/10分、カリウム含有量8ppm、リン酸根含有量20ppm、ケン化度99モル%以上)を20.0kg/hrで入れ、第1圧入口からアリルグリシジルエーテルを2.93kg/hr、上記触媒溶液を0.5kg/hrの割合で添加した。第2圧入口から酢酸ナトリウム0.82%水溶液を0.6kg/hrの割合で添加した。第1ベントから減圧で過剰のアリルグリシジルエーテルを除去し、第3圧入口から水を1kg/hrの割合で添加し、第2及び第3のベントから減圧で水及びアリルグリシジルエーテルを除去した。これによりアリルグリシジルエーテル変性量1.7モル%、MFR2.0g/10分、融点166℃の変性EVOH(EVOH−1)を得た。
合成例2
合成例1で得られた変性EVOH(EVOH−1)と未変性のEVOH(エチレン含有量32モル%、MFR3.8g/10分、ケン化度99モル%以上)を質量比で30/70の割合でドライブレンドし、25mmφ二軸押出機((株)東洋精機製LABO PLASTOMIL MODEL 15C300)を用い、220℃でスクリュー回転数100rpm、押出樹脂量4.5kg/時間の条件で押出してペレット化した。次いで、80℃で12時間乾燥を行い、変性EVOH(EVOH−2)を得た(ブレンド後のアリルグリシジルエーテル変性量は計算上0.5モル%となる)。
合成例3
合成例1で得られた変性EVOH(EVOH−1)と未変性のEVOH(エチレン含有量44モル%、MFR13.0g/10分、ケン化度99モル%以上)を質量比で30/70の割合でドライブレンドし、25mmφ二軸押出機((株)東洋精機製LABO PLASTOMIL MODEL 15C300)を用い、220℃でスクリュー回転数100rpm、押出樹脂量4.5kg/時間の条件で押出してペレット化した。次いで、80℃で12時間乾燥を行い、変性EVOH(EVOH−3)を得た(ブレンド後のアリルグリシジルエーテル変性量は計算上0.5モル%となる)。
実施例1
(1)合成例2で得られた変性EVOH(EVOH−2)を使用し、射出成形機(東洋精機製)に導入し、シリンダー温度200/210/210/200℃、金型温度40℃で10mm×4mm×80mmの試験片を得た。得られた試験片に30kGy(加速電圧2000kV)の電子線を照射し、架橋させた。このとき、水とフェノールの質量比(水/フェノール)が15/85である混合溶媒を用いて、60℃、12時間加熱溶解試験を行った際の該試験片の不溶解分の含量、即ち、ゲル分率は35.2%であった。該試験片にノギスでノッチ(ISO2818に基づく)を入れ、曲げ弾性率、曲げ強さ、及び最大曲げひずみを測定し23℃、50%RHにおける耐屈曲性を評価した。測定の結果、曲げ弾性率は3270MPa、曲げ強さは95MPaであり、従来のEVOHより耐屈曲性が向上していることを確認した。
(2)上記(1)と同様にして、電子線を照射し架橋させた10mm×4mm×80mmの試験片を得た。該試験片にノギスでノッチ(ISO2818に基づく)を入れ、23℃及び−40℃でのIzod衝撃強度の測定を実施し、耐衝撃性、耐寒性を評価した。測定の結果、Izod衝撃強度は23℃で6.0kJ/m、−40℃で4.6kJ/mであり、従来のEVOHより各温度における耐衝撃性が向上していることを確認した。
(3)合成例2で得られた変性EVOH(EVOH−2)を使用し、ラボプラストミル(東洋精機製)に導入し、温度C1/C2/C3/Die=175/200/200/210℃、冷却温度80℃とし、厚さ100μmのフィルムを得た。得られたフィルムに30kGy(加速電圧200kV)の電子線を照射し、架橋させた。次に、該架橋フィルムを幅15mm×長さ150mmの短冊状にカットして試験片を得、上記〔5〕に従ってそれぞれの試験片の最大引張強度を測定した。最大引張強度は23℃で65MPa、100℃で79MPa、125℃で67MPaであり、加熱後も強度の低下は見られず、耐熱性があることがわかった。
(4)合成例2で得られた変性EVOH(EVOH−2)を使用し、20φ一軸押出機を用いて220℃にてコートハンガーより溶融押出を行い、厚さ20μmのフィルムを得た。このフィルムに30kGy(加速電圧150kV)の電子線を照射してEVOHフィルムを架橋させた。該架橋フィルムの20℃、65%RH下での酸素透過量(OTR)を測定した結果、0.4cc・20μm/m・day・atmであった。
(5)合成例2で得られた変性EVOH(EVOH−2)および高密度ポリエチレン「ノバテックHE421」(商品名、株式会社三菱化学製、以下HDPEと称する)および接着性樹脂「アドテックスDH422」(商品名、日本ポリオレフィン株式会社製、以下Adと称する)を原料とし、それぞれ別の押出機に導入し、3種3層の円形ダイを用いて、最外層から順にEVOH−2/Ad/HDPE(50/30/500μm)の構成からなる層パイプを共押出成形により製造した。共押出成形機の構成及び運転条件は下記のとおりである。
押出機1[HDPE]:株式会社プラスチック工学研究所製単軸押出機「GT−32−A型」、スクリュー径:32mmφ、スクリュー回転数:85rpm、シリンダー設定温度210℃
押出機2[変性EVOH]:株式会社東洋精機製作所製単軸押出機「ラボME型CO−NXT」、スクリュー径:20mmφ、スクリュー回転数:75rpm、シリンダー設定温度:210℃
押出機3[Ad]:大阪精機工作株式会社製単軸押出機「P25−18AC」、スクリュー径:25mmφ、スクリュー構成:フルフライト、L/D:18、スクリュー回転数:0.2rpm、シリンダー設定温度:210℃、ダイスサイズ:外形15mm、冷却温度:105℃
得られた多層パイプに30kGy(加速電圧200kV)の電子線を照射し、架橋させた。得られた多層パイプの酸素バリア性を、パイプの酸素透過量(OTR)測定の基準であるDIN4726に従って、溶存酸素増加速度で評価した。溶存酸素増加速度が小さい方が酸素バリア性は良好である。具体的には、得られた多層パイプに、金属スズを充填した充填塔を用いて、溶存酸素を除去した水を循環し、温度70℃で水中の溶存酸素の増加速度を20℃、65%RHの条件下にて測定した。その結果、溶存酸素増加速度は0.5mg/l・dayであった。ここで、増加速度mg/l・dayとは、パイプ中の水1リットル当たりmg/dayの速度で溶存酸素の増加があることを示す。すなわち、パイプを含む装置全系の水の体積をVlとし、上記パイプ内の水の体積をVlとし、単位時間当たりの装置内循環水の酸素濃度増加量をBmg/l・dayとした場合、上記の溶存酸素増加速度(Amg/l・day)とはA=B(V/V)で計算される値を示す。
(6)(5)で得られたパイプを長さ20cmにカットし、5本を束ねて、60℃、80℃、100℃の3種類の温度の温水にそれぞれ7日間浸漬し、膠着度合いを評価した。その結果、パイプの表面にはいずれも白化および膠着は見られず、問題なく使用できることを確認した。上記(1)〜(6)で得られた結果を表1、表2及び表3にまとめて示す。
実施例2
(1)合成例3で得られたEVOH−3を使用した以外は実施例1(1)と同様にして架橋させた試験片を得た。このとき、ゲル分率は33.1%であった。23℃、50%RHにおける耐屈曲性を測定した結果、曲げ弾性率は3080MPa、曲げ強さは91MPaであり、従来のEVOHより耐屈曲性が向上していることを確認した。
(2)実施例1(2)と同様にして、架橋させた試験片を使用し、耐衝撃性を評価した。測定の結果、Izod衝撃強度は23℃で9.4kJ/m、−40℃で6.8kJ/mであり、従来のEVOHより各温度における耐衝撃性が向上していることを確認した。
(3)実施例1(3)と同様にして、EVOH−3の厚さ100μmのフィルムを電子線照射し架橋させ、試験片を使用して最大引張強度を測定した。最大引張強度は23℃で67MPa、100℃で72MPa、125℃で71MPaであり、加熱後も強度の低下は見られず、耐熱性があることがわかった。
(4)実施例1(4)と同様にして、合成例3で得られた変性EVOH(EVOH−3)を使用して得た架橋フィルムの20℃、65%RH下での酸素透過量(OTR)を測定した結果、1.5cc・20μm/m・day・atmであった。
(5)合成例3で得られたEVOH−3を使用した以外は実施例1(5)と同様にして電子線を照射し架橋させた多層パイプを製造し、その溶存酸素増加速度を測定した。その結果、溶存酸素増加速度は0.7mg/l・dayであった。
(6)上記(5)で得られた多層パイプを使用し、実施例1(6)と同様にして、パイプを長さ20cmにカットし、5本を束ねて、60℃、80℃、100℃の3種類の温度の温水にそれぞれ7日間浸漬し、膠着度合いを評価した。その結果、パイプの表面にはいずれも白化および膠着は見られず、問題なく使用できることを確認した。上記(1)〜(6)で得られた結果を表1、表2及び表3にまとめて示す。
比較例1
(1)EVOHとしてエチレン含有量32モル%、ケン化度99モル%以上、MFR1.6g/10分の「エバール」FP101B(商品名、株式会社クラレ製)を用い、電子線を照射しなかったこと以外は実施例1(1)と同様にして10mm×4mm×80mmの試験片を得た。23℃、50%RHにおける耐屈曲性を測定した結果、曲げ弾性率は4080MPa、曲げ強さは120MPaであった。
(2)上記(1)と同様にして10mm×4mm×80mmの試験片を得、23℃及び−40℃におけるIzod衝撃強度を測定した結果、23℃で5.2kJ/m、−40℃で3.9kJ/mであった。
(3)実施例1(3)と同様にして、「エバール」FP101B(商品名、株式会社クラレ製)の厚さ100μmのフィルムを作成し、電子線を照射しなかったこと以外は実施例1(3)と同様に最大引張強度を測定した。最大引張強度は23℃で19MPaであり、100℃及び125℃ではフィルムが軟化し測定できなかった。
(4)実施例1(4)と同様にして、「エバール」FP101B(商品名、株式会社クラ
レ製)の厚さ20μmのフィルムを作成し、電子線を照射しなかったこと以外は実施例1(4)と同様に20℃、65%RH下での酸素透過量(OTR)を測定した結果、0.4cc・20μm/m・day・atmであった。
(5)変性EVOH(EVOH−2)の代わりに「エバール」FP101B(商品名、株式会社クラレ製)を使用したこと、および作成した多層パイプに電子線を照射しなかったこと以外は、実施例1(5)と同様にして多層パイプを得、実施例1(5)と同様にして、その溶存酸素増加速度を測定したところ、0.6mg/l・dayであった。
(6)上記(5)で得られた多層パイプを使用し、実施例1(6)と同様にして、パイプを長さ20cmにカットし、5本を束ねて、60℃、80℃、100℃の3種類の温度の温水にそれぞれ7日間浸漬し、膠着度合いを評価した。その結果、60℃ではパイプの表面に白化、膠着は見られなかったが、80℃以上になると、パイプの表面には白化、膠着が発生した。上記(1)〜(6)で得られた結果を表1、表2及び表3にまとめて示す。
比較例2
(1)EVOHとしてエチレン含有量44モル%、ケン化度99モル%以上、MFR5.5g/10分の「エバール」EP105B(商品名、株式会社クラレ製)を用い、電子線を照射しなかったこと以外は実施例1(1)と同様にして10mm×4mm×80mmの試験片を得た。23℃、50%RHにおける耐屈曲性を測定した結果、曲げ弾性率は3190MPa、曲げ強さは100MPaであった。
(2)上記(1)と同様にして10mm×4mm×80mmの試験片を得、23℃及び−40℃におけるIzod衝撃強度を測定した結果、23℃で6.6kJ/m、−40℃で4.7kJ/mであった。
(3)実施例1(3)と同様にして、「エバール」EP105B(商品名、株式会社クラレ製)の厚さ100μmのフィルムを作成し、電子線を照射しなかったこと以外は実施例1(3)と同様に最大引張強度を測定した。最大引張強度は23℃で21MPaであり、100℃及び125℃ではフィルムが軟化し測定できなかった。
(4)実施例1(4)と同様にして、「エバール」EP105B(商品名、株式会社クラレ製)の厚さ20μmのフィルムを作成し、電子線を照射しなかったこと以外は実施例1(4)と同様に20℃、65%RH下での酸素透過量(OTR)を測定した結果、1.5cc・20μm/m・day・atmであった。
(5)変性EVOH(EVOH−2)の代わりに「エバール」EP105B(商品名、株式会社クラレ製)を使用したこと、および作成した多層パイプに電子線を照射しなかったこと以外は、実施例1(5)と同様にして多層パイプを得、実施例1(5)と同様にし、その溶存酸素増加速度を測定したところ、1.1mg/l・dayであった。
(6)上記(5)で得られた多層パイプを使用し、実施例1(6)と同様にして、パイプを長さ20cmにカットし、5本を束ねて、60℃、80℃、100℃の3種類の温度の温水にそれぞれ7日間浸漬し、膠着度合いを評価した。その結果、いずれの温度においても、パイプの表面に白化、膠着が発生した。上記(1)〜(6)で得られた結果を表1、表2及び表3にまとめて示す。
Figure 0005554991
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Claims (12)

  1. 変性エチレン−ビニルアルコール系共重合体(C)からなる温水循環用パイプであって、変性エチレン−ビニルアルコール系共重合体(C)は、未変性のエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)を、二重結合を有するエポキシ化合物(B)で変性して得られたものであり、二重結合を有するエポキシ化合物(B)による変性量がエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)のモノマー単位に対して0.1〜10モル%であり、変性エチレン−ビニルアルコール系共重合体(C)の少なくとも一部が架橋されていて、かつ、そのゲル分率が10質量%以上であることを特徴とする温水循環用パイプ。
  2. 変性エチレン−ビニルアルコール系共重合体(C)及び未変性のエチレン−ビニルアルコール系共重合体(D)を含有する樹脂組成物からなる温水循環用パイプであって、変性エチレン−ビニルアルコール系共重合体(C)は、未変性のエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)を、二重結合を有するエポキシ化合物(B)で変性して得られたものであり、二重結合を有するエポキシ化合物(B)による変性量がエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)のモノマー単位に対して0.1〜10モル%であり、該樹脂組成物の少なくとも一部が架橋されていて、かつ、そのゲル分率が10質量%以上であることを特徴とする温水循環用パイプ。
  3. 未変性のエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)のエチレン含有量が5〜55モル%であり、かつ、ケン化度が90モル%以上である請求項1又は2に記載の温水循環用パイプ。
  4. 二重結合を有するエポキシ化合物(B)が分子量500以下の一価エポキシ化合物である請求項1〜3のいずれか記載の温水循環用パイプ。
  5. 二重結合を有するエポキシ化合物(B)がアリルグリシジルエーテルである請求項4記載の温水循環用パイプ。
  6. 変性エチレン−ビニルアルコール系共重合体(C)からなる層と、変性エチレン−ビニルアルコール系共重合体(C)以外の樹脂(F)からなる層を有する多層構造体である請求項1に記載の温水循環用パイプ。
  7. 変性エチレン−ビニルアルコール系共重合体(C)からなる層を最外層に配置した多層構造体である請求項6に記載の温水循環用パイプ。
  8. 変性エチレン−ビニルアルコール系共重合体(C)及び未変性のエチレン−ビニルアルコール系共重合体(D)を含有する樹脂組成物からなる層と、変性エチレン−ビニルアルコール系共重合体(C)以外の樹脂(F)からなる層を有する多層構造体である請求項2に記載の温水循環用パイプ。
  9. 変性エチレン−ビニルアルコール系共重合体(C)及び未変性のエチレン−ビニルアルコール系共重合体(D)を含有する樹脂組成物からなる層を最外層に配置した多層構造体である請求項8に記載の温水循環用パイプ。
  10. 変性エチレン−ビニルアルコール系共重合体(C)からなる温水循環用パイプの製造方法であって、未変性のエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)を二重結合を有するエポキシ化合物(B)で変性して変性エチレン−ビニルアルコール系共重合体(C)を製造し、変性エチレン−ビニルアルコール系共重合体(C)を成形してパイプを得てから、変性エチレン−ビニルアルコール系共重合体(C)の少なくとも一部を架橋させて、かつ、そのゲル分率を10質量%以上にすることを特徴とする温水循環用パイプの製造方法。
  11. 変性エチレン−ビニルアルコール系共重合体(C)及び未変性のエチレン−ビニルアルコール系共重合体(D)を含有する樹脂組成物からなる温水循環用パイプの製造方法であって、未変性のエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)を、二重結合を有するエポキシ化合物(B)で変性して変性エチレン−ビニルアルコール系共重合体(C)を製造し、変性エチレン−ビニルアルコール系共重合体(C)と未変性のエチレン−ビニルアルコール系共重合体(D)とを混合して樹脂組成物を製造し、該樹脂組成物を成形してパイプを得てから、該樹脂組成物の少なくとも一部を架橋させて、かつ、そのゲル分率を10質量%以上にすることを特徴とする温水循環用パイプの製造方法。
  12. 電子線、X線、γ線、紫外線及び可視光線からなる群から選択される少なくとも1種を照射するか、加熱することにより変性エチレン−ビニルアルコール系共重合体(C)の少なくとも一部を架橋させた請求項10又は11に記載の温水循環用パイプの製造方法。
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