JP5547789B2 - オーステナイト系ステンレス鋼 - Google Patents
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前記構成によれば、含有させる元素に応じて、高温強度や耐酸化性を向上させることができる。
本発明の一実施形態に係るオーステナイト系ステンレス鋼は、Ta:0.25〜0.8質量%、C:0.01〜0.15質量%、Si:0.1〜1.0質量%、Mn:0.1〜2.5質量%、P:0.05質量%以下(0質量%を含まない)、S:0.005質量%以下(0質量%を含まない)、Ni:15〜25質量%、Cr:20〜30質量%、Nb:0.1〜0.8質量%、B:0.0005〜0.005質量%、およびN:0.10〜0.35質量%をそれぞれ含有し、残部が鉄および不可避不純物からなる。
以下、本実施形態を構成する各元素とその含有量について説明する。
析出物の形成には、結晶粒界への析出と、結晶粒内への析出とがあり、結晶粒界に形成される析出物が粒界を覆う状態になると靭性が低下することが従来から知られている。しかし、本発明ではTaを0.25〜0.8質量%含有させているので、結晶粒界に析出する析出物の析出量を抑制することができる。その結果、優れた時効後靭性を発揮させることが可能となる。かかる効果を奏するためには、Ta含有量を0.25〜0.8質量%とする必要がある。Ta含有量が0.25質量%未満になると前記効果が十分に奏されず、0.8質量%を超えるとTaが炭化物や窒化物として過剰に析出してしまい、靭性が低下するだけでなく低荷重負荷時のクリープ特性も低下してしまう。Taは、前記した効果を十分に得るため0.3質量%以上含有させることが特に好ましい。一方で、良好な靭性および高価な金属であるTaの添加に伴うコストの上昇を鑑みると0.6質量%以下が好ましく、0.5質量%以下がより好ましい。
Cは、高温の使用環境において炭化物を形成し、伝熱管として必要な高温強度とクリープ強度を向上させる作用を有する元素である。強化機構となる炭化物の析出量を確保するためにはCを0.01質量%以上含有させる必要がある。しかしながら、C含有量が過剰になって0.15質量%を超えると粗大な炭化物となり、更なる強化が得られない。C含有量は0.03質量%以上とするのが好ましく、0.05質量%以上とするのがより好ましい。また、C含有量は0.10質量%以下とするのが好ましく、0.07質量%以下とするのがより好ましい。
Siは、溶鋼中で脱酸作用を有する元素である。また、微量の含有であっても、耐酸化性の向上に有効に作用する。これらの効果を発揮させるためには、Si含有量は0.1質量%以上とする必要がある。しかしながら、Si含有量が過剰になって1.0質量%を超えると、σ相の形成を招き、靭性の低下をもたらすことになる。Si含有量は0.2質量%以上とするのが好ましく、0.3質量%以上とするのがより好ましい。また、Si含有量は0.7質量%以下とするのが好ましく、0.5質量%以下とするのがより好ましい。
MnはSiと同様に、溶鋼中で脱酸作用を有する元素であり、またオーステナイトを安定化させる作用がある。これらの効果を発揮させるためには、Mn含有量は0.1質量%以上とする必要がある。しかしながら、Mn含有量が過剰になって2.5質量%を超えると、熱間加工性を阻害することになる。Mn含有量は0.5質量%以上とするのが好ましく、1.0質量%以上とするのがより好ましい。また、Mn含有量は2.0質量%以下とするのが好ましく、1.5質量%以下とするのがより好ましい。
Pは不可避不純物である。P含有量が増加すると溶接性を損なうため、0.05質量%以下とする必要がある。P含有量は0.04質量%以下とするのが好ましく、0.03質量%以下に抑制するのがより好ましい。
Sは不可避不純物である。S含有量が増加すると熱間加工性を劣化させるため、0.005質量%以下とする必要がある。S含有量は0.003質量%以下とすることが好ましく、0.001質量%以下にすることがより好ましい。
Niは、オーステナイトを安定化させる作用があり、オーステナイト相を維持するためには15質量%以上含有させる必要がある。しかしながら、Ni含有量が過剰になって25質量%を超えると、コストの増加をもたらすことになる。Ni含有量は17質量%以上とするのが好ましく、19質量%以上とするのがより好ましい。また、Ni含有量は23質量%以下とするのが好ましく、21質量%以下とするのがより好ましい。
Crは、ステンレス鋼としての耐食性を発現するために必須の元素である。優れた耐食性を発揮させるためには、Crは20質量%以上含有させる必要がある。しかしながら、Cr含有量が過剰になって30質量%を超えると、高温強度の低下を招くフェライト相が増加する。Cr含有量は22質量%以上とするのが好ましく、24質量%以上とするのがより好ましい。また、Cr含有量は28質量%以下とするのが好ましく、26質量%以下とするのがより好ましい。
Nbは、炭化物、窒化物または炭窒化物を析出させることで、高温強度の改善に有効な元素である。また、これらの析出物が結晶粒の粗大化を抑制し、Crの拡散を促進することで、副次的に耐食性向上の作用を発揮する。これらの効果を有効に発揮させるのに必要な析出量を確保するためには、Nbは0.1質量%以上含有させる必要がある。しかしながら、Nb含有量が0.8質量%を超えて過剰になると、析出物が粗大化し、靭性の低下を招くことになる。Nb含有量は0.15質量%以上とするのが好ましく、0.2質量%以上とするのがより好ましく、0.25質量%以上とするのがさらに好ましい。また、Nb含有量は0.5質量%以下とするのが好ましく、0.3質量%以下とするのがより好ましい。
Bは、鋼中に固溶することで、主要な強化機構の一つであるM23C6型炭化物(Mは炭化物形成元素)の形成を促進させる作用がある。こうした効果を有効に発揮させるためには、B含有量は0.0005質量%以上とする必要がある。しかしながら、B含有量が過剰になると熱間加工性や溶接性の低下を招くため、0.005質量%以下とする必要がある。B含有量は0.001質量%以上とするのが好ましく、0.0015質量%以上とするのがより好ましい。また、B含有量は0.003質量%以下とするのが好ましく、0.0025質量%以下とするのがより好ましい。
Nは、鋼中に固溶することで固溶強化によって高温強度を向上させる作用があり、本実施形態に係るオーステナイト系ステンレス鋼の高温強度を担う重要な元素の一つである。この効果を有効に発揮させるためには、N含有量は0.10質量%以上とする必要がある。しかしながら、N含有量が過剰になって0.35質量%を超えると、熱間加工性を阻害してしまう。N含有量は0.20質量%以上とするのが好ましく、0.23質量%以上とするのがより好ましい。また、N含有量は0.30質量%以下とするのが好ましく、0.27質量%以下とするのがより好ましい。
本実施形態に係るオーステナイト系ステンレス鋼に含有される元素は上記の通りであって、残部は鉄および不可避不純物となるが、スクラップ原料に由来するSn、Pb、Sb、As、Znなどの低融点不純物金属は、熱間加工時や高温環境での使用時に粒界の強度を低下させるため、熱間加工性や長期使用後の耐脆化割れを改善するためには低濃度に抑えることが望ましい。
以下、本実施形態を構成する各元素とその含有量について説明する。
WおよびMoは、固溶強化によって高温強度を向上させる効果があり、必要によって含有させることで高温強度を上昇させることができる。しかしながら、W含有量が4質量%を超えて過剰になると粗大な金属間化合物を形成して高温延性の低下を招く。そのため、W含有量は4質量%以下(0質量%を含まない)とすることが好ましく、3質量%以下とするのがより好ましく、2質量%以下とするのがさらに好ましい。
Cuは、鋼中に整合析出物(母材と原子配列が連続的であるような析出物)を形成し、高温クリープ強度を著しく向上させる元素であり、ステンレス鋼における主要な強化機構の一つである。しかしながら、Cu含有量が過剰になって4質量%を超えてもその効果は飽和してしまう。そのため、Cu含有量は4質量%以下(0質量%を含まない)とするのが好ましく、3.7質量%以下とするのがより好ましく、3.5質量%以下とするのがさらに好ましい。なお、前記した効果を発揮させるためには、Cu含有量を0.2質量%以上とするのが好ましく、2質量%以上とするのがより好ましく、2.5質量%以上とするのがさらに好ましい。
V、Ti、ZrおよびHfは、Nbと同様な作用を発揮するものの、複合添加することで析出物が更に安定化して長期間の高温強度の維持にも有効である。しかしながら、これらの含有量が過剰になると鋼材中に固溶させることができず、介在物の増加による靭性の低下を招くことになる。そのため、V、Ti、ZrおよびHfのそれぞれの含有量は0.2質量%以下(0質量%を含まない)とするのが好ましく、0.15質量%以下とするのがより好ましく、0.1質量%以下とするのがさらに好ましい。なお、前記した効果を有効に発揮させるためには、V、Ti、ZrおよびHfのそれぞれの含有量は0.02質量%以上とするのが好ましく、0.04質量%以上とするのがより好ましく、0.06質量%以上とするのがさらに好ましい。但し、これらの元素を複数含む場合、含有量の合計が0.4質量%を超えて含有すると前述の通り未固溶の介在物が増加してしまう。そのため、これらの元素を複数含む場合は、これらの元素の含有量の合計が0.4質量%以下となるようにするのが好ましい。
本発明で用いることのできる希土類元素としては、Sc、Y、La、Ce、Ndに代表されるランタノイド元素17種が挙げられる。
希土類元素は、ステンレス鋼の耐酸化性を向上させる作用があるため、高温高圧蒸気が流れる伝熱管内面の酸化スケールの生成を抑制することができる。希土類元素が0.15質量%を超えて含有されると高温環境で粒界の一部が溶融して熱間加工性を阻害する。そのため、希土類元素の含有量は0.15質量%以下とすることが好ましく、0.1質量%以下とするのがより好ましく、0.05質量%以下とするのがさらに好ましい。なお、前記したような効果を有効に発揮させるため、希土類元素の含有量は0.01質量%以上とするのが好ましく、0.015質量%以上とするのがより好ましく、0.02質量%以上とするのがさらに好ましい。かかるオーステナイト系ステンレス鋼とすることによって、靭性の優れたボイラー用伝熱管(ボイラーチューブ)を提供することができる。なお、希土類元素は前記した各元素を個々に添加して含有させることもできるが、これらの元素を含む所謂ミッシュメタルを添加することによって前記した各元素を含有させることもできる。なお、ミッシュメタルを用いると前記した各元素の分離コストが削減できるので、採算性を向上させることができる。
CaおよびMgは、脱硫・脱酸元素として働く。しかしながら、これらの元素の含有量が過剰になると、溶解作業中に溶鋼の突沸が生じるなどの作業上の制約を受ける。そのため、CaおよびMgの含有量はいずれも0.005質量%以下(0質量%を含まない)とするのが好ましく、0.002質量%以下とするのがより好ましい。なお、前記した効果を有効に発揮させるため、CaおよびMgの含有量はいずれも0.0002質量%以上とするのが好ましく、0.0005質量%以上とするのがより好ましい。
前記した本実施形態に係るオーステナイト系ステンレス鋼は、例えば、一次精錬において、それぞれ前記した化学成分組成となるように各元素を添加して溶解し、その後は常法に従って二次精錬等の製造プロセスを順次行うことにより、製造することができる。
シャルピー衝撃試験の測定結果(靭性値(シャルピー衝撃値[J/cm2]))を下記表2に示す。
本発明で規定する化学成分組成を満足する鋼(本発明鋼:試験No.1〜12)は、既存鋼(試験No.19)や、本発明で規定する化学成分組成から外れた比較鋼(試験No.13〜18)に比べて靭性値が優れており、時効処理後の靭性低下が抑制されていることが確認された。従って、本発明鋼は、ボイラー等の伝熱管(ボイラーチューブ)材料として好適に用い得ることが強く示唆された。すなわち、本発明鋼は、ボイラー等で長期間、高温環境に晒された後でも優れた靭性を維持するため、運転中および/または点検中に生じる衝撃にも耐えられることから、長期間に渡って信頼を維持することができるボイラーチューブ材料が得られることが強く示唆された。
Claims (2)
- Ta:0.25〜0.8質量%、
C:0.01〜0.15質量%、
Si:0.1〜1.0質量%、
Mn:0.1〜2.5質量%、
P:0.05質量%以下(0質量%を含まない)、
S:0.005質量%以下(0質量%を含まない)、
Ni:15〜25質量%、
Cr:20〜30質量%、
Nb:0.1〜0.8質量%、
B:0.0005〜0.005質量%、および
N:0.10〜0.35質量%をそれぞれ含有し、
残部が鉄および不可避不純物からなることを特徴とするオーステナイト系ステンレス鋼。 - さらに、
W:4質量%以下、
Mo:4質量%以下、
Cu:4質量%以下、
V:0.2質量%以下、
Ti:0.2質量%以下、
Zr:0.2質量%以下、
Hf:0.2質量%以下、
希土類元素:0.15質量%以下、
Ca:0.005質量%以下、および
Mg:0.005質量%以下からなる群のうちのいずれか一つ以上を含有し、且つ
前記V、前記Ti、前記Zr、前記Hfを含む場合は、これらの含有量の合計が0.4質量%以下
であることを特徴とする請求項1に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
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