以下、本発明の一実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。
図1はスライドドアを備えた車両を示す側面図を、図2はスライドドアの車体への取付け構造を示す平面図を、図3は自動開閉機構の詳細を示す斜視図を、図4は自動開閉機構を形成する駆動装置の詳細を示す斜視図を、図5は駆動装置を形成するモータユニットのモータ部を分解して示す斜視図を、図6は駆動装置を形成するモータユニットのドラム収容部を分解して示す斜視図を、図7は駆動装置を形成するリンクユニットを分解して示す斜視図をそれぞれ表している。
図1に示す車両10は、多人数乗車(例えば8人乗車)が可能なワゴン車であり、当該車両10における車体11の側部には、乗員の乗り降りや荷物の積み下ろし等を行うための開口部12が形成されている。開口部12は、車体11の前後方向(図中左右方向)に移動可能なスライドドア(開閉体)13により開閉可能となっている。
図2に示すように、スライドドア13の車両前方側(図中左側)には、ロワーアーム14とアッパーアーム(図示せず)とが設けられている。ロワーアーム14およびアッパーアームの先端側は、車体11の内側(車室内側)に向けて延出されている。ロワーアーム14の先端部にはローラアッシー14aが設けられ、アッパーアームの先端部にも同様の形状に形成されたローラアッシー(図示せず)が設けられている。
車体11の開口部12における下端部分および上端部分には、ロワーガイドレール15およびアッパーガイドレール16(図1参照)が設けられている。ロワーガイドレール15の車両前方側には、車室内側に向けて湾曲した湾曲部15aが設けられ、アッパーガイドレール16の車両前方側にも同様の形状に形成された湾曲部(図示せず)が設けられている。ロワーアーム14のローラアッシー14aは、ロワーガイドレール15の内部に移動自在に組み込まれ、アッパーアームのローラアッシーは、アッパーガイドレール16の内部に移動自在に組み込まれている。
スライドドア13の車両後方側(図中右側)には、センターアーム17が設けられ、当該センターアーム17は、車体11の上下方向に沿う略中間部分に配置されている。センターアーム17の先端側は車室内側に向けて延出され、センターアーム17の先端部には、ローラアッシー17aが設けられている。車体11の開口部12における車両後方側で、かつ車体11の上下方向に沿う略中間部分には、センターガイドレール18が設けられ、センターガイドレール18の車両前方側にも、車室内側に向けて湾曲した湾曲部18aが設けられている。センターアーム17のローラアッシー17aは、センターガイドレール18の内部に移動自在に組み込まれている。
このように、ロワーアーム14,アッパーアーム,センターアーム17は、ロワーガイドレール15,アッパーガイドレール16,センターガイドレール18に沿って移動し、これによりスライドドア13は車体11側部に沿って車体11の前後方向に移動するようになっている。スライドドア13の全閉位置付近において、各アーム14,17が各湾曲部15a,18aに案内されることで、スライドドア13は車室内側に引き込まれ、車体11の側面と面一となるよう閉じられる。このように、スライドドア13は、車両前方側で2箇所,車両後方側で1箇所の計3箇所で車体11に支持されている。よって、スライドドア13は車体11に対して安定した開閉動作が可能となっている。
スライドドア13の外周縁部分には、シール部材(ウェザーストリップ)13aが設けられている。シール部材13aは、スライドドア13が全閉状態のときに車体11と弾性接触し、これにより車室内への雨水等の浸入を防止するようになっている。また、スライドドア13には、操作者によって操作されるドアハンドル13bが設けられている。ドアハンドル13bを操作者により操作することで、スライドドア13を自動または手動で開閉させることができる。
図2および図3に示すように、車体11におけるスライドドア13の近傍には、スライドドア13を自動的に開閉駆動するための自動開閉機構20が搭載されている。自動開閉機構20は、駆動装置30,全閉ロック機構40,全開ロック機構50,一対の連結ユニット60a,60bを備えている。
駆動装置30は、所謂ケーブル式の駆動装置であり、スライドドア13の内部に搭載されている。駆動装置30には、自動開閉機構20を形成する開側ケーブル(開閉ケーブル)21および閉側ケーブル(開閉ケーブル)22の一端側がそれぞれ導かれている。開側ケーブル21の他端側は、ロワーアーム14およびロワーガイドレール15に沿わせて配索され、ロワーガイドレール15の車両後方側に設けた連結ユニット60aに連結されている。一方、閉側ケーブル22の他端側は、ロワーアーム14およびロワーガイドレール15に沿わせて配索され、ロワーガイドレール15の車両前方側に設けた連結ユニット60bに連結されている。
各ケーブル21,22の他端側は、ロワーアーム14に設けたローラアッシー14aの部分で折り返されて、各連結ユニット60a,60bに向けられている。これにより、駆動装置30を駆動して開側ケーブル21を牽引することで、スライドドア13を開くことができる。一方、駆動装置30を駆動して閉側ケーブル22を牽引することで、スライドドア13を閉じることができる。つまり、各ケーブル21,22は、駆動装置30により牽引されることでスライドドア13を牽引するようになっている。なお、各連結ユニット60a,60bは、それぞれテンショナとしての機能を有しており、各ケーブル21,22に所定の張力を付与することで各ケーブル21,22の緩みを防止している。
駆動装置30には、自動開閉機構20を形成する開作動用リリーサケーブル23および閉作動用リリーサケーブル24の一端側がそれぞれ導かれている。開作動用リリーサケーブル23の他端側は、スライドドア13内に配索されてスライドドア13の車両後方側に設けた全閉ロック機構40に導かれている。ここで、全閉ロック機構40は、その内部に回動自在に設けられたラッチ(図示せず)と、開口部12の車両後方側に固定された棒状のストライカ41とを備えている。
そして、ラッチおよびストライカ41が係合してスライドドア13が全閉位置でロック状態にあるときに、駆動装置30により開作動用リリーサケーブル23を牽引して全閉ロック機構40を駆動すると、ラッチとストライカ41との係合状態が解除可能となる。これにより、スライドドア13の全閉位置におけるロック状態が解除されて、スライドドア13は全閉位置から全開位置に向けて移動できるようになる。
閉作動用リリーサケーブル24の他端側は、スライドドア13内に配索されてスライドドア13の車両前後方向に沿う略中央部分に設けた全開ロック機構50に導かれている。ここで、全開ロック機構50は、スライドドア13に対して起立状態および傾斜状態に揺動自在なフックアーム51と、開口部12の車両後方側に固定された棒状のストライカ52とを備えている。
そして、フックアーム51が起立状態で、かつフックアーム51の先端部(図中上側)およびストライカ52が係合してスライドドア13が全開位置でロック状態にあるときに、駆動装置30により閉作動用リリーサケーブル24を牽引して全開ロック機構50を駆動すると、フックアーム51が傾斜可能な状態となる。これにより、フックアーム51の先端部とストライカ52との係合状態が解除可能となり、スライドドア13の全開位置におけるロック状態が解除される。よって、スライドドア13は全開位置から全閉位置に向けて移動できるようになる。
駆動装置30には、自動開閉機構20を形成するクローザケーブル25の一端側が導かれている。クローザケーブル25の他端側は、スライドドア13内に配索されてスライドドア13の車両後方側に設けた全閉ロック機構40に導かれている。そして、スライドドア13が全閉位置付近にあるときに、駆動装置30によりクローザケーブル25を牽引することで全閉ロック機構40が駆動され、ラッチが回動してストライカ41と係合するようになる。これにより、スライドドア13に設けたシール部材13aを車体11に対して弾性接触させつつ、スライドドア13を車室内側へ引き込み、その後、さらにラッチが回動することでスライドドア13が全閉ロック状態となる。
自動開閉機構20を形成する駆動装置30は、図4〜図8に示すように、モータユニット70とリンクユニット90とを備えている。モータユニット70およびリンクユニット90は、個別に組み立てられ、車体11への自動開閉機構20の搭載時において動力伝達可能にそれぞれ連結されるようになっている。
図5および図6に示すように、モータユニット70は、モータ部71とケーブルケース72とを備えている。モータ部71は、複数のブラシ(図示せず)を有するブラシ付きの直流モータとなっており、鋼板等をプレス加工(深絞り加工)することで有底筒状に形成されたヨーク73を備えている。ヨーク73の内部には、一対の永久磁石(図示せず)が固定され、さらに各永久磁石の内側には、所定の隙間(エアギャップ)を介してアーマチュア(図示せず)が回転自在に収容されている。アーマチュアの回転中心にはアーマチュア軸74が貫通して固定され、アーマチュア軸74の先端側はヨーク73の開口部分から延出している。
アーマチュア軸74のヨーク73から突出した部分(延出部分)には、減速機構75を形成するウォーム74aが一体に形成されている。アーマチュア軸74のウォーム74aとアーマチュアとの間には、各ブラシが摺接するコンミテータ(図示せず)が固定され、これにより各ブラシに駆動電流を供給することで、コンミテータを介してアーマチュアに巻装したコイル(図示せず)に駆動電流が流れ、ひいてはアーマチュアに回転力が発生する。
モータ部71は、さらに減速機構75を回転自在に収容するギヤケース76を備えている。ギヤケース76はプラスチック等の樹脂材料を射出成形等することにより有底状に形成され、その内部には減速機構75を形成するウォームホイール77が回転自在に収容されている。ウォームホイール77の回転中心には、出力軸78が貫通して固定され、当該出力軸78はギヤケース76の外部(図中上側)に延出されている。ウォームホイール77の外周部分には、平歯車77aが形成され、当該平歯車77aにはウォーム74aが噛み合わされている。これにより、アーマチュア軸74の回転が所定の回転数にまで減速されて、高トルク化された回転力が出力軸78から出力される。ここで、図示においては減速機構75の構造を分かり易くするために、ギヤケース76を部分断面で表している。
ウォームホイール77に固定した出力軸78には、差動減速機としての遊星歯車機構79が取り付けられている。遊星歯車機構79は、1個のサンギヤ(入力部材)79aと、3個のプラネタリギヤ79bと、各プラネタリギヤ79bを支持するキャリア(第2出力部材)79cと、1個のリングギヤ(第1出力部材)79dとを備えている。この遊星歯車機構79は、サンギヤ79aへの1つの入力に対して、キャリア79cおよびリングギヤ79dからの2つの出力を選択して出力することが可能となっている。
サンギヤ79aは、遊星歯車機構79の中心部分に配置され、出力軸78にセレーション嵌合等(詳細図示せず)により固定されている。つまり、サンギヤ79aは出力軸78により回転するようになっている。サンギヤ79aの周囲には、当該サンギヤ79aに噛み合わされる各プラネタリギヤ79bが配置され、各プラネタリギヤ79bはサンギヤ79aの周方向に沿って等間隔(120°間隔)で設けられている。各プラネタリギヤ79bは、略円盤状に形成されたキャリア79cによって支持されており、キャリア79cは、各プラネタリギヤ79bのリングギヤ79d内での転動を外部に出力するようになっている。
キャリア79cの径方向内側には、3つの係合凹部80(図示では1つのみ示す)が設けられ、各係合凹部80は、キャリア79cの周方向に沿う各プラネタリギヤ79bの間に設けられている。つまり、各係合凹部80においても、サンギヤ79aの周方向に沿って等間隔(120°間隔)で設けられている。各係合凹部80には、軸受81を介してサンギヤ79aを覆うよう設けられる連結部材82の各脚部82aが固定される。つまり、連結部材82は、キャリア79cに連結されてキャリア79cと一体回転するようになっている。
各プラネタリギヤ79bの周囲には、モータ部71とケーブルケース72とを組み付けた状態のもとで、リングギヤ79dが配置されるようになっている。リングギヤ79dの径方向内側には平歯車83が形成されており、当該平歯車83には、各プラネタリギヤ79bが噛み合わされている(図9参照)。リングギヤ79dの径方向外側には、スライドドア13を牽引する開側ケーブル21および閉側ケーブル22が巻き掛けられるドラム部(ドラム)79eが一体に設けられている。つまり、リングギヤ79dは、本発明における差動減速機とドラムとを兼ね備えた一体構造を採用している。ただし、リングギヤとドラムとを別体に形成し、両者を一体回転可能に連結させても良い。
このように、遊星歯車機構79は、出力軸78とドラム部79eとの間に設けられて、出力軸78の回転を2つの回転に分解して、キャリア79cおよびリングギヤ79dの2部材から選択的に外部に出力することが可能になっている。
ケーブルケース72は、図6に示すように、開側ケーブル21および閉側ケーブル22の一端側を収容している。ケーブルケース72の長手方向一側(図中左側)には、一対のスリーブ84,85が装着されており、各ケーブル21,22の一端側は、各スリーブ84,85を介してケーブルケース72内に導かれている。ケーブルケース72の長手方向他側(図中右側)には、遊星歯車機構79を形成するリングギヤ79dが回転自在に収容され、リングギヤ79dのドラム部79eには、各ケーブル21,22の一端側が固定されて複数回巻き掛けられている。なお、各ケーブル21,22のドラム部79eに対する巻き方は、各ケーブル21,22のうちの一方が巻き取られると他方が引き出される関係となっている。
ケーブルケース72の内部でかつ各スリーブ84,85寄りには、各ケーブル21,22の移動を案内するプーリ86が回転自在に設けられている。また、ケーブルケース72の内部でかつプーリ86とリングギヤ79dとの間には、テンショナ機構87が設けられている。テンショナ機構87は、各ケーブル21,22をスプリング(図示せず)のばね力によって内側に所定圧で押圧し、これにより各ケーブル21,22の緩みを取り除いている。
ケーブルケース72の開口部分(図中上側)は、鋼板をプレス加工することで所定形状に形成されたケースカバー88により閉塞されている。ケースカバー88は、4つの締結ネジSをケーブルケース72にねじ込むことで、ケーブルケース72に固定される。ケースカバー88におけるリングギヤ79dの回転中心と対向する部分には、貫通孔88aが設けられ、当該貫通孔88aには、連結部材82の嵌合固定部82bが貫通するようになっている。
連結部材82は、図5に示すように段付き円筒形状に形成され、その軸方向一側(図中下側)には、キャリア79cの各係合凹部80に固定される3つの脚部82aが一体に設けられ、連結部材82とキャリア79cとは一体的に回転可能に配置されている。一方、連結部材82の軸方向他側(図中上側)には、断面が略小判形状の嵌合固定部82bが一体に設けられている。嵌合固定部82bは、駆動装置30を組み立てた状態のもとで、リンク機構92を形成するキャリアレバー94の回転中心に形成した取付穴94cに嵌合されるようになっている。つまり、連結部材82はリンク機構92に動力伝達可能に連結され、キャリア79cの回転をリンク機構92に出力するようになっている。また、嵌合固定部82bには、リンクユニット90の取付ステー91に設けられた第1固定ピン91bが回動自在に入り込むようになっている。
リンクユニット90は、図7に示すように駆動装置30をスライドドア13の内部に固定するための取付ステー91を備えている。取付ステー91は、鋼板をプレス加工することにより有底状に形成され、取付ステー91の底部91aには、リンク機構92が取り付けられるようになっている。リンク機構92は、クローザレバー93,キャリアレバー94,リンクレバー95,閉側リリーサレバー96および開側リリーサレバー97を備えている。
クローザレバー93は、リンクユニット90を形成するクローザケーブル25を巻き掛けるために略円盤形状に形成され、取付ステー91の底部91aに固定された第1固定ピン91bに回動自在に支持されている。クローザレバー93にはクローザケーブル25の一端側が固定されており、クローザレバー93は、当該クローザレバー93の反時計方向への回転に伴いクローザケーブル25を牽引するようになっている。
クローザレバー93にはストッパ片93aが一体に設けられ、このストッパ片93aは取付ステー91に設けたストッパゴム91cに当接するようになっている。これにより、クローザレバー93の時計方向に対する所定角度以上の回転が規制される。ここで、クローザレバー93は、ストッパ片93aをストッパゴム91cに当接させるようクローザレバー93にばね力を付与するリターンスプリング93b(詳細図示せず)を備えている。
また、クローザレバー93には、キャリアレバー94の操作部94bが当接する当接部93cが設けられている。当接部93cには、キャリアレバー94が反時計方向に所定角度以上に相対回転した際に、操作部94bが当接するようになっており、当接後は、クローザレバー93はキャリアレバー94とともに反時計方向に供回りするようになっている。
キャリアレバー94は、本体部94aと操作部94bとを備えている。本体部94aはキャリアレバー94の回転中心に位置し、本体部94aには略小判形状に形成された取付穴94cが形成されている。取付穴94cには、駆動装置30を組み立てた状態のもとで、連結部材82の嵌合固定部82bが嵌合するようになっている。操作部94bは略扇形形状に形成され、当該操作部94bには切欠部94dが形成されている。切欠部94dには、リンクレバー95の一端側に固定された駒95aが出入り自在となっている。これにより、キャリアレバー94が回転すると切欠部94dによって駒95aが移動し、その結果、リンクレバー95が傾斜するようになる。
リンクレバー95は、駒95aが固定された本体部95bと、開側リリーサレバー97の駒97cに当接可能な爪部95cとを備えている。爪部95cは駒97cと当接することで、開側リリーサレバー97を時計方向に傾動させるようになっている。リンクレバー95の長手方向に沿う駒95aと爪部95cとの間には、取付ステー91の底部91aに固定される第2固定ピン91dが回動自在に貫通するようになっている。つまり、リンクレバー95は、その長手方向に沿う略中間部分に配置される第2固定ピン91dを中心に、取付ステー91に対して回動自在に取り付けられている。リンクレバー95の長手方向に沿う略中間部分には、係合爪95dが一体に設けられている。係合爪95dは、閉側リリーサレバー96と当接して、当該閉側リリーサレバー96を時計方向に傾動させるようになっている。
このように、リンクレバー95は、キャリアレバー94の回転に伴って、閉側リリーサレバー96および開側リリーサレバー97を傾動させるようになっている。具体的には、キャリアレバー94が反時計方向に回転した際には、リンクレバー95の係合爪95dが閉側リリーサレバー96に当接することで閉側リリーサレバー96を時計方向に傾動させ、キャリアレバー94が時計方向に回転した際には、リンクレバー95の爪部95cが開側リリーサレバー97の駒97cに当接することで開側リリーサレバー97を時計方向に傾動させるようになっている。
閉側リリーサレバー96は、本体部96aと引っ掛け部96bとを備えている。本体部96aは、リンクレバー95と共に、第2固定ピン91dによって取付ステー91の底部91aに回動自在に取り付けられている。引っ掛け部96bには、リンクユニット90を形成する閉作動用リリーサケーブル24の一端側を牽引するための閉側牽引駒96cが装着される装着孔96dが形成されている。
閉側リリーサレバー96の長手方向に沿う本体部96aと装着孔96dとの間には、ストッパ片96eが設けられている。ストッパ片96eは、取付ステー91に設けたストッパゴム91eに当接するようになっている。これにより、閉側リリーサレバー96の第2固定ピン91dを中心とする反時計方向への所定角度以上の傾動が規制される。
閉側リリーサレバー96の長手方向に沿う装着孔96dとストッパ片96eとの間には、リターンスプリング96fの一端部(図中下側)を引っ掛けるための引っ掛け孔96gが形成されている。リターンスプリング96fは、閉側リリーサレバー96を基準位置に戻す、つまりストッパ片96eとストッパゴム91eとが当接する位置に戻すためのばね力を発生する。なお、リターンスプリング96fの他端側(図中上側)は、取付ステー91に引っ掛けられるようになっている。これにより、リンクレバー95の時計方向への傾動により同方向に傾動した閉側リリーサレバー96は、リンクレバー95の駆動力が伝達されない場合にはリターンスプリング96fのばね力によって基準位置に復帰するようになっている。
開側リリーサレバー97は、本体部97aと引っ掛け部97bとを備えている。本体部97aは、第3固定ピン91fによって取付ステー91の底部91aに回動自在に取り付けられている。本体部97aのリンクレバー95寄りには、リンクレバー95の爪部95cと当接可能な駒97cが設けられている。また、本体部97aのリンクレバー95寄りには、ストッパ片97dが設けられている。ストッパ片97dは、取付ステー91に設けたストッパゴム91gに当接するようになっている。これにより、開側リリーサレバー97の第3固定ピン91fを中心とする反時計方向への所定角度以上の傾動が規制される。
引っ掛け部97bには、リンクユニット90を形成する開作動用リリーサケーブル23の一端側を牽引するための開側牽引駒97eが装着される装着孔97fが形成されている。また、引っ掛け部97bのリンクレバー95寄りには、リターンスプリング97gの一端部を引っ掛けるための引っ掛け孔97hが形成されている。リターンスプリング97gは、開側リリーサレバー97を基準位置に戻す、つまりストッパ片97dとストッパゴム91gとが当接する位置に戻すためのばね力を発生する。なお、リターンスプリング97gの他端側は、取付ステー91に引っ掛けられるようになっている。これにより、リンクレバー95の反時計方向への傾動により時計方向に傾動した開側リリーサレバー97は、リンクレバー95の駆動力が伝達されない場合にはリターンスプリング97gのばね力により基準位置に復帰するようになっている。
クローザケーブル25,開作動用リリーサケーブル23および閉作動用リリーサケーブル24の一端側には、スリーブ98a,98b,98cがそれぞれ設けられ、各スリーブ98a,98b,98cは、それぞれ取付ステー91のスリーブ取付部99a,99b,99cに固定されるようになっている。ここで、開作動用リリーサケーブル23および閉作動用リリーサケーブル24は、取付ステー91のリングギヤ79d(ドラム部79e)の径方向一側(図中右側)に並んで配置され、各リリーサケーブル23,24のスライドドア13内への引き回し作業(配索作業)を容易に行えるようにしている。
次に、以上のように形成した駆動装置30の組み付け手順について、図面を用いて詳細に説明する。
図8はモータユニットとリンクユニットとの連結手順を示す斜視図をそれぞれ表している。
まず、図5および図6に示すように、予め個別に組み立てておいたモータユニット70を準備する。次に、開作動用リリーサケーブル23,閉作動用リリーサケーブル24およびクローザケーブル25を、それぞれスライドドア13の内部の所定箇所に配索し、その他端側を全閉ロック機構40および全開ロック機構50にそれぞれ接続しておく。次いで、取付ステー91をスライドドア13の内部の所定箇所に固定するとともに、図7に示すように取付ステー91にリンク機構92を組み込み、これによりリンクユニット90の組み立てが完了する。
次に、モータユニット70の開側ケーブル21および閉側ケーブル22の他端側を、ロワーアーム14およびロワーガイドレール15に沿わせてそれぞれ配索する。そして、ロワーガイドレール15の車両後方側に設けた連結ユニット60aに開側ケーブル21の他端側を連結し、ロワーガイドレール15の車両前方側に設けた連結ユニット60bに閉側ケーブル22の他端側を連結する。
その後、図8に示すように、リンクユニット90の取付ステー91における底部91aと、モータユニット70のケーブルケース72側とを対向させる。このとき、図中一点鎖線に示すように、底部91aに固定した第1固定ピン91bの軸心とモータユニット70の連結部材82(図5参照)の軸心とを一致させるようにする。そして、リンクユニット90にモータユニット70を近接させて、キャリアレバー94の取付穴94cに、連結部材82の嵌合固定部82b(図5参照)を嵌合させる。その後、図示しない締結ネジを用いてモータユニット70とリンクユニット90とを固定することで、駆動装置30の組み付けが完了するとともに、自動開閉機構20の車体11への搭載が完了する。
次に、以上のように形成した駆動装置30の動作について、図面を用いて詳細に説明する。
図9(a),(b)は差動減速機の作動状態(オープン時)を説明する説明図を、図10はリンク機構の作動状態(全閉ロック解除)を説明する説明図を、図11(a),(b)は差動減速機の作動状態(クローズ時)を説明する説明図を、図12はリンク機構の作動状態(全開ロック解除)を説明する説明図を、図13はリンク機構の作動状態(全閉ロック時)を説明する説明図をそれぞれ表している。
[オープン時]
スライドドア13が全閉位置でロックの状態から、操作者により車室内の操作スイッチ(図示せず)またはドアハンドル13bを操作すると、モータ部71には駆動電流が供給され、モータ部71の出力軸78が正回転する。すると、図9(a)に示すように、出力軸78の正回転に伴いサンギヤ79aが破線矢印R1方向に回転する。このとき、スライドドア13は全閉ロック機構40により未だロック状態にあるため、リングギヤ79d(ドラム部79e)は回転停止の状態(拘束状態)となっている。リングギヤ79dが拘束状態であるため、各プラネタリギヤ79bの実線矢印R2方向への回転に伴い、キャリア79cは実線矢印R3方向へ回転し、この回転力が連結部材82に出力される。
連結部材82の実線矢印R3方向への回転に伴い、図10に示すように、キャリアレバー94が矢印(1)方向に回転する。すると、キャリアレバー94の切欠部94dとリンクレバー95の駒95aとが接点CP1で接触しつつ、駒95aが移動する。これにより、リンクレバー95が第2固定ピン91dを中心に矢印(2)方向に回転する。
リンクレバー95の矢印(2)方向への回転に伴い、リンクレバー95の爪部95cと開側リリーサレバー97の駒97cとが接点CP2で接触しつつ、開側リリーサレバー97が第3固定ピン91fを中心に矢印(3)方向へ傾動する。開側リリーサレバー97が時計方向に傾動すると、リターンスプリング97gが伸張しつつ、開側牽引駒97eを介して開作動用リリーサケーブル23が矢印(4)方向に牽引される。これにより、全閉ロック機構40のロック状態が解除可能となる。なお、リンクレバー95の矢印(2)方向への回転に伴い、リンクレバー95の係合爪95dと閉側リリーサレバー96の本体部96aとは離間するので、閉側リリーサレバー96は図示の基準位置から傾動することは無い。つまり、開作動用リリーサケーブル23の牽引動作は、閉作動用リリーサケーブル24の牽引動作に影響を与えることは無い。
その後、図9(b)に示すように、リングギヤ79dの拘束状態が解除されて、リングギヤ79dは回転可能となる。その一方で、キャリアレバー94の限界回転位置(操作部94bがクローザレバー93の部分Pと当接する位置)への到達により、キャリア79cが拘束状態となる。したがって、サンギヤ79aの破線矢印R1方向への回転の継続により、各プラネタリギヤ79bは実線矢印R4方向へ回転し、リングギヤ79dは実線矢印R5方向へ回転する。すると、リングギヤ79dの回転に伴い、実線矢印に示すように開側ケーブル21がドラム部79eに巻き掛けられるとともに、閉側ケーブル22がドラム部79eから引き出されて、スライドドア13が全閉位置から全開位置に向けて移動する。これにより、車体11の開口部12が開口される。
ここで、リングギヤ79d(ドラム部79e)を回転停止させた状態での連結部材82(キャリア79c)の出力トルクは、連結部材82を回転停止させた状態でのリングギヤ79dの出力トルクよりも大きく設定(例えば2倍)されている。したがって、全閉ロック機構40を容易に駆動することができ、スライドドア13の全閉ロック解除から移動への移行をスムーズにできる。
[クローズ時]
スライドドア13が全開位置でロックの状態から、操作者により車室内の操作スイッチまたはドアハンドル13bを操作すると、モータ部71には駆動電流が供給され、モータ部71の出力軸78が逆回転する。すると、図11(a)に示すように、出力軸78の逆回転に伴いサンギヤ79aが破線矢印R6方向に回転する。このとき、スライドドア13は全開ロック機構50により未だロック状態にあるため、リングギヤ79d(ドラム部79e)は拘束状態となっている。リングギヤ79dが拘束状態であるため、各プラネタリギヤ79bの実線矢印R7方向への回転に伴い、キャリア79cは実線矢印R8方向へ回転し、この回転力が連結部材82に出力される。
連結部材82の実線矢印R8方向への回転に伴い、図12に示すように、キャリアレバー94が矢印(5)方向に回転する。すると、キャリアレバー94の切欠部94d内をリンクレバー95の駒95aが移動して接点CP3で接触しつつ、駒95aが移動する。これにより、リンクレバー95が第2固定ピン91dを中心に矢印(6)方向に回転する。
リンクレバー95の矢印(6)方向への回転に伴い、リンクレバー95の係合爪95dと閉側リリーサレバー96の本体部96aとが接触点CP4で接触し、閉側リリーサレバー96は時計方向に傾動する。これにより、リターンスプリング96fが伸張しつつ、閉側牽引駒96cを介して閉作動用リリーサケーブル24が矢印(7)方向に牽引される。これにより、全開ロック機構50のロック状態が解除可能となる。なお、リンクレバー95の矢印(6)方向への回転に伴い、リンクレバー95の爪部95cと開側リリーサレバー97の駒97cとは離間するので、開側リリーサレバー97は図示の基準位置から傾動することは無い。つまり、閉作動用リリーサケーブル24の牽引動作は、開作動用リリーサケーブル23の牽引動作に影響を与えることは無い。
その後、図11(b)に示すように、リングギヤ79dの拘束状態が解除されて、リングギヤ79dは回転可能となる。その一方で、キャリアレバー94の操作部94bがクローザレバー93の当接部93cと当接して、キャリア79cが拘束状態となる。したがって、サンギヤ79aの破線矢印R6方向への回転の継続により、各プラネタリギヤ79bは実線矢印R9方向へ回転し、リングギヤ79dは実線矢印R10方向へ回転する。すると、リングギヤ79dの回転に伴い、実線矢印に示すように閉側ケーブル22がドラム部79eに巻き掛けられるとともに、開側ケーブル21がドラム部79eから引き出されて、スライドドア13が全開位置から全閉位置に向けて移動する。これにより、車体11の開口部12が閉じられる。
スライドドア13が全閉位置付近にまで移動すると、開側ケーブル21および閉側ケーブル22の抵抗力の増大により、リングギヤ79dが拘束状態となる(図11(a)参照)。その後、サンギヤ79aの破線矢印R6方向への回転の継続により、キャリア79cが実線矢印R8方向に回転し、この回転力が連結部材82に出力される。
すると、連結部材82の実線矢印R8方向への回転に伴い、図13に示すように、キャリアレバー94とクローザレバー93とが、接触点CP5で接触(操作部94bと当接部93cとが接触)しつつ、矢印(8)方向に供回りする。これにより、クローザケーブル25が矢印(9)方向に強い力で牽引され、全閉ロック機構40が駆動される。その後、スライドドア13のシール部材13aを車体11に押し付けつつ、スライドドア13を車室内側へ引き込んで、ラッチとストライカ41との係合によりスライドドア13が全閉ロック状態となる。
このとき、リンクレバー95は、第2固定ピン91dを中心に矢印(10)方向にさらに回転し、リンクレバー95の駒95aがキャリアレバー94の切欠部94d内から離脱し、キャリアレバー94の操作部94bの周囲を摺動するようになる。その後、コントローラ等(図示せず)により、モータ部71への駆動電流の供給を停止するとともに、モータ部71に設けられる電磁クラッチ(図示せず)を開放することで、出力軸78と減速機構75とを非締結状態とする。これにより、リンク機構92は、各リターンスプリング93b,96f,97gのばね力により遊星歯車機構79を回転させつつ基準位置に復帰する。
以上詳述したように、本実施の形態に係る駆動装置30によれば、駆動装置30をモータユニット70とリンクユニット90とから形成し、モータユニット70を、出力軸78を有するモータ部71と、スライドドア13を牽引する開側ケーブル21および閉側ケーブル22が巻き掛けられるドラム部79eと、出力軸78とドラム部79eとの間に設けられ、出力軸78により回転するサンギヤ79a,サンギヤ79aの回転をドラム部78eに出力するリングギヤ79d,サンギヤ79aの回転をリンクユニット90に出力するキャリア79cを備える遊星歯車機構79と、キャリア79cに連結される連結部材82とから形成し、リンクユニット90は、連結部材82に動力伝達可能に連結されるリンク機構92を有し、リンク機構92には、スライドドア13を全閉位置でロックする全閉ロック機構40を駆動するクローザケーブル25および全閉ロック機構40を駆動してスライドドア13の全閉位置でのロック状態を解除する開作動用リリーサケーブル23を接続した。
したがって、駆動装置30を互いに連結可能な2つのユニット70,90により形成することができ、例えば、リンクユニット90のみを予めスライドドア13(車体11)に搭載しておき、その後、リンクユニット90にモータユニット70を連結させることができる。よって、駆動装置30の車体11への組み付け作業を簡素化して、駆動装置30の車体11への搭載性を向上させることができる。
また、本実施の形態に係る駆動装置30によれば、リンク機構92に、スライドドア13を全開位置でロックする全開ロック機構50を駆動してスライドドア13の全開位置でのロック状態を解除する閉作動用リリーサケーブル24が接続され、リンク機構92は、連結部材82の一方向への回転により各リリーサケーブル23,24のうちのいずれか一方を牽引し、連結部材82の他方向への回転により各リリーサケーブル23,24のうちのいずれか他方を牽引する。したがって、連結部材82の回転方向により各リリーサケーブル23,24を独立してそれぞれ個別に牽引することができ、各リリーサケーブル23,24の牽引動作が互いに影響し合うのを防止できる。
さらに、本実施の形態に係る駆動装置30によれば、開作動用リリーサケーブル23および閉作動用リリーサケーブル24を、リンクユニット90におけるドラム部79eの径方向一側に並べて配置したので、各リリーサケーブル23,24を互いに近接させて配置することができる。したがって、各リリーサケーブル23,24の車体11への配索作業を簡素化して、駆動装置30の車体11への搭載性をより向上させることができる。
また、本実施の形態に係る駆動装置30によれば、遊星歯車機構79を、リングギヤ79dを停止させた状態でのキャリア79cの出力トルクが、キャリア79cを停止させた状態でのリングギヤ79dの出力トルクよりも大きくなるよう形成したので、一のモータ部71で出力トルクが異なる2つの回転力を出力して、リンクユニット90に設けた各ケーブル23,24,25をより大きな出力トルクで牽引することができる。よって、スライドドア13をより確実にロック状態およびロック解除状態にできる。
本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。例えば、上記実施の形態においては、リンク機構92に、クローザケーブル25および各リリーサケーブル23,24の双方を接続したものを示したが、本発明はこれに限らず、例えば、クローザケーブル25のみを接続することもできる。つまり、クローザ機構のみを備えてリリーサ機構を備えない車両にも適用することができる。
また、上記実施の形態においては、自動開閉機構20はロワーガイドレール15に案内されるロワーアーム14を各ケーブル21,22により駆動するロワー駆動タイプとなっているが、これに限らず、センターガイドレール18に案内されるセンターアーム17を各ケーブル21,22により駆動するセンター駆動タイプとしてもよい。
さらに、上記実施の形態においては、開側ケーブル21と閉側ケーブル22は別体に形成されるが、これに限らず、1本のケーブルの中間部位をドラム部79eに巻き掛け、その一端側を開側ケーブル21,他端側を閉側ケーブル22としてもよい。
また、上記実施の形態においては、全閉ロック機構40と全開ロック機構50はスライドドア13または車体11の同一側に設けられているが、これに限らず、これらをスライドドア13または車体11に別々に設けるようにしてもよい。