JP5539801B2 - ガス採取装置、およびそれを使用したガス分析器 - Google Patents
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Description
質量分析は、未知物質の同定と、既知物質の分析との両方に適用される既知の分析法である。質量分析の基礎を形成している原理は、一般に静的なまたは振動している電場または磁場を用いてイオンの質量/電荷(m/z)比に応じてイオンの混合物を分離する可能性にある。
最もよく使用されるイオン源の1つは電子衝撃(EI)型イオン源であり、サンプルの物質は自然に気化するか、または既に気相である。既知エネルギーの電子流がサンプルの分子に衝突し、サンプルの分子は1つ以上の電子を失って正イオンに変化する。その後、イオンは静電場により加速されて、分析器の方へと導かれる。
質量分析計として知られている、質量分析分野で使用される機器は、直列に配置された3つの主要装置、すなわち、イオン源(サンプルを揮発させてイオン化する役割を果たす)と、分析器(イオン源で作られたイオンを質量/電荷比に従って選別する役割を果たす)と、検出器(分析器から来るイオンを検出する役割を果たす)とを一般に含んでいる。
分析器は質量分析計の一部であり、イオン源で生成されたイオンの質量/電荷(m/z)比を選択することを可能にする。また、この測定はさまざまな方法で実行することができるが、どの場合においても、イオンが空気分子と衝突することなく分析器内を自由に動ける必要があり、それが質量分析計の内部を高真空状態に保持している理由である。
磁気的分析器は、曲管で構成されており、この曲管は、曲管に対して垂直な磁場にさらされている。磁場はイオンに曲がった軌道を描かせる。曲げ半径は入射イオンのエネルギーと、磁場Bとに依存する。イオン軌道が管の屈曲に一致している場合にだけイオンが分析器から出射するようになっており、イオンが管の屈曲よりも大きく曲がったり、または小さく曲がったりするときには、イオンは管壁と衝突して中性化される。したがって、磁場の各値に対して、ある特定のm/z比と、ある特定の運動エネルギーとを有するイオンだけが分析器を通り抜け、他方、その他のイオンは取り除かれる。磁場の値と、運動エネルギーとから、分析器で選別されたイオンのm/z比を計算することができる。このようにして、検出器で検出されたイオン電流強度のグラフであるところの質量スペクトルが分析器で選別されたm/z比に応じて求められる。質量スペクトル内におけるある特定の値のm/zにピークが存在している場合、イオン源がそのm/z比を有するイオンを生成していることを示している。
検出器は、ダイノード、すなわち、分析器を通り抜けるイオンにより生成される非常に微弱な電流を増幅できる電子式増倍管で一般に構成されている。このようにして得られた信号は、その後、各イオンの質量に応じたイオンの量、すなわち、最終的な質量スペクトル、を適切なソフトウェアを用いて表現することができるコンピュータに伝達される。
図1を参照すると、既知の技術の、電子衝撃型イオン源と、四重極型質量分析器と、に基づく種類の質量分析計装置を模式的に示している。図では、前記装置全体を参照番号(11)で示しており、前記装置は、入口セクション(11a)と、イオン化セクション(11b)と、分析セクション(11c)と、検出セクション(11d)とを含んでいる。
図示の実施例では、イオン化セクション(11b)は電子衝撃型イオン源を含んでおり、例えば、イオン化フィラメントなどのイオン化手段(33)を備えたイオン化チャンバ(31)を形成している。さらに、イオン源効率を高めるために永久磁石を設けることも可能であり、それにより、電子が、らせん軌道を実際に描き、イオン源の内部での電子の全経路長を増加させる。イオン化チャンバ(31)の下流の、イオン化チャンバ(33)と後続の分析セクション(11c)との間の移行領域内には、静電レンズ(35)が設けてある。イオン化チャンバ内では、気相になっている、分析されるべきサンプル分子が、白熱フィラメントで生成され調整可能な電位により加速された電子線と相互作用する。ビーム・エネルギーは通常約10〜100eVに調整されている。
分析セクション(11c)および検出セクション(11d)は、対応する軸方向主要ドア(43)を介してつながっているターボ分子ポンプ(21)により達成される、一般に少なくとも10−3Pa程度の圧力のケーシング(41)内に収容されている。
このような透過リークの例は、下記特許文献3および下記特許文献4に記述されている。
また、質量分析の分野で使用されている選択的透過膜については、下記特許文献10と、下記非特許文献1と、に開示されている。
上述した第1の種類のナノホール膜を、ガス透過膜と混同してはならない。第1の種類の膜は、例えば、レーザ穿孔などにより人為的に作られた穴であって、穴の全長に沿って実質的に均一な断面を有する穴を有しており、したがって、膜の使用方法に従って第1の種類の膜を較正することができ、さらに、平行な軸を有する数個の、または多数のほぼ同一の穴を同じ膜上に作ることができる。一方、ガス透過膜は、膜の材料の本来の特性が、通常高温において、ガスまたは混合ガスの透過を可能にするような膜である。
さらに、既知の装置ではイオン化チャンバに流入する一般的に大きい流量の流れを吸引しなければならないため、既知の装置は大きな流量能力を有する真空ポンプを備えていなければならない。
本発明のさらなる目的は、好ましい費用で工業的に製造することができるガス採取装置を提供することである。
本発明の第1の利点は、異なる真空状態下に保持された2つの環境、すなわち、採取装置の外側の環境と、採取装置のイオン化チャンバとを分離するために、少なくともナノホールを有する膜を使用することに由来している。実際、この手段により、少なくともナノホールを有する膜を通して、既知の技術で行われているような複雑な装置を用いる必要なしに、既に大気圧になっている状態で、分子流状態が確立する。
さらに、ガスの低減された流れは、特に、既知の装置において劣化問題を表すことでよく知られている腐食性ガスが存在する際に明らかな利点を有しており、装置を通り抜けるガス流が多ければ多いほど、より明らかになるであろう。
図2を参照すると、本発明の採取装置53が模式的に示されており、前記装置は、図示の例では、全体を参照符号51で示したガス分析器に組み込まれている。
本発明によれば、採取装置53は高真空気密ケーシング55を含んでおり、このケーシング55の内部には高真空気密イオン化チャンバ57が形成されており、このイオン化チャンバ57には、採取されるべきガスが入ってくる入口の第1の穴59(例えば、長さ2〜3mm)が設けてあるとともに、このイオン化チャンバ57は、ガス出口用の出口の第2の穴61を通して前記イオン化チャンバの下流の環境につながっている。
さらに本発明によれば、前記ナノホールは実質的に均一な横断面を有している。
本発明の好ましい実施形態によれば、膜は実質的に平面状であり、前記穴は、膜の表面に対して実質的に垂直な軸に沿って膜を貫通しているとともに、実質的に均一な横断面を有している。
一方は大気圧(1,013mbar)、もう一方は高真空状態(図示の例では、通常10−2Paより低い圧力)の異なる真空状態下に保持された2つの環境を分割するナノメートル程度(〜100nm)の直径を有する穴のコンダクタンスCは、下記のように測定できる。
したがって、外部環境からイオン化チャンバ57に移動するとき、混合ガスの濃度は上述の式に従って修正される(イオン化チャンバ57の内部では、徐々に、より軽いガスが、より高濃度で存在するようになるであろう)。
I+=kf・Ie・σ・n・l
ここで、
Ieはフィラメントの放出電流である。
σはイオン化衝撃断面積である。
nはガス密度である。
lはイオン源の内部での電子の経路長である。
kfは生成イオンの捕集効率である。
また、上述の式は下記のように書くこともできる。
I+=Ie・K(kf,σ,l)・P(β,n)
ここで、Kはイオン源の感度であり、水素バイヤート−アルパート・ゲージに対して、K=25torr−1(19・10−2Pa−1)であり、βはガスの種類に依存する定数である。したがって、圧力P=10−7mbar(10−5Pa)において電流Ie=4・10−3Aの場合、対応するイオン電流は下記のようになるであろう。
I+≒10−9A
1p.p.m.程度の感度を達成する場合には、下記を得るであろう。
I+≒10−15A
このI+は、例えば、チャンネルトロン検出器を用いて測定できる大きさに対応している。さらに、この種類の検出器で測定できる最小電流は10−19A程度であるため、p.p.b.の数分の一程度の感度を達成することが理論的に可能であろう。
Φ=2.3・10−8mbar(2.3・10−6Pa)
四重極に向かう直径約2.0mmの穴61を通る約0.1L/sのコンダクタンスを仮定すると、イオン源の内部では、約10−7mbar(10−5Pa)の全圧力を生じることになり、この全圧力は、例えば、従来のイオン・ポンプなどを用いて到達可能な値を表している。
膜63は、セラミック、金属、半導体材料、またはそれらの組み合わせで作られていることが好ましく、オリフィスは、頭字語F.I.B.で一般的に示される非常に集中させたイオン・ビームを用いた浸食作用により得られる。
また、入口セクション11aは、大気にも浸漬されることを意図しており、すなわち、大気圧においてガスを採取して、採取されるべきガス、または分析物が装置に入るようになっており、本発明によれば、入口セクション11aには膜63を組み込んである。
イオン化チャンバ57の下流の、イオン源と後続の分析セクション11cとの間の移行領域内には、静電レンズ35が設けてある。
内部環境を排気するために装置51のケーシング41につながっている、例えば、イオン・ポンプなどの少なくとも高真空ポンプ21が設けてあり、内部環境の中には分析セクション11cおよび検出セクション11dが収容されている。
このような利点は、本発明によれば、限られた分子流だけが膜63を通り抜けることにより、高真空ポンプを簡単なイオン・ポンプに縮小できるという事実においてさらに顕著になる。
Φ=C・(pu−pd)
ここで、puおよびpdは、それぞれチャンバ57の内部および外部の圧力である。
ナノホールの、含まれる大きさ(例えば、20〜30nm程度)、および採取チャンバ57の容積の、含まれる大きさ(例えば、cm3またはcm3の数分の一程度)は、それらが採取装置と関連する応答時間を非常に短縮させるとともに、腐食性ガスが存在する状態で使用する場合に装置の劣化問題を大幅に軽減させるため、本発明の大きな利点である。さらに、ナノホール膜を提供するおかげで、常に、大幅に簡略化され、その結果として、可搬式の構成として実施できる採取装置を実現することができる。
本発明によれば、常に、「目詰まり」として知られている現象、すなわち、ナノホールの閉塞、および、その結果として、より高い圧力を有するセクションから、より低い圧力を有するセクションへの分析物の分子流の遮断または低減、を引き起こす一因となる可能性がある水蒸気生成を回避するために、膜63、特に、より高い圧力を有する空間へ向かっている層63bの表面には、要求に応じて、防水被膜の塗布のような表面被覆をさらに施すことができる。
膜63は支持部73内に収容されていることが好ましく、この支持部73には膜73を収容できる適切なウェル79が設けてあることが有利である。さらに、支持部73は、例えば、銅などの金属で作られていることが好ましい。支持部73は、約20mmと25mmとの間にある直径と、約1.5mmと2.5mmの間に含まれる厚さとを有する、例えば、円板形を有することができる。
この例示的実施形態では、膜63は、平面図で見ると、例えば、正方形である可能性があり、約3.0mmと8.0mmとの間にある一辺と、約0.20mmの厚さと、を有しており、ウェル79は5.0mmと10.0mmとの間にある辺長を有することができる。
膜63が載置領域81上に位置するときに接着剤が溝部83から流れ出ることを可能にするために、およびこのように支持部73に対する膜63の完全な接着を可能にするために、ウェル79の周縁端縁部により規定される載置周縁部は膜63の側部から離間していることがさらに好ましい。
支持部83の載置領域81は、膜63内に設けられたナノホール65の場所に位置する開口85をさらに含んでいる。膜63が2つ以上のナノホールを有しているときには、所定の大きさを有する開口が提供され、かつ/または、ナノホールをふさがないように十分な数の複数の開口が提供されるであろうことは明らかである。
本発明は、EI電子衝撃型の種類のイオン源に特に関連して開示したが、他の種類のイオン源と組み合わせて採取装置を使用することも可能である。
Claims (15)
- 高真空気密ケーシングを含むガス採取装置であって、
高真空気密イオン化チャンバが形成されており、前記イオン化チャンバはイオン化されるべきガス用の入口の第1の穴を通して前記イオン化チャンバの外部の環境に通じているとともに、前記イオン化チャンバは前記イオン化されたガス用の出口の第2の穴を通して前記イオン化チャンバの下流の環境に通じており、
前記第1の穴は、ナノメートル程度の直径を有する少なくとも1つのナノホールが設けてある高真空気密膜を用いて、前記イオン化チャンバの外部の前記環境から分離されており、前記ナノホールは実質的に直線的な軸に沿って前記膜を貫通している、ガス採取装置。 - 前記ナノホールが、実質的に均一な横断面を有している、請求項1に記載の装置。
- 前記膜が実質的に平面状であり、前記ナノホールが前記膜の表面に対して実質的に垂直な軸に沿って前記膜を貫通しているとともに、実質的に均一な横断面を有している、請求項1に記載の装置。
- 前記ナノホールが10nmと500nmとの間にある直径Dを有している、請求項1、2、または3に記載の装置。
- 前記膜が1〜100個のナノホールを含んでおり、前記ガス流が前記ナノホールを通り抜ける場合を除いて、前記膜は前記ガス流に対して実質的に不透過性である、請求項1に記載の装置。
- 前記膜が、それぞれの圧力puとpdとを有している2つの環境の間に挿入できる種類の膜であり、ここで、pu>pdであり、前記ナノホールは制御されたガス流を前記圧力puに応じて生成でき、前記ナノホールはL<20・Dとなるようにあらかじめ定められた直径Dおよび長さLを有している、請求項1に記載の装置。
- 前記直径Dおよび前記長さLが、前記ナノホールの相当直径DeがDe≦100nmであるような寸法を有しており、ここで、Deは関係式De=D・a1/2で規定されており、ここで、aは前記ナノホールの、L/D比の関数である透過確率であり、前記ナノホールは大気圧値を含むpu値の全範囲において分子流領域の下で動作することができる、請求項6に記載の装置。
- 前記膜が、セラミック、金属、もしくは半導体材料、またはそれらの組み合わせで作られている、請求項7に記載の装置。
- イオン抽出用の静電レンズが、前記出口穴に付随している、請求項1に記載の装置。
- 前記出口穴が、1mmと3mmとの間に含まれるミリメートル程度の直径を有している、請求項1に記載の装置。
- 前記膜が、支持部内に作られたウェルの中に収容されており、前記ウェルは、前記膜内に作られた前記ナノホールの場所に位置する開口を含んでいる、請求項1に記載の装置。
- 前記ウェルが、前記膜用の載置領域であって、前記支持部の表面に対してわずかに低い高さに位置する載置領域をさらに含んでおり、前記膜が前記載置領域上に置かれているときに、前記ウェルの周縁端縁部が前記膜のずれを防止し、それによって、前記膜の取り付けをより容易にするようになっている、請求項11に記載の装置。
- 前記膜用の前記支持部の前記載置領域が、前記膜を前記支持部内に保持するために接着性物質を収容できる溝部により、取り囲まれている、請求項11または12に記載の装置。
- 入口セクション、イオン化セクション、分析セクション、および検出セクションと、高真空気密ケーシングを含むガス採取装置とを含むガス分析器であって、
高真空気密イオン化チャンバが形成されており、前記イオン化チャンバはイオン化されるべきガス用の入口の第1の穴を通して前記イオン化チャンバの外部の環境に通じているとともに、前記イオン化チャンバは前記イオン化されたガス用の出口の第2の穴を通して前記イオン化チャンバの下流の環境に通じており、
前記第1の穴は、ナノメートル程度の直径を有する少なくとも1つのナノホールが設けてある高真空気密膜を用いて、前記イオン化チャンバの外部の前記環境から分離されており、前記ナノホールは実質的に直線的な軸に沿って前記膜を貫通している、ガス分析器。 - 前記分析セクションが、四重極型質量分析計を含んでいる、請求項14に記載のガス分析器。
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