JP5539801B2 - ガス採取装置、およびそれを使用したガス分析器 - Google Patents

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Description

本発明は、ガス採取(サンプリング)装置と、前記装置を使用したガス分析器とに関する。
高真空状態下で、すなわち、一般に約10−2〜10−6Paの圧力範囲の下で、気相にすることができる物質を分析するために現在使用されている方法の中で、質量分析は最もよく使用されている方法の1つである。本発明は、この分野の使用方法には限定されないが、以下の説明の中では、主にこの分析法に言及するであろう。
質量分析は、未知物質の同定と、既知物質の分析との両方に適用される既知の分析法である。質量分析の基礎を形成している原理は、一般に静的なまたは振動している電場または磁場を用いてイオンの質量/電荷(m/z)比に応じてイオンの混合物を分離する可能性にある。
サンプルを揮発させてイオン化するための異なる方法が存在し、したがって、多数の異なる種類のイオン源が存在しており、これらのイオン源の中の主なものには、EI(電子衝撃)型イオン源、FAB(高速原子衝撃)型イオン源、エレクトロスプレー型イオン源、MALDI(マトリクス支援レーザ脱離イオン化)型イオン源がある。
最もよく使用されるイオン源の1つは電子衝撃(EI)型イオン源であり、サンプルの物質は自然に気化するか、または既に気相である。既知エネルギーの電子流がサンプルの分子に衝突し、サンプルの分子は1つ以上の電子を失って正イオンに変化する。その後、イオンは静電場により加速されて、分析器の方へと導かれる。
質量/電荷比に対する各イオンの濃度を記録する図は、それが各化合物の化学構造や、各化合物が経験するイオン化状態とに直接関連しているため、各化合物に特有の、いわゆる質量スペクトルである。
質量分析計として知られている、質量分析分野で使用される機器は、直列に配置された3つの主要装置、すなわち、イオン源(サンプルを揮発させてイオン化する役割を果たす)と、分析器(イオン源で作られたイオンを質量/電荷比に従って選別する役割を果たす)と、検出器(分析器から来るイオンを検出する役割を果たす)とを一般に含んでいる。
イオン源は質量分析計の一部であり、イオン化現象によりサンプルの分子をイオンに変化させることを任されている。さらに、生成されたイオンは、m/z比を測定するために空間内を自由に動けなければならない。
分析器は質量分析計の一部であり、イオン源で生成されたイオンの質量/電荷(m/z)比を選択することを可能にする。また、この測定はさまざまな方法で実行することができるが、どの場合においても、イオンが空気分子と衝突することなく分析器内を自由に動ける必要があり、それが質量分析計の内部を高真空状態に保持している理由である。
既知の技術に従って、分析器は、磁気的分析器と、オメガトロン型分析器(磁場とRF場とを使用することにより質量選別を行う)と、四重極型分析器と、イオン・トラップ型分析器と、FI−ICR(フーリエ変換イオン・サイクロトロン共鳴)型分析器と、TOF(飛行時間)型分析器と、サイクロイド質量分析器(結果として生じる電場と磁場との適切な選択により質量選別を行う)と、扇形磁場イオン・トラップ型分析器と、光学分光クロスワイヤ分析器(放射光もしくは吸収光のスペクトル測定、または分析サンプルへの光子の影響のスペクトル測定)と、に主に分類される。
本発明は特定の種類の分析器に限定されないが、以下では、一例として、磁気的選別器と、四重極型分析器およびイオン・トラップ型分析器と、に言及するであろう。
磁気的分析器は、曲管で構成されており、この曲管は、曲管に対して垂直な磁場にさらされている。磁場はイオンに曲がった軌道を描かせる。曲げ半径は入射イオンのエネルギーと、磁場Bとに依存する。イオン軌道が管の屈曲に一致している場合にだけイオンが分析器から出射するようになっており、イオンが管の屈曲よりも大きく曲がったり、または小さく曲がったりするときには、イオンは管壁と衝突して中性化される。したがって、磁場の各値に対して、ある特定のm/z比と、ある特定の運動エネルギーとを有するイオンだけが分析器を通り抜け、他方、その他のイオンは取り除かれる。磁場の値と、運動エネルギーとから、分析器で選別されたイオンのm/z比を計算することができる。このようにして、検出器で検出されたイオン電流強度のグラフであるところの質量スペクトルが分析器で選別されたm/z比に応じて求められる。質量スペクトル内におけるある特定の値のm/zにピークが存在している場合、イオン源がそのm/z比を有するイオンを生成していることを示している。
質量分析でよく使用される他の種類の分析器は、四重極型分析器である。一般に、四重極は4本の金属製平行棒で構成された装置である。対角線上で対向している2本の棒の各組は電気的に接続されており、一組の棒ともう一方の組の棒との間にRF(高周波)電圧が印加される。その後、RF電圧に直流電圧を付加する。イオンは四重極棒の間を飛行している間、振動する。ある特定のm/z比を有するイオンだけが四重極を通り抜けて、2種の電圧の所与の比率に対する検出器に到達し、他のイオンは不安定振動を受けて棒と衝突する。これは、特定のイオンの選別、または質量の領域での電圧変化を用いたスキャニングを可能にする。
質量分析器のさらなる実施例はイオン・トラップで構成されている。四重極も利用している物理的原理と類似の物理的原理に基づいて、イオン・トラップは、それ自体の内部にすべてのイオンを保持して、振動電場の強度が変化によりイオンを選択的に解放する。
検出器は、ダイノード、すなわち、分析器を通り抜けるイオンにより生成される非常に微弱な電流を増幅できる電子式増倍管で一般に構成されている。このようにして得られた信号は、その後、各イオンの質量に応じたイオンの量、すなわち、最終的な質量スペクトル、を適切なソフトウェアを用いて表現することができるコンピュータに伝達される。
さらに、コンピュータの使用により、機器パラメータと、電子式フォーマット・スペクトルのライブラリ内の文献検索とを迅速に組み合わせて、化合物スペクトルに基づいて、および分析が実行された動作状態に基づいて、化合物同定を自動化することができる。
図1を参照すると、既知の技術の、電子衝撃型イオン源と、四重極型質量分析器と、に基づく種類の質量分析計装置を模式的に示している。図では、前記装置全体を参照番号(11)で示しており、前記装置は、入口セクション(11a)と、イオン化セクション(11b)と、分析セクション(11c)と、検出セクション(11d)とを含んでいる。
入口セクション(11a)は、採取すべき環境内に浸漬されることを一般に目的としており、この環境は一般に大気圧に達しており、この環境から、採取すべきガス、または分析物が装置に入る。この目的のために、入口セクション(11a)は、ヒータ(15)が付随している毛細管(13)を実質的に含んでおり、前記ヒータは、例えば、毛細管(13)の周囲に巻き付けられた電気抵抗で構成されている。ガス導入システムの側壁に沿った吸収/脱離に起因する影響を回避することが既知であるため、材料の適切な選択とともに、ガス凝縮現象を回避することをさらに可能にする、例えば、100℃のような、かなり高温での動作が望ましい。
典型的な既知の技術の実施形態に従って、毛細管(13)は、対応するフランジ(19)の内部に形成されており、高真空ポンプ(21)を用いて排気される第1の移行チャンバ(17)につながっている。ポンプ(21)は、例えば、ターボ分子ポンプである可能性があり、ダクト(23)を介して半径方向側部ドア(25)につながっており、装置のケーシング(41)とつながっている入口の軸方向主要ドア(43)を提供している。
第1の移行チャンバ(17)の下流には、例えば、直径約20μm、長さ約1〜2mmの第2の微小毛細管(27)が設けてある。そして、微小毛細管(27)は、イオン化セクション(11b)につながる第2の移行チャンバ(29)に通じており、微小毛細管(27)の下流で、採取されるべきガスを集める。
図示の実施例では、イオン化セクション(11b)は電子衝撃型イオン源を含んでおり、例えば、イオン化フィラメントなどのイオン化手段(33)を備えたイオン化チャンバ(31)を形成している。さらに、イオン源効率を高めるために永久磁石を設けることも可能であり、それにより、電子が、らせん軌道を実際に描き、イオン源の内部での電子の全経路長を増加させる。イオン化チャンバ(31)の下流の、イオン化チャンバ(33)と後続の分析セクション(11c)との間の移行領域内には、静電レンズ(35)が設けてある。イオン化チャンバ内では、気相になっている、分析されるべきサンプル分子が、白熱フィラメントで生成され調整可能な電位により加速された電子線と相互作用する。ビーム・エネルギーは通常約10〜100eVに調整されている。
分析セクション(11c)は四重極装置(37)を含んでおり、この四重極装置(37)の下流には、例えば、ファラデー・カップ検出器および/またはSEM(二次電子増倍管)検出器もしくはチャンネルトロン検出器などの検出器(39)を含む検出セクション(11d)が設けてある。
分析セクション(11c)および検出セクション(11d)は、対応する軸方向主要ドア(43)を介してつながっているターボ分子ポンプ(21)により達成される、一般に少なくとも10−3Pa程度の圧力のケーシング(41)内に収容されている。
較正済みリーク装置もまた、当技術分野で知られている。この種類の装置は、気密試験の間に、リークを検出するのに必要な機器を較正することにより、膜を通して制御されたガス流を生成することと、リーク値を定量化することと、を可能にする。現在使用されている装置は、実質的に、オリフィス・リーク、または毛細管と、ヘリウム透過リークと、の2種類である。
第1の装置はピンホールとも呼ばれるが、レーザ・アブレーションまたは化学エッチングで一般に作られる。このような技術は、開口を高精度かつ再現性よく製造できるようにする。ナノホール、すなわち、膜を貫通し、ナノメートル・サイズの直径を有する穴、を備えた膜を有する第1の種類の装置の例が下記特許文献1に開示されている。この種類の装置は、気密試験の間に、リークを検出するのに必要な機器を較正することにより、膜を通して制御されたガス流を生成することと、リーク値を定量化することと、を可能にする。この種類の膜の他の例は下記特許文献2に開示されている。
一方、透過リークは温度が変化するとき、その挙動が非常に不安定になり(室温付近の温度値の場合、透過リーク値は摂氏で1度あたり約3%変化する)、応答時間が長く、こわれやすく(透過リークはガラスで作られているため、地面に落としただけでも容易にこわれてしまう)、ヘリウムに対してのみ使用でき、単一の流量値を有している。
このような透過リークの例は、下記特許文献3および下記特許文献4に記述されている。
また、透過リークに基づくガス採取装置は、下記特許文献5〜9に開示されている。
また、質量分析の分野で使用されている選択的透過膜については、下記特許文献10と、下記非特許文献1と、に開示されている。
上述した第1の種類のナノホール膜を、ガス透過膜と混同してはならない。第1の種類の膜は、例えば、レーザ穿孔などにより人為的に作られた穴であって、穴の全長に沿って実質的に均一な断面を有する穴を有しており、したがって、膜の使用方法に従って第1の種類の膜を較正することができ、さらに、平行な軸を有する数個の、または多数のほぼ同一の穴を同じ膜上に作ることができる。一方、ガス透過膜は、膜の材料の本来の特性が、通常高温において、ガスまたは混合ガスの透過を可能にするような膜である。
米国特許出願公開第2006/0144120号明細書 国際公開第03/049840号パンフレット 独国特許出願公開第19521275号明細書 国際公開第02/03057号パンフレット 米国特許第4008388号明細書 米国特許出願公開第2002/134933号明細書 米国特許第4311669号明細書 米国特許第4712008号明細書 国際公開第2008/074984号パンフレット 米国特許第4551624号明細書
Maden A M 外."Sheet materials for use as membranes in membrane introduction mass spectrometry" Anal. Chem., Am. Chem. Soc., US vol.68, no.10 1996年5月15日.pp.1805−1811,XP000588711 ISSN:0003−2700.
既知の技術のガス分析器についての先行する説明から容易に理解されるように、入口セクションおよびイオン化セクションは、構成要素の個数のために、およびこのような構成要素が互いと関連して高真空気密でなければならないという事実のために、かなり複雑であり、結果として、それを実施するためには多額の費用がかかる。
さらに、既知の装置ではイオン化チャンバに流入する一般的に大きい流量の流れを吸引しなければならないため、既知の装置は大きな流量能力を有する真空ポンプを備えていなければならない。
したがって、本発明の目的は、多数の用途で使用できるとともに、特に、ガス分析器につながることができる、簡略化したガス採取装置を提供することである。
本発明のさらなる目的は、好ましい費用で工業的に製造することができるガス採取装置を提供することである。
これらの目的および他の目的は、添付の特許請求の範囲に記載のガス採取装置で達成される。
本発明の第1の利点は、異なる真空状態下に保持された2つの環境、すなわち、採取装置の外側の環境と、採取装置のイオン化チャンバとを分離するために、少なくともナノホールを有する膜を使用することに由来している。実際、この手段により、少なくともナノホールを有する膜を通して、既知の技術で行われているような複雑な装置を用いる必要なしに、既に大気圧になっている状態で、分子流状態が確立する。
それにもかかわらず、少なくともナノホールを有する膜において確立している分子流は、採取装置のイオン化チャンバの内部に浸透する混合ガス内のガス濃度分布の変化に関係している。実際、分子領域では、採取装置のチャンバ内部を流れるガス流が、質量の平方根に反比例するため、前記チャンバの内部では、より軽いガスが、より高濃度を有することになる(例えば、ヘリウムの量がアルゴンの量より多い)ことは明らかである。多数の用途において、サンプリング環境に対するガス濃度分布のこの変化は好ましくないため、例えば、計算アルゴリズムを用いて、正しい分布を復元するように介入する必要がある。
しかしながら、本発明の好ましい実施形態によれば、採取装置のチャンバには、例えば、高真空状態または超高真空状態にある四重極などの分析器または質量フィルタに向かう較正済みの出口穴が設けてあり、分子流が残存しているため、それが採取装置のチャンバ内部の濃度分布の正しい状態の復元を決定することが有利である。したがって、この手段のおかげで、本発明のこの実施形態では、ガス濃度分布を修正する必要はないであろう。
イオン化チャンバにつながっている、少なくともナノホール、好ましくは複数のナノホールを有する膜(ナノホール膜)を選択したおかげで、既知の装置の多数の構成要素を取り除くことができることが有利である。特に、毛細管および関連ヒータと、移行フランジならびに関連する移行チャンバおよび微小毛細管と、移行チャンバと真空ポンプとの間の異なった接続とは不要にし得る。さらに、この後者の真空ポンプは、本発明の装置の低コンダクタンスのおかげで、装置内部の高真空状態を保持するために求められる低ポンピング速度を考慮して、より簡易な高真空イオン・ポンプと置き換えることができる。その結果、既知のシステムにおいて通常提供されている機械ポンプを取り除くことができるとともに、非常にコンパクトな装置を実現して可搬性に関する利点を達成することができるであろう。
本発明の他の利点は、異なる真空状態下に保持された2つの環境を分離する、少なくともナノホールを有する膜、または複数のナノホールを有する膜のどちらかを提供するだけで、採取装置の応答時間が非常に速くなり、例えば、数秒またはそれよりも短い程度になるという事実に由来している。
さらに、ガスの低減された流れは、特に、既知の装置において劣化問題を表すことでよく知られている腐食性ガスが存在する際に明らかな利点を有しており、装置を通り抜けるガス流が多ければ多いほど、より明らかになるであろう。
以下のような少なくともナノホールを有する膜、または複数のナノホール膜のどちらかを選択することは、ナノホールが閉塞する傾向を大幅に低減させることにさらに関係するであろう。すなわち、1つまたは複数のナノホールの直径Dおよび長さLが、L<20・Dであるような寸法を有しており、オリフィスの相当直径DがD≦100nmであり、ここで、Deは関係式D=D・a1/2で規定されており、aは、L/D比に依存するオリフィスの透過確率であり、前記オリフィスは大気圧値を含むP値の全範囲において分子流領域の下で動作することができる。
ここで、本発明の好ましい実施形態が、添付の図面を参照することにより非制限的な例として開示されるであろう。
先行技術のガス分析器のブロック図である。 本発明のイオン化装置を組み込んだガス分析器のブロック図である。 界面膜用の支持部の斜視図である。 図3に示した支持部において膜を組み込んだときの線IVーIVに沿う断面図である。
すべての図面において、同じ構成要素、または機能上等価な構成要素を示すために同じ参照番号を使用している。
図2を参照すると、本発明の採取装置53が模式的に示されており、前記装置は、図示の例では、全体を参照符号51で示したガス分析器に組み込まれている。
本発明によれば、採取装置53は高真空気密ケーシング55を含んでおり、このケーシング55の内部には高真空気密イオン化チャンバ57が形成されており、このイオン化チャンバ57には、採取されるべきガスが入ってくる入口の第1の穴59(例えば、長さ2〜3mm)が設けてあるとともに、このイオン化チャンバ57は、ガス出口用の出口の第2の穴61を通して前記イオン化チャンバの下流の環境につながっている。
本発明によれば、第1の穴59は、少なくともナノホール、すなわち、ナノメートル程度の直径を有する、すなわち、10nmと500nmとの間にある直径(例えば、約20〜30nm)を有する穴、を有する高真空気密膜63により外部環境から分離されている。ガス流がナノホールを通り抜ける場合を除いて、前記膜はガス流に対して実質的に不透過性であり、前記膜は1つだけのナノホール、または限られた個数のナノホール、例えば、10個ないし100個のナノホール、を含んでいることが好ましい。例えば、一辺が約100μm、厚さが、例えば、約100nmである正方形表面を有する前記膜63は、例えば、適切な接着剤、リング、金属、またはヴァイトン・ガスケットなどの高真空気密結合により、イオン化チャンバ57の側壁と、またはイオン化チャンバ57につながっているダクトと、さらにつながっている。
本発明によれば、高真空気密膜63には、ナノメートル程度の直径を有する少なくとも1つのナノホールが設けてあり、このナノホールは実質的に直線的な軸に沿って膜63を貫通している。
さらに本発明によれば、前記ナノホールは実質的に均一な横断面を有している。
本発明の好ましい実施形態によれば、膜は実質的に平面状であり、前記穴は、膜の表面に対して実質的に垂直な軸に沿って膜を貫通しているとともに、実質的に均一な横断面を有している。
さらに、前記ナノホールは10nmと500nmとの間にある直径「D」を有している。
一方は大気圧(1,013mbar)、もう一方は高真空状態(図示の例では、通常10−2Paより低い圧力)の異なる真空状態下に保持された2つの環境を分割するナノメートル程度(〜100nm)の直径を有する穴のコンダクタンスCは、下記のように測定できる。
Figure 0005539801
ここで、Aは穴の表面、Tはガスの温度、Rは気体定数、およびMはガスの質量である。
したがって、外部環境からイオン化チャンバ57に移動するとき、混合ガスの濃度は上述の式に従って修正される(イオン化チャンバ57の内部では、徐々に、より軽いガスが、より高濃度で存在するようになるであろう)。
しかしながら、イオン化チャンバ57の内部の領域は分子的であり、イオンが分析器の方へ出ていくための較正済みの穴61のところでは、依然として同じ式により調整される分子流領域が再び発生するであろう(徐々に、より軽いガスが、より多く出ていく)。したがって、全体として、穴61の大きさを適切に規定することにより、採取が行われる環境(図示の例では、大気圧の外部環境)内の混合ガスを形成する異なるガスの同じ濃度分布を、イオン化チャンバ57の内部に復元できるであろう。
したがって、穴61はmm程度の直径、好ましくは1〜10mmの範囲、例えば、2.5mmの直径と、mm程度の長さ、例えば、1mmの長さとを有するであろう。電子衝撃(EI)型イオン源では、ボトム・ガスが下記の式に従ってイオン化されることが知られている。
=k・I・σ・n・l
ここで、
はフィラメントの放出電流である。
σはイオン化衝撃断面積である。
nはガス密度である。
lはイオン源の内部での電子の経路長である。
は生成イオンの捕集効率である。
また、上述の式は下記のように書くこともできる。
=I・K(k,σ,l)・P(β,n)
ここで、Kはイオン源の感度であり、水素バイヤート−アルパート・ゲージに対して、K=25torr−1(19・10−2Pa−1)であり、βはガスの種類に依存する定数である。したがって、圧力P=10−7mbar(10−5Pa)において電流I=4・10−3Aの場合、対応するイオン電流は下記のようになるであろう。
≒10−9
1p.p.m.程度の感度を達成する場合には、下記を得るであろう。
≒10−15
このIは、例えば、チャンネルトロン検出器を用いて測定できる大きさに対応している。さらに、この種類の検出器で測定できる最小電流は10−19A程度であるため、p.p.b.の数分の一程度の感度を達成することが理論的に可能であろう。
膜63内のナノホール直径が約30nmの場合、1bar(10Pa)において、下記に相当する流量が得られるであろう。
Φ=2.3・10−8mbar(2.3・10−6Pa)
四重極に向かう直径約2.0mmの穴61を通る約0.1L/sのコンダクタンスを仮定すると、イオン源の内部では、約10−7mbar(10−5Pa)の全圧力を生じることになり、この全圧力は、例えば、従来のイオン・ポンプなどを用いて到達可能な値を表している。
本発明によれば、膜63は、常に、異なる真空状態下に保持され、圧力pとpとをそれぞれ有している2つの環境を分離するために挿入できる種類の膜であり、ここで、p>pであり、前記膜63は制御されたガス流を圧力pに応じて決定できる少なくともオリフィスまたはナノホールを有しており、前記オリフィスはL<20・Dのようにあらかじめ定められた直径Dおよび長さLを有していることが好ましい。
膜63は、直径Dおよび長さLがオリフィスの相当直径DがD≦100nmであるような寸法を有しており、ここで、Dは関係式D=D・a1/2で規定されており、aは、L/D比に依存するオリフィスの透過確率であり、前記オリフィスは大気圧値を含むp値の全範囲において分子流領域の下で動作することができる、そのような種類の膜であることがさらに好ましい。
上述の状態は、装置が空気にさらされていることにより装置内にもたらされる、または真空状態を作るために使用する機械ポンプもしくは他の装置からの後方散乱した油に由来する、汚染物質に起因する「目詰まり」現象を回避するために、実際に特に有効となる。
膜63は、セラミック、金属、半導体材料、またはそれらの組み合わせで作られていることが好ましく、オリフィスは、頭字語F.I.B.で一般的に示される非常に集中させたイオン・ビームを用いた浸食作用により得られる。
図2を参照すると、採取装置53は常に入口セクション11aと、イオン化セクション11bと、分析セクション11cと、検出セクション11dとを含むガス分析器51に組み込まれている。
また、入口セクション11aは、大気にも浸漬されることを意図しており、すなわち、大気圧においてガスを採取して、採取されるべきガス、または分析物が装置に入るようになっており、本発明によれば、入口セクション11aには膜63を組み込んである。
イオン化セクション11bは、例えば、EI電子衝撃型の種類などのイオン化チャンバ57を含んでおり、イオン化チャンバ57は、例えば、イオン化フィラメント、またはレーザ源、放射線源、静的プラズマ・イオン化源、もしくは高周波源などのイオン化手段33を備えている。
イオン化チャンバ57の下流の、イオン源と後続の分析セクション11cとの間の移行領域内には、静電レンズ35が設けてある。
分析セクション11cは四重極装置37を含んでおり、検出セクション11dは、例えば、ファラデー・カップ検出器および/またはSEM(もしくはチャンネルトロン)検出器などの検出器39を含んでいる。
内部環境を排気するために装置51のケーシング41につながっている、例えば、イオン・ポンプなどの少なくとも高真空ポンプ21が設けてあり、内部環境の中には分析セクション11cおよび検出セクション11dが収容されている。
本発明によれば、入口セクション11aが実質的に膜63だけに縮小されることが、図1に示す先行技術の構成との比較により明らかになり、その結果として装置が大幅に簡略化され、実施費用が節約できることが有利である。
このような利点は、本発明によれば、限られた分子流だけが膜63を通り抜けることにより、高真空ポンプを簡単なイオン・ポンプに縮小できるという事実においてさらに顕著になる。
膜63を通り抜けて、したがって、ガス分析器51に到達する分子流Φは、下記の関係式でコンダクタンスCと結び付いている。
Φ=C・(p−p
ここで、pおよびpは、それぞれチャンバ57の内部および外部の圧力である。
ナノホールの、含まれる大きさ(例えば、20〜30nm程度)、および採取チャンバ57の容積の、含まれる大きさ(例えば、cmまたはcmの数分の一程度)は、それらが採取装置と関連する応答時間を非常に短縮させるとともに、腐食性ガスが存在する状態で使用する場合に装置の劣化問題を大幅に軽減させるため、本発明の大きな利点である。さらに、ナノホール膜を提供するおかげで、常に、大幅に簡略化され、その結果として、可搬式の構成として実施できる採取装置を実現することができる。
図3および図4を参照すると、本発明の好ましい実施形態では、膜63は、けい素(Si)で作られた基板63aと、窒化けい素(SiN)で作られた表面被覆層63bと、を含んでいる。本発明によれば、窒化けい素で作られた層63bは、より高い圧力pを有する空間と向かい合うことを目的として作られていることが好ましく、他方、基板63aは、より低い圧力pを有する空間と向かい合うことになる。
膜63の例示的実施形態では、基板63aおよび層63bは、それぞれ約0.1〜0.3mmおよび200nmの厚さを有していた。
本発明によれば、常に、「目詰まり」として知られている現象、すなわち、ナノホールの閉塞、および、その結果として、より高い圧力を有するセクションから、より低い圧力を有するセクションへの分析物の分子流の遮断または低減、を引き起こす一因となる可能性がある水蒸気生成を回避するために、膜63、特に、より高い圧力を有する空間へ向かっている層63bの表面には、要求に応じて、防水被膜の塗布のような表面被覆をさらに施すことができる。
他の実施形態では、目詰まりのおそれを回避するためにさらに提供される加熱手段を、膜63に付随させることができることが有利である。
膜63は支持部73内に収容されていることが好ましく、この支持部73には膜73を収容できる適切なウェル79が設けてあることが有利である。さらに、支持部73は、例えば、銅などの金属で作られていることが好ましい。支持部73は、約20mmと25mmとの間にある直径と、約1.5mmと2.5mmの間に含まれる厚さとを有する、例えば、円板形を有することができる。
図示の実施例では、ウェル79は支持部73の中心に実質的に形成されており、ウェル79は平面図で見ると正方形であり、このウェル79の中に、好ましくはウェル79と相補的な形状を有する膜63を収容することができる。
この例示的実施形態では、膜63は、平面図で見ると、例えば、正方形である可能性があり、約3.0mmと8.0mmとの間にある一辺と、約0.20mmの厚さと、を有しており、ウェル79は5.0mmと10.0mmとの間にある辺長を有することができる。
さらに、ウェル79は膜63用の載置領域81をさらに含んでおり、この載置領域81は中央に位置しており、支持部73の表面に対してわずかに低い高さに位置していることが好ましく、膜63が領域81上に置かれることで、ウェル79の周縁端縁部が膜の横ずれを防止し、それによって、取り付けを容易にするようになっている。言い換えれば、この膜63が中央領域81上に置かれるとき、ウェル79の周縁側部が膜63用の載置周縁部を決定するのに十分である。
支持部73の中央領域81は溝部83により、さらに取り囲まれており、支持部73上に膜63を保持するために、この溝部83内に、例えば、密封用樹脂などの接着性物質を分配することができる。
膜63が載置領域81上に位置するときに接着剤が溝部83から流れ出ることを可能にするために、およびこのように支持部73に対する膜63の完全な接着を可能にするために、ウェル79の周縁端縁部により規定される載置周縁部は膜63の側部から離間していることがさらに好ましい。
機械加工を用いて、または放電加工もしくはレーザ・アブレーションを用いて、溝部83を得られることが有利であり、それによって、内表面上に分配された接着剤の最適な接着を保証するように内表面を粗にすることが好ましい。
支持部83の載置領域81は、膜63内に設けられたナノホール65の場所に位置する開口85をさらに含んでいる。膜63が2つ以上のナノホールを有しているときには、所定の大きさを有する開口が提供され、かつ/または、ナノホールをふさがないように十分な数の複数の開口が提供されるであろうことは明らかである。
図示の例示的実施形態では、ナノホール65は、膜63の、薄くなっている中央領域63cに作られていることが有利であり、この中央領域63cでは、基板63aが取り除かれており、層63bだけがある。前記薄くなっている領域は、例えば、20ミクロンと500ミクロンとの間にある一辺を有する、実質的に正方形である。しかしながら、基板63aを取り除かずに、または基板63aを部分的にのみ取り除くことにより、ナノホール65を膜内に作るような、他の実施形態も可能である。したがって、膜63内のナノホールは、層63b内だけに、または層63bと基板63aとの両方の中に作られる。
さらに、本発明によれば、支持部73、それぞれのウェル79、および膜63は、必要に応じて、例えば、円形、正方形、長方形、ひし形状、不規則形状などの、実質的に任意の形状を想定することができる。
本発明は、EI電子衝撃型の種類のイオン源に特に関連して開示したが、他の種類のイオン源と組み合わせて採取装置を使用することも可能である。
さらに、本発明は四重極の種類の分析器に関連して開示したが、当業者は、例えば、磁気的分析器、オメガトロン型分析器、イオン・トラップ型分析器、FI−ICR(フーリエ変換イオン・サイクロトロン共鳴)型分析器、TOF(飛行時間)型分析器、サイクロイド質量分析器、扇形磁場イオン・トラップ型分析器、光学分光クロスワイヤ分析器などの、他の種類の分析器において採取装置を使用することも可能であろう。
本発明のさらなる態様によれば、採取装置は、所定のガス・リーク検出器においてさらに使用できることが有利であり、したがって、所定のガス・リーク検出器は、四重極に対して大幅に簡略化し、所望のガスを検出するように適切に調整された、特定の質量分析計を備えているであろう。例えば、本発明の採取装置はヘリウム・リーク装置において使用でき、このヘリウム・リーク装置では、周知のように、採取されるべき環境内のヘリウム・イオン濃度に比例する電流信号を発生する。また同様に、嗅覚プローブを用いて装置内のリーク検出を行う分野において、本発明の装置を利用することもできるであろう。
説明して図示したようなガス採取装置には、多数の変形および変更が可能であるが、すべて同じ発明原理の一部である。

Claims (15)

  1. 高真空気密ケーシングを含むガス採取装置であって、
    高真空気密イオン化チャンバが形成されており、前記イオン化チャンバはイオン化されるべきガス用の入口の第1の穴を通して前記イオン化チャンバの外部の環境に通じているとともに、前記イオン化チャンバは前記イオン化されたガス用の出口の第2の穴を通して前記イオン化チャンバの下流の環境に通じており、
    前記第1の穴は、ナノメートル程度の直径を有する少なくとも1つのナノホールが設けてある高真空気密膜を用いて、前記イオン化チャンバの外部の前記環境から分離されており、前記ナノホールは実質的に直線的な軸に沿って前記膜を貫通している、ガス採取装置。
  2. 前記ナノホールが、実質的に均一な横断面を有している、請求項1に記載の装置。
  3. 前記膜が実質的に平面状であり、前記ナノホールが前記膜の表面に対して実質的に垂直な軸に沿って前記膜を貫通しているとともに、実質的に均一な横断面を有している、請求項1に記載の装置。
  4. 前記ナノホールが10nmと500nmとの間にある直径Dを有している、請求項1、2、または3に記載の装置。
  5. 前記膜が1〜100個のナノホールを含んでおり、前記ガス流が前記ナノホールを通り抜ける場合を除いて、前記膜は前記ガス流に対して実質的に不透過性である、請求項1に記載の装置。
  6. 前記膜が、それぞれの圧力pとpとを有している2つの環境の間に挿入できる種類の膜であり、ここで、p>pであり、前記ナノホールは制御されたガス流を前記圧力pに応じて生成でき、前記ナノホールはL<20・Dとなるようにあらかじめ定められた直径Dおよび長さLを有している、請求項1に記載の装置。
  7. 前記直径Dおよび前記長さLが、前記ナノホールの相当直径DeがD≦100nmであるような寸法を有しており、ここで、Dは関係式D=D・a1/2で規定されており、ここで、aは前記ナノホール、L/D比の関数である透過確率であり、前記ナノホールは大気圧値を含むp値の全範囲において分子流領域の下で動作することができる、請求項6に記載の装置。
  8. 前記膜が、セラミック、金属、もしくは半導体材料、またはそれらの組み合わせで作られている、請求項7に記載の装置。
  9. イオン抽出用の静電レンズが、前記出口穴に付随している、請求項1に記載の装置。
  10. 前記出口穴が、1mmと3mmとの間に含まれるミリメートル程度の直径を有している、請求項1に記載の装置。
  11. 前記膜が、支持部内に作られたウェルの中に収容されており、前記ウェルは、前記膜内に作られた前記ナノホールの場所に位置する開口を含んでいる、請求項1に記載の装置。
  12. 前記ウェルが、前記膜用の載置領域であって、前記支持部の表面に対してわずかに低い高さに位置する載置領域をさらに含んでおり、前記膜が前記載置領域上に置かれているときに、前記ウェルの周縁端縁部が前記膜のずれを防止し、それによって、前記膜の取り付けをより容易にするようになっている、請求項11に記載の装置。
  13. 前記膜用の前記支持部の前記載置領域が、前記膜を前記支持部内に保持するために接着性物質を収容できる溝部により、取り囲まれている、請求項11または12に記載の装置。
  14. 入口セクション、イオン化セクション、分析セクション、および検出セクションと、高真空気密ケーシングを含むガス採取装置とを含むガス分析器であって、
    高真空気密イオン化チャンバが形成されており、前記イオン化チャンバはイオン化されるべきガス用の入口の第1の穴を通して前記イオン化チャンバの外部の環境に通じているとともに、前記イオン化チャンバは前記イオン化されたガス用の出口の第2の穴を通して前記イオン化チャンバの下流の環境に通じており、
    前記第1の穴は、ナノメートル程度の直径を有する少なくとも1つのナノホールが設けてある高真空気密膜を用いて、前記イオン化チャンバの外部の前記環境から分離されており、前記ナノホールは実質的に直線的な軸に沿って前記膜を貫通している、ガス分析器。
  15. 前記分析セクションが、四重極型質量分析計を含んでいる、請求項14に記載のガス分析器。
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