JP5533628B2 - 製鋼スラグの処理方法 - Google Patents

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Description

本発明は、製鋼スラグが水分と接触したときに発生する高アルカリ性のスラグ溶出水のpHを低減する製鋼スラグの処理方法に係り、より具体的には、製鋼スラグにSi含有物質と水分を配合して水熱養生処理を行い、次いで炭酸化処理を行うことにより、処理後の製鋼スラグが水分と接触したときに発生するスラグ溶出水のpHを可及的に低減することができる製鋼スラグの処理方法に関する。
製鋼スラグは、路盤材や海洋環境改善材等の再生材として有効に利用されている(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4を参照)。しかし、溶出水のpH低減のための処理をしていない未処理の製鋼スラグをそのまま再生材として用いた場合、この未処理の製鋼スラグから溶出するスラグ溶出水はpH12に近いあるいはそれ以上の高いアルカリ性を示し、環境保全の面で問題となる。
また、この高アルカリ性のスラグ溶出水の主な原因物質が遊離CaOやCa(OH)2であることから、その防止対策として、遊離CaOやCa(OH)2を炭酸化してCaCO3にする炭酸化処理の方法が知られている。そして、この炭酸化処理の方法としては、製鋼スラグを水中に浸した状態で炭酸ガスを含むガスを吹き込みつつ超音波処理を行う方法(例えば、特許文献5を参照)や、水分量を調整した後に相対湿度75〜100%の炭酸ガス含有ガスに曝す方法(例えば、特許文献6を参照)等が知られている。
特開2007−105676号公報 特開2006−25629号公報 特開2009−45006号公報 特開2007−330254号公報 特開2009−57257号公報 特開2009−196865号公報
鈴木一孝、西川直宏、林知延、「Ca/Si比の異なるC−S−Hの炭酸化」、第43回セメント技術大会講演集、pp.58〜63、1989. Lindsay WL et al., (1979) Chemical Equilibria in Soils, p.8., John Wiley and Sons, Inc. 核燃料サイクル開発機構(1999)わが国における高レベル放射性廃棄物地層処分の技術的信頼性―地層処分研究開発第2次とりまとめ―分冊2 地層処分の工学技術
ところで、これらの従来のスラグ炭酸化技術(例えば、特許文献5、特許文献6を参照)は、主に遊離CaOやCa(OH)2を炭酸化するものであり、これら遊離CaOやCa(OH)2に起因するスラグ溶出水の高アルカリ性化に対しては有効であって、遊離CaOやCa(OH)2を炭酸化してCaCO3にすることにより、遊離CaOやCa(OH)2に起因するスラグ溶出水の高アルカリ性を低減する、という効果を達成するものではあるが、製鋼スラグの主要鉱物であるダイカルシウムシリケート(2CaO・SiO2)を炭酸化することまでは難しい。これは、ダイカルシウムシリケートが、遊離CaOやCa(OH)2に比べて、常温での化学的活性が低く、炭酸化の速度が遅いことに起因する。しかるに、このダイカルシウムシリケートは、水と接触すると徐々に溶解し、また、水に溶解するとpH11.5程度の高アルカリ性を示す。
このため、従来のスラグ炭酸化技術においては、たとえ製鋼スラグが炭酸化処理され、この製鋼スラグ中の遊離CaOやCa(OH)2が炭酸化されてCaCO3になったとしても、炭酸化処理後の製鋼スラグが降雨等の水分に長期的に浸漬される場合のように、炭酸化処理後の製鋼スラグ中のダイカルシウムシリケートが水と長期的に接触すれば、その溶出水は高アルカリ性を示すという問題がある。
また、従来のスラグ炭酸化技術においては、製鋼スラグが水と接触する際に、製鋼スラグ中の遊離CaOが製鋼スラグ表面や内部の空隙に存在する水と接触し水和してCa(OH)2になるときに、この水和反応により生成したCa(OH)2がゲル化し、未反応の遊離CaOがCa(OH)2ゲル層で覆われ、遊離CaOの水和反応が一時的に抑制されることがあり、また、このCa(OH)2ゲル層で覆われた遊離CaOが炭酸化処理の際に炭酸ガス含有ガスと接触できず、炭酸化が進み難くなることがあり、その結果として、炭酸化未反応の遊離CaOやCa(OH)2が残り、高アルカリ性の溶出水が発生するという問題もある。
そこで、本発明者らは、これら従来の問題を解決するため、特に、1) ダイカルシウムシリケートの炭酸化の促進と2) 炭酸化未反応の遊離CaOやCa(OH)2の残存抑制とについて鋭意検討した結果、炭酸化処理に先駆けて、製鋼スラグにSi含有物質と水とを配合して水熱養生処理を行うことにより、炭酸化処理後の製鋼スラグが水分と接触したときに発生するスラグ溶出水のpHを、未処理の製鋼スラグが水分と接触した場合と比較して、大幅に低減することができることを見出し、本発明を完成した。
従って、本発明の目的は、製鋼スラグ中のダイカルシウムシリケートの炭酸化を促進し、また、炭酸化未反応の遊離CaOやCa(OH)2の残存を抑制することができ、これによって炭酸化処理後の製鋼スラグが水分と接触したときに発生するスラグ溶出水のpHを短期に亘ってだけではなく、長期に亘っても可及的に低減することができる製鋼スラグの処理方法を提供することにある。
前記課題を解決するための本発明の製鋼スラグの処理方法は、次のとおりである。
(1)製鋼スラグにSi含有物質である土壌、珪石、珪砂、又はシリカヒュームと水を、製鋼スラグ100質量部に対して、Si含有物質を6〜14質量部の範囲で、水を20〜30質量部の範囲で配合して混練し、得られた混練物を養生温度160〜180℃及び養生時間1〜10時間の処理条件で水熱養生処理し、次いで得られた養生物に、相対湿度75〜100%の炭酸ガス含有ガスを、10〜40℃及び2〜24時間の処理条件で接触させて炭酸化処理することを特徴とする製鋼スラグの処理方法。
)前記水熱養生処理の養生時間が、4〜6時間であることを特徴とする請求項(1)に記載の製鋼スラグの処理方法。
(5) 前記炭酸化処理において、前記養生物に相対湿度75〜100%の炭酸ガス含有ガスを接触させることを特徴とする(1)〜(4)のいずれか1項に記載の製鋼スラグの処理方法。
〔1.製鋼スラグ中のスラグ鉱物とSi含有物質と水からの低CaO/SiO2比(以下、CaO/SiO2比を単に「C/S比」と呼ぶ。)のCSHの生成〕
本発明方法においては、先ず、製鋼スラグにSi含有物質と水とを配合して混練し、得られた混練物を水熱養生処理することにより、その養生物中に低C/S比のCSHを生成せしめる。
すなわち、製鋼スラグ、Si含有物質、及び水の混練物を水熱養生処理すると、製鋼スラグ中のスラグ鉱物(遊離CaO、Ca(OH)2、2CaO・SiO2等)がSi含有物質由来のSiO2や水(H2O)と反応し、CSHが生成するが、このCSHは、遊離CaOやCa(OH)2からだけではなく、ダイカルシウムシリケート(2CaO・SiO2)からも生成する(図1参照)。ダイカルシウムシリケートの水への溶解反応は常温では遅いが、水熱養生処理によって実現される高温では、常温における水への溶解反応よりも溶解速度が速くなり、かつ、Si含有物質がダイカルシウムシリケートからのCaの溶解を促進させるため、ダイカルシウムシリケートからのCSH生成が促進され、遊離CaOやCa(OH)2からだけではなく、ダイカルシウムシリケートからもCSHが生成する。
そして、この製鋼スラグ、Si含有物質、及び水の混練物の水熱養生処理に際しては、次の2点が重要となる。
イ)高温で水熱養生処理を行うことにより、常温でのCSH生成反応よりも反応を促進させること。
ロ)Si含有物質を添加して水熱養生処理を行うことにより、生成するCSHのC/S比が、Si含有物質の添加無しにスラグ鉱物から生成するCSHのC/S比よりも、低くなるようにすること。低C/S比のCSHは炭酸化され易いため(例えば、非特許文献1を参照)、結果として、Si含有物質を添加して生成したCSHはSi含有物質の添加無しに生成したCSHよりも炭酸化され易くなる。
すなわち、本発明方法において、製鋼スラグ、Si含有物質、及び水の混練物の水熱養生処理は、製鋼スラグ中のスラグ鉱物からのCSHの生成を促進し、更にスラグ鉱物をより炭酸化され易い低C/S比のCSHに変化させるという、炭酸化処理を促進するための前処理の役割を果たしている。
〔2.炭酸化未反応の遊離CaOやCa(OH)2の残存抑制〕
また、本発明方法においては、製鋼スラグ、Si含有物質、及び水の混練物の水熱養生処理により、製鋼スラグ中の遊離CaOの周囲に形成され、炭酸化処理の際に未反応の遊離CaOやCa(OH)2が残存する原因になるCa(OH)2ゲル層を可及的に除去する。
すなわち、製鋼スラグ中の遊離CaOの周囲には、遊離CaOの水和反応の際に、製鋼スラグ中の遊離CaOが製鋼スラグ表面や内部の空隙に存在する水と接触して水和し、炭酸化処理の際の水和反応を抑制するCa(OH)2ゲル層が形成されるが、本発明の水熱養生処理により、この遊離CaO周囲のCa(OH)2ゲル層がCSHとして取り除かれるので、水熱養生処理及び炭酸化処理の際に遊離CaOの水和反応が促進され、炭酸ガス含有ガスと接触できないまま未反応の遊離CaOやCa(OH)2として残存するのを効果的に抑制することができる。
〔3.養生物中の残留スラグ鉱物及び低C/S比のCSHの炭酸化〕
更に、本発明方法においては、製鋼スラグの水熱養生処理により生成した養生物を炭酸化処理し、養生物中の残留スラグ鉱物や水熱養生処理により生成した低C/S比のCSHをCaCO3に変化させる。すなわち、製鋼スラグ中のスラグ鉱物が炭酸化され易い低C/S比のCSHへと変化しているので、そこに炭酸ガス含有ガスを流すことにより、養生物中の残留スラグ鉱物及び炭酸化され易くなった低C/S比のCSHを炭酸化することができ、これによって養生物中の残留スラグ鉱物及びCSHをCaCO3に変化させる。この炭酸化処理により生成したCaCO3からのスラグ溶出水のpHは、遊離CaO、Ca(OH)2、ダイカルシウムシリケート、CSH等からのスラグ溶出水のpHよりも低いため、この炭酸化処理によりスラグ溶出水のpHを可及的に低減させることができる。
〔4.Si含有物質、CaCO3による炭酸化処理後の製鋼スラグのコーティング〕
そして、本発明方法によれば、水熱養生処理に用いたSi含有物質や、炭酸化処理により生成したCaCO3により、炭酸化処理後の製鋼スラグはその表面や内部の空隙がコーティングされ、pH低減効果が継続する。
すなわち、水熱養生処理の際に添加したSi含有物質や炭酸化処理により生成したCaCO3によって、炭酸化処理後の製鋼スラグはその表面や内部の空隙がコーティングされるが、これらの物質の溶出水のpHは製鋼スラグ中のスラグ鉱物からのスラグ溶出水のpHより低いので、これにより、スラグ溶出水のpHが低減される。また、Si供給源となるSi含有物質が炭酸化処理後の製鋼スラグの表面や内部の空隙に存在すれば、この炭酸化処理後の製鋼スラグからスラグ溶出水が発生した際には、Si含有物質とスラグ溶出水が反応しCSHが生成されるので、スラグ溶出水のpHが低減される。Si含有物質がある限り、このpH低減効果は継続することになる。
従来の炭酸化技術では、遊離CaOやCa(OH)2の炭酸化の促進は可能であったが、ダイカルシウムシリケートの炭酸化は困難であった。これに対して、本発明では、製鋼スラグに含まれるスラグ鉱物の遊離CaO、Ca(OH)2及びダイカルシウムシリケート(2CaO・SiO2)等を直接炭酸化するのではなく、前処理として製鋼スラグとSi含有物質及び水との混練物を水熱養生処理することにより、予め製鋼スラグ中のスラグ鉱物を炭酸化され易い低C/SのCSHへと変化させており、これにより、製鋼スラグ中のスラグ鉱物の炭酸化処理が効率的になり、従来法よりも幅広いスラグ鉱物(遊離CaO、Ca(OH)2、2CaO・SiO2等)をより確実に炭酸化することができる。
また、水熱養生処理により遊離CaO周囲のCa(OH)2ゲル層がCSHとして取り除かれるので、炭酸化未反応の遊離CaOやCa(OH)2の残存を抑制することができる。また、炭酸化処理後の製鋼スラグの表面や内部の空隙がSi含有物質やCaCO3でコーティングされるので、スラグ溶出水のpHが低減される。更に、Si供給源となるSi含有物質が炭酸化処理後の製鋼スラグの表面や内部の空隙に存在する限り、スラグ溶出水のpH低減効果が継続する。
従って、本発明方法によれば、従来法に比べて製鋼スラグ中のスラグ鉱物を幅広く、また、より確実に炭酸化することができ、本発明方法により水熱養生処理及び炭酸化処理が施された処理後の製鋼スラグを再生材として用いた場合には、この処理後の製鋼スラグが水分と接触して発生するスラグ溶出水は、そのpHが9.8〜10.5程度となり、環境保全の面でも全く問題がない。
本発明方法によれば、1)ダイカルシウムシリケートの炭酸化が促進され、また、2)炭酸化処理後に未反応の遊離CaOやCa(OH)2が残存するのを抑制することができるので、本発明方法による処理後の製鋼スラグが水分と接触したときに発生するスラグ溶出水のpHが大幅に低減し、製鋼スラグを環境に問題の無い状態で再生材として広範に使用することができる。
図1は、製鋼スラグとSi含有物質及び水との混練物を水熱養生処理した際におけるポゾラン反応(CSH形成反応)を示す概念図である。
図2は、実施例に記載された炭酸化処理における試料Gの初期質量に対する質量変化率を示すグラフ図である。
図3は、実施例に記載された炭酸化処理における試料G、P、Q中の遊離CaO、Ca(OH)2、CaCO3の含有割合を示すグラフ図である。
本発明に用いる製鋼スラグには、溶銑予備処理スラグ、転炉スラグ、二次精錬スラグ、電気炉スラグ等があり、遊離CaO、Ca(OH)2、ダイカルシウムシリケート等が鉱物として含まれている。これらのスラグと水が接触すると溶出水が発生し、溶出水のpHは高アルカリ性を示す。高アルカリ性の原因は、遊離CaO、Ca(OH)2、ダイカルシウムシリケートである。遊離CaOやCa(OH)2の飽和溶液のpHは12.5程度であり、ダイカルシウムシリケートの飽和溶液のpHは11.5程度である。
本発明に用いるSi含有物質には、土壌、珪石、珪砂、フライアッシュ、シリカヒューム等がある。例えば、平均的な土壌にはSiが約32質量%含まれており(例えば、非特許文献2を参照)、このSiは二酸化ケイ素(SiO2)やアルミノケイ酸塩(xM2O・yAl2O3・zSiO2・nH2O、Mはアルカリ金属イオンを示す。)等の鉱物として含まれている。
本発明では、上述の製鋼スラグとSi含有物質を水で混練する。この混練割合は次の通りである。
1)水の割合
水の割合は、製鋼スラグ100質量部に対して、20質量部以上30質量部以下、好ましくは21質量部以上23質量部以下であるのがよい。この水の割合は、製鋼スラグの周囲をSi含有物質でコーティングできるように、製鋼スラグとSi含有物質を湿らせる程度であるのが望ましく、水の割合が多過ぎると、製鋼スラグとSi含有物質と水の混練物が流動性を持ち過ぎて取り扱いが難しくなり、少な過ぎると、製鋼スラグとSi含有物質と水を混練させることが難しくなるという問題がある。
2)Si含有物質の割合
Si含有物質の割合は、製鋼スラグ100質量部に対して、6質量部以上14質量部以下、好ましくは10質量部以上12質量部以下であるのがよい。このSi含有物質の割合が多過ぎると、その分だけ製鋼スラグの混練割合が減ってしまうため、多くの製鋼スラグを処理できなくなり、反対に、Si含有物質の割合が少な過ぎると、製鋼スラグ中のスラグ鉱物由来のCaOとのCSH生成反応において、充分なSiO2を供給することができなくなり、スラグ鉱物から低C/S比のCSHを生成させることが難しくなるという問題が生じる。
3)製鋼スラグ、Si含有物質及び水の混練物の調製
本発明方法においては、先ず、製鋼スラグにSi含有物質と水とを添加して混練し、これら製鋼スラグ、Si含有物質及び水の混練物を調製する。この混練物の調製は、例えば、ポットミルとポットミル回転台を用いて製鋼スラグ、Si含有物質及び水を入れたポットミルをポットミル回転台により回転させて行われ、これによって水熱養生処理の際には製鋼スラグ中のスラグ鉱物とSi含有物質及び水とが効率良く反応し、炭酸化され易い低C/S比のCSHの生成が促進されると共に、水熱養生処理及び炭酸化処理の終了後には炭酸化処理後の製鋼スラグが未反応のSi含有物質でコーティングされ、この炭酸化処理後の製鋼スラグの近くにSi含有物質が存在することになり、再生材として使用されてスラグ溶出水が発生した際には、このスラグ溶出水がSi含有物質と反応し、CSHが生成される。そして、このCSHからのスラグ溶出水のpHは、製鋼スラグ中のスラグ鉱物からのスラグ溶出水のpHより低いので、スラグ溶出水のpHが低減され、また、Si含有物質がある限りスラグ溶出水のpH低減効果は続く。
4)混練物の水熱養生処理
また、本発明方法においては、上で得られた製鋼スラグ、Si含有物質及び水の混練物の水熱養生処理を行う。この水熱養生処理は、製鋼スラグ中のスラグ鉱物からのCSH生成の反応速度を促進するために行うものであり、低C/S比のCSHを含む養生物が生成する。この水熱養生処理における処理条件は、養生温度が通常100℃以上300℃以下、好ましくは160℃以上180℃以下であって、養生時間が通常1時間以上10時間以下であって、好ましくは4時間以上6時間以下であるのがよい。養生温度が100℃より低いと、CSH生成の反応が促進され難いという問題があり、反対に、300℃より高いとコストがかかるという問題があり、また、養生時間が1時間より短いと、CSH生成の反応が促進され難いという問題があり、反対に、10時間より長いと、水熱養生処理に時間がかかり過ぎるという問題やコストがかかるという問題がある。
5)養生物の炭酸化処理
次に、本発明方法においては、上で得られた養生物の炭酸化処理を行う。この炭酸化処理においては、養生物中の遊離CaO、Ca(OH)2、ダイカルシウムシリケート等のスラグ鉱物や水熱養生処理で生成した低C/S比のCSHを炭酸化によりCaCO3に変化させる。そして、この炭酸化処理の処理方法については、これまでに製鋼スラグの炭酸化処理の方法として知られている種々の方法、例えば、特許文献5、特許文献6等の方法を採用することができるが、複数の反応装置を必要とせず、また炭酸化処理の操作が煩雑ではないという観点から、好ましくは、養生物に対して相対湿度20%以上100%以下、好ましくは75%以上100%以下の炭酸ガス含有ガスを接触させる方法で行うのがよく、また、その際の処理条件としては、接触温度が−10℃以上80℃以下、好ましくは10℃以上40℃以下、及び接触時間2時間以上24時間以下、好ましくは4時間以上8時間以下であるのがよい。このような処理方法及び処理条件で炭酸化処理を行うことにより、この炭酸化処理により生成したCaCO3からのスラグ溶出水のpHは、遊離CaO、Ca(OH)2、ダイカルシウムシリケート、CSH等からのスラグ溶出水のpHよりも低いため、この炭酸化処理によりスラグ溶出水のpHを可及的に低減させることができるという効果がある。
この炭酸化処理により生成したCaCO3は、炭酸化処理後の製鋼スラグの表面や内部の空隙をコーティングするが、このCaCO3からのスラグ溶出水のpHは、製鋼スラグ中のスラグ鉱物からのスラグ溶出水のpHより低いので、結果としてスラグ溶出水のpHが低減される。
以上のように、本発明方法では、製鋼スラグにSi含有物質と水とを添加して混練し、得られた混練物に対して水熱養生処理及び炭酸化処理を行うことにより、炭酸化処理後の製鋼スラグからのスラグ溶出水のpHを低減するものであり、本発明方法によりスラグ溶出水のpHは目標値の10.5以下にまで容易に低下する。このpH低減の効果は、例えば、セメント系材料の場合、スラグ溶出水のpHが11.0程度であれば、周辺環境へのアルカリ影響を軽減できるとの報告があり(例えば、非特許文献3を参照)、充分に有効なものである。本発明方法には、ダイカルシウムシリケートの炭酸化促進の効果とCa(OH)2ゲル層の残存抑制の効果により、スラグ溶出水のpHを短期に亘ってだけではなく長期に亘っても可及的に低減するという、従来のスラグ炭酸化技術にはない本発明方法特有の効果がある。
製鉄所で発生した製鋼スラグ〔組成:遊離CaO:2.2質量%、Ca(OH)2:3.4質量%、CaO:38.7質量%、SiO2:17.3質量%、MgO:5.2質量%、Al23:5.5質量%、MnO:3.8質量%〕と、Si含有物質として建設残土〔主要鉱物が石英(SiO2)でSiO2を約56質量%含み、粒度が4.75mm以下のもの〕と、純水とを用い、表1又は表2に示す割合で混合し、よく混練して試料A〜Q(表1)、GS1〜GS10(表2)、及びGW1〜GW7(表2)の混練物を作製した。
次に、得られた試料A〜Q、GS1〜GS10及びGW1〜GW7中の各試料A〜N、GS1〜GS10及びGW1〜GW7の混練物については、各試料をステンレスポットの中に入れ、各試料を入れたステンレスポットを水熱養生処理装置の中に入れて、表1又は表2に示す条件で水熱養生し、その後に自然乾燥させる方法で水熱養生処理を行った。
なお、試料O、試料P、及び試料Qについては、水熱養生処理を行わなかった。
このようにして得られた水熱養生処理後の各試料A〜N、GS1〜GS10、及びGW1〜GW7の養生物と試料Oについて、各試料に10質量%の水を添加して良く混練し、得られた混練物を、底にメッシュ状の金網が設けられた内径180mm及び高さ700mmの円筒型容器内に入れて薄く平らにならし、この円筒型容器の下部から円筒型容器内に100%炭酸ガスを1.0L/分の流量で6時間供給し、炭酸化処理を行い、炭酸化処理後の各試料A〜N、GS1〜GS10、及びGW1〜GW7の養生物と試料Oの製鋼スラグを調製した。この炭酸化処理の間、円筒型容器内に供給した炭酸ガスについては、温度を18〜20℃に、また、相対湿度を76〜99%に維持した。また、炭酸ガスの供給開始直後から、電子天秤で各試料の質量変化を測定した。
なお、試料P(Si含有物質と水が添加されている試料)及び試料Q(原料の製鋼スラグのみの試料)については、水熱養生処理及び炭酸化処理を共に実施しなかった。
ここで、一例として、試料Gの質量変化を図2に示す。この図2に示す結果から明らかなように、炭酸化処理6時間後の試料Gの質量は、炭酸ガスを供給する前の質量に対して5.2質量%増加している。この質量の増加分は、遊離CaO、Ca(OH)2、低C/S比のCSHを炭酸化するために消費された炭酸ガスの質量と考えられる。
次に、試料A〜Q(表1)、GS1〜GS10(表2)、及びGW1〜GW7(表2)について、次のようにして溶出試験を行い、そのスラグ溶出水のpHを測定した。すなわち、試料100gと純水500mLとを混合し、混合物を容量1000mLのポリ容器に入れて蓋をして、30秒間振とうした後、3時間静置し、その後再び30秒間振とうして10分間静置し、上澄み液のpHを測定した。この上澄み液のpHを短期的な溶出によるスラグ溶出水のpHとして、以下、短期pHと呼ぶ。この後、再びポリ容器の蓋をして、さらに6日間と21時間静置し、その後再び30秒間振とうして10分間静置し、上澄み液のpHを測定した。この上澄み液のpHを長期的な溶出によるスラグ溶出水のpHとして、以下、長期pHと呼ぶ。これらの結果を表1又は表2に示す。






表1及び表2に示す結果から明らかなように、試料B〜M、試料GS2〜GS9、及び試料GW2〜GW6のスラグ溶出水の短期pH及び長期pHは10.5以下であって目標値の10.5以下を達成していたが、試料A、試料N、試料O、試料GS1、試料GS10、試料GW1及び試料GW7のスラグ溶出水の短期pHはそれぞれ11.37、10.97、11.23、10.28、10.31、10.32、10.35であり、試料A、試料N、試料O、試料GS1、試料GS10、試料GW1及び試料GW7のスラグ溶出水の長期pHはそれぞれ12.01、11.27、11.51、10.57、10.51、10.54、10.51であり、各試料の短期pHと長期pHの少なくとも一方が目標値の10.5を超えた。また、水熱養生処理と炭酸化処理を実施していない試料Pと試料Qのスラグ溶出水の短期pHはそれぞれ12.41と12.50であり、試料Pと試料Qのスラグ溶出水の長期pHはそれぞれ12.68と12.71であり、目標値の10.5を超えた。これに対して、試料Gのスラグ溶出水の短期pHは、その他のいずれの試料の短期pHよりも低くなっており、また、試料Gのスラグ溶出水の長期pHは、その他のいずれの試料の長期pHよりも低くなっており、試料Gの水熱養生処理及び炭酸化処理における処理条件が好ましい条件であることが確認された。
以上の結果を踏まえて、次に、試料G、試料P、及び試料Qのそれぞれに含まれる遊離CaO、Ca(OH)2、及びCaCO3の含有割合(試料全量に対する含有割合)をエチレングリコール抽出法ICP発光分光分析と示差熱分析により分析した。その結果を図3に示す。
図3に示す結果から明らかなように、各試料、試料P、及び試料Qに含まれる遊離CaOの含有割合は、原料の製鋼スラグである試料Qと比べて、Si含有物質と水を混練しただけの試料Pでは殆ど減少しておらず、これに対して、Si含有物質と水を混練して水熱養生処理及び炭酸化処理を行った試料Gでは、試料Qの36%程度にまで減少していた。
また、各試料、試料P、及び試料Qに含まれるCa(OH)2の含有割合は、原料の製鋼スラグである試料Qと比べて、Si含有物質と水を混練しただけの試料Pでは殆ど減少しておらず、これに対して、Si含有物質と水を混練して水熱養生処理及び炭酸化処理を行った試料Gでは、試料Qの15%程度にまで減少していた。
更に、各試料、試料P、及び試料Qに含まれるCaCO3の含有割合は、原料の製鋼スラグである試料Qと比べて、Si含有物質と水を混練しただけの試料Pでは殆ど増加しておらず、これに対して、Si含有物質と水を混練して水熱養生処理及び炭酸化処理を行った試料Gでは、試料Qの16倍程度にまで増加していた。
なお、試料Gにおける遊離CaO、Ca(OH)2、及びCaCO3の総含有割合が試料Pや試料Qのそれに比べて増加しているのは、水熱養生処理により生成したCSHや養生物中の残留スラグ鉱物が炭酸化処理されてCaCO3に変化し、その分が増加したためと考えられる。
このように、製鋼スラグにSi含有物質と水を混練して、160〜180℃で5時間の水熱養生処理及び6時間の炭酸化処理を行った試料Gでは、試料Pと試料Qと比べて、高アルカリ性の溶出水の原因物質である遊離CaOとCa(OH)2の含有割合が小さくなっており、更にCaCO3の含有割合が大きくなっていることが判明した。
1…ダイカルシウムシリケートの相、2…遊離CaOの相、3…その他のスラグ鉱物の相、4…水和し変質したスラグ鉱物の相、5…Si含有物質の相、6…CSHの相、及び、7…炭酸化されたCSHの相。

Claims (2)

  1. 製鋼スラグにSi含有物質である土壌、珪石、珪砂、又はシリカヒュームと水を、製鋼スラグ100質量部に対して、Si含有物質を6〜14質量部の範囲で、水を20〜30質量部の範囲で配合して混練し、得られた混練物を養生温度160〜180℃及び養生時間1〜10時間の処理条件で水熱養生処理し、次いで得られた養生物に、相対湿度75〜100%の炭酸ガス含有ガスを、10〜40℃及び2〜24時間の処理条件で接触させて炭酸化処理することを特徴とする製鋼スラグの処理方法。
  2. 前記水熱養生処理の養生時間が、4〜6時間であることを特徴とする請求項1に記載の製鋼スラグの処理方法。
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