JP5532528B2 - レールのテルミット溶接方法 - Google Patents

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Description

本発明は、レールのテルミット溶接方法に関する。特に本発明は、溶接継手部の疲労強度を向上させることができるレールのテルミット溶接方法に関する。
軌道レールの中で最も損傷の起こりやすく、保守コストがかかる部分はレール継目部である。また継目部は列車通過時に騒音振動の主要な発生源となる。旅客鉄道の高速化や貨物鉄道の高積載化が国内外で進められてきた過程で、上記問題点を有するレール継目を溶接によって連続化してロングレールとして使用する技術が一般化している。
列車の通過の際にレールには曲げ荷重が作用し、レール底部には引張応力が生じる。この応力は車輪の通過ごとに発生するため、レールには高い疲労強度が必要となる。特に断面形状や材質上の変化が避けられない溶接部では疲労強度は重要である。
図12は、レールの断面を示す図である。レールは、車輪との接触が生じるレール上部である頭部1、枕木に接地するレール下部である足部3、頭部1と足部3の中間の垂直部分である柱部2を有する。足部3の裏側をレール足裏3Aとし、表側をレール足表3Bとする。レール足裏3Aの範囲はレール底面の直線部、レール足表3Bは足部3の表面側の直線部及び足部3と柱部2の間の曲線部を含むこととする。以上のように定義された部分は、本明細書の全体に渡って適用される。
レールの溶接方法はフラッシュバット溶接、ガス圧接、エンクローズアーク溶接、テルミット溶接の4つが主な方法である。このうちフラッシュバット溶接及びガス圧接は装置が大がかりであり、溶接工場又は溶接基地における高能率な溶接法として採用されている。これらの溶接方法は圧接法で、軸方向の加圧によりレール断面が膨らむことで、ビードが形成される。このビードは溶接後の高温時に油圧バイトで削除される。このため列車通過時の際のビード止端部における応力集中はほとんど生じない。従ってこれらの溶接法による溶接継手の疲労強度は問題がない。
一方、エンクローズアーク溶接及びテルミット溶接は装置が小さく機動性が高いため、軌道現地での溶接方法として多用されている。これらのうちエンクローズアーク溶接は手棒によるマニュアル溶接であり、形成されるビードは小さく、溶接後に研磨除去される。このため列車通過時の際のビード止端部における応力集中はほとんど生じず、この溶接法による溶接継手の疲労強度も問題がない。
テルミット溶接法の溶接原理を説明する。テルミット溶接法は、アルミと酸化鉄の化学反応によって生成した溶鋼を溶接部に流し込んでレールを溶接する溶接法である。詳細には、溶接されるレールを20〜30mmの端面間隙間を設けて対向設置し、このレール端面間の隙間を鋳型で取り囲み、テルミット反応によって生じた溶鋼をレール端面間の隙間に流し込んで溶接する。
テルミット溶接継手には図13に示すような厚肉、幅広のビード10がレール柱部と足部に形成され、それを残したまま実用に供される。ビード10の形状は溶接材料の製造メーカによっても異なるが、厚みは5mm〜20mm、幅は30〜50mm程度である。
テルミット溶接では多量の溶接金属が一気に注入される。このために溶融プールが大きく、凝固収縮量が大きい。この凝固収縮に見合う溶融金属を上方から供給するために太い、湯道すなわちビード部が必要となる。テルミット溶接は技術的には鋳造に近いため、テルミット溶接部には、鋳造物にしばしば発生する微少なピンホールや粗大介在物が生じることがある。厚肉のビード10は、ピンホールや粗大介在物が溶接部の強度に影響しないようにする強度補償的な意味合いも持っている。また、型のビード10を除去することは多大の労力を要する。このため、テルミット溶接では、レール柱部2、足部3のビードを残したまま使用される。
図14に示す通り、テルミット溶接用鋳型は左右2分割の鋳型4A、4Bから構成される2分割形式(図11(A)は断面概略図、(B)は正面概略図)と、左右鋳型4A、4B及び底面鋳型4Cの3個の鋳型から構成される3分割形式(図11(C)は断面概略図、(D)は正面概略図)があり、日本国内では2分割形式が主流である。2分割形式鋳型4A、4Bはレール及び鋳型の製造寸法変動に対応するために、鋳型のレールにはめ込む空間をレールの標準断面より幾分(1〜2mm)大きめに製作される。このため鋳型をレールにセットした際に、レールと鋳型の間に隙間が生じる。溶接の際に、この隙間に溶鋼が差し込むと図15に示すような鋳バリ11a、 11bが生成する。従来のテルミット溶接工法では、鋳型をできるだけレール足裏側Aに密着させてセットしていた。そのためレール足裏3Aに対してレール足表3Bに厚い鋳バリが生じやすい。
従来において鋳型をレール足裏3Aから密着させる理由は、漏れに対する配慮によるものと考えられる。すなわちレールと鋳型の隙間に溶鋼が入り込むと鋳バリを生じるが、溶鋼が鋳型の外面で留まらずに、さらに鋳型外まで漏れると溶接失敗につながる。鋳型とレールの隙間をレール足表3Bに多くなるように鋳型をセットしておけば、仮に溶鋼が漏れだしても発見しやすく、またレール足表3Bがレール足裏3Aより位置が高いため静水圧が幾分低くなり、湯漏れ時の勢いが小さく、漏れ止めの対処を行いやすいという利点がある。
2分割式鋳型を使用したテルミット溶接継手の疲労試験を行うと、レール足表3Bの余盛付け根から疲労亀裂14Aが発生し、ある程度疲労亀裂14Aが進むと脆性的に破断する(図16)。テルミット溶接部の疲労試験においてレール足表3Bから亀裂が生成する理由は、溶接残留応力が引張であることが主因であると考えられている。溶接残留応力は溶接後にレールが冷却する過程で、レール各部位の冷却速度が不均一であることにより生じる。テルミット溶接継手の残留応力の測定結果によると、レール足表3Bの付け根付近は例えば100MPa前後の引張状態、レール足裏3Aの中央部は例えば250MPa程度の圧縮状態となっている。車輪が通過する際など曲げ荷重が溶接継手に加えられた際に、力学的にはレール足裏3Aに大きい引張応力が生じるが、残留応力により有効応力は小さくなる。一方、レール足表3Bは引張残留応力が存在するため有効応力は大きくなる。このため、レール足表3Bが疲労破壊に対して条件がより厳しくなると考えられる。なお、レール足の先端部分については圧縮残留応力が極めて高いことに加えて、荷重がかかった際にたわみを生じて応力が緩和するため、破断起点となることは少ない。
一方、3分割形式の鋳型はレールとの密着性がいく、鋳バリの生成は少ない。
従来技術としては以下のような技術が開示されている。2分割式鋳型を使用した標準的な溶接方法が特許文献1に開示されている。この方法に記載された器具、方法を採用することにより失敗なく安定してテルミット溶接が行うことができる。
また3分割式鋳型を使用した溶接の際に溶接ビードの止端部の曲率半径を滑らかにすることで、より疲労性能の優れた溶接継手を提供できるようになっている。
分割鋳型形式で、溶接ビードの止端部の曲率半径を滑らかにし、さらにビードの厚みを低くすることで、より応力集中を軽減した、疲労性能の優れた溶接継手を提供できるようになっている。
特公昭53-29650号公報
分割式鋳型はレールとの密着性に優れており、鋳バリがほとんどでない溶接継手を提供することができる。しかしながら鋳型の個数が1個多いためにこれをセットするための治具が必要になり、また鋳型同士の接触部も1箇所増えることから、湯漏れに対する危険性が高まり、より注意深い鋳型のセットが必要となる。レール溶接工事は夜間の限定された列車運休時間帯に行われる。古レールの撤去、新レールの敷設後に溶接が行われる為、溶接に与えられる時間は限定されている。特に都市近郊の主要線区では終電が遅く、始発が早いため作業時間にはほとんど余裕がないと言われている。このため鋳型セットに時間がかかる3分割方式は施工能率という点で2分割方式に比べて不利である。
一方、2分割式鋳型でレールの溶接を行った場合、3分割式鋳型でレールの溶接を行った場合と比較して疲労特性が低かった。
本発明は上記のような事情を考慮してなされたものであり、その目的は、施工能率の高い2分割式鋳型を用いても、溶接継手部の疲労性能を向上させることができるレールのテルミット溶接方法を提供するものである。
本発明者が鋭意検討を行った結果、鋳バリがレール足部の表面に形成された場合、この鋳バリによって応力集中が生じ、レールの疲労特性を低下させることが見出された。レール足部の表面においては、レールの柱部から応力が伝達される際に柱部との境界部分に応力が集中するが、上記した鋳バリによる応力集中はこの現象と相乗効果を生じ、一層の疲労特性低下をもたらしていた。
本発明は上記した知見に基づいたものであり、その要旨は以下の通りである。
(A)2分割式鋳型を用いるテルミット溶接法によりレールを溶接する工程と、
レール溶接部において前記レールの足表部に形成されたビードを残しつつ鋳バリをリューターにより研削することによって前記鋳バリの最大厚さを1mm以下にする工程と、
を具備し、
レールを正立姿勢で溶接部を中心にして、スパン1mの支持台に置き、中央に治具で頭部から繰り返し荷重を負荷する3点曲げ疲労試験において、繰り返し最大回数を200万回、負荷速度を5Hz、最小荷重σminを30MPaの一定、最大荷重σmaxとして、レールが破断するまで繰り返し負荷を行う際の疲労強度が250MPa以上であることを特徴とするレールのテルミット溶接方法。


前記鋳バリの最大厚さを1mm以下にする工程は、前記レールを溶接する工程の後、前記レールが室温に冷却されるまでの間に行われる上記(A)に記載のレールのテルミット溶接方法。
前記鋳バリの最大厚さを1mm以下にする工程は、前記レールを溶接する工程の後、前記レールが室温に冷却された後に行われる上記(A)に記載のレールのテルミット溶接方法。

レールのテルミット溶接継手のレール足表の鋳バリを溶接後に研磨工具により除去もしくは1mm以下に薄くする。その結果、鋳バリ部分の応力集中が軽減され、3点曲げ疲労強度が250MPa以上に向上する。
まず本発明者らは、2分割式鋳型を用いたテルミット溶接方法で溶接されたレールにおいて、鋳バリが疲労強度に与える影響を見極めるために、レール足表とレール足裏の鋳バリの厚みを変化させて、疲労強度を評価した。図1に示すように、レールの足表3Bの威バリが薄くなるにつれて疲労強度が増加した。足表3Bの鋳バリの厚さの低下に伴う疲労強度の向上は、鋳バリに起因した応力集中が軽減したためと考えられる。また、図2に示すように、鋳バリの最大厚さが一定値以下(例えば1mm以下)になった場合に疲労亀裂の起点がレール足裏側に移行した。
この結果から、本発明者らは、2分割式鋳型を用いたテルミット溶接方法で溶接されたレール足表から鋳バリを除去することにより、レール足表3B側に亀裂が発生する因子が軽減することで疲労強度最弱部での亀裂発生が抑えられ、疲労寿命が延伸することを見出した。より厳しい応力設定の疲労試験ではレール足裏3A側に亀裂起点が生じるものの、疲労強度としては上昇していることになる。
次に、具体的な溶接方法について説明する。被溶接レールの端部を隙間を開けて対向させて真直ぐに設置する。隙間の大きさは、例えば25mm±1mmである。対向するレールの端面は鉛直方向、水平方向ともに一致していることが望ましいが、レール製造時の変動のためにレール断面形状がわずかにずれる場合がある。その場合には列車の車輪との接触が主に生じる、軌道内面側の直線性を確保するようにレールをセットする。
次に被溶接レールの端面間の隙間を2分割型の鋳型4A、4Bで取り囲むように、被溶接レール及び鋳型4A,4Bを配置する。このとき図3に示すように、鋳型4A、4Bの内面のレール接触面をレール足裏3Aに密着するようにセットする。次いで、図4に示すように、鋳型4A、4Bをレールに固定した治具17及び鋳型カバー16によりしっかりと固定する。鋳型4A、4Bをその会合面が正確に一致するように丁寧に装着する。鋳型内面の空間22とレールギャップ5によって溶接金属が流し込まれる溶接空間が形成される。
なお、鋳型4A、4Bの材質は耐火物であるが、一般的には硅砂SiOを水ガラスで結合したものを用いる。水ガラスには鋳型の高温時の強度を確保するために酸化鉄Feを配合してもよい。
また図5に示すように、溶鋼が反応ルツボ7Aから溶接部に注入される際に、鋳型4A、4Bに加わる衝撃を緩和するために、鋳型4A、4B内に分流板6を取り付けることが望ましい。また図3に示すように、鋳型4A、4Bの被溶接レールに向いた面には溶接金属が充満してビードを形成する空間13が設けられている。また、上方から注入された溶鋼がレール足部で停滞することなく上方に上昇するように、鋳型4A、4Bのレール足表3Bに対応する位置に湯揚り12が設けられている。湯揚り12に溶鋼が流出することで、レール断面部に高温の溶鋼が次々に上方から流入し、レール足部3への入熱を大きくし、溶け込みを確実にすることができる。湯揚り12に充満した溶鋼は凝固、冷却後に除去される。
上記したように、鋳型4A,4Bと被溶接レールの間には、製造寸法の変動により隙間が生じることが避けられない。この隙間に溶接金属が侵入することにより鋳バリが生じる。本実施形態では、レール足表3Bがレール足裏3Aより鋳型4A、4Bの内面に近いため、鋳型4A,4Bとレール足裏3Aの間の空間から溶鋼が漏洩することを防ぐ必要がある。このためには、目地材を鋳型とレールの接触部分に充填することが有効である。目地材は耐火性であることが必要であり、硅砂SiOなどの耐火物の混練物が有効である。
鋳型4A,4Bをセットした後、溶接に先立って被溶接レール、鋳型4A、4Bの乾燥、レールの十分な溶け込みを確保するために予熱を行う。予熱ガスはプロパンガスもしくはプロパン-酸素の混合ガスを用い、これらに点火して鋳型の注入口から燃焼炎を鋳型内に吹き込む。予熱の間は分流板6を取り外しておく必要がある。予熱が不十分であるとレール端面の溶け込みが不十分になることがあるため確実に行う必要がある。予熱時間は、例えば1.5〜2.5分間である。
テルミット反応を起こさせる溶剤は、酸化鉄と金属アルミ粉末を混合したものである。本発明においては使用する溶剤の配合は規定しないが、簡単に溶剤について説明を行う。酸化鉄と金属アルミの混合比率は、下記の反応式における化学量論比に概略一致している必要がある。
Fe+2Al→2Fe+Al
3FeO+2Al→3Fe+Al
なお、溶接金属の成分調整用に、フェロマンガン、フェロシリコン、フェロクロム、フェロモリブデン、フェロバナジュームなどの鉄合金もしくは金属マンガン、金属クロムなどの純金属を適宜加えてもよい。また溶接金属の温度調整や金属量の調整のために金属鉄を配合してもよい。
テルミット溶剤24の量は、反応によって生じる溶鋼が溶接空間を十分に満たすように設計される必要があり、通常は10〜20kgの範囲である。
テルミット溶剤24は図6に示すように反応ルツボ7A内に装入される。反応ルツボ7Aの材質はアルミナやマグネシアなどの耐火物を固形化したもので、下部がロート状になっているものが望ましい。テルミット反応は、花火状の反応開始材に点火して溶剤24中に装入するか、バーナーを溶剤24に直接当てて開始させることにより開始する。反応ルツボ7Aは鋼製のケース7Bに設置されている。また反応ルツボ7Aはレールに固定できるスタンド治具18(図4)を用いて、溶接部近傍に配置される。スタンド治具18はルツボ支持部分がスタンドを軸として回転可能であり、溶接準備中は退避し、溶接時に溶接部直上にセットできることが望ましい。
テルミット反応は15sec〜30secで完了し、反応ルツボ7A内に溶鋼と溶融スラグが生成する。溶融スラグの主成分はアルミナであり、若干の未還元の酸化鉄を含んでいる。溶鋼と溶融スラグは比重差により反応ルツボ7A内で上下に分離する。
反応生成物である溶鋼は、反応ルツボ7A底部を開口することにより被溶接レールの端面間の隙間内に流し込まれる。反応ルツボ7A底部の開口は、反応ルツボ7A底部にあらかじめ装着した酸化物栓15(図6参照)が溶融して開口する方法が一般的であるが、機械式のスライド弁や手動で反応ルツボ7A底部に設けた溶鋼受け弁を開口する方法も採用可能である。
反応ルツボ7A底部が開口すると、まず溶鋼が被溶接レール端面と鋳型4A,4B内面から構成される溶接空間に充満し、その上に溶融スラグが流入する。
溶鋼の注入後、凝固するまでの数分間は静置しておく。溶鋼が未凝固の状態でレールに力が加わると、割れなどの溶接欠陥を生じるためである。注入後の静置時間は3〜6分程度である。なお溶融スラグの凝固温度は溶鋼と同程度である。
完全に溶鋼が凝固した時期を見計らって、レール頭部1の余盛金属を熱間で除去する。余盛金属の除去はせん断刃を備えた油圧装置を用いて行いるのが一般的であるが、タガネとハンマーにより手動で、はつり落としてもよい。
その後、レール柱部2と足部3に鋳型4A,4bがついている状態で、グラインダーによりレール頭部1の平滑研磨を施してもよい。柱部2と足部3から鋳型4A,4Bがすぐに除去されない理由は、高温の時点では鋳型4A,4Bが溶接部に焼き付いており、除去するのが困難だからである。300℃程度まで溶接部が冷却されると、柱部2と足部3の鋳型の除去は容易になる。
さてレール溶接部の疲労強度は溶接方法によって差がある。工場や溶接基地での溶接方法として多用され、余盛ビードを除去して使用するフラッシュバット溶接継手、ガス圧接継手における200万回疲労強度は300MPa以上である。一方、現地溶接法であるエンクローズアーク溶接継手も同じくビードを除去して使用されるため疲労強度は比較的高い。しかしマニュアル溶接であるため、微少なスラグ巻き込み等が避けられないことから、200万回疲労強度はやや変動があり、フラッシュバット溶接やガス圧接よりやや劣る280MPa程度である。
一方、現地溶接法として多用されるテルミット溶接継手は内部に微少な引け巣や粗大な介在物があるため、ビードを残したまま使用せざるを得ず、その止端部や鋳バリによる応力集中により、従来方法における疲労強度は最も低い220〜240MPa程度である。このため旅客鉄道において、例えば新幹線の高速区間などの重要区間ではテルミット溶接の使用が制限される場合がある。現地溶接として施工能率や技術の容易さなど、テルミット溶接はエンクローズアーク溶接に比べて利点が多い。テルミット溶接の使用制限が除かれるためには疲労強度の向上が必要である。
上記したように、レール足表3Bに形成された鋳バリの最大厚さは疲労強度に影響する。鋳バリが厚くなるに従って、鋳バリによる応力集中が増大し、疲労強度が低下すると考えられる。図1に示したように、荷重繰り返し回数200万回における疲労強度250MPa以上にするためには、鋳バリの最大厚さを1mm以下にすることが必要である。
本発明では、柱部2及び足部3の鋳型を除去した後、レール足表3Bにおける鋳バリを研磨工具によって薄化又は除去する。研磨工具としては、例えばディスク型グラインダー、又はリューターと呼ばれる先端が円錐型、砲弾型の工具を用いることができる。レール足表3Bでは柱部2が立ち上がっているため、足の付け根すなわち柱部寄りの部分ではこのような加工範囲の狭いリューターを用いる必要がある。リューターの先端の工具は砥石もしくは金属刃物のいずれでも良い。
なおタガネで鋳バリを折除する方法があるが、この方法では鋳バリの付け根から除去されるとは限っておらず、鋳バリの付け根が残ることが多い。ビード止端部に鋳バリの「根」がある状態が残ると、その部分が疲労亀裂の起点となる。このためタガネによる鋳バリ除去よりは、上記した研磨工具を用いる方法が好ましい。
図7(A)に、断面から見た鋳バリの処理状況を示す。図7(A)、図8及び図9は、図7(B)のA−A´断面に相当する図である。図8の点線部23に示すように、鋳バリの薄肉化は少なくともビード10の止端部すなわち鋳バリ11の付け根付近が1mm以内に薄くなる必要がある。鋳バリの先端部を薄くしても疲労強度改善効果は得られない。さらに望ましくは鋳バリを付け根部から除去してしまうことが好ましい。
図9の点線部23に示すように、鋳バリの薄肉化の際にビード10もしくはレール足表3Bまで加工が及んでも、レール母材の研磨深さが1mm以下であれば、特に強度上の問題はない。ただし、ビード10の加工深さは、加工量が大きすぎると溶接部の強度低下を引き起こす危険性があるため、5mm以下であることが望ましい。
鋳バリの除去又は薄肉化の処理作業は上述のように溶接工程の最後に行うか、レール使用開始後の線路保守作業のなかで行っても良い。線路での使用中に疲労損傷が生じる危険性を考慮すると、できるだけ溶接後の期間が短いうちに実施することが望ましい。
レールとしてJIS60レールを用いて、2分割式鋳型を用いたテルミット溶接法により、30本の溶接継手を作成した。使用した試験レールの長さは750mm、同じ圧延チャンスの成品で断面の各寸法の変動が0.1mm以下であるものを用いた。溶接後の継手長さは1500mmである。
溶剤は質量%で酸化鉄63%、金属アルミ粉末19%、高炭素フェロマンガン8%、軟鋼スクラップ粉10%を混合したものを使用した。溶剤全重量は13.5kgである。酸化鉄はFe23とFe34の混合でであり、鉄分が68質量%、酸素が32質量%である。酸化鉄と金属アルミの混合比率は、テルミット反応における化学量論比にほぼ一致している。高炭素フェロマンガンは質量%でCが5%、Mnが20%で残量が不可避不純物及び鉄である。高炭素フェロマンガンの配合量は溶接金属のC、Mnがそれぞれ0.65質量%、0.9質量%になるように設定している。溶接金属の組成はほぼレール素材と同等である。軟鋼スクラップ粉は溶接金属の温度調整、金属量の調整のために使用しており、質量%で99%が鉄で、Cを0.2%以下、Mnを0.8%以下含んでいる。軟鋼スクラップ粉及び高炭素フェロマンガンのサイズは2〜4mmの粒状で、酸化鉄と金属アルミのサイズは0.1〜2mmの範囲に調整されている。
また予熱はプロパン−酸素混合ガスを用いて2分間行った。
表1に示すように、試料A−1〜A−6(比較例)の6体は溶接したままの状態であり、試料B−1〜B−6(実施例)の6本は溶接工程の足部鋳型除去後にレール足表部の鋳バリをリューターにより厚さ1mm以下に薄肉化したものである。試料C−1〜C−6(実施例)の6本は溶接工程の足部鋳型除去後にレールが室温に冷却される前にレール足表部の鋳バリをリューターにより完全に削除したものであり、試料D−1〜D−6(実施例)の6本は溶接の3日後にレール足表部の鋳バリをリューターにより厚さ1mm以下に薄肉化したものである。試料E−1〜E−6の6本は溶接の3日後(すなわちレールが室温に冷却された後)にレール足表部の鋳バリをリューターにより削除したものである。
鋳バリの加工方法により、レール足表3Bに残っている鋳バリの厚みが異なる。各試料における溶接したままの時点での鋳バリの最も厚い部分の厚さ、及びリューターによる処理後の厚さを表1に示す。
疲労試験は鉄道レール溶接継手の一般的な疲労評価方法である3点曲げ試験で行った。図10はその負荷状況を模式的に示している。レールを正立姿勢で溶接部を中心にして、スパン1mの支持台21A、21Bに置き、中央に治具20で頭部1から繰り返し荷重を負荷する。図11は応力パターンの模式図で、最小荷重σminを30MPaの一定にして、最大荷重σmaxを継手によって変化させ、レールが破断するまで繰り返し負荷を行った。繰り返し最大回数は200万回、負荷速度は5Hzとした。鉄道分野では上記のレール疲労試験法により得られる、荷重繰り返し回数200万回までの疲労限強度を疲労強度とする場合が多く、本発明においても同様の評価方法を採用した。
疲労試験を実施した際の負荷応力範囲、破断の有無、破断回数、破断起点を表1に併せて示す。
溶接したままの試料A−1〜A−6(比較例)において、応力範囲220MPa(A−1)では繰り返し回数200万回まで非破断であったが、230MPa以上の負荷応力では途中破断した。200万回疲労強度は220〜230MPaと判断される。破壊材の破壊起点はレール足表3Bであった。
一方、溶接後のリューター処理によってレール足表3Bの鋳バリの厚さを1mm以下とした試料B−1〜B−6では、250MPa(B−4)の高応力状態まで疲労破壊がおこらなかった。破壊材の破壊起点はレール足裏3A側とレール足表3B側のものが認められた。200万回疲労強度は250〜260MPaと判断され、比較例に比べて疲労強度が向上した。
また、溶接後のリューター処理によってレール足表3Bの鋳バリを除去したC−1〜C−6の継手では、260MPa(C−5)の高応力状態まで疲労破壊がおこらなかった。破壊材の破壊起点はレール足裏3A側になっている。200万回疲労強度は260〜270MPaと判断され、鋳バリ厚さを1mm以下に薄肉化した継手に比べてさらに疲労強度が向上した。
また、溶接3日後のリューター処理によってレール足表3Bの鋳バリの厚さを1mm以下としたD−1〜D−6の継手において、250MPa(D−4)の高応力状態まで疲労破壊がおこらなかった。破壊材の破壊起点はレール足裏3A側とレール足表3B側のものが認められた。200万回疲労強度は250〜260MPaと判断され、比較例に比べて疲労強度が向上した。この結果は溶接時に鋳バリの厚さを1mm以下に薄肉化した継手と同等の強度である。
また、溶接3日後のリューター処理によってレール足表3Bの鋳バリを除去したE−1〜E−6の継手において、260MPa(E−5)の高応力状態まで疲労破壊がおこらなかった。破壊材の破壊起点はレール足裏3A側になっていた。200万回疲労強度は260〜270MPaと判断され、鋳バリ厚さを1mm以下に薄肉化した継手に比べてさらに疲労強度が向上した。この結果は溶接時に鋳バリを除去した継手と同等の強度である。
以上より、本発明に係るレールのテルミット溶接方法によってレール溶接部の疲労強度が従来と比較して向上することが示された。
テルミット溶接継手の疲労性能の説明図 本発明におけるレール足部の疲労破面の例 本発明における2分割式鋳型のレール装着の説明図 鋳型、ルツボセットの説明図 テルミット溶接を説明する為の断面概略図 反応ルツボの説明図 鋳バリの除去方法を説明する為の断面概略図。 鋳バリの除去方法を説明する為の断面概略図。 鋳バリの除去方法を説明する為の断面概略図。 疲労試験における負荷状態を示す模式図 疲労試験における負荷応力を示す模式図 レール部位の説明図 テルミット溶接の継手外観 2分割形式鋳型と3分割形式鋳型の説明図 鋳バリの説明図 従来におけるレール足部の疲労破面の例
符号の説明
1…レール頭部
2…レール柱部
3…レール足部
3A…レール足裏部
3B…レール足表部
4A,4B…左右鋳型
4C…底面鋳型
6…分流板
7A…ルツボ耐火物
7B…ルツボの鋼製ケース
8…溶融スラグ
9…溶鋼
10…ビード
11、11a、11b…鋳バリ
12…鋳型の湯揚り
13…鋳型のビードになる空間
14A、14B…疲労破面
15…ルツボの開口栓
16…鋳型カバー
17…鋳型セット治具
18…ルツボのセット用スタンド治具
20…疲労試験機の押し治具
21A、21B…疲労試験機のレール支持
22…鋳型のレールに装着される空間
24…溶剤

Claims (3)

  1. 2分割式鋳型を用いるテルミット溶接法によりレールを溶接する工程と、
    レール溶接部において前記レールの足表部に形成されたビードを残しつつ鋳バリをリューターにより研削することによって前記鋳バリの最大厚さを1mm以下にする工程と、
    を具備し、
    レールを正立姿勢で溶接部を中心にして、スパン1mの支持台に置き、中央に治具で頭部から繰り返し荷重を負荷する3点曲げ疲労試験において、繰り返し最大回数を200万回、負荷速度を5Hz、最小荷重σminを30MPaの一定、最大荷重σmaxとして、レールが破断するまで繰り返し負荷を行う際の疲労強度が250MPa以上であることを特徴とするレールのテルミット溶接方法。
  2. 前記鋳バリの最大厚さを1mm以下にする工程は、前記レールを溶接する工程の後、前記レールが室温に冷却されるまでの間に行われる請求項1に記載のレールのテルミット溶接方法。
  3. 前記鋳バリの最大厚さを1mm以下にする工程は、前記レールを溶接する工程の後、前記レールが室温に冷却された後に行われる請求項1に記載のレールのテルミット溶接方法。
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