JP2010188382A - レールの溶接部の冷却方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】レール溶接部における、柱部の水平方向の疲労亀裂、足部からの曲げ疲労亀裂をいずれも抑制できる疲労強度に優れた溶接継ぎ手を得る。
【解決手段】レールを溶接した後の当該溶接部の冷却方法において、前記溶接部の最高加熱温度がAc1点以上となるレール柱部の長手方向の領域を、柱部の温度がA3、AeもしくはAcm超のオーステナイト温度域からパーライトへの変態を完了するまでの少なくとも一部の温度範囲を、放冷を超え5℃/s以下の冷却速度で冷却する。また、溶接部のレール柱部全体がオーステナイトからパーライトへの変態を完了した後、前記溶接部の柱部の最高加熱温度がAc1点以上となるレール柱部の長手方向の領域を、放冷を超える冷却速度で、かつ、レール足部の冷却速度以上で冷却する。
【選択図】図17

Description

本発明は、レールの溶接方法において、従来と比較して溶接部の疲労強度を向上させる溶接部の冷却方法に関する。
レールの中で最も損傷が起こりやすく、保守コストがかかる部分はレールの継目部である。また継目部は列車通過時に生じる騒音・振動の主要な発生源となる。旅客鉄道の高速化や貨物鉄道の重積載化が国内外で進められているため、上記問題点を有するレール継目を溶接によって連続化してロングレールにする技術が一般化している。
図1を用いてロングレール溶接部およびレール断面呼称について説明する。図1(a)は溶接部の長手方向の側面図である。ロングレールは、少なくとも2本のレールを溶接することにより製造される。このためロングレールには溶接部7が含まれる。溶接部7にはビード8が存在する。
図1(b)はレール長手方向に垂直な断面図である。レールは車輪との接触が生じるレール上部の頭部1、枕木に接地するレール下部の足部3、頭部1と足部3の中間の垂直部分である柱部2を有する。また、頭部の最も高い点4は頭頂部、足部の上面5を足表、足部の裏面6は足裏、もしくは底面とも呼ばれる。
レールの主な溶接方法として、フラッシュバット溶接(例えば特許文献1)、ガス圧接(例えば特許文献2)、エンクローズアーク溶接(例えば特許文献3)、及びテルミット溶接(例えば特許文献4)の4つがある。
フラッシュバット溶接法は図2に示すように、対向して設置された被溶接材10に電極9を介して電圧をかけて、端面間にアークを発生させて被溶接材の端面を溶融させ、十分に被溶接材が加熱された時点で、軸方向に材料を加圧して被溶接材を接合する溶接方法である。
テルミット溶接は図3に示すように、被溶接材10を20〜30mmの間瞭を設けて対向させ、間瞭部を鋳型14で囲み、その鋳型内に、ルツボ15内でアルミと酸化鉄の反応によって生成した溶鋼16を注入してレール端面を溶融させ、溶接する方法である。
ガス圧接は図4に示すように、接合面を加圧した状態で接合面近傍の被溶接材を側面からバーナー17で加熱し、高温で接合面を圧接する方法であり、溶接部近傍は加圧により膨張変形する。膨張部はトリマー18によって除去される。
エンクローズアーク溶接は図5に示すように、被溶接材を10〜20mmの間瞭を設けて対向させ、この間瞭を裏当て金19、側面当て金20で取り囲み、その間瞭を溶接棒21で溶接金属を盛り上げる、マニュアルアーク溶接方法である。
レール溶接部においては、特に重荷重の貨物鉄道や寒冷地などで、レール溶接部の柱部中立軸を起点として疲労亀裂が発生し、これが引き金となって脆性破壊が発生し、レール取替え頻度が多くなることがあった。図6にこの状態の一例を示す。
すなわち図6(a)は、柱部水平亀裂の発生状態をレール側面側から見ており、疲労亀裂22が柱部中立軸近傍の余盛付近の溶接欠陥を起点に水平方向に発生し、その後、脆性亀裂23が柱部板厚を貫通後、一方の亀裂はレール頭頂側へ、他方の亀裂は底部側へ進展している。この破壊の起点は溶接欠陥であったとされているが、明らかな欠陥がない場合にもこの種の破壊が起こりうるとも言われている。
図6(b)は前記柱部水平亀裂の発生部位を切断して亀裂面を開口させて、レール頭頂側から見た状態を示し、レール溶接部の柱部の中央付近を起点に疲労亀裂22が発生し、その後脆性亀裂23が柱部板厚を貫通している様子がわかる。
疲労亀裂の発生には外的な負荷条件とともに、材料内部の残留応力が影響すると言われている。図7(a)はレール溶接部の中心における周方向の残留応力の分布を示している。
前記疲労亀裂の原因は図7(a)に示すようにレール溶接部の柱部近傍に、レール上下方向すなわち周方向に大きな引張残留応力が溶接により発生し、列車通過ごとの繰返し負荷により、溶接欠陥が起点となって疲労亀裂が発生、進展したことによるものである。このような破壊を防止するためには破壊起点となる溶接欠陥の防止とともに、欠陥が存在してもそれを無害化することが望ましい。
このようなレール柱部の周方向、すなわち上下方向の著大な残留応力は図7(b)に示すように、溶接中心から幅25mm程度の範囲に分布している。
鉄道における軌道は、砕石バラスト、枕木、レールと枕木の締結装置、レール、から構成される。レール上を列車が通過する際には、多数の列車の車輪から分散した荷重が加わる。
前述の損傷をひき起す原因を考えるにはレール溶接部に対する、車輪からの負荷状態を考える必要がある。レールとそれを支持する枕木の関係において最も典型的な状態は、枕木の直上を車輪が通過する際に垂直荷重が直接レールに加わる時点と、車輪が枕木の支持間隔を通過する時点がある。工場で溶接されたロングレールが現地に設置される際に、溶接部と枕木位置が一致するかどうかかは偶然によるもので、1本数百メートルのロングレールには、枕木位置と溶接部が一致する箇所が数か所は存在すると考えられる。
図9(a)は枕木24の直上を車輪25が通過する場合であり、この場合、断面積が小さいレール柱部に最も大きい応力が発生する。この場合の応力は圧縮であるが、前出のレール柱部の著大な引張残留応力のため、レール柱部は実質、引張領域での繰返し応力状態となる。
また車輪が枕木の支持間隔を通過する状態がもう一つの典型的な負荷状態として考えられ、図9(b)に示すようにレールを上方から押し曲げる荷重が加わる。この場合、レール頭部に長手方向の圧縮、レールの足部には長手方向の引張、レールの柱部は曲げ応力は中立である。レール足部の引張応力は車輪の通過ごとに発生するため、レール足部には疲労亀裂の発生に対する配慮が必要である。
フラッシュバット溶接部の溶接中心における長手方向残留応力は図8(c)に示している。図示するように、レール底部には長手方向に強い圧縮応力が残留しているため、列車通過時にレール底部に引張応力が付加されたとしても、実効的な応力状態は残留応力と相殺されて圧縮領域となり、疲労亀裂の発生に対して有利な状態となっている。このためレール足部からの疲労破壊の実例は少ないが、レール足裏に発生した疲労亀裂26を起点とする損傷例を図10に模式的に示した。
一方、レール柱部の破損を防ぐため、特許文献5、6などの発明ではレール溶接部全体あるいは溶接部のレール頭部と柱部を溶接熱あるいは外部からの加熱による高温の状態からの加速冷却を利用して、残留応力を制御し、溶接部の柱部にレール上下方向に発生する引張残留応力を軽減するかあるいは圧縮側に変えて溶接部の耐疲労性を改善する方法が提案されている。これらの発明により、レール柱部からの疲労亀裂の発生を大きく低減することができた。
その他にレールの溶接部の疲労強度を向上させる技術としては、例えば特許文献7のようにショットピーニングを用いる方法やハンマーピーニング、グラインダー処理、TIGドレッシングを用いる方法がある。
また溶接部の冷却装置としては、特許文献8に示すような冷却装置が開示されている。
ロングレールの耐久性を向上させる為には、溶接部の柱部および足部からの疲労亀裂の発生を抑制し、これらの部位の耐疲労特性を両立させることが必要である。
特許文献5、6で引用した溶接後の頭部、柱部の加速冷却方法を行った場合、非特許文献1によるとレール柱部における上下方向の残留応力は改善され、これにより柱部の疲労亀裂の発生が抑えられることが示されている。しかしながら、この方法によると足裏部におけるレール長手方向の残留応力が引張応力に転ずることが図示されている。近年、重荷重の貨物鉄道では貨車重量がますます増加する傾向があり、その結果、足裏部に対する曲げ様式の負荷は増大している。曲げ様式の負荷により足裏部にはレール長手方向に引っ張られ、この部分の曲げ疲労強度には長手方向の残留応力が強く影響する。特許文献5、6の冷却処理により足裏長手方向の残留応力が引張化すると、曲げ疲労性能の低下が懸念される。
一方、機械的な後処理により残留応力を改善するための従来技術であるショットピーニング処理は直径数mmの鋼球を材料に打ち付けて材料表層を塑性変形させて加工硬化させ、残留応力を圧縮化することで疲労強度を向上することができる。しかしその処理には鋼球を投射、回集、粉塵防止のための大掛かりな設備が必要となり、大型の溶接部には適用が制限される。加えて投射材の摩滅、損壊を補給する必要があり、そのためのランニングコストが必要となる。
またハンマーピーニングは工具の先端を材料に打撃して溶接部に塑性変形を与えて、圧縮応力を導入するとともに、塑性変形により応力集中を低減することで疲労強度が向上すると言われている。しかし打撃時の振動が大きく、作業者への負担が大きいことに加え、細かいコントロールが難しく、処理むらが生じやすい。「非特許文献2」によると、処理条件によっては加工によって生じるシワ状の溝部が影響し、疲労強度の向上効果は小さいことが示されている。
またグラインダー処理はビード止端部を滑らかにすることで応力集中を下げることにより、確実な効果が期待できるが、削りすぎた場合は溶接部の肉厚が不足して強度低下を招くことから、処理に熟練を要し、作業に長時間を要するという欠点がある。
またTIGドレッシングは、溶接ビードの止端部をタングステン電極から発生するアークで再溶融させて、滑らかな形状に再凝固させて、応力集中を軽減することにより疲労強度を向上できる。しかしレールなどの高炭素材料における手溶接では、硬くて脆いマルテンサイト組織が生成しやすく、これを防止するためには、厳格な施工管理が必要である。
また特許文献8に示されている溶接部の冷却装置を使用することにより、溶接後の高温状態から適切な冷却を行えば、溶接部の硬度を上昇することが可能である。一方、本発明者らの検討によると、溶接部の残留応力状態を制御するためには適切な範囲を適切な強さで冷却する必要がある。特許文献8の装置を使用することにより残留応力も変化すると思われるが、適切な残留応力分布を得るための冷却条件は説明されていない。
特開昭56−136292号公報 特開平11−270810号公報 特開平6−292968号公報 特開昭48−95337号公報 特開昭59−93837号公報 特開昭59−93838号公報 特開平3−249127号公報 特開昭60−33313号公報
Proceedings of the Second International Conference on residual stresses, ICR2,Nancy, France, 23-25,Nov,1988,P912-918 三木、穴見、谷、杉本、「溶接止端部改良による疲労強度向上」、溶接学会論文集、Vol.17,No.1,P111-119(1999)
本発明は上記のような従来技術の課題を考慮してなされたものであり、その目的は、従来と比較して溶接部の疲労強度が向上したロングレールを溶接工場の溶接工程において効率的に行うための方法を提供することにある。
本発明は、レール溶接部に疲労亀裂が生じにくくすることにより、レールの溶接部の疲労強度を向上させるものである。すなわち本発明の要旨は以下の通りである。
(1)レールを溶接した後の当該溶接部の冷却方法において、前記溶接部のレール柱部全体がオーステナイトからパーライトへの変態を完了した後、前記溶接部の柱部の最高加熱温度がAc1点以上となるレール柱部の長手方向の領域を、放冷を超える冷却速度で、かつ、レール頭部およびレール足部の冷却速度以上で冷却することを特徴とするレール溶接部の冷却方法。
(2)レールを溶接した後の当該溶接部の冷却方法において、前記溶接部の最高加熱温度がAc1点以上となるレール柱部の長手方向の領域を、柱部の最高加熱温度がA3、AeもしくはAcm超のオーステナイト温度域からパーライトへの変態を完了するまでの少なくとも一部の温度範囲を、放冷を超え5℃/s以下の冷却速度で冷却することを特徴とするレール溶接部の冷却方法。
(3)レールを溶接した後の当該溶接部の冷却方法において、前記溶接部の最高加熱温度がAc1点以上となるレール柱部の長手方向の領域を、柱部の最高加熱温度がA3、AeもしくはAcm超のオーステナイト温度域からパーライトへの変態を完了するまでの少なくとも一部の温度範囲を、放冷を超え5℃/s以下の冷却速度で冷却することを特徴とする(1)に記載のレール溶接部の冷却方法。
(4)レール頭部およびレール足部の冷却速度が放冷であることを特徴とする(1)〜(3)の何れかに記載のレール溶接部の冷却方法。
(5)レールを溶接した後の冷却方法において、溶接部のレール頭部をA3、AeもしくはAcm超のオーステナイト温度域からパーライトへの変態を完了するまでの少なくとも一部の温度範囲を、放冷を超え5℃/s以下の冷却速度で冷却することを特徴とする、(1)〜(4)の何れかに記載のレール溶接部の冷却方法。
(6)レール柱部の上下方向の残留応力が350MPa以下であり、レール底面の長手方向残留応力が圧縮応力であり、前記溶接部の金属組織の95%以上がパーライト組織であることを特徴とする(1)から(5)のいずれかに記載の冷却方法によるレール溶接継手。
本発明によれば、レール溶接部の柱部の残留応力を改善し、足裏部の残留応力も圧縮範囲に制御することにより、溶接部に疲労亀裂が生じにくくすることができる。
溶接部、レール断面の呼称の説明図であり、(a)はロングレールを水平方向から見た側面図、(b)は(a)のA−A´断面図。 フラッシュバット溶接の模式図であり、(a)はフラッシング工程、(b)はアップセット工程、(c)はトリミング工程。 テルミット溶接の模式図であり、(a)はレール側面方向から見た図、(b)は(a)図におけるA-A'断面図。 ガス圧接の模式図。 エンクローズアーク溶接の模式図。 レール溶接部の柱部からの疲労損傷例であり、(a)は損傷部を水平方向から見た模式図、(b)は損傷部の亀裂を開口させて上方から見た模式図。 フラッシュバット溶接継手の残留応力分布であり、(a)は周方向残留応力の溶接面における分布、(b)は柱部中央における周方向残留応力の長手方向分布。 (c)は長手方向残留応力の溶接面における分布。 列車が通過する際に溶接部に作用する荷重の説明図であり、(a)は車輪が枕木の直上を通過する場合を単純化した模式図、(b)は車輪が枕木の間を通過する場合を単純化した模式図。 レール溶接部の足部からの疲労損傷例であり、(a)は損傷面を合わせて水平方向から見た模式図、(b)は損傷断面を見た模式図。 平衡状態の模式図。 溶接時の温度変化に伴う組織、硬度変化であり、(a)は溶接中心における温度変化と相変態の説明図。 (b1)は亜共析鋼の連続冷却線図、(b2)は共析鋼の連続冷却線図、(b3)は過共析鋼の連続冷却線図。 (c)は加熱温度の違いに基づく硬度分布の説明図。 溶接部の温度分布の模式図であり、(a)は溶接直後の状態、(b)は冷却過程の任意の状態での温度分布と収縮応力の説明図、(c)は柱部を加速冷却した場合と自然放冷の場合の任意の時点での温度分布、(d)は柱部を加速冷却した場合と自然放冷の場合の、最高温度がAr1より僅かに高温の状態まで冷却した時点での温度分布の比較。 冷却時の温度履歴の模式図であり、(a)は柱部を広範囲に冷却した場合、(b)は足部を過剰に冷却した場合。 冷却時の温度履歴の模式図であり、(a)はレール柱部をパーライト変態完了後に加速冷却する場合。 冷却時の温度履歴の模式図であり、(b1)〜(b3)はレール柱部をオーステナイト分解開始前からパーライト変態完了まで加速冷却する場合。 冷却時の温度履歴の模式図であり、(c)はレール柱部をオーステナイト分解開始前からパーライト変態完了までを加速冷却しさらにパーライト変態完了後に加速冷却する場合、(d)はレール柱部と頭部をオーステナイト分解開始前からパーライト変態完了までを加速冷却しさらにレール柱部をパーライト変態完了後に加速冷却する場合。 柱部の疲労強度評価試験の模式図。 足部の曲げ疲労強度評価試験の模式図。
<溶接法の説明>
まず溶接方法についてフラッシュバット溶接を例として図2を用いてさらに詳しく説明する。フラッシュバット溶接方法の第1の工程は図2(a)で示した端面間に連続してアークを発生させる工程であり、フラッシング工程と呼ばれる。この工程では電極9を介して印加される電圧により被溶接材の端面間にアークが発生する。アークが発生した部分は局部的に溶かされて、溶けた金属の一部はスパッターとして外部に放出され、残りは端面に残留する。アークによって溶かされた部分にはクレータと呼ばれる凹みが発生する。被溶接材は徐々に近づけられていき、次々に新たな接触部分にアークが発生し、その局部的な溶融の繰返しにより材料は次第に短くなっていく。この過程では材料間隔がほぼ一定の間隔を保つように被溶接材の移動速度が調整される。
フラッシング工程の途中において、故意に材料端面を接触させ、直接通電による大電流により母材温度を高める工程が採用される場合がある。その目的は、端面近傍の温度分布をなだらかにして、より効率的にアップセット工程に進むためである。この工程は「予熱工程」と呼ばれ、2〜5秒程度の接触通電と1秒程度の非接触、休止期間を数回繰り返すのが通常である。
フラッシング工程を数10秒から数分間続けることにより、被溶接材の端面の全面が溶融した状態となる。また、端面近傍の材料は温度上昇により軟化する。この状態に到達した時点で、図2(b)に示すように、軸方向へ加圧が行われる。このアップセットと呼ばれる加圧により、端面に形成されていたクレータ凹凸面はつぶされ、端面間に存在していた溶融金属は系外に押し出される。軟化した端面近傍は、塑性変形して断面が増大し、溶接面の周囲にはビードが形成される。
このビードは図2(c)に示すように、溶接直後の高温の期間にトリマー12により熱間でせん断、除去される。この工程はトリミングと呼ばれる。トリミング後は溶接部の周囲に高さ数mm、幅10〜30mm程度の薄いビードが残存する。
トリミング後に残った薄いビードは、車輪と接触するレール頭部はグラインダーで平滑化、研磨される。レール柱部、足部のビードは、鉄道会社によりグラインダー研磨による完全な平滑化、グラインダー研磨による薄肉化、無手入れ、などと処置方法が異なる。
<レール素材について>
次にレール鋼について説明する。レール鋼はJIS E1101、JIS E1120に規定されているように、炭素を0.5〜0.8質量%含有する亜共析もしくは共析炭素鋼が一般的である。また、最近は海外の鉱山鉄道における重荷重貨物線を対象に、より耐摩耗性を向上させた、炭素が0.8質量%を超えて含有する過共析組成のレール鋼も普及しつつある。
<平衡状態図について>
炭素量を横軸とする平衡状態図を図11に模式的に示す。前記の通り、レール鋼の炭素量は概ね0.4〜1.2質量%の範囲にある。レール鋼には炭素の他、Si、Mnを含有し、場合によってはCrなどの強化元素が含有される。これら炭素以外の元素の影響により厳密には平衡状態図は変化するが、その変化はレール鋼における含有量の範囲においてはごく僅かである。亜共析組成の場合、A1点以下ではパーライトを主体としてフェライトを一部含有する組織、A1点〜A3点ではフェライトとオーステナイトの混合組織、A3点以上ではオーステナイト組織である。
共析組成の場合、A1点以下ではパーライト組織、Ae点以上でオーステナイト組織となる。
過共析組成の場合、A1点以下ではパーライトを主体としてセメンタイトを一部含有する組織、A1点〜Acm点ではフェライトとセメンタイトの混合組織、Acm点以上ではオーステナイト組織である。
いずれの成分においてもさらに高温の固相線温度Ts点以上でオーステナイト相と液相の2相組織、液相線温度TL点以上では液相となる。フラッシュバット溶接では溶接界面はTL点に達しており、溶接面から遠ざかるにつれて温度は下がっていく。
レール圧延後の大気中自然冷却、もしくは圧延に引き続いて行われる加速冷却、さらに一旦常温まで冷却された後の再加熱々処理後の連続冷却過程では、その冷却速度に応じて平衡変態温度からの過冷が起こり、状態図から想定される初析相の含有量が低下し、組織分率はパーライト組織が大半を占める。特に共析組成近傍の炭素量0.6〜1.0質量%の範囲については、パーライト組織分率はほぼ100%に達する。
<溶接熱サイクルと組織変化について>
次に図12(a)に温度変化とそれに伴う組織変化を模式的に示す。加熱、冷却過程における変態温度はその加熱速度、冷却速度に応じて平衡状態からずれる。加熱過程においては過熱が起こり、冷却過程では過冷が生じる。一般に加熱過程における変態温度はA1、A3などの平衡変態温度に「c」を、冷却過程では同じく「r」を付けて区別される。
すなわち、亜共析組成における加熱過程のパーライト→オーステナイト変態の開始点をAc1、完全にオーステナイトに変態する温度をAc3、冷却過程でオーステナイト→フェライトの変態開始点をAr3、オーステナイトが消失する温度をAr1と呼ぶ。
同様に、過共析組成における加熱過程のパーライト→オーステナイト変態の開始点はAc1、完全にオーステナイトに変態完了する温度をAccm、冷却過程でオーステナイト→セメンタイトの変態開始点をArcm、オーステナイトが消失する温度をAr1と呼ぶ。
共析組成ではA3線とAcm線が集合してAe点となる。共析鋼では加熱過程のパーライト→オーステナイト変態の開始点はAc1、完全にオーステナイトに変態完了する温度をAce、冷却過程でオーステナイト→パーライトの変態開始点をAre、オーステナイトが消失する温度をAr1と呼ぶ。
<連続冷却線図による組織変化の説明>
一般に、冷却過程における相変化は鋼成分、冷却速度により変態温度、析出相が異なる。図13(b1)、(b2)、(b3)に連続冷却状態における高炭素鋼の組織変化を示すCCTの模式図である。
図13(b1)は亜共析鋼の例で、冷却速度が曲線(0)で示すような緩やかな場合、Fs線状で初析フェライトが析出した後、Ps線上でパーライト変態が開始し、Pf線上でパーライト変態が完了する。この場合は金属組織は微量の粒界フェライトを含有するフェライト・パーライト組織となる。冷却速度が早くなると、Fs線がPs線と合流して消失するため初析フェライトは出ず、冷却曲線(1)に示すように、Ps線〜Pf線間でパーライト変態が起き、この場合はパーライト単相組織になる。さらに冷却速度が速まると冷却曲線(3)に示すように、温度Bでパーライト変態が停止し、一部ベイナイト組織を生じることがあるが、未変態部はオーステナイトのまま過冷され、C点〜D点でマルテンサイト変態を起こす。この場合の組織分率パーライト、ベイナイト、マルテンサイトの混合組織となる。さらに冷却速度が速い場合は、冷却曲線(5)に示すように、Ps線を通過せず、オーステナイト組織のままMs点まで過冷された後、マルテンサイト変態を起こす。高炭素鋼のマルテンサイト組織は極めて難くて脆いため、レール鋼の溶接においては冷却曲線(2)を越すような速い冷却は避けることが好ましい。
図13(b2)は共析鋼のCCTを示す図である。亜共析鋼との違いは緩冷却時の初析フェライトが生じないことである。
また、図13(b3)は過共析鋼のCCT図であり、亜共析鋼との違いは緩冷却時の初析相がフェライトではなく、セメンタイトとなる点である。図中でセメンタイトの初析線をθsと表原している。θs線を通過するような緩冷却の場合、組織は初析セメンタイトを微量含む、セメンタイト・パーライト組織となる。
<硬度分布から見た最高温度、組織、硬度について>
図14(c)に長手方向にみた溶接終了時点における温度分布と組織、および冷却した後の組織、硬度を模式的に示す。図の左端は熱影響を受けないレール母材であり右端は溶接中心を示している。
溶接中心では固相線温度を超えており、端面ではフラッシング中に脱炭が生じている。脱炭部はアップセット後も薄く残留しており、この部分は冷却後、周囲に比較して初析フェライトが生じやすく、硬度も下がる。
溶接中心付近のAc3、Ace、もしくはAccmを超えて完全なオーステナイト相に過熱された領域は、その後の冷却時に全てパーライト変態し冷却後は均一な硬度となる。
その外側は、温度がAc1以上であるが、Ac3、Ace、もしくはAccmを超えず、加熱時点でオーステナイト相と未変態のフェライト相もしくはセメンタイト相が混在する。オーステナイトに変態した部分はその後の冷却でパーライトに変態するが、未変態のフェライト相や、未溶解で球状化したままのセメンタイトがそのまま室温まで残る。これらの組織はオーステナイト相から変態した正常なパーライトに比較して硬度が低い。この未変態相の分率が溶接中心から遠ざかるにつれて増加するため硬度は低下していく。
さらに溶接中心から離れると、Ac1に達しない領域となる。この領域においても500℃以上に加熱される領域はパーライト中のセメンタイトが球状化し硬度が低下する。溶接中心から遠ざかるにつれて球状化の程度は小さくなり、しだいに母材の硬度に近づいていく。
また、溶接部の鉛直長手断面のマクロ組織は、500℃〜Ac1までの球状化域は母材と変わらないが、Ac1以上、Ac3、Ace、Accm以下の領域はオーステナイト、フェライト、セメンタイトの混相領域のため細粒となり硝酸アルコールなどにより差異が明確に判別できる。Ac3、Ace、Accm以上に加熱された領域は高温加熱により粒が粗くなる傾向はあるが、肉眼では母材に近い組織を呈する。なお、500℃〜Ac1までの領域では走査型電子顕微鏡(SEM)により球状化したセメンタイトを確認できる。
レールの溶接において被溶接材がAc1以上に加熱される距離は、溶接方法、溶接条件、レールの部位により多少の差がある。レール溶接後の鉛直長手方向断面におけるマクロ組織、硬度分布を観察した結果、フラッシュバット溶接のレール柱部においては溶接条件に応じて10〜50mmの範囲であった。また、同様にAc3、Ae3もしくはAccm以上に加熱される距離は、5〜40mmであった。
<残留応力の発生機構について>
次にレール溶接における柱部の著大な上下方向残留応力の発生機構について、発明者らの考えを説明する。
フラッシュバット溶接ではレールの端面間にフラッシングを起こさせ、端面を1300〜1400℃の融点以上に達せしめる。一方、電力供給のための電極9(図2参照)は溶損などによる損耗を抑制するために水冷される。このためレール材は水冷された電極9から冷却されており、電極9の近傍では溶接終了時点でも300℃程度である。電極9のレールへの装着位置は通常、溶接端面から100mm前後である。溶接完了時点において、電極9と端面の距離100mm程度の間に1000℃前後の温度差が生じる。図15は溶接部の柱部における温度分布を示す模式図であり、図15(a)は溶接直後の状態で、急峻な温度勾配がレール材に生じている。
一方、テルミット溶接法は高温の溶鋼の注入によりレール端面を溶融させる溶接方法であり、溶鋼注入によりレール長手方向に強い温度分布を一時に生じる。
ガス圧接では圧接するレール端面近傍の加熱により、端面の近傍は1000℃前後に加熱され、上記溶接法と同様にレール長手方向に温度分布が生じる。
エンクローズアーク溶接では作業時間1時間以上をかけてレール底部から順次、手溶接により溶接金属が盛られていく。上記溶接法と同様にレール長手方向の温度分布が生じるが、上下方向にも温度分布が生じる点が他の溶接方法とやや異なり、この溶接方法に関しては本発明の制御冷却方法は必ずしも有効とは言えない。
前記説明からレール柱部における上下方向(周方向)残留応力の発生は、温度勾配が最も急峻なフラッシュバット溶接が最も顕著であり、テルミット溶接、ガス圧接は順に温度分布が緩くなることから残留応力は緩和してくる。本発明はこれらの溶接方法に対していずれも有効である。
残留応力は構造物内の温度の不均一に基づく熱収縮応力の不均一が存在する場合に、構造物内の構成部位が互いに収縮ひずみを拘束しあうために収縮応力が内部応力として残存するものである。その際、高温状態では降伏点が低く、塑性変形が容易に起こるため、構成部材間に拘束力が発生せず、残留応力は少ない。降伏点は温度が低下するとともに増加することが知られており、残留応力の発生は低温で大きくなる。
一方、冷却過程でオーステナイト相から変態が起こる際に、応力のより小さい方向に結晶格子が組み変わりやすく、その結果その方向に大きくひずみが生じることで応力が緩和されることがある。このため変態点において、応力はいったん開放されると考えられる。常温に到達した後の状態からみると、変態点より上の温度における応力分布は省略して考えて良い場合もある。ただし、温度分布そのものは変態前後において引き継がれ、その後の残留応力の発生に影響するため重要である。
図15(b)は冷却過程のある任意の時点の温度分布を示す。実線XXはその時点での温度分布を示している。溶接中心における残留応力の変化を考える時に、溶接部中心の温度T1と、周囲の温度の違いに基づいて、溶接部には収縮応力が発生していく。変態温度域ではいったん応力が開放されるため、その温度域では応力は小さく、T1が変態完了温度Ar1まで冷却した以降に本格的に残留応力が発生すると考えられる。
図15(c)は溶接部中心付近の高温領域を集中的に加速冷却した場合の温度分布を曲線YYで示す。実線で示した曲線XXは自然放冷での温度分布を示している。
図15(d)は自然放冷の場合と、溶接部中心付近を集中的に加速冷却した場合に、溶接中心付近がAr1近傍まで冷却した際の両者の温度分布を示している。この温度に達するまでの時間は溶接中心を加速冷却した場合のほうが短い。溶接中心を加速冷却すると、自然放冷の場合に比べ、溶接中心付近における温度分布が平坦で、収縮応力の周囲からの拘束は小さく、溶接中心における残留応力の発生は小さい。
溶接中心付近を加速冷却して温度分布を平坦化することにより残留応力を軽減する効果は、平坦化された温度分布がAr1付近で得られていることが最も効果が大きいと考えられるが、それ以上の温度、またはそれ以下の温度でも効果を有する。ただし、溶接部の中心温度が200℃を下回った状態で平坦な温度分布が得られても、すでに残留応力は大きく発生しており効果が小さい。
<溶接部の冷却幅について>
図16(a)はレール柱部を冷却する場合に、柱部を広範囲に冷却した場合の、溶接部におけるレール頭部、柱部、足部の温度分布を模式的に示している。レール柱部中央部における長手方向B−B'上の温度分布は全体に温度が低下するのみで、中心部の温度分布を平坦化して応力を緩和させる働きは期待できない。一方、溶接中心面の温度分布において、柱部が頭部、足部に比べて相対的に温度低下する結果、頭部、足部の長手方向の収縮応力が、先に冷却した柱部に拘束され、特に足裏部に長手方向に引張応力が発生する。足裏部の長手方向残留応力の引張化は曲げ疲労強度を低下させる懸念があり、好ましくない。ただし柱部は長手方向に圧縮され、上下方向(周方向)の残留応力も緩和されることから、柱部に限れば疲労強度は向上する。
以上から、レール柱部を冷却する場合に、広範囲に冷却することは足裏への悪影響を及ぼすことから、冷却する部位を溶接部の高温部に限定することが望ましい。具体的には溶接による最高加熱温度が、少なくともオーステナイト変態開始温度Ac1以上の温度領域に限定することが必要である。
さらに望ましくは、溶接による最高加熱温度がさらに高温である、オーステナイト化完了温度Ac3、AceもしくはAccm点以上の加熱温度範囲に狭く限定されることが望ましい。
<足裏冷却について>
図16(b)は足裏を冷却した場合についての説明図である。加速冷却により足部が柱部に比べて温度低下した場合、レール柱部の長手方向の収縮応力がより温度の低下した足部に拘束される。この作用により、柱部に長手方向の引張応力が発生し、上下方向(周方向)にもポアソン比分の引張応力を発生し、柱部の上下方向(周方向)応力を引張側に変化させる結果となる。このため、レール足部を強度増加などを目的として加速冷却する場合には、レール柱部より温度を高く保つことが望ましい。
<冷却方法について>
溶接部の冷却装置は冷却対象とするレール部位を適切に冷却できるものであれば、特にその形式は問わない。冷却媒体により冷却能力が異なるが、本発明で規定する冷却速度が得られれば冷却媒体の種類は特に限定されない。ただしレール部位ごとに冷却速度を調整できるようになっていることが必要である。たとえば冷却媒体として空気を用いる場合にはその噴出量、噴出ノズルとレール表面との距離、などの調整により冷却速度を調整できることが必要である。
<冷却方法について(高強度熱処理レールの頭部冷却)>
ところでレール頭部は車輪との接触により摩耗が生じる。特に曲線軌道においては車輪とレールの間に生じる相対すべりにより、摩耗が促進される。また列車重量が重いほどその傾向は強まる。このため、曲線区間にはレールの交換頻度を少なくするために、レール頭部を硬化させた熱処理レールが採用されることが多い。
熱処理レールはレールの製造工程において高温のオーステナイト状態から加速冷却により変態温度を低下させることで硬度を増した材料である。熱処理レールを溶接する場合、溶接中心付近のオーステナイト化領域は溶接後の冷却速度に応じて硬度が決まるため、母材の硬度とは異なる硬度となる。
レールのフラッシュバット溶接では溶接後の自然放冷におけるパーライト変態温度域での冷却速度は1℃/s以下で、熱処理レールより硬度が低下する場合が多い。このため熱処理レールの溶接では、溶接後にレール頭部をオーステナイト領域からパーライト変態完了までの温度範囲で加速冷却し、母材並の硬度を得ることが望ましい。フラッシュバット以外の溶接法は冷却がさらに遅く、溶接部の硬度はさらに低下する。熱処理レールの溶接で母材並の溶接部硬度を得るためには溶接後にレール頭部をオーステナイト分解開始温度からパーライト変態完了までの温度範囲を加速冷却することが望ましい。
ただし、溶接により500℃以上、かつAc3、Ace、Accm以下の温度域に加熱された部分における球状化したセメンタイト領域やフェライト単相部分は加速冷却を行っても硬化しない。したがって加速冷却を行って硬度調整が可能な部分は、溶接中心近傍のオーステナイト単相域まで加熱された領域である。
<冷却方法について(温度域/冷却範囲)> 請求項の規定事項の理由
請求項の規定理由を本発明の代表的な冷却パターンである図17(a)、図18(b1)、(b2)、(b3)、図19(c)、(d)を元に説明する。
レール柱部がパーライト変態完了した後に、レール柱部を加速冷却した請求項1の例を図17の(a)に模式的に示す。
柱部の冷却の開始温度は高いほど望ましいが、パーライト変態が完了していない高温の状態から高冷速で冷却すると、マルテンサイト組織が発生する危険性があり、望ましくない。
柱部の冷却範囲は、広い範囲で冷却すると柱部長手方向の温度分布が全体に下がるだけで、自然放冷で生じるものと同じ残留応力が発生していく。その後、足部が温度低下する際にその収縮応力により、柱部の残留応力は減少するものの、逆に足部は柱部に拘束されて長手方向残留応力が引張に転じ、曲げ疲労強度が低下するため望ましくない。足部を圧縮状態を保つためには柱部の溶接中心付近のみを緩やかな温度分布にする必要があり、本発明者らの検討によると溶接部の柱部の冷却範囲を、柱部がAc1点以上となる高加熱温度領域に限定する必要がある。
柱部の冷却速度は放冷以上が必要であり、冷速が早いほど溶接中心の温度分布を平坦化しやすく、残留応力を低減する効果が大きい。
また、足部が柱部を超える冷却速度となった場合、遅れて柱部に収縮応力が発生することになる。その結果、柱部の収縮が足部に拘束されるため、長手方向の引張残留応力が増大する。その結果、柱部の上下方向(周方向)にもポアソン比分の引張応力が生じるため、上下方向(周方向)の残留応力が引張側に悪化するため好ましくない。図17(a)の冷却方法によりレール柱部の上下方向(周方向)の残留応力を低減し、足部の長手方向残留応力を圧縮に保つことが可能である。
図18の(b1)、(b2)、(b3)はレール溶接部の柱部の温度がオーステナイト温度域から加速冷却を開始した、請求項2の例である。
図18の(b1)は柱部の温度がオーステナイト域からパーライト変態が完了するまでを冷却した例である。残留応力の発生が著しくなるパーライト変態温度以下に至るまでに、あらかじめ溶接中心近傍の温度分布を平坦化すること、及び溶接部柱部を加速冷却することで強度を高める効果により疲労強度を高めることができる。これらの効果を得るためには、オーステナイト温度域から冷却を開始する必要がある。またパーライト変態が完了するAr1以下まで冷却しているため冷却部の硬度は顕著に上昇する。
図18の(b2)はレール溶接部の柱部の温度がオーステナイト温度域から加速冷却を開始し、パーライト変態域の途中まで冷却した例である。
この方法においても残留応力の発生が著しくなるパーライト変態温度以下に至るまでに、あらかじめ溶接中心近傍の温度分布を平坦化すること、及び溶接部柱部を加速冷却することで強度を高める効果により疲労強度を高めることができる。これらの効果を得るためには、少なくともオーステナイト温度域から冷却を開始する必要がある。一方、パーライト変態が完了する前に冷却を停止しているため、硬度の上昇代は先に示した図18の(b1)より小さい。
図18の(b3)はレール溶接部の柱部の温度がオーステナイト温度域から加速冷却を開始し、パーライト変態域に差しかかかる前に冷却を停止した例である。
この冷却方法においても残留応力の発生が著しくなるパーライト変態温度以下に至るまでに、あらかじめ溶接中心近傍の温度分布を平坦化することにより疲労強度を高めることができる。この効果を得るためには、少なくともオーステナイト温度域から冷却を開始する必要がある。また、温度分布の平坦化を目指すためには、少なくとも冷却開始から50℃以上、温度低下するまで冷却することが望ましい。この場合、冷却停止温度がパーライト変態の冶金的な駆動力が作用するAr3点、Ae点、Acm点以下まで冷却された場合には硬度は幾分上昇するが、硬度の上昇代は図18の(b1)、(b2)より小さい。冷却停止温度がパーライト変態の冶金的な駆動力が作用するAr3点、Ae点、Acm点以上の場合には硬度上昇は起きないが、この場合においても温度分布の平坦化により残留応力は改善される。
図18の(b1)、(b2)、(b3)いずれの冷却方法においても、柱部の冷却範囲は、広い範囲で冷却すると足部の長手方向残留応力が引張に転じ、曲げ疲労強度が低下するため望ましくない。これを防ぐためには柱部の冷却範囲を、柱部がAc1点以上となる高加熱温度領域に限定する必要がある。
冷却速度は放冷ではその効果が得られず、逆に冷却が速すぎる場合、柱部の組織がパーライト変態を起こさず、より低温でベイナイトもしくはマルテンサイト変態を起こす。高炭素鋼のマルテンサイト組織はきわめて硬くてもろいため避けなければならない。またベイナイト組織は変態温度により強度が変動し、合金成分の偏析部はさらに変態が遅延してマルテンサイト組織を混入する危険性があり、好ましくない。これらパーライト以外の組織を防止するためには冷却速度は5℃/s以下である必要がある。
図19の(c)はレール溶接部の柱部の温度がオーステナイト温度域から加速冷却を開始し、さらに柱部がパーライト変態を完了した後も柱部を加速冷却した請求項3の例である。この方法は残留応力の発生が著しくなるパーライト変態温度以下に至るまでに、あらかじめ溶接中心近傍の温度分布を平坦化することと、溶接部柱部を加速冷却することで、柱部の強度を高める効果と、柱部がパーライト変態が完了した後に更に柱部を冷却することで、さらに疲労強度を高めることができる。これらの効果を得るためには、少なくともオーステナイト温度域から冷却を開始する必要がある。オーステナイト温度域からの冷却終了は、温度分布の平坦化を目指すためには少なくとも冷却開始から50℃以上の冷却を行うことが望ましい。また、硬度上昇を得るためにはパーライト変態の冶金的な駆動力が作用するAr3点、Ae点、Acm点以下まで冷却することが望ましい。オーステナイト域からの冷却をパーライト変態完了後まで行い、引き続きパーライト完了後の冷却を連続的に行っても良い。
柱部の冷却範囲は、広い範囲で冷却すると足裏部の長手方向残留応力が引張となり、曲げ疲労強度が低下するため望ましくない。足部を圧縮状態を保つためには、本発明者らの検討によると溶接部の柱部の冷却範囲を、柱部がAc1点以上となる高加熱温度領域に限定する必要がある。
オーステナイト領域からパーライト変態完了までの冷速は放冷以上が必要であるが、マルテンサイト組織、ベイナイト組織を避けるために、5℃/s以下であることが好ましい。
パーライト変態を完了した後の柱部の冷却速度は放冷以上であり、冷速が早いほど残留応力を低減する効果が大きい。
また、柱部がパーライト変態した後の冷却において、足部の冷速が柱部を超える場合、柱部が遅れて収縮し、柱部の収縮が足部に拘束されて長手方向の引張残留応力が増加する結果、上下方向(周方向)にもポアソン比分の引張応力が生じるため好ましくない。この方法によりレール柱部の上下方向(周方向)の残留応力をさらに低減し、また、柱部の強度を増すことでより高い疲労強度を得ることができる。
上記冷却方法において、柱部がパーライト変態した後の足部の冷却速度が柱部のそれを超えないことが必要であることを説明した。この観点から、重荷重鉄道などのレールがより過酷な環境で使用される場合において、より残留応力を改善し、さたに高い疲労強度を得るためには、溶接後の冷却過程においてレール足部を自然放冷とすることが必要である。
一方、磨耗の早い曲線軌道向けのレール頭部を熱処理したレールに対しては、溶接後の冷却過程において、レール頭部がパーライト変態する温度域を加速冷却して、母材レールと同等の硬度を与えることが望ましい。
図19の(d)はレール頭部および柱部の温度がオーステナイト温度域から加速冷却を開始し、さらに柱部がパーライト変態を完了した後に、さらに柱部を加速冷却した請求項5の例である。
レール頭部、柱部を硬化させるためには、レール頭部の加速冷却はA3、AeもしくはAcm超のオーステナイト温度域から開始させる必要があり、パーライト変態が完了するまでの少なくとも一部の温度範囲を冷却する必要がある。オーステナイト温度域からの冷却終了は、温度分布の平坦化を目指すためには少なくとも冷却開始から50℃以上の冷却を行うことが望ましい。また、硬度を上げるためにはパーライト変態の冶金的な駆動力が作用するAr3点、Ae点、Acm点以下まで冷却する必要があり、より十分な硬度を得るためにはパーライト変態が完了するAr1以下まで冷却する必要がある。オーステナイト域からの冷却をパーライト変態完了後まで行い、引き続きパーライト完了後の冷却を連続的に行っても良いが、途中、中断してもかまわない。オーステナイト領域からの頭部と柱部の冷速はいずれも放冷以上でなくては硬化させることができず、一方、マルテンサイト組織、ベイナイト組織を避けるために5℃/s以下であることが必要である。この方法によりレール頭部を硬化させた熱処理レールにおいて、レール柱部の上下方向(周方向)の残留応力を低減するとともに、溶接部の部分的な偏磨耗を抑制することが可能である。
前述したように、レール柱部の溶接部近傍の温度分布を平坦にすることにより、柱部の上下方向の残留応力を低減することが可能である。そのために冷却範囲を溶接部中心付近の高温域に限定することが有効である。本発明者らの検討によると柱部の冷却範囲を、溶接による最高加熱温度がAc3、Ace、Accm以上となる領域にさらに狭めることにより、溶接中心付近をさらに集中的に冷却し、溶接中心付近の温度分布はより平坦にすることができる。冷却範囲の幅が狭いために、中央付近が凹型の温度分布になったとしても、大局的には溶接中心付近の温度分布は平坦であり、残留応力を軽減するという効果は変わらない。
なお、冷却幅が狭過ぎる場合には冷却効率が低下して残留応力を低減する効果が下がるため、少なくとも5mm以上の範囲を冷却することが望ましい。
以上の溶接後の制御冷却により、レール溶接部における柱部の上下方向残留応力は低減し、足裏部の長手方向残留応力も圧縮範囲となる良好な溶接継手が得られる。レール柱部の上下方向の残留応力を引張350MPa以下に低減することにより、本発明者らの実験によると、重荷重鉄道を模擬した疲労試験で柱部の水平亀裂の発生が認められなくなった。また、足裏部の長手方向の残留応力が圧縮範囲であることにより、曲げ疲労試験でも十分な疲労寿命が得られた。また、これらの効果はパーライト変態温度域を冷却する場合の冷却速度の調整により、金属組織の95%以上をパーライト組織とすることにより、硬くて脆いマルテンサイト組織の発生を抑えることで得られる。
<試験方法>
(柱部の疲労試験方法について)
柱部の水平亀裂に対する疲労強度の評価試験は図20に模式的に示す方法で行った。定盤27の上にレール溶接部を置き、溶接部のレール頭部から押し治具30で荷重を繰返し与えた。押し治具28の曲率半径は車輪に近い450mmとした。付与する荷重は重荷重での実荷重が20トン程度であることを考慮し、実験速度の促進のために30トンに設定した。荷重繰返しにおける最低荷重は0トンとすると試験片が浮き上がることがあり、それを避けるために4トンとした。荷重繰返し速度は2Hzとし、溶接部に亀裂が発生した時点で試験を終了した。また、荷重繰返し回数が200万回まで非破断であった場合は、そこで試験を終了した。
(足部の疲労試験方法について)
曲げ疲労強度の評価試験は3点曲げ方式で行った。図21に試験法方を模式的に示す。1mの距離でセットされた台座29、29'の中心に1.5mに切断したレール溶接部を正立姿勢で置き、その中心部にレール頭部から押し治具30で荷重を与えた。台座29、29'および押し治具30のレールに接する部位の曲率半径は100mmRとした。試験応力はレールの足裏中央部分で設定した。最低応力を30MPaとし、最大応力を330MPa、応力変動範囲を300MPaとした。通常のフラッシュバット溶接継ぎ手は応力範囲300MPaで200万回までの疲労寿命を有している。荷重繰返し速度は5Hzとし、溶接部に亀裂が発生した時点で試験を終了した。また、荷重繰返し回数が200万回まで非破断であった場合は試験を終了し、十分な疲労性能を有していると判断した。
以下に本発明の実施例、比較例を表1〜表5に示す。同一条件で3本の試験体を作成し、そのうち1本は残留応力、溶接部硬度、金属組織を調査し、2本目は柱部の疲労寿命評価試験を行い、3本目は曲げ疲労試験を行った。表中で被溶接レールの種類、溶接部の最高加熱温度がAc1以上となる領域の長手方向の幅、Ac3、Ace、Accm以上となる領域の長手方向の幅、溶接後に冷却を行う場合の長手方向の幅、冷却する温度域、残留応力の測定値、溶接部の硬度、疲労試験における亀裂発生回数を示した。硬度については溶接中心の薄い脱炭領域は測定値がばらつくため、溶接中心から2mm位置の表面でショア式硬度計により測定し、ビッカース硬度に換算した。残留応力は歪ゲージ接着部を切り出して歪の変化から残留応力値を算出した。金属組織は溶接中心から2mm位置、表面下2mmの、レール長手方向に直角断面を鏡面研磨し、3%硝酸アルコールでエッチングして顕微鏡で観察した。金属組織の組織分率は倍率100倍で観察し、ポイントカウント法で算出した。表1〜表5の中で、マルテンサイトなど、パーライト以外の組織が認められたものについては備考欄に記入した。なお表中に記載した温度は溶接中央部付近の表面温度である。
また、フラッシュバット溶接ではフラッシュ工程の時間調整により、溶接部の長手方向温度分布が変化する。以下の実施例で溶接部の最高加熱温度の幅を変化させた例は、フラッシング時間の調整によって行った。
Figure 2010188382
<実施例A>
表1はレールをフラッシュバット溶接した後にレール柱部全体がオーステナイトからパーライトへの変態を完了した後、柱部の最高加熱温度がAc1点以上となるレール柱部の長手方向の領域内を、放冷を超える冷却速度で、かつ、レール足部の冷却速度以上で冷却した実施例を示す。この際の冷却方法は次の通りである。最高加熱温度がAc1点以上となるレール柱部の長手方向の領域内(領域より狭い範囲)を圧縮空気あるいは水滴を含む圧縮空気の流量および流速を制御することによって冷却し、最高加熱温度がAc1点以上となる足部の長手方向の領域内(領域より狭い範囲)を圧縮空気の流量および流速を制御することによって冷却し、前記領域内(領域より狭い範囲)以外の領域は自然放冷とした。要するに、加速冷却を施すのはレールの一部分である。
被溶接レールは炭素量0.7〜0.8質量%を含有し、頭部表面硬度がHv260〜290を有する普通レールを用いた。レールサイズはメートル単重60kg/mの一般鉄道用サイズを用いた。
実施例A1〜A6は柱部がパーライト変態完了した後に柱部を冷却する際の冷却速度を種々変化させた例である。パーライト変態完了温度は約600℃であり、柱部の冷却開始温度は500℃、冷却終了温度200℃とした。実施例A4は長手方向の冷却範囲を変化させた例である。
いずれの実施例も柱部の上下方向(周報鋼)の残留応力は、比較例A1で示した溶接まま材に比較して低下した。それに伴い、比較例A1の溶接まま材では柱部の疲労試験において759,000回で亀裂が発生したのに対して、実施例A1〜A6では2,000,000回まで亀裂は発生しなかった。また、足裏部の長手方向の残留応力は圧縮範囲であり、曲げ疲労試験において2,000,000回まで亀裂発生がなく非破断であり、総合的に高い疲労強度が確認された。金属組織はいずれも95%以上がパーライト組織であった。
一方、比較例A2は柱部の冷却幅が溶接部の最高加熱温度がAc1以上の領域よりも広く、足部の長手方向残留応力が引張となり、曲げ疲労試験において短寿命で途中破断した。
また、比較例A3は足部の冷却速度が柱部より速く、柱部の残留応力が下がらず、柱部の疲労試験において短寿命で途中破断した。
比較例A4は冷却の開始タイミングが650℃と高く、パーライト変態が完了する前に冷却を開始させた例で、加えて冷却速度が速かったためマルテンサイト組織分率が面積率で10%以上となり、柱部の硬度が異常に高くなった。柱部の疲労試験において短寿命で途中破断した。
Figure 2010188382
<実施例B>
表2はレールをフラッシュバット溶接した後に、溶接部の最高加熱温度がAc1点以上となるレール柱部の長手方向の領域を、柱部の温度がAe超のオーステナイト温度域からパーライトへの変態を完了するまでの少なくとも一部の温度範囲を、放冷を超え5℃/s以下の冷却速度で冷却した実施例を示す。この際の冷却方法は次の通りである。最高加熱温度がAc1点以上となるレール柱部の長手方向の領域内(領域より狭い範囲)を圧縮空気あるいは水滴を含む圧縮空気の流量および流速を制御することによって冷却し、最高加熱温度がAc1点以上となる足部の長手方向の領域内(領域より狭い範囲)を圧縮空気の流量および流速を制御することによって冷却し、前記領域内(領域より狭い範囲)以外の領域は自然放冷とした。要するに、加速冷却を施すのはレールの一部分である。
パーライト変態温度域は、自然放冷では650℃〜600℃であるが、冷却を行うと冷却速度に応じて変態温度は幾分変化する。被溶接レールは炭素量0.7〜0.8質量%を含有し、頭部表面硬度がHv260〜290を有する普通レールを用いた。レールサイズはメートル単重60kg/mの一般鉄道用サイズを用いた。
実施例B1〜B4は柱部がオーステナイト領域から冷却する際の冷却速度、冷却温度域を種々変化させた例である。
いずれの実施例も柱部の上下方向(周方向)の残留応力は、比較例A1で示した溶接まま材に比較して低下した。それに伴い、柱部の疲労試験において2,000,000回まで亀裂は発生しなかった。また、足裏部の長手方向の残留応力は圧縮範囲であり、曲げ疲労試験において2,000,000回まで亀裂発生がなく非破断であり、総合的に高い疲労強度が確認された。金属組織はいずれも95%以上がパーライト組織であった。また、レール柱部のパーライト変態域を加速冷却することで、柱部の硬度がHv350以上に増加しており、疲労強度の面でさらに有利になっている。
一方、比較例B1は柱部の冷却速度が5℃/sを超えており、柱部にマルテンサイト組織分率が面積率で10%以上となり、硬度が異常に高くなった。柱部の疲労試験において短寿命で途中破断した。
比較例B2は柱部の冷却幅が溶接部の最高加熱温度がAc1以上の領域よりも広く、足部の長手方向残留応力が引張領域となり、曲げ疲労試験において短寿命で途中破断した。
また、比較例B3は冷却の終了温度が760℃と高く、冷却による温度低下量も小さいため残留応力は溶接ままと大差なく、パーライト変態が開始する前に冷却を終了させたため硬度も上がらず、柱部の疲労試験において短寿命で途中破断した。
Figure 2010188382
<実施例C>
表3はレールを溶接した後に、溶接部の最高加熱温度がAc1点以上となるレール柱部の長手方向の領域を、柱部の温度がA3、AeもしくはAcm超のオーステナイト温度域からパーライトへの変態を完了するまでの少なくとも一部の温度範囲を、放冷を超え5℃/s以下の冷却速度で冷却し、さらにレール柱部全体がオーステナイトからパーライトへの変態を完了した後、放冷を超える冷却速度で、かつ、レール足部の冷却速度以上で冷却した実施例を示す。この際の冷却方法は次の通りである。最高加熱温度がAc1点以上となるレール柱部の長手方向の領域内(領域より狭い範囲)を圧縮空気あるいは水滴を含む圧縮空気の流量および流速を制御することによって冷却し、最高加熱温度がAc1点以上となる足部の長手方向の領域内(領域より狭い範囲)を圧縮空気の流量および流速を制御することによって冷却し、前記領域内(領域より狭い範囲)以外の領域は自然放冷とした。要するに、加速冷却を施すのはレールの一部分である。
パーライト変態温度域は、自然放冷では650℃〜600℃であるが、冷却を行うと冷却速度に応じて変態温度は幾分変化する。正常なパーライト変態は600℃弱で完了する。なおパーライト変態完了後の冷却の温度域は500℃〜200℃とした。被溶接レールは炭素量0.7〜0.8質量%を含有し、頭部表面硬度がHv260〜290を有する普通レールを用いた。レールサイズはメートル単重60kg/mの一般鉄道用サイズを用いた。
実施例C1〜C4は柱部がオーステナイト領域からパーライト変態温度域を冷却する際の冷却温度範囲と冷却速度、パーライト変態完了後の冷却の冷却速度を変化させた例である。
いずれの実施例も柱部の上下方向(周方向)の残留応力は、比較例A1で示した溶接まま材に比較して低下した。それに伴い、柱部の疲労試験において2,000,000回まで亀裂は発生しなかった。また、足裏部の長手方向の残留応力は圧縮であり、曲げ疲労試験において2,000,000回まで亀裂発生がなく、総合的に高い疲労強度が確認された。金属組織はいずれも95%以上がパーライト組織であった。また、レール柱部のパーライト変態域を加速冷却することで、柱部の硬度がHv350以上に増加しており、疲労強度の面でさらに有利と考えられる。
一方、比較例C1は柱部の冷却速度が5℃/sを超えており、柱部のマルテンサイト組織分率が面積率で10%以上となり、柱部の硬度が異常に高くなった。柱部の疲労試験において短寿命で途中破断した。
また、比較例C2は足部の冷却速度が柱部より速く、柱部の残留応力が下がらず、柱部の疲労試験において短寿命で途中破断した。
比較例C3は柱部の冷却幅が溶接部の最高加熱温度がAc1以上の領域よりも広く、足部の長手方向残留応力が引張領域となり、曲げ疲労試験において短寿命で途中破断した。
Figure 2010188382
<実施例D>
表4は実施例A、B、Cの条件に加え、レール足部を放冷とした場合の実施例を示す。実施例D1、D2、D3は柱部の冷却速度を変えた例であり、実施例D4、D5は溶接部の最高加熱温度範囲が異なる場合の例である。パーライト変態温度域は、自然放冷では650℃〜600℃であるが、冷却を行うと冷却速度に応じて変態温度は幾分変化する。正常なパーライト変態は600℃弱で完了する。パーライト変態前のA3、Ae、Acm以上の温度域からの冷却を行った実施例の冷却温度域は800〜500℃である。またパーライト変態完了後の冷却を行った実施例の冷却温度域は500℃〜200℃とした。被溶接レールは炭素量0.7〜0.8質量%を含有し、頭部表面硬度がHv260〜290を有する普通レールを用いた。レールサイズはメートル単重60kg/mの一般鉄道用サイズを用いた。
いずれの実施例も柱部の上下方向(周方向)の残留応力は、比較例A1で示した溶接まま材に比較して低下しており、柱部の上下方向(周方向)残留応力は前記実施例よりも平均的に見てさらに低減されている。柱部の疲労試験において2,000,000回まで亀裂は発生しなかった。また、足裏部の長手方向の残留応力は圧縮範囲であり、曲げ疲労試験において2,000,000回まで亀裂発生がなく、総合的に高い疲労強度が確認された。金属組織はいずれも95%以上がパーライト組織であった。
一方、比較例D1は柱部の冷却幅が溶接部の最高加熱温度がAc1以上の領域よりも広く、足部の長手方向残留応力が引張領域となり、曲げ疲労試験において短寿命で途中破断した。
比較例D2は柱部の冷却速度が5℃/sを超えて高く、柱部のマルテンサイト組織分率が面積率で10%以上となり、柱部の硬度が異常に高くなった。柱部の疲労試験において短寿命で途中破断した。
比較例D3、D4は溶接部の最高加熱温度範囲が異なる場合の例であるが、比較例D1と同様、冷却幅が溶接部の最高加熱温度がAc1以上の領域よりも広く、足部の長手方向残留応力が引張領域となり、曲げ疲労試験において短寿命で途中破断した。
Figure 2010188382
<実施例E>
実施例A、B、C、Dの条件に加え、溶接部のレール頭部をA3、AeもしくはAcm超のオーステナイト温度域からパーライトへの変態を完了するまでの少なくとも一部の温度範囲を、放冷を超え5℃/s以下の冷却速度で冷却した実施例を表5に示す。パーライト変態温度域は、自然放冷では650℃〜600℃であるが、冷却を行うと冷却速度に応じて変態温度は幾分変化する。正常なパーライト変態は600℃弱で完了する。パーライト変態前のA3、Ae、Acm以上の温度域からの冷却を行った実施例の冷却温度域は800〜500℃とした。またパーライト変態完了後の冷却を行った実施例の冷却温度域は500℃〜200℃とした。被溶接レールは炭素量0.8〜1.0質量%を含有し、頭部表面硬度がHv390〜420を有する熱処理レールを用いた。レールサイズはメートル単重70kg/mの重荷重鉄道用サイズを用いた。
実施例E1〜E5は柱部の冷却温度域、冷却速度を変えた例である。いずれの実施例も柱部の上下方向(周方向)の残留応力は、比較例A1で示した溶接まま材に比較して低下した。それに伴い、柱部の疲労試験において2,000,000回まで亀裂は発生しなかった。また、足裏部の長手方向の残留応力は圧縮範囲であり、曲げ疲労試験においても2,000,000回まで亀裂発生がなく、総合的に高い疲労強度が確認された。金属組織はいずれも95%以上がパーライト組織であった。
一方、比較例E1は足部の冷却速度が柱部より速く、柱部の残留応力が下がらず、柱部の疲労試験において短寿命で途中破断した。
比較例E2は柱部の冷却幅が溶接部の最高加熱温度がAc1以上の領域よりも広く、足部の長手方向残留応力が引張領域となり、曲げ疲労試験において短寿命で途中破断した。
1…レールの頭部、2…レールの柱部、3…レールの足部、4・・・レールの頭頂部、5…レールの足表、6…レール足裏、7・・・溶接部、8・・・溶接ビード、9・・・電極、10…被溶接レール、11…アップセットによる溶接ビード、12・・・トリマー、13・・・電源、14・・・テルミット溶接の鋳型、15・・・テルミット溶接のルツボ、16・・・テルミット溶接の溶鋼、17・・・ガス圧接のバーナー、18・・・ガス圧接のトリマー、19・・・エンクローズアーク溶接の裏当て金、20・・・エンクローズアーク溶接の側面当て金、21当て金エンクローズアーク溶接の溶接棒、22・・・疲労亀裂、23・・・脆性亀裂、24・・・枕木、25・・・車輪、26・・・疲労亀裂、XX、YY、ZZ・・・温度分布曲線、P・・・荷重,27・・・定盤、28・・・押し治具、29,29'・・・台座、30押し治具

Claims (6)

  1. レールを溶接した後の当該溶接部の冷却方法において、前記溶接部のレール柱部全体がオーステナイトからパーライトへの変態を完了した後、前記溶接部の柱部の最高加熱温度がAc1点以上となるレール柱部の長手方向の領域を、放冷を超える冷却速度で、かつ、レール足部の冷却速度以上で冷却することを特徴とするレール溶接部の冷却方法。
  2. レールを溶接した後の当該溶接部の冷却方法において、前記溶接部の最高加熱温度がAc1点以上となるレール柱部の長手方向の領域を、柱部の温度がA3、AeもしくはAcm超のオーステナイト温度域からパーライトへの変態を完了するまでの少なくとも一部の温度範囲を、放冷を超え5℃/s以下の冷却速度で冷却することを特徴とするレール溶接部の冷却方法。
  3. レールを溶接した後の当該溶接部の冷却方法において、前記溶接部の最高加熱温度がAc1点以上となるレール柱部の長手方向の領域を、柱部の温度がA3、AeもしくはAcm超のオーステナイト温度域からパーライトへの変態を完了するまでの少なくとも一部の温度範囲を、放冷を超え5℃/s以下の冷却速度で冷却することを特徴とする請求項1に記載のレール溶接部の冷却方法。
  4. レール足部の冷却速度が放冷であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載のレール溶接部の冷却方法。
  5. レールを溶接した後の当該溶接部の冷却方法において、前記溶接部のレール頭部をA3、AeもしくはAcm超のオーステナイト温度域からパーライトへの変態を完了するまでの少なくとも一部の温度範囲を、放冷を超え5℃/s以下の冷却速度で冷却することを特徴とする、請求項1〜4の何れか1項に記載のレール溶接部の冷却方法。
  6. レール柱部の上下方向の残留応力が350MPa以下であり、レール底面の長手方向残留応力が圧縮応力であり、前記溶接部の金属組織の95%以上がパーライト組織であることを特徴とする前記請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の冷却方法によるレール溶接継手。
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