JP5527630B2 - 水酸化ニッケルナノシートおよびその製造方法 - Google Patents

水酸化ニッケルナノシートおよびその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、水酸化ニッケルナノシートおよびその製造方法に関する。さらに詳細には、二次電池の正極材料やキャパシタに用いられうる新規な水酸化ニッケルナノシートおよびその製造方法に関する。
水酸化ニッケルは、実用的な二次電池として普及しているニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池、またはニッケル鉄電池などの正極材料として欠かせない材料であり、また、一次電池の正極材料としても用いられている。これらの用途に用いられる水酸化ニッケルとしては、通常、密度が高い数μmレベルの粒子径を有する球状の水酸化ニッケル粒子が用いられる。前記の球状水酸化ニッケル粒子は、水溶性のニッケル化合物を、pHの制御をしながらアルカリ水溶液と混合することによって生産されている。
基本格子が六角形である水酸化ニッケル結晶は、その構造に起因して、シート状構造または板状構造になることが多い。非特許文献1では、比表面積が60m/g以下である水酸化ニッケル結晶が報告されている。また、水酸化ニッケルのナノレベルでの構造体の合成に関する報告があり(例えば非特許文献2参照)、ロッド状(例えば非特許文献3、4参照)、フレーク状およびディスク状(例えば非特許文献5、6参照)、または球状(例えば非特許文献6参照)など、種々の構造を有する水酸化ニッケルが報告されている。
水酸化ニッケル粒子の電池材料への実用性を重視した報告例によれば、比表面積が60m/gである直径40μmの球状粒子の正極材料としての性能が評価されている(非特許文献7参照)。また、ニッケル錯体の形成とその分解を利用した方法により、比表面積が178m/gの水酸化ニッケルが得られることが報告されている(非特許文献8参照)。
K.Watanabe et al.,Journal of Applied Electorochemistry,25,219−226(1995) M.Akinc et al.,Journal of European Ceramic Society,18,1559−1564(1998) K.Matsui et al.,Advanced Materials,14,1216−1219(2002) J.Liang et al.,Chemistry Letters,32,1126−1127(2003) D.Chen et al.,Chemical Physics Letters,405,159−164(2005) X.Liu et al.,Materials Letters,58、1327−1330(2004) M.Oshitani et al.,Journal of Electrochemical Society,136,1590−1593(1989) P.V.Kamath et al.,Journal of Applied Electrochemistry,22,478−482(1992)
しかしながら、上記の非特許文献1〜7に記載の技術では、得られる水酸化ニッケル粒子の比表面積が低く、電極材料として求められる性能のいくつかが未だ不十分である。また、非特許文献8に記載の水酸化ニッケルの製造方法は、錯体の形成を経由するため煩雑であるという問題があった。
そこで本発明は、簡便な方法により製造することができ、かつ高い比表面積を有する水酸化ニッケルナノシートおよびその製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記の課題に鑑み、鋭意研究を積み重ねた結果、ニッケル塩をアルカリ水溶液にゆっくり添加する簡便な方法によって、高い比表面積を有する水酸化ニッケルが得られることがわかった。さらに、得られた前記水酸化ニッケルを水熱処理することにより、高い比表面積を有する水酸化ニッケルナノシートが製造できることを見出した。
すなわち、本発明は、比表面積が150m/g以上である、水酸化ニッケルナノシートである。
また、本発明は、ニッケル塩の水溶液をpHが12以上であるアルカリ水溶液に滴下して高比表面積水酸化ニッケルを合成する工程と、高比表面積水酸化ニッケルを水に分散させ水熱処理する工程と、水熱処理により得られた生成物をろ過、乾燥する工程と、を含む、水酸化ニッケルナノシートの製造方法である。
本発明によれば、簡便な方法により製造することができ、かつ高い比表面積を有する水酸化ニッケルナノシートおよびその製造方法が提供されうる。
実施例1で得られた水酸化ニッケルナノシートの集合体を、走査型電子顕微鏡を用いて倍率5万倍で撮影した写真である。 実施例1で得られた水酸化ニッケルナノシートの集合体を、走査型電子顕微鏡を用いて倍率2万倍で撮影した写真である。 実施例1で得られた水酸化ニッケルナノシートの集合体を、走査型電子顕微鏡を用いて倍率1万倍で撮影した写真である。 実施例1で得られた水酸化ニッケルナノシートの集合体の窒素吸着・脱離等温線である。 図4Aの窒素吸着・脱離等温線を解析して得られた細孔径分布曲線である。 実施例1で得られた中間生成物および水酸化ニッケルナノシートの集合体のX線回折チャートである。
以下、本発明の好ましい実施形態を説明する。
本発明は、比表面積が150m/g以上である、水酸化ニッケルナノシートである。本発明の水酸化ニッケルナノシートは、高い比表面積を有する水酸化ニッケルから形成されるため、高い比表面積を有し、また、ほぼ均一な細孔径を有しうる。したがって、例えば、本発明の水酸化ニッケルナノシートを一次電池または二次電池の正極活物質として用いた場合、電池の高性能化に繋がると考えられる。特に、充電可能な二次電池の正極活物質として本発明の水酸化ニッケルナノシートを用いた場合、水素イオンの出入りが容易になると考えられ、充電に要する時間が短くなり、二次電池の充放電特性の向上が期待できる。
ここで、本発明において、「水酸化ニッケルナノシート」とは、ニッケルイオンを六方最密充填した水酸化物イオンの層が上下から挟み込み八面体配位した積層構造を基本ユニットとし、このユニットが二次元平面状に広がったシート状構造を有し、厚みとしては分子レベル(数ナノメートル)から積層構造が発達して数百ナノメートルまでのものであることを意味する。また、水酸化ニッケルの結晶性が低い部分も存在し、それに伴ってたわんだ構造になっているものも含む。
前記水酸化ニッケルナノシートの比表面積は、150m/g以上である。前記比表面積が150m/g未満の場合、細孔径分布が広がって、細孔径が2nm〜10nmの範囲にあるメソ孔が発達するために、細孔径が不均一な材料になる場合がある。このような材料を電極材料として用いた場合、特に充放電特性に影響すると考えられる。ナノシート構造体が収率良く得られるという観点、および細孔径の均一性の観点から、該比表面積は好ましくは160〜270m/g、より好ましくは170〜270m/g、特に好ましくは180〜240m/gである。なお、本発明において、前記比表面積は、窒素吸着・脱離等温線から算出した値を採用するものとする。
上記の範囲の比表面積を有する水酸化ニッケルナノシートは、ニッケル塩の水溶液を強アルカリ性水溶液に滴下して得られる無定形部分を含む高比表面積β型水酸化ニッケルを水熱処理することにより得られ、β型の結晶構造となる。β型の結晶構造を有する水酸化ニッケルは、オキシ水酸化ニッケルと同様な、[NiOの二次元網目層を積み重ねた層状構造を有する。その層構造を維持したまま、層間への水素イオンの出入りによって酸化還元反応が進行するため、水素イオンの出入りによる結晶構造の変化が小さいと考えられるため、β型の結晶構造を有する水酸化ニッケルは、電極材料として好ましいと考えられる。
本発明の水酸化ニッケルナノシートの厚さは、特に制限されないが、ナノシート構造体が収率良く得られるという観点、および細孔径の均一性の観点から、1〜200nmであることが好ましく、20〜100nmであることがより好ましい。厚さが1nm未満の場合、水酸化ニッケルナノシートの物理的・化学的安定性が低下する場合がある。また、厚さが200nmを超える場合、水酸化ニッケルナノシートの収率が低下する場合があり、水酸化ニッケルナノシートの細孔径の均一性が低下する場合がある。該厚さは、水熱条件を制御することにより制御されうる。なお、本発明において、前記厚さは、走査型電子顕微鏡により測定した値を採用するものとする。
本発明の水酸化ニッケルナノシートの平均細孔径は、特に制限されないが1〜6nmであることが好ましい。ナノシート構造体が収率良く得られるという観点および細孔径の均一性という観点から、本発明の水酸化ニッケルナノシートの平均細孔径は、より好ましくは2〜5nmであり、特に好ましくは3〜4nmである。平均細孔径が1nm未満である場合、細孔径が小さすぎて細孔内のイオンの移動が低下する場合がある。また、平均細孔径が6nmを超える場合、水酸化ニッケルナノシートが収率良く得られるという観点、および水酸化ニッケルナノシートの細孔径の均一性が低下する場合がある。前記平均細孔径は、高比表面積水酸化ニッケルを合成する段階で比表面積を制御すること、および後段の水熱条件を制御することにより制御されうる。なお、本発明において、前記平均細孔径は、窒素吸着・脱離等温線をBJH(Barrett−Joyner−Halenda)法によって解析して得られる細孔径分布曲線から求めた値を採用するものとする。
本発明の水酸化ニッケルナノシートの形態は、特に制限されない。前記水酸化ニッケルナノシートは、一次粒子の形態であってもよいし、一次粒子が凝集または集合して形成される二次粒子の形態であってもよい。また、本発明の水酸化ニッケルナノシートは、結晶状であってもよいし、顆粒状であってもよいし、粉末状であってもよい。
本発明の水酸化ニッケルナノシートの製造方法は、ニッケル塩の水溶液をpHが12以上であるアルカリ水溶液に滴下して高比表面積水酸化ニッケルを合成する工程と、前記高比表面積水酸化ニッケルを水に分散させ水熱処理する工程と、水熱処理により得られた生成物をろ過、乾燥する工程と、を含む。以下、かような製造方法について、工程順に詳細に説明するが、本発明は、下記の形態のみに制限されるものではない。
[高比表面積水酸化ニッケルを合成する工程]
本工程においては、ニッケル塩の水溶液をpHが12以上であるアルカリ水溶液に滴下し、加水分解反応を行うことにより高比表面積水酸化ニッケルを得る。
高い比表面積を有する本発明の水酸化ニッケルナノシートを得るという観点から、前記高比表面積水酸化ニッケルの比表面積は、150m/g以上であることが好ましい。前記比表面積が150m/g未満の場合、後段の水熱処理によって水酸化ニッケルが凝集し、比表面積が150m/g以上である水酸化ニッケルナノシートが得られにくい場合がある。該比表面積は180〜240m/gであることがより好ましく、200〜240m/gであることがさらに好ましく、220〜240m/gであることが特に好ましい。
上記のような範囲の比表面積を有する高比表面積水酸化ニッケルは、ニッケル塩の水溶液をpHが12以上であるアルカリ水溶液に滴下し、加水分解により合成する。この加水分解の工程は、水酸化ニッケルの沈殿を析出させる工程と、前記水酸化ニッケルの沈殿をろ過、乾燥して、高比表面積水酸化ニッケルを得る工程と、を含むことが好ましい。以下、水酸化ニッケルの沈殿を析出させる工程と、前記水酸化ニッケルの沈殿をろ過、乾燥する工程とについて説明する。
<水酸化ニッケルの沈殿を析出させる工程>
本工程においては、ニッケル塩の水溶液およびpHが12以上であるアルカリ水溶液を準備した後、ニッケル塩をアルカリ水溶液に添加し、水酸化ニッケルの沈殿を析出させる。
まず、ニッケル塩を準備する。前記ニッケル塩は、特に制限されず、その具体的な例としては、例えば、酢酸ニッケル、蓚酸ニッケル、酪酸ニッケルなどの有機酸塩、硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、塩化ニッケル、リン酸ニッケルなどの無機酸塩などが挙げられる。これらは単独でも、または2種以上の組合せでも使用することができる。
前記ニッケル塩の形態は、アルカリ水溶液中での反応を効率よく行うという観点、およびニッケル塩の添加速度を制御するという観点から、水溶液の形態であることが好ましい。
前記ニッケル塩の水溶液を用いる場合、その濃度は、アルカリ性水溶液中へのニッケルイオンの拡散および加水分解されて水酸化ニッケルが析出してくる速度の兼ね合い、および生産性の観点から、0.001〜0.5mol/lであることが好ましく、0.01〜0.2mol/lであることがより好ましい。
次に、pHが12以上であるアルカリ水溶液を準備する。pHが12未満の場合、高い比表面積を有する水酸化ニッケルを得ることができない場合がある。前記pHは、好ましくは13以上であり、より好ましくは13.4以上である。
前記アルカリ水溶液に含まれる化合物は、pHが12以上となるように水溶液を調製することができれば、その種類は特に制限されない。化合物の具体的な例としては、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、またはテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)などが挙げられる。これらは単独でも、または2種以上の組合せでも使用することができる。
前記アルカリ水溶液の濃度は、加水分解速度の観点から、0.1〜10質量%であることが好ましく、0.5〜5質量%であることがより好ましい。
次に、ニッケル塩をpHが12以上であるアルカリ水溶液に添加し、水酸化ニッケルの沈殿を析出させる。
前記ニッケル塩と前記アルカリ水溶液との混合比は、ニッケル塩の加水分解の速度および加水分解反応の収率という観点から、化学量論比でニッケルイオン1に対して、水酸化物イオンが好ましくは2〜20、より好ましくは5〜10である。
前記ニッケル塩の水溶液を前記アルカリ水溶液に添加する場合、高い比表面積を有する水酸化ニッケルを得るという観点から、ゆっくりと添加することが好ましい。具体的には、前記ニッケル塩の水溶液の添加速度は、0.1〜10.0ml/分であることが好ましく、0.5〜5.0ml/分であることがより好ましく、1.0〜2.0ml/分であることがさらに好ましい。前記添加速度が0.1ml/分未満である場合、製造工程に時間がかかり過ぎて、水酸化ニッケルの生産性が低下する場合がある。また、添加速度が10.0ml/分を超える場合、高い比表面積を有する水酸化ニッケルが得られない場合がある。
前記ニッケル塩の水溶液の添加方法は、添加速度が前記範囲にあれば特に制限されず、ニッケル塩の水溶液の液滴を間欠的に添加してもよいし、液滴を連続的に添加してもよい。
前記ニッケル塩の水溶液を添加した後、加水分解反応を終結させるという観点から、ニッケル塩の水溶液とアルカリ水溶液との混合物は静置するほうが好ましい。静置温度は特に制限さないが、均一に加水分解反応が起こるようにするという観点から、10〜30℃であることが好ましく、15〜25℃であることがより好ましい。また、静置時間も特に制限されないが、加水分解反応を終結させるという観点や、静置中に起こる水酸化ニッケルの粒子同士の凝集を防ぐという観点から、0.5〜24時間であることが好ましく、0.8〜12時間であることがより好ましく、1〜5時間であることがさらに好ましい。
<水酸化ニッケルの沈殿をろ過、乾燥する工程>
本工程では、上記工程で得られた水酸化ニッケルの沈殿をろ過し、その後沈殿に含まれている水分を乾燥させて、高比表面積水酸化ニッケルを得る。水酸化ニッケルの沈殿のろ過方法は特に制限されず、自然ろ過、減圧ろ過、加圧ろ過、遠心ろ過など従来公知の方法が適宜採用されうる。ろ過後の乾燥方法も特に制限されず、オーブンを用いる乾燥、減圧乾燥機を用いる乾燥、ホットプレートを用いる乾燥、ドライヤーを用いる乾燥など、従来公知の方法が適宜採用されうる。また、この段階で、高比表面積水酸化ニッケルが十分に乾燥されていなくても後工程で乾燥を行えばよいため、水分を完全に乾燥させる必要はない。ただし、この後の水熱処理の工程で、水酸化ニッケルと水との混合比を制御するという観点から、高比表面積水酸化ニッケル中の水分の含有量の制御を行うほうが好ましい。
乾燥温度は特に制限されないが、水酸化ニッケルの酸化ニッケルへの変化を防ぐという観点から、好ましくは10〜180℃であり、より好ましくは60〜120℃である。また、乾燥時間も特に制限されないが、粒子の凝集を防ぐという観点および生産性の観点から、好ましくは3〜48時間であり、より好ましくは6〜24時間である。
上記のようにして、高い比表面積を有する水酸化ニッケルを得ることができる。
また、上述したように、本工程で得られる高比表面積水酸化ニッケルの結晶構造はβ型であることが好ましい。
[高比表面積水酸化ニッケルを水に分散させ水熱処理する工程]
続いて、前記高比表面積水酸化ニッケルを水に分散させ、水熱処理を行う。
高比表面積水酸化ニッケルを分散させるために用いる水の量は特に制限されない。ただし、高比表面積水酸化ニッケルの溶解と再析出とに伴ってナノシート構造が形成されると考えられる。本工程において用いる水の量があまりに少ないと、ナノシートの構造が十分に発達しない可能性があり、逆に多い場合には単なる微粒子になってしまう可能性がある。こうした観点から、本工程において用いる水の量は、質量比で高比表面積水酸化ニッケル1に対して、好ましくは10〜500であり、より好ましくは50〜200である。
水熱温度は、好ましくは150℃以下であり、より好ましくは30〜120℃である。水熱温度が150℃を超える場合、最終的に得られる水酸化ニッケルナノシートの比表面積が低下する場合がある。また、水熱時間は、好ましくは3〜48時間であり、より好ましくは6〜24時間である。水熱時間が3時間未満の場合、水熱処理による粒子の分散が十分でなく、ナノシートの構造になりにくい場合がある。また、水熱時間が48時間を超える場合、生産性が低下するとともに、粒子間の強い凝集が起こる場合がある。
水熱処理の方法は特に制限されず、例えばオートクレーブなどの密閉容器を用いて行う方法など、従来公知の方法が適宜採用されうる。
本工程により、水酸化ニッケルはナノシートの形状を有するようになる。また、本工程により、水酸化ニッケルナノシートは、集合して二次粒子となりうる。
[水熱処理により得られた生成物をろ過、乾燥する工程]
次に、水熱処理後に得られた生成物をろ過し、その後生成物に含まれている水分を乾燥させて、本発明の水酸化ニッケルナノシートを得る。水熱処理後に得られた生成物のろ過方法は特に制限されず、自然ろ過、減圧ろ過、加圧ろ過、遠心ろ過など従来公知の方法が適宜採用されうる。ろ過後の乾燥方法も特に制限されず、オーブンを用いる乾燥、減圧乾燥機を用いる乾燥、ホットプレートを用いる乾燥、ドライヤーを用いる乾燥など、従来公知の方法が適宜採用されうる。
乾燥温度は特に制限されないが、水酸化ニッケルの酸化ニッケルへの変化を防ぐという観点から、好ましくは10〜180℃であり、より好ましくは60〜120℃である。また、乾燥時間も特に制限されないが、粒子の凝集を防ぐという観点および生産性の観点から、好ましくは3〜48時間であり、より好ましくは6〜24時間である。
本発明の水酸化ニッケルナノシートは、その性能を低下させない範囲で、他の成分を含むことができる。前記他の成分の具体的な例としては、例えば、コバルト(Co)、亜鉛(Zn)、マンガン(Mn)、カドミウム(Cd)、または鉄(Fe)などが挙げられる。これらの成分は、いずれの元素の場合も水酸化物または酸化物の状態で含まれる。
本発明の水酸化ニッケルナノシートは、様々な用途に用いることができ、下記のような効果が期待できる。
(1)アルカリ一次電池、アルカリ二次電池、ニッケル−水素二次電池、またはニッカド(ニッケル−カドミウム)電池、ニッケル−鉄電池などの各種電池の電極材料として本発明の水酸化ニッケルナノシートを用いた場合、得られる電極は性能が格段に向上したものとなり得、各種電池の高性能化が実現されうる。
(2)本発明の水酸化ニッケルナノシートを含む電気抵抗体やキャパシタは、従来に比べて電極の表面積が大幅に増大し、かつほぼ均一な細孔径を有することから、物質移動が容易になり、電極の利用効率の飛躍的な上昇をもたらすことが期待される。
(3)本発明の水酸化ニッケルナノシートを含む導電性ペーストは、従来の材料に比べてより均質な導電性ペーストとなりうる。
また、この他にも、本発明の水酸化ニッケルナノシートは、マイクロリアクターの構成部材、電子貯蔵材料などの用途に用いることができる。
本発明を、下記の実施例を用いてさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、比表面積、細孔容積、および平均細孔径を求めるための窒素吸着・脱離等温線は、トライスター3000(株式会社島津製作所製)を用いて測定した。また、細孔径分布の解析にはBJH法を用いた。
(実施例1)
濃度0.1mol/lの塩化ニッケル(NiCl)水溶液100mlを、濃度1質量%のテトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液(pH13.0)1000mlに、1.5ml/minの速度でビュレットを用いて滴下し、室温(20℃)で1時間静置した。次いで、得られた淡緑色の沈殿をろ過、乾燥して粉末状試料を得た。得られた粉末状試料の比表面積は、227m/gであった。前記粉末状試料0.2gを20mlの水に分散させて密閉容器に移し、密閉した状態で100℃まで昇温して、そのまま12時間処理した。得られた生成物をろ過し、オーブンを用い60℃で乾燥させ淡緑色の粉末を得た。
図1〜3は、実施例1で最終的に得られた淡緑色の粉末を、走査型電子顕微鏡を用いて撮影した写真である。図1は倍率5万倍、図2は倍率2万倍、図3は倍率1万倍である。図1〜3より、最終的に得られた淡緑色の粉末が、厚さが20〜100nmである水酸化ニッケルナノシートが集合した水酸化ニッケルナノシートの集合体であることが確認された。また、図1〜3からわかるように、水酸化ニッケルナノシートの集合体を形成する水酸化ニッケルナノシートの多くは、その側面が外側に向いた形状になっている。二次電池の充放電の鍵となる水素イオンの出入りは、この側面で起こると考えられる。よって、この形状からも、本発明の水酸化ニッケルナノシートが、二次電池の正極活物質として極めて有用であることが示唆される。
図4Aは、実施例1で得られた本発明の水酸化ニッケルナノシートの集合体の窒素吸着・脱離等温線であり、図4Bは、図4Aの窒素吸着・脱離等温線を解析して得られた細孔径分布曲線である。前記窒素吸着・脱離等温線から算出した水酸化ニッケルナノシートの比表面積は190m/gであり、前記細孔径分布曲線から得られた水酸化ニッケルナノシートのBJH法による細孔径分布曲線から求めた平均細孔径は3.24nmであった。
図5は、実施例1で得られた水熱処理する前の中間生成物のX線回折チャート(図5の(a)と、最終生成物である水酸化ニッケルナノシートの集合体のX線回折チャート(図5の(b))である。このチャートから、水熱処理の前後で結晶構造が変化せず、中間生成物および最終生成物の結晶構造はβ型であることがわかった。
(実施例2)
濃度0.1mol/lの硫酸ニッケル(NiSO)水溶液100mlを、濃度1質量%の水酸化ナトリウム水溶液(pH13.4)1000mlに、1.5ml/minの速度でビュレットを用いて滴下し、室温(20℃)で1時間静置した。次いで、得られた淡緑色の沈殿を、ろ過乾燥して粉末状試料を得た。得られた粉末状試料の比表面積は、239m/gであった。この粉末状試料0.2gを20mlの水に分散させて密閉容器に移し、密閉した状態で120℃まで昇温して、そのまま12時間反応させた。得られた生成物を60℃で乾燥させて淡緑色の粉末を得た。
走査型電子顕微鏡による観察を行い、最終的に得られた粉末は、厚さ20〜100nmの水酸化ニッケルナノシートが集合した水酸化ニッケルナノシートの集合体であることが確認された。また、最終的に得られた水酸化ニッケルナノシートの集合体の比表面積は185m/gであり、最終的に得られた水酸化ニッケルナノシートの集合体のBJH法による細孔径分布曲線から求めた平均細孔径は3.11nmであった。また、最終的に得られた水酸化ニッケルナノシートの集合体のX線回折分析を行った結果、結晶構造はβ型であることがわかった。
(比較例)
濃度0.1mol/lの塩化ニッケル(NiCl)水溶液100mlを、濃度1質量%のアンモニア水(pH11.4)1000mlに、1.5ml/minの速度でビュレットを用いて滴下し、室温(20℃)で1時間静置した。次いで、得られた淡緑色の沈殿を、ろ過乾燥して粉末状試料を得た。得られた粉末状試料の比表面積は、144m/gであった。この粉末状試料0.2gを20mlの水に分散させて密閉容器に移し、密閉した状態で120℃まで昇温して、そのまま12時間反応させた。得られた生成物を60℃で乾燥させて淡緑色の粉末を得た。
走査型電子顕微鏡による観察を行い、最終的に得られた粉末は、針状粒子の凝集体であり、シート状に成長していないことが確認された。また、最終的に得られた凝集体の比表面積は27m/gであり、最終的に得られた凝集体の細孔径分布曲線から求めた平均細孔径は20.7nmであった。また、最終的に得られた凝集体のX線回折分析を行った結果、結晶構造はβ型であることがわかった。
実施例1〜2および比較例において得られた中間生成物の粉末と、和光純薬工業株式会社製の水酸化ニッケル(品番:144−05572、以下「市販品」とも称する)とについて、比表面積および細孔容積を測定した結果と、実施例1〜2および比較例において得られた最終生成物、ならびに市販品の代表細孔径を測定した結果とを下記表1に示す。なお、細孔容積は窒素吸着・脱離等温線より算出した。
表1からわかるように、実施例1および2の本発明の製造方法により得られた水酸化ニッケルナノシートの中間体である水熱処理前の水酸化ニッケルは、200m/gを上回る高い比表面積を有することがわかった。一方、pHが11.4であるアンモニア水を用いて作製した比較例の水酸化ニッケルの中間体は、比表面積が低くなることがわかった。さらに、実施例1および2では平均細孔径が3〜4nmであるほぼ均一な細孔径を有する(図4B参照)のに対し、比較例では、代表細孔径が約8.6nmと大きくなっており、余分なメソ孔が存在することがわかる。また、市販品は約5.2nmの平均細孔径であり、この場合も余分なメソ孔の存在が示唆される。この平均細孔径の測定結果に対応して、実施例1および2では細孔容積がほぼ同じであるのに対し、比較例では細孔容積が増加し、電池の正極材料として用いた場合、エネルギー密度の低下をもたらすことが示唆された。一方、市販品の細孔容積は比表面積が小さい分、細孔容積は0.11cm/gにとどまっている。

Claims (3)

  1. ニッケル塩の水溶液をpHが12以上であるアルカリ水溶液に滴下して比表面積が150m /g以上である高比表面積水酸化ニッケルを合成する工程と、
    前記高比表面積水酸化ニッケルを水に分散させ水熱処理する工程と、
    水熱処理により得られた生成物をろ過、乾燥する工程と、
    を含む、水酸化ニッケルナノシートの製造方法。
  2. 前記ニッケル塩の水溶液を前記アルカリ水溶液に添加する際の添加速度が、0.1〜10.0ml/分である、請求項1に記載の製造方法。
  3. 前記高比表面積水酸化ニッケルの結晶構造がβ型である、請求項1または2に記載の製造方法。
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