上記の特許文献1に記載されているダイナミックダンパは、回転軸に生じるトルク変動や捩り振動を第一慣性体および第二慣性体が生じる慣性力とトーション機構における弾性部材の弾性力とによって減衰するように構成されている。その制振性能を向上させるために、例えば、特許文献1に記載されているダイナミックダンパにおいて、第二慣性体をトルク変動や捩り振動に応じて振子が往復運動することによりトルク変動や捩り振動を減衰する振子式振動減衰機構に置き換えることが考えられる。
しかしながら、トルクリミッタ機構の各プレートが係合することによりトルク伝達が再開されることに伴ってショックが発生し、そのショックが振子式振動減衰機構に伝達されると、そのショックによって振子がこれを収容する収容室に衝突することにより異音や微振動が発生したり、振子式振動減衰機構の耐久性が悪化する虞がある。
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、異音や微振動の発生を抑制し、また耐久性の悪化を防止することができるダイナミックダンパを提供することを目的とするものである。
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、過大なトルクが入力される場合にトルク伝達を制限するトルクリミッタ機構が設けられている回転体に生じる捩り振動を質量体の往復運動により減衰する振子式振動減衰機構を備えているダイナミックダンパにおいて、前記トルクリミッタ機構が前記トルク伝達を制限する場合に、前記質量体を固定する固定手段を備えていることを特徴とするものである。
また、請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記トルクリミッタ機構は、前記振子式振動減衰機構に対して相対回転することにより前記トルク伝達を制限するように構成されており、前記固定手段は、前記振子式振動減衰機構に設けられ、かつ前記トルクリミッタ機構の回転に伴って回転することにより前記質量体を固定するように構成されていることを特徴とするダイナミックダンパである。
さらにまた、請求項3の発明は、請求項2の発明において、前記固定手段は、弾性力を生じる弾性部材によって前記振子式振動減衰機構に支持されており、前記トルクリミッタ機構が前記トルク伝達を制限している状態から前記トルク伝達を行う状態に移行した場合に、前記弾性部材の復元力によって元の位置に戻されるように構成されているいることを特徴とするダイナミックダンパである。
そして、請求項4の発明は、請求項1ないし3のいずれかの発明において、前記回転体は、駆動力源が発生する動力を変速機に伝達する回転軸を含み、前記回転軸における前記駆動力源側に前記振子式振動減衰機構が設けられ、前記回転軸における前記振子式振動減衰機構よりも前記変速機側に前記トルクリミッタ機構が設けられ、前記回転軸における前記振子式振動減衰機構と前記トルクリミッタ機構との間に前記固定手段が設けられていることを特徴とするダイナミックダンパである。
請求項1の発明によれば、トルクリミッタ機構がトルク伝達を制限する場合に、質量体を固定する固定手段が設けられている。そのため、トルクリミッタ機構がトルク伝達を制限する場合に、質量体が例えば質量体を収容する収容室の内壁面に衝突することによって異音や微振動が発生することを防止もしくは抑制することができる。具体的には、例えば、トルクリミッタ機構がトルク伝達を制限している状態からトルク伝達を行う状態に移行することに伴ってショックが生じたとしても、質量体が固定されているため、質量体がこれを収容する収容室の内壁面に衝突することによって異音や微振動の発生を防止もしくは抑制することができる。このように、トルクリミッタ機構が作動する場合にのみ固定手段が質量体を固定するため、質量体がこれを収容する収容室の内壁面に衝突することによる振子式振動減衰機構やダイナミックダンパの耐久性の悪化を未然に防止することができる。また、トルクリミッタ機構がトルク伝達を制限する前やトルク伝達を再開した後において、固定手段が質量体の往復運動を妨げることがなく、振子式振動減衰機構による捩り振動減衰効果を得ることができる。
また、請求項2の発明によれば、請求項1の発明による効果と同様の効果に加えて、固定手段は振子式振動減衰機構と一体回転可能に設けられ、かつ、過大なトルクが回転体に入力されることによりトルクリミッタ機構が振子式振動減衰機構に対して相対回転してトルク伝達を制限する場合に、そのトルクリミッタ機構の回転に伴って回転することにより質量体を固定するように構成されている。そのため、トルクリミッタ機構が振子式振動減衰機構に対して相対回転すると、その回転に伴って固定手段が回転させられることにより質量体を固定することができる。そしてトルクリミッタ機構がトルク伝達を再開すると、より具体的には、トルクリミッタ機構と振子式振動減衰機構とが一体回転すると、固定手段を回転させることにより質量体を固定していた力がなくなるため、質量体の固定が解除される。そして、質量体の固定が解除されることにより、トルク変動や捩り振動に伴って質量体が往復運動すると、質量体の往復運動に伴って固定手段が回転させられる。すなわち、質量体の固定が解除されると、固定手段を元の位置に戻すことができ、振子式振動減衰機構による捩り振動の減衰効果を得ることができる。
さらにまた、請求項3の発明によれば、請求項2の発明による効果と同様の効果に加えて、固定手段は弾性力を生じる弾性部材によって振子式振動減衰機構に支持されている。そのため、トルクリミッタ機構がトルク伝達を制限している状態からトルク伝達を行う状態に移行して固定手段による質量体の固定が解除されると、弾性部材の復元力によって固定部材を元の位置に戻すことができる。すなわち、トルクリミッタ機構が作動してトルク伝達を制限すると、弾性部材が捩れを生じながら回転し、これとは反対に、トルクリミッタ機構がトルク伝達する状態になると、弾性部材がその捩れに伴う復元力を発生し、すなわち、弾性部材がいわゆる捩りバネとして機能することにより、固定手段を元の位置に戻すことができる。
そして、請求項4の発明によれば、請求項1ないし3のいずれかの発明による効果と同様の効果に加えて、駆動力源は発生する動力を変速機に伝達する回転軸を含み、その回転軸における駆動力源側に振子式振動減衰機構が設けられ、これよりも変速機側にトルクリミッタ機構が設けられ、これらの間に固定手段が設けられている。すなわち、トルクリミッタ機構が最も変速機側に設けられるので、トルクリミッタ機構よりも駆動力源側の慣性質量のバランスの変化を防止もしくは抑制することができる。言い換えれば、アンバランス量を小さくできる。アンバランス量が大きい場合には、具体的には、回転一次の回転変動が誘発される可能性があるため、アンバランス量を小さくできることにより回転一次の回転変動を防止もしくは抑制することができる。また、トルクリミッタ機構を挟んでドライブ側の回転軸の回転中心とドリブン側の回転軸の回転中心とがずれること(いわゆるトルクリミッタ機構の軸心ばらつき)に起因して振子の往復運動次数が変化することを防止もしくは抑制することができ、その結果、安定した制振性能を得ることができる。さらにまた、トルクリミッタ機構が作動して動力伝達を制限する場合において、変速機に作用するイナーシャトルクを低減することができる。そして、変速機から駆動力源に向けた過大な入力トルク、すなわち、過大な逆入力トルクに対してトルクリミッタ機構の応答性を向上することができ、その結果、振子式振動低減機構の強度を確保することができる。
つぎにこの発明をより具体的に説明する。図1に、この発明に係るダイナミックダンパの構成の一例を模式的に示してある。この発明に係るダイナミックダンパは、駆動力源1の出力側と、駆動力源1が発生した動力を変速して伝達する変速機(図示せず)との間に設けることができる。図1に示す例では、駆動力源1の出力軸2に、ダイナミックダンパが設けられており、これによって捩り振動を減衰された動力が変速機の入力軸に伝達されるように構成されている。上記の駆動力源1には、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの内燃機関あるいは電気モータや、電気モータと内燃機関とを併用したハイブリッドタイプの駆動力源1などを使用することができる。なお、上記の出力軸2やこれと一体となって回転する部材が、この発明に係る回転体や回転軸に相当している。
駆動力源1の出力軸2には、出力軸2と一体回転可能にフライホイール3が取り付けられている。このフライホイール(ドライブプレートと呼ばれることがある)3は、はずみ車として機能することにより出力軸2のトルク変動や捩り振動を減衰するものであり、例えば所定の質量を有し、円板形状に形成されている。
上記のフライホイール3の出力側に、弾性部材の弾性力によってトルク変動や捩り振動を減衰する弾性式振動減衰機構4が設けられている。詳細は図示しないが、弾性式振動減衰機構4は、入力側の回転体である環状の駆動側プレートと、駆動側プレートに対して相対回転可能な出力側の回転体である従動プレートと、これらのプレートに挟まれて、例えば圧縮コイルばねにより形成されたダンパスプリングとを主要な構成要素として備えている。駆動側プレートは、上記のフライホイール3と一体回転可能に連結されている。そのため、弾性式振動減衰機構4の駆動側プレートと従動側プレートとが相対回転すると、すなわち各プレートの間で捩れが生じると、ダンパスプリングが圧縮され、そのダンパスプリングの弾性力によって捩れを吸収し、もしくはダンパスプリングの捩れによって振動を減衰させるようになっている。
弾性式振動減衰機構4の出力側に、すなわち、弾性式振動減衰機構4の従動プレートと一体回転可能にこの発明に係る振子式振動減衰機構5が設けられている。図2に、この発明に係るダイナミックダンパの一例を示す部分的な断面図であって、振子式振動減衰機構の構成の一例を模式的に示してある。図2に示すように、振子式振動減衰機構5は、トルク変動や捩り振動に応じて往復運動する質量体(すなわち、振子)6と、質量体6を収容する収容室7とを備えている。質量体6は、その往復運動によって振子式振動減衰機構5が取り付けられる制振対象の回転体に生じるトルク変動や捩り振動を減衰するためのものであるから、ここに示す例では、質量体6の往復運動次数は、減衰したい出力軸2の捩り振動の次数、すなわち出力軸2の回転変動次数に等しくなるように、あるいはその回転変動次数に近似した値になるように設計されている。収容室7は、図2に示すように、半径方向で内側の端部が開口し、また軸線方向に測った深さが浅い断面をなし、かつ全体として環状をなしており、例えば駆動力源1側に開口するいわゆる本体部7aと、その駆動力源1側の開口端部を覆う蓋部7bとによって構成されている。
図3に、この発明に係るダイナミックダンパの一例を示す部分的な断面図であって、収容室の形状の一例を模式的に示してある。上述した収容室7の内部の形状は、図3に示すように、本体部7aの内周面に形成される外周側の面と、内周側の面とが円弧面として形成されており、これら外周側の面と内周側の面とによって区画された部分として形成されている。上記の外周側の面は、半径方向に連続して凹凸に変化する曲面として形成されている。そして、それぞれの収容室7の内部に、その外周側の面に沿って転動する質量体6が収容されている。
質量体6の外径は、収容室7を形成している外周側の面と内周側の面との間隔より小さくかつ収容室7の両側の間隔より大きく設定されている。すなわち、質量体6は各収容室7の内部で図3の左右方向に移動できるように構成されている。そのため、各収容室7の外周側の面は、質量体6が遠心力を受けた場合に接触し、かつ質量体6を沿わせて転動させる転動面8であり、したがって転動面8の中央部を起点とした左右両側の面が例えばトロイダル面として構成されている。
収容室7の内部に、図2に示すように、質量体6を固定するための固定手段9が設けられている。固定手段9は、回動することにより質量体6を転動面8の一方の端部側に移動させて固定する固定部材10と、その固定部材10を収容室7の内部に回動自在に支持する支持部材11とを備えている。固定部材10は、直方体形状の固定プレート10aと、円弧面を有する回動プレート10bとによって構成されている。図2に示す例では、回動プレート10bの円弧面は一定曲率の単純な円弧面として形成されており、すなわち半円形状に形成されており、その円弧面が振子式振動減衰機構5の半径方向で内側に配置されている。また、固定プレート10aの長手方向における中央付近に回動プレート10bの円弧面の曲率中心が位置するように構成されている。そして、回動プレート10bの円弧面の曲率中心に上記の支持部材11が設けられている。ここに示す例では、固定部材10および支持部材11は、例えば衝撃を吸収したり、弾性力を生じるゴムなどの弾性部材によって形成されている。なお、ゴムなどによって形成される支持部材11が、この発明に係る固定手段を振子式振動減衰機構に支持する弾性部材に相当している。
振子式振動減衰機構5の出力側にトルクリミッタ機構12が設けられている。図2に示すように、トルクリミッタ機構12は、収容室7の内部であって、上記の固定手段9よりも振子式振動減衰機構5の半径方向で内側に設けられている。トルクリミッタ機構12は、入力側の回転体であるドライブプレート13と、ドライブプレート13に対して相対回転可能な出力側の回転体であるドリブンプレート14と、ドライブプレート13をドリブンプレート14に向けて押圧するように弾性力を生じる弾性部材15とを主要な構成要素として備えている。弾性部材15は、例えば皿バネによって構成されており、収容室7における一方の内壁面に一体的に設けられている。また、弾性部材15に一体的にドライブプレート13が連結されている。そのため、弾性部材15およびドライブプレート13は振子式振動減衰機構5と一体回転するように構成されている。また、ドライブプレート13とドリブンプレート14との間、およびドリブンプレート14と収容室7の他方の内壁面との間にはそれぞれ摩擦材16が設けられている。ドリブンプレート14の外周側の面は上記の回動プレート10bの円弧面に接触するように構成されている。
したがって、トルクリミッタ機構12は、ドライブプレート13とドリブンプレート14とが弾性部材15の生じる弾性力によって係合することによりトルクを伝達し、これらのプレート13,14間にある程度の大きさのトルクや過大なトルクが作用した場合にドライブプレート13とドリブンプレート14との間で滑りを生じることによりトルク伝達を制限するように構成されている。また、トルクリミッタ機構12が作動する(すなわち、トルク伝達を制限する)ことにより、ドライブプレート13に対してドリブンプレート14が相対回転すると、ドリブンプレート14の回転に伴ってこれに接触する上記の回動プレート10bが回転するように構成されている。なお、詳細は図示しないが、トルクリミッタ機構12のドリブンプレート14は、変速機の入力軸と一体回転可能に連結されている。
次に、上述したように構成したダイナミックダンパの作用について説明する。上記のように構成したダイナミックダンパを搭載する車両がいわゆる悪路を走行している場合に急制動を行ったり、波状路を走行するなどのことにより、駆動輪から駆動力源1に向けて過大なトルクが入力されると、ドライブプレート13とドリブンプレート14との間において滑りが生じることによりドライブプレート13に対してドリブンプレート14が相対回転する。すなわち、トルクリミッタ機構12が作動してトルク伝達が制限される。ドリブンプレート14が回転すると、図3に示すように、ドリブンプレート14に外接する回動プレート10bが、すなわち固定部材10が支持部材11に捩れを生じさせながらドリブンプレート14の回転方向とは反対方向に回転する。そして、固定プレート10aの回転に伴って質量体6が転動面8の一方の端部側に押し動かされるとともに、その転動面8の一方の端部において質量体6が固定される。このように、固定手段9はトルクリミッタ機構12の作動に伴って動作するため、トルクリミッタ機構12が作動している間において、質量体6は固定される。なお、トルクリミッタ機構12が作動する場合は、上述したように、過大なトルクが入力される場合であって、車体の振動やブーミングノイズ(こもり音)などの発生が問題となるような場合ではないため、質量体6が固定されている間において、振子式振動減衰機構5による捩り振動減衰効果が得られなくともよい。
これとは反対に、ドライブプレート13とドリブンプレート14とが係合することによりトルクが伝達されると、固定部材10にはこれを回転させる力、言い換えれば、質量体6には質量体6を固定するための力が作用しなくなるため、質量体6の固定が解除される。そして、質量体6の固定が解除されると、トルク変動や捩り振動に応じた質量体6の転動や、支持部材11を構成する弾性部材の復元力によって固定手段9が回転させられて元の位置に戻される。すなわち、上述したように、支持部材11を弾性部材によって形成することにより、支持部材11が捩りバネ要素として機能し、その弾性力によって固定手段9が回転させられる。なお、固定手段9の固定部材10と支持部材11との間に、一方向のみに回転力を伝達する一方向クラッチを設けてもよい。一方向クラッチを設ける場合には、質量体6を固定するためにドリブンプレート14の回転に伴って固定部材10を回転にさせる場合に回転力を伝達するように設ければよい。
このように、この発明に係るダイナミックダンパによれば、トルクリミッタ機構12がトルク伝達を制限する場合にのみ、固定手段9が動作して振子式振動減衰機構5の質量体6を固定することができる。そのため、トルクリミッタ機構12がトルク伝達を行っていない状態からトルク伝達を行う状態に移行する場合に、ショックが発生したとしても、質量体6が収容室7の内壁面に衝突することによる異音や微振動の発生を防止もしくは抑制することができる。その結果、振子式振動減衰機構5およびダイナミックダンパの耐久性の悪化を防止もしくは抑制することができる。また、トルクリミッタ機構12が作動している場合にのみ質量体6を固定するため、トルクリミッタ機構12がトルク伝達を制限する前やトルク伝達を再開した後において、固定手段9が質量体6の往復運動を妨げることがなく、振子式振動減衰機構5による捩り振動減衰効果を得ることができる。さらにまた、固定手段9は、緩衝材としても機能するゴムなどによって構成されているため、車両の振動などによって質量体6が転動面8から離脱するような場合に、いわゆるクッションとして機能し、質量体6が転動面8や収容室7の内壁面に衝突することによる異音や微振動の発生を抑制することができるとともに、これによっても振子式振動減衰機構5の耐久性の悪化を防止もしくは抑制することができる。
また、図1ないし図3に示す構成によれば、トルクリミッタ機構12が最も変速機側に設けられるため、トルクリミッタ機構12のドライブ側に設けられる振子式振動減衰機構5の回転中心が出力軸2の回転中心から偏心することによる慣性質量のバランスの変化をも抑制することができる。すなわち、ダイナミックダンパのアンバランス量を小さくすることができ、これにより特に、回転一次の回転変動を防止もしくは抑制することができる。すなわち、ダイナミックダンパの制振性能を向上させることができる。これに加えて、トルクリミッタ機構12が作動してトルク伝達を制限する場合において、変速機の入力軸に作用するイナーシャトルクを低減できる。また、駆動輪や変速機から駆動力源1に向けた過大な逆入力トルクに対してトルクリミッタ機構12の応答性を向上できる。その結果、過大な逆入力トルクに対して弾性式振動減衰機構4や振子式振動減衰機構5などの耐久性を確保することができる。