以下、図面を参照して本発明に係る操舵装置の好適な実施形態について詳細に説明する。
まず、図1に示すように、本発明の実施形態に係る操舵装置1を搭載した車両は、メイン車両M1と当該メイン車両M1によって牽引されるトレーラ(被牽引車両)M2とを備えている。メイン車両M1とトレーラM2とは、各々車輪を有しており、接続部Cを介して互いに接続されている。図1及び図2に示すように、操舵装置1は、制御部(制御手段)2と、運転者が操作を行うことのできる入力部(入力手段)3と、入力部3からの入力に基づいてメイン車両M1の操舵処理を行うメイン車両操舵部(第一操舵部)4と、入力部3からの入力に基づいてトレーラM2の操舵処理を行うトレーラ操舵部(第二操舵部)6とを備えて構成されている。
入力部3は、メイン車両操舵部4に接続されたステアリングシャフト11と、ステアリングシャフト11の端部に接続されたステアリングハンドル12とを備えている。ステアリングハンドル12は、複数の異なる動作で操作することが可能であり、各動作に応じて複数の入力を行うことができる。具体的には、ステアリングハンドル12は、ステアリングシャフト11の軸線LS回りに回転することができる。以下の説明では、当該操作をステアリングハンドル12の回転と称する。また、ステアリングハンドル12は、ステアリングシャフト11の軸線LSに対して車幅方向に直交する軸線LD回りに回動することができる。以下の説明では、当該操作をステアリングハンドル12の傾きと称する。また、ステアリングハンドル12は、ステアリングシャフト11の軸線LSに対して上下方向に直交する軸線LR回りに回動することができる。以下の説明では、当該操作をステアリングハンドル12の揺動と称する。また、ステアリングハンドル12は、ステアリングシャフト11の軸線LSの延在方向に進退させることができる。以下の説明では、当該操作をステアリングハンドル12の押し引きと称する。
メイン車両操舵部4は、メイン車両M1の車輪に取り付けられており、ステアリングハンドル12の複数の入力に基づく操舵制御によって、メイン車両M1の操舵を行うことができる。トレーラ操舵部6は、トレーラM2の車輪に取り付けられており、ステアリングハンドル12の複数の入力に基づく操舵制御によって、トレーラM2の操舵を行うことができる。メイン車両操舵部4は、ギアボックスやタイロッドによって構成されている。トレーラ操舵部6は、更に動力源14を備えている。
操舵装置1は、複数のセンサを有している。具体的に、操舵装置1は、ステアリングハンドル12の回転操作のステアリング角を検出する舵角センサ21と、ステアリングハンドル12の揺動操作の揺動角を検出する揺動センサ22と、ステアリングハンドル12の押し引き操作の操作量を検出するストロークセンサ23を有している。また、操舵装置1は、メイン車両M1及びトレーラM2の車輪付近に取り付けられて車輪速を検出する車速センサ24と、接続部Cに設けられてトレーラM2の検出を行うトレーラ検出センサ26と、接続部Cに設けられてメイン車両M1に対するトレーラM2の偏向角を検出する偏向角センサ27と、トレーラ操舵部6における舵角を検出する舵角センサ29とを備えている。更に、操舵装置1は、ステアリングハンドル12の操作に対して反力を付与する反力アクチュエータ(反力付与手段)28を備えている。また、操舵装置1は、第二入力をメイン車両M1限定あるいはトレーラM2限定で行うかの切り分けモードの設定を行うための切り分けモードスイッチ29を備えている。
制御部2は、操舵装置1全体の制御を行う電子制御ユニットであり、例えばCPUを主体として構成され、ROM、RAM、入力信号回路、出力信号回路、電源回路などを備えている。図3に示すように、制御部2は、各種センサ21,22,23,24,26,27,29と接続されて検出結果を入力されると共に、メイン車両操舵部4、トレーラ操舵部6、及び反力アクチュエータ28と接続されて制御信号を出力する機能を有する。
また、制御部2は、入力部3からの各種センサを介した入力に基づいて、メイン車両操舵部4及びトレーラ操舵部6を制御する機能を有している。なお、ステアリングハンドル12の操作による入力のうち、回転による入力を第一入力とし、それ以外の操作、すなわち揺動、押し引き、傾きによる入力を第二入力として以下の説明を行う。制御部2は、第一入力及び第二入力に基づいてメイン車両操舵部4を制御することができる。制御部2は、操舵の大きな動作は第一入力に基づいて行うことができ、操舵の微調整は第二入力に基づいて行うことができる。これによって、運転者がステアリングハンドル12を握った状態で車両の細かい挙動を操作することができる。ただし、制御部2は、少なくとも第一入力に基づいてメイン車両操舵部4を制御すればよく、第二入力を考慮しなくてもよい。また、制御部2は、少なくとも第二入力に基づいてトレーラ操舵部6を制御することができる。トレーラ操舵部6の制御に用いられる第二入力は、揺動、押し引き、傾きによる全ての入力を用いる必要はなく、少なくともいずれか一つの入力を用いればよい。
制御部2は、各種センサからの入力に対してローパスフィルタ(LPF)処理を行う機能を有している。特に、本実施形態では、制御部2は、第二入力に対してLPF処理を行い、更に、偏向角センサ27からの信号に対してLPF処理を行う機能を有している。これによって、高い周波数の入力信号を遮断/減衰させる。
また、制御部2は、ステアリングハンドル12の回転による第一入力が所定以上の場合に、揺動、押し引き、傾きによる第二入力によるメイン車両操舵部4の操舵の調整を無効とし、第二入力によってトレーラ操舵部6の操舵を調整する機能を有している。メイン車両操舵部4に対する主たる入力である第一入力が大きく回転することで予め定めておいた所定の閾値(例えば図9に示すMAmax)よりも大きくなった場合は、メイン車両M1が大きく旋回しているときであるため、メイン車両操舵部4の第二入力による微調整を行わない一方、トレーラM2の操舵の調整が必要であるため、トレーラ操舵部6の第二入力による調整を行う。例えば、第二入力があった場合に、トレーラ操舵部6の操舵角を一定値に保持することができる。ただし、所定以上の大きな入力があった場合は、主たる入力を優先させることができる。更に、制御部2は、ステアリングハンドル12の回転による第一入力が所定以下の場合に、揺動、押し引き、傾きによる第二入力によるトレーラ操舵部6の操舵の調整を無効とする機能を有している。第一入力が小さく、メイン車両M1が限りなく直進に近い場合は、トレーラM2の操舵は必要とされないため、トレーラ操舵部6に対する第二入力を無効とする。これによって、直進中のステアリングハンドル12の微小な誤作動によってトレーラM2が不要に操舵されることを防止できる。なお、本発明において、「無効とする」とは、ステアリングハンドル12の揺動、押し引き、傾きの操作を固定することで物理的に入力できないようにする方法と、固定はされず物理的に揺動、押し引き、傾きの操作をすることができるが制御信号が出力されないようにする方法のいずれの場合も含まれる。
また、制御部2は、トレーラ検出センサ26の検出結果に基づいて、メイン車両M1にトレーラM2が接続されているか否かの判定を行う機能を有している。また、制御部2は、トレーラM2が接続されていると判定した場合に、第二入力に基づいてトレーラ操舵部6を制御する機能を有している。また、制御部2は、反力アクチュエータに制御信号を出力することによって、ステアリングハンドル12の操作に対して反力を付与する機能を有している。制御部2は、メイン車両M1に対するトレーラM2の偏向が小さくなる方向に第二入力が入力された場合に、反力を付与する機能を有している。付与される反力の方向は、トレーラM2の偏向が小さくなる操作をした場合に、反力が増大する方向に作用する。具体的には、旋回が終了してメイン車両M1が直進走行に戻った直後、メイン車両M1に対して偏向しているトレーラM2を直進走行に戻すために揺動、押し引き、傾きの操作を行った場合、制御部2は、反力アクチュエータを介して当該操作に対して反力を付与する。ステアリングハンドル12を操作する人間は反力を受ける方向に操作を行う傾向があるが、ステアリングハンドル12の操作に対して反力が付与されることで、運転者は操作すべき方向へ操作を行う。更に、反力の付与によって、運転者はトレーラM2を操作している感覚を体感することができる。
また、制御部2は、運転者がステアリングハンドル12の戻し操作を行っているか否かの判定を行う機能を有している。戻し操作とは、直進状態から所定の方向へステアリングハンドル12を回転させた後に、再びハンドルを戻す操作である。制御部2は、ステアリングハンドル12の戻し操作時は、ステアリング角に対して、その時のメイン車両操舵部4の操舵角から直線的に0点に戻るように、揺動、押し引き、傾きの操作による第二入力を無効とする機能を有している。当該処理内容の詳細については、後述する。
次に、図4,図5,図6、及び図7を参照して、本実施形態に係る操舵装置1の動作について説明する。図4及び図5は、本発明の実施形態に係る操舵装置1のメイン車両駆動処理の処理内容を示すフローチャートである。図6は、本発明の実施形態に係る操舵装置1のトレーラ駆動処理の処理内容を示すフローチャートである。図7は、本発明の実施形態に係る操舵装置1の反力制御処理の処理内容を示すフローチャートである。各制御処理は、制御部2によって所定のタイミングで繰り返し実行される。
まず、メイン車両駆動処理の処理内容について図4及び図5を参照して説明する。制御部2は、I/G=ON、すなわちエンジンが起動しているか否かを判定する(ステップS10)。S10においてI/GがOFFであると判定されると、再びS10の処理を繰り返す。一方、S10においてI/G=ONであると判定されると、制御部2は、各種センサから検出値の読み込みを行う(ステップS12)。具体的に、制御部2は、ステアリング角MA_TEMPと、揺動角θ1と、ストローク量Stと、トレーラM2の偏向角θ2と、車速Vと、トレーラ検出信号SIG_TRAILの有無を読み込む。なお、ステアリングハンドル12の操作による入力のうち、回転による入力であるステアリング角MA_TEMPを第一入力とし、それ以外の操作、すなわち揺動による入力である揺動角θ1と、押し引きによる入力であるストローク量Stとを第二入力として以下の説明を行う。
次に、制御部2は、ステアリング角MA_TEMP、揺動角θ1、ストローク量St、トレーラM2の偏向角θ2に対してローパスフィルタ(LPF)処理を行う(ステップS14)。トレーラM2の制御は応答遅れが大きいが、少なくとも第二入力に対して不要高周波成分をカットするLPF処理を実行することで、高い周波数での入力を低減することができる。なお、このLPF処理は、少なくとも第二入力に対してLPF処理を実行すればよく、第一入力に対してLPF処理を実行しなくともよい。
次に、制御部2は、第二入力すなわち揺動/押し引きによる微調整禁止フラグF_UNCOUNTがOFFになっているか否かを判定する(ステップS16)。微調整とは、メイン車両操舵部4による大きな操舵処理は第一入力であるステアリングハンドル12の回転に基づいて行う一方、操舵の微調整を第二入力であるステアリングハンドル12の揺動/押し引きに基づいて行う処理である。微調整禁止フラグF_UNCONT=0の時は微調整が禁止されておらず、微調整禁止フラグF_UNCONT≠0の時は微調整が禁止されていると判断することができる。S16において、微調整が禁止されていると判定された場合、制御部2は、ステアリング角MA_TEMPがステアリング角に対して予め設定された所定の閾値MAmaxよりも小さいか否かの判定を行う(ステップS18)。S18において、ステアリング角MA_TEMP<MAmaxと判定されると、第二入力であるステアリングハンドル12の揺動/押し引きに基づく微調整を考慮したメイン車両操舵部4の操舵処理を行うと判断し、制御部2は、メイン車両M1の転舵指令値MA_refの演算を行う(ステップS20)。転舵指令値MA_refは、メイン車両操舵部4の制御に用いられるステアリング値である。通常の制御では、実際のステアリング角が制御に用いられるが、本実施形態では実際のステアリング角に揺動や押し引き操作による影響が加減算された値である転舵指令値MA_refが制御に用いられる。S20において、制御部20は、図8に示すように、車速Vに従って変化する揺動角用係数K1と、車速Vに従って変化するストローク量係数K2と、車速Vに従って変化する揺動トルク用係数K3を用いて、ステアリング角MA_TEMPに対する転舵指令値MA_refを演算する。第二入力による微調整をおこなった場合のステアリング角MA_TEMPと転舵指令値MA_refとの関係は、例えば、図9(a)に示すM1のようになる。なお、M2は、舵角の増加減分が加減算されない場合におけるステアリング角MA_TEMPと転舵指令値MA_refとの関係である。制御部2は、演算後、メイン車両M1の転蛇角指令値の現在値(MA_ref)とステアリング角MA_TEMPの保持を行う(ステップS22)。
次に、制御部2は、ステアリングハンドル12の戻し操作が行われているかを判定するため、戻し操作フラグF_RETURNがOFFであるか否かを判定する(ステップS24)。S24において戻し操作フラグF_RETURN≠0である場合はOFFであると判定される。次に、制御部2は、運転者によってステアリングハンドル12の戻し操作が行われているか否かを判定する(ステップS26)。S26において、d(MA)≧0の場合は戻し操作が行われていないと判定する。S26において戻し操作が行われていないと判定された場合、制御部2は、MA_TEMP=MA_ref_fixとし、メイン車両転蛇角指令値を確定させる(ステップS28)。ここでは、S22で保持していた値をメイン車両転蛇角指令値とする。メイン車両転蛇角指令値が確定したら、当該値に基づいてメイン車両操舵部4へ制御信号を出力して駆動させる(ステップS30)。S30が終了すると、図5に示す制御処理Aへ移行する。
一方、S16において微調整禁止フラグF_UNCONT≠0と判定された場合、あるいはS18において、ステアリング角MA_TEMP≧MAmaxと判定された場合、制御部2は、微調整禁止フラグF_UNCONT=1としてONにする(ステップS32)。そして、制御部2は、メイン車両M1に対して第二入力によるメイン車両M1の操舵における微調整禁止処理を行ってメイン車両転蛇角指令値MA_refの演算を行う。具体的には、制御部2は、メイン車両転蛇角指令値MA_refをステアリング角MAに比例するものとして演算する。具体的には、MA_ref=MA_TEMP×(MA_refmax/MAmax)で演算することができる。制御部2は、メイン車両転蛇角指令値を確定させて(ステップS36)、当該確定した値にてメイン車両操舵部4を駆動させる(ステップS30)。S30が終了すると、図5に示す制御処理Aへ移行する。
また、S24において戻し操作フラグF_RETURN=0でありONであると判定された場合、あるいはS26においてd(MA)<0であってステアリングハンドル12の戻し操作があると判定された場合は、制御部2は、戻し操作フラグ=1としてフラグをONにする(ステップS38)。次に、制御部2は、ステアリングハンドル12の戻し操作時におけるメイン車両転蛇角指令値MA_ref_Returnを演算する(ステップS40)。S40では、揺動や押し引き操作による第二入力による調整を行うことなく、戻し操作によるステアリング角に対してメイン車両転蛇角指令値が直線的に0点に戻るように、ステアリング角に対してギヤ比を一定とする。具体的には、図9(b)に示すように、P1で戻し操作が生じたときは直線T1に従って戻り、P2で戻し操作が生じたときは直線T2に従って戻る。次に、制御部2は、MA_TEMP=MA_ref_Returnとし、戻し操作時のメイン車両転蛇角指令値を確定し(ステップS42)、当該確定した値にてメイン車両操舵部4を駆動させる(ステップS30)。S30が終了すると、図5に示す制御処理Aへ移行する。
次に、図5に示す制御処理Aについて説明する。制御部2は、第二入力による微調整禁止フラグF_UNCONTがOFFであるか否かの判定を行う(ステップS50)。微調整禁止フラグF_UNCONT=0の場合、フラグがOFFであると判定される。このとき、制御部2は、戻し操作フラグF_RETURNがOFFであるか否かの判定を行う(ステップS52)。戻し操作フラグF_RETURN=0の場合、フラグがOFFであると判定される。S52においてOFFであると判定されると、図4及び図5に示す処理が終了し、再びS10から処理が開始される。
一方、S50において微調整禁止フラグF_UNCONT≠0であってフラグがONであると判定された場合、あるいはS52において戻し操作フラグF_RETURN≠0であってフラグがONであると判定された場合、ステアリング角MA_TEMPが0deg近傍以上であるか否かの判定を行う(ステップS54)。S54において、制御部2は、|MA_TEMP|≧Dを満たすか否かで判定を行う。Dは、メイン車両M1がほぼ直進とみなすことができる0deg近傍の値であり、任意に設定することができる。S54において、ステアリング角MA_TEMPが0deg近傍以上であると判定されると、メイン車両M1は直進している状態ではないと判断され、フラグ状態が維持される。そして、図4及び図5に示す処理が終了し、再びS10から処理が開始される。
一方、S54において、ステアリング角MA_TEMPが0deg近傍であると判定されると、メイン車両M1は直進している状態であると判断され、微調整禁止フラグF_UNCONT及び戻し操作フラグF_RETURNのリセット(0にセットされる)がなされる(ステップS56)。S56の処理が終了すると、図4及び図5に示す処理が終了し、再びS10から処理が開始される。
次に、トレーラ駆動処理の処理内容について図6を参照して説明する。図6の処理の前には、S10〜S14の処理が制御部2内において実行されている。制御部2は、トレーラ検出センサ26の検出結果に基づいて、トレーラM2の検出がなされたか否かの判定を行う(S60)。制御部2は、トレーラ検出信号SIG_TRAIL=0の場合、トレーラM2が接続されていないと判断し、再びS60を実行する。一方、トレーラ検出信号SIG_TRAIL≠0の場合、トレーラM2が接続されていると判断する。S60において検出がなされたと判定されると、制御部2は、揺動/押し引きによるメイン車両/トレーラの各操舵の切り分けモードに設定されているか否かの判定を行う(ステップS62)。切り分けモードに設定されているときは、揺動、押し引き操作による第二入力の出力がメイン車両M1とトレーラM2とで切り分けられており、メイン車両M1で第二入力による微調整が行われているときは第二入力がメイン車両M1で用いられ、微調整が禁止されているときは第二入力がトレーラM2で用いられる。一方、切り分けモードが設定されていない場合は、メイン車両M2によらず、第二入力(本制御処理では揺動による入力のみが用いられる)がトレーラM2の制御に用いられる。S62において、操舵切り分けモードに設定されていると判定された場合、制御部2は、第二入力によるメイン車両の微調整禁止フラグF_UNCONTがONであるか否かの判定を行う(ステップS64)。
S64において微調整禁止フラグF_UNCONT≠0であってフラグがONであると判定されると、制御部2は、トレーラM1の舵角MA_TRAILを演算する(ステップS66)。S66では、揺動角θ1及びストローク量Stに基づいて、例えば式(1)によって演算される。式(1)におけるK5は固定値であって任意に設定することができる。補正値としてMA(10deg)が用いられる。補正値としてステアリング角が10degのものを用いたが、これに限定されない。ただし、大きすぎる角度を用いると揺動や押し引き操作がMA_TRAILに与える影響が大きくなりすぎてしまうため、10deg程度の小さい角度のものを用いることが好ましい。次に、制御部2は、S66での演算結果に基づいて、トレーラ操舵部6を駆動させる(ステップS68)。S68の処理が終了すると、図6に示す処理が終了し、再びS60から処理が開始される。
MA_TRAIL=MA(10deg)・K5×θ1/θmax + MA(10deg)・K5×St/Stmax …(1)
一方、S62において、操舵切り分けモードに設定されていないと判定された場合、制御部2は、トレーラM1の舵角MA_TRAILを演算する(ステップS72)。S72においては、揺動角θ1に基づいて、例えば式(2)によって演算される。式(2)におけるK1は、図8(a)に示す揺動角用係数K1が用いられる。式(2)におけるβは、図10(a)に示すような車速によって変動する揺動角のトレーラ用係数βが用いられる。
図10(a)に示すように、低速領域ではトレーラM2が大きく回ることが多いため、βには、例えば3km/h付近でピークが形成される。低速で操作がなされるのは、例えば交差点で曲がる場合などであり、このときはトレーラM2の操舵制御が十分に行えるようにする。また、速度が大きくなる場合はトレーラの操舵制御を行う必要性が少なくなる上、安全性を確保する観点から、速度が増え続ける場合にはβは、上限値で一定となる。式(2)におけるK4は、図10(b)に示すような揺動角θ1によって変動する揺動角のトレーラ用係数K4が用いられる。後退時又は車速0〜5km/hにおけるK4を示すグラフG1は、揺動角θ1が小さい領域では低下し、ある程度揺動角θ1が大きくなると一定の値となる。後退時は操作に対する操舵方向が逆になるので、K4は負の値となる。また、車速0〜5km/hの低速時は曲がりが度をゆっくりと曲がっている状況であるが、このような場合、通常はコーナーでの接触を避けるべくトレーラM2を一度逆方向へ大回りさせてから旋回を行う。従って、車速0〜5km/hはK4を負の値とすることで、トレーラの大回りの動作を操舵制御によって行う。車速が5km/hより大きい場合におけるK4を示すグラフG2は、揺動角θ1が増加するにつれて大きくなり、揺動角θ1が一定以上大きくなると一定の値となる。次に、制御部2は、S72での演算結果に基づいて、トレーラ操舵部6を駆動させる(ステップS68)。S68の処理が終了すると、図6に示す処理が終了し、再びS60から処理が開始される。
MA_TRAIL=MA(10deg)・(K1・β・K4×θ1/θmax) …(2)
一方、S64において、メイン車両M1の微調整禁止フラグF_UNCONT=0であってフラグがOFFであると判定されると、制御部2は、式(2)に対してK1=β=0を代入し(ステップS70)、トレーラM1の舵角MA_TRAILを演算する(ステップS72)。これは、トレーラM2が運転者の操作に対してフリーになっている状態であり、第二入力によらず、実際の走行に追従するように車輪の向きが変わる。次に、制御部2は、S72での演算結果に基づいて、トレーラ操舵部6を駆動させる(ステップS68)。S68の処理が終了すると、図6に示す処理が終了し、再びS60から処理が開始される。
次に、反力制御処理について図7を参照して説明する。図7の処理の前には、S10〜S14の処理が制御部2内において実行されている。制御部2は、トレーラ検出センサ26の検出結果に基づいて、トレーラM2の検出がなされたか否かの判定を行う(S80)。制御部2は、トレーラ検出信号SIG_TRAIL=0の場合、トレーラM2が接続されていないと判断し、再びS80を実行する。一方、トレーラ検出信号SIG_TRAIL≠0の場合、トレーラM2が接続されていると判断する。S80において検出がなされたと判定されると、制御部2は、ステアリング角MA_TEMPが0deg近傍以上であるか否かを判定する。|MA_TEMP|≧Dが成り立ち、ステアリング角MA_TEMPが0deg近傍以上であると判定されると、制御部2は、メイン車両M1の進行方向が直進ではないと判断し、反力を発生させることなく、図7の処理を終了し、再びS80から処理を開始する。
一方、S82において、|MA_TEMP|≧Dが成り立ちステアリング角MA_TEMPが0deg近傍であると判定されると、制御部2は、メイン車両M1が旋回している状態から直進する状態へと移行していると判断する。そして、制御部2は、偏向角センサ27からの検出結果に基づいてトレーラ偏向角Errθを読み取る(ステップS84)。ここで、トレーラ偏向角Errθとは、図11(a)に示すように、メイン車両M1の車幅方向の中心軸線と、トレーラM2の車幅方向の中心軸線との間の角度である。制御部2は、トレーラ偏向角Errθに対してLPF処理を行う(ステップS86)。トレーラM2の偏向は特に、操舵に対する位相遅れが大きいので、高い周波数での操舵入力がされにくくするように、反力側でもLPF処理を行う。
次に、制御部2は、ステアリングハンドル12に付与するべき反力を演算する(ステップS88)。S88においては、メイン車両M1に対するトレーラM2の偏向が小さくなる方向に第二入力が入力された場合に反力が付与されるように演算を行う。ここでは、第二入力がステアリングハンドル12の揺動である場合について説明する。制御部2は、S84で読み取ったトレーラ偏向角Errθ及び図12に基づいてステアリングハンドル12の揺動に対して付与すべき反力の目標値を演算する。図12に示すように、目標反力は、トレーラ偏向角Errに比例して増加する。また、反力はトレーラ偏向角Errθが小さくするような揺動操作に対して付与される。図11で示す例では、トレーラM2が接続部Cの右回りに移動するようにステアリングハンドル12を右回りに揺動させた場合、当該揺動操作に対して反力RFが付与される。
S88で反力が演算された後、制御部2は、演算値に応じた制御信号を反力アクチュエータ28に出力し、反力アクチュエータ28を駆動させる(ステップS90)。S90が終了すると、図7に示す処理が終了し、再びS80から処理が開始される。
以上によって、本実施形態に係る操舵装置1では、複数の異なる動作で操作することのできるステアリングハンドル12を有する入力部3を備えており、制御部2は、第一入力に基づいてメイン車両操舵部4を制御し、第二入力に基づいてトレーラ操舵部6を制御することができる。このように、ステアリングハンドル12の複数の異なる動作における操作のうち、一部をトレーラM2側の操舵制御に用いることによって、ステアリングハンドル12の操作によってメイン車両M1の操舵を行いつつも、ステアリングハンドル12を握ったままの状態でトレーラM2の操舵も行うことができる。以上によって、複数の異なる動作で操作することのできるステアリングハンドル12を用いてメイン車両M1及びトレーラM2の操舵制御に対する操作性を向上させることができる。
また、本実施形態に係る操舵装置1において、制御部2は、第二入力による信号に対してローパスフィルタ処理を行うことができる。トレーラM2の制御はメイン車両M1の操舵に比して応答遅れが大きいが、第二入力による信号に対して不要高周波成分をカットするローパスフィルタ処理を実行することで、高い周波数での入力を低減することができる。
また、本実施形態に係る操舵装置1において、第一入力は、ステアリングシャフト11回りにおけるステアリングハンドル12の回転による入力であり、第二入力は、ステアリングシャフト11と交差する軸線LR,LD回りにおけるステアリングハンドル12の回動による入力、あるいはステアリングシャフト11の延在方向におけるステアリングハンドル12の進退による入力である。従って、車両走行に対する主たる操作であるメイン車両M1の制御は、ステアリングハンドル12の回転による入力に基づいて行い、車両走行に対する補助的な操作であるトレーラM2の制御は、それ以外の入力に基づいて行う。従って、運転者は従来の車両の操作と同じ操作感覚でステアリングハンドル12を回転させて運転を行いつつも、多自由度のメリットを活かしてトレーラの補助的な操舵を行うことができる。また、制御部2は、第一入力が所定量以下の場合は、トレーラ操舵部6に対する第二入力を無効とすることができる。メイン車両M1に対する入力である第一入力が所定量以下の場合とは、直進走行に近い場合である。このような場合は、トレーラの操舵制御は必要ではない一方、微小な操作によって第二入力が誤って入力された場合にトレーラの不要な操舵制御がなされる。従って、第二入力を無効とすることによって、状況にあわせた適切な操舵制御を行うことができる。
また、本実施形態に係る操舵装置1において、制御部2は、トレーラがメイン車両M2に接続されているか否かの判定を行い、トレーラが接続されていると判定した場合に、第二入力に基づいてトレーラ操舵部6を制御することができる。トレーラが接続されている場合に、第二入力に基づいてトレーラ操舵部6を制御することで、接続されていない場合には第二入力を他の制御に有効活用することができる。
また、本実施形態に係る操舵装置1において、ステアリングハンドルの操作に対して反力を付与する反力アクチュエータ28を備え、反力アクチュエータ28は、メイン車両M1に対するトレーラM2の偏向が小さくなる方向に第二入力が入力された場合、反力を付与することができる。すなわち、運転者がトレーラの偏向を小さくするための第二入力を発生させる操作を行うとき、当該操作に対して反力が付与される。ステアリングハンドル12を操作する人間は反力を受ける方向に操作を行う傾向があるが、操作に対して反力が付与されることで、運転者は操作すべき方向へ操作を行う。更に、反力の付与によって、運転者はトレーラを操作している感覚を体感することができる。
本発明に係る操舵装置は、上述の実施形態に限定されるものではない。
例えば、メイン車両M1とトレーラM2は、接続部Cでジョイントを介して接続されていたが、ロープを介して接続されていてもよく、あるいは物理的に繋がっておらず通信で牽引するものであってもよい。
また、上述の実施形態では、制御部2は、第一入力が所定量以下である場合に、トレーラ操舵部6における第二入力を無効としていたが、これに代えて、第一入力が所定量以上である場合に、トレーラ操舵部6を許可するような制御を行ってもよい。メイン車両M1が直進走行をしているときはトレーラM2の操舵制御は必要ではない一方、微小な操作によって第二入力が誤って入力された場合にトレーラM2の不要な操舵制御がなされる。従って、第一入力が所定量以上となったときに第二入力を有効とすることによって、状況にあわせた適切な操舵制御を行うことができる。なお、「許可」とは、第二入力のためのステアリングハンドル12での操作が物理的に固定されていたものに対して、固定を解除することを示し、あるいは、ステアリングハンドル12を物理的に操作することはできても制御信号が出なかったものに対して、制御信号が出るようにすることを示す。
また、トレーラM2の操舵が、当該トレーラM2の制駆動力を制御することによって行われてもよい。図13に示すように、トレーラM2の左右の車輪には、差動制限装置31が設けられている。差動制限装置31は、左右の車輪の回転速度に差がつくように減速することにより、トレーラM2の回頭を促すことができる。これによって、トレーラM2に操舵機構が設けられていなくても、第二入力によってトレーラM2の操舵を行うことができる。また、制駆動力を発生させる第二入力の入力方向は、旋回方向に基づいて定められてもよい。例えば、ステアリングハンドル12を揺動させることで第二入力を行い、当該第二入力でトレーラM2の制駆動力を制御する場合について考える。このとき、左旋回の場合は、運転者がステアリングハンドル12の左側を引いて右側を押す操作を行うことでトレーラM2が左旋回を行う。旋回を行う時は減速するので運転者の姿勢が前のめりになる。従って、左旋回の場合は、ステアリングハンドル12の左側を引いて右側を押す操作とすることにより、慣性力に従った動作によって操作をすることができる。これによって、操作性を向上させることができる。仮に左旋回のときに、ステアリングハンドル12の右側を引いて左側を押す操作とした場合は、慣性力に反した動作を行う必要が生じてしまう。なお、このような第二入力によるトレーラM2の操作の量を、ステアリングハンドル12の回転による舵角に応じて変更してもよい。具体的には、第二入力によるトレーラM2の操作を、ステアリングハンドル12の持ち換えが生じない角度(20度程度まで)までとしてもよい。例えば、ステアリングハンドル12の回転角が0〜10度までは、揺動操作に応じてトレーラM2の回頭を増やすように制御し、回転角が10〜20度までは揺動操作によるトレーラM2の操作量を徐々に減らすように制御することができる。また、第二入力によるトレーラM2の操作の量を、車速に応じて変更してもよい。