JP5511067B2 - コイルばねの製造方法 - Google Patents

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この発明は、例えば建設機械や大型車両等の懸架機構部等に使用されるコイルばねに係り、特にショットピーニングが適用されるコイルばねの製造方法に関する。
従来より、ばねにショットピーニングを行なうことによって、ばねの表面付近に圧縮残留応力を付与し、疲労強度を高めることが知られている。例えば下記の特許文献1,2に開示されているように、ショットピーニング工程を複数回に分けて実施する多段ショットピーニングが知られている。
従来の多段ショットピーニングでは、第1のショットピーニング工程においてショットサイズ(粒径)が比較的大きい第1のショットが使用され、ばねの深い領域まで圧縮残留応力を生じさせている。第2のショットピーニング工程では、第1のショットよりも小さなショットを使用することにより、ばねの表面付近の圧縮残留応力を高めている。特許文献2では、ばねの疲労強度を高めるために、ばね素線の合金元素成分を調製することも行なわれているが、特殊な合金成分を含むばね鋼は高価である。
また、圧縮残留応力をばね表面から深い位置まで生じさせるための手段として、コイルばねを圧縮した状態でショットを投射するストレスピーニングや、コイルばねを250℃前後に加熱してショットを投射する温間ピーニング(ホットピーニング)なども知られている。
特開2000−345238号公報 特開2008−106365号公報
従来の多段ショットピーニングでは、第1のショットピーニング工程と第2のショットピーニング工程とに、互いにサイズが異なる2種類のショットが使用されている。しかも第1のショットピーニング工程と第2のショットピーニング工程とでショットの速度を異ならせることもある。このため従来の多段ショットピーニングでは、各ショットピーニング工程において共通のショットピーニング機械を使用することができない。しかも各ショットピーニング工程でショットピーニング条件を異ならせているため、ショットピーニング工程に手間がかかり、ショットのコストも高くなるなどの問題がある。
一方、ストレスピーニングは、コイルばねを圧縮するための工程と、そのための設備が必要である。しかもコイルばねを圧縮した状態でショットを投射するため、ばね素線間の間隔が狭くなり、その分、コイルばねの内側やばね素線間にショットが当たりにくくなるという問題がある。
温間ショットピーニングは、ばねの表面から深い位置まで圧縮残留応力を生じさせる上で有効である。しかし冷間ショットピーニングと比較してばねの表面の凹凸が大きくなり、しかも表面付近では圧縮残留応力値の低下が避けられないなど、耐久性を向上させる上で改善の余地があった。
従って本発明の目的は、疲労強度を高める上で有効な圧縮残留応力分布を得ることができるコイルばねの製造方法を提供することにある。
本発明のコイルばねの製造方法は、ばね素線を螺旋形に成形する工程と、成形された前記ばね素線に焼入れおよび焼戻しの熱処理を行なう熱処理工程と、前記熱処理工程後でばね素線が100℃を越える温間域にあるうちに前記ばね素線にショットを投射する温間ショットピーニング工程と、前記温間ショットピーニング工程後の前記ばね素線を水で冷却し、前記ばね素線の表面の温度を100℃未満に下げかつ前記ばね素線内部の温度を前記表面を越える温度とすることにより前記ばね素線の内部と表面との間に温度勾配を生じさせる水冷工程と、前記水冷工程後に行なわれ、前記ばね素線に付着する水を該ばね素線の熱エネルギーによって蒸発させかつ前記温度勾配を小さくする熱エネルギー放出工程と、前記水冷工程によって表面が100℃未満に冷却された前記ばね素線に前記温間ショットピーニング工程と同じサイズのショットを投射する冷間ショットピーニング工程とを具備している。前記温間ショットピーニング工程では、焼戻し後のばね素線が100℃を越える温間域(200〜350℃が好ましい)にあるうちにショットを投射することにより、ばね素線の内部の深い領域にまで圧縮残留応力を生じさせる。
前記ばね素線は、前記水冷工程によって、少なくとも表面が100℃未満となるように冷却される。冷却されたばね素線は、冷間ショットピーニング工程において、前記温間ショットピーニング工程と共通のサイズ(粒径)のショットが投射される。この冷間ショットピーニング工程によって、ばね素線の特に表面付近の圧縮残留応力が高まるとともに、ばね素線の表面粗さが小さくなる。
この発明において、前記温間ショットピーニング工程と前記冷間ショットピーニング工程とで共通のショットピーニング機械を用いてもよい。あるいは、前記水冷工程後で前記冷間ショットピーニング工程前に、前記ばね素線の座巻部の端面を研磨する研磨工程が行なわれてもよい。
水冷工程直後のばね素線は、表面の温度が100℃未満となっていても、ばね素線の内部の温度が100℃を越えていることがある。この温度勾配は、水冷工程によってばね素線に付着した水を蒸発させる上で有効である。しかし、ある程度時間が経過すると、ばね素線内部の熱エネルギーによって、表面の温度が冷間ショットピーニング工程に適した冷間域を越えてしまうことがある。そこで前記研磨工程を行っている間に、ばね素線の内部の熱エネルギーを放出させれば、引き続き行なわれる冷間ショットピーニング工程の前に、ばね素線の温度を冷間ショットピーニング工程に適した冷間域まで下げておくことができる。
本発明によれば、従来の多段ショットピーニングのようにサイズの異なる複数種類のショットを用いることなく、コイルばねの疲労強度を高める上で有効な圧縮残留応力分布をコイルばねの表面から内部にわたって得ることができる。
本発明の1つの実施例に係るコイルばねの斜視図。 図1に示されたコイルばねの製造工程の一例を示すフローチャート。 本発明の1つの実施例に係るコイルばねと比較例1,2の残留応力分布を示す図。 本発明の1つの実施例に係るコイルばねと比較例1,2の耐久試験結果を示す図。
以下に本発明の1つの実施形態に係るコイルばねの製造方法について、図1から図4を参照して説明する。
図1に示すコイルばね10は、螺旋形に成形されたばね素線10aからなる。このコイルばね10は、軸線X方向に圧縮された状態で支持対象物(図示せず)の荷重を弾性的に支持する。すなわち圧縮コイルばねである。
コイルばね10のサイズは、要求される仕様に応じて様々であるが、一例として、平均コイル径Dが140mm、自由高さ(無荷重時の長さ)500mm、有効巻数6.5、ばね定数750N/mmの円筒コイルばねである。ばね素線10aの線径の一例は35mmである。コイルばね10の形態は円筒コイルばねに限らず、たる形コイルばね、鼓形コイルばね、テーパコイルばね、不等ピッチコイルばねなどであってもよい。
[実施例]
ばね素線10aの鋼種の一例はSUP11A(マンガンクロムボロン鋼鋼材)である。JISG4801に準拠するSUP11Aの化学成分(mass%)は、C:0.56〜0.64、Si:0.15〜0.35、Mn:0.70〜1.00、P:0.035以下、S:0.035以下、Cr:0.70〜1.00、B:0.005以上、残部Feである。B(ボロン)は、焼入れ性を高めるために添加されているが、ボロンが添加されていない鋼材(例えばSUP9A)が使用されてもよい。
図2はコイルばね10の製造工程を示している。図2に示す加熱工程S1において、コイルばね10の材料であるばね素線10aが、オーステナイト化温度(A変態点以上、1150℃以下)に加熱される。加熱されたばね素線10aは、成形工程(コイリング工程)S2において、例えば950〜970℃で螺旋形に成形される。
成形工程S2が行なわれたのち、焼入れと焼戻し等の熱処理工程S3が行なわれる。熱処理工程S3の焼入れでは、ばね素線10aが例えば850℃から120℃まで急冷される。焼戻しでは、焼戻し炉によってばね素線10aが例えば380〜400℃に加熱されたのち、徐冷され、ばね素線10aの硬さが調整される。
そののち温間ショットピーニング工程S4が行なわれる。温間ショットピーニング工程S4において、ばね素線10aの処理温度は200〜350℃が適している。目標温度は例えば250℃である。この温間ショットピーニング工程S4は、熱処理工程S3後の余熱を利用して行なうことができる。
温間ショットピーニング工程S4では、ショットサイズ(粒径)が1.0mmのショット(カットワイヤ)が使用される。このショットを250℃の処理温度で、ばね素線10aに投射速度70m/secで投射する。温間ショットピーニング工程S4が行なわれる温度域では、ばね素線10aの硬さが冷間域よりも下がっているため、ばね素線10aの表面から深さ方向に深い領域にわたって圧縮残留応力が発現する。
温間ショットピーニング工程S4を行なうことにより、従来のストレスピーニングのようにコイルばねを圧縮することなく表面から深い位置まで大きな圧縮残留応力を生じさせることができる。このため、ストレスピーニングのようなコイルばねを圧縮する設備が不要であり、かつ、ばね素線間の間隔が狭くなることがないため、コイルばねの内側やばね素線間にもショットを十分投射することができる。
温間ショットピーニング工程S4が実施される温間域では、ばね素線10aの硬さが冷間域と比較して下がっているため、温間ショットピーニング工程S4が行なわれたばね素線10aの表面粗さは比較的大きくなっている。温間ショットピーニング工程S4後のばね素線10aの表面粗さは、例えば23〜37μm前後である。この場合の表面粗さは最大高さ(Rz)である。
温間ショットピーニング工程S4が行なわれたのち、水冷工程S5が行なわれる。この水冷工程S5によって、ばね素線10aが冷間温度域まで冷却される。水冷工程S5では、水槽に収容された所定温度の水にばね素線10aを浸漬することにより、ばね素線10aの少なくとも表面が100℃未満の温度に冷却される。好ましくは、作業員が手扱いできる程度の温度(作業用手袋を着用)に冷却される。
その後に研磨工程S6が行なわれる。研磨工程S6では、ばね素線10aの両端の座巻部10b,10c(図1に示す)の端面が、それぞれ軸線Xに対して直角となるように研磨される。
水冷工程S5が行なわれた直後のばね素線10aは、表面の温度よりも内部の温度が高い状態となっているため、温度勾配が生じている。この温度勾配は、水冷工程S5によってばね素線10aに付着した水を蒸発させる上で有効であるが、時間が経過すると、ばね素線10aの内部の熱エネルギーによって、ばね素線10aの表面温度が下記の冷間ショットピーニング工程S7に適した温度を越えてしまうことがある。そこで本実施例では、数分から数十分間行なわれる研磨工程S6を経ることにより、ばね素線10aの表面温度と内部の温度差が解消され、温度勾配がなくすことができる。このためこのばね素線10aは、冷間ショットピーニング工程S7に適した冷間域の温度に落ち着く。
研磨工程S6が行なわれた後、冷間ショットピーニング工程S7が行なわれる。冷間ショットピーニング工程S7では、100℃未満の冷間域まで冷却されたばね素線10aに、温間ショットピーニング工程S4と同じサイズのショットが投射される。冷間ショットピーニング工程S7で使用されるショットの速度は、温間ショットピーニング工程S4と同じである。このため温間ショットピーニング工程S4と冷間ショットピーニング工程S7とで共通のショットピーニング機械を使用することができる。
冷間ショットピーニング工程S7では、ばね素線が冷間域まで冷却されているため、温間ショットピーニング工程S4と比較してばね素線は硬くなっている。このため温間ショットピーニング工程S4と同じサイズのショットを投射すると、温間ショットピーニング工程S4によって生じた表面の比較的大きな凸部がある程度潰されるなどして、ばね素線の表面粗さを小さくすることができ、ばね素線の表面状態が改善される。
この冷間ショットピーニング工程S7によって、ばね素線の表面粗さ(最大高さ)が20〜33μm前後と小さくなり、温間ショットピーニング工程S4後の表面粗さ23〜37μmと比較して、表面粗さが改善される。
前記冷間ショットピーニング工程S7が行なわれたのち、ばね素線の欠陥等の有無を調べ、かつ、外観や特性等を検査するために、検査工程S8が行なわれる。また塗装工程S9が行なわれる。
前記温間ショットピーニング工程S4において、ばね素線10aの表面から深い位置まで圧縮残留応力が生じる。そののち、冷間ショットピーニング工程S7を行なうことにより、表面付近の圧縮残留応力が増加する。このため、ばね素線10aの表面から内部の深い領域にわたって、高いレベルの圧縮残留応力が得られる。すなわち本実施例では、温間ショットピーニング工程S4と冷間ショットピーニング工程S7とを組合わせたことによって、ばね素線10aの表面から深い領域まで大きな圧縮残留応力を生じさせることができ、コイルばね10の耐久性向上に効果のある圧縮残留応力分布を得ることができた。
図3中の線分L1は,本実施例のコイルばねの圧縮残留応力の分布を示している。図3の横軸は、ばね素線の表面から深さ方向の位置を示している。図3の縦軸は残留応力値を示しているが、当業界の慣例として、圧縮残留応力値がマイナスで表わされている。例えば「−600Mpa以上」とは、絶対値が600Mpa以上という意味である。引張残留応力値はプラスで表わされる。
図3に示されるように本実施例のコイルばねの圧縮残留応力分布(線分L1)は、表面付近の領域Wの圧縮残留応力が冷間ショットピーニング工程S7によって高いレベルまで押し上げられている。そして表面からばね素線の内部に向って深さ方向に圧縮残留応力が増加する残留応力増加部T1と、圧縮残留応力が高いレベルで維持される高応力部T2と、ばね素線の深さ方向に圧縮残留応力が減少する残留応力減少部T3とを有している。
図3中の1点鎖線L2は、比較例1のコイルばねの圧縮残留応力の分布を示している。比較例1は、冷間ショットピーニングのみが行なわれたコイルばねである。比較例1は、表面から内部にわたって圧縮残留応力のレベルが本実施例よりも低い。図3中の破線L3は、比較例2のコイルばねの圧縮残留応力の分布を示している。比較例2は、温間ショットピーニングのみが行なわれたコイルばねである。比較例2は、表面から内部にわたって高いレベルの圧縮残留応力が得られているが、表面付近で圧縮残留応力が大きく低下し、表面付近の圧縮残留応力が比較例1と同程度となっている。
図4は、本実施例のコイルばねと比較例1,2の耐久試験結果を示している。図4中の白三角のプロットと、線分L4は、本実施例のコイルばねについて、大気中で疲労試験を行った結果である。図4中の白四角のプロットと、1点鎖線L5は、比較例1のコイルばねの疲労試験結果を示している。比較例1は、冷間ショットピーニングのみが行なわれたコイルばねである。図4中の黒丸と破線L6は、比較例2のコイルばねの疲労試験結果を示している。比較例2は、温間ショットピーニングのみが行なわれたコイルばねである。
図4に示されるように本実施例のコイルばねは、比較例1よりも疲労寿命が大幅に向上している。比較例1は、図3に1点鎖線L2で示されるように、圧縮残留応力のレベルが全体にわたって低いため、本実施例に匹敵する疲労強度を発揮することができなかった。比較例2の疲労寿命は比較例1よりも向上しているが、比較例2はばね素線の表面粗さが大きく、しかも図3に破線L3で示されるように表面付近の圧縮残留応力の低下が大きいため、比較例2は本実施例よりも疲労強度が小さかった。
これに対し本実施例では、温間ショットピーニング工程S4後に水冷工程S5を行ない、さらに冷間ショットピーニング工程S7を実施したことにより、ばね素線10aの表面粗さを小さくすることができ、ばね素線10aの表面状態が改善されている。このことも疲労強度(大気耐久性)の改善に効果を奏している。
本実施例では、温間ショットピーニング工程S4で用いるショットのサイズと、冷間ショットピーニング工程S7で用いるショットのサイズが互いに同じであり、投射速度も互いに同じである。このため本実施例では、温間ショットピーニング工程S4と冷間ショットピーニング工程S7とに共通のショットピーニング機械を用いることが可能となり、多段ショットピーニングの省設備化と、ショットの共通化によって、コストを下げることが可能となった。
以上説明した本実施例による効果は鋼種によらず同様の傾向が認められ、圧縮コイルばねに使用されているショットピーニング機械と共通のショットによって、疲労強度を改善することが可能である。このため本実施例は、多段ショットピーニングを適用しているにもかかわらず、ショットピーニング条件を変えずにすむため、ショットピーニング工程の簡略化を図ることができ、ショットのコストが高くなることも抑制できる。
10…コイルばね
10a…ばね素線

Claims (4)

  1. ばね素線を螺旋形に成形する工程と、
    成形された前記ばね素線に焼入れおよび焼戻しの熱処理を行なう熱処理工程と、
    前記熱処理工程後でばね素線が100℃を越える温間域にあるうちに前記ばね素線にショットを投射する温間ショットピーニング工程と、
    前記温間ショットピーニング工程後の前記ばね素線を水で冷却し、前記ばね素線の表面の温度を100℃未満に下げかつ前記ばね素線内部の温度を前記表面を越える温度とすることにより前記ばね素線の内部と表面との間に温度勾配を生じさせる水冷工程と、
    前記水冷工程後に行なわれ、前記ばね素線に付着する水を該ばね素線の熱エネルギーによって蒸発させかつ前記温度勾配を小さくする熱エネルギー放出工程と、
    前記水冷工程によって表面が100℃未満に冷却された前記ばね素線に前記温間ショットピーニング工程と同じサイズのショットを投射する冷間ショットピーニング工程と、
    を具備したことを特徴とするコイルばねの製造方法。
  2. 前記温間ショットピーニング工程は、前記焼戻し後の前記ばね素線が200〜350℃の温間域にあるときに行なうことを特徴とする請求項1に記載のコイルばねの製造方法。
  3. 前記温間ショットピーニング工程と前記冷間ショットピーニング工程とで共通のショットピーニング機械を用いることを特徴とする請求項1または2に記載のコイルばねの製造方法。
  4. 前記水冷工程後で前記冷間ショットピーニング工程前に、前記熱エネルギー放出工程として前記ばね素線の座巻部の端面を研磨する研磨工程を行なうことを特徴とする請求項1または2に記載のコイルばねの製造方法。
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