JP5510704B2 - 二次電池および該電池の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、二次電池とその製造方法に関する。詳しくは、該二次電池の製造に用いられる正極に関する。
近年、リチウム二次電池やニッケル水素電池等の二次電池は、電気を駆動源とする車両搭載用電源、あるいはパソコン及び携帯端末その他の電気製品等に搭載される電源として重要性が高まっている。特に、軽量で高エネルギー密度が得られるリチウム二次電池は、車両搭載用高出力電源として好ましく用いられるものとして期待されている。
この種のリチウム二次電池の典型的な構成では、電荷担体となる化学種を可逆的に吸蔵および放出し得る電極活物質を主成分とする電極活物質層(具体的には、正極活物質層および負極活物質層)が対応する電極集電体の上にそれぞれ形成された正極および負極を備える。例えば、リチウム二次電池の正極の場合、リチウム遷移金属複合酸化物等の正極活物質が、高導電性材料の粉末(導電材)および結着材等と適当な溶媒の中で混合されて調製される正極活物質層形成用のペースト状若しくはスラリー状或いはインク状の組成物(以下、この種の組成物を単に「ペースト」と呼称する。)が正極集電体に塗布されることにより正極活物質層が形成される。
上記ペーストを調製する際に混合する溶媒として、水系溶媒を使用することがある。水系溶媒を用いて成るペースト状組成物(以下、「水性ペースト」という。)は、有機溶剤を用いて成るペースト状組成物(以下、「非水性ペースト」という。)に比べて、有機溶剤およびそれに伴う産業廃棄物が少なくて済み、尚且つそのための設備及び処理コストが発生しないことから総じて環境負荷が低減される利点を有する。このような水性ペーストを用いた電極活物質層の製造に関する従来技術として、特許文献1〜4が挙げられる。
特許文献1に記載の技術では、上記水性ペーストの混練工程において、材料の混練を段階的に行うことにより、正極活物質層の正極集電体に対する密着性を向上させている。また、特許文献2および3には、親水性処理あるいは表面改質した導電材を用いて成る正極用の水性ペーストが開示されている。さらに、特許文献4には、結着材として導電性高分子と水溶性高分子とを含む水性ペーストが開示されている。
特開2006−196205号公報 特開2002−134101号公報 特開2001−23613号公報 特開2007−52940号公報
ところで、二次電池の高出力化、長寿命化を実現するには、正極活物質の高密度化が求められる。かかる正極活物質は導電性が低いため、該活物質を主成分として形成される正極活物質層の電子伝導性(イオン伝導性)を確保するには、導電材の添加が不可欠といえる。しかしながら、非親水性である導電材(例えばカーボン粒子)を含む水性ペーストを用いて、高い電子伝導性を有する正極活物質層を形成するには、水性ペーストにおける導電材の含有率を少なくし(即ち、正極活物質の高密度化を保持しつつ)、且つ、導電材の水に対する親和性を向上させる必要がある。ここで、該導電材の水に対する親和性(溶解性)は、結着材(例えば界面活性機能を有する材料)を添加することにより効果的に向上させることができるが、結着材を多量に入れ過ぎると、導電材の表面が該結着材で被覆(付着)され過ぎてしまい、電子伝導性を向上させることが困難となり好ましくない。他方、結着材が少な過ぎると、導電材の水に対する親和性を向上させることができず、結果として、導電材同士の凝集を招いてしまい、該水性ペーストが正極集電体の表面に塗布されて形成される正極活物質層の電子伝導性を向上させることができない。
そこで、本発明は、水性ペーストを用いて正極活物質層を形成する場合の上記従来の課題を解決すべく創出されたものであり、正極活物質を高密度に含む電子伝導性に優れた正極活物質層を備える二次電池の正極を提供することを主な目的とする。また、このような正極を備える車両搭載用高出力電源として優れた電池特性(例えば、ハイレート特性またはサイクル特性)を有するリチウム二次電池等の二次電池およびその製造方法を提供することを他の目的とする。
本発明者は、上記水性ペーストから成る正極活物質層の電子伝導性と、正極活物質層に含まれる導電材のBET比表面積に相関があることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、上記目的を達成するべく、本発明により、正極活物質を主成分とする正極活物質層が正極集電体の表面に形成された二次電池の正極が提供される。ここで開示される正極は、所定のBET比表面積A(m/g)を有する導電材と、該導電材の表面に付着して界面活性機能を有する少なくとも一種の結着材と、粉末状の正極活物質とが、水系溶媒に添加され混練されて成る水性ペーストが、正極集電体の表面に塗布されて形成された正極活物質層を備えており、上記正極活物質層に含まれる導電材のBET比表面積B(m/g)が、上記水性ペースト調製前の導電材のBET比表面積A(m/g)の40%以上60%以下を満たすことを特徴とする。
なお、本明細書において「二次電池」とは、繰り返し充電可能な蓄電デバイス一般をいい、リチウム二次電池(典型的にはリチウムイオン電池)、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池等のいわゆる蓄電池ならびに電気二重層キャパシタ等の蓄電素子(物理電池)を包含する用語である。
また、本明細書において「電極活物質」とは、二次電池において電荷担体となる化学種を可逆的に吸蔵および放出(典型的には挿入および脱離)可能な活物質をいう。
さらに、本明細書において「BET比表面積(m/g)」とは、JIS K 1477による比表面積測定方法に準拠したBET法により求められる値をいう。
本発明によって提供される二次電池の正極は、正極集電体の表面に塗布する正極活物質層形成用の水性ペースト(以下「水性ペースト」と略称する)が調製され、該水性ペーストが該正極集電体の表面に塗布されて形成された正極活物質層を備える。かかる水性ペーストは、所定のBET比表面積A(m/g)を有する導電材と、該導電材の表面に付着して界面活性機能を有する少なくとも一種の結着材と、粉末状の正極活物質とを、水系溶媒に添加して混練することにより調製される。
非親水性を示す導電材を含む水性ペーストを用いて正極活物質を高密度に含む電子伝導性に優れた正極活物質層を形成するには、水系溶媒中で凝集し易い導電材の含有率を少なくし(すなわち正極活物質の含有率を高く保持したまま)、且つ、導電材の水系溶媒に対する親和性を向上させる必要がある。そこで、本発明は、界面活性機能を有する結着材が所定の割合で導電材の表面に被覆(付着)すると導電材の水系溶媒に対する親和性が向上され、正極活物質層の導電性が向上することに注目した。すなわち、本発明に係る正極は、正極活物質層に含まれる導電材のBET比表面積B(m/g)が、水性ペースト調製前の導電材のBET比表面積A(m/g)の40%以上60%以下を満たしている。換言すると、上記正極活物質層には、結着材が付着してない部分の割合(残存率)が、40%以上60%以下を満たす導電材が含まれていることにより、導電材の水系溶媒に対する親和性が向上され、より少ない導電材と結着材を含む水性ペーストが用いられて形成された、優れた電子伝導性を有する正極活物質層を備える。その結果、良好な電池特性(例えば、サイクル特性またはハイレート特性)を示す二次電池の正極を提供することができる。
また、ここに開示される正極の好ましい一態様では、上記正極活物質層に含まれる導電材のBET比表面積B(m/g)が、上記水性ペースト調製前の導電材のBET比表面積A(m/g)の45%以上55%以下を満たしている。
正極活物質層に含まれる導電材のBET比表面積B(m/g)が水性ペースト調整前の導電材のBET比表面積A(m/g)の45%以上55%以下を満たす(換言すると、正極活物質層に結着材が付着してない部分の割合(残存率)が、45%以上55%以下を満たす導電材が含まれている)ことにより、正極活物質層は高い電子伝導性を有する。これにより、該正極活物質層が形成された正極を備える二次電池は、内部抵抗の上昇が抑制された優れた電池特性(電池容量、サイクル特性またはハイレート特性)を有する電池となり得る。したがって、車載電源用として好適な二次電池の正極を提供することができる。
また、好ましい一態様では、上記導電材として、炭素粉末材料が使用される。
カーボン粒子等の炭素粉末材料は非親水性のため水系溶媒中で凝集し易いが、上記結着材が表面に被覆されると、水系溶媒に対する親和性が向上し凝集し難くなる。導電材が凝集することなく分散された水性ペーストを用いて形成された正極活物質層は、優れた電子伝導性を有する。その結果、車載電源用として好適な二次電池の正極を提供することができる。
さらに、好ましい一態様では、上記導電材として、BET比表面積A(m/g)が30≦A≦100を満たすものが使用される。
BET比表面積A(m/g)がかかる範囲を満たす導電材は、結着材によって表面が所定の割合で覆われると水系溶媒に対する親和性が向上し凝集し難くなる。すなわち、導電材が凝集することなく十分に分散された状態(導電材の表面に結着材が被覆した状態)の水性ペーストを調製することができる。調製した水性ペーストが正極集電体に塗布され形成された正極活物質層は、良好な導電性を有する。これにより、該正極活物質層が形成された正極を備える二次電池は、内部抵抗の上昇が抑制された優れた電池特性(電池容量、サイクル特性またはハイレート特性)を有する電池となり得る。
また、好ましい他の一態様では、上記結着材として、少なくとも一種の水溶性セルロース誘導体から成るセルロース系結着材及び/又は少なくとも一種のポリエーテルから成るポリエーテル系結着材が使用される。
結着材として好ましい水溶性セルロース系結着材およびエーテル系結着材は、水系溶媒に溶解するポリマーであって、溶解して混練することによって粘性を有する。そのため、凝集しがちである導電材の分散性を高め、該導電材の表面にコーティングするように被覆して界面活性機能を発揮する。これにより、導電材の水系溶媒に対する親和性が向上し、導電材と結着材の含有量がより少なく(即ち、正極活物質の含有率が高く)調製された水性ペーストで正極活物質層を形成することができる。その結果、高い電子伝導性を有する正極活物質層を備える二次電池の正極を提供することができる。
また、本発明は、上記目的を実現する他の側面として二次電池を製造する方法を提供する。すなわち、本発明によって提供される二次電池の製造方法は、正極活物質を主成分とする正極活物質層が正極集電体の表面に形成された正極を備える二次電池を製造する方法である。ここに開示される製造方法は、所定のBET比表面積A(m/g)を有する導電材と、該導電材の表面に付着して界面活性機能を有する少なくとも一種の結着材と、粉末状の正極活物質とを、水系溶媒に添加して混練することにより水性ペーストを調製すること、上記調製した水性ペーストを正極集電体の表面に塗布し、正極活物質層を形成すること、および上記正極活物質層が表面に形成された正極集電体を備える正極を用いて二次電池を構築すること、を包含する。そして、上記形成した正極活物質層に含まれる導電材のBET比表面積B(m/g)が、上記水性ペースト調製前の導電材のBET比表面積A(m/g)の40%以上60%以下となるように上記水性ペーストを調製すること、を特徴とする。
正極活物質の含有率が高く、電子伝導性に優れた正極活物質層を形成することにより、二次電池の高出力化、長寿命化が実現される。しかしながら、非親水性である導電材を含む水性ペーストを調製する際、導電材同士が凝集すると高い電子伝導性を有する正極活物質層を形成することができないため、導電材の水系溶媒に対する親和性を向上させる必要がある。そこで、本発明者は、界面活性機能を有する結着材が所定の割合で導電材の表面に被覆(付着)すると導電材の水系溶媒に対する親和性が向上し、該ペーストを用いて形成した正極活物質層の電子伝導性が向上することに注目した。
すなわち、ここに開示される方法は、正極活物質層に含まれる導電材のBET比表面積B(m/g)が水性ペースト調製前の当該導電材のBET比表面積A(m/g)の40%以上60%以下となるように水性ペーストを調製し、該ペーストを正極集電体の表面に塗布し形成した正極活物質層を備える正極を用いて二次電池を構築する。これにより、正極活物質層の電子伝導性が高められた良好な電池特性(例えば、サイクル特性またはハイレート特性)を有する二次電池を製造することができる。
また、ここに開示される方法の好ましい一態様では、上記正極活物質層における導電材のBET比表面積B(m/g)が、上記水性ペースト調製前の導電材のBET比表面積A(m/g)の45%以上55%以下となるように上記水性ペーストを調製する。
正極活物質層に含まれる導電材のBET比表面積B(m/g)が、ペースト調製前の導電材のBET比表面積A(m/g)の45%以上55%以下となるように(換言すると、導電材の表面において上記結着材が付着してない部分の割合(残存率)が、45%以上55%以下になるように)水性ペーストを調製することにより、導電材の水系溶媒に対する親和性がより一層向上された状態が構成される。その結果、該ペーストを用いて形成した正極活物質層は高い導電性を有し、内部抵抗の上昇が抑制された二次電池を製造することができる。
さらに、好ましい一態様では、上記水性ペーストとして、上記導電材と、上記導電材の表面に付着して界面活性機能を有する少なくとも一種の結着材と、上記水系溶媒とで混練することにより一次混練物を調製し、該一次混練物に上記正極活物質を添加して混練することにより調製したものを使用する。
ここに開示される製造方法は、正極活物質層に含まれる導電材のBET比表面積B(m/g)が上記範囲を備える正極を用いて二次電池を構築することにより特徴付けられる。したがって、水性ペーストの調製において、まず、導電材を、界面活性機能を有する少なくとも一種の結着材と水系溶媒とで混練して一次混練物を調製することにより、確実に導電材の表面に対して結着材を被覆させ、次いで、調製した一次混練物に正極活物質を添加して、さらに混練する。これにより、該結着材で被覆された導電材と正極活物質とが接着(付着)するため、良好な電子導電性を有する正極活物質層を形成し得る水性ペーストを調製することができる。
また、本発明によると、ここに開示されるいずれかの正極を備える二次電池(またはここに開示されるいずれかの方法により製造された二次電池であり得る)を備える車両が提供される。本発明によって提供される二次電池は、正極活物質の高密度化を実現した車両に搭載される二次電池として適した品質(例えば、ハイレート特性またはサイクル特性)を示すものであり得る。したがって、かかる二次電池は、ハイブリッド自動車、電気自動車、燃料電池自動車のような電動機を備える自動車等の車両に搭載されるモーター(電動機)用の電源として好適に使用され得る。
一実施形態に係るリチウム二次電池の外形を模式的に示す斜視図である。 図1におけるII−II線断面図である。 電極体を捲回して作製する状態を模式的に示す斜視図である。 導電材の表面において結着材が付着してない部分の割合(残存率)と電池抵抗との関係を示すグラフである。 一実施形態に係る二次電池を備えた車両(自動車)を模式的に示す側面図である。
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
本発明は、正極活物質を主成分とする正極活物質層が正極集電体の表面に形成された構造の正極を備える二次電池に対して好適に適用され得る。このような二次電池としては、リチウム二次電池、ニッケル水素電池等の蓄電池や、電気二重層キャパシタ等の蓄電素子(物理電池)を包含する電池が挙げられる。
以下、ここに開示される二次電池の好適な実施形態の一つとして、捲回電極体を備えるリチウム二次電池(リチウムイオン電池)を例にして正極および該正極の製造方法を詳細に説明するが、本発明をかかる実施形態に限定することを意図したものではない。また、負極の構成、電解質、電池ケース等は公知のものを特に限定することなく用いることができる。例えば、電池ケースは直方体状、扁平形状等の形状であり得、電解質の構成材料は、用途(典型的には車載用)によって適切に変更することができる。
なお、以下の図面において、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付し、重複する説明は省略又は簡略化することがある。また、各図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は実際の寸法関係を反映するものではない。
図1は、一実施形態に係る角型形状のリチウム二次電池を模式的に示す斜視図であり、図2は、図1中のII−II線断面図である。また、図3は、電極体を捲回して作製する状態を模式的に示す斜視図である。
図1および図2に示されるように、本実施形態に係るリチウム二次電池100は、直方体形状の角型の電池ケース10と、該ケース10の開口部12を塞ぐ蓋体14とを備える。また、電池ケース10内部には、上記開口部12より収容された扁平形状の捲回電極体20および電解質が配置されている。そして、上記蓋体14には、外部接続用の外部正極端子38と外部負極端子48とが設けられており、外部端子38,48の一部はケース内部で内部正極端子37または内部負極端子47にそれぞれ接続されている。
次に、図2および図3を参照し、本実施形態に係る捲回電極体20について説明する。図2に示されるように、捲回電極体20は、長尺状の正極集電体32の表面に正極活物質層34を有するシート状の正極シート30、長尺シート状のセパレータ50、長尺状の負極集電体42の表面に負極活物質層44を有するシート状の負極シート40とから構成される。そして、図3に示されるように、捲回軸方向Rの方向での断面視において、正極シート30及び負極シート40は、2枚のセパレータ50を介して積層されており、正極シート30、セパレータ50、負極シート40、セパレータ50の順に積層されている。該積層物は、軸芯(図示しない)の周囲に筒状に捲回され、得られた捲回電極体20を側面方向から押しつぶして拉げさせることによって扁平形状に成形されている。
図3に示されるように、本実施形態に係る捲回電極体20は、その捲回軸方向Rの中心部には、正極集電体32の表面上に形成された正極活物質層34と、負極集電体42の表面上に形成された負極活物質層44とが重なり合って密に積層された部分が形成されている。また、捲回軸方向Rに沿う方向での断面視において、該方向Rの一方の端部において、正極活物質層34が形成されずに正極集電体32の露出した部分(正極活物質層非形成部36)がセパレータ50および負極シート40(あるいは、正極活物質層34と負極活物質層44との密な積層部分)からはみ出た状態で積層されて構成されている。即ち、上記電極体20の端部には、正極集電体32における正極活物質層非形成部36が積層されて成る正極集電体積層部35が形成されている。また、電極体20の他方の端部も正極シート30と同様の構成であり、負極集電体42における負極活物質層非形成部46が積層されて、負極集電体積層部45が形成されている。
なお、セパレータ50は、ここでは正極活物質層34および負極活物質層44の積層部分の幅より大きく、該電極体20の幅より小さい幅を備えるセパレータが用いられ、正極集電体32と負極集電体42が互いに接触して内部短絡を生じさせないように正極活物質層34および負極活物質層44の積層部分に挟まれるように配されている。
まず、本実施形態に係る上記リチウム二次電池100の正極の各構成要素について説明する。ここで開示される正極(典型的には正極シート30)は、正極集電体32の表面に形成された正極活物質層34を備える。
上記正極の基材となる正極集電体32としては、導電性の良好な金属からなる導電性部材が好ましく用いられる。例えば、アルミニウムまたはアルミニウムを主成分とする合金を用いることができる。正極集電体32の形状は、リチウム二次電池の形状等に応じて異なり得るため特に制限はなく、棒状、板状、シート状、箔状、メッシュ状等の種々の形態であり得る。本実施形態では、捲回電極体20を備えるリチウム二次電池100に好ましく使用され得る形状である、シート状の正極集電体32が用いられている。
次に、正極活物質層34を構成する材料について説明する。上記正極集電体32の表面には、導電材と、該導電材の表面に付着して界面活性機能を有する少なくとも一種の結着材と、粉末状の正極活物質とが、水系溶媒に添加されて混練して成る水性ペーストが(ペーストの他、スラリー状またはインク状を含む。以下同じ。)が塗布されて正極活物質層34が形成されている。
上記正極活物質層34を構成する主成分である正極活物質としては、リチウムを吸蔵および放出可能な粉末状(粒状)の正極活物質材料が用いられる。この種のリチウム二次電池の正極活物質として、層状構造の酸化物系正極活物質や、スピネル構造の酸化物系正極活物質等を好ましく用いることができる。例えば、リチウムニッケル系複合酸化物、リチウムコバルト系複合酸化物、リチウムマンガン系複合酸化物等のリチウム遷移金属複合酸化物が挙げられる。
ここで、リチウムニッケル系複合酸化物とは、リチウム(Li)とニッケル(Ni)とを構成金属元素とする酸化物のほか、リチウムおよびニッケル以外に他の少なくとも一種の金属元素(すなわち、LiとNi以外の遷移金属元素および/または典型金属元素)を典型的にはニッケルよりも少ない割合(原子数換算。LiおよびNi以外の金属元素を二種以上含む場合にはそれらの合計量としてNiよりも少ない割合)で構成金属元素として含む酸化物をも包含する意味である。上記LiおよびNi以外の金属元素は、例えば、コバルト(Co),アルミニウム(Al),マンガン(Mn),クロム(Cr),鉄(Fe),バナジウム(V),マグネシウム(Mg),チタン(Ti),ジルコニウム(Zr),ニオブ(Nb),モリブデン(Mo),タングステン(W),銅(Cu),亜鉛(Zn),ガリウム(Ga),インジウム(In),スズ(Sn),ランタン(La)およびセリウム(Ce)からなる群から選択される一種または二種以上の金属元素であり得る。リチウムコバルト系複合酸化物およびリチウムマンガン系複合酸化物についても同様の意味である。なお、一般式がLiMPO(MはCo、Ni、Mn、Feのうちの少なくとも一種以上の元素;例えばLiFePO、LiMnPO)で表記されるオリビン型リン酸リチウムを上記正極活物質として用いてもよい。
また、上記リチウム遷移金属酸化物は、例えば、従来公知の方法で調製・提供されるリチウム遷移金属酸化物粉末を使用することができる。例えば、原子組成に応じて適宜選択されるいくつかの原料化合物を所定のモル比で混合し、適当な手段で焼成することによって該酸化物を調製することができる。また、焼成物を適当な手段で粉砕、造粒および分級することにより、所望する平均粒径および/または粒径分布を有する二次粒子によって実質的に構成された粒状のリチウム遷移金属酸化物粉末を得ることができる。
次に、正極活物質層34を構成する導電材について説明する。導電材は、上記正極活物質の導電性が低いため、該該活物質を主成分として形成される正極活物質層34の電子伝導性(イオン伝導性)を確保するために添加される。かかる導電材としては、カーボン粒子やカーボンファイバー等の導電性粉末材料(典型的には粉末炭素材料)が好ましい。カーボン粒子としては、種々のカーボンブラック、例えば、アセチレンブラック、ファーネスブラック、ケッチェンブラック、グラファイト粉末等が好ましい。なお、これらのうち一種のみを用いられていても二種以上が併用されていてもよい。また、炭素繊維、金属繊維などの導電性繊維類、銅、ニッケル等の金属粉末類およびポリフェニレン誘導体などの有機導電性材料などを単独又はこれらの混合物として含ませることができる。特に好ましい導電材は、粉末炭素材料である。これら例示した導電材は、水に対して不溶性である。このため、ここに開示される正極活物質層34は、導電材と共に、上述のとおり界面活性機能を有する結着材が添加された水性ペーストが正極集電体32に塗布され形成されている。
なお、上記導電材は、BET比表面積A(m/g)が30≦A≦100(例えば40≦A≦70)を満たすものが好ましい。BET比表面積A(m/g)がかかる範囲を満たす導電材は、結着材によって所定の割合で被覆されると水系溶媒に対する親和性が向上し、導電材同士が凝集することなく十分に分散された状態(導電材の表面に結着材が被覆した状態)の水性ペーストが調製される。該水性ペーストを正極集電体32に塗布することにより形成された正極活物質層34は、高い電子伝導性を備える。なお、BET比表面積は、市販の測定装置(例えばコンピュータ制御の全自動BET比表面積測定器)を用いて容易に測定することができる。
次いで、正極活物質層34を構成する材料の一つである結着材について説明する。本実施形態では、上記導電材の表面に付着して界面活性機能を有する少なくとも一種の結着材が用いられる。該結着材は、水系溶媒に可溶して粘性を発揮し、非親水性の導電材の表面に被覆することで、導電材の水系溶媒に対する親和性を向上させる役割を担う。このように導電材の表面に付着して界面活性機能を有する結着材として、水溶性セルロース誘導体から成るセルロース系結着材及びポリエーテルから成るポリエーテル系結着材が挙げられる。例えば、セルロース系結着材としては、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、メチルセルロース(MC)、酢酸フタル酸セルロース(CAP)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(HPMCP)等のセルロース誘導体が挙げられる。
ポリエーテル系結着材としては、ポリエチレンオキサイド(PEO)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重含体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)等のフッ素系樹脂等が挙げられる。これらのうち、セルロース系結着材では例えばCMCを、エーテル結着材では例えばPEOを特に好ましく使用し得る。なお、このようなポリマー材料は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
なお、水系溶媒は、典型には水であるが、全体として水性を示すものであればよく、例えば低級アルコール(メタノール、エタノール等)を含む水溶液であってもよい。すなわち、上記活物質層形成用ペーストに含まれる結着材を溶解(または分散)するための溶媒としては、水または水を主体とする混合溶媒を好ましく用いることができる。該混合溶媒を構成する水以外の溶媒としては、水と均一に混合し得る有機溶剤(低級アルコール、低級ケトン等)の一種または二種以上を適宜選択して用いることができる。例えば、水系溶媒の凡そ80質量%以上(より好ましくは凡そ90質量%以上、さらに好ましくは凡そ95質量%以上)が水である溶媒の使用が好ましい。特に好ましい例として、実質的に水からなる溶媒が挙げられる。
さらに、本実施形態に係る正極活物質層34は、該活物質層に含まれる導電材のBET比表面積B(m/g)が、調製前の導電材のBET比表面積A(m/g)の40%以上60%以下(好ましくは45%以上55%以下)を満たしている。換言すると、該正極活物質層には、上記結着材が付着してない部分の割合(残存率)が、40%以上60%以下(好ましくは45%以上55%以下)を満たす導電材が含まれている。ここで、界面活性機能を有する結着材が導電材の表面に被覆(付着)され過ぎても良くないが、結着材が少な過ぎて導電材の表面に被覆されないと、導電材同士の凝集を招いてしまい、結果として、正極活物質層34の電子伝導性を向上させることができない。しかしながら、正極活物質層34中の導電材のBET比表面積B(m/g)が上記範囲内にある正極は、内部抵抗の上昇が抑制された良好な電池特性(例えば、サイクル特性またはハイレート特性)を有する二次電池となり得る。
次いで、ここに開示されるリチウム二次電池100の正極(典型的には正極シート30)の作製方法について説明する。
当該正極は、図3に示されるように、正極集電体32の表面に正極活物質層34を形成することより作製し得る。正極活物質層34の形成にあっては、まず、正極活物質層形成用の水性ペーストを調製する。そして、調製した水性ペーストを正極集電体32の表面に塗布することにより正極活物質層34を形成することができる。
まず、上記水性ペーストの調製方法について説明する。ここに開示される水性ペーストは、所定のBET比表面積A(m/g)を有する導電材と、該導電材の表面に付着して界面活性機能を有する少なくとも一種の結着材と、粉末状の正極活物質とを、水系溶媒に添加して混練することにより調製することができる。
ここで、上記の材料を含む水性ペーストを用いて高い電子伝導性を有する正極活物質層34を形成するには、非親水性の導電材の水系溶媒に対する親和性を向上されなければ、導電材が凝集してしまい、正極活物質層34の電子伝導性を高めることが困難となる。そこで、本実施形態では、導電性に優れた正極活物質層34を形成するため、界面活性機能を有する結着材を所定の割合で導電材の表面に被覆(付着)することにより、導電材の水系溶媒に対する親和性が向上させた水性ペーストを調製する。
次いで、上記水性ペーストを調製した後、該ペーストを正極集電体32の表面に塗布する。塗付する方法としては、従来公知の方法と同様の技法を適宜採用することができる。例えば、グラビアコーター、スリットコーター、ダイコーター、コンマコーター等の適当な塗付装置を使用することにより、正極集電体32に該ペーストを好適に塗付することができる。
そして、上記水性ペーストを塗布した後、該ペーストに含まれる溶媒(典型的には水)を乾燥させ、圧縮(プレス)することにより正極活物質層34を形成する。圧縮方法としては、従来公知のロールプレス法、平板プレス法等の圧縮方法を採用することができる。かかる厚さを調整するにあたり、膜厚測定器で該厚みを測定し、プレス圧を調整して所望の厚さになるまで複数回圧縮してもよい。
ここに開示される製造方法では、高い電子伝導性を有する正極活物質層34を形成するため、上記形成した正極活物質層34に含まれる導電材のBET比表面積B(m/g)が、上記水性ペースト調製前の導電材のBET比表面積A(m/g)の40%以上60%以下となるように水性ペーストを調製する。そこで、正極活物質層34に含まれる導電材のBET比表面積B(m/g)は、次のような手順で測定することができる。
まず、正極活物質層34を構成する各材料を適宜組み合わせて調製した水性ペーストを正極集電体32の表面に塗布し、正極活物質層34を形成する。それから、形成した正極活物質層34を正極集電体32から剥離し、剥離した正極活物質層34を水系溶媒に投入して結着材を溶解させる。十分に溶解したら遠心分離し、正極活物質と導電材とを分離させて上澄みから導電材を回収する。こうして回収した導電材を用いて、上記正極活物質層34に含まれる導電材のBET比表面積B(m/g)を測定することができる。
上述のように測定した正極活物質層34に含まれる導電材のBET比表面積B(m/g)が、水性ペースト調製前の導電材のBET比表面積A(m/g)の40%以上60%以下(好ましくは45%以上55%以下)である場合、導電材の表面における結着材の付着状態が良好であり、導電性を妨げるほどの導電材の凝集物がなく、高い電子伝導性を示す正極活物質層34が形成された正極であるといえる。したがって、かかる正極活物質層34を形成するために用いた水性ペースト(導電材の水系溶媒に対する親和性が向上された水性ペースト)と同様の方法で水性ペーストを調製することにより、電子導電性に優れた正極活物質層34が形成された二次電池を構築することができる。こうして構築した二次電池は、内部抵抗の上昇が抑制された良好な電池特性(例えば、サイクル特性またはハイレート特性)を有する二次電池となり得る。
なお、このような親和性が向上された水性ペーストを調製するには、正極活物質層34を構成する上記掲げた材料を同時に水系溶媒に添加し、混練することにより調製してもよいが、さらに好ましい調製方法として、以下の手順で調製することができる。すなわち、導電材と、該導電材の表面に付着して界面活性機能を有する少なくとも一種の結着材と、水系溶媒とで混練することにより一次混練物を調製し、該一次混練物に正極活物質を添加して混練することにより調製する。かかる手順による調製方法によると、導電材を、界面活性機能を有する少なくとも一種の結着材と水系溶媒とで混練して一次混練物を調製することにより、確実に導電材の表面に対して結着材を被覆させることができ、導電材の水系溶媒に対する親和性をより高めることができる。こうして調製した一次混練物に正極活物質を添加すると、該結着材で被覆された導電材と正極活物質とが接着(付着)し、良好な電子導電性を有する正極活物質層34を形成し得る水性ペーストを調製することができる。
本発明により提供され得るリチウム二次電池100は、上述した正極活物質層34を備える正極に備える以外は、従来のこの種の二次電池に備えられるものと同様でよく、特に制限はない。以下、その他の構成要素について説明するが、本発明をかかる実施形態に限定することを意図したものではない。
例えば負極(典型的には負極シート40)は、長尺状の負極集電体42(例えば銅箔)の上に負極活物質層44が形成された構成であり得る。負極活物質層44を構成するリチウムを吸蔵および放出することが可能な負極活物質としては、従来からリチウム二次電池に用いられる物質の一種または二種以上を特に限定なく使用することができる。例えば、好適な負極活物質としてカーボン粒子が挙げられる。少なくとも一部にグラファイト構造(層状構造)を含む粒子状の炭素材料(カーボン粒子)が好ましく用いられる。いわゆる黒鉛質のもの(グラファイト)、難黒鉛化炭素質のもの(ハードカーボン)、易黒鉛化炭素質のもの(ソフトカーボン)、これらを組み合わせた構造を有するもののいずれの炭素材料も好適に使用され得る。特に黒鉛粒子は、粒径が小さく単位体積当たりの表面積が大きいことからより急速充放電(例えば高出力放電)に適した負極活物質となり得る。
負極活物質層44には、上記負極活物質の他に、一般的なリチウム二次電池に配合され得る一種または二種以上の材料を必要に応じて含有させることができる。そのような材料として、結着材として機能し得る各種のポリマー材料を使用し得る。
かかる負極活物質層44は、負極活物質と結着材等とを適当な溶媒(水、有機溶媒およびこれらの混合溶媒)に添加し、分散または溶解させて調製したペーストまたはスラリー状の組成物を負極集電体42に塗付し、溶媒を乾燥させて圧縮することにより好ましく作製され得る。
また、セパレータ50は、正極シート30および負極シート40の間に介在するシートであって、正極シート30の正極活物質層34と、負極シート40の負極活物質層44にそれぞれ接するように配置される。そして、正極シート30と負極シート40における両活物質層34,44の接触に伴う短絡防止や、該セパレータ50の空孔内に電解質(非水電解液)を含浸させることにより電極間の伝導パス(導電経路)を形成する役割を担っている。
かかるセパレータ50の構成材料としては、樹脂からなる多孔性シート(微多孔質樹脂シート)を好ましく用いることができる。ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン等の多孔質ポリオレフィン系樹脂が特に好ましい。
また、電解質は、従来からリチウム二次電池に用いられる非水電解液と同様のものを特に限定なく使用することができる。かかる非水電解液は、典型的には、適当な非水溶媒に支持塩を含有させた組成を有する。上記非水溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等からなる群から選択された一種又は二種以上を用いることができる。また、上記支持塩としては、例えば、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiCFSO、LiCSO、LiN(CFSO、LiC(CFSO、LiI等から選択される一種または二種以上のリチウム化合物(リチウム塩)を用いることができる。
上記作製した正極シート30及び負極シート40を2枚のセパレータ50と共に積重ね合わせて捲回し、得られた捲回電極体20を側面方向から押しつぶして拉げさせることによって扁平形状に成形し電池ケース10に収容するとともに、上記電解質を注入して開口部12を封止することによって本実施形態のリチウム二次電池100を構築することができる。なお、電池ケース10の構造、大きさ、材料(例えば金属製またはラミネートフィルム製であり得る)、および正負極を主構成要素とする電極体の構造(例えば捲回構造や積層構造)等について特に制限はない。
以下、本発明に関する試験例につき説明するが、本発明をかかる具体例に示すものに限定することを意図したものではない。
本発明に係る二次電池の正極を作製し、該正極を備えたリチウム二次電池を構築して電池抵抗を測定した。そして、正極活物質層における導電材のBET比表面積と該電池抵抗との関係を評価した。以下、具体的な方法を示す。
<サンプルAに係るリチウム二次電池の構築>
以下のようにしてサンプルAに係るリチウム二次電池を構築した。
まず、サンプルAに係るリチウム二次電池の正極を作製した。すなわち、正極における正極活物質層を形成するにあたり正極活物質層形成用の水性ペーストを調製した。該ペーストは、正極活物質(ここではニッケル酸リチウム)88質量部に対して、導電材としてのBET比表面積A(m/g)が40m/gを有するアセチレンブラック(AB)10質量部と、カルボキシメチルセルロース(CMC)1質量部とを、イオン交換水85質量部を加えて均一に混合した。そして、さらに固形分率が80%のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)/水懸濁液1.3質量部を加えて調製した。
次いで、正極集電体としてのアルミニウム箔(厚さ15μm)に単位面積あたりの正極活物質の被覆量が86mg/cmになるように該正極活物質層形成用ペーストを正極集電体の両面に塗布し乾燥させた。乾燥後、ローラプレス機にてシート状に引き伸ばすことにより厚さ58μmに成形し、正極活物質層が所定の幅を有するようにスリットして正極シートを作成した。
次に、サンプルAに係るリチウム二次電池の負極を作製した。すなわち、負極における負極活物質層を形成するにあたり負極活物質層形成用ペーストを調製した。該ペーストは、負極活物質としての黒鉛98質量部と、結着材としてのスチレンブタジエンブロック共重合体(SBR)1質量部と、カルボキシメチルセルロース(CMC)1質量部とを、イオン交換水に加えて混合することにより調製した。
そして、負極集電体としての銅箔(厚さ10μm)に単位面積あたりの負極活物質の被覆量が6.4mg/cmになるように該負極ペーストを負極集電体の両面に塗布し乾燥させた。乾燥後、ローラプレス機にてシート状に引き伸ばすことにより厚さ57μmに成形し、負極活物質層が所定の幅を有するようにスリットして負極シートを作成した。
上記調製した正極シートと負極シートとを用いてサンプルAに係るリチウム二次電池100を構築した。すなわち、正極シート及び負極シートを2枚のセパレータとともに積層し、この積層シートを捲回して捲回電極体を作製した。そして、この電極体を電解質とともに容器に収容して、(角型)大型電池(寸法(mm)概ね幅100×奥行10×高さ100)を構築した。電解質としては、プロピレンカーボネート(PC)とジエチルカーボネート(DEC)との1:1(体積比)混合溶媒に1mol/LのLiPFを溶解させた組成の非水電解液を用いた。
<サンプルB〜Jに係るリチウム二次電池の構築>
サンプルB〜Jに係るリチウム二次電池を以下のとおり構築した。
サンプルB〜Hに係るリチウム二次電池は、正極活物質層形成用の水性ペーストの調製に用いた材料(導電材および結着材の質量部、および該導電材のBET比表面積)を表1のように変更した以外は、上記サンプルAに係るリチウム二次電池と同様にサンプルB〜Hに係るリチウム二次電池を構築した。
また、サンプルIおよびJに係るリチウム二次電池は、正極活物質層形成用の水性ペーストの調製に用いた材料(導電材のBET比表面積と質量部、および結着材の質量部)を表1のように変更した。さらに、サンプルIおよびJに係るリチウム二次電池の上記水性ペーストを調製する際、まず、導電材と結着材とをイオン交換するに加えて均一に混練し、一次混練物を調製した。そして、該一次混練物に正極活物質を加え混練し、さらに固形分率が80%のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)/水懸濁液1.3質量部を加えることにより、水性ペーストを調製した。それ以外の手順は、サンプルAに係るリチウム二次電池と同様にサンプルIおよびJに係るリチウム二次電池を構築した。
Figure 0005510704
[BET比表面積の測定および残存率の算出]
上記作製したサンプルA〜Jに係るリチウム二次電池の正極シートの正極活物質層から導電材を回収し、導電材のBET比表面積B(m/g)を測定した。即ち、正極集電体から正極活物質層を剥離し、剥離した正極活物質層を水系溶媒に投入して正極活物質層から正極活物質と導電材とを分離し、遠心分離して上澄み部分から導電材を回収した。そして、回収した導電材のBET比表面積B(m/g)をJIS K 1477による比表面積測定方法に準拠したBET法によりそれぞれ測定した。表2に正極活物質層から回収した導電材のBET比表面積B(m/g)を示す。
また、調製前の導電材のBET比表面積A(m/g)に対する回収した導電材のBET比表面積B(m/g)の割合(B/A×100)を残存率(%)としてそれぞれ求めた。算出した残存率を表2に示す。
[電池抵抗の測定]
上記構築したサンプルA〜Jに係るリチウム二次電池の25℃における内部抵抗値を測定した。すなわち、25℃の温度条件下にて、5Aで4.1Vまで定電流充電した後、5Aで2.5Vまで定電流放電して電池容量を測定した。さらに、5Aで3.537Vまで充電し、電圧を一定としたまま電流を減衰させ100mAになるまで定電圧充電を行った。30分の休止後、20Aで定電流放電して4秒後の電圧を測定し、電池の内部抵抗を算出した。表2に電池抵抗の測定値を示す。また、上記算出した残存率と電池抵抗との関係を示すグラフを図4に示す。
Figure 0005510704
図4に示されるように、サンプルB〜D、サンプルH〜Jに係るリチウム二次電池の電池抵抗値は3mΩ以下であり、内部抵抗の上昇が抑制されることが示された。また、電池抵抗の低いサンプルB〜D、サンプルH〜Jの正極活物質から回収した導電材のBET比表面積から算出した残存率は、いずれも40%〜60%の範囲内にあった。さらに、導電材と結着材とを先に水系溶媒で混練することによって一次混練物を調製したサンプルIおよびJは、どちらも残存率が低く、電池抵抗が低いことが示された。
これらの結果から明らかなように、正極活物質層に含まれる導電材のBET比表面積(残存率)が40%〜60%を示す正極(換言すると、該範囲を備える水性ペーストを用いて形成した正極活物質層を備える正極)を用いて構築した二次電池は、内部抵抗の上昇が抑制された電池となり得ることが示された。
以上、本発明を詳細に説明したが、上記実施形態および実施例は例示にすぎず、ここで開示される発明には上述の具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。例えば、電池の種類は上述したリチウム二次電池に限られず、電極体構成材料や電解質が異なる種々の内容の電池であってもよい。また、該電池の大きさおよびその他の構成についても、用途(典型的には車載用)によって適切に変更することができる。
本発明に係る二次電池は、正極活物質を高密度に含む電子伝導性に優れた正極活物質層を有する正極を備える。かかる特性により、本発明に係る二次電池は、特に自動車等の車両に搭載されるモーター(電動機)用電源(特に高出力電源)として好適に使用し得る。従って、本発明によると、図5に示されるように、かかる二次電池100(当該電池100を複数個直列に接続して形成される組電池の形態であり得る。)を電源として備える車両1(典型的には自動車、特にハイブリッド自動車、電気自動車のような電動機を備える自動車)を提供することができる。
1 車両
10 電池ケース
12 開口部
14 蓋体
20 捲回電極体
30 正極シート
32 正極集電体
34 正極活物質層
35 正極集電体積層部
36 正極活物質層非形成部
37 正極集電端子
38 外部正極集電端子
40 負極シート
42 負極集電体
44 負極活物質層
45 負極集電体積層部
46 負極活物質層非形成部
47 負極集電端子
48 外部負極集電端子
50 セパレータ
100 リチウム二次電池
R 捲回軸方向

Claims (9)

  1. 正極活物質を主成分とする正極活物質層が正極集電体の表面に形成された二次電池の正極であって、
    BET比表面積A(m /g)が30≦A≦100である導電材と、該導電材の表面に付着して界面活性機能を有する少なくとも一種の結着材と、粉末状の正極活物質とが、水系溶媒に添加され混練されて成る水性ペーストが、正極集電体の表面に塗布されて形成された正極活物質層を備えており、
    前記正極活物質層に含まれる導電材のBET比表面積B(m/g)が、前記水性ペースト調製前の導電材のBET比表面積A(m/g)の40%以上60%以下を満たしていることを特徴とする、正極。
  2. 前記正極活物質層に含まれる導電材のBET比表面積B(m/g)が、前記水性ペースト調製前の導電材のBET比表面積A(m/g)の45%以上55%以下を満たしている、請求項1に記載の正極。
  3. 前記導電材として、炭素粉末材料が使用される、請求項1または2に記載の正極。
  4. 前記結着材として、少なくとも一種の水溶性セルロース誘導体から成るセルロース系結着材及び/又は少なくとも一種のポリエーテルから成るポリエーテル系結着材が使用される、請求項1〜のいずれかに記載の正極。
  5. 請求項1〜のいずれかに記載の正極を備える二次電池。
  6. 正極活物質を主成分とする正極活物質層が正極集電体の表面に形成された正極を備える二次電池を製造する方法であって、
    BET比表面積A(m /g)が30≦A≦100である導電材と、該導電材の表面に付着して界面活性機能を有する少なくとも一種の結着材と、粉末状の正極活物質とを、水系溶媒に添加して混練することにより水性ペーストを調製すること、
    前記調製した水性ペーストを正極集電体の表面に塗布し、正極活物質層を形成すること、および
    前記正極活物質層が表面に形成された正極集電体を備える正極を用いて二次電池を構築すること、
    を包含し、
    ここで、前記形成した正極活物質層に含まれる導電材のBET比表面積B(m/g)が、前記水性ペースト調製前の導電材のBET比表面積A(m/g)の40%以上60%以下となるように前記水性ペーストを調製することを特徴とする、製造方法。
  7. 前記形成した正極活物質層に含まれる導電材のBET比表面積B(m/g)が、前記水性ペースト調製前の導電材のBET比表面積A(m/g)の45%以上55%以下となるように前記水性ペーストを調製する、請求項に記載の製造方法。
  8. 前記水性ペーストとして、前記導電材と、前記導電材の表面に付着して界面活性機能を有する少なくとも一種の結着材と、前記水系溶媒とで混練することにより一次混練物を調製し、該一次混練物に前記正極活物質を添加して混練することにより調製したものを使用する、請求項またはに記載の製造方法。
  9. 請求項に記載の二次電池、または請求項6〜8のいずれかに記載の製造方法により製造された二次電池を備える車両。
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