JP5504575B2 - ホスフィン酸を配位子とするキレート抽出剤 - Google Patents

ホスフィン酸を配位子とするキレート抽出剤 Download PDF

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Description

本発明は、ホスフィン酸を配位子とするキレート抽出剤およびその製造方法に関する。
現在、金属資源の高騰により、金属資源のリサイクルが工業的スケールで行われ始めている。例えば、インジウムはフラットディスプレイパネルや太陽電池などで使用されている透明導電膜であるITO(酸化インジウムスズ)の原料であり、ITOターゲット剤の需要増加からその価格が高騰している。工場からのエッチング廃液や廃液晶パネルからのインジウムの回収は、現在行われていない。これは、上記の廃液には、亜鉛やスズなどの他の金属も含まれているため、これからインジウムを高選択的に回収する必要があるためである。さらに、インジウムは、亜鉛・鉛精錬の煙灰、残渣などからカドミウム、錫、ガリウムなどと共に分離する必要がある。これらの分離は現在、亜鉛やアルミニウム金属粉末を加えて置換・析出させて得られている(例えば、特許文献1)。
一方、亜鉛とカドミウムも化学的性質が類似していることからその分離剤の開発が検討されている。工業用抽出剤としては、4級アミン系の抽出剤(カプリコート、アラミン)、酸性リン化合物抽出剤(酸性リン酸エステル、酸性ホスホン酸エステル、酸性ホスフィン酸エステル)、さらにカルボン酸系抽出剤(バーサティック10やナフテン酸)などの抽出剤が検討されているが、カドミウムに対する亜鉛の高い選択性を有する工業用抽出剤はまだ出現していない。これに対して、例えば、特許文献2には、カドミウムを含む亜鉛塩含有液体から亜鉛を抽出する抽出剤としてビス−ビベンズイミダゾール組成物を使用する技術が開示されている。
特開2008−56060号公報 特開平5−25139号公報
しかしながら、特許文献1に記載されるような方法は、複雑な工程を必要とし、選択性が十分ではないため、高純度のインジウムを得るには時間と多段階の工程が必要となる。
また、亜鉛とカドミウムとの分離に関しても、特許文献2に記載の亜鉛抽出剤の場合、化学的安定性が十分ではなく、工業用抽出剤としての長期間の使用には非常に手間を要するという問題があった。工業的にも亜鉛とカドミウムの共存する系は多く、それらの選択的な分離剤の開発が望まれている。いずれかを選択的にしかも工業的に抽出できる安定な工業用抽出剤が開発されれば、これらの金属の分離・回収技術は大きく変化し、分離プロセスの簡略化、試薬の削減などによる経済的効果など、多大な効果が期待される。
そこで本発明は、上記の問題点を解決するために、インジウム、ガリウム、亜鉛の相互分離、ニッケルとコバルトの分離およびカドミウム共存下で亜鉛に対して高い選択性を有する抽出剤を提供することを目的とする。
本発明者は、上記の課題に鑑み、鋭意研究を積み重ねた結果、ホスフィン酸を含む化合物をキレート抽出剤として用いると、金属の選択的な抽出が可能になることを見出し、本発明を完成させた。すなわち本発明は、下記化学式1で表される化合物:
式中、Xは水素、置換基を有してもよい直鎖もしくは分岐のC1〜C18のアルキル基または置換基を有してもよいC6〜C18のアリール基であり、
およびRは独立して、置換基を有してもよい直鎖または分岐のC1〜C18のアルキル基、置換基を有してもよいC2〜C18のアルケニル基、または置換基を有してもよいC7〜C18のアリールアルキル基であり、
は水素または置換基を有してもよい直鎖もしくは分岐のC1〜C18のアルキル基である。
また、本発明は、下記化学式2で表される化合物:
式中、Xは水素、置換基を有してもよい直鎖もしくは分岐のC1〜C18のアルキル基または置換基を有してもよいC6〜C18のアリール基であり、
およびRは独立して、置換基を有してもよい直鎖または分岐のC1〜C18のアルキル基、置換基を有してもよいC2〜C18のアルケニル基、または置換基を有してもよいC7〜C18のアリールアルキル基であり、
はそれぞれ独立して、水素または置換基を有してもよい直鎖もしくは分岐のC1〜C18のアルキル基であり、
nは0〜16の整数である。
本発明によれば、インジウム、ガリウム、および亜鉛の相互分離が可能になる。また、ニッケルとコバルトとの分離、カドミウムと亜鉛との分離が可能になる。さらに本発明の化合物は化学的にも非常に安定であり、工業的な長期使用に適する。また、本発明の化合物によって有機相中に抽出された金属は、酸性溶液で水相側へ逆抽出して濃縮することで容易に回収できる。
本発明の第1は、下記化学式1で表される化合物である。
本発明の第2は、下記化学式2で表される化合物である。
上記化学式1および2において、Xは水素、置換基を有してもよい直鎖もしくは分岐のC1〜C18のアルキル基または置換基を有してもよいC6〜C18のアリール基であり、RおよびRは独立して、置換基を有してもよい直鎖または分岐のC1〜C18のアルキル基、置換基を有してもよいC2〜C18のアルケニル基、または置換基を有してもよいC7〜C18のアリールアルキル基である。
上記化学式1および2において、RおよびRは同一であっても異なっていてもよく、それぞれ、直鎖または分岐のC1〜C18、好ましくは、C6〜C12のアルキル基、C2〜C18、好ましくはC6〜C12のアルケニル基、またはC7〜C18、好ましくはC7〜C12のアリールアルキル基である。好ましくは、RおよびRは同一である。
直鎖または分岐のC1〜C18のアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、iso−ペンチル基、neo−ペンチル基、1,2−ジメチルプロピル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、1,3−ジメチルブチル基、1−iso−プロピルプロピル基、1,2−ジメチルブチル基、n−ヘプチル基、1,4−ジメチルペンチル基、2−メチル−1−iso−プロピルプロピル基、1−エチル−3−メチルブチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、3−メチル−1−iso−プロピルブチル基、2−メチル−1−iso−プロピル基、1−t−ブチル−2−メチルプロピル基、n−ノニル基、3,5,5−トリメチルヘキシル基、n−ノニル基、n−デシル基などが挙げられる。
C2〜C18のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ヘキセニル基、デセニル基が例示される。
C7〜C18のアリールアルキル基としては、例えば、ベンジル基、フェネチル基、ジフェニルメチル基、トリフェニルメチル基、1−ナフチルメチル基、2−ナフチルメチル基、2,2−ジフェニルエチル基、3−フェニルプロピル基、4−フェニルブチル基、5−フェニルペンチル基等などが挙げられるが、これらに制限されない。
上記の直鎖または分岐のC1〜C18のアルキル基、C2〜C18のアルケニル基、C7〜C18のアリールアルキル基は、1以上の置換基を有してもよい。前記置換基としては、例えば、炭素数1〜18のアルキル基、塩素、臭素などのハロゲン原子、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基、アミノ基、アルキルアミノ基、シアノ基などが挙げられる。
中でも、RおよびRとしては、2−エチルヘキシル基、デシル基、ドデシル基、オレイル基などが好ましい。上記置換基を導入すると、製造される化合物と金属イオンとによって形成される錯体が有機溶媒に溶解しやすくなり、抽出率が向上しうる。特に好ましくは、2−エチルヘキシル基である。RおよびRのいずれか、または両方が2−エチルヘキシル基であれば、アルキル鎖長が枝分かれしていることによって、有機溶媒への溶解性が良好となり好ましい。また、製造される化合物と金属イオンとによって形成される錯体の有機溶媒への溶解性も向上しうる。特に、RおよびRの両方が2−エチルヘキシル基である場合、上記の効果が顕著である。
は水素または置換基を有してもよいC1〜C18の直鎖もしくは分岐のアルキル基である。好ましくは、水素またはC1〜C6のアルキル基であり、特に好ましくは水素である。アルキル基としては、上記と同様のものを用いることができる。置換基としては、特に制限されず、上記RおよびRと同様のものが用いられうる。
化学式2の化合物において、Rは、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。nは、0〜16の整数であり、好ましくは0〜4の整数である。
Xは水素、置換基を有してもよい直鎖もしくは分岐のC1〜C18のアルキル基または置換基を有してもよいC6〜C18のアリール基を表す。C1〜C18のアルキル基としは、上述と同様のものが用いられうる。C6〜C18のアリール基としては、フェニル基、ナフチル基などが挙げられる。なお、上記置換基としては、特に限定されないが、好ましくは、直鎖もしくは分岐のC1〜C18のアルキル基などが用いられうる。C1〜C18のアルキル基は、上述と同様のものが用いられうる。また、上記置換基は、塩素、臭素などのハロゲン原子、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基、アミノ基、アルキルアミノ基、シアノ基などであってもよい。特に好ましくは、Xは、フェニル基である。Xがフェニル基であれば、電子吸引性を有するため、得られる化合物の酸解離定数を大きくすることができる。
化学式1に示す化合物は、例えば、PHX(=O)OHで表されるホスフィン酸化合物、RNHで表される2級アミン、およびRCHOで表されるアルデヒドを酸性溶液中で反応させることで製造することができる。ここで、X、R、RおよびRは上記と同様である。ホスフィン酸化合物としては、例えば、メチルホスフィン酸やエチルホスフィン酸などのアルキルホスフィン酸、フェニルホスフィン酸、ナフチルホスフィン酸などが好ましく用いられ、特に好ましくはフェニルホスフィン酸である。2級アミンとしては、[ジ−(2−エチルヘキシル)]アミン、ジデシルアミン、ジドデシルアミン、ジオレイルアミンなどが好ましく用いられうる。アルデヒドとしては、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒドなどが好ましく用いられ、特に好ましくはホルムアルデヒドである。2級アミン、ホスフィン酸化合物、およびアルデヒドの仕込みのモル比は、好ましくは、2級アミン:ホスフィン酸化合物:アルデヒド=1:1〜3:1〜5であり、より好ましくは1:1〜2:1〜3である。最適なモル比は2級アミン:ホスフィン酸化合物:アルデヒド=1:2:3である。これを、アルコール類などの適当な溶媒に溶解させ、塩酸などの酸で、好ましくはpH1〜3に調整する。反応は、好ましくは、90〜100℃の温度で、7〜8時間で、好ましくは撹拌下で行う。
化学式2に示す化合物は、RCHOで表されるアルデヒドをOHC(CHRCHOで表されるジアルデヒドに変更することを除いては、上記と同様の方法で製造されうる。ジアルデヒドとしては、例えば、グリオキサール、マロンアルデヒド、スクシンアルデヒド、グルタルアルデヒドなどが好ましく用いられうる、
本発明の化合物は化学的にも非常に安定であり、抽出剤として工業的な長期使用に適する。したがって本発明の第3は、本発明の化合物を含む、キレート抽出剤である。本発明の化合物によって抽出される金属イオンとしては、特に、インジウム、亜鉛、ガリウム、鉛、アルミニウム、カドミウム、コバルト、銅、ニッケルのイオンが挙げられる。さらに、本発明の化合物は希土類元素の抽出剤としての可能性が期待される。本発明の化合物は、特にインジウム、亜鉛、およびガリウムの相互分離、ニッケルとコバルトとの分離、ならびにガドミウム存在下での亜鉛の分離に高い選択性を示す。現在工業用抽出剤として使用されているジアルキルホスフィン酸は、アミノ基を有していないが、アミノ基を導入することによって抽出選択性が変化する。本発明の化合物は、金属イオンと錯体を形成する際に、アミノ基が金属に配位することによって高い選択性が発現すると考えられる。本発明の化合物によって抽出されるイオンの選択性は、抽出時の水相のpHにより変動し、例えば、pH2以下では、ガリウム、鉄、インジウムなどが選択的に抽出され、pH1以下では、ガリウムのみが選択的に抽出される。水相のpHを適宜調整することによって、所望の金属イオンを選択的に抽出することが可能となる。また、抽出される金属イオンの選択性は、塩化物イオン、硝酸イオン、硫酸イオンなど、水相中の金属イオンと共存するイオンの種類や含有量によっても変動しうる。例えば、インジウム、ガリウム、および亜鉛の相互分離を行う場合、水相中の塩酸濃度が、0.2M以下であれば、亜鉛とガリウムは抽出されず、ガリウム、インジウムだけが選択的に抽出されうる。なお、本発明のキレート抽出剤には、上述の本発明の化合物の他、ノニルフェノール、オクタノール、2−エチルヘキシルアルコール、デカノールなどの添加剤や、以下に記載するような溶媒を含んでもよい。
本発明の第4は、上述の本発明の化合物、またはこれを含むキレート抽出剤を、金属に接触させる段階を含む、金属の抽出方法である。上記金属は、好ましくは水溶液中でイオンとして存在するが、これに制限されない。抽出工程は、例えば、金属を含有する水溶液(水相)と本発明の化合物を含有する有機相とを接触させることによって行われうる。抽出方法は、バッチ法であっても連続抽出等の公知の方法であってもよい。本発明の化合物を有機溶媒または樹脂に、例えば0.05〜1Mの濃度に希釈したものを有機相として用いることが好ましい。本発明の化合物が常温で液体である場合は、当該化合物自体を希釈することなく有機相として用いてもよい。希釈剤として用いられうる有機溶媒としては、特に制限されず脂肪族化合物から芳香族化合物までの各種の溶媒が用いられうるが、特に、トルエン、n−へキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、キシレン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素などが好ましく用いられうる。2種類以上の有機溶媒を混合して用いてもよい。樹脂としては、例えば、ポリスチレン樹脂、グリシジルメタクリレート樹脂などが用いられうる。
水相中には、金属イオンが各種のカウンターアニオンとともに存在する。水相としては、目的の金属イオンを含有するものであれば特に制限されず、電子材料の製造工程におけるエッチング液などの廃液や、めっき廃液などであってもよい。水相中の金属イオンの濃度は、好ましくは、1×10−4〜1×10−1Mである。
抽出の条件は特に限定されない。例えば、バッチ法で行う場合、水相と有機相とを、好ましくは1:10〜10:1、より好ましくは1:5〜5:1の容積比で、5〜50℃にて、0.5〜48時間接触させることにより有機相に金属を抽出することができる。
有機相に抽出された金属は、常法により容易に回収することができる。例えば、有機相と水相とを分離し、分離された有機相から希薄な酸性溶液を用いて金属を逆抽出し、これを濃縮して回収することができる。この逆抽出においても、バッチ法、連続抽出法のいずれも適用可能である。逆抽出溶媒としては、例えば、硝酸溶液が用いられうる。逆抽出は、例えば、上記方法によって抽出された金属イオンを含む有機相と、上述の逆抽出溶媒とを、好ましくは1:10〜10:1の割合で、好ましくは5〜50℃にて液−液接触させることで行われうる。
本発明の効果を以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例にのみ制限されるものではない。
<実施例1>
{[ビス−(2−エチルヘキシル)アミノ]−メチル}フェニル−ホスフィン酸(BEHAMPP)の合成
下記反応式に従って、[ビス−(2−エチルヘキシル)アミノ]−メチル}フェニル−ホスフィン酸(BEHAMPP)の合成を行った。
具体的には、[ジ−(2−エチルへキシル)]アミン(東京化成工業株式会社製)12.07gとフェニルホスフィン酸12.92gを溶解する最低限のエタノール(和光純薬工業株式会社製)に溶解させ、8Mの塩酸(和光純薬工業株式会社製)100mlを加えて90℃で1時間撹拌した。次いで、パラホルムアルデヒド(シグマ アルドリッチ ジャパン株式会社製)4.504gを滴下漏斗により徐々に滴下し、100℃で加熱した。反応終了はTLCでの確認により行った。室温まで温度を下げ、溶媒を減圧留去しクロロホルム(和光純薬工業株式会社製)100mlを加えた。水により原料除去およびpHを6に戻すために分液操作を行い、得られたクロロホルム溶液を硫酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社製)40gにより脱水した。再び、減圧留去した後、得られた生成物32.8g(収率83%)を減圧乾燥させた。生成物は、H−NMRによって同定した。図1に、生成物のH−NMRスペクトルを示す。
<実施例2>
{[ビス−(2−エチルヘキシル)アミノ]−メチル}フェニル−ホスフィン酸(BEHAMPP)を用いた金属イオンの抽出
(各種金属イオンのpH依存性)
抽出はバッチ法により行った。水相として、Zn(II)、In(III)、Ga(III)、Al(III)、Cd(II)、Co(II)、Cu(II)、Ni(II)、またはFe(III)の金属イオンを1mM含む1Mの硝酸アンモニウム溶液をそれぞれ準備した。各金属の溶液について、水相の初期pH(pHinitial)は0〜10となるように、1N硝酸と25%アンモニア水溶液を用いて調整した。
有機相として、実施例1で合成したBEHAMPPを0.05Mの濃度で含有するトルエン溶液を準備した。
上記の水相および有機相を10mlずつ50ml三角フラスコに入れ、恒温槽を用いて303Kで、120rpmの振とう速度で24時間振とうした。その後、水相を採取し、抽出平衡後の水相のpH(pHeq)を、pHメーターを用いて測定した。また、水相中の金属イオンの初期濃度([M]aq,initial)および平衡後の水相中の金属イオン濃度([M]aq)を、原子吸光光度計を用いて求めた。有機相の金属イオン濃度([M]org)は、水相と有機相とのマスバランスから求めた。抽出率(%)は、下記式より算出した。
結果を図2に示す。図2の結果から、例えば、1程度の低いpHでインジウムがほぼ100%抽出されるのに対し、ガリウムの抽出率は10%程度であり、亜鉛はほとんど抽出されない。pHが2前後で、ガリウムはほぼ100%抽出できるが、亜鉛はほとんど抽出されない。したがって、BEHAMPPを抽出剤として用いると、pHを選択することによって、インジウム、ガリウム、および亜鉛を相互分離できることが確認された。
同様に、BEHAMPPを抽出剤として用いると、ニッケルとコバルトとの分離、カドミウムと亜鉛との分離が可能である。
(各種金属イオンの塩酸濃度依存性)
水相として、Zn(II)、In(III)、Ga(III)、Co(II)、Ni(II)、Pd(II)、Au(III)、Cu(II)、Pt(IV)、Cd(II)、Al(III)、Fe(III)の金属イオンを1mM含む、0.1M、0.3M、0.5M、1M、3M、5Mの塩酸溶液をそれぞれ準備した。
有機相として、実施例1で合成したBEHAMPPを0.05Mの濃度で含有するトルエン溶液を準備した。
上記の水相および有機相を10mlずつ50ml三角フラスコに入れ、恒温槽を用いて303Kで24時間振とうした。その後、水相を採取し、水相を採取し、中和滴定を用いて平衡塩酸濃度を測定した。金属イオン濃度は、原子吸光光度計を用いて算出した。
結果を図3に示す。横軸に平衡塩酸濃度の対数を、縦軸に抽出率を表した。図3より、亜鉛およびガリウムは高塩酸濃度において抽出率が増加するが、インジウムは高塩酸濃度では抽出率が減少する。これは、インジウムの場合、塩酸濃度が高くなるとホスフィン酸のOHが解離できずに、静電相互作用が発現しないことから抽出率は減少するためと考えられる。したがって、塩酸濃度を適切に設定することで、インジウム、ガリウムおよび亜鉛の相互分離の選択性をより高めることができると考えられる。
<比較例1>
4−ノニルフェノキシ酢酸を用いた金属イオンの抽出
水相として、In(III)、Ga(III)、Zn(II)、Cd(II)、Pb(II)、Cu(III)、Fe(III)、Co(II)、Al(III)、Ni(II)の金属イオンを1mM含む1Mの硝酸アンモニウム溶液をそれぞれ準備し、有機相としてカルボン酸型の抽出剤である4−ノニルフェノキシ酢酸を0.05Mの濃度で含有するトルエン溶液を準備したことを除いては、上述の実施例2と同様にして金属イオンの抽出を行った。
結果を図4に示す。亜鉛とインジウムは、抽出されるpHが異なるが、インジウムとガリウムの抽出されるpH領域はほぼ一致していることがわかる。したがって、4−ノニルフェノキシ酢酸を抽出した場合、亜鉛、インジウムおよびガリウムの相互分離は困難である。また、ニッケルとコバルトも抽出されるpH領域はほぼ一致している。
<比較例2>
N−カルボン酸4−オクチルアニリンを用いた金属イオンの抽出
水相として、In(III)、Ga(III)、Zn(II)の金属イオンを1mM含む1Mの硝酸アンモニウム溶液をそれぞれ準備し、有機相としてカルボン酸型の抽出剤であるN−カルボン酸4−オクチルアニリンを0.05Mの濃度で含有するトルエン溶液を準備したことを除いては、上述の実施例2と同様にして金属イオンの抽出を行った。
結果を図5に示す。インジウムおよびガリウムの抽出されるpH領域はほぼ一致し、亜鉛、インジウムおよびガリウムの相互分離は困難であることがわかった。
<比較例3>
バーサティック10を用いた金属イオンの抽出
水相として、In(III)、Ga(III)、Zn(II)、Pb(II)の金属イオンを1mM含む1Mの硝酸アンモニウム溶液をそれぞれ準備し、有機相としてカルボン酸型の工業用抽出剤であるバーサティック10を0.05Mの濃度で含有するトルエン溶液を準備したことを除いては、上述の実施例2と同様にして金属イオンの抽出を行った。
結果を図6に示す。インジウムおよびガリウムの抽出されるpH領域はほぼ一致し、亜鉛、インジウム、およびガリウムの相互分離は困難であることがわかった。
<比較例4>
PC88Aを用いた金属イオンの抽出
水相として、Ga(III)の金属イオンを5mg/l含む1Mの硝酸アンモニウム溶液をそれぞれ準備し、有機相として市販の抽出剤であるPC88Aを0.025Mの濃度で含有するトルエン溶液を準備したことを除いては、上述の実施例2と同様にして金属イオンの抽出を行った。図7(a)に示すように、ガリウムはpH2以上の領域でほぼ100%抽出された。
次いで、PC88Aを含むポリスチレン樹脂を有機相として用いて、金属の抽出を行った。水相は、In(III)、Ga(III)、Zn(II)の金属イオンを200mg/l含む1Mの硝酸アンモニウム溶液を用いた。有機相3gと、水相10mlとを、上記実施例2と同様の方法で接触させて、金属の抽出を行った。図7(b)に示すように、樹脂中では、ガリウムの抽出されるpHは溶媒抽出の場合よりも高pH側にシフトし、亜鉛の抽出されるpH領域と重なることがわかった。
<比較例5>
D2EHPAを用いた金属イオンの抽出
水相として、Ga(III)を500mg/l、およびIn(III)を1000〜10000mg/l含む1Mの硝酸アンモニウム溶液をそれぞれ準備し、有機相としてカルボン酸型の工業用抽出剤であるD2EHPAを0.05Mの濃度で含有するトルエン溶液を準備したことを除いては、上述の実施例2と同様にして金属イオンの抽出を行った。
結果を図8に示す。横軸に平衡時のpHを、縦軸にインジウムの分配比の対数を表した。このpH領域では、ガリウムは抽出されなかった。図8から、インジウム濃度が薄くなると分配比が増加することがわかる。これは、ガリウムが共存することによってインジウム濃度に対して抽出剤濃度が十分でないため、インジウム濃度が薄くなると分配比が増加するためと考えられる。一方、インジウム濃度が高い場合、高濃度のインジウムが有機相に抽出されると有機相の粘度が高くなりそのために分配比が低下する。
BEHAMPPのH−NMRスペクトルである。 BEHAMPPを用いた金属イオンの抽出率を表すグラフである。 BEHAMPPを用いた金属イオンの抽出率の塩酸濃度依存性を表すグラフである。 4−ノニルフェノキシ酢酸を用いた金属イオンの抽出率を表すグラフである。 N−カルボン酸4−オクチルアニリンを用いた金属イオンの抽出率を表すグラフである。 バーサティック10を用いた金属イオンの抽出率を表すグラフである。 (a)は、PC88Aを用いた溶媒抽出による金属イオンの抽出率を表すグラフであり、(b)は、抽出剤含有樹脂を用いた抽出による金属イオンの抽出率を表すグラフである。 D2EHPAを用いた金属イオンの抽出率を表すグラフである。

Claims (9)

  1. 下記化学式1で表される化合物を含む、キレート抽出剤
    式中、Xは水素、置換基を有してもよい直鎖もしくは分岐のC1〜C18のアルキル基または置換基を有してもよいC6〜C18のアリール基であり、
    およびRは独立して、置換基を有してもよい直鎖または分岐のC6〜C18のアルキル基、置換基を有してもよいC6〜C18のアルケニル基、または置換基を有してもよいC7〜C18のアリールアルキル基であり、
    は水素または置換基を有してもよい直鎖もしくは分岐のC1〜C18のアルキル基である。
  2. が水素である、請求項1に記載のキレート抽出剤
  3. Xがフェニル基である、請求項1または2に記載のキレート抽出剤
  4. およびRが2−エチルヘキシル基である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のキレート抽出剤
  5. が水素であり、Xがフェニル基であり、RおよびRが2−エチルヘキシル基である、請求項1に記載のキレート抽出剤
  6. インジウム、ガリウム、および亜鉛の相互分離のための、請求項1〜5のいずれか1項に記載のキレート抽出剤
  7. ニッケルとコバルトとの分離のための、請求項1〜5のいずれか1項に記載のキレート抽出剤
  8. カドミウム存在下で亜鉛に対して選択性を有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載のキレート抽出剤。
  9. 請求項1〜のいずれか1項に記載のキレート抽出剤を金属に接触させる段階を含む、金属の抽出方法。
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