JP5501624B2 - 昇華転写用シート - Google Patents

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Description

本発明は、昇華転写プリントシステムに使用される昇華転写用シートに係り、特に、インクジェット式プリンタに適用される昇華転写用シートに関する。
従来より、スポーツ競技用のユニフォーム、Tシャツ、タペストリー、のぼりなどの布製品への画像記録方法として、昇華転写プリントシステムが用いられている。このような昇華転写プリントシステムの仕組みを模式的に表した図が図1に示されている。同図において、11は昇華転写用シート、12は昇華性インク、13は転写対象物である。
昇華転写プリントシステムとは、昇華転写用シート11に昇華性インク12で反転画像の印刷を行い(図1(a)参照)、次いで昇華転写用シート11と転写対象物13とを接触させて熱圧処理することで(図1(b)参照)、昇華転写用シート11に形成された画像が昇華性インク12の昇華性を利用して布帛等の転写対象物13に転写され、目的とする画像が転写対象物にプリントされるというものである(図1(c)参照)。
昇華転写プリントシステムに用いる転写用シートへの記録方式としては、スクリーン印刷やグラビア印刷、オフセット印刷などの記録方式が用いられてきたが、これらの記録方式は製版が必要でありその分だけ時間やコストがかかることから、近年ではインクジェット記録方式が注目されている。インクジェット記録方式は、版作成が不要であるため、版を必要とする印刷方式と比較してコスト削減、作成期間短縮のメリットがあり、オンデマンド用途などの小ロットのプリントにも適している。例えば特開平10−58638号(特許文献1)には、昇華性染料を含有するインクを用い、インクジェット記録方式によりインク受容性シートにミラーイメージ画像を記録し、次いで任意の転写対象物とインク受容性シートとを重ね合わせた状態で加熱して、昇華性染料をインク受容性シートから任意の転写対象物へ昇華転写する方法が開示されている。
また、昇華転写プリントに用いる転写用シートに要求される性能の一つとして、転写対象物へ転写された画像の発色濃度が高いことがある。転写対象物へ転写された画像の発色濃度を高めるためには、昇華転写の工程において、転写用シートに受容されたインクを効率よく転写対象物へ転移させなければならない。即ち、昇華転写を終えた後に転写用シートに残存するインク量が少ないほど転写対象物へのインク転写効率が高いということであり、より多くのインクが転写対象物へ転写されることによって、転写対象物へ転写された画像の発色濃度が高くなる。従って転写用シートには、転写対象物へインクを効率よく転写させる特性も要求される。
転写対象物へのインクの転写効率に着目した発明として、特開2003−266919号(特許文献2)には、水溶性セルロース誘導体と平均粒子径1μm以下の無機微粒子とを含有するインク受理層を設けた昇華インク用インクジェット被記録媒体が開示されている。また、特表2002−521245号(特許文献3)には、多孔度が100ml/min以下である比較的高密度なカルボキシメチルセルロースの層を設けたインクジェット印刷用転写紙が開示されている。
特開平10−58638号(請求項1参照) 特開2003−266919号(請求項1参照) 特表2002−521245号(請求項1及び[0031]参照)
転写用シートはインクを効率よく転写させる特性が要求される一方で、インクの吸収性や固着性も要求される。昇華転写プリントシステムにおいて、インクジェット式プリンタで記録を行う場合には、インクジェット記録用インクに昇華性染料を含有させて印刷を行うものであるが、インクジェット記録用インクは水性のインクであり多量の水分が含まれている。このため、印字濃度が200%を超えるような多色のベタ印刷などを行う場合には、転写用シートに充分なインク吸収能力がないと画像の乱れや乾燥不良などの不具合が生じる虞がある。また、多量のインクを充分に固着できる能力がないと画像に滲みが生じて鮮明な記録画像を得られない虞もある。
しかしながら、インクの吸収性や固着性が高すぎると、もう一方の必要特性であるインクを効率よく転写させる特性が損なわれる原因ともなりうる。即ち、インクが転写用シートに吸収・固着されすぎると、昇華転写の際にインクが効率よくリリースされない虞があり、その逆に、昇華転写の際にインクが効率よくリリースされるようインクの吸収性や固着性を制限すると、転写用シートに印刷する際に画像の乱れや乾燥不良が生じたり、画像に滲みが生じて鮮明な記録画像を得られない虞がある。
本発明はこのような問題点を鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、インクジェット式プリンタにより転写用シートへの情報記録を行う昇華転写プリントシステムに用いられ、水性インクの吸収性に優れて滲みなどのない鮮明な記録画像を得ることができ、昇華転写の際の転写対象物へのインク転写効率にも優れた昇華転写用シートを提供することにある。
本発明の他の目的並びに作用効果については、以下の記述を参照することにより、当業者であれば容易に理解されるであろう。
上記の目的を達成するために、本発明の昇華転写用シートは、昇華性染料を含有するインクを使用し、インクジェット式プリンタにより、所定の昇華転写用シート上に所望情報をプリントしたのち、このプリント済の昇華転写用シートを任意の転写対象物に押し当て加熱することで、前記昇華転写用シートから前記転写対象物へと前記所望情報を転写プリントさせるようにした昇華転写プリントシステムに適用される昇華転写用シートである。
具体的な構成としては、シート状基材と、前記シート状基材の片面又は両面に設けられたインク受理層とを包含する。
前記インク受理層には、顔料とバインダとカチオン性樹脂とが含まれており、前記顔料としては、沈降法シリカが使用され、前記バインダとしては、デンプン、デンプン誘導体、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコールの何れか1種又はそれら2種以上の混合物が使用される。
そしてこのような構成によれば、昇華転写用シートへの印刷時に水性インクの吸収性に優れ、滲みなどのない鮮明な画像を設けることができる昇華転写用シートが得られる。また、昇華転写の際に転写対象物へのインク転写効率が高く、転写対象物に鮮明な画像を転写することが可能となる。
本発明の好ましい実施の形態においては、前記沈降法シリカは、水銀圧入法により測定した細孔分布において、100Å以下の細孔半径を有する細孔容積の割合が、全細孔容積に対して1%以下であることが望ましい。このような構成によれば、昇華転写の際の転写対象物へのインク転写効率がより優れた昇華転写用シートを得ることができる。
本発明の好ましい実施の形態においては、前記沈降法シリカとして吸油量120乃至180ml/100gである沈降法シリカを用い、前記インク受理層中に前記バインダ100重量部に対して100乃至250重量部配合することが望ましい。このような構成によれば、昇華転写の際の転写対象物へのインク転写効率が更に優れた昇華転写用シートを得ることができる。
本発明の好ましい実施の形態においては、前記カチオン性樹脂として、ポリジメチルアミンエピクロルヒドリン縮合物を用いることが望ましい。このような構成によれば、更に昇華転写の際の転写対象物へのインク転写効率に優れた昇華転写用シートとすることが可能となる。
本発明の好ましい実施の形態においては、前記シート状基材はパルプを主成分とするものであり、坪量が50〜200g/m2であることが望ましい。このような構成によれば、インクジェットプリンタでの搬送性に優れた昇華転写用シートを得ることができる。
本発明によれば、昇華転写用シートへの印刷時に水性インクの吸収性に優れ、滲みなどのない鮮明な記録画像を設けることができる昇華転写用シートが得られる。また、昇華転写の際に転写対象物へのインク転写効率が高く、転写対象物に鮮明な画像を転写することが可能である。即ち、インクジェット式プリンタにより転写用シートへの情報記録を行う昇華転写プリントシステムに本発明の昇華転写用シートを適用することにより、高い転写効率で昇華性インクが転写され、転写対象物において発色濃度の高いの転写画像が得られる。
また、沈降法シリカを、水銀圧入法により測定した細孔分布において、細孔半径100Å以下の細孔半径を有する細孔容積の割合が、全細孔容積に対して1%以下の沈降法シリカとすることにより、昇華転写の際の転写対象物へのインク転写効率がより向上し、インクジェット式プリンタにより転写用シートへの情報記録を行う昇華転写プリントシステムに適用することにより、転写対象物へより発色濃度の高い転写画像を転写することが可能となる。
また、沈降法シリカとして、吸油量120乃至180ml/100gである沈降法シリカを用い、インク受理層中にバインダ100重量部に対して100乃至250重量部含有させることにより、更に昇華転写の際の転写対象物へのインク転写効率に優れた昇華転写用シートを得ることが可能となる。インクジェット式プリンタにより転写用シートへの情報記録を行う昇華転写プリントシステムに適用することにより、転写対象物へより発色濃度の高い転写画像を転写することが可能となる。
更に、前記カチオン性樹脂として、ポリジメチルアミンエピクロルヒドリン縮合物を用いることにより、更に昇華転写の際の転写対象物へのインク転写効率のよい、昇華転写用シートを得ることが可能となる。インクジェット式プリンタにより転写用シートへの情報記録を行う昇華転写プリントシステムに適用することにより、転写対象物へより発色濃度の高い転写画像を転写することが可能となる。
昇華転写プリントシステムの仕組みを模式的に表した図である。 シリカ1(微細孔径割合:12.77%)の細孔分布表である。 シリカ2(微細孔径割合:13.74%)の細孔分布表である。 シリカ3(微細孔径割合:0.65%)の細孔分布表である。 シリカ4(微細孔径割合:0.52%)の細孔分布表である。 シリカ5(微細孔径割合:0.1%)の細孔分布表である。 シリカ6(微細孔径割合:0.2%)の細孔分布表である。 シリカ7(微細孔径割合:0.2%)の細孔分布表である。 実施例及び比較例の評価結果(その1)である。 実施例及び比較例の評価結果(その2)である。
以下において、本発明の好適な実施の形態について述べるが、本発明は以下の記述で限定されるものではない。
先にも述べたように、本発明の昇華転写用シートは、充分なインク吸収性とインク固着性とが要求され、これに加えて、一旦受容したインクを効率よく転写対象物へ転移させる特性も要求される。即ち、インクジェット記録が行われる際にはインクノズルから吐出されたインクジェットインクを充分に吸収、固着できるとともに、昇華転写の際には、昇華性インクが転写用シートから容易にリリースされるという特性が必要とされる。インクを充分に吸収し固着する特性と、一旦受容したインクを容易にリリースするという特性とは、一見相反する特性であり、この両方の特性を同時に満たすことは困難であると考えられていた。
しかしながら、本願発明者らは鋭意研究の結果、シート状基材に設けるインク受理層中に特定の顔料とバインダとを組み合わせ、更にカチオン性樹脂を含有させることにより、印刷時のインクの吸収性と固着性、転写時のインクのリリース性という一見相反する特性を同時に満たす昇華転写用シートが得られることを知見した。
この知見に基づき、本発明の昇華転写用シートにおいては、シート状基材の少なくとも一方の面にインク受理層を設け、該インク受理層中に、顔料として沈降法シリカを、バインダとしてデンプン、デンプン誘導体、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコールの何れか1種又はこれら2種以上の混合物を、更にカチオン性樹脂を含有させることとした。このように特定の顔料とバインダとを組み合わせ、更にカチオン性樹脂を含有させることが、インクを充分に吸収し固着する特性と、一旦受容したインクを容易にリリースするという特性とを両立させる上で重要となる。
[シリカの種類について]
まず、本発明においてインク受理層に用いる沈降法シリカについて述べる。シリカはその吸油量によって差があるものの、カオリンやタルク、炭酸カルシウムなどの他の一般的な無機顔料に比べてインクの吸収性に優れている。このため、シリカをインク受理層に含有させることにより昇華転写用シートに充分なインク吸収性能を保持させることができる。更に、本願発明者らの検証の結果、シリカの種類を沈降法シリカとすることにより、昇華転写の際に加熱され昇華するインクをリリースし易い構造とし、結果的に昇華転写の際の転写対象物へのインク転写効率を向上することができることがわかった。
ここで沈降法シリカとは、湿式法の一つである沈降法(沈殿法)により製造されたシリカであり、アルカリ性のpH領域で反応を進められることで一次粒子の成長が早く進行し、一次粒子がフロック状に凝集して沈降することから沈降法シリカと呼ばれる。これに対して、同じ湿式法に分類される製法にゲル法があり、この製法により製造されたシリカは反応凝集物がゲル状になることからゲル法シリカと呼ばれる。ゲル法で製造されたシリカは、酸性のpH領域で反応を進行させられることにより、一次粒子の成長を抑えた状態で凝集を起こし、反応凝集物がゲル状となる。
沈降法シリカを採用することでインクの転写効率が向上する理由は定かではないが、製法による細孔径の違いが影響しているのではないかと推測される。一般的に沈降法シリカとゲル法シリカとを比較した場合には、一次粒子における細孔径は沈降法シリカの方が大きい。
ここで、本発明に用いる沈降法シリカとしては、水銀圧入法により測定した細孔分布において、100Å以下の細孔半径を有する細孔容積の割合が、全細孔容積に対して1%以下の沈降法シリカであるとより好ましい。細孔容積がこの条件を満たす沈降法シリカを用いることにより、昇華転写の際の転写対象物へのインク転写効率を更に向上させることが可能となる。これは、一次粒子間の細孔径が比較的大きくなる傾向にある沈降法シリカの中でも、小さな細孔径を有する細孔容積の割合が少ないほど昇華転写の際の転写対象物へのインク転写効率の向上に効果があるということである。
[バインダについて]
次に、本発明に用いるバインダについて述べる。本発明の昇華転写用シートにおいては、インク受理層中に、バインダとして、デンプン、デンプン誘導体、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコールの何れか1種又はこれら2種以上の混合物を含有させる。
前述の通り、本発明の昇華転写用シートにおいてはインク受理層中に沈降法シリカを含有させるが、沈降法シリカとこれらのバインダを併用することで昇華転写の際の転写対象物へのインク転写効率を向上させることが可能となる。沈降法シリカとこれら特定のバインダとを併用することで昇華転写の際の転写対象物へのインク転写効率が向上する理由は定かではないが、沈降法シリカの一次粒子間の細孔径が比較的大きいことと、沈降法シリカとこれらバインダとの相性により、インクの昇華に要する熱が伝導しやすくインクの昇華自体も阻害されにくいことが要因であると思われる。このような要因により、昇華転写の際にインク受理層に保持されているインクに熱が伝わりやすくインクがスムーズに昇華され、また、インク受理層の構造が昇華するインクをリリースし易い構造となっているものと推察される。
尚、一般的なインクジェット記録用紙においては、インク受理層に用いるバインダとしてアクリル系樹脂やSBRなどのラテックス、エチレン−酢酸ビニル樹脂などを用いることがあるが、沈降法シリカとこれらアクリル系樹脂やSBRなどのラテックス、エチレン−酢酸ビニル樹脂などのバインダとを併用して試してみたところ、これらのバインダでは昇華転写の際の転写対象物へのインク転写効率を向上させることができなかった。
ここで用いることができるデンプン誘導体としては特に限定するものではなく、酸化デンプン、エーテル化デンプン、エステル化デンプンなど一般的なコーティング剤のバインダとして用いられるデンプン誘導体を選択することが可能であり、その中でも特に塗料性状の安定性などからリン酸エステル化デンプンが好適である。
また、ここで用いることができるポリビニルアルコール及び変性ポリビニルアルコールについても特に限定するものではなく、完全ケン化型であるか部分ケン化型であるかを問わず、また、シラノール変性、カルボキシル基変性、アセトアセチル基変性、カチオン変性、などの各種変性ポリビニルアルコールを用いることが可能である。
本発明の昇華転写用シートにおいて、インク受理層中の顔料とバインダの配合量は特に限定するものではなく、顔料として使用する沈降法シリカの吸油量に合わせて適宜決定すればよい。ここで沈降法シリカの吸油量とは、JIS K5101に定める方法で測定した値であり、以降においても同様である。
吸油量が比較的大きい沈降法シリカを用いる場合は、沈降法シリカの配合量が少なくても水性インクの吸収性を満足させやすいが、その反面インク受理層の強度が弱くなる傾向にあるのでバインダの配合量を比較的多く配合する必要がある。逆に吸油量が比較的小さい沈降法シリカを用いる場合には、沈降法シリカの配合割合が少なすぎると十分なインク吸収性が得られないため、バインダの配合量を比較的少なくするなどして相対的に沈降法シリカの配合量を多くし、水性インクの吸収性を満足させる必要がある。
具体的な配合量の一例を示すと、吸油量が200ml/100gを超える沈降法シリカを使用する場合は、バインダ100重量部に対して沈降法シリカを50乃至150重量部配合することが望ましい。ここで沈降法シリカの配合量が50重量部を下回ると沈降法シリカの配合割合が少なすぎて水性インクの吸収性を満足できない虞があり、逆に150重量部を超えるとバインダの配合割合が下がりインク受理層の強度が弱くなる虞がある。
また、吸油量が200ml/100g以下の沈降法シリカを使用する場合は、バインダ100重量部に対して沈降法シリカを100乃至300重量部配合することが望ましい。ここで沈降法シリカの配合量が100重量部を下回ると沈降法シリカの配合割合が少なすぎて水性インクの吸収性を満足できない虞があり、逆に300重量部を超えるとバインダの配合割合が下がりインク受理層の強度が弱くなる虞がある。
また、吸油量が120乃至180ml/100gである沈降法シリカを用いる場合には、配合量はバインダ100重量部に対して100乃至250重量部程度であることが望ましい。ここで沈降法シリカの配合量が100重量部を下回ると水性インクの吸収性を満足できない虞があり、逆に250重量部を超えるとインク受理層の強度が弱くなる虞がある。このような吸油量の比較的小さい沈降法シリカを用いる場合には、吸油量の大きい沈降法シリカを用いる場合と比べてインク受理層中の沈降法シリカの配合比率を高くすることができるため、その結果、昇華転写の際の転写対象物へのインク転写効率を更に向上させることが可能となる。
本発明の昇華転写シートにおいては、インク受理層中に、沈降法シリカ、バインダに加えて、更にカチオン性樹脂を含有させる。インク受理層中にカチオン性樹脂を含有させることにより、昇華転写シートに充分なインク固着性を保持させることができ、インクジェット記録による画像に滲みなどが生じず、鮮明な記録画像を得ることができる。インク受理層にインクを固着させることで、昇華転写の際にインクをリリースし難くなり転写対象物へのインク転写効率が低下するという可能性が考えられるが、本願の沈降法シリカと特定のバインダとの組み合わせにおいては、寧ろ転写対象物へのインク転写効率が向上するという結果が得られた。
この理由は定かではないが、インクジェット記録を行った際に表層であるインク受理層に含まれたカチオン性樹脂がインク受理層にインクを留め、、インクが昇華転写用シートのシート状基材まで浸透することを防ぐため、インクは表層に留められて昇華転写の際にリリースされやすくなり、インク転写効率が向上するのではないかと推察される。
本願において、インク受理層に含有させるカチオン性樹脂の含有量としては、特に限定するものではないが、バインダ100重量部に対して5乃至80重量部であることが好ましい。カチオン性樹脂の配合量が5重量部を下回るとインク固着性を満足できず、結果的にインク転写効率を満足に向上できない虞がある。逆にカチオン性樹脂の配合量が80重量部を上回ると相対的にインク受理層中のバインダ比率が低下し、インク受理層の強度が弱くなる虞がある。
また、本願で用いるカチオン性樹脂の種類としては、通常のインクジェット記録用紙においてインク定着剤として用いられるカチオン性樹脂を用いることができる。例えば、ポリジメチルアンモニウム系樹脂、ポリジアリルジメチルアンモニウム系樹脂、ポリアミン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアミンエピクロルヒドリン系樹脂、ポリアミドエピクロルヒドリン系樹脂、ポリジアリルアミン系樹脂、ポリジメチルアミンエピクロルヒドリン系樹脂、ポリエチレンイミン系樹脂、ポリアリルアミン系樹脂、ジシアンジアミド縮合物、ポリアミジン系樹脂、等のカチオン系高分子樹脂を選択して適宜使用することができる。これらのカチオン系高分子樹脂の中でいずれを用いるかについては特に限定するものではないが、昇華転写の際の転写対象物へのインク転写効率がよいという点で、ポリジメチルアミンエピクロルヒドリン縮合物を用いることが特に望ましい。
また、本発明のインク受理層には、目的とする効果を損なわない範囲で、消泡剤、増粘剤、pH調整剤、潤滑剤、分散剤、湿潤剤、染料、等の当該技術分野で用いられる公知の添加剤を適宜用いてもよい。
本発明において、シート状基材にインク受理層を形成するための塗工装置としては特に限定されるものではなく、当該技術分野にて一般に用いられる公知の塗工装置を適宜使用できる。例えば、ブレードコータ、エアーナイフコータ、ロールコータ、リバースロールコータ、カーテンコータ、バーコータ、グラビアコータ、ビルブレードコータ、等を用いることが可能である。
また、本発明の昇華転写用シートにおいて、インク受理層の塗工量はインク受理層固形分として片面あたり3〜12g/m2であることが好ましい。インク受理層の塗工量が3g/m2に満たないと、インクジェットインクの吸収性が充分確保できないなど、インクジェットプリンタによる画像記録適性を満足できない虞がある。一方、インク受理層の塗工量が12g/m2を超えると、塗工層の厚みが増すことから、柔軟性が損なわれるなどして昇華転写用シートとして取り扱い難くなる虞がある。
本発明の昇華転写用シートに用いるシート状基材としては特に限定するものではなく、パルプを主成分とする紙や、フィルム、不織布、合成紙など、インク受理層を設けることができるシート状基材より適宜選定することが可能であるが、インクジェットプリンタでの搬送性などを考慮するとパルプを主成分とする紙を用いることが好ましい。また、シート状基材の坪量についても特に限定するものではなく、印刷を行うインクジェットプリンタに適用可能な範囲で適宜選択すればよい。パルプを主成分とする紙をシート状基材として用いる場合は、各種強度などを考慮して50〜200g/m2の範囲とすることが好ましい。
以下に本発明に係る昇華転写用シートの実施例について具体的に説明するが、これによって本発明が限定されるものではない。また、実施例中の部及び%は、断らない限り乾燥重量部及び重量%を示す。尚、各実施例及び比較例で用いた沈降法シリカの、吸油量、及び100Å以下の細孔半径を有する細孔容積の全細孔容積に対する割合(以下、微細孔径割合と表記する)は、以下の方法により求めた。
[吸油量]
JIS K5101−13における精製アマニ油を用いた測定方法により吸油量を測定した。
[微細孔径割合]
各沈降法シリカの細孔分布を、水銀ポロシメータ(Pascal440/株式会社アムコ製)を用い、細孔半径22〜60000Åの範囲で水銀圧入法により測定した。得られた細孔分布表から微細孔径割合を求めた。各沈降法シリカの細孔分布表が図2〜図8に示されている。図2〜8に示された細孔分布表は、それぞれ以下の沈降法シリカの細孔分布表である。
図2:シリカ1(ニップシールK−500/東ソー・シリカ株式会社製、微細孔径割合:12.77%)
図3:シリカ2(ニップシールHD/東ソー・シリカ株式会社製、微細孔径割合:13.74%)
図4:シリカ3(ニップシールE−200A/東ソー・シリカ株式会社製、微細孔径割合:0.65%)
図5:シリカ4(ニップシールE−150J/東ソー・シリカ株式会社製、微細孔径割合:0.52%)
図6:シリカ5(ニップシールE−75/東ソー・シリカ株式会社製、微細孔径割合:0.1%)
図7:シリカ6(ニップシールE−743/東ソー・シリカ株式会社製、微細孔径割合:0.2%)
図8:シリカ7(ニップシールE−74P/東ソー・シリカ株式会社製、微細孔径割合:0.2%)
図2〜図8において、横軸は細孔半径(Å)である。縦軸の右軸に記されている目盛りは細孔容積(%)を表す棒グラフの目盛りであり、棒グラフはそれぞれの細孔の細孔容積を細孔半径毎に累積した数値を表している。縦軸の左軸に記されている目盛りは累積容積(cc/g)を表す折れ線グラフの目盛りであり、折れ線グラフは各細孔半径毎の細孔の割合に基づいて算出した各シリカ中の細孔の累積容積を示すものであり、細孔半径の大きい方から順に累積されている。図2〜8に示されたシリカ1〜7のうち、微細孔径割合が1%で以下であるシリカ3〜7については、細孔半径が100Å以下である微細孔径の割合が少ないことがわかり、中でもシリカ5〜7については特に微細孔径の割合が少ないことが明らかである。
<実施例1>
顔料として、微細孔径割合が12.77%、吸油量が300ml/100gである沈降法シリカ(ニップシールK−500/東ソー・シリカ株式会社製)100重量部を水中に添加して充分に攪拌した後、バインダとして酸化デンプン(SK−20/日本コーンスターチ株式会社製)100重量部、カチオン性樹脂としてポリアミジン系樹脂(ハイマックスSC−700/ハイモ株式会社製)30重量部を添加し、更に増粘剤1重量部を加えて混合し、インク受理層用塗料を得た。得られたインク受理層用塗料を、米坪80g/m2の晒クラフト紙(晒クラフト紙/紀州製紙株式会社製)の一方の面に、コーティングロッドによって塗工量が固形分で8.0g/m2となるように塗工し、目的とする昇華転写用シートを得た。なお、インク受理層用塗料の塗工に用いた「コーティングロッド」とは紙の試作の際などに用いる手塗り用の塗工器具であり、表面に細かい溝が掘られた長さ30センチ程度の金属棒である。
<実施例2>
実施例1において、バインダを完全ケン化型ポリビニルアルコール(JF−17/日本酢ビ・ポバール株式会社製)100重量部に変更した以外は実施例1と同様にして昇華転写用シートを得た。
<実施例3>
実施例1において、バインダをリン酸エステル化デンプン(エースP−260/王子コーンスターチ株式会社製)100重量部に変更した以外は実施例1と同様にして昇華転写用シートを得た。
<実施例4>
実施例1において、バインダをシラノール変性ポリビニルアルコール(クラレRポリマー/株式会社クラレ製)100重量部に変更した以外は実施例1と同様にして昇華転写用シートを得た。
<実施例5>
実施例1において、バインダを酸化デンプン(SK−20/日本コーンスターチ株式会社製)50重量部と完全ケン化型ポリビニルアルコール(JF−17/日本酢ビ・ポバール株式会社製)50重量部に変更した以外は実施例1と同様にして昇華転写用シートを得た。
<実施例6>
実施例1において、カチオン性樹脂であるポリアミジン系樹脂(ハイマックスSC−700/ハイモ株式会社製)の添加量を5重量部に変更した以外は実施例1と同様にして昇華転写用シートを得た。
<実施例7>
実施例1において、カチオン性樹脂であるポリアミジン系樹脂(ハイマックスSC−700/ハイモ株式会社製)の添加量を80重量部に変更した以外は実施例1と同様にして昇華転写用シートを得た。
<実施例8>
実施例1において、カチオン性樹脂をポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド縮合物(ユニセンスCP−102/センカ株式会社製)30重量部に変更した以外は実施例1と同様にして昇華転写用シートを得た。
<実施例9>
顔料として、微細孔径割合が13.74%、吸油量が240ml/100gである沈降法シリカ(ニップシールHD/東ソー・シリカ株式会社製)100重量部を水中に添加して充分に攪拌した後、バインダとしてシラノール変性ポリビニルアルコール(クラレRポリマー/株式会社クラレ製)100重量部、カチオン性樹脂としてポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド縮合物(ユニセンスCP−102/センカ株式会社製)30重量部を添加し、更に増粘剤1重量部を加えて混合し、インク受理層用塗料を得た。得られたインク受理層用塗料を、米坪80g/m2の晒クラフト紙(晒クラフト紙/紀州製紙株式会社製)の一方の面に、コーティングロッドによって塗工量が固形分で8.0g/m2となるように塗工し、目的とする昇華転写用シートを得た。
<実施例10>
実施例9において、バインダを酸化デンプン(SK−20/日本コーンスターチ株式会社製)50重量部と、完全ケン化型ポリビニルアルコール(JF−17/日本酢ビ・ポバール株式会社製)50重量部に変更した以外は実施例9と同様にして昇華転写用シートを得た。
<実施例11>
実施例1において、顔料を微細孔径割合が0.65%、吸油量が230ml/100gである沈降法シリカ(ニップシールE−200A/東ソー・シリカ株式会社製)100重量部に変更した以外は実施例1と同様にして昇華転写用シートを得た。
<実施例12>
実施例9において、顔料を微細孔径割合が0.52%、吸油量が200ml/100gである沈降法シリカ(ニップシールE−150J/東ソー・シリカ株式会社製)140重量部に変更した以外は実施例9と同様にして昇華転写用シートを得た。
<実施例13>
実施例9において、顔料を微細孔径割合が0.52%、吸油量が200ml/100gである沈降法シリカ(ニップシールE−150J/東ソー・シリカ株式会社製)300重量部に変更し、バインダをリン酸エステル化デンプン(エースP−260/王子コーンスターチ株式会社製)100重量部に変更した以外は実施例9と同様にして昇華転写用シートを得た。
<実施例14>
実施例1において、カチオン性樹脂をポリジメチルアミンエピクロルヒドリン縮合物(WSC−173/明成化学工業株式会社製)30重量部に変更した以外は実施例1と同様にして昇華転写用シートを得た。
<実施例15>
実施例9において、カチオン性樹脂をポリジメチルアミンエピクロルヒドリン縮合物(WSC−173/明成化学工業株式会社製)30重量部に変更した以外は実施例9と同様にして昇華転写用シートを得た。
<実施例16>
顔料として、微細孔径割合が0.1%、吸油量が120ml/100gである沈降法シリカ(ニップシールE−75/東ソー・シリカ株式会社製)250重量部を水中に添加して充分に攪拌した後、バインダとしてリン酸エステル化デンプン(エースP−260/王子コーンスターチ株式会社製)100重量部、カチオン性樹脂としてポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド縮合物(ユニセンスCP−102/センカ株式会社製)30重量部を添加し、更に増粘剤1重量部を加えて混合し、インク受理層用塗料を得た。得られたインク受理層用塗料を、米坪80g/m2の晒クラフト紙(晒クラフト紙/紀州製紙株式会社製)の一方の面に、コーティングロッドによって塗工量が固形分で8.0g/m2となるように塗工し、目的とする昇華転写用シートを得た。
<実施例17>
実施例16において、顔料として用いた微細孔径割合が0.1%、吸油量が120ml/100gである沈降法シリカ(ニップシールE−75/東ソー・シリカ株式会社製)の配合量を170重量部に変更した以外は実施例16と同様にして昇華転写用シートを得た。
<実施例18>
実施例16において、顔料を微細孔径割合が0.2%、吸油量が155ml/100gである沈降法シリカ(ニップシールE−743/東ソー・シリカ株式会社製)160重量部に変更した以外は実施例16と同様にして昇華転写用シートを得た。
<実施例19>
実施例16において、顔料を微細孔径割合が0.2%、吸油量が180ml/100gである沈降法シリカ(ニップシールE−74P/東ソー・シリカ株式会社製)150重量部に変更した以外は実施例16と同様にして昇華転写用シートを得た。
<実施例20>
実施例16において、顔料を微細孔径割合が0.2%、吸油量が180ml/100gである沈降法シリカ(ニップシールE−74P/東ソー・シリカ株式会社製)100重量部に変更した以外は実施例16と同様にして昇華転写用シートを得た。
<実施例21>
実施例1において、顔料を微細孔径割合が0.65%、吸油量が230ml/100gである沈降法シリカ(ニップシールE−200A/東ソー・シリカ株式会社製)に変更し、カチオン性樹脂をポリジメチルアミンエピクロルヒドリン縮合物(WSC−173/明成化学工業株式会社製)に変更した以外は実施例1と同様にして昇華転写用シートを得た。
<実施例22>
実施例1において、顔料を微細孔径割合が0.52%、吸油量が200ml/100gである沈降法シリカ(ニップシールE−150J/東ソー・シリカ株式会社製)140重量部に変更し、バインダをシラノール変性ポリビニルアルコール(クラレRポリマー/株式会社クラレ製)100重量部に変更し、カチオン性樹脂をポリジメチルアミンエピクロルヒドリン縮合物(WSC−173/明成化学工業株式会社製)30重量部に変更した以外は実施例1と同様にして昇華転写用シートを得た。
<実施例23>
顔料として、微細孔径割合が0.1%、吸油量が120ml/100gである沈降法シリカ(ニップシールE−75/東ソー・シリカ株式会社製)170重量部を水中に添加して充分に攪拌した後、バインダとしてリン酸エステル化デンプン(エースP−260/王子コーンスターチ株式会社製)100重量部、カチオン性樹脂としてポリジメチルアミンエピクロルヒドリン縮合物(WSC−173/明成化学工業株式会社製)30重量部を添加し、更に増粘剤1重量部を加えて混合し、インク受理層用塗料を得た。得られたインク受理層用塗料を、米坪80g/m2の晒クラフト紙(晒クラフト紙/紀州製紙株式会社製)の一方の面に、コーティングロッドによって塗工量が固形分で8.0g/m2となるように塗工し、目的とする昇華転写用シートを得た。
<実施例24>
顔料として、微細孔径割合が0.2%、吸油量が180ml/100gである沈降法シリカ(ニップシールE−74P/東ソー・シリカ株式会社製)150重量部を水中に添加して充分に攪拌した後、バインダとしてリン酸エステル化デンプン(エースP−260/王子コーンスターチ株式会社製)100重量部、カチオン性樹脂としてポリジメチルアミンエピクロルヒドリン縮合物(WSC−173/明成化学工業株式会社製)30重量部を添加し、更に増粘剤1重量部を加えて混合し、インク受理層用塗料を得た。得られたインク受理層用塗料を、米坪80g/m2の晒クラフト紙(晒クラフト紙/紀州製紙株式会社製)の一方の面に、コーティングロッドによって塗工量が固形分で8.0g/m2となるように塗工し、目的とする昇華転写用シートを得た。
<比較例1>
実施例23において、顔料を吸油量が180ml/100gであるゲル法シリカ(ガシルIJ45/イネオスシリカ社製)150重量部に変更した以外は実施例23と同様にして昇華転写用シートを得た。
<比較例2>
実施例23において、顔料を吸油量が215ml/100gであるゲル法シリカ(ニップジェルBY6A1/東ソー・シリカ株式会社製)100重量部に変更した以外は実施例23と同様にして昇華転写用シートを得た。
<比較例3>
実施例23において、バインダをエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂(スミカフレックス305HQ/住友化学株式会社製)100重量部に変更した以外は実施例23と同様にして昇華転写用シートを得た。
<比較例4>
実施例23において、バインダをスチレン−アクリル共重合体(サイビノールUC−404/サイデン化学株式会社製)100重量部に変更した以外は実施例23と同様にして昇華転写用シートを得た。
<比較例5>
実施例23において、バインダをスチレン−ブタジエン系共重合体ラテックス(RL−500/旭化成株式会社製)100重量部に変更した以外は実施例23と同様にして昇華転写用シートを得た。
<比較例6>
実施例23において、カチオン性樹脂を添加しなかった以外は実施例23と同様にして昇華転写用シートを得た。
実施例1〜24、比較例1〜6で得られた昇華転写用シートのインク転写効率の評価結果を図9,10に示す。図9,10中のバインダの種類は、それぞれ以下の通りである。
A:酸化デンプン(SK−20/日本コーンスターチ株式会社製)
B:完全ケン化型ポリビニルアルコール(JF−17/日本酢ビ・ポバール株式会社製)
C:リン酸エステル化デンプン(エースP−260/王子コーンスターチ株式会社製)
D:シラノール変性ポリビニルアルコール(クラレRポリマー/株式会社クラレ製)
E:エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂(スミカフレックス305HQ/住友化学株式会社製)
F:スチレン−アクリル共重合体(サイビノールUC−404/サイデン化学株式会社製)
G:スチレン−ブタジエン系共重合体ラテックス(RL−500/旭化成株式会社製)
また、インク転写効率の評価は以下の方法により行った。
[インク転写効率]
各実施例及び比較例で得られた昇華転写用シートのインク受理層形成面に、インクジェットプリンタ(PX−9500/セイコーエプソン株式会社製)を用いて画像を記録した。インクは何れも昇華型インクジェットインク(SPC−0493Y,M,C,K/株式会社ミマキエンジニアリング製)を用いた。次いで、昇華転写用シートのインク受理層上に記録した画像部とポリエステルからなる布とを重ね合わせた状態で、ホットプレス機(SHINTO式プレス機/株式会社神藤金属工業所製)にて200℃×2.5kg/cm2の条件で5分間熱圧処理し、昇華転写用シートに記録した画像を布に昇華転写させた。布に転写された画像の発色濃度と、昇華転写用シートに残存するインクの濃度との両方を目視にて確認し、1〜6の6段階で評価した。布に転写された画像の発色濃度が高く、昇華転写用シートに残存するインクの濃度が低く、特にインク転写効率が良いと判断できるものを6とし、逆に、布に転写された画像の発色濃度が低く、昇華転写用シートに残存するインクの濃度が高く、特にインク転写効率が悪いと判断できるものを1とした。この評価では、インク転写効率の評価が2以上の昇華転写用シートを合格とした。
[組成についての検証]
図9,10から明らかなように、実施例1〜24で得られた昇華転写用シートはインク転写効率が2〜6であり、何れもインク転写効率が合格レベルにあるものであった。実施例6で得られた昇華転写用シートは、カチオン性樹脂の添加量が比較的少なかった為、ややインク転写効率に劣る結果となったが、実用上問題のない合格レベルであった。実施例7で得られた昇華転写用シートは、カチオン性樹脂の添加量が比較的多かった為、相対的にバインダ比率が低下し、やや塗工層強度が弱かったが、実用上問題なく、インク転写効率も合格レベルであった。
一方、比較例1及び比較例2では吸油量が180〜215ml/100gであるゲル法シリカを用いたが、これらの比較例で得られた昇華転写用シートは、シリカの製法以外はほぼ同条件である実施例24で得られた昇華転写用シートと比較して転写効率の面で顕著に劣る結果となった。これは、インク受理層に用いる顔料としてゲル法シリカを用いたためであると推測される
また、インク受理層に用いるバインダとして、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂を用いた比較例3、スチレン−アクリル共重合体を用いた比較例4、スチレン−ブタジエン系共重合体ラテックスを用いた比較例5、で得られた昇華転写用シートは、バインダ以外は実施例23と同条件であるにも拘わらず何れもインク転写効率が著しく劣る結果となった。これは、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂、スチレン−アクリル共重合体、スチレン−ブタジエン系共重合体ラテックスの各バインダが、沈降法シリカと相性が悪いことが要因ではないかと推測される。
更に、インク受理層にカチオン性樹脂を配合しなかった比較例6で得られた昇華転写用シートも、カチオン性樹脂の配合の有無以外は実施例23と同条件であるにも拘わらずインク転写効率が著しく劣る結果となった。これは、カチオン性樹脂を配合しなかったことが要因であると思われる。
以上の結果より、インク受理層には、顔料として沈降法シリカを用い、バインダとしてデンプン、デンプン誘導体、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコールの何れか1種又はこれら2種以上の混合物を用い、更にカチオン性樹脂を含有させることが好ましいことがわかる。尚、実施例1〜24で得た何れの昇華転写用シートについても、インク受理層に顔料を配合したことから水性インクの吸収性に優れ、滲みなどのない鮮明な記録画像を得ることができた。
[シリカの微細孔径割合についての検証]
次に、沈降法シリカの微細孔径割合について検証を行う。実施例1と実施例11は、沈降法シリカの微細孔径割合、吸油量以外は同条件だが、微細孔径割合が0.65%である沈降法シリカを用いた実施例11で得られた昇華転写用シートは、微細孔径割合が12.77%である沈降法シリカを用いた実施例1で得られた昇華転写用シートよりもインク転写効率に優れる結果となった。
同様に、実施例9と実施例12は、沈降法シリカの微細孔径割合、吸油量以外は同条件だが、微細孔径割合が0.52%である沈降法シリカを用いた実施例12で得られた昇華転写用シートは、微細孔径割合が13.74%である沈降法シリカを用いた実施例9で得られた昇華転写用シートよりもインク転写効率に優れる結果となった。
更に、微細孔径割合が0.52%である沈降法シリカを用いた実施例13で得られた昇華転写用シートも、微細孔径割合が12.77〜13.74%である沈降法シリカを用いた実施例1〜10で得られた昇華転写用シートよりもインク転写効率に優れる結果となった。
これらの結果より、インク受理層に使用する沈降法シリカの細孔径割合は小さいほどインク転写効率の向上に効果があるものと考えられ、微細孔径割合が1%以下の沈降法シリカを用いることが最も好ましいものと思われる。
[シリカの吸油量と配合量についての検証]
次に、沈降法シリカの吸油量とインク受理層への配合量について検証する。実施例16〜20では、吸油量が120〜180ml/100gであるシリカをバインダ100重量部あたり100〜250重量部配合しており、実施例11〜13では、吸油量が200〜230ml/100gであるシリカをバインダ100重量部あたり100〜300重量部配合している。その結果として、実施例16〜20で得られた昇華転写用シートは、実施例11〜13で得られた昇華転写用シートと比べてインク転写効率に優れるものとなった。
以上の結果より、吸油量が120〜180ml/100gである沈降法シリカを使用することでインク転写効率がより向上するものと考えられ、その際の沈降法シリカの添加量は、バインダ100重量部に対して100〜250重量部が好ましいものと思われる。
[カチオン性樹脂の種類についての検証]
次に、インク受理層に添加するカチオン性樹脂の種類について検証を行う。実施例1と実施例14は使用したカチオン性樹脂の種類以外は同条件だが、カチオン性樹脂としてポリジメチルアミンエピクロルヒドリン縮合物を用いた実施例14で得られた昇華転写用シートは、カチオン性樹脂としてポリアミジン系樹脂を用いた実施例1で得られた昇華転写用シートよりインク転写効率に優れる結果となった。このことから、本願に用いるカチオン性樹脂としては、ポリアミジン系樹脂よりもポリジメチルアミンエピクロルヒドリン縮合物が適していると言える。
同様に、実施例9と実施例15は使用したカチオン性樹脂の種類以外は同条件だが、カチオン性樹脂としてポリジメチルアミンエピクロルヒドリン縮合物を用いた実施例15で得られた昇華転写用シートは、カチオン性樹脂としてポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド縮合物を用いた実施例9で得られた昇華転写用シートよりインク転写効率に優れる結果となった。このことから、本願に用いるカチオン性樹脂としては、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド縮合物よりもポリジメチルアミンエピクロルヒドリン縮合物が適していると言える。
更に、実施例11と実施例21は使用したカチオン性樹脂の種類以外は同条件だが、カチオン性樹脂としてポリジメチルアミンエピクロルヒドリン縮合物を用いた実施例21で得られた昇華転写用シートは、カチオン性樹脂としてポリアミジン系樹脂を用いた実施例11で得られた昇華転写用シートよりインク転写効率に優れる結果となった。また、実施例12と実施例22は使用したカチオン性樹脂の種類以外は同条件だが、カチオン性樹脂としてポリジメチルアミンエピクロルヒドリン縮合物を用いた実施例22で得られた昇華転写用シートは、カチオン性樹脂としてポリアミジン系樹脂を用いた実施例12で得られた昇華転写用シートよりインク転写効率に優れる結果となった。これらのことから、本願に用いるカチオン性樹脂としては、ポリアミジン系樹脂よりもポリジメチルアミンエピクロルヒドリン縮合物が適していると言える。
これらの結果より、本願の昇華転写用シートにおいては、カチオン性樹脂としてポリジメチルアミンエピクロルヒドリン縮合物を用いることで、更なるインク転写効率の向上に効果があるものと思われる。
実施例1〜24、及び比較例1〜6の中で特にインク転写効率に優れていたのは、インク受理層に、微細孔径割合が0.1%であり、吸油量が120ml/100gである沈降法シリカを、バインダ100重量部あたり170重量部添加し、カチオン性樹脂としてポリジメチルアミンエピクロルヒドリン縮合物を用いた実施例23で得られた昇華転写用シート、及び、インク受理層に、微細孔径割合が0.2%であり、吸油量が180ml/100gである沈降法シリカを、バインダ100重量部あたり150重量部添加し、カチオン性樹脂としてポリジメチルアミンエピクロルヒドリン縮合物を用いた実施例24で得られた昇華転写用シートであった。
以上述べたように、本発明によれば、水性インクの吸収性に優れ、滲みなどのない鮮明な記録画像を得ることができ、更には昇華転写の際の転写対象物へのインク転写効率のよい、昇華転写用シートを得ることが可能である。本願の昇華転写用シートを用いて転写対象物にプリントされた画像は、昇華転写用シートから転写対象物へのインクの転写効率が高いため非常に鮮明である。
また、インクジェット式プリンタでプリントされるためオンデマンドなどの小ロットの用途にも適しており、スポーツ競技用のユニフォーム、Tシャツ、タペストリー、のぼりなど、様々な用途への使用に好適である。
11 昇華転写用シート
12 昇華性インク
13 転写対象物

Claims (3)

  1. 昇華性染料を含有するインクを使用し、インクジェット式プリンタにより、所定の昇華転写用シート上に所望情報をプリントしたのち、このプリント済の昇華転写用シートを任意の転写対象物に押し当て加熱することで、前記昇華転写用シートから前記転写対象物へと前記所望情報を転写プリントさせるようにした昇華転写プリントシステムに適用される昇華転写用シートであって、
    シート状基材と、
    前記シート状基材の片面又は両面に設けられるインク受理層とを包含し、
    前記インク受理層には、顔料とバインダとカチオン性樹脂とが含まれており、
    前記顔料としては、沈降法シリカが使用され、かつ
    前記バインダとしては、デンプン、デンプン誘導体、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコールの何れか1種又はそれら2種以上の混合物が使用され、
    前記カチオン性樹脂としては、ポリジメチルアミンエピクロルヒドリン縮合物が用いられ、
    前記沈降法シリカとしては、吸油量が120乃至180ml/100gである沈降法シリカを用い、前記インク受理層中に前記バインダ100重量部に対して100乃至250重量部配合する、ことを特徴とする昇華転写用シート。
  2. 前記沈降法シリカは、水銀圧入法により測定した細孔分布において、100Å以下の細孔半径を有する細孔容積の割合が、全細孔容積に対して1%以下であることを特徴とする請求項1に記載の昇華転写用シート。
  3. 前記シート状基材はパルプを主成分とするものであり、坪量が50〜200g/m2であることを特徴とする請求項1又は2に記載の昇華転写用シート。
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