1.位相差フィルム
本発明の位相差フィルムは、セルロースエステルと、第一の糖エステル化合物とを含み;第一の糖エステル化合物が、カルボキシル基を含む特定の糖エステル化合物であることを特徴とする。
セルロースエステルについて
セルロースエステルは、セルロースの低級脂肪酸エステルであることが好ましく、その例には、セルローストリアセテート、セルロースジアセテート、セルロースアセテートブチレートおよびセルロースアセテートプロピオネートなどが含まれる。セルロースエステルは、一種類だけで用いられてもよいし、二種類以上を組み合わせて用いられてもよい。
セルロースエステルのアシル基置換度は、2.0〜3.0であることが好ましく、延伸により位相差を発現しやすくするためには、2.1〜2.5であることがより好ましい。セルロースエステルのアシル基置換度は、ASTM−D817−96に準じて測定することができる。
セルロースエステルのアシル基のうち、アセチル基の置換度は1.5〜2.5であることが好ましい。
セルロースエステルのアシル基のうち、アセチル基以外のアシル基は、炭素原子数3〜4のアシル基であることが好ましい。アセチル基以外の炭素原子数3〜4のアシル基の例には、プロピオニル基およびブチリル基が含まれ、好ましくはプロピオニル基である。
セルロースエステルの重量平均分子量(Mw)は、1×105〜2×105であることが好ましく、1.3×105〜1.6×105であることがより好ましい。セルロースエステルの分子量分布(数平均分子量(Mn)/重量平均分子量(Mw))は、1.0以上5.0未満であることが好ましく、2.5以上4.0未満であることがより好ましい。
セルロースエステルの平均分子量および分子量分布は、高速液体クロマトグラフィーにより測定することができる。
測定条件は以下の通りである。
溶媒:メチレンクロライド
カラム:Shodex K806、K805、K803G(昭和電工(株)製)を3本接続して使用する。
カラム温度:25℃
試料濃度:0.1質量%
検出器:RI Model 504(GLサイエンス社製)
ポンプ:L6000(日立製作所(株)製)
流量:1.0ml/min
校正曲線:標準ポリスチレンSTK standardポリスチレン(東ソー(株)製)Mw=1.0×106〜5.0×102までの13サンプルによる校正曲線を使用する。13サンプルは、ほぼ等間隔に選択することが好ましい。
セルロースエステルの粘度平均重合度は、200〜800であることが好ましく、250〜650であることがより好ましく、250〜450であることがさらに好ましく、250〜400であることが特に好ましい。セルロースエステルの粘度平均重合度は、宇田らの極限粘度法(宇田和夫、斉藤秀夫、繊維学会誌、第18巻第1号、105〜120頁、1962年)に従って測定することができる。粘度平均重合度の測定方法は、特開平9−95538号公報にも記載されている。
セルロースエステルの25℃における溶液粘度は、好ましくは15〜140Pa・sであり、より好ましくは30〜90Pa・sである。セルロースエステル溶液の溶液粘度は、JIS Z 8803に準拠して、B型粘度計 型式VS−A1(芝浦システム株式会社)により測定することができる。
溶液の調液方法は、0℃以上の温度(常温または高温)で調製する方法と、低温で調製する冷却調液方法と、がある。0℃以上の温度で調製する場合は、有機溶媒としてハロゲン化炭化水素(特にメチレンクロリド)を用いることが好ましい。具体的な溶液の調製方法は、セルロースエステル以外の成分(可塑剤など)を含まないようにする以外は、後述する位相差フィルムの製造方法におけるドープの調製方法と同様とすることができる。
セルロースエステルは、公知の方法で合成することができる。具体的には、セルロースと、少なくとも酢酸または無水酢酸を含む、炭素原子数3以上の有機酸またはその無水物と、をエステル化反応させて合成することができる(特開平10−45804号に記載の方法を参照)。
原料となるセルロースは、例えば綿花リンター、木材パルプ(針葉樹由来、広葉樹由来)およびケナフなどを用いることができる。
セルロースエステルは、市販品であってもよい。市販品としてのセルロースエステルの例には、L20、L30、L40およびL50(ダイセル化学工業(株));Ca398−3、Ca398−6、Ca398−10、Ca398−30およびCa394−60S(イーストマンケミカル社)などが含まれる。
第一の糖エステル化合物について
第一の糖エステル化合物は、糖の水酸基と、多価カルボン酸に含まれる2以上のカルボキシル基の一部のみとを反応させて得られる糖エステル化合物である。
第一の糖エステル化合物における糖は、ヘキソースおよびその誘導体、ペントースおよびその誘導体、ならびにテトロースおよびその誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種を構成糖として含む単糖または多糖でありうる。これらの糖は、D体であっても、L体であってもよい。
ヘキソースの例には、グルコース、フラクトース、ガラクトース、およびマンノースが含まれる。ペントースの例には、キシロース、およびアラビノースが含まれる。テトロースの例には、エリトロースおよびトレオースなどが含まれる。なかでも、セルロースエステルとの相溶性を高めるためには、ヘキソースが好ましく、ヘキソースのなかでも、セルロースエステルの構成糖と同じ構造を有するグルコースがより好ましい。
第一の糖エステル化合物における糖は、水溶性が高く、粘度が低い点などから、構成糖の数が1である単糖、および構成糖の数が2〜10であるオリゴ糖であることが好ましい。糖エステル化合物における構成糖の数は、1〜5であることが好ましく、1〜3であることがより好ましく、1〜2であることがさらに好ましい。
構成糖の数が2である糖(二糖類)の好ましい例には、マルトース、イソマルトース、セロビオース、ショ糖、ラミナリビオース、キシロビオース、キトビオース、ソホロース、ゲンチオビオースおよびトレハロース等が含まれる。構成糖の数が3である糖(三糖類)の好ましい例には、マルトトリオース、イソマルトトリオースセロトリオース、ラフィノース、およびキシロトリオース等が含まれる。
多価カルボン酸は、2以上のカルボキシル基と、炭素原子数5〜16のアルキレン基と、を有する。
多価カルボン酸における炭素原子数5〜16のアルキレン基は、炭素原子数5〜10のアルキレン基であることが好ましく、炭素原子数6〜10のアルキレン基であることがより好ましい。炭素原子数が5未満であると、後述のように、セルロースエステル分子間に十分な空間を形成できないだけでなく、流延ベルトからの十分な剥離性も得られにくい。一方、炭素原子数が16を超えると、セルロースエステルとの相溶性が低下しやすい。
炭素原子数5〜16のアルキレン基は、直鎖状であっても分岐状であってもよいが、セルロースエステルを含むフィルム表面に十分な疎水性を付与する、またはセルロースエステル分子間に十分な空間を形成するためには、直鎖状であることが好ましい。
多価カルボン酸の好ましい例には、ジカルボン酸およびトリカルボン酸が含まれる。ジカルボン酸の例には、ピメリン酸(炭素原子数7)、スベリン酸(炭素原子数8)、アゼライン酸(炭素原子数9)、セバシン酸(炭素原子数10)、ドデカン二酸(炭素原子数12)、テトラデカン二酸(炭素原子数14)、ヘキサデカン二酸(炭素原子数16)、オクタデカン二酸(炭素原子数18)、およびシクロヘキサンジカルボン酸(炭素原子数8)等が含まれる。トリカルボン酸の例には、1,3,6−ヘキサメチレントリカルボン酸等が含まれる。なかでも、多価カルボン酸は、分子鎖のコンホメーションが多様であることから、ジカルボン酸であることが好ましい。
第一の糖エステル化合物は、前述の通り、原料である糖と多価カルボン酸とをエステル化反応させて得ることができる。エステル化反応させる方法は、リパーゼやプロテアーゼ等の酵素を用いて脱水縮合する方法;酸触媒またはアルカリ触媒を用いて脱水縮合する方法;多価カルボン酸のカルボキシル基をメチルエステル化した後、エステル交換反応させて糖とエステル化反応させる方法等が挙げられる。
このようにして得られる第一の糖エステル化合物は、糖の水酸基と、多価カルボン酸に含まれる2以上のカルボキシル基の一部のみとを反応させて得られるエステル結合を有し、当該エステル結合を介して結合した炭素原子数5〜16のアルキレン基と、1以上の(未反応)カルボキシル基と、を有する。
第一の糖エステル化合物における糖がグルコース(単糖)である場合、糖エステル化合物の平均置換度は、相溶性を確保するためには、3以下であることが好ましく、1であることがより好ましい。第一の糖エステル化合物は、通常、置換率の異なる糖エステル化合物の混合物であるが、その主成分は、グルコースと多価カルボン酸とを1:1のモル比で反応させて得られる糖エステル化合物であることが好ましい。糖エステル化合物の置換度とは、1分子の糖に含まれる多価カルボン酸でエステル化された水酸基の数である。
第一の糖エステル化合物の構造は、公知の方法によって解析することができる。例えば、第一の糖エステル化合物の化学構造は、高分解能NMR(BRUKER製 ADVANCE400 400MHz)を用いて、一次元NMR(1H-NMR、13H-NMR)を測定することにより同定することができる。さらに、それぞれのスペクトルの帰属は、CH-COSYによる二次元NMRにより求めることができる。
第一の糖エステル化合物における糖がグルコース(単糖)である場合、多価カルボン酸とエステル結合する水酸基は、少なくとも6位の炭素原子に結合する水酸基(C6位の水酸基)を含むことが好ましい。グルコースに含まれる水酸基のうちC6位の水酸基のみが1級の水酸基であるため、この部分がエステル化することで、結合した炭素原子数5〜16のアルキル基やカルボキシル基等のコンホメーションが多様になるからである。
第一の糖エステル化合物に含まれる(未反応)カルボキシル基は、1以上であり、好ましくは1〜2であり、より好ましくは1である。糖エステル化合物に含まれる(未反応)カルボキシル基が多すぎると、糖の水酸基との水素結合が強くなりすぎて、ドープ粘度が高くなることがあるためである。
このように構成される第一の糖エステル化合物は、それを含むウェブを、高倍率でも均一に延伸することができる。それにより、均一なレターデーション値を有するフィルムを得ることができる。
また、第一の糖エステル化合物は、セルロースエステルと類似した糖骨格を有するため、セルロースエステルと相溶しやすい。また、第一の糖エステル化合物は、炭素原子数5〜16のアルキレン基を有するため、セルロースエステルと混合されると、セルロースエステル分子同士に適度な空間を形成しやすい。そのため、第一の糖エステル化合物を、セルロースエステル分子中に適度な空間を形成させつつ、微分散させることができる。それにより、ウェブを高倍率で延伸しても、ヘイズの増大を抑制することができる。
さらに、第一の糖エステル化合物は、(未反応の)カルボキシル基を有する。(未反応の)カルボキシル基は、セルロースエステルの水酸基側に配置され、炭素原子数5〜16のアルキレン基は、セルロースエステル分子の外側に配置されやすい。それにより、セルロースエステルの表面に、炭素原子数5〜16のアルキレン基が局在化しやすくなり、剥離性が高められると考えられる。
第一の糖エステル化合物の含有量は、セルロースエステルに対して0.01〜35質量%であることが好ましく、0.01〜20質量%であることがより好ましい。第一の糖エステル化合物の含有量が0.01質量%未満であると、前述のような第一の糖エステル化合物の効果を十分には得ることができず、35質量%を超えると、ドープの粘度が高くなるだけでなく、セルロースエステルの添加剤の総量が多すぎてブリードアウトしやすくなるためである。
なかでも、第一の糖エステル化合物を可塑剤として機能させる場合には、第一の糖エステル化合物の含有量は、セルロースエステルに対して1〜35質量%であることが好ましく、1〜20質量%であることがより好ましい。第一の糖エステル化合物の含有量が1質量%未満であると、可塑剤としての効果を十分に得ることができないためである。
一方、第一の糖エステル化合物を剥離剤として機能させる場合には、第一の糖エステル化合物の含有量は、セルロースエステルに対して0.01〜1質量%であることが好ましい。第一の糖エステル化合物の含有量が0.01質量%未満であると、剥離剤としての効果を十分に得ることができない。
第二の糖エステル化合物について
本発明の位相差フィルムは、第二の糖エステル化合物をさらに含んでもよい。第二の糖エステル化合物は、一般式(1)で示される化合物であることが好ましい。一般式(1)で示される化合物は、可塑剤として好ましく機能しうるだけでなく、セルロースエステルとの相溶性も高いからである。
式(1)のR1〜R8は、置換もしくは無置換のアルキルカルボニル基、または置換もしくは無置換のアリールカルボニル基を表わす。R1〜R8は、互いに同じであっても、異なってもよい。
置換もしくは無置換のアルキルカルボニル基は、炭素原子数2以上の置換もしくは無置換のアルキルカルボニル基であることが好ましい。置換もしくは無置換のアルキルカルボニル基の例には、メチルカルボニル基(アセチル基)が含まれる。アルキル基が有する置換基の例には、フェニル基などのアリール基が含まれる。
置換もしくは無置換のアリールカルボニル基は、炭素原子数7以上の置換もしくは無置換のアリールカルボニル基であることが好ましい。アリールカルボニル基の例には、フェニルカルボニル基が含まれる。アリール基が有する置換基の例には、メチル基などのアルキル基が含まれる。
一般式(1)で示される第二の糖エステル化合物の平均置換度は、セルロースエステルとの相溶性を確保するためには、3以上であることが好ましく、3〜6であることがより好ましい。
一般式(1)で示される第二の糖エステル化合物の具体例には、以下のものが含まれる。表中のRは、一般式(1)におけるR
1〜R
8を表す。
一般式(1)で示される第二の糖エステル化合物の含有量は、セルロースエステルに対して1〜40質量%であることが好ましく、5〜30質量%であることがより好ましく、5〜20質量%であることがさらに好ましい。
第一の糖エステル化合物と一般式(1)で示される第二の糖エステル化合物との合計含有量は、セルロースエステルに対して1〜35質量%であることが好ましい。
他の可塑剤について
本発明の位相差フィルムは、他の可塑剤をさらに含んでもよい。他の可塑剤の好ましい例には、一般式(2)で示される化合物などが含まれる。
一般式(2)
B−(G−A)n−G−B
一般式(2)中、Aは、炭素原子数4〜12のアルキレンジカルボン酸から誘導される2価の基または炭素原子数6〜12のアリールジカルボン酸から誘導される2価の基を表す。Bは、水素原子またはカルボン酸から誘導される1価の基を表す。Gは、炭素原子数2〜12のアルキレングリコールから誘導される2価の基、炭素原子数6〜12のアリールグリコールから誘導される2価の基、または炭素原子数が4〜12のオキシアルキレングリコールから誘導される2価の基を表す。nは、1以上の整数を表す。
Aの、炭素原子数4〜12のアルキレンジカルボン酸から誘導される2価の基の例には、1,2-エタンジカルボン酸、1,3-プロパンジカルボン酸、1,4-ブタンジカルボン酸などから誘導される2価の基が含まれる。Aにおける炭素原子数6〜12のアリールジカルボン酸から誘導される2価の基の例には、1,2-ベンゼンジカルボン酸(フタル酸)、1,3-ベンゼンジカルボン酸、1,4-ベンゼンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸などのナフタレンジカルボン酸などから誘導される2価の基が含まれる。
Bの、カルボン酸から誘導される1価の基の例には、安息香酸やトルイル酸などの芳香族カルボン酸、酢酸などの脂肪族カルボン酸などから誘導される1価の基が含まれる。
Gの、炭素原子数2〜12のアルキレングリコールから誘導される2価の基の例には、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,2-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール(3,3-ジメチロールペンタン)、2-n-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール(3,3-ジメチロールヘプタン)、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、および1,12-オクタデカンジオール等から誘導される2価の基が含まれる。
Gの、炭素原子数6〜12のアリールグリコールから誘導される2価の基の例には、1,2-ジヒドロキシベンゼン(カテコール)、1,3-ジヒドロキシベンゼン(レゾルシノール)、1,4-ジヒドロキシベンゼン(ヒドロキノン)などから誘導される2価の基が含まれる。Gにおける炭素原子数が4〜12のオキシアルキレングリコールから誘導される2価の基の例には、ジエチレングルコール、ジプロピレングリコールなどから誘導される2価の基が含まれる。
一般式(2)で表されるエステル化合物の例には、以下のものが含まれる。
一般式(2)で示される化合物の含有量は、セルロースエステルに対して1〜40質量%であることが好ましく、5〜30質量%であることがより好ましく、5〜20質量%であることがさらに好ましい。
位相差フィルムに含まれる他の可塑剤の例には、多価アルコールエステル系可塑剤、多価カルボン酸エステル系可塑剤(フタル酸エステル系可塑剤を含む)、グリコレート系可塑剤、エステル系可塑剤(脂肪酸エステル系可塑剤を含む)、およびアクリル系可塑剤なども含まれる。これらは、単独で用いても、二種類以上を組み合わせて用いてもよい。二種類以上を組み合わせて用いる場合は、少なくとも一種類は、多価アルコールエステル系可塑剤であることが好ましい。
多価アルコールエステル系可塑剤は、2価以上の脂肪族多価アルコールと、モノカルボン酸とのエステル化合物(アルコールエステル)であり、好ましくは2〜20価の脂肪族多価アルコールエステルである。多価アルコールエステル系化合物は、分子内に芳香環またはシクロアルキル環を有することが好ましい。
2価のアルコールエステル系可塑剤の例には、以下のものが含まれる。
3価以上のアルコールエステル系可塑剤の例には、以下のものが含まれる。
多価カルボン酸エステル系可塑剤は、2価以上、好ましくは2〜20価の多価カルボン酸と、アルコール化合物とのエステル化合物である。多価カルボン酸は、2〜20価の脂肪族多価カルボン酸であるか、3〜20価の芳香族多価カルボン酸または3〜20価の脂環式多価カルボン酸であることが好ましい。
多価カルボン酸エステル系可塑剤の分子量は、特に制限はないが、300〜1000であることが好ましく、350〜750であることがより好ましい。多価カルボン酸エステル系可塑剤の分子量は、ブリードアウトを抑制する観点では、大きいほうが好ましく;透湿性やセルロースエステルとの相溶性の観点では、小さいほうが好ましい。
多価カルボン酸エステル系可塑剤の例には、トリエチルシトレート、トリブチルシトレート、アセチルトリエチルシトレート(ATEC)、アセチルトリブチルシトレート(ATBC)、ベンゾイルトリブチルシトレート、アセチルトリフェニルシトレート、アセチルトリベンジルシトレート、酒石酸ジブチル、酒石酸ジアセチルジブチル、トリメリット酸トリブチル、ピロメリット酸テトラブチル等が含まれる。
多価カルボン酸エステル系可塑剤は、フタル酸エステル系可塑剤であってもよい。フタル酸エステル系可塑剤の例には、ジエチルフタレート、ジメトキシエチルフタレート、ジメチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、ジオクチルフタレート、ジシクロヘキシルフタレート、ジシクロヘキシルテレフタレート等が含まれる。
グリコレート系可塑剤の例には、アルキルフタリルアルキルグリコレート類が含まれる。アルキルフタリルアルキルグリコレート類の例には、メチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルプロピルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート、オクチルフタリルオクチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、エチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルメチルグリコレート、ブチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルオクチルグリコレート、エチルフタリルオクチルグリコレート、オクチルフタリルメチルグリコレート、オクチルフタリルエチルグリコレート等が含まれる。
エステル系可塑剤には、脂肪酸エステル系可塑剤、クエン酸エステル系可塑剤やリン酸エステル系可塑剤などが含まれる。
脂肪酸エステル系可塑剤の例には、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチル、およびセバシン酸ジブチル等が含まれる。クエン酸エステル系可塑剤の例には、クエン酸アセチルトリメチル、クエン酸アセチルトリエチル、およびクエン酸アセチルトリブチル等が含まれる。リン酸エステル系可塑剤の例には、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ジフェニルビフェニルホスフェート、トリオクチルホスフェート、およびトリブチルホスフェート等が含まれる。
これらの他の可塑剤の含有量は、セルロースエステルに対して1〜40質量%であることが好ましい。
各種添加剤について
位相差フィルムは、必要に応じて各種添加剤をさらに含んでもよい。添加剤の例には、レターデーション調整剤、紫外線吸収剤および酸化防止剤などが含まれる。
レターデーション調整剤は、特に制限されないが、棒状化合物または円盤状化合物であることが好ましい。
棒状化合物は、一以上の芳香族環、好ましくは二以上の芳香族環を有し、かつ直線的な分子構造を有することが好ましい。棒状化合物は、下記一般式(3)で表されることが好ましい。
一般式(3) Ar1−L1−Ar2
式(3)において、Ar1およびAr2は、それぞれ独立に、芳香族基である。芳香族基の例には、置換もしくは無置換のアリール基、または置換もしくは無置換の芳香族性ヘテロ環基が含まれ、好ましくは置換または無置換のアリール基である。
芳香族性へテロ環基における芳香族性ヘテロ環は、5員環、6員環または7員環であることが好ましく、5員環または6員環であることがより好ましい。芳香族性ヘテロ環におけるヘテロ原子は、窒素原子、酸素原子および硫黄原子が好ましく、窒素原子および硫黄原子がより好ましい。
芳香族性へテロ環の例には、フラン環、チオフェン環、ピロール環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、イミダゾール環、ピラゾール環、フラザン環、トリアゾール環、ピラン環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、および1,3,5−トリアジン環が含まれる。
アリール基および芳香族性ヘテロ環基が有する置換基の例には、ハロゲン原子、シアノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、アミノ基、アルキル置換アミノ基、アシル基、アシルオキシ基、アミド基、アルコキシカルボニル基、アルコキシ基、アルキルチオ基およびアルキル基等が含まれる。
式(3)において、L1は、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、二価の飽和ヘテロ環基、または−O−、−CO−およびそれらの組み合わせからなる群より選ばれる二価の連結基である。
組み合わせからなる二価の連結基の例を示す。
L−1:−O−CO−アルキレン基−CO−O−
L−2:−CO−O−アルキレン基−O−CO−
L−3:−O−CO−アルケニレン基−CO−O−
L−4:−CO−O−アルケニレン基−O−CO−
L−5:−O−CO−アルキニレン基−CO−O−
L−6:−CO−O−アルキニレン基−O−CO−
L−7:−O−CO−二価の飽和ヘテロ環基−CO−O−
L−8:−CO−O−二価の飽和ヘテロ環基−O−CO−
アルキレン基は、環状アルキレン基であっても、鎖状アルキレン基であってもよい。環状アルキレン基の例にはシクロヘキシレンが含まれ、好ましくは1,4−シクロへキシレンである。鎖状アルキレン基は、直鎖状または分岐状であってよく、好ましくは直鎖状である。アルキレン基の炭素原子数は、1〜20であることが好ましく、1〜15であることがより好ましく、1〜10であることがさらに好ましく、1〜8であることがさらに好ましく、1〜6であることが特に好ましい。
アルケニレン基およびアルキニレン基は、前述と同様に、環状構造または鎖状構造を有し、好ましくは鎖状構造を有する。鎖状構造は、直鎖状または分岐状であってよく、好ましくは直鎖状である。アルケニレン基およびアルキニレン基の炭素原子数は2〜10であることが好ましく、2〜8であることがより好ましく、2〜6であることがさらに好ましく、2〜4であることがさらに好ましい。
二価の飽和ヘテロ環基は、3員〜9員のヘテロ環を有することが好ましい。ヘテロ環のヘテロ原子は、酸素原子、窒素原子、ホウ素原子、硫黄原子、ケイ素原子、リン原子またはゲルマニウム原子が好ましい。飽和ヘテロ環の例には、ピペリジン環、ピペラジン環、モルホリン環、ピロリジン環、イミダゾリジン環、テトラヒドロフラン環、テトラヒドロピラン環、1,3−ジオキサン環、1,4−ジオキサン環、テトラヒドロチオフェン環、1,3−チアゾリジン環、1,3−オキサゾリジン環、1,3−ジオキソラン環、1,3−ジチオラン環及び1,3,2−ジオキサボロランが含まれる。二価の飽和ヘテロ環基の好ましい例には、ピペラジン−1,4−ジイレン、1,3−ジオキサン−2,5−ジイレン及び1,3,2−ジオキサボロラン−2,5−ジイレンである。
棒状化合物は、下記一般式(4)で表される化合物であることがより好ましい。
一般式(4) Ar1−L2−X−L3−Ar2
式(4)において、Ar1およびAr2は、式(3)のAr1およびAr2と同様に定義される。
式(4)において、L2およびL3は、それぞれ独立に、アルキレン基、−O−、−CO−およびそれらの組み合わせからなる群より選ばれる二価の連結基である。アルキレン基は、環状アルキレン基であっても、鎖状アルキレン基であってもよいが、鎖状アルキレン基であることが好ましい。鎖状アルキレン基は、直鎖状であっても、分岐状であってもよいが、好ましくは直鎖状である。アルキレン基の炭素原子数は、1〜10であることが好ましく、1〜8であることがより好ましく、1〜6であることがさらに好ましく、1〜4であることがさらに好ましく、1または2(メチレン又はエチレン)であることが特に好ましい。L2およびL3は、−O−CO−または−CO−O−であることが最も好ましい。
式(4)において、Xは、1,4−シクロへキシレン基、ビニレン基またはエチニレン基である。
棒状化合物の溶液の紫外線吸収スペクトルの最大吸収波長(λmax)は、250nmより短波長であることが好ましい。
式(3)または(4)で表される化合物の例には、トランス−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸エステル化合物等が含まれる。その他の具体例には、特許第4552591号公報に記載された化合物などが含まれる。
円盤状化合物は、1,3,5−トリアジン環を有する化合物であることが好ましい。1,3,5−トリアジン環を有する化合物は、下記一般式(5)で表される化合物であることが好ましい。
式(5)において、X1〜X3は、それぞれ独立して、単結合、−NR−、−O−または−S−である。−NR−におけるRは、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基または複素環基であり、好ましくは水素原子である。R1〜R3は、アルキル基、アルケニル基、アリール基または複素環基であり、好ましくはアリール基である。X1〜X3およびR1〜R3は、それぞれ同一であっても異なってもよいが、同一であることが好ましい。
式(5)で表される化合物は、X1〜X3が、それぞれ独立して−NR−または単結合であり、かつR1〜R3が窒素原子に遊離原子価を持つ複素環基である、メラミン化合物であることが好ましい。
RおよびR1〜R3のアルキル基は、環状アルキル基であっても、鎖状アルキル基であってもよいが、鎖状アルキル基であることが好ましい。鎖状アルキル基は、直鎖状であっても分岐状であってもよいが、直鎖状であることが好ましい。アルキル基の炭素原子数は、1〜30であることが好ましく、1〜20であることがより好ましく、1〜10であることがさらに好ましく、1〜8であることがさらに好ましく、1〜6であることが特に好ましい。アルキル基は、置換基を有していてもよい。
アルキル基が有する置換基の例には、ハロゲン原子、アルコキシ基(例えばメトキシ基、エトキシ基、エポキシエチルオキシ基等)およびアシルオキシ基(例えば、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基)等が含まれる。
RおよびR1〜R3のアルケニル基は、環状アルケニル基であっても鎖状アルケニル基であってもよいが、好ましくは鎖状アルケニル基である。鎖状アルケニル基は、分岐状であっても直鎖状であってもよいが、好ましくは直鎖状である。アルケニル基の炭素原子数は、2〜30であることが好ましく、2〜20であることがより好ましく、2〜10であることがさらに好ましく、2〜8であることがさらに好ましく、2〜6であることが特に好ましい。アルケニル基は、置換基を有していてもよい。
RおよびR1〜R3のアリール基は、フェニル基またはナフチル基であることが好ましく、フェニル基であることがより好ましい。その具体例には、フェニル基、α−ナフチル基、β−ナフチル基、4−メトキシフェニル基、3,4−ジエトキシフェニル基、4−オクチルオキシフェニル基および4−ドデシルオキシフェニル基等が含まれる。アリール基は置換基を有していてもよい。
アリール基が有する置換基の例には、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アリールオキシ基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニル基、アルケニルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、スルファモイル基、アルキル置換スルファモイル基、アルケニル置換スルファモイル基、アリール置換スルファモイル基、スルホンアミド基、カルバモイル、アルキル置換カルモイル基、アルケニル置換カルバモイル基、アリール置換カルバモイル基、アミド基、アルキルチオ基、アルケニルチオ基、アリールチオ基およびアシル基等が含まれる。
X1〜X3が−NR−、−O−または−S−である場合のR1〜R3が示す複素環基は、芳香族性を有することが好ましい。芳香族性を有する複素環基における複素環は、不飽和複素環である。複素環は、5員環、6員環または7員環であることが好ましく、5員環または6員環であることがより好ましく、6員環であることがさらに好ましい。複素環におけるヘテロ原子は、窒素原子、硫黄原子または酸素原子であることが好ましく、窒素原子であることがより好ましい。芳香族性を有する複素環の例には、ピリジン環が含まれる。
X
1〜X
3が単結合である場合のR
1〜R
3が示す複素環基は、窒素原子に遊離原子価を持つ複素環基であることが好ましい。窒素原子に遊離原子価を持つ複素環基とは、複素環を構成する元素に窒素原子が含まれ、かつ当該窒素原子が遊離原子価を有する複素環基を意味する。窒素原子に遊離原子価を持つ複素環基の具体例を示す。
1,3,5−トリアジン環を有する化合物の分子量は、300〜2000であることが好ましい。1,3,5−トリアジン環を有する化合物の沸点は、260℃以上であることが好ましい。沸点は、市販の測定装置(例えば、TG/DTA100、セイコー電子工業(株)製)を用いて測定することができる。
1,3,5−トリアジン環を有する化合物の例には、特許第4552591号公報に記載された化合物などが含まれる。
レターデーション調整剤の含有量は、セルロースエステルに対して1〜35質量%であることが好ましく、1〜20質量%であることがより好ましい。
紫外線吸収剤は、波長400nm以下の紫外線を吸収する化合物であり、好ましくは波長370nmでの光線透過率が10%以下、より好ましくは5%以下、さらに好ましくは2%以下である化合物である。
紫外線吸収剤の光線透過率は、紫外線吸収剤を適宜溶媒(例えばジクロロメタン、トルエンなど)に溶解した溶液を、常法により、分光光度計により測定することができる。分光光度計は、例えば、島津製作所社製の分光光度計UVIDFC−610、日立製作所社製の330型自記分光光度計、U−3210型自記分光光度計、U−3410型自記分光光度計、U−4000型自記分光光度計等を用いることができる。
紫外線吸収剤は、特に限定されないが、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、トリアジン系化合物、ニッケル錯塩系化合物および無機粉体などであってよい。透明性が高く、活性線硬化樹脂層の劣化を抑制するためには、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤およびベンゾフェノン系紫外線吸収剤が好ましく、さらに不要な着色を少なくするためには、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤がより好ましい。
紫外線吸収剤の具体例には、5-クロロ-2-(3,5-ジ-sec-ブチル-2-ヒドロキシルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、(2-2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-6-(直鎖および側鎖ドデシル)-4-メチルフェノール、2-ヒドロキシ-4-ベンジルオキシベンゾフェノン、2,4-ベンジルオキシベンゾフェノン、チヌビン109、チヌビン171、チヌビン234、チヌビン326、チヌビン327、チヌビン328(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)などのチヌビン類などが含まれる。
紫外線吸収剤の含有量は、紫外線吸収剤の種類などにもよるが、位相差フィルムの乾燥厚みが30〜100μmの場合は、セルロースエステルに対して0.01〜5質量%であることが好ましく、0.01〜3質量%であることがさらに好ましい。
酸化防止剤は、例えば高湿下における位相差フィルムの劣化を防止する機能を有する。具体的には、酸化防止剤は、セルロースエステルフィルムに含まれる残留溶媒中のハロゲンや、リン酸エステル系可塑剤に含まれるリン酸などによるセルロースエステルの分解を遅らせたり、防いだりしうる。
酸化防止剤は、ヒンダードフェノール系化合物であることが好ましい。ヒンダードフェノール系化合物の例には、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,6−ヘキサンジオール−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、2,2−チオ−ジエチレンビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N′−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレート等が含まれる。なかでも、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、およびトリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕が好ましい。
これらのヒンダードフェノール系化合物は、例えばN,N’−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル〕ヒドラジン等のヒドラジン系の金属不活性剤や、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト等のリン系加工安定剤などと併用してもよい。
酸化防止剤の含有量は、セルロースエステルに対する質量比で1ppm〜1.0%であることが好ましく、10〜1000ppmであることがより好ましい。
位相差フィルムは、取扱性を向上させるために、前述の無機微粒子や有機微粒子などを、マット剤としてさらに含んでもよい。マット剤は、セルロースエステルフィルムのヘイズの増大を少なくするためには、二酸化ケイ素であることが好ましい。
無機微粒子および有機微粒子の一次平均粒子径は、20nm以下であることが好ましく、5〜16nmであることがより好ましく、5〜12nmであることがさらに好ましい。
位相差フィルムの厚みは、特に制限されないが、10〜80μm程度とすることができ、好ましくは20〜60μmであり、より好ましくは30〜50μmである。
位相差フィルムの遅相軸とフィルムの幅方向とのなす角θは、液晶セルに応じて0°、45°、90°等に近い値をとりうる。後述のVA方式の液晶セルに適用される位相差フィルムの、遅相軸とフィルムの幅方向とのなす角θは、0°に近いことが好ましい。
位相差フィルムは、求められる光学補償効果に応じた位相差を有していればよい。例えば、VA方式の液晶セルの視野角依存性を低減するためには、セルロースアセテートフィルムの、面内方向におけるレターデーションRoは30〜150nmであることが好ましく、30〜70nmであることがより好ましい。また、厚み方向のレターデーションRthは、70〜300nmであることが好ましい。位相差フィルムのレターデーションRoおよびRthは、特に制限されないが、一般的には、延伸条件により調整することができる。
面内方向のレターデーション値Roおよび厚み方向のレターデーションRthは、以下の式で表される。
Ro=(nx−ny)×d
Rth={(nx+ny)/2−nz}×d
(d:フィルムの厚み(nm)、nx:フィルム面内の遅相軸方向の屈折率、ny:フィルム面内において、遅相軸に対して直交する方向の屈折率、nz:厚み方向におけるフィルムの屈折率)
面内方向のレターデーション値Ro、厚み方向のレターデーションRthおよび位相差フィルムの遅相軸とフィルムの幅方向とのなす角θは、自動複屈折計KOBRA−21ADH(王子計測機器(株)製)を用いて、23℃、55%RHの環境下で、波長590nmにて測定することができる。
位相差フィルムの可視光透過率は、90%以上であることが好ましく、93%以上であることがより好ましい。位相差フィルムの、JIS K−7136に準拠して測定される内部ヘイズは、0.05%以下であることが好ましく、0.03%以下であることがより好ましく、0.01%以下であることがより好ましい。
位相差フィルムの内部ヘイズは、JIS K−7136に準拠した方法;具体的には、以下の方法で測定することができる。
まず、ヘイズメーター(濁度計)(型式:NDH 2000、日本電色(株)製)を準備する。光源は、5V9Wのハロゲン球とし、受光部は、シリコンフォトセル(比視感度フィルター付き)とする。本発明では、フィルムの屈折率±0.05の屈折率の溶剤をフィルム界面とした場合に、上記装置により測定される位相差フィルムのヘイズが0.05以下であることが好ましい。
1)ブランクヘイズの測定
洗浄したスライドガラスの上に、グリセリンを一滴(0.05ml)滴下する。このとき、液滴に気泡が入らないように注意する。
次いで、滴下したグリセリンの上に、カバーガラスを載せる。カバーガラスは押さえなくてもグリセリンは広がる。
これにより得られるブランク測定用のサンプル(カバーガラス/グリセリン/スライドガラス)を、ヘイズメーターにセットして、ヘイズ1(ブランクヘイズ)を測定する。
2)位相差フィルムを含むサンプルのヘイズの測定
前記1)と同様にして、洗浄したスライドガラスの上にグリセリンを滴下する。
一方で、測定する位相差フィルムを、23℃55%RH下で5時間以上調湿する。次いで、滴下したグリセリンの上に、調湿した位相差フィルムを、気泡が入らないように載せる。
さらに、位相差フィルム上に0.05mlのグリセリンを滴下した後、カバーガラスをさらに載せる。
これにより得られる測定用のサンプル(カバーガラス/グリセリン/試料フィルム/グリセリン/スライドガラス)を、前述のヘイズメーターにセットして、ヘイズ2を測定する。
3)前記1)で得られたヘイズ1と、前記2)で得られたヘイズ2を、下記式に当てはめて、位相差フィルムのヘイズを算出する。
位相差フィルムの内部ヘイズ(%)=ヘイズ2(%)−ヘイズ1(%)
内部ヘイズの測定は、いずれも23℃55%RHの条件下にて行う。また、ヘイズの測定に用いるガラスは、MICRO SLIDE GLASS S9213 MATSUNAMIとする。また、グリセリンは、関東化学製 鹿特級(純度>99.0%)、屈折率1.47とする。
位相差フィルムの破断伸度は、10〜80%であることが好ましく、20〜50%であることがより好ましい。
位相差フィルムの表面には、レターデーション値をより高めるために、液晶層がさらに配置されてもよい。このような液晶層は、位相差フィルムの表面に配向膜を設けるステップ;液晶分子の種類によっては、必要に応じて配向膜にラビング処理(配向処理)を施すステップ;配向膜上に液晶層用塗布液を塗布した後、熱硬化または紫外線硬化させるステップ;を経て形成することができる。
2.位相差フィルムの製造方法
位相差フィルムは、任意の方法で製造されてよく、溶液流延法で製造されても、溶融流延法で製造されてもよい。薄膜で平面性の高いフィルムが得られるなどの観点から、溶液流延法で製造されることが好ましい。
位相差フィルムを溶液流延法により製造する工程は、1)少なくとも前述のセルロースエステルと、第一の糖エステル化合物とを溶剤に溶解させてドープを調製する工程、2)ドープを無端の金属支持体上に流延する工程、3)流延したドープを乾燥してウェブとする工程、4)ウェブを金属支持体から剥離する工程、5)ウェブを延伸して位相差フィルムを得る工程、6)位相差フィルムをさらに乾燥する工程、7)位相差フィルムを巻取る工程、を含む。
1)ドープを調製する工程について
前述のセルロースエステルと、第一の糖エステル化合物と、必要に応じてさらに第二の糖エステル化合物などの他の成分とを溶剤に溶解させてドープを調製する。ドープに含まれるセルロースエステルの濃度は、乾燥負荷を低減するためには高いことが好ましいが、セルロースエステルの濃度が高すぎると濾過しにくく、濾過精度が低下しやすくなる。このため、ドープに含まれるセルロースエステルの濃度は10〜35質量%であることが好ましく、15〜25質量%であることがより好ましい。
ドープに含まれる溶剤は、1種類でも2種以上を組み合わせたものでもよい。生産効率を高める観点では、セルロースエステルの良溶剤と貧溶剤を組み合わせて用いることが好ましい。良溶剤とは、セルロースエステルを単独で溶解する溶剤をいい、貧溶剤とは、セルロースエステルを膨潤させるか、または単独では溶解しないものをいう。そのため、良溶剤および貧溶剤は、セルロースエステルの平均アシル基置換度(アセチル基置換度)によって異なる。
良溶剤と貧溶剤を組み合わせて用いる場合、セルロースエステルの溶解性を高めるためには、良溶剤が貧溶剤よりも多いことが好ましい。良溶剤と貧溶剤の混合比率は、良溶剤が70〜98質量%であり、貧溶剤が2〜30質量%であることが好ましい。
良溶剤の例には、メチレンクロライド等の有機ハロゲン化合物、ジオキソラン類、アセトン、酢酸メチル、およびアセト酢酸メチルなどが含まれ、好ましくはメチレンクロライドまたは酢酸メチルなどである。貧溶剤の例には、メタノール、エタノール、n−ブタノール、シクロヘキサン、およびシクロヘキサノン等が含まれる。ドープ中には、水分が0.01〜2質量%含まれていることが好ましい。
セルロースエステルを溶剤に溶解させる方法は、一般的な方法であってよく、例えば加熱および加圧下で溶解させる方法、セルロースエステルに貧溶剤を加えて膨潤させた後、良溶剤をさらに加えて溶解させる方法、および冷却溶解法などでありうる。
なかでも、常圧における沸点以上に加熱できることから、加熱および加圧下で溶解させる方法が好ましい。具体的には、常圧下で溶剤の沸点以上であり、かつ加圧下で溶剤が沸騰しない範囲の温度に加熱しながら攪拌溶解すると、ゲルやママコと呼ばれる塊状未溶解物の発生を抑制できる。
加圧は、窒素ガス等の不活性気体を圧入する方法や、加熱して溶剤の蒸気圧を上昇させる方法などによって行うことができる。加熱は、外部から行うことが好ましく、例えばジャケットタイプのものは温度コントロールが容易であるため好ましい。
加熱温度は、セルロースエステルの溶解性を高める観点では、高いほうが好ましいが、高過ぎると、圧力を高める必要があり、生産性が低下する。このため、加熱温度は、45〜120℃であることが好ましく、60〜110℃がより好ましく、70℃〜105℃であることがさらに好ましい。圧力は、設定された加熱温度において、溶剤が沸騰しないような範囲に調整される。
得られるドープには、例えば原料であるセルロースエステルに含まれる不純物などの不溶物が含まれることがある。このような不溶物は、得られるフィルムにおいて輝点異物となりうる。このような不溶物等を除去するために、得られたドープを濾過することが好ましい。
ドープの濾過は、濾紙等の濾過材によって行われる。濾過材の絶対濾過精度は、ドープに含まれる不溶物等を高度に除去するためには小さいことが好ましいが、小さすぎると目詰まりが生じやすい。このため、濾過材の絶対濾過精度は、0.008mm以下であることが好ましく、0.001〜0.008mmであることがより好ましく、0.003〜0.006mmであることがさらに好ましい。
濾過材の種類は、通常の濾過材であってよく、ポリプロピレン、テフロン(登録商標)等のプラスチック製の濾過材や、ステンレススチール等の金属製の濾過材などでありうる。なかでも、繊維の脱落等が少ない観点から、金属製の濾過材が好ましい。
ドープの濾過は、濾過前後の差圧を少なくするために、ドープの調製と同様に、加熱および加圧下で行うことが好ましい。加熱温度も、ドープの調製と同様に、溶剤の常圧での沸点以上で、かつ加圧下で溶剤が沸騰しない範囲の温度とすることが好ましく、具体的には45〜120℃であることが好ましく、45〜70℃であることがより好ましく、45〜55℃であることがさらに好ましい。
濾圧は、低いことが好ましく、具体的には1.6MPa以下であることが好ましく、1.2MPa以下であることがより好ましく、1.0MPa以下であることがさらに好ましい。
ドープの濾過は、得られるフィルムにおける輝点異物の数が一定以下となるように行うことが好ましい。具体的には、径が0.01mm以上である輝点異物の数が、200個/cm2以下、好ましくは100個/cm2以下、より好ましくは50個/m2以下、さらに好ましくは0〜10個/cm2以下となるようにする。径が0.01mm以下である輝点異物も少ないことが好ましい。
フィルムの輝点異物の数は、以下の手順で測定することができる。
1)2枚の偏光板をクロスニコル状態に配置し、それらの間に得られたフィルムを配置する。
2)一方の偏光板の側から光を当てて、他方の偏光板の側から観察したときに、光が漏れてみえる点(異物)の数をカウントする。
2)ドープを流延する工程について
ドープが流延される金属支持体は、表面が鏡面仕上げされたものが好ましい。金属支持体の好ましい例は、ステンレススチールベルトや、鋳物で表面がメッキ仕上げされたドラムなどである。
ドープが流延される金属支持体の表面温度は、ウェブの乾燥速度を高めるためには高いことが好ましいが、高すぎるとウェブが発泡したり、ウェブの平滑性が低下したりすることがある。そのため、金属支持体の表面温度は、−50℃以上溶剤の沸点未満に設定されることが好ましい。ウェブの温度は、0〜55℃であることが好ましく、25〜50℃であることがさらに好ましい。
金属支持体の表面温度の制御方法は、特に制限されないが、温風または冷風を吹きかける方法や、温水を金属支持体の裏側に接触させる方法などであってよい。熱を効率的に伝達でき、金属支持体の温度が一定になるまでの時間を短くできる観点などから、温水を金属支持体の裏側に接触させる方法が好ましい。
3)流延したドープを乾燥する工程について
流延したドープを、残留溶媒が一定以下となるように乾燥させる。金属支持体からウェブを剥離するときのウェブの残留溶媒量は、得られるフィルムの平面性を高めるためには10〜150質量%であることが好ましく、20〜40質量%(低残存溶媒量)または60〜130質量%(高残存溶媒量)であることがより好ましく、20〜30質量%(低残存溶媒量)または70〜120質量%(高残存溶媒量)であることがさらに好ましい。
ウェブの残留溶媒量は、下記式で定義される。下記式において、Mは、製造中のウェブまたは製造後のフィルムから任意の時点で採取した試料の質量を示す。Nは、前記試料を115℃で1時間加熱した後の、試料の質量を示す。
残留溶媒量(質量%)={(M−N)/N}×100
4)ウェブを剥離する工程について
ウェブの剥離は、一般的な方法で行われるが、剥離ロールにより剥離することが好ましい。剥離ロールによる剥離は、ウェブが、金属支持体の下面に至り、ほぼ一巡したところで行うことが好ましい。ウェブの剥離張力は、300N/m以下とすることが好ましい。
ウェブの剥離は、前記3)の工程でウェブを乾燥した後、剥離する方法だけでなく、前記2)の工程の後に、乾燥させることなくキャスト膜を冷却して、残留溶媒を多く含む状態のままゲル化させた後に、剥離してもよい。
剥離されたウェブをさらに乾燥してもよい。剥離されたウェブの乾燥は、一般的に、ウェブを搬送させながら行うことができる。具体的には、剥離されたウェブを、上下に配置した多数のロールにより搬送しながら乾燥させるロール乾燥方式や、テンター方式などがある。
ウェブの乾燥方法は、特に制限されないが、一般的に、熱風、赤外線、加熱ロールおよびマイクロ波等で乾燥する方法であってよく、簡便である点から、熱風で乾燥する方法が好ましい。ウェブの乾燥温度は、40℃から200℃にかけて、段階的に高くすることが好ましい。
5)ウェブを延伸する工程について
ウェブの延伸により、所望の面内のレターデーション値Roおよび厚み方向のレターデーション値Rthを有する位相差フィルムを得る。位相差フィルムの面内のレターデーション値Roおよび厚み方向のレターデーション値Rthは、ウェブに掛かる張力の大きさを、少なくともウェブの搬送方向(ドープの流延方向)に対して垂直方向(幅方向)に調整することによって制御することができる。
ウェブの延伸は、少なくとも幅方向に延伸すればよく、一軸延伸であっても、二軸延伸であってもよい。また、ウェブの延伸は、幅方向またはドープの流延方向に対して斜め方向の延伸であってもよい。二軸延伸には、ウェブの搬送方向(縦方向)と幅方向(横方向)の両方に延伸することが含まれる。延伸は、逐次延伸であっても同時延伸であってもよい。
ウェブの延伸倍率は、互いに直交する方向に二軸延伸する場合には、最終的には幅方向(横方向)に1.1〜2.5倍とし、搬送方向(縦方向)に0.8〜1.5倍とすることが好ましく;幅方向(横方向)に1.2〜2.0倍とし、搬送方向(縦方向)に0.8〜1.0倍とすることがより好ましい。
ウェブの延伸温度は、120℃〜200℃であることが好ましく、150℃〜200℃あることがより好ましく、150℃を超えて190℃以下であることがさらに好ましい。
延伸されるウェブの残留溶媒は、20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることが好ましい。具体的には、延伸されるウェブの、155℃における残留溶媒が11質量%であること、もしくは155℃における残留溶媒が2質量%であることが好ましい。または、延伸されるウェブの、160℃における残留溶媒が11質量%であること、もしくは160℃で残留溶媒が1%未満であることがより好ましい。
ウェブの延伸方法は、特に制限されず、複数のロールに周速差をつけ、その間でロール周速差を利用して縦方向に延伸する方法(ロール延伸法)、ウェブの両端をクリップやピンで固定し、クリップやピンの間隔を縦方向に向かって広げて縦方向に延伸したり、横方向に広げて横方向に延伸したり、縦横同時に広げて縦横両方向に延伸する方法など(テンター延伸法)などが挙げられる。これらの延伸方法は、組み合わされてもよい。
テンター延伸法は、リニアドライブ方式でクリップ部分を駆動することが好ましい。クリップ部分の移動が滑らかであるため、延伸を行い易く、ウェブの破断を生じる危険性を低減できるからである。
ウェブの幅保持や横方向の延伸は、テンター法により行うことが好ましい。テンター法は、ピンテンター法でもクリップテンター法でもよい。
延伸により得られた位相差フィルムの幅は、1.0〜3.0mであることが好ましい。このような幅を有する位相差フィルムは、大画面の液晶ディスプレイの位相差フィルムとして適している。延伸により得られた位相差フィルムは、必要に応じてさらに乾燥された後、巻き取られる。
本発明では、ウェブに含まれる糖エステル化合物が、炭素原子数5〜16のアルキレン基と、(未反応の)カルボキシル基と、を有する。そのため、糖エステル化合物のカルボキシル基が、セルロースエステルの水酸基側に配置し、炭素原子数5〜16のアルキレン基が、セルロースエステル分子の外側に配置して、ウェブの表面に、炭素原子数5〜16のアルキレン基を局在化させることができる。それにより、前記4)のドープの剥離工程において、ウェブを流延ベルト表面から剥離し易くすることができると考えられる。それにより、特に高速で製膜したり、広幅に製造したり、長時間に亘って製膜したりするときでも、ウェブの剥離性が良好であるため、生産性を高めることができる。
さらに、糖エステル化合物は、セルロースエステルと類似した糖骨格を有するため、セルロースエステルと相溶しやすい。また、糖エステル化合物は、炭素原子数5〜16のアルキレン基を有するため、セルロースエステルと混合されると、セルロースエステル分子同士に適度な空間を形成しやすい。このため、ウェブにおいて、糖エステル化合物を、セルロースエステル中に適度な空間を形成しつつ微分散させることができる。そのため、前記5)のウェブの延伸工程において、ウェブを高倍率で延伸しても、ヘイズの増大が抑制される。これらにより、高倍率で延伸しても、ヘイズを増大させることなく、均一かつ高いレターデーション値を得ることができる。
3.偏光板
本発明の偏光板は、偏光子と、それを挟持する一対の偏光板保護フィルムとを有する。そして、一対の偏光板保護フィルムの少なくとも一方が、前述の位相差フィルムを含む。
偏光子について
偏光板を構成する偏光子は、一定方向の偏波面の光のみを通過させる素子である。偏光子の代表的な例は、ポリビニルアルコール系偏光フィルムであり、ポリビニルアルコール系フィルムにヨウ素を染色させたものと、二色性染料を染色させたものと、がある。
偏光子は、ポリビニルアルコール系フィルムを一軸延伸した後、ヨウ素または二色性染料で染色して得られるフィルムであってもよいし、ポリビニルアルコール系フィルムをヨウ素または二色性染料で染色した後、一軸延伸したフィルム(好ましくはさらにホウ素化合物で耐久性処理を施したフィルム)であってもよい。偏光子の厚さは、5〜30μmであることが好ましく、10〜20μmであることがより好ましい。
ポリビニルアルコール系フィルムは、ポリビニルアルコール水溶液を製膜したものであってもよい。ポリビニルアルコール系フィルムは、偏光性能および耐久性能に優れ、色斑が少ないなどことから、エチレン変性ポリビニルアルコールフィルムが好ましい。エチレン変性ポリビニルアルコールフィルムの例には、特開2003−248123号公報、特開2003−342322号公報等に記載されたエチレン単位の含有量1〜4モル%、重合度2000〜4000、けん化度99.0〜99.99モル%のフィルムが含まれる。
二色性色素の例には、アゾ系色素、スチルベン系色素、ピラゾロン系色素、トリフェニルメタン系色素、キノリン系色素、オキサジン系色素、チアジン系色素およびアントラキノン系色素などが含まれる。
偏光板保護フィルムについて
偏光子を挟持する一対の偏光板保護フィルムの少なくとも一方が、前述の位相差フィルムを含む。一対の偏光板保護フィルムの両方が、前述の位相差フィルムである場合、それらの位相差フィルムは、同一であっても異なってもよい。
前述の位相差フィルム以外の偏光板保護フィルムは、特に制限されず、通常のセルロースエステルフィルム等であってよい。セルロースエステルフィルムの市販品の例には、コニカミノルタ タック KC8UX、KC5UX、KC8UCR3、KC8UCR4、KC8UCR5、KC8UY、KC4UY、KC4UE、KC8UE、KC8UY−HA、KC8UX−RHA、KC8UXW−RHA−C、KC8UXW−RHA−NC、KC4UXW−RHA−NC、KC6UA、KC4UA、KC4UAW−H−C、KC4UASW−H−C、KC4CZ、KC4HR、KC4KR(コニカミノルタオプト(株)製)などが含まれる。
偏光板は、通常、偏光子と、前述の偏光板保護フィルムとを貼り合わせて製造することができる。貼り合わせに用いられる接着剤は、ポリビニルアルコール系接着剤や、ウレタン系接着剤などが挙げられ、なかでも偏光子との接着性に優れるポリビニルアルコール系接着剤が好ましい。
また、位相差フィルム以外の偏光板保護フィルムは、偏光子の表面に貼り合わされたフィルムに限らず、偏光子の表面に直接塗布形成された層であってもよい。
4.液晶表示装置
本発明の液晶表示装置は、液晶セルと、それを挟持する一対の偏光板と、を有する。そして、一対の偏光板のうち少なくとも一方が前述の偏光板である。
図1は、本発明に係る液晶表示装置の一実施形態の基本構成を示す模式図である。図1に示されるように、液晶表示装置10は、液晶セル20と、それを挟持する第一の偏光板40および第二の偏光板60と、バックライト80と、を有する。
液晶セル20の表示方式は、特に制限されず、TN(Twisted Nematic)方式、STN(Super Twisted Nematic)方式、IPS(In−Plane Switching)方式、OCB(Optically Compensated Birefringence)方式、VA(Vertical Alignment)方式等がある。コントラストが高いことなどの観点から、VA方式が好ましい。
第一の偏光板40は、視認側に配置されており、第一の偏光子42と、それを挟持する偏光板保護フィルム44(F1)および46(F2)と、を有する。第二の偏光板60は、バックライト80側に配置されており、第二の偏光子62と、それを挟持する偏光板保護フィルム64(F3)および66(F4)と、を有する。
これらの偏光板保護フィルム44(F1)、46(F2)、64(F3)および66(F4)のうち少なくとも一つが、前述の位相差フィルムである。光学補償を効果的に行うためには、液晶セル側に配置される偏光板保護フィルム46(F2)および64(F3)の少なくとも一方;特に偏光板保護フィルム64(F3)が、前述の位相差フィルムであることが好ましい。
前述の通り、本発明の位相差フィルムは、ヘイズが低く、かつ高いレターデーション値を有する。そのため、本発明の液晶表示装置は、コントラストが高く、かつ視野角特性が良好である。また、本発明の位相差フィルムは、均一なレターデーション値を有する。そのため、本発明の偏光板の偏光度ムラ、および液晶表示装置のコントラストのムラが低減される。これらにより、表示品位に優れた液晶表示装置を提供することができる。
以下において、実施例を参照して本発明をより詳細に説明する。これらの実施例によって、本発明の範囲は限定して解釈されない。
(2)第一の糖エステル化合物/その他
第一の糖エステル化合物およびその他の化合物を表3に示す。
(3)第二の糖エステル化合物/その他の化合物
3−1)一般式(1)で示される第二の糖エステル化合物
FA−2 :前述の表1の化合物FA−2(平均置換度4.2)
FA−6 :前述の表1の化合物FA−6(平均置換度4.0)
FA−7 :前述の表1の化合物FA−7(平均置換度5.5)
FA−11:前述の表1の化合物FA−11(平均置換度5.5)
FA−16:前述の表1の化合物FA−16(平均置換度6.0)
3−2)その他の化合物
TPP:下記式で示されるトリフェニルホスフェート
BDP:下記式で示されるビスフェノールAビス−ジフェニルホスフェート
(4)レターデーション調整剤
化合物a:下記式で示されるトリアジン系化合物
化合物b:下記式で示される棒状化合物(住友化学(株)製 スミソルブTM165)
化合物c:下記式で示されるトリアジン系化合物
化合物d:スチレンマレイン酸共重合体(サートマー社製 SMA1000P)
化合物e:フタル酸/コハク酸/エタンジオール(モル比:3/2/5)共重合体
2.位相差フィルムの製造
(実施例1)
11質量部の微粒子(アエロジル R972V 日本アエロジル(株)製)と、89質量部のエタノールとを、ディゾルバーで50分間攪拌混合した後、マントンゴーリンで分散させて微粒子分散液を得た。
溶解タンクに、99質量部のメチレンクロライドを投入して十分攪拌させながら、5質量部の前記微粒子分散液をゆっくりと添加した。得られた溶液を、二次粒子の粒径が所定の大きさとなるように、アトライターにより分散させた後、日本精線(株)製のファインメットNFにより濾過して、微粒子添加液を得た。
得られた微粒子添加液を用いて、下記で示される組成を有する主ドープ液を調製した。まず、加圧溶解タンクに、340質量部のメチレンクロライドと64質量部のエタノールを投入した。これらの溶剤に、さらに100質量部のセルロースアセテートCE−1(アシル基置換度2.05)と、0.25質量部の第一の糖エステル化合物A−2(前述)と、10質量部の一般式(1)で示される第二の糖エステル化合物FA−6(前述)と、4質量部の化合物a(前述)と、1質量部の微粒子添加剤とを攪拌しながら投入し、加熱下で攪拌して完全に溶解させた。得られた溶液を、安積濾紙(株)製の安積濾紙No.244を用いて濾過し、下記組成で示される主ドープ液を調製した。
(主ドープ液の組成)
メチレンクロライド 340質量部
エタノール 64質量部
セルロースアセテートCE−1(アシル基置換度2.05) 100質量部
第一の糖エステル化合物A−2 0.25質量部
第二の糖エステル化合物FA−6 10質量部
レターデーション調整剤 化合物a 4質量部
微粒子添加液 1質量部
得られた主ドープ液を、主ドープ液温度33℃の条件で、無端ベルト流延装置のステンレスベルト支持体上に均一に流延させた。ステンレスベルト支持体の表面温度は30℃とした。
次いで、ステンレスベルト支持体上に流延(キャスト)したキャスト膜中の残留溶媒量が75質量%になるまで溶媒を蒸発させた。得られたキャスト膜を、剥離張力130N/mで、ステンレスベルト支持体の表面から、剥離ロールにより剥離してウェブを得た。
得られたウェブを、160℃の熱をかけながらテンターを用いて幅方向(横方向)に延伸した。延伸倍率は46%(1.46倍)とした。延伸開始時のウェブ中の残留溶媒量は15質量%であった。
延伸したフィルムを、乾燥ゾーンに多数のロールで搬送させて、乾燥を終了させた。乾燥温度は130℃、搬送張力は100N/mとした。このようにして、幅2.45m、膜厚35μmの位相差フィルム101を得た。
(実施例2〜20)
主ドープ液の組成およびフィルムの延伸条件を、表4に示されるように変更した以外は実施例1と同様にして位相差フィルム102〜120を得た。
(比較例1〜6)
主ドープ液の組成およびフィルムの延伸条件を、表4に示されるように変更した以外は実施例1と同様にして位相差フィルム121〜126を得た。
(比較例7)
セルロースエステルを用いずに、ARTON(JSR(株)製、環状オレフィン樹脂)を用いて、表4に示されるように主ドープ液の組成を変更した以外は実施例1と同様にして位相差フィルム127を得た。
実施例1〜20および比較例1〜7で得られた位相差フィルム101〜127の、レターデーション値RoおよびRth、ならびに内部ヘイズを、以下の方法で測定した。それらの結果を表4に示す。
レターデーションの測定
得られた位相差フィルムの面内レターデーション値Roおよび厚み方向のレターデーション値Rthは、23℃、55%RHの条件下において、波長590nmの光で、自動複屈折計KOBRA−21ADH(王子計測機器)を用いて測定した。
内部ヘイズの測定
得られた位相差フィルムの内部ヘイズを、JIS K7136に準拠した、前述の方法により測定した。ヘイズメーターは、日本電色工業(株)製、NDH 2000を用いた。
実施例15と比較例4とを比較する。第一の糖エステル化合物A−3を含む実施例15の位相差フィルムは、第一の糖エステル化合物を含まない比較例4の位相差フィルムよりも、高倍率で均一に延伸できるため、高いレターデーション値が得られることがわかる。また、実施例15の位相差フィルムは、高倍率で延伸されたにも係わらず、内部ヘイズが低いことがわかる。
また、実施例8〜9と比較例1〜3とを比較する。第一の糖エステル化合物に含まれるアルキレン基の炭素原子数が5〜16の範囲を満たす実施例8〜9の位相差フィルムは、アルキレン基の炭素原子数が5未満である比較例1の位相差フィルムや、炭素原子数が16を超える比較例2の位相差フィルムと同等の延伸性およびレターデーション値を有するが、内部ヘイズが著しく低減されることがわかる。これは、アルキレン基の炭素原子数が5〜16であると、セルロースエステルとの相溶性に優れるだけでなく、セルロースエステル分子間に適度な空間を形成するためであると考えられる。また、糖骨格を有しないエステル化合物を含む比較例3の位相差フィルムは、エステル化合物とセルロースエステルとの相溶性が低いため、内部ヘイズが上昇したことが示唆される。
また、実施例1と比較例7とを比較する。セルロースエステルを含む実施例1の位相差フィルムは、セルロースエステルの代わりに環状オレフィン樹脂を含む比較例7の位相差フィルムよりも、延伸によって高いレターデーション値が得られ、かつ内部ヘイズが低いことがわかる。これにより、糖エステル化合物は、位相差フィルムの主成分としての樹脂がセルロースエステルであるときに、その作用を効果的に発揮できることがわかる。
さらに、実施例5と、実施例18および20とを比較する。セルロースエステルのアシル基置換度が2.5以下である実施例5の位相差フィルムは、セルロースエステルのアシル基置換度が2.5超である実施例18および20の位相差フィルムよりも、高倍率での延伸により高いレターデーション値が得られ、かつ内部ヘイズが低いことがわかる。このことから、アシル基置換度が2.5以下であるセルロースエステルは、レターデーションの発現性に優れるだけでなく、内部ヘイズが低減されやすいことがわかる。
さらに、実施例7と実施例17とを比較する。その他の可塑剤として、一般式(1)で示される化合物を用いた実施例7の位相差フィルムのほうが、ホスフェート化合物を用いた実施例17の位相差フィルムよりも内部ヘイズが低いことがわかる。これは、一般式(1)で示される第二の糖エステル化合物は、セルロースエステルに対する相溶性がホスフェート化合物よりも高いためであると考えられる。
さらに、実施例1〜10の位相差フィルムを製造する際、比較例1〜6の位相差フィルムを製造したときよりも、ウェブを流延ベルトから剥離しやすいことがわかった。このことから、第一の糖エステル化合物は、ウェブの剥離性を高める効果も有することがわかった。
3.偏光板および液晶表示装置の作製
(実施例21)
偏光子の作製
厚さ75μmのポリビニルアルコールフィルムを、35℃の水で膨潤させた。得られたフィルムを、ヨウ素0.075g、ヨウ化カリウム5gおよび水100gからなる水溶液に60秒間浸漬し;さらに、ヨウ化カリウム3g、ホウ酸7.5gおよび水100gからなる45℃の水溶液に浸漬した。そして、得られたフィルムを、延伸温度55℃、延伸倍率5倍の条件で一軸延伸した。この一軸延伸フィルムを、水洗した後、乾燥して偏光子を得た。
偏光板の作製
1) 偏光板保護フィルムF2(またはF3)として、表4の位相差フィルム101を準備し、偏光板保護フィルムF1(またはF4)として、セルローストリアセテートフィルムKC4UA(コニカミノルタ(株)製、膜厚40μm)を準備した。これらのフィルムを、予め45℃の2mol/Lの水酸化ナトリウム溶液に90秒間浸漬させて鹸化処理した後、水洗し、乾燥させた。
2) 前述の偏光子を、固形分2質量%のポリビニルアルコール接着剤溶液に1〜2秒間浸漬させた。
3) 偏光子に付着した過剰のポリビニルアルコール接着剤を軽く拭き取った。その後、前記1)で鹸化処理したフィルムを、偏光子のそれぞれの面に配置し、セルローストリアセテートフィルムKC4UA(コニカミノルタ(株)製)/偏光子/位相差フィルム101の積層物を得た。
4) 得られた積層物を、ロール機により、圧力20〜30N/cm2、搬送スピード2m/分で貼り合わせた。貼り合わせた積層物を、2分間乾燥させて偏光板とした。同様にして、偏光板を2つ作製した。
液晶表示装置の作製
SONY製40型ディスプレイBRAVIA−KDL−40EX700(開口率53%)を準備した。そして、この液晶ディスプレイの液晶セルの両面に取り付けられていた2枚の偏光板を剥がしとった。そして、液晶セルのそれぞれの面に前記作製した偏光板を取り付けた。これにより、開口率が53%の液晶表示装置を得た。
得られた液晶表示装置のコントラストのムラ、および視野角特性を以下の方法で評価した。
1)コントラストのムラ
液晶表示装置を、23℃95%RHで48時間保存した。保存後の液晶表示装置を、23℃55%RHの環境下でバックライトを1時間連続点灯させた後、正面コントラストを測定した。
正面コントラストの測定は、以下の手順で行った。
i)液晶表示装置を白表示させたときの表示画面の正面輝度(表示画面の法線方向から測定される輝度)を、ELDIM社製 EZ−Contrast160Dにより測定した。同様にして、液晶表示装置を黒表示させたときの表示画面の正面輝度を測定した。
ii)黒表示させたときの表示画面の正面輝度に対する、白表示させたときの表示画面の正面輝度の比を正面コントラストとした。
正面コントラスト=(白表示させたときの正面輝度)/(黒表示させたときの正面輝度)
前述のようにして、液晶表示装置の表示画面における任意の10点の正面コントラストを測定した。そして、得られた10点の正面コントラストの平均値を求めた。さらに、得られた10点の正面コントラストのうち、平均値との差が最大となる正面コントラストの最大値を求めた。そして、以下の式から、正面コントラストのばらつき(%)を求めた。
正面コントラストのばらつき(%)={(正面コントラストの最大値)−(正面コントラストの平均値)}/(正面コントラストの平均値)×100
正面コントラストのばらつきの評価は、以下の基準で行った。
◎:正面コントラストのばらつきが1%未満であり、ムラもない
○:正面コントラストのばらつきが1%以上5%未満であり、ムラが小さい
△:正面コントラストのばらつきが5%以上10%未満であり、ムラがややある
×:正面コントラストのばらつきが10%以上であり、ムラが大きい
2)視野角特性
液晶表示装置を、23℃95%RHで48時間保存した。保存後の液晶表示装置を、23℃55%RHの環境下でバックライトを1時間連続点灯させた後、表示画面の法線方向に対して60°斜め方向のコントラストを測定した。
60°斜め方向のコントラストの測定は、以下の手順で行った。
i)液晶表示装置を白表示させたときの表示画面の60°斜め方向の輝度(表示画面の法線方向に対して60°の角度で測定される輝度)を、ELDIM社製 EZ−Contrast160Dにより測定した。同様にして、液晶表示装置を黒表示させたときの表示画面の60°斜め方向の輝度を測定した。
ii)黒表示させたときの表示画面の60°斜め方向の輝度に対する、白表示させたときの表示画面の60°斜め方向の輝度の比を「60°斜め方向のコントラスト」とした。
60°斜め方向のコントラスト=(白表示させたときの60°斜め方向の輝度)/(黒表示させたときの60°斜め方向の輝度)
60°斜め方向のコントラストの評価は、以下の基準で行った。
◎:60°斜め方向のコントラストが100以上
○:60°斜め方向のコントラストが90以上100未満
△:60°斜め方向のコントラストが80以上90未満
×:60°斜め方向のコントラストが80未満
(実施例22〜40)
偏光板保護フィルムF2およびF3を、表5に示されるように変更した以外は、実施例21と同様にして偏光板および液晶表示装置を作製し、それらの評価を行った。
(比較例8〜14)
偏光板保護フィルムF2およびF3を、表5に示されるように変更した以外は、実施例21と同様にして偏光板および液晶表示装置を作製し、それらの評価を行った。
実施例21〜40および比較例8〜14の評価結果を表5に示す。
表5に示されるように、実施例21〜40の表示装置は、コントラストのムラが少ないことがわかる。また、実施例21〜40の表示装置は、斜め60°においても正面と同程度のコントラストを維持できることから、視野角特性も高いことがわかる。これに対して、比較例8〜14の表示装置は、コントラストのムラが多く、視野角特性も低いことがわかる。
実施例21〜40の表示装置のコントラストムラが低減され、かつ視野角特性が高いのは、それらに含まれる位相差フィルムが均一なレターデーション値を有し、かつ高倍率延伸により高いレターデーション値を有しつつも、内部ヘイズの上昇が抑えられたためであることが示唆される。また、実施例21〜40の表示装置のコントラストムラが低減されたのは、位相差フィルムを製造する際の、ウェブの剥離不良による欠陥が抑制されたことも一因と考えられる。